鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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旧日本海軍の「漸減邀撃作戦」構想に従う場合、日中の航空戦が終わったとなれば、次に発生する戦いは何か? ……答えはそう、「夜戦」です。
ということで第二ラウンドたる「夜戦」、いってみよー!

【中央暦1643年5月31日 午後5時時点での両軍の被害】
ロデニウス連合王国海軍第13艦隊
艤装放棄: 航空母艦5、駆逐艦3(”翔鶴”、”雲龍”、”天城”、”蒼龍”、”龍驤”、”巻雲”、”春雨”、”朝潮”)
大破: 航空母艦1、駆逐艦1(“葛城”、”荒潮”)
中破: 航空母艦1、航空巡洋艦2(“大鳳”、“最上”、”筑摩”、”鈴谷”)
小破: 戦艦1、航空母艦1、駆逐艦3(”榛名”、”飛龍”、”浦風”、”山風”、”涼風”)
小破未満(カスダメ): 航空母艦1、重巡洋艦1、駆逐艦2(”瑞鶴”、”摩耶”、”風雲”、”秋雲”)

グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊
喪失: ペガスス級航空母艦(翔鶴型に酷似)8、カシオペヤ級軽空母(千歳型に酷似)4、タウルス級重巡洋艦(高雄型に酷似)1、キャニス・メジャー級軽巡洋艦(5,500トン型に酷似)3、レオ級軽巡洋艦(阿賀野型に酷似)1、駆逐艦20
大破: ペガスス級航空母艦1、キャニス・メジャー級軽巡洋艦1、駆逐艦4
中破: タウルス級重巡洋艦1、駆逐艦2
小破: オリオン級戦艦(金剛型に酷似)1、タウルス級重巡洋艦1、レオ級軽巡洋艦1、駆逐艦3



150. 激突! 第二次バルチスタ沖大海戦!(five)

 中央暦1641年5月31日 午後9時40分、ムー大陸南西方 バルチスタ海域。

 既に太陽から直接投げかけられる光は一欠片として無く、海域を支配する闇を照らすのは僅かに月明かりと星明かりのみ。だが、その月は2つ夜空に浮かんでいるのだが、どちらも満ちているとは言えず、三日月くらいにしか見えなかった。星明かりに至っては、夜闇を照らす明かりとしてはほとんど頼りにならない。このため、辺りは濃い闇に閉ざされている。

 黒々と広がる海面はどこまでも静かで、風の音か波の音くらいしか聞こえない。その海を、何隻もの鋼鉄製の船が機関音も高らかに、波を切り裂いて(ばく)(しん)する。

 闇に紛れて詳細は判然としないが、その陣容は比較的大型の巡洋艦らしき艦艇が2隻、比較的小型の巡洋艦が3隻、そして小型の高速艦が13隻。大型巡洋艦のうち1隻は、自衛隊のこんごう型護衛艦かと錯覚するような立派な艦橋を備えている。小型の巡洋艦は、単装砲を装備した3本煙突の艦が1隻、単装砲を装備した4本煙突の艦が1隻、そして連装砲を搭載した艦が1隻。小型艦は、どれも同じような形に見える。いずれの艦も無線封鎖しており、航海灯すらもまともに点けずに20ノットの速力で東南東に進んでいた。それでも艦列が乱れないのは、日頃の訓練による高い練度が成せる技である。

 それは、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊の第一分艦隊……コード名「ポップスター」であった。もともとはピケット艦隊として第13艦隊本隊の前方に布陣していたのだが、航空攻撃も終わる午後4時頃、堺から作戦コード「ヤ-1000」を受けて動き出していた。「ヤ-1000(夜戦)」……そう、得意の夜戦によって追撃してくるであろう敵に打撃を与えよ、という命令である。

 基本的に艦娘たち、特に駆逐艦や巡洋艦の艦娘たちにとっては、夜戦はお家芸とすら言えた。夜闇に紛れて敵の戦艦などに高速で肉薄し、必殺の酸素魚雷を叩き込む。それこそが、彼女たちの戦いの真骨頂なのである。レーダーが登場しても、この傾向は大きくは変わっていなかった。

 しかもここで、「ポップスター」の編成を見てみよう。

 

重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」「(ちょう)(かい)

軽巡洋艦「(なが)()」「(じん)(つう)」「()(しろ)

駆逐艦「(あられ)」「(かすみ)」「陽炎(かげろう)」「不知火(しらぬい)」「(はつ)(かぜ)」「(ゆき)(かぜ)」「(あま)()(かぜ)」「(とき)()(かぜ)」「()(わき)」「(あらし)」「(はぎ)(かぜ)」「(まい)(かぜ)」「(しま)(かぜ)

艦隊旗艦: 「鳥海」

 

 歴史マニアの方、もしくは勘の良い方はお気付きになったことだろう。

 そう、何かしら夜戦でエピソードを残した者が多いのである。例えば「鳥海」は、第八艦隊旗艦として参加した第一次ソロモン海戦において、アメリカ海軍の有力な巡洋艦部隊を相手に奮戦し、味方の被害を僅少に抑えながら敵巡洋艦数隻を撃沈破する大戦果を挙げている。「神通」は、最も有名なのがコロンバンガラ島沖海戦だろう。敵の強力な最新鋭巡洋艦3隻と、10隻もの駆逐艦を相手にたった1隻で奮戦し、自らの沈没と引き換えに指揮下の駆逐艦隊に雷撃目標を指示し、巡洋艦3隻撃破、駆逐艦3隻撃沈破の武功を立てたのだ。当時のアメリカの戦史家をして「大戦を通じて最も激しく戦った軍艦」と言わしめたほどである。また、この艦隊に参加している駆逐艦たちは、そのほとんどが第二水雷戦隊の所属であった。そう、夜戦において力を振るう水雷戦隊の中でも特に練度の高い、「華の二水戦」なのである。

 

 巡洋艦と駆逐艦合わせて18隻の艦隊は、第二警戒航行序列を組んで航行していた。最前列に「野分」「舞風」「島風」の3隻が横一線に並び、その後方に小さな逆三角形を描くようにして「長良」「嵐」「萩風」が続いている。その後ろに艦隊旗艦「鳥海」、強力なドイツ製レーダーを装備した「プリンツ・オイゲン」、駆逐艦「霰」「霞」「陽炎」「不知火」が複縦陣に並び、その更に後方に複縦陣を形作った軽巡洋艦「能代」「神通」、駆逐艦「初風」「雪風」「天津風」「時津風」が続いている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 艦隊旗艦「鳥海」の艦橋にて、艦娘の"鳥海"は眼鏡越しに夜の海を見つめ続けていた。既に彼女の「九八式偵察機(夜偵)」は接敵しており、時折「敵艦隊針路何度、距離いくら」と通信を送ってきている。このまま進めば、あと20分ほどで敵艦隊と会敵できそうだ。

