鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
超☆エキサイティンッ!
コアな戦史家の方なら、このタイトルを見ただけで何が起こるか分かるまである。
5月31日13時 読者からご指摘を受けたため、文章の一部を修正しました。
中央暦1643年3月3日、ムー大陸中央部の小国ヒノマワリ王国がグラ・バルカス帝国に降伏し、ムー国内で「◯撃の巨人」アニメ第一期の放送が始まった頃。
ムー大陸周辺に展開していたグラ・バルカス帝国海軍の第3潜水艦隊は、分散して各地に展開し、各国海軍の艦や輸送船を狩っていたのだが、そこへ新たな命令が下された。それは、「ムー国南東部の商業都市マイカルに停泊するロデニウス連合王国艦隊に対し、攻撃を加えてこれを弱らせろ」というものである。
グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊司令長官カイザル・ローランド大将(バルチスタ沖大海戦の戦功により、中将から昇進した)は、マイカルに停泊するロデニウス艦隊について報告を受け取った際、その内容を
グラ・バルカス帝国はこの世界に転移してくる前、惑星ユグドと呼ばれる世界で世界一の国家として君臨していた。帝国にとっては、2番手のケイン神王国ですら自国に比べれば遥かに劣った技術しか持たぬ相手であり、楽に勝てる存在と見做されていた。そして、そういった考え方は「この世界」に転移して以降、一層強まった。
たとえ「列強国」と呼ばれる相手であろうとも、航空戦力は旧式の複葉機や
そこになんと、グレードアトラスター級戦艦を配備した艦隊が現れたのである。自国が切り札として秘密にしてきた戦艦のそっくりさんがいるなど、カイザルには驚きでしかなかった。そして彼は、ロデニウス艦隊と正面からぶつかることになる日は近いと判断し、決戦前に何とかして相手を弱らせようと考えた。
そこでカイザル大将は軍本部に掛け合い、潜水艦隊による戦力減殺を提案した。その結果、第3潜水艦隊に対し、ロデニウス艦隊に攻撃を喰らわせて弱らせるよう命令が出た。それに基づき、第3潜水艦隊の各艦は行動を開始したのである。
命令を受信した第3潜水艦隊の各艦では、乗員たちの多くが今度の作戦命令についても楽観視していた。というのは、この世界に潜水艦という兵器を持つ国は自分たち以外にないと考えられていたからである。
自ら海に潜って海面下に潜み、敵に忍び寄って魚雷を撃つ兵器である潜水艦。これを建造するには、非常に高度な技術が必要である。戦列艦を第一線の兵器にしているような国には、到底作れる代物ではない。ムー国であっても潜水艦の建造は不可能か、仮に作れたとしても性能の低い原始的なものしか作れないだろう。自国と並ぶ技術を持つと見られる神聖ミリシアル帝国には、魚雷という兵器の概念すら存在しないため、当然その魚雷を主兵装とする潜水艦があるはずはない。
それゆえ第3潜水艦隊の潜水艦乗りたちは、自分たちの絶対的優位性を信じて疑っていなかった。相手がどこの誰だろうと同じだ、自分たちは相手に気付かれぬまま忍び寄り、魚雷を撃ち込んで相手を撃沈し、相手が混乱している隙に離脱するのみである……誰もがそう思っていた。
その一方、彼らとは異なり、ロデニウス艦隊を危険視していたのがカイザルである。彼はカルトアルパス沖海戦(フォーク海峡海戦のグラ・バルカス帝国側呼称)でのロデニウス艦隊との交戦記録を読み、ロデニウス連合王国が魚雷どころか酸素推進型魚雷をも配備している可能性があると知って以来、この国について警戒していた。そして今回、ロデニウス艦隊がグレードアトラスター級戦艦を連れてきたと聞いて、警戒度を最大限まで引き上げていた。
もしかすると、彼らも潜水艦という兵器の存在を知っているかもしれない。そして、それに対抗できる対潜兵器を配備しているかもしれない……カイザルはそのように危惧していた。
