鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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予告通り、今回は海戦回です!



169. イルネティア解放戦(12 後編)

 中央暦1643年7月7日 午前5時ジャスト、イルネティア島西方324浬(約600㎞)沖。

 朝焼けに照らされる大海原は美しく、泰平の世であるかのように静かな波が立つばかり。聴こえる音は波の音と風の音、そして時折響く(うみ)(どり)の鳴き声だけである。

 しかし、そんな海の平穏を乱すように複数の艦艇の黒い姿があった。いずれも煙突から黒煙を吐き、針路を東にとって結構な速度で走っている。そのマストや旗竿に掲げられた国旗は、十文字の白線で区切られた赤円……グラ・バルカス帝国の国旗だ。

 これは、グラ・バルカス帝国海軍本国艦隊 中央第2艦隊の本隊である。戦艦2隻、正規空母4隻、重巡洋艦6隻、軽巡洋艦6隻、駆逐艦42隻、計60隻。かなり本格的な空母機動部隊の編成だ。

 ただし、その内実はなかなか寂しいものである。本国の、それも中央艦隊ということで訓練は十分行き届いているのだが、艦艇が古いタイプのものばかりなのだ。重巡洋艦はタウルス級((たか)()型重巡に酷似)なのでまだマシだが、戦艦はオリオン級((こん)(ごう)型戦艦に酷似)の「カストル」と「ポルックス」、正規空母はアンドロメダ級((そう)(りゅう)型空母に酷似)の「ミラク」「アルマク」「ヴァルゴ」「スピカ」、軽巡洋艦と駆逐艦はそれぞれキャニス・メジャー級(5,500トン型に酷似)とキャニス・ミナー級(特型駆逐艦に酷似)という状態なのである。

 とはいえ、新鋭艦がいない訳ではない。中央第2艦隊には、2隻だけながら新型駆逐艦が含まれていた。それがハレー級駆逐艦…65口径10.5㎝連装高角砲を主砲として4基搭載した防空駆逐艦だ。旧日本海軍の軍艦に詳しい者が見れば、(あき)(づき)型駆逐艦に酷似していると指摘するだろう。

 また、空母に搭載された戦闘機と爆撃機も、新型であった。爆撃機は、東部方面艦隊で試験的に採用されていた「アルタイル型艦上爆撃機」。そして戦闘機は新開発の「アルコル型戦闘機」である。ただ、この「アルコル」は「アンタレス」に酷似した外見のため、通称である「アンタレス型艦上戦闘機改」の方が有名だった。

 「アンタレス改」もとい「アルコル」戦闘機の外見は、一回り大きくなった「アンタレス」というところ。だが、最高速度は高度5,000メートルにて660㎞/hと「アンタレス」より110㎞/hも増加し、武装も主翼の20㎜機銃2丁はそのままに、機首の機銃を7.7㎜から12.7㎜に変更し火力を強化している。運動性能はほぼ据え置き、防弾性能にも若干の強化が入っていた。

 

 1年前、4月にあった先進11ヶ国会議とやらいう蛮国連合の会議。それに付随して行われたカルトアルパス沖航空戦で、グラ・バルカス帝国は風竜の存在を知った。「アンタレス」を正面から撃墜できるこの竜に対抗するため、グラ・バルカス帝国が作り出したのがこの「アルコル」である。本来ならムー大陸を陥落させた後、中央世界ミリシエント大陸を征服する際に投入されるはずだったが、初実戦の日が予定より早く来た格好だ。

 

「索敵機、発艦始め!」

 

 各空母では同一の命令が出され、飛行甲板の先端付近で待機していた「リゲル型雷撃機」が順次飛び立っていく。ロデニウス艦隊が近くにいる可能性があると判断されたため、それを探し出すべく、中央第2艦隊は索敵機を放ったのだ。

 

「本来なら我々中央艦隊は本土や(よう)(しょう)となる植民地の防衛を担うはずなのだが、まさかその我々が外征を担うとはな……」

 

 索敵機が飛び立つ様子を眺めながら、艦隊旗艦を務めるオリオン級戦艦「カストル」の昼戦艦橋で、艦隊司令ウィルバー・ローレンシア中将はひとりごちる。

 

「副官だったアケイル君は先遣隊ごと未帰還……先遣隊より我々の方が数が多いとはいえ、アケイル君が率いていた部隊を破った敵にどこまでやれるやら」

 

 およそ3週間前、イルネティア島沖に来襲したロデニウス艦隊の攻撃に向かったまま、オーガスタス・アケイル少将は艦隊ごと未帰還となった。いったい何が起きたのかは判然としないが…艦隊は全滅し、アケイルは戦死した可能性が高いとされている。

おそらくだが、アケイル率いる艦隊を破ったのはロデニウス艦隊とみて間違いない。東部方面艦隊との決戦、さらにパガンダ・イルネティア両島への攻撃と連戦しているにも関わらず、アケイルが率いていた戦艦3隻、空母2隻を含む計20隻を未帰還にしたロデニウス艦隊。どれほどの強さか分からない。

 

「大丈夫ですよ、司令」

 

 ウィルバーの隣に立っていた参謀長アルバート・ホーキンス大佐が、楽観的な様子で答えた。

 

「我が中央第2艦隊は本土や植民地で多数の訓練を重ねた精鋭です。それに、新型のハレー級駆逐艦にアルコル型戦闘機の配備……これだけあれば、万全です。イルネティア沖にいるロデニウス艦隊なぞ、輸送船団もろとも楽に撃滅できるでしょう」

 

 その楽観はいったいどこから来るのか、とウィルバーは突っ込みたくなったが止めにした。というのも、このアルバートの父親は現在の帝国海軍総司令官アルメダ・ホーキンス元帥なのだ。下手なことを言えば、自分の首が飛びかねない。

 

(それにしても、最近では自国の優位なること…果ては、自分たちは無敵だと信じ切っている奴が多すぎる。特に末端の若年兵(ヒヨコ)どもにその傾向が顕著だ。こんなに油断した状態で、果たして大丈夫なのか?)