 

「どこまで戦えるでしょうか……。敵にはレーダーがありますし、こちらの接近が探知されていなければ良いのですが……」

 

 必要最低限の赤色灯のみに照らされ、手元の視界ですら覚束ない中で、彼女は誰に言うともなしに呟いた。

 

「……ん? あれ?」

 

 その時、艦橋に詰めている電測妖精が何やら泡を食ったように機械を弄り始めた。

 

「あれ? あれ?」

 

 必死で手元の機械のあちこちのスイッチを押したり切り替えたりする妖精。しばらくの後に振り返った妖精の顔は、赤色灯の下でも分かるほど青白くなっていた。

 

「か、艦長! レーダーが不調です!」

「え?」

 

 言われた"鳥海"が近寄ってみると、"Iowa"から借りて装備していたSG対水上レーダーの画面が真っ白になってしまっており、何も映らなくなっている。

 

「故障ですか?」

「分かりません……。対空レーダーも、同じ状態になっています……」

 

 自分の不始末かと考えた妖精の顔は、もはや完全に血の気を失っていた。戦いの前に、最も重要な索敵装備といえるレーダーを壊してしまったのだから。

 

「困りましたね……」

 

 いくら戦場に不測の事態は付き物とはいえ、これは運の悪さを呪うしかない。どうするかを"鳥海"が考えようとした、その時だった。

 

「長良より信号。『我、電探不調ナリ』」

「プリンツ・オイゲンから、『レーダー不調』との発光信号です」

『こちら後部見張り。能代より信号、「我、電探不調」。あっ、神通からも同じ報告です』

 

 連続して、同じ内容の発光信号が他艦から送られてきた。

 

「こ、これは……?」

「おそらく、電波障害ですね」

 

 混乱している電測妖精に、"鳥海"は即答した。

 

「同じタイミングで複数の艦の電探が一斉に不調を起こしたとなると、偶然や故障とは思えません。考えられる可能性は、磁気嵐などによる電波障害、もしくは……敵からの電波妨害です。

ですが、敵の技術力から考えるに、こちらに電波妨害を仕掛けられるような装置は無い可能性が高いです。最も可能性が高いのは、自然的要因による電波障害でしょう」

 

 つまり、「ポップスター」の艦艇は一律でレーダーと通信を封じられたのである。

 

「運が悪いですね。まさか、接敵する寸前になってこれとは……」

「いえ、そうでもないかもしれません」

 

 ため息を吐きながらそう言う副長妖精に、"鳥海"は別の可能性を示し始めた。

 

「と仰いますと?」

「自然的な電波障害なら、おそらく敵も同じ被害を受けていると考えられます。つまり……条件は五分と五分。ならば、私たちの専門の夜戦訓練が、そして特殊な訓練を受けている熟練見張員の皆様の存在が、生きてくると思います。()()に夜戦訓練をしている訳ではないですから」

「まあ……それは確かにそうですね」

 

 実際、それは可能性として一理あった。

 

「ですが、希望的観測が混じっていることをお忘れなく」

「分かっています」

 

 副長妖精にはそう言ったが、"鳥海"は自身が挙げたことが起きている可能性は非常に高いと踏んでいた。もちろん勘などではない。計算の上に弾き出された結論である。

 そして"鳥海"は、"霧島"と並ぶ「艦隊の頭脳」として、敵艦隊の位置についても計算していた。

 敵艦隊は全部で4つの部隊に分かれており、先頭集団との距離は午後3時の時点で約200㎞。この先頭集団を夜戦で叩くべく、自分たちは前進してきたのだ。走り続けた時間はおよそ7時間半。基本的には巡航速度である18ノットで航行してきたが、敵との距離を詰めるべく、1時間ごとに速度を28ノットに切り替えるようにしていた。そのため、累計すると18ノットでの航行時間が3時間、28ノットで走った時間が4時間半である。ということは、距離にしてあと20㎞程度は離れている計算になる。つまり……敵がこちらの予想通りの針路と速度で移動していれば、もう目視圏内に敵がいるはずだ。

 そして、この敵先頭集団は前方哨戒を兼ねている可能性が高い。空母がいなくなっても、戦艦や巡洋艦がいればその役割は十分務まるからだ。また、こちらの艦隊に夜襲を仕掛けて混乱を誘発すると共に、足止めしようとしてくる可能性が高い。

 ……さらに言えば、「九八式偵察機(夜偵)」のこれまでの報告が正しければ、敵艦隊は"鳥海"の計算通りに動いている。

 

(もう、いつ接敵してもおかしくないですね……)

 

 彼女はそう計算していた。

 

 

 果たして、そのまま直進すること数分。

 不意に、前方を行く「長良」の艦上に、青白い光が一定のリズムを以て煌めいた。

 

「長良より信号! 『敵艦見ユ。本艦隊ヨリノ方位310度、距離ヒトヒトマル(11,000メートル)。敵艦針路170度』!」

「こちら前方見張り、敵艦見ゆ! 本艦よりの方位315度、距離ヒトヒトマル!」

「来ましたね……!」

 

 その瞬間、"鳥海"は計算の末に出た可能性が的中したことを知った。

 それにしても三日月程度の明かりしかなく、おまけに電波障害によって電探を封じられた状態で、11㎞も先の敵艦を発見するとは大したものだ。

 

「計算通りですね。今から面舵を切って敵艦隊に同航すれば、砲雷撃戦の陣形として理想的です。こちらから仕掛けましょう。

各艦に発光信号。『両舷前進最大戦速。面舵70、艦隊針路1-7-5。単縦陣に移行。同航戦、左魚雷戦用意』」

「承知しました!」

 

 "鳥海"が出した号令は、即座に発光信号で各艦に伝えられた。

 

「左魚雷戦、目標同航の敵艦隊!

調定深度4メートル、散布角4度、雷速51ノット。発射雷数8、左舷発射管の魚雷全部ぶっ放せ!」

 

 水雷長妖精が威勢の良い声で艦内に指令を出している。

 エンジンテレグラフがチーンチーンと音を立て、艦の機関音が急速に高まる。「ポップスター」の各艦艇は一斉に右に転舵し始めた。同時に陣形を変え、本隊前方に警戒部隊が横列で並ぶ「第二警戒航行序列」から、1本の鋭い槍を思わせる単縦陣に移行した。夜間であるにも関わらず一糸乱れぬ動きから、彼女たちの練度の高さが窺える。

 

「敵艦隊、速力20ノット。針路変わらず、距離ヒトマルマル!」

 

 大日本帝国海軍のお家芸たる「水雷夜戦」が今、異界の地で始まろうとしていた。

 

「目標、左同航の敵艦隊。魚雷発射始め!」

「了解、各艦に信号送ります!」

 

 通信長妖精に指示を出した後、"鳥海"は高らかに命じた。

 

