鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
投票の他にもさまざまなご意見をお寄せいただき、私としては感謝の念に耐えません。まさかこんな場末の二次小説にこれほどの意見が集まるとは、思ってもみませんでした。
皆様からお寄せいただいた意見につきましては、今話以降にちょくちょく描写を挟むことで検討模様を描いていきたいと思います。既存機の改良案と新規開発案、どちらも一長一短ですし、さらにどの機体を実装するかという点でも考え甲斐がありますので。
さてさて前置きはこれくらいにして、大詰めが近くなってきたイルネティア解放作戦「ユーラヌス作戦」、続きに入ります。
『
「何でしょうか、
『新型アンタレスに勝てるレシプロ艦上戦闘機を大至急作れ!』
「……は?」
中央暦1643年7月8日、イルネティア島沖。
グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊との戦い以来、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊ムー派遣部隊は、占領したパガンダ島に仮拠点を置きつつイルネティア解放作戦「ユーラヌス作戦」を進めている。
そのイルネティア島沖には、第13艦隊所属の非戦闘艦艇の中では最も重要な存在と言える超大型移動工廠艦「釧路」も停泊している。全長1,460メートル、最大幅470メートルにも達するその巨大工廠艦の中で、艦長たる
「何となく事情は分かりましたが、詳しい説明をお願いします」
『む? ああ、すまない。動転してすっかり忘れていた。
昨日のパガンダ島西方沖海戦……あの戦いで我々はグラ・バルカス帝国の1個艦隊を撃破したが、その中で気になる報告が上がった。敵が、新型戦闘機を繰り出してきたらしいんだ』
「新型機ですか。おおよその姿形と性能は?」
『まず姿形なんだがな、「アンタレス」にそっくりらしい。一見して「アンタレス」と同じに見えた、という報告が何件も寄せられている。だが、中身は全くの別物だ』
「なるほど、『アンタレス』にそっくりなので簡単には見分けがつかない……と」
『ああ。んで性能だが、運動性能は「アンタレス」と変わらんらしい。しかし、最高速度はどれだけ低く見ても、時速650㎞はあるそうだ』
「何ですって?」
“釧路”の形の良い眉が、ピクリと動いた。
「ということは……『
第13艦隊の主力艦上戦闘機となっている「烈風一一型」の最高速度は、高度5,760メートルで時速624㎞だ。明らかに最高速度で負けている。
『そういうこった。「烈風一一型」は紛れもなく我が第13艦隊の、ひいてはロデニウス海軍の主力艦上戦闘機だ。それで敵わないとなると、これは厳しい。加えて、どうも火力を強化してあるらしく、奴らの新型アンタレスの武装は13㎜機銃2丁に20㎜機銃2丁、ってところだ』
「分かりました。外見は零戦そのまま、火力は零戦五二丙型相当、しかし最高時速は『烈風』すら超える、と。難敵ですね」
『ああ。ということで、新型戦闘機の開発をお願いしたいのさ。それもレシプロ機でお願いしたい。ジェット機を運用できる子はまだ少ないからな』
「承知しました。ということは、次世代機の『繋ぎ』のような形ですね?」
『うむ、その通りだ。ということで1つ頼む』
「承知しました。それでは、私はこれで」
通信を終えた後、“釧路”は1つため息を吐いた。
「また1つ以上仕事が増えた……後で提督にツケとこう」
1つ以上、という表現になったのには理由がある。艦上戦闘機以外にも作らなければならない物が発生したからだ。
(この命令、絶対に艦上戦闘機だけじゃ済みませんよね…。少なくとも基地航空隊用の機材と、それに将来的な艦娘の艤装の改造計画も立てておかなければ…)
そう、作るべき物が増えたのである。基地航空隊で使われている戦闘機は「
(こっちも更新しないと…)
そう考えつつ、“釧路”は航空部門の妖精たちに召集をかけた。
「……というわけで、提督から新しいレシプロ艦上戦闘機を開発しろとお達しが来たわ。最低でも時速650㎞は出せることが条件よ。
皆はどんな案がある? 実践するかどうかは後で判定するから、まずは案だけ出してちょうだい」
会議室に集められた妖精たちを前にそう言って、「第1回 新型レシプロ艦上戦闘機の開発に関する検討会議」の開会を宣言する“釧路”。そして妖精たちから飛び出してきた意見は、それはもう「ごちゃ混ぜ」という言葉でしか表現できないようなものだった。
