鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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皆様は、以前に私が言ったことを覚えておいででしょうか?

私は以前、「イルネティア解放戦(12 前編)」の後書きでこう申し上げました。
「イルネティア編は、最高で15話、遅くとも20話行くまでに終わらせる所存です」と。

どうやらその約束を果たせるようです。
という訳で、ほぼ終盤となったイルネティア解放作戦「ユーラヌス作戦」、どうか最後までお付き合いください。



171. イルネティア解放戦(14)

 中央暦1643年7月13日 午前5時、イルネティア島。

 かつてグラ・バルカス帝国に征服され、グラ・バルカス帝国領イルネティア州となっていたこの島の状況は、今や大きく様変わりしていた。グラ・バルカス帝国の勢力はもう、島のごく一部を支配…正確には拠点2つを支配できるだけの小さなものに成り下がり、島の大半は独立を取り戻していた。都市部などではまだ抵抗しているグラ・バルカス帝国兵が少なからずいるものの、それも順次鎮圧されつつある。

 そんな中、旧イルネティア王国王都キルクルスの郊外には、2つの部隊が集結していた。1つはロデニウス連合王国軍・第3海兵師団。もう1つは、ロデニウス軍に協力している旧イルネティア王国民たちである。

 ムー統括軍はというと、キルクルス東側にある敵艦隊の拠点(軍港)を攻撃しに行っている。

 そんな彼らが攻略しようとしているのが、キルクルス南西部にあるステリオ山。正確には、その山に築かれたグラ・バルカス帝国軍の地下要塞である。これを攻略しない限り、イルネティアに平和は永遠に戻ってこないのだ。

 一筋縄ではいかないだろうことは理解している。しかし、やらねばならない…全員が覚悟を決めていた。

 

 ……ただ1人、この連合部隊の臨時指揮官となった堺を除いては。

 実は堺は、第3海兵師団の指揮権を臨時に受け取っており、今は「(なが)()」を降りて陸に上がって指揮を()っているのである。

 

「我が指揮下にいる全部隊に告ぐ。これよりステリオ山攻略作戦『十億(ギガ)(トン)(ハンマー)』を開始する。敵の要塞は強大かつ堅牢だ、全員心してかかってもらいたい。なお、本作戦中に諸君はとんでもない光景を見ることになるかもしれんが、諸君が見た物は作戦終了後に全て忘れろ。以上」

 

 奇妙な指示を出し、指揮下にいる兵士やイルネティアの現地民たちがざわついているのを無視して堺は双眼鏡を空に向ける。

 

「お、始まったな」

 

 双眼鏡を目に当て、堺は呟く。その先には、要塞に接近する航空部隊の姿があった。戦線復帰した「(かつら)()」から発進した、第六〇一航空隊である。攻略作戦の第一段階として、航空攻撃を行うのだ。

 だが、攻撃隊が要塞まで迫った時。

 

「うっわ……予想はしてたけど、ハリネズミだなありゃ」

 

 要塞から、大量の対空砲火が上げられる。高射砲から大口径対空機関砲から、全てを動員したかのような密度だ。山の斜面一面が発射炎で真っ赤に染まっている。

 攻撃態勢に入った「(すい)(せい)(六〇一空)」が空中でバラバラにされ、水平爆撃に移った「(りゅう)(せい)(六〇一空)」が火を噴いて墜ちていく。

 

「あんなところに攻め込むのか…」

「俺、生きて帰れるかなぁ…」

 

 味方の兵士からは、早くも弱気な声が聞こえる。それを小耳に挟みながら、堺は無線機を取った。連絡の相手は“()()”である。

 

「こちら堺。加賀、見ているな?」

『こちら加賀、もちろんよ。敵要塞の対空砲のおおよその位置は分かったわ』

 

 この通信が行われている間に、航空部隊は攻撃を断念して撤退しつつある。実は堺は、「無理に攻撃しなくても良い」と作戦開始前に指示していたのだ。これは航空部隊の消耗を避けることの他に、敵の対空砲の位置を暴き出すことが目的だったからである。

 

「よし……やれ」

『了解よ』

 

 非常に短い命令。しかしそれだけで、“加賀”には十分伝わった。

 通信を終えた後、堺は兵士たちの不安解消に精を出すのだった。それが一通り終わったところで、堺は思い出したように再び無線機を手に取る。

 

