鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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第二次バルチスタ沖大海戦1日目、航空戦の最後を締め括るのは第二航空戦隊と龍驤です!

【中央暦1643年5月31日 午後3時時点での両軍の被害】
ロデニウス連合王国海軍第13艦隊
艤装放棄: 航空母艦3、駆逐艦2(”翔鶴”、”雲龍”、”天城”、”巻雲”、”春雨”)
大破: 航空母艦1(“葛城”)
中破: 航空母艦1、航空巡洋艦2(“大鳳”、“最上”、”筑摩”)
小破: 戦艦1、駆逐艦1(”榛名”、”浦風”)
小破未満(カスダメ): 航空母艦1、重巡洋艦1、駆逐艦2(”瑞鶴”、”摩耶”、”風雲”、”秋雲”)

グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊
喪失: ペガスス級航空母艦(翔鶴型に酷似)6、カシオペヤ級軽空母(千歳型に酷似)3、タウルス級重巡洋艦(高雄型に酷似)1、キャニス・メジャー級軽巡洋艦(5,500トン型に酷似)3、レオ級軽巡洋艦(阿賀野型に酷似)1、駆逐艦19
大破: ペガスス級航空母艦1、キャニス・メジャー級軽巡洋艦1
中破: タウルス級重巡洋艦1、駆逐艦2
小破: オリオン級戦艦(金剛型に酷似)1、タウルス級重巡洋艦1、レオ級軽巡洋艦1、駆逐艦3



149. 激突! 第二次バルチスタ沖大海戦!(four)

 中央暦1643年5月31日 午後3時04分、ムー大陸南西部ニグラート連合西方 バルチスタ岬沖海域。

 ムー大陸西沿岸部の制海権・制空権を握っているグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊と、グラ・バルカス帝国の制海権を切り崩し、ムー大陸を解放せんとするロデニウス連合王国海軍第13艦隊は、この日の朝から次々と航空機を繰り出し、激しい航空戦を戦っていた。だが、それも今や決着がつこうとしていた。

 現在、グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊とロデニウス連合王国海軍第13艦隊は、約180浬の距離を隔てて対峙している。そして、航空母艦から攻撃隊を次々と発進させ、互いに損害を出しながら激しくぶつかり合っていた。

 現在までの双方の被害をまとめると、グラ・バルカス艦隊は正規空母6隻と軽空母4隻を喪失し、正規空母1隻が大破。ロデニウス艦隊は正規空母艦娘3人が艤装放棄を余儀なくされ、正規空母艦娘1人が大破、1人が中破した。ただし、中破した空母艦娘というのは“(たい)(ほう)”のことなので、まだ艦載機の運用能力は失われていない。

 状況は明らかに、ロデニウス艦隊の優勢であった。航空機の性能と搭乗員の練度、そして運においてグラ・バルカス帝国軍に勝った証である。

 

 そして今、この日最後の航空戦が戦わされようとしていた。対決するのは、グラ・バルカス東部方面艦隊・第1.4任務群とロデニウス第13艦隊第五分艦隊「ハイネセン」である。

 第1.4任務群の空母は、ニセ(しょう)(かく)型ことペガスス級航空母艦「サダルバリ」「ホマン」の2隻と、ニセ千歳(ちとせ)型ことカシオペヤ級軽空母「アシルド」1隻。対する第五分艦隊「ハイネセン」の空母は、正規空母の“(そう)(りゅう)”“()(りゅう)”と軽空母“(りゅう)(じょう)”だ。

 艦載機の総搭載数は、グラ・バルカス側が約200機、ロデニウス側が約210機。数に大差はない。

 そして現時刻が午後3時を回っていることを考えれば、双方とも第二次攻撃隊を繰り出している時間はない。何故なら第二次攻撃隊を仮に出した場合、敵艦隊に到達した頃には陽が暮れている可能性が高く、薄暮攻撃もしくは夜間攻撃となってしまい命中が期待できないのだ。そして、当然ながら母艦への着艦は夜間に行うこととなり、事故の多発は避けられない。故に、航空攻撃のチャンスはこの1回だけだ。

 そのことをよく理解している両軍は……ありったけの艦載機を繰り出し、絶対に敵空母を仕留めようとした。

 上空直掩に当たる機体を除き、双方とも約150機の機体をほぼ同時に一挙に相手に送り込んだのだ。しかし、ロデニウス側の機体のほうが巡航速度が速いことから、ロデニウス側の攻撃隊が先に目標に到達、攻撃を開始することとなった。

 

「『4ニ』発見。全機、突撃隊形作れ」

 

 「ハイネセン」攻撃隊の総指揮官を担当する“(とも)(なが)(じょう)(いち)”と呼ばれる妖精は、乗機の「(てん)(ざん)」艦上攻撃機の操縦桿を握ったまま、無線電話機に指示を出した。

 後方の電信員席に座るバディの妖精が、慌ただしく動き始める。モールス鍵盤で「トツレ連送」を打とうとしているのだろう。

 「ハイネセン」攻撃隊の陣容は、以下の通りである。まず“蒼龍"から発進したのが「(すい)(せい)(()(ぐさ)隊)」18機、「零戦53型((いわ)(もと)隊)」35機、「(りゅう)(せい)(かい)」21機。“飛龍"から飛び立ったのが「彗星一二型甲」18機、「(れっ)(ぷう)一一型」18機、「天山一二型(友永隊)」24機。そして”龍驤”からは、「流星」18機と「烈風一一型」10機が発進している。合計162機だ。

