鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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国家試験は無事合格しました…! これまで実習やら何やら頑張った甲斐がありました。これで私も作業療法士のタマゴです。
あと今回の艦これイベントですが……直前で時間切れになってしまい、目の前で"冬月"が指の間から滑り落ちました…。
最後の最後にボス手前で大破撤退喰らわせてきたネ級改は、絶対に許しません。明石さん、ハープーン持ってきて。

今回は少し作風を変えております。具体的には文字数の減少ですね。



159. イルネティア解放戦(4)

 中央暦1643年6月18日 23時30分。処はイルネティア島からの方位130度167浬(約310㎞)の海域にして、ムー大陸西部沿岸から200㎞離れた海域。

 グラ・バルカス帝国海軍レイフォル防衛艦隊は、艦隊を再編成して再びイルネティア島へ針路を取っていた。だが、その艦艇の数は明らかに昼間より減っている。

 

「くそっ……おのれロデニウス軍め!」

 

 艦隊旗艦・戦艦「マルゼラン」艦橋で、艦隊司令アンダール・ジャライル少将が悪態を吐いている。

 つい8時間ほど前のことだった。イルネティア島近海にいると見られるロデニウス艦隊の後背を衝くべく、レイフォル防衛艦隊はイルネティア島へと向かっていた。ところが、どうやらロデニウス艦隊が潜水艦を有していたようで、急襲を受けたレイフォル防衛艦隊はペガスス級空母「リュウセイ」を撃沈され、ヘルクレス級戦艦「ラス・セレナール」も被雷して火災を起こした。レイフォル防衛艦隊は対潜戦闘を実施し、さんざん時間をかけて爆雷を大量に使った末に、海面に油膜を伴った泡の噴出と救命胴衣や艦体の破片らしきものの浮上を認めたため、潜水艦を1隻撃沈したと判断した。

 しかしその直後、レイフォル防衛艦隊は航空機による空襲を受けたのだった。航空機が飛来した方角から考えて、ロデニウスの機動部隊はもう1部隊いたらしい。

 この空襲に対して、レイフォル防衛艦隊は上空直掩機を上げなかった。いや、正確には「上げられなかった」のだ。航空機発艦中の空母は最大速度での直線的な機動しかできず、潜水艦がいる状況でそんな機動を取れば「どうぞ狙ってください」と言っているようなものだからだ。

 潜水艦の怖いところは、「何隻の潜水艦が展開しているのかが分かりにくい」という点にある。1隻沈めたからといって、他にも潜水艦がいないとは限らないのだ。そんな状況では、航空機の発艦などできたものではない。

 そのため、直掩機無しで空襲を迎え撃ったことにより、レイフォル防衛艦隊は大きな被害を受けてしまった。具体的には、ペガスス級航空母艦「ドルラゴ」、ヘルクレス級戦艦「ラス・セレナール」、巡洋艦2隻、駆逐艦7隻が沈没。他に巡洋艦3隻、駆逐艦4隻が損傷し、レイフォリアへの後退を余儀なくされた。後退する艦艇には、1隻あたり駆逐艦2隻を護衛に付けている。

 このため、現在のレイフォル防衛艦隊の陣容は戦艦2、巡洋艦20、駆逐艦20となっている。

 

「艦隊の再編成は終わりましたが、司令、どうされますか?」

 

 指示を求めた参謀長シビエ・クリスチアン大佐に、アンダールは怒気を(はら)んだ声で答えた。

 

「決まっておろう。全艦、イルネティア島に針路を取れ! ロデニウスの機動部隊を捕捉し、これを撃滅する!」

 

 空母が失われたため制空権は奪われているが、こちらにはまだ戦艦2隻と巡洋艦20隻が健在だ。水上砲戦なら、大いにやれるはずだ。アンダールはそう考えていた。

 そして、そのアンダールの考えの正しさが試される(とき)は、意外に早く訪れた。

 

「司令、対水上レーダーに感あり! 敵艦隊と思われます!」

 

 