ただ、彼自身が想定している「対潜兵器」とは、パッシブソナーと爆雷である。まさか自国でもまだ開発中である「アクティブソナー」を、ロデニウス連合王国が持っているとまでは考えていなかった。アクティブソナー自体も、開発するのは難しい兵器であるからである。
ともかくこうして、第3潜水艦隊の面々は、大戦果を上げる絶好のチャンスだと喜び勇んで、マイカルへと向かったのである。……そこにいるロデニウス艦隊が、どれほどの戦闘能力を持つのかも知らずに。
一方、マイカルに停泊するロデニウス艦隊……ロデニウス連合王国海軍第1・第13艦隊では、艦隊総司令官の
マイカルに停泊するロデニウス艦隊は、第1・第13艦隊を合わせると戦艦11隻、戦艦空母1隻、航空母艦16隻を基幹戦力とする総勢200隻以上の大艦隊である。これだけの大規模戦力を、マイカルに潜んでいるだろうグラ・バルカス帝国の諜報員の目から隠し通すことは、不可能だ。そこで堺は、隠すこともなくあえて堂々と艦隊の姿を見せつけていた。それこそ諜報員の目には無関心であるかのように。
さらに彼は、その先のことも考えていた。諜報員から報告を受けたグラ・バルカス帝国軍は、必ず何かしらの対抗策を採ってくるだろう。具体的には、こちらの艦隊を弱らせる作戦を。
では、グラ・バルカス帝国側はどんな戦術を採ってくるだろうか。それについて堺は、すぐに結論を出した。敵が採ってくる戦術は十中八九、潜水艦を利用した昼夜を問わない襲撃であろう、と。
バルチスタ沖大海戦に関する“
対潜戦闘におけるロデニウス艦隊のアドバンテージは、複数ある。第一に、こちらが敵の位置を探すまでもなく、敵の方からこちらに近付いてきてくれること。第二に、敵の潜水艦に関する一切のデータ……敵潜水艦の推定性能から採り得る戦術、音紋データ、果ては敵潜水艦が使う通信用の暗号までもを把握していること。第三に、こちらの対潜兵器の進歩と対潜戦術の発達具合。そして第四に、第1艦隊はともかく、第13艦隊の面々は対潜戦闘の経験が豊富にあることである。
地球から転移してきた第13艦隊は、
(さあ来い、グラ・バルカス帝国の潜水艦どもよ。教えてやるよ、本物の対潜戦闘って奴を……!)
堺は心中密かに、そのように考えていた。ロデニウス艦隊は対潜戦闘の用意を入念に行い、グラ・バルカス帝国の潜水艦隊を待ち構えていたのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
真っ先に洗礼を受けたのは、第3潜水艦隊に所属するシータス級潜水艦24番艦「バテン・カイトス」だった。この艦は元々第2潜水艦隊に所属していたのだが、本土で艤装の調整を受けている間に、同艦隊の拠点だったロホテン島の基地が壊滅してしまった。そのためこの艦は配置転換され、第3潜水艦隊所属となったのである。
潜水艦隊司令部からの命令が入った時、「バテン・カイトス」はたまたまムー国南東部の沖合にいた。この艦がちょうど、マイカルに一番近いところにいたのだ。そこで、他艦に先駆けてロデニウス艦隊に一泡吹かせてやろうと、艦長以下の面々は喜び勇んでマイカルに向かった。
なお、この艦の乗組員の中には、シータス級潜水艦に搭載された特殊攻撃機「アクルックス」の搭乗員も含まれており、その中でもアストル・ヒースコード准尉は、ロデニウス艦隊に痛烈な一撃を喰わせてやろうと心を踊らせていた。
華々しい戦果を期してマイカルに近付いた「バテン・カイトス」だったが、しかしマイカル湾の外側50㎞地点であっさりロデニウス側に見つかった。というのも、艦長が「ロデニウスなどという『第三文明圏外』と呼ばれる国が、潜水艦なんぞ知っているはずがない」と考えていたばかりに、「バテン・カイトス」は潜航してこそいたものの、かなり浅いところを航行していたのである。当然のように、対潜哨戒の経験も多いロデニウス艦隊の水上偵察機妖精は、
第1海上護衛隊司令部、そして第13艦隊司令部は、この報告に「駄目だ!」と応答しながら、直ちに迎撃の準備にかかった。え? なんで「駄目だ!」と否定しているのに迎撃の準備をしてるんだ、って? 第13艦隊においては、「敵の潜水艦を発見!」と通報があったら、「駄目だ!」と返信するのがお約束になっているのである。
