鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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攻防の立場を入れ替えて、まさかまさかの第二次バルクルス攻防戦。今度はグ帝が攻める側、第二文明圏連合軍が守る側です。



144. 第二次バルクルス基地攻防戦

 中央暦1643年5月3日、グラ・バルカス帝国領ヒノマワリ州東部 前線基地バルクルス。

 かつてグラ・バルカス帝国軍がムー国侵攻のため築いたバルクルス基地。今やここは、破壊された建物の残骸が散らばる荒地と化していた。

 そんなバルクルス基地に蠢く、複数の影。どれも人間だ。何やら忙しく動き回っている。それに混じって、ザクザクと土を崩す音が聞こえる。

 

「掘れ掘れ、急ぐんだ! 敵は待ってはくれないぞ!」

「そこに機関銃を設置しろ!」

 

 動き回っているのは、ヒト族から獣人、エルフ、ドワーフまでごっちゃ混ぜになった人間たちだ。彼らの国籍もまたてんでんバラバラで、ムー国、ニグラート連合、マギカライヒ共同体、ロデニウス連合王国と、まるで民族と国籍のサラダボウルだ。

 その彼らの手には等しく、ショベルが握られている。そして、バルクルス基地やその周辺の平野のあちこちに、人間の背丈ほどの深さがある、深い溝のようなものが掘られていた。

 そう、塹壕である。他にもロデニウス軍空挺部隊の隊員たちは、個人用の蛸壺壕を掘っていた。もちろん、敵襲に備えてのものである。

 この基地に駐留していたグラ・バルカス帝国軍を壊滅させ、バルクルス基地を奪取した第二文明圏連合軍。しかし、グラ・バルカス帝国はこの地に、戦車を伴う大規模な歩兵部隊を送り込もうとしているらしいことが、ロデニウス軍の偵察により判明した。おそらくバルクルスを奪回する意図を持っている、と推定された。

 このため、バルクルスを占領する「剣閃作戦」に参加した各国の兵士たちは、大急ぎで迎撃の準備にあたっていた。グラ・バルカス帝国軍の強さは尋常のものではないことを、今バルクルスにいる各国兵士たちはよく知っていた。そのため、迎撃の際はロデニウス軍が()(おもて)に立ち、他の部隊はその側面援護や地下司令部の防衛を担うことになっている。

 だが、ムー統括陸軍に限っては地下に籠ることを良しとせず、物資を積極的に投入してロデニウス軍と共に迎撃にあたる準備をしてきた。

 

「野戦砲の追加届きましたー! アルーの防衛陣地から無理やり引っぺがした奴です! ついでに砲兵も一緒に着任しました!」

「おおっ、届いたのはイレール砲にロ式高射砲か! こいつはありがたい!」

 

 ハーフトラックに牽引されて現れたのは、太く長い砲身を備えた巨大な大砲だった。ムー陸軍の代表的な野戦砲である「22型105㎜イレール砲」、そしてムー陸軍砲兵隊がこよなく愛する装備の1つ「ロ式41型ヒッカーズ88㎜野戦高射砲」である。

 なお名前でお察しの通り、「ロ式41型ヒッカーズ88㎜野戦高射砲」はロデニウス連合王国からライセンスを取得して生産された「88㎜Flak36 野戦高射砲」である。対空戦闘も対戦車戦闘もこなせる万能砲として、ムー陸軍では砲兵隊への配備が急がれていた。

 

「お忙しいところ失礼します。ロデニウス陸軍第1軍団・第104戦車中隊、ただいま到着しました!」

「来たか! 戦車壕は既に掘ってある、一部は固定砲台として動いてもらう! それ以外は機動砲台だ!」

「承知しました!」

 

 さらに、ロデニウス陸軍はアルー防衛に従事させていた第104戦車中隊を引っこ抜き、バルクルス防衛に当たらせていた。この部隊は主力としてIV号戦車H型を4輌、パンターG型改を16輌装備し、その他ハノマーク装甲車や自動車に搭乗して機械化された随伴歩兵で成り立っている。ムーの砲兵隊と合わせ、敵の戦車部隊に対抗できる重要な戦力であった。

 え? 戦車部隊と砲兵隊を引き抜いて手薄になったアルー防衛はどうするのか、って? そこはロデニウス陸軍第1軍団指揮官のモッツァラ・ノウ中将が、ちゃんと計算してくれていた。なんと引き抜いた部隊に代わって、ティーガーIを装備する前線突破部隊を配備したのである。もしバルクルス基地がグ帝に再占領されるようなことがあれば、直ちにこの「鋼鉄の虎」が出撃する手筈になっている。

 

