鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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お気に入りが、192…だと…?
しかし、平均評価は7.37に下がってしまったか…うーむ、万歳突撃とかのやりすぎかな。万人受けする作品を作るのは難しい、ということですね。

評価2をくださいましたruiruidayo様、評価5をくださいましたクルンパ様、評価7をくださいました主犯様、評価9をくださいました普通の一般人様、ありがとうございます!
また、お気に入り登録してくださいました皆様、本当にありがとうございます。

ここから新章「異世界に風波立つ」開始です。
この後のクワ・トイネ公国の、そしてタウイタウイ泊地の運命がどうなっていくか、精一杯描いていきます!



第二章 異世界に風波立つ
016. (いくさ)の終わり、苦難の始まり


 中央暦1639年5月8日 午前7時、クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ。

 ギムの奪回が新聞で報道されて以降、公都の市民たちは、毎日の新聞や魔信放送(映像がないので、現代日本でいうラジオ放送にあたる)を心待ちにし、新しいニュースが入るたびにその話題で盛り上がっていた。

 特に「(だい)(ほん)(えい)発表」と呼ばれる、タウイタウイ泊地からの報告も含めて公国軍務部より出される速報が、何より心待ちにされており、また軍務部からの公式発表新聞となる「(あお)()新報」は、出されるや否や飛ぶように売れるほどの状態が続いていた。

 

 今日もまた市民たちは、新聞屋が来るのを待っている。しかしその目は、まるで獲物を狙う肉食獣のような眼光を放ち、赤く充血していた。そして鼻息も荒い。明らかに興奮している。まるで、祭りか何かがあって夜通し騒いでいたような様子だ。

 実は昨夜遅く、大本営発表として「明日午前7時より、重大発表を行う。同時に新聞を配布するので、発表内容の詳細はそちらを待たれたし」という放送があり、その内容がいったい何なのか? ということが話題となったのだ。そして、気の早い一部の市民が「ロウリア王国に勝ったのではないか?」と言い出し、それがたちまち街中に伝播して、まだ公式発表もない先に、市民たちが徹夜で騒いでいたのである。

 そこへ、

 

「号外! ごうがーい!」

 

 待ちに待った、新聞屋の声が聞こえてきた。その声も何やら興奮している。

 

「戦争は終わったよ! ロウリアがボロ負けした! 我々の勝利だぁぁぁ!」

 

 新聞屋の声を聞いた途端、市民たちは一斉にわっと沸き立った。誰も彼もが新聞屋に駆け寄り、金を払って新聞を受け取るや、食い入るように紙面を見つめる。出遅れて買い損ねた者は、買えた者の周囲に集まって、押し合いへし合いしながら紙面を覗き込んだ。

 

「ロウリア王国、完全降伏」

「戦争終結、クワ・トイネとクイラの勝利」

 

 新聞にはそんなタイトルがでかでかと書かれ、その後ろにはクワ・トイネ公国政府の見解などが記されている。

 が、市民たちにはタイトル()()で十分だった。

 

「うおおおおおおおお!」

 

 歓声が上がる。

 

「クワ・トイネ公国ばんざーい!」

 

 誰もが万歳、万歳と叫び、通りという通りには歓呼の声が溢れた。

 それに押し潰されるようにして、商店の店先の魔信器具から、ニュースの音声が流れていた。

 

『公国政府は本日未明、ロウリア王国との戦争が終結し、クワ・トイネ公国とクイラ王国が大勝利を収めたことを正式に発表しました。我が軍にも少なくない犠牲が出ましたが、ロウリア王国の戦死者はおよそ60万人に達すると見られ、また首都に展開していたロウリア軍は、既に武装を解除されたとのことです。

なお未確認ですが、ロウリア王を拘束した、との情報も寄せられており、今後の詳しい情報が待たれます。ロウリア王国に出征していた我が軍は、その一部が帰国を開始しており、早ければ明日の午後には公都に(がい)(せん)する、とのことです』

 

 

「ではここに署名して、指でハンコを押してください」

 

 クワ・トイネの市民たちが熱狂する数時間前、ロウリア王国王都ジン・ハーク。

 手錠をかけられ城から引っ張り出されてきたハーク・ロウリア34世は、パタジン将軍とともにクワ・トイネ公国軍の本陣に引き出されていた。

 彼らの前には、野戦用の折りたたみ机の上に、ロウリア軍の武装解除の確約書と、降伏仮調印の書類が置かれている。それを挟んで反対側に、堺をはじめとしてクワ・トイネ軍、クイラ軍の各司令官たちが立っていた。堺は勝利に興奮するでもなく、落ち着いた雰囲気を(かも)し出している。

