鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今回はミリシアルとグ帝が中心です。



134. 揺れ動く世界(2)

 中央暦1643年2月25日。処は「世界最強の国家」神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。

 帝都中央にある、皇帝の住まいたる皇城アルビオン城。皇帝謁見室に呼び出されている者たちがいた。

 呼び出されていたのは、以下の面々である。

 

・軍務大臣 イスラ・シュミールパオ

・国防省長官 アグラ・ブリンストン

・帝国情報局長 アルネウス・フリーマン

・情報局第6課課長 ライドルカ・オリフェント

・外務省統括官 ヘルベルト・リアージュ

・対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部長 ヒルカネ・パルぺ

・空中戦艦「パル・キマイラ」2号機艦長 メテオス・ローグライダー

 

 これらの面々のうち、メテオスは泰然とした様子である。アルネウス、ライドルカ、リアージュの3人は内心呼び出しの理由を察しており、なるべく平常心を装っていた……が、緊張は隠しきれていない。残りの面々はというと、真っ青になっていた。

 無理もない、神聖ミリシアル帝国は先のグラ・バルカス帝国軍討伐に失敗した。敵を第二文明圏から追い出すどころか、その(はる)か手前で(つまず)き、大敗したのだ。作戦に参加した第1・2・3魔導艦隊はいずれも壊滅的な被害を受けており、現在は帝都ルーンポリスや南の港街カルトアルパス等に分散して、戦力再建に当たっている。

 問題はそれだけではない。神聖ミリシアル帝国は今回、世界最強の名の元に中央世界と第二文明圏の各国に呼びかけ、世界連合艦隊を組織した。そこまでしたにも関わらず、グラ・バルカス帝国艦隊の撃滅すら果たせなかったのだ。

 今回の失敗は帝国に大きな損害をもたらすだろう。外交的にも軍事的にも。

 

 彼らの前には、世界の王たるミリシアル8世が、玉座に腰を降ろして報告書を見ている。その年老いたエルフの男の顔から、感情がだんだんと抜けていくのを感じ取り、特に軍関係者の面々はさらに顔面を蒼白にしていた。

 報告書を読みきった後、ミリシアル8世は顔を上げ、一同を見渡した。ただそれだけで、呼び出された者たちは全員が姿勢を正した。

 

「アグラよ」

「ははっ!」

 

 皇帝はまず、国防省長官アグラを指名した。指名されたアグラの顔には、冷や汗が流れている。

 

「今後の計画を申せ」

 

 たった一言ではあったが、それは皇帝の怒りが詰まった重い言葉だった。

 

「はっ!」

 

 現時点では、まだ喪失した兵士や撃沈された艦艇の穴埋め、損傷艦艇の修理などが終わっていない。そちらにリソースを割かれてしまい、今後の対策などはまだ大まかにしか決定していなかった。

 だが皇帝陛下の手前、下手なことを言えるはずがない。「分かりません」などとは、とても言えたものではない。

 アグラは声を絞り出した。

 

「当面は、この度就役するミスリル級魔導戦艦を、第1魔導艦隊に配属させ、まずは第1魔導艦隊だけでも再建を目指します。並行して兵士の早期錬成も行い、一定数の兵力が揃うまでは本土防衛に徹し……」

「聞きたいのはそういうことではない」

 

 ミリシアル8世に途中で遮られ、アグラの言葉は途切れた。

 続いて指名を受けたのは、シュミールパオである。

 

「シュミールパオよ、今後の計画について、お主はどのように考えておるのか?」

「ははっ! 軍事予算を効率的に配分し、敵戦力については情報局と連携して再分析を……」

 

 だが、シュミールパオがそこまで言った時、

 

「たわけがっ!!」

 

 皇帝の雷喝が響いた。

 

「っっ……!」

 

 滅多に怒ることのないミリシアル8世が怒声を上げると、凄まじい迫力があり、余計に怖く聞こえる。シュミールパオは…いや、彼だけでなく、アグラも、他の呼び出された者たちも縮み上がった。

 恐縮する彼らの上に、皇帝の雷が次々と落ちる。

 

「敵戦力については再考が必要だ。そのくらいは余でも理解しておる! 現有戦力では足りぬ、ということもな!

新造戦艦で穴埋めをするだと? それは良い、だが自分の仕事の(はん)(ちゅう)だけで事を考えるでない! 艦艇の量産体制を確立し、どの程度の期間に何隻の艦を作るといったことを上申するとか、地方隊からどれほどの兵力を引き抜いて主力の再建に当てるのかとか、何故そういった具体的な話を余にできぬのだ!!

