鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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地上戦+海戦…の予定で描き始め、予定通りに行けたと思いきや、海戦の描写が思ったより多くて分割せざるを得なくなりました…



162. イルネティア解放戦(7)

 中央暦1643年6月21日 午後1時、イルネティア島 グラ・バルカス帝国陸軍駐屯地「バッケス基地」。

 ここは、グラ・バルカス帝国領イルネティア州(イルネティア島は、元々イルネティア王国という独立国家だったのだが、グラ・バルカス帝国に併呑された)を守るための拠点であると同時に、現地民の反乱を防ぐための拠点であり、そしてムー大陸に派遣される増援部隊の補給拠点でもある。このため、基地そのものは結構な規模があり、飛行場も併設されていた。

 島のほぼ中央に位置するのが、このバッケス基地。その東側、旧王都キルクルスの近くには、本国艦隊第43地方隊が駐留する軍港と、ステリオ山(海抜321メートル)を丸ごとくり抜いて建造された地下要塞がある。この3つの拠点が、イルネティア島の防衛の核であった。

 

 そのバッケス基地の地下司令部にて。

 

「ロデニウス軍が上陸してきただと!?」

 

 基地司令にしてイルネティア駐留部隊の総司令も兼ねるルパート・フィッケル少将が、部下からの報告に怒鳴り声を上げた。

 

「はっ。セルゲル収容所からの報告では、戦車を伴った敵の陸軍大規模部隊が上陸してきた、となっております。この報告は、8時56分に同収容所から送信されました。

この報告を最後に、セルゲル収容所は通信を途絶。現在に至るも連絡が取れません」

 

 震え声での部下からの報告に、フィッケルの顔が歪む。

 ロデニウス軍との戦闘が始まって以降、イルネティア駐留部隊は完全に劣勢となっていた。謎の攻撃により第43地方隊は軍港ごと全滅し、援軍として向かってきていた中央第2艦隊も行方不明。バッケス基地の飛行場は敵機の攻撃で破壊され、航空機の運用は不可能。さらにはラルス・フィルマイナを含むムー大陸の飛行場は、ロデニウス軍の空襲でことごとく破壊され、こちらも航空機の運用ができなくなっている。

 要約すると、イルネティア駐留部隊は制空権・制海権を完全に奪われてしまったのだ。しかも敵艦隊がすぐ近くにいる以上、島外から増援部隊や補給物資を運び込むこともできない。完全にジリ貧である。

 

「パガンダ島やムー大陸はどうした!? そっちから戦力を送れないのか!?」

「それが、パガンダ島は完全に敵艦隊に包囲されており、援軍の派遣は不可能とのことです! 同島の駐留部隊は敵の陸上攻勢によりついに司令部を追われ、島中央部の廃坑に籠城して抵抗中です。

また、ムー大陸に関してですが、最後の頼みの綱だったレイフォル防衛艦隊も昨夜壊滅したとのことです! ムー大陸からこちらに援軍を送ることは、もはやできません!」

 

 八方塞がりとはまさにこのことである。

 

「くそっ、こうなったら自力で何とかするしかないか…」

 

 呟いて、怒りに拳を震わせながらフィッケルは机上の地図を見下ろした。

 

「セルゲル収容所は確か、島の南部にあったな?」

「は、現地民がドイバと呼んでいた街の跡地に建設されています」

「ということは、敵の上陸地点は島中央部の南か……」

 

 敵のおおよその位置を確認したところで、今度は味方の展開図に視線を落とす。

 現在イルネティア島には、大きく分けて4つの陸上戦力がいる。まず、ムー大陸への増援兵力として送られるはずだった第9師団と第10師団。次に、イルネティア島の守備にあたる第11師団。最後に、現地民の反乱を鎮圧し統治を容易ならしめることを目的とする植民地警備部隊だ。

 植民地警備部隊は陸軍に比べれば練度が劣るものの、征服した地の現地民を抑えられるならそれで良いという考え方の元、差別意識が比較的強い者が集まりがちだ。このため収容所の警備や植民地の治安維持には向いた部隊である。

 セルゲル収容所には、植民地警備部隊員230名が配備されていたはずである。だがそこに、戦車を伴った大規模な陸軍部隊が襲いかかったとなれば、隊員たちの生存はおそらく絶望的だろう。

 

