鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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なん…だと…!?せ、拙作の推薦文が…!?
主犯様、本当にありがとうございます!幸福の至りであります!なんというクリスマスプレゼント…!

評価8をくださいました聖鈴様、ありがとうございます!
また、お気に入りがついに200を突破…!
皆様、ご愛読ありがとうございます!


えー、今回はロデニウス大陸を離れ、はるか西方の第2文明圏のお話をお届けしたいと思います。
原作を読んでいる方ならお分かりかと思いますが…皆様お待ちかねの大和もどき…失礼、グレードアトラスターとグラ・バルカス帝国軍の無双回になります。どうぞ。

18.12.24 戦列艦の砲門数についてご指摘いただきましたので、該当箇所を書き直しました。



017. 第二文明圏の悲劇

 時を遡り、中央暦1639年4月12日。

 第三文明圏外、ロデニウス大陸において、ロウリア王国とクワ・トイネ公国の間に戦端が開かれたその日、そこからはるか2万㎞も離れた第二文明圏でも、ちょっとした出来事があった。

 出来事それ自体は、決して大きいとは言えなかったかもしれない。内容も、ある意味()()()殺人事件だ。

 だがそれは、後に全世界に大きな影響を与えるほどの、強烈な出来事となった。

 

 この事件の話をする前に、まずは第二文明圏というのがどのようなものなのか、説明せねばなるまい。

 第二文明圏は、ムー大陸及びその周辺海域に国土を置く国家の集まりのことである。同大陸は、その約半分を世界五列強の2番手ムー国が占めていて、同国はムー大陸の北東部に位置している。ムー大陸の残りのおよそ西・南側半分は、他の国々(ニグラート連合、マギカライヒ共同体など)が分け合うような格好になっていた。それらの国家のうちの1つに、世界五列強の5番手、レイフォル国がある。この国は、ムー大陸の西岸部に国土を持つ。

 そして、そのムー大陸の西方、レイフォル国の西方約500㎞の沖合いには、パガンダ島と呼ばれる小規模の島があり、そこにはパガンダ王国が存在する。この国は、第二文明圏と西方の群島国家との交易拠点として栄えており、また列強レイフォルの保護国筆頭でもあった。そのため、他国から侵略される心配もなく、列強から技術も貰うことができ、非常に恵まれた立ち位置にあった。ただし、そのために国民や王族のプライドが高く、他国、特に文明圏外国家を見下す傾向があるという、困った特徴を有していた。

 

 

 ここは、パガンダ王国の外交局。局長室では、パガンダ王国の王族にして、外交長を務めるドグラスが、立派な椅子にふんぞりかえって仕事をしている。ドグラスは、パガンダ王国の王族であるので、レイフォルとの間に強いパイプを持っているのだ。

 そこへ、ノックの音がした。

 

「入れ!」

 

 ドグラスが言うと、「失礼します」と声がして、外交局の窓口職員の1人であるマーサが、資料を手に入室してきた。

 

「局長殿、文明圏外国家が話がしたいと来ております。レイフォル国、及び我が国と国交を開設し、ひいては第二文明圏全体と国交を結びたいそうです」

 

 そう言いながら、マーサはドグラスに資料を手渡す。ドグラスは報告を聞きながら資料を見る。

 

「今回、話をしたいと来ているのは、『グラ・バルカス帝国』という名の文明圏外国家です。私が対応したのですが、外交使節の方は西から来たと言っておりますので、新興国家である可能性もあります。

話を聞いてみると、彼らはまず、パルス王国に直接出向いて、国交開設を求めたようです。当然ながらパルス王国は、レイフォルに話を通すように言いました。その話を鵜呑みにして、彼らはレイフォルに直接交渉を行ったようで、レイフォルに門前払いを受けてようやく我が国に来ています。どうやら、第二文明圏の常識というものを、分かっていないようですね」

 

 ドグラスは、パガンダ王国の王族の例に漏れずプライドの高い人間であった。マーサの話を聞き、ドグラスの眉間にシワがよる。

 

「その国、我が国を舐めておるのか? 国交の開設を生業とする者が、第二文明圏の常識を知らぬはずがなかろう。こともあろうにレイフォルに直接交渉するとは、なんと畏れ多いことを……。その上、レイフォルと国交を結びたいから、我が国に来たと? これでは、我が国は無視されたようなものではないか」

 

 ただでさえプライドが高いのに加えて、ドグラスは気性も荒い人間だった。自身の不満を隠そうともしていない。

 

「確認したところ、第二文明圏全体と国交を持ちたく、我が国()()国交を開設したいとの申し出でした」

「ふざけるにも程がある……ワシが直々に対応してやろう。その国の使節団を呼んでこい」

「はい、仰せの通りに。では、いつもの会談室にお連れします」

 

 マーサは局長室から退室した。

 

 

 その頃、グラ・バルカス帝国の外交官たちは、控え室で待つように言われ、待機していた。

 

 グラ・バルカス帝国は、この世界の第二文明圏外に転移して以来、周囲の国家に対して武力外交を続けていた。それは、侵略目的があってのことではなく、ひとえに「自国の安定」のためである。

