鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、今回はいわば「バルチスタ沖大海戦」の前日譚、という形になります。
物語展開の都合上、時間を大分巻き戻してしまうことになり、分かりにくいかもしれません。申し訳ございません。



129. 世界連合艦隊の集結

 少し時を(さかのぼ)る。

 中央暦1643年10月1日、中央世界(第一文明圏)列強神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。

 世界で最も栄えし都市ルーンポリス。その中心部の一角に、六角形の星形をした建物がある。それが、帝国国防総省……つまり、神聖ミリシアル帝国軍の中枢だ。

 世界の中枢とも言えるこの国防省のとある一室で、国のプライドをかけた作戦の会議が行われようとしていた。

 作戦目標は、第二文明圏西部にある旧レイフォル国、その首都レイフォリアの沖合に展開していると見られるグラ・バルカス帝国艦隊の撃滅である。

 

 グラ・バルカス帝国……この国は第二文明圏の西側の文明圏外に突如として現れ、周辺の力なき国家を武力で併合した。その後、第二文明圏の列強国レイフォルの保護国であったパガンダ王国を強襲制圧し、列強レイフォルの主力艦隊をたった1隻の超巨大戦艦だけで撃滅した上、首都レイフォリアを同戦艦で壊滅させ、レイフォルを降伏に追いやった。

 その後はレイフォルとその属国を植民地化し、先進11ヶ国会議に出席を要求してきた。そこで参加させたところ、小娘が歴史ある世界の会議とも言える先進11ヶ国会議の場で、世界を相手に宣戦を布告、さらに奇襲的攻撃でミリシアルの最新鋭魔導艦隊である、第零式魔導艦隊を全滅させた。

 その上各国の代表が集まる港街カルトアルパスを攻撃し、各国の外務大臣護衛艦隊のうち多くの艦が撃沈された。また、神聖ミリシアル帝国の国民にも多数の死傷者が出た。

 

 この事実に皇帝ミリシアル8世は激昂し、早期のグラ・バルカス帝国船排除を軍部に命じた。そして本件会議に至る、というわけである。

 

 世界の中心とも言われた神聖ミリシアル帝国にとって、本作戦は決して失敗が許されないものであり、会議にも熱が入る。

 

「第1・第2・第3魔導艦隊の派遣を予定しているが、本当に3個主力魔導艦隊だけで戦力は足りるのだろうな?

失敗は本当に許されないのだぞ!」

 

 国防省長官アグラ・ブリンストンが、西部方面艦隊司令長官クリングに尋ねる。

 

「我が軍の算出によれば、第1、第2魔導艦隊だけでも(こと)()ります。

第3魔導艦隊も加われば、必ず撃滅できます」

 

 クリングは言い切った。

 ここで、「その結論はいったいどのような検証を行って弾き出したものなのか?」とクリングに聞きたくなったのはうp主だけだろうか。

 

「しかし、もしも相手の戦力が想定を上回っていたとしたらどうだ? 我々が認知している範囲外にも、敵がいるのかもしれない」

 

 アグラは重ねて問うたが、これにもクリングは自信満々で言い切った。

 

「それも含めて、3個主力艦隊の派遣で十分に対応可能です。

ついでに申し上げるならば、あまり役には立たないでしょうが、世界各国の艦隊からなる連合艦隊の数も多いのです。未だカルトアルパスに集結中ですが、我が国の艦隊を除いた中央世界各国の艦隊だけでも、250隻を超える規模となる予定です。そしてこれに、ムー国を代表とする第二文明圏各国の艦隊が加わるため、相当な大艦隊となる予定です。

なお、この世界連合艦隊には魔導戦艦3隻、魔導巡洋艦6隻と小型艦4隻、計13隻からなる第11地方艦隊が同行し、お守りをします」

「そうか……」

 

 そこまで言うのならば、何かしらの計算があっての結論であろうと思われたため、アグラは沈黙した。クリングはそのまま話を続ける。

 

「では、まとめます。

まず地方隊を含む世界連合艦隊を先行させ、レイフォリアに向かわせます。

おそらくではありますが、敵はムー大陸西部ニグラート連合の西方沖、バルチスタ岬沖の辺りで迎撃してくるでしょう。

敵の第一撃は、飛行機械による攻撃と推定されます。この時点で世界連合艦隊には相当な被害が出ると思います。ですが、敵の飛行機械による第一次攻撃隊が帰る時を狙い、敵艦隊の位置を割り出し、第1から第3魔導艦隊を発進した天の浮舟攻撃隊により敵空母を攻撃、これを撃沈します。敵空母を撃沈した後は魔導戦艦を主力として艦隊決戦を挑み、敵の戦艦を含む主力艦隊を撃破、制空権・制海権を確保します。

その後レイフォリア沖合へ行き、商船を含む敵の水上艦を攻撃し、撃滅する……という流れになります。

もちろん、戦場では状況が良く変わるため、現場に指揮権を委ねます」

「ちなみに、こういった場合はどうする? ……」

 

 様々な場合を想定した意見が次々と飛び出し、会議は深夜にまで及んだ。

 

