鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
通算UA10,000突破、お気に入り134件に加えて、評価が一気に7.47まで上がってるんですけど!?
どうしてこうなった!?
評価7をくださいましたTFTRDH様、評価8をくださいましたつよちゃん様、レイナス様、レンベル様、Rimon Nikus様、評価9をくださいました@ファイブズ様、評価8から9に引き上げてくださいましたドラくに様、本当にありがとうございます!
また、お気に入り登録していただいた皆様、ありがとうございます。
私は以前、ドンパチなしパートを1回挟むと言ったな?
…あれは嘘だ。
すみません、戦争が終わったあとのことを考え、ここで戦闘なしパートをもう1つ入れました。
今回は文字数少なめです。
中央暦1639年5月4日 午後10時、クワ・トイネ公国 タウイタウイ島。
「あとは、ここをちょっと調整して……よし。部長! できました!」
タウイタウイ泊地の艦船建造工廠。その設計部門に割り当てられたとある一室で、妖精たちが仕事をしていた。新たな軍艦の設計図を引いていたのである。
「どれ、見せてみろ。……うむ……ふむふむ……よし、いいだろう! さっさと本設計図を写してしまえ!」
「はい!」
あと少しだと妖精たちは意気込み、群青色の紙に設計図を書き写していく。その設計図の上部には、以下のようなタイトルが振られていた。
「
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌5月5日 午前8時、クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ。
軍務卿ヤヴィンの仕事は、各地から寄せられた軍の報告を読み、各部隊の展開の様子を把握することから始まる。
この日も、彼は訓練部隊からの練度報告や、クイラ王国方面の国境警備隊の報告、ロウリア王国との国境での小競り合いの様子の報告、そして最も新しい報告に目を通していた。
「おお、ピカイアに送った第2軍7,000人は、誰1人欠けることなく上陸に成功したか。これで、あのロウリア軍も大きく混乱するだろう」
堺発案の「オーバーロード作戦ツヴァイ」の結果報告である。堺はこの作戦について、「誰1人欠けることなく上陸し、作戦はほぼ100パーセントの確率での成功を見込んでいる」と予測していたが、みごとに大当たりだったわけだ。
「まさか海を渡って西から侵攻するとは、ロウリアの奴ら、思ってもみないだろうて。ふふふ……」
と、この時、部屋のドアがノックされた。
「入れ!」
ヤヴィンがドアに向かって叫ぶと、「失礼します」と声がして、軍の若い幹部の1人が入ってきた。襟に、海軍の所属であることを示す、帆船のマークの襟章が付いている。
「海軍の若造が、こんな朝早くからどうした?」
「はっ。ちょっと見ていただきたいものがありまして、参りました。こちらをご覧いただけますか?」
若手幹部は、小脇に抱えていた2枚の紙を広げて見せた。一面群青色の変わった紙で、白い線が多数引かれ、何かが描かれている。
「これは……軍船か?」
「はい。タウイタウイ泊地の者たちが、我が海軍に配備する新鋭艦の設計図を引いて、持ってきたのです」
船の絵の横には、同じ白い線で文字が書かれ、スペックが記されている。それを目にして…ヤヴィンは心底驚いた。
「な、なんだ!? これは!?」
そこには、こう書かれていたのだ。
桑・十稲公国海軍 新建造艦設計案その壱
全長 50メートル
最大幅 6.1メートル
喫水 2.3メートル
基準排水量 459トン
速力 21ノット
航続距離 15ノットにて4,000海里
武装 75㎜単装高射砲4門
25㎜対空機銃 連装4基、単装4基
九三式水中聴音機
九五式爆雷投下軌条
九一式高射装置
13号対空電探
軍務卿ヤヴィンの常識の理解を超えた船が、そこにあった。
まず全長50メートルという時点で、もう常識を超えた大きさになっている。クワ・トイネ公国の軍船といったら、最大でも全長25~30メートルだ。しかしこいつは、その約2倍の全長がある。