 そりゃあ、突如として国が別の世界に転移する、なんて大事件があったら、まずはなにより自国の安定を図りたくなるものだ。そして実際、グラ・バルカス帝国が転移した位置の周囲には、攻撃的な国家が幾つもあり、グラ・バルカス帝国に対して攻撃してくることも多かった。グラ・バルカス帝国は、そうした国家を次々と返り討ちにし、それらの国の領土を逆に獲得していたのである。

 しかし、それらの国を滅ぼしていく中で、「文明圏」と呼ばれる上位の国家共同体があることを知る。

 

 グラ・バルカス帝国は、転移する前の星「ユグド」において、最強の国家として認知されていた。ケイン神王国と世界を二分して、世界大戦を繰り広げていたが、技術力、人的資源、工業生産力、全ての面においてグラ・バルカス帝国が勝っていた。ユグドを二分する戦争が、グラ・バルカス帝国の勝利で終わるだろうことは、誰の目にも明らかだった。

 

 前世界においてはそれほどの優位を誇っていたものの、この世界ではどうなるか分からない。少なくとも「文明圏」の国家の力がどれほどのものなのか知るまでは、迂闊な武力行使はできない。グラ・バルカス帝国上層部はそのように考え、文明圏の国家に対して温和な外交を続けていた。

 しかし、行く国行く国、どれもこれもグラ・バルカス帝国より国力・技術力が遥かに劣っているにも関わらず、グラ・バルカス帝国を文明圏外にある国家だというだけの理由で、軽くあしらっていく。新世界において遅々として進まない外交に、さすがのグラ・バルカス帝国上層部も苛立ってきていた。

 今回パガンダ王国に来た外交使節団には、特別顧問として穏健派筆頭の皇族ハイラスがついてきている。皇族がわざわざ足を運ぶ、これだけでもグラ・バルカス帝国がどれほど苛立っているか、その一端が分かる。

 

 控え室のドアが開き、マーサが姿を現した。

 

「お待たせいたしました、外交長が対応します。こちらへどうぞ」

 

 グラ・バルカス帝国の国交使節団の面々は、マーサの後について歩く。

 黒く塗られた会談室のドアの前でマーサは立ち止まり、グラ・バルカス帝国の使節団の面々を振り返った。

 

「こちらの部屋になります。なお、外交長は我が国の王族ですので、お言葉には十分ご注意ください」

 

 この注意を受けた後、グラ・バルカス帝国の使節団は会談室に通された。

 会談室は、宝石類でゴテゴテと飾り立てられており、およそセンスがいいとは言えない。部屋の中には、外交長の他に外交局の職員とおぼしき者たちや、衛兵らしき帯剣した者たちも待機していた。

 が、問題はそこではなかった。

 

(なっ……!?)

 

 グラ・バルカス帝国の使節団の面々は、衝撃と苛立ちをどうにか心の内に押し隠した。

 前述の通り、グラ・バルカス帝国は前世界において、自他共に認める最強の国家だった。外交交渉に行ったついでに集めてきた他国のデータを見ても、おそらく最強クラスに入るであろう。

 そんなグラ・バルカス帝国の国交使節団が、片田舎の低文明国家にわざわざ出向いているにも関わらず、パガンダ王国の外交長とやらは、椅子に座って足を組んだ状態で、グラ・バルカス帝国の使節団を出迎えたのだ。

 とても、他国と外交をするのに相応しい態度とは言えない。

 

 部屋には使節団の人数分の椅子が用意されており、入室した後の一時の沈黙の後も、「おかけください」の一言もない。

 やむなくグラ・バルカス帝国の使節団の面々は、勝手に椅子に座ることとなった。

 

 パガンダ王国の技術力は、ここに来るまでに見た建造物や船などから分析してみると例に違わずここもグラ・バルカス帝国より遥かに劣っている。皇族の言葉1つ、もしくは帝国議会での決議1つで、こんな島国は吹き飛んでしまうだろう。

 しかし、今回は使節団に皇族が同行している。皇族の前でグラ・バルカス帝国が低文明国家に舐められる姿を見せる訳にもいかない。使節団の面々は、気が気でなくなりつつあった。

 それでも、顔が引き()りそうになるのをどうにか押し留め、使節団のリーダーが話し始める。

 

「はじめまして、我々は貴国より北西に位置する国家、グラ・バルカス帝国から参りました。今回、第二文明圏全体と国交を結びたく、まずは大陸西側を代表する国家であるレイフォル国を訪問しました。レイフォル国では大陸西側の諸国家はパガンダ王国を通して話をするよう、教示いただきましたので、今回こうして足を運んだ次第です」

 

 前世界の者がグラ・バルカス帝国の使節団がこんな丁寧な挨拶をするのを見たら、さぞかし驚愕するにちがいない。

 グラ・バルカス帝国の使節団の挨拶に対し、外交長ドグラスは……

 

「我が国、パガンダ王国は、第二文明圏の列強レイフォル国の保護国である!」

 

 とんでもない挨拶である。しかも言い方が言い方だ。彼は、かなり強い口調で突き放すように言ったのだ。

 失礼極まりない態度である。

 

「貴国は、世界の常識すら知らない田舎国家のようだな。いきなりレイフォルに国交を求めるなど……非礼極まりない!」

 