 グラ・バルカス帝国海軍レイフォル防衛艦隊がレーダーで捕捉したのは、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊・第27任務部隊(TF27)だった。そして第27任務部隊の方でも、接近するグラ・バルカス艦隊に気付いていた。

 

「電測より艦橋。対水上電探に感あり。大型反応2、中型反応5以上が接近中。艦隊よりの方位350度、距離ヨンマルマル(40,000メートル)!」

「通信より艦橋、逆探感あり。波長10㎝のレーダー波と推定。発信源は艦隊よりの方位345度と推定!」

「来たな」

 

 戦艦「()(さし)」の夜戦艦橋にて、仮眠から戻ってきていた堺が、報告を受けてそう呟いた。

 戦艦「武蔵」は改二改造の際に電子装置を一新し、索敵レーダーとしてアメリカ製の「SK+SG-1 レーダー」、射撃用レーダーとして「33号対水上電探」を搭載している。元々「21号対空電探」のアンテナが乗っていた場所、つまり「15メートル二重測距儀」の腕の上に、索敵レーダーのアンテナを乗せていた。

 SG-1 レーダー(SKレーダーは対空電探。対水上電探がSG-1 レーダーである)の性能では、41㎞先から戦艦を探知できる。それを利用し、敵艦隊を見つけたのだ。

 なお、本来なら「21号対空電探」のアンテナよりも圧倒的に重い「SK+SG-1 レーダー」のアンテナ(21号電探のアンテナは重量840㎏、対してSK+SG-1は最低でも1,060㎏+1,350㎏)を、15メートル二重測距儀の腕の上に載せられるかどうかは非常に怪しいのだが……艦娘ゆえの便利さであっさり載せてしまっている。さすが妖精さんの謎技術である。

 

「攻撃隊からの情報では、敵は戦艦2、巡洋艦20、駆逐艦40ってところだ。損傷艦の退避などで数は減ってるだろうが、基本的にこっちより数が多いんだ、本気でかからにゃいかんぞ」

 

 第27任務部隊の編成は、戦艦3隻、航空母艦2隻、巡洋艦4隻、駆逐艦16隻。このうち空母の「(しょう)(かく)」と「(ずい)(かく)」は、第二四駆逐隊の「(うみ)(かぜ)」「(やま)(かぜ)」「(かわ)(かぜ)」「(すず)(かぜ)」を護衛につけて後方に置いてきたため、敵艦隊との正面決戦に臨んでいるのは戦艦3、巡洋艦4、駆逐艦12である。

 敵に対して数で劣っており、かなり厳しい戦いになると思われる。これを覆す可能性があるのは、堺の策略と…戦艦の性能である。特に、今堺が座乗している「武蔵」の火力は、大きな期待であった。

 

「敵戦艦は確か、()()型戦艦1に(なが)()型戦艦1、(こん)(ごう)型戦艦1だったな、相棒よ」

 

 “武蔵”が堺に尋ねた。

 

「ああ。そして攻撃隊は、長門型は撃沈確実だと報告している。となると、大型反応として表れているのは加賀型に金剛型ってことになる。

武蔵、お前は加賀型を相手取れ。()(えい)(きり)(しま)には荷が重い」

「了解だ!」

 

 第27任務部隊の主力となる戦艦は、金剛型の「比叡」「霧島」と、超大和(やまと)型仕様に改造された「武蔵」なのだ。

 敵となる加賀型戦艦は、史実日本海軍でいうと長門型戦艦の拡大発展型として計画されていた戦艦で、基準排水量39,900トン、主砲として45口径41㎝連装砲5基を備えている。戦艦としての火力はかなり大きいし、防御装甲は41㎝砲に対応したものであるから、改二になっているとはいえ“比叡”と“霧島”では荷が重い。“武蔵”で倒すしかない。

 ちなみに“武蔵”の今の兵装は、45口径51㎝連装砲3基、65口径10㎝連装高角砲18基、25㎜対空機銃150丁である。副砲として搭載していた60口径15.5㎝三連装砲は、性能こそ傑作ではあるが戦艦に副砲を搭載する意味が薄いと判断され、撤去されてしまった。その代わりに、副砲があった部分を改装して10㎝連装高角砲6基を設置し、12.7㎝連装高角砲も全て10㎝連装高角砲に換装したため、18基という膨大な数の高角砲が搭載されている。