「製造ラインの転用などの問題を考えると、ここはやはり『烈風一一型』のエンジン改良などによる性能向上型を用意すべきかと。私としては、『烈風』の改造案の1つである『二十試甲戦闘機』の設計をたたき台にして…」
とある妖精がこう述べたかと思えば、
「可能なら新規に開発すべきではないでしょうか。例えば『
と新規開発案が具申され、
「んんwwwレシプロ艦上戦闘機の新開発なら『F8Fベアキャット』以外あり得ませんぞwww」
と論者口調が炸裂し、
「紅茶の良さを分かってねーな、ここはやっぱ『シーフューリー』だろ。材料も比較的用意しやすいし、空冷エンジンだから整備の手間も取られんだろ」
「それは聞き捨てなりませんな、私は
と2人の妖精が、互いに紅茶のカップとマーマイトのチューブを持って睨み合いを始める。そうかと思えば、
「いや、これからは
という意見も飛び出し、それに便乗して、
「多用途機ならちょうど良い機体があるじゃないか、『F4Uコルセア』だよ。アレならロケット弾も運用できるし、3,000馬力級エンジンを持った改良型もある。『コルセア』が良かろう」
「いや待て、『コルセア』は着艦が難しいという欠点があるじゃないか。せっかくなら新機軸を出そうぜ。『パンケーキ』を焼いてお空に飛ばすんだよ!」
「ドイツ帝国としては諸君の提案に反対である。かつて『フォッケウルフFw190』を艦上機化した技術があるんだ、その改良型だって艦上機にしてみせる! 我ぁがドイツの科学技術は世界一ィィィィー!! 『タンクTa152』を艦上機化するなぞ
「
と多用途機論争が
「レシプロ機なんだろ? ならこれしかねーな、名付けて『オスプ
「それはない、というかそれ戦闘機じゃないだろうが」
「二重反転プロペラはどこ…ここ…?」
「二重反転プロペラ機が要るなら、『
「どうやってやるんだよ! ここは『
「待て貴様、さてはどこぞのラノベ読んだな!?」
「(二重反転プロペラは)前か後ろか、それが問題だ」
「ここでシェイクスピア読んでんじゃねえ!」
「単発機にこだわらず、ここは双発機の『F7Fタイガーキャット』を…」
「ドローンはレシプロ機に入りますか?」
などと一部ふざけた意見まで出てきて、まさに
珍妙な意見も見受けられるが、それらを次々とホワイトボードに書き出した“釧路”は気付いた。新型機を純粋な戦闘機として作るべきか、それともマルチロール機を作るべきかという厄介な問題があることに。
さらに困ったことに、レシプロ機は性能がもう頭打ちだ。「古の魔法帝国」ことラヴァーナル帝国との戦いのことも考えれば、やはりこれからは超音速ジェット機の時代である。ということは…
(超音速ジェット機そのものの準備、そしてそれを発着艦させるための艦娘の
仕事が増える一方である。
(仕方ない、こうなったら提督にまとめてツケますか…!)
次々と出てくるアイディアをまとめながら、“釧路”は黒い笑みを浮かべた。
いつの世もどこの世界でも、組織の中で人間関係に一番苦労するのは中間管理職なのである…。
2時間以上も続いた末、この第1回新型レシプロ機開発会議では
・新型機を純粋な戦闘機とするか多用途機とするかは次回以降に検討。
・純粋な戦闘機になるにせよ多用途機になるにせよ、既存の戦闘機の改良で済ませられるなら、可能な限りそちらを選択する。というのも今は戦争中であるため、できれば無駄なコストがかかるのを避けつつ、短期間で新兵器を用意したいからである。
・純粋な戦闘機として作るのであれば、『烈風一一型』の改良型とする案が候補となる。その他の候補として、機体を新開発する場合は『陣風』又は『F8Fベアキャット』とする。
・多用途機として開発する場合は、『紫電改二』の改良型とする案が候補となる。なおこの案を利用する場合は、ロケット弾を搭載できるよう改良することが必須となる。その他、機体の新開発案としては『F4Uコルセア』と『XF5Uフライングパンケーキ』の人気が高いため、この2つの案で決選投票を行う。
・案の1つとして出てきた『タンクTa152』については、基地航空隊用の高高度迎撃機として採用を別途検討する。その際、競合案として『スピットファイア』シリーズ、『P-51マスタング』を検討する。
・ラヴァーナル帝国との戦争を見据えて、資材や資金に余裕ができ次第新型ジェット戦闘機の開発に着手する。理想は『F-35ライトニングII』、次点で『F-15イーグル』又は『F/A-18ホーネット』シリーズ。最低でも『F-4ファントム』か『F-8クルセイダー』系統とする。