 

 会議もたけなわとなっている頃、神聖ミリシアル帝国南端 港街カルトアルパス。

 世界の物流の要たるこの街の軍港にて、港湾管理者のブロントは、港の光景を見て思わずため息を吐いていた。呆れによるものではない。感動から起きたものである。

 

「トルキア王国、戦列艦21隻到着!」

「アガルタ法国、魔法船団17隻到着!」

 

 その彼の眼前には、中央世界(第一文明圏)各国から集結した多数の軍艦(といっても戦列艦や木造帆船ばかりなのだが)が国家ごとに固まって展開していた。その数は凄まじいもので、既に100隻を超えている。そしてこれでもまだ全てが集結したわけではないというのだから驚きである。

 続々と港に到着する、文明圏の中でも最高レベルを誇る中央世界の国々の主力艦隊。

 彼らはこの港に集結後、ムー大陸南東部・マギカライヒ共同体の沿岸にて第二文明圏の艦隊と合流し、ムー大陸の南をぐるりと回って西部沿岸を北上する予定である。そしてムー大陸西部の旧レイフォル国沖に突入し、グラ・バルカス帝国艦隊を撃滅、レイフォルを解放するのだ。

 今回の艦隊は外務大臣を護衛する艦隊ではなく、憎きグラ・バルカス帝国を撃滅するために、各国海軍の主力艦隊が繰り出されていた。しかも一国あたりの艦の数も多い。

 港を埋め尽くさん限りの艦隊にブロントのみならず、港の者達は圧倒されるのであった。

 

「凄い光景ですね……。奴らに神罰を下す時が来たのですね。

中央世界各国でこれだけの艦隊……しかも第二文明圏各国の艦隊まで加わるのですから、グラ・バルカス帝国艦隊も(がい)(しゅう)(いっ)(しょく)、相手にならないでしょう」

 

 入社5年目の若手社員がブロントに話しかける。ブロントは社員の方を向いて返事した。

 

「そうだな……第三文明圏を除いているとはいえ、世界連合とも言える今回の艦数は、第二文明圏も合わせると相当な数となろう。

圧倒的な数はそれだけで力となる。それに……」

 

 ブロントは再び視線を港に向けた。

 

「この艦隊には地方艦隊……戦艦を含む地方隊が13隻付き、さらには別動隊として西部方面艦隊が付く。主力艦隊のうち、3個艦隊がグラ・バルカス帝国討伐に加わるらしいぞ」

「なんと!! 皇帝陛下が本気になられたのですね」

「ああ。それにしても、このような大艦隊は古の魔法帝国戦……ラヴァーナル帝国戦でしか発生しないと思っていたが……」

 

 グラ・バルカス帝国との戦闘に参加して生き残った者であれば、同国の強さを身に染みて理解している者も多いのだが、一般的には「奇襲されたから被害が広がった」という認識が広まっている。(もっと)も、これは誤った認識なのだが……気付く者はいなかった。

 港湾管理者のブロントは、特別な感情をもって、今なお集結し続ける雄々しい艦たちを見つめるのであった。

 

 

 そして時が進み、中央暦1642年12月5日、神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス。

 グラ・バルカス帝国による奇襲攻撃により、この街の南にあるフォーク海峡には多くの船が沈んだ。しかし、反撃もここから始まる。

 今日は、中央世界連合艦隊の出陣の日である。そのため、街はお祭り騒ぎとなった。

 港に集結した連合艦隊を一目見ようと、住人たちは岸壁に集まり、港の光景に息を呑む。彼らの眼前には世界の中心たる中央世界、その強国の海軍が集い、大艦隊を形成していた。

 その数は見える範囲だけでも250隻を超えている。アガルタ法国の魔法船団は、白地に自国の紋章を描いた帆をいっぱいに張って出航準備を整えており、中央法王国の大魔導艦も、数こそアガルタ法国の魔法船団より遥かに少ないながらも彼らには負けぬ、とでも言うかのように堂々を帆を広げている。また、トルキア王国やギリスエイラ公国の戦列艦は、外敵を威圧するかのように多数の魔導砲の砲身を舷側から突き出している。それらの船が港を埋め尽くさんばかりに集結している様子は壮大であり、港に集まった一般市民はもちろん、港湾管理局の職員たちにも勇気を与える。

 ここに集まっている艦の数は、アガルタ法国の魔法船団が70隻、中央法王国の大魔導艦が2隻、トルキア王国の戦列艦隊が80隻、ギリスエイラ公国の魔導戦列艦隊が98隻。それ以外に、神聖ミリシアル帝国海軍の第11・第12地方隊……2部隊合わせて魔導戦艦3隻、魔導巡洋艦6隻、小型艦4隻の戦力も待機していた。木造の帆船やら戦列艦やらが戦力の大半を占めているが、その戦闘力は間違いなく「この世界」においては最高クラスの戦力であり、どんな敵が相手でも勝てる、という自信があった。