 

 不安を感じるウィルバー。その不安を証明するかのように、「敵襲!」の叫び声が飛び込んできた。しかも、それはレーダーを操作するオペレーターからではない。なんと、目視で周囲を見張っている見張員からだった。

 

『見張より艦橋、敵機多数接近! 既に目視圏内に突入、海面すれすれの超低空から向かってきます! 数、およそ100!』

「なっ、何だと!?」

 

 さっきまでの自信はどこへやら、血相を変えてアルバートが叫ぶ。ウィルバーも一瞬驚いたが、すぐに頭を切り替えた。

 

(ちょく)(えん)機に急いで迎撃させろ! 全艦、対空戦闘用意!

今、各空母は攻撃隊の発進準備をしている。そんなところへ爆弾が当たったら、ひとたまりもないぞ!」

 

 航空攻撃準備中の空母ほど、被弾に弱い艦はない。確かに強力な打撃力を持つ空母だが、それは艦載機、ひいては艦載機に載せる爆弾や魚雷と、艦載機を動かす航空燃料あってのものだ。逆にいうと、空母は戦艦以上に可燃物や爆発物を満載しており、装甲板の厚さも薄いので、攻撃を受けると弱いのである。

 命令を出し終えた後で、ウィルバーはふとあることに気付いた。

 

(ちょっと待てよ。ロデニウス側の索敵機はこちらには来ていないはずだ。対空レーダーには何の反応もなかったようだしな。

だとしたら、奴らはいったいどうやって我が方の正確な位置を知ったのだ!?)

 

 

「見つけたぞ!」

 

 ロデニウス海軍第13艦隊・第29任務部隊から発進した第一次攻撃隊、その先頭を切って飛ぶ「零戦五三型」の機内で、妖精“(いわ)(もと)(てつ)(ぞう)”は叫んだ。

 攻撃隊の前方、水平線付近に一群の艦艇が黒々と見える。攻撃目標たる敵の機動部隊だ。

 夜を徹して航空攻撃の準備をしていたTF29だが、索敵にあたったのはいつも活躍している「(さい)(うん)」ではない。「()()」に載せていた独立第1飛行隊の特殊機材(UFO)--「ディグロッケ」だ。亜音速を誇るこの万能ステルスVTOL機が索敵してくれたからこそ、TF29は朝日も昇らぬ先に攻撃隊を発艦させ、夜明けと同時に敵艦隊に到達できたのである。

 夜が明けた直後ならば、おそらく敵はまだ攻撃隊を発進させてはいない。索敵機や上空警戒の直掩機はともかく、艦載機はまだ母艦の格納庫にいるはずだ。それを先制攻撃で母艦ごと海没させようというのである。

 無線機が「()()(ツー)()()」を受信するのと、妖精岩本の目がこちらに迫ってくる複数の機影を捉えるのとが同時だった。

 

「岩本1番より全機、前方より敵機。制空隊、我に続け!」

 

 無線機に叫び、妖精岩本はエンジン・スロットルをフルに開いた。零戦五三型、そして「(れっ)(ぷう)一一型」が一斉に突撃を開始する。今回は五航戦の戦闘機隊が制空隊を担当し、“加賀”の戦闘機隊と“(かつら)()”の第六〇一航空隊は攻撃機の直掩にあたっているのだ。

 接近する敵機の数は、どれだけ多くても20機。おそらく、朝っぱらから上空警戒にあたっていた連中だろう。20機なら、十分に自分たちだけで相手できる。

 そう考えつつ操縦桿を操り、敵機に機首を向けた妖精岩本は、瞬時に“それ”に気付いた。

 それはきっと、通常のパイロットでは気付くことができないほどの、僅かな違和感だっただろう。しかし、類稀なる戦闘力を持つ妖精岩本だったからこそ、その違和感に気付くことができた。そして妖精岩本は、その違和感の正体にも一瞬で気付いた。

 

「岩本1番より全機、注意(コーション)! 敵機は新型だ! アンタレスに似てるが、脚が速い!」

 

 こちらに向かってくる敵機の姿が今までより早く大きくなることから、敵機の速度がいつもより速いことに気付いたのだ。そして、敵戦闘機が新型だと気付いたのである。

 味方に警告を飛ばしながらも、妖精岩本は敵機から視線を外すことはしない。敵機のうち1機がこちらに機首を向けているのに気付き、真っ向から迎え撃つつもりで相対する。

 敵機がぐんぐん大きくなり、距離が300メートルを切ろうという、その一瞬。

 

「おらっ!」

 

 妖精岩本は操縦桿をぐいと引いた。次いで左フットバーを蹴り付け、同時に操縦桿を左に倒す。

 零戦五三型の機体がふわりと上昇する。その真下を、敵機から放たれた赤い(えい)(こう)(だん)が通過した。その直後、妖精岩本に正面から向かってきた敵機とは別の機体が、左旋回をかけた妖精岩本の照準器に捉えられた。

 躊躇(ためら)うことなく妖精岩本は発射()(へい)を握る。主翼と機首から飛び出した13㎜機銃弾が、敵戦闘機のエンジンに横合いから突き刺さった。エンジンから黒煙を吐き出し、敵機はガクンと機首を下げて真っ逆さまに落ちていく。

 

「岩本1番、1機撃墜!」

 

 無線で報告しながらも、妖精岩本はさっきすれ違った敵機の性能を推定する。

 

(明らかに零戦より速い…! 最高時速はざっと600キロくらいはあるか?

