鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
また、他製作者様の二次創作に対する批評・批判・中傷などの行為についても、厳に慎んでいただくようお願い申し上げます。原作となる作品を尊重すると共に、互いの二次創作品の長所を認め合い、切磋琢磨することによってこそ二次創作を含むファン活動が広がるものと、私は考えております。
あともちろんですが、件のコメントは全て私のものではありません。IDなど調べていただければお分かりいただけると存じます。
それはともかくとしまして。
第二次バルチスタ沖大海戦はまだ始まったばかり。続いての航空戦に突入します!
なお、前話の中で”摩耶”が東方project絡みのネタ発言をぶちかましていたことを、表立って指摘して下さったのは1人だけでした……。あれ、実は中央暦1641年の元旦に”摩耶”が「東方紅魔郷」をプレーしていたのが伏線です。あれ以来”摩耶”は◯理沙がお気に入りキャラになってしまい、その口癖が移ってしまったのです。
【中央暦1643年5月31日 午前9時時点での両軍の損害】
ロデニウス連合王国海軍第13艦隊
艤装放棄: 空母1、駆逐艦1(”翔鶴”、”巻雲”)
中破: 航空巡洋艦1(”筑摩”)
小破: 戦艦1、航空母艦1、駆逐艦1(”榛名”、”大鳳”、”浦風”)
グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊
喪失: ペガスス級航空母艦(翔鶴型空母に酷似)2、駆逐艦2
大破: ペガスス級航空母艦1、軽巡洋艦1
中央暦1643年5月31日午前9時11分、ムー大陸南西方 バルチスタ沖。
ロデニウス連合王国海軍第13艦隊・ムー派遣部隊のうち、総指揮を担う分艦隊である第七分艦隊「イスカンダル」は、輪形陣を構築したまま北上を続けていた。その分艦隊旗艦である戦艦「
「もうそろそろ、『トランスバール』の第一次攻撃隊と敵『2ロ』の航空隊が、互いに会敵している頃だな……」
「ああ。敵も機動部隊を1つ潰された身だ、今度は慢心を捨てて、本気でかかってくるぞ」
堺の言葉に、艦橋の中心に立つ、武人っぽい雰囲気を纏った女性……艦娘の"長門”が頷いた。
「しかも、『トランスバール』の索敵機によれば、敵艦隊にはグレードアトラスター級戦艦がいるって話だ。おそらく敵艦隊の中枢分隊だろう」
午前8時25分に「トランスバール」から入ってきた報告によれば、「敵艦隊見ユ。位置、〈バルチスタ岬〉ヨリノ方位310度、距離330浬。敵ハ
敵艦隊と「トランスバール」との距離は、およそ200浬。お互いが艦載機の攻撃圏内に入っているため、激しい殴り合いが予想された。
「これに一撃を与えるとなると……最も確実な方法は1つしかないな」
「最も確実な方法?」
「
『
この2人を合わせれば、文字通り最強の攻撃隊になるはずだ」
「それは確かにな」
「加えて、トランスバール機動部隊の空母が搭載しているのは第六〇一航空隊の面々だ。確かに彼らの練度は高いが、一航戦の搭乗員たちの練度と比較するとどうしても見劣りする。やはり増援が必要だろう。
それともう1つ。『トランスバール』の航空隊との戦いで、敵の上空直掩機には相応の被害が出るはずだ。ならば、一航戦の攻撃隊がそれを突破して、敵艦隊の空母を仕留めるくらいは
「なるほど……」
"長門"は、堺の説明に頷くだけだ。
「というわけで長門、赤城と加賀に発光信号。『目標、2ロ。第一次攻撃隊発進準備セヨ』」
「『目標、2ロ。第一次攻撃隊発進準備セヨ』、了解。赤城と加賀に発光信号送る」
堺の命令を復唱し、"長門"は直ちに命令の遂行にかかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊 第1.2任務群。
「何とか凌いだか……」
未だ硝煙の匂いが強く立ち込める「ブラックホール」の艦橋で、東部方面艦隊司令長官カイザル・ローランド大将が一息ついていた。第1.2任務群はロデニウス連合王国艦隊から飛び立ったと見られる航空機による攻撃を受け、さっきまで対空戦闘を行っていたのだ。
「ブラックホール」の周囲には、何隻ものグラ・バルカス帝国の艦が展開しているが、その陣形は大きく乱れている。敵の攻撃を避けるため、各艦が回避行動を取った結果だった。そのうち何隻かの巡洋艦と駆逐艦が黒煙を噴き上げており、他にも今まさに沈没しつつあるエクレウス級駆逐艦や既に海中に姿を消した艦もある。そして、環状陣形の中央では1隻の平べったい艦……カシオペヤ級軽空母の「カフ」が燃えながら横転していた。艦首を高々と突き上げており、この空母はもはや沈没を免れない。残りの3隻の空母……ペガスス級の「マルカブ」「アルゲニブ」とカシオペヤ級の「シェダル」は、無傷で航行している。
そして上空には、南の空に消えていく多数のレシプロ機……グラ・バルカス側呼称「チャーリー」、ロデニウス側呼称「トランスバール」の攻撃隊が見えた。その編隊は崩れており、機数も襲来した時より明らかに少ない。グラ・バルカス帝国艦隊の猛烈な対空射撃と、直掩のアンタレス型艦上戦闘機との戦いの結果だった。
「被害集計の結果が届きました。
空母『カフ』喪失の他に、タウルス級の『マイア』とレオ級の『ゾスマ』、それにキャニス・ミナー級駆逐艦2隻とエクレウス級駆逐艦1隻がやられました。他にタウルス級の『エレクトラ』が爆弾2発を被弾して火災発生、消火活動に追われています。同艦は艦橋に直撃弾を受け、艦長以下艦の主要クルーが軒並み戦死した、との報告が届いており、戦闘不能と判断されます。
