鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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Trick or Treat! 本日はハロウィンです! 皆様は、ハロウィンにはどんな思い出がありますか?
私の思い出は、ジャックオランタン(オレンジ色のカボチャの提灯)を作ったことです。それも、種を植えてカボチャを育てるところから。
ただでさえデカくて重い上に、台風やら虫の食害やら病気やらのリスクがあるので、色々と骨を折ったのは良い思い出です。

今回から第二次バルチスタ沖大海戦編に突入していきます。まずはいわゆる前日譚、敵味方の戦力比較と前哨戦ですね。



145. 激突! 第二次バルチスタ沖大海戦!(zero)

 中央暦1643年5月15日、第二文明圏列強ムー国東部 商業都市マイカル。

 そこに位置するさまざまな企業の工場は現在、戦時量産体制に入っていた。マイルズ造船所などのドックでは新しい軍艦……特にラ・ラツカ級航空母艦、ラ・トラン級防空巡洋艦、ラ・フレッツ級駆逐艦の建造と、ラ・ホトス級巡洋艦やラ・シキベ級軽巡洋艦の護衛駆逐艦への改装工事が急がれており、その他の工場もラ・スタグ自走砲やラ・シマン戦車、ラ・ハノマーク装甲車、陸軍の小銃や野戦砲、それらの弾、軍服といった軍需品の生産がひっきりなしに行われている。グラ・バルカス帝国の宣戦布告に合わせて、ムー政府は国王ラ・ムーの名で「国家存亡の非常事態」を宣言すると共に総力戦体制を発令し、全てのムー国民が一致団結して戦争遂行に力を注いでいた。

 そんなマイカルの一角に建設されたムー海軍マイカル基地の講堂には、多数の人間が集まっていた。彼らは皆まちまちの服装をしており、どう考えてもムー軍人とは思えない。そしてよく観察しなくても、彼らにはある異様な特徴があった。

 

 講堂に集まっている者は、その全員が女性なのである。

 

 そう、これはロデニウス連合王国海軍第13艦隊から派遣された、ムー派遣部隊の艦娘たちであった。その総数は132名。

 そして、彼女たちの前の演壇には、白い長袖の軍服を着用した2人の男性の姿があった。1人はヒト族らしからぬ尖った耳を持っており、エルフ族だと推定される。もう1人は、普通のヒト族の男性だ。

 エルフ族の男性は、ロデニウス海軍第1艦隊の司令官モース・ブルーアイ中将。そしてヒト族の男性は他ならぬ、第13艦隊司令官の堺 修一中将である。

 ムー派遣部隊の面々は、迫るグラ・バルカス帝国海軍の大艦隊との決戦を前にして、作戦のブリーフィングを行おうとしていたのだ。ブルーアイが来ているのは、作戦説明を聞くためである。

 

「マイク音量大丈夫か? チェック、1、2。良し、問題なし」

 

 初っ端からいきなり堺がブチかましたネタ発言に、艦娘たちの間から失笑が漏れる。

 

「総員、傾注!」

 

 だが、その失笑も次の堺の一言でしーんと静かになった。そこは流石というべきだろう。

 

「いよいよ我々は、グラ・バルカス帝国艦隊との決戦に臨む。今回の相手は、これまで我々が相手にしてきた連中とは違う。大和(やまと)型戦艦あり、特型潜水艦あり、レーダーあり、零戦もどきありと、強いて言うなら(しん)(かい)(せい)(かん)に近い相手だ。皆そのことを意識したうえで戦闘に臨んでもらいたい。

それでは、敵味方の戦力比較と作戦の説明に入る」

 

 タウイタウイ泊地から持ってきたプロジェクターにより、スクリーンに映像が投影される。堺は泊地から持ち出したノートパソコンを使って、説明を開始した。

 

「まず、()()の戦力比較だ。『敵を知り、己を知れば百戦して危うからず』というからな。

こちらの動員戦力は、まず第1艦隊が護衛空母2隻、重巡4隻、軽巡8隻、駆逐艦40隻、その他輸送船と補給艦が合わせて100隻。この艦隊は基本的に、陸軍や海兵隊を運ぶ輸送船団の護衛が主任務だから、今回はカウントしないものとする。

次に、トーパ王国艦隊が砲艦2隻。こちらも戦力としてはカウントはしない。

最後に我が第13艦隊だが、艦艇総数180隻、このうち48隻は輸送船や補給艦だから、艦娘は132人となる。航空機は母艦機のみで1,163機。輸送船や補給艦は、第1艦隊に合流させる。

というわけで、132人を7つの分艦隊に分けて運用する。艦艇の種別と数は、戦艦9、航空戦艦2、正規空母10、戦艦空母1、軽空母5、重巡7、航巡6、軽巡11、雷巡3、駆逐70、潜水艦2、強襲揚陸艦1、水上機母艦1、補給艦1、給糧艦1、移動工廠艦1。見てのとおり、大規模作戦というに相応しい動員具合だ。敵はそれほど強大だと思ってもらえば良い」

 

 スクリーンには、説明に合わせて艦の影と数が表示されていく。

 堺はここで、一度言葉を切った。そして、艦娘たちの様子を確認しながら続きを説明する。

 

「次に、敵の兵力についてだが……現時点で予想される敵の戦力は、最大で戦艦14、正規空母10、軽空母5、重巡12、軽巡15、駆逐艦100以上だ。総数はおよそ150〜160隻。これは、以前のバルチスタ沖大海戦の時の敵戦力を元に、独立第1飛行隊の最新の偵察情報を合わせて判断したものだ。

しかも、敵戦艦の内訳は大和型戦艦1隻、(なが)()型戦艦5隻、(こん)(ごう)型戦艦8隻というところだ。空母にしたって、(しょう)(かく)型空母10隻に、千歳(ちとせ)型軽空母5隻ってところだ。艦上機の数はおよそ1,100機と、こちらと大して変わらん。

このことから考えるに、こちらは敵に対して戦艦と空母はほぼ互角、巡洋艦の数では上回るが、駆逐艦の数では劣勢だ。敵が夜戦を仕掛けてくる可能性に警戒しなければならない」

 

 堺のこの説明に、艦娘たちがざわつく。敵がこれほど強力だとは思っていなかったのだろう。

 