「ドーソン基地、エヌビア基地との連絡は密に取れ! 基地の戦闘機部隊と連携するんだ!」

「はっ!」

 

 バルクルス基地に併設されていた飛行場は、完全に破壊されてしまっている。バルクルスに奇跡的に残っていたグ帝のブルドーザーを鹵獲して、滑走路に開いた穴の埋め戻しと瓦礫の除去を行っているが、まだ航空機の運用は到底できない。そのため近隣のドーソン基地やエヌビア基地とは密に連携し、いざという時は戦闘機を飛ばして上空援護してもらわなければならなかった。

 

 なお、ここで皆様にとって非常に(?)残念なお知らせであるが……今回「ヤツ」はいない。そう、「敵の戦車を発見!」などと通報しようものなら休憩を潰してでもすっ飛んでくる「空の魔王」、妖精ルーデルはここにはいないのである。もしいたら、非常に優秀な戦力となってくれただろうが……。

 

「急げ急げ! ぐずぐずしてたら敵が来るぞ!」

 

 号令にせき立てられるようにして、各国軍の兵士たちは必死でショベルを振るい、塹壕や対戦車壕を掘っていく。幸いグラ・バルカス帝国軍が作っていた塹壕をある程度転用できるのと、力自慢の獣人やドワーフ、それに土魔法を使えるエルフもいるため、仕事量が多いだけでそれほどの苦労はない。が、やはり「パックフロント」と呼ばれる対戦車陣地を作るのは、一朝一夕に済む仕事ではない。

 

「掘った土はこの袋に詰めろ! これを積み上げて即席の防壁にする!

こんなナリでも防御力は馬鹿にできないんだ、急いで丁寧にやれ!」

 

 壕を掘る過程で出た土は、袋に詰め込まれて土嚢となり、積み上げられて即席の防壁となる。土嚢を積み上げただけでも、銃弾や砲弾の破片に対する防御力は飛躍的に高まるのだから、たかが土入りの袋と決して馬鹿にしてはならない。

 塹壕を掘り、土嚢を積み上げるばかりではなく、障害物を設置するのも重要な仕事である。敵が歩兵メインながら戦車を持っていることが判明したため、兵士たちは鉄条網の他に妙なものを設置していた。それは、短い鉄骨や木材をぶっちがいに束ね、ワイヤーで結わえたような物である。そう、地球では「チェコの針鼠」と呼ばれる対戦車障害物だった。「竜の歯」と呼ばれる、コンクリートの塊を地面に埋め込む対戦車障害物を設置する余裕がないため、簡単に作れる「チェコの針鼠」で代用しているのである。この「チェコの針鼠」もまた、ロデニウス軍空挺部隊から伝授された物だった。

 

「土嚢はところどころ隙間を空けとけよ。そこに機関銃据え付けて奴らを蜂の巣にしてやる!」

 

 なお、ここで設置される機関銃は、従来ムー陸軍が使っていた「18型6.5㎜機関銃」ではない。ムー陸軍が必死こいて持ち込んだ、最新式の「ロ式41型7.92㎜汎用機関銃」こと「MG34機関銃」である。威力、連射速度、射程距離いずれも申し分のないこの汎用機関銃は、瞬く間にムー陸軍でも制式採用を勝ち取っていたのだった。

 

 

 第二文明圏連合軍が急いでバルクルスを要塞化(それも、一度自分たちの手で壊したものをまた要塞化しようとしているのがなんとも皮肉である)していた頃、グラ・バルカス帝国軍も反撃の準備を進めていた。

 バルクルス攻撃の際についでとばかりに爆撃されたマーキュリー基地では、飛行場の復旧が迅速に進められており、滑走路はどうにか復旧した。ラルス・フィルマイナ等の他の基地から航空隊を受け入れる準備も進んでいる。

 また、歩兵を中心とする第3師団(本来はバルクルスにて第4機甲師団と合流し、第8軍団主力としてムー攻略にあたるはずだった)は依然、バルクルス奪還のために進軍を続けている。

 

(敵は空挺兵、か)

 

 帝国の誇る「無敵の戦車」こと2号中戦車ハウンドIと共に前進する前線指揮車の中で、第3師団長アレン・モーラン少将は味方から受け取った通報を思い出していた。

 

(空挺兵なら、装備は貧弱のはずだ。それに、ムーが大砲を配備してくるかもしれんが、ムーの火砲では基本的にハウンドの装甲は貫けん。

ただ……ただ1つ、あの長砲身砲だけは気になるな)

 

 アレンがイメージしている「あの長砲身砲」というのは、ヒッカーズ88㎜野戦高射砲である。

 

(まあ、あの大きさではそんなに数は持ち込めないはずだ。

それに、バルクルスの飛行場は壊滅したと聞いている。ということは、敵も航空戦力を運用するのは困難だ。ならば、「アンタレス」で制空権を取れるはずだ。

そこに精強なる我が陸軍の精神力が合わされば、バルクルスは取り返せる!)

