鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
ちなみにお気付きになった人もいると思いますが、サブタイトルは「英本土航空戦(バトル・オブ・ブリテン)」の捩りです。
中央暦1643年5月1日、グラ・バルカス帝国領ヒノマワリ州東部 最前線基地バルクルス。
ムー国への侵攻作戦において、橋頭堡ともいうべき拠点となるだろうこの基地は、飛行場が併設された星形の基地である。航空部隊の他に、陸軍の歩兵隊や機甲部隊への駐屯・補給すら可能とすることができるほどの、かなりの規模の基地になる予定である。「予定」と書いたのは、まだ基地が完成しきっていないからだ。
バルクルス基地は、ムー国西部にある国境の町アルーから見て西方30㎞の位置に建設されている。これは、野戦用の大型榴弾砲の射程を考慮したものだ。ムー国の野戦砲では基地に砲撃が届かないが、帝国の重カノン砲の砲撃はしっかりとアルーに届く、そんな絶妙な位置にあるのである。グラ・バルカス帝国が相手国の技術をよく分析している証である。
現在この基地には、グラ・バルカス帝国陸軍第8軍団と陸軍第9航空団が進出していた。とはいっても、第8軍団はまだ集結中である。
空は晴れ渡り、ちぎれ雲が所々に見えている。季節は5月だが、標高が高いのと時間帯が早朝であるせいもあるのか、空気は少しだけ肌寒い。
陸軍第8軍団の兵力のうち、第4師団は既にバルクルス基地に到着しており、第8軍団は歩兵を主力とする第3師団の到着を待つばかりとなっていた。
基地司令部の屋上にて、軍服を着た2人の男が話をしている。1人は、バルクルス基地の司令官にして陸軍第8軍団の指揮官ガオグゲル・キンリーバレッジ中将。もう1人は、第4師団の師団長ボーグ・フラッツ少将である。
「ボーグ君、帝国陸軍は強い」
「はっ、その通りであります!」
「その中でも、君の第4師団は飛び抜けて強い。君たちにかかる期待は大きいぞ!」
「ははっ! 我が第4師団は、帝国でも最新鋭の戦車を主体とした機械化師団であります。ムー国の陸軍など、あっさりと蹴散らしてみせましょう!!」
第4師団は、グラ・バルカス帝国軍では最新鋭の戦車となる2号中戦車ハウンドI・IIを積極的に採用しており、随伴歩兵も自動車や装甲車に乗せて完全に機械化した部隊である。現状グラ・バルカス帝国陸軍で唯一と言っても良い、完全機械化の部隊であった。故にその突破力には凄まじいものがある。
「時にボーグ君、君の師団では、兵士にストレスが溜まってはいないかね?」
不意に、ガオグゲルは妙な質問を投げかけた。急に何を仰るのかと疑問に思いつつも、ボーグはひとまず質問に答える。
「はっ、皇帝陛下の御為ということで、士気は極めて旺盛であります。しかし、やはり望郷の念から精神的にストレスが高いことは、否定しません。
ですが、我が軍の将兵は肉体のみならず精神面でも屈強です。ご心配には及びませぬ」
「ボーグ君、兵士の精神衛生は、軍の強さに直結するのだよ。少し考えを改めたまえ」
「はぁ……」
ボーグが返事をすると、ガオグゲルは不意にゲスい笑みを顔に浮かべた。そして言葉を続ける。
「今回のムー侵攻作戦では、多数のムー国民が難民や捕虜になるだろう。
そのムー人を君たちがどう扱おうが、私は咎めるつもりは全くない」
「はっ!?」
ガオグゲルが何を言っているのか理解できず、ボーグは一瞬固まる。その耳に、ガオグゲルは囁くように言った。
「ここには、
上官が何を言いたいのか理解し、ボーグの顔に暗い笑みが浮かぶ。色々と想像しているのだろう、ナニとかナニとかを。
「ああ、分かっていると思うが……今私が言ったことは、本国の人間にはもちろん極秘だぞ」
「心得ております」
地獄に堕ちやがれこの下衆どもが、と思ったのはうp主だけではあるまい。
そんな彼らの目の前では、飛行場いっぱいに暖機運転の爆音が鳴り響いている。ムー国への侵攻の前哨戦として、アルーの東方200㎞の位置にあるムー統括軍の飛行場……ムー国側呼称「ドーソン基地」への爆撃作戦に参加する第21・第22航空隊の機体が、エンジンを回して出撃の刻を待っているのだ。
基地の管制塔(まだ司令部の建物が、ガワと地下司令部こそ完成したものの内装までは完成していないため、ここが臨時の司令部となっている)にて、陸軍空将のヘルダン・パース少将が命令を下す。
「本作戦は、ムー人とかいう野蛮人どもに我が帝国の強さを見せつける、重要な作戦である。帝王陛下のお耳に、我が国の力に相応しい圧倒的勝利の報告を入れられるよう、各員は努力せよ。
攻撃隊、発進せよ!」
その言葉を号砲代わりに、滑走路に並んでいた「アンタレス07式艦上戦闘機」や「ベガ型双発爆撃機」が、順次滑走を始め、滑走路を蹴って朝の空へと飛び立っていった。
さて一方、グラ・バルカス帝国軍に狙われているドーソン基地であるが……ここを守るムー統括軍、そしてロデニウス連合王国軍には、手ぬかりはなかった。
この基地にはもともと、ムー統括軍の航空部隊として「マリン」30機が配備されていた。だが、中央暦1643年の2月になってロデニウス軍がムー大陸へ進出してくると、グラ・バルカス帝国軍との戦いの拠点になると思われる基地には、ロデニウス軍の工兵隊が次々と現地入りし、改修工事を突貫でやり始めた。ドーソン基地も、その突貫改修工事の対象基地の1つだったのだ。
ドーソン基地に施された改修の内容は、簡単に言えば滑走路の長さの延長(500メートルから1,000メートルに伸びた)、格納庫の増設、対空火器の増強、レーダー設備とジャミング装置の設置。そして最も大きい工事の内容が、ミサイル発射台の設置である。無論、この「ミサイル」というのは「RV-1飛行爆弾」と「RV-2ロケット」のことだ。
この基地に設置されたレーダーは、早期警戒用の「13号対空電探改」と「SK+SGレーダー」、そして航空管制用レーダーの「FuMO25 レーダー」である。どうして対水上レーダーであるSGレーダーをこんなところに配備しているのかというと、低空を監視するためである。
