鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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サブタイトルに堂々と書いた通り、今回は駆逐艦「雪風」の話です!



164. イルネティア解放戦(8) [雪風、ムー艦隊をお守りします!]

 中央暦1643年6月26日 午前8時頃、イルネティア島の北北東500浬地点。

 

「味方の艦隊が……! 航空隊も……!」

 

 戦場の後方に展開していた2隻の小型空母……グラ・バルカス帝国海軍のスプートニク級小型空母「ガリレオ」と「マゼラン」。その「ガリレオ」の艦橋にて、空母戦隊司令キラン・カートライト大佐は息を呑んだ。

 ムー艦隊を叩きのめしていた味方…本国艦隊第42地方隊は、突然飛来した謎の飛行物体によって一瞬で壊滅。その直後、30ノットを超える速度で突っ込んできた超大型戦艦が戦場に突入し、味方は瞬く間に押され始めた。

 砲戦に突入した敵戦艦は、航空機に対して有効な反撃はできないはずだ。何故なら、主砲を発射しながらの対空機銃の操作は、主砲発射時の爆風ゆえに困難だからだ。そう考えたキランは、敵戦艦に対してなけなしの航空部隊を投入し攻撃させたものの、攻撃隊は敵戦艦の猛烈な対空迎撃に遭い、爆弾1発すら投下できぬまま全滅。ムー艦隊の航空隊と戦ったせいもあり、2隻の空母は文字通りの(から)(ぶね)になってしまった。

 如何に強力な打撃力を持つ空母といえど、艦載機を失っては何もできない。しかもスプートニク級小型空母はタンカー改造の戦時急造品だ。脚は遅く、防御力も耐久力も貧弱。軍艦、とりわけ戦艦の艦砲なんぞ喰らったら、ひとたまりもなく沈んでしまう。

 

「やむを得ん! 根拠地に撤退する!」

 

 キランは決断を下した。

 ところが、2隻の空母が反転しようとした時、太鼓を連打するような音…小口径砲の砲声が轟いた。同時に、護衛に当たっていたスコルピウス級駆逐艦「コルブス」から緊急通信が飛び込む。

 

『敵駆逐艦1隻、当隊に高速で向かってきます! 当隊よりの方位280度、距離15,000メートル! 敵はキャニス・ミナー級駆逐艦と推定!』

 

 

 グラ・バルカス帝国の駆逐艦が放った12㎝砲弾が海面に落下し、複数の水柱が上がる。少しして水柱が崩れ去った後、その海面を突っ切って1隻の駆逐艦が突撃していった。その艦体側面には、白い字で「ゼカキユ」と描かれている。そう、ロデニウス艦隊の駆逐艦「(ゆき)(かぜ)」だった。

 その艦橋に立ち指揮を執るのは、ワンピース型のセーラー服を着用した、茶色の髪を持つ小柄な少女。“雪風”である。

 

「ムー艦隊をお守りします! 彼らを沈める訳にはいきませんっ!」

 

 どこかあどけなさの残る声ながら、彼女の表情は真剣そのものだ。

 

「先に敵の駆逐艦を2隻とも叩きます! 敵空母はその後です!」

「了解、主砲、左砲戦用意! 目標は敵駆逐艦!」

 

 “雪風”が考えているのは、駆逐艦を相手取りながら空母の退路に割り込むという戦術だ。面舵を切ることでムー大陸側に針路を取り、その後取り舵に変針することで敵艦隊とムー大陸の間に割り込み、物理的に退路を絶ってしまうのだ。最高速度35ノットの俊足を持つ「雪風」なら、十分に実践可能である。

 

「敵駆逐艦2隻、本艦よりの方位345度、距離ヒトハチマル(18,000メートル)!」

「距離ヒトサンマルで面舵90度、回頭と同時に砲戦開始してください!」

「承知しました!」

 

 “雪風”の命令に航海長妖精が答えた時、風を切る音が聞こえてきた。一瞬後、「雪風」前方の海面に白い水柱が4、5本噴き上がる。

 敵駆逐艦の砲撃だ。だが、全ての砲弾が「雪風」の手前に落下しており、しかも散布界が粗いようだ。

 

(これは……敵の練度はそこまで高くないんでしょうか? まだ撃っても命中を期待できない遠くから撃ってますし…)

