鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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久しぶりの投稿になります。

毎日死にそうな目に遭ってはおりますが……まあ、何とか乗り切れるようには頑張ります。

令和3年6月28日 読者の方からのご指摘により、一部箇所を修正しました。
令和4年5月24日 読者の方からのご指摘により、一部箇所を修正しました。



139. 煙上げるは戦火の火種

 中央暦1643年4月1日、グラ・バルカス帝国帝都ラグナ 高級料亭「ミルトコウモ」。

 グラ・バルカス帝国は科学技術文明で成り立っており、その帝都ラグナには多数の工場が立ち並び、自動車やトラック、機関車などがひっきりなしに走っている。ただ、環境汚染に対する理解が乏しく、その結果として土壌汚染や大気汚染がかなり深刻なものになっている。

 それらの汚染が比較的少ない、帝都の郊外に建てられた高級料亭、それが「ミルトコウモ」である。帝国政府要人や皇族御用達の店となっているこの料亭で、2人の男が話をしていた。

 

「……というわけで、海軍東部方面艦隊が兵力の増強を求めてきたのだ。そしてその請求書に、こんなことが書かれていてな」

 

 テーブルに並べられた数々の料理を前にして、グラ・バルカス帝国帝王府副長官のオルダイカが、1通の文書を出す。それを受け取ったのは、オルダイカの対面に座る男。グラ・バルカス帝国でも有数の軍需企業「カルスライン社」の役員エルチルゴだ。

 

「何何……? 敵はロデニウス連合王国海軍が主体、その戦力は戦艦・空母各10隻以上。戦艦は、グレードアトラスター級戦艦1隻を含む……!?

これは本当ですか?」

「情報局からそんな報告が上がったらしい。見た目が『グレードアトラスター』に似ていたそうだ。

だがそんなもの、ロデニウスなんて国が作れる訳無かろう。ヘルクレス級くらいは作れたようだが、グレードアトラスター級は我が国でも最高機密の戦艦だ。仮に見た目がそっくりな艦を作れたとしても、性能劣化版に過ぎぬだろう」

「仰る通りですな」

 

 記載内容を鼻で嗤うオルダイカに、卑しげな笑みを浮かべたエルチルゴが応じる。

 

「だがまあ、兵力の増強には応じることにしようと思う」

「オルダイカ様、それでは……」

「分かっておる。『アンタレス』も『リゲル』も増産だ。ついでに駆逐艦などの艦艇もな」

 

 オルダイカのその言葉を聞いて、エルチルゴは満面の笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます。バルチスタ沖大海戦の損耗補充においても、我が社はオルダイカ様のおかげを持ちまして莫大な利益を得ております。

その見返り、というわけではございませんが、こちらをお渡しいたします」

 

 懐から小さな箱のようなものを取り出し、オルダイカに渡すエルチルゴ。箱を開いたオルダイカの目に飛び込んできたのは、腕時計だった。ただし、ただの腕時計ではない。フレームを金で作り、各所に宝石を散りばめた豪勢なものだった。

 オルダイカの頬が緩む。

 

「これはこれは、素晴らしいものだ。エルチルゴ、今回は世界を相手にしての戦争になる。当然、損耗も発生するだろう」

「オルダイカ様、今後ともよろしくお願い申し上げまする」

 

 恭しく頭を下げるエルチルゴ。

 そう、彼らは癒着しているのだ。エルチルゴが所属するカルスライン社に対し、オルダイカは帝王府副長官の立場を悪用して兵器の制式採用や生産受注の橋渡し、あるいは入札予定価格のリークなどを行なっている。その見返りに、オルダイカはエルチルゴから賄賂を受け取っているのだ。

 今後、戦果が拡大するとなれば、さらに大量の兵器を作ることになる。そうなれば、カルスライン社には今以上の発注が舞い込むことになり、当然だがエルチルゴはがっぽり儲かる。そしてそのエルチルゴから賄賂として金品を受け取ることで、オルダイカも儲かる仕組みになっているのだ。

 オルダイカとエルチルゴ、両者は共に笑っていた。自分たちがますます儲かることを確信して。

 

 

 ……だが、前線に出向いたりすることのない彼らは知らない。今現在マイカルにいるグラ・バルカス帝国の敵……ロデニウス海軍第13艦隊が、どれほどの力を持っているのかということを。そして、ロデニウス海軍が保有する「グレードアトラスター級戦艦擬き」は、実は46㎝砲よりも強力な51㎝砲を装備する、いわば「スーパー・グレードアトラスター級」であるということを……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 中央暦1643年4月5日、第二文明圏列強ムー国西部キールセキ近郊 エヌビア基地。

 ここは、西から侵攻してくると見られるグラ・バルカス帝国軍に対抗するための前線基地の1つとなっている(最前線基地はドーソン基地であり、エヌビア基地はその少し後方にある)。ムー統括陸軍西部方面軍の司令部が設置されており、またこの基地に併設された飛行場にはロデニウス連合王国陸軍第12戦略航空爆撃団(「B-29改 スーパーフォートレス」及び「F-86D改 セイバードッグ」装備)が展開している。

 そのエヌビア基地にて、ムー統括陸軍が制式採用したある車輌が稼働していた。それは、無限軌道を装備した比較的車高の高い装甲戦闘車輌。全体に丸みを帯びた車体の上には、砲身の長い主砲を装備した砲塔が乗っている。まるで、ボールに小ぶりな砲塔を乗せたかのようだ。

 

「これが……」

 

 基地内のグラウンドを轟音を上げて走り回るその車輌を見て、ムー統括軍期待の若手技術士官マイラス・ルクレール中佐は感嘆の声を上げた。

 

