鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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久しぶりの投稿でございます。
さーて、「剣閃作戦」もいよいよ終盤。ロデニウス軍空挺部隊と、グラ・バルカス帝国陸軍との戦闘です!



143. 決着!「剣閃作戦」!

 中央暦1643年5月1日、ムー大陸旧ヒノマワリ王国領(現グラ・バルカス帝国領ヒノマワリ州)東部 グラ・バルカス帝国軍前線基地バルクルス。

 対ムー国侵攻の最前線基地としてグラ・バルカス帝国が建設したこの星型基地は今、黒煙をもうもうと噴き上げる破壊と死の地と化していた。建物はそのほとんどが空爆(と弾道ロケットによる攻撃)によって破壊され、土台だけ残してバラバラにされた建物も少なくない。あちこちに黒く焦げた遺体が散らばり、真っ黒に焦げて不整地と化した地面も相俟って、凄惨極まりない様相である。

 そしてその上空には、多数の複葉機と竜……ムー国が出撃させた爆撃隊と、ニグラート連合やマギカライヒ共同体、ソナル王国が繰り出したワイバーンやワイバーンロードからなる竜騎士団が乱舞している。いずれも第二文明圏連合軍だ。

 ムー国の爆撃隊は既に投弾を終えて引き上げつつあったが、竜はまだバルクルス上空に留まっている。これから空挺降下が行われるため、その上空直掩に当たっているのだ。

 そして今、30機の「一式陸上輸送機改」からロデニウス連合王国軍・第1空挺団がバルクルスに降下しつつあった。

 

 パラシュートを開き、空から舞い降りてくるロデニウス連合王国軍・第1空挺団の兵士たち。彼らはバルクルス基地のすぐ外にある野原に着地すると、素早くパラシュートを外し、武器を入れた容器を難なく担ぎ上げ、茂みや岩の陰に移動して安全を確保しようとする。日本国タウイタウイ泊地の空挺部隊にしごかれ、訓練に訓練を重ねた彼らは、実戦経験はないとはいえ、今や立派な兵士であった。

 安全な場所に移動した彼らは、容器を開けて武器を取り出す。出てきた武器の多くはMP40であったが……その中に、MP40とはやや異なる形状の銃が入っていた。それを掴んだ兵士の1人が呟く。

 

「いよいよこいつの実戦デビューか。頼むぜ……StG44-R」

 

 そう、それはドイツの突撃銃にして史上初の本格的なアサルトライフル、StG44……の軽量改修型であった。

 MP40は連射性はあるものの、拳銃であるワルサーP38と同じ9㎜パラベラム弾を使用しているため、有効射程が100メートル程度と短い。また、今の主力小銃である「M40GRG ガラント銃」は、有効射程は長いが短機関銃のような連射はできず、また銃身が長いため、室内のような狭い場所では取り回しが良くない。StG44-Rは、その両者の欠点を改善した本格的なアサルトライフルであった。

 StG44-Rの有効射程距離は400メートルあり、これは通常のボルトアクション式ライフル銃やセミオートマチックライフルに比べても遜色ない性能である。十分に小銃として通用するものがあった。また、それらの小銃とは異なり、機関銃ばりの連射性もある。非常に強力な銃である……軽量化したとはいえ少々重いのが欠点だが。

 

 StG44-R、あるいはMP40を手にして、彼らはバルクルス基地へと足を踏み入れた。周囲に動くものは何もなく、空襲や導力火炎弾によって辺りは焼き払われており、有機物、特に人間の身体が焼け焦げる嫌な臭いが鼻につく。

 

「うえぇ……」

 

 数人の兵が口元を押さえて小さく呻いた。初実戦にして初めて死臭(少し異なるが)を嗅いだのだ、無理もない。

 だが、この先彼らが出くわすのはそんな光景ばかりであろう。つまりは「筆下ろし」ができた、というわけである。

 大声を出すことなく、彼らは周囲を索敵し、一部の者はヘルメットの上から付けた暗視ゴーグルを付け始める。初実戦であるためだろう、動きにやや硬いところはあるが、それでも彼らは比較的スムーズに展開し、そして難なく地下への入り口を見つけ出した。

 

『こちら2中隊、現在位置ポイントC-4。地下への入り口を発見。これより爆薬をセット、30秒で起爆する』

『こちら1中隊、了解。3中隊、現在位置知らせ』

『3中隊より1中隊、現在位置ポイントD-4です、どうぞ』

『1中隊了解。速やかにC-4へ移動せよ』

 

 彼らはタウイタウイ謹製の骨伝導イヤホンを用い、ほとんど声を出すことなく報告と連絡を行っていく。そして音もなく地下への入り口に移動しようとした。

 だがその時、ガラガラ、キュラキュラという妙な音が彼らの耳に入る。何かがこすれ合うような音だ。これはいったい何の音か。

 その音の正体に団員たちが気付いた直後、無線機から切迫した声が飛び出してきた。

 

『こちら2中隊! C-3に敵戦車、数1!』

『こちら3中隊、敵戦車2輌発見! ポイントD-3だ! これより交戦!』

 

 その通信が飛んだ時には、団員たちは素早く周囲の状況を把握し、手近な瓦礫の陰に飛び込んでいた。一瞬遅れて、タタタタという連続音と共に土煙と瓦礫の破片が線状に舞い上がる。