「敵が戦車を持っている、というのが気になるな……」

 

 惑星ユグド(グラ・バルカス帝国が元々いた世界)では、ケイン神王国が原始的な戦車を持っていた程度であり、ユグドより文明が遅れているこの世界では戦車そのものが存在しないと見られていた。このため、グラ・バルカス帝国軍が配備している戦車、特に2号中戦車ハウンド(九七式中戦車チハに酷似)は、「無敵の戦車」と認識されていた。

 それがここにきて、まさかの敵戦車出現である。しかもどんな姿でどんな性能なのかが不明ときた。どうするべきか。

 敵の戦車は確かに脅威だろうが、自国のハウンド中戦車、(こと)に48口径47㎜砲を搭載し装甲貫徹力を高めたハウンドIIであれば、撃破できるだろう。

 

「第9師団に、セルゲル収容所解放に行かせよう。この師団がセルゲルに最も近い位置にいるし、それにこの師団は本国でも精鋭に数えられる部隊の1つだ。彼らに任せれば大丈夫だろう。

私の名で第9師団に出撃命令を出せ。セルゲル収容所を奪還し、敵軍をこの島から叩き出せ、と」

「はっ!」

 

 フィッケルは幹部に命令を下した。

 陸軍第9師団は、元々第5軍団の指揮下にあった部隊だが、再編に伴い第8軍団に編入され、ムー大陸へ進出を命じられた部隊だ。前世界ではケイン神王国軍を含む多数の敵との戦闘を経験しており、実戦経験の豊富な部隊である。このため精鋭と目されていた。フィッケルはその部隊を、敵にぶつけようと考えたのである。

 

 

 命令を受けた第9師団は師団長オルトナ・バーンズ少将の指揮の下、早速戦闘準備を開始した。本当ならムー大陸で戦闘するはずだったのだが、予定より早く実戦の機会が来た格好である。

 第9師団の戦力は、歩兵1万8千名、機関銃300挺、野戦砲(歩兵砲・迫撃砲・野砲メイン)100門、装甲車・トラック50輌、戦車60輌(内2号軽戦車シェイファーII20輌、2号中戦車ハウンドI・II各20輌)。機械化を進めてはいたが、見ての通りまだ不完全である。

 情報を集めて分析したところ、上陸してきた敵部隊の戦力は歩兵およそ1万人。2倍の差があることから、正面からぶつかれば勝てると思われた。

 気になるのは、敵が伴っているという50輌以上の戦車と、制空権を敵に取られていることである。戦車を含む地上戦力にとって、航空戦力は大敵だ。複葉機のような旧式機であっても、爆弾さえ落とせばこちらに有効な攻撃を行えるので、怖いことこの上ない。

 だがバーンズは、その航空機を封じることができる作戦を考えていた。つまり夜襲である。基本的に航空機は夜に飛ぶことはできない。正確には飛べるが、着陸が恐ろしく困難なのだ。しかも今回の場合、敵の航空戦力は母艦航空隊であり、視界の効かない夜間に飛行場より狭い空母の甲板に降りなければならない。それは想像を絶する難易度だろう。そこから考えて、敵の航空戦力が夜に出てくるとは思えない。

 また、敵の戦車についても、「無敵」と言われるハウンド中戦車でどうにかなるはずだ。

 

(まあ、サクッと勝って精鋭の力を見せつけてくるとするか)

 

 バーンズは楽観的に考えていた。

 そして1日かけて準備を整えた後、6月22日の15時に第9師団は駐屯地を出撃し、イルネティア島南部のドイバ跡地へと向かった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その3日後、中央暦1643年6月25日 23時頃。処はドイバ付近。

 23時といえば太陽などとっくに沈んでおり、月や星を除けば光源はほとんどないはずである。はずであるが、ドイバ付近はいくつもの白い光が空に浮かび、地上には真っ赤な光が輝きを増していた。

 もちろんだが、これらは普通の光源ではない。その証拠に、空に浮かんだ白い光はよく見ると、ゆらゆらと揺れながら次第に地上へと近付いていた。そう、照明弾である。そして地上の赤い光は、もちろん火災炎であった。

 

ドドドドドーン!!!