「これが、我が軍初の戦車……『ロ式42型30トン級戦車 ラ・シマン』ですか……!」

「うむ。君たち技術部と生産工場の方々が頑張ってくれたおかげで、少数ながらどうにか配備が間に合った。後は、グラ・バルカス帝国の侵攻もしくは反攻作戦の開始前に、何とかして部隊全体の練度を高めておかなければ」

 

 マイラスに返事をしているのは、体格の良い虎系獣人族の男性。ムー統括陸軍第1打撃機甲軍の指揮官ジョージア・パックス少将だ。

 彼らが見ていたのは、ムー統括軍が初めて採用した戦車だった。名称は「ロ式42型30トン級戦車 ラ・シマン」となっているが、正体は「M4シャーマン中戦車」である。

 既に一般大衆にまで自動車が普及し、モータリゼーションが進んでいるムー国にとっては、車輌の製造自体は比較的慣れたものだ。また、「ラ・テックス戦車(性能はサン・シャモン突撃戦車程度)」と「ラ・スタグ自走砲(III号突撃砲F型)」の製造によって、無限軌道とそれを支える足回りの製造ノウハウも蓄積されている。それらを全て生かして作られたのが、「ラ・シマン戦車」だった。

 車体はM4シャーマン無印そのものであるが、主砲は48口径75㎜砲に強化されている。これは、ロデニウス陸軍の主力戦車であるIV号戦車H型の弾薬規格と合わせることで、補給を円滑にしようとした結果である。

 また、エンジンは出力900馬力の空冷星形エンジン……を元に300馬力までデチューンしたものが使われている。これは本来、戦闘機「マリン」や「アラル」に装備されていたものだ。当初は1,200馬力の出力を誇る「バミウダ」艦上戦闘機(F4F ワイルドキャットのことである)用のエンジンを調整したものにしようとしたのだが、「グラ・バルカス帝国の戦闘機に唯一正面から対抗し得る『バミウダ』のエンジンを、そんなところに持っていくな(意訳)」とムー統括空軍本部から拒否された。そのため、やむなく代用品として「マリン」用のエンジンにしたのである。

 

「しかし、なんだか脚が遅いな」

「エンジン出力が落ちていますから、仕方ありません。本当なら1,200馬力のエンジンを調整したものになるはずでしたが、空軍に止められまして。それでやむを得ず、900馬力のエンジンを調整したものを使っているんです」

「なるほど、それが原因か。まあ、今は奴らの戦闘機に対抗できる機体は貴重だからな。無理もない」

 

 ジョージアもそれで納得したらしく、2人は再び「ラ・シマン」に目を向けた。ちょうど走行テストが終わったらしく、「ラ・シマン」は標的に向けて砲塔を旋回させている。砲撃テストを行おうとしているようだ。

 

「そういえば、この戦車とロデニウスの戦車が戦ったら、どうなるんだ?」

 

 不意にジョージアが質問を投げる。

 

「正直に申し上げますと、『ラ・シマン』でも勝てません」

 

 マイラスはばっさりと言い切った。

 

「なんと……そんなに強力なのか? ロデニウスの戦車は」

「はい。数的主力の片割れである『IV号戦車』が相手なら、『ラ・シマン』は性能的には互角かやや優勢です。後は乗員の練度と作戦次第でしょう。

しかし、もう片割れの主力である『V号戦車 パンター』が相手となりますと、劣勢です。『パンター』の主砲は70口径75㎜砲であり、約2㎞先からでも『ラ・シマン』の前面80㎜の装甲を撃ち抜いてきます。それに対して『ラ・シマン』の主砲では、『パンター』の前面装甲を貫徹するのは困難です。『パンター』の前面装甲は傾斜が強く、単純計算では厚さは80㎜ですが、事実上120㎜相当の装甲を持ちます」

「うーむ……」

 

 「ラ・シマン」の砲声が響く中でマイラスが説明すると、ジョージアは腕を組んで唸った。そして呟くように言う。

 

「バケモノはもう1種類いたという訳か。その『パンター』とやらいう戦車と、あそこにいる『(ティーグレ)』……」

「はい。彼らはあれを『ティーガー』と呼んでいますが、あの戦車もパンターと並ぶ怪物です」

 

 2人の視線の先には、砲撃テストを行っている「ラ・シマン戦車」の向こう側で、5輌以上の戦車が一列に並んで格納庫に収納されていた。ロデニウス陸軍第1軍団に配備された「VI号戦車E型 ティーガーI」だ。M4シャーマン中戦車ではほとんど(かな)いっこない、強力な戦車である。

 

「あれの性能は、君のレポートで読んだよ。装甲厚は車体前面100㎜、車体側面・後面でも80㎜。そして主砲は56口径88㎜砲。まさに怪物だ」

「はい。あの『ティーガー』の主砲は、2㎞先からでも84㎜の装甲を貫徹できます。さらに、非常に精度の高い照準器も付いています。正面から戦う限り、『ラ・シマン』に勝ち目はありません」

 

 「()()()()()()()マイラス・レポート」(これは、中央暦1640年9月に提出された、戦艦「大和(やまと)」乗艦レポートのことを言う)が提出された日……ムー統括陸軍に衝撃が走ったあの日のことは、ジョージアもよく覚えている。当時ラ・テックス戦車を装備する首都防衛隊戦車隊を率いていた彼は、「ティーガーI」のあまりに凄まじい性能を前に驚嘆したものだ。「ラ・テックス」の主砲はおろか、開発中の37㎜対戦車砲ですら全く通用しない重装甲、そして「ラ・テックス」を一撃で返り討ちにする88㎜砲の威力は、まさに「無敵」という言葉でしか表現できないと思えたほどである。

 

「『ラ・シマン』よりもさらに強力な戦車があるとはな。彼らは……ロデニウス軍はいったいなぜ、これほどの戦車を必要としたのだろう?」

「はっきりとは分かりませんが……彼らは別の星から転移してきた者たちです。おそらく、転移前の世界ではティーガーやパンターほどの戦車を必要とする敵がいたのでしょう」

「……恐ろしいものだな」

 