今回、潜水艦への迎撃に当たることになったのは……軍艦ではなく、航空機だった。主翼下部に引き込み式フロートを装備し、車輪を搭載した水陸両用飛行艇である。
ムー派遣部隊の一員たる“
2発のレシプロエンジンが
航空機にとっては、距離50㎞は至近距離である。「カタリナ」はあっという間に、哨戒機から連絡があった海域へとたどり着いた。
上空で敵潜水艦との触接を保ち続け、こちらを見つけるや否や主翼を激しく振って機体をバンクさせる「零式水上偵察機」を見るまでもなく、「カタリナ」の搭乗員妖精たちも潜水艦の姿を海面下に見つけだしている。そして直ちに、「カタリナ」は攻撃体勢を取った。
「さーて、新型の対潜兵器の力、存分に見せてやるよバカども! これが、我が合衆国の叡智と技術の結晶だ!」
爆撃手席では、セーラー服に水兵帽を着用した金髪の妖精が息巻いている。
ちなみにであるが、「バカども」とは、主にアメリカ系の妖精さんがグラ・バルカス帝国人を指して言う時に使う表現である。「グラ・
速度を落としながら低空に舞い降り、潜水艦の影に向けて一直線に突進する「カタリナ」。敵側もこちらの存在に気付いて、急速潜航を図っていることだろう。
「
だがそんな行動、全くの無意味だ。
何故なら、今回使用する対潜兵器は……
「む、いかん!」
潜望鏡を覗いていた壮年の男性……「バテン・カイトス」の艦長は叫んだ。
潜望鏡の視界に、低空から真一文字にこちらへ突っ込んでくる航空機の姿が映ったのだ。
「敵機だ! 急速潜航!」
「はっ、急速潜航!」
号令が伝わり、「バテン・カイトス」艦内では乗員たちが艦首へと走る。シータス級もとい伊400型に限らず、地球でいう第二次世界大戦レベルの潜水艦は、急速潜航するには艦首に重量物を集め、その重みを利用する必要がある。そして大抵の場合、潜水艦の乗員たちそのものが重量物となるのだ。
艦首を下向け、潜っていく「バテン・カイトス」。その艦橋セイルの一角で、ヘッドホンを装着している男性……ソナーマンが叫ぶ。
「海面に着水音!」
どうやら敵機が爆弾を投下したようだ。
「まいったな……潜水艦を見つけて攻撃してくるとは。ムーやロデニウスを正直侮っていたが、これは評価を改めた方が良いかもしれん」
艦長がそう言ってバリバリと頭を掻いている間にも、「バテン・カイトス」は更なる深みへと潜りつつある。
「現在深度35……40……」
航海長がメーターを睨みながら報告する。
爆雷や爆弾から潜水艦が逃れる方法はただ1つ、限界まで潜ることだ。深く潜れば、それだけ逃げられる可能性が上がる。
(ん?)
と、ここで艦長はあることに気付いた。
(炸裂しない?)
そう、爆弾か爆雷を投下したにしては、炸裂音が聞こえず、艦体を揺さぶるような強烈な衝撃も襲ってこないのだ。
(どういうことだ……)
得体の知れぬ不気味さを艦長が感じた時、ソナーマンは意外な音を聴いていた。自艦の機関音に混じり、小さな連続音が聞こえてくる。
しゃしゃしゃしゃしゃ……
それは、小さなスクリューが高速で回転し、海水をかき分けて進む音。こんな音を発する兵器は、魚雷しかない。
(さっきの敵機は、魚雷を投下したのか?)
そう考えながら、ソナーマンは報告を上げた。
「魚雷航走音を探知。艦よりの方位170度〜200度、距離300メートル。敵機から投下されたものと見られる!」
「魚雷だと?」
艦長の眉間にシワが寄る。
潜航中の潜水艦に航空魚雷なんぞ撃ったところで、奇跡でもない限り当たらない。それなのに、敵はその航空魚雷をこちらに向けて撃ってきた。いったい何故?
なおも聴音を続けるうちに、ソナーマンはとんでもないことに気付いた。魚雷の航走音はだんだん近付いてくる……のだが、その航走音が聞こえる方位が全く変わらない。これはつまり……
(ぎ、魚雷は水中で向きを変え、こちらを追尾している……!?)
