鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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ついにサブタイトルの話数が2桁に突入。一個の場面をここまで分割して長く描いたことはなかったぞ……これからも頑張って描いていきます。

さて、今回はついにムー統括軍がイルネティア島に上陸します!



166. イルネティア解放戦(10)

 中央暦1643年7月1日。

 その日、イルネティア島北部の砂浜には、鋼鉄と火薬の暴風が吹き荒れた。

 

「全艦射撃始め!」

 

 レイダー・アクセル少将の号令一下、ラ・カサミ級戦艦「ラ・サヒア」「ラ・ツセ」の30.5㎝砲が火を噴く。それに続いて、ラ・デルタ級装甲巡洋艦の20.3㎝砲やラ・グリスタ級巡洋艦の14㎝砲が(ほう)(こう)する。それらを塗り潰すようにして一際強烈な砲声が轟いた。(こん)(ごう)型戦艦のムー生産版たる「ラ・コンゴ」の35.6㎝砲の斉射だ。

 ムーが誇る戦艦部隊の上空を、複葉機と単葉機が入り混じり、編隊を組んで飛んでいく。輸送船団に随伴してきた護衛のラ・ラツカ級空母「ラ・ラツカ」、ラ・ヴァニア級空母「ラ・トウエン」「ラ・スペチア」、ラ・コスタ級空母2隻から発艦した航空機だ。

 ムー艦隊はイルネティア島に対する上陸作戦、その前段階として艦砲射撃と空爆を行なっているのだ。この砲撃には、ロデニウス海軍の戦艦「アイオワ」と駆逐艦「(ゆき)(かぜ)」は参加していない。「アイオワ」は輸送船団を敵から守るべく警戒にあたっているし、「雪風」はムー艦隊の駆逐艦と共に水中に耳を傾け、潜水艦に目を光らせている。

 大小の砲弾が降り注ぎ、砂浜と付近の森林は無惨なまでに耕される。そのついでに、森林や海岸線付近に築かれていたグラ・バルカス帝国軍のトーチカが爆砕され、塹壕には急降下爆撃機「ピラーニ」の500㎏爆弾や機銃掃射が叩きつけられ、砂浜にあった鉄条網などの障害物はスクラップにされてゆく。それに対して、グラ・バルカス帝国軍の火砲が火を噴くことはない。目標となるムーの艦船がそもそも射程外にいるし、この防衛線に配備されているのは155㎜級の重カノン砲しかないので、撃ったところで戦艦の装甲に弾かれて終わりである。

 たっぷり1時間以上もかけて砲撃と空爆を行ったムー統括軍艦隊。その旗艦「ラ・サヒア」艦橋に無線通信が飛び込んだ。

 

「司令、ロデニウス艦隊の戦艦『アイオワ』より通信が入りました。『我これより』…!?」

 

 が、その通信文を読み上げようとした通信長が、報告中に絶句する。

 

「どうした?」

 

 艦隊司令レイダーに尋ねられ、通信長はしゃっちょこばって答えた。

 

「は、それが…通信文にこうあるのです。『我これより敵残存陣地に対し、誘導弾による超精密攻撃を実施す。貴艦隊は予定通り、上陸作戦の準備を完了されたし』。以上です」

「何っ!?」

 

 レイダーの隣に控えていた参謀長シギント・サーマン准将が絶句した。

 

「ゆ…誘導弾だと!? 確かなのか、それは?」

「はい、間違いないようです」

「分かった、下がって良い」

「はっ」

 

 通信長を下げさせた後、レイダーは下顎に手を当てて何やら考え始めた。その彼にサーマンが問いかける。

 

「司令、誘導弾…というのは確かなのでしょうか? 誘導弾といえば、かの古の魔法帝国以外は未だどこの国も実用化していない兵器ですが…」

「正直なところ、私も半信半疑だ。だが、“レールガン”とかいう電気式の大砲なんぞを実用化していたあのロデニウスならば、もしかすると…」

 

 レイダーがそう言った時、通信長が新たな報告を上げた。

 

「空母『ラ・トウエン』より報告。『ロデニウスの戦艦より、白煙の尾を引く飛翔体の発射を確認』」

「それが誘導弾だろうか?」

 