 わずかに顔を青ざめさせ、ジョージアはコメントした。

 

 ちなみに、ティーガーIやパンターG型を装備していたドイツ軍が対峙した相手は、グラ・バルカス帝国陸軍を鼻で嗤うような怪物戦車を持つだけでなく、それをこれでもかという物量で繰り出してくる敵ばかりだった。当時のドイツの敵といえば、もっぱらアメリカ、イギリス、ソ連である。

 アメリカ軍はM4シャーマンの他に「M18ヘルキャット」「M26パーシング」「M36ジャクソン」「T95戦車駆逐車」などの怪物を次々と繰り出すし、M4シャーマンに至っては4万輌などという桁違いの物量を誇っている。イギリスは、数こそ決して多くないものの、「コメット」「センチュリオン」「トータス」「シャーマン・ファイアフライ」などといった、ティーガーIの車体前面すら貫徹可能な砲を持つ戦車を揃えている。そしてソ連に至っては、5万輌ものT-34を筆頭に、T-44、KV-2、IS-2、IS-3などのトンデモ戦車を、底なしの物量で繰り出してきたのだ。まさに規格外である。

 

「それと、私が気にしている兵器は、戦車以外にもう2つあります。『(はく)(げき)(ほう)』と呼ばれる大砲の一種と、ロケット弾です」

「何だそれは?」

 

 ジョージアが首を傾げる。

 

「迫撃砲からご説明します。迫撃砲の特徴は、普通の野戦砲と違ってほぼ垂直に砲弾を撃ち上げることです。地面に対して高い仰角をつけて撃ち上げられた砲弾は、放物線を描いて目標上空から落下、炸裂します。これにより、相手が遮蔽物の陰や塹壕の中に潜んでいたとしても、打撃を与えることができる大砲です。また、この砲は台座を地面に固定するものであり、発射の反動を地面で受け止めるように作られていますから、駐退機のような複雑な機構を必要としないことも特徴です。つまり、少ない工程と少ない部品、それに安いコストで量産できるのです」

「それは便利だな。ロデニウス軍も、その迫撃砲を使っているのか?」

「はい、聞いたところによれば、歩兵の近接支援にあたる砲兵隊はこれをよく装備している、とのことです。また、海軍の小型艦も潜水艦の相手をするために本兵器を装備しているそうです」

「低コストで強力な兵器を製造できるのは素晴らしい。数を揃えられなければ意味がないからな」

 

 これは、戦車や自走砲を調達するための財源確保に苦労しているジョージアならではの感想だろう。

 

「ロケット弾は、面制圧に適した兵器だと聞いています。私も何度か、ロデニウス軍のロケット砲兵器を目にしました。砲自体の構造が簡易なので、量産しやすいと思います。また、その制圧範囲は広く、近接砲撃支援兵器としては非常に理想的です」

「それも採用したいものだな」

「はい。ただ、大口径のロケット弾は製造に若干時間がかかる、と聞きました。小型のものなら、製造コストも低く短い時間で作れるそうですので、まずは口径40〜60㎜程度の小さなロケット弾を開発し、配備したいと思っています」

「ロデニウスのあれは、相当にでかい代物なのか?」

「はい、口径30㎝だそうです。しかし我々にはそんな大きなロケット弾を新規開発している暇は、残念ながらありません。それよりは、小さくても良いからとにかく数を増やしたいと思います。ロデニウスが元いた世界には、16連装ロケット砲なんてものもあったそうですので」

「なるほどな……」

 

 マイラスの説明に、腕組みをしていたジョージアは頷いた。

 

「グラ・バルカス帝国との戦争が既に始まってしまっている今、少しでも強力な新兵器が欲しいのは、どこの軍でも変わらない。マイラス君、君たち技術部の面々にかかる期待は大きいぞ。しっかり努めてくれ」

「はっ!」

 

 ジョージアに敬礼しながら、マイラスは考えていた。

 

(今はグラ・バルカス帝国やロデニウス連合王国の軍に遅れを取っているが、我がムー統括軍はもっともっと強くなれる。ゆくゆくは彼らに追いつき、追い越さなければ……! そして、俺やリアス、ラッサンのような若い世代が、それを担わなければならんのだ……!)

 

 

 そして、マイラスとジョージアの話題に上がっていたティーガーIは今、別の場所で猛威を振るっていた。ムー統括陸軍を相手に。

 

「撃てぇぇぇ!」

 

 マイカル近郊に築かれた陸軍基地、そこで大規模な合同演習が行われていた。

 号令一下、ムー統括軍が誇る22型105㎜イレール砲が火を噴く。発射された演習砲弾のうち何発かは、見事に目標としたティーガーIを捉え、しかしティーガーIの前面装甲に弾かれて、明後日の方向に飛んでいった。

 さらに、「ラ・スタグ自走砲」が自慢の48口径75㎜砲を撃つも、これまたティーガーIの前面装甲を貫徹できない。

 

「くそっ! なんて硬さだ!」

「攻撃が全く通じねぇ!」

 

 ムー国北部の守護を担当する統括陸軍第1軍の兵士たちや、マイカル防衛隊の兵士たちが、ティーガー戦車の硬さに悲鳴を上げる。

 

「愚痴言ってる暇あったら弾込めろ!」

 

 指揮官が声を荒げて兵士たちを叱咤激励する。その一方、ロデニウス軍はというと、

 

「対砲レーダー探知! 発射点は前方1時方向、距離1,200の丘の斜面です! 105㎜級砲弾8、続いて75㎜級砲弾2!」

「各砲、射撃用意! 弾着17秒前、16、15、14……」

「全車一斉砲撃用意! 弾種榴弾!」

 