「というわけで、今回戦う敵がどれほどの脅威なのかは、みんな理解してもらえたと思う。

あ、航空機の数は互角だろうが、航空機の質についてはこちらの勝ちと見られる。敵の航空機について集められる限りの情報を集めて調べたところ、敵は零戦に似た艦上戦闘機と、九九艦爆と彗星を足して2で割ったような性能の艦上爆撃機、そして九七艦攻もどきの雷撃機を使っているようだ。となると、おそらく敵機の性能もそれらの機体と似たようなものになりやすいと考える。

我々は零戦はともかくとして、九七艦攻や九九艦爆は対潜哨戒機や一部の部隊を除いて運用されていない。戦闘機のメインは『(れっ)(ぷう)一一型』だし、艦攻隊の主力は『(てん)(ざん)』や『(りゅう)(せい)』シリーズに、艦爆隊の主力は『(すい)(せい)一二型甲』になっている以上、雷撃隊や爆撃隊はこちらのほうが強力だと考えられる。しかも、こちらにはジェット機がある。

そう考えると、パイロットの練度や数に大きな差がない限り、敵に制空権を奪われることはまずないだろう」

 

 堺はそのように説明した。

 

「よし、ではいよいよ艦隊編成を発表する。こいつをよく見ておいてくれ」

 

 スクリーンから全ての文字が一度消える。そして堺がエンターキーを押すと、これまでとは比較にならない大量の文字が出現した。

 

「こいつが艦隊編成だ。各員、自分の名前があるかどうか、重複してないかどうかをチェックしておいてくれ」

 

 スクリーンには、こう書かれていた。

 

 

第一分艦隊

重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」「(ちょう)(かい)

軽巡洋艦「(なが)()」「(じん)(つう)」「()(しろ)

駆逐艦「(あられ)」「(かすみ)」「陽炎(かげろう)」「不知火(しらぬい)」「(はつ)(かぜ)」「(ゆき)(かぜ)」「(あま)()(かぜ)」「(とき)()(かぜ)」「()(わき)」「(あらし)」「(はぎ)(かぜ)」「(まい)(かぜ)」「(しま)(かぜ)

分艦隊指揮艦「鳥海」、防空指揮艦「プリンツ・オイゲン」

 

第二分艦隊

戦艦「金剛」「(はる)()

正規空母「(たい)(ほう)」「翔鶴」「(ずい)(かく)

重巡洋艦「()()

航空巡洋艦「()()」「(ちく)()

軽巡洋艦「()(はぎ)

駆逐艦「(うら)(かぜ)」「(いそ)(かぜ)」「(はま)(かぜ)」「(たに)(かぜ)」「(ゆう)(ぐも)」「(まき)(ぐも)」「(かざ)(ぐも)」「(あき)(ぐも)

分艦隊指揮艦「金剛」、機動部隊指揮艦「瑞鶴」、防空指揮艦「摩耶」

 

第三分艦隊

戦艦「武蔵(むさし)」「ビスマルク」

正規空母「グラーフ・ツェッペリン」「アクィラ」

軽空母「(しょう)(ほう)」「(ずい)(ほう)

航空巡洋艦「()(くま)」「(くま)()

軽巡洋艦「()()」「(せん)(だい)

駆逐艦「(なが)(なみ)」「(たか)(なみ)」「(おき)(なみ)」「(ふじ)(なみ)」「(はや)(しも)」「(あさ)(しも)」「(きよ)(しも)」「(はつ)(づき)

分艦隊指揮艦「武蔵」、機動部隊指揮艦「瑞鳳」、防空指揮艦「初月」

 

第四分艦隊

戦艦「アイオワ」

正規空母「(うん)(りゅう)」「(あま)()」「(かつら)()

重巡洋艦「(たか)()

航空巡洋艦「()(がみ)

軽巡洋艦「()()」「()()()

駆逐艦「(しら)(つゆ)」「時雨(しぐれ)」「(むら)(さめ)」「(ゆう)(だち)」「(はる)(さめ)」「五月雨(さみだれ)」「(くろ)(しお)」「(おや)(しお)」「(てる)(づき)

分艦隊指揮艦「アイオワ」、機動部隊指揮艦「天城」、防空指揮艦「照月」

 

第五分艦隊

戦艦「()(えい)」「(きり)(しま)

正規空母「(そう)(りゅう)」「()(りゅう)

軽空母「(りゅう)(じょう)

重巡洋艦「愛宕(あたご)

航空巡洋艦「(すず)()

軽巡洋艦「(さか)()

駆逐艦「(うみ)(かぜ)」「(やま)(かぜ)」「(かわ)(かぜ)」「(すず)(かぜ)」「(あさ)(しお)」「(おお)(しお)」「(みち)(しお)」「(あら)(しお)」「(あき)(づき)

分艦隊指揮艦「比叡」、機動部隊指揮艦「蒼龍」、防空指揮艦「秋月」

 

第六分艦隊

航空戦艦「()(そう)」「(やま)(しろ)

軽空母「(じゅん)(よう)」「()(よう)

重巡洋艦「ザラ」「ポーラ」

軽巡洋艦「()()(くま)」「()()

駆逐艦「()(つき)」「()()(づき)」「(ふみ)(づき)」「(なが)(つき)」「(あかつき)」「ヴェールヌイ」「(いかずち)」「(いなずま)

分艦隊指揮艦「山城」、機動部隊指揮艦「飛鷹」、防空指揮艦「文月」

 

第七分艦隊

戦艦「長門」「()()

正規空母「()()

戦艦空母「(あか)()

重雷装巡洋艦「(きた)(かみ)」「(おお)()」「()()

駆逐艦「()(つき)」「(きさ)(らぎ)」「弥生(やよい)」「()(づき)」「吹雪(ふぶき)」「(しら)(ゆき)」「(はつ)(ゆき)」「()(ゆき)」「(いそ)(なみ)」「(うら)(なみ)」「(あや)(なみ)」「(しき)(なみ)」「Z1(レーベレヒト・マース)」「Z3(マックス・シュルツ)」「Libeccio(リベッチオ)

水上機母艦「(あき)()(しま)

強襲揚陸艦「あきつ丸」

潜水艦「()500」「まるゆ」

補給艦「(はや)(すい)

給糧艦「()(みや)

移動工廠艦「(くし)()

分艦隊指揮艦「長門」、機動部隊指揮艦「加賀」、防空指揮艦「吹雪」

 

 

「それと、各分艦隊に割り当てたコードネームを合わせて発表する」

 