 そう、グラ・バルカス帝国の戦車が、ほんの少数ながら生き残っていたのだ。今空挺団員たちに発砲してきたのは、九五式軽戦車ハ号に似た見た目の戦車……「2号軽戦車シェイファーII」である。砲塔背面の機銃を撃ってきたのだ。

 

「PF! PF持ってこい!」

 

 第2中隊の隊長が叫び、即座に隊員の1人が奇妙な武器を取り出す。金属製の筒の先端に球体を取り付けたような形状の武器……持ち込んだ武器の1つ、パンツァーファウストだ。素早くフロントサイトが起こされ、発射準備が整えられる。

 その間に、上空を飛んでいたニグラート連合竜騎士団のワイバーンが急降下し、導力火炎弾をシェイファーIIに撃ち込んだ。高温を伴う真っ赤な炎が広がるが、戦車は何事もなかったかのように駆動し続けている。やはりというべきか、導力火炎弾では貫徹力不足だ。

 

「後方の安全確認!」

 

 パンツァーファウストは、高圧の燃焼ガスの力で弾頭を撃ち出す兵器だ。当然ながら、後方には強力なバックブラストが発生する。射手の後方にいる場合、10メートル以上は離れておかないと、噴き出したガスの炎によって上手に焼かれてしまう。

 

「撃て!」

 

 瞬間、オレンジ色のけばけばしい炎が発生した。バックブラストも鮮やかに撃ち出された弾頭は、緩やかな放物線を描いて飛翔し、見事にシェイファーIIを直撃した。その途端、シェイファーIIの車体前面に大きな穴が開き、次いで凄まじい爆発と共に砲塔が空高く飛び上がる。

 パンツァーファウストの弾頭は成形炸薬弾となっており、着弾すると前方に向けて高温高圧のジェットを放ち、命中した物体を破壊する仕掛けになっている。その貫徹力は高く、なんと200㎜の厚さの鉄板にすら穴を開けるレベルである。そんな代物を撃ち込まれては、たった12㎜の装甲しか持たないシェイファーIIに耐えられる道理がない。

 パンツァーファウストの弾頭から放たれたジェットは、難なくシェイファーIIの車体前面装甲を貫通。そして弾火薬庫の誘爆を引き起こした。このため、シェイファーIIは砲塔が高く飛び上がるほどの爆発を起こし、一瞬で火だるまとなったのである。

 

「クリア!」

「前進!」

 

 あっさりと脅威を排除し、第2中隊は今度こそ地下への入り口を目指す。

 

 一方、第3中隊が接敵していたのは2輌の「2号中戦車 ハウンドI」だった。旧日本陸軍の「九七式中戦車チハ」に似た見た目と性能を持つ戦車である。2輌とも、車載機関銃2丁を振り回して応戦していた。

 第二次世界大戦当時の地球においては、九七式中戦車チハは歩兵に対しては有効な兵器たり得る戦車であった。そのため、チハに似た性能を持つハウンドIも、空挺団員という歩兵部隊に対しては優位に戦えると思われた。だが……悲しいかな、それは敵歩兵が対戦車兵器を携行していなかった場合に限られた。

 

「後方の安全確認!」

「撃てぇっ!」

 

 号令一下、発射されたパンツァーファウストには耐えられず、1輌のハウンドIが装甲を貫徹される。その途端、砲塔上ハッチから凄まじい勢いで火柱が立ち昇り、若木を数十本まとめて折ったような音がし始めた。弾火薬庫に引火してしまったのである。車内は炎が烈風のごとく荒れ狂い、乗り込んでいた兵士たちは全員が等しく炎に呑まれてしまったことだろう。

 

「マルタ! ああ、くそっ!」

 

 そして残り1輌のハウンドIの車内では、車長を務めるモント・セラト軍曹が悲痛な叫び声を上げていた。彼の戦友であるマルタ軍曹のハウンドIが、やられてしまったのである。

 

「敵の数が……多い……!」

 

 モントが乗るハウンドIの運転手ジブラ・ルタル伍長も、歯を食いしばって必死に運転している。

 あの地獄のような空爆と謎の攻撃(と、モントやジブラは思っているが、正体は超音速弾道ロケットによる攻撃である)を潜り抜けた第4師団の戦車は、非常に少ない。ハウンドシリーズとシェイファーIIを合わせても、片手の指で数えられそうなほどしか生き残れなかった。その僅かな生き残りも、信じがたいことに敵歩兵の攻撃によって失われていく。

 シェイファーはともかく、ハウンドシリーズはグラ・バルカス帝国では「無敵の戦車」と考えられていた。そしてモントやジブラも、それを信じて疑っていなかった。

 

 だというのに、これは何だ?

 歩兵の武器によって、無敵のはずのハウンドシリーズが屠られているではないか。

 

(我が帝国のハウンド中戦車は、最強無敵ではなかったのか!?)

 

 焦りが募る状況の中、モントの脳裏にはそんな思いが渦巻き続けていた。だがそれは、突如として停止した。

 

ズガァン!!!