 実際、ムー大陸西側の諸国家となると、パガンダ王国の技術水準から見ても辺境と呼んで差し支えない程度の技術しか保有していない。

 

 ……ただ一国、グラ・バルカス帝国を除いては。

 

 帝国の外交官たちは、皇族ハイラスに対する無礼を返さねばならない。しかし穏健派の中でも特に温和なハイラスの手前、強気に出過ぎることもできない。

 ここは、徐々に帝国の実力を明かしていくしかないと思案を定め、口を開いた。

 

「この地方の常識を理解しておらず、気分を害されたならば、たいへん失礼した」

 

 ですます口調が失われているあたり、帝国の外交官たちの苛立ちが口調に滲み出ている。

 それに対し、ドグラスは気付く風もなく。

 

「まったく、これだから田舎国家は……。まあよい、俺は寛大だからな」

 

 自分で自分のことを寛大だと言うが、グラ・バルカス帝国の面々からすると、傲岸不遜にしか見えない。

 というか、現代の外交の何たるかを理解している者がこの場面を見たら、パガンダ王国の外交長が傲慢に過ぎると断じるにちがいない。

 

「ところで、挨拶の品は持ってきておるのか?」

「挨拶の品、と申しますと?」

「なに、そんなことも理解できぬのか? 礼を知らぬ文明圏外の蛮族どもめ。おい、こやつらに挨拶のしかたを教えてやれ!」

 

 ドグラスの指示で、待機していた職員たちがグラ・バルカス帝国の使節団の前に書類を広げた。

 が、そこに書かれた内容が非礼極まりない。

 

・第二文明圏との交易に際しては、パガンダ王国を通し、関税をかける。関税率は、項目により………

・パガンダ王国に対し、第二文明圏への口利き料を金に立て替えて支払う。その額は………

・第二文明圏への交易に際して、パガンダ王国の外交局を動かすことになるため、外交長ドグラス個人に、金および関税の一部を納入する。その額は………

 

「……これは真面目に言っておられるのですか?」

 

 書類を見た後、グラ・バルカス帝国使節団のリーダーは、開口一番にそう言った。

 内容自体もめちゃくちゃだが、それ以上に金額がひどい。やたらと高い関税率に加えて、口利き料とドグラス個人への納入金(言うなれば賄賂)がとんでもない数字になっている。口利き料と納入金を合わせれば空母が1隻建造できそうなレベルと言えば、どれほどの金額か想像がつくだろう。

 一読しただけで、国家が腐敗しきっていることが窺える内容だった。

 

「我が帝国がこうして下手に出ているというのにこの態度……貴殿らは、外交の相手を粗雑に扱う程度の品格しか持ち合わせておらんのか」

 

 あまりの内容に皇族ハイラスが口を開く。穏健派の中でも、特に温和な性格であるハイラスがここまで言うのだ。外交官たちの心中は察するにあまりある。

 ところが、ハイラスのこの言葉を聞いて、ドグラスは激昂した。

 

「な……なんだとぉ? 文明圏外の蛮族が、このパガンダ王国の王族に品格を説くとは……!

衛兵! こやつを不敬罪で逮捕しろ! 即日処刑だ!」

「「「はっ!」」」

 

 待機していた衛兵が、ハイラスを連行しようとする。

 これにはさすがの帝国外交官たちも抗議した。

 

「なんたる無礼を!

待て! その方は我が帝国の皇族だ! 無礼を働けば、どうなるか分からんぞ! こんな国の1つや2つ、明日にでも吹き飛ぶことになる!」

 

 グラ・バルカス帝国の外交官たちからすると、事実として起こりうる事象の可能性を指摘しただけである。

 が、ドグラスにとってはその言葉は火に油を注ぐ内容であった。

 

「衛兵! そやつらも一緒に連れて行って、処刑を観賞させてやれ! パガンダ王国に無礼を働いた者がどうなるか、よく分からせる必要があるでな!」

「「「ははっ!」」」

「やめよ! やめよと言うに!」

 

 グラ・バルカス帝国の外交官たちの抗議も空しく、皇族ハイラスはドグラスが独断で適用した不敬罪により、公開処刑された。

 また、帝国の外交官たちは国外退去処分とされた。

 

 

 だが……ドグラスは知らなかった。

 特大の地雷を踏んだ、いや、核爆弾の起爆スイッチを押した事を。

 

 

 事の顛末が伝わるや、グラ・バルカス帝国のグラ・ルークス帝王は大激怒。また、帝国議会において穏健派は急速に力を失い、代わって対外強硬派が主勢となった。そして、このニュースを伝えられたグラ・バルカス帝国の世論もまた、激昂した。

 

「卑劣極まるパガンダ王国、討つべし!」

 

 そんな声が国民からも軍部からも、議会からも高まった。

 グラ・バルカス帝国にとって幸いなことに、そしてパガンダ王国にとって不幸なことに、転移が起こった時、ケイン神王国への大規模上陸侵攻のため、グラ・バルカス帝国軍主力は本土に集結し、出撃準備をしていた。そのため、陸軍・海軍・空軍ともに、今すぐにでも外国へ出撃する準備ができている状態だった。

 

 2日後、中央暦1639年4月14日。

 グラ・バルカス帝国、皇族ハイラスの不当な処刑を事由として、パガンダ王国に対し宣戦布告。

 