 

 そう考えつつ、針路を一切変えずに艤装を突っ込ませる“雪風”。

 実は彼女の直感は当たっていた。第42地方隊の…いや、この隊に限らずグラ・バルカス帝国海軍本国艦隊地方隊の役割は、基本的に「現地民の反乱鎮圧」と「敵襲を受けた際に、主力艦隊が到着するまでの時間稼ぎ」である。その中でも、これまで外敵らしい外敵に乏しかったグラ・バルカス帝国にとっては、「現地民の反乱鎮圧」に重きが置かれていた。

 このため、本国艦隊の地方隊は戦力規模こそ比較的大きいものの、逆にいうと艦の性能に胡座(あぐら)を掻いているため、乗員の練度や想定外の事態が発生した時の対処技能レベル等がお察し状態なのである。

 

「距離ヒトゴーマル!」

「目標、敵駆逐艦1番艦! 砲戦用意!」

 

 距離が詰まったことで、敵の砲撃による弾着の水柱が「雪風」の付近に上がるようになった。だが、相変わらず命中弾は1発もない。小口径砲弾の水柱が林立する中、その間を縫うようにして「雪風」はひた走る。

 

「距離ヒトサンマル!」

「面舵いっぱい!」

「左砲戦、撃ちーかたー始め!」

 

 “雪風”の命令から一拍置いて、「雪風」艦橋から見える景色が急速に左へと流れていく。それと同時に艦橋前方に発射炎が閃き、砲声が鼓膜をつんざいた。“雪風”が主砲として搭載する「10㎝連装高角砲」が、火を噴いたのだ。

 流石の“雪風”も、初弾命中は期待していない。だが、

 

「弾着! 初弾(きょう)()!」

 

 砲術長妖精が挙げたのは、意外にして喜ぶべき報告だった。なんとたった1射で照準が合ったのだ。これには撃たれた敵の方が驚いただろう。

 

「全門斉射!」

 

 “雪風”は躊躇なく命じる。その直後、先の射撃に倍する砲声が艦橋の空気を震わせた。艦体後部の第2・第3砲塔も砲撃を開始しているのだ。

 敵も撃ち返してくるが、これは「雪風」の上を飛び越えてしまった。砲身の仰角設定をミスしたようだ。

 

「だんちゃーく、今っ!」

 

 砲術長妖精が叫んだ瞬間、敵艦後部にぱっと閃光が走った。そこから巨大な火球が噴き出し、黒煙が後方にたなびく。と、敵駆逐艦はみるみるうちに行き脚を鈍らせ始めた。

 

「敵艦撃破! 照準そのまま、止めを刺してください!」

 

 爆発の直後に行き脚が鈍ったということは、機関が御釈迦になったのだ。発射時初速の速さ故に、「雪風」の主砲弾は高い装甲貫徹力を持つ。その砲弾が敵艦の心臓部まで食い込み、機関を破壊したに違いない。

 結局、敵駆逐艦は「雪風」の第2斉射で艦全体が炎と黒煙に覆われ、どう見ても戦闘不能となった。行き脚も止まっており、航行不能と見て良いだろう。

 

「次です! 照準完了次第撃て!」

 

 炎上する敵艦には全く頓着せず、“雪風”は次の敵を狙う。

 敵駆逐艦の2番艦は「雪風」と同航する針路を取っている。つまり同航戦だ。これなら、2分もあれば敵を叩ける…と“雪風”は計算した。

 

ドドドン!!

 

 砲声が「雪風」艦体を震わせる。照準が完了し、砲撃を再開したようだ。しかも砲声の大きさから見て、いきなり斉射らしい。よほど自信があるのだろう。

 

ドドドン!!