 

 突然、鋭い金属音と共に、それまで経験したことのない衝撃が襲ってきたのである。

 

「がっ……!」

 

 その瞬間、強い衝撃を受けたモントは、そこで意識を手放してしまった。

 

 どれだけの時間が経ったのだろうか。

 

「うう……あ……?」

 

 ふと目を覚ましたモントは、気付いた。てっきりここは天国だと思っていたのだが、よく見ると自分は戦車の中にいるらしい。

 

「生きてる、のか……?」

 

 未だ実感を持ちきれぬモントが呟いた時、

 

「うう……車長……」

 

 運転席から投げ出されていたジブラが、ちょうど意識を取り戻したところだった。その声でようやく事態を理解したモントは、改めて自分たちが置かれた状況を確認……しようとして気付いた。

 モント自身とジブラの他には、生きている者はいない。一緒に乗っていた砲手や通信手は、床に流れた血の池の中で息絶えてしまっている。また、車体前面には大きな穴が開き、外が見えていた。そしてどこからか、焦げくさい臭いが漂ってくる。明らかに火災が発生していた。しかもエンジンが故障したらしく、戦車はぴくりとも動かない。

 

「ジブラ! 脱出するぞ!」

「はっ、はい!」

 

 慌てて脱出するモントとジブラ。ジブラは、元々モントをいけすかない上司だと思っていたが、今回ばかりは素直に彼の言うことに従った。

 しかし戦車の外に出たところで、2人は無数の銃口に出迎えられる羽目になった。

 

「動くな。両手を上げて地面に膝をつけ」

 

 冷たい声で、降伏が勧告される。

 戦車という狭い空間の中で動くことになっていたモントとジブラは、拳銃やナイフこそ持っているものの、どちらもリーチが短く、彼我の人数差もあってこの状況では心許ない。しかも相手は明らかに機関銃を装備しており、火力の点で全く対抗できなかった。

 

「分かった……降伏しよう」

 

 モントの力無き声を最後に、状況は終了。モントとジブラは、ロデニウス軍の捕虜となった。

 一方のマルタはというと、弾火薬庫を撃ち抜かれて大炎上したハウンドIの中で生きたまま火刑に処されていた。

 

 

 グラ・バルカス帝国陸軍第4師団の生き残りは、進攻してきたロデニウス軍の空挺部隊に対して必死の抵抗を見せたものの、ほとんど勝負にならずにあっという間に制圧されてしまった。地上での細やかな抵抗を排除したロデニウス軍は、ついに最終目標たる地下司令部の制圧を開始する。

 第3中隊が地下入り口に着いた時には、第2中隊は既に爆薬……HC-4のセットを完了していた。

 

『こちら2中隊。発破』

 

 合図が入る。続いて、ドオン! と鋭い爆発音がして、基地の一角から新たな黒煙が上がった。

 

『爆破確認。突入』

 

 ついに、「剣閃作戦」の第3段階が始まった。

 

 

 一方、第2中隊が入り口を爆破するのと同時に、グラ・バルカス帝国軍バルクルス基地の地下司令部には爆発音が遠く響き、不快な振動が伝わっていた。それにより、ガオグゲル以下の一同は何が起きたかを理解する。続いて報告が次々と入ってきた。

 

『第2扉、爆破されました!』

『敵が来るぞ! 総員警戒せよ!』

 

 司令部内では、伝声管を通して報告と指令の声が飛び交う。

 

『こちら第6小隊、これより交戦!』

『第7小隊に警戒指示しました!』

 

 入り口にほど近いところを固めていた歩兵隊員たちが、早くも接敵したらしい。

 

「ついに来たか……ロデニウス軍の歩兵部隊……!」

 

 バルクルス基地副司令のアルノー・ガイア少将が、緊張した面持ちで呟く。その隣では、陸軍空将のヘルダン・パース少将が蒼い顔をしていた。

 その時、

 

「心配するな、ガイア」

 

 基地司令にして第8軍団の指揮官ガオグゲル・キンリーバレッジ中将が、落ち着いた様子でそう言った。

 

「なぜ、心配要らないのですか?」

「よく考えてみろ、確かに敵は歩兵だが、空挺兵だ。

空挺兵はその移動方法の関係上、重装備を持てない。短機関銃はあるかもしれないが、数は多くないはずだ。おそらく奴らの装備は、拳銃などの小火器がメインだろう。

それに、我が国の空挺部隊を見てみろ、彼らの練度はそう高くはない。敵も同じだろう。

ならば、我が軍歩兵が火力と練度の点で優位だ」

「確かに……! さすがは司令官閣下でございます」

 

 ガイアの声に安心の色が戻った時だった。

 

『第6小隊通信途絶! 続いて第7小隊通信途絶!』

『こちら第10小隊。敵兵多数、第6区画に到達! 現在第9小隊が応戦中……くそっ、駄目だ、強い! 第9小隊全滅、これより交戦する!』

 

 司令部要員の耳に飛び込んできた報告は、明らかに味方の旗色が悪いことを知らせるものだった。

 その報告の声に混じり、ダダダダという連続音が多数伝わってくる。明らかに敵の歩兵は、機関銃を持ち込んでいた。しかもその数は多いらしい。ガオグゲルの見込みは、見事に外れたのだ。

 これだけでも、ガオグゲルの焦りを誘発するには十分である。だがそれだけではなく、敵の進軍速度が恐ろしく速いことに気付き、ガオグゲルはさらに焦り始めた。

 