そして、4月になってグラ・バルカス帝国軍の航空隊がバルクルス基地に進出し始めた頃、ドーソン基地にロデニウス軍の航空隊が展開し始めた。ドーソン基地にやってきたのは、ロデニウス海軍第12航空艦隊(基地航空隊)所属の「三式戦闘機
ちなみに、この「飛燕」は飛行第244戦隊所属機、そして「紫電改二」装備の飛行隊のうち一隊は、妖精”
また、改修工事の中で秘密裏に作られた試作機が2機だけ、この基地に配備されていた。もちろん、これも戦闘機である。
そして、ロデニウス軍の指揮官の1人である
このため、堺は指揮下の独立第1飛行隊に命じてほぼ常時バルクルスを上空から監視させていた。もちろん全方位ステルス状態で、である。
グラ・バルカス帝国軍の航空部隊がバルクルスを発進した、という情報をキャッチした第二文明圏連合軍総司令部は、直ちにドーソン基地とアルーの町に対して警報を発令。アルーでは市民を郊外に避難させ、同時にドーソン基地には戦闘機隊の発進を命じた。
「コンターック!」
「発動機回せ! 搭乗員は急いで搭乗しろ!」
「レーダー、敵部隊の方位と距離知らせ!」
「はっ。敵航空部隊、当基地よりの方位280度、140㎞! この反応の大きさは……単発機約40、双発機約50! 大部隊です!」
「気象班、基地周辺の天気知らせ!」
「はっ、当基地の周辺100㎞以内は全て晴れ! 雲量3、南東の風3メートル、誂えたような爆撃日和です!」
「ロデニウス軍司令部より報告、敵は『タイプ-ゼロ』戦闘機40機、『タイプ-サリー』双発爆撃機54機!」
「ゼロか! くっ、この基地の我が空軍機では勝負にならん! 敵戦闘機はロデニウス軍の航空隊に任せ、我々は敵爆撃機を叩こうぞ!」
ドーソン基地には報告と指令が慌ただしく飛び交い、それに混じって轟音が大気を震わせ始める。配備されている戦闘機が、暖機運転を開始したのだ。
離昇出力900馬力のムー国産空冷エンジンが軽快な音を立て、その倍以上の出力を誇る「
「戦闘機隊、発進せよ!」
『菅野1番よりコントロール、了解! 行ってくるぜ!』
真っ先に飛び出したのは、「紫電改二(菅野隊)」。ムー航空隊ではなくこの隊が先に離陸したのは、作戦上高度を稼ぐ必要があるからだ。2,000馬力のハイパワーエンジンに物を言わせ、大地を蹴飛ばすようにして大空へと舞い上がる。
18機の「紫電改ニ」がすっかり飛び立ってしまうと、続いてムー航空隊の戦闘機が発進した。複葉機30機に、固定脚の単葉機が16機。「マリン」30機と「アラル」16機だ。「アラル」はムー国産の九六式艦上戦闘機である。
そして最後に飛び立つのは、槍のような尖った機首を持つ液冷発動機の戦闘機「飛燕」だ。36機が配備されているのだが、搭載された「アツタ三二型」エンジンの不調のため6機が発進できず、出撃機数は30機に留まっている。しかし、搭乗員たちの士気は盛んだった。何せこの世界に来てようやく手にした実戦の機会、しかも自分たちが得意とする邀撃戦だ。
「おーい、上手くやってこいよー!」
「俺たちの分も、よろしく頼んだぜー!」
「墜とされんじゃねーぞー!」
自機のエンジントラブルのため出撃できず、地上待機となった妖精たちが、出撃する仲間を「帽振れ」で見送っている。
上空にはしばらくエンジン音が響いていたが、戦闘機の姿が小さくなっていくと同時にそれらは静かになっていき、やがて戦闘機隊は青空に溶け込むようにして姿を消した。その代わりに、今度は地上に喧騒が満ち溢れる。
「対空戦闘ー!」
「高射砲、機銃、配置に付け! 基地に残った機体は、ネットでも被せて偽装しろ!」
「搭乗員並びに地上整備要員は、防空壕へ退避せよ!」
地上に残った面々は、慌ただしく動き出した。そんな中、航空機を収納していた格納庫の扉が、ガラガラと大きな音を立てて開け放たれる。その中には、布を被せられた大きな物体が2つ、鎮座していた。
「諸君、ついにこれを使う時が来たようだ!」
ロデニウス海軍・第12航空艦隊所属のある搭乗員妖精が緊張した面持ちで進み出る中、技官風の白衣を纏った妖精が熱の
「せっかくヒドラジンにロケットエンジンがあるんだ、作らずにはいられなかった! 反省も後悔もしていない!
一緒にいた他の技官妖精たちが、どっと笑い出す。
爆笑冷めやらぬ中、布が取り去られ、隠されていた戦闘機が姿を見せた。プロペラがなく、水平尾翼もないという異様な形状のその機体は、機首が紡錘形に絞り込まれて俊敏そうに見える。
それを見て、技官風の妖精が恍惚とした表情で叫んだ。
「さあ、いよいよこいつの実戦テストだ! 人の手で作られし彗星がどこまでかっ飛んでいくか、見届けようではないか!
そして震えて眠れ、グラ・バルカス帝国!」
この世界にとっては恐怖の編隊が、空を飛んで東へと進む。グラ・バルカス帝国の攻撃隊……アンタレス07式艦上戦闘機40機、ベガ型双発爆撃機54機の編隊だ。「アンタレス」戦闘機隊は二手に分かれており、一隊20機は爆撃機の直掩に就いていて、高度4,000メートルの空を飛んでいるが、もう一隊の20機は高度6,000メートルまで上昇している。迎撃に出てくる敵機を、高空から奇襲するためだ。
これだけの規模の攻撃隊なら、ムーとかいう野蛮人の飛行場など鎧袖一触で破壊できるだろう。「アンタレス」に搭乗する小隊長の1人、スタバル・ウォルグレン大尉はそう考えていた。アンタレス07式艦上戦闘機は、前世界でも並ぶ者のない戦闘機だったが、
『敵基地までの距離70㎞』
「ここまで来たか。もう少し進めば、敵機が出てくるかもな」
総隊長機からの無線に、スタバルは気を引き締め直した。70㎞は、「アンタレス」の巡航速度で飛べば10分程度で着いてしまう距離だ。目的地まではもうすぐである。
(さて、ムーとかいう野蛮人どもに、我が帝国の力を見せつけてやるか!)