武装は…さっき敵機が機首から撃ってきたのは、曳光の太さからしておそらく12〜13㎜機銃。エンジン出力を強化して火力も強化した奴か)

 

 厄介な機体が出てきたものだ…それが、妖精岩本の評価である。

 ともかくも、さらに敵機を迎撃しようと機体を反転させて…妖精岩本は気付いた。

 

「嘘だろ!? 『烈風』が苦戦してる!?」

 

 制空隊の「烈風一一型」が、敵機に苦戦しているのだ。後ろをとっても、振り切られているらしい。

 

(違う、敵の最高速度は600じゃない! 650キロくらいだ!)

 

 妖精岩本は、即座に情報を修正した。そして戦慄する。

 

「くそ、こいつは手強(てごわ)いぞ!」

 

 並の搭乗員連中には、1対1でこの敵機を相手取るのは厳しい…そう結論付けた妖精岩本は、すぐに味方に指示を飛ばす。

 

「岩本1番より全機! 敵戦闘機は新型、最高時速は650キロ前後と見られる! かなり手強い、必ず複数で当たれ!」

 

 この混乱した戦場だ、どこまで指示が伝わっているやら疑問である。

 だが少なくとも、直掩にあたる“加賀”の戦闘機隊には伝わったらしい。“加賀”隊は即座に2機1組のタッグを築き、接近してきた敵機に数で対処している。

 

「岩本1番より制空隊全機! 敵機は強力だ、無理に墜とそうと思うな! とりあえず生き残ること、そしてこの空域に留まることを優先せよ! 生きて留まっていれば、それだけで敵に圧力をかけられる!」

 

 この指示もどこまで伝わったか怪しい。だが妖精岩本は信じていた。自身に付き従う部下の妖精たちならば、この程度のことは気付いてくれると。

 後方に1機の敵機が迫っているのに気付き、妖精岩本は逃げにかかる。だが、相手の方が圧倒的に脚が速いようで、最高時速570㎞で飛行する零戦五三型にぴったりと食いついてくる。

 

(ちっ! 深海の新型(タコヤキ)艦戦も面倒だったが、こいつはそれより上だ! 速いし格闘性能も高い!)

 

 敵機が撃ってきた機銃を紙一重で(かわ)しながら、妖精岩本は素早く周囲を見渡した。そして自分に向かってくる敵機が他にはいないと判断すると、操縦桿を右に倒し右フットバーを蹴り付ける。零戦が傾き、右旋回に入った。

 

「1対1だ、ドッグファイトと行こう!」

 

 敵機がしっかりと自身の背後に食い下がるのを確認し、妖精岩本は口角を吊り上げる。久方ぶりの強敵との対峙に、闘志が燃え上がっているのだ。

 強烈な横Gに耐えつつ、3回、4回と旋回を繰り返す零戦。「アンタレス」に酷似した敵戦闘機も、それについてくる。

 6回半も旋回したところで、妖精岩本は不意に旋回を止めた。その背後に即座に敵機が食いつき、機銃を撃ってくる。だが、妖精岩本は撃たれる直前に軽く左旋回しながら上昇して宙返りをかけ、すれすれで敵の攻撃を躱した。

 攻撃を外したものの、敵機は余裕そうに妖精岩本についてくる。エンジンの出力の差が大きいのだろう。おそらく1,900〜2,000馬力の離昇出力があるはずだ、と妖精岩本は見込んだ。

 そして、零戦が宙返りの頂点に達したその瞬間。

 

(ここだ!)

 

 妖精岩本は一気にスロットルを絞り込み、細かく操縦桿を動かした。

 その途端、まるで身体が重力から切り離されたかのような不思議な浮遊感が全身を包む。次の瞬間には強烈な重力がかかり、視界が一気に暗くなった。しかし、妖精岩本は根性で意識を繋ぎ止める。やがて背面飛行が終わり、零戦は水平飛行に戻った。そして。

 

 零戦の後ろにいたはずの敵機は、宙返りが終わった時には零戦の目の前にいた。

 

 敵機のパイロットにしてみれば、何が起きたか理解できなかっただろう。自分の前にいた敵機が、宙返りが終わった時には自分の後ろを取っていたのだから。まるで相手がワープでもしたかのような謎現象が起きたのである。

 その驚愕を受け入れることができなかったのか、それとも敵機を見失ったが故か、人間で言えば棒立ちになったようにまっすぐ飛行する敵機。それは致命的すぎる隙となった。

 

「ふう…」

 

 20㎜機銃弾を浴びせられ、空中で爆散して汚い花火となった敵機を(いち)(べつ)し、妖精岩本は小さく息を吐いた。

 

(まさか、あの大技を使うことになるとはな…。やはりこいつは手強かった。帰ったら、真っ先に提督に報告しないと)

 