 

「問題は、敵の巡洋艦と駆逐艦だな。数がやたら多い……策略は用意したが、それが発動するまでの間、限られた戦力で防戦しなきゃならん。それができるかどうかが問題だな」

 

 第27任務部隊の戦力は、(たか)()型重巡洋艦の「愛宕(あたご)」と()(がみ)型航空巡洋艦の「最上」、(せん)(だい)型軽巡洋艦の「川内」と()()()型軽巡洋艦の「阿賀野」、それに第一一駆逐隊「吹雪(ふぶき)」「(しら)(ゆき)」「(はつ)(ゆき)」「()(ゆき)」、第一八駆逐隊「(かすみ)」「(あられ)」「陽炎(かげろう)」「不知火(しらぬい)」、そして駆逐艦「(しら)(つゆ)」「時雨(しぐれ)」と「(しま)(かぜ)」「(あき)(づき)」からなる混成第二七駆逐隊だ。このうち「川内」と第一八駆逐隊は訳あって前線に出せないため、当面は戦艦3、重巡2、軽巡1、駆逐艦8で戦況を支えなければならない。

 戦艦の数では相手に勝るが、巡洋艦と駆逐艦の数で圧倒的劣勢である。しかもこちらには、敵にとって脅威度の高い「武蔵」までいる。おそらくだが、敵は相当数の巡洋艦・駆逐艦を「武蔵」に差し向けてくるだろう。グラ・バルカス帝国の重巡洋艦は高雄型に酷似した外見であり、性能も高雄型に準じると考えれば魚雷を持っている可能性は高いと見られる。その大量の魚雷を「武蔵」に叩きつけ、第二次バルチスタ沖大海戦の敵討ちを狙ってくる可能性は大いにある。戦況は厳しいどころの騒ぎではない。

 

(だが、それならそれを逆手に取るってのもアリだな。武蔵が装備する10㎝砲のうち、片舷に指向可能なのは10基20門だ。その気になれば、軽巡までなら数の暴力で返り討ちにできるし)

 

 そう考えつつ、堺は指示を飛ばした。

 

「無線封鎖解除!

ラダメス1よりラダメス全艦へ、取り舵いっぱい、針路0度。右舷砲雷撃戦用意!」

「今のうちに丁字で頭を押さえるのか?」

 

 堺の指示を聞いて“武蔵”が尋ねた。

 

「そういうこった。

それと、戦艦諸君に目標割り当てを通達する。武蔵目標、敵1番艦。加賀型をやれ。比叡目標、敵2番艦。霧島は敵の数を減らせ、特に巡洋艦を狙って撃て!」

「了解した」

『気合い、入れて、いきます!』

『霧島了解。第三次ソロモン海戦ばりの殴り合いですね!』

 

 お前がその海戦の名を出しちゃ駄目だろう、と堺は心の中でツッコんだ。

 

「沈むなよ、霧島」

『もちろんです』

 

 史実では、戦艦「霧島」は第三次ソロモン海戦で敵の新鋭戦艦2隻を相手取り、沈没しているのである。先の“霧島”の発言は、堺にはフラグにしか聞こえなかったのだ。

 

「全艦、両舷前進、第四戦速に増速! 単縦陣に移行!

混成第二七駆逐隊と最上は、武蔵の前に出よ! 比叡、霧島、阿賀野、第一一駆逐隊、愛宕は、呼び上げた順番で武蔵に続け!」

 

 闇夜の中でも、第27任務部隊の各艦は一斉に動き出し、前方警戒のための第二警戒航行序列を崩して1本の槍のような単縦陣を組み上げていく。しかもこの複雑な艦隊機動を、速度を上げながらやってのけたのだ。練度の高さが窺い知れる。

 

『提督、私たちはどうするの?』

A(エース)チーム…川内と一八駆は、すまないがもう少し待機しててくれ。刻が来たらこっちで命令を出すから、そしたら所定の行動に移れ」

 