「くそっ、進軍速度が速すぎる! 何故これほどまでにあっさりと!」

 

 司令室では、時折外から銃声が聞こえ始めた。それも、伝声管を通してではなく、壁を通して聞こえるものだ。それに混じって、手榴弾と思しき炸裂音も響く。明らかに敵が侵入している証拠であり、薄暗い中で響き渡る銃声と炸裂音は死の恐怖を加速させる。

 グラ・バルカス帝国陸軍兵は、決して弱兵ではない。皆練度が高い精鋭兵といって差し支えない。

 もし相手が航空機や戦車ならば、技術による圧倒は理解できる。しかし、歩兵は数や練度の差こそあれど、所詮銃を持つか持たないかの違いであり、それほどまでに力の差はつかないはずだった。だが現実には、グラ・バルカス帝国軍の守りは次々と突破されている。

 実はこの原因の1つは、火力の差にあった。グラ・バルカス帝国の歩兵部隊にも短機関銃を持っている者はいるのだが、その数は決して多くはない。歩兵部隊が持っている主力武器は、ボルトアクション式ライフル銃が一般的なのだ。だが、ボルトアクション式銃はその銃身の長さ故に、狭い室内では取り回しが悪い。このため、グラ・バルカス帝国の歩兵たちはライフル銃を敬遠し、拳銃を主武器として戦っていたが……それが裏目に出た。突入してきたロデニウス軍空挺兵たちは、全員が短機関銃か自動小銃を装備しているため、単発撃ちの拳銃では全く対抗できなかったのだ。

 しかも、ロデニウス軍は突入前に必ず魔導スタングレネード……強烈な音響と閃光を発する魔石を核に使用した手榴弾で、相手の視覚、聴覚を中心に強い衝撃を与え、一時的に昏倒させるものである……か、通常型の手榴弾を投げ込んでクリアリングしてくるため、容赦が全くない。

 どれほどの敵が来ているのかすら分からない。情報が不足しすぎなのだ。だがその間にも、敵による制圧が続く。

 

『第19小隊通信途絶!』

 

 暗い部屋に潜んでいる帝国兵もいるにも関わらず、敵はそこに誰もいないかのように突き進んでくる。

 それもそのはずで、ロデニウス連合王国軍・第1空挺団の面々は、暗視ゴーグルを装備しているのだ。これでは暗がりに潜んだところでほとんど意味がない。

 

「何故だ! 何故歩兵レベルでも負けるのだ!!」 

 

 ガオグゲルの理解が追いつかない。

 実はロデニウス軍は、場合によっては敵中に降下しなければならないその任務の性質から、空挺部隊を「最精鋭の兵士で固める」ことを創設時に決定し、厳しい訓練を課し続けてきた。その結果、ロデニウス軍空挺部隊は、同国軍の陸軍歩兵や海兵隊と比較しても頭一つ抜きん出た練度を有する。それに加えて徒手格闘技を含む体術、銃器の扱い、陣地構築術、サバイバル術、潜伏偵察、果ては破壊工作術に至るまで、様々な技能を持たされているのだ。

 その最精鋭部隊をぶつけられたグラ・バルカス帝国陸軍歩兵たちは、火力の差もあって瞬く間に圧倒されていったのであった。

 

 

 戦闘開始から30分後、ついに銃声は司令部の扉のすぐ外から聞こえてくるようになってしまった。

 基地司令ガオグゲルは恐怖に身を震わせつつ、腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。その隣では、ガイア以下司令部に詰めていた面々が拳銃や短機関銃を構えている。どの兵も銃口が震えており、明らかな恐怖と緊張が見て取れた。

 ドアの外で敵兵の気配がする。ドアを爆破しようとしているようだ。

 

「ちくしょう、来るなら来い!」

 

 1人でも多く道連れにしてやる……その一心で、拳銃の銃口を扉に向けるガオグゲル。ガイア、パース、そして幹部たちも、自身の得物を扉に向けていた。

 次の瞬間、

 

ドガアァァァンッ!!!

 

 室内に強烈な爆風と土煙が吹き込んだ……ただし扉からではなく、扉も何もない壁から。

 

「!!?」

 

 ガオグゲルたちが驚愕から立ち直る暇も与えず、ダダダダダダッという連続音と共に、曳光弾の嵐が吹き荒れた。それが収まった時には、

 

「うっ……があぁ……!」

 

 拳銃を手から弾き飛ばされ、ついでに手足を撃たれて床に蹲るガオグゲル、そして自らが流した血の大池の中で息絶えたガイア、パース他幹部たちだけが残された。

 

「ぐああ…っ……!」

 

 これまで経験したことがない激痛に、撃たれた箇所を押さえて床を転げ回るガオグゲル。だが、カチャッという軽い金属音の連なりが、彼の動きを止めさせた。

 

「っ!」

 

 顔だけ上げたガオグゲルの視線の先で、緑の服を着用しヘルメットをかぶった者が彼に銃口を突きつけ、冷たい声で一言発する。

 

「手を挙げろ」

 

 今までに感じたことの無い、明確な死の恐怖がガオグゲルの全身を駆け抜ける。

 目の前の男は、降伏しなければ容赦なく引き金を引くだろう。そう感じさせる気迫があった。

 

