鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、ついにやってまいりました、艦隊決戦です! 艦隊決戦やらずして、何が日本海軍か!

あと、今回の艦隊決戦ですが、あるクラシック音楽をBGMにすることを推奨します。どの曲を選択すれば良いのかについてのヒントは、本文中の艦隊決戦が始まる直前の場面に隠されておりますので、探してみてくださいませ。



151. 激突! 第二次バルチスタ沖大海戦!(six)

 日付が変わって、中央暦1643年6月1日 午前5時30分、ムー大陸南西方 バルチスタ海域。

 ムー大陸の西岸から200㎞も離れており、ムー大陸からの目視では到底目にすることができない海域。朝日が照らすその海を、100隻にも迫らんとする多数の鋼鉄製の艦艇が、煙突から黒煙をたなびかせて北上していた。大西洋(だいせいよう)の波荒き海面を切り裂き、威風堂々たる姿を見せつけながら北に向かって(ばく)(しん)している。マストには八条の光線を放つ赤い太陽を描いた白地の旗……(きょく)(じつ)()と、ロデニウス連合王国の国旗が(ひるがえ)っていた。

 これはロデニウス連合王国海軍第13艦隊・ムー派遣部隊である。昨日の空母機動部隊同士の航空戦により被害を受けはしたものの、水上砲戦の主力となる戦艦や巡洋艦は多くが健在であった。

 そして、彼らが対峙している相手……グラ・バルカス帝国艦隊も同じ状態だと考えられた。昨日の戦いではもっぱら航空母艦を狙っての攻撃しかしておらず、戦艦や巡洋艦は大半が健在だろうと見られている。そこで、前時代的であることは承知の上で洋上艦隊決戦を行い、敵艦隊を完全に粉砕して制海権を取り戻そうとしているのである。

 白波を蹴立て、24ノットの速力で航進するロデニウス海軍第13艦隊。昨日、陽が暮れると同時に一旦反転して全速力で南下し、夜戦を避けるべく敵艦隊と距離を取っていたのだが、夜明け前に再反転して敵艦隊を捕捉せんとしているのである。

 既に暗号「ベノムへ突入せよ」が発光信号にて送られており、艦隊の再編成は完了していた。これは、「最終決戦の時近し。全艦備えよ」という意味を持つ暗号である。ちなみに元ネタは「ス◯ーフォックス64」だ。惑星ベノムへと突入し、悪の科学者アンドルフとの決戦へ向かうプレイヤーチームが元ネタになっている。

 各分艦隊は既に解散しており、航空母艦や「釧路」のような後方支援艦は護衛に当たる軽巡洋艦や駆逐艦と共に後退している。艦隊決戦の主役となる戦艦は、鋭い槍を思わせる単縦陣を組み、真一文字に北へと向かっている。その周囲に駆逐艦や巡洋艦が展開し、会敵に備えると共に敵の潜水艦に目を光らせていた。

 

 夜の間に仮眠を取っていた、艦隊司令官の(さかい) (しゅう)(いち)中将と“(なが)()”の姿は、既に旗艦「長門」の艦橋基部にある戦闘情報室(CIC)にある。窓がないので外部を直接目視で確認することはできないが、だからこそ最も安全なこの場所で、彼らは指揮を執っているのだ。

 緊張感でCIC内の雰囲気が張り詰める中、“長門”が堺に報告する。

 

「提督よ、索敵機から報告が入った。現時点で敵艦隊との距離は約47㎞。間もなく、艦橋から敵艦のマストが見えるはずだ」

 

 戦場一帯を襲った電波障害は、夜の間に回復していた。そのため、レーダーの使用や各艦との無線通信も可能になっていた。

 

「了解。どうやら敵さんは、俺が考えていた通りに動いたらしいな……。敵の指揮官は優秀な方だから、制空権をこっちに握られた現状、夜戦を仕掛けてくる可能性は高いと思ってたんだが、当たりだったな。

さて長門、総員起こしはかかってるか?」

「提督よ、それは愚問というものだ。既に全艦に総員起こしがかかっている」

「優秀な仲間がいると助かるよ。……全艦に通達、無線封鎖解除。空母部隊には戦闘機をこっちに()()すよう言ってくれ。こっちの観測機を守らなきゃならんからな」

「了解だ。無線封鎖の解除を通達し、空母部隊に戦闘機による上空援護機を要請する」

 

 決戦の時は、刻一刻と近付いていた。

 

 

 十数分が経過した時、「長門」CICに艦橋からの報告が飛び込んだ。

 

『艦橋より指揮所。水平線上にマスト見ゆ。本艦隊よりの方位345度、距離フタナナマル(27,000メートル)、数3!』

 

 前後して、艦隊の先頭に立つ「()(さし)」からも、同じ報告が舞い込んできた。

 

「いよいよだな」

「ああ。お出ましのようだ」

 

 堺と“長門”は、互いに頷きあった。

 

「長門、無線機を貸してくれ。全艦に通信を繋げてほしい」

「心得た」

 

 単簡な返事をした後、少しして“長門”は彼に電話の子機のような機械を手渡してきた。

 

「どうぞ、提督」

「ありがとう」

 

 通信機を受け取り、堺はプレストークボタンを押して声を張り上げた。

 

「提督の堺だ、全艦に告ぐ。

我々はこれより、グラ・バルカス帝国艦隊との艦隊決戦に突入する。本戦いの行く末には、我が泊地の、我が国の、第二文明圏の、そして世界の命運がかかっている。絶対に負けられない戦いだ。

だが、諸君の力と私の指揮を合わせ、諸君が猛訓練で培った全ての力を出し切って戦えばきっと勝てると、私は信じている。(てん)(ゆう)を確信し、全艦突撃せよ。以上だ。健闘を祈る(グッド・ラック)

 

 この演説は、スピーチ嫌いの堺としては長いほうではなかろうか?

 堺が演説をしている間にも、敵艦隊は続々と姿を現しつつある。「長門」艦橋でも、敵戦艦の並びが見えるようになってきた。

 

「先頭はニセ大和(やまと)型、その後ろに3隻以上のニセ長門型、後はニセ(こん)(ごう)型がずらり、か。定石通りだな」

 

 艦橋からの報告を聞いた堺はそう言って、“長門”に次の指示を出した。

 

「全艦に通達しろ。『全艦戦闘配備、砲雷撃戦用意』!」

「心得た。合戦準備、(ちゅう)(せん)に備え!」

 

 本来であれば、ここでの指示は「砲雷同時戦用意」が正しいのだが、堺は「砲雷撃戦用意」という言い方を好んで使用している。

 続いて堺は、ある重要な意味を持つ命令を出した。

 

「Z旗(いち)(りゅう)!」

「了解、Z旗一旒」

 

 “長門”の復唱。そして「長門」のマストに黄黒赤青の4色で構成された旗が翻された。

 

 Z旗。それは地球において船舶が使用する信号旗の一種である。商船がこの旗を使用すれば「私はタグボートが欲しい」という意味であり、漁船がこの旗を掲げていれば「私は投網中である」という意味になる。だが、海戦の直前に掲げられるこの旗は、普段とは異なる特別な意味を持つ。それが、「皇国の興廃この一戦に在り、各員一層奮励努力せよ」という意味だ。

 史実においてこの旗をこの意味で最初に掲揚したのは、かの戦艦「()(かさ)」だとされている。日露戦争における最大の海上決戦となった「日本海海戦」の折に、この旗を掲げて戦ったのだ。この他にも真珠湾攻撃時の航空母艦「(あか)()」、マリアナ沖海戦時の航空母艦「(たい)(ほう)」、そして沖縄へ特攻出撃する戦艦「大和」もこの旗を掲げたとされている。その重要な意味を持つ旗が今、「長門」に掲げられたのだ。