「魚雷、よーく狙って……てぇーっ!」

「左魚雷戦、魚雷発射始め!」

 

 水雷長妖精の復唱。続いて、艦体後方から圧縮空気の噴き出す音と波しぶきの音が連続して微かに響いた。魚雷が発射されたのである。

 その魚雷だが……明らかに九三式酸素魚雷ではなかった。何故なら、弾頭が球形ではなく(ぼう)(すい)形になっているからだ。

 

 ……そう、これこそが「酸素魚雷の極致」と言っても過言ではない「40式魔導酸素魚雷改」である。弾頭を紡錘形にして信管調定機能を撤廃することで、誤爆率を減らすと共に九三式酸素魚雷を上回る高速を獲得し、その上「風神の涙」の搭載によって100%の完全無航跡を達成した、"マッドトーピーダーズ"渾身の力作であった。

 その雷速は51ノット、有効射程は25,000メートルを優に超える。そして命中すれば駆逐艦や巡洋艦は1発でスクラップと化し、大和(やまと)型戦艦ですら数本で瀕死に追い込めるという、恐るべき威力を誇っている。"鳥海"はそれを計8本、敵艦隊に向けて放ったのだ。

 

 "鳥海"が魚雷の発射を終えたのと時を同じくして、他の艦も次々と魚雷を発射している。

 

「五連装酸素魚雷、いっちゃってー!」

 

 中でも"島風"の雷撃力は凄まじい。次発装填装置こそないものの、五連装発射管を3基も搭載しているため、一度に計15本もの「40式魔導酸素魚雷改」を放てるのだ。雷巡の面々には及ばないが、それでも恐ろしい力である。

 

「長良より信号。『我、魚雷発射完了。続イテ駆逐艦全艦、魚雷発射完了』」

「プリンツ・オイゲンより信号。『魚雷発射完了』」

「能代、神通より信号。『二水戦全艦、魚雷発射完了』」

 

 こうして、「ポップスター」の面々は一斉に魚雷を放ったのであった。

 それではここで、何本の魚雷が発射されたか計算してみよう。

 

 

鳥海、プリンツ・オイゲン、長良、神通、能代

各艦とも61㎝四連装魚雷発射管×4基。ただし、右舷側と左舷側に2基ずつ分けて配置されているため、左舷に向けて一度に発射可能な魚雷は4発×2基、計8発である

 

島風以外の全駆逐艦

61㎝四連装魚雷発射管×2基、計8発

 

島風

61㎝五連装魚雷発射管×3基、計15発

 

全て合計すると、5×(4×2)+12×(4×2)+15=151(発)

 

 

 恐るべし、151本にも達する魚雷である。しかもその全てが「40式魔導酸素魚雷改」。そう、()()である。

 夜間に、しかも1万メートル以上の遠距離からの無誘導雷撃であるため、命中率はかなり悪い。だが、仮に命中率5%として計算しても、だいたい10本くらいは命中するだろう。そうなれば、敵艦隊のうち相当の数の艦に甚大なダメージを与え、落伍させることができる。その分だけ、明日の艦隊決戦におけるこちらの勝率が高くなるのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 え? プリンツ・オイゲンを含むアドミラル・ヒッパー級は三連装発射管? 長良は連装発射管4基搭載、このうち片舷指向可能なのは2基? アーアーキコエナーイ。

 もちろんだが、本来四連装発射管を搭載していないこれらの巡洋艦も、四連装発射管(当然のように酸素魚雷対応)を搭載して出撃してきている。武装配置をそのままに、より強力な兵装を搭載できる。これが、実艦とは異なる「艦娘」の強みの1つである。……ただ、あまりに変えすぎると逆に性能が下がってしまうのだが。有名どころは、「46㎝三連装砲」を山積みした(こん)(ごう)型の砲撃命中率の低さである。

 

「全艦、魚雷発射完了。命中まで6分半」

 

 通信長妖精からの報告を受けて、水雷長妖精がストップウォッチを(にら)みながら素早く計算する。そして、艦内へ通じる伝声管に向かって叫んだ。

 

「次発装填、急げ!」

 

 駆逐艦と巡洋艦(「島風」は除く)には次発装填装置が搭載されており、予備の魚雷があるのだ。それを魚雷発射管に装填し、次の攻撃の機会を窺うのである。

 作業には少なくとも数分はかかる。しかも今は敵の目の前にこちらの姿を(さら)しているのだ。いつ敵の砲弾が飛んでくるとも限らない。急がなければならない。

 各艦の主砲が1発たりとも火を噴くことはない。発砲炎によってこちらの位置を(ばく)()してしまうからだ。しかも、こちらの砲撃によって敵艦隊が回避行動を取った場合、せっかく諸元を計算して撃った魚雷が外れてしまう可能性が高くなる。今はただ、ひたすら耐え忍ぶ以外にない。

 

「1分経過」

 

 そうこうするうちに1分が経過した。無限にも思える待ち遠しい時間。それをひたすら耐えなければならない。

 敵はいつこちらに気付くか。はらはらしながら、彼女たちはただ時が過ぎるのを待つ。そのうち2分が経過した。

 

「あと4分ってところでしょうか」

 

 体感的に2分半が過ぎ、"鳥海"がぽつりと呟いた時だった。

 

「左舷より爆音!」

 

 見張所から飛び込んだ報告に、全員の顔に一様に緊張が走った。

 爆音が聞こえたということは、敵は夜間に偵察機を飛ばしている証である。しかも、それがこちらに近付いてきたということは、こちらの位置が露見している可能性がある。

 そして次の瞬間、上空に(おぼろ)げな光が現れ、それが「鳥海」の黒々とした艦体を照らし出した。

 

「本艦上空に吊光弾! 長良の上空にも吊光弾です!」

 

 見張所からの絶叫じみた報告。次に何が起こるかを確信し、"鳥海"は叫んだ。

 

「来ます!」

 

 直後、闇の彼方の敵艦隊が次々と閃光を放った。赤い光によって一瞬だけ夜の闇が払われ、黒い敵艦のシルエットが(あら)わになる。

 

「敵艦隊発砲!」

 

 見張員妖精の切迫した声が艦橋に飛び込んだ。

 

「近距離での発砲とはいえ初弾です。そうそう命中するものではありません。焦らず、落ち着いて時を待ちましょう」

 

 その見張員妖精に"鳥海"が呼びかける。そうする間に、夜の大気を震わせて敵の砲弾が落下してきた。

 敵艦隊の最初の砲撃は、「ポップスター」の右舷側海面に着弾した。夜目にも鮮やかな白い水柱が、(ぞう)()林のように何本も屹立する。その中には、一際太いものが数本混じっていた。

 

(おそらく敵戦艦の砲撃……!

