鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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まずい、このままのペースだとイルネティア島を解放するのに10話以上使ってしまうかもしれない…!

あと、今回は盛大にネタが入っております。それに関連して、先に謝罪したいことがあります。
全国の"川内"ファンの皆様、ごめんなさい!



160. イルネティア解放戦(5)

 中央暦1643年6月18日 23時51分、イルネティア島からの方位130度167浬の海域。

 本当なら真っ暗であるはずのその海域は今、複数の光源によって赤く照らし出されていた。もちろんただの光源であるはずがない。

 赤い光源の正体は、全て火災炎である。それは海に浮かぶ何隻もの船から発生していた。燃えながらもまだ動いている船もいれば、炎の塊となって洋上に停止している船もいる。

 そして、動いている船同士の間ではひっきりなしに発砲炎が煌めいていた。そう、海戦が起きているのだ。

 

 それらの船のうちで一際大きな船が1隻、激しく炎上しながら戦っている。夜中に火災なんて起こせば、砲撃の良い的だ。実際にその船はもう何発もの命中弾を受け、艦体中央から後部にかけて真っ赤な炎が上がっている。しかし、速力が衰えることもなく、3基の巨大な連装主砲もおよそ50秒おきに発砲している。

 

「まだだ…まだこの程度で……この()(さし)は、沈まんぞ!!」

 

 その巨艦…ロデニウス海軍第13艦隊・第27任務部隊旗艦「武蔵」の艦橋では、褐色の肌とツインテールの銀髪を持つ大柄の女性…大和(やまと)型戦艦2番艦の艦娘“武蔵”が、苦しげな表情ながらも声を張り上げる。

 戦艦「武蔵」は現在、十数分に及ぶ敵艦隊との砲戦を戦った結果、敵の戦艦・巡洋艦・駆逐艦から集中砲火を受けており、既に中破を通り越して大破しかけている。数えることもできないほど無数の直撃弾を受け、右舷を指向可能な高角砲はその大半が破壊され、右舷側の対空機銃は全滅、「探照灯」も全て沈黙していた。しかも、戦闘中に第4斉射を放ったところで敵の砲撃を受け、艦橋トップの射撃指揮所に被弾するという悲運にまで見舞われた。だが魚雷は1本も喰らっていないため、航行能力は健在だ。「戦艦が簡単に沈むか!」の典型例である。

 炎を背負い、艦上構造物をズタズタにされ、それでもなお戦おうとする様は、唇が切れ目が潰れながらも逆転のカウンター・パンチを狙っているボクサーを思わせる。

 そして“武蔵”が相手取っている敵戦艦もまた、彼女に大同小異の惨状を呈していた。ただ、敵戦艦とこちらの主砲の口径を比較すれば、敵の方がより追い詰められているはずだ。その証拠に、「武蔵」の機関はまだ健在で27ノットの最大戦速を発揮できているが、敵戦艦は次第に行き脚が鈍ってきている。機関を損傷した、もしくは喫水線下に被弾した等の理由で速度を出せないのだ。

 

「魚雷到達まであと1分!」

「こっちの方位盤が潰れて狙いが不安定なのを差し引いても、まだ()つか……だがここまでだ! 武蔵、終わりにしろ!」

 

 “武蔵”に指示を飛ばしているのは、30代に差し掛かるか否かという見た目の若い男性。ロデニウス海軍第13艦隊司令にして日本国海上護衛軍艦娘部隊・タウイタウイ泊地艦隊司令官、(さかい) (しゅう)(いち)(ちゅう)(じょう)だ。顔には疲労の色が濃く出ているが、充血した目に凄まじい闘志を滲ませ、闇の向こうの敵艦隊を睨みつけている。

 

「了解だ!

第20斉射、()ぇーっ!」

 

 射撃方位盤が壊れても、主砲の揚弾機構は健在だ。そのため3基の51㎝連装砲は、これまでと変わることのない凄まじい砲声を響かせた。ただし、その発射タイミングはばらばらである。射撃指揮所が2つとも御釈迦になってしまい、統制砲撃が不可能になったからだ。現在は砲側測距儀による砲塔個別照準での戦闘を余儀なくされている。それでもまだ戦えているのは、射撃用の「33号対水上電探」と艦内の通信システムが生きており、それで弾着修正を無理矢理行っているからである。