 戦闘機・爆撃機・雷撃機合わせて162機。これだけいれば、敵空母の2隻くらいは仕留められるだろう。しかも、この攻撃隊には岩本隊、江草隊、友永隊と、3個ものネームド飛行隊が付いている。最精鋭ばかりの部隊なのだ。

 

『岩本1番より全機。前方に敵機!』

 

 戦闘機隊の隊長を務める妖精“岩本(てつ)(ぞう)”の声が無線のレシーバーに飛び込んだ。

 攻撃隊の前方から、複数の機影が迫ってくる。数はそう多くはない。15機前後の(てい)(だん)が3つだ。

 

『制空隊、突撃せよ!』

 

 妖精岩本の号令一下、20機の零戦53型が一斉に突撃を開始する。エンジン・スロットルをフルに開き、力強い爆音を轟かせてほっそりした機体が突進し、敵機に躍りかかる。

 空中戦が始まるや否や、瞬く間に3機もの機体が黒煙を吐き出し、墜落し始めた。敵がやられたのか味方が被弾したのかは、判然としない。

 

『江草1番より艦爆隊全機へ。俺に続け!』

 

 続いて、尾翼を赤く塗装した「彗星」が前に出る。江草隊を先頭にして、36機の「彗星」が高度4,000メートルまで上昇し始めた。

 

『江草1番より友永1番。敵空母は大2小1!』

「友永1番より全機へ。飛龍隊目標、敵1番艦。蒼龍隊目標、敵2番艦! 龍驤隊は、小型空母を狙え!

全機、突撃せよ!」

 

 “蒼龍”艦爆隊を率いる妖精“江草隆繁”から報告を受け、妖精友永は決断を下した。同時にモールス信号で「()()(ツー)()()」が連続送信される。ト連送……「全軍突撃せよ」の合図だ。

 攻撃隊が二手に分かれる。艦爆隊が上昇し、高度4,000メートルの高みに向かっているのだ。妖精友永率いる雷撃隊は、しばらく今の高度(2,000メートル)を飛行した後、敵の輪形陣の外周部付近で低空に舞い降り、雷撃針路に入る予定である。

 と、上空から2、3機の機影がこちらに向かってくる。どうやら制空隊を突破した敵戦闘機が、出迎えに来たようだ。

 

「前上方より敵機。全機、近寄れ!」

 

 妖精友永は無線に指示を出すと共に、風防から手を突き出して手招きをした。敵戦闘機に対しては、基本的に艦攻は無力だ。編隊を密に組み、電信員席の旋回機銃で応戦するより他にない。

 上方から突っ込んできた最初の1機が、両翼に発射炎を閃かせる。妖精友永のすぐ隣を飛んでいた「天山」が、まともに射弾を喰らった。一瞬で両方の翼が叩き折られ、「天山」は(きり)()みしながら墜落していく。

 続いて2機目の「天山」が、別の敵機から敵弾を受けた。左の翼から黒煙を噴き出し、よろめいてみるみる高度を下げていく。

 3機目の敵機が襲いかかってくる。機首を妖精友永の乗る「天山」に向け、逆落としに突っ込んできた。

 

(やられる!)

 

 妖精友永がそう直感した瞬間、「天山」の頭上を赤い()(せん)が通過した。そして、火箭を撃ち込まれた敵戦闘機が爆発し、一瞬でバラバラになって墜ちていく。

 野太いエンジン音と共に、逆ガル翼を持つ戦闘機が「天山」の頭上を飛び過ぎていく。味方の直掩戦闘機「烈風一一型」の援護が、間一髪で間に合ったのだ。

 

(危なかった……)

 

 妖精友永が味方機に感謝の意を抱く間にも、空中戦の戦場は移動し、敵艦隊へと近づいていく。この頃には、敵艦隊の様子がはっきり見えるようになっていた。護衛艦艇が綺麗な輪形陣を構築しており、その中央に3隻の空母がいる。おそらく敵のニセ翔鶴型とニセ千歳型だろう。

 前方で複数の発射炎が煌めき、「天山(友永隊)」の前方で次々に敵弾が炸裂し始める。輪形陣の外側にいる護衛艦艇が、次々とVT信管付き砲弾を発射してきたのだ。

 「天山」2機が相次いで被弾し、火だるまとなって海面に叩き付けられた。だが、残りの「天山」は怯む様子を全く見せず、低空に舞い降りて横一線に展開し、雷撃態勢に入る。

 敵も必死であるらしく、対空砲弾の炸裂が何度も繰り返されている。近接信管を使用した砲弾も混じっているようだが、どうやら海面からの反射波によって信管が作動してしまっているらしく、友永隊よりも前方で爆発が連続して起きている。

 さらに前進すると、弾幕に対空機銃が加わってきた。真っ赤に熱した石炭を投げつけてくるかのような大きな弾幕が、次々と妖精友永の乗る「天山」の周囲を通過する。時折風防ガラスが振動するほどの至近弾も出るが、今のところ直撃弾はない。

 妖精友永は、周囲にちらと目をやった。数機の「天山」が続行している。味方のうち何機が生存しているのかは不明だが、今のところ突撃を続けている。“蒼龍”や“龍驤”の攻撃隊も突撃しているはずだが、今は他の隊にまで気を回す余裕がない。

 前方から飛んできていた弾幕が、不意に途切れた。そして今度は後方から弾幕が飛来してくる。妖精友永の乗る「天山」は、敵艦隊の輪形陣の内側に突入したのだ。

 妖精友永の視界には、前方で急速転回する空母が映っている。船体は長く、飛行甲板の両端から発射炎を迸らせている。おそらく敵のニセ翔鶴型空母だろう。

 と、妖精友永が狙うニセ翔鶴型の艦上で爆発が発生し、黒い欠片(かけら)が複数飛び散った。敵空母は黒煙を噴き出し、それが後方へと引きずられる。その上空に数機の機影が見えた。味方の艦爆隊である。見事に爆撃を成功させたようだ。

 

(あと少し!)