また、上空直掩に当たった『アンタレス』ですが、42機中18機までが撃墜され、さらに5機は損傷が激しく再出撃不可と判定されました。現時点で上空直掩に上げられるのは19機だけです」
「そうか……」
参謀長に返答しながら、カイザルは考えていた。
自分の目でしっかりと戦闘を目撃した今、もはやロデニウス連合王国の艦隊を侮ることは絶対にできない。自分たちと同等以上の強敵と認識して戦わなければならない。
というのも、彼らの機体のほうが全体的に高性能だったのだ。たとえば雷撃機。こちらのリゲル型雷撃機は、最高時速380㎞で飛ぶことができるが、彼らの雷撃機はどう見ても時速400㎞を超える速度を出していた。艦上爆撃機にしても、時速450㎞は固い。もしかすると時速500㎞を出せるかもしれない。そうなれば、こちらのシリウス型爆撃機にも劣らない高性能機ということになる。
彼らの戦闘機に至っては、時速600㎞は出ていると思われた。何せ時速550㎞で飛べるグラ・バルカス帝国軍自慢のアンタレス07式艦上戦闘機が、追いつけなかったのだ。運動性能では「アンタレス」のほうが上らしいが、油断はできない。
また、彼らの戦闘機は防弾性能がかなりしっかりしているようで、「アンタレス」の7.7㎜機銃では当たっても火を噴かない、という報告が寄せられていた。流石に20㎜機銃は通るようだが。
(まさか、「アンタレス」より高性能の戦闘機とはな……。これは、ますます油断できなくなってきたぞ。
だが、それほどの強敵だからこそ、倒しがいがある、というものだ)
そう考えたカイザルは、部下の1人に確認を取った。
「予定では、こちらの攻撃隊が敵艦隊に取り付いている頃だな?」
「は、左様でございます」
「うむ。彼らが上手くやってくれることを信じようじゃないか」
カイザルと幹部の会話通り、第1.2任務群の第一次攻撃隊は、敵「チャーリー」艦隊……ロデニウス第13艦隊の第4分艦隊「トランスバール」を視界に捉えていた。
どこまでも広がる青い海に、いくつもの太い航跡が見える。そして、何隻もの敵の艦隊が環状陣形を組み、中央にいる3隻の平べったい艦を守っていた。典型的な機動部隊の布陣である。
「『チャーリー』発見。全機、突撃隊形作れ」
無線機から隊長の声が聞こえる。
ペガスス級空母「マルカブ」から発進した雷撃隊の隊長ラルフ・ギリアム大尉は、15機のリゲル型雷撃機を率いて敵の環状陣形に迫りつつあった。
「行くぞ! 全機俺に続け!」
彼が無線に叫んだとき、
『敵機、前上方!』
部下の1人の叫びが、無線機から飛び込んだ。見ると、上空から何機もの機影がこちらに向けて迫ってくる。
護衛の「アンタレス」が増槽を捨て、エンジンスロットルをフルに開いて上昇を開始する。そして、襲ってくる敵機に真正面から立ち向かった。
猛速で距離を詰める両軍の戦闘機。一瞬後、真っ赤な太い
2、3機の敵機が機首をギリアムの隊に向けて迫ってきた。
「各機回避運動!」
ギリアムは無線に叫ぶと同時に、操縦桿を左右に倒して振り子様運動を開始した。しかし、重い魚雷を抱えた「リゲル」の運動性は鈍く、動きは遅い。身軽な戦闘機とは比べものにならない。
背面機銃の死角から迫ってきた敵機が、両翼に発射炎を閃かせた。太い火箭が1機の「リゲル」に突き刺さり、ジュラルミンの破片が飛び散る。攻撃された「リゲル」は右の主翼を根元からちぎり飛ばされ、機首から海面に激突して飛沫と変わった。
さらに、別の「リゲル」がエンジンを傷つけられ、火を噴く。その「リゲル」は何とか機体を保たせようとしたものの、やがて燃料タンクに火が回ったのか、火の玉となって空中で砕け散った。破片が海面を叩き、細かい飛沫が舞う。
「7番機被弾! 10番機被弾!」
背面機銃を構えて撃っている射手が、悲鳴じみた報告を返してくる。そんな中でも、ギリアムは必死で操縦桿を握り締め、その目は前方の敵艦隊を見つめていた。今は、被弾した僚機の搭乗員を悼む余裕はない。自分にできることは、生き残っている味方を率いて敵の空母に魚雷を見舞うことだけだ。
やっと敵機が去ったかと思った瞬間、前方に見える敵戦艦が突然眩い発砲炎を閃かせた。発砲炎の大きさから見て、どう考えても主砲を撃ってきたとしか思えない。
「敵戦艦主砲発射! 回避運動を取れ」
13機に減った「リゲル」はギリアムの指示で小隊ごとに散開し、回避運動を取り始める。
しばらくの後、空に巨大な青白い光の玉が出現した。ギリアムの隊は1機が破片を受けてエンジンを損傷し、魚雷を投棄して離脱せざるを得なくなるだけで済んだが、反応が遅れた部隊の中には1個小隊がまるごと全滅する隊もあった。今の一撃だけで、少なくとも12、3機は消し飛んだに違いない。
もちろん、これはロデニウス艦隊の戦艦……「アイオワ」が放った「四三式弾」である。”
「やってくれる……!」
ギリアムが悪態を吐いた時には、既に敵艦隊は対空戦闘を開始している。環状陣形の外周を構築する敵の戦艦や巡洋艦、駆逐艦が対空砲火を撃ち上げてきたのだ。
次の瞬間、空一面の色が変わった。青かった空は硝煙であっという間に真っ黒に変わる。回避できなかった友軍機が次々と対空砲火に絡め取られ、木っ端微塵に砕け散るか、炎に包まれて海面に叩き付けられる。どちらにしても、搭乗員は戦死か行方不明、あるいは敵の捕虜となる運命を免れない。
「くそっ、なんて強烈な!」
敵の対空砲火は、思ったよりも凄まじい。
ギリアムは必死で味方に通信を送りながら、自ら率先して高度を落とし、海面すれすれの低空飛行へと移行した。海面ぎりぎりを飛ぶほうが敵の対空砲火に被弾する可能性が低くなるし、どのみち海面に近い高度を飛ばなければ魚雷を投下できない。
(何としても、敵の空母に魚雷を当ててやる……!)