「これまでか……降伏する。撃たないでくれよ……化け物どもめ……」

 

 ガオグゲルは両手を挙げた。その両手に金属製の拘束具らしきものがガチャリと嵌められ、続いて彼が所持していた短剣と拳銃が没収される。

 実は、ロデニウス軍の空挺団員たちは敵が扉に銃口を向けているだろうことにはちゃんと気付いていた。その上で、司令部の扉に爆薬を仕掛ける素振りを見せながら、実際は隣の部屋の壁に大量のHC-4爆薬を取り付けて発破。無理やり壁をぶち抜いて突破口を作り出し、意表を突いたのだった。

 

 こうしてガオグゲルは捕らえられ、グラ・バルカス帝国最前線基地バルクルスは司令部を制圧され、基地としての機能を失った。いや、それ以前に更地にせんばかりの勢いで爆撃が行われているから、基地機能などとっくに失われているのだが。

 司令部を失ったグラ・バルカス帝国軍歩兵部隊は、組織だった抵抗が不可能となり、小隊ごとに各個に戦う状態となって、ロデニウス連合王国軍・第1空挺団に各個撃破されていった。

 

 

 

 ロデニウス軍空挺部隊の交戦開始から約1時間半後、バルクルス上空に到着した第二文明圏各国の「剣閃作戦」参加部隊が空挺降下を開始。先陣を切ったのは、ムー統括陸軍の特殊作戦群だった。4発レシプロエンジンの旅客機兼輸送機「ラ・カオス」から飛び降り、ロデニウス軍に続けとばかりにMP40を手にしてバルクルス基地の地下施設へと突入していく。

 それに続くのは、ニグラート連合やマギカライヒ共同体の兵士たちだ。空を飛ぶ大型火喰い鳥の背中から次々と飛び降り、地上へと展開していく。彼らの任務は、地上の守備と監視だ。

 なおこの際、マギカライヒ共同体の新人兵士バラスター二等兵がパラシュートを早めに開いてしまい流される、という事態もあったが、どうということはないので割愛する。

 

 

 そして、弾道ロケットによる攻撃が始まってからおよそ4時間後、グラ・バルカス帝国軍の最後の抵抗勢力が排除され、バルクルス基地にはムー国を中心とする第二文明圏各国の旗が翻った。破壊された司令部の建物をバックに、各国の兵士が自国の国旗を掲げている場面が、記念写真(及び魔写)として残された。

 何しろ、これまでグラ・バルカス帝国の勢力を打ち破った事例がほとんどない。ムー国ですら、グラ・バルカス帝国の陸上侵攻を恐れていたのだ。だが今回の「剣閃作戦」成功により、第二文明圏連合軍はグラ・バルカス帝国のムー大陸侵攻部隊を基地ごと撃滅し、そればかりかグ帝の機先を制したのだ。歴史に残る、輝かしい勝利と言えた。

 

「作戦成功を伝える暗号は、ええと……あった。って、何だこりゃ」

 

 バルクルス基地(ほぼ跡地だが)では、マギカライヒ共同体の通信兵が無線を送ろうとして、暗号の文面に首を傾げていた。

 

「まあいいか、早く送らないと、統合作戦本部や学院連合のお偉方が心配してるだろうしな」

 

 そして彼は、暗号を送信するのだった。なお、その文面がこれである。

 

『また詰まらぬものを斬ってしまった』

 

 これは、作戦名である「剣閃」に引っかけた暗号であった。なお誰が考えた暗号かは、言うまでもない。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 数時間後、マギカライヒ共同体 首都エーベスト。

 第二文明圏南東部に位置するマギカライヒ共同体は、この世界でも珍しい学院制という制度を採用しており、各州がそれぞれ独立した政府機能を持つ。

 それらの政府機能の集合体である「マギカライヒ学院連合」が、他国から国家を統べる政府として認知され、「マギカライヒ共同体」という国家として機能しているのだ。

 この国は魔法技術と機械工学を融合させた学問として「魔導機械工学」を発達させており、中央世界からも一目置かれる存在だった。最近ではムー国の他に、非常に高い科学技術と固有の魔導技術を合わせ持つと言われるロデニウス連合王国とも懇意にしており、大東洋共栄圏へも参加している。科学と魔法、どちらかというと科学の技術に重きを置いて発展させようとしているこの国は、ムー国やロデニウス連合王国の科学技術に強い興味を持っている。

 具体的には、マギカライヒ海上隊(海軍のこと)上層部は主力艦隊への配備と科学技術の研究のため、ロデニウス製の「アマオウ型竜母」の購入を検討していた。マギカライヒ共同体にも竜母はあるのだが、黒船から大砲を全て撤去し、マストも一部取っ払って無理やり竜母にしたような代物であるため、中途半端な性能になってしまっている。対空火器もバリスタ程度しかない。