 

 第1斉射から4秒後、弾着を待たずに第2斉射が放たれる。敵も撃ち返してきた。

 そして第3斉射が放たれた直後、

 

「だんちゃーく!」

 

 砲術長妖精が叫ぶ。その時、敵艦の中央部にぱっと火花が散ったかと思うと、煙突が1本中ほどからへし折れ、海面に落下した。“雪風”の砲弾は不発だったが、敵にしっかり命中したのだ。流石である。

 そこへ第2斉射の射弾が落下する。その瞬間、敵駆逐艦は一瞬目を開けていられないほどの閃光を発したかと思うと、艦体後部で凄まじい爆発を起こした。何事かと思う間もなく、敵駆逐艦の艦首が海面から持ち上がる。

 “雪風”の第3斉射が着弾し、敵駆逐艦を覆い隠すように水柱を噴き上げる。水柱が消えた時には敵艦の姿は既になく、ただ海面に黒煙がわだかまっているだけだった。

 

「敵2番艦轟沈!」

「続いて敵空母です! 左魚雷戦用意!」

 

 見張員妖精から報告を受けて、素早く“雪風”は考えた。敵の駆逐艦は()(つき)型に酷似した外見である。ということは、艦体後部に魚雷発射管があったはずだ。おそらく“雪風”の射弾がそれを直撃し、魚雷の誘爆を引き起こしたのだろう。

 狙うべき敵の空母は、全体的に直線を多用した形状をしており、おそらく輸送船ないしタンカーを改造したものだと思われる。ということは、どちらかというと小型空母だ。

 だが、それは「空母としては小型」というだけだ。例えば輸送船改造空母の例として米海軍のボーグ級航空母艦があるが、あのタイプでも満載時排水量は1万トンを超え、軍艦では重巡洋艦に匹敵する排水量の持ち主だ。そんな艦を確実に沈めるには、魚雷が一番である。

 今「雪風」が持っている魚雷は、発射管に装填済みの8本しかない。以前のイルネティア島南西沖海戦の折に、8本使ってしまったからだ。よって、この魚雷は確実に命中させなければならない。

 ならば、することはただ1つ。

 

「取り舵いっぱい! 機関、両舷前進最大戦速!」

「とーりかーじ、90度ようそろ!」

「前進、最大戦速ヨーソロー!」

 

 全速力で距離を詰める。この一手しかない。

 

「左魚雷戦、1番連管の魚雷で敵空母1番艦を、2番連管の魚雷で敵空母2番艦を叩きます! そのつもりで準備してください! 雷撃距離は、目安でヨンマル(4,000メートル)!」

「了解、雷撃距離ヨンマル! 左舷魚雷戦、用意!」

 

 現時点で、敵空母との距離は8,000メートル前後。もう少し近付く必要がある。最低でもこの半分、およそ4,000メートルまでは距離を詰めなければならないだろう。

 そこへ、大気を切り裂く砲弾の落下音が響いたと思うと、「雪風」の右舷側の海面に水柱が噴き上がった。駆逐艦の主砲と同程度の大きさだが、その数は1本しかない。おそらく敵空母が、自衛のために装備している高角砲を撃ってきたのだろう。

 

「1門なら当たりません! 怯まずに突撃、敵空母を沈めます!」

 

 “雪風”は、自分に命中する敵砲弾はないと判断した。根拠のない考えではない。

 何せ「雪風」は天下の豪運艦。ソロモン海やらダンピール海峡やらレイテ沖やら坊ノ岬沖やら、絶望的な戦況の中でもほとんどを無傷で乗り切ってきたのだ。それにこの世界に来てからも、フォーク海峡海戦だろうが第二次バルチスタ沖大海戦だろうが敵の弾1発とて喰らったことがない。

 あれだけ砲弾が縦横に飛び交う戦場のど真ん中にあってなお、一度も被弾したことがないとなれば、小型空母の高角砲1門の砲撃程度、何てことはない。命中する可能性はゼロとは言わないが、限りなくゼロに近い、と“雪風”は感じていた。

 小口径砲の砲撃による水柱が散発的に立つ中を、「雪風」は全速力で突進していく。敵空母の1隻に狙いを定め、目一杯肉薄しようとしていた。

 

「正面砲戦、目標、敵空母1番艦! 1番主砲、撃ち方始め!」

「撃ちーかたー始め!」

 

 舌足らずな声で下された“雪風”の号令を、砲術長妖精が復唱する。その直後に艦橋正面に発射炎が閃き、ドォン! と鋭い砲声が響いた。

 

「敵との距離はハチマルもない、撃てば当たるぞ! 撃ちまくれ!」

 