ついでに1機くらい
そのまま飛び続けること暫し、
『前方より敵機!』
不意に、僚機から無線が飛び込んできた。ちょうど朝日が向かいに昇ってきていたので、スタバルは色付きの眼鏡の中で目を凝らす。
低空から、複数の機影が向かってきている。観察したところ、複葉機と固定脚の単葉機が、合わせて50機程度だ。
(ムーの機体だな)
スタバルは即座に、脳内に叩き込んだ敵機の識別リストと照合する。あの機影は間違いなくムーの機体だ。「マリン」とかいう複葉機と、フォーク海峡やバルチスタ沖で出現したらしい新型機。だが、どちらも「アンタレス」に比べれば鈍足の旧式機であり、ただの的だ。
(目に付かないよう、アルーの町を迂回して飛んだはずだが……人目を完全に避けることはできなかったか。まあ良いか)
攻撃隊は、アルーの町を南に迂回してドーソン基地に向かっていた。だが、敵の目を完全には欺けなかったらしい。
だがそれでも、スタバルには一向に構わなかった。どうせ自分のスコアが増えるだけなのだから。
「攻撃の合図はまだか。もう少し引きつけてからか?」
彼は声に出して呟いた。彼の機体は高度6,000メートルの高みにある。制空隊に参加しているのだ。
『制空隊、突撃せよ!』
総隊長機からの無線が届いた。前方に立つ、制空隊の隊長リースク大尉の機体がバンクした後、急降下に転じる。
「よし行くぞ! 第2小隊続け!」
一声無線機に命じ、スタバルは操縦桿を右に倒した。同時にフットバーを右に蹴りつける。
「アンタレス」の機体が左の主翼を跳ね上げて右に横転した。そして、急降下に入る。だんだん敵機の姿が大きくなってくる。
(フン、蛮族には奇襲に気付く知恵もなし、か)
腹の内でスタバルは嘲笑う。奇襲に慌てふためき、バターが溶けるように崩れていく敵編隊の姿が、脳裏に浮かんだ。
「ようし、このまま……」
呟きながら、照準器を覗き込む。敵集団の前方にいる「マリン」に狙いを定めた、その瞬間。
照準器に映っていたリースク機に、直上から夥しい数の
リースク機は目の前でバラバラに砕け散り、残骸と化したパーツが黒煙を引きずりながら大地に落下していく。同時に、列機として隊長についていたアルベーシ中尉の機体も、あっという間に空中で爆ぜ、一文の価値もないスクラップと化した。
「ダニィ!?」
信じられない光景にスタバルが叫ぶのと、彼の本能が危険を察知するのとが同時だった。反射的に操縦桿を左に倒し、左フットバーを蹴りつける。
次の瞬間、ねじを巻くように横転した「アンタレス」の機体を、真っ赤な太い火箭が掠めた。あと一瞬回避が遅れていれば、直撃を受けていただろう。
スタバルはギリギリで回避できたが、2番機が間に合わなかった。機首に直撃弾を受け、エンジンから黒煙を吐き出しながら墜落する。
と、「アンタレス」のそれとは異なる野太いエンジン音が響き、続いて太い機首を持つ機体が複数、スタバルとすれ違った。一瞬振り返ってそれを見たスタバルは、愕然とした。なんと相手は、引き込み脚を持つ全金属製の単葉機だったのだ。
「なっ、我々と同格の機体だと!?」
思わず叫ぶスタバル。
この世界はもちろん、前世界たる惑星ユグドでも、「アンタレス」と同じような引き込み脚の全金属製単葉機を持つ国は、ケイン神王国を除けば存在しなかった。そのケイン神王国の戦闘機にしても、「アンタレス」に比べれば大した性能ではなかったのである。仮に不意打ちを受けたとしても、「アンタレス」はひどい場合で3機程度がやられるくらいであり、その後は体勢を立て直した「アンタレス」に追い散らされる運命にあることが大半であった。
だというのに、今の敵機の不意打ちだけで6機以上の「アンタレス」が撃墜されている。さっきまで緊密な編隊を組んでいた味方は、今や慌てふためいたように散り散りになろうとしていた。
「各機応答しろ! 何があっ……」
無線機のプレストークボタンを押して叫び、そこでスタバルは気付いた。
無線が不調になっている。ザザー……という砂嵐のような音が聞こえるだけであり、無線を送ることも聞くこともできない。
「くそ、こんな時に故障か!」
一声罵り、スタバルは敵機の方に注意を向ける。すれ違った後反転してきた敵機が1機、スタバルの背後を取ろうとしている。
「格闘戦か! ふん、格闘戦で『アンタレス』に勝てると思うのか、馬鹿め!」
嘲りつつ、スタバルは左旋回をかける。敵機も反応し、スタバルを追ってきた。
「アンタレス」の性能は、高速と火力もさることながら、何より水平・垂直両方向の格闘戦性能が素晴らしい。格闘戦に引き込む限り、どんな敵が相手であろうと「アンタレス」が遅れを取ることはない。そう確信したスタバルは、格闘戦で相手の背後を取り返そうとした。だが……
「……なっ!?」
後方を振り返り、敵機の位置を確認したスタバルは、愕然とした。
敵機はしっかりと「アンタレス」に食い下がってきている。それどころか、「アンタレス」との距離が確実に詰まっている。
(な、何故だ! 無敵の「アンタレス」が、格闘戦で追い詰められているだと!?)
信じがたい現実に、理解が追いつかない。そこでスタバルは、あることに気付いた。
「は、速い!」
敵機の旋回性能は、「アンタレス」と大差ないらしい。それなのに距離が詰まっているということは、敵機の方が脚が速い、ということだ。
(馬鹿な! 「アンタレス」を速度で上回り、運動性能でも並ぶだと!?)
「馬鹿な! そんな馬鹿なぁっ!」
それが、スタバルの最後の叫びだった。
直後、敵機が両翼から放った4条もの太い火箭が「アンタレス」に殺到し、バリィン、とガラスの割れる音がした。そしてスタバルは、頭部を骨肉ぐちゃぐちゃのミンチ肉(金属片及びガラス片入り)にされ、木っ端微塵に粉砕された「アンタレス」と共に地上へと落下していった。
「見たかバカヤロウ! ドッグファイトってのは、こういう風にやるもんだ!」
格闘戦で追っていた零戦そっくりの敵機を撃墜した、「紫電改二」の妖精”菅野 直”は、その言葉を敵への手向けとした。そして、すれ違いざまにもう1機の敵機を
SKレーダー及びディグロッケからの報告で敵機が二手に分かれていることと、各隊の敵機の編成を知ったロデニウス=ムー連合航空隊の作戦は、次の通りであった。まず、低空からムー航空隊を敵の爆撃機隊に向けて真っ直ぐ前進させ、高空にいる敵戦闘機隊の注意を引きつける。この間に、ドーソン基地のジャミング装置とディグロッケ搭載の通信妨害システムを駆使し、無線による広域通信の一切を遮断する。次に、ムー航空隊に食いつこうとする敵戦闘機に、上空から「紫電改二(菅野隊)」で不意打ちを喰らわせ、足止めしてドッグファイトに持ち込む。その隙に、遅れて飛んできた飛行第244戦隊の「飛燕」をムー航空隊に追い付かせ、ムー航空隊と「飛燕」が連携して敵爆撃機と護衛戦闘機を狙う。最後に、敵戦闘機を全滅させた「紫電改二(菅野隊)」がムー航空隊及び飛行第244戦隊に加勢し、残存する敵機を残らず撃墜する。この計画に従い、彼らはドーソン基地からの距離60㎞の地点で敵を待ち構えていたのだ。
今のところ、作戦は図に当たっている。「紫電改二(菅野隊)」の攻撃を受けた敵戦闘機隊は、明らかに混乱しており、未だ立ち直れていない。ジャミングによって味方との音声通信はできなくなっているが、部下たちなら状況を悟って動いてくれるだろう。妖精菅野は、部下たちを信じることにした。