次に速力だが……この「ノット」という単位がよくわからないので、ヤヴィンは幹部に尋ねた。
「おい、この速さの“ノット”という単位は、具体的にはいくらくらいになるのだ?」
「それについてなんですが……どうやら『
「うむ、良いぞ」
「ありがとうございます。まず『海里』とは、日本で使われている海上での距離を図る単位で、1海里=1.852㎞だそうです。そして、この1海里という距離を1時間で進める速度が、1ノットになります。今回の軍艦の最高速度ですと、速度21ノットですから、1時間で21海里…つまり21×1.852=38.892㎞。1時間でだいたい40㎞進めます」
「……ちなみに、我が国の軍船の速度は?」
「日本人によると……目算だそうですが、風を最も良く受けた状態で5ノット程度ではないか、とのことです」
なんと、4倍以上の速度で走れるということである。赤く塗ったわけでもないのにこの始末。
しかも、風の吹く方向や風力とは関係なしに、この速度を発揮できるのである。
「な、なんだ……これは……。我が国の軍船とは、隔絶した力を持つではないか……」
「それだけではありません。この、“武装”という項目を見てください。バリスタは一切持っておらず、代わりに『高射砲』なるものを持っています。これは、太さ75㎜の金属の弾を空に向けて発射し、空中で爆発させるものなのですが、船に対しても使える、とのことでした。対艦用の120㎜砲にしてもよかったのですが、ワイバーンの脅威があることと、この船を新兵の練習用にしたいことを考え、高射砲にした、と説明を受けました」
ちなみにこの75㎜高射砲、
「この爆雷とか水中聴音機というのは?」
「はい。それなんですが……詳細は不明ながら、彼らは“海に潜る船”を持っているようでして、それに対処するための武器だ、とのことです」
「なにっ!? 海に潜る船だと!?」
さっきからヤヴィン卿は驚きっぱなしであるが、無理もない。
「では、その下の高射装置とやらと電探とかいうのは?」
「すみません、これは私もよく分かっていませんが、どうやら空を飛ぶものを見つけ出して、それとの距離を測るものらしいです。目に見えないほど遠くの飛行物体でも探知できる、と言っていました」
「なんと……。練習用の船だけで、これだけの装備を持たせられるのか……」
ヤヴィン卿は言葉を失ってしまった。
「だ、だが、練習用にしては、やけに長い距離を走れるのではないか? 航続距離は4,000海里と書いてあるぞ?」
「はい。1.852×4,000=7,408㎞なので、アルタラス島との往復は余裕でこなせます。どころか、フィルアデス大陸のパーパルディア皇国まで行って帰ってくることも、この船には容易なことです。ちなみに、これを設計した日本人たちは、どうやらこの付近の海での商船の護衛を、訓練も兼ねてやることを考えているようですよ」
「なんと……」
こうなると、これまでの木造帆船は何だったのかと言いたくなる。
「日本人は、これを建造した上で我が国にプレゼントする、とのことです。既に複数隻分の建造資源を用意しており、建造施設も押さえていて、ヤヴィン卿の許可さえ下りればすぐにも建造に取りかかる、とのことです」
「……完成にはどのくらいかかるのか?」
「この程度の大きさですと、2・3週間もあれば1隻仕上げてみせる、とのことでした」
「な、なるほど……」
ヤヴィン卿は、机に手をついて立ち上がった。そうしないと、自分の体を支えることができなかったのである。
「それで、もう1つは?」
「はい、こちらなんですが……厳密には軍艦ではないそうです。なんでも、海から上陸する部隊を送り込むための輸送船、なんだとか。それでも武装は、我が軍の帆船より格段に強力です。基本的に、タウイタウイ部隊で運用することとしているようですが、我が軍にも供出する用意をしておく、と申していました」
この輸送船のスペックは、以下の通りである。
桑・十稲公国海軍 新建造艦設計案その弐
全長 100メートル
全幅 10メートル
吃水 1.55メートル