 その時、ちょうど「ラ・サヒア」の横を何か小さな棒状の物体が4つ、高速で飛んでいった。白煙の尾を引いている。

 

「あれか」

 

 レイダーとサーマンが見ていると、その飛行物体は砂浜に向かって飛んでいく。と見るや、急にその機動を変え、真上に大きく飛び上がった。そして砂浜の上空で向きを変えて敵陣を指向するが早いか、分裂して破片のようなものを撒き散らす。

 次の瞬間、地上に(ひゃく)(らい)のごとき爆発が連鎖した。どうやら破片と見えたのは1発1発が爆弾だったようで、広範囲をまとめて薙ぎ払っている。

 

「な…!」

「すごいな…」

 

 サーマンが絶句し、レイダーが()()れる。

 また4発、飛行物体が飛んできた。それらは今度は分裂することなく、各々異なるコースで地上に落下し、巨大なドス黒い火柱を4つ噴き上げる。

 

「あれが、ロデニウスの誘導弾か…!」

 

 とんでもない兵器を見せられ、レイダーは戦慄するのだった。

 

 レイダーとサーマンが目にしたのは、「BlockXX Tomahawk(トマホーク)」巡航ミサイルによる攻撃だった。今回は通常弾頭、徹甲弾頭、それにクラスター弾頭の物が使用されている。余談だが、今回は使われていないもののナパーム弾頭もある。そして将来的には、核弾頭も…出てくるかもしれない。

 生き残っていたグラ・バルカス帝国軍の陣地では、必死で重カノン砲が指向され、機関銃が据えられ、兵士たちが配置についていた。この兵士たちは丸太やコンクリートでできたトーチカの他、(ざん)(ごう)陣地に入っており、まとまった人数が密集している。そんなところへクラスター弾が降ってきたのだから、それはもうひどいことになった。

 百雷のごとき炸裂が大地を揺るがし、一面が茶色の土煙に染められ、悲鳴は炸裂音にかき消される。土煙が収まった時には、塹壕陣地に生きている者は誰もいなかった。クラスター弾の金属片で切り刻まれ、爆発でバラバラに吹っ飛ばされ、全員がボロ(ぞう)(きん)のようになって倒れ伏している。

 続いて、生き残っていた重カノン砲とトーチカがターゲットにされた。通常弾頭のトマホーク巡航ミサイルが落下し、重カノン砲陣地の弾薬が引火誘爆して砲座そのものが木っ端微塵に吹き飛ぶ。もちろんだが、陣地にいた兵士は全員がその場で蒸発した。コンクリート製のトーチカには徹甲弾頭の「トマホーク」が突き刺さり、銃眼に大穴が開けられ、中にいた兵士たちは凄まじい爆風と炸裂した「トマホーク」の金属片で吹っ飛ばされる。情けも容赦も一切無く、「トマホーク」はただただ機械的に仕事をこなし、グラ・バルカス帝国兵は無慈悲に殺されていった。

 

 誘導弾が猛威を振るっている間に、輸送船に乗っていたムー統括陸軍の兵士たちは(なわ)(ばし)()を使ってボートに乗り込み、上陸の準備をしている。ムー統括軍では数少ないビーチング式の揚陸艦…今回が初実戦となる「ロ式42型ガエタン75㎜自走砲 ラ・スタグ(III号突撃砲F型)」や「ロ式42型30トン級戦車 ラ・シマン(M4シャーマン中戦車)」を載せている…がゆっくりと浜辺に近付いていく。

 戦艦「アイオワ」が「トマホーク」を大概撃ち尽くし、グラ・バルカス帝国軍の防御陣地の大半が沈黙したと判断された段階で、ついに上陸作戦が始まった。ムー陸軍の兵士を乗せたボートが一斉に動き出し、浜辺に近付いていく。先行していた揚陸艦を追い越し、ボートは次々と接岸した。兵士たちが砂浜に降り立った直後、浜辺に隣接する木立の中で発射炎が閃き、弾幕が飛来する。まだ生き残っていたグラ・バルカス帝国兵が、機関銃や小銃で応戦してきたのだ。