 妖精岩本が使ったのは、零戦ならではの秘技中の秘技だった。左前方に向けて上昇して宙返りに入り、その頂点でエンジン・スロットルを落として失速寸前の状態を作り出し、それを利用して敵機をオーバーシュートさせる空戦技術。格闘戦で追い詰められた時の最後の切り札にして、一発逆転を狙える超高難度の大技。

 

 その名は「左(ひね)り込み」。

 

 この必殺技を使うことで妖精岩本は勝ったのだが…妖精岩本自身は、この空戦は敗北だと感じていた。

 左捻り込みのような技は、「習得すれど使わない」ことに意義がある。こういった切り札を残したまま空戦することで、心に余裕を持って敵と戦えるのだ。その余裕ある状態で勝てなければ、いつか技に失敗して死んでしまう。その意味において、今回の空戦は「敗北」なのだ。

 

(全く…改めて、グ帝の連中は侮れん)

 

 妖精岩本がそう思った時には、空戦は終了していた。空を飛んでいた敵の新型戦闘機は、もはや1機もいない。性能で勝ってこそいたものの、数の差は如何ともしがたく、衆寡敵せず全滅に追い込まれたのだ。

 ここからは妖精岩本たち、そして直掩隊が命がけで護り抜いた攻撃機の出番だ。

 

 

「行くぞ!」

 

 一声叫んで、攻撃隊の総隊長を務める「(しょう)(かく)」艦攻隊長妖精“(むら)()(しげ)(はる)”は操縦桿を押し倒した。乗機である「(てん)(ざん)一二型」が海面すれすれの低空に舞い降りる。その先では空に複数の黒煙が湧き出していた。敵艦隊の対空射撃だ。

 

「狙うは空母だけだ! 他の奴には目もくれるな!」

 

 この時間帯なら、敵の攻撃隊が母艦から飛び立っている可能性はかなり低い。おそらく、まだ空母の格納庫で燃料や爆弾などの補給をしているところであるはずだ。

 そこに魚雷か爆弾を叩き込んでやれば、マッチ1本火事の元だ。そこまで行かずとも、魚雷1本でも空母に命中させれば最高速度が低下し、艦載機の発艦が不可能になる。敵空母にカタパルトがないと判明している以上、敵の艦上機は空母が最大速度で航行する時の合成風力に頼って発艦しているはずだ。母艦が最高速度を発揮できなくなれば、その時点で航空攻撃を封じ込められる公算が大きい。

 敵艦隊からの対空射撃は激しく、みるみるうちに妖精村田たちの飛ぶ先が黒煙で真っ黒に染まる。だが不思議なことに、対空砲に被弾する機体はない。全ての対空砲弾が、攻撃隊のはるか手前で炸裂している。

 

「やはりか! 近接信管の弱点なんざお見通しなんだよ!」

 

 近接信管は、砲弾の先端部に小型のレーダーを仕込んでおり、そのレーダーに物体が引っかかると信管が作動して炸裂する代物だ。だが欠点として、海面からのレーダーの反射波にも反応してしまう。それを利用し、妖精村田は艦爆も艦攻も海面すれすれに突っ込ませることで、近接信管を無力化したのだ。

 今回攻撃に加わっているのは、艦攻が妖精村田直率の「天山一二型」、“葛城”の「(りゅう)(せい)(六〇一空)」、「流星改」(“加賀”の熟練隊と“(ずい)(かく)”の艦攻隊)。その他に、ジェット機である「(ふん)(しき)(けい)(うん)(かい)」と「(きっ)()(かい)」がいる。

 速力を生かして、2種類のジェット機が攻撃隊の先頭に躍り出る。その下腹部には、翼のついた爆弾が装着されていた。新開発の(と言いながら“(くし)()”の妖精さんがあっさり作ってしまった)抵抗翼付爆弾…反跳爆撃用の爆弾である。

 

「翔鶴隊目標、敵空母1番艦! 瑞鶴隊目標、2番艦! 加賀隊目標、3番艦! 葛城隊目標、4番艦! 爆撃隊は、護衛を狙って反跳爆撃!

全機突撃せよ!」

 

 もう敵艦隊は目の前だ。高角砲だけでなく、対空機銃も交えて強烈な弾幕をこちらに放ってくる。

 味方に被害が出始めた。前方を飛んでいた「橘花改」の1機が、不意に閃光を発してバラバラに砕け散る。「流星」2機が立て続けに火を噴き、バランスを崩して海面に叩きつけられる。

 しかし、生き残っている機体は全く怯まない。むしろさらに速度を上げ、敵艦に目一杯肉薄していく。

 と、敵艦の艦上に突然、対空砲の発射炎とは異なる閃光が走り、続いて黒煙が噴き上がった。こちらに飛んでくる対空弾幕が、目に見えて減少する。先に突っ込んだジェット機が反跳爆撃で敵の護衛艦を叩き、対空砲を破壊したのだ。

 対空弾幕の間隙を衝き、妖精村田率いる「天山一二型(村田隊)」は敵の輪形陣のど真ん中に飛び込んだ。前後左右、あらゆる方向から対空機関砲の弾が飛んでくるが、それを全て掻い潜るようにして突進する。その先にいるのは、敵の空母だ。対空砲の発射炎で舷側を赤く染めながら、全速力で回避行動を取っている。

 

「村田1番より村田全機、落ち着いて狙え! 訓練通りやれば大丈夫だ!」

 