 

 グラ・バルカス帝国陸軍には、残念なことに精神論者が多いのである。アレンもご多分に漏れなかった。

 

「全員、バルクルス奪回に向けて驀進せよ!」

 

 アレンは今一度、部下の兵士たちにけしかけるような号令を出すのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 第二文明圏連合軍とグラ・バルカス帝国軍。両者ともに交戦の準備を大急ぎで進めていた。そして中央暦1643年5月10日、ついにその時は来た。「第二次バルクルス基地攻防戦」の始まりである。

 戦闘は、航空戦からスタートした。再建されたマーキュリー基地から、グラ・バルカス帝国が誇る「無敵の戦闘機」アンタレス07式艦上戦闘機30機と、シリウス型爆撃機18機が飛び立ち、バルクルス上空の制空権確保へと向かう。が、バルクルスを目視圏内に捉えたその瞬間、「アンタレス」10機が一瞬にして消し飛び、バラバラになって大地へと落下した。その直後、雷のような轟音と共に灰色の「何か」が高速で飛んでくる。

 飛んできたのはそう、ロデニウス軍が誇る亜音速の戦闘機「F-86D改 セイバードッグ」だ。必殺の「AIM-9M サイドワインダー」空対空ミサイルの攻撃により、「アンタレス」は一瞬で屠られたのである。

 予想だにしなかった突然の事態に、「アンタレス」のパイロットたちは困惑しながらも立ち向かおうとする。しかし、僚機と無線で連絡を取ろうとして、彼らは気付いた。無線機が雑音を発するばかりで使い物にならなくなっていることに。そう、必殺のジャミングである。今回も、完全ステルス化した「ディグロッケ」に手伝ってもらっていた。「無線による綿密な連携」という強みを潰された上、そもそもチャフもフレアもない「アンタレス」ではミサイルへの対処は全くできない。このため、「アンタレス」はほんの一瞬で全機が撃墜されてしまった。

 敵戦闘機の撃滅を期して飛んできた「セイバードッグ改」15機は、予定していた攻撃の全てを終えると後退し、代わって18機の「三式戦闘機 飛燕 一型丙(飛行第244戦隊)」が登場。護衛機を全て失った「シリウス」に襲いかかった。

 必死で編隊を密にし、搭載された機銃で迎撃する「シリウス」だったが、しかし相手が悪い。「三式戦闘機 飛燕」は、「シリウス」を遥かに上回る時速590㎞の俊足を持つ上に、20㎜機銃4丁という凄まじい火力を誇る。加えて、飛行第244戦隊はかつて大日本帝国帝都の空を護っていただけあって、P-51のような単発戦闘機と戦う術も知っている。それほどのエリート部隊が相手では、「シリウス」爆撃機隊には荷が重すぎた。

 結果、「シリウス」は「アンタレス」の後を追うようにして次々と撃墜され、あえなく全滅。バルクルスには爆弾1発・機銃弾1発浴びせられることもなく、戦場の制空権は第二文明圏連合軍が獲得した。

 

「チッ、制空権を取れなかったか……!」

 

 引き上げていく敵機の姿を見上げ、アレンは忌々しげに舌打ちした。

 まさか、無敵と言われた「アンタレス」がここまで惨敗するとは思わなかった。アレンが考えていた作戦は、その序盤で早くも破綻したのだ。

 

「だがまあ良い、敵機が来る前にバルクルスへ飛び込めば済むことだ!」

 

 しかしすぐに考え直し、部下に突撃を命じる。

 

「進め! 敵機が戻ってくる前に、バルクルスを奪還するのだ! 突撃!」

 

 なお、無線が不調状態である(とアレンたちは思っているが、実際は通信妨害である)ため、この命令は口頭で伝達されている。

 

「「「おおおおおお!!!」」」

 

 一斉に突撃を開始する兵士たち。だがその時、敵陣(と化しているバルクルス基地)でパッと複数の閃光が瞬いた。

 

「な!? まさか、発砲!?」

 

 アレンが叫んだ直後、砲弾の飛来音が大気を震わせた。その直後、

 

ドドドガアァァン!!