 たちまち何人かのムー歩兵が被弾して倒れるが、残った兵士たちはすぐに砂浜に開いた砲弾孔に飛び込み、背負っていたボルトアクション式ライフル銃を抜いて反撃する。無線機を背負った兵が艦隊に支援を要請し、ムー艦隊の艦砲が今一度火を噴く。グラ・バルカス帝国兵も必死で応戦したものの、艦砲射撃の一斉射で吹き飛ばされてしまった。

 そこへ揚陸艦が接岸し、その中からラ・スタグ自走砲やラ・シマン戦車が姿を現す。ムー歩兵を(かば)うようにして前に出るや、75㎜砲を発射し車載機銃で応戦を開始する。まともな重火器を根こそぎやられていたグラ・バルカス帝国軍にとって、これらの車輌は自走する絶望そのものだった。

 なす術なく撤退に追い込まれるグラ・バルカス帝国軍。それを深追いすることなく、ムー統括軍の兵士たちは直ちに(きょう)(とう)()の拠点化に乗り出す。ロデニウス連合王国軍海兵隊に倣った動きだ。

 慣れない作業に少し手間取りつつも、4時間も過ぎる頃には相応の防御力を持つ上陸拠点ができあがった。こうして、旧イルネティア王国並びに同国の第一王子エイテス・アルフレト・リッキンバーグとの約束を果たすべく、ついにムー統括軍がイルネティア島に解放の第一歩を印したのだった。

 

 

 そしてこの様子を、密かに観察している者がいた。(くす)んだ緑色の軍服を身に(まと)い、顔には緑と黒のドーランを塗りたくり、さらにはヘルメットに木の枝をぶっ刺しているそいつは、右手で双眼鏡を持ったまま左手で無線機を操作する。

 

「ムー統括軍の上陸を確認。歩兵メインだが、観察した限り、少数ながらIII号突撃砲やM4シャーマンを連れている模様。数は1万人規模と推定。送れ」

 

 すると、返事が返ってきた。

 

『こちら連隊長から(せっ)(こう)へ、任務ご苦労。直ちに撤収し本隊に合流せよ。敵に発見されぬよう注意せよ』

「斥候、了解。これより帰還する」

 

 交信を終えるや、人間のようなそいつは頭に付けた木の枝を全て振り落とした。そして近くの茂みへと駆けていく。

 その茂みだが、妙な違和感があった。どうにも全体的に不恰好なのである。

 何の躊躇(ためら)いもなく、そいつは茂みへと飛び込む。すると少ししてエンジン音が聞こえてきた。

 直後、茂みが崩れるようにして形を失い、そこから1台の車が現れる。いや、その車は明らかに戦闘のために作られたものだった。何故なら脚周りはタイヤではなく無限軌道となっており、さらに車体のてっぺんには小口径ながらも大砲が付いていたからだ。

 それは、明らかに戦車だった。詳しい者なら、一見してそれが旧日本軍の「九五式軽戦車ハ号」だと分かる。さらに詳しい者なら、一目でこの戦車の所属部隊まで見抜いているだろう。

 

 …何故なら、その戦車の砲塔側面には、控えめながらも「士」の一文字が描かれていたから。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同日午後10時頃、イルネティア島北部。

 森の中に広がる緑地には複数のテントが立てられ、ところどころに自動車やトラック、あるいは戦車や装甲車のような車輌の姿もある。これは、野営中のグラ・バルカス帝国陸軍第11師団・第125連隊だった。島北部にムー軍が上陸してきたとニュースが入り、それを迎え撃つべく北端の海岸に向かう途中なのである。だが強行軍の疲労が(たた)り、休みを取らざるを得なくなったのだ。

 密集して立てられたテントの外側では、何人もの兵士が寝ずの番に当たっている。それも無灯火だ。見えにくいことこの上ないが、彼らは文句を言わずに己の職務を果たそうとしている。

 寝ずの番に当たる兵士たちは皆、かなりピリピリしていた。それも無理はない。

 というのも、このところロデニウス軍の夜間空襲が激しくなっている。それだけではなく、先日は同じ師団の第126連隊が敵襲を匂わせる電文を発して一切の消息を絶った。その後、同連隊は全滅しているのが発見されたが、周辺の森ごと焼き払われた様子であり、高威力の範囲攻撃を受けたものと推測された。

 その恐ろしい攻撃がいつ、自分たちに降りかかってくるやもしれない。そうでなくとも、反乱を起こした現地民に襲撃される可能性もある。兵士たちがピリピリするのも無理からぬことである。

 

「ん?」

 

 と、寝ずの番をしていた兵士の1人があることに気付いた。暗闇に閉ざされた周囲の林、その中から微かにエンジン音らしきものが聞こえてくる。

 

(エンジン音?)

