鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今回はイルネティア島内の様子は描写無しですね。イルネティア解放戦って名乗ってるのに島内の様子の描写がないって、これ半分タイトル詐欺なんじゃ…



167. イルネティア解放戦(11)

 中央暦1643年7月3日 午前5時ジャスト、グラ・バルカス帝国領レイフォル州 州都レイフォリア。

 そろそろ太陽は地平線から顔を出しつつある頃だが、まだ夢の世界にいる者も多い時間帯である。外交官ダラス・クレイモンドもご()(ぶん)に漏れず、自宅のベッドで寝息を立てていた。その枕元にはアナログの目覚まし時計がある。

 グラ・バルカス帝国にも目覚まし時計というものはある。だが、一般市民が手を伸ばすにはお高い代物だった。ダラスがそんな代物を持っているのは、外交官という身分を利用しての特権である。この目覚まし時計が、ダラスの眠りを管理していた。

 しかしこの日に限っては、目覚まし時計はその仕事をしなくても良かった。

 

ドオォォン……

 

 外から聞こえた鈍い音に、ダラスは少し寝返りを打った。

 

ドドォン…ドドォン…

 

 似たような鈍い音が断続的に聞こえる。それにつられてダラスがぼんやりと目を開けた、その瞬間。

 

ウウウウゥゥゥゥーッ!!!

 

 けたたましいサイレンの音が、突如として響き渡った。電柱に設置されたスピーカーから流されているようだ。

 意識のチャンネルがいきなり夢から覚醒に切り替えられ、寝起きのダラスの頭を混乱が襲う。だが、サイレンの後に流れてきた放送がその混乱を吹き飛ばした。

 

『敵襲! 敵襲! レイフォリアは現在敵の空襲を受けている!

総員戦闘配置に()け! 全市民は直ちに屋内に避難せよ! これは訓練ではない!

繰り返す! レイフォリアは現在、敵の空襲を受けている! 総員戦闘配置に就け! 全市民は直ちに屋内に避難せよ! これは訓練ではない! これは訓練ではない!』

 

 緊張感のある声、非常に早口で流されている。

 

「く……空襲だとっ!?」

 

 今度こそ何が起きているのか理解し、ダラスは飛び上がった。慌てて窓に駆け寄り、外を見る。

 ダラスの家は集合住宅…端的に言えばマンションの高層階の一室である。故に窓からは外の様子がよく分かる。

 窓に駆け寄ったダラスの目に飛び込んできたのは、統合基地ラルス・フィルマイナの方角からもくもくと立ち昇る大量の黒煙だった。よく見ると、レイフォリア周囲の山からも黒煙が上がっている。

 

「な……!」

 

 絶句するダラスの視界を、銀光りする何かが高速で横切る。それは明らかに戦闘機だった。だが、明らかにダラスが知っているグラ・バルカス帝国軍の機体とは異なる。

 朝日に輝く、灰色の機体。プロペラがなく、機体後部から一筋の炎を噴き出し、凄まじい速度で空を()ける。その速度は信じられないほどであり、上昇すればあっという間に空の高みへと消えていく。

 

「あれは…!」

 

 ダラスはその機体に見覚えがあった。忘れもしない、半月前にもレイフォリアを襲った機体だ。同じ敵が襲来したらしい。

 とここで、ダラスは気付いた。

 

「なぜ対空砲が上がっていない!?」

 

 そう、帝国が誇る高射砲が撃たれていないのだ。対空砲によると思しき弾幕は、空には全く見えない。

 それに、空を見渡すとラルス・フィルマイナとは別の方角にも黒煙が上がっていた。それは明らかに軍港の方向である。

 

「それになぜ敵機を見逃した!? レーダーと警戒の戦闘機隊は何をしていた!?」

 

 理解を超えた現象に、ダラスの頭はパンク寸前だった。

 

 

 タネを明かせば、実に簡単なことである。

 飛来した航空機…「F-86D改 セイバードッグ」は、レーダーの電波が届きにくい超低空から突入し、対地ロケットの一斉射でいきなり滑走路と対空砲陣地を叩き潰した。そのせいでグラ・バルカス帝国軍は有効な反撃ができなくなったのだ。既に上空で警戒に当たっていた「アンタレス」戦闘機はどうしたのかというと、「セイバードッグ改」から発射された「AIM-9M サイドワインダー」空対空ミサイルの()(じき)となり、通信を送る暇すらも与えられずに全機が撃墜されている。