 堺がそう言ってエンターキーを押すと、各分艦隊の編成の上部にコードネームが出現した。それを見て、およそ半数の艦娘たちが噴き出し、残りの艦娘たちは首をかしげた。

 

「あら、あらあら。提督も考えたわね」

 

 "陸奥"が口元を押さえる。その横で"長門"が、喉に魚の骨でも引っかかったような顔をして口を開いた。

 

「提督よ、これは何だ? いくつか聞いたことがある名前があるし、星の名前だろうとは思うが……だが、これは……」

「奴らは、星の名前や宇宙に関連する用語に似た名称を軍艦や戦闘機の名前にしてるからな。なら、こっちも対抗してやろうって算段だ。ただし、」

 

 堺は一旦言葉を切ると、その続きをやけに強調して言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 さて、ここでコードネームを見てみよう。

 

第一分艦隊→「ポップスター」

第二分艦隊→「コーネリア」

第三分艦隊→「タトゥイン」

第四分艦隊→「トランスバール」

第五分艦隊→「ハイネセン」

第六分艦隊→「プロメシューム」

第七分艦隊→「イスカンダル」

 

 もちろん全て元ネタがあるが、皆様はどれだけお分かりいただけただろうか。うp主としては、第四分艦隊のコードネーム「トランスバール」の出典が最も分かりにくいのではないかと愚考します。

 

 

「さて、ここからは今回の作戦……ムー大陸西岸の制空権・制海権を確保する『ユーラヌス作戦』、そしてその障害となる敵艦隊を撃破する『ライラット作戦』の説明だ。さっきのコードネームで噴き出した奴も、ここからは真面目に聞いてくれ」

 

 真面目な雰囲気を取り戻させた上で、堺は説明を再開した。スクリーンの映像が切り替えられ、今度はムー大陸とその周辺の地図が表示されている。

 

「まず、作戦の日程についてだが、明日5月16日の17時、日暮れの頃に我々はここ、ムーの商業都市マイカルを発つ。そして、ムー大陸東側の沿岸部を巡航速度の18ノットで南下し、5月22日にはムー国南東岸にある国家・マギカライヒ共同体に到着する予定だ。

この国で最後の補給を行い、第1艦隊と分離した後、我々はムー大陸最南端の岬をぐるりと回って、ムー大陸西岸沿いに北上し、ここ、旧レイフォル国領の近海に向かう。旧レイフォル国領は敵のムー大陸侵攻の橋頭堡、そしてムー侵攻の後方兵站拠点となっている場所だ。ここへの敵の補給路を遮断しなければ、敵はこの世界では無敵とすら言えるほどの兵力を以て、ムー大陸全土を征服してしまうだろう。それは何としても避けなければならない」

 

 堺は、泊地から持ち出したレーザーポインターを取り出した。それを使い、地図のあちこちを指し示しながら説明を続ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「現在、第二文明圏の各国はムー国の陸軍と我が国の陸軍を中心として、グラ・バルカス帝国の陸上勢力をムー大陸から追い出す作戦を準備している。しかし、その作戦の遂行にあたっては同帝国の艦隊が障害となる。制海権を取り返さなければ、敵は自由に陸軍への補給が行えるからな。そして、第二文明圏の諸国家にはグラ・バルカス帝国艦隊を破るだけの力はない。何せ最も進んだ装備を持つムーですら、最高戦力は金剛型戦艦に雲龍型空母。対するグラ・バルカス海軍は翔鶴型空母に長門型戦艦、さらには大和型戦艦、特型潜水艦まで持ってるんだからな。勝負にならん。

てわけで、グラ・バルカス帝国艦隊の相手足り得るのは俺たちしかいないのさ。だから、ムー政府をはじめ第二文明圏各国の政府は我々に頭を下げて、グラ・バルカス帝国艦隊を撃破してくれと依頼してきた。この世界では名だたる諸国家のトップが、我々に頭を下げてきたんだ。となれば、我々はそれに全力で応えねばならん」

 

 レーザーポインターの光がムー大陸南西の沖合で止まった。そして、円を描いて一定の場所を示す。

 

「交戦予定は5月30日前後から6月2日頃にかけて。推定交戦場所はここ、ムー大陸南西部ニグラート連合・バルチスタ岬沖海域だ。ここは半年前、世界連合艦隊と神聖ミリシアル帝国の艦隊がグラ・バルカス帝国艦隊と戦い、敗北した地だ。そこで散った世界各国の兵たちの無念は、我々が晴らさねばならない。

ではまず、艦隊陣形を発表する。スクリーンを見てくれ」

 

 形式上は、バルチスタ沖大海戦の結果は「戦術的には世界連合艦隊&神聖ミリシアル帝国艦隊、グラ・バルカス帝国艦隊ともに痛み分け、戦略的にはグラ・バルカス帝国の辛勝」とされている。だが、双方が投入した戦力と被害等を比較して、堺は「世界連合艦隊&神聖ミリシアル帝国艦隊の敗北」と断じていた。

 ここで堺は一度説明を切り、パソコンを操作した。バルチスタ海域が大きく拡大されて映し出され、そこに艦隊陣形を記した図が現れる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「続いて各艦隊の役割を発表する。『ポップスター』の役割は、要約すれば『レーダーピケット』だ。電探を生かして敵の航空攻撃隊を探知し、味方の分艦隊に通報して欲しい。敵機が攻撃してきた場合は、自力での対処をお願いする。また、得意の夜戦を仕掛けて敵戦力の(げん)(さい)に努めてもらいたい。無理はしなくて良いが。

『コーネリア』は、主力の空母機動部隊の一翼を担ってもらうが、それと同時に敵の攻撃隊の注意を吸引する役割も持つ。流石にグラ・バルカス帝国軍も、前方に突出してきている空母部隊を放置はしないだろう。『コーネリア』の空母には、奴らの空母に似る翔鶴と瑞鶴もいるし、尚更だろう。

しかし、敵は雷撃ならともかく、爆撃では空母にほとんどダメージを与えられない。何故か? それは、空母は3隻とも装甲空母だからだ。というわけで、『コーネリア』に期待する役割は、『航空攻撃の一翼』と『目立つ囮』だ。