 

 目測で敵空母との距離を測定しながら、妖精友永はなおも突撃を続ける。

 

「用意、てっ!」

 

 後部座席からバディの妖精の声が響き、続いて機体の下で金属質の作動音がした。800㎏もの重りがなくなったため、「天山」が一瞬浮き上がりかけるが、妖精友永は即座に操縦桿を倒し、海面すれすれの高度を保つ。

 魚雷の発射を完了した妖精友永の「天山」は、そのまま敵空母の艦首を掠めるようにして離脱にかかる。輪形陣の外周に出るまでは、高度を上げる訳にはいかない。下手に高度を上げれば、たちまち蜂の巣にされるだろう。

 

「命中! 水柱1……いえ、4本確認しました!」

 

 電信員席の妖精が歓喜の声を上げるのを聞きながら、妖精友永は現在の高度を保つ。輪形陣の外に脱出するまでは、高度を上げられない。迂闊に上げれば、対空砲の餌食になってしまう。

 敵対空砲の射程外に離脱し、高度を2,500メートルまで上げたところで、妖精友永は海面を見下ろした。海上に見える敵空母は、3隻とも激しい火災を起こしており、火山の噴煙を思わせる大量の黒煙が空に向かって立ち上っている。相当な打撃を与えたことを感じさせる光景だった。

 また、空母の周囲にも黒煙を噴き上げている艦がいくつか見える。急降下爆撃隊の一部は、護衛の巡洋艦や駆逐艦を狙って投弾し、命中させたようだ。

 

「司令部宛打電。『攻撃終了。敵空母3隻ニ雷爆同時攻撃成功セリ。全空母大火災。今ヨリ帰投ス。ヒトゴーゴーサン』」

「友永1番より全機へ。攻撃終了。帰還する!」

 

 妖精友永は無線機にそう呼びかけながら、残存する味方機に集合を命じ始めた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方、「ハイネセン」にも敵機が迫っていた。

 

「電測より艦橋、敵味方不明機多数探知。艦隊よりの方位340度、距離100㎞!」

『全艦、対空戦闘用意!』

『直掩戦闘機隊、敵機を迎撃せよ!』

 

 航空母艦「飛龍」の艦橋に電測長妖精から報告が上げられ、防空指揮を担当する“(あき)(づき)”から指示が飛ぶ。対空戦闘を意味する警報ブザー、続いてラッパが鳴り渡り、妖精たちが一斉に持ち場へと走る。飛行甲板付近で既に対空機銃に取り付いていた妖精は、銃身に仰角をかけて交戦の時を待つ。さらに”蒼龍”から指示が飛び、直掩隊が突撃していった。

 約20分後、味方の上空直掩機の迎撃を受けながら敵機が姿を現した。……が。

 

「散開している……?」

 

 空母「飛龍」の艦長に当たる艦娘“飛龍”は、そう呟いた。

 敵機の数は多いが、密集していないのだ。既に飛行隊ごとに分かれているようである。……味方の直掩機に蹴散らされたのかもしれないが。

 

『こちら秋月、敵機は散開しながら接近しています。おそらく、「四三式弾」封じのためと思われます。ですが、敵が飛行隊ごとに固まっている以上、飛行隊単位の敵に対しては「四三式弾」は有効なので、()(えい)さんと(きり)(しま)さんは、敵飛行隊1個を消し飛ばすくらいの勢いで撃ってください!』

 

 無線で“秋月”の指示が飛んだ。

 どうやらこれまでの戦闘で、敵は「四三式弾」によって酷い目に合わされたらしい。早くも戦訓を反映し、散開しての接近に切り替えてきたのだ。

 だが、飛行隊ごとに固まっているなら、それはそれでチャンスだ。まるごと吹き飛ばしてやれる。

 艦隊の輪形陣は、先頭に防空駆逐艦“秋月”と軽巡洋艦“(さか)()”が立ち、左方を“霧島”、右方を“比叡”が固めている。輪形陣の後方は巡洋艦“愛宕(あたご)”と“(すず)()”が守っていた。そしてその隙間を、改(しら)(つゆ)型の面々4人と第八駆逐隊が固めており、その輪形陣の中央に空母“蒼龍”“飛龍”“龍驤”が布陣している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 いくら守りを固めているとはいえ、改白露型と(あさ)(しお)型では対空戦闘能力は比較的低い。敵機のうち数十機は確実に輪形陣を突破し、自分を狙って突っ込んでくるだろう。頼れるものは、自分の艤装と乗組員妖精たちの練度のみである。

 

(絶対に、回避しきらないと……!)