 

 不審に思ったが、よく聞いてみるとエンジン音はハウンド中戦車やシェイファー軽戦車のそれに似ているようだ。

 しばらくすると、林の中にぼんやりと戦車のシルエットが複数浮き上がった。暗闇ゆえに分かりづらいが、それは明らかにハウンドI中戦車やシェイファーII軽戦車のシルエットだった。

 

(何だ、味方か……師団長あたりが援軍を()()してくれたんだな。びっくりさせやがって……)

 

 と寝ずの番の兵士が安堵した、その瞬間。

 

 ハウンド中戦車やシェイファー軽戦車の砲塔が、一斉に火を噴いた。

 

 何が起きたのか理解する暇もなく、寝ずの番にあたっていた兵士たちはその肉体を木っ端微塵に吹き飛ばされ、この世を去った。

 それに続く砲弾の着弾による炸裂音、そして爆発閃光は、一瞬にして第125連隊を混乱と恐怖のどん底に叩き落とした。

 

「何だ!? 何が起きている!?」

「味方の戦車が撃ってきたぞ!!」

「何だと!? 奴ら、こっちを敵だと思ってやがるのか!?」

「内乱だぁぁぁぁ!!!」

「撃て撃て! 迎撃しろ!」

「バカ撃つなっ! アレは味方だ!」

「早く、無線で連絡を取れ! 同士討ちを止めさせるんだ!」

 

 報告と命令が錯綜し、もうめちゃくちゃである。事態を正確に理解できている者は誰もいない。

 第125連隊を襲ったこの事態は何だったのか。内乱ではない。実は完全なる「敵襲」であった。

 そう、第125連隊に夜襲を仕掛けたのは、ロデニウス陸軍第13軍団・戦車第11連隊だったのである。

 

「突撃ぃぃぃぃ! 奴らは混乱している、今のうちに叩けるだけ叩け!」

「行くぞ野郎ども! 奴らを()き殺してでも進路を(ひら)け!」

「天皇陛下バンザァァァァァイ!!!」

 

 隊長妖精“(いけ)()(すえ)()”の号令一下、各戦車に座乗する妖精たちは口々に叫びながら突撃にかかる。

 

「♪敵が行く手を阻むとも、全速力で進むのみ♪」

「♪死を招く悪魔、大地に潜むとも、ただ我が(みち)を求め()く♪」

「♪大和(やまと)(だましい)ある者の死ぬべき時は今なるぞ、人に(おく)れて恥かくな!!」

「♪敵の滅ぶるそれまでは進めや進め(もろ)(とも)に、(たま)()(つるぎ)抜き連れて死ぬる覚悟で進むべし!」

 

 中には地球で歌われた軍歌を引用して、士気向上に努める者もいる。

 戦車長を務める妖精たちやタンクデサントしている随伴歩兵・工兵の中には、車体上部から抜き身の軍刀を振り回して、()(かつ)に接近してきたグラ・バルカス帝国兵を一刀の元に斬り捨てる者まで出た。それほどの接近戦となったのである。

 こうなってしまえば、後は混乱と血闘あるのみである。そしてこの場合、戦車第11連隊には圧倒的に有利な点が1つあった。自分たち以外は全て敵であり、敵味方をはっきり区別しやすいことである。