お前たちは国の幹部だ。国の幹部が皇帝の顔色を伺いすぎれば、国家の運営に支障を来し、そして帝国の未来に悲劇を招く可能性がある! お前たちは帝国臣民の命を、そして帝国そのものの未来を左右する立場にあるのだと、よくよく理解しろ!!」

 

 皇帝の怒声は、ビリビリと部屋に響いた。その場にいた全員が、自分の寿命が10年ばかり縮むかと思ったほどだった。

 一通り説教を終えると、ミリシアル8世は気を取り直したのか、いつも通りの口調に戻って言った。

 

「ところで、余は先ほど『敵戦力について再考が必要だ』と言ったが、それについてだ。アルネウス、そしてライドルカよ、ロデニウスからもたらされた敵戦力の推定について、分析は終わったか?」

「「ははっ!」」

 

 皇帝に問われ、情報局の2人は揃って頭を下げた。

 

「本件は私よりも、ライドルカのほうが熟知しております。よって本件はライドルカよりご説明申し上げます」

 

 アルネウスが口火を切る。……いや、この場合、「ライドルカに説明を丸投げした」というほうが適切か。

 皇帝に向かって直接報告をするなど、ライドルカには初めてのことだ。緊張に声を震わせながら、彼はゆっくりと報告を開始した。

 

「謹んで陛下にご報告申し上げます。

まずグラ・バルカス帝国の海軍戦力ですが、ロデニウス側の分析では艦艇総数700隻以上、そのうち戦艦は約30隻、天の浮舟運用のための母艦が大小合わせて40隻以上、巡洋艦が大小合わせて100隻を超え、そして駆逐艦と呼ばれる小型艦が非常に多数を占めています。総数700隻以上の過半は、この駆逐艦によって占められている模様です」

 

 とここで、リアージュが挙手した。

 

「先ほどの報告について、補足させていただきます。先日、我が国の外交官フィアームを通じて、ロデニウスから新たな情報の提供がありました。グラ・バルカス帝国の艦艇数はさらに増加しており、今の増加ペースで行けば、今年7月には1,000隻を超えると予測される、とのことです」

 

 この数の多さには、アグラもシュミールパオもぎょっとした。

 神聖ミリシアル帝国の主力魔導艦隊の総数は、現時点で200隻を割り込んでいる。本当は268隻あるはずなのだが、マグドラ沖海戦での第零式魔導艦隊の全滅とバルチスタ沖大海戦での59隻の艦艇喪失が響いたのだ。さらに沈没こそしなかったものの中大破して戦闘能力を失った艦艇の数を差し引くと、稼働艦艇数は150隻前後になってしまう。地方隊を含めても400隻程度の数である以上、1,000という数の多さは(しゃ)()にならない。

 

「1,000隻か……それだけ増えてしまうと、我が国としても対応が難しくなるな」

 

 ミリシアル8世も、危機感を抱いたようだ。

 

「ロデニウスには、引き続き最新情報を提供するよう要望せよ」

「はっ!

横から失礼致しました。ライドルカ殿、報告の続きを頼みます」

 

 リアージュは引っ込み、ライドルカが説明を再開した。

 

「グラ・バルカス帝国の兵器についてですが、我が国にはない特筆すべきものがあります。それが、電波探信儀(レーダー)と魚雷、そして潜水艦です。

順番にご説明いたします。まずレーダーとは、電波を使用して天の浮舟や水上艦艇を遠距離から探知するものです。そう、古の魔法帝国が使用していたと伝わる魔導電磁レーダー、これに似た機材です。魔導電磁レーダーと異なるのは、魔力を一切使用しない、という点だけでしょう」

「「………」」

 

 まさかの兵器の登場に、アグラとシュミールパオの顔がひきつった。

 あまりにも技術レベルが高すぎて、神聖ミリシアル帝国ですら再現できていない魔導電磁レーダー。グラ・バルカス帝国は、それに似た代物を開発し、運用しているらしいのである。

 

「レーダーについては、当方からも追加報告があります」

 

 情報局長アルネウスが口を挟んだ。

 

「フォーク海峡海戦でもバルチスタ沖大海戦でも、我が方の天の浮舟隊は敵の飛行機械による奇襲を受けています。双方とも太陽の中から奇襲され、しかも敵に高度差をつけられていた、とのことでした。

1回なら、まぐれでそうなることもあるでしょう。しかし、2回続けてとなると、話が違ってきます。敵がレーダーによってこちらを遠方から探知し、用意を整えた上で奇襲したのではないかと思われます」

「ふむ」

 

 アルネウスの報告を受けて、ミリシアル8世が少し考える様子を見せた。ややあって口を開く。

 

「一理ある話だな。早期に敵を発見すれば、先手を打てる可能性が高くなる。

ヒルカネよ、魔導電磁レーダーの開発の進捗状況はどうか?」

「はっ、お恥ずかしながら、未だ解析すら覚束ない状態です。魔導電磁レーダーの遺品は発掘できているのですが、構造が非常に複雑です」

「そうか……。ライドルカよ、確かロデニウスもレーダーを運用していたな?」

「はっ、運用している旨、報告が届いております」

 

 ライドルカが答えると、ミリシアル8世はとんでもないことを言い出した。

 

「リアージュよ、フィアームを通じてロデニウスと交渉せよ。我が国にも、貴国のレーダーを輸入できないか、とな」

「なっ!?」

 

 まさかの内容に、リアージュが叫ぶように反論する。

 

「お待ちください陛下! 我が国にも、魔導技術の最高峰としての誇りがございます!