 「F-86D改 セイバードッグ」は、猟犬の鼻面のように尖った機首を持っているが、そこにレーダーを搭載して夜間全天候作戦能力を獲得した機体だ。このため、まだ夜闇が残っていようが霧が出ていようがお構い無しに超低空から突っ込むことができたのである。

 もちろんだが、「セイバードッグ改」はロデニウス軍の機体である。どこから出てきたのかというと、夜陰に乗じてレイフォリア西方170浬(約310㎞)に接近した第30任務部隊(TF30)()(かん)・戦艦空母「(あか)()」から飛び立ったものだ。

 レイフォリアに接近したロデニウス海軍の空母は4隻。戦艦空母「赤城」と、正規空母「(そう)(りゅう)」「()(りゅう)」「グラーフ・ツェッペリン」だ。基地攻撃は「赤城」「蒼龍」の全航空隊と「飛龍」の艦爆隊が担当し、「飛龍」の艦攻隊と「グラーフ・ツェッペリン」の航空隊は軍港を攻撃している。

 1時間ほどの短い時間ながら嵐を思わせる激しい爆撃が終わった後には、統合基地ラルス・フィルマイナは見るも無惨な姿にされていた。基地の規模が規模だけに無事な建物はあるが、飛行場の滑走路には複数の大穴が穿(うが)たれ、駐機場は機銃掃射と爆撃でアスファルトがささくれ立ち、無事な機体は1機もない。駐機場に並んでいた航空機…爆弾を山と積んでイルネティア島へ向かうはずだった「ベガ型双発爆撃機」も、その護衛に当たるはずの「アンタレス07式艦上戦闘機」も、機銃掃射で(はち)の巣にされるか爆撃で吹っ飛ぶかして、全機が地上で炎に包まれ、ジュラルミンの骸と化している。「蒼龍」から発艦した「(すい)(せい)(()(ぐさ)隊)」のおかげで、格納庫も屋根を落とされた物が多い。ブルドーザーやパワーショベルといった重機もやられており、燃料タンクのある一角はもはや火の海だ。

 そして、レイフォリア周辺の山に隠匿設置されていたはずのレーダーや対空砲は、「赤城」航空隊の「セイバードッグ改」のロケット弾でその大半を破壊されていた。再建にはだいぶ時間がかかるだろうことが容易に想像できる状態である。

 

 レイフォリアの軍港はというと、こちらもひどい有様だ。

 黒煙を噴き上げたまま着底した軍艦が何隻も見える。レイフォリアには本国艦隊第41地方隊とレイフォル防衛艦隊合わせて約40隻がいたのだが、「飛龍」が擁する「(てん)(ざん)((とも)(なが)隊)」の雷撃、そして「Ju87C改(シュトゥーカ)」乗りの魔王の手により、重巡洋艦以上の大型艦は全てやられてしまった。横転したまま着底した空母が痛々しい姿を(さら)し、がっちりした艦橋が特徴だったタウルス級重巡洋艦も今は艦首を深く沈めたまま動けない。前方に傾いた艦橋を直接海水が洗っている様子は、陥落した城を思わせる。そして、魔王の手にかかった軽巡洋艦や駆逐艦は、着底したまま燃えるに任せられていた。

 

 そして、レイフォル州南部にある飛行場基地もラルス・フィルマイナと同様に、そして半月前と同じように、第13艦隊・第31任務部隊(TF31)の航空攻撃でやられていた。

 こちらの飛行場を襲ったのは、航空母艦「(たい)(ほう)」「(うん)(りゅう)」「(あま)()」から発艦した第六〇一航空隊である。(れん)()などの点から二線級部隊と評価されているが、それは一・二航戦やら魔王シュトゥーカ隊やらの技量が高すぎるだけだ。彼女たちだって十分に精鋭の航空隊である。その技量を遺憾無く発揮していた。

 エンジン音を(がい)()のように響かせ、航空隊が去った後には荒地のようになった飛行場だけが残された。

 

 