彼はもはや、それだけを考えていた。
敵の対空砲弾の爆発により機体が揺さぶられる中を、ギリアムは飛び、敵駆逐艦の間をすり抜けて環状陣形の内側へと突入した。その途端、機体を揺さぶる爆発の数が一気に増加する。まるで黒い雷雲の中を飛んでいるようだ。
敵空母との距離は、およそ2,000メートルといったところ。たかが2,000、されど2,000だ。いつもならあっという間に飛んでしまえる距離なのだが、こんな時に限ってとても遠く感じられる。
「4番機被弾!」
後部座席に座る電信員から、悲鳴じみた声で報告が届いた。
「後続機、どうか!?」
「視界内5機!」
「了解!」
味方が5機も続いているなら十分だ。敵の空母に一泡噴かせてやる。
敵空母は艦首部分に大量の飛沫を舞い散らせており、甲板の縁を対空砲の発射炎で真っ赤に染め上げている。帝国の空母並みに凄まじい対空火力だ。
発射点まで、あと200メートル。急速転回する敵空母の針路を推測し、機体の進行方向を調整しながら、ギリアムは真っ直ぐ敵空母の右舷前方へと突進した。
距離が1,000メートルに達したところで、ギリアムは「投下!」と叫びながらレバーを引いた。重量800㎏もの重い魚雷が投下され、「リゲル」がその反動でふわりと浮き上がる。ギリアムが慌てて機体の高度を下げた直後、風防ガラスがビリビリと震動した。敵の対空砲弾が至近距離を通過し、その衝撃波で風防が震えたのである。
(危ねぇぇぇぇぇ!!)
すぐ近くまで迫る命の危険を感じつつ、ギリアムは何とか操縦桿を動かし、敵艦隊の環状陣形から脱出した。その間に「敵空母に魚雷命中! 数2……3、4!」と歓喜の声が上がる。
敵の高角砲弾に近接信管が仕込まれていると困るため、十分に距離を取ってから機首を上向かせて上昇を開始する。高度2,500メートルまで上がったところで、ギリアムは海面を見下ろした。
敵艦隊の中央にいる空母の1隻が、舷側から激しく黒煙を噴き出して脚を止めている。重油の帯が黒く海面に引きずられており、魚雷によって大きなダメージを与えたことを感じさせた。撃沈確実であろう。
他の敵空母はというと、1隻は無傷のようだがもう1隻が艦体前部から黒煙を噴き上げている。爆弾が命中したらしい。これで、敵空母は艦載機を飛ばせなくなったはずである。
「ふう……何とか生き残れたか」
空中集合の命令が下り、生き残った7機の「リゲル」を率いて総隊長に続こうとしたギリアムはその時、信じがたい光景を見て目を丸くした。
敵の迎撃を抜けて生き残ったのは、「アンタレス」が14機、「リゲル」が19機。損耗率は厳しくはあったが、それでも一応想定の範囲ギリギリであった。ところが、「アルタイル」がなんと2機しか生き残っていない。残り全機がやられてしまったようだ。
(い、いったい何があったんだ!? まさか敵は、あの青白い閃光を放つ弾以外にまだ新兵器を用意していたのか!?)
ギリアムは、奥歯がガチガチと音を立てるのを感じた。
一方、海上ではグラ・バルカス帝国軍の攻撃隊が引き上げていくのを確認した「トランスバール」の面々が、損害を確認していた。
「こちらアイオワ、各員被害報告!」
『こちら
『こちら
『こちら
どうやら”葛城”がやられ、”雲龍”は艤装放棄が確定したようだ。だが、120機規模の空襲によるものと考えれば、ある意味仕方ないとも言えるかもしれない。
実のところ、「アイオワ」の奮戦がなければ被害はさらに増えていた可能性があったのだ。
『アイオワさんの弾幕、すごかったですね!』
“
「装備が良かったからよ」
そう、「アイオワ」にはとんでもない兵器が搭載されていたのだ。
「アルタイル」を装備するグラ・バルカス帝国軍爆撃隊のうち1個小隊は、事前の打ち合わせ通りに敵空母を狙ったのだが、他の小隊は戦場の状況を見て目標を変更した。命令の中に、作戦目標として「敵空母または護衛艦艇の撃破」が設定されていたことから、どうせ自分たちの500㎏爆弾では空母を沈めることはできないからと、目標を変えて敵の護衛艦の対空砲を沈黙させることを狙ったのだ。そして、3個小隊もの「アルタイル」は、敵艦隊の中で最も激しい対空砲火を上げている大型艦に、一斉に急降下爆撃を仕掛けた。……それが最悪の決断だったとは知ることもなく。
爆撃隊が狙った敵の大型艦というのは、「アイオワ」だった。そう、現代化改修を終えた「アイオワ」である。お察しの通り、この「アイオワ」は”最強の個艦防空の切り札”を持っていた。CIWS、それも恐ろしい性能を持った特注品である。
「アイオワ」が装備していたCIWSは、「GAU-88」。名前でお察しの通り、A-10にも搭載されている30㎜七連装バルカン砲「GAU-8 アヴェンジャー」の改良型である。西暦2191年に開発が始まり、2年後に制式採用されたこのCIWSの速射性能は、脅威の「毎分14,700発」だ。古の魔法帝国の「
誘導弾を迎撃するために使うこの兵器を、“Iowa”は敵機の迎撃に使用したのだ。西暦2020年代護衛艦のイージスシステムばりの敵探知&脅威度判定システム、そして高性能の射撃管制&砲安定システムに裏打ちされた弾幕が、「アルタイル」に襲いかかった。