それに、ロデニウスのレーダーは科学技術の産物であり、我が国とは技術体系が異なります故、導入は困難ではないかと愚考します!」

「いや、この際やむを得ないでしょう」

 

 そこへ別の声が割り込んだ。徹底した合理的思考の持ち主、メテオスである。

 

「魔力探知レーダーでは、グラ・バルカス帝国の航空機や軍艦を探知しづらい。パル・キマイラのレーダーでは容易に捕捉できましたが、他の艦隊はそうもいかないようですな。バルチスタ沖の報告書は読みましたが、第1魔導艦隊でも、敵攻撃隊の捕捉が遅れたと、記述されていましたぞ。

そこから考えれば、我が軍の死者を1人でも減らせるのであれば、ロデニウスからレーダーを輸入する価値は十分あると思いますが」

 

 相手の身分なども気にせず、ずばりと合理的意見を述べることができるメテオスは、かなり希少な存在であった。そのため、ミリシアル8世も一目置いている部分がある。その彼の思考は伊達ではなかった。

 

「というわけで、ロデニウスからのレーダー導入の件、技術部やロデニウスと交渉せよ。良いな?」

「ははっ!」

 

 皇帝陛下に言われては、致し方ない。リアージュは一礼して引き受けた。

 

「ライドルカ、報告を続けよ」

「はっ!」

 

 半分蚊帳の外になっていた感じのあったライドルカが、説明を再開する。

 

「続いて、魚雷についてご報告いたします。ロデニウスからの情報によれば、魚雷というのは言わば"水中自走爆弾"であり、空気を使用して海中を直線状に進み、艦の喫水線下で爆発するという兵器です。潜水艦、特に小型の水上艦艇、そして飛行機械から発射されます。これは、バルチスタ沖大海戦に参加した魔導艦隊の生存者や、マグドラ沖海戦で全滅した第零式魔導艦隊の生存者の証言からも、裏付けが取れています」

「水中自走爆弾だと……?」

「そんな兵器が……」

 

 ライドルカの報告に、リアージュとヒルカネが絶句した。

 

「ふむ……水中自走爆弾か。メテオス、これについてはどう思う?」

 

 ミリシアル8世はメテオスに意見を求めた。

 

「水中自走爆弾とは、何とも合理的な発想ですな。基本的に我が国の戦艦は、砲で艦上構造物や艦体を撃たれることは想定していますが、喫水線下に穴を開けるという攻撃方法については想定されていません。喫水線下に穴を開けられれば、どんな船でも浸水し、最後には転覆して沈みます。そういう意味で、この魚雷という兵器は非常に合理的な兵器と言えるでしょう。

付け加えるなら、この魚雷は小型の軍艦や飛行機械にも搭載できるほど、小さい兵器でありながら、命中した数次第では戦艦をも沈め得る兵器です。その点からも、合理的と言えます。我が国も導入すべきかもしれません」

「なるほどな」

 

 メテオスの意見に納得し、ミリシアル8世は今度はライドルカに尋ねた。

 

「それで、魚雷については分かったが、潜水艦というのは何だ?」

「は、誠に信じがたいのですが、ロデニウスからの情報によれば、これは『自ら海に潜ることができる軍艦』だそうです」

「「「なっ!?」」」

 

 アルネウスとミリシアル8世とメテオス以外、全員が仰天した。まさか、自分から海に潜るなんて船があるとは、思わなかったからだ。

 

「ロデニウス側の説明では、『海中に潜み、敵艦に向けて魚雷を発射しこれを仕留める兵器である。主兵装は魚雷で、それ以外に小口径の単装砲、対空機銃…失礼、対空魔光砲数丁を装備する。主要な運用方法としては、敵の主力艦隊を待ち伏せての奇襲攻撃や、港に停泊中の艦に対する肉薄攻撃、軍艦ではなく商船や輸送船を狙って攻撃する「通商破壊」に用いられる。昼間よりも夜間に運用されることが多い』とのことです」

「「「………」」」

 

 とんでも兵器の登場に、全員が絶句してしまった。その中で感想を述べたのは、メテオスである。

 

「潜水艦……これもまた、非常に合理的な兵器です。まずそもそも、我々には『自分から海中に潜って敵を待ち伏せる』という発想がありません。その盲点を見事に衝いた、合理的な兵器と言えます。

また、軍艦相手なら返り討ちに遭う危険がありますが、商船が相手ならその懸念もありません。相手から倒される心配をすることもなく、相手の船に魚雷を撃ち込む一方的な殺戮です。

しかも、航路を事実上封鎖することもできますから、これが投入されただけで島国は干上がってしまうリスクが高くなります。ほとんど労せずして敵国を無力化できる、非常に合理的な兵器ですな」

 

 続いて皇帝が立ち直った。

 

「なるほど……となると、我が国が仮に潜水艦から攻撃された時、どこが最も危険だと考えるか、メテオスよ?」

「私としてはカルトアルパスが最も危険だと考えます。あそこは出入口がフォーク海峡しかありません。そこを封鎖するだけで、諸外国との交易ルートを完全に遮断できます。小さな苦労で、国際的に大打撃を与えることができます」

「うむ、余も同じ考えだ」

「陛下のご(けい)(がん)、恐れ入ります」

 

 (うやうや)しく頭を下げるメテオス。

 ミリシアル8世は再びライドルカに顔を向けた。

 

「それで、その潜水艦とやらに対抗する兵器はあるのか? やられっぱなしでいる訳には行くまい」

「はっ。ありがたいことに、ロデニウスはその潜水艦に対処できる兵器の情報も、提供してくれました」

「ほう、その兵器とは?」

「『音波探信儀(ソナー)』と『爆雷』なる兵器です。

ソナーには2種類あり、相手の音を聞くだけのものと、こちらからも音波を出して相手の位置を探るものがあります。音を聞くだけのソナーは『パッシブソナー』、自ら音を出すものは『アクティブソナー』というそうです。