 

 “飛龍”はその決意を胸に宿すと、鉢巻をぎゅっと締め直した。

 

『主砲、敵を追尾して、撃てぇっ!』

『主砲、斉射、始め!』

 

 戦艦娘2人の声が無線に乗る。同時に、隊列の右と左で強烈な発射炎が煌めき、落雷のような砲声が空気を震わせた。戦艦「霧島」と「比叡」が、艦体前方に据えられた2基の「41㎝連装砲」を発射したのだ。もちろん、発射した砲弾は「四三式弾」……炸裂した瞬間に半径400メートル以内一帯を気化燃料によって焼き尽くす、航空機の天敵というべきチート砲弾である。

 主砲発射から数十秒後、空中に巨大な青い光の玉が4つ現れた。それが消えた時、敵の飛行隊3個が跡形もなく消え去り、1個飛行隊は編隊をバラバラにされている。「四三式弾」の炸裂と共に、骨も残らず消し飛ばされたのだ。

 

『全艦、対空戦闘始め!』

 

 敵機との距離が近くなったため、「四三式弾」は使えない。ここからは高角砲の出番だ。

 “秋月”の号令が下った直後、隊列の先頭で発射炎が迸る。「秋月」の主砲である65口径10㎝連装高角砲が、応戦を開始したのだ。4秒置きに発射を繰り返し、砲弾を空へと撃ち上げる。

 最初の撃墜機が確認された時には、既に全艦の高角砲が応戦を開始していた。空がみるみるうちに黒煙に覆われていく。これほどの濃密な弾幕を突破できる者などいない、と思えるほどだ。

 だが、どれほどの弾幕を浴びせようと、敵機は必ず輪形陣を突破してくる。深海棲艦との戦闘でそのことをよく知っている“飛龍”は、全く油断していなかった。

 果たして彼女の睨んだ通り、黒煙の嵐の中を敵機がすり抜けてきている。高度4,000メートル前後の高空から向かってきているようだ。

 

(急降下爆撃機……おそらく、第八駆逐隊の上を抜ける気ね)

 

 “飛龍”はそう考えた。

 敵機は、輪形陣の左前方から突進してきている。その方角は、朝潮型駆逐艦の“朝潮”と“(おお)(しお)”が守っているが、朝潮型の対空戦闘能力は、お世辞にも高いとは言えない。敵はその頭上を抜け、こちらに向かってくるだろう、と彼女は睨んでいた。

 

『距離、速度、よし! 全門、斉射ぁー!』

 

 “霧島”の声が響く。そして敵の急降下爆撃機が“大潮”上空を抜けようとした瞬間、高角砲の砲弾が炸裂した。瞬く間に2機が直撃を受け、1機は操縦員を射殺されたか、機首を引き起こすことなく真っ逆様に落ちていく。もう1機は半身を炎に包まれて高度を下げ、海面に到達する前に汚い花火となった。敵機の針路を見切った“霧島”が、敵機の鼻先に高角砲弾を浴びせたのだ。

 だが、敵機の完全阻止には至らない。10数機の敵機が輪形陣を突破し、空母に迫る。

 

『敵降爆4、蒼龍に向かう! 続いて敵降爆3、龍驤に向かう!』

 

 “秋月”の声が無線に乗った直後、

 

「敵降爆6、本艦に向かってきます! 方位350度、距離マルヨン(400メートル)、高度ヨンマル!」

 

 見張員妖精の報告が飛び込んだ。

 

「取り舵いっぱい!」

「対空戦闘、射撃始め!」

 

 相次いで指示を出す“飛龍”。直後、「12.7㎝連装高角砲」が咆哮し、仰角をかけた砲身から砲弾を撃ち上げ始めた。

 

「敵1機撃墜!」

 

 1機は始末したが、残り5機はそのまま“飛龍”の直上に達し、機体を(ひるがえ)し始めた。それとほぼ同時に舵が効き、「飛龍」は左に回頭し始める。見えない手で引っ張られているように「飛龍」の艦体は左へ左へと回り、敵機の真下に艦首を突っ込んでゆく。

 敵機がいる方向に舵を切るのは、断頭台に頭を自ら差し出しているように思えるかもしれないが、実は急降下爆撃に対する有効な回避方法である。こちらから敵機の真下に潜り込むことで、敵機の急降下角度が90度に近いものとなり、照準を合わせづらくなるのだ。……その方法が通じない奴が、味方に1人いる訳だが。

 

「敵降爆5、本艦直上! 急降下!」

 

 見張員妖精の絶叫に混じり、金属質の甲高い音が降ってくる。敵機のダイブブレーキが奏でる風切り音だ。

 艦橋の前後から連続した射撃音が伝わって来る。“飛龍”を守る最後の盾、片舷7基を搭載する「25㎜三連装機銃」が、対空迎撃に加わったのだ。

 

「敵降爆1機撃墜!」

 

 見張員妖精の歓喜の声が入る。その言葉通り、先頭に立っていた敵機が火を噴き、急降下から墜落に転じたところだった。だが、残り4機は機銃弾を弾き飛ばさんばかりに「飛龍」に肉薄してくる。

 敵の2番機が引き起こしをかけ、甲高い金属質音が猛々しい爆音に変化した。さらに3機目、4機目が機体を引き起こして“飛龍”の頭上を通過する。

 敵4番機が水平飛行に移行した瞬間、1発の爆弾が「飛龍」の右舷に落下し、盛大な水柱を噴き上げる。さらに左舷側に2本の水柱が相次いで突き立ち、最後に1発、「飛龍」の右舷前方で大量の飛沫が舞った。

 爆弾の破片が船体に当たる金属音はしたものの、“飛龍”への直撃はない。彼女は見事に、敵の急降下爆撃を回避しきってみせたのだ。

 