 無線機越しの“川内”の質問に、堺はそう答えた。

 

『オッケー! 久々の夜戦だ、腕が鳴る!』

 

 声の調子から、“川内”は明らかにテンションが上がっている。戦闘を目前にして少しは落ち着いたようだが、いつまた脳内麻薬(カテコールアミン)がドバッと出るか分からない。

 

「通信長、混成第二七駆逐隊と『最上』に命令。右舷魚雷戦用意、距離推定フタゴーマル(25,000メートル)、雷速36ノット! 目標、右同航すると見られる敵艦隊。こちらから命令があり次第発射せよ」

「了解、打電します!」

 

 なんと堺、何を思ったかいきなり魚雷発射準備命令を出している。

 

「何を考えたんだ、相棒よ?」

 

 “武蔵”が尋ねると、堺は事もなげに答えた。

 

「なに、相手の動きをちょっと予想して、それに対する策の準備を命じただけさ」

「相手に届くのか?」

「おいおい、こっちの魚雷を何だと思ってんだ? 戦艦砲と同等の射程があるんだぞ?」

 

 第13艦隊が装備している「40式魔導酸素魚雷改」の射程距離は、想像を絶する物がある。なんと、雷速36ノットで38,000メートル(単純な数字では長門型戦艦の主砲の射程より長い)もあるのだ。

 本来なら「無駄に射程が長い」で済んでしまうのだが、命中率が高いと判断される状況ではこの無駄な射程距離が生きてくる。そう、例えばがっぷり4つに組んでの砲戦となり、敵の進行方向と速度がおよそ一定になる上に回避運動の余裕がないと見込まれるような場合には。

 その時、堺と“武蔵”の身体に遠心力がかかった。左回頭が始まったのだ。戦艦の中では大柄な艦体を持ち、また改造によって排水量が増している「武蔵」だが、鈍重そうなところは全くない。舵が効き始めるや、とても滑らかな動きで左へ回っていく。

 

「もどーせー、舵中央!」

 

 90度回頭したところで、“武蔵”が号令をかけた。

 

「もどーせー! 黒20、第四戦速!」

「主砲、高角砲、右砲戦! 主砲目標、敵戦艦1番艦。高角砲目標、敵軽巡洋艦及び駆逐艦! 的には困らん、目についた奴を片っ端から撃て!」

 

 まずはとりあえず敵の目をこちらに引きつけ、数を減らす。それが、堺と“武蔵”の策略だった。

 

「ラダメス全艦、針路変更完了。砲雷撃戦よーい良し!」

「敵艦隊の方位と距離は?」

「はっ、当艦隊よりの方位80度、距離フタロクマル(26,000メートル)。針路285度と推定!」

「分かった。敵はこっちに頭を押さえられるのを嫌って回頭する可能性が高い、回頭したら報告しろ!」

「了解です!」

 

 堺がやろうとしているのは、かつて“()()”が使った戦法である。回頭中の艦は止まっているように見えるため、そこを狙って撃つことでラッキーパンチを狙っているのだ。もし当たらなくても、「敵にグレードアトラスター級がいる」と気付かせることができる。

 

「電測より艦橋、敵距離ヒトキューマル」

 

 このくらいの距離になれば、一応敵はこちらの有視界内に入っている。今夜は満月に近い月が2つも出ているから、光源には困らない。各艦の「熟練見張員」なら、敵の艦影を目視で捉えられているはずだ。

 そして、堺の予想の正しさが証明された。

 

「見張より艦橋! 敵戦艦1番艦、面舵! 巡洋艦なども順次回頭中と認む!」

 

 それを聞くや、堺は即座に命じた。

 

「全艦砲撃始め!」

 

 直後、無線などを通じて一斉に返事が返ってくる。

 