水柱の太さと数から考えて、敵艦隊は戦艦1、重巡洋艦3ないし4、軽巡洋艦2〜4というところでしょうか。駆逐艦はおそらく20隻程度。……苦しいですね)

 

 一瞬で戦況分析を行う"鳥海"。

 数でも質でも相手が上だ。正直言って、魚雷がなければ勝ち目は薄い。しかし逆に言えば、発射した魚雷が命中すれば、敵艦隊に大混乱を強いることが可能な筈だ。ひょっとすると戦艦を仕留められるかもしれない。

 戦艦の大口径砲は、はっきり言って非常に怖い。だが、今は耐え忍ぶ時だ。少なくともあと4分は今の針路と速度を保ち続けなければならない。当然、その間発砲は一切できない。撃ってしまうと、敵が回避行動を取る可能性があり、結果として魚雷の命中率がガタ落ちになるからだ。今はひたすら沈黙に徹し、撃たれるがままでなければならない。

 

「敵艦隊、第2射発砲!」

「水雷より、魚雷到達まであと3分半!」

 

 残り3分半ということは、ようやく折り返し地点、というところだ。あと少し耐えなければ。

 "鳥海"がそう考えたところへ、ヒュルルルルヒュイーン……という甲高い音が、夜気を割いて降ってくる。

 

「衝撃に備え!」

 

 とっさに彼女が指示を出し、乗組員たちが対ショック体勢を取った直後、「鳥海」右舷前方の海面が弾けた。今度も右舷への着弾だが……第1射よりも弾着位置が近い。

 どうやら敵艦隊は狙いを「プリンツ・オイゲン」と「長良」に絞ったらしい。第3射は、その2艦の右舷至近にまとまって落下した。ただ、その中に太く高い水柱は確認されていない。どうやら敵戦艦は次発装填が間に合わず、第3射への参加は見送ったようだ。

 

「魚雷到達まで、あと2分半!」

「敵艦隊、第4射発砲!」

 

 見張員妖精の声と共に、"鳥海"は素早く窓の外を見た。巡洋艦クラスと見られる発射炎に混じって、非常に大きな発射炎が混じっている。明らかに、敵戦艦のものである。

 

(やはり、撃ってきましたか……!)

 

 彼女がそう考えた刹那、甲高い音が夜気をつんざいた。次の瞬間、前方の海面に巨大な水柱が立ち上り、前を行く「長良」の姿が見えなくなった。

 

「な、長良、(ごう)(ちん)!」

「慌てないで。至近弾です」

 

 慌てて報告する戦術長妖精に、"鳥海"はあくまで落ち着いた声で返す。その言葉通り、水柱が消えた先には「長良」が健在な姿で航行を続けていた。速度が落ちた様子はなく、至近弾による艦尾損傷はなかったらしい。無事で何よりと、少しほっとする"鳥海"であった。

 

「魚雷到達まで、あと2分!」

 

 水雷長妖精が叫んだ時、敵の第5射弾が落下してきた。多数の水柱が立ち上り、「鳥海」や駆逐艦たちの艦体を水飛沫が叩いたその時、「鳥海」前方でパッと閃光が走った。

 

「長良、被弾!」

 

 焦った様子で見張員妖精が叫ぶ。ついに被弾艦が出てしまった。

 「鳥海」の前方を走る「長良」、その艦体後部に命中弾があったらしい。「長良」は火の粉で化粧をしたような後ろ姿を見せている。だが、他の艦には命中弾はなかったようだ。

 

「慌てないで、慌てないで……」

 

 半ば無意識に、"鳥海"は呟いていた。それは指揮下の妖精たちに向けられたものか、共に戦う艦娘たちに向けられたものか、それとも自分自身に向けたものなのかは判然としない。

 30秒ほど経過した時、新たな敵の射弾が降ってきた。またしても「長良」が被弾し、主砲と思われる角ばった影が空高く飛び上がった。さらに運悪く、火災が発生する。

 闇夜に火事なんか起こしたら、それこそ格好の的になってしまう。つまり、「長良」はかなり危うい運命に立たされたのだ。

 

「敵艦隊、第7射発砲!」

 

 窮地に陥った「長良」とは対照的に、敵艦隊は傘にかかって砲撃してきたらしい。戦艦のものと思われる強烈な発砲炎も混じっていた。

 「ポップスター」上空から、多数の敵弾が降ってくる。夜の空が落ちてきているんじゃないかと錯覚するような轟音だ。

 次の瞬間、「長良」が多数の水柱に取り囲まれ……その中で強烈な爆炎が走った。

 

「長良、被弾!」

『こちら後部見張。プリンツ・オイゲン及び能代、被弾!』

 

 戦術長妖精の顔は今度こそ蒼白になっていた。同時に後部見張員妖精からも、新たな被弾の報告が入ってくる。

 やがて水柱が消えた時、「長良」の姿は一変していた。炎によって艦体後部が完全に覆い尽くされており、被弾のダメージの深刻さを雄弁に物語っている。「長良」はもはや、海面を這い進むような速度でよろよろと走っていた。

 何が起きたかは明白だ。「長良」は敵の砲撃の命中によって、機関を損傷してしまったのだ。もしかすると、敵戦艦の砲撃が直撃したのかもしれない。

 

「面舵10度!」

 

 行き脚の鈍った「長良」を回避すべく、"鳥海"は命令を下した。そんな中、「長良」を覆った火災炎の中で青白い発光信号がちらっと見えた。

 

「長良より信号。『総員退艦中』です」

 

 信号を読み取った通信長妖精が報告した。

 あの一撃を喰らった直後に、"長良"は総員退艦を命じたらしい。頭の回転の早い、彼女らしい行動の早さであった。

 

「敵艦隊発砲!」

 

 見張員が叫んで少しした後、「鳥海」上空から多数の飛翔音が迫ってきた。

 

(長良を倒したので、次はこっち、ということですか……!)

 

 "鳥海"の背筋に寒気が走る。

 瞬間、轟音が「鳥海」を取り囲んだ。多数の水柱が乱立し、「鳥海」の艦体はまるで嵐の海に浮かぶ木の葉のように振り回される。艦底部を突き上げる爆圧の強烈さから考えて、敵の戦艦もこちらを狙ってきたようだ。

 

(く……! でも、もうそろそろ……!)