 戦場の後方に位置する砲兵隊、そして自走砲部隊が動いた。

 第13砲兵師団が装備する九六式150㎜榴弾砲20門が、一斉に砲撃を放つ。そして第13装甲師団隷下の「IV号突撃戦車 ブルムベア改」30輌が、車体を旋回させて砲撃準備に入る。

 第13砲兵師団は、配備している砲自体は古いものの、他国にはない装備である対砲レーダーの配備によって強力な「ToT射撃」を可能としていた。ToTというのは「Time on Target」の略称で、同時着弾射撃術のことである。異なる場所に配備した砲を異なるタイミングで放ち、同一目標に同時に命中させることで、敵の戦闘能力を確実に奪える戦術だ。これは対砲レーダーという恵まれた装備、そして妖精たちの練度があって初めて成り立つ戦術である。

 

「だんちゃーく、今!」

 

 叫びと共に、ムーの砲兵隊が展開している丘の上に多数の桃色の煙が立つ。双眼鏡でそれを観察していた観測兵が叫んだ。

 

「初弾命中!」

「同一諸元にて効力射に移行! 次弾装填急げ!」

 

 報告を受けるや、指揮官妖精が指示を飛ばす。連続砲撃で一気に敵の砲兵隊を叩き潰すつもりである。

 陸戦においては、砲兵による砲撃が勝敗を決すると言っても過言ではない。砲兵隊の役割は、ざっくり言ってしまえば「敵の砲兵隊を叩き潰し、前線に立つ味方の戦車や歩兵隊の動きを円滑ならしめると共に、敵前線部隊の動きを制限し、味方が有利に行動できるようにすること」である。

 いくら歩兵砲や山砲のような古い砲でも、生身の歩兵にとっては凶悪な兵器だ。一発でも砲撃されれば、歩兵など簡単に消し飛んでしまう。味方歩兵の被害を防ぐ方法は、一刻も早く敵の野戦砲を見つけ出して叩く以外にない。

 その意味においては、第13軍団が配備する対砲レーダーや対人レーダーは有効な兵器と言えた。特に対人レーダーは、人が密集していれば反応を捉えやすくなるため、3人以上が密集することの多い大砲の存在を探知するには、もってこいの装備だ。それを有効に活用し、彼らはムー統括軍との合同演習を優位に進めているのだ。

 

ズドドドドオオオオォォン!!!

 

 自走砲「ブルムベア改」が一斉に150㎜榴弾砲を放つ。一拍遅れて、砲兵隊の150㎜榴弾砲も火を噴いた。その直後、

 

バシュバシュバシュ!

 

 砲兵隊の近くに展開していたハノマーク装甲車が、車体側面に外付けしていた「WG42」の30㎝ロケット弾(もちろん演習弾)を発射する。

 15㎝六連装ロケット砲「ネーベルヴェルファー」を原型とする「WG42」は、連射能力こそ低いものの高い面制圧能力がウリの兵器だ。歩兵や野戦砲を始末するにはもってこいの兵器と言える。

 それらの演習弾は次々とムー統括陸軍の防御陣地に着弾し、桃色のインクを大量に撒き散らす。インクを頭から被ったムー陸軍の兵士が何人も戦死判定を取られ、桃色に染められたイレール105㎜榴弾砲が沈黙を余儀なくされる。

 砲兵隊の援護の下、ロデニウス第13軍団・第13装甲師団と第888重戦車小隊の戦車部隊が土煙を上げて進撃していた。第13歩兵師団の歩兵妖精たちがこれに続く。

 戦車部隊の先頭を固めているのは、第888重戦車小隊の「ティーガーI」10輌だ。”ミハエル・ヴィットマン”を指揮官に据え、”クルト・クニスペル”などを擁する、平たい言い方をすれば「TS組」で固めた部隊である。もちろん全員がティーガー乗りであったため、その実力はとんでもないものになっている。

 V字型の陣形を組んで進むティーガーIの後方には、第13装甲師団の主力をなすIV号戦車H型やパンターG型改が、楔形の陣形を組んで前進してくる。ドイツで編み出された「パンツァー・カイル」と呼ばれる陣形だ。戦車そのものの性能も相俟って、非常に高い突破力を持つ陣形である。

 生き残ったムー陸軍の砲兵隊が必死に反撃するが、105㎜榴弾はティーガーIの分厚い装甲に弾かれる。塹壕に潜んでいた歩兵が、26型ガエタン70㎜歩兵砲を使って迎撃するが、これも全く効果がない。

 逆に、ティーガーIの88㎜砲は一撃でムー陸軍の抵抗を打ち砕く。砲兵隊も、ムー陸軍の新兵器「ラ・スタグ自走砲」も、歯が立たない。

 「マイラス・レポート」で分析された通りの性能を発揮し、次々とムー陸軍の抵抗を蹴散らしていくティーガーI。その時、第888重戦車小隊の左翼を指揮していた”クルト・クニスペル”の本能が、いきなり危険信号を発した。

 

「左に敵だ! 昼飯!」

 

 とっさに妖精クニスペルが叫び、ティーガーIはその場で急停止して車体を左に旋回させる。次の瞬間、特徴的な砲声が轟いたかと思うと、ティーガーIの左側面に衝撃が走り、鈍い衝突音が響いて火花が飛び散った。

 妖精クニスペルが叫んだ「昼飯」というのは、戦車の防御姿勢の1つだ。車体を左に40度程度旋回させ、装甲板に傾斜をつけることで、敵の砲撃を弾く防御姿勢である。史実第二次世界大戦の地球でも使われていた戦術だ。

 

「左の茂みに野戦砲! この発射音はアハトアハトだ!