排水量 950トン
速力 16ノット
航続距離 16ノットにて1,000海里
武装 八九式12.7㎝連装高角砲1基2門
25㎜対空機銃 三連装2基、連装4基、単装10基
設計とスペックは、だいたい旧日本海軍の二等輸送艦のパクりである。「建造工程の簡略化のため」先輩たちの知恵を借りたら、こうなってしまったようだ。要するにカンニング。
だが、ワイバーンの脅威があるため、対空兵装はしっかり充実させている。
「これは輸送船ではあるが、同時に揚陸艦であろう? でなければ、船首を板状にして倒せるようにする意味がなくなるぞ」
「はい。そこは私も詳しく説明されていないのですが、おそらく仰る通りだと思います」
最近、強襲とまでは言わないが揚陸の機会が増えており、堺は駆逐艦隊や「あきつ丸」だけでは揚陸量が足りない、と感じ始めていた。そこで今回、妖精たちに命じてこんな揚陸艦を設計させたのである。
ヤヴィンは一瞬で、決断を下した。
「これを断る理由がないぞ。許可すると、伝えてくれ」
「はっ! ではすぐ伝えて参ります。設計図はここに置いておきますね」
若き幹部は、いそいそと退出していった。
ヤヴィンは再び椅子に座り込み、設計図に目を落とす。
「さて……どうなるかな? これが量産された暁には……ん?」
その時、彼はあることを思い出した。ロウリア王国の艦隊を迎え撃つ政治部会の時、堺が言っていた言葉。
『口径38㎝の大砲を搭載した戦艦が1隻、口径35.6㎝の大砲を搭載した戦艦が1隻……』
「まっまさか!」
慌ててヤヴィンは、もう一度「その壱」のほうの設計図の、武装の項目を見る。
『75㎜単装高射砲』
「75㎜……! では、将来的には350㎜や380㎜の大砲が載せられるというのか!? 我が国の軍艦に!?」
そんな大口径の砲が搭載された軍艦であれば、パーパルディア皇国の軍艦など鎧袖一触だろう。それどころか、神聖ミリシアル帝国やムー国の軍艦が相手でも戦えるのではないか?
「我が国は……なんという国と関わりを持ってしまったのだろう。日本国……考えただけでも空恐ろしい……!」
ヤヴィンは思わず、全身を震わせた。
ヤヴィン軍務卿から建造許可を得たこの新型艦は、クワ・トイネ公国北東、海を挟んでタウイタウイ泊地の反対側にある街、クワ・タウイの艦艇建造工廠にて、ただちに建造が開始されることとなる。
ちなみに堺は、現地の貨幣の獲得も兼ねて、クワ・トイネ公国のみならずクイラ王国に対しても、これらの艦艇のセールスを行っていた。クイラ王国は即座にこの話に飛び付き、瞬く間に砲艦4隻、輸送艦1隻の買い取り注文が確定した。
そして、クワ・タウイの建造ドックでは、明かりが落ちない日々が続くこととなる。
やがて、完成されたこれらの艦には、「地球へ帰れますように」という堺の願いを込めて、日本で流通している農作物の名前が割り振られた。
新型の砲艦は、日本で流通するブドウ(実が黒い物)にちなんで「ウインク型砲艦」、輸送艦の方は、日本で流通する西洋梨にちなんで「ラ・フランス型輸送艦」と名付けられたのである。
これが、クワ・トイネ公国とクイラ王国、両国の海軍の近代化の第一歩であった。
遅まきながら暁なつめ様、すみません。貴殿の作品のタイトルをもじりました。
改めて考えてみると、艦これに揚陸艦少なすぎんよ…。というわけで、新たな強襲揚陸艦を設計しました。ついでに言うと神洲丸も建造し、さらに速吸を参考にして艦隊随伴型の補給艦を建造する予定です。タウイタウイの造船部門と設計部署のブラック化ががが…
ちなみにウインク型砲艦は、占守型海防艦の設計が参考にされています。
次回予告。
ロウリア王国に対し、正面から攻め込んだ堺とノウの部隊。加えて、西にまわって上陸した第2軍。そして、2正面作戦で窮地に陥ったロウリア軍に、「泣きっ面に蜂」の運命が襲いかかる…
次回「三つ挟みのロウリア」
p.s. 一度、本編とは必ずしも関係のない小話を、挟みたいと思います。時期的には003. と004. の間くらいの話になります。挿入時のタイトルナンバーが整数になっていないので、見ればすぐおわかりいただけると思います。