 

(こやつが、敵軍の司令官か……。若造だな、パタジンに比べれば(かん)(ろく)が足りん)

 

 ハーク・ロウリア34世は、心中密かにそんなことを考えた。だが、この若さにして全軍の司令官をしているということは、それだけこの者が優秀であることの裏返しだ。

 敵の兵士の1人が王に近づき、手錠をいったん外した。続いて別の兵が、万年筆を差し出す。これで署名しろということなのだ。

 

(我が栄光あるロウリア王国が敗戦とは……無念……)

 

 王は、屈辱に震える手で万年筆を取り、署名した。続いて、差し出された朱肉に右手の人差し指を浸け、名前の脇に指で捺印する。それが済むと、再び手錠をかけられた。

 次にパタジンが手錠を外され、同じく署名し捺印する。これで、降伏文書の調印式(仮)は終了した。ロウリア王国の全軍は、これ以上の戦闘行動は取れなくなったのだ。

 

「ありがとうございます。これで、全て済みました」

 

 堺はそう言うと、自身も署名の上捺印した。各軍の司令官も、それに倣う。

 

「それではパタジン殿、貴方はここに残っていただきます。国内の混乱の収拾や人心の回復に努めてください。国王陛下の身柄は一時こちらで預かります。その間危害は一切加えないことを、お約束いたします。また、我が軍の一部は、反乱の防止などのためもうしばらくここに留まりますが、兵士たちには略奪、強姦といった乱暴狼藉は一切禁じておりますので、ご安心ください。もし違反者があれば、遠慮なく仰ってください。事実確認が取れれば、その者らは即刻死刑とします」

 

 これを聞いて、パタジンは驚いた。てっきり自身は処刑されるものと思っていたからだ。それが、拘束解除の上、ここに残って事態の収拾を図れとは……。

 また、兵士たちに対して乱暴狼藉を固く禁じている、というのもロウリア軍の常識では考えられなかった。ロウリア軍では略奪は兵士たちの働きに対する報酬となり、強姦は兵の士気を維持するのに向いているとされ、寧ろ“公認”されていたほどだ。だというのに、この者たちは“敗者”である我々を、丁寧に扱っている……

 

「以上、よろしくお願いします。では、各員撤収の準備を。クイラ王国の皆様、この度はご協力ありがとうございました……」

 

 敵の司令官であるサカイが指示を出したり、敵軍が撤収の準備を開始する音を聞きながら、パタジンはしばし呆然としていた。

 

 

 その後、クワ・トイネ公国で勝利の報道がなされたのと時を同じくして、ロウリア王国は全国民に対し、戦争に敗北し、国王は捕らえられた旨を正式に発表した。その上で、国境などに残っている部隊に対し、ただちに戦闘行動を停止して武装を解除し、クワ・トイネ軍に投降するよう呼びかけた。違反者は反乱分子と見なし、即刻処刑すると付け加えて。

 だが、パタジンの予想と異なり、特に大きな反逆もなくロウリア軍は速やかに武装解除し、国民たちも敗北を受け入れていた。元々国民や軍には、今回の戦争事由を「不当に奪われた領地の奪還」だと伝えていたし、亜人の(せん)(めつ)に躍起になっていたのは、国王をはじめ上層部のごく一部だけだったのだ。国民たちは自分たちが安心して暮らせるのであれば、何でもいいようだった。

 

 

 ……と思いきや、戦争が終わったとたんにとんでもない争いの火種が(くすぶ)り始めた。

 

 元々ロデニウス大陸には、国は全部で6ヶ国あった。しかし今は、クワ・トイネ公国、クイラ王国、ロウリア王国の三国しかない。残りの三国はロウリア王国に(へい)(どん)され、属領にされていたのだ。

 今回、ロウリア王国が国王を失い、求心力が低下したのを見て、属領にされていた三国……アルカノ王国、イザーク公国、エスメラ大公国が一斉に独立を宣言したのだ。それだけならいいのだが、この三国は、ロウリア王国が弱っているのをいいことに、自分たちこそがかつてのロウリアの領土全てを支配するに相応しいと主張し、互いににらみ合いを始めたのである。挙げ句の果てに、戦争前の4分の1程度の規模になってしまったロウリア王国を、逆に併合しようとした。

 先の戦争で軍に壊滅的被害が出てしまい、自国の保持すらおぼつかなくなっているパタジンは、やむなく堺とクワ・トイネ軍に対し、争いの調停をお願いしたのである。

 

「全く、やっと仕事が済んだと思ったのに……」

 