 村田隊は、飛龍の友永隊と並んで第13艦隊艦攻隊でもトップの練度を誇る。厳重に守られた敵空母に一撃を与えるには、打って付けの部隊であった。

 現在の村田隊の飛行高度は海面すれすれそのものであり、白い飛沫をあげる波頭すらはっきりと見える。少しでも操縦を誤れば、海面に突っ込むか敵の対空砲に引っかかって爆散する。どっちにしてもその運命は死一択である。

 その命懸けのスレスレゲームの中、妖精村田は根性で飛び続ける――敵空母まであと1,000メートル…900メートル。

 

「ようーい、てっ!」

 

 距離800メートルまで詰めたところで、妖精村田とバディを組む妖精がトリガーを引いた。その途端、重量800㎏の航空魚雷が切り離され、急激に軽くなった機体がふわりと浮き上がりかける。しかし妖精村田は慌てることなく操縦桿を押し倒し、海面ぎりぎりを飛び続ける。

 そのまま生き残った部下を引き連れ、妖精村田は輪形陣の反対側に脱出した。できることならすぐにも高度を上げたいが、自分たちはまだ敵の対空砲の射程内にいる。それゆえ高度を取ることができず、今しばらくは海面すれすれを飛び続けるしかない。自分たちの雷撃が果たして成功したのか、それを確認する術はこの時点ではまだ存在しなかった。

 

 

「なんてことだ……!」

 

 午前6時35分、太陽もすっかり昇った頃。

 ロデニウス軍の攻撃隊が飛び去り、味方の対空砲の砲声が聞こえなくなった後で、被害を確認したウィルバー・ローレンシア中将は、それだけ言うのがやっとだった。

 グラ・バルカス帝国海軍本国艦隊・中央第2艦隊は、あの一戦だけで凄まじいまでの被害を受けていた。敵の雷撃により、航空母艦「アルマク」と「ヴァルゴ」が航空機と多数の乗員・パイロットを道連れにして海底に消え、空母「ミラク」は魚雷1本命中で出し得る速力が22ノットに低下した。健在な空母は「スピカ」だけである。護衛艦にしても、敵の謎の爆撃により駆逐艦3隻が沈没し、その3倍以上にあたる11隻が中大破、機関損傷による速力低下などで戦闘能力を喪失した。キャニス・メジャー級軽巡洋艦も、「タニア・ボレアリス」が魚雷発射管に爆弾の直撃を受けて魚雷が誘爆し、轟沈した。重巡洋艦や戦艦には特に被害は出ていない。

 

 ロデニウス軍は、ウィルバーの想定以上に強かった。こちらの「アルコル」戦闘機は、敵戦闘機より性能が優れていたようだが、数の暴力の前に全機が撃墜され、敵はやすやすと防空圏を突破。そして、「爆弾が海面を飛び跳ねる」という奇想天外な攻撃方法でこちらの護衛艦を叩きに来た。その機体も、明らかにレシプロ機ではないというおまけ付きである。

 

「東部方面艦隊との正面対決、そこから続けてパガンダ島・イルネティア島及びレイフォル州沿岸部への攻撃…ロデニウス艦隊はそれだけ連戦しておいてなお、これほどまでに精強だというのか…!

というより、我らに先んじてロデニウス艦隊を攻撃するはずだった潜水艦隊リーテはどうした!? 接敵に失敗したのか? それともまさか、全滅とか…」

 

 潜水艦隊リーテは、グラ・バルカス帝国の潜水艦隊の中でも特に精強な部隊だ。速力の遅い潜水艦である以上、接敵失敗は十分に考えられることではあるが……まさか全滅したのだろうか?

 もしそうだとすれば、あの高練度の潜水艦隊は何もできないまま、ロデニウス軍にやられた可能性が高い。そうでなければ、あんな規模の航空部隊を発進させてくるとは考えにくい。

 

「『ミラク』の修理状況は?」

 

 気になっていたことをウィルバーは尋ねた。

 

「はっ、応急修理は終わったとのことです。ですが、出し得る速力は22ノットが限界です」

「艦載機は出せるか?」

「重い『リゲル』や『アルタイル』は厳しいそうです。ですが、『アルコル』は何とか出せるとのことです」

 

 それを聞いて、ウィルバーは一瞬だけ考えた後、指示を出した。

 

「よし、『ミラク』はこれ以降艦隊の直掩に徹してもらう。出せる全ての『アルコル』を、命令があり次第すぐに出せるように準備させろ。それと、索敵機から報告は?」

「まだ入っていません」

 

 その時、ちょうど報告が飛び込んできた。

 

「本艦の索敵2番機からたった今入電! 『敵機動部隊発見。位置、イルネティア島からの方位275度、距離380㎞。敵は空母4隻を伴う』!」

「何だと、そんな近くにいたのか!」

 

 報告を聞いたアルバートが叫ぶ。

 中央第2艦隊の現在位置は、イルネティア島からみて方位270度、距離600㎞。発見された敵機動部隊との距離は、たった222㎞程度しかない。

 

「『スピカ』に緊急命令、攻撃隊全機発進せよ! ぐずぐずしていると敵の第二次攻撃が来るぞ!」

 

 

 一方その頃、ロデニウス海軍第13艦隊・第29任務部隊は、26ノットの最大戦速で西に向かって進んでいた。最大戦速というにも関わらず30ノットに届いていないのは、戦艦「(なが)()」と「()()」の速力が他艦より遅いことが原因である。