 「武蔵」が主砲を発射すると同時に、敵戦艦の火災炎が大きく揺らめく。主砲を斉射してきたのだ。ただ、その発射炎の数は戦闘開始時より明らかに減じていた。

 弾着を待つ間にも、断続的な打撃音と炸裂音が連続する。未だ健在な敵の巡洋艦や駆逐艦から、砲火を浴びせられているのだ。

 だが被害報告はあまり届かない。敵の攻撃で見張り台が全滅し、艦内電話も一部が不通になってしまったからだ。“武蔵”としては、重大な被害が出ていないと信じて戦うしかない。

 

「味方の被害はどうか!? 健在なる各艦は、可能ならば応答せよ!」

 

 堺が無線で命令を出しているが、それに答えられたのは“(きり)(しま)”だけだ。他のメンバーは余裕がないと見える。

 

『こちら霧島、現在も敵巡洋艦と交戦中! 本艦の損傷は中破程度と推定。

()(えい)はなおも敵戦艦2番艦と交戦中、被害状態は中破ないし大破。

愛宕(あたご)はまだ浮いていますが、速力7ノットに低下、もはや航行不能と推定。()()()も火災発生、敵弾が集中しています。第一一駆逐隊も半壊です』

「了解した。無茶はするなよ!」

『もちろんです、プロですから』

 

 第27任務部隊(TF27)のうち、「武蔵」に後続する各艦も被害甚大のようだ。

 あと、“霧島”は「野郎、ぶっ◯してやらぁぁぁぁぁ!」などとは言わない。いいね?

 

「くそ、予想はしていたが、味方の被害が甚大だ……。前衛の被害も凄まじいし…」

 

 苦々しげに呟く堺。

 「武蔵」の前方に展開している味方も、被害が大きい。堺が見た限り、今のところまともに被弾していないのは「時雨(しぐれ)」だけだ。「()(がみ)」は炎上して影絵のように浮き上がっており、そこに複数の敵弾が殺到して水柱に取り囲まれている。「(しま)(かぜ)」は必死で煙幕を展開しながら戦っており、「(あき)(づき)」はこれまでに「島風」と共同で軽巡4隻、駆逐艦5隻を叩き潰す快挙を成したが、それを目の敵にされて集中砲火を受け、もはや()(そく)(えん)(えん)である。

 

「現時点で艤装放棄しちまったのは、(しら)(ゆき)(はつ)(ゆき)(しら)(つゆ)の3人か…。そして秋月、愛宕、阿賀野も放棄確定しそうだし……うう、心が痛い……」

 

 悲痛な様子で呟く堺。責任感の強い彼としては、艦娘たちや妖精たちが傷付いた原因を己の戦略・戦術指揮の拙劣さに求めてしまうきらいがあるのだ。

 だが今の場合、おそらく最も心配なのは堺の財布だろう。これだけ大破&艤装放棄が続出してしまえば、修理代で瞬く間に財布の中身が寒くなるからである。……それを口に出さないのは、堺の優しさ故か。

 

「だんちゃーく、今っ!」

 

 そこへ砲術長妖精の声が入った。

 とっさに窓の外を見やった堺と“武蔵”。2対の視線の先で、火災により姿を浮かび上がらせていた敵戦艦の艦上に、ぱっと新たな閃光が走った。そして次の瞬間、敵艦後部で大きな爆発が起きた。一瞬だけ周囲の闇が駆逐され、他の敵艦の姿が見える。

 

「「やったか!」」

 

 堺と“武蔵”は、2人とも身を乗り出して異口同音に叫んだ。

 少し遅れて、電測を担当する妖精から報告が入る。

 

『電測より艦橋。敵戦艦1番艦、速力低下! 現在の速度は5ノット程度と推定!』

「どうやら止めだな」

 

 どこか安堵した様子で堺が呟いた。その直後、溜めていたものを一気に吐き出すような大声で、別の報告が届いた。

 

「魚雷到達…じかーん!!」

 

 

 一方、グラ・バルカス帝国海軍レイフォル防衛艦隊旗艦・マルゼラン級戦艦「マルゼラン」は、(だん)(まつ)()を迎えかけていた。

 戦艦「マルゼラン」は、旧日本海軍の()()型戦艦に酷似した外見・性能を有する。41㎝砲に対応できる防御力を持ち、主砲として45口径41㎝連装砲5基を装備するなど、戦艦としては高性能である。