 民衆は考える。この艦隊に、神聖ミリシアル帝国の誇る主力魔導艦隊が3個も加わり、圧倒的戦力をもって礼を知らぬ蛮族、グラ・バルカス帝国の艦隊を撃滅するのだろう、と。

 これほどの戦力が集まった戦いは、過去に例がない。グラ・バルカス帝国もこれで大打撃を被るだろう。

 

 港中に音楽が響き渡る。聞いていると、何か力を与えてくれそうな音色だった。

 

「出港!!!」

 

 港に設置された魔導スピーカーから、魔力によって増幅された声が響く。

 真っ先に動き出したのは、神聖ミリシアル帝国海軍の第11・12地方隊だ。巨大な主砲を振りかざしたマーキュリー級魔導戦艦、そしてそれを護衛する小型艦やシルバー級魔導巡洋艦が、フォーク海峡へと踊り出す。それに続いて、各国の艦隊が順番に動き出し、帆に風を受けて誇らしげに出航していく。

 音楽が鳴り響き、港に集まった群衆が歓呼の声で見送る中を、中央世界の連合艦隊は1隻また1隻とフォーク海峡に入り、カルトアルパスを出港していった。まず向かう先はムー大陸南東部のマギカライヒ共同体である。そこで第二文明圏の連合艦隊と合流するのだ。

 

 

 時を同じくして、神聖ミリシアル帝国海軍の主力魔導艦隊も動き始めた。

 同国の帝都ルーンポリスの港には、神聖ミリシアル帝国軍の有史以来稀に見る大規模海軍戦力が集結していた。一時的にクリング提督の指揮下に入った第1・第2・第3魔導艦隊である。艦隊総数108隻と、中央世界の連合艦隊に比べれば数は少ないが、迫力は比較にならない。

 天を衝く槍かと思うほど丈高いスマートな艦橋を持ち、口径34.3㎝もしくは38.1㎝の大口径砲を以て、神聖ミリシアル帝国の威光を見せつけるゴールド級やミスリル級の魔導戦艦。

 双胴艦という特異な見た目を持ち、神聖ミリシアル帝国海軍機動部隊の中核を担うロデオス級航空魔導母艦。

 研ぎ上げられたナイフを思わせるシャープな艦体とSFチックな艦橋を持ち、中口径の主砲と多数の対空魔光砲をヤマアラシの針さながらに搭載したシルバー級魔導巡洋艦や、プラチナム級重装甲魔導巡洋艦。

 そして、小口径の長砲身砲を主砲として持ち、槍を構えた騎士を連想させる小型艦。

 いずれも神聖ミリシアル帝国の偉力を知らしめるに足るインパクトを持ち、それに見合った力をも備えていた。

 出港ラッパが鳴り響くと共に、市民たちが見送る中を艦隊は順番に動き出し、はるか西に向けて出撃していく。目指す目標はグラ・バルカス帝国艦隊の撃滅、そして旧レイフォル領の解放だ。

 出撃していった艦隊が見事にその目標を果たし、堂々と(がい)(せん)してくるであろうことを、ルーンポリスの住民たちは()(じん)も疑っていなかった……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 中央暦1642年12月18日、グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ。

 国家の異界への転移という大事件の後、その版図を拡大し続けている大帝国、グラ・バルカス帝国。その帝都ラグナの一角にある軍本部の会議室には、帝国軍の幹部たちが集まり、会議が行われていた。

 会議には、帝国の三将とも言われる

 

・帝都防衛隊長 セトレイ・ジークス少将

・帝国海軍東部方面艦隊司令長官 カイザル・ローランド中将

・帝国海軍特務軍艦隊司令長官 アンネッタ・ミレケネス中将

 

 も参加していた。

 特にカイザルは「帝国の軍神」とも言われ、彼の一言一言に軍部が注目するほどの影響力がある。

 軍の若手幹部が会議室の幹部に説明を開始する。

 

「お手元の資料のとおり、スパイからの情報ですが、異界の連合軍が本日、出港いたしました。

カルトアルパスから旧式艦約250隻、そして神聖ミリシアル帝国の首都ルーンポリスから空母を含む艦艇約100隻の出港を確認しています。しかも敵はこれだけに留まらず、第二文明圏各国の艦隊も連合し、相当な規模の艦隊となる模様です。

敵軍はレイフォル沖を目指していると見られます」

 

 概要説明が終わる。

 

「……ついに奴らが本気を出して来たか……」

 

 自分達を倒すために向けられた、異世界の主力とも言える大艦隊。軍部に僅かな緊張が走る。

 つり目の女性……帝国海軍特務軍艦隊司令長官ミレケネスが手を挙げ、許可を得て発言する。

 

「本来ならば、帝国海軍特務軍艦隊が対応すべき事案であります。しかし、敵の数は多く、神聖ミリシアル帝国の艦隊も向かってきています。

特務軍だけでは荷が重いですね」

「フフ……」

 

 その時、会議室に似合わぬ低い笑い声が響いた。そして、帝国海軍東部方面艦隊司令長官 軍神カイザルが話し始める。

 

「確かにな……帝都の防衛は帝都防衛隊と西部方面艦隊に任せ、我が兵……帝国海軍東部方面艦隊主力の力をもって一気に叩き潰すこととしよう」

 