「この武蔵の主砲は、伊達ではない! 行くぞーっ!」

『私、頑張るから! 見捨てないでぇー!』

『主砲、敵を追尾して、撃てぇっ!』

撃ち方始めー(ぱんぱかぱーん)!』

『来るなら来い!』

『えへっ、夜戦で活躍したかったのよねぇ』

『まいどありー♪』

『君たちには、失望したよ』

『連装砲ちゃん、おねがーい!』

『秋月の夜戦、お見せしましょうか』

『お願い! 当たってください!』

『特型駆逐艦の力、ご覧くださいませ』

『私だって本気を出せばやれるし…』

『深雪スペシャルを喰らわせてやるぜ!』

 

 直後、51㎝砲の凄まじい砲声が全ての音を圧した。それに紛れるようにして、堺が新たな命令を飛ばす。

 

「Aチーム、出撃せよ! 武運を祈る(グッドラック)!」

 

 

 TF27の各艦が撃った砲弾は、順次回頭しつつあったレイフォル防衛艦隊の周囲にまとまって落下した。多数の砲弾が集中したため、一瞬海面そのものが破裂したかとすら思われた。

 その中で不幸だったのは、キャニス・ミナー級(特型駆逐艦に酷似)駆逐艦「アルゴラブ」である。回頭中で側面を(さら)したところに「最上」の15.5㎝砲弾が落下し、第二魚雷発射管に被弾したのだ。いっぺんに誘爆した魚雷の威力は凄まじく、同艦は主砲弾1発すら撃たずしてこの世から文字通り消滅してしまった。もちろん艦長以下全クルーが道連れである。

 そんな中、戦艦「マルゼラン」艦橋にて、

 

「うおおっ!?」

 

 アンダールは、予想を遥かに超える凄まじい爆圧を感じて叫び声を上げた。

 アンダールの乗る「マルゼラン」は、排水量4万トンに迫る巨艦である。決して駆逐艦などではない。それなのに、敵戦艦のものと思われる砲弾が落下した瞬間、「マルゼラン」は嵐の海に浮かぶ木の葉のように振り回されたのだ。それほど敵弾の爆圧は凄まじかった。

 これは明らかに只事ではない。

 

「艦長、敵戦艦の1隻の反応が明らかに他よりでかいです!」

 

 艦橋に詰めていたレーダー手が、「マルゼラン」艦長ジョセフ・エインスワース大佐に叫んだ。続いて見張所から報告が入る。

 

『見張所より艦橋! 敵戦艦は3隻。うち1番艦はグレードアトラスター級と認む!』

「な…何だと!?

グレードアトラスター級だと!? 間違いないのか?」

『あの独特のシルエットは見間違えようがありません!』

「了解した!」

 

 艦長と見張員のやりとりを聞いて、アンダールは体内を流れる血が(ふっ)(とう)するのを感じた。

 敵のグレードアトラスター級…間違いない。東部方面艦隊旗艦「ブラックホール」を沈めた奴だ。思わぬ仇敵に出会えたものである。

 しかも、「ブラックホール」は敗れこそしたものの、敵戦艦を大破させたという報告が上がっている。そして第二次バルチスタ沖大海戦からの経過時間(2週間ちょっと)を考慮すれば、敵戦艦は応急修理こそ終わっているだろうが、根本的にはまだ完全には直っていないはずだ。つまり、敵戦艦は大破したままここにいる……勝ち目は十分あるだろう。

 

(やれる。確実に奴を仕留め、「ブラックホール」とカイザル閣下の仇を討つ!)

「主砲、左砲戦! 『マルゼラン』目標、敵1番艦! グレードアトラスター級を叩け!

『ガーネットスター』目標、敵2番艦! 重巡洋艦は、敵戦艦3番艦を牽制せよ!」

 

 命令を下すアンダールの声には、興奮が見え隠れしている。

 

「水雷戦隊は、敵グレードアトラスター級に向けて突撃! 魚雷を以て奴を沈めろ!」

 

 ここで敵のグレードアトラスター級を撃沈すれば、大殊勲であることは間違いない。

 何としても奴を沈める…アンダールはそう誓った。

 

 

「敵艦隊、面舵! 当艦隊と同航戦に入ります! 距離ヒトハチマル!」

 

 レーダー担当の妖精と見張員妖精が同時に上げたこの報告こそ、堺が待ち望んだ報告だった。

 