誘導弾より遥かに巨大で、かつ誘導弾より遥かに鈍足のレシプロ航空機が、こんな悪魔のような兵器を回避できる訳がない。当然ながら、「アルタイル」は突っ込んだ側から「GAU-88 アヴェンジャーズ」の弾幕に引っかかり、一瞬で金属の
それはそれとして、損害を集計した結果、「トランスバール」には深刻な問題が発生した。機動部隊としては壊滅状態に陥ったのである。
先の攻撃で「トランスバール」が受けた被害は、”雲龍”が艤装放棄確定となり、”葛城”が500㎏爆弾2発を被弾して艦載機発艦不能。被弾は艦体前部に集中したため、”葛城”は艦載機の収容はできるものの、攻撃隊を出すことはできなくなってしまったのである。
今の「トランスバール」所属の空母艦娘で無事なのは”天城”だけ。それに対して敵の「2ロ」はまだ2隻のニセ翔鶴型空母と1隻のニセ千歳型軽空母を残している。明らかに劣勢だった。
「どうしましょう……」
機動部隊の被害の大きさに”天城”が頭を抱えた、その時だった。
『アイオワよりアマーギ、聞こえる? どうぞ』
不意に、通信機に「トランスバール」旗艦からの無線が飛び込んできた。
「天城よりアイオワ、聞こえます。どうされましたか?」
『アイオワよりアマーギ、第二次攻撃隊を全力で出してちょうだい』
「え?」
いきなり下された命令に、”天城”は一瞬きょとんとした。
「攻撃隊を出す? 今出しても、この数では敵に迎撃されてしまいますよ」
『No problemよ、アマーギ。これは私からの命令じゃないわ、「イスカンダル」からの命令なのよ』
「い、『イスカンダル』からですか!?」
「イスカンダル」といえば、艦隊の総指揮に当たる部隊である。そこからの命令はすなわち、提督からの直接命令ということである。
『ええ。「イスカンダル」から攻撃隊を「2ロ」に送るから、それに合わせて攻撃隊を出しなさい、とAdmiralから命令が来ているわ』
「!!」
その途端、”天城”の顔が一気に明るくなった。
「イスカンダル」に所属している空母は「赤城」と「加賀」だ。そう、世界にその名を轟かせる天下無敵の空母戦隊、「第一航空戦隊」である。そこから援軍を得られるのであれば、世界一の打撃力を持つ攻撃隊が出来上がる。これなら、敵のニセ翔鶴型も撃沈できるだろう。
「分かりました! 急ぎ第二次攻撃隊を出撃させます!」
“天城”は急いで第二次攻撃隊の準備にかかる。その間に第一次攻撃隊が帰還してきたが、そちらはもっぱら”葛城”が引き受けていた。損傷のひどい機体は一切の迷いなく投棄され、搭乗員妖精だけ最優先で回収されていく。「葛城」の周囲では駆逐艦がトンボ釣り(着艦に失敗して着水した航空機から、搭乗員を救助する作業のこと)にあたり、”雲龍”本人と「雲龍」の妖精たちは”高雄”が救助していた。
「全艦、収用・救助作業を急いで! グズグズしている暇はないわよ!」
“Iowa”が無線で声を励ます。
程なく、”天城”攻撃隊の発艦準備が整った。
「天城航空隊、発艦始め! です!」
号令一下、第六〇一航空隊の「
発艦した攻撃隊が空中集合を終えようとしている時、「トランスバール」からみて南東の空に黒い点の群れが現れた。それが次第に大きくなり、たくさんの航空機の姿に変わる。
そう、それは「イスカンダル」から派遣された攻撃隊の姿だった。「F-86D改 セイバードッグ」32機、「烈風一一型」16機、「
「流星改」のうち半数は800㎏爆弾2発という重武装を抱えており、残り半数はなんと1機あたり2本の「九一式航空魚雷改」を装備している。本来なら爆弾も魚雷も1発しか装備できないはずだが、”加賀”は甲板カタパルトによる発艦補助を最大限に活用することで、無理やり1機に2発ずつの爆弾か魚雷を持たせたのである。しかし、流石に積載量オーバーであり、このため「流星改」はいつもの最高速度を発揮できなくなっている。
また、”赤城”が送ってきた「セイバードッグ改」のうち、12機は「AIM-9M サイドワインダー」空対空誘導弾を装備して制空戦闘に従事しているが、残り20機は「Mk.4 FFAR マイティマウス噴進弾」24発入りのポッドを抱えている。何をする気かは……およそ察しがつくだろう。
これだけいれば、千人力である。
「攻撃隊の皆さん、よろしくお願いします!」
“天城”他の艦娘たちが見送る中、攻撃隊は南中しつつある太陽の真下を飛んで北へと向かっていった。その直後、無線に”Iowa”の緊張した声が入る。
『「ポップスター」より緊急信! 「新たなG群、貴方に向かう」!
全艦、両舷対空戦闘用意! テラツキ、頼んだわよ!』
『テラツキじゃなくてテルヅキですアイオワさん!
まあいいです。さぁ、始めちゃいましょう? 主砲、対空戦闘よーい!』
こうして、ロデニウス軍「トランスバール」(+「イスカンダル」)とグラ・バルカス軍第1.2任務群は、本日2度目の航空戦に入ろうとしていた。
グラ・バルカス帝国軍第1.2任務群の第二次攻撃隊が「トランスバール」を発見し攻撃を行っていた頃、「トランスバール」+「イスカンダル」の攻撃隊も敵艦隊を発見し、突撃を開始しようとしていた。
「赤城制空隊……全機、突撃!」
ヘルメットのレシーバーを通じて、音声で命令が飛ぶ。同時に「全機突撃隊形作れ」を意味する「トツレ連送」が、モールス信号にて送信される。
ゴオオオオォォォ……!!