その彼の期待を裏切ることなく、「紫電改二」は片っ端から敵機を葬り去っていく。敵搭乗員の練度は相当に高いようだが、混乱した戦況とこちらの数の多さ、そして彼我の機体の性能差が、物を言っているようだ。
「喰らえバカヤロウ! 墜ちろコノヤロウ!」
妖精菅野自身も、見物だけで済ませるはずもない。新たな敵機の背後を取り、格闘戦で追い詰めて13㎜機銃の一連射を浴びせ、尾翼を吹っ飛ばして叩き落とす。
そもそもの問題として、「紫電改二」と「アンタレス07式艦上戦闘機」では性能に差がありすぎる。「紫電改二」のエンジンが離昇出力2,000馬力なのに対し、「アンタレス」のそれは1,100馬力しかない。このエンジン馬力の差は「最高速度」という形でモロに出ている。「紫電改二」が最高時速644㎞、「アンタレス」が最高時速550㎞と、実に100㎞近い速度差がついてしまっているのだ。
また、「アンタレス」は零戦よりも高い防御力を有してはいるが、「紫電改二」の攻撃力の前にはいささか頼りなかった。何せ「紫電改二」は、機首13㎜機銃2丁に主翼20㎜機銃4丁を持つのである。その怒涛の火力、特に20㎜機銃4丁の暴力には、「アンタレス」の防御性能も意味がない。
そして運動性能であるが……本来なら、「紫電改二」が運動性能で「アンタレス」に勝てるはずはない。何しろ、「紫電改二」は元々局地戦闘機(制空戦闘はできるが、もっぱらの仕事は爆撃機の迎撃である)なのに対して、「アンタレス」は最初から制空戦闘機として作られているのだから。だが「紫電改二」には空戦能力を補う素晴らしい機構として、自動空戦フラップが備えられている。これを使えば、多少の制空戦闘はできるのだ。後は搭乗員の練度次第でどうにかなる。
というわけで、「紫電改二(菅野隊)」は先手を取った勢いのまま終始優勢を握り続け、10分ほどで「アンタレス」20機を全滅に追い込んだ。作戦が上手く決まったためだろう、搭乗員妖精たちの士気も高いようだ。
空戦のため崩れた編隊を組み直してみると、味方が2機足りなくなっている。どうやら墜とされてしまったようだ。だがまあ、20機もの敵戦闘機、それも零戦のそっくりさんと戦ったのだから、ある程度の犠牲は致し方あるまい。
「よしヤロウども行くぞ! 次の相手には爆撃機がいる、絶対に基地に行かせるな!」
オルジス信号灯を点滅させて味方に指示を送ると、”菅野 直”の乗る「紫電改二」は猛然と機首を翻した。
「なっ……!?」
ベガ型双発爆撃機の護衛に就いていた、「アンタレス07式艦上戦闘機」搭乗員の1人スペース・アステリア少尉は、突如発生した想定外の事態に驚きを隠せなかった。
上空に控えていた制空隊に対し、さらにその上方から敵機が襲ってきたのだ。結果、制空隊は敵機との空戦に引き込まれてしまい、作戦は破綻してしまっている。
(だがまあ良い、ムーの旧式機くらいなら、直掩隊でも十分阻止できる!)
そう考え、頭を切り替えたスペースの目に、新たな光景が飛び込んできた。朝日を背にしているため、非常に見えづらいが、よく見ると6機の敵機が新たにこちらに向かってきている。こちらは引き込み脚を持っているようだ。
「こちらスペース。新たな敵機、こちらに……?」
プレストークボタンを押して報告しかけたスペースの言葉は、途中で止まった。
無線機は雑音を発するのみの状態となっており、通信を送ったとしても聞き取れない状態になってしまっている。
「ちくしょう、こんな時に故障か!」
スペースは毒づいたが、これが敵の通信妨害だということには全く気付かなかった。
(まあ良い、蹴散らすだけだ!)
考え直したスペースは、エンジン・スロットルをフルに開いた。「アンタレス」が加速され、前に出る。
彼は太陽を背に向かってくる敵機を見つめる。基地に近付いた時になって出てきたことを考えると、どうやらムー軍の切り札的な機体らしい。そしてムー国に引き込み脚の戦闘機があるなんて情報は、あるにはあるが少数だ。おそらく最新鋭機を出してきたのだろう。
「ここにきて新鋭機か。まあ、この『アンタレス』に勝てるはずも……!!?」
スペースの言葉は途中で消え、彼は目を真円まで見開いた。
色付き眼鏡の中で次第に拡大する黒い機影、その後ろから全く同じ形の機影が大量に現れたのだ。最初に見た数は6機だったが、今やその5倍はある数の機影が出現している。
どうやら敵は、戦闘機を縦一列に並べて飛行させることで、こちらに数を誤認させる方法を取ったようだ。そして、いざ開戦という直前になって種明かしをし、こちらの心理に大きな一撃を喰らわせて、その衝撃冷めやらぬうちに戦闘に持ち込もうとしている!
「な、何だとぉっ!」
驚愕しながらも、スペースは咄嗟に操縦桿を前に倒した。
「アンタレス」がお辞儀をするように機首を下げ、降下に入る。その直後、太陽の中から多数の太い火箭が殺到してきた。たちまち3機もの「アンタレス」が被弾し、2機は空中で爆発してバラバラになり、1機は左の主翼をバッキリへし折られて錐揉みしながら墜落する。
「くっ……!」
裏をかかれた悔しさを表情に滲ませながら、スペースは向かってくる敵機を見つめる。「アンタレス」とは異なり、機首がやたらと細長く絞り込まれた、特異な形状の機体だ。機首は尖っており、獲物に向かって放たれた矢を連想させる。そして、機体の中央やや後方寄りにコクピットがあった。
(陸上運用専用機か)
彼は瞬時にそう判断した。
艦上機でコクピットが後ろ寄り、ということはまずない。艦上機は空母に着艦する時、機体尾部の着艦フックを空母の甲板に張られたワイヤーに引っ掛けて停止するため、その性質上、機首を上向きにして着艦する必要がある。そんな時に、コクピットが後ろ寄りだった場合、着艦時の視界が非常に悪化する……というか最悪の場合、何も見えない状態で着艦する羽目になる。そんなことをすれば大事故待った無しだ。それを防ぐため、艦上機のコクピットはなるべく機体前部(機首寄り)に設置されるのである。
スペースは敵機の特徴を見て、そう判断したのだった。そして実際、それは当たっていた。スペースが目にした機体「飛燕」は、空母での運用は一切想定されていない。
混乱したまま戦闘を開始する直掩隊、しかし敵機は数の差(20対30)と搭乗員の練度でこちらに並ぶ、もしくは超えているようで、「アンタレス」はじりじりと数を減らしている。
「くそっ!」
スペースは1機の敵機の背後を取り、撃墜しようとした。が、敵機は後ろを取られたと見るや急上昇に入ったため、スペースが放った必殺の20㎜機銃弾は残念ながら空を切った。
「チッ」
舌打ちしながら、スペースも機体を加速させる。だが最高速度の時速550㎞を発揮しても、敵機を機銃の射程に捕捉できない。それどころか、敵機はじわじわと離れていく。
「まさか、敵機の方が脚が速いのか!」
戦慄と共にスペースは叫んだ。
実際、「アンタレス」の最高時速550㎞に対して、「飛燕」は最高時速590㎞なので、「飛燕」の方がやや優速だ。直線飛行での競走では、「アンタレス」は追いつけない。
背後に殺気を感じ、スペースは後ろを振り返った。敵1機がこちらに機首を向けている。
スペースは右に左に機体を旋回させ、回避運動を試みる。が、敵機も食い下がってくる。
(運動性能でも互角に近いか! 厄介な……!)