 え? Z旗を掲げた船はもれなく沈没してるから、Z旗は最恐の死亡フラグ? ……それは言っちゃダメ。

 

『航海艦橋より戦闘情報室(ブレイン)、判明せる敵数は戦艦12、巡洋艦15、駆逐艦50以上!』

「まずいな、敵の駆逐艦の数が多い」

 

 報告を聞き、堺は即断した。そして無線で全艦に命じる。

 

「重巡洋艦と水雷戦隊は、敵水雷戦隊を全力で食い止めろ。どんな手を使っても構わん。

ではこれより、戦艦諸君の目標割り振りを発表する!」

 

 この一言で、無線の向こう側の雰囲気がぴーんと張り詰めたように感じられた。

 

「武蔵目標、敵1番艦! グレードアトラスター級が相手だ、全力で行け!」

『了解だ相棒よ! この(いくさ)、武蔵に任せてもらおうか!』

 

 無線からは“武蔵”の強気な声が返ってくる。武人気質の彼女のことだ、今頃両腕を組んで武者震いでもしているに違いない。

 彼女は改二になって初めての実戦だ。超大和型戦艦レベルの性能となった彼女の力は、この戦いを左右する重大な要素となることは間違いない。是非とも頑張ってもらいたいものである。

 

「アイオワ目標、敵2番艦!」

『OK! まだまだbattleshipの時代は終わらないわ。見てなさい!』

 

 いかにもなアメリカン娘気質である“Iowa”だが、彼女にはガッツがある。やる時はやる娘なのだ。

 また、彼女の主砲である「16inch三連装砲 Mk.7+GFCS」は砲身長50口径と長砲身であり、その上「ビスマルク」の主砲には及ばないものの速射性も高い。しかも超重徹甲弾(スーパーヘビーシェル)を使えば46㎝砲にも劣らない破壊力を発揮できる。新たに搭載した「ハープーン」や「トマホーク」といったミサイル群もあって、頼もしい主戦力の一角である。

 

「長門目標、敵3番艦!」

「了解した。艦隊、この長門に続け!」

 

 改二艤装での初実戦だが、“長門”の戦意は高いようだ。頼もしい限りである。

 

()()目標、敵4番艦!」

『私の出番ね。いいわ、やってあげる!』

 

 “長門”の妹“陸奥”もまた、戦意は十分なようだ。

 

()(そう)目標、敵5番艦! (やま)(しろ)目標、敵6番艦!」

『承知しました。山城、行くわよ』

『ええ、姉様! これで、欠陥戦艦とは言わせないし……!』

 

 「不幸型」とか言われることの多い扶桑型だが、彼女たちも改二になっている。41㎝砲10門の火力もある、十分戦えるはずだ。

 

「金剛目標、敵7番艦!」

『Yes! 私の実力、見せてあげるネー!』

 

 タウイタウイ泊地では“()()”や"大和"と並んで最精鋭クラスの戦艦である“金剛”には、堺も信頼を置くところが大きい。

 

()(えい)目標、敵8番艦!」

『気合い、入れて、いきます!』

 

 いつも気合十分の“比叡”だが、(から)()ることがあるのが玉に(きず)だ。堺としては、今回も空振らなければ良いが、と願わずにはいられない。

 

(はる)()目標、敵9番艦!」

『勝利を! 提督に!』

 

 金剛型姉妹では最後に着任した“榛名”だが、その彼女も今や精鋭の1人だ。純粋な火力では他の姉妹3人に一歩を譲るが、「35.6㎝連装砲(ダズル迷彩)」の性能と高い練度による砲撃命中精度でそれを補ってくれるだろう。

 

(きり)(しま)目標、敵10番艦!」

『了解しました! 敵艦捕捉、射撃諸元算出に入ります!』

 

 “霧島”は早くも、戦闘態勢に入ったようだ。「艦隊の頭脳(インテリヤ◯ザ)」を自称する彼女らしいと言えるだろう。

 

「ビスマルク目標、敵11番艦!」

Jawohl(ヤヴォール)! この私、ビスマルクに任せておきなさい!』

 

 普段の言動から「でかい(あかつき)」とか呼ばれることもある“Bismarck”だが、彼女だって改二(ツヴァイ)、いや改三(ドライ)になっており、練度・性能とも十分だ。それに加えて、彼女の搭載する「38㎝連装砲改」はとんでもない速射性能を誇る。なんと18秒/発だ。他の戦艦が40秒/発(「武蔵」のみ50秒/発)、「アイオワ」でも30秒/発なのに、これは恐るべき速射性能と言える。1分間に最大3斉射できるという芸当は、彼女以外にはどの戦艦にも努められない。その凄まじい単位時間あたりの火力投射量を以て、彼女は多いに暴れてくれることだろう。期待大である。

 

「赤城目標、敵12番艦!」

『了解しました。戦艦空母赤城、参ります!』

 

 改二改造を受けたことで、唯一の艦種である「戦艦空母」となった“赤城”。彼女が搭載する主砲は「45口径35.6㎝三連装KSK砲」だ。その火力は凄まじく、対20インチ砲防御装甲だろうと問題なく貫徹することができる。つまり、超大和型戦艦だろうと正面から相手できるのだ。“赤城”はこの砲を三連装4基、計12門も装備しており、全戦艦中ぶっちぎり1位の火力を誇っている。彼女の練度の高さも(あい)()って、堺としてもこの火力には期待大である。

 

「全艦、観測機発進せよ」

 

 一気に騒がしくなった「長門」CICにて、堺は忙しく指示を飛ばした。

 

 

 その一方、グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊司令部にも緊張が走っていた。

 

「敵艦隊との予想接触時間は?」

「会敵まで約6分!」

「よし、全艦総力戦用意!」

 

 旗艦「ブラックホール」艦橋にて、幹部から報告を受けた司令長官カイザル・ローランド大将は命令を下した。

 

「まさか、前時代的な艦隊決戦で雌雄を決することになるとはな。そして夜明けまでに追いつくことは叶わなかったか……」

 

 その後、カイザルは沈痛な表情でそう呟く。彼の目論見は敵に読まれていたらしく、夜のうちに会敵することはついに叶わなかったのだ。昼戦となれば敵が制空権を握っている以上、グラ・バルカス帝国側の不利は否めない。

 現在の東部方面艦隊の布陣は、12隻の戦艦が一列縦陣に並んでおり、その周囲を巡洋艦や駆逐艦が固めている。戦艦の艦列は、先頭がグレードアトラスター級の「ブラックホール」、その後ろがヘルクレス級の「マルジック」「マシム」「クヤム」「ジメルトリオス」「リギル」。そしてそのさらに後ろに、オリオン級の「ベラトリックス」「サイフ」「トリスタン」「ミンタカ」「タビト」「バーナードループ」が続いている。

 

「旗艦より全艦、対水上戦闘用意!」

「長官、観測機は発進後、艦隊の上空に留めてはいかがでしょうか?」

 

 カイザルが指示を出したところへ、参謀長のマルクル・ヘルメス准将が意見具申した。

 

「艦隊の上空に留めるだと?」

「はい。観測機無しでは、レーダーがあっても砲撃命中率の大幅な低下は避けられません。しかし、敵艦隊の上空に張り付けることができなくても、艦隊上空でも弾着観測はできると考えます」

 

 一瞬だけ考え、カイザルは決断した。

 