レシプロエンジンの轟音に非ざる、力強い咆哮が轟く。「F-86D改 セイバードッグ」がエンジン・スロットルをフルに開き、目一杯加速して突撃を開始したのだ。これまで時速550㎞前後で飛んでいたジェット戦闘機が、急加速して突進していく。
実は、「セイバードッグ改」は燃費の悪さを承知の上で、敵のレーダーを欺くためにわざと時速550㎞前後という遅い速度で飛んでいたのだ。だが敵艦隊の元までたどり着いた今、偽装をかなぐり捨てた格好である。
「
その一声が、無線に乗って鋭く響いた。
グラ・バルカス海軍東部方面艦隊・第1.2任務群の空母「マルカブ」から飛び立った戦闘機パイロットの1人、ハイニーダは、愛機のアンタレス型艦上戦闘機の操縦桿を握りながら舌なめずりをした。
ロデニウス軍が第二次攻撃隊を差し向けてきたのは把握している。彼らの戦闘機は思った以上の強敵だったが、それでもハイニーダは1機を撃墜し、実力を証明していた。
(今度も、1機は食ってやる!)
その思いで、彼は隊長に続いて突っ込んでいく。第1.2任務群上空で直掩に当たっていたアンタレス型艦上戦闘機19機は、来襲した敵機に対して突撃を開始した。……そして、自ら死出の旅へと飛び込んでいったのである。何故なら、彼らは「AIM-9M サイドワインダー」空対空ミサイルの
「ん?」
敵機を目にして、ハイニーダは小さく声を上げた。その敵機が、何か白い煙の尾を引く物を発射したように見えたからだ。
次の瞬間、直掩隊の先頭に立っていた3機の「アンタレス」が、一瞬にして消し飛んだ。空中で大きな爆発が発生し、帝国の誇る戦闘機がジュラルミンの破片と化して墜落する。
『なっ、何が起きた!?』
『敵の攻撃だ! 多分ロケット弾の一種だぞ!』
無線はたちまち大混乱に陥った。
『全機散開! 回避せよ!』
命令が通信波に乗って飛び、残り16機の「アンタレス」は一斉に回避運動に入った。ロケット弾なら、命中する可能性は低いと踏んだからだ。
が、その直後に2機、さらにもう2機の「アンタレス」が爆散する。
「い、いったい何だ!?」
驚愕するハイニーダ、そこへ敵のロケット弾らしきものが1発、白煙の尾を引きながら迫ってきた。
「こんなもの!」
ハイニーダは操縦桿を奥に向かって押し倒す。機首を下げ、「アンタレス」は急降下に入った。
「ふん、その程度で……っ!?」
後ろを振り返り、敵のロケット弾らしき物体に嘲笑を浴びせようとした彼の言葉は、そのまま凍りついた。
敵のロケット弾は途中で向きを変え、明らかに「アンタレス」についてきたのだ。しかも、その速度は「アンタレス」よりも圧倒的に速い。
「な……!」
回避行動もできぬまま、高速で追尾飛行してきた「サイドワインダー」は「アンタレス」に肉薄する。そして左の主翼に命中し、根元から叩き折った。
ハイニーダの乗る「アンタレス」は一瞬で左の揚力を失い、
「我操縦不能! 我……くそ!!」
海面がみるみる迫ってくる中、ハイニーダは必死で言うことを聴かない機体を制御しようとする。しかし、主翼を失った機体のコントロールが戻ることは、もはやない。さらに、被弾の衝撃で無線機も壊れてしまったらしく、プレストークボタンを押しても反応が全くない。
(これまでか……!)
目の前に海面が迫り、被弾した時に散った破片で頭部を傷つけられていたハイニーダの意識が、急速に薄れていく。
そして、ハイニーダがそれまでの生涯で感じたことのない凄まじい衝撃が襲いかかると共に、彼の意識は闇の彼方へと消え去った。
ハイニーダが撃墜され、海面に叩き付けられた時点で、もう上空直掩の「アンタレス」は2機しか残っていなかった。その2機のパイロットは、味方が一瞬で全滅したことで恐慌状態となり、何が起きているのかも理解できぬまま、やみくもに逃げようとした。
しかし、死神はそんな彼らを見逃しはしなかった。何せ「アンタレス」の最高時速は550㎞、対して「セイバードッグ改」はその倍以上の速度を楽々と出せるのだから。
必死の生存努力も虚しく、残り2機の「アンタレス」は後方から迫ってきた「サイドワインダー」で撃ち抜かれ、バラバラになって墜落していった。
「直掩隊、敵機に向かう!」
第1.2任務群旗艦「ブラックホール」の艦橋にて、レーダー手を担当するハブル・クリード中尉は、対空レーダーのPPIスコープ画面を見つめながらそう報告した。
円形の画面には、こちらに向けて迫ってくる敵機の大群、そしてそれに向かっていく味方の直掩隊の姿が光点として映っている。味方機が10数機しかいないのが気がかりだが、敵に対していくばくかの戦果を挙げてくれるだろう。
「ん?」
と、その時だった。