 

 "鳥海"がそう考えた時だった。

 ストップウォッチと敵艦隊を交互に睨みつけていた水雷長妖精が、敵砲の着弾音にも負けない大声で叫んだのだ。

 

「じかーん!」

 

 その言葉に、"鳥海"は素早く敵艦隊を見据えた。

 

 

「なんだ、敵に戦艦はいないのか」

「どうやらそのようです」

 

 グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊、第1.1任務群の司令官エルドリッジ・デーダー少将の質問に、オリオン級戦艦「アルニタク」の艦長ロベルト・アスキー大佐がそう答えた。

 

「ちっ、小物に砲弾を使うことになったか……まあ良い」

 

 半ば不満そうに呟くデーダー。

 第1.1任務群は現在、襲ってきた敵の艦隊と交戦していた。敵艦隊の戦力は重巡洋艦2隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦10隻以上。それに対して、第1.1任務群の戦力は戦艦1隻、重巡洋艦3隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦20隻。戦力的にこちらが圧倒的優勢だ。

 本来ならば、第1.1任務群の戦力はこれよりも多い筈であった。だが、昼間の空襲で航空母艦が損傷し、巡洋艦などの護衛艦艇にも損傷艦が続出したため、それらの損傷艦を駆逐艦を護衛に付けて後送したのだ。その結果が、この戦力である。

 

「どのみち、彼らには昼間の空襲の恨みを返さねばならなかった。これで少しは返せる、と考えれば良いか」

「司令の仰る通りです」

 

 アスキー艦長の言葉に、薄笑いを浮かべるデーダー司令。

 さっきオリオン級戦艦「アルニタク」は、他の艦と共に敵巡洋艦を1隻仕留めた。大規模な電波障害によってレーダーも無線通信もできない状態だが、それでも敵の巡洋艦を葬ったのだ。それに対して、敵はどうやらこの距離では照準を付けられないらしく、沈黙したまま同航している。そのため第1.1任務群は、敵を一方的に砲撃することができていた。

 

「さあ、さっさと片付けてしまえ!」

「は! 主砲、第10射、う……!?」

 

 デーダーのけしかけるような命令を受けて、アスキーが主砲発射を命じようとした瞬間、「それ」は起きた。

 戦艦「アルニタク」の前方を走る駆逐隊の艦列に、次々と白く太い水柱が立ち上ったのだ。1隻が被雷したかと思うと、次の艦が水柱を突き立てられる。と見る間に、水柱を受けた艦のうち2隻から巨大な炎の塊が噴き上がった。

 被害を受けた駆逐艦は全部で5隻。しかも、そのうち2隻は炎の塊となって戦闘不能となり、1隻は被弾と同時に大爆発を起こし、一瞬にして海上から消え去った。他の艦も行き脚が完全に停止してしまっている。

 信じがたい光景にデーダーとアスキーの2人が固まっている間に、今度は艦隊の先頭を進んでいたキャニス・メジャー級軽巡洋艦「メラク」が魚雷の直撃を受けた。「メラク」の右舷後部に1本目が命中し、蹴り上げられるような強烈な衝撃を受けて「メラク」は前方につんのめった。そして、その揺り戻しも起きないうちに第2の魚雷が右舷艦首に命中。シーソーのような浮き沈みがようやく収まった時には、「メラク」は深刻なダメージを受けていた。艦首は完全に吹き飛ばされ、艦内隔壁を直接海水が洗っている。また、右舷後部に命中した魚雷は一瞬にしてタービンの動きを止め、「メラク」の脚を完全に奪い去っていた。「メラク」はみるみる速度を落とし、やがて完全に停止して動かなくなった。艦体の沈降は恐ろしい勢いで進んでおり、こうなっては沈没の運命を免れることはできない。

 

「なんてこった……!」

 

 とんでもないものを見せられ、震えるデーダーの口からそんな言葉が漏れた。

 今の攻撃は明らかに、敵の魚雷によるものだ。そして駆逐艦隊の入念な索敵により、敵に潜水艦がいないことも分かっている。ということは、今の敵の雷撃は、明らかに敵の水上艦隊によるものだった。

 だとすれば、ロデニウスの艦隊は夜間に1万メートルという超遠距離から魚雷を放ち、瞬く間に6隻の艦艇を葬ったことになる。それはつまり、敵が「悪魔的」としか表現しようのない、とんでもなく高い練度を持っている、という証に他ならなかった。

 また、魚雷の性能も明らかに高い。そもそも射程1万メートルの魚雷だなんて、聞いたこともない。グラ・バルカス帝国にも魚雷はあるが、それらの有効射程は最大で7,000メートルとされている。つまり、有効射程に限って言えばロデニウスのほうが優れた魚雷を有しているのだ。加えて、第1.1任務群は完全に不意打ちの格好で敵の魚雷を受けている。夜間であるため、雷跡を見逃した可能性は高いが……もしかすると、敵の魚雷は隠密性にも優れているのだろうか。

 

「くそっ、撃て! 撃てぇー!」

 

 瞳の奥に怒りの炎を滾らせながらも、デーダーは素早く命じた。アスキー艦長は即座に「撃て!」を命じたが、その前に「取り舵一杯!」を命じることも忘れてはいなかった。

 戦艦「アルニタク」は先ほどと同じく、敵の大型巡洋艦を目標に定めて主砲を発射した。強烈な発射炎によって、周囲は一瞬だけ昼間のように明るくなり、海面ですら赤く染められた。そして、「アルニタク」の乗員は誰も気付かなかったが、その赤い光の中を複数の青白い影のようなものが駆け抜け、一直線に「アルニタク」めがけて突進していった。

 主砲発射の残響が消え去らないうちに、凄まじい衝撃が「アルニタク」右舷前部に襲いかかり、艦橋のすぐ脇に巨大な水柱が出現する。それは「アルニタク」の艦橋の高さすら超えていた。更に第二撃が「アルニタク」第二煙突直下に突き刺さり、太く高く水柱を噴き上げる。

 艦橋脇を襲った魚雷は、その衝撃で艦橋トップの主砲射撃方位盤を故障させた。また、第二煙突直下に命中した魚雷により、「アルニタク」の缶の一部は一瞬にして動きを止めた。そればかりか、魚雷によって穿たれた大穴から海水の奔流がどっと艦内に流れ込み、一部は艦内隔壁をやすやすと突破して機械室や缶室まで侵した。

 「アルニタク」はみるみる速度を落とし、本来なら30ノットの高速を発揮できる筈が、今やたった11ノットしか速度を出せなくなっている。更に、主砲射撃方位盤の故障と浸水による艦体傾斜によって、主砲の命中精度を期待しにくくなってしまった。

 

 次々と被雷する友軍艦を見て、後続する艦は大混乱を起こしている。戦艦「アルニタク」に後続していた3隻のタウルス級重巡洋艦は、次々と面舵を切り始めた。そんな中、先頭に立っていた重巡洋艦「チャムクィ」の右舷中央に巨大な水柱が突き上がる。海中で発生した強烈な爆発、それによる爆圧は「チャムクィ」の高角砲の1基を跡形もなく吹き飛ばした。そして、鉄砲水もかくやの勢いで艦内に突入した海水は、次々と隔壁を突き破って各部屋を襲い、ダメージコントロール・チームの懸命な努力にも関わらず急速に艦内を満たしつつあった。更に、強烈な衝撃によって機関が動きを止められてしまう。

 艦の心臓部に魚雷を受けてしまった「チャムクィ」は、暫くは惰性で動いていたものの、やがて完全に停止してしまった。その主砲はなおも敵艦隊に向けられているが、砲口から発射炎が迸ることはない。