・新型対艦攻撃機の開発を検討する。当面の目標は『A-1スカイレイダー』とする。
・ステルス技術の研究を準備する。
もちろんこの1回だけで会議が終わるはずもなく、新型艦上戦闘機開発に関する検討会議は2回、3回と回を重ねていくのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、堺が少しイルネティア島から離れている間に、イルネティア島内での戦火はさらに拡大していた。
島に上陸したムー統括陸軍、そしてロデニウス軍第3海兵師団は、相変わらず容赦のない攻撃を続けている。今やイルネティア島の北部・西部・南部一帯がロデニウス・ムー連合による事実上の解放地帯となっており、グラ・バルカス帝国の実効支配が及んでいるのは島全体の3分の1にも届くかどうか、というところである。
そして旧イルネティア王国の住民たちは、ロデニウス・ムー連合軍以上に容赦のないことをやっていた。土地勘があるのを良いことに、彼らは街の中だろうと森の中だろうと所構わず拠点を築き、武力で制圧を図るグラ・バルカス帝国軍に対してゲリラ戦術で対抗している。イナゴは1匹ずつなら弱いが、集まれば凶暴化し田畑にとって重大な脅威になる。イルネティアの民衆も、それと同じようなものだった。拳銃(ロデニウス軍から供与された)や火炎瓶といった新兵器の登場、そして「たった1騎のイルネティアの竜騎士」の奮戦も、それに拍車をかけている。なお、このイルネティアの騎士というのはライカとイルクスのコンビである。
イルネティア島で戦火が燃えていない地域などない…そう錯覚しかねないほど、イルネティア全域に戦火は広がっていた。
そんな中、その状況に一石を投じる事態が発生した。それは中央暦1643年7月7日、ちょうどロデニウス海軍第13艦隊・第29任務部隊が敵艦隊と交戦していた時である。
「くそっ、
イルネティア島中央部にあるバッケス基地。その外縁部に築かれた塹壕の中で、1人のグラ・バルカス帝国軍下士官が吐き捨てた。
彼らの視線の先には、数百メートル先で何人もの人間が動き回っている。その人間たちは全員が統一された色の衣装を着て、銃を向けて撃ってきていた。その人間たちの周囲には、明らかに人工物だと分かる履帯を履いた背の低い車輌が複数いる。その車輌の車体前面に取り付けられた大砲が火を噴き、塹壕のすぐ近くに着弾した。
ムー統括陸軍である。イルネティア島北部に上陸したこの部隊は、イルネティア島北部の村落や都市を「解放」しながら南下を続けていたのだが、上陸から1週間と経たずにここまで来たのである。
ムー陸軍がこれほどの速さで島中央部に到達できたのには、理由がいくつかあった。
第一に、ロデニウス軍の存在。島南部に上陸し、そこからゆっくりと島中央部・東部へ勢力圏を伸ばしつつある陸軍(正確には海兵隊)に加えて、昼夜問わず空襲を仕掛けてくる機動部隊の戦力に、グラ・バルカス帝国陸軍は散々やられていた。このためムー統括軍にぶつける予備兵力を消耗し、有効な対策が取れなかったのだ。
第二に、イルネティアの現地民たちの協力。地理に明るい彼らはムー統括軍に対して地理的情報や食糧を提供し、必要ならばムー統括軍の代わりに偵察活動を行い、極め付けは武器を取ってムー統括軍に加わろうとした。流石に軍への参加はムー統括軍側が気持ちだけ受け取って辞退したが。
というわけで、機甲部隊を引き連れたムー統括軍は現在、バッケス基地まで到達し攻撃を開始していたのである。その主力を担うのは、
グラ・バルカス帝国軍は、基地に残っていたシェイファーII軽戦車や37㎜対戦車砲を持ち出して撃ちまくるが、傾斜を付けた厚さ80㎜の前面装甲を持つラ・シマン戦車はもちろん、ラ・スタグ自走砲にも全くと言って良いほど通用しない。逆に、それらの車輌が撃ってくる75㎜砲によって、37㎜砲もシェイファーIIも次々と撃破されていく。
「くそっ、聞いてないぞ! ムーとかいう野蛮人が戦車を持っているなんて!」
「37㎜対戦車砲が効かないだと!? そんなバカな!!!」
突然現れた脅威に多大な被害を出しつつも、グラ・バルカス帝国軍は必死で防御戦闘に徹し、どうにかムー陸軍の侵入を防いでいた。
一方、ムー統括軍はというと、
「思ったより粘る……やはり防衛戦の方が戦いやすいのか」