レーダーに映る敵航空機を示す光点、それが速度を上げたのだ。
「これは……時速600……な!?」
クリードは絶句する。なんと、レーダーに映った敵機の先頭集団、それが時速800㎞すらも上回る速度で突進してくるのだ。と思っている間に、時速900㎞を突破している。
敵機はさらに加速を続け、そしてとうとう、
「な……じ、時速1,000㎞!!?」
時速1,000㎞の大台に乗り上げた。その直後、今度は味方の「アンタレス」を示していた光点が、次々とレーダー画面から消えていく。
「な……え? え!?」
「どうした?」
混乱し、思考がそのまま言葉となって口から漏れているクリードに、「ブラックホール」艦長セスドール・ベルテクス大佐が尋ねた。
「はっ、レーダー画面の味方の直掩機の反応が全て消えました! さらに、敵機はレーダー上で見る限り、じ、時速1,000㎞という高速を出しています!」
「何?」
信じがたい報告を前に、ベルテクスが目を見開いた。同時に、この会話を側で聞いていたカイザルの眉間にもしわが寄る。
次の瞬間、「ブラックホール」の前方の空を銀色に光る何かが4つ、高速で駆け抜けた。一拍遅れて、「ブラックホール」昼戦艦橋の窓ガラスがびりびりと震える。「セイバードッグ改」が亜音速で駆け抜けたことで発生した空気の乱れが、窓ガラスを震わせたのだ。
「「「何だ、今のは!?」」」
カイザルやベルテクスを含む「ブラックホール」昼戦艦橋に詰めていた全員が、目を真円まで見開いた。
『こちら制空隊、敵機全滅! 後は任せたぜ、派手にやってこい!』
制空隊の隊長を務める妖精からの無線を契機として、ロデニウス軍の航空隊が突撃にかかった。
腹の下に「マイティマウス」24発入りのポッドを抱えた「セイバードッグ改」が真っ先に突っ込み、遅れて「加賀」と「天城」の航空隊が散開する。それに対し、敵艦隊は対空射撃を開始した。
先頭切って突っ込む「赤城」攻撃隊が、対空射撃のターゲットにされる。しかし、敵の近接信管付き対空砲弾は何発も炸裂しているが、それに絡め取られる「セイバードッグ改」は見当たらない。
これは、「セイバードッグ改」の速力が原因だった。時速1,138㎞もの高速で突進する「セイバードッグ改」に対して、対空砲弾の破片や爆風の広がりが遅すぎるのである。そのため、対空砲弾が炸裂して破片や爆風をばら撒いた時には「セイバードッグ改」はとっくに通過してしまっており、空振りが多発していたのである。
グラ・バルカス帝国艦隊は高角砲に加えて対空機銃も撃ち始めたが、目視照準が基本である上に「セイバードッグ改」が速すぎるため、全く捉えられていない。嵐のような、しかし当たらない対空砲火の中、比較的低空から身を躍らせ、「セイバードッグ改」は空母を囲む護衛艦、特に駆逐艦や軽巡洋艦に向けて突っ込んでいく。そして、抱えてきた「マイティマウス」を次々と叩き込んだ。なお、「マイティマウス」は本来「空対地、又は空対空」ロケット弾であり、対艦兵装ではないのだが、”赤城”航空隊の妖精たちはガン無視している。
撃ち下ろされた「マイティマウス」が炸裂し、軽巡洋艦が炎に包まれる。魚雷発射管に直撃を受けた駆逐艦は、閃光を放って大爆発を起こし、あっという間に海上から消え去った。「マイティマウス」は、艦の撃沈には至らずとも上部構造物、特に対空機銃座に大きな被害を与え、グラ・バルカス艦隊の対空砲火が目に見えて減少していく。
グラ・バルカス艦隊はこのロケット弾攻撃により、3隻の軽巡洋艦と11隻もの駆逐艦を失った。軽巡洋艦はいずれも沈みこそしなかったものの、ロケット弾の一斉被弾によって上部構造物は片っ端から壊されて燃え、中には艦橋をやられた艦もある。火だるまとなったこれらの艦が戦闘能力を喪失したことは、誰の目にも明らかだった。駆逐艦はそれよりさらに悲惨なことになっており、11隻のうち4隻までが魚雷の誘爆によりその場で消滅。残り7隻も火だるまと化して行き脚が完全に止まり、沈没を免れられそうもない。そしてこれだけの艦がやられたことで、輪形陣には大穴が開き、有効な対空射撃は不可能となった。しかし、これで終わりではない。
ロケット弾による攻撃が粗方終わると、今度は爆弾を装備した「流星改」と「彗星」の出番だ。「セイバードッグ改」が切り開いた対空砲火の穴を潜り、巡洋艦や駆逐艦に向けて機体を翻す。急降下爆撃だ。特に「流星改」は800㎏爆弾、場合によっては800㎏徹甲爆弾を2発も抱えているため、破壊力は申し分ない。
練度の高い”加賀”の妖精たちは、敵の対空射撃で僚機が撃墜されても怯まない。凄まじい度胸を見せて突っ込み、抱えてきた800㎏爆弾を巡洋艦に叩き付けた。
ドーン! ドガーンドガーン!