 彼は一気に敵主力を(せん)(めつ)するつもりだった。

 軍神とも言われる彼の言葉に口を挟む者はいない。

 

「東部方面艦隊の主力が出るのであれば、ムー国や神聖ミリシアル帝国の主力も、本戦いで消滅してしまうでしょうな」

「前世界以来、久々の東方艦隊の全力出撃ですね」

 

 幹部たちが感想を述べる。

 すでに軍の方針は決まった。後は「会議」と言っても雑談のようなものである。

 

「そういえば、同じ異世界からの転移国家と思われるロデニウス連合王国の軍は、敵艦隊に混じっているのか?」

 

 ロデニウス連合王国のことが心に引っかかるカイザルは、若手幹部に尋ねた。

 

「いえ、今回は確認されておりません。仮に参加していたとしても、大勢に影響はないかと考えられます」

「しかし、あの国の艦隊はフォーク海峡において、多数の我が帝国海軍の航空機を落とした。あの国の艦が多数いれば、脅威になる可能性もあるのではないか?

それに、聞いたところでは第2潜水艦隊司令部が、4日ほど前に突如として通信を絶ってしまい、後で調べたら司令部が全滅していた、というではないか。それに、当時ロホテン島にいた本国艦隊の第51地方隊も、無線を一切発することなく消息を絶っている。仮に全滅したのだとすれば、彼らはロデニウス連合王国軍によってやられた可能性が高いのではないか?」

 

 実際この会議に先立つこと5日前、12月13日に、ロホテン島にあったグラ・バルカス帝国海軍第2潜水艦隊司令部が、同島に駐留していた海軍本国艦隊第51地方隊と共に定時連絡を一切断ち切り、音信不通となってしまった。その後、第2潜水艦隊の潜水艦が伝えてきたところでは、第2潜水艦隊司令部のあった基地は何者かの攻撃を受けて全滅していた、というのである。

 実は、この基地はロデニウス連合王国海軍・ムー派遣部隊の総攻撃を受けて全滅・陥落してしまっていた。

 

「はっ! 確かに対空能力は高いですし、ロホテン島へ攻撃を行った可能性も考えられます。対艦能力も相応にあると思われます。

しかし、それに対応する戦術も考えてありますし、何より今回の侵攻にはロデニウス連合王国は参加していません。また、ロデニウス連合王国の大規模艦隊も発見されておりませんので、現時点では問題は無いかと思われます」

「そうか……」

 

 会議は終了する。

 カイザルは、ロデニウス連合王国のことを気にしていた。あの国は帝国ですら実用化できなかった酸素推進型魚雷を、持っているかもしれない国である。また、ロホテン島の司令部にも第51地方隊にも緊急通信すら打たせることなく、これらを殲滅したと見られる国である。そう考えれば、ロデニウス連合王国にとんでもない力がないという保証はないのである……。

 もし出てくれば、どう戦うか。カイザルは1人、既に考えを巡らせ始めていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 中央暦1642年12月19日、神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。

 世界の富が集まる神聖ミリシアル帝国……その中でも最も栄えている街である帝都ルーンポリス。その中心部に、皇帝の住まう皇城アルビオン城があった。

 

 帝国の対魔帝対策省 古代兵器分析戦術運用部の部長ヒルカネ・パルぺは、皇帝からの直々の呼び出しがあり、皇城アルビオン城を訪れていた。

 陛下からの直々の呼び出しとあって、緊張しながら部屋の前に立つ。

 ドアが開き、皇帝陛下の従者の指示に従って部屋に入った。

 

 部屋の中にはテーブルと椅子が設置されており、テーブルの上には帝国の名産品の紅茶が置かれ、(かす)かな湯気を上げていた。

 その先には世界の王たる皇帝ミリシアル8世が座っていた。

 

「座るがよい、茶でも飲みながら話そう」

 

 彼は陛下に言われるまま、椅子に腰かけた。

 

「緊張しているのか? まあ茶でも飲め、旨いぞ」

 

 世界の中心に住まう帝の前なのだ、緊張しないはずがない。何せ一省庁の一部長を皇帝が呼びつけること自体が、異例中の異例なのだ。

 彼は一口紅茶を口に含む。緊張で味など感じなかった。

 

「陛下、この度はどういったご用件でしょうか?」

 

 ヒルカネの率いる「対魔帝対策省 古代兵器分析戦術運用部」。この部署は、神聖ミリシアル帝国の各地で発掘される古の魔法帝国の超兵器を分析し、自国の国力増強に使用するのはもちろんの事、時々未だ使用可能な状態で発掘される兵器の補修、分析、そして運用までもを担当している部署である。言い換えれば、来るべき古の魔法帝国との戦いの際には最も必要とされる部門である。

 その長が呼ばれたという事は、呼び出しの理由は……。

 

「余が(けい)を呼びつける理由、想像がついているのであろう?」

「魔帝復活の兆候を掴んだのでしょうか?」

 