『タトゥイン』及び『ハイネセン』は無線封鎖の上、別働隊として行動してもらう。『ハイネセン』は『ポップスター』の西側を、『タトゥイン』は『ポップスター』の東側を大きく迂回して敵艦隊に接近、航空攻撃を実施せよ。『タトゥイン』の攻撃の中心はルーデル隊に担ってもらう。あいつらなら、大丈夫だろう。『ハイネセン』には、()(ぐさ)隊と(とも)(なが)隊による敵空母の撃滅を期待したい」

 

 言いながら、堺はパソコンを操作する。すると、スクリーンに表示された艦隊から移動方向や攻撃隊の発進方向などを示す矢印が何本も現れた。

 

「『トランスバール』と『イスカンダル』の役割は同じで、『航空攻撃の一翼』だ。『プロメシューム』にも空母はいるが、この分艦隊はどちらかというと『後方警戒と各分艦隊の援護』に回ってもらいたい。ただ、別命あった場合は航空攻撃に参加してもらう。

あと、『イスカンダル』は全分艦隊を束ねる総旗艦艦隊としての役割を持つ。各分艦隊の役割については以上だ。

ではいよいよ、『ライラット作戦』の説明に入る」

 

 今一度言葉を切った後、堺は説明を再開した。

 

「まず、夜明けと共に索敵機を飛ばし、敵艦隊を捜索、発見次第攻撃隊を送り込む。敵の空母を優先して叩いておきたいからな。敵の攻撃隊に発見された場合は、各自防空戦闘と回避行動で対処されたし。

その後は状況を見て、場合により『ポップスター』を投入して敵に夜戦を仕掛ける。そして6月1日から2日辺りのどこかで、戦艦と巡洋艦を中心にした艦隊で水上砲撃戦を仕掛け、艦隊決戦で決着をつける。大雑把に説明すればこんな感じだ。

まあ要するに、これまで俺たちが深海棲艦相手にやっていたことのおさらいになるわけさ。

あと、"呂500"は『ライラット作戦』には参加せず、別途『狩人(ハンター)作戦』に従事してもらう。我々がバルチスタで戦っている間に先回りしてイルネティア島近海に進出し、独自判断にて敵の水上艦を攻撃してもらいたい。輸送船団を優先して攻撃せよ」

 

 堺の説明に、多くの艦娘たちが頷く。"呂500"はというと、「りょーかいですって! サイレントハンターの本領発揮だって!」と殺る気まんまんだ。

 

「細かいところは戦況次第になるから、今のところ『ライラット作戦』の内容ではっきり言い切れるのはこのレベルだ。そしてここで終わりではない。『ライラット作戦』はあくまで『ユーラヌス作戦』の前段階でしかないからな。

続いて、『ユーラヌス作戦』の説明に入る。グラ・バルカス帝国艦隊を撃破した後、()(そう)を放棄してしまった者は仕方ないとして、艤装損傷で済んだ者は"釧路"による緊急修理を行う。そして、航空戦及び艦隊決戦で生き延びた艦と修理した艦を中心戦力として、我々はここ、ムー大陸の西方500㎞に位置するパガンダ島に向かう。攻撃目標は、パガンダ島にあるグラ・バルカス帝国の軍港、飛行場、砲台、及び在泊中の艦艇だ。また、『ライラット作戦』が成功したタイミングでマギカライヒ共同体で待機していた輸送船団は護衛の第1艦隊と共に出撃、我々と合流してくる。トーパ王国の砲艦は、マギカライヒに留まる予定だ。

敵の重要目標を我々が空襲と艦砲射撃で撃破した後、輸送船団に分乗している我が軍の第2海兵師団がパガンダ島に上陸、残る敵陸上戦力を掃討することになる。攻略には最長で1ヶ月程度が必要になるだろうと試算されている。

また、我々のパガンダ攻撃に呼応して、ムー統括軍が海軍の新鋭艦隊でイルネティア島の敵艦隊と基地を攻撃、しかる後に陸軍を揚陸し、イルネティア全島を制圧する、という流れになっている。パガンダ島攻撃中ではあるが、我々は艦隊と航空戦力を分派し、ムー統括軍の作戦の側面援護も行う。『ユーラヌス作戦』の全貌は以上だ。

厳しい戦いになることが予想されるが、諸君なら必ずや成功させてくれると信ずる!」

 

 説明を終えた堺は、改めて艦娘たちを見渡すと、声を張り上げた。

 

「では諸君、行こう。世界平和を乱す()(らち)なグラ・バルカス帝国艦隊に鉄槌を下し、暁の水平線に勝利を刻むのだ!」

 

 堺の宣言に、艦娘たちは海軍式敬礼で応える。

 

「質問がある者は、後で各自私のところに聞きに来てくれ。答えられる範囲で答える。

では、作戦説明は以上だ。決して慢心することなく、各自準備にかかれ。解散!」

 

 かくして、第二文明圏の諸国家とロデニウス連合王国軍による対グラ・バルカス帝国大規模反攻作戦、その前段階としてパガンダ・イルネティア両島を解放する「ユーラヌス作戦」が正式に発動された。そして同時にグラ・バルカス帝国艦隊を撃破する「ライラット作戦」も発動されたのである。

 

 説明会が終わった後、会場から艦娘たちが退出するのを確認していた堺に、そっと話しかける者がいた。"釧路"、"赤城"、"加賀"の3人である。

 

「提督。独立第1飛行隊については、どうされますか?」

「ああ、アレか」

 

 独立第1飛行隊とは、通常の航空隊とは異なる特殊機材を装備した航空隊だ。はっきり言えば、ディグロッケやハウニブといったUFOを運用する隊である。

 

「あの飛行隊も出す。ただ、飛行隊が使える機材の数が少ないんで、ムー大陸沿岸部の早期警戒がせいぜいだ。敵艦隊のほうにまで回す機体がない」

 

 今現在使える機体は、ディグロッケが6機にハウニブが全タイプ合わせて6機だ。敵の物量が膨大である以上ムー大陸のほぼ全周を警戒しなければならないので、敵艦隊への攻撃に使える機体はない。

 

「では、敵艦隊についてはこの第13艦隊のみで索敵し、戦うことになる、ということですか」

「そうなるな。独立第1飛行隊の警戒区域についてだが、機体ごとの割り振りは任せる」

「承知しました」

 

 

 その翌日の夕方、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊・ムー派遣部隊は、マイカル基地の職員やマイカル防衛艦隊艦艇の乗組員たちに見送られてマイカルを出港した。目指すはムー大陸南東部の国家であるマギカライヒ共同体、そしてその先にある推定決戦海域・バルチスタ岬沖海域である。