海上に爆発音が連続してこだまする。
タウルス級重巡洋艦「チャンガン」は5発もの800㎏爆弾の直撃を受け、艦体後部を徹底的に破壊された。そして、第4砲塔の天蓋を破って飛び込んだ800㎏徹甲爆弾が弾火薬庫で炸裂し、海原を引き裂くような轟音と共に大爆発を起こして真っ二つとなった。艦尾部分はすぐに沈没し、スクリューも舵も失った艦体前部は燃えながら漂流している。
レオ級軽巡洋艦「アルテルフ」も、”天城”の「彗星(六〇一空)」による急降下爆撃を受け、5発にも達する500㎏爆弾の直撃で艦上構造物を
駆逐艦は、ここでもひどい目に遭っていた。800㎏爆弾の一撃が、あまりにも痛すぎたのである。「加賀」隊の爆撃で2隻が被弾し、瞬く間に戦闘・航行とも不能になるほどのダメージを受けていた。他に1隻が、天空から投げ落とされた500㎏爆弾の鉄槌で機関を破壊され、激しく炎上している。
だが、艦爆隊の攻撃は全て、艦攻隊の突撃路を拓くための手段でしかない。多数の艦が被弾して破壊され、対空弾幕と環状陣形に大穴が開いたその隙を衝いて、低空に舞い降りた「流星改」と「天山」が横一線に並んで突撃する。目指すはただ1点、グラ・バルカス艦隊の空母のみ。
グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊・第1.2任務群の艦艇は必死で「流星改」や「天山」に対空射撃を浴びせる。「天山」が1機被弾して海面に滑り込み、「流星改」1機が空中で大爆発を起こして散ったが、全機を阻止するには到底足りない。しかも、「セイバードッグ改」が上空から12.7㎜機銃4丁で掃射を浴びせ、剥き出しの対空機銃座に座る兵を次々と薙ぎ倒して迎撃を封じていく。
グレードアトラスター級戦艦「ブラックホール」以下の艦艇には目もくれず、魚雷を抱えた艦攻隊は一斉に2隻の空母……「マルカブ」と「アルゲニブ」に突進する。「天山」も「流星改」も、1機また1機と被弾して墜落し、あるいは空中で爆発してバラバラになるが、残った機は全く怯まない。
先に射点に達したのは、”天城”から発進した「天山(六〇一空)」だった。単純な最高速度なら「流星改」の方が速いのだが、「流星改」はどの機も合計1,600㎏にもなる大荷物を腹に抱えているため、脚が遅い。結果として、「天山」の方が先に射点に辿り着いた格好だ。
「ようーい、てっ!」
隊長妖精の号令一下、7機に減った「天山(六〇一空)」は一斉に魚雷を投下する。一航戦の搭乗員妖精たちに比べれば
魚雷を発射した7機の「天山」は速力を上げ、敵空母の艦首を掠めるようにして離脱していく。その行手を阻む対空弾幕の密度は薄い。あらかじめ艦攻隊の突撃路を計算して、”赤城”の「セイバードッグ改」搭乗員妖精たちが敵艦を叩いてくれたからだ。
第六〇一航空隊の「天山」が敵艦隊の輪形陣を脱出しようとした時、敵空母……ペガスス級航空母艦「マルカブ」の右舷に立て続けに2本の水柱が突き立った。見事に雷撃成功だ。確実に沈めるには、最低でももう1本命中が欲しいところだが……残念ながら、それ以上水柱は上がらない。第六〇一航空隊の「天山」の戦果は、魚雷2本命中で終わりのようだ。
と思った時、「天山」の魚雷到達予想時刻からずっと遅れて、新たに5本もの水柱が噴き上がる。「天山」に遅れて攻撃した”加賀”艦攻隊の魚雷だ。合計7本の命中であり、これだけ直撃すれば敵空母の命運は尽きている。撃沈確実は明らかだ。
トドメは”加賀”隊が担当したが、あんなバケモノじみた搭乗員妖精たちを向こうに回しても、自分たちでも「足止め」くらいはできた……それだけでも、「天山」乗りの妖精たちには満足の戦果だった。
その一方、もう1隻のペガスス級航空母艦「アルゲニブ」では。
「敵機、魚雷投下! 距離1,200!」
見張員から飛び込んできたこの報告に、艦長以下首脳部の面々は嘲笑を顔に浮かべた。
距離1,200は、航空機の雷撃距離としては遠い。敵機の搭乗員の度胸が低かったか、それとも我々の対空弾幕に恐れをなしたか……どっちにせよ、余裕で回避できる。
「魚雷との距離が1,000になったら、面舵一杯だ」
「はっ!」
航海長にそう命じてのんびり構えていた艦長の元に、見張員の絶叫が飛び込んだのは、その少し後のことだった。
「て、敵機、さらに魚雷を投下! 1機あたり2本の魚雷を抱えていたようです! 雷撃距離850!」
「な……何だとぉっ!?」
さっきまでの嘲笑と余裕は一瞬で消え失せ、顔面蒼白で艦長は叩きつけるように命じた。
「お、面舵一杯、急げぇーっ!」
航海長も血相を変え、操舵室に転舵を命令した。だが、遅すぎた。
「アルゲニブ」の舵が効く直前、複数の凄まじい衝撃が下腹を突き上げた。
「天城」航空隊が空中集合を始めた時には、「アルゲニブ」は艦全体が黒煙に覆われ、重油と破片と乗組員と航空機を海面にばら撒きながら横転するところだった。一度に10本もの魚雷が直撃したのでは、到底助からない。さすがは一航戦、というところである。
攻撃を終えた航空隊は、勝ち誇るかのように綺麗な編隊を組み直して、悠々と引き上げていった。
「なんて……ことだ……」
東部方面艦隊司令長官カイザルは、それだけ言うのがやっとだった。他の幕僚たちも、驚きと絶望を隠し切れていない。
自分たちの見ている前で、最新鋭のペガスス級航空母艦が2隻も沈められた。しかも、空母を護衛していた巡洋艦や駆逐艦の被害も大きい。第1.2任務群は、ズタズタにされてしまったのだ。
そして敵の航空機は、明らかに自軍の機体より高い性能を有していた。時速1,000㎞という異次元の速力を叩き出す機体に、「アンタレス」を追尾する百発百中のロケット弾らしき兵器。そして、魚雷を一度に2本も抱えられる雷撃機。全てが自軍の航空機より強力な性能だ。それに、敵兵の練度も高いように感じられた。
カイザルの元には、既に第二次攻撃隊からの戦果報告が届いている。それによれば、健在だった敵空母1隻に魚雷5本を命中させ、撃沈確実とのことだった。
敵の空母は全滅し、自軍には小型とはいえ空母1隻が健在である。勝負は辛勝……のはずであるが、カイザルには自軍の敗北としか見えなかった。何せ、「アンタレス」の無敵伝説にはっきりと終止符が打たれたのだ。