イルネティア解放作戦に動員されたムー陸軍第3軍司令官のアカスタ・クラウソラス少将が、双眼鏡で敵基地を見つめながらぼやいていた。
攻勢を開始して2日目になるが、思った以上に敵の守りが固い。ムー陸軍は敵基地の占領どころかその外縁部にある防御陣地の制圧にも苦戦していた。防衛の経験は多くても攻勢にはあまり明るくないムー陸軍の特性が、悪い方向に作用しているのである。
(我がムー艦隊、そしてロデニウス艦隊の負担を考えれば、あまり時間をかけてはいられない……彼女たちにも協力を仰ぐしかないか)
あの女性たちの力を借りるのは何とも情けないように思えるが、
「我が部隊にも、攻勢に加わってもらいたいということですか?」
数分後、ムー陸軍第3軍司令部に呼び出されたカーキ色の軍服姿の女性……“
「うむ。正直なところ、彼らの基地が思ったより堅固だ。ここで作戦を遅滞させる訳にもいかぬ故、ご協力を願いたいと思ってな」
頭を掻きながらアカスタはぶっちゃける。
「承知しました。それでは、夜襲は如何でしょうか?」
「夜襲だと?」
「はい。アカスタ少将閣下の部隊の皆様には、これまで同様に敵の防衛線に攻撃を加えていただきたいのです。無理に当てなくても結構ですから、とにかく敵の注意を少しでも引いていただけると大変ありがたく存じます。その間に我々が、敵基地内部に侵入して後方から
「侵入できるのか? 彼らの基地はかなり堅固だぞ?」
「お任せください。我らに秘策あり、です」
そう言って、妖精池田はニヤッと笑ってみせた。
午後になって一時攻撃の手を止めた後、その日の夕刻から再び始まったムー陸軍の攻撃は、夜になっても緩まない。そのためグラ・バルカス帝国軍側も、今度こそ本気の攻撃に出てきたと警戒してそちらに注意を振り向けていた。そんな中、バッケス基地の正門付近にて。
「そこの戦車隊! 止まれ!」
基地の警備に当たっている兵士が、闇に紛れて接近してくる複数の戦車を止めようとしていた。兵士の目は血走っている上にどこかイラついている様子で、戦況の悪化に伴ってプレッシャーをかけられ続けているらしいことが容易に窺える。
その戦車隊だが、姿形は明らかにグラ・バルカス帝国軍の「2号中戦車ハウンドI」と「2号軽戦車シェイファーII」である。数は2種合わせてざっと30輌、そこそこの規模である。
「こりゃ味方か! 止めて失礼……」
と、駆け寄った警備兵が謝罪の言葉を口にしかけたその瞬間。
ぷすっ!
何とも軽い音が1つだけ響いた。その瞬間、警備兵は頭から血と脊髄液を撒き散らし、一言も発さずに倒れる。その目は見開かれ、「何が起こったのか理解できない」という様子だった。
「クリア、射殺しました!」
戦車の後部、エンジンルームの上に乗っていた兵士が叫ぶ。その手にはサプレッサーを装着した拳銃があった。
「よし、門にぶち込め! 突入して大乱闘といくぞ!」
そう命令を出したのは妖精“池田末男”である。
実はこの戦車隊、グラ・バルカス帝国軍にとっては「敵」…ロデニウス陸軍第13軍団・戦車第11連隊だった。ハウンドIに似ていたと思ったのは「九七式中戦車チハ」であり、シェイファーIIに似ていたのは「九五式軽戦車ハ号」である。
複数の57㎜砲が一斉に火を噴き、バッケス基地の正門は粉々に吹き飛んだ。そのタイミングで、わざと遅れていた「新砲塔チハ」が追いついてくる。「新砲塔チハ」が遅れてきた理由は、砲塔側面に付けられたロケットランチャーを見咎められ、敵だと見破られるのを避けたためである。
「全車、突撃! かかれぇー!!」
「「「天皇陛下、ばんざぁぁぁぁぁぁい!!!」」」
お決まりの台詞と共に、
グラ・バルカス帝国軍にしてみれば、堪ったものではなかった。何せムー陸軍の他にイルネティアの民衆も反グ帝活動を
戦車第11連隊の突入は、最初はグラ・バルカス帝国軍側に「基地内で反乱発生」として受け止められた。それはやがて「敵襲」という正しい認識に変わったのだが、変わった時にはもはやその報告は意味を成していなかった。というのも、ムー陸軍がグラ・バルカス側の防衛線を突破して基地に攻め込んだからである。
2時間に渡る激戦の果て、ついにバッケス基地は陥落。夜戦とあって交戦距離が近かったせいもあり、ロデニウス軍、ムー軍、イルネティア民衆、グラ・バルカス帝国軍全てを合わせると総勢2万5千人とも3万人とも言われる死傷者を出し、敵味方問わず100輌以上の車輌がスクラップと化した。たった2時間の戦闘にしては、凄まじい犠牲である。