 なおマイカルを出港した直後、各分艦隊の軽巡洋艦や駆逐艦の艦娘たちが「敵の潜水艦を発見!」と警告し、ムー空軍と協働で対潜戦闘を行って数隻の敵潜水艦の撃沈破を報じたが、別にどうということはないので割愛する。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、中央暦1643年5月25日午後7時、マギカライヒ共同体の南方20㎞の沖合。

 グラ・バルカス帝国海軍第1潜水艦隊に所属するシータス級潜水艦「メンカル」は、そこで哨戒任務に就いていた。今宵は満月から少し欠けた月が空にかかっている。が、今日はあいにくと曇りであるため、お世辞にも哨戒に向いた天気とは言えない。

 現在、艦は潜望鏡深度にあって潜望鏡を上げ、周囲を確認している。

 

「何もなし、か……」

 

 潜望鏡を上げたまま、艦長は呟いた。

 このところ不漁の日が続いている。以前はマギカライヒ共同体の主力艦らしい艦を狩れたこともあったのだが、残念ながら今日もハズレになりそうだ。

 

(北にあるムーや、第一文明圏のほうから敵の艦隊が回ってくるかと思って、哨戒担当区域でもあるここで張り込んでいたが……こりゃ読みを外したかな)

 

 艦長はそんなことを考えていた。

 第二次世界大戦当時の潜水艦は、基本的に脚が遅い。浮上しての航行でも20ノットも出せるか怪しいし、潜ったまま航行するとなると10ノットも出せないこともザラだ。そのため、敵が来ると見られる海域に先回りし、張り込むのが例なのであるが……これは、「艦長の読みが外れると空振りに終わる」という欠点を抱える。

 どうやら空振りになりそうだ。

 

(ま、こういうこともあるか)

 

 そんなことを考えながら、艦長が潜望鏡を下ろそうとした、その時だった。

 ソナーマンが声を上げたのだ。

 

「船の航行音らしきもの多数感知! 本艦から見て1時の方向、距離約3,500!」

「何?」

 

 今しがた潜望鏡を下ろそうとした手を止め、艦長は報告のあった方向に潜望鏡を向けた。

 景色は暗く澱んでおり、何も見えない。だが、その闇の中に何かがいそうな気配はする。

 

「潜望鏡では何も見えん。ソナー、音源との距離の観測を続けろ!」

 

 艦長はそのように命令した。「了解」の声を返したソナーマンは、音源が次第に近づいてきていると伝えてくる。

 10分ほどすると、闇の中から幾つもの艦影がおぼろげに見えてきた。……が。

 

「あれは……キャニス・メジャー級軽巡洋艦にキャニス・ミナー級駆逐艦、タウルス級重巡洋艦か?」

 

 潜望鏡を覗いたまま、艦長は呟いた。

 「メンカル」の右方向を何隻もの艦艇の影が通過していくのが見えるのだが、どこかグラ・バルカス帝国の艦影に似ている。であれば、あれは味方だということになる。

 だがしかし。

 

「んー……?」

 

 艦長は首を傾げていた。

 今日のこの時間には、この周辺を通るグラ・バルカス帝国の艦隊はないはずだ。少なくとも、予め通告されているプランにはこんな予定はない。

 しかも、発見した艦隊は明らかに数が多い。少なく見積もっても50隻はいる。

 明らかに、何かがおかしい。

 

「なっ……!」

 

 不意に、潜望鏡を覗いたまま、艦長は絶句した。とんでもないものを見てしまったのだ。

 

「ヘ、ヘルクレス級戦艦2隻、そしてグレードアトラスター級戦艦2隻、ペガスス級航空母艦2隻だと!?」

 

 グラ・バルカス帝国海軍の主力を担う戦艦や空母のシルエットが見えたのだ。

 

(ま、待て。待て待て待て。どういうことだ? ここまで大規模な艦隊、それも主力艦クラスが出張っているとなると、明らかに何かが変だ。我が国のこんな規模の艦隊がこんなところを今日通る、なんて話は聞いていないぞ!?

まさか……これは我が国の艦隊ではない!?)

 

 混乱しながらも、艦長はその艦隊の艦艇が掲げている国旗を確認しようとした。しかし、今はあいにくと外が暗い。国旗を確認するのは難しかった。

 

(どうするか……)

 

 悩む艦長。そこへ、

 

「国籍不明の中型艦1隻、本艦に接近! 距離1,000、12時の方向! 機関音はキャニス・メジャー級にそっくりです!」

 

 ソナーマンが悲鳴に近い報告を上げてきた。

 

「くそ、近い。観測中止、急速潜航!」

 

 潜望鏡を下ろし、艦長は叫ぶ。

 不明の艦に思ったよりも接近されていた。だが、相手としてもこの暗闇の中でこちらの存在に気付くのは難しいはずだ。何せこの世界には潜水艦というものがない。そんな中で潜水艦に気付けというのは酷というものだ。大丈夫、やり過ごせるだろう。

 「メンカル」は、ギギイ……という金属の(きし)む音を立てながら潜航していく。艦体にかかる水圧が急激に増し、艦体が悲鳴を上げるように軋んでいるのだ。

 しばらくの後、「メンカル」は安全深度ギリギリの深度70メートルまで潜った。が、その間に不明艦も距離を詰めている。

 

「不明艦、更に近づく。距離約200!」

 

 ソナーマンが報告する。

 

(よし、なんとか凌げたか)

 

 艦長はそう考えた。その時。

 

ピコーン!

 

 突然、まったく突然に、甲高い音が艦内に響き渡った。

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

 それを聞いた瞬間、艦長を含めて乗組員一同が騒然となった。その間にも、ピコーン! という独特の甲高い音が断続的に聞こえてくる。しかも音がだんだん大きく、音同士の間隔が短くなってくる。

 

「こ……この音って、た……探信音だよな!?」

「バカな……! 探信音といえば、アクティブソナーだ! 我が国でもまだ開発中のものが、何故こんなところにある!?」

 

 パニックになった乗組員たちが、こぞって言葉を交わし合う。

 

「全員に告ぐ! 今頭上にいる艦隊は、明らかに我が国の艦隊ではない! しかも、この艦隊は潜水艦を知っているようだ!