 そして重巡洋艦部隊の後方では、面舵を切っていたキャニス・メジャー級軽巡洋艦「フェクダ」の艦首直下から大量の海水が噴き上がり、黒い破片が八方に飛び散った。海水の柱が消えた時には、「フェクダ」の艦首は完全に吹き飛ばされてしまっている。「フェクダ」は舵の効きが間に合ったものの、自ら艦首を魚雷にぶち当てる形となったのである。

 

 最終的に、命中した魚雷の数は11本。戦果は重巡洋艦1、軽巡洋艦2、駆逐艦5の撃沈と、戦艦1の撃破である。そして数字に表れない影響もあった。グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊 第1.1任務群は、その隊列を完全に寸断され、大混乱に陥っている。

 

「大丈夫ですか、司令!?」

「うぐぅ……くそっ、奴らめ……!」

 

 魚雷を喰らった戦艦「アルニタク」の艦橋では、アスキーがデーダーを助け起こそうとしている。被雷の衝撃で座席から投げ出され、床に這いつくばるように倒れていたデーダーは、悪態を吐きながら身体を起こした。その時、

 

「敵艦隊発砲!」

 

 見張員の焦った声が飛び込んできたのである。同時に、水平線の方角に多数の赤い光が煌めいた。

 

 

 雷撃の成功を確認するや、"鳥海"は直ちに命令した。

 

「前衛及び後衛は、敵艦隊に向けて突撃開始! 本隊の直衛駆逐隊は、"能代"の指示に従って突撃してください! 私とプリンツさんは、後方から砲撃で援護します!」

 

 「鳥海」の艦橋トップとメインマストの辺りに、青白い光が煌めく。発光信号だ。

 

「目標、敵重巡洋艦2番艦! 砲戦用意……撃ち方、始め!」

 

 "鳥海"の命令が下った瞬間、万雷のような轟音と共に5基の「20.3㎝(2号)連装砲」が1番砲から初弾を撃ち出した。後続する「プリンツ・オイゲン」と「能代」も順次発砲する。両艦は、敵重巡洋艦の3番艦に狙いを定めたようだ。

 それに対して、2隻の敵重巡洋艦の艦上にも発射炎が煌めく。雷撃で混乱しながらも、撃ち返してきたようだ。

 そう来なくては、面白くない。これこそが、夜戦の面白さだ。"鳥海"の口元に人知れず、獰猛な笑みが浮かぶ。

 

「だんちゃーく、今!」

 

 砲術長妖精の報告。その瞬間、敵2番艦を挟み込むようにして5本の水柱が突き立った。

 

「初弾(きょう)()!」

「見事です! 次より斉射!」

 

 躊躇なく命令を下す"鳥海"。

 夜間の近距離の殴り合いとはいえ、実質的に観測機もレーダーも使えない中で初弾で照準を合わせるとは、大した腕前である。練度の高さが窺えるというものだ。

 

「装填よし!」

「主砲、よーく狙って……てぇーっ!」

 

 次は当てる……その強い意志を込め、"鳥海"は第1斉射を放たせた。

 

 

『全艦、突撃開始セヨ』

 

 "鳥海"からの発光信号が飛んだ瞬間、"長良"に代わって前衛部隊の指揮を執っていた"舞風"は、即座に下令した。

 

「野分はここに残って、長良さんの救助をお願い! 残る全艦は、一斉突撃用意!

島風ちゃんが先頭、2番目は私。はぎぃと嵐は私に続いて、単縦陣を形成! 取り舵90度、最大戦速、(とっ)(かん)!」

 

 命令は直ちに発光信号で伝えられ、“野分"を除く第四駆逐隊の面々は一斉に取り舵を切り、敵艦隊めがけて突進を開始する。その3隻を、40ノットの高速を叩き出す"島風"が追い抜いていった。一方、"野分"は面舵で反転すると、燃え盛る"長良"の艤装へと向かっていく。

 

「島風は、速いから!」

 

 味方すらも置き去りにして、"島風"は全速力で突っ込む。彼女に搭載された強力な「新型高温高圧缶」は、整備の難しさという難点を抱える一方で、40ノットという快速を彼女に与えていた。

 雷撃によって混乱している敵駆逐艦……吹雪(ふぶき)型駆逐艦に似たシルエットを持つその敵艦に、"島風"は狙いを定める。その敵駆逐艦は、先の雷撃によって轟沈した連中のすぐ前方を走っており、被雷した友軍艦に反応して慌てて取り舵を切ったところだった。このため、隊列から離れた状態になっていたのである。

 「島風」とグラ・バルカス帝国のキャニス・ミナー級駆逐艦、両者は反航戦で対峙する。距離はたった数千メートルしか離れておらず、撃ち合いの時間は一瞬しかない。あたかも剣士の打ち合いのようである。

 

「連装砲ちゃん、おねがーい!」

 

 やたら軽い口調の"島風"の命令。瞬間、彼女の艤装に搭載された3基の12.7㎝連装砲が()()3()0()()という有り得ないほどの超高速で旋回し、敵駆逐艦にその砲口を向けた。

 

ドドドン!

 

 ほとんど時間差を置かずに、3基の主砲が咆哮する。敵艦との距離は数千メートルという近距離であり、砲弾にとってはあっという間にひととびできる距離であった。

 敵駆逐艦に殺到した6発の砲弾は、なんと初弾から4発命中というとんでもない命中率を叩き出した。大きく炎上しながらも、敵駆逐艦も撃ち返す。しかし、40ノットという経験したことのない速度で走る相手に当てられず、弾着の水柱は全て「島風」の後方に上がった。

 

「にひひー、あなたって遅いのね!」

 

 "島風"の台詞と共に、()()1().()5()()で装填を終えた3基の主砲が再度発砲する。発射された6発の弾は、全弾が吸い込まれるようにして敵駆逐艦に命中。その瞬間、敵駆逐艦はものすごい勢いで爆発し、黒々とした破片を空高く投げ上げた。"島風"の撃った砲弾が魚雷発射管を直撃し、装填されていた魚雷がいっぺんに誘爆したのだ。

 2番発射管に装填されていた空気式魚雷が誘爆し、“島風”が対峙していた相手……キャニス・ミナー級駆逐艦「ウルサ・ミナー」は艦体後部に炎を背負ったような姿に(へん)(ぼう)する。どう()()いても助からない、致命傷である……というより、既に真っ二つとなって沈没しつつある。

 

「おっそーい!」

 

 魚雷の誘爆を確認するや、相手の断末魔には全く頓着せず、"島風"は華麗な右ドリフトを決める。そして、たった今撃沈した敵駆逐艦の前方で右往左往している別の駆逐艦に狙いを定めた。

 

「速いでしょ? ついて来れる〜?」

 