「よかろう、(けい)の具申を容れる。

全艦に命令。観測機は発進後、艦隊上空に留まれ!」

 

 カイザルが命令を下した時、

 

「後方より、友軍戦闘機隊!」

「敵艦隊上空に航空機多数。敵の弾着観測機と護衛戦闘機のようです!」

 

 2つの報告が同時に入った。

 艦橋の窓から外を見ると、報告された通り敵艦隊の上空にゴマを撒いたような黒点がいくつも飛んでいる。

 

(敵も、我々と同じことを考えたか)

 

 そう思いつつ、カイザルは己を鼓舞するようにひとりごちた。

 

「まだ敗北と決まった訳ではない。最後に恃みとするのは、戦艦の火力と優れたレーダー、そして鍛えた乗組員の練度のみ!」

 

 そう言うカイザルであるが……実はこの時、彼はもちろんのこと、ヘルメスら幕僚たちも気付いていないことがあった。

 実は、戦艦同士の戦いにおいてはグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊が不利なのである。なぜそう言い切れるのかって? では、順番に説明させていただこう。

 

ブラックホール 対 武蔵…「ブラックホール」は砲門数は9対6と相手より多く、速射性も相手を上回っている。しかし、"武蔵"は改二改造によって超大和型仕様となっており、主砲は51㎝連装砲に変化している。故に、「ブラックホール」はたとえ最重要区画装甲(バイタルパート)であろうと問答無用で貫徹される危険がある。総合的には互角、または"武蔵"がやや有利というところか。

マルジック 対 アイオワ…双方とも41㎝砲を搭載しており、防御力も互角であるが、砲門数は8対9で「アイオワ」のほうが多い。しかも「アイオワ」の主砲は50口径砲であり、「マルジック」の45口径砲より貫徹力が高く、速射性でも相手を凌駕する。おまけに「アイオワ」の主砲は、超重徹甲弾(スーパーヘビーシェル)を使えば46㎝砲に匹敵する破壊力を叩き出す。したがって、「ハープーン」や「トマホーク」といったミサイル群を抜きにして考えても、総合的に「アイオワ」が有利。

マシム 対 長門…共に45口径41㎝砲を搭載し、防御力も速射性も互角だが、砲門数は8対10で「長門」が上である。総合的に、「長門」がやや有利か。

クヤム 対 陸奥…総合性能はほぼ完全に互角。後は、乗組員の練度と…運のツキ次第である。運も実力のうち、というのだから。

ジメルトリオス 対 扶桑…砲はどちらも45口径41㎝砲で、速射性も互角。防御力は「ジメルトリオス」が上、ただし砲門数は8対10で「扶桑」が上である。総合的には互角というところ。リギル 対 山城の対面も、同じことが言える。

ベラトリックス 対 金剛…防御力はほぼ互角、砲門数も速射性も互角。ただし、35.6㎝砲 対 41㎝砲の試合になるので、総合火力では完全に「金剛」が有利である。サイフ 対 比叡、ミンタカ 対 霧島についても、同じことが言える。

トリスタン 対 榛名…総合性能はほぼ完全に互角。後は、乗組員の練度と運のツキ次第である。

タビト 対 ビスマルク…砲門数は互角。ただし、35.6㎝砲 対 38㎝砲の試合である。また、「ビスマルク」の主砲は18秒/発という凄まじい速射性を有し、これは「タビト」の主砲の倍以上の発射レートである。防御力でも「ビスマルク」が勝っており、総合的に「ビスマルク」有利である。

バーナードループ 対 赤城…単純な防御力では「バーナードループ」が上。しかし、それ以外の性能、つまり砲火力、砲門数、速射性などのあらゆる性能で「赤城」が相手を圧倒している。また、KSK砲の貫徹力には「バーナードループ」のバイタルパートでも耐えられない。よって、総合的には「赤城」が有利である。

 

 お分かりいただけただろうか。

 つまり、戦艦同士の砲戦に関しては、グラ・バルカス艦隊が劣勢なのである。水雷戦隊なら、数で上回るグラ・バルカス艦隊に有利がある……と思いきや、重巡洋艦の数で相手に負けている(11対7)ため、厳しい戦いを覚悟しなくてはならない。

 要するに、グラ・バルカス艦隊が簡単に勝てる状況ではないのである。

 

「観測機、発進しました!」

「敵艦隊、当艦隊よりの方位330度、距離20㎞まで接近!」

 

 いよいよ、決戦が始まろうとしていた。その時、

 

「敵艦隊、左一斉回頭!」

 

 新たな報告が飛び込んだ。

 カイザルが艦橋の窓から外を見ると、敵艦隊の先頭に立つグレードアトラスター級戦艦が艦首を左に振ったところだった。それに続き、後続する敵の戦艦や巡洋艦、駆逐艦も、次々と艦首を左に振り、こちらに右舷を見せる。こちらの頭を押さえ、全力砲撃を浴びせようという魂胆らしい。

 

「こっちの頭を押さえる気か。だがそうは行かんぞ。

全艦、右一斉回頭! 左並行戦で敵艦隊を撃滅する!」

「はっ!」

 

 敵の意図を察し、その挑戦に応えるべくカイザルは号令をかけた。

 東部方面艦隊の全戦艦が一斉に艦首を右に振り、敵艦隊と同じ方向に進み始める。ロデニウス連合王国海軍第13艦隊とグラ・バルカス帝国東部方面艦隊、両者は20㎞の距離を隔てて戦いを始めることとなる。グラ・バルカス流に言うなら「並行戦」、ロデニウス流(日本流)に言うなら「同航戦」である。

 

「水雷戦隊は、敵艦隊に向けて突撃! 敵戦艦に肉薄し、魚雷攻撃を行え! 重巡洋艦は、水雷戦隊の突撃を援護せよ!」

 

 水平線付近に見える敵艦隊を睨み据え、カイザルは次の指示を出す。待機していた巡洋艦や駆逐艦が、一斉にロデニウス艦隊めがけて動き出した。それに対してロデニウス側も、応戦の構えを見せる。

 そしてついに、双方の砲門が開かれた。

 

「この武蔵の主砲は、()()ではない! 行くぞーっ!」

「交互射撃、撃ち方始め!」

 

 "武蔵"と「ブラックホール」艦長セスドール・ベルテクス大佐の号令。それが、開戦のゴングだった。

 両軍の先頭に立つ「武蔵」と「ブラックホール」、両艦の主砲から強烈な発射炎が迸り、轟然たる砲声が朝の大気を激しく震わせる。それを皮切りに、双方の戦艦が撃ち合いを開始したのだ。

 

「陸奥、撃ち方始めました。扶桑、山城、撃ち方始めました!」

「三戦隊各艦、撃ち方始めました。ビスマルク、赤城、撃ち方始めました!」

 

 戦艦「長門」CICに次々と舞い込む報告に、堺は黙って頷くのみである。

 戦艦同士が砲撃戦を始めたのと時を同じくして、グラ・バルカス艦隊の水雷戦隊はロデニウス艦隊に突撃し、戦艦に魚雷を見舞おうとする。ロデニウス側はそれを阻止せんとして水雷戦隊を展開させ、早くも激しい砲火が飛び交っていた。

 

「阿賀野の本領、発揮するからね!」

「今度はよく引き付けるんだ……よし、てぇっ!」

「撃ちたかったんだぁ♪ てぇ♪」

「弾幕が薄い……ような気がします。弾幕です!」

「ガンガン撃ってー! 長10㎝砲ちゃん、頑張って!」

「敵は多いぞ……。砲撃戦用意、行くぞ!」

 