「敵が食いついたな、今だ。混成第二七駆逐隊及び最上へ、敵距離修正ヒトハチマル! 魚雷発射始め!」

 

 敵艦隊が変針し、同航戦に入ったということは、敵はTF27に対して正面から砲雷撃戦を挑むつもりのようだ。こうなると、がっぷり4つに組んだ状態での戦闘となる。そのため、敵は隊列の乱れなどの余計な混乱の元になる回避運動を取れない状態になったのだ。…堺の狙い通りに。

 敵がほぼ一定の方向に一定の速度で進むなら、その移動先を予想して魚雷を撃ち込むことができる。普通の空気式魚雷は、射程が1万メートル程度しかないから届かないが、最大射程38,000メートルの「40式魔導酸素魚雷改」なら楽々だ。敵艦隊の土手っ腹に、強烈な一撃をお見舞いできる。

 

『甘い甘い! いっけぇーっ!』

『五連装酸素魚雷、いっちゃってー!』

 

 無線に入ったのは“最上”と“島風”の声だ。

 

「最上より通信! 『本艦及び混成第二七駆逐隊、魚雷発射完了。命中まで約16分』!」

「16分……想像はしていたが、長いな。だがAチームも仕込みに動いているし、それまでは頑張ってこっちが踏ん張らないと」

 

 16分という時間は、非常に長い。5分ですらじれったくなることもあるのに、その3倍である。気が遠くなりそうにも思えるが、できることをしながら待つしかない。

 敵艦隊が変針している間に、主砲の装填時間が短い子たちは第2射、第3射と撃っている。「武蔵」の高角砲も砲身に45度の仰角をかけ、矢継ぎ早に発砲し始めていた。

 

『敵軽巡1隻に命中弾多数! 火災発生!』

 

 敵艦隊の隊列の前方に、炎が煌めいているのがはっきりと見える。これは実は、「島風」と「秋月」が2隻がかりでタコ殴りにした結果であった。イージス艦の単装速射砲顔負けの性能を持つ「連装砲ちゃん」と、高角砲故の装填の早さと測距儀による正確な照準を両立した「連装砲くん」が、猛威を奮っている。

 

「霧島より入電、『敵重巡1隻轟沈』!」

 

 どうやら「霧島」がぶっ放した41㎝砲弾が、重巡洋艦に命中したらしい。

 41㎝砲弾が相手では、重巡洋艦の装甲などボール紙も同然である。直撃弾を受けた重巡洋艦は、文字通り骨すらも残さずに消し飛んだだろう。

 

「今のところは順調だな。相手は多い、取っ替え引っ換えでも良いからとにかく撃て! 無理に撃沈しなくて良い、相手の戦闘力を削ぐんだ!」

 

 堺がそう命じた時、艦橋にブザー音が鳴り響いた。それが途切れると同時に、目覚まし時計にしては物騒すぎる轟音が轟き、凄まじい衝撃が全身を貫いた。51㎝砲発射の衝撃である。

 その轟音に混じって「敵艦隊発砲!」の報告が上がる。当然だが敵もやられっぱなしではない、反撃してきたのだ。

 

『見張より艦橋。敵軽巡・駆逐艦の一部が隊列を離れ、こちらに突進してきます! 本艦に対する雷撃の意図ありと思われる!』

 

 さらに堺の懸念通り、敵は「武蔵」に突撃水雷戦を仕掛けようとしているようだ。

 その報告を受け、堺は“武蔵”の方を見た。

 

「こんな命懸けの方法を取らせて申し訳ないが……武蔵、頼む。ここまでくれば(いち)(れん)(たく)(しょう)だ」

「残念だが相棒よ、そのセリフを言う相手を姉上と間違えているぞ。安心しろ、私も沈むつもりはないからな!」

 

 そう言うと、“武蔵”は闇の向こうの敵艦隊を睨みつけ、声を張り上げた。

 

「さあ、こっちを見ろ! この私、武蔵はここにいるぞ!