 それから6時間後、グラ・バルカス帝国領レイフォル州 州都レイフォリア。

 レイフォリア郊外に置かれた統合基地ラルス・フィルマイナ。ここは、グラ・バルカス帝国がムー大陸内に獲得した植民地の防衛や反乱の鎮圧、そしてムー大陸侵攻の総指揮を執る重要拠点である。当然ながらその規模は非常に大きく、配備されている兵器の強力さや配備部隊の練度の高さもあって、もはや鉄壁というに相応しい防衛体制を整えていた。

 ……そのはずであったが、現在その威光は急降下どころか地面に突き刺さっている状態である。何せ白昼に堂々と空爆されたのだから。しかも同じ日のうちに3回も。

 ラルス・フィルマイナ基地では、空襲を生き延びた兵員が動き回り、()(れき)の撤去や消火活動などに大わらわしている状態である。現場から上がってきた報告を受けて、基地の地下施設に設けられた臨時司令部では、基地司令ドルバス・ファンターレ准将が真っ青になっていた。報告された被害は以下の通り。

 

・滑走路の完全破壊。

・対空レーダーサイトが全滅。

・基地周辺の山々に(いん)(ぺい)された対空砲陣地、及び基地の防空陣地は、その6割が機能停止。

・基地の通信用電波塔が倒壊。このため本土との通信が不可能になった。

・基地に展開していた航空隊は、その7割に被害が出たものの、無傷で済んだ機体もある。ただし、滑走路をやられたため離着陸は不可能。

・燃料タンク群にて大火災発生。現在も消火活動は継続せるも、火の勢いが強すぎて鎮火の()()すら立たない。

・ブルドーザーやパワーショベルなどの重機が全滅。このため滑走路の修理には少なくとも5日はかかる見込み。

・軍港においては、第41地方隊が主力艦全て(戦艦1、空母3、重巡洋艦2)と軽巡洋艦・駆逐艦の半数を失い、壊滅。レイフォル防衛艦隊も、残存戦力は4割以下にまで激減。

・上記に伴い、外洋における作戦行動は完全に不可能。当然だがイルネティア島奪還やパガンダ島再占領も不可能。

 

「あ……う……おぉ……」

 

 あまりの被害に絶句するファンターレ。

 パガンダ・イルネティア両島の戦況に関して、ラルス・フィルマイナ基地とムー大陸侵攻軍ができることは、もはやないと言い切って良い。それどころか、自分たちの尻に火が着いた状態だ。ロデニウス軍が派手に空爆していったため、レイフォルの現地民たちが俄に活気づいているのである。反乱の危険性を否定しきれなかったため、帝国陸軍の一部や植民地警備軍が総出で対処している。

 そして何よりも、今回の一件でイルネティア島陥落のリスクがより一層強まってしまった。これを放置してイルネティア島が陥落することになれば、ムー大陸の植民地は完全に孤立してしまう。本土で製造された優秀な兵器や練度の高い兵士の補充も受けられず、完全にジリ貧だ。

 

(どうする、どうすれば良い!?)

 

 ファンターレをはじめとするラルス・フィルマイナ基地司令部の面々や、ムー大陸侵攻軍司令部の面々は頭を悩ませる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 レイフォル方面への航空攻撃の結果は、ムー大陸西部沖を北上中の第29任務部隊(TF29)旗艦・戦艦「(なが)()」艦橋にも直ちに知らされていた。

 

「タンホイザ1より報告。『全攻撃終了。レイフォリア郊外の敵大規模飛行場は、完全に使用不能と認む。再建には最低でも1週間はかかるとの見込み。タンホイザ全員に被害無し。これよりパガンダに帰還する』です。

続いてザックス1より報告、『作戦終了。レイフォル南部の敵飛行場は壊滅、1週間は機能を停止すると見込まれる。ザックス全員無事なり。これよりパガンダに帰還する』です」

「フィガロ1より返電、了解したと両部隊に伝えろ」

「承知しました!」

 

 TF29を指揮する第13艦隊司令官・(さかい) (しゅう)(いち)(ちゅう)(じょう)の命令を受けて、「長門」通信長妖精がモールス打鍵機を叩き始める。

 タンホイザ、ザックス、フィガロというのは、各任務部隊のコードネームだ。TF29がフィガロ、TF30がタンホイザ、TF31がザックスである。

 

「とりあえず、これで後背を(おびや)かされる心配は当面無くなったか。後は西から接近中の敵艦隊を撃破して、さっさとイルネティアを取り戻すだけだな」

 