 ……だが。

 

『あっかーん! ちょっち、ピンチすぎやー!』

 

 無線に“龍驤”の悲鳴が飛び込んだ。ぎょっとして右舷側を振り返った“飛龍”の目に、海上に立ち上る黒煙が飛び込んでくる。

 

「こちら飛龍! 龍驤、大丈夫?」

『こちら龍驤、うちは大丈夫やで。けど飛行甲板は完全に御釈迦やわ。爆弾2発喰らってもーた、ごめんね』

 

 どうやら「龍驤」は、飛行甲板に大穴を開けられてしまったらしい。

 こうなっては、軽空母といえど形無しだ。

 

『こちら蒼龍、了解。攻撃隊の残存機は、私と飛龍で回収します』

『頼むわ。ごめんね、お二人さん』

 

 “蒼龍”がそう言った時、“秋月”から無線が飛び込んだ。

 

『敵機10機以上、蒼龍に向かう! 低空から突っ込んできます!

続いて敵機4、低空から飛龍に接近!』

 

 雷撃機が向かってきたらしい。緊張の色が“飛龍”の顔に走る。

 見ると、「飛龍」からの方位30度の位置から敵機が迫っている。海面を這い進むような低高度であり、雷撃を狙っているのは明らかだ。

 

「面舵いっぱい!」

 

 “飛龍”が指示を出すのと同時に、腹の底に響くような砲声が響いた。「12.7㎝連装高角砲」が、新たな目標に向けて応戦を開始したのだ。

 海面に近い低空に砲弾炸裂の黒煙が湧き出し、敵機1機が主翼を吹っ飛ばされて海面に激突する。だが、残り3機は猛然と「飛龍」に向かってきた。

 その時、大型爆弾でも爆発したような轟音が大気を揺さぶった。続いて数百発の爆竹が弾けるような音。そして“霧島”の報告が入る。

 

『こちら霧島、蒼龍へ向かう敵機3機を撃墜!』

 

 “霧島”が敵雷撃機に向けて主砲から「三式弾」を発射し、敵機を叩いたのだ。まだ艦載機運用能力を残している“蒼龍”と“飛龍”を守るため、援護してくれているのだ。

 敵機が魚雷を投下した時には、既に“飛龍”は舵を切り、敵魚雷に対して正対する針路を取ったところだった。こうすることで魚雷の接触するであろう面積を大きく減らし、結果的に生存性向上に持ち込むのである。

 「飛龍」の高角砲と機銃は轟然と咆哮を繰り返し、敵機に向けて砲弾を撃ち出す。激しい対空砲火と的確な回避運動により、「飛龍」は見事、敵機が放った魚雷全てを回避することに成功した。

 だがその時、「飛龍」の左後方で大きな爆発音が連続して5、6回響いた。まさかと思い、窓の外を見た“飛龍”、その表情が凍りつく。彼女の視線の先にあったのは、4本以上の水柱を舷側に突き立てられた「蒼龍」であった。そして、被害報告が入る。

 

『こちら鈴谷、蒼龍被雷6! 大火災発生、機関停止と認む!』

「……!!」

 

 “蒼龍”が受けた損害の大きさは、“飛龍”にも良く分かった。

 水線下に6個も大穴を開けられたのでは、到底助からない。応急(ダメコン)班がどれだけ優秀でも、対処能力を超えた損害を受けては意味がない。

 その瞬間、“飛龍”の視界に「あの時」の光景が見えた。魚雷と陸用爆弾の換装作業中に突如として向かってきた敵機。がら空きになった艦隊直上、そこから突っ込んできたドーントレス。……そして、激しく炎上した「蒼龍」を含む3隻の航空母艦。

 「あれ」がまた、繰り返されるのか。運命の巡り合わせは変わらないのか……(あん)(たん)たる思いが、“飛龍”の心を飲み込みかける。

 しかし次の瞬間、彼女の心に怒りの炎が灯った。ここはバルチスタ沖であり、ミッドウェーではない。そしてそもそも地球ですらない。であれば、地球での自身の運命を「この世界」でも引きずらなければならない、なんてルールはないはずだ。

 

 ……運命なぞ、(くつがえ)してみせる。

 

「飛龍より各艦、我これより航空戦の指揮を執る!」

 

 即座に“飛龍”は、「ハイネセン」機動部隊指揮艦の座を“蒼龍"からもぎ取るようにして引き継いだ。今現在、「ハイネセン」の空母で航空機運用能力を残しているのは自分だけだ。自分が指揮を引き継ぐしかない。

 

「直掩隊は、敵機の帰投針路上でスタンバイ! 引き上げにかかった敵機を撃墜せよ!」

 

 上空で待機している直掩隊に指示を出すと、“飛龍”は上空を見上げた。まだ10数機規模の敵機が、こちらへと向かってきている。それを全て撃墜するか、回避しなければならない。

 

(やってみせる!)