横方向の旋回格闘戦を終えた時には、敵機はスペース機のすぐ後ろにいる。速度差で追いつかれたようだ。
敵機が機首の機銃を放つ寸前、スペースは咄嗟に操縦桿を手前に引いた。続けて操縦桿を左に倒し、フットバーを左に蹴る。
急上昇し、逆立ちになったスペース機の真下を、太い火箭が走り過ぎ、投げナイフを思わせる形状の敵機が後方から吹っ飛んでくる。スペースが機体を立て直した時には、敵機はスペース機を追い越して、前方に飛び出してしまっていた。
すかさずスペースは発射把柄を握った。主翼から噴き伸びた20㎜機銃の曳光弾が、見事に敵機に突き刺さる。敵機は半身を炎に包まれたような格好に変わり、悲鳴じみた音を発して墜落していった。
「よし……」
敵機を返り討ちにしたスペースが一息吐いたその瞬間、凄まじい衝撃が機体を襲った。ガラスの割れる音が響き、スペースの視界は一面真っ赤になり、彼は思わず目を閉じ、右手を挙げて顔を庇った。その右手に鋭い痛みに似た熱が走る。
「ぐあっ! あ、熱いィィ!!」
スペースは思わず悲鳴を上げた。
目を開けた時、彼の機体の機首からは黒煙が噴き出していた。風防ガラスは、エンジンから噴き出たオイルで真っ黒に染まっている。プロペラはまだ回っているが、もう力強さはなかった。エンジンに直撃弾を受け、シリンダーを複数吹き飛ばされたようだ。
そして彼の視界の半分が赤黒い色に覆われており、意識は半分朦朧としていた。敵機に撃たれた際に、頭部を傷つけたのだ。
(ぐうっ……痛い……。意識が……意識が、飛びそうだ……)
霞がかったようにぼんやりとする視界、音が聞こえにくくなる。
(俺は……死ぬのか? ここで?)
そう考えた瞬間、スペースの視界にあるものが見えた。それは、結婚して10年近くになる妻の顔と、やっと小学校に上がったばかりの息子の顔。2つの顔が歪み、泣き顔になる。
その時、スペースの心に強い意志が宿った。
「駄目だ! こんなとこで……死んで、死んで堪るか!」
スペースは思い切り舌を噛んだ。その痛みにより、遠のきかけた意識を無理矢理現実に引き戻す。
「絶対に死なん! 死んでなるものか!
俺は……俺は、生きるぞぉぉぉぉぉ!!」
口に出して叫び、彼は生還の決意を新たにする。
状況は絶望的だ。さっきの敵の機銃掃射によってエンジンは完全にお釈迦になってしまい、弱々しくも回っていたプロペラが完全に停止してしまった。こうなっては、「アンタレス」もグライダーよろしく滑空しかできない。また、エンジン・オイルが風防ガラスを一面真っ黒にしてしまったため、コクピット内の前方視界は最悪の状態だ。機体の外にいちいち顔を突き出さなければ、前方が見えない。止めに、スペース自身が頭と右手に負傷してしまい、意識が飛びかけている上に右手がなかなか言うことを聞かない。詰み、と表現しても良かった。
だが、スペースに諦めるつもりは毛頭ない。
「下は……多少起伏があるようだが、平地か。なら、まだマシか!」
大地の様子を確認し、スペースはわずかに希望を見出した。わざと風防を開けっ放しにし、冷たい空気をコクピット内に送り込んで意識を現世に繋ぎ止めようとする。
現在の高度、約2,000メートル。
「正しい姿勢……」
教練で習ったことを思い出し、彼は機体の着陸脚を下ろすと、体重を背中の方にかけて、綺麗な三点着陸の姿勢を取った。そして、渾身の力で操縦桿を引き続ける。
「力は、抜かない……!」
激しい痛みに、声が震える。右手が言うことを聞かない現状、使えるのは左手のみだ。そして一瞬たりとも操縦桿を引く手を緩めてはならない。緩めたが最後、エンジンの重みで機体は機首を下にして……つまり真っ逆さまに墜落し、大地に叩きつけられてペシャンコになるだろう。そうなれば、自分の人生もそこまでだ。
何としてでも、操縦桿を引き続けなければならない。先の被弾で操縦桿と尾翼を繋ぐワイヤーが切断されなかったのは、奇跡だと言っても良いだろう。
「絶対に、死んでなるものか……! 生きて、生きて帰ってやる……!」
その執念だけで、彼は最後の力を振り絞って操縦桿を引き続けた。
だんだんと雲が高くなり、周囲の山々もコクピットからの視界に入るようになってくる。だが、そんなことには委細構わなかった。彼の全神経は、ただ左手の中にある操縦桿にのみ注がれていた。
どれだけの時間が経ったのか、不意にドスンという鈍い響きと共に、強烈な衝撃が機体を突き上げた。その瞬間、スペースは全ての力を使い果たし、意識を失ってしまった。
スペースが不時着への努力を続けている間に、空の戦場ではいよいよ戦闘が激化していた。
直掩隊の「アンタレス」は、必死に「飛燕」と戦ったものの、数の差と敵機の速度差、そして搭乗員の練度で翻弄され、次第にその数を減らしていく。当然のことながら、爆撃機を護衛するなんて余裕はなく、直掩隊の守りを突破した「飛燕」の一部とムー航空隊の戦闘機は、ベガ型双発爆撃機に襲いかかった。
第21航空隊の「ベガ」は編隊を密にすると、機体各部の旋回機銃で必死の応戦を図った。だが、「ベガ」が搭載している機銃は基本的に7.7㎜機銃であり、かなり非力である。その非力な機銃では、「飛燕」は止められなかった。
編隊の前上方から突入した「飛燕」が、両翼に発射炎を閃かせる。真っ赤な火箭が「ベガ」の右主翼を一薙ぎした、と思った瞬間に大爆発が起こり、「ベガ」は右主翼を根本からへし折られ、死の舞を踊りながら墜落し始めた。続いて、編隊の先頭にいた嚮導機が正面から「飛燕」の主翼20㎜機銃による掃射を喰らい、コクピットを粉砕されて墜ちていく。
今回出撃した「飛燕」は、一型丙。その両翼には、いつも「飛燕」が装備している12.7㎜機銃ではなく、20㎜機銃が据え付けられている。しかもただの20㎜機銃ではなく、MG151 20㎜機銃……いわゆる「マウザー砲」だ。
つまり何が言いたいかというと……この「飛燕」は、アレを撃てるのだ。そう、かのドイツの科学技術の結晶「薄殻榴弾」を!
この「薄殻榴弾」は、従来の同クラスの機銃弾に比べて圧倒的に多い炸薬を詰め込んでいるため、一度炸裂すれば凄まじい威力を発揮できる。その威力は、分厚い防弾装甲で鎧った重爆撃機にすら、一撃で致命傷を与え得るほどだ。ドイツの科学技術はァァァ世界一ィィィィィィー!!!