 自国の皇族を処刑されたことで怒り狂っていた、グラ・バルカス帝国軍の行動は素早かった。

 まず巡洋艦やオリオン級戦艦を中心とする高速艦隊でパガンダ島を包囲し、海上封鎖。迎撃に出てきたパガンダ王国海軍の戦列艦隊(パガンダにも一応魔導砲はあったため、魔導戦列艦隊が配備されていた。ただし、この戦列艦の性能はアルタラス王国のそれとほぼ同じである)を、(がい)(しゅう)(いっ)(しょく)で撃滅した。それと同時に、高速艦隊の少し後方に展開した空母機動部隊から艦載機を飛ばし、パガンダ島を猛爆撃した。

 パガンダ王国はワイバーン隊で迎撃したものの、グラ・バルカス帝国の主力戦闘機であるアンタレス型艦上戦闘機には全く歯がたたなかった。

 

 ちなみにアンタレス型艦上戦闘機は、見た目も性能も零式艦上戦闘機21型のそっくりさんである。そりゃワイバーンが勝てるわけがない。

 

 制空権を失ったパガンダ王国に、グラ・バルカス帝国軍は更なる攻撃をかけた。空母より足が遅いため遅れていた、ヘルクレス級戦艦を含む戦艦部隊が到着したのだ。当然のように艦砲射撃が叩き込まれ、それによってパガンダ島は島の形が変わってしまったという。

 3日3晩に及ぶ空爆と艦砲射撃の後、グラ・バルカス帝国陸軍が戦車隊と共に上陸を開始。この時点でパガンダ王国民は、軍民合わせて4割が死んでいた。

 

 パガンダ王国軍は生き残りをかき集め、陸上での迎撃を企図。重装歩兵隊を前面に押し出し、騎馬隊をその左右から突撃させて、上陸してきたグラ・バルカス帝国軍に正面攻撃を敢行した。

 しかし、グラ・バルカス帝国の技術水準は、地球で言うと第二次世界大戦レベル。当然のように、野戦砲もボルトアクション式ライフル銃も機関銃もある。そんな相手に、中世程度の武装と戦術しか持たぬパガンダ王国軍が正面攻撃したところで、結果は火を見るより明らかであった。

 当然のようにパガンダ王国軍は、敵に1人の被害も与えられぬまま、戦車や野戦砲の砲撃と機関銃や小銃の連続射撃によりバタバタ倒され、ほぼ全滅。正規軍の大半を失ったパガンダ王国に、グラ・バルカス帝国軍を止めることはできなかった。

 

 そして、僅か4日でパガンダ島は全面制圧されることとなる。

 なお、パガンダ王国民は、王族・一般人を問わずほぼ全員が虐殺された。ドグラスも例外ではなく、島内を逃げ回っていたもののついに逮捕され、グラ・バルカス帝国本土まで移送。そして、そこで公開処刑された。

 まさに民族浄化(ジェノサイド)である。

 

 

中央暦1639年4月21日、パガンダ王国、滅亡。

同日、第二文明圏列強レイフォル、筆頭保護国()()()パガンダ王国を滅ぼされたことを事由として、グラ・バルカス帝国に対し宣戦布告。

 

 

ちなみに同日、第三文明圏外のロデニウス大陸ではロデニウス沖海戦が生起し、ロウリア王国の4,400隻の大艦隊が、たった20隻に叩きのめされ、撃退されていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌4月22日、第一文明圏(中央世界)列強 神聖ミリシアル帝国南端部、港街カルトアルパス。

 この街は、神聖ミリシアル帝国の交易を担う重要な都市である。誰もが認める世界一の強国なだけあって、世界中から商人が集まり、取引をし、商品と一緒に情報が飛び交う。そして情報が集まるということは、当然のことだが情報を求める各国のスパイが、商人や町人に扮して集まる街、ということでもある。

 そんなカルトアルパスのとある酒場では、魔導ランプの黄色っぽい明かりの下で、テーブルについて酒と料理をかっ食らいながら、酔っぱらった商人たちが話をしていた。

 

「よう、聞いたか? 第二文明圏の列強レイフォルが、文明圏外国家に宣戦布告したんだと」

「ああ、聞いた。何でも、相手は第八帝国とか名乗っているらしいな」

 

 グラ・バルカス帝国は、パガンダ王国に宣戦を布告した時から、「第八帝国」という通称を名乗っていた。

 

「“列強”対“文明圏外国家”か。あっさり勝負がついて、レイフォルが圧勝するんじゃないか?」

「いや、どうなるか分からんと俺は思う。なんせその第八帝国は、たった7日でパガンダ王国を滅ぼしているからな」

「パガンダを? そこって確か、レイフォルの保護国筆頭だったよな? そうか、それでレイフォルがキレたんだ」

「そうそう、そういうことさ。まあ、俺はレイフォルが勝つと思ってるがな!」

「俺もだ。レイフォルは()()とはいえ列強、対して相手は()()()()だろ? レイフォルが負けるわけねえよ」

「パガンダが7日でやられてるから、どうなるか分からんけどなー」

 