(たん)(しょう)(とう)、照射ぁぁぁ!!」

 

 次の瞬間、「武蔵」の煙突付近から複数の太い光芒が伸び、敵艦隊を照らし出した。「九六式150㎝探照灯」が点灯されたのだ。

 

「砲術、測的をやり直せ!

高角砲は照射した敵に集中射撃! やられる前にやれ!」

 

 “武蔵”が号令を飛ばす。

 真夜中の海上というものは非常に暗く、タバコの火程度の灯りでも容易に目立つ。そんなところに煌々と灯りを点けたのだから、集中砲火を浴びるに決まっている。ならば、ダメージを負う前に、1隻でも多く仕留める必要がある。

 大気が激しく震える音が、「武蔵」上空から甲高く響いてくる。敵戦艦の主砲弾だ。その音が途切れた瞬間、「武蔵」右側の海面が大きく盛り上がり、5本の水柱が噴き上がる。

 流石に初弾で命中することはなかった。だが、「武蔵」が煌々と灯りを点けた状態である以上、次は確実に当ててくるだろう。

 

「測的完了! 主砲諸元再入力良し、いつでも撃てます!」

「主砲、装填完了!」

「これだけ明々と照らしているんだ、ぶち当ててみせろ! 全門斉射ぁ!」

 

 砲声にも負けない大声で“武蔵”の指示が飛ぶ。主砲発射ブザーがそれに続き、そして恐ろしいほどの衝撃と轟音が全てを塗りつぶした。51㎝砲6門の斉射である。

 その直後から、「武蔵」艦体に次々と軽い衝撃が走り、金属的な打撃音が艦橋に響くようになった。明らかに被弾しているのだが、その衝撃は51㎝砲の反動よりずっと小さい。敵の巡洋艦や駆逐艦の砲撃が命中しているのだ。

 

「ふっ、いいぞ、当ててこい! 私はここだ!」

 

 しかし“武蔵”は一向に痛痒を感じている様子がない。それはそうだろう、戦艦の砲撃ですら弾き返せる重装甲に、巡洋艦や駆逐艦の豆鉄砲が通る訳がない。非装甲区画の高角砲や機銃などは破壊されているはずだが、バイタルパートは全ての敵弾を弾き返している。

 

「だんちゃーく、今っ!」

 

 被弾による金属音の叫喚の中で砲術長妖精が叫ぶ。続いて、

 

「直撃弾1、火災発生!」

 

 歓喜の報告が上がった。

 

「まだだ、戦艦は簡単に沈むもんじゃない。それに敵戦艦の方が手数が多いんだ、格下だからと油断せずに全力でやれ!」

 

 窘めるように堺が指示を出す。

 よく言われる「戦艦が簡単に沈むか!」は、万国共通だ。絶対に侮ってはならない。

 

(喜ぶのは、さっきの雷撃とAチームの作戦がハマってからだ)

 

 堺が腹の底でそう呟いた時、

 

「魚雷到達まであと14分」

『第5高角砲損傷!』

『第11〜14対空機銃損傷!』

『第1探照灯に直撃弾! 使用不能!』

『「最上」被弾! 続いて「秋月」被弾!』

『見張より艦橋、「初雪」被弾!』

 

 複数の報告が同時に上がってきた。やはりというか当然というか、敵の砲撃が「武蔵」に集中しており、非装甲区画にダメージが蓄積している。だがそれだけだ。

 

「遠慮はしない、撃ぇーっ!」

 

 “武蔵”の号令と共に、51㎝砲の咆哮が響く。

 

『見張より艦橋、「比叡」斉射!』

 

 その報告が届くのと、凄まじい衝撃に「武蔵」が震えるのとが同時だった。敵戦艦の砲撃が当たったのだ。

 やや遅れて報告が上がってくる。

 

『応急より艦橋、後部艦橋に直撃弾! 予備射撃指揮所及び見張台、全滅!』

 

 被害内容としては悪い方だ。予備射撃指揮所がやられた今、艦橋トップの射撃指揮所をやられれば「武蔵」は効果的な砲戦ができなくなってしまう。目が見えないまま拳を振り回すようなものだ。

 

「まだだ…まだ終わらんぞ!」

 