バッケス基地司令兼イルネティア駐留部隊司令官のルパート・フィッケル少将は、護衛の兵と共に命からがら脱出し、旧王都キルクルス方面へと向かった。そこに、万一に備えて作られた要塞があるからである。そこで指揮を執るつもりだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
少し時が進んで、中央暦1643年7月12日、グラ・バルカス帝国軍 ステリオ山要塞。
この要塞は、キルクルスの西部にあるステリオ山(標高321メートル)を丸ごとくり抜いて作られた地下要塞である。レイフォリア郊外に築かれた要塞「ダイジェネラ山要塞」のテストベッドとして作られたものだ。
ただしグラ・バルカス帝国軍は、試しに作ってみたは良いものの、この要塞に
……しかし、人間万事
「まさか、我々がこんな
命からがらバッケス基地を脱出したイルネティア守備隊司令官フィッケル少将は、暗い顔でため息を
今のイルネティア島におけるグラ・バルカス帝国の支配領域など、どんなに多く見ても1割あるかないかというところだ。飛行場を併設しているバッケス基地の陥落と同時に、進軍スピードを一気に増した敵軍は、完全に寝返ったイルネティア民衆の助力を得て旧王都キルクルスに突入した。キルクルス郊外の征統府も先日陥落し、キルクルス東部の軍港は敵艦隊の空爆と艦砲射撃で機能を喪失。今ごろ敵軍や反乱軍に蹂躙されているだろう。残った拠点は、このステリオ山要塞しかない。
しかも、本土の軍本部から届いた命令は「イルネティアを死守せよ」だ。おまけに発令者は、軍本部長サンド・パスタル元帥と帝王府の連名となっている。ということは、帝王グラ・ルークス陛下からの直接命令だ。全力で遂行し成功させなければならない。失敗できない。
「くそ、反乱軍やらロデニウスやらムーやらの蛮人どもめ…。このステリオ山要塞は鉄壁だ! ここは陥ちんぞ!」
「むしろここからだ! この要塞からキルクルスを砲撃してやるわ!」
幹部たちの中には息巻いている者が多いが、フィッケルはそんなに楽観的にはなれなかった。
確かにこの要塞は、多数の半トーチカ式対空陣地に野砲陣地で固められており、難攻不落と言えるだろう。だが、この要塞にいる兵力がそう多くない(どんなに多く見ても2,000人を上回ることはない)以上、ここを守ることはできてもここから打って出ることは不可能に近い。そして攻撃に出なければ、イルネティアの実効支配を取り戻すことはできない。
つまり…
(どうする、どうすれば良い!?)
答えの出ぬまま、フィッケルの思考は巡る。
一方その頃、ロデニウス・ムー・イルネティア民衆の連合軍はステリオ山要塞を攻めあぐねていた。
威力偵察や航空偵察の結果、敵要塞は相当に頑強であるらしいことが確定したからである。これを攻めるとなると、無策で歩兵を突っ込ませれば死体の山ができるだけだ。迂闊には近寄れない。
要塞である以上、大口径の榴弾砲なども多数配置されているだろう。となるとパンターG型改のような強力な戦車でも危ない。
かといって放置すると、今度は敵要塞からキルクルスに砲撃が浴びせられる可能性が高い。
どうしたものかと悩んだ第3海兵師団の司令官は、島の周囲に展開している第13艦隊に対して支援を要請した。
「要塞の攻略って、また随分と面倒な…。でも、解放後のイルネティアの民衆のことを考えたら、この要塞は絶対に潰しておく必要があるんだよな…」
第13艦隊
「これまでの偵察結果から考えて、間違いなくあの山の要塞に司令部があるんだよな…。
いろんな意味で、この要塞は絶対に叩かねばならん。しかしこの要塞は全周をがっちり固めてやがるから、あれを攻め落とすとなるととんでもない被害が出る。
ならどうするか。何か、できるだけ味方の被害を少なくして、なおかつ敵に大きな被害を与えられるような名案はないものか……」
そんな名案があるなら、こんな苦労はしないものである……と言いたいところだが。
(要塞を有利たらしめる物は何だろうか? それは、攻める側が守る側の想定通りに動かなければならないことにある。攻める側である我々にとっては、チェックメイトがかかったチェスボードを押し付けられるようなものだ。
なら、どうやって戦うべきか? 対処法はいくつか考えられる。
1つめ、無視して迂回する…依頼の内容が内容だけに、それはできん。
2つめ、要塞側の作戦に乗った上で圧倒的物量で要塞の対応能力を飽和させる…それができるのはアメリカとソ連くらいだな、我々にはできん。
それなら…これだ!)