おぞましいことに気付いたソナーマンは、発令所に報告を上げた。
「報告! 敵の魚雷、さらに接近! なれど本艦と魚雷の方位関係に変化無し!」
「どういう意味だ、それは?」
「艦長……敵の魚雷は水中で向きを変え、こちらを追尾しています! 魚雷が、ついてきているのです!!」
「ば、馬鹿な!」
恐ろしい報告内容に、艦長は叫んだ。
「潜水艦を追尾するだと!? そんな馬鹿げた性能の兵器があって
機関全速! 何としてでも回避しろ!」
艦長が叫んだことで、他の発令所クルーたちも自分たちの置かれた状況を理解し始め、パニックに陥り始めた。「敵魚雷、さらに接近!」というソナーマンの悲鳴が、それを助長する。
次の瞬間、海中で巨大な光が弾けた。「バテン・カイトス」艦尾で正確に爆発した2発の「魚雷」の水圧により、流麗な形状をしていた「バテン・カイトス」の艦尾は紙でも丸めたような形状になり、スクリューと機関は完全に破壊し尽くされた。当然、艦内にはバラストタンクを貫いて大量の海水がどっとなだれ込んだ。艦内の乗員たちは鉄砲水さながらの勢いで押し寄せる海水に飲まれ、彼らの運命は水圧による圧死か溺死かの2択となった。
潜水艦「バテン・カイトス」は、謎の魚雷による攻撃を受け、マイカル港を目前にしてその生涯を終えようとしていた。言うまでもなく乗組員たちは全員が戦死し、ロデニウス艦隊に一泡噴かせてやろうと意気込んでいたアストルも、何の戦果も得られぬまま、マイカル沖の暗く冷たい水底へと沈んでいった。
戦闘機隊の上空援護を受けながら、海面に着水し、機体の胴体後方からマイクを海中に投げ込んで聴音を行っていた「カタリナ」の前方で、海面が白く盛り上がり、2本の巨大な水柱が弾けた。もちろん妖精は、慌ててヘッドホンのコードをソナーから引き抜いている。
水柱が崩れ去った後でコードをソナーに差し込み、聴音を再開する妖精。と、海中に垂らしたマイクが、水中爆発の音とは異なる異音を探知した。対潜戦闘に慣れている妖精は、その音の正体を直ちに掴んだ。
「艦体圧壊音を探知しました!」
さらに、水柱が消えた海面を捜索すると、油や潜水艦の艦体の一部と思しき黒い破片、救命胴衣、そして2、3の死体などが浮いている。
「よーし撃沈! 撃沈だ!」
操縦手を兼ねる機長妖精が叫ぶと、機内にいた他の妖精たちが一斉に、「Fooooo!」などと喜びの声を上げる。そのうち1人が、海面に浮かんだ死体に罵声を投げかけた。
「思い知ったかバカどもが! これが、『Mk24機雷改』の威力だ!」
そう、「カタリナ」が投下した新型の対潜兵器は、「Mk24機雷改」である。名前は「機雷」になっているが、これは兵器の正体を秘匿するためのネーミングである。
その正体は、グラ・バルカス帝国では作るどころか発想すら浮かばないような、恐ろしい兵器だった。一言で言うなら「対潜誘導魚雷」。そう、潜水艦を自動で追尾して爆発、潜水艦を撃沈するという兵器である。
この兵器の元になったのは、第二次世界大戦中にアメリカ軍が開発・使用した「Mk24機雷」(「FIDO」とも呼ばれる)である。航空機から投下される、パッシブ音響追尾を行う対潜魚雷である。この「Mk24機雷」を叩き台にして、“夕張”と“釧路”の協力の元に“明石”が作り上げたのが、「Mk24機雷改」であった。
主な改良点は以下の通りである。
1.軽量化と形状改良: 元々の「Mk24機雷」は、重量が308.4㎏あったのだが、「Mk24機雷改」はその重量を250㎏に抑え、形状も250㎏爆弾に似せた形にした。これにより、「Mk24機雷改」は「
2.動力源の強化: バッテリーは西暦2,000年代以降の代物を使用した。これは重量削減にも一役買っている。
3.高威力化: 「Mk24機雷」では炸薬としてHBX爆薬41.7㎏が使用されているが、「Mk24機雷改」ではHBX爆薬の使用量は16㎏に抑えられ、残り25.7㎏はHC-4(ハイパーコンポジション4。強力なプラスチック爆薬)が使われている。
4.誘導方式の改良: 「Mk24機雷」の誘導方式は受動型音響探知だったが、「Mk24機雷改」はそれに加えて金属反応探知方式も採用されている。つまり、「Mk24機雷改」の誘導方式は、パッシブ音響探知と金属反応探知の2種類が併用されている。