反撃しろ!」

 

 初撃を凌いだティーガーIが、直ちに反撃にかかる。

 轟音と共に88㎜砲が火を噴き、茂みにインクを撒き散らした。すると、茂みの中からインクまみれになった歩兵が数人、両手を挙げて出てくる。

 ムー統括陸軍が巧妙に隠していた、ロ式41型ヒッカーズ88㎜高射砲……88㎜Flak36野戦高射砲(アハトアハト)だ。敗色濃厚となったムー陸軍は、対航空機用に用意していたであろうアハトアハトを、最後の切り札として出してきたのだ。

 

「危ういところだ、あの砲ならティーガーの側面も抜ける。

この演習の勝ちは決まってるが、お前たち、最後まで油断せずにかかれ! 追い詰められたネズミは、ネコを噛んででも生存を図るからな!」

 

 妖精クニスペルの言葉と共に、再度前進する第888重戦車小隊。それに続いて前進する第13軍団は、まるで鋼鉄とカーキ色の軍服の津波のように、ムー統括陸軍の抵抗を飲み込んでいった。

 

 かくて、演習はロデニウス軍の大勝利に終わった。

 ムー統括陸軍の面々は、模擬戦においてロデニウス軍に歯が立たず、あまりに一方的に蹴散らされたことに愕然とした。そしてこれは、そう遠くない未来のグラ・バルカス帝国との戦いで降りかかる運命かもしれないと感じ、「正しく」恐れ、そしてその恐れをバネに変えて、練度向上に努めようと決めたのであった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、ムー大陸南部 準列強マギカライヒ共同体 首都エーベスト郊外 マギカライヒ陸上隊首都防衛部基地。

 陸上隊というのは、他国でいうところの陸軍に当たる存在である。そして首都防衛部という組織は、文字通り首都エーベストの防衛を担う部隊である。最近では中央法王国海軍のファルタス・ラ・バーン提督やロデニウス連合王国陸軍と連携し、古の魔法帝国が生み出した怪物を捕獲したことで名を上げている。

 その陸上隊は今、軍事演習を行っていた。しかし。

 

『こちら第2砲兵大隊! 敵陸上兵器を1つ撃破。なれど、敵部隊の攻撃熾烈、既に部隊は壊滅しました!』

『第18銃歩兵大隊、通信途絶! 敵の陸上兵器には我が方の銃が通りません!』

『敵戦車部隊、さらに接近! 現在エーベストまでの距離10㎞!』

 

 首都防衛部の司令部には、悲鳴のような報告が次々と舞い込んでいる。

 

「くっ……前の怪物打倒作戦の際に、彼女たちの強さを見ていたつもりだったが、あれは一端でしかなかったか……!」

 

 首都防衛部の指揮を執っている将軍ルイジルは、圧倒的劣勢な戦況を前にして歯噛みする。

 

「だが、彼女たちの兵器はグラ・バルカス帝国が使う戦車に酷似していると聞く。つまり、もしこれが実戦なら、我々はほぼ何もできずにグラ・バルカス帝国軍に蹂躙され、首都を攻め落とされてしまうことが分かったわけだ。

ならば、せめて新兵器の威力を試してやる! そして今回負けても、次の演習で勝てるようにすれば……!」

 

 どうやって祖国を守るか、ルイジルは必死に考えていた。

 

 さてこの時、ルイジルたちマギカライヒ陸上隊首都防衛部が相手していたのは、何者だったのだろうか。

 それは、このマギカライヒ共同体ではまずお目にかからない兵器だった。全身に茶・緑・黄の三色による迷彩塗装を塗りたくり、搭載した砲塔から強力な砲撃(ただし対歩兵戦メイン)を放ち、無限軌道を以て陸上を走る兵器……戦車である。そして、それらの戦車にはいずれも「士」という字が描かれていた。

 そう、マギカライヒ陸上隊と合同演習を行っているのは、ロデニウス連合王国陸軍第13軍団・戦車第11連隊……通称「士魂部隊」である。「作戦名:怪物猎人(オペレーション・モンスターハンター)」でリョノスを捕獲して以降も、当地に留まっているのだ。理由は幾つかある。

 第一に、第二文明圏各国との合同訓練である。戦車第11連隊が装備している「九五式軽戦車ハ号」と「九七式中戦車チハ」は、グラ・バルカス帝国陸軍が使っている戦車に酷似した姿であることを、第13軍団司令部では把握していた。おそらく、性能も似たようなものだろうと見られる。ならば、この戦車第11連隊を各国陸軍との合同演習に参加させれば、各国にとっては対グラ・バルカス帝国戦のリハーサルになるのではないか。そう考えられたのだ。

 第二に、ムー大陸の地理的状況の把握である。戦車第11連隊が得意とするのは防衛戦術であり、そのため地形などの状況を把握することに長けている。それを生かし、仮にグラ・バルカス帝国軍が攻めてきた場合、侵攻開始からどの程度の時間で各国の首都に到達するか、計算しようとしたのである。

 第三に、第二の理由を受けての迎撃計画立案の支援である。侵攻ペースが分かるということはつまり、どの地域にどの程度の規模の防衛線を構築すれば、どの程度の時間を稼げるか・どの程度の敵を撃破できるか、といったことを推測できるようになる。それにより、各国の国防体制構築を急がせようとしたのだ。

 そして第四に、総反攻作戦の準備である。ムー大陸における一斉反攻作戦が企図されている現状、常に戦闘に備えておかなければならない。

 そういうわけで戦車第11連隊は今、グラ・バルカス帝国陸軍役を演じてマギカライヒ陸上隊と合同演習を行っていたのだ。

 

「前方10時、野戦砲!」

 

 連隊指揮官の乗る九七式中戦車チハ(旧砲塔型)の中で、砲手が叫んだ。

 

「行進間射撃! 榴弾装填、しっかり狙え!」

 

 報告を受けて、車長を務める女性……仲間内で”池田末男”と呼ばれる妖精が命令を出す。直径57㎜の榴弾(に相当する模擬弾)が装填されたところで、妖精池田は「停止!」と命じた。

 フルブレーキがかかり、前のめりになった九七式中戦車チハが停止したその途端、

 

「撃て!」

 

 号令と共に、57㎜砲が発射される。山なりの弾道を描いて飛んでいった模擬榴弾は、見事に目標とした野戦砲に命中した。着弾と同時に桃色のインクが辺り一面に飛び散る。直撃を受けた野戦砲は一瞬で破壊判定を取られ、周囲にいた歩兵たちも榴弾の炸裂による破片と爆風を受けて戦死判定(インクによる)を取られる。

 

『こちら4号車、新兵器を使います!