 

 耳をつんざく爆発音が響き渡り、地上に巨大な爆炎が湧き出す。陸軍の野戦砲の着弾なんか、全く比較にならないほど凄まじい爆発だ。それは明らかに、非常に口径の大きな大砲による砲撃…戦艦クラスの艦砲射撃であった。

 

「ぐああああ!!」

「ゴベェッ!」

「俺の腕…。俺の腕、どこに行った…?」

「ああああああ! (いて)え! 痛えよぉ!!」

 

 阿鼻叫喚の悲鳴を上げているのは、グラ・バルカス帝国軍の兵士たちだ。その悲鳴を塗り潰すようにして、真上から甲高い金属音が降ってくる。それがレシプロエンジンの猛々しい爆音に変化したと思った時、地上に新たな爆炎が花開き、巻き込まれた戦車が木っ端微塵に粉砕され、空高く吹き飛ばされた歩兵たちが地面に叩きつけられて動かなくなる。

 続けて、空からサイレンのような音が降ってきた。

 

ウウウウウウウーーー!!

 

 それがどんどん大きく、甲高くなってきたかと思うと、唐突に止む。その直後、ズガァーン! という轟音と一緒に空中に発射炎が瞬き、ハウンドI中戦車が砲塔上部からものすごい火柱を噴き上げて炎上する。弾火薬庫を攻撃された証だ。攻撃されたハウンドIは、やがて若木を数十本まとめてへし折ったような音を立て始めたかと思うと、大きく爆発して砲塔が空中に吹っ飛んだ。乗っていた兵士たちの運命は…考えるまでもないだろう。

 ちなみにだが、サイレンのような音が降ってきた時、第9師団の将兵たちは一斉に身体を丸めて地面に伏せていた。バーンズも咄嗟に前線指揮車の床にしゃがんでしまったが、その際に傍にいた幹部の顔がちらりと見えた。唇は震え、顔色は真っ青…明らかな「恐怖」が、そこには刻まれていた。

 

「くそっ! 何だこれは!?」

 

 前線指揮車の中で、バーンズは目の前の現実の理解に苦しんでいた。

 

「なぜ視界の効かない夜間に、これほど正確な攻撃ができるんだ…! しかも、航空戦力を運用してくるだと!?」

 

 

 そう、結論を先に言うならば、バーンズの読みは見事に外れた。

 まず夜間であるにも関わらず、ロデニウス軍は平然と航空機を飛ばしてきたのである。上空に吊光弾を投下し、それによってグラ・バルカス帝国軍の位置を割り出すと、サイレンのような音と共に急降下爆撃を仕掛けてきたのだ。

 この爆撃は、“(ずい)(かく)”と“()()”、“(たい)(ほう)”、それに“Graf(グラーフ) Zeppelin(ツェッペリン)”の航空部隊によって行われていた。特に“Graf Zeppelin”の「魔王大佐」率いるシュトゥーカ隊は、昼間にも爆撃を行っているにも関わらず、まだ暴れ足りないとばかりに出撃してきたのである。どうも休憩などより敵戦車の破壊が最優先らしい、流石はルーデル閣下である。

 なお、これらの母艦航空隊は“加賀”が発明した「着艦誘導灯」を用いることで、夜間でも比較的安全な着艦を可能としていた。そのため、危険な夜間爆撃も可能にしたのである。

 

 次に、夜間で視界が効かないとは思えないほど、ロデニウス軍の戦車はかなり正確にこちらを狙って攻撃してきた。これもまた、バーンズには予期せぬ事態であった。

 その上、敵戦車の方がどうやら高性能らしいのである。こちらのハウンド中戦車やシェイファー軽戦車の砲撃は、照準が目視であるせいもあってなかなか命中せず、命中しても火花と共に弾かれてしまうことが多かった。それに対してロデニウス軍の戦車の砲撃は、信じられないことに、ハウンド中戦車の前面装甲を一撃で撃ち抜いた。それも命中率が非常に高く、外れ弾も大抵は至近弾である。見当違いのところを撃った弾は、ないように見えた。

 結論をまとめると、ロデニウス軍はバーンズが思っていたよりも遥かに強力であり、自軍の常識が通じない強敵だったのである。

 

 それともう1つ、外せない事項があった。制空権を完全に取られているということでお察しの通り、この戦場に到着するまでに第9師団は夥しい(むくろ)の山を築いていた。もちろんだが、この「骸」には全金属製のもの…つまり戦車や装甲車、自動車、トラック等の残骸も含まれる。