どうやら堺、何かを思いついたらしい。
「『正気でならずば狂気にて』……まともじゃない攻め方をすれば良い。
要は『ちゃぶ台返しによるゲームリセット』。テーブルごとゲーム盤をぶち壊してこちらが作った盤面を押し付け、要塞側が想定する戦況を完全に
方法はこれしかない。要塞は自分たちが想定した戦場で戦うなら強いが、想定外の状況下では脆弱になり得るからな!」
そこまで発想できれば、後はどんな方法でそのアイディアを具現化するか、である。
「まずは1つ、普通じゃない大砲でもぶち込んでみるかな。それで駄目なら…思い切った方法を取るしかなさそうだ」
呟きながら頭を回転させる堺。その口元に真っ黒な笑みが浮かぶ。
「あいつらが穴蔵潜りを望むなら……お望み通りにしてやろう。お前らはそこを自分たちの墓穴にしてろ!」
この発想の元に、堺はこれまたぶっ飛んだ作戦を思いついたのだった。
その直後、TF29の1隻・航空母艦「
「艦長、提督から通信です」
通信長妖精が、艦長たる“加賀”に電文を手渡す。そこにはこう書かれていた。
『第28及ビ第29任務部隊ハ、中央暦1643年7月13日0600時ヲ期シテ〈ステリオ山〉ノ敵要塞ニ対シ、総力ヲ以テ攻撃ヲ開始セヨ。ソノ際……』
そして、電文の末尾まで視線が動いた時、“加賀”の目が僅かに見開かれる。次いでその口元に微笑が浮かんだ。表情の変化が表に出ない彼女には、大変珍しいことである。
電文を読み切った直後、“加賀”はどこか上気した様子で一言だけ、ぽつりと言った。
「流石に気分が高揚します。……まさか堂々と、『あれ』の使用許可が出るなんて」
電文の最後は、こう締め括られていたのだ。
『ソノ際、航空母艦「加賀」ニオイテハ〈艦首軸線砲〉ノ使用ヲ許可ス。』
要塞1つに追い詰められてしまったグラ・バルカス帝国軍。この状況まで来たということは、15回以上もの長きに渡ってお送りしてきたイルネティア島攻防戦もついに決着ということです。堅牢な要塞に立てこもるグラ・バルカス帝国軍、対して堺はどんな戦術を放つのか、次回をお待ちくださいませ!
UA101万突破、お気に入り2,800件突破、総合評価11,000ポイント突破……皆様、ご愛読本当にありがとうございます!! 改めて感謝の念に耐えません…!
評価4をくださいましたヰ宮まいみ様
評価9をくださいましたTasiin様、狩うどんきつね様、蒼龍型潜水艦様
評価10をくださいました綾鷹にごりほのか様、miya130ton様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
ついにイルネティア島をめぐる戦いの趨勢が決した。残るグラ・バルカス帝国軍の主力部隊は、山1つをくり抜いて建造した要塞に立てこもっている。この状況を打破するため、堺が取った戦術とは……
次回「イルネティア攻防戦(14)」
新型戦闘機のアイディア
-
烈風一一型の性能向上
-
紫電シリーズ見直して再改良
-
日本軍機で新規開発(陣風とか)
-
んんwwwF8F以外あり得ませんぞwww
-
時代は多用途機だ F4Uコルセア作ろう
-
フライングパンケーキ焼こうぜ!
-
紅茶がぶ飲み シーフューリー
-
マーマイトキメてシーファング
-
まさかのタンクTa152艦上機化
-
パスタを無礼るなよ イタリア機魔改造
-
その他(感想、メッセージにて詳細説明)