ロケット弾発射!』

 

 そこへ、新砲塔チハが1輌滑り込んでくる。その砲塔側面には、奇妙な筒のようなものが幾つも外付けされていた。

 次の瞬間、

 

バシュバシュバシュ!!

 

 独特の発射音と共に、真っ白い煙を放つ6発の弾が放物線を描いて飛ぶ。それらはマギカライヒ共同体陸上隊の陣地に着弾し、これまた大量のインクを撒き散らした。その一撃で十数人のマギカライヒ兵が戦死判定を喰らい、頭からインクを被ったまま両手を挙げる。

 そう、戦車第11連隊に配備された新砲塔チハには、新たな装備が追加されていたのだ。それが、口径60㎜の6連装ロケット砲である。アメリカ軍の「M1A1バズーカ」に倣い、60㎜HEAT弾(成形炸薬弾)をロケット弾として装備したのだ。

 

 ここで、察しの良い読者の皆様方はもうご理解いただけていると思うが……このロケット砲を追加装備したチハの元ネタは、ゲームである。

 読者の皆様は、中央暦1641年の元旦を覚えておいでだろうか? あの時、妖精たちがプレイしていたのは、第二次世界大戦をモチーフにしたバトル系FPSだった。そう、そのゲームに、「九七式中戦車GS」という名称でこのロケット弾装備の新砲塔チハが登場していたのだ。それを無理やり再現してしまったのが、これなのである。

 このロケット弾は射程が短いため、先のリョノスとの戦いでは使う機会がなかった。そのため、グラ・バルカス帝国との戦いの前に、この場で射撃テストを行うことにしたのである。

 

 ロケット弾による戦果を見て、満足そうに頷く妖精池田。

 その時、大気を切り裂く鋭い音が聞こえたかと思うと、先ほどロケット弾を発射した4号車の車体前面にぱっと黄色のインクが散った。4号車は項垂れたように砲身を下げ、砲塔から空気銃の発射音めいた軽い音と共に白旗が飛び出る。

 

「対戦車砲か! どこだ!」

 

 普通に考えれば、マギカライヒ共同体程度の技術水準で対戦車砲を配備できるとは考えにくい。

 しかし、発生した事実は事実だ。チハの前面装甲を貫徹できる威力を持つ対戦車砲が、敵にはある。妖精池田はすぐにそう判断し、対処にかかろうとした。これだけの行動をとっさに起こせる辺り、妖精池田の優秀さが窺える。

 妖精池田はすぐさま周囲を見渡し……気付いた。マギカライヒ陸上隊の陣地内に、何かいる。

 それは、無限軌道を装備した車高の低い車輌だった。そしてそのフォルムは、妖精池田にとって見覚えのあるものだった。

 

「III突か!」

 

 III号突撃砲F型。ロデニウス陸軍、ムー統括陸軍双方で採用されている自走砲である。だが、マギカライヒ共同体がこんなものを持っているという事前情報はなかった。

 おそらく隠し玉だったのだろう。グラ・バルカス帝国軍役を務める自分たちがあまりに強かったため、一発逆転の切り札兼実験用新兵器として出してきた、というところで間違いない。何せ装甲戦闘車輌は、マギカライヒ共同体の技術レベルから見ると開発が難しく、配備するならムー国から買うくらいしか方法がない。それに、購入後の維持にも洒落にならぬ労力がかかっているはずだ。隠し玉として持っていたのだろう。

 

「全車、傾注! 敵はIII号突撃砲を配備しているが、数は少ない。落ち着いて、一対多数で各個撃破しろ!」

 

 妖精池田は機敏に指示を飛ばした。部下の妖精たちもすぐ反応し、行動にかかる。

 III号突撃砲F型は、車体前面装甲が最大80㎜もあるため、チハ改の48口径47㎜砲であっても正面から戦うのは難しい。だが幸い、III号突撃砲F型は自走砲だ。回転砲塔はないから、相手の正面に立たなければ攻撃される可能性はない。

 

「ハ号隊、煙幕弾を撃て! III突の射線を切るんだ!

旧砲塔チハは榴弾とかんざし機銃で敵歩兵に対処しろ!」

 

 この時点で妖精池田は、旧砲塔チハの役目を対歩兵戦に限定した。元々チハは歩兵戦車なのだから、専門分野で戦ってもらった方が良い。

 戦場に大量の白い煙が発生し、視界がみるみる悪くなっていく。煙幕弾が炸裂したのだ。視界が悪くなるまでの間に、池田を含む各戦車の車長や小隊長の妖精たちは敵の配置を頭に叩き込む。

 

「前進よーい……前へ!」

 

 号令一下、チハとハ号は一斉に動き出し、煙幕の中へと吶喊した。白煙の中、前方で発砲炎が煌めく。マギカライヒ陸軍が野戦砲を撃ってきたのだ。白い煙と黄色のインクが飛び散る中、チハやハ号が負けじと撃ち返す。