はっきり言って、凄まじい兵器である。何せ潜水艦を追尾する魚雷を作るには、音響と海中での音波の伝わり方についてのより優れた物理学的な理解と、魚雷そのものを設計・製造できる技術を併せ持つ必要があるからだ。それだけでも、「この世界」のほとんどの国には到底作れない兵器であることが即座に分かる。そんな代物をホイホイと配備できてしまうのだから、恐るべき技術力がある。
ロデニウス海軍第13艦隊の対潜戦闘術は、より凶悪に、より無慈悲に進化を遂げていたのだ。……グラ・バルカス帝国の潜水艦にとって救いのないことに。
「バテン・カイトス」がやられたのを皮切りに、マイカル港の沖合では毎日のようにグラ・バルカス帝国の潜水艦が撃沈されていった。それは「カタリナ」や「瑞雲」が投下した対潜誘導魚雷や、第13艦隊隷下の第1海上護衛隊の艦娘たち、その他第13艦隊から対潜戦闘の手ほどきを受けたロデニウス海軍第1艦隊、及びムー統括海軍の艦艇によってなされたものであった。
また、ロデニウス艦隊の手によって、マイカル港の入り口には「防潜網」と呼ばれる金網が仕掛けられ、グラ・バルカス帝国潜水艦の港内への侵入を阻んだ。こうして、水際で敵の潜水艦を阻止する作戦が行われたのである。
第13艦隊司令部では、この作戦は「
4月中旬のある日のマイカル港沖では、突入のタイミングを示し合わせて3隻のグラ・バルカス帝国の潜水艦が突入を図った。が、無線通信の短波をロデニウス側に聞きつけられ、たちまちのうちに航空機が殺到。瞬く間に2隻が炙り出され、対潜誘導魚雷で仕留められた。
「くそっ、『ルイテン』も『トーキュラー』もやられたか……」
深度90メートルの暗闇の中にほうほうの体で逃げ込み、機関を停止して懸吊状態になったハイドラ級潜水艦「レーヴァティ」。その発令所で、艦長を務めるまだ年若い男性の中佐は苦々しげに呟いた。
こちらがマイカルの南東沖70㎞まで接近した途端、いったいどうやってこちらの位置を突き止めたのか、彼らはあっという間に航空機を繰り出してきたのだ。本当なら潜望鏡で周囲を索敵しながらマイカルに近付くはずだった「レーヴァティ」も、これには堪らず深深度潜航を余儀なくされた。大急ぎで深みに潜った「レーヴァティ」は、間一髪虎口を脱したが、他の2隻は逃走が間に合わず、仕留められてしまったようだ。ソナーマンは、艦体破壊音を2つ探知した、と報告している。
ハイドラ級潜水艦は、シータス級と並ぶグラ・バルカス帝国の主力潜水艦だ。姿形と性能は、旧日本海軍の「巡潜乙型」に酷似している。シータス級より性能は控えめだが、騒音はシータス級より少しだけマシである。その「ほんの少しの静かさ」により、「レーヴァティ」はギリギリで追手を振り切ったのだ。姉妹艦の「トーキュラー」は避難が遅れ、やられてしまっている。そしてシータス級の「ルイテン」は、雑な騒音対策が仇となって仕留められてしまっていた。
「どうします、艦長」
同じく年若い副長が尋ねてくる。
まだ上では、航空機が飛び回っていることだろう。帝国の誇る潜水艦を2隻も、瞬く間に仕留めた連中だ。飛行機からマイクを水中に下ろして聴音するくらいのことはしているに違いない。
「作戦は続行する。目標マイカル、深度このまま。前進2ノット!」
「はっ」
悔しいが、今はなるべく音を立てずに進み、マイカルに近付くしかない。艦長はそう判断した。
機関が唸り始め、「レーヴァティ」は静かにマイカルへと進み始める。その頃、「レーヴァティ」の頭上では、
「こちらシーウルフ1、敵潜水艦2隻を撃沈。なれどまだ敵潜水艦がいる可能性あり。誘導魚雷を使い果たしたため、これより帰投する」
『コントロールよりシーウルフ1へ、了解。後は第1海上護衛隊が引き継ぎます、艦隊へ帰投してください』
第六三四航空隊の「瑞雲」が、敵潜2隻撃沈の戦果を挙げて悠々と帰投しつつあった。その側には、第九三一航空隊の「
第九三一航空隊は、第1海上護衛隊にも一目置かれている潜水艦狩りのトップエース航空隊だ。運用している機材は「九七式艦上攻撃機」に「天山」、「カ号観測機」、「三式指揮連絡機」とやや旧式だが、潜水艦の撃沈数ならどこの航空隊にも負けない。第六三四航空隊は、その彼らに潜水艦狩りの実習を受けていたのである。
第六三四航空隊からの通報を受けた第1海上護衛隊は、直ちに駆逐艦「
「通報があった時刻から今までの時間経過、そして敵潜水艦の予想針路と速度から考えると……この辺か……」
どこか