次に爆雷ですが、これは水圧、つまり水の圧力を感知して信管が作動し、爆発する爆弾です。爆発時に発生する強烈な水圧によって、潜水艦の艦体を破壊し、撃沈する兵器です。爆雷本体にかかる水圧が一定になる、つまり一定の深度に達すると爆発する仕掛けのようです。信管の作動に必要な水圧の大きさは、投下前に艦上で設定できるそうです。

まとめますと、ソナーによって相手の位置を特定し、そこに向かって爆雷を投下する、という形で潜水艦に対処するようです」

「なるほどな」

 

 合点がいったミリシアル8世は頷いた。

 

「ロデニウスにはこのような兵器もあるのか……して、ロデニウスのその兵器は実績を上げておるのか?」

「情報では、既に十数隻のグラ・バルカス帝国所属らしい潜水艦を撃沈している、とのことです」

「そうか」

 

 それを聞くや、ミリシアル8世は即決した。

 

「リアージュよ、追加だ。ロデニウスに、レーダーに加えてソナー一式と爆雷の見本も提供できないか、交渉せよ。場合によっては、こちらの軍事技術の一端を開示しても構わん。

ロデニウス軍がグラ・バルカス帝国の所属らしい潜水艦を、それも十数隻も撃沈しているということは、ロデニウス近海のみならず我が国の近海にも、奴らの潜水艦がいる可能性が高い。今はただ、被害が表面化していないだけに過ぎん。

ロデニウスへのレーダー、ソナー、爆雷の提供要求は、我が国の魔導技術を開示するだけの値打ちがある物であり、また緊急に対応しなければならない案件だ」

「……承知致しました」

 

 完全には賛成できかねたのか、リアージュは一瞬だけ返答に詰まった。しかしそれでも、彼も国家の幹部である、皇帝の言葉に逆らう意志はなかった。

 

「それとだがリアージュよ、そのロデニウスから、グラ・バルカス帝国の最新情報の提供と共に、何か言ってきたのではなかったか?」

 

 ミリシアル8世に尋ねられ、リアージュは姿勢を正した。

 

「はっ、仰る通りでございます。ロデニウス連合王国から、陛下に宛てて書簡が届いております。署名はロデニウス国王となっており、国印まで押されております」

「それほどの重要書類ということだな。見せてみよ」

「はっ」

 

 リアージュは畏まって1通の封書を渡した。封書の宛名には「聡明にして偉大なるルキウス・エルダート・ホロウレイン・ド・ミリシアル陛下」と書かれており、裏面の署名は「ロデニウス連合王国現国王 パルミージャ・レッジーナ・カナタ」と記されている。さらに、封の位置には国印が押されていた。

 ミリシアル8世は封を開き、中から書状を取り出して読み始めた。

 

 

『世界の王たる偉大なる陛下に、東の端の国の王から謹んでご挨拶申し上げます。

陛下が即位あそばされて4,000年、この世界は多少の戦争こそありましたが、国際的には平和を保ってきたと聞き及んでおります。私は、これも賢王と呼ばれる陛下の偉大なる施政の致すところであると愚考しております。陛下に倣い、国内の安定と国際平和への貢献に、身を粉にして当たろうとする所存であります。

 

また先日は、天の浮舟に使用される魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの実物を我が国に供与してくださり、誠にありがとうございます。貴国の優れた魔導技術に、感服致すところであります。我々もますます精進せねばならぬと思う今日この頃です。

 

さて現在、我が国は同盟国たるムー国をはじめ、第二文明圏の諸国家と共に、グラ・バルカス帝国の勢力をムー大陸から追い出す作戦を立てております。ですが、敵は非常に強大であると見られており、この作戦の成功は貴国の支援無しには成し得ないのではないかと、心を痛めております。

つきましては、ムー大陸に陸・海・空軍からなる増援部隊を派遣していただく訳にはいかないでしょうか。グラ・バルカス帝国の軍は、陸、海、空軍いずれも非常に強力です。先のバルチスタ沖大海戦により、貴国の魔導艦隊が大きな被害を受けた由は聞き及んでおります。グラ・バルカス主力艦隊の討伐は我が国で引き受けますので、海軍については制海権維持のための地方隊だけでも派遣していただければ、望外の幸福であります。

援軍の派遣につきまして、(なに)(とぞ)ご検討いただきたく存じます。

末筆ながら、陛下の益々のご健勝をお祈りいたします。

 

ロデニウス連合王国国王 パルミージャ・レッジーナ・カナタ』

 

 

 要は援軍派遣の要請である。

 書状を読み終えたミリシアル8世は、一同を見渡した。

 

「ロデニウス連合王国から、面白い提案がなされたぞ。何でも、グラ・バルカス帝国の艦隊の討伐は引き受けるから、制海権維持のための艦隊と、ムー大陸の敵陸軍を迎え撃つ部隊を送ってほしい、とのことだ。その旨が、この書状に書いてある」

 

 そう言うと、皇帝はアグラの顔を見た。

 