 しかし、今回対峙した敵…自国のグレードアトラスター級戦艦に似た敵戦艦は、「マルゼラン」より強力な火力を有していた。たった1回の斉射で「マルゼラン」は主砲2基を一挙に潰され、苦境に陥った。その後、味方の駆逐艦が敵戦艦の艦橋上部に砲弾を命中させ、射撃指揮所を破壊したようで、敵の砲撃命中率は低下した。だがそれでも敵戦艦の主砲弾は時折命中し、その度に「マルゼラン」は強烈なダメージを受けた。具体的には主砲塔をさらに1基やられ、飛行甲板は大破し、左舷の副砲・高角砲・機銃はほぼ全滅、レーダーも大半がブラックアウト。それだけではなく、喫水線下にも2、3発命中し、「マルゼラン」の速力は12ノットまで低下していた。

 そしてたった今、敵戦艦の射弾は新たに2発が「マルゼラン」に命中。それは「マルゼラン」のバイタルパートを貫いて艦の深部で炸裂し、機関室・発電機室といった艦の心臓部を破壊した。これにより、「マルゼラン」の最高速度はついに4ノットが限界となってしまった。

 もはや「マルゼラン」を救うことはできない。

 

「総員退艦! 繰り返す、総員退艦!」

 

 艦長ジョセフ・エインスワース大佐が指示を出す傍で、レイフォル防衛艦隊司令アンダール・ジャライル少将は怒りに拳を震わせていた。

 

「おのれロデニウス軍め…!」

 

 不意に艦橋の照明が全て消え、生き残っていたレーダーの画面も一斉に黒くなった。発電機室をやられたことで、電源が落ちたのだ。おそらく艦内電話線も全滅だろう。

 伝令、もしくは伝声管を使って連絡するしかないが…果たしてあちこち壊れ、電源も落ちたボロボロの艦内で、それらの連絡手段が有効に機能するかは不透明だ。

 

()()きの兵は艦内に走れ! 総員退艦の命令を伝えろ!」

 

 ほぼ絶望的な状況下でも、エインスワース艦長は1人でも多くの兵を生き残らせようとしていた。

 と、突然、「マルゼラン」前方にいたタウルス級重巡洋艦「メローペ」左舷に、巨大な白い水柱が突き立った。排水量13,000トン超の「メローぺ」の巨体が、大きく右に傾いたようにアンダールには見えた。次の瞬間には「メローぺ」は激しい爆発を起こし、揺り戻しによって急激に左へ傾いたかと思うと、あっという間に消え去った。続いて「メローぺ」に後続していたタウルス級の「アルデバラン」も、同様に左舷に水柱を突き立てられ、大爆発を起こして轟沈していく。

 

「「な……!? ぎょ、魚雷だと!?」」

 

 アンダールとエインスワースは揃って仰天した。

 魚雷は左舷方向から来た。ということはおそらく、今交戦中の敵艦隊が撃ったものだろう。

 だが、その敵艦隊とは最低でも15,000メートルは離れているのだ。ということは…敵の魚雷は、とんでもない射程距離を持っていることになる。

 第二次バルチスタ沖大海戦に敗れた東部方面艦隊の生き残りが、「敵は1万メートルの彼方から魚雷を撃って命中させたようだ」と報告していたが、あれは戦場によくある誤報などではなかったのだ。敵は間違いなく、凄まじい長射程を持つ怪物魚雷を持っているのだ。

 

「そ、総員退艦急げーっ! 魚雷が来るぞ!」

 

 闇の中、エインスワースの叫びには恐怖が多分に含まれていた。

 次の瞬間、アンダールもエインスワースも経験したことのない凄まじい衝撃が、「マルゼラン」の下腹を突き上げた。さっきまでの敵戦艦の砲弾の直撃にも劣らない、強烈な衝撃だ。それが2回連続して起きた。

 2回目の衝撃が収まった直後、今度は「マルゼラン」艦橋に外から白い光が強く差し込む。照明弾にしては強烈な光だ。

 

「今度は何だ!?」

 

 アンダールは叫んだが、発生した現象を知る術を彼はもはや持ち合わせていなかった。

 2発の魚雷を左舷に受けた「マルゼラン」は、ついに浸水が復元力の限界を超えてしまい、轟音を上げながら急激に左舷に傾いて横倒しになった。その直後、さっきまでの全力運転で高温になっていたボイラーを冷たい海水が襲い、結果として水蒸気爆発が発生。「マルゼラン」はアンダール以下の全乗員と共に木っ端微塵に吹き飛んで轟沈したのだった。