 最初にグラ・バルカス水雷戦隊を迎え撃つのは、()()()型軽巡洋艦の“阿賀野”、“()(はぎ)”、“(さか)()”、そして(あき)(づき)型駆逐艦の“秋月”、“(てる)(づき)”、“(はつ)(づき)”である。特に秋月型は「長10㎝砲ちゃん」の性能をフル活用して正確な砲撃を見舞い、次々と敵駆逐艦を撃ち倒していた。

 戦闘が始まってから5分程度しか経たない間に、彼女たちは早くも戦果を上げている。既にレオ級軽巡洋艦「デネボラ」が"阿賀野"と"矢矧"の集中砲火を浴びて上部構造物の大半を破壊され、戦闘能力を喪失しているし、キャニス・ミナー級駆逐艦3隻とエクレウス級駆逐艦1隻が波間に姿を消している。九八式65口径10㎝連装高角砲8門の数の暴力に抗えなかったのだ。

 この彼女たちの守りを突破したとしても、まだまだ駆逐艦や巡洋艦の数は多い。その中を切り抜けていかなければならず、グラ・バルカス側水雷戦隊は次々と被害を出していた。

 水雷戦隊の突撃を援護するはずの重巡洋艦はというと、こちらもロデニウスの重巡洋艦部隊との交戦に(ぼう)(さつ)されてしまっている。グラ・バルカス艦隊はまだ7隻のタウルス級重巡洋艦を有しているのだが、ロデニウス側は(たか)()型4隻、ザラ級2隻、「()()」と「プリンツ・オイゲン」の艦列を敷き並べて応戦してきたのだ。

 

「主砲、右方の敵艦に指向。撃ち方、始め! 沈みなさい!」

 

 重巡洋艦「ザラ」の艦橋では、艦長たる艦娘"Zara due"が号令をかけている。これまであまり活躍の機会がなかったザラ級だが、今や彼女は砲火力と重装甲を生かして八面六臂の活躍をしていた。彼女は2発の至近弾を受けながらも、相手となるタウルス級重巡「マイア」に2発の砲弾を命中させ、既に相手は火災を起こしている。「巡洋艦同士の昼間水上砲戦なら、誰にも負けない自負はあります」とは"Zara"本人の弁だが、それは決してリップサービスではないのだ。

 妹の“Pola(ポーラ)”も頑張っているのだが、彼女はまだ直撃弾を得られておらず、"Zara"はまさに姉の威厳を示していた。

 

 グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊・戦艦部隊の先頭を行く「ブラックホール」艦橋に、ヒュルルルヒュイーン……という甲高い音が大きく響き始める。明らかに敵戦艦の主砲弾の落下音である。

 

「衝撃に備え!」

 

 艦長ベルテクスがそう命じた少し後、音が鳴り止むと同時に敵の砲弾が落下した。まだ第1射であるため、そうそう簡単には直撃しない。敵砲弾は、「ブラックホール」左前方の海面に3本の水柱を(きつ)(りつ)させただけに終わっている。

 

「「!!」」

 

 だが、その水柱を見てカイザルとベルテクスはぎょっとした。

 

「艦長! あれは……!」

 

 何かを察した様子でカイザルが叫ぶ。

 

「はい……! 水柱のあの大きさから察するに、敵戦艦の主砲は口径48㎝、いや……最悪の場合、口径50㎝に達する可能性があるかと存じます!」

 

 そう叫び返すベルテクスの顔は、血の気が引いて青白くなっていた。

 カイザルもベルテクスも、グレードアトラスター級には乗り慣れており、その砲撃を目にしたことも一度や二度ではない。その彼らだからこそ、敵のグレードアトラスター級の砲弾の大きさを察することができてしまったのだ。

 通常、戦艦という兵器は「自身の搭載する主砲の砲撃に対応できる装甲を有すること」が求められる。その重装甲のおかげで、戦艦はたとえ敵戦艦から撃たれたとしても「なかなか壊れない艦」として戦い続けることができるのだ。「戦う」ための「艦」、すなわち「戦艦」たる所以(ゆえん)である。

 「ブラックホール」もその定義通り、46㎝砲の砲撃に耐えられる装甲を有しているのだが……敵の戦艦はあろうことか、口径46㎝を超える大口径砲を搭載していたのだ。そんな砲の砲撃を受ければ、「ブラックホール」は最も分厚い最重要区画装甲(バイタルパート)でも容易に貫徹されてしまう。また、敵戦艦はそれだけの主砲を有する以上、それに対応した防御装甲を持っている可能性が高い。つまり……敵戦艦のほうが、グレードアトラスター級よりも格上なのだ。

 

(そんな馬鹿な……。我々は、とんでもない強敵を相手にしてしまった……!)

 

 昨日の航空戦で見た敵の艦載機、そしてこの敵戦艦の砲撃から、カイザルはいよいよ敵の手強さを身に()みて感じ取っていた。そして久しぶりに、死の恐怖を身近に感じた。あのミリシアルの空中戦艦を相手にした時でも、ここまでの恐怖は感じなかったというのに……!

 

 

 砲戦が始まってから少なくとも4分間は、両軍の戦艦に被害は出なかった。双方の巨弾はただ海水を噴き上げるのみであり、空振りを繰り返していたのである。だが、砲戦開始から5分が経とうという頃、ついに照準が合い始めた。

 最初に照準を合わせたのは、東部方面艦隊戦艦部隊の後部に位置するオリオン級戦艦「タビト」と、その相手の「ビスマルク」である。第7射において「ビスマルク」は(きょう)()弾を出すのと引き換えに、相手から1発直撃弾を喰らったのだ。

 

「同時に照準が合うとは、やるわね」

 

 戦艦「ビスマルク」の艦橋の窓から敵戦艦を見つめ、"Bismarck"は素直に相手を賞賛した。そして(どう)(もう)な笑みを浮かべる。

 

「なら、敬意を表して全力で相手をしてあげるわ」

 

 そして彼女は、(りん)とした声で命じた。

 

「対ヤマト用の戦法、ここで行くわよ! 手加減無しの全力で行きなさい!」

「Jawohl!」

 

 "Bismarck"の対大和用の戦法とは、簡単に言えば「圧倒的な速射能力と優れたドイツ製の照準レーダーを生かして、38㎝砲弾を次々と直撃させ、手数で敵を先に叩きのめす」というものだ。格上の戦艦が相手でも、測距儀等を破壊することで戦闘不能にすることを狙える、効果的な戦法である。

 実は本海戦が始まって以来、彼女は相手に砲撃ペースを合わせていたのだ。つまり、わざと砲撃ペースを遅くして、40秒置きに撃っていたのである。だが、つまらない芝居もこれでおしまいであった。

 

「さあ、演技はこれでおしまい。ここからは、本気で行くわよ! ほぼ倍の発射レートに、どこまでついてこられるかしら!?」

 

 敵戦艦を見据えた彼女が、不敵な笑みと共にその言葉を投げかけた時、

 

「全砲塔、砲撃用意よし!」

 

 斉射の準備が整った。

 

「さあ、かかってらっしゃい! 全門、feuer!」

 

 "Bismarck"のかけ声と共に、4基の「38㎝連装砲改」はこれまでに倍する砲声を轟かせた。

 

 同じ頃、戦艦「タビト」艦橋でも、

 

(ふむ、敵もなかなかやるな……)

 

 艦長のヴィクトル・フォード大佐が、窓の外に見える敵艦を見やって考えていた。

 敵は、こちらが命中弾を出すと同時にこちらを夾叉してきたのだ。次から敵艦も斉射に踏み切る。

 