 ヒルカネはそう思ったのだが、ミリシアル8世は首を横に振った。

 

「いや、グラ・バルカス帝国の件だ」

 

 たかが一文明圏外国家のために、神聖ミリシアル帝国の超兵器運用部門の長である自分が何故呼ばれたのか。ヒルカネには、その意味がよく理解出来なかった。

 

「港街カルトアルパスを急襲した野蛮な民の国ですか。アグラ国防省長官が3個艦隊を派遣し、さらに世界連合がレイフォル沖合に展開する艦隊を殲滅するために向かっていると伺っています」

 

 ヒルカネがそう言うと、ミリシアル8世は「うむ」と頷いて、しばし沈黙した。

 僅かの間ながらヒルカネにとっては重苦しい沈黙の後、皇帝ミリシアル8世がゆっくりと話し始める。

 

「余は念には念を重ねる主義でな、本大戦に古代兵器を投入しようと思っている。グラ・バルカス帝国艦隊を殲滅するために、空中戦艦パル・キマイラを、そうだな……2隻ほど派遣せよ」

「なっ!!!」

 

 皇帝の御前であることも忘れて、ヒルカネは思わず声を上げてしまった。

 古の魔法帝国の発掘兵器の1つ『空中戦艦パル・キマイラ』。国内で7隻が発掘され、運用可能な数はたったの5隻しか無い古代兵器である。このうち2隻もの超戦力の投入、しかもそれが対文明圏外国家であることに、彼は耳を疑った。

 

「失礼ながら陛下、パル・キマイラはその構造において不明な部分が多数あります。万が一にでも撃沈されたら代わりはありません。新たに作ることができないのです。

どうかご再考を!!」

 

 必死で頭を回転させ、意見を述べるヒルカネ。だが、ミリシアル8世は重々しい口調でゆっくりと説明を開始した。

 

「作れないことも、代わりが効かないことも解っておる。だが……余は嫌な予感がするのだ」

「と仰いますと?」

「国防省長官アグラは、3艦隊もあれば十分に撃滅できるとの試算を出した。しかし、だ。

……我が帝国は来るべき全種族の……種としての存亡をかけた戦いを少しでも有利に進めるために、発掘された遺跡群から古の魔法帝国の力を推測し、世界史上最大の帝国を仮想敵国として発展してきた。そのため、他国との間に大きな力の差がついている」

 

 ヒルカネは皇帝の言葉を噛みしめるように頷く。彼は続ける。

 

「差が付きすぎて、他国に対して性能面において勝ちすぎているのだ」

「しかし、それは良いことではないのですか?」

 

 皇帝がいったい何を言いたいのかが不明であるため、意図を測るべくヒルカネは質問を投げてみた。

 

「卿の言う通り、国家としては極めて良いことだ。最高と言っても良い。解析や補修・量産に当たる技術者たちも、それらの兵器を運用する軍も、良くやってくれていると思う。

しかし、連戦連勝は、仮に気を付けていても目をくらます場合がある。

国防省長官アグラは優秀だ。決してグラ・バルカス帝国を侮ってはいないだろう。だが、心の奥底に油断があるように感じるのだ。

科学文明国家……侮ってはいけない敵だ」

 

 こう言われ、ついにヒルカネは皇帝の意思を理解した。

 

「かしこまりました。仰せのままに……古代兵器、空中戦艦パル・キマイラを2隻、グラ・バルカス帝国討伐に派遣いたします」

「頼んだぞ、軍部の方には余から話をしておこう。万が一、1隻でも落とされるようなことがあれば、すぐに撤退させよ」

「古代兵器が落とされるようなことは考えられませんが、承知いたしました」

 

 パル・キマイラ出撃の命令を受け、確認のため多少の問答をした後、ヒルカネは皇帝の部屋を退室した。

 

「……これで負けることはあるまいが……(ごう)(まん)なる異界の帝国は殲滅せねばな……」

 

 皇帝ミリシアルは窓の外を眺め、繁栄を極めし帝都を眺めながらそうつぶやいた。

 

 かくて神聖ミリシアル帝国は、第二文明圏旧レイフォル沖合に展開するグラ・バルカス帝国海軍を滅するため、世界史上最強の国家古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)の発掘兵器『空中戦艦パル・キマイラ』を2隻、同海域へ派遣することを決定した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 年が明けて、中央暦1643年1月10日、第二文明圏 列強国ムー 南東部の商業都市マイカル。