「アグラよ、この提案についてどう思う?」

「失礼ながら陛下、かの国は第三文明圏外国であり、またフォーク海峡海戦では確かに共闘しておりますが、バルチスタ沖大海戦には参加しておりません。フォーク海峡海戦とバルチスタ沖大海戦では、戦闘の様相がまるで異なります。かの国がそれを理解しているのか、まずそのことが心配です」

 

 アグラはこの時点では、まだロデニウス連合王国のことを完全には把握していなかった。

 パーパルディア皇国を滅亡に追いやった国家であり、大東洋共栄圏を主宰している……とは、聞いている。だが、所詮はパーパルディア皇国程度の相手であり、グラ・バルカス帝国などとは訳が違う。信用していいものかどうか……。

 

「なるほどな。だが、フォーク海峡海戦でのロデニウス艦隊の様子は聞いたか?」

「いえ、詳しくは伺っておりません」

「ふむ、そうか。では、今この場で聞いてもらおう。

アルネウス、そしてライドルカよ、フォーク海峡海戦でのロデニウス艦隊の戦いの様子のデータはあるか?」

 

 ミリシアル8世に話を振られ、アルネウスが答えた。

 

「はっ、ございます。

かの艦隊は凄まじい戦いぶりを見せておりました。当時のカルトアルパス在泊地方隊の生存者の証言によれば、ロデニウス艦隊は6隻のみで戦い、200機もの敵機を向こうに回してほぼ無傷で攻撃を切り抜け、そればかりか30機以上の敵機を撃墜破していた、とのことです。当時のカルトアルパス在泊地方隊は、シルバー級魔導巡洋艦8隻でかかって敵機の撃墜破は7機程度です。そこから考えると、彼らの対空戦闘能力には特筆すべきものがあります。

また、彼らの戦艦は最終的にグレードアトラスター級に沈められたものの、敵戦艦の艦上に火災を発生させ、多数の被害を与えた、とのことです。敵戦艦に食い下がり、他国の艦隊の脱出に寄与したのです。それも、あの地獄のフォーク海峡で。これは、並大抵の国にはできません。

そこから考えますに、かの国の戦闘力はムーを凌ぎ、我が国やグラ・バルカス帝国とも並び得る可能性がある……と、情報局では判断しています」

 

 アルネウスの報告を受けて、ミリシアル8世はアグラに顔を向け直した。

 

「ということだ。場合によっては、ロデニウスの艦隊は本当に、グラ・バルカス帝国艦隊を破ってしまうかもしれぬ。そうなれば、我々にも好機が訪れるだろう?」

 

 皇帝の言葉にも一理ある。アグラは一瞬だけ考えた。

 

「それは……仰る通りかと存じます。ですが、恐れながらバルチスタ沖大海戦で受けた損害が大きく、戦力の立て直しが急務となっております。この状況では、主力魔導艦隊のような大規模艦隊の派遣は不可能です」

「うむ、それはそうだ。大規模艦隊は送らない。

だが、世界最強たる我が国が何もしない訳にも行くまい。しかも、ロデニウスは以前から、グラ・バルカス帝国の兵器の推定性能を伝えてきている。マグドラ沖やフォーク海峡、バルチスタ沖での交戦記録は余も読ませてもらったが、それらから余が推定した敵兵器の性能と、ロデニウスの推定データは概ね一致している。そしてそれが正しければ、今回の帝国軍の被害についても納得できる。

ロデニウスはそれほど正確に、敵の戦力について分析した上で、自国の力のみで敵を撃滅しようとしているのだ。よほどの自信があってのものであろう」

 

 アグラは唾を飲み、皇帝の言葉の続きを聞いた。

 

「ロデニウス連合王国……余は、かの国の力を見てみたい。来るべき古の魔法帝国との決戦で、彼らが本当に役に立つのか……見極める必要がある」

 

 皇帝の真意は分かったが、それでもアグラは不安を拭いきれなかった。

 仮にロデニウス連合王国の言うことがこけおどしだった場合……つまり自分たちが言うより遥かに弱かった場合、派遣した地方隊の兵士を無駄死にさせることになるからである。

 

「アグラよ、旧式魔導戦艦を主力とした地方隊を、ムー大陸に派遣せよ。ロデニウスからの要請を受理してみよう。あと、脚の速い艦も地方隊に同行させよ。これはロデニウス艦隊を監視するためのものだ。

今回の作戦、仮にロデニウスが失敗すれば、派遣した地方隊の全滅は確実だ。日頃から問題のある者を地方隊として派遣すれば、もし負けたとしても人事上大きな被害となることはないはずだ。指揮官はそうだな、北方の地方隊司令に回されたクリングが良かろう。

ただし、ロデニウス艦隊の監視役には、目の利く者、正確な分析ができる者を中心に派遣せよ」

「承知いたしました」

 

 アグラは深々と頭を下げた。

 なお、クリングは元々西部方面艦隊の司令長官だったのだが、事前の大言に反してバルチスタ沖大海戦ではグラ・バルカス帝国艦隊と痛み分けに終わり、敵を撃滅できなかった。そのため、作戦終了後に即座に左遷され、北方の地方隊司令に降格になっている。

 

「リアージュよ、フィアームを通じてロデニウスに伝えよ。援軍派遣の要請を確かに受理した上で、前向きに検討している、と。ただし、代価としてレーダー、ソナー、爆雷の実物一式を要求することを忘れるなよ」