 と、75㎜砲弾が大気を切り裂く鋭い音が響き、ハ号1輌が直撃弾を受けた。弾かれたようにハ号はひっくり返り、白旗を上げて沈黙する。

 やはり、ハ号の被撃破判定が多い。まあ、ハ号は前面装甲が12㎜しかないから、マギカライヒ陸軍の野戦砲でも装甲を容易に叩き割れてしまうのだろう。

 

(こりゃ、ハ号はもう無理だな……前大戦の時もそうだったが、ハ号はあまりに装甲が薄いし、火力もあまりない。当面はハ号を偵察や後方撹乱に使いつつ、装備の更新を待つしかない)

 

 そんなことを考えつつ、妖精池田は無線機を手に取った。

 

「こちら1号車! 5号車応答願う、どうぞ!」

『こちら5号車、隊長どうしました?』

「私の車輌で奴を撃破する、援護頼む!」

『え? 旧砲塔チハの火力でどうやって……あっ! アレですか!』

「アレ使ってみる」

『やれますか?』

「正確に当たればな。幸いヤツの弾火薬庫の場所は知っている」

『承知しました。お気を付けて!』

 

 ここに作戦は決まった。

 

「全車、前進!」

 

 砲声と兵士たちの怒号、発砲炎と着弾によるインクの飛び散り。色々なものが混ざり合って混沌(カオス)と化した演習場を、士魂部隊の戦車が駆ける。

 新砲塔チハが発射した複数のロケット弾が、III号突撃砲F型に向かって飛翔、着弾する。強烈な成形炸薬弾の一撃が、自走砲の正面装甲を見事貫き、白旗判定をもぎ取った。

 だがその時、妖精池田はIII号突撃砲がもう1輌いるのに気付いた。妖精池田の乗るチハが回避行動を取った瞬間、75㎜砲の砲声が轟く。対応が遅れた新砲塔チハが、側面を撃ち抜かれて白旗を挙げた。

 

「タ弾装填! 奴の側面を取れ!」

 

 鋭く命じる妖精池田。そこへ5号車の新砲塔チハが発砲する。目標としていたIII号突撃砲が直撃を受け、履帯を切られた。

 

「5号車、見事だ! 後は任せろ!」

 

 妖精池田を乗せたチハが全速力で突っ込む。そしてIII号突撃砲の左側面を取った。

 

「撃てっ!」

 

 瞬間、チハの18口径57㎜砲が火を噴く。ほぼゼロ距離から放たれた砲弾が、III号突撃砲の側面を捉えた。

 桃色のインクが飛び散った直後、III号突撃砲はその砲身を力なく大地に下ろした。シュパッという軽い音と共に、その車体上部に白旗が突き出される。

 

「うむ、ここまで接近すれば弱点を射抜けるか」

 

 1つ頷いて、妖精池田は次の指示を飛ばし始めた。

 

 妖精池田の乗る旧砲塔チハの火力は、弱い。いや、歩兵相手なら強力な火力を持つのだが、対戦車戦闘となると途端に弱くなる。というのも、口径57㎜の大砲自体あまり大きいとは言えないので、単純に威力が落ちるのだ。しかも、砲身長が18口径と短いため、装甲貫徹力はガタ落ちになってしまっている。本来であれば、旧砲塔チハでIII号突撃砲を倒すのは至難の技だ。

 しかし、戦車第11連隊の旧砲塔チハには、新兵器として「タ弾」と呼ばれる成形炸薬弾が搭載されている。これを使えば、最大55㎜の装甲を貫徹することが可能だ。

 ただし、それは理論上の話。タ弾は成形炸薬弾であるため、性質上「貫徹力はあるものの、加害半径が狭い」という欠点がある。このため、タ弾を使う場合は、弾火薬庫などの弱点を正確に撃ち抜かなければならない。だが妖精池田とバディを組む砲手妖精は、その狙撃を見事にやってのけた。

 

「敵の最大の切り札は排除した。このまま押し切れ!」

 

 そしてマギカライヒ陸上隊は、III号突撃砲の細やかな活躍を最後の戦果として、戦車第11連隊に敗北したのだった。

 自分たちを「ムー国に次ぐ科学文明国家」と自認していたマギカライヒ共同体陸上隊の兵士たちは、あまりにあっさりと負けたことに驚愕した。そして、この戦車第11連隊の兵器こそがグラ・バルカス帝国の陸上兵器に最も似ている、という話を聞かされてさらに驚愕した。もし今グラ・バルカス帝国が攻めてきたら、自分たちは負ける……そんな認識が危機感となって、マギカライヒ陸上隊全体に伝わった。ついでにその報告はマギカライヒ学院連合上層部にまで届けられ、こちらも驚愕した。

 マギカライヒ学院連合は、来るべきグラ・バルカス帝国との戦争に備え、ムー国との連携をこれまで以上に密にすることを決定。ムー国製の旧式兵器を購入できないか交渉すると共に、ロデニウス連合王国にも強く注目して、正式な国交の開設と大東洋共栄圏への参加交渉を急ぐことになった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、処変わってグラ・バルカス帝国領レイフォル州 州都レイフォリア。

 レイフォリアの街は、元々は旧列強レイフォル国の首都だった。だが、グラ・バルカス帝国との戦争の際に戦艦「グレードアトラスター」の艦砲射撃によって破壊し尽くされ、レイフォル国が滅亡した後はグラ・バルカス帝国による統治の拠点とされた。そのため、街にはグラ・バルカス帝国の建築様式の建物が増え、コールタールで舗装された道路には多数の自動車やトラックが走り、蒸気機関車が走る鉄道の駅も整備されている。

 そんなレイフォリアの沖合には、鋼鉄製の船が多数展開していた。数はざっと100隻以上にも及んでいる。巨大な主砲と丈高い艦橋を持つ戦艦や、貫禄のある艦橋が特徴的な重巡洋艦、そして特に強そうには見えない平べったい形状ながら凄まじい打撃力を秘める航空母艦などがずらりと整列する様子は、思わずため息が漏れるほど雄壮なものであった。