 

 大地が弾け、炎と黒煙が噴き上がった。複数の歩兵が巻き込まれ、ある者は木っ端微塵に吹っ飛んで手足の一部しか残らず、ある者は身体中の関節をあり得ない方向に曲げたまま大地に叩きつけられる。

 

「くそ、砲撃か! 戦車隊……」

 

 指示を出そうとして、前線指揮車の戦闘室から後ろを振り返ったアレンは……その瞬間を目撃してしまった。グラ・バルカス帝国が誇る「無敵の戦車」こと2号中戦車ハウンドI、そのうち1輌が大爆発を起こして吹っ飛ぶのを。

 

「何だと!?」

 

 それは、アレンにとっては文字通りの「青天の霹靂」だった。

 2号中戦車ハウンドは、砲塔前面50㎜、車体前面25㎜の装甲を有しており、自国製の対戦車砲ならともかく、それ以外の野戦砲などでは貫徹されない防御力がある。その防御力は高く、前世界たる惑星ユグドではケイン神王国の大砲でも効かなかった。そしてこの世界では、ハウンド戦車はパガンダ王国、イルネティア王国などの攻略で動員されたが、各国の魔導砲は時代遅れの代物であり、ハウンド戦車には全く通用しなかった。ハウンド中戦車は文字通り、無敵だったのだ。

 それが、たかがムー国の大砲ごときに、ハウンドが一撃で撃破されてしまったのだ。

 

「くそ、あの大砲か!」

 

 ムー国の新型の大砲(ヒッカーズ88㎜野戦高射砲のこと)をイメージし、アレンは下令した。

 

「戦車部隊、全力とつ……」

 

 だが、「突撃」と言い終える前に、次々と爆発音が響く。振り返ったアレンは息を呑んだ。

 ハウンドシリーズの中戦車も、2号軽戦車シェイファーIIも、片っ端から破壊されていく。あるハウンドIIは車体前面に握り拳を突っ込めそうな大穴を穿たれ、弾火薬庫に引火したのか強烈な火柱を上げて炎上する。あるシェイファーIIは、首切りにでも遭ったように砲塔を空高く跳ね飛ばされる。

 信じられない光景が、そこにあった。

 

「そんなバカな! どうなってやがる!?」

 

 目の前の光景を理解できず、アレンは叫んだ。その額に冷や汗が一筋流れる。

 

 

 一方、バルクルス基地の防衛陣地では。

 

「イレール榴弾砲、一斉撃ち方! 目標は敵歩兵だ!

戦車や装甲車を狙う必要はない、そっちはロ式高射砲に任せておけ!」

「高射砲部隊、ロ連の戦車に負けるな! 我々とてデキるんだってとこを見せてやれ!」

「機関銃、まだ撃つなよ! 敵の自動車やバイクが肉薄してきたら、容赦なくぶっ放せ!」

 

 号令が縦横に飛び交い、22型105㎜イレール砲が砲身に仰角をかけて砲声を轟かせる。ロ式41型ヒッカーズ88㎜野戦高射砲に取りついた砲員が、大急ぎで砲弾を装填する。その隣では、壕にダックインしたロデニウス陸軍のIV号戦車H型やパンターG型改が、75㎜砲を撃っていた。

 そんな中、アルー防衛隊から引き抜かれ、ヒッカーズ88㎜野戦高射砲と一緒にバルクルスに着任したムー陸軍の砲兵アーツ・セイ伍長は、引き金に指をかけて刻を待っていた。彼は既に本砲で装甲車を2輌屠っており、今度は敵戦車を狙おうとしていたのだ。

 照準器には既に、敵の戦車……ロデニウス軍の「チハ」とかいうものに似た姿の敵戦車が捉えられている。

 

「装填よし!」

 

 後方に控える装填手が、砲声に負けじと声を上げた。

 

「照準よし!」

 

 続いてセイも大声で報告する。

 彼の心の中では、グラ・バルカス帝国に対する激しい敵意が燃え上がっていた。アルーの町を汚そうとした連中は、絶対に許さない。必ずこの砲で倒してやる……その決意を、彼は指先に込めた。

 

「撃てーっ!」

 

 傍にいた士官が号令し、セイは発射トリガーを引いた。

 轟音と共に黄色い発射炎が迸る。駐退機が後退し、空薬莢がごろりと大地に転がった。

 次の瞬間、照準器に映っていた敵の戦車の前面に、ぱっと火花が散った。それと同時に敵戦車は激しく振動し、針路を急に変えてよろよろといずこかへ走り出す。その敵戦車の車体前面に大穴が開いているのを、セイははっきりと見た。どうやらセイが撃った砲弾が装甲を貫通して車内で炸裂し、敵戦車の乗員を殺傷したらしい。

 

「命中っ! 敵戦車撃破!」

 

 喜びのあまり早口でセイは報告する。

 

「よくやった、次行くぞ!」

 

 今は戦闘中である。喜びを噛み締める暇もなく、セイは次の目標を探す。と、ロデニウス軍の戦車が動き出し、壕から這い出てきた。そのまま、敵部隊に向けて突撃していく。

 

(ロ連の戦車隊が動いたか。作戦は今のところ順調に進んでいるかな?)