 酒場では、パガンダ王国が滅んだことに驚きつつも、レイフォルが勝つ、という意見が大勢を占めていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 少し時は経ち、4月24日、ムー大陸西方250㎞の沖合。

 列強レイフォルの艦隊43隻が、南南西へと向かっていた。いずれの艦艇も帆を張っているが、ロウリア王国の帆船に比べて圧倒的に大きく、そして3隻の船を除く全ての船には、側面に多数の大砲が備えられていた。地球の歴史でいう、「戦列艦」というやつである。

 ただし、魔法が使われるこの世界なだけあって、搭載した大砲は「魔導砲」であり、戦列艦は「魔導戦列艦」と呼ばれる。

 

 艦隊の目的はただ1つ、第八帝国の艦隊を滅すること。

 

 突如として現れたこの新興国は、第二文明圏外の国家を次々と併合していたが、今回、あろうことかレイフォルの筆頭保護国であったパガンダ王国を強襲制圧し、たった7日で滅ぼした。このため、レイフォル皇帝の逆鱗に触れた。

 皇帝は、竜母(ワイバーン運用のための航空母艦)や100門級戦列艦を含む主力艦隊を派遣し、パガンダ島沖合いに展開している第八帝国の艦隊を滅するよう指示した。しかしレイフォルは、保護国を多数抱えているという事情があり、主力艦隊は各地に分散している。さらにパガンダ滅亡が急なことであったため、艦隊の召集がとても間に合わなかった。

 結果、本国に残っていた艦艇をかき集め、43隻で出撃することになったのである。

 

 艦隊の内訳は、100門級戦列艦8隻、竜母3隻、80門級戦列艦25隻、60門級戦列艦7隻。

 なおこの「◯◯門級」という表現であるが、これは戦列艦が両方の舷側に搭載している大砲の数を表している。つまり、100門級戦列艦ならば、片舷だけで50門、艦全体で合計100門もの大砲を搭載しているということである。

 艦隊旗艦である100門級戦列艦「ホーリー」に乗艦している艦隊司令バルは、索敵に飛ばしたワイバーンロードからの報告を待っていた。

 

 ちなみにワイバーンロードについてであるが、これはワイバーンの改良型である。大きさは全長8メートル、全幅(両翼を広げた状態で両翼の先端同士の距離)6.5メートル、全高4メートル。クワ・トイネ公国などが運用しているワイバーンより一回り大きい。加えて、ワイバーンの最高速度が235㎞/hなのに対して、ワイバーンロードは最高で350㎞/hを出せる。ただし、攻撃方法はやっぱり単発撃ちの導力火炎弾か、射程の短い火炎放射である。

 

「将軍! 偵察に出ていた竜騎士より、敵発見の報告です!」

 

 魔信に耳を傾けていた通信士が、バルに報告を上げる。

 

「位置は我が艦隊から1時の方向、距離およそ30㎞!

敵の船は1隻だけですが、全長が300メートルを超えており、信じられない大きさだとのこと! また、搭載している大砲も非常に大きいとのことです! 周囲に敵航空戦力は確認されず!」

 

 将軍バルの眉間にシワがよる。

 

「何だと? ……偵察中の3騎を空中で合流させろ、敵を発見した騎はそのまま接触を保て! 艦隊に残っているワイバーンロードは、艦隊直衛の2騎を除いて全て発進。偵察騎と合流し、敵艦を撃沈せよ!

全艦全速前進、針路を敵艦に取れ!」

「はっ!」

 

 バルの指令が魔信に乗り、各艦に伝えられる。

 竜母からは次々とワイバーンロードが発進し、空へと舞い上がっていった。

 続いて、各艦に搭載された「風神の涙」が輝く。これは魔法石の一種で、風を魔法で生み出すものだ。これがあるので、レイフォルの艦隊は12ノットという比較的高速(この世界基準)を出すことができる。

 この艦隊速力をタウイタウイの艦隊が聞いたら、鼻で嗤うことになるだろう(最も足の遅い補給艦「(はや)(すい)」でも速力16ノット、戦闘艦艇として最遅の()(そう)型戦艦でも23ノットあるので)が、それは言っちゃダメ。

 

 艦隊は少し進路を変える。一糸乱れぬ艦隊運動の様子から、乗員の練度の高さが窺える。

 敵を滅するべく、緊密な美しい編隊を組んで飛んでいったワイバーンロードの後を、艦隊は追いかけていった。

 

 

 同時刻、そこから30㎞離れた位置を、とんでもない巨艦が単独で航行していた。針路は北に向けられている。

 金属製の巨体が波を割り、海水を押し退けて進む。その甲板の上には、三連装の巨大な大砲が3基載せられ、見る者にすさまじい存在感を与える太い砲身が、誇らしげに水平線を睨んでいた。それ以外にも、機銃や高射砲らしい小型の三連装砲が多数、そしてそれらよりやや大きい三連装砲が2基、搭載されている。そして艦の中央には、ニューヨークの()(てん)(ろう)をそのまま載せたかと錯覚するような、高い艦橋が(そび)えていた。

 