「ここからはダメージレースだ! どちらが先に致命傷を与えるかの勝負になる。全員、気合入れていけ!」

 

 フォードがけしかけるような命令を出した時、信じがたいことが起こった。「タビト」が目標としている敵戦艦、その艦上に強烈な発射炎が煌めくのがはっきりと見えたのだ。前回の砲撃からまだ20秒しか経っていないというのに、予想を遥かに超えた早さの射撃である。

 

「バカな……!?」

 

 フォードが真円まで目を見開いた時、

 

『敵艦、斉射!』

 

 見張員の絶叫が飛び込んだ。信じられないものを見たためだろう、声が震えている。

 

「艦長、これは……!」

 

 狼狽えた様子で副長が声を上げる。

 

「焦るな。ただの空砲かもしれん」

 

 あくまで落ち着いた声でフォードがそう言った時、その言葉を否定するように甲高い落下音が響いてきた。「タビト」周辺の大気が激しく鳴動する。

 

「総員衝撃に備え!」

 

 自分の予想が外れたことに驚愕しつつもフォードが指令した直後、これまでの至近弾の衝撃とは全く異なる凄まじい揺れが艦橋を襲った。明らかに直撃弾である。

 

「被害報告!」

『こちら応急班、左舷中央に直撃弾! 第2高角砲消滅!』

 

 どうやら敵の主砲弾は、艦橋下にあった高角砲を吹き飛ばしたようだ。

 

「くそっ、こっちも撃て!」

 

 フォードが怒声を放つ。

 「タビト」が第1斉射を放つのと同じタイミングで、敵も斉射を放ってきた。

 

『て、敵艦、第2斉射!』

 

 見張員の声は、ほぼ悲鳴と化している。副長がその報告に絶句した。

 

「馬鹿な……! 敵の主砲の速射性は、我が方の倍もあるのか……!」

 

 さすがのフォードも、これには驚きを隠せなかった。

 発射レートが倍もあるのなら、敵の手数はこちらの2倍ということになる。つまり、こちらが先に致命傷を受ける可能性が高い。

 

(危険なヤツを敵に回してしまったな……)

 

 フォードがそう考えた時、敵砲弾の飛翔音が急速に近づいてきた。

 次の瞬間、複数の水柱が「タビト」を取り囲むのと同時に、後部のほうから命中弾の衝撃が伝わってきた。後部に直撃弾を受けたらしい。

 

(機関や舵をやられてなければよいが……)

 

 フォードがそう思った時、異様な衝撃と爆発音が艦橋に届く。続いて予想だにしなかった報告が舞い込んだ。

 

『後部艦橋より報告、第3砲塔大破! 敵砲弾の直撃です!』

「「「……!?」」」

 

 つかの間、艦橋の雰囲気が凍りついた。

 

 フォードたちは直接目視できなかったが、後部艦橋トップの予備射撃指揮所に詰めていた副砲術長などの面々は、その様子をはっきりと見た。

 第3砲塔の正面防盾にぱっと火花が散った直後、砲塔の(てん)(がい)がぶわっと膨れるように見え、次いで大量の破片を撒き散らして砲塔が爆発したのだ。音と黒煙の狂騒が一通り収まった時には、第3砲塔の姿は一変していた。砲塔は前から押し潰されたようにひしゃげ、天蓋はほとんど引き()がされている。主砲の砲身のうち1本は甲板に力なく垂れ下がり、もう1本は行方不明になっていた。(ほう)(あん)を外れて海面に落下したに違いない。砲塔内にいた装填手や砲手たちがどうなったかなど、考えるまでもなかった。

 「ビスマルク」の38㎝砲なればこそなせる技である。主砲の正面防盾といえば、戦艦の装甲の中でも最も分厚い装甲がある場所だ。それを叩き割るなど、より大口径の砲の弾にしかできないことである。

 

「第3砲塔、弾火薬庫注水。急げ!」

 

 急ぎ指示を出しながら、フォードは完全に絶望していた。

 

(敵戦艦の主砲は、明らかに35.6㎝を超える大口径砲……。ということは、あの敵艦の装甲は、口径41㎝の砲でなければ貫けん……! しかもあの速射性……完全に、勝ち目がない!)

 

 そう、35.6㎝砲の砲撃に耐えられる装甲をいともあっさり貫いてきたということは、敵戦艦の主砲は明らかに口径37㎝以上ある。その強力な主砲を、こちらの倍の発射レートで撃ってくるのだ。「タビト」の勝ち目はかなり低い……というか、正直言って、ない。

 

(くっ……なら、敵艦に1発でも多く命中させ、戦闘力を奪わなければ!)

 

 だが、いくらフォードの気が()いても、「タビト」の装填装置は40秒置きの装填がやっとだ。どう()()いても、これ以上は早くならない。

 

『だんちゃーく、今!』

 

 その時、見張員の報告が舞い込んだ。

 咄嗟に敵艦を見たフォード、その時敵艦の艦上に直撃弾の閃光が走った。そして敵艦から黒煙が噴出し始める。火災を起こしたようだ。

 

「よし! このまま撃て!」

 

 フォードの心に、わずかに希望が芽生えた。だがその途端、敵艦の艦上に直撃弾の炸裂よりも強烈な閃光が(ほとばし)る。主砲を斉射してきたのだ。

 

「おのれ……!」

 

 未だ主砲の装填が終わらない中、フォードは敵艦を睨みつけることしかできなかった。

 

 

 それから2分も経った頃、「タビト」と「ビスマルク」の戦いの(すう)(せい)は既に決しつつあった。「タビト」は敵に5発の命中弾を与え、火災を発生させたものの、敵艦は全く参った様子を見せない。4基の主砲塔は20秒おきに発射炎を閃かせている。逆に「タビト」は累計7発もの直撃弾を喰らい、()(そく)(えん)(えん)の状態だ。敵の砲撃により、航空甲板は格納庫ごと爆砕され、艦首甲板はV字に断ち割られた。左舷の副砲・高角砲・機銃は全滅している。それに、多数の直撃弾・至近弾によって「タビト」の艦体は大きく傷つき、浸水も増えている。また、1番缶が損傷して運用不能となり、浸水もあって出し得る速力は23ノットに落ちてしまった。

 そしてついに、破局が訪れた。「ビスマルク」の第7斉射により、「タビト」は艦橋トップに被弾し、昼戦艦橋が射撃指揮所もろとも全滅。フォード大佐以下の艦首脳部クルーが軒並み戦死し、主砲射撃方位盤も故障してしまった。後部艦橋の予備射撃方位盤に切り替えて攻撃を続行したものの、首脳部を失ったことで混乱していたところに「ビスマルク」の第8斉射を喰らい、なんと後部艦橋に被弾。予備射撃方位盤をも失った「タビト」は、もはや戦艦としての戦闘力をほぼ喪失した。機関はまだ動いていたが、出し得る速力は10ノットにまで落ち込み、艦全体に火災が発生、さらに第2砲塔もターレットを損傷して旋回不能に陥っていた。そこへ、「ビスマルク」の第9斉射で3発もの砲弾が直撃し、缶2基が損傷した「タビト」は、カタツムリのような速度でしか動けなくなった。それでもしばらく動いていたが、もはや主砲の発射も叶わず、やがて力尽きたように洋上に停止した。全体が黒煙に覆われており、もう沈没の運命を免れることはできなかった。

 

 「タビト」が航行不能になるのと前後して、大音響が大気を震わせた。「赤城」の35.6㎝三連装KSK砲の一撃で主砲の弾火薬庫が爆発し、東部方面艦隊の最後尾にいたオリオン級戦艦「バーナードループ」が轟沈したのだ。超大和型戦艦の装甲すら穿つKSK砲の前には、オリオン級の装甲などブリキ板も同じだったのである。