 

 絶対に、生き残ってやる……その決意を胸に秘め、“飛龍”は指示を出した。

 

「取り舵いっぱい!」

「撃ち方始め!」

 

 左から向かってくる急降下爆撃機が近いと睨んだのだ。

 舵が効き始めるには、少し時間がかかる。その間に「12.7㎝連装高角砲」が発砲を繰り返し、敵機を撃墜せんとする。周囲にいる護衛の艦娘たちも、激しい対空砲火を撃ち上げていた。

 向かってきた急降下爆撃機は4機。うち2機を対空砲で撃墜したが、残り2機が「飛龍」上空で機体を翻す。だがその時、「飛龍」の舵が効き始め、艦は海面に大きな弧を描きながら急速に左へと転回する。

 回避運動の甲斐あって、「飛龍」は敵機の爆弾を全て回避した。続いて雷撃機3機が魚雷を投下するも、彼女はこれも回避する。「瑞鶴」と並ぶ幸運持ちの彼女の力は、伊達ではなかった。

 

「戻せ、舵中央!」

『こちら龍驤……。ごめんね、魚雷3本喰らってもた……。対処不能、総員退艦を発令するわ…』

 

 しかし、「飛龍」が奮闘している間に「龍驤」が魚雷を受けてしまったようだ。こうなれば、もはや「ハイネセン」で健在な空母は「飛龍」しかいない。

 敵機の残りは10機前後の急降下爆撃機のみになっていたが、諦める様子はない。右舷側からまっすぐ「飛龍」に向かってくる。

 

「面舵いっぱい!」

 

 空を睨みながら、回避運動の指示を出す“飛龍”。護衛に当たる艦娘たちは必死の対空砲火により、敵機を阻止しようとする。

 

『弾幕が薄い……ような気がします。弾幕です!』

 

 中でも“秋月”の活躍には目覚しいものがあった。砲身が焼け付くんじゃないかと思えるほど対空砲を連続発射し、敵機を1機また1機と屠っていく。

 

「敵降爆4、本艦直上! 急降下!」

 

 見張員妖精の絶叫が飛び込んだ。

 4機の敵機が、(もう)(きん)を思わせる速度で突っ込んできている。だが、舵がまだ効かない。

 

「対空機銃、全力迎撃! 絶対に敵機を阻止して!」

 

 “飛龍”が命じた瞬間、彼女の身体に大きな遠心力がかかった。ようやく舵が効き、艦が右へと回頭し始めたのだ。

 敵機は「飛龍」上空1,000メートルに迫っている。先頭に立っていた敵機が対空砲火を浴び、黒煙を吐き出し始める。その直後、左の主翼が折れ飛び、敵機はくるくると回転しながら墜落し始めた。だが、残り3機が猛然と突っ込み、「飛龍」上空で次々と引き起こしをかける。

 

(お願い、間に合って……!)

 

 “飛龍”は必死で祈ったが、それは彼女だけでなく、この場にいる艦娘たち全員の願いであっただろう。

 回避行動を続ける「飛龍」、その左舷艦首至近にまず1発目の爆弾が落下した。巨大な水柱が屹立し、雨だれのような音を立てて飛沫と弾片が「飛龍」を叩く。

 続いて2発目が落下した。海面に立ち上った水柱が、「飛龍」の艦体左側面によって断ち切られる。至近弾の中でも特に際どい一撃だった。あと少し回避が遅れていれば、直撃弾になっていただろう。

 次の瞬間、「飛龍」艦上にぱっと爆発光が光った。そして爆発が発生し、黒い欠片が八方に撒き散らされる。明らかに直撃弾だった。

 

「喰らった……!?」

 

 愕然とする“飛龍”。自分は回避に失敗したのか、もう「ハイネセン」の空母は全滅したのか……そんな暗い予感が込み上げた。

 そこへ、応急班のリーダー妖精から報告が上がってくる。

 

応急(ダメコン)班から艦橋へ、先の直撃弾は飛行甲板左前縁に発生。飛行甲板一部損傷なれど修復は可能、艦載機運用に問題なし。戦闘・航行とも支障なし』

 

 どうやら先ほどの一撃は、“飛龍”の飛行甲板前部を損傷させたようだ。だが、命中したのが甲板の端だったこともあり、まだ艦載機運用能力は失っていない。判定としては「小破」ということになるだろう。

 

「よしっ!」

 

 思わずガッツポーズを決める“飛龍”。自分はやったぞ、見事に生き残ったんだ……という、喜びの証である。

 そこへ、艦隊旗艦“霧島”から入電が入った。

 

『皆、お疲れ様でした。敵機は離脱しつつあり、空襲は終了と判断します。

しかし、まだ戦いそのものは終わっていません。朝潮と大潮は、蒼龍及び妖精の救助と、蒼龍の艤装の雷撃処分を。(うみ)(かぜ)(やま)(かぜ)は、龍驤と妖精の救助ならびに龍驤の艤装の雷撃処分に当たってください。飛龍は艦載機の収容をお願いします。全ての機体は収容できないので、損傷のひどい機は海没処分で。その他の面々は全周警戒をしてください。

提督から、作戦コード「シ-4050」が発令されています。艦載機と妖精・艦娘の収容作業が完了次第、艦隊針路を175度に取り、合流地点(ランデブーポイント)を目指します。各員、行動に移ってください』

 

 