この情報、なんとしても本国に伝えるぞ!」

 

 艦長は決断した。

 この艦隊は、明らかにグラ・バルカス帝国海軍の艦隊ではない。しかし、グレードアトラスター級に似た戦艦を持ち、更にはアクティブソナーを使用してきた。とんでもない相手である。

 そういえば、ここよりずっと東にあるロデニウス連合王国の海軍は、ヘルクレス級戦艦を保有するという報告がある。まさか、そのロデニウス連合王国の艦隊がここに来ているのか!?

 しかし残念なことに艦長の疑問は、永遠に解けなくなった。真上に達しつつあった小型巡洋艦……ロデニウス海軍第13艦隊・第1海上護衛隊の軽巡洋艦「由良」が発射した対潜迫撃砲(ヘッジホッグ)が見事に命中し、潜水艦「メンカル」を撃沈に至らしめたのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、中央暦1643年5月30日 午後3時55分。処はムー大陸南西部 ニグラート連合南西沖。

 

「『村雨』から発光信号! 『敵潜水艦1隻、撃沈確実』!」

 

 第13艦隊総旗艦「長門」の艦橋に、報告が上げられた。

 ロデニウス海軍連合艦隊は、既に二手に分かれている。第1艦隊は、トーパ王国の砲艦や第13艦隊の補給部隊、及び陸軍や海兵隊の輸送船団と共にマギカライヒ共同体の港街で待機中である。そして第13艦隊総勢132隻(正確には132人)は、グラ・バルカス帝国艦隊の撃滅を期してムー大陸西岸を北上中であった。

 

「了解」

 

 報告に短く返答した堺は、下顎に手を当て、目を閉じて考え込む。

 

(これで、累計して11隻目の敵潜水艦撃沈か。敵はかなりの数の潜水艦を哨戒に放っているみたいだな。まあ、敵の潜水艦は騒音対策がザルだから、我々には即バレて海底送りにされる訳だが……まずいな。潜水艦を撃沈したことで、その潜水艦からは定時報告が敵の本隊に行かなくなっている。つまり、敵は定時報告を絶った潜水艦の位置を把握することで、大まかにでも我々の位置や針路、速度までもを探り出せる訳だ。対して、我々が敵本隊の位置を把握する術は、母艦航空隊の索敵機のみ……!)

 

 彼は首を横に振った。

 

(かといって、潜水艦を無視する訳に行かん。無視しようとして空母や戦艦が雷撃を喰らえば、それこそ要らざる被害を出すことになっちまう。

……くそっ、上手くねェな。どうも敵の司令官の掌の上で踊らされている気がするぜ)

 

 そして堺は、キッと目を見開いた。

 

(敵の司令官はかなり狡猾なようだ。……ならば、その策略もろともブチ破るのみ!)

 

 堺はついに、各艦隊に指示を出すよう通信長妖精に命じた。

 

「全部隊宛、打電せよ。『ライラット系突入』と」

「はっ!」

 

 これは「艦隊陣形を展開せよ」という暗号電である。

 通信長妖精がモールス打鍵機を叩き始める。それを横目に見ながら、"長門"が堺に尋ねた。

 

「提督よ、1つ聞きたいのだが」

「ん? どうした?」

「作戦では、敵艦隊はバルチスタで迎撃してくると予想されているが、その予想が外れた場合はどうするんだ? 例えば、敵がレイフォル沖に展開して基地航空隊との共闘を図ってきたとしたら、我々の制空権確保が非常に困難になるぞ」

 

 "長門"がそう言うと、堺は「あー」と相槌を打った。そしてこともなげに答える。

 

「その可能性も検討したけど、ほぼないと結論付けたよ」

「ほぼない? 何故だ?」

「理由は2つ。1つは、敵がぼんやりとだけどこちらのRV-2ロケットの性能を知ったから。そしてもう1つは、敵が優秀だからだ」

「??」

 

 堺が示した2つめの理由に、"長門"が怪訝そうな表情を浮かべた。何を言っているのか分からなかったらしい。

 その様子を見た堺は、こう付け足した。

 

「敵さんの指揮官は優秀な人だ。そこは俺も否定しない。

だが、優秀さは時として深読みを招くことがある。その深読みが、思考や行動を縛ってしまうんだよなぁ」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方その頃、バルチスタ海域を目指して南下していたグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊、その旗艦であるグレードアトラスター級戦艦2番艦「ブラックホール」の艦橋に、ハイドラ級潜水艦「ミンチル」から報告が届いた。

 マイカルに潜入していた諜報員から「ロデニウス連合王国の艦隊と思われる大艦隊が消息を絶った」という通報があった後、ムー国沿岸に展開している潜水艦が次々と消息を絶っていることから、東部方面艦隊司令部は「緊急事態である」と判断し、調査を急がせた。その結果、大艦隊が来寇しているらしいことが明らかになった。そして、その止めの確認が、この報告電だった。

 

『ムー大陸・ニグラート連合の南西方200㎞の海域に敵大艦隊発見。バルチスタ方面に向けて北上中。総数約130、戦艦・空母各10隻以上。敵はロデニウス連合王国艦隊、少なくともオリオン級戦艦4、ヘルクレス級戦艦2、グレードアトラスター級戦艦1、超大型工作艦1を伴う。1444』

(潜水艦「メンカル」は、ほとんど明かりのない状況下で目視確認を行ったため、戦艦「アイオワ」をグレードアトラスター級と誤認している。まあ、暗い中で目視で判定している以上、艦種誤認は仕方ない)

 

「……来たか」

 

 報告電の読み上げを聞いて、「ブラックホール」に座乗している東部方面艦隊司令にして「帝国の三将」の1人カイザルは、呟くようにそれだけ言った。

 先進11ヶ国会議においてその海軍力の一端を知って以来、カイザルがずっと気にしていたロデニウス連合王国の艦隊が、ついにやってきたのだ。それも、多数の戦艦と空母を含む主力艦隊である。

 しかも、報告には「グレードアトラスター級戦艦1」とある。ということは、敵の技術力は少なくともグラ・バルカス帝国とほぼ同レベルだ。昨年4月にフォーク海峡でロデニウス艦隊と戦った特務軍艦隊の航空隊も、「敵は近接信管付対空砲弾を使用した」と報告しており、そこからもロデニウス連合王国の技術レベルの一端が窺える。

 おまけに、そのロデニウス連合王国の陸軍もしくは空挺部隊を含む敵が、バルクルス基地を占領した挙句奪還に向かった陸軍第3師団を叩き潰してしまった。第3師団の敗残兵からは「敵にも戦車がある」と報告されており、おそらくロデニウスがとんでもない戦力を隠し持っていたと見られる。