 

 

「さあ、行くよっ!」

 

 その掛け声と共に、“(せん)(だい)”は形態変化を実行した。闇を切り裂くような白い閃光が光り、“川内”の身体を包み込む。それが収まった時には、“川内”は自らの指揮する軽巡洋艦「川内」の艦橋中央に立っていた。妖精たちも既に配置に就いている。おそらく後方では、第一八駆逐隊の“(かすみ)”、“(あられ)”、“陽炎(かげろう)”、“不知火(しらぬい)”も形態変化を実行しているはずだ。

 「Aチーム」こと“川内”と第一八駆逐隊は、艦娘形態で「最上」の飛行甲板から海面に飛び降りた後、味方を囮にして敵艦隊の反対側に回り込んでいたのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 かなり危険な機動だった。味方の発砲炎で自分達の影が照らし出されるかもしれないし、それに混成第二七駆逐隊が発射した「40式魔導酸素魚雷改」で同士討ちを喰らう可能性もあった。だがそれでも、できるだけ姿勢を低くして高速で突っ切り、魚雷については必要なら飛び越えるなどして、彼女たちは見事な迂回機動をやってのけた。世界最強の水雷戦隊は伊達ではない。

 「武蔵」が「探照灯」を点灯して戦っていたのは、このためである。「Aチーム」が取り付くまで敵の注意を引きつけるため、最も目立つ手段を以て囮となったのだ。「比叡」他の艦艇も、敵の注意をAチームから逸らすついでに「武蔵」を援護したのである。

 “川内”から見て右側では、敵の戦艦や重巡洋艦が炎上しながら航行している。囮となった味方に軽巡や駆逐艦を向かわせ、自分達は後方から火力支援を行なっていたようだ。さっきの形態変化時の閃光でこちらに気付いただろうが…もう遅い。

 たった300メートルの距離を隔ててすれ違う重巡の影を見つめ、“川内”は腰を折って深くオジギする。

 

「ドーモ、グ帝=サン! 川内です。

さあ、私と夜戦しよっ!」

 

 アイサツからわずか0.02秒で、“川内”はここまで大事に抱えてきた「40式魔導酸素魚雷改」のうち、右舷側に指向可能な8本を全てばら撒いた。

 

「これが我が艦隊のヒサツ・ワザ! 『ゼロキョリ・ギョライジツ』よっ!」

 

 さらに「14㎝単装砲」にも発砲炎を閃かせる。相手との距離が近い上に、相手の図体が大きいため、目を瞑って撃っても当てられそうだ。

 ……“川内”がニンジャ・バイルスに感染しているような気がするが、気にしてはいけない。いいね?

 

『◯ねばいいのに!』

『撃ちます…!』

『悪いわね、もらったわっ!』

『沈め…沈め!』

 

 第一八駆逐隊も、各々掛け声と共に魚雷をばら撒いているようだ。“川内”が撃った分と合わせると、発射した「40式魔導酸素魚雷改」の数は8×5=40本。この近距離戦では決して無視できない数だ。

 

「Aチーム、取り舵反転180度! 左舷魚雷戦用意、発射管を左に向け直して次発装填急げ!」

「取り舵反転180度!」

「左砲戦用意! 目標、敵重巡洋艦! 主砲、左旋回急げ!」

「左舷発射管、魚雷発射用意! 目標は敵重巡洋艦。散布角3度、雷速51ノット、発射雷数8、調整急げ!」

 

 “川内”は立て続けに指示を飛ばした。

 「霞」と「霰」が属する(あさ)(しお)型駆逐艦、並びに「陽炎」と「不知火」が属する陽炎型駆逐艦は、魚雷発射管に次発装填装置を搭載しており、数分で魚雷の装填を行える。これを使うことで、まだ艦内に残っている予備魚雷8本が使えるのだ。強力無比の「40式魔導酸素魚雷改」を、Aチーム全員でもう40本ばら撒くことができる。

 

「まだまだぁ! 夜戦の真髄はここからだよっ!