 それに対して祥鳳型航空母艦をベースに設計されたアマオウ型竜母はどうかというと、最高速力28ノット、艦砲として40口径12.7㎝連装高角砲4基(徹甲弾を使えば、これだけでマギカライヒ製の機甲戦列艦さえ返り討ちにできる)を備えており、高角砲と対空機銃のおかげで防空能力も高く、ワイバーンロードの搭載数はマギカライヒ製竜母の倍もあり、その上飛行甲板には鉄板を張ったため導力火炎弾は無効、なんと風竜まで飛ばせてしまうのだ。ご覧の通り、目も当てられないくらいの性能差がある。このため、「キングオブチート竜母」とすら言い切れるアマオウ型竜母を購入して、何とかして自国の造船技術を引き上げようと考えていた。

 この他に、陸上隊の切り札としてIII号突撃砲F型(ただしムー製なので「ラ・スタグ自走砲」という名前になっている)を多数購入し、首都防衛隊を中心とする主力部隊に配備していた。同時にムー国から旧式の科学兵器を大量に導入しており、ムー国ではもう使われなくなった18型6.5㎜機関銃が配備されていた。「マリン」戦闘機やその前の世代の戦闘機を購入するかどうか、という部分も少し検討されている。

 

 そんなマギカライヒ共同体の首都エーベストで、各州の学長が一同に会していた。「剣閃作戦」の結果報告を待っているのだ。振り子式柱時計の音が無言の会議室にこだまし、各人が国の行く末を決めうる作戦結果を待つ。

 強大なる異界の大帝国、グラ・バルカス帝国。かの国は、神聖ミリシアル帝国主導の世界連合艦隊ですらも退けた。

 敵は強大であり、マギカライヒ共同体政府上層部にかの国を侮る者はもはやいない。

 

「もしも、負けてしまえば……いったいどうすれば……」

 

 出席者の1人が弱音を吐く。

 第二文明圏最強の国家たる列強ムー国が気合いを入れた、かつて無い規模の反攻作戦である「剣閃作戦」。これには第二文明圏の総力と、ムー国を超えるほどの科学力を持つロデニウス連合王国も参加している。これで負けてしまえば、マギカライヒ共同体に打つ手は無くなってしまう。

 

「勝つと……信じましょう」

 

 議長がそう言った後、会議室は再び静まりかえった。と、その時、

 

「ん? 魔信入電!」

 

 片隅に控えていた魔導通信士が叫んだ。出席者全員が一斉に、通信士の方を向く。

 

「暗号受信、読み上げます! 『また詰まらぬものを斬ってしまった』。繰り返します、『また詰まらぬものを斬ってしまった』!

我が国を含む第二文明圏連合軍は、グラ・バルカス帝国陸軍基地バルクルスに攻撃を敢行、これを制圧したとのことです! 作戦成功です!!」

 

「よしっ!!!」

「やったか……!」

 

 会議室にいた面々は、一斉に沸き立った。

 

「さすがはムー国、そしてロデニウス連合王国だ。奇襲とはいえ、あのグラ・バルカス帝国軍を打ち破るとは!」

 

 感嘆しきった口調で、出席者の1人が呟く。

 

「それと、続報です。鹵獲した敵の武器の一部を、我が国に回してもらえることになったようです! もっぱら短銃や大銃が中心になるとのこと!」

「そうか! よし、武器については到着後すぐに研究機関に移送せよ! 必ず分析して我が国でも量産するぞ!!」

 

 勝利と戦利品獲得の報告に、会議室にいた誰もが沸き立っていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 「剣閃作戦」成功を喜んでいたのは、何もマギカライヒ共同体だけではない。第二文明圏の有力国家の1つとして、マギカライヒ共同体と共に本作戦に出兵していたニグラート連合やソナル王国でも、報告を聞いた国家の重鎮たちが歓喜の声を上げている。特にソナル王国は、一時戦わずしてグラ・バルカス帝国に降伏する途も探っていただけに、喜びもひとしおであった。

 そして、第二文明圏があるムー大陸から東に遠く2万㎞以上も離れた地・ロデニウス連合王国でも。

 

「現地からの報告によると、キールセキから飛び立った連合部隊によって、グラ・バルカス帝国の最前線基地とも言えるバルクルスは完全に掌握した模様です。

また、戦闘の際に発生した323人のグラ・バルカス帝国人の捕虜に関しては、全員の身柄をムー国内の収容所に移送中とのことです」

 

 国王カナタ1世以下、各大臣や国家運営を担う上級幹部たちが集まって、緊急会議が行われていた。上座に座るカナタ1世に対し、軍総司令官チェスター・ヤヴィン元帥が、たった今入ってきたばかりの魔信について報告している。

 

「勝てましたか。それは良かったですが……我が軍や第二文明圏諸国の軍人の方の被害が気にかかりますね」

 

 軍人(と、その家族)のことを最初に心配する辺り、カナタ1世の国内への関心が窺える。

 元々彼は旧クワ・トイネ公国で首相として国政に関わっていた。その経歴を考慮すれば、軍事よりも内政への関心が高いのは当然と言えるだろう。

 今頃この若き国王の頭の中では、軍人とその家族に対する色々なことが飛び交っているに違いない。……精神的なものの他に、傷痍軍人・家族への福祉政策だとか、戦死傷者に対する賠償金だとかの内容が。

 

「まだ詳細な報告は入っていませんが、作戦に参加した我が国の第1空挺団に関しては、被害は極めて僅少のようです。第二文明圏諸国の軍の被害についても、まだ詳細な報告がないため判然としませんが、少ないだろうと見られる、とのことです」