 これまで東部方面艦隊が戦った、神聖ミリシアル帝国の艦隊やムー国の艦隊、その他の()(ぞう)()(ぞう)とは桁が違う。絶対に侮ってはならない。侮れば、負ける。

 カイザルは各艦に通信を繋がせると、マイクを持って話し始めた。

 

「全艦に告げる。私は東部方面艦隊司令のカイザルだ。

味方の潜水艦からの報告により、新たな敵の接近が探知された。敵はロデニウス連合王国艦隊、数は我々と大して変わらない。しかも、敵にはグレードアトラスター級戦艦がいることも判明した」

 

 カイザルのこの通信を聞いて、各艦の乗組員たちはざわついた。

 まさか、敵がグレードアトラスター級戦艦を投入するとは思ってもみなかったのだ。そしてそのグレードアトラスター級を、ロデニウス連合王国が保有しているなどとは考えてもいなかった。動揺も無理ない話である。

 

「諸君、敵は強い。これまで戦ったどんな敵よりも強いといってもいいだろう。

だが、私の指揮と諸君の働きが噛み合えば、我々は如何なる敵が相手でも戦って勝てると信ずる。敵は強い、だからこそ我々の力を見せつけなければならない。

諸君の健闘に期待する!」

 

 カイザルはそう言って、マイクを置いた。

 各艦の乗組員たちは、今や士気を非常に高めている。帝国の三将と謳われる「あの」カイザルから「期待している」と言われたのだ。ならば、期待に応えなければならない。

 こうして、グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊も、迎撃の準備を整えつつあった。

 

 カイザルは、既に敵艦隊の迎撃に関していくつか作戦を立てていた。

 前回のバルチスタ沖大海戦の時に考案したものの、結局使わなかった布陣がある。それは、艦隊の全兵力を複数の任務群に分け、特に空母を分散配置して戦うというものだ。彼はそれを使って、ロデニウス連合王国艦隊と戦おうとしていた。

 

(ヘルクレス級戦艦を持っていると聞いていたから薄々覚悟はしていたが、まさかロデニウス連合王国の艦隊がここまで強力だとはな。空母10隻以上、戦艦はグレードアトラスター級1隻を含む10隻以上とは……。

総数は200隻を大きく割り込んでいるが、これはおそらく輸送船団とその護衛をどこかに置いてきたからだろう。つまり、発見された艦隊は戦闘部隊だということになるな)

 

 グラ・バルカス帝国軍の情報部は、ロデニウス連合王国軍の情報を得ようと躍起になっていた。しかし、距離が遠いせいもあってあまり詳しいことは分かっていない。

 強いて挙げるなら、分かっていることとしては、敵は少なくともヘルクレス級戦艦とエクレウス級駆逐艦、オリオン級戦艦、グレードアトラスター級戦艦と、自国の「アンタレス」や「シリウス」、「リゲル」に似た航空機を運用していることくらいである。あと、情報部が辛うじて掴んだ情報が2つあった。

 

(ロデニウス連合王国の艦隊は全部で5つ。そのうち5番目の艦隊……なぜか番号をすっ飛ばして「第13艦隊」と呼称されているらしいが、そこに多数の戦艦や空母を含む主力艦が集められ、集中運用されているそうだな。おそらく今回出てきたのは、その第13艦隊だろう。

そして、これも辛うじて情報部が掴んだ情報だが、第13艦隊の司令官はシュウイチ・サカイというらしいな。どんな男だ……)

 

 「ブラックホール」の艦橋で、カイザルは視線を床に落として1人考える。

 

(彼も、祖国とムーの命運を賭けて出てきたのだろう……ただの男ではないはずだ。この戦い、必ずかなりの激戦となる。

だが……我々は勝たなければならん)

 

 カイザルは顔を上げ、味方の艦隊を見据えた。

 

(戦艦13隻、空母15隻、重巡洋艦12隻、軽巡洋艦14隻、駆逐艦108隻に、ムー大陸周辺海域に展開している潜水艦の残存艦31隻……これが、今の東部方面艦隊の全戦力だ。これを以て、ロデニウス艦隊と対峙する。ここまで多数の戦力を動かすのは4ヶ月ぶりだな。

やって来い、サカイ……我々は必ず、貴様に勝つ!)

 

 カイザルは1人、闘志を燃やしていた。

 

(それはそうと、我々はまだ敵艦隊の位置を把握しやすいな。何故なら、敵がいるらしい方角に展開している我が軍の潜水艦は、必ずといっていいほど定時通信を絶っているからだ)

 

 彼は冷静に考える。

 どうやらロデニウス連合王国艦隊は、これまでの国の艦隊とは違って潜水艦の存在を知っており、しかも潜水艦と戦う術を身につけているらしい。その証拠に、ロデニウス艦隊がいると思われる方角に展開している味方の潜水艦からは、定時通信が途絶えることが多いのだ。恐らく撃沈されているのだろう。

 敵が対潜戦闘を知っている、というのは大きな脅威だし驚きであるが、同時にカイザルにはチャンスでもある。何故なら潜水艦からの定時通信が途絶えた範囲を調べることで、おおよその敵の位置と針路、速度を割り出せるからだ。

 

(そう考えれば、敵より我々のほうが先手を取りやすい訳だ。だが、敵の指揮官サカイもそのことは分かっているはずだ……)

 

 カイザルがそう考えているところに、参謀長を務めるマルクル・ヘルメス少将が質問を投げてきた。眼鏡をかけた、少々瘦せぎすの40歳代後半の男性だ。

 

「司令官閣下、1つお伺いしたいのですが」

「む、どうした?」

「は、敵艦隊の迎撃は理解できるのですが、何故バルチスタで迎え撃つのですか? レイフォリア沖に展開し、ラルス・フィルマイナ等の陸上基地の航空隊と連携する手の方が有効では?」

「ああ、そのことか。それも考えたが、危険が大きいと判断した」

「何が危険なのですか?」

 

 カイザルは噛んで含めるように、ゆっくりとした口調で説明した。

 

「それではまず、質問しよう。ヒノマワリ東部のバルクルス基地が陥落したニュースは聴いているな?」

「は、伺いました」

「その時、敵がバルクルス攻撃にどんな手を使ったかは、知っているか?」

「空爆、そして空挺ではありませんか?」

「それは正解だが、それだけではない」

「と仰いますと?」

「敵の空爆が始まる直前、バルクルス敷地内とその周辺で、突然複数の爆発が起こっている」

 