熟成された軽巡洋艦の魅力は、こんなもんじゃない!」

 

 見ていてお分かりかと思うが、“川内”は脳内麻薬(カテコールアミン)が全開で作用しており、完全にウォーリアーズハイになっている。しかもこの戦場は、彼女のホームグラウンドにして彼女の待ち望んだ夜戦。興奮するのも無理のない話である。

 

「それに、提督も武蔵さんたちも、私たちのために囮を引き受けてくれたんだし…その借りは返さないとねっ!」

 

 身体に遠心力がかかり、艦が左に回っていくのを感じながら“川内”はニヤリと嗤う。

 

「ギョライ・ダートが唸る! さあ、今のうちにハイクでも詠んでおいてね!」

 

 …やっぱりニンジャ・バイルスに感染しているんじゃないか? ボブは(いぶか)しんだ。

 ボブとは誰か、ということについてはお察しください。

 

「じかーん!」

 

 そこへ水雷長妖精が叫ぶ。たった300メートルで魚雷を撃ったせいもあり、15秒もすれば魚雷は敵艦隊に到達してしまうのだ。

 その瞬間、“川内”が狙った敵重巡洋艦の舷側に巨大な水柱が突き立った。1つ、2つ、3つ。

 

ズズウゥゥゥゥン……

 

 鈍い水中爆発の音が、腹の底に響く。

 その直後、ドガアァァァァン!! という激しい爆発音が、鼓膜を突き破らんばかりに轟いた。そして、“川内”が魚雷を撃ち込んだ重巡洋艦が派手な火柱と共に真っ二つとなり、あっという間に海中に引きずり込まれていく。

 酸素魚雷1本だけでも、重巡洋艦を大破させるだけの威力があるのだ(太平洋戦争の「ルンガ沖夜戦」参照)。それより威力の高い「40式魔導酸素魚雷改」を、いっぺんに3本も喰らってしまえば、こうなるのは当然である。

 時を同じくして、第一八駆逐隊も戦果を挙げている。“霞”と“霰”は見事に敵重巡洋艦に魚雷を命中させた。魚雷を喰らった2隻の重巡洋艦のうち、1隻は機関部をやられたらしく、次第に速度を落として停止、激しく燃え盛っている。もう1隻は闇夜を切り裂くような盛大な火柱を噴き上げ、一瞬で真っ二つになると艦首を高々と突き上げて沈んでいった。主砲弾火薬庫にでも引火誘爆したようだ。

 大物食いに成功したのが“陽炎”である。なんと、“比叡”と撃ち合いをしていた敵戦艦にゼロ距離で4本の「40式魔導酸素魚雷改」を直撃させたのだ。金剛型に似た外見の敵戦艦は、魚雷の直撃で左に傾いたかと思うと、揺り戻しで急速に右へ傾き、激しい轟音を上げて横倒しとなった。もう沈没を免れることはない。その隣で“不知火”もまた、魚雷1本で敵重巡洋艦の艦尾を食いちぎり、行動不能に追い込んでいた。

 

「ふふっ、みんなもやったみたいだね。それじゃ、まだ敵の軽巡や駆逐艦がいるだろうし、もう一踏ん張りと行きますか!」

 

 “川内”は気合を入れ直した。

 

 

 Aチームの奇襲攻撃が、海戦の趨勢を決める一撃となった。

 左右から挟撃される形で魚雷を受けてしまい、グラ・バルカス海軍レイフォル防衛艦隊は全ての戦艦と重巡洋艦を失った。おまけに戦艦「マルゼラン」に乗っていた艦隊司令部…司令官アンダール・ジャライル少将、参謀長シビエ・クリスチアン大佐、艦長ジョセフ・エインスワース大佐以下の全員が、味方に新たな指示を出す暇もなく「マルゼラン」と運命を共にしたため、残存する軽巡洋艦や駆逐艦は指揮系統を喪失して混乱状態に陥った。そこに、「武蔵」以下の各艦は残った火力を全て振り向けて迎撃し、さらにAチームが放った魚雷のうち敵艦の間をすり抜けたものが、軽巡や駆逐艦に襲いかかった。それに加えて、Aチームは同士討ちを恐れずに突撃を敢行し、次発装填した「40式魔導酸素魚雷改」を叩き込み、ゼロ距離射撃を見舞った。

 その結果、混乱に混乱が重なったレイフォル防衛艦隊は作戦行動が不可能となり、生き残った艦艇は戦場を放棄してほうほうの体で離脱。最終的に戦場から逃げおおせたのは、軽巡7隻と駆逐艦11隻だけだった。

 

 