 この地に展開するグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊である。戦艦5隻、空母8隻を基幹戦力とする、総勢120隻の艦隊だ。なぜバルチスタ沖大海戦時より数が少ないのかというと、あの時は特務軍艦隊と連合艦隊を組織しており、その特務軍艦隊が海戦終了後に本国に引き上げたからである。

 その東部方面艦隊の中には、一際目立つ巨体を有する戦艦が1隻いる。明らかにグレードアトラスター級戦艦である……が、ネームシップではない。

 グレードアトラスター級戦艦2番艦「ブラックホール」。それが、この艦の艦名である。

 「ブラックホール」は、昨年4月の「カルトアルパス湾海戦」(フォーク海峡海戦のグラ・バルカス帝国側呼称)で、この世界での初陣を迎えた。しかし、同海戦で敵の似非ヘルクレス級戦艦(「(なが)()」のこと)と砲戦になり、多数の41㎝砲弾を被弾。それだけではなく、雷撃を喰らって艦首を吹っ飛ばされ、大破した。このために長期の修理を余儀なくされ、修理後のテスト等もあったため、バルチスタ沖大海戦への参加がギリギリ間に合わなかったのである。

 そんな「ブラックホール」だが、バルチスタ沖大海戦での東部方面艦隊の活躍が認められ、この度帝王グラ・ルークスから東部方面艦隊へ旗艦として下賜されたのである。

 

 その「ブラックホール」の艦橋で、提督席(アドミラル・シート)に座り、腕組みをして考え込んでいる高年の男性がいる。たくましい体格と高身長に加えて、幾多の戦場を潜ってきたことによる一種の凄みが合わさり、「軍神」という表現が相応しいように思える。

 東部方面艦隊司令長官カイザル・ローランド。階級は大将である。もとは中将だったのだが、バルチスタ沖大海戦での活躍が認められ、昇進したのだ。そのため、軍服の肩に付けられた真新しい大将の階級章が、眩い金色の輝きを放っている。

 しかし、その肩章の輝きとは裏腹に、カイザルの表情には険しさが混じっている。

 どうしたのかというと、彼の手には1枚の書類が握られていた。その書類は軍本部(を通して帝王府)から送られてきた、東部方面艦隊への増援目録であり、カイザルの表情を険しくした最大の原因だった。

 

(これでは、戦力が足りん可能性があるぞ! せめて、特務軍艦隊から「グレードアトラスター」を持ってきたかったのだが……!)

 

 書面を見ると、確かに増援として送られる戦力がずらっと挙げられている。だが、その中身が問題だった。新造されたばかりの艦だったり、あるいは戦艦を配備した本国艦隊の地方隊をそのまま引き抜いたものだったりするのである。

 カイザルが気にしていたのは、近い将来激突することになると思われるロデニウス海軍第13艦隊のことだった。ムー国のマイカルに停泊するこの敵艦隊は、グレードアトラスター級に酷似した見た目の戦艦1隻を含めて、戦艦10隻以上、航空母艦10隻以上を擁する、総勢約200隻の艦隊である。この艦隊を相手取るには、こちらも数と質を両立させた上で、練度を確保しておかなければならない……カイザルはそう考えていた。

 しかし、増援を……それもグレードアトラスター級戦艦を含む増援を本国に要請したはずだが、通っていない。代わりに送られることになった援軍は、本国艦隊から引き抜いた地方隊やら新造艦やら、練度と連携に問題のある連中ばかりである。

 2月初頭に行われたバルチスタ沖大海戦で、「世界連合」とやら名乗るこの世界の主要国の海軍が集まった連合艦隊を破り、さらに同海戦でミリシアル国の空中戦艦も撃墜して以来、帝国本国の政治家や国民の間では「ミリシアル国恐れるに足りず」という楽観論が強まっている。叙勲のため一度本国に帰還したカイザルは、そのことをはっきりと認識していた。そしてそのことに、危機感を抱いていた。

 こういうことはあまり想定したくないが……もし仮に、自分の指揮する東部方面艦隊や、ミレケネス中将率いる特務軍艦隊が戦いに敗れるようなことがあった日には、どうなるか。

 

(いや、そんなことを考えてはならない。我々は、常に勝たなければならないのだ!)

 

 意識を入れ替え、カイザルは考え始めた。今手元にある戦力と増援戦力によって、強敵であるロデニウス海軍第13艦隊、そしてそれを率いるサカイという指揮官とどうやって戦うかを。

 

 

 同じ頃、ムー国の西部国境に近いヒノマワリ王国東部には、グラ・バルカス帝国陸軍が最前線基地バルクルスを建設しており、帝国陸軍航空隊と戦車を含む陸軍部隊が集結しつつある。ムー国の攻略を目指す部隊だ。

 それに対して、第二文明圏の諸国家及びロデニウス連合王国軍も、戦闘態勢を整えつつあった。ヒノマワリ王国東部に発見された、建設中の敵基地に対し、ムー統括軍やロデニウス軍が中心となってこれを攻略する作戦を、決行しようとしていたのである。

 ムー大陸の陸に、海に、戦火の火種は燻って煙を上げ……そして、燃え始めようとしていた。




というわけで戦争の前日回でした。
いよいよ武力衝突寸前の状態です。グラ・バルカス帝国とこの世界の諸国家、勝利の女神は果たしてどちらに微笑むのか。


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ありがとうございます!!
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次回予告。

ヒノマワリ王国東部に、グラ・バルカス帝国陸軍が建設中の基地バルクルス。ムー統括軍を中心とする第二文明圏諸国連合軍は、敵がこの基地の建設を完了する前に叩き、これを占領して、来るべき総反攻に向けた自分たちの拠点とすることを企てていた……
次回「始動、『剣閃作戦』」
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