彼女は史実において、日本本土近海で敵の潜水艦に雷撃され、誰からも救援を受けられぬままひとりぼっちで沈んだ、とされている。あんな寂しい思いは、誰にもさせたくない。もう誰もあんな目に遭うことが、あってはいけない……その決意を胸に秘め、彼女は絶対に敵潜水艦を仕留めようと心に決めていた。
「……来た」
ソナー妖精が海中の微かな音を敏感に聞き取り、報告を上げる。
「リベちゃん、見つけたよ。位置は……」
情報は直ちに、2隻の駆逐艦で共有される。
『よし。多分向こうもこちらの接近には気付いてるよね。
爆雷、ヘッジホッグ用意! リベ艦隊、戦闘態勢に移行です! 準備準備ー!』
旗艦担当の“Libeccio”から命令が飛ぶ。
『それじゃ、私が音波出すね。照準合わせて一気に倒すよ!』
「任せて……」
一方、潜水艦「レーヴァティ」の発令所にも報告が上がっていた。
「推進機音、前方から接近。敵は2隻と推定」
「流石に警戒が厳しいな」
艦長は呟く。どうやら敵は航空攻撃だけに飽き足らず、水上艦艇まで繰り出してきたようだ。
現在の「レーヴァティ」の潜航深度は、60メートル。「レーヴァティ」はこの深度を保ったままマイカルに侵入するつもりだった。だが、どうやら現実は甘くないようだ。
「機関停止、無音。動きを止め、やり過ごす」
「了解」
ここまで2ノットという遅い速度でゆっくり進んできた「レーヴァティ」は、機関を止めた。スクリューの回転が止まり、艦全体が静かになる。
が、その「2ノットの機関の回転音」を「山風」に捉えられているとは、彼らは露ほども考えていなかった。つまり、既に「レーヴァティ」は見つかっているのである。
「さあ、これでやり過ごせるか……?」
艦長が呟く横で、ソナーマンが新たな報告を上げる。
「敵艦、本艦よりの方位60度から80度、推定距離300」
敵艦がだいぶ近付いてきた。潜水艦乗りにとっては緊張を強いられる時だ。
その時、不意にソナーマンが血相を変え、静かな声で必死に報告する。
「て、敵艦、探信音を放っています!」
「探信音だと!? バカな、敵はアクティブソナーを既に実用化しているというのか!?」
驚きながらも、艦長はソナーマンからヘッドホンを受け取り、耳に当ててみた。すると確かに、ピコーン! という独特の甲高い音が聞こえてくる。
「クソ、まさかこんなものまであるとは……奴ら、明らかに潜水艦との戦闘に慣れている。もしや、ロデニウス艦隊も潜水艦を持っているのか?」
艦長が呟く間に、探信音は艦内にも普通に響くようになってきている。誰も彼もが表情をこわばらせていた。
(まずいな……)
艦内の空気が張り詰めるのを感じながら、艦長は考えていた。
グラ・バルカス帝国の潜水艦乗りたちは当然ながら、敵艦が対潜戦闘行動を取ってきた場合に対応する訓練を受けている。それは、とにかく音を立てず、静かにして敵艦をやり過ごす、というものだ。このため、潜水艦乗りたちには神経の太い者が多い。
しかし、アクティブソナーの探信音は、そんな彼らの心を大きく揺るがしかねないほどに怖い。爆雷の炸裂音よりも、こっちの方が怖いのではないかとすら思えるほどだ。まるで死神の大鎌が、こちらの心臓をつつき回しているように感じられる。
これほどの恐怖、果たして耐えられるか……
「う……う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」
残念ながら、配備されたばかりの新兵の1人が恐怖に耐えきれず、発狂して叫び声を上げてしまった。彼の周囲にいた他の乗員たちが、慌てて彼の口を手で塞ぐ。
しかし一瞬遅く、血の滲むような修練と幾多の実戦経験を積み重ねた末に高い練度を持つに至った2人の駆逐艦娘に、この叫び声を聞きつけられてしまった。
『敵艦発見! アクティブソナーでの観測通りの場所だよ!
攻撃開始!』
「行きます……!」
即座に“Libeccio”と“山風”は、引き金を引いた。
放たれたのは爆雷……ではなく、ドイツの手榴弾を思わせる細長い物体。そう、対潜迫撃砲「ヘッジホッグ」である。2隻合わせて48発もの弾頭は、狙った位置へと正確に叩き込まれた。
「海面に着水音!」
再び潜水艦「レーヴァティ」の発令所、顔面蒼白のソナーマンが報告する。
「爆雷か! 来るぞ!」
艦長が静かに叫び、全員が対ショック体勢を取る。
だが、実際に降り注いだ「ヘッジホッグ」は、爆雷よりも遥かに凶悪だった。
ドドドドドドドーン……!