 彼女はまだまだ殺る気であった。

 

 ちなみに、何故彼女の主砲がここまでオーバースペックなのか疑問に思った方もいらっしゃると思うので、ここで解説する。

 "島風"を含む一部の駆逐艦娘は、妖精さんたちが操る艤装とは異なる特殊な艤装を有している。それが、半自律型艤装ユニットだ。これは簡単に説明すると「1個の主砲塔が自律意志を持って動いており、基本的に主となる艦娘の命令に従って動くものの、ある程度の自由裁量が認められている艤装」となる。

 こうした半自律型艤装ユニットは、駆逐艦娘によって「連装砲ちゃん」とか「連装砲くん」と呼ばれる。この艤装ユニットを運用しているのは(あき)(づき)型の面々と"島風"、そして"天津風"だけだ。

 これらの艤装ユニットは、妖精たちが操る機械ではない。言わば「1つの機械が、あたかも生物のように自由意志を持って動いている」のである。そのため、秒間30度で砲塔旋回するとか、1.5秒で次弾装填できるとかの、第二次世界大戦レベルでは考えられないオーバースペックを発揮できるのだ。

 余談だが、秋月型の半自律型艤装ユニットは本気を出せば、砲塔旋回角度が秒間50度に達するとか、1分間に40発射撃できるとかのとんでもない性能を…はっきり言えば、イージス護衛艦の127㎜単装速射砲顔負けの性能を発揮できる。ただ、それをやってしまうと砲身内腔のライフリングがゴリゴリ削れて速攻で砲身命数が尽きてしまう上に、そもそもイージス艦の速射砲のような強固な放熱機構を持たないので、砲身が裂けて花が咲く事態になるだろうが。

 

 

 "島風"が敵駆逐艦を1隻仕留めた時、"舞風"、"萩風"、"嵐"の3隻はようやく敵の隊列に肉薄した。

 彼女たちの右前方には、合計3隻の敵駆逐艦がいる。周囲の火災炎に浮かび上がるシルエットから見て、どうやら自分たちと同型らしい。

 

「それ、ワン・ツー!」

「撃ち方、始め!」

「さあ、やってやるぜ! 嵐巻き起こせ!」

 

 号令一下、12.7㎝連装砲が咆哮を放つ。それと前後して、相手方も撃ってきた。

 高速で互いに接近する両艦隊。交戦形態は反航戦であり、従って一瞬のうちに勝負を決めなければならない。と、その時、両者の初弾が着弾した。そして、

 

「くそっ、やられたっ!」

 

 "嵐"の悔しげな声。不運にも初弾から直撃を喰らい、その上火災が発生してしまったのだ。こうなれば格好の的にしかならない。……だが、ただでやられるつもりは、彼女には毛頭なかった。

 

「天下の第四駆逐隊、まかり通る! てぇっ!」

 

 独自の判断で、"嵐"は発射管に装填されていた魚雷を全てばらまいた。どうせ大きな被害を負っては魚雷は撃てないし、誘爆の原因にもなる危険物であるため、今のうちに有効活用しようとしたのだ。

 火災炎という格好の目標を得たグラ・バルカス帝国の駆逐艦隊が、「嵐」に砲火を集中させる。そうはさせじと、"舞風"と"萩風"も撃ち返す。その時、"萩風"が"嵐"から発光信号を受け取った。

 

『我ヲ顧ミズ前進、敵ヲ撃滅サレタシ』

 

 この電文がリレー形式で"舞風"に伝達された時、彼女たちの前方で巨大な砲声が轟いた。

 魚雷を受けて脚を止められ、沈みゆく敵の駆逐艦たち。その向こうで、敵の戦艦が「鳥海」を狙って発射炎を閃かせている。さっき魚雷を2本喰らった筈なのに、まだ戦う力を残しているのか。

 "舞風"は即決し、"萩風"に発光信号を送る。

 

『右魚雷戦用意。目標、右反航の敵戦艦』

 

 2隻の陽炎型駆逐艦は、すれ違いざまに敵駆逐艦の1隻に集中砲火を浴びせた。10発近い直撃弾を受けた敵駆逐艦は大きく炎上する。あの様子では、もう戦えたものではあるまい。それに、"嵐"が魚雷を撃っているし。

 "舞風"と"萩風"は、敵戦艦に向けて突撃していった。

 

 一方、その場に残った"嵐"だが、

 

「くそっ、厳しいな……」

 

 2対1という状況の前に悪戦苦闘していた。

 彼女は既に5発もの直撃弾を受け、第1砲塔が大破して砲撃不能となっている。それに対して、敵の2隻の駆逐艦は大きな被害は受けていないらしい。

 

(くそっ、だが……今だ!)

 

 "嵐"が念じたその時、大音響と共に敵駆逐艦の1隻が、巨大な水柱を突き立てられた。彼女の放った魚雷が命中したのだ。

 至近距離から酸素魚雷の直撃を受け、敵の1隻はかちかち山の狸のような姿になった。だが、1隻は健在である。

 

「まずい……!」

 

 "嵐"が呟いた時、どこからか砲弾が飛んできて敵駆逐艦の至近に落下した。水柱の大きさから考えて、おそらく駆逐艦クラスの砲撃だ。

 

(どこからだ……?)

 

 彼女が一瞬そう考えた時、

 

「おっそーい!」

 

 闇の中から、答えが返ってきた。そう、"島風"である。単独で敵駆逐艦を2隻撃沈し、全速力でこちらに向かってきたようだ。

 

「ようし、ならもう一丁やるか!」

 

 心強い援軍の到着に、"嵐"も覚悟を決め直した。

 

 

 前衛のメンバーが頑張っている一方で、後衛の面々も突撃を開始している。

 

「二水戦、突撃します。私に続いて!」

 

 全速で突撃する"神通"、その後ろに第一六駆逐隊が続く。"能代"は敵の重巡洋艦に1発砲撃を浴びせた後、第一八駆逐隊を率いて突撃を開始していた。

 狙うは敵の水雷戦隊。相手のほうが数が多いから、目標には困らない。

 

「よく、狙って……!」

 

 その一言と共に、"神通"はこの日最初の砲撃を放った。目標としたのは敵の軽巡洋艦の1隻。自分とそっくりの形をした艦だ。

 後続する"初風"以下の面々も砲撃を開始したらしく、太鼓を連打するような音が聞こえて来る。もちろん敵も黙ってはおらず、撃ち返してきた。

 と、敵艦隊の上空に星のような光が出現する。誰かが「照明弾」を撃ったらしい。そういえば"時津風"が「照明弾」を積んで来ていたんだったか。

 

「ありがたいですね。これで、照準に困りません」

 

 気の利く仲間をありがたく感じながら、"神通"は闘志を固める。

 

「さあ……行きましょう!」

 

 