 この艦こそ、グラ・バルカス帝国国家監察軍の誇る超戦艦である。その名はグレードアトラスター。

 主砲として45口径46㎝三連装砲を3基、副砲として15.5㎝三連装砲を2基備え、それ以外に三連装の高射砲、機銃を多数載せた、まごうことなき超巨大戦艦である。

 対空高射砲には、最近帝国で開発されたばかりの新技術、近接(VT)信管付き砲弾が採用されており、飛行物体が近くに来ただけで砲弾のレーダー信管が作動、砲弾が爆発してその破片で飛行物体を傷つけ、撃墜する仕組みになっている。このおかげで、数年前と比べて対空射撃の命中率は、20倍以上と飛躍的に向上した。

 主砲の46㎝砲にもレーダー射撃が導入されており、命中率も威力も、この世界のどの砲よりも高い(少なくともそう自負している)。

 また、船体中央の船にとって一番大事な部分を守る装甲(専門用語で「バイタルパート」という)は、自身の46㎝砲弾の命中にも耐えられる。

 まさに“最強”というべき戦艦である。

 

 ちなみに、もうなんとなく察しがついていると思うが…このグレードアトラスター、日本海軍の戦艦「大和(やまと)」と見た目も性能もよく似ている。ただし近接信管付き対空砲弾だのレーダー射撃システムだのがあるので、グレードアトラスターの方が性能が上だ。

 

 日本人が見たら大和型戦艦と見間違えそうなその巨艦は、白波を蹴立て、28ノットの速力で航行する。その艦橋で、グレードアトラスターの艦長ラクスタルは、眼前に広がる青い海を見つめていた。

 

「艦長、対空レーダーに感あり。飛行物体が接近中です。数は約40」

 

 レーダー手が報告してくる。方向から考えて、レイフォルのワイバーンとかいう竜だろう。

 我がアンタレス型戦闘機が、パガンダ王国でワイバーンと戦ったそうだが、アンタレス型戦闘機隊は1機の被害もなく、敵ワイバーン隊を全滅させた。敵のワイバーンは、我がアンタレスに手も足も出なかったのである。

 聞けば、その時ワイバーンが出していた速度は、およそ時速230㎞だったとか。そして、攻撃も弾速の遅い火の玉、それも単発撃ちだったそうな。そんなモノに落とされる我が軍のパイロットではないだろう。

 

「敵速約350㎞/h」

 

 レーダー手が新たな報告をする。速度が速い。

 まあ、野蛮人とはいえ列強を名乗るくらいだし、品種改良くらいしているのだろう。

 

「あと約8分でこちらの目視圏内に入ります」

 

 敵には艦攻や艦爆はいない。しかしこちらも上空援護機は一切ない。高射砲や機銃をハリネズミのように載せているとはいえ、不安はある。

 

「総員、対空戦闘用意!」

 

 ラクスタルは指示を下した。そこへ、砲術士官が提案する。

 

「艦長、まずは主砲の近接信管弾を試してはいかがでしょうか?」

 

 実は今回、グレードアトラスターには対空砲弾として主砲用の近接信管弾が試験的に載せられている。敵との距離や相対速度を考えれば、そろそろ使うのが望ましい。

 

「そうだな……よし、それでいこう。第1、第2主砲、対空砲弾装填、射撃用意。目標、敵ワイバーン隊。甲板にいる者は、射撃に備えて艦内に退避せよ」

 

 甲板員は放送を聞くや、次々と艦内に退避した。

 主砲の砲身がぐぐぐっと空へ向けられる。

 

「照準よし!」

「装填よし!」

 

 次々と報告が上がる。射撃準備完了。

 ラクスタルはさっと右手を振り上げた。

 

「てぇーーー!」

 

 直後、艦体前方の2基の主砲が、轟音とともに火を噴いた。

 発射された砲弾は、艦の1時方向の空に見える黒点……レイフォル軍のワイバーン隊に向かって飛翔。しばらくの後、空中で炸裂した。空に信じられないほど巨大な炎の花が咲く。

 花が消えた時……敵ワイバーン隊は、目視した限りでだいたい半数がやられたようだった。残りが散り散りに散開し、こちらへ向かってくる。

 これでは主砲の対空弾は使えない。ここからは高射砲と機銃の出番だ。

 

「対空戦闘! 撃ち方始め!」

 

 号令一下、高射砲が咆哮する。空中に次々と黒い煙が花開いた。それらの間を縫うようにして、機銃が連続して弾を撃ち出す。ワイバーンはそれに次々と絡め取られ、炎に包まれて墜落していった。

 わずか10分後、空を飛んでいるワイバーンは、1匹もいなくなった。

 

「敵ワイバーン隊、全滅。水上レーダーに感、敵艦隊接近。1時の方向、距離15㎞」

「見張り所より艦橋、接近する艦隊はレイフォル軍の艦隊と判明」

 

 連続して報告が寄せられた。

 ラクスタルは砲術士官に問う。

 

「来おったか。既に射程に入っているが、まだちと遠いな……。おい、敵の砲弾は2㎞程度しか飛ばないと資料にあったが、間違いないか?」

「はい、間違いありません。ただし、列強というだけあって、砲弾はきちんと爆発します。ただ、爆発の原理が火薬とは違うようで、どうやって炸裂するのかは分かっていません。威力は黒色火薬レベル、とのことです」

 

 砲術士官ははきはきと答える。

 ちなみにこの数字は、パガンダ王国で鹵獲した火砲を調べ、そこから推測したものだ。

 