 

 セイはちらっと、そんなことを考えた。

 

 

「派手に行くぞ!」

 

 そのロデニウス軍の戦車隊、第104戦車中隊の隊長を務めるゲルト・バルクホーン大尉は、ドワーフ族らしい筋骨隆々の肉体に見合った大声で指示を出した。

 エンジンが高らかに唸り、彼の乗るパンターG型改が動き出す。車体底面を見せるようにして戦車壕から飛び出すなり、勢いよく前進を開始した。少し遅れて、部下たちのパンターG型改がそれに続く。一方で、4輌のIV号戦車H型は壕に入ったまま砲撃を繰り返す。

 壕を出て走り出してまもなく、複数の砲弾がパンターG型改に殺到してきた。それらの多くは狙いを外れて地面を穿つだけに終わったが、数発がパンターに命中した。鈍い金属質の衝突音が響き、パンターの車体が一瞬揺れる。だが、それだけだ。

 

「そんなへろへろ弾効くか! お返しだ、こいつを喰らいな!」

 

 ゲルトの号令一下、パンターの主砲たる70口径75㎜砲が火を噴く。その途端、グラ・バルカス帝国軍の小柄な戦車が大爆発を起こし、砲塔が空に吹っ飛んで全身を炎に包まれた。

 パンターの長砲身75㎜砲の貫徹力は凄まじく、2㎞以内での装甲貫徹力はあのアハトアハトすら凌ぐ。おまけに砲弾には炸薬がたっぷり詰まっているため、相手の装甲を貫徹して炸裂さえすれば、大概の戦車をワンパンノックアウトできる。そんな恐るべき威力の砲弾を弾き返せるほど、ハウンド中戦車やシェイファー軽戦車の装甲は厚くなかった。

 逆に、ハウンド中戦車やシェイファー軽戦車もパンターG型改に砲撃を浴びせるが、全く効いていない。パンターG型改の車体前面装甲は80㎜もあり、しかもきつい傾斜がついているため実質120㎜相当の防御力を持つ。車体側面の装甲は厚さ45㎜しかないが、均質圧延鋼装甲+チタン合金+合成ゴムの複合装甲である上に傾斜がついているので、数値以上の防御力がある。ハウンド中戦車やシェイファー軽戦車の貧弱な主砲では、全く貫徹できなかった。

 

「まだまだ! 敵の戦車を全部討ち取るくらいのつもりで行け!」

 

 もう結構な数の獲物を狩っているはずであるが、(パンター)の狩りはまだ終わりそうにない。

 

 

「嘘、だろ……」

 

 アレンは、目の前に展開している光景を何とか理解しようと頭を回転させていた。だが、それは非常に難儀な仕事だった。というのも、アレンが持っている常識がどうしても邪魔をしてしまうからだ。

 

「戦車、だと……」

 

 アレンが見つめる前方では、明らかに敵の戦車だと思われる車輌が動き回り、第3師団の先鋒を務める歩兵や戦車を叩き潰している。

 敵の戦車は、異様な姿をしていた。ハウンド中戦車より一回り大きい黄土色の車体は、その前面装甲が斜めに傾けられており、側面の装甲も斜めに傾斜しているため、正面から見ると大地に張り付いているように見える。その車体の上には長大な主砲が載せられており、それが火を噴く度に「無敵の戦車」ハウンドがたった一撃で爆砕されていく。

 逆に、ハウンド中戦車やシェイファー軽戦車の砲撃は何発も敵戦車に命中しているが、火花を散らすばかりでダメージを与えている様子が全くない。敵戦車は見える範囲でたった4輌しかいないものの、その4輌の壁が分厚すぎる。

 

「歩兵部隊に自動車やバイクでバルクルスに肉薄させろ! 距離を詰めれば活路が開けるはずだ!」

 

 声を嗄らしてアレンは指示を飛ばす。だが、通信が通じなくなっているため指示が通りにくい。その間にも、右往左往する歩兵たちが敵戦車の機銃で撃たれ、あるいは敵の砲兵陣地からの砲撃で吹っ飛ばされる。味方の戦車部隊は損耗率の高さに耐えかねて、既に遠距離から及び腰の砲撃を行うだけだ。だがそれも甲斐なく、シェイファー軽戦車もハウンド中戦車も、ムー国の新型の大砲によると思われる砲撃や敵戦車の砲撃で倒されていく。