 こうして、ロデニウス海軍第13艦隊とグラ・バルカス海軍東部方面艦隊との航空戦は終了した。

 航空戦における最終的な双方の被害は、グラ・バルカス帝国側がペガスス級航空母艦8隻・カシオペヤ級軽空母4隻喪失。残る空母はペガスス級1隻とカシオペヤ級2隻であるが、ペガスス級の「ヘルベチオス」は飛行甲板を大破しているため、健在なのはカシオペヤ級2隻だけである。一方のロデニウス連合王国側は、正規空母「蒼龍」「翔鶴」「(うん)(りゅう)」「(あま)()」と軽空母の「龍驤」が艤装放棄を余儀なくされ、正規空母「(かつら)()」が大破、「(たい)(ほう)」が中破、「飛龍」が小破。健在なのは正規空母の「()()」「飛龍」「(ずい)(かく)」「大鳳」「Graf(グラーフ) Zeppelin(ツェッペリン)」「Aquila(アクィラ)」と戦艦空母「(あか)()」、それに軽空母の「(しょう)(ほう)」「(ずい)(ほう)」「(じゅん)(よう)」「()(よう)」であり、特に「赤城」、「加賀」、「Graf Zeppelin」、「Aquila」、「祥鳳」、「瑞鳳」、「隼鷹」、「飛鷹」は全くの無傷である。制空権はロデニウス側が獲得した、と言い切れる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「何ということだ……。たった1日で、10隻以上の空母を失うとは……」

 

 陽の沈みかけたグラ・バルカス海軍東部方面艦隊旗艦・グレードアトラスター級戦艦「ブラックホール」の艦橋で、司令長官カイザル・ローランド大将は愕然とした口調で呟いた。

 グラ・バルカス帝国海軍がこれまでに空母を失った例は、前世界での戦争を合わせてもそう多くはない。特に大型空母をやられたことはほとんどなく、空母機動部隊は文字通りグラ・バルカス帝国の強さを知らしめる戦果を挙げ続けていた。

 それが、たった1日で12隻もの空母が失われてしまったのだ。それも、その半数以上はペガスス級……最新鋭の大型航空母艦だ。これほど大きな被害を受けた海戦は、過去に例がない。

 しかも、敵の空母を数隻撃沈したは良いものの、無傷の空母が複数残っている。それに対してこちらの空母はたった2隻。航空機の性能差まで考えれば、制空権は失ったと見るべきだろう。

 ひとまず、第1.4任務群の艦載機は第1.1任務群に向かうよう指示を出してある。第1.1任務群で唯一生き残ったカシオペヤ級軽空母「ペルセウス」に、戦闘機のみ着艦させるのだ。爆撃機と雷撃機については、機体を捨てて搭乗員だけ回収する以外にない。

 

(だが、まだ戦艦部隊は健在だ。こうなれば、前時代的なことは承知の上で敵に艦隊決戦を挑み、勝つしかない。まだ空母は残っているから、戦闘機による弾着観測機の護衛に徹するよう指示すれば、観測機は守れるだろう。それにこちらには、グレードアトラスター級1隻とヘルクレス級5隻がある。砲火力では、並大抵の相手には負けないはずだ……)

 

 そう考えたカイザルは、既に指揮下の全部隊に集合を命じていた。

 艦隊決戦を挑むにしても、まずは戦力の再編成が必要だ。各戦艦や巡洋艦は分散して空母の護衛に当たっている状態である。これを再編成し、隊列を整えた上でなければ、艦隊決戦は挑めない。

 

「司令、意見具申します」

 

 そこへ、参謀長のマルクル・ヘルメス准将が声を上げた。

 

「む、どうした?」

「実は、考えたことがあるのですが……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方、

 

「ふーむ……思ったより被害が大きいな……」

 

 ロデニウス海軍第13艦隊旗艦「(なが)()」CICで、報告書を受け取った(さかい)司令が(うな)るような声を発していた。

 

「それは空母艦娘たちの被害か?」

 

 報告書を覗き込みながら、“長門”が問う。

 

「空母と航空機、どっちもの被害だ。艤装放棄が5人も出た上に、艦載機は合計して400機以上が失われてる。これは被害としてはかなり大きい。

グラ・バルカス帝国侮り難し、だ」

 

 侮るつもりはなかったのだが、堺も少々楽観的に考えていた節があった。敵の航空機は、艦爆はともかくとして艦戦と艦攻はこちらのほうが性能が優れており、その上誘導弾を持ったジェット機まで装備している。また、防空に当たる艦娘たちにしても練度は高く、「四三式弾」やら近接信管やらを実用化している。これだけの面子であれば、比較的少ない被害で切り抜けられるのではないか、と彼は考えていたのだ。

 だが、この現実を目の当たりにして、彼も己の想定の甘さを感じずにはいられなかった。結局のところ、今回の航空戦の行く末を決めたのは、単独で空母4隻を屠ったルーデル隊の攻撃だったと言える。

 

「それはそうと、長門、味方に指示は出してくれたか?」

「ああ。全部隊に作戦コード『シ-4050』を出してある」

「サンクス」

 

 作戦コード「シ-4050」は、「全部隊集合せよ」を意味する暗号だ。作戦計画書に設定された集合地点に全部隊を集め、部隊の再編を図るのである。

 

「この作戦コードということは……提督よ、明日の戦いは水上砲戦か?」

「ああ。敵の指揮官は相当に頭が良い、今のこの状態で明日も航空戦を挑んでくるような真似はしないはずだ。空母が生き残っている今なら、仮に艦隊決戦をしたとしても戦場上空の制空権を確保するか、最低でも自軍の観測機を守ることができる。だが、これ以上空母と戦闘機がなくなれば、制空権を完全に喪失してしまい、艦隊決戦でも勝算は乏しくなる。そんな手は選ばんはずだ」

「なるほどな」

 

 敵は空母の大半を失ったが、まだ戦艦を中心とした水上打撃部隊が健在だ。そして敵は、この程度で諦めるような連中ではないだろう。おそらく、空母部隊の仇を取る絶好の機会と考えて、部隊を再編成した上で戦艦や巡洋艦を中心とする水上打撃部隊を繰り出し、艦隊決戦を挑んでくるはずだ。堺はそう計算していた。