「ははっ!」

 

 これにて話し合いは終わり、神聖ミリシアル帝国はムー大陸に軍の部隊を送ることとしたのであった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、グラ・バルカス帝国領レイフォル州 州都レイフォリア。

 バルチスタ沖大海戦から帰還した帝国海軍連合艦隊は、レイフォル沖合に停泊している。特務軍艦隊は、受けた損害の立て直しのために既に本土に撤収していた。

 レイフォリアの一角にある帝国情報局の会議室では、情報局幹部の他に軍幹部までもが出席して会議が行われていた。特に「帝国の軍神」とも呼ばれる東部方面艦隊司令長官カイザル・ローランド中将(バルチスタ沖大海戦での戦功により、大将への昇進が内定している)が出席しているため、情報局の幹部たちも緊張している。

 会議の議題は、バルチスタ沖大海戦についてだ。神聖ミリシアル帝国海軍の主力艦の性能については、情報局の分析におよそ合致した。しかしその神聖ミリシアル帝国が投入した「空中戦艦パル・キマイラ」というとんでもない存在(イレギュラー)が、問題視された。

 

「我々軍部としては、欲しい情報は以下の通りだ。まず、神聖ミリシアル帝国の空中戦艦は、あと何隻存在するのか。次に、艦の詳細な性能。それから、国力を最大限に投入した場合の空中戦艦の建造ペース。そして、他にイレギュラーな兵器が存在するかどうか、だ」

 

 空中戦艦の存在を察知できなかったのは、明らかに情報局の不手際であった。「帝国の軍神」の鋭い眼光を前にして、情報局幹部バミダルの額には汗の玉が浮かんでいた。

 バミダルは緊張のあまり、直立不動になって返答する。

 

「承知いたしました。艦の運用機数や建造ペースについては、現在ミリシアル国に渡った情報収集部が全力で調査中です。技術部についても、収集部が持ち帰るであろう情報を元に、全力で分析を行います」

「頼んだよ。今回の海戦について、政治家や他官庁はどうもいまいちピンときていないらしい。だが、軍部は非常に重く見ている。

神聖ミリシアル帝国は現状、この世界において我々に並び得る唯一の国だ。故に、ミリシアル攻略は最重要課題と言える。心して職務に励んでもらいたい」

「「「はっ」」」

 

 情報局職員たちが気合を入れ直す。と、まだ話があったらしく、カイザルは一拍置いて再び口を開いた。

 

「また、これとは別件だが、バルチスタ沖大海戦と同時期にムー国東海岸を攻める予定だった本国艦隊24隻が、行方不明となっている。原因もまだ分かっていない。

本件について、軍部でも様々な可能性を検討しているところだが、情報局としても調査してもらいたい」

 

 本国艦隊24隻と聞いて、会議室にいた面々はあの品性下劣な一派を思い出した。被征服地の住民を劣等民族とか蛮族と呼んで(はばか)らず、現地民を一方的に(なぶ)って楽しむという連中だ。

 彼らは軍部からも存在自体を忌まれているため、仮にどこかで沈んでいたとしても心が痛むことはないだろう。だが、原因も不明で消息を絶っている、と言われると、どうにも心に不気味さが頭をもたげる。

 ところが、バミダルが「承知しました」と言おうとした瞬間、会議室のドアが激しくノックされた。そして、バミダルの部下の1人であるナグアノが、血相を変えて飛び込んでくる。

 バミダルは叱責しようとしたが、

 

「会議中のところ、大変失礼いたします! ですが、これは今後の軍部の戦略方針にも大いに関わることだと思われますので、お伝えさせていただきたく思います!」

 

 どうもナグアノの様子はただごとではない。

 

「うむ、どうしたのだ?」

 

 カイザルが頷いて報告を促したので、バミダルもひとまず矛を収めることにした。

 

「はい、ムー国のマイカルに潜入している諜報員から、緊急の報告です。それによると、現在マイカルに戦艦10隻前後、空母15隻を主力とする、総勢120隻規模の艦隊が停泊しているとのことです!」

「何?」

 

 バミダルの眉間にシワがよる。

 発見された艦隊の規模は確かに大きいようだ。だが、それに何か問題があるのだろうか。

 

「それらの艦隊は、いずれも赤い太陽を象った白い旗とロデニウス連合王国の国旗を掲げており、ロデニウス連合王国の艦隊と推定される、とのことです。そしてここからが最重要事項なのですが……」

 

 そう言って会議室全体の注目を集めた後、ナグアノは声を張り上げた。

 

「ロデニウス艦隊には、『()()()()()()()()()()()()()が1隻いる』とのことです!!」

「な、何だと!?」

 

 カイザルが前にいることも忘れて、バミダルは叫んでしまった。他の面々も大きくざわついている。それも無理からぬことであった。

 グレードアトラスター級戦艦といえば、グラ・バルカス帝国でも最高の軍事機密の塊だ。その情報は、本国にある情報局本部の金庫で厳重に保管されているらしいと聞く。そして帝国の軍人たちも、本級の正確なスペックを知らない者が多い。

 それほどの機密の塊を、まさか自国の他に建造している国があるとは思ってもおらず、会議室に凄まじい衝撃が走る。

 

「間違いない情報なのか、それは?」

 

 いち早く冷静になったカイザルが、ナグアノに質問した。

 