 この昼間の攻撃では、第9師団は着陸脚の突き出た旧式感溢れる敵機に散々爆弾と砲撃(1機だけ馬鹿でかい機関砲をポン付けした敵機がいた)を浴びせられ、ひどい目に遭わされた。その時に敵機が発していたサイレン音が脳裏にこびりつき、トラウマになってしまったのである。さっきバーンズたちが一斉にしゃがんだのは、そのせいだった。

 

 

 ともかくこうして、バーンズの見通しの甘さ(と、師団内に充満していた楽観論)を原因として、第9師団は敵の間断ない航空攻撃と艦砲射撃、それに敵陸上部隊の迎撃によって部隊の約半分を失い、壊滅状態に陥ったのである。敵を海に追い落とすなど、遂行不可能だった。

 

「くそっ、撤退だ! 一度撤退して態勢を立て直す!」

 

 バーンズが命令を下したが、この混乱した状況下で味方がどこまで動けるかは未知数だった。

 その時突然、前線指揮車の外から白い光が差し込んできた。同時に、指揮車の屋根から身を乗り出して外の様子を見ていた幹部が絶叫する。

 

「本車上空に吊光弾! 敵攻撃来ます!」

 

 その絶叫を、甲高いサイレン音がかき消した。

 運命を悟ったバーンズが目を大きく見開いた時、激しい衝突音・金属音と共に前線指揮車が大きく揺れ、彼は指揮席から投げ出された。その直後、車体前部のエンジンから発生した紅蓮の炎が膨れ上がり、嵐の勢いで指揮車の車内を席巻し焼き尽くした。

 激痛のような灼熱感が頭頂部と背筋に走った、と思ったのが、バーンズの最期の記憶だった。

 

 

「ひゃっはぁー! 敵戦車は破壊だぁぁ!!」

 

 夜空を舞う、固定脚と逆ガル翼を持つ1機の航空機の影。その翼下には爆弾ではなく、長大な砲身を持つ機関砲が搭載されている。ドイツが誇った急降下爆撃機「Ju87C改」だ。ただし機体モジュールが変更され、「Ju87G」に似た姿となっている。

 そのコクピットに、操縦桿を握る妖精“ハンス・ウルリッヒ・ルーデル”の奇声が響き渡った。昼間からもう7回は出撃しているにも関わらず、元気いっぱいのように見える。…が、よく見るとその両目は充血しており、半分ラリってギンギラギンになっていた。やはり疲労は隠しきれないようだ。

 

「喰らえぇぇぇぇぇ!!」

 

 しかし、攻撃のキレは衰えを見せない。むしろ狙いがより正確になっているようにすら見える。つい先ほども、敵の指揮車輌と思しきアンテナを立てていた装甲車に、37㎜砲弾を叩き込んで火の塊に変えてやったばかりだ。

 37㎜機関砲が火を噴く度に、敵の戦車や装甲車が炎に包まれる。自動車やトラックも合わせれば、今日だけでもう何輌撃破したか数えることもできない。

 イルネティアの空に響くサイレンのような風切り音と37㎜機関砲の砲声は、まさに魔王の(こう)(しょう)にも等しかった。

 

 

 最終的にグラ・バルカス帝国陸軍第9師団は、歩兵戦力の53%と機甲戦力の79%を失って撤退。ロデニウス軍第3海兵師団を海に追い落とす作戦は失敗した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「しくじっただと!?」

 

 翌6月26日、バッケス基地司令部。

 起床したフィッケルを待ち受けていたのは、「第9師団全滅」と「作戦失敗」の報だった。

 

「なんてことだ…まずい、まずいぞっ!