 約1ヶ月前から始まったイルネティア攻略作戦だが、どうやらやっと終わりが見えてきた。

 イルネティア島周辺の制空権・制海権の掌握。その後に行われた、約2週間前のロデニウス軍第3海兵師団のイルネティア島南部上陸。それに続いて、2日前に行われたムー統括軍のイルネティア島北部上陸。また、それらに呼応して多発する、旧イルネティア王国住民によるグラ・バルカス帝国への反乱。

 既にロデニウス軍第3海兵師団とムー統括軍が奪還した領域を合わせると、イルネティア島のおよそ半分がグラ・バルカス帝国の支配から離れている。残り半分でも現地民の反乱が多発し、グラ・バルカス帝国の支配が完全に揺らいでいるようだ。

 

(まあ、イルネティアを取り戻すのはあくまでも「初めの第一歩」だ。その後にムー大陸全土での一斉反攻作戦が控えている。それを考えれば、先はまだ長いなァ…)

 

 と堺が考えているところへ、新たな報告が入る。

 

「ヴィオレッタ1より入電、『我栄養補給を開始せり。今しばらく作戦行動を継続せんとす』」

「了解。どうやらアイツが俺たちより先に到着したな」

 

 堺の言う「アイツ」とは、改(まい)(づる)型移動工廠艦「(くし)()」のことだ。宇宙空間航行により後からTF29を追いかける計画だったが、脚が速すぎて先に着いてしまったらしい。

 その「釧路」には、実は援軍として3人の艦娘が搭乗している。そのうち2人は、改(かざ)(はや)型補給艦の“(はや)(すい)”と(あき)()(しま)型飛行艇母艦の“秋津洲”だ。“速吸”はTF28+“Iowa(アイオワ)”+“(ゆき)(かぜ)”への補給のために、“秋津洲”は西方から接近中の敵潜水艦隊に対処するためにイルネティアへ向かったのだ。

 

「速度・針路ともこのまま。焦らずにイルネティアへ向かえ」

 

 第29任務部隊は、静かにイルネティア島を目指す。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方その頃、イルネティア島沖にはこれまでに見たことのない艦艇がその姿を見せていた。巨大なクレーンを複数載せていることから工作艦の類と見られるが、なんと全長1,400メートルを超える巨艦である。それこそが「釧路」だった。

 その「釧路」艦内、艦娘の艤装の修理を行うドック区画。そこには今、三連装砲3基と多数の対空砲、それに謎の筒状の機構を備えた大型戦艦が入渠している。アメリカ合衆国海軍が最後に建造した戦艦クラスのネームシップ「アイオワ」だ。

 その巨体を前に、アメジストを思わせる明るい紫色の髪と瞳を持つ長身の女性が1人、険しい顔付きで手に持ったバインダーを睨みつけている。

 

「Hey, Kushiro! 艤装の修理に関して伝えたいことがあるから至急来て欲しい、ってことだったけど、どうしたの?」

 

 そこへ、グラマラスな身体の目立つ金髪の女性…“Iowa”がやってきた。艤装を「釧路」のドックに預け、先ほどまで「昼食」として「釧路」艦内食堂で久々のステーキとパフェにありついていたのである。

その“Iowa”に、紫の髪と瞳が目立つ艦娘“釧路”は説明を開始した。

 

「戦闘詳報を読ませてもらって、艤装の修理をしたんだけど…魚雷が命中したようだ、とのことだったのよね?」

Exactly(その通りよ), 敵の潜水艦がいたのか何なのか……まあ、不発で良かったわ」

 

 以前、ムー艦隊を助けてグラ・バルカス帝国艦隊と交戦した際に喰らった、不発魚雷の件である。

 そう返事をした“Iowa”に、“釧路”は何とも言えない微妙な表情を見せた。

 

「どうしたの?」

 

 首を傾げる“Iowa”。どうも“釧路”は何かを伝えたいようだが、それをどう表現すべきか思いつかないようだ。

 

「いや…その……実はその魚雷、見つけて無事に引っこ抜いたの。そして不発処理もしたんだけど……」

 

 たっぷりと逡巡した後にそう言って、“釧路”は床の一部を顎でしゃくった。そこには魚雷が1本置いてある。それが「アイオワ」に命中した不発魚雷らしい。

 しかし、それを見て“Iowa”は目を見開いた。

 