 艦隊は既に、帰還した第一次攻撃隊を収容し、急ぎ第二次攻撃隊の発進準備を進めていた。

 今回堺が取った作戦は、「攻撃隊を発進させると同時に、艦隊は最大戦速で西進し、とにかく敵との間合いを詰めながら徹底的に殴る」というものである。そう、それはまるで…

 

「アウトレンジ攻撃…に、少し似ているわね」

 

 航空母艦「瑞鶴」の艦橋で、第二次攻撃隊の航空機が甲板に整列し始める様子を眺めながら、艦娘“瑞鶴”はひとりごちた。

 そう、堺が取った戦術は旧日本海軍が機動部隊の戦法の1つとして研究していた「アウトレンジ戦法」に少し似ている。これは、日本軍機の長大な航続距離を生かして相手の索敵範囲外から攻撃することにより、母艦の位置を敵に悟られることなく奇襲攻撃をかけようというものであった。

 今回の状況を見ると、TF29は前日に敵の潜水艦隊を全滅させ、自軍の位置を暴露されることを防いだ。その上でUFOを生かして敵より先に相手の位置を特定し、敵の索敵機が自軍に到達する前に攻撃隊を送り込むことに成功したのだ。確かに「アウトレンジ戦法」に少し似ている。

 

「第二次攻撃隊、発艦準備急いで! 訓練時間なら、私たち五航戦はあの一航戦にだって負けないんだから!」

 

 味方を激励した後、“瑞鶴”は不敵な笑みで進行方向の水平線を見据えた。

 

「アウトレンジで、決めたいわねっ!」

 

 敵の索敵機に見つかったため、既にアウトレンジ戦法は成立しない状態になっているが、それでも“瑞鶴”としてはこの台詞を言ってみたい局面だった。

 

 30分後、TF29は艦上爆撃機を主体とした(艦上攻撃機の大半を第一次攻撃に投入してしまったためにこうなった)第二次攻撃隊を発進させた。

 艦上爆撃機が主体であるとしても、できることはある。駆逐艦や軽巡洋艦のような防御力の低い艦なら大損害を狙えるし、空母の飛行甲板に爆弾を命中させられれば敵の空母を無力化できる。それ以外にも、敵の対空砲を潰しておくことでこの後の第三次攻撃が少し楽になるだろう。

 

「無理に撃沈しなくて良い、損害を与える程度で構わん。ただし、敵空母に関しては飛行甲板をぶち抜くつもりで攻撃しろ。それと、敵戦闘機は『烈風』すら超える性能を持つらしい新型だ、生きて帰ることを優先しろ! 命さえあれば大抵のことはどうにかできるからな!」

 

 堺の命令を受けつつ、多数の艦上戦闘機と爆撃機、そして何故か5機の「彩雲」を伴った第二次攻撃隊は、西の空へと消えていった。

 それと入れ替わるようにして敵攻撃隊の姿が対空電探に捉えられたため、TF29には「対空戦闘用意」が発令された。TF29の防空を一手に担う“()()”が武者震いをしたのは言うまでもない。

 

 

TF29を飛び立った第二次攻撃隊の接近は、中央第2艦隊各艦の対空レーダーでも捉えられていた。このためウィルバー・ローレンシア中将は直ちに「ミラク」と「スピカ」に直掩機を上げるよう命令し、60機もの「アンタレス改」が空へと舞い上がった。これは、中央第2艦隊が動員できる直掩機のほぼ全機である。レーダーで捕捉した機体の数がかなりのものだったことから、全力で迎撃したほうが良いと判断されたのだ。

 ところが、この迎撃は完全に空振りだった。というのも、敵がいる空域に到達した直掩隊が目にしたのは、たった5機のレシプロ機だけだったのだ。そしてその5機はいずれも、下腹部に取り付けた筒のような物から銀色の細い雲を引いていた。いや、よく見るとそれは雲ではなく、無数の小さな銀色のかけらだった。

 そう、この5機は「彩雲」であり、電探欺瞞紙(チャフ)をばら撒くことでレーダーを()(まん)したのだ。チャフとは、小さく切ったアルミニウムやプラスチックの破片のことで、レーダーから放たれる電波をよく反射する性質がある。これを使うことで架空の攻撃隊をでっち上げて敵の直掩機を誘き寄せ、その隙に爆弾を積んだ爆撃機を低空から突入させることが、TF29の第二次攻撃隊の戦術だったのだ。

 ちなみにだがこのチャフ散布用の筒型兵装は、なんとパーパルディア皇国との戦争が終わった頃には既に実用化されている。ピカイアで行われた観艦式の際に紙吹雪を撒いて飛んでいる機体があった(アイリーンの文化調査報告書4頁目に記載あり)が、その紙吹雪を撒くのに使われたのがこの兵装である。

 

「しまった、(たばか)られたッ!」

 

 グ帝側の直掩隊隊長が無線に叫んだ時にはもう遅い。TF29の第二次攻撃隊は、敵の防空能力を飽和させるべく分散しながら、中央第2艦隊に一斉に襲いかかった。

 直掩隊の「アンタレス改」もとい「アルコル」は慌てて低空に舞い降りたが、爆撃機を護衛している「烈風一一型」に阻まれ、さらにロデニウス側の攻撃隊が分散しているせいもあって、有効な反撃が行えない。中央第2艦隊の対空弾幕も、海面すれすれを飛ぶ爆撃機をなかなか捕捉できない。まともに迎撃もできないうちに、TF29の第二次攻撃隊は各々狙った艦に突進しながら爆弾を投下した。すると、海面に向けて投下された爆弾は、まるで水切りの石のように海面を飛び跳ね、一直線に艦に向かっていく。そして命中するや、その威力を解放した。