 

 そのカナタ1世を安心させるように、ヤヴィンが報告を続けた。

 

「また、敵の兵器を複数鹵獲することに成功し、その中には我が軍が配備する戦車に相当すると見られるものもある、とのことです。敵の兵器についてはムー国やマギカライヒ共同体に輸送し、解析にあたるとのことです」

「分かりました。まずは一勝、ということですね」

 

 頷くカナタ1世。そこへ、情報部代表のエドが手を挙げた。

 

「ヤヴィン総司令、一点お伺いしたいことがあります」

「む、何か?」

「この後の作戦方針を、大まかで良いので教えていただけますか? 我が情報部としても、軍や外務省と連携して情報収集を行わなければなりません。どのような情報を得れば良いかが知りたいので、可能ならこの後の作戦方針をお伺いしたいのですが」

「ああ、分かった」

 

 ヤヴィンは口調を切り替え、カナタ1世も含めて全員に向かって説明を開始した。

 

「一部は軍機保護の観点からお話できませんので、概要だけになりますが、今回の作戦によって、我々はグラ・バルカス帝国に対する反攻の橋頭堡を1つ築くことに成功しました。この後は第二文明圏の諸国と連携して、ムー大陸からグラ・バルカス帝国の勢力を追い出す作戦を立てております。

しかしまずはその前に、ムー大陸西岸の制海権を取り戻す必要があります。理由としては、ムー大陸西岸にある旧レイフォル国などの制海権を取り戻さない限り、ムー大陸のグラ・バルカス帝国勢力は奴らの本国からの補給を受けることができるからです。制海権を取り戻し、奴らの補給線を崩壊させることで、レイフォル陥落を促します。

レイフォル方面の制海権奪還作戦は『ライラット作戦』と命名されております。この作戦を担当するのは、今ムー大陸に出かけております堺殿率いる海軍第13艦隊……我が海軍最強の艦隊です。レイフォル沖にいると見られるグラ・バルカス艦隊は、今年2月のバルチスタ沖の戦いで世界連合艦隊を打ち破り、ミリシアルの空中戦艦すら撃墜した強敵ですが、堺殿が勝つことを期待するしかありません。

堺殿の艦隊がムー大陸西岸の制海権を確保した後、我が軍及び第二文明圏諸国の連合軍は連携して一大反攻作戦を実施、ムー大陸からグラ・バルカス帝国勢力を追放します。これが、当面の作戦方針です」

 

 口ではこう説明していたが、ヤヴィンの頭の中にはある格言が浮かんでいた。「言うは易く行うは難し」である。

 「言うは易く行うは難し」このことわざがこれほど似合う状況も、そうそうないだろう。陸上での総反攻の難しさは無論だが、制海権の奪還だって、敵艦隊を撃滅してそれで終わりではない。敵が艦隊を組織して、制海権を奪い返しに来る可能性があるのだ。しかも、ムー大陸西岸と一口に言ってもその範囲は広く、ムー国西岸からレイフォル沿岸、ソナル王国領、そしてバルチスタ岬を含むニグラート連合まで広がっている(加えてパガンダ島、イルネティア島もある)のだ。それらの広大な海岸線を、防衛しなければならないのである。おまけに、特に空母機動部隊の航空隊については、海からのグラ・バルカス帝国領への空襲にも当たらなければならないだろう。第13艦隊の仕事量が膨大なものになることが、容易に想像された。

 

(堺殿と、彼の指揮下にいる艦娘たちには、また苦労をかけることになるな……)

 

 ヤヴィンがそんなことを考えていた時、急に会議室のドアが勢い良く開けられ、軍の制服を着たエルフが1人、走り込んできた。何事か、と声を荒らげようとする外務大臣リンスイを視線だけで制し、カナタ1世が穏やかな声で「どうしました?」と尋ねる。エルフの軍人はしゃっちょこばって答えた。

 

「第13軍団から緊急報告であります! 『バルクルス西方約40㎞に、グラ・バルカス帝国軍歩兵の大部隊あり。総数1万以上、複数輌の戦車・装甲車を伴う。敵部隊の意図するところはバルクルスの奪回と推測。至急迎撃準備の要ありと認む』。どうやらまだ、作戦は終わっていないようです!」

「何!?」

 

 想定外の事態に、ヤヴィンの目が見開かれた。

 

「なお、現地軍司令部からは、バルクルスにいる多国籍軍に対しては既に迎撃準備を下令したとのことであります。また、アルー防衛の任にあたっていた第1軍団の先鋒戦車部隊もバルクルスに移動させ、増援として事態に対処させる、とのことです」

 

 現地の部隊は、既に迎撃準備にかかっているらしい。

 

(流石というべきか……ノウに”あきつ丸”殿、そして堺殿は、動きの早さが違う)

 

 感心しているヤヴィンの横で、カナタ1世が素早く指示を飛ばす。

 

「敵も諦めてはいない、ということでしょう。ヤヴィン卿、すぐに現地の部隊に迎撃用意を発令しなさい。ただし、作戦発案者であるムー国の顔を立てて、そして第二文明圏諸国との連携をしっかりしなさい。基本的に我が軍はアウェイの存在ですから、地元の方々の意向を最優先にするように。良いですね?」