 堺はぶつくさ言いながら、三国の各代表を宥めすかすのに走り回る羽目となった。尤も、三国とも子供が我儘を言い張るように頑として主張を変えなかったので、最終的に、

 

「そういえば、クイラ王国国境から()()()()()を横断して、ジン・ハークへ向かった多数の“鎧の魔獣”を覚えていらっしゃいますか? アレ、全部“ウチの子たち”なんですよ。国へ帰らないといけないので、何でしたら行きと同じ道を辿るどころか、ちょっと『寄り道』して帰ってもいいんですよ?」

 

 などと言って黙らせたが。

 

 はい、今の堺の発言を聞いて、何だこのクズ野郎と思った人、うp主怒らないから手を上げなさい。

 

 ちなみにこれ、堺の「働きたくないでござる」性分の現れである。こんな面倒な交渉はとっとと済ませて、帰って大和の特製紅茶でも飲もう、と考えた結果の発言であった。

 クズである。いっそ清々しいレベルでクズである。

 

 

 その一方、クワ・トイネ公国でも新たな動きがあった。

 この度、クワ・トイネ公国は政治体制を変更し、王政へ移行することを政治部会にて討議し始めたのだ。実現すれば、国名は「クワ・トイネ王国」へと変わる。この国政形態変更は、もし政治部会で可決されれば国民投票にかけられ、67パーセント以上の賛成票を以て、正式に変更することとなっている。

 魔信ラジオにてこれが発表されるや、国民はこぞってこのニュースを話題にし始めた。

 

 

 そして……タウイタウイ泊地では。

 

「これより、(くわ)()戦役に対する考察会を行います」

 

 堺が戻ってきた中央暦1639年5月20日、“桑露戦役”に対する考察会(桑露戦役は、今回のクワ・トイネ公国とロウリア王国の戦争に対して、タウイタウイ泊地が付けた公式(固有)名称)が行われた。

 出席者は提督たる堺、書記艦として"(おお)(よど)"、秘書艦筆頭たる"大和(やまと)"、その他今回の戦争に参加し、前線で戦った各部隊の隊長や艦娘たち。

 この会議では、今回の戦争遂行にあたって気付いたことや、こんな武器が欲しいと思う点、などの意見を出し合い、それをまとめて今後の兵器開発などの方針の決定に用いることが目的となっている。

 まず、陸軍部隊からいくつも手が上がった。

 

 全てを列挙すると長いので彼らの話は飛ばすが、まとめると以下のようになる。

 

・個人が両手に持てて、なおかつ地面に足を下ろさずに、両手に抱えた状態で運用できる機関銃(つまり短機関銃、またはアサルトライフル)の早期開発と実戦配備を求める。(ジン・ハーク攻防戦の際、特に宮殿内での戦闘において、三八式歩兵銃や九六式軽機関銃では取り回しが難しく、かといって十四年式拳銃や刀ではやや心許ない、という場面が多発した)

・三八式歩兵銃が、若干威力不足に感じられる。もう少し大口径の小銃の配備を希望する。

・陸上運用のための新型野戦高射砲の開発と実戦配備を求める。(さすがに八八式75㎜野戦高射砲は古いので)

・手榴弾の形状の改良を求める。(丸っこいので持ちにくい、との意見が一部にあった)

・手榴弾を遠距離まで発射可能な簡易擲弾器の開発を希望する。(ジン・ハーク攻防戦において、城壁の上まで手榴弾を投げるのが難しかった、という意見があった)

・有力な歩兵携行型の対戦車兵器の開発を求める。(今回は出てこなかったが、後に別の敵と戦争になり、かつその国が戦車もしくはそれに類する兵器を出してきた場合に、泊地に5丁しかない九七式自動砲では、対処困難になる恐れがあると考えられた)

・新型の野戦速射砲の開発を求める。(理由は同上)

・八九式中戦車に代わる、新たな戦車の開発を求める。同新型戦車は、対戦車戦闘を想定した設計とする。(理由は同上)

・かつての米国や英国のような、四発の重爆撃機の開発を希望する。(今回はそのような事例はなかったが、将来的に広大な敵国の奥地の重要拠点を爆撃したりすることになるかもしれないと判断された。またタウイタウイ泊地にはそれに適した機体がないので、新規開発を希望する)

 

 また、海軍からは、

 

・新型の兵員及び戦車の輸送船、並びに揚陸用の小型艇の開発を求める。特に新型の強襲揚陸艦の配備を強く希望する。(現状だと、大発動艇を載せられる軽巡洋艦や駆逐艦、そして「あきつ丸」の負担が大きすぎるし、何より有力な戦車を送り込めないので)