 戦車第11連隊が装備している「九七式中戦車チハ」と「九五式軽戦車ハ号」の姿形は、それぞれグラ・バルカス帝国陸軍の「2号中戦車ハウンド」と「2号軽戦車シェイファーII」に酷似している。だが決定的に違う点がいくつかあった。まず、チハの砲塔側面(特に新砲塔チハ)には60㎜ロケット弾発射器が外付けされている。これは、ゲーム「バト◯フィー◯ドV」に登場する「九七式中戦車GS」にヒントを得て作られたものだ。そして決定的に違う点として、火器の照準器に赤外線暗視装置が取り付けられ、さらに車体には赤外線塗料を使った識別帯が塗ってある。砲塔側面に描かれた「士」の文字にも、赤外線塗料が塗ってあった。

 このため、戦車第11連隊の面々は戦車の砲塔側面に取り付けられたロケット砲や、暗視装置で捉えた識別帯などを目標に敵味方を識別し、味方でないと判断された相手には容赦無くゼロ距離で砲撃を叩きつけ、ロケット弾を浴びせ、銃弾を撃ち込み、軍刀で斬り捨て、しまいには戦車ごと体当たりして轢き潰した。

 それに対するグラ・バルカス帝国陸軍第125連隊は、有効な反撃がほとんどできなかった。相手は自軍とほぼ同じ形状の戦車を使用しており、闇夜での敵味方の識別を肉眼のみに頼っている彼らにとっては、その識別自体が非常に困難だった。加えて情報が錯綜しており、連隊司令部も混乱した結果、統制がほとんど崩壊してしまい、状況に即応する指揮を執れる者がゼロに等しかった。その結果、彼らは敵の迎撃どころか同士討ちすら起こす有り様であり、反撃などできた物ではなかったのである。

 こうして、わずか1時間あまりの夜戦が終わった時には、第125連隊はその兵力の8割方を失ってしまい、残った兵もてんでんばらばらに離散して全滅状態となってしまった。対する戦車第11連隊は、九五式軽戦車1輌を喪失しただけである。ほぼ一方的なワンサイドゲームだった、と言って良い。

 

「ざっとこんなもん、かな」

 

 グラ・バルカス帝国軍からの抵抗が全くなくなり、戦闘終了と判断した妖精池田は、座乗する旧砲塔チハの砲塔上ハッチから身を乗り出しながら呟いた。

 立ち並んでいたテントも周囲に止まっていた自動車や装甲車、戦車も、ほぼ全てが炎に包まれている。硝煙の匂いに金属と有機物の焼ける強烈な悪臭、そして戦場特有の死臭が、容赦無く鼻に突き刺さる。だが妖精池田には慣れたものだ。

 

「全く、()(しま)に攻め込んできたロ助ども(ソ連兵)を思い出しましたよ……」

「敵、それも()()の一般人に手を出す(やから)が相手となると、連隊長も容赦がありませんからな」

 

 妖精池田と同じ戦車に乗っている妖精たちが、各々コメントする。

 

「よし、このまま敵部隊が通ってきた道を逆に辿るとしよう。目指すは敵本拠地だ。

無線傍受や偵察の結果から判断するに、おそらく奴らは我々の存在に気付いていない。今攻めれば奇襲となるだろう。

今度は、我々が戦車第二師団に倣う時だ」

 

 そう呟いて、妖精池田は全隊に通信を送った。

 護国の魂をその身に宿す鉄獅子たちは、一斉に進路を変えて夜の闇に消えていくのだった。

 

 ちなみにここで史実を解説すると、大日本帝国陸軍戦車第11連隊(士魂部隊)は元々戦車第二師団の指揮下にあった。この戦車第二師団は、太平洋戦争緒戦のフィリピン攻略戦で活躍した部隊である。昭和19年に戦車第11連隊は戦車第二師団から第91師団に転属し、北海道の占守島を含む千島列島の防衛に当たることになった。そのまま終戦まで実戦を経験することはなかったのだが、終戦後にソ連軍が突如として千島列島に侵攻。これに対して戦車第11連隊は猛然と抵抗し、ソ連軍に多数の被害を与えて北海道や千島列島の一般人を守り切ったのである。

 そんな護国の戦士たちが、グラ・バルカス帝国軍を相手に戦おうとしていたのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『ムー統括軍、イルネティア島北部に上陸せり。ゆっくりと南下しつつある模様』

 