第9師団は、今この島にいる部隊の中でも練度の高い精鋭部隊だった。それが敗れたということは、ロデニウス軍は想定以上に強力である可能性がある! 果たして、残る部隊でどこまで戦えるか…」

 

 もしかすると、皇帝陛下から守備を任されたこの島を、失ってしまうかもしれない。

 背筋が寒くなりながらも、フィッケルは防衛の指揮を()る。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方その頃、グラ・バルカス帝国領レイフォル州 州都レイフォリア郊外 統合基地ラルス・フィルマイナ。

 この基地に置かれたムー大陸侵攻軍司令部は今、未曾有の大混乱に陥っていた。

 

「レイフォル防衛艦隊、主力艦を全て喪失し全滅! 艦隊司令部も全員未帰還です! ロデニウス艦隊と交戦、敗北した模様!」

「中央第2艦隊機動部隊、通信途絶! 行方不明です!」

「第41地方隊から緊急入電、駆逐艦『アル・ニヤト』が触雷! 敵潜水艦に機雷を撒かれたようです!」

「パガンダ島守備隊・陸軍第33師団司令部から入電! 『戦勢我ニ利有ラズ、至急救援求ム』! もはや限界のようです!」

 

 悪い報告しか飛び込んでこないのだ。

 6月上旬以来、パガンダ島はロデニウス艦隊の重包囲下に置かれて集中攻撃を受けており、島の守備隊が立て篭もる廃坑も風前の灯になっているらしい。援軍を送って助け出したいところだが、最後の大規模海上戦力だったレイフォル防衛艦隊も全滅し、制空権もほぼ喪失した今では、救援の艦隊を送ることができない。

 さらに、中央第2艦隊によるイルネティア島救援も失敗したらしく、イルネティア島周辺の制海権・制空権も敵に奪われた。

 自分たちは今や、本土から遠く離れたムー大陸に孤立しようとしており、本土からの救援も望めず、敵の包囲下で立ち枯れてしまう……! その危機意識が、ラルス・フィルマイナ全体に溢れようとしていた。

 

「どうします、総司令!? このままでは我々も、ムー大陸に入植した一般人たちも、ここで立ち枯れです!」

「本土に救援を要請してある。それに期待するしかない!」

 

 ラルス・フィルマイナ基地司令ドルバス・ファンターレ准将やナルガ戦線(グラ・バルカス帝国におけるムー大陸戦線の呼称)総司令官アルダ・グランギル大将が叫びを交わす中、ナルガ戦線副官ランボール・フーリマン大佐は頭を悩ませていた。

 

(まさか、ロデニウス軍にこれほどの力があるとは…! これは想定外だった。いや…海軍の東部方面艦隊が壊滅したという報告があった時点で、こうなる運命は決まったようなものだったのかもしれん。

最悪なのは、ムー大陸に入植した一般人に対して現下の苦境が情報統制されてしまっていること、そして一般人も帝国軍の無敵なることを過信して普通に日常生活を送っていることだ…!

おそらくだが、ロデニウスやムーは我々の支配地域を解放したとか、レイフォルは本土から孤立したとかいったニュースを新聞やテレビで積極的に流して、こちらの心理に攻撃を加えてくるはずだ。そしてこうも言ってくるだろうな、『グラ・バルカス帝国軍は決して無敵ではない。現に我々は勝った。これから我々は総力を挙げて、レイフォルを含むグラ・バルカス帝国の支配地域に攻め込み、これを解放する。グラ・バルカス帝国に虐げられてきた人々よ、今こそ立ち上がる時だ! 武器を取れ、我々と共にグラ・バルカス帝国を倒し、誇りある祖国の独立を取り戻そう!』と。そしてそうなった場合、レイフォル州を含むムー大陸各地で現地民の反乱が発生する可能性は高い。奴隷同然に扱われている人々にとって、これはこの上ない強い希望になるだろうからな…!

しかし、この反乱に対して武力を以ての鎮圧を行えば、余計に反乱を招くことになりかねない。その上前線から兵力を引き抜いて反乱鎮圧に当てれば、薄くなった前線にロデニウス軍やムー軍が攻め込んでくる…! どうする、どうすれば良い!?)

 

 答えの出ぬまま、ランボールの思考はぐるぐると巡る。

 その時、通信員が1人司令部に駆け込んできて、報告した。

 

「第42地方隊から入電! イルネティア島に向かっているムー海軍の輸送船団を捕捉、敵の護衛艦隊と交戦に入ったとのことです! 戦況は互角の模様!」

 

 それを聞いて、グランギルが命令を下した。

 

「第42地方隊に伝えろ、『総力を挙げてムー艦隊を殲滅せよ』と。こいつらはおそらくイルネティア島に陸軍部隊を揚陸するつもりだ、こいつらだけでも阻止せねばならん!」

「ははっ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同時刻、イルネティア島の北北東500浬地点。その海域にも、連続した砲声が轟いていた。

 

「くそっ、敵の方が優勢か…! でもここを突破されたら、輸送船団が全滅してしまう!