「あれ? あの形って……」

 

 魚雷から外された弾頭…黒く塗られた半紡錘形の物体。それを見て、何かに気付いた様子で“Iowa”が口を開く。その台詞を遮るようにして、“釧路”が後を引き継いだ。

 

「ええ。それに、魚雷の製造番号(シリアルナンバー)も見つかったんだけど、それが()()()()()()()()()()()()()()()の。信管の回路も私の設計図と完全に一致したし」

「するとつまり、あれって味方の魚雷…?」

「そうなるわ。それも『40式魔導酸素魚雷改』よ」

 

 なんと、あれは敵の潜水艦などではなく、味方からの誤射だったらしいのだ。しかも「アイオワ」に命中したのは、強烈無比の威力を持つ魔導酸素魚雷である。不発だったのが奇跡だった。

 そして“Iowa”は、その誤射の犯人についても気付いてしまった。

 

「あの不発魚雷を受けた日時、そして魚雷の種類から考えると、犯人は1人しか思いつかないんだけど……」

「ああ……」

 

 該当する日に「アイオワ」と共に行動し、魔導酸素魚雷をぶっ放したのは"雪風"しかいない。

 “Iowa”と“釧路”は、眉をハの字にして顔を見合わせた。

 

「どうしよう。これ明らかにunfortunate accident(不幸な事故)よね…」

「貴方と“あの娘”の幸運に感謝するしかないわね…。提督には私から話しておくわ」

 

 こうしてこの件は後に堺の元までは上がったものの、「不問とする」との決定により闇に葬られたのだった。

 

 

その一方、「釧路」艦内では別の問題が発生していた。この度マギカライヒ共同体から大量に購入した金属スクラップである。

 

「う゛~む……ここまで金属の状態に差があると、選別も一苦労だな…」

 

 金属類の山を見て金属加工班の班長妖精が唸っているが、それも無理はない。パッと見ただけでも錆びだらけで再精錬が必要な物から、修理なり手入れをすればまだまだ使えそうな物まであり、これほど「ごちゃ混ぜ」という表現が相応しい状況もまたとない、という状態だったのだ。

 

「ん?」

 

とりあえずということで、このスクラップの山の仕分け作業が始まったのだが、作業中の妖精の1人が何かに気付いて声を上げた。そしてスクラップの山から細長い筒状の物体を引っ張り出す。…いや、その筒には明らかに引き金が取り付けられていた。

 

「おい誰だ! ムーのライフルを()()しやがったバカは!?」

「何だと?」

 

 思わず怒鳴り声をあげた妖精。そう、引っ張り出された筒状の物体は、明らかにライフル銃だった。複数の視線が一斉にそのライフルに注がれる。

 

「レバーアクション式か。ムーのお古だな」

「確か今のムー軍のライフルって、以前我が軍でも使っていた三八式だよな? その一世代前の銃か…」

「おそらく在庫処分って形でマギカライヒ共同体に輸出されたんだろうな。このタイプのレバーアクション銃は、ムー陸軍全体でも結構な数が配備されていたはずだし。

(もっと)も、マギカライヒ共同体の装備は前装式マスケット銃だから、レバーアクション式でも最新鋭の機構になる訳だが……」

 

 だがここで疑問が発生した。スクラップの山から出てきたレバーアクション銃は、全部で13丁もあったのである。何故マギカライヒ共同体にとっては最新兵器に当たる銃が、これだけまとまった数で廃棄されたのだろう?

 疑問に思った妖精たちがライフルを調べてみると、

 

「こいつ、相当に酷使されたみたいだな。遊底(ボルト)の撃発用スプリングが完全に死んでやがる」

「こっちは、ライフリングの状態がひどいですね……かなり掠れています」

 

 もう少し銃身を詳しく調べたところ、溝の部分に結構な量の鉛がこびりついていることが確認された。

 

「なんで鉛がこんなに……」

「おそらくですが、マギカライヒで生産された銃弾はただの鉛の塊なのではないでしょうか?」

「ん? 待てよ、そうだとすると……おい、遊底に付着した火薬カスの成分分析はできるか?」

「そうくると思ってもうやってます。これ、普通の火薬じゃなくて爆発魔法系の粉末魔石ですね……ただ、どうやらパーパルディアの粉末魔石よりは純度が高いようです」

「すると、もしかすると無煙火薬レベルの爆発力はあるかもしれん、ってことか?」

「はい」

 