「黒色火薬? ……我が国より、100年以上も文明が遅れているではないか。我々を蛮族だと思って見下しているようだが、敵の指揮官が哀れだよ」

 

 ラクスタルは一旦言葉を切り、そして命じた。

 

「もう少し惹き付けよう。敵に右舷を向けろ。距離5㎞で相手の前を横切りながら、全砲門を以て奴らを叩く。主砲、副砲の全てに通常砲弾を装填しろ」

「は!」

 

 

「おのれぇ! おのれぇ! 栄光あるレイフォルの艦隊が、文明圏外の蛮族ごときに、それもたった1隻に、おめおめとやられるわけには行かんのだぁ! 戦列艦の肥やしにしてくれるわぁ!」

 

 敵を目指して全速で進むレイフォル艦隊、その旗艦「ホーリー」の上でバルは()える。

 こうなった原因は、ついさっき入った報告であった。

 

「ワイバーンロード部隊、全滅。敵に被害なし」

 

 ワイバーン隊の仇を討つべく、レイフォル艦隊は風を帆いっぱいに受けて進む。

 

「そろそろ敵が見える頃です」

 

 操縦士が報告を入れる。バルは目を見開き、水平線を睨み据える。

 

「!! 見えたあっ!?」

 

 敵艦は、予想よりはるかに大きい。遠近感が狂うレベルで大きい。

 しかし、300年間無敗を誇ったレイフォル艦隊43隻にかかれば、どれだけ大きくても1隻では勝負にならない。

 レイフォル艦隊は戦列艦を前面に押し出しながら、横一列に並んで進む。

 

「我が国の精鋭の兵士たちが扱う、炸裂魔法が施された砲弾の味を、しっかりと味わってもらおうか!」

 

 なおも進むレイフォル艦隊。敵との距離、あと6㎞。

 と、その時、敵艦が回頭し、こちらに腹を向けた。

 そして、艦上の巨大な三連装砲3つと、それより小さい三連装砲2つが回転し、こちらを向く。

 

「ま……まさか、この距離で届くのか?」

 

 バルが呟いたその瞬間、敵艦がパッと眩い光を発した。

 少し遅れて、遠雷のような音が響く。

 

「敵艦発砲!」

 

 報告が上がる。

 

「まだ当たらんよ。子供だましだ」

 

 バルが言ったその時、轟音が大気を揺さぶり、そして、

 

ズズゥゥゥゥゥン!

 

 艦隊を包むように、太い水柱が何本も、高く高く立ち上った。ホーリーのすぐ脇にそのうちの1本が突き立つ。戦列艦のマストより高い。

 

「な、なんという威力だ!」

 

 バルが叫んだその時、ホーリーの左後方を走っていた80門級の戦列艦が、いきなり爆発を起こした。

 

「戦列艦ガオフォース、被弾!」

 

 見張り員が叫んだ直後、ドガァァァァン!とでも表現すべき爆発音とともに、戦列艦が一瞬で吹き飛んだ。

 敵の放った砲弾は、ガオフォースが装備している対魔弾鉄鋼式装甲を一撃で貫き、弾薬庫で炸裂したのである。

 

「せ、戦列艦ガオフォース、轟沈!」

 

 見張り員が悲鳴じみた声で報告する。

 

「なにぃ!? おのれぇ!

艦隊全速! 何としても敵を射程に捉えろ!」

 

 全速で進むレイフォル艦隊。しかしそれに向けて、グレードアトラスターの15.5㎝三連装副砲が砲撃を放つ。

 

 装填が、とても早い!

 

 バルらが驚いているうちに、今度は2本の水柱と、赤い炎の柱が2本、天に向かって聳え立つ。

 

「戦列艦トラント轟沈! ……そっ、そんなぁ!」

 

 見張り員の声は、ほとんど絶叫と化していた。

 

「せ、戦列艦レイフォル、轟沈ッ!!!」

 

!!!!!

 

 バルたちに衝撃が走った。

 戦列艦レイフォル。国名と同じ名前を頂くこの100門級戦列艦は、レイフォル無敗の象徴であった。100門級であることに加え、最新の対魔弾鉄鋼式装甲を装備しており、国内では()()()()だと言われていたのだ。

 その最強の戦列艦が、()()の砲撃により、1発の砲撃もできぬまま、あっさりと撃沈されてしまった。

 

(なんてことだ!)

 

 絶望するバルたち。しかし、時は止まってはくれない。

 レイフォル艦隊は、風神の涙を使っているにも拘わらず、敵艦に全く追い付けない。それはつまり、レイフォル艦隊が敵艦を射程に入れることができない、ということを意味していた。

 逆に敵艦の砲撃は、1隻また1隻とレイフォル艦を屠っていく。竜母も例外なく狙われ、沈められた。直衛のワイバーンロード2騎も、あっという間に屠られている。

 

「ちくしょう! ちくしょう!」

 

 バルは怒りにワナワナと震える。

 気付けば、残っているのはホーリーのみとなっていた。敵艦はホーリーの周囲を旋回しながら、砲をこちらに向けている。

 

「し、司令、どうしますか!?」

 

 砲術士官がバルを振り返る。

 バルは、重々しい声で告げた。

 

「降伏の旗を掲げよ」

「はっ!」

 

 バルの命令により、ホーリーのマストに降伏の合図の旗が掲揚された。

 ところが、このバルという男、往生際の悪い男であった。

 

「おのれぇ。おのれぇ。蛮族どもが近づいてきたら、全砲門を以て砲撃し、敵艦を撃沈せよ!」

 

 まさかの降伏した()の砲撃である。堺が聞いたら、「野蛮なのはどっちだ?」とツッコミを入れること間違いない。

 

「し、しかし! 降伏後に攻撃するなど、列強たるレイフォルの名誉を汚します!」

 

 参謀長がバルに詰め寄った。

 その時、

 

パン!