「はい! 遠景ですのでやや不鮮明ですが、諜報員が写真を送ってきました。それを分析した限り、確かにグレードアトラスター級だと思われます!」

 

 そう答えて、ナグアノはカイザルに報告書らしい書類を渡した。それを一読し、カイザルは「ふむ」と唸って報告書を机に乗せる。他の出席者たちがそれを覗き込んでみると、報告書には1枚の写真がテープで貼り付けられていた。そこには複数の艦影と、一際巨大な艦影が1つ写っている。細部は不明だが、幅広の艦幅と凹凸の少ないすっきりした艦橋形状は、確かにグレードアトラスター級そっくりだ。

 

「まさか……!」

「そんな馬鹿な……」

 

 他の出席者たちも、これを前にしては報告を信じざるを得ない。

 カイザルはすぐさま、バミダルに追加依頼を出した。

 

「ロデニウス連合王国についても、至急調べてもらいたい。カルトアルパス沖海戦であの国はヘルクレス級戦艦を繰り出してきたが、まだ隠し玉があったようだ。

これほどの戦力を持つとなると、あの国の技術力は我が国にも匹敵するかもしれん。さらに、この艦隊がマイカルにいる以上、我々はミリシアル国の艦隊よりも先にこの艦隊と対峙しなければならない可能性が高い。先の報告にあった本国艦隊は、おそらくこの艦隊と正面からぶつかることになり、全滅したのだろう。本国艦隊は、オリオン級戦艦1隻に航空母艦2隻を中心戦力とする24隻の艦隊だ。数で約4倍、しかもグレードアトラスター級の他に複数の空母まで持つ敵艦隊を相手取るとなれば、この程度の戦力では荷が重すぎる。

ミリシアル国とロデニウス連合王国の分析を最重要事項として、至急取り組んでもらいたい」

「承知しました! 情報漏洩の可能性も視野に入れて、全力で調査します!」

 

 これで会議がお開きとなり、出席者の面々が会議室を出ていく中で、カイザルは一人考え込んだ。

 

(何ということだ……ロデニウス連合王国が酸素推進型魚雷を実用化している可能性が挙がっていたが、まさかグレードアトラスター級戦艦を実用化しているとは……。これほどだとは正直思っていなかった。これは……もしかすると我が艦隊でも勝てんやもしれん……)

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同じ頃、ムー国南東部の商業都市マイカル。

 マイカルには、世界各国から来る国際商人たちを受け入れる民間用の港の他に、ムー統括海軍の拠点も置かれている。その拠点たるムー統括海軍・マイカル基地の乾ドックに、2隻の小型巡洋艦が入渠していた。船台に乗せられたその艦体は非常に小さく、巡洋艦というよりはむしろ駆逐艦としか思えなかった。

 今、その小型巡洋艦……ラ・シキベ級軽巡洋艦「ラ・トウサ」「ラ・サミキ」の甲板上にクレーンが降ろされる。そのクレーンが再び上がってきた時、そこには両艦の主砲である12㎝単装砲が吊り下げられていた。明らかに主砲を撤去している。

 

「いよいよ始まったんですね。改修工事……」

「ああ……」

 

 その工事の様子を眺めながら、ムー統括軍の制服を着込んだ2人の男が話し合っていた。リアス・アキリーズ少佐とマイラス・ルクレール中佐である。

 

「ラ・ハンマン級駆逐艦やラ・フレッツ級駆逐艦が就役し始めた以上、ラ・シキベ級軽巡洋艦は一線級の戦力としてはほぼ使えない。でも、曲がりなりにも機動部隊に随伴することを想定していたから、外洋航行能力は十分ある。それを生かし、主砲を載せ替えて対空能力を向上させた上に対潜兵器を搭載して、船団護衛に利用しようとは……」

 

 リアスの言葉は、2隻の軽巡洋艦が受けている改修工事の内容を端的に示していた。

 

「ロデニウス連合王国は対潜戦闘を重視し、船団護衛や対潜哨戒に重きを置いているって話だ。軍艦の技術や戦術に関して我々の二手も三手も先を行く国が、それほど重視しているんだ、我々としても座視できるもんじゃない。だが悲しいことに、護衛駆逐艦を一から設計している暇はない。

なら、既存の巡洋艦を転用しようって考えたんだ。せっかく使える船があるんだ、使える時に使わにゃもったいない」

 

 マイラスは後輩に笑ってみせた。

 ムー統括海軍が中央暦1634年に採用した「ラ・シキベ級軽巡洋艦」。この艦は、主に神聖ミリシアル帝国の小型艦に対抗することを旨として建造された。このため、波荒い外洋でも機動力の高い小型艦に対抗できるよう、十分な外洋航行能力を持たされていた。また、戦艦や空母の護衛も務められるよう、18ノットの最高速力を発揮できるディーゼル機関を搭載している。

 しかし、中央暦1641年にムー国がロデニウス連合王国と軍事同盟を締結すると、にわかに事情が変わってきた。神聖ミリシアル帝国の小型艦に対抗し得る新たな艦として「駆逐艦」が登場したのだ。十分な外洋航行能力、ラ・シキベ級を上回る砲戦火力、一発逆転を狙える魚雷、両用砲と機銃に裏打ちされた高い防空能力、そして対潜能力。ラ・ハンマン級やラ・フレッツ級といった駆逐艦は、それら全てを併せ持っていた。そしてこれにより、ラ・シキベ級軽巡洋艦はその存在意義を完全に奪われてしまい、一気に陳腐化してしまったのだ。