「……勝つには勝ったが、もうボロボロだな」

 

 戦闘が終わったと判断された後、第27任務部隊(TF27)の残存艦を全て集合させ、溺者救助の指示を出した堺は、改めて集まった味方の状況を見てそう評価した。

 実際、TF27で無事なのは、後方に退避させていた第二四駆逐隊と第五航空戦隊だけだ。後は大なり小なり被害を受けている。中でもAチーム以外の面々の被害が凄まじく、目も当てられないほどの惨状だった。

 具体的には、艤装放棄に至ったのは“最上”、“愛宕”、“阿賀野”、“白雪”、“初雪”、“白露”、“秋月”の7人。特に“秋月”は敵の集中砲火によって艦娘本人が負傷し、命に別条こそないものの全治2ヶ月以上の重傷だと報告が入っている。その他“武蔵”、“霧島”、“島風”、“吹雪(ふぶき)”、“()(ゆき)”が大破し、“比叡”も大破に近い中破。囮部隊で最後まで中破に至らなかったのは“時雨”だけ、というとんでもない被害だ。損耗率は軽く見ても5割を超えており、もはやこれ以上の作戦行動は不可能である。パガンダ島に撤退する以外、選択肢はない。

 

「予想はしていたが、これほどの被害とはな。俺の指揮がまだまだ未熟だった、ということか…」

「いや相棒よ、それは()()にも程があるというものだろう。貴様は打てる限りの手を打ち尽くした、と私は思うぞ。あれ以上に有効な作戦が、果たしてあったかどうか…」

「そうだろうが、それでも仲間たちに過分の負担と犠牲を強いてしまっただろう……未熟だよ、俺は」

 

 それだけ言って、堺は思考を切り替えた。終わったことに拘っても仕方ないからである。

 

「それより武蔵、『ユーラヌス作戦』の遂行状況の確認だ。第3海兵師団を伴っているTF28は予定通り動いているとして、ムー統括軍の動きはどうだ?」

「予定では、あと5日でムー統括軍を乗せた船団がイルネティア島に到着するはずだが……提督よ、何故第3海兵師団を動かすんだ? イルネティア解放の主力はムー統括軍だろう?」

「……ああ」

 

 堺は頷いたが、その返事には明らかに間があった。「違う、と言いたげだな?」と“武蔵”。

 

「少なくとも、俺の中での認識は違うな」

「どういうことだ? まさか、主力は我が軍だという訳ではあるまい?」

「そのまさかだ。計画上はムー軍が主力で良いし、この世界の歴史書に記される分もそれで構わないんだが、隠れた、というより裏の主力は我が軍の第3海兵師団になると、俺は睨んでる」

「ほう、それは何故だ?」

「理由は2つある。

第1に、イルネティア島にいるグ帝軍の陸上戦力の規模だ。航空部隊の連中の話じゃ、イルネティア島は島としては結構大きい。そんなところに駐留できる陸軍兵力は、決して小さいものじゃないはずだ。

参考までに、日本の陸上自衛隊の場合、北海道に強力な戦車部隊を含む主力部隊を置いている。その例から考えると、イルネティア島にいるグ帝陸軍部隊は結構な規模になると思われるんだ。特にイルネティアの場合、パガンダと違って現地住民もいる。その反乱を抑える意味でも、相当な規模の兵力がいるはずだ。

少なく見積もっても、戦車部隊を含めて3個師団くらいはいるんじゃないかと俺は読んでいるんだ」

「なるほど、だがそれだけではないだろう?」

「無論だ。そこに第2の理由…『ムー統括軍の性質』が出てくる」

「ムー統括軍の性質?」

「ああ。ムーはもともと外征を盛んに行う国じゃない。どちらかといえば、ムー統括軍の存在意義は『防衛』だ。これは、ムーの国柄とこれまでの歴史的経緯にその原因がある。

つまり、ムー統括軍は防衛には強いが、逆にいうと攻勢にはあまり明るくない。特に、どっかの島国を攻め落とすような強襲上陸作戦の経験はないに等しい。そう考えると…」

「言いたいことが分かった。早い話が、ムー統括軍の上陸時だけでもグ帝軍の注意を引きつけるために、第3海兵師団を動かすんだな?」

「正解だ。できるだけ派手に暴れて、グ帝軍の注意を逸らす。その隙にムー軍に上陸してもらうんだ。下手すると、上陸するムーの部隊は戦車などの機甲戦力を伴っていないかもしれんし」