 前線指揮車の付近にいた第15歩兵大隊だけは、アレンの指示を正確に受け取った。自動車やオートバイが全速力で走り出し、バルクルスへと向かっていく。が、

 

「撃てぇぇぇぇ!!」

 

 それを待っていたとばかり、ムー統括軍の「ロ式41型7.92㎜汎用機関銃」が一斉に火を噴いた。曳光弾が縦横に乱れ飛び、その火箭に突っ込んだ自動車がエンジンを射抜かれる。運転手を射殺されたオートバイが横転し、タイヤを撃たれて操縦不能になった自動車が岩に乗り上げて停止する。慌てて脱出を図った歩兵たちは容赦無く機関銃の矢襖に晒され、1人また1人と斃れていく。

 全く思い通りに動かない戦況に歯噛みするアレンの目に、更なる災厄が飛び込んできた。戦場の空に、30機以上のレシプロ機が現れたのである。無論グラ・バルカス帝国機ではない。ロデニウス海軍第12航空艦隊の「紫電改二」だ。

 

「喰らえバカヤロウ!」

 

 妖精“(かん)() (なおし)”の罵声と共に、「紫電改二」が2発の250㎏爆弾を投下する。直撃を受けたハウンド中戦車が一瞬で消滅し、爆炎と爆風を喰らったトラックが燃えながら横転して、火だるまになった歩兵を中から吐き出す。ムー統括軍陣地に向けて歩兵砲を撃とうとしていたグラ・バルカス帝国兵もいたが、それらの兵もたちまち上空から機銃で撃たれるか、IV号戦車の榴弾で吹き飛ばされていく。

 爆弾を投下した「紫電改二」は、そのまま6丁もの機銃を総動員して対地掃討にかかる。上空から20㎜機銃の真っ赤な火箭が撃ち下ろされ、歩兵が一瞬で消し飛ぶ。自動車やトラックが機銃掃射を受け、鈍い音と共に爆発する。「紫電改二」が航過した後には、燃える塊となった自動車やトラック、欠損著しい人間の肉体や手足の一部が撒き散らされ、常人なら即座に失神するほど強烈な死臭が、硝煙の香りと混ざり合って立ち込める。

 既にグラ・バルカス帝国陸軍第3師団の損害は40%以上にも昇っており、部隊の統制すら困難になりつつあった。

 

「ぜ、全軍退却せよ! 一旦ハルナガまで戻り、後図を策す!」

 

 アレンはついに、作戦目標を放棄しての後退を決断した。

 弾切れになったのか、ロデニウス軍のレシプロ機は戦場の空を立ち去ろうとしている。今のうちに後退するしかなかった。

 が、その刹那。

 

ドガアァァァァァン!!!

グワアァァァァァン!!!

 

 いきなり、激しい爆発が複数発生した。地面が大きく抉られ、爆発地点にいた歩兵や装甲車が一瞬でその存在を消滅させられる。

 

「い、いったい何だこれは!?

まさか、地中に埋めた仕掛け爆弾か!?」

 

 もはや混乱の極みに陥りかけた頭で、アレンが弾き出した結論はそれだった。

 

 ……アレンは思い違いをしているが、突然発生したこの複数の爆発は、決して仕掛け爆弾などではない。

 読者の皆様なら、これに似た現象に見覚えがあるはずだ。つい最近、というかバルクルス攻撃の際にこの現象が起きていたのを、覚えておいでだろう。

 そう、この爆発の正体は、ドーソン基地からここまで飛んできた「RV-2ロケット」の大群である。「絶対に生かして帰さん」とでも言うかのように、ドーソン基地にいるロデニウス陸軍第12戦略航空爆撃団が、「RV-2」の在庫を全部放出せんばかりの勢いで撃ちまくったのだ。それが飽和攻撃となって襲ってきたというわけである。

 また、比較的高価な「RV-2」が大量に発射されたということは、当然ながらそれより安価な「RV-1」の方も在庫処分セール同然になるわけで……

 

「何だあれは!? ブンブン言いながらこっちに飛んでくるぞ!」

「戦闘機か! 進路をよく見て回避……え?」

「お、落ちてき……」

 

ドガアァァァァン!!!