「堺からTF28 (しょう)(ほう)へ、聞こえるか? どうぞ」

 

 ややあって返事が返ってきた。

 

『こちら祥鳳。提督、ご命令ですか?』

「ああ。その前に確認だ、ゲストと機体の準備はできてるか?」

『はい、搭乗完了していつでも発艦可能です』

「よし、ではゲストの乗った『三式指揮連絡機』を発進させろ」

『はいっ、お任せください!』

 

 

 一方、洋上に浮かぶ航空母艦「加賀」は、敵要塞にまっすぐ艦首を向けて停止していた。要塞との距離はおよそ13㎞。

 

「艦首軸線砲、発射用意」

「了解、艦首軸線砲発射用意。艦内の全電源を予備電源に切り替え、軸線砲に電力チャージ開始」

 

 実は「加賀」の艦首には巨大な大砲…「45口径41㎝単装艦首軸線電磁投擲砲」が搭載されている。分かりやすくいえば、「長門型戦艦の主砲の弾を発射するレールガン」だ。

 2年前のムーとの合同軍事演習以降、“加賀”は暇を見つけては“(くし)()”に艦首軸線砲を(いじ)ってもらって、改修を重ねてきた。その結果、ある程度の実用性向上は果たせたのだが…

 

(艦首軸線砲ゆえの使い勝手の悪さは仕方ないとして…相変わらず予備電源以外の全ての電力をこちらに回さなければならないのは不便ね。それと砲身命数や電導回路の耐久性の問題で、一度に射撃可能なのは最大でも「5発」まで。……安全率まで見込むと「3発」しか撃てないわね)

 

 相変わらず使い勝手が悪いのであった。あ、そもそも空母にこんな代物を搭載するべきではないというツッコミはなしでお願いします。

 

「電力チャージ50%!」

「徹甲弾装填良し!」

「艦首を、敵要塞に向けます。照準固定!」

「電力チャージ100%! 充填完了、発射準備良し!」

 

 どうやら射撃準備が整ったらしい。

 

「艦首軸線砲発射10秒前。総員、対ショック、対閃光防御」

 

 どこかで聞いたことがあるような号令を”加賀”は発した。

 「加賀」艦橋内にいる全ての妖精たちが、一斉にサングラスを思わせる黒いゴーグルを装着する。“加賀”自身も例外ではない。

 

「3、2、1、ゼロ! 発射!」

 

 砲術長妖精が叫ぶ。カチリと音を立てて、トリガーが引かれた。

 

シュイイイィィン……ドオオオオッ!!

 

 瞬間、青白い閃光、次いで強烈な反動が「加賀」艦体を襲う。必殺の41㎝徹甲弾が、青白い電撃を纏って稲妻のように突進していった。その発射時初速、なんとマッハ10である。

 

 

 襲ってきた敵の航空部隊を撃退し、ステリオ山要塞にこもるグラ・バルカス帝国軍の士気は大いに上がっていた。敵機が投下した爆弾による被害が軽微だったのも、それを助長していた。

 

「やはりこの要塞は鉄壁だ!」

「この要塞がある限り、我々は勝てるぞ!」

 

 幹部から末端の将兵まで、そんな楽観論が出ている。しかし要塞司令兼イルネティア駐留部隊司令ルパート・フィッケル少将だけは、気分が晴れなかった。

 

(この攻撃を(しの)いだとして、次はどうするか……今攻勢に出るのは、要塞の残存兵力から考えると厳しいぞ。

それに、本国に事態の打開を要請して戦力を送ってくれることにはなったが、その作戦を行うには全ての兵を要塞に集め、地下に潜らせておくことが必要だ。要塞の外に残っている部隊と、どうにかして連絡を取れないだろうか……?)

 

 と彼が頭を悩ませていたその時だった。

 

ズドオオオオォォォォン!!!