皆、死ぬ気で輸送船団を守れ!」

 

 ムー統括海軍・戦艦「ラ・コンゴ」の艦橋では、艦長のラッサン・デヴリン大佐が額に汗を散らせつつ命令を飛ばす。

 ムー統括軍は、ロデニウス軍と共にイルネティア島を解放すべく、陸軍部隊を載せた輸送船団と護衛艦隊を派遣していた。だが、イルネティアまであと一歩というところで敵艦隊に見つかり、交戦となったのだ。

 現在交戦中のムー艦隊の戦力は、戦艦1、正規空母1、巡洋艦8、駆逐艦2。それに対して、グラ・バルカス帝国艦隊は戦艦2、小型空母2、巡洋艦6、駆逐艦6である。見ての通り、数でグラ・バルカス帝国艦隊が有利だ。

 しかも、ムー艦隊の巡洋艦は「アトランタ級」もといラ・トラン級防空巡洋艦2隻に、(かす)()型装甲巡洋艦そっくりのラ・デルタ級装甲巡洋艦2隻、そして「巡洋艦」とは名ばかりの護衛駆逐艦たる「ラ・シキベ級」4隻なのだ。そのため数字以上の戦力差がある。戦艦は、ムー側がラ・コンゴ級、グラ・バルカス帝国側がオリオン級なので同格だが、1対2はしんどかった。

 その上、ムー側の正規空母「ラ・ラツカ」は優れた艦載機を有してはいるのだが、残念なことに戦闘機と艦上爆撃機しか載せておらず、雷撃機が配備されていない。雷撃隊の錬成が間に合わなかったのである。このため制空権はムー側がどうにか取ったのだが、苦しい戦いを強いられていた。

 

「このままではジリ貧だぞ…! どうする…!?」

 

 ラッサンが()(のう)していたその時、通信長がラッサンを振り返って叫んだ。

 

「艦長、新たな通信が入っています!」

「敵からか!? 降伏なら拒否すると伝えろ!」

 

 苛つきを反映したような鋭い口調でラッサンは怒鳴ったが、直後の通信長の言葉で表情を一変させた。

 

「それが、通信が乱れて聞き取りにくかったのですが、ロデニウスという単語が聞こえまして…!」

「本当か!?

その通信、俺に貸せ!」

「はいっ!」

 

 ひったくるようにして通信機を受け取り、ラッサンは通話口に叫ぶ。

 

「こちらムー統括海軍・戦艦『ラ・コンゴ』! ロデニウス艦隊、この通信が聞こえていたら応答してください、どうぞ!」

 

 すると、ほとんど間を置かずに女性の声が返ってきた。

 

『こちらロデニウス海軍第13艦隊・戦艦「アイオワ」。RS59、よく聞こえているわ。

何となくレーダーと無線傍受で把握しているんだけど、敵と交戦中なのね?』

「そうです! 救援を要請します!」

 

 第13艦隊といえば、かつてラッサンが留学して学んだ艦隊だ。そこから援軍を得られるのであれば、これほど心強いものはない。そのため、救援を要請した時のラッサンは藁にもすがる気持ちだった。

 しかも、「アイオワ」といえば…

 

『OK、これより本艦隊は戦場に突入し、Mu艦隊を援護するわ! 戦場に参加するまで少し時間がかかるから、それまで戦況を支えて!』

「了解です! 援軍感謝します!」

『最後に、貴方の名前を聞いておくわ』

「小官は『ラ・コンゴ』艦長、ラッサン・デヴリン大佐であります!」

 

 すると、通信機の向こうの声が驚いた様子のものに変わった。

 

『ラッサン? 声に聞き覚えがあると思ったら、貴方、Papardiaとの戦争の時に私に乗ってなかった?』

「そうです!」

 

 そう、ラッサンは観戦武官として「アイオワ」に乗艦し、ロデニウス連合王国とパーパルディア皇国の戦争を見届けたのだ。そのため「アイオワ」の力をよく知っている。

 

『なるほど…貴方、あの後でコンゴーに弟子入りして勉強していたそうね。愛弟子を死なせたなんてことになったら、コンゴーにシメられるわね。分かった、全力で援護するから少しだけ待ってなさい!』

「了解しました!」

 

 通信を終えるや、ラッサンは艦隊内無線の回線を開き、声を張り上げる。

 

「全艦へ告げる、あと少しでロデニウス艦隊が助けに来てくれるぞ! それまで戦闘を支えるんだ!」

 

 

 当の“Iowa”はというと、水平線付近に見える多数の黒煙を肉眼で捉えた、という報告を航海艦橋から受けたところだった。彼女自身はCICにいるため、直接外の様子を見られないのである。

 

「残弾があまりないから撃ちたくなかったんだけど、(ぜい)(たく)言ってる暇はないわ。この距離からMuの艦隊を掩護する!