 もう少し詳しく説明すると、発射薬に黒色火薬を使用した場合よりも無煙火薬を使用した場合の方が銃口初速が速くなる。しかしそれ故に、銃身との摩擦熱で弾頭の周囲の鉛(火縄銃の弾などは、ただの鉛の塊だったのだ)が溶けだして銃身の溝にくっつく弊害が生じる恐れがある。それを防ぐため、弾頭の外殻を銅系の金属で覆う…という形で、地球における銃弾は進化していったのである。

 

「無煙火薬レベルの初速を叩き出せる粉末魔石の精製に成功しても、弾頭の加工までは理解が追い付いていないのかも……」

「なるほど、ありそうな話だな」

 

 そんなこんなで、ムーのライフルは修理して戻すことが正式に決定した。さすがに最新兵器を金属スクラップとして受け取るのは、気が引けたのである。

 そのついでに、同じくスクラップの山に含まれていた刀剣類の一部に関しては、

 

「せっかくだし、銃剣に加工し直して返却しよう」

 

 ということに決定した。 因みに剣の構造は「鋳型に金属を流してから鍛造する」形式の物だったので、完全鍛造の銃剣に加工される形になったようだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 中央暦1643年7月5日、イルネティア島南方沖。

 北上を続けていた第29任務部隊は、さしたる抵抗も受けずにイルネティア島に到着した。堺直率のこの任務部隊の作戦目標は、イルネティア島への艦砲射撃と航空支援……ではない。西方からイルネティア島に接近しつつある敵水上艦隊、そして潜水艦隊への対処である。

 独立第一飛行隊からの情報によれば、現在この敵艦隊以外に目立った動きを示している敵海上戦力はない。先の第二次バルチスタ沖大海戦の前後で1個主力艦隊と2個潜水艦隊を失い、さらに複数の地方隊クラスの戦力を丸ごと失ったことで、イルネティア方面に向けられる海上戦力の余裕が無くなったのではないか、と堺は考えていた。ということは、接近中の敵艦隊を潰せば、当面ムー大陸周辺の制海権は安泰になる。

 

 だが、問題はその敵が「水上艦隊」と「潜水艦隊」という、異なる性質の艦隊を同時に向かわせていることだ。2種類以上の敵に同時に対処するのは、極めて難しい。できることなら各個撃破したいところである。

 

「独一(独立第一飛行隊)からの最新情報はあるか?」

 

 イルネティア島に着くや否や、堺は“加賀”に連絡を取った。

 独立第一飛行隊とは、ディグロッケやハウニブといった「特殊航空機」…はっきり言えばUFO…を運用する秘密の飛行隊である。当初、これらの機体の性能把握試験などに“赤城”と“加賀”が関わったため、独立第一飛行隊は洋上ではこの2人を母艦としている。よって、情報もこの2人が持っているのだ。

 

『ええ、2つあるわ。

まず1つめ、ディグロッケ3号機が浮上中の敵潜水艦隊を目視で捉えたわ。位置は、このイルネティア島からの方位275度、距離400浬。速力8ノット。2日後にここに到着するわ。アストラル大陸からは脇目も振らずにまっすぐ向かってきている』

「了解。敵潜水艦の種類と数は?」

『数は12隻。全てシータス級とのことよ』

「伊400型モドキだな、了解した。もう1つの情報は?」

『敵水上艦隊が出港したそうよ。戦艦2、空母4を中核として総数60隻。敵針路95度、速力18ノット。2日半後にここに到着するわね』

「ほぼ同時かよ、めんどくせぇ…同時に相手なんてしてられんなこりゃ。こっちから仕掛けて各個撃破するか…。

勝負の分かれ目は明日だな。今の時刻が1042時だから…日付が変わる頃の敵潜水艦隊の位置は?」

 

 堺は即座に、各個撃破戦術を検討し始めた。先に向かってくる潜水艦隊を撃破し、返す刀で水上艦隊を叩くつもりである。

 