 その頃には「アイオワ」が連続斉射を繰り返しており、敵弾数発を喰らいながらも、「16inch三連装砲Mk.7+GFCS」から放たれる超重徹甲弾(スーパーヘビーシェル)の連続パンチで「マルジック」を瀕死に追い込んでいる。「金剛」や「榛名」などの各戦艦も、敵戦艦との間で命中弾の応酬を繰り広げていた。

 

「だんちゃーく、今っ!」

 

 そしてロデニウス艦隊の旗艦「長門」も、敵3番艦、ヘルクレス級戦艦「マシム」を相手に激しく戦っていた。敵弾4発を被弾し、右舷の副砲群や水上機格納庫に被害を出しながらも、相手を猛然と砲撃している。

 

「命中弾2発確認。これで、累計して5発の命中弾だ。敵に相応の被害を与えたはずだ」

 

 堺の隣では"長門"がこれまで上がってきた報告のメモを見直している。

 味方は必死に戦っており、既に"比叡"を除く全戦艦が直撃弾を出して斉射に移行していた。

 

「どうやら比叡が苦戦しているようだな。ちょっと様子を聞いて……!?」

 

 堺がそう言いかけた時、おどろおどろしい爆発音が後方から響き、彼の言葉を遮った。

 

「「何が起きた!?」」

 

 ただならぬものを感じた堺と"長門"が顔を見合わせた時、艦内電話から絶叫が飛び出してきた。

 

『予備射撃指揮所より戦闘情報室(ブレイン)

陸奥大火災! 行き脚止まりました!』

「!!」

 

 堺は目を見開いた。ただならぬ予感は現実のものだったのである。

 

「陸奥が……!」

 

 "長門"も愕然として叫ぶ。堺は即座に電話を取った。

 

戦闘情報室(ブレイン)より予備射撃指揮所、何があった? 見た範囲で説明しろ!」

『こちら予備射撃指揮所、陸奥の艦体後部で大爆発が発生した模様。爆発の規模から考えて、おそらく敵の砲撃による第3砲塔弾火薬庫の爆発と思われます!』

「……ッ!」

 

 言葉にならない悲鳴が堺の喉から漏れる。電話に「了解」と返しながら、堺の口元に()(じゅう)の色が浮かんだ。

 

(()()陸奥の第3砲塔か……!)

 

 説明しよう。戦艦「陸奥」と第3砲塔は、少なからぬ(いん)(ねん)がある。ご存知の方もいらっしゃると思うが、戦艦「陸奥」は(はしら)(じま)泊地に停泊していたところ、第3砲塔の弾薬庫が突如として爆発し、あっけなく沈没してしまったのである。敵の有力な戦艦と戦うことを期待されて生まれたにも関わらず、あまりにも理不尽かつ悲しい最期であった。なお、この爆発の原因は今も分かっていない。

 この史実の特徴を艦娘となった"陸奥"も受け継いでしまったのか、彼女の"運"のステータスは「3」と非常に低い。加えて、どうも第3砲塔だけ普段から不調気味なのである。何もここまで(いん)()を引き継がなくても良い気がするのだが……。

 それはともかくとして、彼女は今回も不運に見舞われたらしかった。

 

「陸奥が相手にしていた敵艦は、何発の命中弾を受けているか?」

『目視した限り2発です!』

「了解した」

 

 艦内電話を切った堺は、すぐに"長門"に問うた。

 

「長門、今お前が相手にしている敵艦の様子はどうだ?」

「ああ、敵艦は火災が発生しているのに加えて第2砲塔が砲撃不能になったらしい。3基の主砲塔で砲撃してきている。それに散布界が荒くなったように感じられる。もしかすると、射撃方位盤が壊れてるのかもしれない」

「ふむ……」

 

 報告を受けた堺は少し考え、今度は他の艦に連絡を取った。

 

「こちら提督。扶桑、山城、そちらの戦況知らせ」

『こちら扶桑、第1・第2砲塔損傷。現在もなお敵艦と戦い続けてるわ、余剰戦力はないわね』

『こちら山城。こっちも駄目、敵艦と4つに組んでるわ!』

「分かった、2人ともそのまま戦闘を続行せよ!」

 

 周辺の艦の状況を確認するや、堺は決断を下した。

 

「長門、ちょっと目標変更だ! 第1・第2砲塔はそのまま敵3番艦を狙え。

第3・第4砲塔は目標変更! 新たな目標、敵4番艦! 予備射撃方位盤を照準に使え、観測機も2機を敵4番艦の担当にしろ!」

「了解だ!」

 

 威勢の良い声で"長門"が返事をした時、新たな報告が上がってきた。

 

『こちら後部艦橋、敵4番艦、艦体前部の主砲が旋回中! 目標は本艦の模様!』

「やはり来るか……! 3・4番主砲、応戦急げ!」

 

 "長門"がそう命じた瞬間、通信回線から朗報が飛び込んできた。

 

『アイオワよりナガート! 敵2番艦を撃沈したわ! これより貴艦を援護する!』

『こちらビスマルク、敵戦艦11番艦撃沈! 次はどうすれば良い?』

『こちら赤城、敵12番艦を仕留めました。指示を()います、どうぞ』

「よし、作戦変更だ!」

 

 事態の好転を悟り、堺は叫ぶ。

 

「ビスマルク、赤城へ。お前たちは味方水雷戦隊の支援に向かえ。ただでさえ敵のほうが数が多いんだ、お前たちの火力はずいぶん頼りになるだろう。頼む!」

『このビスマルクに任せておきなさい! 重巡洋艦なんかボッコボコにしてあげるわ!』

『赤城了解。味方水雷戦隊を支援します!』

 

 実際、この時点で「ビスマルク」と「赤城」は(ゆう)(へい)化してしまっている(遊兵とは、戦闘に直接加わっていない兵のことである)。ならば、味方の水雷戦隊の救援に回したほうが良いだろう。ちょうど味方の戦艦を守る囮にもなるだろうし。

 

「アイオワ、敵3番艦は任せた!」

『OK! Meは高速戦艦、逃しはしないわ!』

「長門、目標敵4番艦! 妹の仇を取るぞ、少し減速して敵4番艦を射界に入れろ!」

「ああ! 陸奥が受けた屈辱、倍にして返してやる!」

 

 

 そして"山城"は、完全に苛立っていた。自分が相手にしている敵6番艦をなかなか仕留められないのもさることながら、姉が叩きのめされているのだ、姉妹愛の強い彼女が傍観できるはずがない。

 

「邪魔だ……どけぇぇぇぇぇ!」

 

 (てき)(がい)(しん)に怒りを注ぎ足し、彼女は第9斉射を放つ。それに対して敵……ヘルクレス級戦艦「リギル」も撃ち返してきた。

 数十秒後、両艦は互いの相手が撃った砲弾の水柱に取り囲まれ、直撃弾を受ける。

 

「くっ、()(しゃく)な……!」

 

 敵に命中弾2発を与えながらも、自身も1発の直撃弾を受け、第3砲塔を使用不能にされた"山城"が歯ぎしりした、その時だった。

 不意に、敵6番艦の左舷海面に2本の水柱が立ったのだ。当然、"山城"の砲撃によるものではない。

 

「いったい、何が……?」

 

 彼女が首を傾げた時、無線機から声が飛び出してきた。

 

『Hey、山城! Youはお姉さんの救援に向かうデース! こいつは私が引き受けるネ!』

 

 意外な通信相手に、"山城"は慌てて尋ねた。

 

「こ、金剛? あなた、敵艦は……」

『No problem! 海底に叩き込んでやりまシタ!』

 

 振り返ってみると、"金剛"が相手にしていた敵7番艦……オリオン級戦艦「ベラトリックス」は、既に艦体後部から大量の黒煙を噴き上げて停止していた。7発もの41㎝砲弾を後部に集中して受け、缶室や発電機室といった心臓部を破壊されたのである。まだ沈んではいないが、もはや沈没は時間の問題だ。

 

『なので山城、youはお姉さんの救援に向かってくだサーイ! ここは私に任せるネ!』

「……っ! 頼むわ、金剛!