 

 突然、大音響と共に要塞が激しく揺れた。天井から土埃がもうもうと降ってくる。

 

「なっ、何だいったい!?」

 

 叫ぶフィッケル、だが幹部たちも狼狽(うろた)えたまま何も答えない。何も報告が来ていないのだから当然だが。

 そこへ、要塞内の有線電話を通じて報告が飛び込んできた。

 

『こちら14番砲台! 要塞南側に敵の攻撃が直撃、被害甚大です!』

「被害甚大だと? もっと具体的に報告しろ!」

『それが、山肌が完全に撃ち抜かれてトーチカが爆砕されています! 4番から7番の重砲陣地は全滅と思われ、その他高射砲・機関砲トーチカにも被害が続出しています! 敵の攻撃は艦砲射撃と思われます』

「な、何だと…」

 

 艦砲にしては想定外の威力に、フィッケル以下の幹部たちは青くなった。

 

「加賀」艦首に搭載された電磁投擲砲(レールガン)は、発射後の緊急砲身冷却や次弾装填などの工程を全てこなすのに2分かかる。そのため、ステリオ山要塞は5分という短い時間の間に3発ものレールガン弾を浴びせられる羽目になった。

 山の斜面に築かれていた高射砲や重砲、対空機関砲などのトーチカ陣地は、グレードアトラスター級戦艦の主砲すら凌ぐ貫徹力・破壊力を持つレールガン弾により、壊滅的な被害を被ってしまった。要塞内の指揮所もいくつかやられており、指揮系統にも混乱が生じている。

 しかし……

 

「これは多分駄目ね。表面の砲台は叩いたけれど、最も内側まで攻撃が通っている様子がないわ」

 

 双眼鏡による確認と偵察機からの報告を突き合わせ、“加賀”はそう判断した。

 それに加えて……

 

「コンデンサ過熱! ちくしょう、これでも発射の負荷に耐えきれないのか…!」

「コンデンサへの電導回路に異常発生! 電力が溜まりません、電磁投擲砲発射不能!」

 

 肝心のレールガンが壊れてしまったのである。やはりというべきか、発射の負荷が重かったようだ。

 

「こちら加賀、敵要塞の南側斜面の砲台はあらかた破壊したわ。けれど、おそらく要塞深部にある司令部までは攻撃が通っていないと思われる。あと、艦首軸線砲が故障して撃てなくなったわ」

『こちら堺、了解。想定内だ、問題ない。「十億屯槌」作戦を第三段階に移行させるだけだ……お疲れさん、敵の砲の射程から離脱して少し休んでくれ』

「了解したわ」

 

 やはり、山1つを崩すのは簡単ではなかったのである。

 だが堺は、こうなることも想定して作戦を立てていた。もしレールガンで要塞を破壊できなかった場合は……「最後の手段」に出るつもりである。その「最後の手段」は今、既に敵要塞に到着しつつあった。

 

 ステリオ山上空にはちょうど、1機のレシプロ機が接近しつつあった。その飛行速度は時速180㎞前後とかなり遅い。しかも着陸脚が突き出ているため、古めかしい印象を与える機体である。

 

「撃ってこないな…」

 

 そのレシプロ機の操縦席にて、(そう)(じゅう)(かん)を握る女性…ツインテールが特徴的なグレーの髪の妖精が、一向に発砲しない敵要塞を見下ろして呟いた。

 

「対空砲が全部ぶっ壊れたなんてことはないだろうし……この機体の見た目と単機飛行から、この機を偵察機と見て相手にしないことにしたか? それとも地上兵力の展開の方に注意を向けているか…」

 

 この妖精が操縦しているのは、「三式指揮連絡機」である。史実では「キ76」という名称で日本国際航空工業が開発した3人乗りの機体で、偵察や連絡飛行などを主任務としていた。

 この機の最大の特徴は、STOL機であることである。不整地でも運用でき、しかも短い滑走距離で離陸できるのだ。ただし、代償として最高時速178㎞と、とんでもない鈍足である。

 このため第13艦隊においては、この機体は対潜哨戒機として運用されていた。

 

「間もなく敵要塞上空に達します。準備はよろしいですか?」

 

 妖精は伝声管を使い、後部座席に呼びかけた。

 

『うむ、こちらはいつでも行けるぞ』

 

 後部座席からは、威厳を感じさせる声が返ってくる。

 

「了解です。

これより突入コースに入ります! 風防を開けて待機してください!」

 

 妖精は操縦桿を左に傾けた。直後、操縦桿を押し倒す。

 機体はゆっくり左に旋回しながら、徐々に高度を下げ始めた。高度計の針が高度3,200メートルを指したところで、妖精は機体を水平飛行に戻す。

 