海中に鈍い爆発音が連続して響く。
2人の駆逐艦娘が発射した「ヘッジホッグ」は、見事に潜水艦「レーヴァティ」に命中。「レーヴァティ」の艦体を包み込むようにして落下してきた計48発もの弾頭は、連鎖的に起爆し、「レーヴァティ」の艦体をめちゃくちゃに破壊した。弾頭の爆発により生じた強烈な水圧は、「レーヴァティ」のバラストタンクすら貫き、海水は洪水となって艦内になだれ込む。
己と部下たちの運命を悟った艦長は、押し寄せる濁流に飲み込まれる寸前に気付いた。敵は、爆雷を前方に投射してきてはいなかったか、と。
だが、それを考察する時間は彼には残されていなかった。
敵の潜水艦を撃沈するために第13艦隊が取った手は、これだけに留まらない。第1艦隊やムー統括海軍にもしっかり対潜戦闘の実戦経験を積ませたし、地球上で研究されたあらゆる対潜戦術を試しまくり、潜水艦を片っ端から血祭りにあげた。また、時にはわざと大型の正規空母や戦艦(それも“
こうして、3月初旬のマイカル攻撃発令からわずか3週間ほどの間に、グラ・バルカス帝国海軍第3潜水艦隊に所属する潜水艦は30隻以上が消息不明となった。いずれも、ロデニウス艦隊の反撃に遭い、沈められてしまったものと思われた。
あまりの被害の大きさに驚いた第3潜水艦隊司令部は、慌てて作戦方針を変更。夜間にマイカルに接近するよう、残存する潜水艦に指示を出した。
潜水艦の天敵は航空機だが、夜間なら飛べまい……そう判断したのである。
ところが残念なことに、ロデニウス艦隊にグラ・バルカス帝国の常識は通用しなかった。
彼らは第九三一航空隊の所属機に機上電探を搭載し、「カタリナ」や「二式大艇」にも電探を山積みして夜間に飛ばし、昼夜を問わず航空対潜哨戒を実施していたのだ。また、「一式陸上攻撃機」に即席の改造を施し、爆弾槽と爆撃手席、及び機首機銃を廃した代わりにバッテリーとサーチライトを搭載させ、イギリスの「ウェリントン爆撃機」のように夜間対潜哨戒機を作り出してもいた。
それらの存在を予想できなかった第3潜水艦隊は、
「まさか、これほどとは……」
第3潜水艦隊の現状について、幕僚から報告書を受け取ったカイザルは、それだけ言うのがやっとだった。バルチスタ沖大海戦の戦功を讃えて、新たに帝王グラ・ルークスから東部方面艦隊旗艦として下賜された、グレードアトラスター級戦艦2番艦「ブラックホール」。その長官公室から幕僚を退出させた後、カイザルは机に向かって報告書とにらめっこしながら、1人考え込んだ。
やはりロデニウス艦隊は、対潜戦闘術を知っていた。それも、自国より進んだ対潜戦闘術を。
マイカル攻撃に向かい、仲間をことごとく撃沈されて、命からがら逃げ帰ってきた潜水艦からの報告では、「敵はアクティブソナーを実用化しており、信じがたいほど正確な爆雷攻撃を行ってくる。また、航空機も積極的に対潜行動を取ってくるため、潜望鏡深度に浮上することすら命の危険を伴う」となっている。
(ロデニウス海軍第13艦隊……まさか、我が方の駆逐艦隊よりも優れた技術と戦術を持ち合わせるとは。これは、絶対に侮れない強敵だ……!
潜水艦によってロデニウス艦隊を弱らせようと思ったが、逆にこちらが追い詰められている……。第3潜水艦隊の新司令には、無理にロデニウス艦隊に攻撃を仕掛けることはしないよう、軍本部に要望書を出しておこう……)
この1ヶ月程度の間に、カイザルはロデニウス艦隊に関する情報を、帝国情報局からいくつか得ていた。それらによると、現在マイカルに停泊しているロデニウス海軍の艦隊は、「第13艦隊」と呼称されているらしい。ロデニウス連合王国本土では、まだ5つしか艦隊が見つかっていないのに、何故13なんてナンバーが急に出現したのかは不明だそうだ。まだスパイが見つけていないだけなのか、それともただの
そして、ロデニウス海軍第13艦隊の司令官は、サカイ シュウイチという名らしい。これは、中央暦1642年6月にマイハークで行われた「先進11ヶ国会議」の内容をスパイが盗聴した結果、判明した情報だ。
そしてこの第13艦隊の戦力は、2月にマイカルで発見された時よりも増強されている。現時点でマイカルにいる戦力は、戦艦12隻、航空母艦16隻、超大型工作艦1隻を中心とする総勢200隻規模の大艦隊だ。
(いつか近いうちに、ロデニウス艦隊と我が艦隊は対峙することになるだろう。その時、果たして我が東部方面艦隊は勝てるだろうか?