 海岸は、軍の出発を一目見ようと多くの人々で賑わっていた。

 軍人の家族と思われる者たちが、心配そうな視線を海上に浮かぶ多数の艦艇に送っている。不安になり、泣き出す母や子も多く見かけた。

 航空母艦5隻(内ラ・コスタ級航空母艦3隻、ラ・ヴァニア級航空母艦2隻。どちらも性能は(ほう)(しょう)型相当)、ラ・カサミ級戦艦4隻((しき)(しま)型相当)、ラ・デルタ級装甲巡洋艦8隻(春日(かすが)型装甲巡洋艦相当)、巡洋艦12隻(内ラ・ホトス級巡洋艦7隻、ラ・グリスタ級巡洋艦5隻。ラ・ホトス級は()()型防護巡洋艦相当、ラ・グリスタ級は(ちく)()型防護巡洋艦相当)、軽巡洋艦16隻(内ラ・シキベ級軽巡洋艦14隻、ラ・トラン級防空巡洋艦2隻。ラ・シキベ級は()()(やま)型通報艦相当、ラ・トラン級はアトランタ級軽巡洋艦中期型相当)、ラ・ハンマン級駆逐艦10隻(マハン級駆逐艦相当)、ラ・モーグ級補給艦8隻、計63隻。これが、ムー統括海軍が世界連合に参加させようとしている海軍戦力の全貌である。ムー統括海軍でこれほど多数の艦艇が一度に動員されるのは、極めて稀なことであり、ムー国の本気ぶりが窺い知れる。

 5隻ある空母の飛行甲板・格納甲板には、ムー国の最新鋭艦上戦闘機「アラル」……ロデニウス連合王国からの技術支援によって完成したムー国産の「九六式艦上戦闘機」と、長らくムー海軍爆撃機の主力を務める名機「ソードフィッシュ」艦上爆撃機が、ところ狭しと並べられている。また、初めて実戦に出る兵器として、ラ・ハンマン級駆逐艦、ラ・トラン級防空純巡洋艦が投入されていた。

 

 やがて出港を告げるラッパの音が鳴り響き、ムーの艦隊はグラ・バルカス帝国海軍撃滅を期する世界連合艦隊と合流するため、商業都市マイカルを出港していった。

 順番に出港するムー統括海軍機動部隊、参加各艦に乗り込んでいる水兵たちやパイロットたちの士気は高く、自信もあった。ムー海軍だけでも新鋭艦を含めてこれだけの戦力が参加し、その上神聖ミリシアル帝国を含む世界連合艦隊もいるのだから、グラ・バルカス帝国ごときに負けるはずはない、と。

 だが、艦隊を率いる司令官レイダー・アクセル少将の表情は、優れない。

 

「少将閣下……お悩みなのですね?」

 

 艦隊旗艦たるラ・カサミ級戦艦「ラ・エルド」の艦橋で、「ラ・エルド」艦長テナル・モントゴメリー大佐が尋ねた。

 

「そりゃあ、な。軍上層部はともかく現場レベルでは、これだけの艦隊が集まればグラ・バルカス帝国艦隊など余裕で打ち破れる……そう思っている奴が多い。しかし実際にはグラ・バルカス帝国艦隊は非常に手強く、情報分析課の分析によれば、かつて私の艦隊をこてんぱんに倒していったロデニウス海軍第13艦隊、そいつらぐらいの力があるそうだ。勝敗は既に予想しているが……果たして何人が無事に戻ることができるだろうか」

 

 レイダーはそれを気にしていたのであった。

 

「勝敗予想というのは、こちらが敗れる……ということですね」

 

 レイダー司令部の参謀長シギント・サーマン准将の言葉に、レイダーは無言で頷く。

 レイダー率いる機動部隊は、ちょうど1年前のこの時期に、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊と合同演習を行ったことがある。あの時は、ロデニウス側の航空戦力によってこちらの艦隊は一方的に叩かれ、完全に惨敗を喫してしまったものだった。事前の勝敗予想では、ムー海軍が圧勝するという意見が大勢を占めていただけに、この結果は凄まじい衝撃を伴ってムー統括軍上層部の頭に叩き込まれたものである(「096. ムー統括軍災厄の1日」とその周辺回参照)。

 サーマンとテナルはこの一件以来、「自国を上回るのは神聖ミリシアル帝国くらいしかない」という認識を改め、「自国の艦隊は確かに強いが、決して敵を侮ってはならない」と考えるようになった。また、情報分析課が出している「マイラス・レポート」(この用語はとうとう公式化してしまった)を読み漁るようになった。ついでに言えば、「時代は航空機だ」と考えるようになり、軍艦の対空兵装の充実に力を尽くすようになった。

 その彼らにしてみれば、今回の世界連合艦隊は戦力不足であり、グラ・バルカス帝国艦隊を駆逐することはできないだろう、と思われたのだ。

 

「我々の艦隊も、ラ・ハンマン級駆逐艦やラ・トラン級防空巡洋艦の配備を行ったり、各艦に20㎜対空機銃を増設するなどして防空能力を高めてきましたが……どこまで通用するか……。ラ・コンゴ級戦艦((こん)(ごう)型戦艦)やラ・ラツカ級空母((うん)(りゅう)型空母。ただしムー統括軍ではネームシップは「(かつら)()」扱い)、バミウダ艦上戦闘機(F4Fワイルドキャット)があれば良かったのですが……」

 

 呟くようなサーマンの発言にレイダーも同意し、2人は揃って嘆息するのであった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 さらに少しだけ時が進み、中央暦1643年1月15日、グラ・バルカス帝国領パガンダ島。