・速やかなる航空機の補充態勢の確保を求める。(まだボーキサイトの鉱床が見つかったとの発表がなかったので、彼らはボーキサイトの補充がまだ確立していない、と思っていた)

・クワ・トイネ公国の兵士たちを訓練し、今後の他国との戦争に備えて補充用パイロットの錬成を求める。

 

 といった要望が提出された。堺は熟慮した末に、今後の方針として、

 

1. 短機関銃として、百式機関短銃もしくはそれに準じた性能の短機関銃の開発を行う。

2. 野戦速射砲として、一式機動47㎜速射砲を開発する。またこれに合わせ、新世代の戦車のテストベッドとして、一式中戦車チヘを開発し、合わせて八九式中戦車の代替とする。

3. 野戦高射砲、個人携行型対戦車兵器の新開発については、早期に善処する。

4. 新型の輸送艦及び強襲揚陸艦について、必要性を認め、増産と実用化に全力を尽くす。設計については既に終わっている(013. のラ・フランス型輸送艦を参照)ので、後は作って戦力化するのみである。また、強襲揚陸艦として旧軍の「(しん)(しゅう)(まる)」を、設計図を元に再建造することを予定する。

5. ボーキサイトについては、ロウリア王国とクイラ王国の国境地帯にて大規模鉱床が発見されたため、心配しなくて良い。また、クワ・タウイ郊外に築いた大規模火力発電所(第2号発電所。第1号はクイラ王国にて絶賛稼働中)がついに本格稼働を開始したため、鎮守府とクワ・タウイの造船所に対して最優先で電力を供給する用意がある。

6. 公国兵士のパイロット錬成については、鎮守府に中古機として残っている零式艦上戦闘機21型、九七式艦上攻撃機、九九式艦上爆撃機を用いて、直ちに取りかかるべし。新世代機として、零式艦上戦闘機52型、天山、彗星を用意しておく。

7. 戦略爆撃が可能な重爆撃機については、必要性を認め、早期に開発を開始する。目標としてはボーイングB29 スーパーフォートレスの開発を目指す。無理なようなら、ボーイングB17 フライングフォートレスやアブロ ランカスター重爆撃機で妥協する。

8. 三八式歩兵銃の代替としては、九九式小銃がある。ただし、やらなければならないことが多すぎるので更新はもう少し先になる。当分は三八式を使うべし。また、これと合わせて、九六式軽機関銃を九九式軽機関銃に更新する。

9. 手榴弾の形状改善、及び簡易擲弾器については、他のことに割かなければならないリソースと時間があまりにも多すぎるので、今は保留とする。ただし、簡易擲弾器は利便性を認めるので、設計図を作っておくこと。

 

 という形で、今後の方針を決定した。

 堺は心中密かに、()()()()()が出てきはしないか、と心配していたのだが、杞憂に終わった。ちなみに、その危惧していたセリフとはコレである。

 

「陸軍としては海軍の提案に反対である」

 

 また、実戦に参加した公国の兵士に対しては、「実戦力としては必要水準に少し足りない。特に、識字率の低さが足を引っ張っていると分析される。直ちに改善案を提出し、改善に務める必要ありと認める」という評価が出た。

 これらの改善案は一度公国政府に提出され、予算配分が認められ次第実行される。もし認められれば、クワ・トイネ公国はかつてない軍拡に踏み切ったことになる。

 

 

 戦争という国難を乗り越え、クワ・トイネ公国は生まれ変わろうとしていた。

 国内の道路は、東部の国道はコールタールによる舗装をほぼ完了し、鉄道もクワ・トイネ-エジェイ間の線路が完成して、徐々にギムへと線路が伸びつつある。将来的には、国道網と鉄道網はロデニウス大陸全土をカバーすることになる計画であった。

 また、洋服も日本流のスタイルが流れ込み、一挙にデザイン性が向上している。腕時計も、クイラ王国で生産されたものが輸入され、装飾品としての価値を獲得。金の腕時計を付けるのがステータスとなった。

 クワ・トイネ公国は、今や文明開化を迎えていたのである。




この世界での「大本営発表」は、今のところウソはありません。今のところは、ね…
果たして、今後もウソなく放送していけるのか?

え? フラグ臭しかしない? …さいですか。

以前から登場している「バトルフィールド」「Rising Storm」に続き、「提督の決断」が拙作のセリフ集に加わりました。
まあ、公国の陸軍と海軍は仲良しさんなので、今後このセリフは出ない…と思いたい。


次回予告。

激動の時代を迎えたロデニウス大陸。しかし、対ロウリア戦役が始まったその頃、ロデニウス大陸からはるか2万㎞も西の地でも、大きな事件があった…
次回「第二文明圏の悲劇」

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