右舷、1番・3番管、Harpoon用意! 攻撃目標識別は敵巡洋艦を最優先、第二目標が駆逐艦よ。まずはとにかく敵の数を減らす!」

「アイアイマム! 戦艦はどうします?」

 

 戦術長妖精に尋ねられ、“Iowa”は即答した。

 

「簡単よ。Harpoonの数が足りないなら…SHSで叩き潰す!」

 

 水上砲戦である。

 

「敵艦の数が多いから、両用砲も水上砲戦に回すわ。敵機はMuの艦載機とCIWSに任せる!

それと通信長、ユキカゼに無線を繋ぎなさい」

「はっ!」

 

 “雪風”との通信回線を開くや、“Iowa”は単刀直入に尋ねた。

 

「アイオワからユキカゼへ、これより対水上・対空戦闘に突入する。生き残れるわね?」

 

 敵艦と敵航空機、全く性質の異なる2つの敵に対処しなければならない。厳しいどころの騒ぎではない。だが、しかし。

 

『ぜったい、だいじょうぶっ!』

 

 “雪風”から返ってきた言葉は、それだけだった。それが根拠のない言葉ではないことを、“Iowa”はよく知っている。

 

「たいへんよろしい。命令よ、敵空母を2隻とも仕留めなさい!」

『はいっ!』

 

 駆逐艦を1隻だけで敵艦隊に突入させ、厳重に護衛されているだろう空母を仕留めさせる。普通に考えれば無茶極まりない作戦だ。普通の駆逐艦にはとても達成は困難、どころか不可能だろう。…「普通の」駆逐艦ならば。

 では、普通()()()()駆逐艦なら、どうだろうか?

 

『行ってきます! アイオワさんも気を付けて!』

 

 こんな時にまで仲間に気を遣う“雪風”。その心優しい背中が遠ざかっていくのをレーダーで確認しながら、“Iowa”は不敵に笑った。

 

「大丈夫よ。たとえalienが相手でも、戦艦は簡単に沈まないわ」




はい、前書きにも書いた通り、次回は海戦メインになるでしょう。ですが、ここでグラ・バルカス帝国艦隊を破れば、ようやくイルネティア島周辺の制海権を確保できます。
果たしてムー艦隊の救援に向かった"Iowa"と"雪風"の2人は、グ帝艦隊を阻止し目的を達成できるのか!?

ちなみにですが、無線通信の中で"Iowa"が使った「RS59」というのは、無線用語です。これはシグナルレポートのことで、無線電話で送られた音声の了解度と信号強度を数字で表現したものです。最初の5が了解度を表し、「完全に了解できる」=はっきり聞こえる、と言っています。その次の9が信号強度で、「きわめて強い信号」を意味します。詳しくはJARL(一般社団法人 日本アマチュア無線連盟)の公式サイトなどをご覧ください。
アマチュア無線をやっていらっしゃる方なら、すぐお気付きになったかと思います。

そうそう、「戦艦が簡単に沈むか!」とか「駆逐艦(雪風)はすごいぞ。最高だ」などと思った方は、深夜だろうと今すぐお店に行ってチキンブリトーを買ってきなさい。材料を購入しての自作もOKとする。


UA95万突破、お気に入り登録2,800件突破、総合評価10,800ポイント突破! 皆様、本当にご愛読ありがとうございます!!

評価10をくださいました神威 雷玄様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

イルネティア島を解放しようとするムー統括軍。それを阻止しようとするグラ・バルカス帝国艦隊。その戦場に飛び入り参加した「アイオワ」と「雪風」、彼女たちが見せるものは火薬の煉獄か、それとも新たなる伝説か。
次回「イルネティア解放戦(8)」
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