 

 乾いた音。一瞬後、参謀長が床に崩れ落ちた。額から血を流している。そしてバルの手には、短銃……つまりピストルがあった。銃口から煙が噴き出ている。

 

「参謀長は、“敵の砲撃”により戦死した。いいな?」

 

 バルは参謀長を射殺し、艦長に詰め寄る。

 

「なーに、心配するな。こっちの炸裂砲弾を至近距離で喰らって、浮かんでいられる船など、この世に存在せぬわ。……どうせ敵は1隻しかいない、こっちがこんな戦法を取ったことなど、喋らなければ分かりゃせんよ」

 

 艦長はため息をつき、部下に砲撃準備を命ずる。

 バルは、近づいてくる敵艦を睨みつける。

 

「バカめ……()の艦隊をさんざん壊した代償は、高くつくぞ!」

 

 ついに距離は300メートルを切った。敵艦は見上げるような大きさになって、目に映っている。

 距離と大きさから考えて、外しようもない必中の間合い。

 

「撃てぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 バルは大声で叫んだ。

 次の瞬間、ホーリーの片舷50門の魔導砲が一斉に火を噴く。発射された砲弾は、見事に全弾が敵艦に命中した。

 大きな爆発音が轟き、大砲の発砲煙と砲弾の爆発煙によって、視界が一面埋め尽くされる。

 

「全弾命中!」

 

 砲術士官の報告に、バルは大笑いした。

 

「ガーッハッハッハ!

ざまを見ろ! 蛮族ごときが、列強レイフォルに逆らうからだ! ハッハッハ……」

 

 次第に煙が薄れてくる。

 

「ハッハッハッハ……ハ?」

 

 薄れる煙、その中に見える、大きな黒い影……。

 

 煙が晴れた時。

 そこには、全く姿を変えていない敵艦の姿があった。その砲は既に旋回を終え、ホーリーを睨み付けている。

 当然だ。いくら至近距離での砲撃とはいえ、460㎜砲弾を弾く重装甲に、()()()()()()()が通るわけがない。

 

「て、敵艦、健在!!!」

 

 見張り員の報告は、絶叫と化していた。

 

「ま、全く効いていないのか!? ば、バケモノめぇぇぇぇぇ!!」

 

 それがバルの最期の言葉となった。

 直後、100門級戦列艦ホーリーは、ゼロ距離で発射された46㎝砲弾9発を喰らい、跡形もなく消滅した。

 

「降伏した後に砲撃してくるとは……。列強といっても、しょせんこの程度か。……()()()()が必要だな」

 

 ラクスタルは無表情に呟いた。

 

「おい、砲弾はあと何発残っている?」

「は、各砲門70発程度であります」

 

 砲術士官が即答する。

 

「そうか……敵レイフォルの首都は、確か海に面していたな?」

「はい。ここから北北東へ250㎞程度です」

「砲撃で、お仕置きしてやろう」

「了解しました」

 

 航海士は艦長ラクスタルの命令に従い、艦の針路を北北東に向けた。

 

 その翌日、中央暦1639年4月25日。

 戦艦グレードアトラスターは、レイフォル軍のワイバーンロードの攻撃を跳ね返しながら、レイフォル国の首都レイフォリアに接近。夕方頃にレイフォリアの沖合6㎞の地点に到着し、レイフォリアに全力砲撃を浴びせた。

 レイフォリアの市街地及び皇城は全て灰塵に帰し、焼け野原となった。時のレイフォル皇帝以下、多数の人間が死亡。生き残っていたレイフォル軍は全てグラ・バルカス帝国に降伏し、レイフォルはグラ・バルカス帝国領に組み込まれてしまった。

 

 

中央暦1639年4月25日、第二文明圏列強レイフォル、滅亡。

ちなみにこの1日前、レイフォル艦隊が叩き潰されたその日、第三文明圏外のロデニウス大陸では、シュトゥーカ乗りの魔王大佐(ルーデル)がこの世界での初実戦を経験し、ロウリア軍騎兵隊を殲滅していた。 




??「まあ、そうなるな」

というわけで、パガンダ王国、レイフォル国ともに滅びました。そりゃそうでしょう、中世やら近世程度の国力・技術力しか持たない国が、近現代国家に勝てるわけがありませんよね。


次回予告。

ロウリア戦役が終結し、平常運転に戻ったタウイタウイ泊地。ところが、戦艦娘"長門"が倉庫を整理していたところ、思わぬ品物が発見される…
次回「とんでもない掘り出し物」

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