 反跳爆撃である。海面を飛び跳ねて突っ込んできた爆弾が命中した艦艇は、舷側から大量の黒煙を噴き上げて燃え始める。今回の攻撃に使われたのは500㎏爆弾であるため、破壊力が大きいのだ。

 さらに、ジェット機が投下した「エロ爆弾改」…もとい「イ号一型乙無線誘導爆弾改」も、その威力を存分に発揮している。

 

 TF29の第二次攻撃隊による空襲は、たった30分で終わった。まるでスコールのように、短いながらも激しい攻撃だった。

 この空襲により、中央第2艦隊の被害はさらに拡大。具体的には戦艦「ポルックス」が「エロ爆弾改」2発を喰らって機関の一部が停止し、最高速力が18ノットにまで低下。さらに、重巡洋艦1隻が「エロ爆弾改」の直撃で機関をやられて航行不能、軽巡洋艦1隻と駆逐艦3隻が反跳爆撃で沈没した。その他、航行不能もしくは大破して速度低下した駆逐艦・軽巡洋艦は10隻以上発生している。また、唯一健在だった空母「スピカ」にも爆弾が1発命中したが、命中したのは反跳爆弾だったこと、無線誘導爆弾はギリギリで躱したことから、艦載機運用能力は辛うじて残っている。その代わりに「ミラク」に「エロ爆弾改」が3発、反跳爆弾が2発命中し、「ミラク」は飛行甲板をあらかた引き剥がされてしまった。

 

「くそっ! やってくれる…!」

 

 ウィルバーは歯軋りして悔しがる。

 この時点で艦隊の損耗率は3割を超えている。しかも、最も重要な空母の残存数はこちらが1、対して向こうが4。おまけにこちらの空母は、結構な旧式だ。

 とてもではないが、勝ち目は薄い。

 

「全艦に告げる! これ以上の戦闘継続は困難と判断し、我が艦隊は作戦目標を放棄してアストラル大陸に撤退する。私の指揮のミスだ……済まない」

 

 ウィルバー、苦渋の決断であった。

 だがどうやら、その撤退行も楽な物ではないらしい。

 

「対空レーダーに感! 敵味方不明機多数、本艦隊から見て方位25度、距離100㎞!」

 

 戦艦「カストル」のレーダーマンが、悲鳴のような報告を上げた。

 

 

 その頃のTF29では、

 

「対空戦闘終了、用具収め! 各員被害を報告せよ!」

 

 むっとするほどの硝煙の香りが未だ立ち込める「長門」艦橋にて、堺が命令を出した。すぐに次々と報告が集まってくる。

 

「長門だ、本艦は特に被害はない」

『こちら摩耶、爆弾を喰らいかけたが至近弾で済んだ。実質無傷だ、まだ戦えるぜ!』

『こちら陸奥、爆弾2発命中、小破。だけど、戦艦は簡単に沈まないわ』

『こちら翔鶴、爆弾3魚雷1命中…中破です。艦載機の運用はまだ何とかなりますが、出し得る最高速力は15ノットが限界、追撃は不可能です』

『こちら瑞鶴、機銃掃射しか喰らってないから大丈夫よ』

『こちら加賀、爆弾1発被弾、頭に来ました。飛行甲板はぎりぎりでまだ使えるわ』

『こちら葛城、すみません……魚雷3発被弾、大破です。浸水には今も対処中、最悪の時は艤装を放棄します』

『こちら(ちく)()、損傷は至って軽微です。戦闘航海を継続します』

 

 ざっとまとめると、損耗率は1割5分くらいというところである。

 

「小破以上の損傷を受けた子は、このまま現海面にて空母の護衛に当たれ。摩耶、こっちの部隊の指揮は任せた」

『こちら摩耶、了解。提督、オマエはどうすんだよ?』

 

 上官に向かっての「オマエ」呼ばわりは、本来なら厳しく罰せられるところであるが、堺は例外である。

 

「ちょっと作戦があってな。これを使えば、敵艦隊を完全に撃滅できるだろう」

 

 

 しかし結論から言うと、堺の「作戦」は失敗に終わった。途中までは上手くいったのだが、会敵できなかったのである。

 こればかりは、被弾して脚の鈍った味方を捨てての撤退を決断したウィルバーが一枚上手だった。

 

「作戦失敗かー。まあ仕方ねえな、敵の逃げ足が想定より速かったか。ただ、戦闘機隊と(あき)()(しま)、それに妖精たちには負担をかけてしまった」

 

 頭を掻く堺に“長門”が声をかける。

 

「しかしまあ、よくこんな戦法を考えつくな…やられた側にしたら、堪ったものではないだろうに」

 

 彼らの眼前では、金剛型戦艦に酷似する敵戦艦が1隻、燃えながら横転して沈んでいくところだった。他にも海上にはいくつか黒煙が立ち昇っている。その上空に「二式大艇」と「PBY-5A カタリナ飛行艇」の姿が見える。