「合点がいった。そうとなれば、我々もできるだけ派手に動かねばならんな?」

「もちろんだ。イルネティア島への直接攻撃、レイフォリアその他ムー大陸のグラ・バルカス帝国拠点への脅し、敵輸送船団の捕捉撃滅……やることは多い。

今のうちに少し寝てきたらどうだ? 休める時に休まねば、身体が保たないぞ」

「そうするとしようか…」

 

 小さくあくびをした後、“武蔵”は艦長席から立ち上がった。

 

「では提督、そして副長、ここは頼んだぞ」

「あいよ」

 

 ちょうど起きて艦橋に戻ってきた副長妖精が敬礼する。あれだけ激しい戦闘だったというのに、副長妖精は元気そうだった。理由はひとえに、ハンモックの代わりに導入されたタンクベッドである。このおかげで被弾の震動や轟音にもあまり影響されず、十分な睡眠を確保できたのだ。

 堺はというと、“武蔵”に軽く手を振っただけだ。既に彼の注意は、マグカップに注がれたコーヒー(ムー国産。濃いめ、練乳ありったけぶち込み)と握り飯の軽食に向かっていた。

 なんで練乳をありったけ入れているのかって? 単純に、コーヒーの苦味を打ち消すためである。堺はコーヒーに含まれるカフェインの有効性は分かっているのだが、苦味が苦手なのである。◯ックスコーヒー? 何のことだ?

 あと、今の伏せ字を見て妙なことを考えた者は全員、マッポーめいたアトモスフィアでお馴染みのネオサイタマ送りとする。

 

「考えるためには、覚醒度も血中糖分も一定以上に保っておかなきゃならんからな」

 

 そう呟いて、堺は湯気を立てるマグカップに口をつけた。




というわけで、今回は「ニンジャスレイヤー」ネタが大量に投げ込まれました。「忍殺語」の登場は当たり前、ついには"川内"がニンジャ化してしまう始末…。全国の"川内"ファンの皆様には、重ねて謝罪いたします。

(第27任務部隊司令部が提出した戦闘詳報より抜粋)
命名「イルネティア南東沖海戦」
我が任務部隊は、イルネティア島へ向かっていたグラ・バルカス帝国の有力な水上艦隊と交戦、これを撃破せり。なれど我が部隊の被害甚大。そのため、これ以上の作戦行動は不可能と判断し、当初の目標「第26任務部隊の援護並びにイルネティア島への対地攻撃」を放棄、パガンダ島への撤退を決断せり。

交戦日時: 中央暦1643年6月18日1441時〜同年6月19日0025時
交戦海域: イルネティア島からの方位130度、167浬〜299浬
敵勢力: グラ・バルカス帝国艦隊(空母機動部隊)
敵戦力: 戦艦3隻、正規空母2隻、重巡10隻前後、軽巡15隻前後、駆逐艦40隻以上(詳細判明せず)
戦果: 戦艦3隻、正規空母2隻、重巡9隻、軽巡6ないし7隻、駆逐艦10隻以上 撃沈
軽巡洋艦3ないし4隻、駆逐艦5隻前後 撃破
損害: 航巡”最上”、重巡”愛宕”、軽巡”阿賀野”、駆逐艦”白雪””初雪””白露””秋月” 艤装放棄
戦艦”武蔵””霧島”、駆逐艦”吹雪””深雪””島風” 大破
戦艦”比叡” 中破
軽巡洋艦”川内”、駆逐艦”時雨””霰” 小破
駆逐艦”陽炎””不知火” 小破未満(カスダメ)

特筆事項: 駆逐艦”秋月”は艦娘本人が負傷、全治2ヶ月以上と暫定診断。また、戦果のうち少なくとも正規空母1隻撃沈は、潜水艦”呂500”によるものであることをここに付記しておく。
(文責:堺 修一)


たった1話でUAが1万も増えるとは…本当に、ご愛読ありがとうございます!!

評価4をくださいました休日出勤様
評価10をくださいましたメイドン様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

イルネティア島周辺のグラ・バルカス帝国海軍の戦力は、大半が掃討された。機は熟したと判断し、堺は「ユーラヌス作戦」第2幕第4場の開幕を命令。ロデニウス軍第3海兵師団が、イルネティア島への上陸を開始する…!
次回「イルネティア解放戦(6)」
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