 

「「「「ぎゃあああああー!!」」」」

 

 「面制圧実行のため」という名目で、ありったけ撃ち込まれた。その数なんと120発、ここまで来ると更地でも作るつもりにしか見えない。

 

「くそっ、奴らめ……!」

 

 未だ続く「RV-1」の着弾の嵐の中、軍服を煤と泥と浴び血で真っ黒にしたアレンが毒吐く。その彼は今、装甲車のうち1輌に乗っていた。というのもさっきのロケット弾による攻撃の中で、「RV-2」のうち1発が前線指揮車の近くに着弾し、前線指揮車は一撃で大破横転してしまったのだ。爆発が起きた際、アレンはたまたま指揮車の装甲戦闘室から身体を乗り出していたため、指揮車から吹っ飛ばされて軽い打撲傷を負う程度で済んだ。だが、第3師団司令部の幕僚たちはそうではなく、大半が戦死か意識不明になってしまった。

 このため、現在アレンはたった1人で指揮車を移し、指揮を執ろうとしている。しかし、無線妨害と予想外の戦況によって部隊は完全に混乱しており、残念ながらもうどうにもならなかった。部隊を離れて逃げようとする兵士がちらほら見えるという状況が、現在の第3師団の指揮系統が麻痺している事実を雄弁に物語っている。

 だがそこへ、新たな敵が現れた。空に多数の複葉機が出現したのである。もちろん、ムー統括空軍の戦闘機「マリン」と爆撃機「ソードフィッシュ」だった。

 さらに、戦場後方にあの謎の敵戦車……「パンターG型改」が複数出現。明らかにこちらの退路を断つ動きを示しており、遁走を図るグラ・バルカス帝国兵に向けて主砲と機銃を撃っている。「泣きっ面に蜂」ということわざがこれほどぴったり当てはまる状況もまずないだろう。

 

「なんてことだ!」

 

 現状を嘆いたアレンが叫んだ時、突然装甲車が激しく爆発を起こした。ムー統括軍の「ロ式41型ヒッカーズ88㎜野戦高射砲」が、命中したのである。

 全身に激痛にも似た熱が走り、視界全体が真っ赤に染まり、身体が宙に舞うのを感じた直後に、アレンの意識は闇の中に消え去った。

 アレンが戦死してから程なく、退路を断たれ、指揮系統が完全に破綻したグラ・バルカス帝国陸軍第3師団は、ついに作戦目標を放棄して撤退。しかし、撤退中にも多数の兵が第二文明圏連合軍の攻撃に斃れ、最終的に戦場を離脱することができたのは将兵合わせて2万人のうちわずかに5,000人弱のみ。後は全員、行方不明となるか戦死するか、あるいは負傷又は降伏によって第二文明圏連合軍の捕虜となるかの三択であった。

 しかも、戦場を脱出できた将兵はその大半が徒歩である。個人乗りのオートバイはともかく、自動車や装甲車、戦車といった重機材は軒並み全滅し、歩兵砲などの装備はおろか、小銃すら捨て、身ひとつで命からがら逃げ出した兵も多い。誰にも弁解のしようがない、文字通りの惨敗であった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『……というわけで、バルクルスに接近しつつあった敵の歩兵部隊は排除しましたぞ』

「ありがとうございました、ノウ殿。これで我々は、来るべきムー大陸における総反攻作戦のための橋頭堡を1つ、手に入れたという訳です。引き続き、バルクルスをお守りいただくと共に、反攻のための準備を進めていただきたい」

 

 翌5月11日、処はムー国南東部の商業都市マイカル。広大なマイカル港の一角を埋め尽くすように、多数の武装した鋼鉄艦が停泊している。ロデニウス連合王国海軍第1・第13艦隊を連合した、ムー派遣部隊だ。第1艦隊は巡洋艦と駆逐艦が中心となっており、その主任務は陸軍や海兵隊の兵士・装備を運ぶ輸送船団の護衛である。最前線で矢面に立ち、敵の主力艦隊と戦うのは、皆様ご存知第13艦隊だ。戦艦11隻、戦艦空母1隻、航空母艦は大小合わせて16隻、重巡洋艦13隻、軽巡洋艦14隻、駆逐艦70隻、その他潜水艦や補助艦艇含めて総勢132+48隻、母艦航空戦力1,163機(「瑞雲」のような水上機を除く)という大戦力であり、グラ・バルカス帝国の主力艦隊に正面から対抗可能と目されている。

 その第13艦隊の旗艦たる戦艦「(なが)()」にて、艦隊司令官を務める堺 修一中将は、陸軍第1軍団の指揮官ノウ中将から無線で報告を受けていた。バルクルス防衛に成功したという、勝利の報告である。

 

「それと、第二文明圏各国の軍人の方に、私が勝利を祝福していたとお伝え願えませんか? 本当なら私の口から直接伝えたいのですが、迂闊にマイカルを離れる訳にもいきません故、よろしくお願いします」