 堺が考えた作戦というのは、「二式大艇とカタリナに艦娘を乗せ、脚の長さ・速さを生かして敵艦隊の後方にこっそり回り込み、空挺降下で艦隊を展開させて敵の退路を断つ」というものだった。「空挺降下で艦隊を展開させる」という、パッと聞いただけでは何を言っているのか全く分からないパワーワードが特徴である。これに従ってTF29は堺直率の別働隊を送り込んだのだが、発見できたのは魚雷を喰らって脚が遅くなり逃げ遅れた一部の敵艦だけ。肝心の旗艦を含む本隊を取り逃してしまい、見事に空振りになってしまった。

 

 

 こうして、「イルネティア西方沖海戦」は終結。ロデニウス海軍第13艦隊TF29は、“葛城”を含む一部艦娘の艤装放棄こそあったものの、艦隊損耗率2割・航空隊損耗率3割3分で作戦行動の継続は可能。対するグラ・バルカス帝国海軍中央第2艦隊は、戦艦1・空母3の喪失(空母「ミラク」が新たに沈没。「スピカ」はロデニウス側の第三次攻撃を無傷で切り抜けた)を中心に約半数が撃沈破され、目標達成を放棄して撤退した。

 

 

 その日の夜、イルネティア島へ引き返すTF29旗艦「長門」艦内で、堺は敵と交戦した航空部隊の妖精たちから上がってきた暫定戦闘報告書を読んでいた。その眉間にシワが寄る。

 

「敵の新型駆逐艦を発見、外見は秋月型に酷似…か。防空艦、と見るべきだろうな」

 

 どうもグラ・バルカス帝国軍の軍艦と戦闘機に、新型が出現したらしい。しかも秋月型と同類の艦隊防空艦である上に、新型戦闘機は「アンタレス」に類似した外見ながら「烈風一一型」より性能が上と来た。これは決して侮れない。

 

(こっちも思い切って新型戦闘機を開発すべきか、それとも「烈風一一型」の性能向上型を作るべきか…。技術屋に意見を聞いてみなければ…。

そしてそれよりも大事なのは、現在発動中のイルネティア解放作戦「ユーラヌス作戦」だ。敵が送り込んできた増援の海軍戦力は何とか撃退したが…現状は、物量に物を言わせる敵と、技術と艦娘の特性(チート)を生かす我が軍で、我慢比べになってしまっている。味方の負担を考えれば、これ以上作戦が長引くのは危険だ。

「ユーラヌス作戦」は遅くとも今月中に決めてしまいたい。第3海兵師団には負担を強いてしまうが、ちょっと攻勢のペースを上げてもらうか…?)

 

 頭を悩ませながら、堺は「ユーラヌス作戦」の計画書を開き、地図を表示したページを睨みつける。

 

(現時点で、敵の軍港は無力化できたから、残る拠点は島中央部にある敵基地、そして旧イルネティア王都郊外にある地下要塞だ。敵を要塞に追い込む方針にシフトさせるか…。敵が穴蔵にさえ潜ってくれれば、後はどうにかしてみせる)

 

 約3週間前から始まったイルネティア解放作戦「ユーラヌス作戦」も、いよいよ終盤が近いと思われる。果たして勝利の女神は、ロデニウス・ムー・イルネティア民衆連合とグラ・バルカス帝国のどちらに微笑(ほほえ)むのか……




というわけで、グラ・バルカス帝国によるイルネティア周辺の制海権奪還作戦は失敗。制海権を守り通したロデニウス側の勝利となりました。
しかし堺としても、敵が一気に3種類もの新兵器(アクティブソナー、新型戦闘機、防空駆逐艦)を投入してくるという憂慮すべき事態が発生。今後の戦い(と、それに伴う兵器開発競争)はさらに激化するものと見られます。果たしてこの世界の、そして日本から転移したロデニウス海軍第13艦隊の命運や如何に……?


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次回予告。

第13艦隊がグラ・バルカス帝国艦隊と交戦している間にも、イルネティア島での陸上戦は激化の一途をたどっていた。そんな中、ロデニウス陸軍・戦車第11連隊は戦局に新たな一石を投じるべく、思い切った作戦を実行に移す…
次回「イルネティア解放戦(13)」

P.S. この度、久しぶりにアンケートを実施します! お題はずばり、「ロデニウス軍の主力艦上戦闘機をどのように開発又は改良すべきか」。
堺が本文中で「技術屋に意見を聞いてみる」と言っていましたが、皆様にその「技術屋」になったつもりでアイディアに投票、又は意見具申していただきたいと思います。アイディアの候補は下にいくつか上げましたので、手軽に投票よろしくお願いいたします!
なおもちろんですが、皆様の意見次第で拙作の進行が変わってきます。また、第13艦隊の正規空母艦娘は甲板非装甲化&カタパルト非装備の子が多いので、意見具申される場合はレシプロ機限定でお願いします。

以下のアンケートに上がっているのは、「技術屋」が議論しているアイディアをこっそり公開したものです。皆様はどの案が魅力的だと思いますか? どしどし投票よろしくお願いいたします!

新型戦闘機のアイディア

  • 烈風一一型の性能向上
  • 紫電シリーズ見直して再改良
  • 日本軍機で新規開発(陣風とか)
  • んんwwwF8F以外あり得ませんぞwww
  • 時代は多用途機だ F4Uコルセア作ろう
  • フライングパンケーキ焼こうぜ!
  • 紅茶がぶ飲み シーフューリー
  • マーマイトキメてシーファング
  • まさかのタンクTa152艦上機化
  • パスタを無礼るなよ イタリア機魔改造
  • その他(感想、メッセージにて詳細説明)
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