バルチスタ沖海戦で受けた損害からは、少し立ち直ってきたが……まだ数が足りていないし、中身も伴っていない。少しでも増援の艦艇を増やし、練度を上げておかなければ……)
東部方面艦隊は3ヶ月ほど前の「バルチスタ沖大海戦」で大きな被害(主に神聖ミリシアル帝国の空中戦艦によるもの)を受けて以降、その立て直しを図っている。だが、まだ数も不完全であるし、立て直しで参加してきた艦艇は練度に不安がある。それを是正しなければならなかった。それも、近い将来ロデニウス艦隊と戦うだろうことを考えれば、なるべく早期に対応するしかない。
(我々は何としても、勝ち続けなければならない……。帝王グラ・ルークス様が構想しておられる世界制覇を、万難を排して果たすために……!)
一方、マイカル港では、
「ふむ、2ヶ月で約50隻の敵潜水艦を撃沈か。1日に1隻程度というペースだな。こんだけ沈めれば、奴らの潜水艦隊もしばらくは動けまいて」
戦艦「
グラ・バルカス帝国の物量は恐ろしく、それこそ第二次世界大戦時のアメリカ合衆国並みにある。そのことは彼も重々承知している。しかしいくら何でも、1日に1隻の潜水艦を沈められては堪ったものではないはずだ。潜水艦の建造と乗員の錬成、そして艦の習熟にかかる合計時間よりも、撃沈ペースの方が圧倒的に早いのだから。どう考えても、こんな状態が続けば早々に帝国側の潜水艦戦力が
「これで奴らも、潜水艦による襲撃は諦めるはずだ。これだけの被害、到底無視できるものじゃないからな。そうなると、次に敵が取り得る手は……豊富にある駆逐艦や巡洋艦を駆使して、高速艦隊による夜襲を仕掛けるか、もしくは高速の空母機動部隊を使って電撃的な奇襲をかけてくるか、というあたりかな」
堺はそう呟きながら、今後の戦況に思いを馳せる。
(現在、我が軍の総司令部はムー国を中心とする第二文明圏各国の連中と協議して、グラ・バルカス帝国の勢力を第二文明圏から叩き出す作戦を練っている。だが、それを実行する前に俺の艦隊が真っ先に動かされることになるだろう。何故なら、レイフォルと敵の本土を繋ぐ航路を……言い換えれば敵の補給線を、断ち切らなければならないからだ。だが当然、敵は艦隊を動員してこちらを防ぎ止めようとしてくるだろう。
では、その敵艦隊とどうやって戦うべきか……)
今後の戦況を見据え、彼は第13艦隊をどうやって動かすかを改めて思案していた。……ただ、考えている時の彼の格好は、椅子を思い切り後ろに倒し、机に両足を投げ出しているという、およそ軍人が取るべき態度とはとても思えないものだ。むしろ仕事をサボって寝ているとんでもない軍人にしか見えないのが、玉に
はい、というわけでグラ・バルカス帝国の潜水艦が片っ端から血祭りにあげられ、1個潜水艦隊が全滅するという結果に。1日1隻とかいうペースで潜水艦を沈められたら、たとえ天下のアメリカ様であっても悲鳴上げるでしょう。艦の補充はともかく、乗員補充と慣熟訓練が全く追いつきませんし。
そして潜水艦が出た時のお約束ネタの1つが出ました。「敵の潜水艦を発見!」→「駄目だ!」です。
グラ・バルカス帝国との戦いはまだ始まったばかり。堺や艦娘たち、妖精たちがどう動くか、カイザル率いる東部方面艦隊との激突の行方がどうなるかは、今後をお楽しみに!
UA75万突破……拙作をお読みいただきまして、誠にありがとうございます! 今後ともよろしくお願い申し上げます!
評価8をくださいましたまーちゃん様
評価9をくださいました旭陽型航空駆逐艦 白群様
評価10をくださいました第一連合艦隊様
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次回予告。
ロデニウス連合王国海軍・第13艦隊との対決に備えんとする、カイザル大将率いるグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊。そんな中、ムー大陸の陸上でも、グラ・バルカス帝国との戦争に備えた動きが大きくなっていた……
次回「煙上げるは戦火の火種」