そんな代物をぶっ放された中型爆撃機「ベガ」の末路は、想像するまでもない。尖った機首を持つ「飛燕」が、獲物に向かって突っ込む隼のように急降下し、両翼から薄殻榴弾を叩き込む度に、ベガ型双発爆撃機は1機また1機と火を噴いて編隊から落伍し、あるいは主翼を叩き折られ、あるいは尾翼を丸ごと吹っ飛ばされて墜落する。「飛燕」の攻撃でエンジンや主翼、尾翼を射抜かれ、編隊から落伍した「ベガ」には、
「アンタレス」は必死で「ベガ」を守ろうとするが、そうは問屋が卸すまいと「飛燕」ががっちり食らいつく。そのため、「アンタレス」は直掩機としての任務を十分に果たすことができない。
「ロデニウスの連中が、上手く敵戦闘機を封じ込めてくれている……! なら、俺たちもできるってとこを見せてやらなきゃな!」
ムー統括空軍のパイロットの1人ジャック・メルティマ飛行兵曹は、愛機「アラル」の操縦桿を繰りながら呟いた。
彼の兄ジャン・メルティマ少佐(戦死後2階級特進)は、あのバルチスタ沖の戦いで戦死してしまっている。その兄の敵討ちを果たす絶好の機会だとばかり、彼はグラ・バルカス帝国の航空機撃墜に執念を燃やしていた。
戦場を俯瞰した彼は、前方で敵の双発機のうち1機が、編隊からやや離れていることに気付いた。どうやら、その機は周辺にいた僚機をやられてしまい、一時的に孤立しているようだ。
(現状、敵機と俺はすれ違う針路を取っている。……やるか!)
彼は操縦桿を奥に倒し、機体を前傾させて急降下を開始した。ただし、急降下と言っても降下角度は40度程度である。
重力を味方につけた「アラル」は、時速450㎞という高速で飛び、機体はガタガタと振動する。風切り音が鼓膜を震わせる中、メルティマ(弟)は敵機に機銃の照準を合わせる。
(「アラル」の7.92㎜機銃は、お世辞にも威力が高いとは言えない。そして、俺はこれまでにロデニウスの戦闘機隊の戦術を見てきている。そこから判断すると……敵の爆撃機を撃墜するために狙う箇所はたった1つ、エンジンだけだ!)
これまでの「飛燕」の行動を観察していると、彼らは敵爆撃機のエンジンか主翼の付け根、尾翼、もしくはコクピットを狙って攻撃している。コクピットは防弾ガラスがはめ込んである可能性があるし、主翼付け根や尾翼は7.92㎜機銃で破壊できるか怪しい。となれば……狙うべき箇所はたった1つしかなかった。
(よく狙って……)
照準器の中で拡大する敵機を、メルティマはじっと見詰める。敵機はこちらには気付かずに、別方向から突っ込んでくる「アラル」に注意を取られているようだ。
そして、
「ここだ! 墜ちろ!」
罵声と共に、メルティマはトリガーを引いた。
タタタタタ……
軽快な連続音がして、機首の同軸7.92㎜機銃2丁が細い火箭を吐き出す。発射された曳光弾は、敵機の右主翼に設けられたエンジンに次々と突き刺さった。
「兄貴の仇だ! 墜ちろ! くたばれぇぇぇぇぇぇ!!!」
引き金を引き続けながら、メルティマは雄叫びを上げる。口径7.92㎜の弾は吸い込まれるようにして、敵機のエンジンに次々と突き刺さる。火花が散る様子も見えた。
どれだけの弾を撃ち込んだだろうか、不意にボンッ! と大きな音がしたと思う間もなく、敵機の右エンジンが炎に包まれ、破片が八方に飛び散る。それを間近に見る格好で、メルティマの「アラル」は敵機とすれ違う。
「よーし、エンジンぶっ壊してやったぜ!」
メルティマはさっと後ろを振り返り、自分の戦果を確認した。
と、メルティマがエンジンを破壊した敵機は、左に傾いているではないか。そしてついには、機首を下げると急速に高度を下げていった。どうやらバランスを崩しているらしい。そのまま機首を引き上げることもなく、敵機は大地に激突し、盛大な火柱を噴き上げて爆発した。
「や……やった……!」
メルティマは思わずガッツポーズを取った。
彼はほぼ単独で、それもグラ・バルカス帝国機に比べれば貧弱な火力しか持たない「アラル」で、爆撃機とはいえ1機を撃墜したのだ。これは快挙だと言えるだろう。
(仇は討ったよ、兄貴……!)
そう考えた刹那、メルティマの背筋にぞわっと鳥肌が立った。同時に、彼は鋭い殺気を感じた。
「!!」
振り返った彼の視界に飛び込んできたのは、こちらに機首を向けた敵戦闘機。しかも、もう機銃の射程内にメルティマ機を捉えている。ロデニウスの戦闘機を振り切って、こちらに駆けつけてきたらしい。
若いパイロットがやりがちなミスを、
(しまった……! 親父、母さん、兄貴、ごめん……今からそっちに逝くわ……)
そう思ったメルティマは、生還を諦めて目を閉じた。
機銃の連続した発射音、そして爆発音が響く。
「……あれ?」
撃墜されるものと覚悟していたメルティマは、あることに気付いた。
確かに機銃の連射音は聞いたし、爆発音も耳に届いた。だが、彼の機体に被弾の衝撃は走っていない。
目を開けてみると、彼の機体の計器はどれも正常値を示している。
(何だ?)