 苦境に抗うように、“武蔵”が声を奮い立たせた。それに重なるようにして、砲術長妖精の「だんちゃーく、今!」という声が聞こえた。

 

 

 弾着の瞬間、戦艦「マルゼラン」はこれまでにないほど激しく震え、金属的な叫喚を上げた。重大な損傷を受けた、とアンダールは直感した。その直感は正しかった。

 

「第1砲塔大破!」

『第4砲塔に直撃弾! 砲塔、応答無し!』

「……!」

 

 シビエ参謀長が、声にならない叫びを上げた。

 

「艦長…!」

 

 砲術長以下の面々が悲痛な表情を見せる中、エインスワース艦長が声を励ます。

 

「攻撃続行! 最後まで諦めるな! まだ主砲は3基残っている!

被弾した砲塔は、弾火薬庫への注水急げ!」

 

 そんな中、アンダールは必死で頭を回す。

 

(何だこれは……! 我々は本当に、手負いの相手と戦っているのか?

追い詰められているのはこちらではないか!)

 

 相手が相手だけに、アンダールは油断するつもりはなかったが、手負いの敵戦艦など比較的楽に倒せるはずだと思っていた。

 だがこれは何だ。

 敵戦艦は、損傷しているとは思えないほど激しい抵抗を見せているではないか。そして敵戦艦にまともな被害を与えられないうちに、「マルゼラン」は火力の4割を失ったのだ。しかも寡兵であるはずの敵に対して、こちらは既に巡洋艦3隻と駆逐艦2隻を戦列から失い、被害が続出している。

 何が起きているのか、理解できない。

 

(奴の…敵戦艦の主砲は、本当に41㎝砲なのか?)

 

 アンダールは、グレードアトラスター級戦艦の主砲は41㎝砲だと聞かされていた。だがそれにしては、直撃弾を受けた時の衝撃が大きすぎる気がする。

 グレードアトラスター級、ひいては敵戦艦は、もしかすると41㎝より大口径の砲…口径45㎝くらいの砲を、装備しているのではないのだろうか。

 アンダールが考えを巡らせている間にも、味方には被害が続出している。

 

「駆逐艦ポラリス轟沈! 敵砲撃による魚雷の誘爆と思われます!」

「軽巡アダラ、応答途絶!」

「重巡アステローぺ、被弾多数! 火災発生とのことです!」

 

 敵のグレードアトラスター級はサーチライトを点灯しており、闇夜の中でだいぶ目立っている。こちらとしても照準がつけやすいのだが、それは向こうも同じことだ。サーチライトで照らされた目標に対しては、レーダー照準よりずっと正確に狙いをつけられる。

 そんな目立つ敵戦艦に対し、味方の水雷戦隊が突撃を敢行している。だが敵側も当然こちらの意図に気付いており、護衛の巡洋艦や駆逐艦が激しい砲火を浴びせている。特に、敵の隊列前方にいる駆逐艦と軽巡(実はアンダールは、「秋月」を軽巡洋艦だと思っている)の発射炎が凄まじく、2秒おきくらいのレートで主砲を撃っている。しかも、敵のグレードアトラスター級も舷側に多数の発射炎を閃かせている。おそらく高角砲を駆逐艦に向けて撃っているのだろう。砲門数と手数の多さで、こちらの駆逐艦が圧倒されている。

 

「突撃せよ! 何とかして敵を魚雷の射程に捉えるんだ!」

 

 アンダールは必死に指示を飛ばす。

 敵戦艦は、想定よりも遥かに強力だ。敵の数は少ないが、本気でかからなければならない。

 

 イルネティア島南東沖の海、星空の下に戦いは加熱する。




この砲戦はまだ少しだけ続くんじゃ。
堺の策略とは何か? Aチームこと"川内"と第一八駆逐隊の行動とは…?


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次回予告。

イルネティア島南東沖に激突したロデニウス艦隊とグラ・バルカス艦隊。必死に戦況を支える堺と艦娘たち、敵のグレードアトラスター級を討ち取らんとするアンダール。そして堺の策略が発動する…
次回「イルネティア解放戦(5)」
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