姉様、今行きます!」

 

 こうしてついに、"山城"は"扶桑"の救援に回ることになったのである。

 

「さーて、敵はナガト・タイプ。不足はありまセン!

イセ、ヤマトと並ぶタウイタウイ最精鋭の戦艦の練度、見せてあげるデース! Burning Love!」

 

 そして"金剛"は、新たな敵戦艦に狙いを定めた。

 

 

 一方、グラ・バルカス艦隊の水雷戦隊は、ロデニウスの戦艦部隊めがけて突撃を続けていたものの、多大な犠牲を出していた。

 ただでさえ最初の相手となる秋月型駆逐艦と阿賀野型軽巡洋艦だけでも手強いのに、その後ろに何隻もの駆逐艦と巡洋艦が控えているのである。しかもその後方に重巡洋艦が布陣しており、遠距離から射弾を放ってくる。

 グラ・バルカス帝国の水雷戦隊はロデニウス艦隊の駆逐隊や巡洋艦隊と戦い、多数の犠牲を出してゆく。しかしついに、その多数の駆逐艦による防衛線を突破する者が現れた。

 

「よし、何とか突破……って、まだいたのか!」

 

 第22駆逐隊司令アルヴィオン・ブラウン中佐は、隊の前方に見える4隻の敵駆逐艦を見て舌打ちをした。

 第22駆逐隊は、エクレウス級駆逐艦「カノープス」「ミアプラキドゥス」「カライナ」「アスピディスケ」の4隻からなっているのだが、既に「アスピディスケ」が航行不能にされている。第13艦隊第十駆逐隊と交戦した結果だった。そしてブラウンは今、先頭に立つ司令駆逐艦「カノープス」に乗り込んで指揮を執っているのである。

 彼は、前方に見える4隻の駆逐艦くらいなら、交戦しつつ回避機動を取れば突破できると考えた。そして突っ込んでいったのだが……相手が悪すぎた。

 敵駆逐隊の先頭に立つのは、キャニス・ミナー級駆逐艦によく似た艦である。性能差で打ち勝てる、とブラウンは踏んだ。が、しかし。

 

 敵駆逐艦の先頭艦が砲撃を放った直後、その砲撃が初弾で「カノープス」の艦橋を爆砕した。

 

 何が起きたのかも理解できぬまま、艦橋を襲った業火に飲み込まれ、ブラウンは文字通り昇天した。

 ある程度距離が近かったとはいえ、初弾から艦橋に直撃させるなどという大それたことをしたこの駆逐艦は何者だったのかというと……

 

「よく狙って、てえぇーい!」

 

 駆逐艦“(あや)(なみ)”であった。そう、第三次ソロモン海戦において戦艦2隻、駆逐艦4隻の艦隊相手にたった1隻で奮戦し、敵艦隊に大きな被害を与えた「ソロモンの()(しん)」だったのだ。

 後続する敵駆逐艦に正確に照準を合わせ、"綾波"は次々と主砲を発射する。発射された砲弾は命中率ほぼ100パーセントという凄まじい成績を叩き出し、エクレウス級駆逐艦の戦闘力を確実に奪っていく。仲間の“(いそ)(なみ)”、“(うら)(なみ)”、“(しき)(なみ)”も砲火を集中し、グラ・バルカス海軍第22駆逐隊は一瞬にして壊滅した。

 第22駆逐隊の苦戦を見た第23駆逐隊は、司令のとっさの判断により迂回機動を取った。しかし、手を打たれていたのである。

 

「さあ、素敵なパーティしましょ! ソロモンの悪夢、見せてあげる!」

 

 そう、妖怪「艦橋置いてけ」こと駆逐艦“(ゆう)(だち)”、そして第二駆逐隊の面々が待ち構えていたのだ。「ソロモンの悪夢」の異名も名高い駆逐艦の登場により、第23駆逐隊は絶体絶命の窮地に立たされた。そして5分後に全艦が戦闘・航行不能に陥った。

 2つの駆逐隊を犠牲にしながらも、第21駆逐隊はなんとかロデニウス艦隊の戦艦への肉薄を果たそうとした。が、その瞬間、司令駆逐艦が真下から襲ってきた3本の魚雷の直撃を受けて一瞬で轟沈する。その先にいたのは、3隻の小型巡洋艦。

 

「ここなら通れると思ったのか? なら言っといてやる、お前らの指揮官は無能だな!」

「50門の酸素魚雷は、伊達じゃないからねっと!」

「海の藻屑となりなさいな!」

 

 第九戦隊の重雷装巡洋艦、“()()”、“(きた)(かみ)”そして“(おお)()”である。敵駆逐隊の突撃に対して、それを十分引きつけた上で必殺の酸素魚雷を放ったのだ。

 

「私には誰も追いつけないよ!」

 

 そして、雷撃により大混乱を来した第21駆逐隊に向け、40ノットの俊足を誇る()()(てん)の駆逐艦“(しま)(かぜ)”が突撃し、肉薄砲撃を叩き込んで沈めていく。

 そこへ"Bismarck"と"赤城"の火力支援が加わったことで、グラ・バルカス帝国の水雷戦隊は完全に足止めされてしまったのだった。

 

                                                              

 そして、グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊旗艦「ブラックホール」は、敵の似非グレードアトラスター級戦艦と4つに組んで戦っていたが、とんでもない被害を受け、限界が近付いていた。

 「ブラックホール」が似非グレードアトラスター級戦艦に与えた命中弾は、13発にも及んでいる。敵は艦体全体が黒い火災煙に覆われているが、全く参った様子がない。速力が低下した様子はなく、3基の主砲塔も全くの健在であり、50秒置きに6発の砲弾を撃ち出してくる。

 これに対して、「ブラックホール」が受けた命中弾は8発。だが、受けた被害が深刻だった。左舷の高角砲と機銃はほぼ全滅し、対水上レーダーも大半がブラックアウトしている。第3砲塔はターレットが歪んで旋回不能に陥り、第2副砲は完全に爆砕された。また、艦首部分に命中した1発により、揚錨機が吹き飛ばされ、兵員居住区画では火災が発生した。さらに、左の喫水線下にも1発が命中し、バルジを深々と抉られた。浸水は食い止めたものの、被弾による缶の損傷もあり、「ブラックホール」の速力は13ノットにまで低下している。まさに気息奄々の状態だった。

 

「味方水雷戦隊、敵の迎撃が激しく、敵戦艦に接近できません! 被害甚大!」

「戦艦ミンタカ、通信途絶!」

 

 「ブラックホール」艦橋には、警報アラームに混じって良くない報告が次々に上がってくる。提督席に腰を下ろしてそれらの報告を聞きながら、カイザルはこれまでの敵味方の被害を脳裏でまとめてみた。

 敵の被害は、戦艦1隻を喪失し、少なくとも4隻が撃破された。一方でこちらは戦艦5隻を喪失し、4隻が撃破されている。明らかに劣勢だった。しかも、水雷戦隊は被害が続出しており、敵戦艦への接近はできていない。おまけに昨日の航空戦で空母機動部隊も壊滅状態だ。

 

 東部方面艦隊の勝ち目は……ない。

 

 カイザルがその結論に達した時、新たに飛来した敵砲弾が、時間差を置いて艦体前部と後部に1発ずつ命中した。悲鳴じみた甲高い金属音を立てながら、「ブラックホール」の艦体はシーソーのように前後に浮き沈みする。

 

()()室より報告、舵故障とのことです!」

 

 シーソー揺れが収まった直後、航海長から絶望的な報告が上げられた。

 

(……やむを得ん!)