 そして同時に、彼は彼我の戦力を比較した上で「戦艦同士の砲戦に限れば、自軍が有利である」と判断していた。

 これまでに集められた敵艦隊の情報をまとめると、敵戦艦の数は13隻。内訳は、「ニセ大和型(グレードアトラスター級)」1隻、「ニセ長門型(ヘルクレス級)」5隻、「ニセ金剛型(オリオン級)」7隻だ。対してこちらの戦艦は、“武蔵改二”、“アイオワ改二”、“長門改二”、“陸奥改”、“扶桑型改二”2人、“金剛型改二”4人、“Bismarck Drei”、“赤城改二”。戦艦空母が1人混じっているが、合計12人となる。数なら敵に劣るが、性能で敵を凌駕しており、総合的には自軍が有利だと彼は(にら)んでいた。

 

「艦隊決戦か。胸が熱いな」

 

 静かに闘志を高ぶらせる“長門”。艦隊決戦となれば、彼女の出番だ。敵戦艦に対して主砲を撃つことができる。もともと艦隊決戦での活躍を期待されて生まれた彼女には、この展開は待ち望んでいたものと言えた。

 

「長門、敵艦隊の配置と編成をもう一度見てみたいんだが」

「心得た。はい、これが情報だ」

 

 “長門”が差し出した敵艦隊の位置と編成を記した報告書を見て、堺は「んー……?」と言いながら首を捻った。そして何やらぶつぶつ言いながら敵の配置図を見て、「あっ……ヤベぇ」と呟き、即座に指示を飛ばす。

 

「長門、『ポップスター』に宛てて打電! 『作戦コード ヤ-1000』!」

「作戦コード『ヤ-1000』了解。『ポップスター』宛、送信する!」

「それが終わったら、『ポップスター』以外の全分艦隊に命令! 『作戦コード ト-1030-ナ』!」

「ん? ト-1030だと?」

 

 何かに気付いたのか、“長門”が首を傾げた。

 

「提督よ、そのコードの意味は確か、『(とん)(そう)』じゃなかったか?」

「ああ、その通りだ。『ポップスター』は夜戦配置。それ以外は全艦、南に逃げろ」

「逃げるだと? 勝ったのにか? 何故だ?」

 

 “長門”の質問に、堺はあっさりと答えた。

 

「敵の編成をよく見てみろ、いかにも夜戦を仕掛けてきそうじゃないか」

「いや、だが夜闇の中で艦隊の再編成をしなきゃならんのだろう? そんなところに、夜襲をかける暇はないと思うが」

「普通ならな。だが、『コーネリア』と対峙していた敵の編成をよく見てみろ」

 

 堺に言われて、“長門”は改めて敵の戦力を見直してみた。そこに感じる、僅かな違和感。

 

「ニセ(こん)(ごう)型1隻、ニセ(たか)()型3隻、後はニセ5,500トン型と駆逐艦……高速艦ばっかり、か?」

「そう。おそらくだが夜戦を仕掛けて、こちらの戦力を減らす狙いがあるものと見られる。こちらは、特に()(そう)型や隼鷹型、長門型の脚が遅いから、こいつらにかかれば追いつけるだろう。敵も考えていたらしいな。

だが、そうは(とん)()(おろ)さんぞ。こんなこともあろうかと、『ポップスター』には夜戦に強い連中を編成してある。それに、もし『ポップスター』を突破して追いかけてきてみろ、その時はどてっ腹にハープーン叩き込んでやるからな……」

 

 夜戦になる可能性を考慮していた堺であった。

 

《最後の航空戦における敵味方の被害まとめ》

ロデニウス海軍第13艦隊

艤装放棄: 航空母艦2(“蒼龍”、“龍驤”)

中破: 巡洋艦1(“鈴谷”)

小破: 航空母艦1、巡洋艦1、駆逐艦1(“飛龍”、“酒匂”、“満潮”)

 

グラ・バルカス海軍東部方面艦隊

喪失: 航空母艦3(ペガスス級「サダルバリ」「ホマン」、カシオペヤ級「アシルド」)、駆逐艦1

大破: 駆逐艦4

中破: レオ級軽巡洋艦1

 

 

【挿絵表示】

 




はい、最後の航空戦はほぼ相討ちとなりました。二航戦といえば、一航戦に次ぐ精鋭部隊。それを向こうに回して相討ちに持ち込むあたり、グラ・バルカス帝国軍も侮れませんね。
……が、相討ちとはつまり「現状維持」と同義。魔王閣下の奇襲で受けた損害を挽回することは、ついにできませんでした。
また、今回も前回に続いてミッドウェー海戦の史実ネタを投入しています。二航戦が主人公となれば、是非とも入れたかったんですよね。


総合評価が10,300ポイントを突破……! 読者の皆様には重ね重ね、御礼申し上げます!

評価9をくださいました黒猫13様、棚兵衛様、ミッターマイヤー様、H2Oライト様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!

今年も残り少なくなり、また寒さが急に厳しくなってまいりましたね。皆様にはお身体に気を付けて、年末を過ごされんことを心より願います。


次回予告。

すっかり陽も落ちたバルチスタ海域。航空戦はロデニウス海軍第13艦隊の勝利に終わり、海戦は第二ラウンドへと突入。闇夜の中、両軍は再び激突する……
次回「激突! 第二次バルチスタ沖大海戦!(five)」
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