 このニュースは、(でん)(こう)(せっ)()という表現がぴったりの速度でイルネティア島全体に走った。それによって引き起こされた反応は様々だった。

 グラ・バルカス帝国陸軍イルネティア駐留部隊と、ムー大陸レイフォリア郊外の統合基地ラルス・フィルマイナに置かれたムー大陸侵攻軍司令部は、凄まじい衝撃を受けた。必死で防衛体制を築いていたにも関わらずあっさりと上陸を許してしまったことに。そして、イルネティアの失陥とそれに伴うムー大陸勢力圏の孤立の恐れが一段と高まったことに。

 もしムー大陸の植民地…レイフォル州を中心とする広大な植民地が失われるようなことになれば、グラ・バルカス帝国の国威は地に堕ちるだろう。経済的・軍事的な打撃も計り知れないものとなる。そしてその未来は、イルネティア島が陥落した瞬間にほぼ確定するのだ。

ムー大陸侵攻軍司令部、そしてグラ・バルカス帝国本土の軍本部は、イルネティア駐留部隊に対して徹底抗戦を命令。それと同時に、イルネティア島周辺海域の制海権奪還にあたる中央第2艦隊と潜水艦隊に対しては補給を急ぐよう命令した。

 また、ムー大陸侵攻軍側ではラルス・フィルマイナなどの飛行場を修理して、イルネティア島に航空攻撃をかけられるよう備え始めた。

 

 その一方、ロデニウス軍第3海兵師団とイルネティアの現地民……旧イルネティア王国民は、このニュースに沸き立ってさらに積極的な行動に出た。

 ロデニウス軍第3海兵師団は、第13艦隊第28任務部隊の航空支援の下に少しずつ占領地を拡大している。イルネティアの民衆はというと、次々と反乱同盟軍に参加する者が出現し、ロデニウス第3海兵師団と接触できた反乱組織の中には相互支援体制を築いた上でさらなる攻勢に出るものもあった。

 当然のように、こうした反乱組織の中にはロデニウス軍から供与された拳銃や短機関銃、火炎瓶を使う者もいる。このため、旧王都キルクルスのような都市部における反乱は、もはや内戦と言い切れるほどの惨状を呈していた。一例を挙げると、キルクルスに置かれたグラ・バルカス帝国植民地警備軍の拠点に、「反乱」「暴動」「放火」のどの単語も付かないニュースが舞い込むことは1日もなく、毎日必ずどこかで内乱の戦火か放火による火の手が上がっている。しかも、どうやって作り方が伝わったのか、イルネティア民衆は火炎瓶を使ってくるようになり、そのためガソリンエンジンを使用しているグラ・バルカス帝国の戦車や装甲車を容易に投入できなくなってしまった。

 間断無きロデニウス軍の空襲、既にイルネティア島南部一帯を勢力圏に置いたロデニウス軍地上部隊、ついに上陸したムー軍、そして現地民の反乱。相次ぐ凶報に、グラ・バルカス帝国陸軍・イルネティア州駐留部隊は次第に機能不全に陥りつつあった。

 

 そんな激動のイルネティア島に、さらに一波乱を咥えようとする存在が現れようとしていた。それは、イルネティア島の南方約1,080浬に位置するパガンダ島に展開した、ロデニウス海軍第13艦隊である。

 

「第29任務部隊、全艦出撃せよ!」

 

 堺の号令一下、一群の艦艇が静かに海面を滑り始めた。その中心には、岩山を思わせる武骨な艦橋に、連装砲2基・三連装砲2基という異様な形の主砲を搭載した大型艦が2隻いる。

 これが、イルネティア沖へ増援として向かっている第29任務部隊(TF29)である。編成は、戦艦「(なが)()」を旗艦として以下の通り。

 

戦艦「長門」「()()」(どちらも改二)

正規空母「()()」「(かつら)()

重巡洋艦「()()

航空巡洋艦「(ちく)()

軽巡洋艦「()()

重雷装巡洋艦「(きた)(かみ)」「(おお)()」「()()

駆逐艦「()(つき)」「如月(きさらぎ)」「弥生(やよい)」「()(づき)」「(あき)(ぐも)」「(ゆう)(ぐも)」「(まき)(ぐも)」「(かざ)(ぐも)」「(あさ)(しも)」「(はや)(しも)」「(きよ)(しも)」「(しま)(かぜ)