後方を振り返ったメルティマの視界に飛び込んだのは、爆発四散して大地に墜ちていく敵機と……急降下を仕掛ける、太い胴体を持つ単葉機だった。
「え……?」
メルティマが事情を理解できずにいる間に、突然現れた単葉機は速度を落とし、メルティマ機の左に占位する。そこでようやく、彼は気付いた。単葉機の胴体に描かれている赤い円に。
「あのマークは、ロデニウスの……? そうか!」
メルティマはやっと状況を飲み込んだ。高空で敵戦闘機と戦っていたロデニウスの機体が、こちらにやってきたのだ。どうやら上空の敵機を全滅させ、こちらに加勢してきたらしい。
メルティマ機に並走するロデニウスの戦闘機、そのコクピットでチカチカと白い光が点滅する。発光信号を送ってきたのだ。
「『大丈夫か』……ちくしょう、俺もまだ未熟だったな」
恥入りつつも、メルティマは発光信号で返事をする。
『謝す(大丈夫だ、ありがとう)』
メルティマが信号を送り終えると、ロデニウスの戦闘機は返事の代わりなのか機体をバンクさせた。そして一瞬でメルティマ機を追い越し、まだ残っている敵の爆撃機へと突っ込んでいく。
「そうか、戦いはまだ終わっちゃいない。生きて帰らなきゃな……」
今後は、周囲に特に注意しようと考えるメルティマだった。
敵機に狙われていた「アラル」を救出し、そのパイロットと発光信号による通信を交わした「紫電改二」搭乗員妖精は、敵の双発爆撃機のうち1機に機首を向けながら呟いた。
「ったく、未熟だぜバカヤロウ……」
確かに、戦場というどこから機銃弾が飛んでくるか分からない状況下で、目の前の敵に意識を集中しすぎるのは、命取りになる。
「だが、ムーにもあんなパイロットがいるのか。やるじゃねえかコノヤロウ……」
だが同時に、あのパイロットはムー統括軍の「希望の星」になったはずだ。自分たちでも、ほぼ単独でグラ・バルカス帝国機を撃墜できるのだ、という実績を示したことで。
「なら、俺たちも負ける訳にゃあ行かねえな!」
妖精の目の前には、機体各部から旋回機銃による弾幕を飛ばしながら必死に逃げ惑う敵爆撃機の姿がある。既に機銃の射程内に入っていた。
「墜ちやがれバカヤロウ!」
主翼に装備された4丁の20㎜機銃が火を噴く。放たれた弾丸は、敵爆撃機の左の主翼に次々と命中した。
敵機の左エンジンが爆発し、左主翼全体に炎が回った敵機は、悲鳴じみた音を発しながら傾いて墜ちていく。
「地獄に落ちろコノヤロウ!」
妖精は、次の獲物を探し始めた。
グラ・バルカス帝国の誇った「無敵の戦闘機」アンタレス07式艦上戦闘機は、「三式戦闘機 飛燕」と「紫電改二」の猛攻の前に全滅。丸裸にされたベガ型双発爆撃機は、何とかしてドーソン基地に接近しようとしたのだが、ドーソン基地を目視圏内に捉えたところが限界だった。
護衛戦闘機のいない爆撃隊など、高速かつ重火力を持つ
「何だ、あれは……?」
ベガ型双発爆撃機搭乗員の中には、ドーソン基地に並び立つ奇妙な白黒塗装の鉄塔を発見した者もいた。何とも言えない妙な形状をしており、これまで見たことがない代物だ。何に使うのかは分からないが、敵の基地に築かれている以上何らかの目的で使われる設備であるに違いない。なら、破壊するのみだ。
しかし、ここから先へは絶対に行かせない、とばかりに「マリン」、「アラル」、「飛燕」、「紫電改二」が飛び回る。護衛戦闘機を全て失った「ベガ」にとっては、
しかも、ここにきて新たな迎撃戦闘機が現れた。
ゴオオオオーッ!!
不意に、それまでのレシプロエンジンの音とは全く異なる轟音が響く。次の瞬間、
バリバリバリバリバリ!!
ドガァーン!
落雷のような音と共にこれまでで最も太い火箭が撃ち下ろされ、1機の「ベガ」がたった一撃で左の主翼をへし折られた。一撃を喰らった「ベガ」は死の舞を舞いながら、ムー大陸の大地に墜落していく。さらにもう1機の「ベガ」が、正面上方から極太の火箭を浴びせられ、コクピットを爆砕されて高度を落とす。
その時、黒い2個の飛行物体が高速で空を駆け抜けた。それを見た「ベガ」搭乗員たちはぎょっとした。
それは、2機の航空機だった。プロペラも水平尾翼もないという異形のその機体は、後方から1本の炎を噴き出し、猛烈な速度で飛び回る。
「何だあいつは!? 圧倒的に速い!」
「プロペラがないぞ!」
「速すぎる! もう後ろに……!」
恐慌状態に陥る「ベガ」搭乗員たち。
突如現れたこの異形の機体は、その名を「Me163B改 コメート」という。コメートとはドイツ語で「彗星」だ。第二次世界大戦時に、世界初の実用ロケット戦闘機として作られた機体である。
飛行可能時間がたった8分しかなく、使い勝手の悪い機体ではあるのだが、わずか3分で成層圏に到達できる凄まじい上昇能力、最高時速1,000㎞という
強力なレシプロ迎撃戦闘機に加えて、コメート改という常識外の存在まで現れたことで、グラ・バルカス帝国航空隊の隊員たちの心は完全にへし折られた。
そしてついに、「ベガ」のうち1機が編隊から離れ、反転して逃走し始めた。士気を失ったのである。それを皮切りに、これまで緊密に組まれていた「ベガ」の編隊は一気に崩れ去り、各々がばらばらに飛行するようになってしまった。損耗率の高さと絶望的戦況のために統制が崩壊し、作戦遂行能力を失ったのだ。
だが、ロデニウス海軍第12航空艦隊の面々は、「
そしてついに、ドーソン基地に向かってきた「アンタレス」も「ベガ」も、1機残らず撃墜され、グラ・バルカス帝国軍攻撃隊は文字通りに全滅してしまった。それは、これまで連戦連勝を重ね続けたアンタレス07式艦上戦闘機の無敵神話にはっきりと終止符を打つものであったと同時に、この世界に来て以来初のグラ・バルカス帝国前線部隊航空隊の大敗であった。
[今回の空戦における双方の損害]
(グラ・バルカス帝国)
アンタレス07式艦上戦闘機 40機喪失
ベガ型双発爆撃機 54機喪失(ベガ型は「九七式重爆撃機」に相当)
搭乗員 全員未帰還(内11名はムー国の捕虜となる。残りは戦死)
(ムー国)
37型艦上戦闘機「マリン」 12機喪失
40型艦上戦闘機「アラル」 4機喪失
搭乗員 9名戦死、3名負傷
(ロデニウス連合王国)
三式戦闘機「飛燕」 3機喪失、2機損傷(帰還後に再出撃不可と判定)
艦上戦闘機「紫電改二」 2機喪失、1機着陸時に大破(なお大破したのは”菅野 直”の機体である。さすが「デストロイヤー菅野」。)
搭乗員 3名戦死、1名負傷
「ドーソン基地司令部より報告! 『我が航空隊は、敵攻撃隊を殲滅せり』!」
この一報を受け取るや、ムー国の首都オタハイトに築かれた第二文明圏連合軍総司令部は、直ちにキールセキ駐屯地とエヌビア基地、それにドーソン基地に対して命令を発した。
「各基地に命じる。計画に従い、直ちに『剣閃作戦』を開始せよ。攻撃目標、アルー西方30㎞に位置する敵バルクルス基地。グラ・バルカス帝国に、我らの怒りを思い知らせてやるのだ!」
ここに、グラ・バルカス帝国への反撃は始まった。
「ただいまを以て、『剣閃作戦』を発動する!
攻撃開始! 攻撃開始!」
「発射10秒前! 9、8、7、6、5、4」
「ロケットエンジン点火!」
「3、2、1、発射! リフトオフ!」
ゴオオオオォォォォ!!!!