 第1主砲の砲塔の中では、砲台長を務める妖精が声を張り上げ、砲員妖精たちを鼓舞する。

 発射された砲弾は、第1射こそ至近弾に終わったものの、第2射からは命中し始めた。輸送船かタンカーを改造した急造空母という見立ては合っていたらしく、10㎝徹甲弾は次々と空母の外板をぶち抜き、艦内で炸裂しているようだ。敵空母は次々と小規模の爆発を起こし、火災は次第に拡大し始める。だが致命傷に繋がるような巨大な爆発はない。

 そうこうするうちに、「雪風」はどんどん敵空母に近付いていく。それに比例して魚雷発射シークエンスも進んでいく。

 

「敵速18ノット、針路80度。

調定深度3メートル、散布角2度、雷速51ノット、発射雷数4! 1番連管、魚雷戦ヨーイよし!」

「敵空母、距離ヨンマル!」

「面舵いっぱい! 回頭終わり次第、魚雷発射始め!」

「おもーかーじ、90度ようそろ!」

「第2・第3砲塔、左砲戦! 目標、敵空母1番艦! 艦体後部喫水線付近を狙ってください!」

「第2・第3砲塔、左砲戦よーそろー! 敵空母の後部を狙います!」

 

 敵空母も全開で機関を回して逃げようとしているが、それを許すほど「雪風」は甘くない。護衛艦がいなくなったため、徹底マークして何が何でも沈めるつもりだ。

 

「面舵90度、回頭完了!」

「ムー艦隊をお守りします!」

「1番連管、魚雷発射始め!」

 

 圧縮された空気が抜ける音。続いて海水音が微かに聞こえた。

 

「魚雷発射完了! 命中まで約3分!」

 

 水雷長妖精のその報告と、後部から聞こえる砲声が重なった。

 

「続いて2番連管、左魚雷戦! 目標、敵空母2番艦! 雷撃距離サンマル!」

「主砲、発砲タイミングを合わせてください! 全門斉射です!」

「一斉撃ち方よーそろー!」

 

 タイミングを合わせ、4秒置きに6発の10㎝砲弾が撃ち出される。弾幕をばら撒きながら、「雪風」はもう1隻の空母に向けて突進していく。

 

「敵空母、命中弾多数! 火災発生、速力低下!」

「撃ち方止め! 新たな目標、敵空母2番艦!」

 

 最後に残る敵空母を撃沈すべく、「雪風」は35ノットの最大速力で突進する。

 敵空母は、1門備えられた単装高角砲と思しき小口径砲を撃ちながら、必死に逃げようとしている。それに対して「雪風」艦体前部の「10㎝連装高角砲」が、再び応戦の咆哮を轟かせた。

 第1射から命中した砲弾は、第2射、第3射と立て続けに命中する。と、第4射が命中した直後、敵空母の飛行甲板がいきなり大きく盛り上がったように見え、次いで大量の破片が火山弾さながらに飛び散り、黒煙を伴った凄まじい火柱が見えた。

 どうやら「雪風」が撃ち込んだ砲弾が、航空燃料庫か爆弾格納庫でも直撃したらしい。

 

「見事です、砲術の皆さん!」

 

 “雪風”が砲手妖精たちを賞賛している。

 爆発炎上する敵空母に対し、なおも砲撃を続けながら「雪風」は突撃を続ける。目一杯まで肉薄し、必殺の酸素魚雷を確実にぶち当てるつもりだった。

 そして、数十発以上の砲弾を敵空母に叩き込んだところで、

 

「距離サンマル!」

 

 待ち望んだ報告が上がった。

 

「面舵いっぱい! 回頭終わり次第魚雷発射始め!」

 

 “雪風”の命令と同時に、「じかーん!」の報告が上がった。「雪風」が右に旋回する中、見張員妖精から報告が届く。

 

『見張より艦橋、魚雷命中3! 敵空母大火災、撃沈確実!』

 

 その直後、回頭を終えた「雪風」の艦体後部から4本の「40式魔導酸素魚雷改」が敵空母に向けて発射された。

 

 

 キラン・カートライト大佐は、絶望の面持ちで空母「ガリレオ」の艦橋から外を見ていた。

 姉妹艦「マゼラン」は脇腹に3本の魚雷を突き立てられ、大火災を起こしながら真っ二つに折れて沈んでいくところである。そして同様の運命が既に「ガリレオ」を見舞いつつあった。