 

 駆逐艦の数がやや少ないが、これが第13艦隊が出し得る駆逐隊の限界であった。現状イルネティア方面に5個駆逐隊が動員されており、残りも一部は補給中、一部は整備中となれば、これが動かせる限界ぎりぎりの数だったのである。

 ただし、空母艦娘に(れん)()の高い“加賀”と“葛城”、そして護衛に防空の鬼である“摩耶”を動員している以上、かなりガチ編成である。

 そして、これらの艦艇に加えて後から「(くし)()」がTF29を追いかけ、イルネティア島へ向かう予定である。これは、現在もムー大陸周辺で活動している「アイオワ」と「(ゆき)(かぜ)」に、補給と修理を行うためである。ちなみにだが、「釧路」は宇宙空間航行を可能としているため、遅れて出発してもTF29と同時か先にイルネティアに到着できる見込みである。

 

 そしてもう1隻、TF29と同時にパガンダ島を出撃する艦の姿があった。それは、半分沈没しているのではないかと思えるほど(きつ)(げん)の低い小型艦である。

 

「TF29旗艦『長門』より発光信号。『フィール グリュック』です」

 

 見張員妖精が伝えてきた報告に、小麦色に日焼けした肌の銀髪の女性…UボートIXC型潜水艦の艦娘“()500”は満足そうに頷いた。「フィール グリュック」とは、ドイツ語で「グッドラック」に当たる表現である。

 実は“呂500”は、以前にレイフォリア港口に機雷をばら撒いた後、今度こそパガンダ島に帰還したのだ。さすがに継戦能力の限界に達したのである。

 そして、“釧路”に必死で謝ってお説教をたっぷりと頂戴し、その代わりに艤装の点検と新兵器の配備を受けての再出撃であった。

 

「ふんふふ〜ん♪ 新型魚雷、楽しみですって!」

 

 上機嫌に鼻歌を歌う“呂500”。

 彼女の言う「新型魚雷」とは、ただの「41式魔導酸素魚雷改」…ではなく「41式魔導酸素魚雷改二」である。弾頭に磁気信管を採用した代物で、敵艦の真下で魚雷を炸裂させる艦底起爆戦法が可能になったものだ。

 艦底起爆ができれば、これまでよりも高い効率で敵艦にダメージを与えられる。何なら戦艦のような大型艦が相手でも、艦底起爆で竜骨をへし折ることで一発轟沈に持っていくことが可能だ。恐ろしい力を手にしたものである。

 そんな「呂500」は再びレイフォリアを目指している。そこに残っている敵水上艦隊や輸送船団の捕捉撃滅が、今回の作戦目標である。

 

 さらにはその"呂500"に加えて、なんと正規空母6隻、戦艦空母1隻を基幹戦力とする大規模艦隊がムー大陸方面へと舵を切っていた。彼女たちは一体、どこへ何をしに向かうのだろうか。

 

 イルネティア島を巡る戦況は、相変わらず激動状態でありながらも、次第に(すう)(せい)が決まりつつあったのである。




というわけで、ムー統括軍は上陸に成功。橋頭堡を確保しました。
今の状況をざっくりまとめると、こんな感じですかね。

ムー軍「さ"あ"ウ"チ"と"や"ろ"や"ぁ"!」
ロデニウス第13艦隊「ヒャッハー! 敵は殲滅だァ!」(クラスター爆弾投下)
ロデニウス第3海兵師団「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」(ゆっくり進軍)
イルネティア民衆「必ずアイツらにやり返してやる」(殺意MAX)
グラ・バルカス帝国軍「もうやだ対処しきれない」


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次回予告。

ムー統括軍が上陸を果たし、いよいよ追い詰められたグラ・バルカス帝国軍イルネティア守備隊。窮地に陥った味方を救うべく、ムー大陸のグラ・バルカス帝国軍は急ぎ飛行場を修理して航空機による救援を行おうと企図する。アストラル大陸からもグラ・バルカス軍水上艦隊+潜水艦隊が接近しており、イルネティア島を巡る攻防戦は未だ終わらない…
次回「イルネティア解放戦(11)」
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