『うむ、承知した。第二文明圏各国の方にも、確かにお伝えしましょう。

我々を含め、第二文明圏連合の陸軍はしっかりバルクルス基地占領と防衛を果たしました。次は堺殿、貴方にお願いしたい……レイフォル沖にいるグラ・バルカス艦隊の撃滅を。

世界連合艦隊すら破った敵です、それを撃滅するのは至難の業でしょう。それは私も承知しています。ですが、あの敵艦隊を排除しなければ、ムー大陸解放など夢のまた夢になりかねません。そして第二文明圏内外諸国の海軍戦力では、最も優れた装備を持つムー海軍であっても、奴らの排除は不可能です』

 

 ノウの言う通り、第二文明圏内外諸国の海軍戦力はグラ・バルカス帝国艦隊に対してあまりに脆弱すぎる。ニグラート連合やマギカライヒ共同体、パミール王国の海軍戦力は「論外」だ。戦列艦やら帆船やら竜母では、グラ・バルカス艦隊には全く対抗できない。ムー統括海軍は唯一、艦の性能から言えば互角レベルにギリギリ届いているが、数の差と練度の差ゆえに正面からの対抗は難しい。

 そうなると、今第二文明圏周辺にいる海軍戦力の中で、グラ・バルカス艦隊を正面から相手取って撃滅できるのはたった1つ、ロデニウス海軍第13艦隊だけなのだ。神聖ミリシアル帝国の主力魔導艦隊が壊滅して出撃不能になっている現状を踏まえると、極端な言い方をすれば、第13艦隊が世界にとって「最後の希望」だとすら言える。

 その状況は、堺自身もしっかり認識していた。というのも彼の元には、第二文明圏内外各国の軍部及び政府から連名で、「レイフォル沖にいるグラ・バルカス帝国艦隊を排除して欲しい」という内容の嘆願書が届いていたからである。

 

「承知しております。やりましょう……我が名誉に賭けて、万難を排してムー大陸西岸の制海権を取り戻します」

『よろしく頼みましたぞ、堺殿』

「はい。次に通信する時は、吉報を持って参りましょう。

それでは、失礼します」

 

 無線を切り、堺は提督帽を目深に被り直しながら呟いた。

 

「いよいよ、この刻が来たか……。

グラ・バルカス帝国の前線は、一時的にヒノマワリ王国中央部辺りまで後退しているはずだ。そして奴らも、ここまで負けるとは思っていなかっただろう……奴らがこの衝撃から立ち直る前に、俺の艦隊でレイフォルの海を取り返す!」

 

 既に作戦は立ててある。後は実行あるのみだ。

 また、各艦娘たちの艤装の点検も済んでいる。特に、戦艦や巡洋艦の主砲用に搭載された「四三式弾」……新開発の対空用サーモバリック砲弾は、今回が初めての実戦投入になる予定であり、期待が高い。

 そして、ムー海軍から依頼された戦艦「ラ・エルド」の修理兼改造も無事終わり、返還も完了した。グラ・バルカス帝国の潜水艦も多数を撃沈し、その活動を鈍化させた。

 やるなら、今しかない。

 

「待ってろよ、グラ・バルカス帝国艦隊……! 深海棲艦とかいう同格以上の存在と戦い続け、流血の経験の果てに培われた実力と覚悟、見せてやる! そして、”長門”の妖精たちの弔い合戦にしてやる!」

 

 燃え上がる戦意を瞳に宿し、堺は自身に付き従う艦艇群を見つめ直すのだった。




はい、バルクルス防衛成功です。第二文明圏連合軍は、グラ・バルカス帝国陸軍第3師団を撃破しました。まあ、そりゃこうなりますわな。
何せチハとハ号でIV号H型とパンター(+砲兵隊)の相手とか、無理ゲーにも程があります。これで制空権をグ帝側が獲得していたら、まだ少しはチャンスもあったと思いますが……セイバードッグ改がいた以上どうしようもありませんでした。

そしていよいよ、第13艦隊の始動です。

UA82万突破、そして総合評価が、ついに1万ポイントを突破……!
3年近い月日をかけて、ようやっとここまで来られたかと思うと、胸が熱いです…。本当に、ご愛読ありがとうございました! そしてこれからもよろしくお願いいたします!


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ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

ムー大陸陸上でグラ・バルカス帝国軍に勝利し、勢いに乗る第二文明圏連合軍。続いては海で動きがあった。グラ・バルカス帝国の主力艦隊を撃滅しムー大陸西岸の制海権を奪還すべく、ロデニウス艦隊が動き出す……!
次回「激突! 第二次バルチスタ沖大海戦!(zero)」

p.s. とりあえず、年内に第二次バルチスタ沖大海戦編を終わらせたいと考えております。
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