 神聖ミリシアル帝国が発案者となり、中央世界と第二文明圏と連合で艦隊を組み出港した、との情報は、既に知れ渡っていた。その連合艦隊が、帝国の第二文明圏への足掛かりとなるレイフォル州へ向かっているらしいことも判明している。

 そこでグラ・バルカス帝国軍は、空母機動部隊による航空戦力、及び戦艦や重巡洋艦を中心とした水上砲戦部隊まで動員して、敵を艦隊決戦にて撃滅すべく、パガンダ島に集結を開始していた。

 

 特務軍艦隊から一時的に東部方面艦隊に転属した、帝国で最も強力な超戦艦「グレードアトラスター」の艦橋で、艦長のマリノス・ラクスタル大佐は周囲の海と空を眺めて呟いた。

 

「……すごいな」

 

 超巨大戦艦を最も見慣れた彼をもってしても、感嘆するほどの光景がそこにあった。

 上空には刃を研ぎ澄ましたかのような美しい戦闘機が、一糸乱れぬ編隊飛行をしている。その乱れのない美しさから、帝国航空兵の練度の高さが窺える。

 視線を海に向けると、そこには海を覆い尽くさんとするほどの艦艇が……帝国海軍特務軍艦隊と、帝国海軍東部方面艦隊の連合軍が展開していた。

 巨大戦艦や空母が多数集結するその姿は見る者たちを圧倒し、決して負けぬと信じさせる力強さがあった。

 

 戦艦10隻、空母9隻、重巡洋艦18隻、軽巡洋艦20隻、駆逐艦112隻……ここには見えないが潜水艦64隻も参加する。

 戦闘可能な艦だけで233隻もあり、補給艦等の補助艦艇を入れればその数は遥かに膨れ上がるだろう。

 

「帝国特務軍艦隊と東部方面艦隊の連合……異世界の主力とも言える連合軍を撃破するにしても、過剰戦力のような気がしますね」

 

 「グレードアトラスター」の副長がラクスタルに話しかける。

 

「うむ……この戦いは、我が国がいかに強力かをこの世界に真に知らしめる結果になるだろう。

本国の人間は、本当はもっと出したかったのではないかな」

「とはいえ、西部方面艦隊も本土防衛隊も必要ですからね。本土を完全防衛していることを考えると、今回の派遣は相当戦力を捻出したと私は考えます。

まあ、あり得ないことですが、すべての艦隊が派遣されたら、補給艦を除く戦闘可能艦艇だけでも790隻にも及びますから、どんな国でも滅んでしまいますが」

 

 艦長ラクスタルはフッと笑う。

 

「では、帝国に刃向かった愚か者たちを殲滅しに行くとするか」

「そうですね」

 

 グラ・バルカス帝国、帝国監査軍及び帝国東方艦隊233隻と補給艦隊は、レイフォル西部沖海域に集結した後、決戦海域となる可能性の高いバルチスタ海域に向かい、出撃していった。

 

 

 ちなみにこの4日後、1月19日に、世界連合艦隊はマギカライヒ共同体沖に集結を完了し、レイフォル沖に向けて進撃を開始した。

 その戦力たるや、神聖ミリシアル帝国海軍第11・12地方隊13隻、ムー機動部隊63隻、トルキア王国戦列艦隊80隻、アガルタ法国魔法船団72隻、ギリスエイラ公国魔導戦列艦隊98隻、中央法王国大魔導艦2隻、マギカライヒ共同体機甲戦列艦隊28隻、ニグラート連合竜母機動部隊30隻、パミール王国豪速小型砲艦隊115隻、というとんでもない数である。ただ、主力が帆船やら戦列艦やらであるため、グラ・バルカス帝国艦隊に対しては戦力不足であった。

 また、これとは別に神聖ミリシアル帝国海軍の第1・第2・第3魔導艦隊総勢108隻も、ムー大陸西岸へと向かっていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 中央世界の連合艦隊が第二文明圏の連合艦隊と合流し、世界連合艦隊となってムー大陸の南を進撃しつつあるちょうどその頃、中央暦1643年1月28日、神聖ミリシアル帝国南東部バネタ地区 対魔帝対策省古代兵器分析運用対策部直轄の秘密基地「エリア48」。

 広大な敷地に巨大な建造物群が立つ。その中で2隻の古代兵器……古の魔法帝国の遺産が出撃しようとしていた。

 それは、中央部に円形の構造物があり、三菱重工のマークのような形が三方向に延びて、リング状の物体が付いたような代物。言い方を変えるならば、メルセデスベンツのマークを横にしたような飛行物体である。

 中央部には円形構造物の上にちょっとした砦のような艦橋構造物がある。

 

 今、古代兵器である空中戦艦パル・キマイラが皇帝陛下の命を受け、出撃しようとしていた。

 ゴゴゴゴゴ……という低い重低音を上げながら、パル・キマイラ2隻は徐々に高度を上げていく。

 

 基地には出撃を見守るヒルカネ・パルぺと副部長が立ち。出撃を見送っていた。副部長がヒルカネに話しかける。

 