 敵の駆逐艦が撃ってきた砲弾が、舷側を貫通して航空燃料庫に飛び込んで炸裂した結果、「ガリレオ」は火山の噴火もかくやという量の黒煙を噴き上げて燃え盛っている。艦橋内には既に焦げ(くさ)い匂いが立ち込め、煙で視界は霞み始めていた。ダメージ・コントロール・チームが必死で消火活動に当たったが、敵弾が降り注ぐ中での消火活動は難航し、火の勢いが弱まる様子がない。さらに火災の影響で機関室が高温になりすぎ、要員の退避を余儀なくされたことで速力が低下した。その最中、3,000メートルまで接近してきた敵駆逐艦は、不意に反転して去っていった。だが、その際に駆逐艦が海面に棒状の物体を4本投下するのを、キランは目撃した。

 敵が何をしたか、もう考えるまでもない。魚雷を撃ってきたのだ。

 このためキランは、もはや艦を救う見込み無しと判断し、負傷して医務室に担ぎ込まれた艦長に代わって「総員退艦」の命令を出した。そして自らは「責任を取る」として艦橋に残り、他の乗員が退艦する様子を確認しながら刻を待っている、というわけである。

 敵駆逐艦が発射した魚雷の雷跡は見えない。だが、“その刻”が近いことをキランははっきりと悟っていた。

 

 敵駆逐艦は、味方の駆逐艦2隻をあっという間に沈めてしまい、その後こちらの空母を雷撃で撃沈しに来た。その手並みはあまりにも鮮やかで、まるで熟練の暗殺者か何かのようだった。

 その上、こちらも何発もの砲弾を放ったのだが、嫌になるほど敵に当たらなかった。命中弾どころか至近弾さえなかった。こちらの弾は当たらず、敵の弾ばかり当たるなんて事態が起きるなど、考えたこともなかった。そんな事態を引き起こすなんて、あの駆逐艦はまさに…

 

「悪魔……いや、しに、がみ……」

 

 そう呟いた瞬間、これまでに感じたことのない激烈な衝撃が真下から襲いかかり、吹っ飛ばされたキランは艦橋の壁に頭をぶつけて意識を失った。その直後、2本の「40式魔導酸素魚雷改」の直撃を受けた「ガリレオ」は一度左へ傾いた後、右への揺り戻しを受けて崩れるように横倒しとなった。そして、煙突から冷たい海水がタービンに流入した結果として水蒸気爆発を起こし、木っ端微塵になって沈んでいった。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 駆逐艦「雪風」の艦上で己の行為の結果を直視しながら、“雪風”は小さく呟いた。

 海上には3つの炎が見える。駆逐艦1隻と空母2隻の火災炎だ。駆逐艦が1隻足りないが、そちらは爆発と共に轟沈してしまい、もはや洋上にない。

 激しい爆発を起こして沈んだ空母は、大量の破片と流れ出た重油だけを名残として海面に留めており、真っ二つに折れて沈みゆく空母の周囲では海水が激しく渦を巻いている。駆逐艦の火災の煙は海面付近にわだかまっていた。

 敵だったとはいえ、また多くの人命を奪ってしまった……“雪風”の胸中に浮かんだのはその思いだった。多くの人命を助けてきた彼女だが、たった今数百人単位の人間を死なせてしまったのだ。戦争ゆえに仕方のないことだとは“雪風”も分かっているが、一方で彼女の心優しさはそれを完全に受け入れることを拒絶していた。その葛藤の結果が、あの謝罪である。

 

(あの渦が収まったら、せめて今生きている人たちだけでも救出したいですね……)

 

 “雪風”がそう考えたその時、通信長妖精が叫んだ。

 

「“Iowa(アイオワ)”から緊急入電! 『我、右舷中央ニ魚雷ヲ受ク。直チニ対潜警戒ニ当タラレタシ』!」

「潜水艦!? 分かりました!」

 

 即座に思考を切り替え、“雪風”は「Type124 ASDIC」の起動を水測室に命じた。

 

 およそ1時間後、戦艦「アイオワ」から新たな被雷の報告はなく、「雪風」のアクティブソナーを以てしても敵潜水艦らしきものは全く発見できなかった。また、「アイオワ」にせよ生き残りのムー海軍の艦艇にせよ、雷撃を全く受けなかった。そのため、“雪風”は最終的に、「敵潜水艦はいない可能性が高い」と判断し、“Iowa”に「生き残っているグラ・バルカス帝国兵を救助したい」と具申した。そして許可を得た後に、艦艇乗員161名、航空機搭乗員1名、合わせて162名のグラ・バルカス帝国兵を収容した。