 だが、せっかく建造した艦を無駄にするのも忍びない。そこでマイラスは、あることを思いついた。

 

「ロデニウス連合王国は、船団護衛のために『フリゲート』と称する専用の艦(なお、これはウインク型砲艦のことである)を建造している。それほどのことをしているということは、船団護衛は重要だということだ。よく考えてみれば、こうした護衛用の小型艦があれば、陸軍を運ぶ揚陸船団の護衛や、第一・第三文明圏を含む各国を往来する商船の護衛もできる。我々も手に入れておくべきだ。

しかし、フリゲート艦を一から新規設計している暇は、残念ながらない。ならば、一線級の戦力としては使えなくなったラ・シキベ級を、主砲を交換して対潜兵器を搭載し、護衛艦にすれば良い」

 

 マイラスはこのアイデアを、2月14日にオタハイトの海軍本部で行われた会議に持ち込んでみた。その結果、この案は満場一致で可決され、ちょうど近代化改修の予定が入っていた「ラ・トウサ」「ラ・サミキ」をテストベッドとして、護衛駆逐艦を建造することが決定したのである。

 工事の内容は、概ね以下の通りである。まず、ラ・シキベ級の主砲を、12㎝単装砲から38口径12.7㎝単装両用砲……ラ・ハンマン級の主砲と同じ「5インチ単装両用砲 Mk.28」にする。次に、ロ式41型20㎜対空機銃(エリコン20㎜対空機銃)を増設する。最後に、新たにロデニウス連合王国から導入したソナー(九三式水中聴音器と三式水中探信儀)と爆雷投射器を搭載する。以上が、工事の内容である。

 これに伴い、ラ・シキベ級は艦種を「軽巡洋艦」から「護衛駆逐艦」に変更された。まあ、ラ・シキベ級については海軍本部内でも「排水量2,000トンのラ・ハンマン級やラ・フレッツ級が『駆逐艦』なのに、排水量1,600トンぽっちのラ・シキベ級が『軽巡洋艦』なのはおかしくね?(意訳)」という意見が出ていたし、これはある意味仕方がないだろう。

 また同時に、旧式巡洋艦であるラ・ホトス級巡洋艦も、護衛駆逐艦に改造されることが決定した。こちらも、主砲を38口径12.7㎝両用砲に換装し、対空機銃の増設とソナー・爆雷の搭載を行なった上で「ラ・ホトス級護衛駆逐艦」として再就役させることが予定されている。

 

「さてリアス、一度休憩にしようじゃないか。根を詰めすぎても仕方ない。

ちょうどお前に見せたいものがあるんだ。実はな、今ロデニウスの艦隊がこのマイカルに停泊している。それも、あの堺殿率いる第13艦隊が来ているんだ。おそらく、我が国との軍事同盟に基づいて、グラ・バルカス帝国艦隊を倒すべく召喚されたんだろう。そのロデニウス艦隊を、今から見に行こうじゃないか、ということだ」

「えっ、ちょっと先輩、それ先に言ってくださいよ! もちろん見に行きますよ、これは見逃せないでしょう!」

「よし、なら行くか」

 

 2人はそそくさとドックを出ていくのだった。

 

 

 神聖ミリシアル帝国にしてもムー国にしてもロデニウス連合王国にしても、グラ・バルカス帝国に対抗するために、新たな一石を投じようとしていたのであった。また、グラ・バルカス帝国も、敵国の有益な情報を集めようと必死になっていた。

 グラ・バルカス帝国と、それに敵対する世界の国々。新たなる本格的武力衝突に向け……各国の思惑は動く。




はい、今回はミリシアルとグ帝をメインとし、若干ムーの様子を描きました。
ミリシアルは強化フラグが立ちましたね。ロデニウス連合王国から電磁レーダー・ソナー・爆雷の導入を準備していますが、果たしてマグドラ沖・バルチスタ沖の汚名を返上することはできるのか?
グラ・バルカス帝国の東部方面艦隊と情報局には、ついにロデニウス艦隊の真の姿の一端が伝わりました。まさかまさかの、敵側もグレードアトラスター級(大和型)を持っているという驚愕の事実が発覚。さあ、いったいどうするやら。
そしてムー側は船団護衛の必要性に気付いて、旧式巡洋艦を急ぎ近代化改修しようとしています。戦争に間に合うか?

ラ・シキベ級軽巡洋艦の「ラ・トウサ」「ラ・サミキ」は、どちらも拙作オリジナルのネーミングです。ネームシップである「ラ・シキベ」の「シキベ」は、日本人の苗字「岸部」をひっくり返したものとのことなので、こちらもそれに倣い、「佐藤」「岬」をひっくり返しました。


評価9をくださいましたへカート2様、ガーゴイル様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

損傷した状態でバルチスタ沖から帰還した、ムー機動部隊旗艦「ラ・エルド」。同艦の艦長テナルは、対空能力強化の必要性を痛感する。その一方、ムー空軍のパイロットたちにも、テコ入れが入ろうとしていた……
次回「戦艦『ラ・エルド』改造大作戦!」

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