『今の針路と速度を取り続けると仮定して、イルネティアまでの距離296浬ね』

「1日経つとどうなる?」

『イルネティアまでの距離104浬に近付くわ』

「では、日付が変わって明日になった時点での敵水上艦隊のイルネティアまでの距離は?」

『846浬』と“加賀”の端的な答え。

「そこから1日経つと?」

『距離414浬ね』

「分かった。そうすると…」

 

 直ちに堺は計算を始める。自軍の航空機の航続距離、彼我の距離、速力……さまざまな要素を加えては引き、必死に頭を回す。

 

「明日のちょうど真昼だ。そこで敵潜水艦隊をぶちのめす。その時間なら、敵潜水艦隊はイルネティアからの距離200浬に接近している。我が方の航空機なら十分に攻撃圏内だし、敵水上艦隊はイルネティアからの距離632浬だから、敵潜水艦隊はエアカバーを受けられない。そこで叩くしかない」

『分かったわ。それで、私たちはどうすれば良いのかしら?』

「TF29はこのまま全員、敵潜水艦隊及び敵水上艦隊に当たる。それとTF28から(しょう)(ほう)(りゅう)(じょう)、それに第四駆逐隊を借りよう。なるべく航空攻撃だけで敵潜水艦を全て仕留める。掃討が完了次第、TF28から借りた艦は全て原隊に復帰させよう。

TF29は本日2300時に、針路270度、速力18ノットでイルネティアを出港。半日後にはイルネティア島西方沖190浬に布陣し、敵潜水艦隊を待ち受ける。秋津洲が持ってる機体にも、手伝ってもらおう」

『了解、こっちも準備しておくわね』

 

 "加賀"との交信を終えるや、堺は呟いた。

 

「そうだ、ムー艦隊の方に警報出しておかんとな。あと、"釧路"には"Iowa"の艤装の修理を急がせよう。彼女が持っている艦対艦誘導弾は、万が一TF29が負けた場合の、最後の切り札だ」

 

 

 で、当の“秋津洲”はというと、堺からの命令を受け取った時点で目をキラキラさせていた。

 

「広範囲での潜水艦の捜索と撃滅なら、(だい)(てい)ちゃんの出番かも!」

 

 そう、彼女が装備する傑作飛行艇「二式大型飛行艇(二式大艇)」の活躍の刻である。

 

「でも、潜水艦狩りならこの子も優秀かも!」

 

 呟いた“秋津洲”の視線は、別の機体に向けられている。「二式大艇」より二回りは小さい機体に、主翼に備えられた2発のレシプロエンジン。バナナを思わせる形状の艇体に、その側面から張り出した巨大なブリスター銃座。コクピットの真下と主翼の翼端に描かれた星のマーク。

 コンソリデーテッドPBY-5A「Catarina(カタリナ)」。米国が産んだ傑作飛行艇だ。機体性能では「二式大艇」に一歩譲るが、使い勝手はこちらの方が上である。

 

「秋津洲も潜水艦狩り、頑張っちゃうかも!」

 

 TF29は、静かに迎え撃つ準備を整えつつあった。




というわけで、海戦前夜という辺りの描写でした。
既にイルネティア編のシナリオ自体は固まってますので、後はシナリオのままに突っ走るだけですが…もしかすると、海戦回が2話に分割されるかもしれません。

ちなみに今回使われたコードネームですが、元ネタは以下の通りです。

・TF28「ヴィオレッタ」…オペラ「椿姫」の主人公。
・TF29「フィガロ」…オペラ「セビリアの理髪師」の登場人物。
・TF30「タンホイザ」…オペラ「タンホイザー」の主人公。なお一部発音を省略。決して「えい、えい、むん!」などとは言わない。絶対に言わない。大事なことなので2回言いました。
・TF31「ザックス」…オペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の登場人物。


UA99万突破、あと少しで100万です。こんなにも多くお読みいただいているのかと思うと、感無量であります。これからもどうかよろしくお願いいたします!

評価5をくださいましたshinshin様
評価9をくださいましたタロムス様、腐果 実恵様
評価10をくださいましたsato905様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

完全に孤立し、窮地に陥ったグラ・バルカス帝国軍イルネティア駐留部隊。それを救援しようとするグラ・バルカス帝国艦隊と、それを阻止してムーや自軍の輸送船団を守ろうとするロデニウス艦隊。イルネティア西方の海に、海戦の幕が上がる!
次回「イルネティア解放戦(12)」
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