 こうして、イルネティア島北東沖海戦は終わった。対決したロデニウス・ムー連合艦隊とグラ・バルカス帝国艦隊は、どちらも相応の被害を受けた。

 具体的には、ロデニウス・ムー連合艦隊は、ムー艦隊から装甲巡洋艦1隻、軽巡洋艦(事実上の護衛駆逐艦)3隻が失われ、防空巡洋艦・軽巡洋艦各1隻が中破、戦線離脱を余儀なくされた。また、戦艦「ラ・コンゴ」は中破ながら作戦行動継続となり、空母「ラ・ラツカ」は艦上機の約22%を喪失し、まだ作戦行動は可能だが帰還後すぐに航空隊の再編が必要となった。ロデニウス艦隊は、戦艦「アイオワ」が小破したのみで、「雪風」は全くの無傷である。

 一方のグラ・バルカス帝国軍は、ロデニウス・ムー艦隊と戦った本国艦隊第42地方隊が全滅。それも部隊損耗率3割とかいう、軍事学的な「全滅」ではない。駆逐艦1隻すら生き残れない、文字通りの「全滅」である。

 そしてもう1つ、重大な問題があった。ムー大陸周辺で比較的自由に行動できる艦隊戦力が、なくなってしまったのである。まとまった戦力としては、まだレイフォリアに第41地方隊とレイフォル防衛艦隊がいるが、第41地方隊はレイフォリアの防衛に主眼が置かれており、またレイフォル防衛艦隊は主力艦を軒並み喪失して軽巡洋艦と駆逐艦しか残っていない。これでは外洋に積極的に出撃して作戦行動に当たることは不可能だ。また、レイフォル州北部に拠点を置く第3潜水艦隊も、所属艦を多数失って出撃に消極的になったため、こちらも役に立たない。

 このため、グラ・バルカス帝国はムー大陸西岸の制海権をほぼ完全に喪失してしまった。しかもパガンダ・イルネティア両島はロデニウス軍の攻撃に晒されており、軍港も飛行場も機能停止に追い込まれたため、本国からの補給路もほぼ途絶した状態になったのである。

 

 ロデニウス艦隊と合流したムー統括軍・イルネティア派遣部隊は、イルネティア島への進軍を再開する。制海権を握った今、グラ・バルカス帝国が本土から艦隊を送ってくる前に、イルネティア島を解放するために。




というわけで、1対4と不利な戦だったにも関わらず、完封勝ちを決めた"雪風"でした。しかも無傷で。
旧日本海軍きっての豪運艦は伊達じゃありません。
まさに前話後書きの「戦艦はすごい艦だ。恐竜みたいなもんだ。ガンガン殴られても平気な浮かぶパンチングマシンさ。」に続けて、「でも駆逐艦(雪風)はすごいぞ、最高だ!」ですね。

全く、駆逐艦は最高だz
「ドーモ、提督=サン。憲兵です」
アイエエエ!? 憲兵!? 憲兵ナンデ!?
あちょっと待ってしょっぴかないでごめんなさい! アイエエエエエーー!!!

ちなみに、"Iowa"と"雪風"が所属する第26任務部隊(TF26)ですが、実はこれまでの2週間以上に及ぶ作戦行動の結果、航空爆弾や燃料をあらかた使い切ってしまいました。なので、ムー艦隊の支援に回ったこの2人を残し、TF26はTF28(第28任務部隊)と交代してパガンダ島へ撤収しています。"Iowa"と"雪風"も、ムー艦隊の上陸支援が終われば撤収という形になるでしょう。


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次回予告。

ムー大陸西岸の制海権は今やグラ・バルカス帝国の手から滑り落ちた。6月上旬以来続くパガンダ島攻防戦も大勢が決し、ロデニウス軍はイルネティア島解放作戦をさらに強力に押し進める。そして制空権すら奪い取られたイルネティア島のグラ・バルカス帝国軍は、悲惨なことになっていた…
次回「イルネティア解放作戦(9)」
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