「ヒルカネ様、無礼を働いた異界の軍を相手に、世界連合のみならず、対魔帝戦の要となるような古代兵器まで投入するとは……。

皇帝陛下のやり方に文句を言うつもりはございませんが、少しやりすぎのような気がします」

 

 ヒルカネは答えた。

 

「確かに、やりすぎという感はある。陛下は魔法文明の優越性をこの戦いで証明したいのかもしれないな。

新たに出現したロデニウス連合王国がこのところ、固有の魔法技術の他に高い科学技術を生かして第三文明圏外の国家からの求心力を高めていると聞く。それを踏まえ、陛下はグラ・バルカス帝国に対しても絶対勝利の必要性を感じておられるようだ。

それにしても……」

 

 言葉を切り、彼は空を見上げる。

 空中戦艦の名にふさわしく、空気力学以外の方法で空中に浮くその姿は見る者を圧倒する。

 軍部の者、いや、情報局の者でさえも、噂には聞けど見た事のある者はほとんどいないであろう。

 

 対空魔光弾に対する装甲を持ち、最高時速200㎞もの速度で移動するため、対艦用砲撃は当たらない。

 半径130メートル、全長にして260メートルもある巨大な物体が、2隻も連続して出撃し、「実戦」に向かう様は、それを見慣れたはずのヒルカネですら感嘆するほどに力強く、そして美しかった。

 

 レイフォルやパーパルディア皇国程度の列強国であれば、この2隻の出撃だけで勝敗を決してしまうだろう。

 パル・キマイラ2隻はあっという間に先行している連合軍に追いつき、おそらくは戦闘が始まった時間帯に戦場に到着し、その圧倒的な力、戦術をもって敵を殲滅し、他国を震撼させる事になるだろう。

 

 世界で最も栄えし中央世界の列強国、神聖ミリシアル帝国は、国のプライドをかけ、自国の保有する古代兵器の一部を投入した。

 古の魔法帝国(ラヴァ―ナル帝国)の超兵器、空中戦艦パル・キマイラ2隻は旧レイフォル沖合に展開するグラ・バルカス帝国軍を滅するため、暁の空に向かって飛び去って行った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして中央暦1643年2月5日、ムー大陸西南西 ニグラート連合北西部沖 バルチスタ海域。

 グラ・バルカス帝国海軍の大艦隊は陣形の展開を完了し、世界連合艦隊を待ち受けていた。現代の日本人がそれを見たならば、ため息が出るほどの力強さを感じるだろう。

 帝国海軍の誇る戦艦や重巡洋艦の主砲は、海上自衛隊の所有する護衛艦の主砲よりも遥かに大きく、そして力強く見える。

 上空には数多くのアンタレス07式艦上戦闘機が一糸乱れぬ編隊を組み、上空で警戒を行っている。

 艦隊も隊列に乱れは無く、異世界軍主力艦隊と戦えるとあって、兵たちの士気も高い。

 幸いにして空は晴れ渡り、見通しも極めて良好だった。決戦日和というやつである。

 

 グラ・バルカス帝国の誇る最大にして最強の戦艦「グレードアトラスター」の艦橋において、艦長ラクスタルは海を睨む。

 かつてないほどの嫌な予感がする。

 

「副長……気を引き締めろ。本戦いは、今までのような一筋縄ではいかない気がする」

「戦いに油断は禁物であるため、心してかかります。しかし艦長、油断は決してしませんが、我が国の優位性は揺るがないと考えます。何か気になる事でも?」

「……カンだ。長年のカンがそう告げている」

「怖いですね、艦長のカンは良く当たります故」

 

 2人が話していると、通信長が声をあげた。

 

「報告いたします。最前列艦前方1時の方向、250㎞先の海域に、敵の大艦隊を発見。第一次攻撃隊が発艦準備を開始しました」

「ついに戦闘開始だな……」

 

 ラクスタルの眼光が鋭くなる。

 グラ・バルカス帝国海軍はバルチスタ海域において、世界連合艦隊を捕捉した。

 

 後に壮絶な戦いと記録された「バルチスタ沖大海戦」が幕を開ける。

 

 ……その戦いを密かに見守る者がいるとは、戦いの当事者たちは誰も気付くことなく。




はい、いよいよ戦闘開始というところで今回は幕引きです。世界連合艦隊のうち、レイダーたちは彼我の戦力差を冷静に分析していますが、他の艦隊はどうなることやら…


UA65万突破、総合評価9,200ポイント突破!! 皆様、ご愛読本当にありがとうございます!
分かりにくい表現などございましたら、申し出ていただければ幸いです。なるべく理解しやすい物語を描いていきたい、と思っておりますので。

評価2をくださいましたZoooooiii様
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評価10をくださいました戦魔術師様、made1147様、吹雪改二と朝潮改の果て様、nuko1048様
ありがとうございます!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

ムー大陸西方のバルチスタ岬沖にて、世界連合艦隊とグラ・バルカス帝国艦隊は互いの威信を賭け激突する。その戦いの様子を陰ながら見守る、1人の観戦者の存在も知らずに…
次回「その時"青葉"が動いた──バルチスタ沖大海戦観戦の記録」

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