帰還してきた戦闘機隊の姿が地平線付近に見え始めた頃、ドーソン基地では凄まじい轟音と大量の煙とを残して、10発の「RV-2」が空に飛び上がっていく。その隣でも、10基のカタパルトから「RV-1」が一斉に発射されていた。発射された「RV-2」が、白い煙を噴いて青空に消えていく。
「RV-1、RV-2全弾発射、正常飛行を確認! 次弾装填急げ!」
無線で指示を出しているのは、ロデニウス第13艦隊最大の懐刀、改舞鶴型移動工廠艦の艦娘"釧路"である。
実はこの「RV-1」のカタパルトと「RV-2」の発射台は、全て"釧路"とロデニウス戦略航空軍お抱えの工兵隊員たちが設置したものである。昼夜兼行での作業を"釧路"が手伝った結果、僅か2週間で「RV-1」の発射カタパルト10基と「RV-2」の発射台10基を建設するという、恐ろしいほどの偉業を彼らは成し遂げてしまっていた。
既に燃料が充填されているRV-2ロケットが、慎重に慎重を重ねて発射台にセットされていく。同時に工兵隊員たちは大急ぎでRV-1飛行爆弾をカタパルトに据え付ける。また、ドーソン基地の滑走路からは、これまで待機していた18機の「紫電改ニ」が順次飛び立ち、「RV-1」を護衛してバルクルス基地へと向かっていく。
蒼空からの鉄槌が、バルクルス基地に振り下ろされようとしていた。
同時刻、エヌビア基地。
作戦開始を告げるブザーが響き、パイロットたちは一斉に愛機へと駆け出していく。そんな中、ムー国のパイロットの1人であるパーテリムは、いち早く愛機の「マリン」戦闘機に乗り込み、エンジンをかけていた。
滑走路を見ると、第一次攻撃に呼応して制空権を確保すべく、灰色に塗装されたロデニウス連合王国の戦闘機がゆっくりと滑走路に進出している。今から発進するのだ。
「ロデニウスの戦闘機か……手伝ってくれるのはありがたいが、ムー国は儂が守る!」
パーテリムは呟いた。
ベテランパイロットの1人にして、愛国心も人一倍強い彼は、ムー国の技術の結晶たる「マリン」戦闘機を信頼しきっており、そう簡単にグラ・バルカス帝国の戦闘機に遅れを取るなどとは微塵も考えていない。第二段階の攻撃に備えて、今のうちにエンジンを温めておかなければ……
その時だった。
ゴオオオオォォォォーッ!!
雷でも落ちたかと錯覚するような轟音が轟いた。そして、さっきまでゆっくりと滑走路を進んでいたロデニウスの灰色の戦闘機……「F-86D改 セイバードッグ」が、信じられないほどの加速力を発揮して滑走路を走る。その速度は「マリン」を遥かに超えており、もはや別次元のそれとなっていた。
勢いをつけたロデニウスの戦闘機は、滑走路を蹴飛ばすようにして大空へと舞い上がる。そして、尾部から1本の炎を噴き出しながらあっという間に高空まで飛び上がり、視界から消えていった。それに比例して轟音……ジェットエンジンの咆哮も小さくなっていく。
「な……何だあれは!? 次元が違いすぎる……化け物か!?」
信じられないものを見た、という表情でパーテリムは呟いた。
パーテリムが「F-86D改」に驚いている時には、既に「B-29改 スーパーフォートレス」が暖機運転を開始しており、ムー国の「マリン」「アラル」といった戦闘機や、「ソードフィッシュ」爆撃機もエンジンを始動し始めている。他国の兵たちも火喰い鳥やワイバーンに搭乗し始めた。
第二次攻撃の準備は、着々と進んでいた。
「ムー統括軍司令部から報告。第二次攻撃隊、発進準備良し」
「ドーソン基地から報告。RV-1、RV-2、全弾発射完了しました」
ムー国西部の要衝である鉄道都市キールセキ。その街の近くにあるムー統括軍エヌビア基地司令部の一室を借りて仕事をしていた堺の元に、妖精たちから報告が届いた。
「始まったか……」
書類仕事をしていた彼は、机から一時視線を上げ、妖精たちの顔を見る。そして、傍らに控えていた"あきつ丸"に声をかけた。
「問題は、弾道ミサイルが上手く命中してくれるかどうか、だな」
「は、釧路殿によれば誤差は大分抑えられるようになったとのことですが、何分誤差が全くない訳ではありませんからな。そこは釧路殿とえんじにあ妖精たちを信じて、運を天に任せましょう」
「そうだな」
"あきつ丸"に頷き、堺は妖精たちに向き直った。
「報告ありがとう。下がって良いよ」
妖精たちはびしっと敬礼すると、部屋から出て行った。
「さて……」
堺は部屋の窓から外を見やって、独り言のように口を開く。
「第二文明圏連合軍全軍を挙げての、ムー大陸陸上における総反攻作戦、そしてムー大陸西方の海上に展開しているグラ・バルカス帝国艦隊を撃破し、制空権・制海権を取り戻す大規模作戦……仕事だけは多いなぁ。
グラ・バルカス帝国陸軍はムー大陸各国の軍では絶対に勝てない相手だから、どうしたってこっちが介入するしかないし、海軍は尚更だ。全く、いつになったら激務から解放されるのかね」
「提督殿、愚痴を言っている暇があるなら、その暇を使ってさっさと仕事を終わらせてしまえば良いであります。海軍のことはとんと分からないことが多いですが、陸軍のことでしたらお手伝いできるでありますので」
堺の独り言に"あきつ丸"がツッコんだ。
「ああ……そうだな。それじゃ、1杯の紅茶だけもらってから、総司令部に移動するとしますかね」
堺の机の上には、幾つもの書類が積み重なって机の天板が見えなくなりつつあった。時々"あきつ丸"が整理しているのだが、ふと気付くといつの間にやらこうなってしまう。
書類の山の上から2番目に置かれた書類には、ロデニウス海軍第13艦隊の戦力を総動員してのグラ・バルカス帝国艦隊討伐作戦が記されていた。表紙が隠れているため、表題は確認できない。
また、書類の山の一番下に少し埋もれるようにして、ムー大陸陸上における総反攻作戦の計画書が置かれていた。積み上がった書類で隠されているため、表題の最初の2文字が確認できない状態になっていたが、ともかく表題にはこのように書いてあった。
「○○ラチオ作戦」
以上、ドーソン基地航空戦でした。
防御戦を成功させ、返す刀でバルクルス攻略作戦「剣閃作戦」を発動する第二文明圏連合軍。果たして作戦は上手くいくのか……?
また、撃墜されてしまったスペースは、果たして生きているのか……
本編で登場したロケット戦闘機「Me163B コメート」ですが、この機に付けられた「恐怖の彗星」というあだ名は、史実とは意味が違います。
第二次世界大戦時のナチスが開発したコメート、それに付けられた「恐怖の彗星」は、「(味方にとっての)恐怖の彗星」でした。と言いますのも、燃料に使うヒドラジンがあまりに危険すぎて、「漏れ出したヒドラジンで人間が溶けた」という報告が何件も寄せられているのです。
しかしここでは、出来うる限りの安全対策を施された上で、文字通り「(敵に死を与える)恐怖の彗星」として大活躍です。
そして最後の作戦計画書のネーミングで「いやその隠し方は駄目だろ」と思った人、もしくはニヤついた人は、感想欄にて「駄目だ!」と叫んでください。
UA78万まであと少し、そして総合評価9,800ポイント目前!! ご愛読、本当にありがとうございます!
評価9をくださいました星野楓様、starship様
評価10をくださいましたgasherbrum様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
攻撃隊からの報告が全く届いていないため、出撃した部隊の状況を露知らぬバルクルス基地。そこに、第二文明圏連合軍の反撃が襲いかかる。その先鋒を務めるのはロデニウス軍の新兵器、大型ロケット兵器だった……!
次回「『剣閃作戦』! バルクルスを攻撃せよ!」