「はっ!」

 

 ロデニウス軍総司令部は、第二文明圏連合軍と歩調を合わせてのグラ・バルカス帝国軍迎撃を決定した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方、グラ・バルカス帝国陸軍第8軍団の主力となるべく、バルクルス基地に向けて行軍中だった帝国陸軍第3師団には、少なからぬ衝撃が走っていた。

 

「バルクルスとの連絡が途絶しただと?」

 

 昼食のための野営中、伝令兵から上がってきた緊急報告を聞いて、第3師団長アレン・モーラン少将は眉間にシワを寄せた。

 

「はっ、マーキュリー基地から届いた通信によりますと、バルクルス基地との連絡が今朝を境に途絶し、呼びかけても応答しないそうです。また、そのマーキュリー基地には多数の敵機が襲来し、爆弾多数を落としていったため、バルクルス救援はとても不可能である、とのことです」

「分かった。報告ご苦労、下がれ」

「はっ! 失礼します!」

 

 緊張した面持ちの伝令兵を退出させた後、アレンは下顎に手を当て、考え込む。

 

(バルクルス基地との連絡が途絶し、マーキュリー基地は敵の空襲により被害甚大……。ちょうど我々はバルクルスに着任するため移動しているところだったが、こうなるとバルクルス基地が全滅している可能性も否定できない……。どうすべきか……)

 

 ひとまず彼は、レイフォル州州都レイフォリアにある統合基地ラルス・フィルマイナに無線で連絡を取り、今後の指示を仰いだ。その結果が、以下の通りである。

 

『バルクルス基地司令部との通信が完全に途絶したことから、バルクルス基地は蛮族どもの奇襲によって陥落してしまった可能性がある。情報を精査した上で今後の指示を追って出す。今は現地にて待機せよ』

「しばし待て、か」

 

 立派なカイゼル髭を撫でながら、アレンはそう呟いた。

 

 

 バルクルス基地の陥落という大ニュースは、5月1日の夕方のニュースで第一報が報道されたのを皮切りに、翌5月2日には正式なニュースとして報じられた。それも、神聖ミリシアル帝国発の「世界のニュース」で報道されたのである。

 これまでこの世界の様々な国が、次々とグラ・バルカス帝国に武力で制圧され、滅ぼされてきた。中央世界(第一文明圏)と第二文明圏の主要国海軍の粋を集めた世界連合艦隊すら、3ヶ月前のバルチスタ沖大海戦でグラ・バルカス帝国艦隊に敗れ、ムー大陸西岸の制海権を奪回できなかった。それ以降、どうやってもグラ・バルカス帝国に勝てないのではないかという見方が強まり、ヒノマワリ王国のように戦わずして降伏する国も出てくるほどだった。

 しかし今、第二文明圏主要国の陸軍をかき集めた乾坤一擲の作戦が成功し、見事グラ・バルカス帝国の基地を1つ、占領することに成功したのだ。このニュースに、特に第二文明圏諸国の人々は大いに沸き立った。流石だ、第二文明圏最強の列強ムー国に、準列強国が集まっただけのことはある……そんな意見が、第二文明圏を中心に広まった。

 その一方、この異世界に来て初めての明確な敗北を喫したグラ・バルカス帝国には、衝撃が走った。帝国軍本部は直ちに、ヒノマワリ王国東部にいる陸軍第3師団(元々バルクルス基地に着任する予定だった)に対して、マーキュリー基地の機能復旧を待ってバルクルス奪還作戦に当たれと命令を下した。

 

「バルクルスは敵の空挺部隊によって落とされた……か。あんな貧相な装備の部隊にやられるとは、よほど油断して不意打ちを喰らったと見える。ボーグ、貴様も大したことがなかったか?」

 

 同僚を嘲った後、アレンは全部隊に向けて命令を下した。

 

「全軍、バルクルスに向けて前進せよ! 一時的に勝って調子に乗った蛮族どもを撃ち倒し、帝国の力を今一度知らしめるのだ!」

 

 かくて、バルクルスをめぐる戦いはまだ続くことが決定したのだった。

 第二文明圏連合軍とグラ・バルカス帝国軍。勝利の女神は、果たしてどちらに微笑むのか……




はい、バルクルス基地は陥落し、ムーやニグラート、マギカライヒ、ロデニウスの連合部隊がまず一勝を挙げました。
しかし、グラ・バルカス帝国はバルクルスの再奪回を狙っています。原作ではなかった戦いが、起きそうになっていますね。

そして陸上戦と空中戦ばっかりが行われていたため、空気になりかけている海軍ですが……いよいよです。マイカルに停泊したきり、グ帝の潜水艦を潰すばかりで音沙汰のなかったロデニウス海軍第1艦隊・第13艦隊の連合艦隊を、そろそろ出撃させるつもりです。お楽しみに!


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次回予告。

バルクルス占領に成功した第二文明圏連合軍。それに対し、グラ・バルカス帝国陸軍は歩兵を中心とする第3師団を差し向け、バルクルスの再奪取を狙ってきた。攻守の立場を入れ替え、第二文明圏連合軍とグラ・バルカス帝国軍は今一度、バルクルスを舞台に衝突する!
次回「第二次バルクルス基地攻防戦」
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