 

 そしてカイザルは、ついに決断を下した。

 

「東部方面艦隊の残存全艦に命令! 『戦闘を打ち切り、パガンダ島へ撤退せよ』!」

 

 それを聞いた瞬間、幕僚たちが一斉に彼のほうを振り返る。なぜならこの命令はつまり、東部方面艦隊の敗北を意味するものだったからだ。

 

「閣下、それは……!」

「この戦、もはや勝てん」

 

 参謀長ヘルメスが声を上げかけるのを、カイザルは声で制した。そしておごそかな声で告げる。

 

「認めよう……ロデニウス艦隊は、我々より強い!」

 

 それは、名将の敗北宣言だった。

 その時、砲弾の落下音が降ってきたかと思うと、続けて2回、艦体後部から衝撃が伝わってきた。そして次の瞬間、炸裂音とともに「ブラックホール」は異様な震え方をした。致命傷を受けたと、カイザルは直感した。その直感は正しかった。

 

「敵弾、第2機械室にて炸裂した模様。第2機械室応答途絶、缶2基損傷!」

「ここまでか……!」

 

 カイザルは、「ブラックホール」の戦いが、そしてバルチスタ沖のこの戦いが終わったことを知った。

 舵と機関をともにやられては、どうにもならない。制空権を敵が握っている以上、「ブラックホール」を救う(みち)はない。

 

「艦長、総員退艦を命じたまえ。本艦は、もう救えない」

 

 不沈艦と謳われたグレードアトラスター級を失うのは心苦しかったが、カイザルは断腸の思いでそう命じた。

 

「致し方ありませんな」

 

 「ブラックホール」艦長ベルテクスは、既に納得したような様子である。

 この頃には、もう「ブラックホール」の速度は大きく低下しており、海面を這い進むような速度になっていた。どう足掻いても、航行不能になる未来は避けられない。

 

「閣下は、どうなさるのですか?」

 

 そこへ、ヘルメスが尋ねてくる。カイザルは静かに答えた。

 

「……戻るつもりはない」

「それは……!」

「帝国海軍は甘い組織ではない。本国に戻っても、私を待っているのは予備役編入、悪ければ不名誉除隊だろう。ならば、ここで東部方面艦隊司令長官としての責務を全うする」

 

 カイザルには、生きて還るつもりはなかった。

 

「君たちは早く退艦しろ。君たちにはまだ未来がある。ロデニウス連合王国や現地国家の捕虜になってでも、生き延びろ。それが、私からの最後の命令だ」

 

 反論は許さん、と言いたげなカイザルの口調に、ヘルメス以下の幕僚たちは一様に(うな)()れた。

 

「総員退艦。繰り返す、総員退艦せよ」

 

 その隣で、ベルテクスは早くも指示に従って動き始めていた。まだ生きている艦内放送で命令を出すと、退艦の指揮を執るべく率先して艦橋を出て行く。それを見て、幕僚たちも続いた。

 全員が立ち去り、人っ子一人いなくなった艦橋で、提督席に座ったままカイザルはひとりごちた。

 

「まさか、この世界に私より強い指揮官がいるとはな。これほどの強敵と戦っての敗北なら、……本望というものか。

サカイ……貴様の勝ちだ。それは認めよう」

 

 

 かくして、2日間にもわたった「第二次バルチスタ沖大海戦」は、ここに決着した。

 

 あの後、「アイオワ」は「長門」が戦っていた敵3番艦……ヘルクレス級戦艦「マシム」を航行不能に追い込み、「長門」は「陸奥」の仇だった戦艦「クヤム」を撃退したものの、撃沈には至らなかった。「扶桑」と「山城」は連携してヘルクレス級戦艦「ジメルトリオス」を撃退し、「金剛」はオリオン級戦艦「ベラトリックス」を撃沈した後、「山城」と戦っていたヘルクレス級戦艦「リギル」を撃退した。「比叡」はオリオン級戦艦「サイフ」になかなか砲弾を当てられず、返り討ちのような格好になってしまったが、それでも命中弾4発を与えて「サイフ」を撃退している。「榛名」は「トリスタン」と激しく戦い、「霧島」の援護を受けてこれを撃退した。その「霧島」は、オリオン級戦艦「ミンタカ」を海底送りにしている。

 一方、ロデニウス第13艦隊水雷戦隊は「ビスマルク」と「赤城」の応援を受けてグラ・バルカス水雷戦隊を完全に食い止め、戦艦たちを守りきっていた。その代償として、昨夜の夜戦で被害を受けていた第一八駆逐隊は全員が艤装放棄、第一六駆逐隊も壊滅状態(ただし“(ゆき)(かぜ)”のみ無傷)、第二・四・八・一一駆逐隊が半壊、阿賀野型軽巡洋艦の“阿賀野”が大破、艤装放棄する等大きな被害を受けたが。

 

 ともかくも、敵味方問わず大きな被害を出した「第二次バルチスタ沖大海戦」はほぼ終結し……そして、ムー大陸周辺の制海権は第二文明圏連合軍の元へと戻ってきつつあったのである。




(後書き)
長かった第二次バルチスタ沖大海戦も、ついに(ほぼ)決着。ロデニウス海軍第13艦隊は、これまでで最大の被害を受けてしまいましたが、グラ・バルカス海軍東部方面艦隊に勝利しました。
グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊は、よく見ると戦艦も空母も大半を喪失し、航空機はおそらく8割方が航空戦で未帰還又は母艦と共に海没。巡洋艦や駆逐艦にしても、損耗率は5割はあるでしょう。
軍事学的には、部隊はその戦力の5割を喪失した場合「全滅」と判定されます。なのでこの定義に従うと、グラ・バルカス海軍東部方面艦隊は全滅に追い込まれました。

前書きで書いた推奨BGMについてですが……この艦隊決戦の間、ドヴォルザーク作曲の「交響曲第9番ホ短調 作品95『新世界より』 第4楽章」を再生していた方は、よく訓練されていると申し上げます。そう、正解はこの「新世界より」第4楽章です。
なんでこの曲なのかについては、戦艦「ブラックホール」艦橋での「敵艦隊との予想接触時間は?」「会敵まで約6分!」「よし、全艦総力戦用意!」というやりとりがヒントでした。そう、「銀河英雄伝説」のアムリッツァ星域会戦の手前の場面、ウランフ艦隊とビッテンフェルト艦隊の交戦場面でかかっていた曲です。


UAが86万を超えるとは……本当に、いつもご愛読ありがとうございます!

評価5をくださいましたshinshin様
評価10をくださいました灰ネコ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

第二次バルチスタ沖大海戦は、ついにロデニウス海軍第13艦隊の勝利に終わった。行動不能になった味方を見捨て、撤退していくグラ・バルカス海軍東部方面艦隊。それに対し、ロデニウス海軍第13艦隊は溺者救助の傍ら追撃の航空部隊を送る……
次回「激突! 第二次バルチスタ沖大海戦!(seven)」
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