 「剣閃作戦」の折、地下トンネルなどを使って命からがらバルクルス基地を脱出した兵は結構な数に昇っており、それらの兵によってバルクルス陥落の報はレイフォル州にも伝わっていた。もちろんカイザルも、そのニュースを耳にしていた。

 

「え……それでは閣下は、あの謎の爆発が敵の攻撃によるものだったとお考えなのですか?」

「ああ、十中八九間違いないと考えている」

「し、しかし、どこにも大砲の発射炎は見えず、砲弾の飛翔音なども聞こえず、さらにレーダーにも何も捕捉されていないのですよ?」

「それはそうだが、あの爆発はあまりに不自然だ。いくら何でも、可燃物も爆発物もない滑走路で爆発が起こるのはおかしい。敵の攻撃と考える方が自然だ」

「では、敵はどんな攻撃を行ったというのです?」

「それは分からん。もしかすると、何か未知の魔法でも使ったのかもしれん。

だが、1つだけ確実に言えることがある。陸上においては、敵は我々が全く感知できない何らかの兵器又は方法で我々を攻撃する手段を持っている、ということだ」

 

 カイザルの説明に、マルクルは頷いた。

 

「では、ここで聞こう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか?」

「あっ……!」

 

 マルクルは、自身の上官が何を言いたいのかを理解した。

 

「そう、敵は未知の攻撃手段を艦に載せているかもしれない。可能性は十分にある。

それに、敵のあの攻撃方法の威力は相当のものだ。それをレイフォリアやラルス・フィルマイナに撃ち込まれればどうなる?」

 

 考えるまでもない。レイフォルの征統府や陸軍司令部が壊滅し、深刻な混乱が起きるに決まっている。

 

「その危険があるからこそ、我々はバルチスタで戦わなければならないのだ。敵のあの攻撃方法は威力は大きいが、命中位置にばらつきがある。海上を航行する軍艦を攻撃できるほどの正確さはない。だから、レイフォル州に近付かれる前に、敵の新兵器ごと艦隊を叩く必要があるのだ」

「なるほど……流石は閣下でございます。失礼しました」

 

 己の不明を恥じたマルクルは、一礼して引き下がるのだった。

 

 

 その翌日、中央暦1643年5月31日。

 ロデニウス連合王国海軍第13艦隊・ムー派遣部隊と、グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊、2つの大艦隊がバルチスタ沖に集合し、いよいよ雌雄を決しようとしていた。今年2月の世界連合艦隊 対 グラ・バルカス帝国艦隊の海戦を「第一次バルチスタ沖大海戦」とするなら、「第二次バルチスタ沖大海戦」の火蓋が今、切って落とされたのである。

 戦いが、始まる。第二文明圏の、あるいは世界の命運を賭けた戦いが。




ロデニウス連合王国海軍第13艦隊の各分艦隊のコードネームについて、元ネタを解説します。皆様はいくつ分かりましたかね?
え? ノーヒントで全部分かった? …マジですか…。

「ポップスター」
地球から遠く離れた宇宙にあるとされる星系にある星。しょっちゅう事件が起きているが、ピンク玉がそれを仲間と共に解決している。
元ネタは「星のカービィ」シリーズから、冒険の舞台となる主星。

「コーネリア」
ライラット系の第4惑星。地球にあるような緑の植物と、近代的なビルが入り混じる、ライラット系の中心惑星である。
元ネタは「スターフォックス」シリーズから、雇われ遊撃隊「スターフォックス」の活動拠点である惑星コーネリア。今回の作戦コードネーム「ライラット作戦」もここから来ている。

「タトゥイン」
「タトゥイーン」等表記揺れあり。いずことも知れぬ星系にある砂漠の星。ここに2体のロボットが不時着し1人の青年と出会ったことが、全ての始まりとなった。
元ネタは「スター・ウォーズ」シリーズから、ルーク・スカイウォーカーの故郷である惑星タトゥイン。ちなみにロデニウス連合王国軍総司令官ヤヴィンの名も、このシリーズのどこかから来ている。どこに元ネタがあるかは、各自各作品を参照せよ。

「トランスバール」
128もの星系を従えるトランスバール皇国の首都星。かつて廃王子によるクーデターが発生、1人を除く全ての皇族が粛清された。その後、ただ1人の生き残りの皇族の命を受けた司令官(主人公)によってクーデターは鎮圧され、平穏を取り戻した。
元ネタは「ギャラクシーエンジェル」シリーズから、主人公タクト・マイヤーズの所属国家であるトランスバール皇国の首都星。

「ハイネセン」
サジタリウス腕にあるとされる、バーラト星系の第4惑星。「アルテミスの首飾り」と呼ばれる戦闘衛星群によって全周防御されている。
元ネタは「銀河英雄伝説」から、自由惑星同盟の首都星。なんで銀河帝国の首都星である惑星オーディンや惑星フェザーンにしなかったのかって? そりゃあ、この物語の主人公である堺のキャラモデルは…

「プロメシューム」
銀河を渡る星間鉄道の駅がある星の1つ。ここに行けば、金属製の肉体を手に入れられるとされる。とある少年が謎の美女と共に星間鉄道に乗り、この星を目指すことになる。
元ネタは「銀河鉄道999」から、銀河鉄道の終着駅の1つ。

「イスカンダル」
地球から10万光年以上も彼方にある、大マゼラン星雲にあるとされる惑星。星としての寿命が近付いており、その晩年に数奇な運命をたどることになる。
元ネタは「宇宙戦艦ヤマト」シリーズから、「コスモクリーナーD」(リメイク版では「コスモリバースシステム」)を入手するため宇宙戦艦ヤマトが目指した星イスカンダル。

やっとこさ、ここまでたどり着きました。私が描きたかった場面の1つ、第二次バルチスタ沖大海戦です。
さあ、勝利の女神は果たしてどちらに微笑むのか!?


評価9をくださいました星野優季様、☆しょ〜の☆様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

バルチスタ海域にてついに激突することとなった、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊とグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊。「制空権なくして勝利なし」の言葉を体現するかのように、両軍は激しい航空戦へと突入する!
次回「激突! 第二次バルチスタ沖海戦!(one)」
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