 そして"能代"も、別の意味で覚悟を決めていた。

 彼女の前にいるのは、自分の生き写しであるかのようなシルエットを持つ敵巡洋艦。しかもどうやら腕が良いらしく、既に彼女は2発の直撃弾を受けていた。ならば、どんなことをしても倒すのみ。

 

「全員、突っ込んで! 行くよ……探照灯、照射!」

 

 "能代"のその号令と共に、眩いばかりの線状の光が輝き、敵の巡洋艦を照らし出した。「探照灯」である。

 

「てー!」

 

 第一八駆逐隊の面々が敵の巡洋艦に向けて砲撃を開始したのと同時、"能代"は残っていた酸素魚雷を全て発射した。探照灯を点けた以上、どうせ大被害は免れない。なら、少しでも有効に使うほうが良い。

 闇を貫いた眩い光、その光源たる「能代」めがけて敵巡洋艦と駆逐艦の砲弾が殺到する。たちまちのうちに、彼女は数発の直撃弾を受けた。だが、敵巡洋艦の砲弾はともかくとして駆逐艦の砲撃なら、ある程度は耐えられる。

 

「二水戦の能代、甘く見ないでよ……!」

 

 軽巡洋艦の中では恵まれたスペックを持つ()()()型が、こんな敵相手に負けてはならない。絶対に勝つ。その気合で、“能代”は「探照灯」の照射と攻撃を続けた。

 

 

 

 ……そして、40分に渡る大乱戦の果て、ついに夜戦に決着がついた。

 "嵐"は大破して艤装放棄することになったものの、"島風"と共同で敵駆逐艦1隻を撃沈。"舞風"と"萩風"は戦艦「アルニタク」に向けて魚雷を放ち、4本を命中させて「アルニタク」を撃沈した。第1.1任務群司令デーダーと「アルニタク」艦長アスキーは、艦と運命を共にした。

 "鳥海"は3発の直撃弾を喰らいながらも、火力に物を言わせてタウルス級重巡洋艦1隻を撃沈。"Prinz Eugen"も1発命中弾を受けたが、「SKC34 20.3㎝連装砲」の近距離における集弾率の高さを生かしてタウルス級1隻を仕留めた。

 二水戦は、探照灯を照射して敵の攻撃を一身に引き受けた"“能代”と、駆逐艦"時津風""陽炎"が大破。この3人は艤装放棄を余儀なくされた。それと引き換えに、グラ・バルカス帝国の軽巡洋艦2隻を撃沈(1隻は"能代"がばら撒いた酸素魚雷で撃沈したもの)し、駆逐艦3隻を撃沈破した。

 

 最終的に、ロデニウス第13艦隊「ポップスター」の被害は、軽巡“長良”“能代”と駆逐艦"嵐""陽炎""時津風"が艤装放棄を余儀なくされ、駆逐艦“霰”“不知火”中破、その他砲戦に参加した全艦艇(「長良」の救助にあたっていた「野分」及び1隻を除く)が小破、もしくは小破未満の損傷を受けた。なお、あの砲戦に参加したのに被害を受けなかった1隻というのは、他ならぬ“雪風”である。天下の豪運艦は伊達ではなかった。

 その一方、グラ・バルカス帝国海軍 第1.1任務群の被害はというと、戦艦1、重巡洋艦3、軽巡洋艦4、駆逐艦11隻を喪失し、駆逐艦2隻が損傷している。ロデニウス側の圧勝であった。

 戦闘開始時はグラ・バルカス帝国側が優勢に立っていたのだが、「40式魔導酸素魚雷改」というグラ・バルカス帝国側の想像もしない兵器によって、第1.1任務群は大混乱に陥った。そして、混乱と回避運動によって艦列が乱れた所に吶喊し、分断された敵を各個撃破したロデニウス艦隊に、軍配が上がったのである。

 

 その後、夜戦を戦った両部隊は、それぞれの本隊に合流した。

 ロデニウス連合王国海軍第13艦隊は、夜戦において輝かしい勝利を得たことで沸き立った。戦艦1隻、重巡洋艦3隻を含む多数の艦艇を撃沈したのだ。これは、明朝の艦隊決戦において非常に有効な要素となる。敵との戦力差が縮まるからだ。

 また、「40式魔導酸素魚雷改」の有効性を実証できたことや、艤装放棄こそあったものの艦娘が誰1人欠けることなく帰還してきたこと、グラ・バルカス帝国側に相当な心理的打撃を与えられただろうことも大きかった。司令官の堺は、夜戦に参加した「ポップスター」の面々を讃えると共に、明朝の艦隊決戦に備えて十分休むよう指示した。

 一方で、グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊司令部には激震が走っていた。レーダーが使えない状況下での夜戦だったとはいえ、栄えある帝国海軍が()(へい)相手に敗れたからだ。それも、交戦した部隊はほとんど全滅に近い被害を受けて帰ってきたのである。

 第1.1任務群のうち本隊に合流できたのは、僅かに駆逐艦9隻のみ。任務群旗艦を務めていたオリオン級戦艦「アルニタク」は撃沈され、艦隊司令デーダー少将以下の幕僚たちは全員が未帰還。タウルス級重巡洋艦3隻もことごとく沈められ、1隻も生還できなかった。こんなことは、演習以外では史上初めてのことである。

 そして、敵が使ってきた魚雷というのが、大きな脅威となっていた。何せ有効射程が1万メートルもあり、その上タウルス級重巡洋艦ですら一撃で撃沈するだけの威力を持っているのである。はっきり言って、敵の魚雷はグラ・バルカス帝国製の魚雷よりも性能が高い。

 

(我々は……何を敵に回したというのだ……?)

 

 旗艦「ブラックホール」の艦橋で、艦隊司令カイザルは自問していた。

 

 

 ともかくこうして、夜戦は終わった。

 そして日の出を期して、両軍はいよいよ艦隊決戦へと突入する……!




というわけで、第二ラウンドたる夜戦でも第13艦隊が勝利を収めました。戦艦だろうと数本で仕留められる、という触れ込み通りの威力を発揮した酸素魚雷、そしてそれを用いた遠距離水雷夜戦が有効に働いた結果でした。


UA85万突破……! いつもご愛読ありがとうございます!!
今年も残り少なくなってまいりましたが、どうか拙作を最後までよろしくお願い申し上げます。

評価8をくださいましたモギュ様
評価10をくださいましたミッターマイヤー様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

第二ラウンドたる夜戦でも勝利を収め、止めを差さんとするロデニウス海軍第13艦隊。航空戦、夜戦と立て続けに敗北し、艦隊砲戦による乾坤一擲の勝負に出るグラ・バルカス海軍東部方面艦隊。夜明けの海に、両軍は艦隊決戦で決着をつける!
次回「激突! 第二次バルチスタ沖大海戦!(six)」

さあ、次回いよいよ艦隊決戦です! 大日本帝国海軍なら、艦隊決戦やらずして何とする!
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