(今我が軍部は、「アンタレス」を無敵の戦闘機だと信じて大量増産に踏み切っている。だが……ロデニウスの軍と戦う場合には、「アンタレス」では勝てない。もっと高性能の航空機が必要だ。
まさか、こんなことになるとは……)
カイザルは既に、この海戦の結末を、そして戦争の趨勢を、案じ始めていた。
ここに、ロデニウス海軍第13艦隊第5分艦隊「トランスバール」とグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊第1.2任務群との航空戦は終了した。
二度に及ぶ航空攻撃の応酬の結果、ロデニウス艦隊では、空母艦娘の”雲龍”と”天城”が艤装放棄を余儀なくされ、”葛城”は飛行甲板大破で艦載機運用不能。護衛艦隊にも大なり小なり被害が出ている。一方のグラ・バルカス艦隊は、合計して正規空母2隻、軽空母1隻が撃沈され、第1.2任務群は機動部隊としては壊滅した。さらに、戦艦「ブラックホール」こそ被弾しなかったものの、護衛艦隊に多数の被害が出ている。彼我の損害を比較すれば、この航空戦はグラ・バルカス艦隊の辛勝というところだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、グラ・バルカス海軍東部方面艦隊・第1.2任務群が展開する海面から東南東やや東寄りの方向に大きく隔たった海域。
スコールの密雲が浮かぶその海を、スコールの外縁部に沿うようにして一群の艦艇が航行している。そのうち4隻は、遠目に見ると文鎮のような形をしていた。艦艇群の針路は北に向けられている。
これは、ロデニウス海軍第13艦隊の第三分艦隊……コード名「タトゥイン」である。大和型戦艦1隻、ビスマルク級戦艦1隻、グラーフ・ツェッペリン級空母1隻、アクィラ級空母1隻、
「これがスコールって奴か……」
その「タトゥイン」分艦隊のうち、航空母艦「グラーフ・ツェッペリン」の飛行甲板では、1人の妖精がスコールを見上げて呟く。
「ソ連のほうで戦った時、こんな雨雲や雪雲の中を何度も飛んだな……。そういえば、ソ連の戦艦マラートに爆弾を落とした時も、こんな曇りの日じゃなかったっけ……」
飛行帽の顎紐を風になびかせながら、その妖精”ハンス・ウルリッヒ・ルーデル”は昔を思い返していた。
ソ連赤軍と対峙する前線となる東部戦線で戦い続けていたルーデルは、戦場地域の寒冷な気候のため、タウイタウイに着任するまではスコールを「書物の知識」としてしか知らなかった。しかし、雨や雪の日なら、東部戦線でもごまんとあった。そのため妖精ルーデルは、雨や風、雪の中の飛び方を十分に心得ている。
「しかし、あれだけ濃密な雲だと、上空からの索敵は難しいかもしれんな」
そうひとりごちる妖精ルーデルの脳裏には、敵味方の動きが描かれていた。
現在、第13艦隊はグラ・バルカス帝国艦隊と4つに組んで戦っている。これまでに「タトゥイン」に入ってきた電文から現在の敵味方の空母の被害をまとめてみると、第13艦隊は正規空母艦娘3人が艤装放棄を余儀なくされ、正規空母艦娘1人が中破、正規空母艦娘1人が小破している。それに対してグラ・バルカス艦隊は正規空母4隻、軽空母2隻が撃沈確実とされており、正規空母1隻が飛行甲板大破と判定されている。敵味方の被害は互角というところだろうか。
(多分、あの雲の下は大
それにしても、こんな雲の下に敵戦車が潜んでいたとしたら、見つけるのは至難の技……!?)
暇潰しに、東部戦線における敵戦車の隠れ方を復習していた妖精ルーデル。その時、彼の脳裏を何かが電光石火の速さで駆け抜けた。
「敵戦車……?」
妖精ルーデルの口から、そんな言葉が漏れる。
(まさか……このスコールの中に、敵艦隊がいる!? それも、空母機動部隊が!?)
妖精ルーデルも、タウイタウイ泊地に着任して以来何度か対艦攻撃に参加している。空母機動部隊同士の航空戦も戦ったことがある。そのルーデルのカンが、激しく反応していた。
「こりゃあ、間違いなさそうだな……!」
そう呟き、妖精ルーデルは飛行甲板を走りながら部下たちに指示を出す。
「いつでも出られるようにしておけ! もしかすると、あのスコールの中に敵がいるかもしれん。
私はちょっと艦長に出撃を要請してくる!」
そして妖精ルーデルは、艦橋へと飛び込んでいった。
グラ・バルカス帝国の航空部隊も侮れない、ということで、「トランスバール」は空母機動部隊としては壊滅。第六〇一航空隊も精鋭ではありましたが、少々苦しい戦いとなりました。
……その六〇一空が苦戦した相手をあっさり蹴散らす一航戦の航空部隊は、(装備の質を差し引いても)やはり人外レベルなんだよな……。
また、グラ・バルカス帝国軍の駆逐艦が「マイティマウス」ロケット弾で次々とやられる描写がありましたが、実は駆逐艦にとってロケット弾は非常に怖い存在なんです。というのも、駆逐艦自体の防御力が低い上に、艦上には魚雷発射管が剥き出しで設置されているため、喰らったが最後、魚雷が誘爆して一撃で吹っ飛んでしまいます。しかも、ロケット弾の発射プラットフォームは航空機であるため、駆逐艦の対空砲では迎撃が難しく、そのくせ命中率が高いという状態になっています。このため、洒落にならない被害を受けてしまいました。
そして今回は史実ネタ入りです。照月がアイオワに「テラツキ」と呼ばれていたのがそれですね。太平洋戦争時、アメリカ軍は秋月型駆逐艦の分類を「Teratsuki class」としていたのです。最初に発見された秋月型が「照月」だったのがその理由ですが…漢字の読み方は、欧米人にとっては難しいのだろうか。
UAが84万を超えるとは……皆様、本当にありがとうございます!
評価8をくださいました麦丸様
評価9をくださいましたヘカート2様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
彼我共に損害を出しながら激しい航空戦を戦う、ロデニウス海軍第13艦隊とグラ・バルカス海軍東部方面艦隊。その最中、自らのカンで敵空母がスコールの下にいると直感した妖精ルーデルは、出撃の要請に向かう。果たして要請は通るのか……
次回「激突! 第二次バルチスタ沖大海戦!(three)」