「最終変針完了! アプローチコース突入!」

『目標点まで、あと20秒!』

 

 中間席に座る妖精が、下方を見下ろして要塞との距離を計りながら叫んだ。

 機体の主翼後方にある後部座席の風防が開けられる。そこから身を乗り出したのは、日焼けしたような褐色の肌を持つ大柄の女性だった。銀色のツインテールが風に大きく揺れる。

 

「よし、行くか!」

 

 そう呟いて、その女性…大和(やまと)型戦艦2番艦の艦娘“()(さし)”は下を見下ろす。艤装は展開しておらず、その背中にはバックパックを背負っていた。

 唐突だが、読者の皆様は覚えておいでだろうか。「イルネティア解放戦(11)」において、援軍として「釧路」に乗り込んでイルネティア島に移動した3人の艦娘のことを。3人のうち2人は“速吸”と“秋津洲”だったが、最後の1人が“武蔵”なのである。

 

『あと10秒!

……5、4、3、よーーい、今! お気を付けて!』

 

 妖精が声をかけた直後、“武蔵”は覚悟を決めて所定の行動を開始した。

 

 

「…撃たんな、敵さんは」

 

 飛んでいく「三式指揮連絡機」と、沈黙を保つ敵の要塞とを見比べ、堺はそう呟いた。

 彼がいるのは、前方にステリオ山を望むキルクルス郊外の丘陵地帯の一角である。周囲には歩兵と戦車…敵要塞への攻撃にあたる者たちがいた。ロデニウス軍第3海兵師団とイルネティア人のごちゃ混ぜである。

 この混成部隊は現在、敵の要塞に向けてじりじりと近付きつつあった。

 

「奴ら、あの機体を戦果確認機だと思ったらしいな。そして、地上に兵力を展開させ始めたこっちを、要塞攻撃の本隊だと思ってるみたいだ。まあ、そうなるように俺がコントロールしたんだけど」

 

 そう、実は堺の呟き通り、ステリオ山に向けて歩兵と戦車をゆっくり前進させているのは策略である。「三式指揮連絡機」を「レールガン攻撃の効果確認にやってきた」と誤認させ、さらに地上兵力を動かすことで「これから陸上部隊による攻撃が始まる」とグラ・バルカス帝国軍に誤認させることを狙っていたのだ。

 要塞に対する真の主攻は「三式指揮連絡機」なのである。

 といっても、「三式指揮連絡機」は確かに100㎏爆雷を2個抱えられるが、その程度では要塞には何らダメージを与えられないだろう。だが、今ここにいる「三式指揮連絡機」は、世界中のどんな爆撃機を以てしても…たとえ神聖ミリシアル帝国の空中戦艦「パル・キマイラ」であっても抱えることのできない、とんでもない爆弾を抱えているのだ。

 

「お、行ったな」

 

 堺が覗いていた双眼鏡の視界の中で、「三式指揮連絡機」から飛び降りる人影が1つ見えた。少し落下した後、その背中に背負ったバックパックからパラシュートが飛び出し、青空に一輪の白い花を咲かせた。

 

「適切な位置に降りてくれれば良いが…」

 

 堺は呟く。

 飛び降りた人影はかなり大柄だ。また、長い髪が風に吹かれて(なび)いているところから、女性らしいと見える。

 そう、“武蔵”が「三式指揮連絡機」から飛び降りたのだ。何のためかというと、

 

「この辺かな」

 

 そう言いながら堺が双眼鏡を目から離した直後、“武蔵”の身体が白い閃光に包まれた。その白光の中で、巨大な何かの影が膨れ上がる。

 空中に突然現れた光は、現れた時と同じように突然消えた。そして、光が消えたその空に“武蔵”の姿はなく、代わりに……戦艦「武蔵」の巨体が浮いていた。

 

()らえ! これぞ必殺!」

 

 堺が叫んだのと同時に、空中に現れた「武蔵」の巨体が重力に従って、艦首を下にして加速しながら落下していき……

 

「8万トン質量爆弾だっ!」

 

 堺のその台詞と共に、ステリオ山に突き刺さった。天空から叩きつけられた雷神の槌(トールハンマー)のように。

 

 そう、堺の考えた「ぶっ飛んだ作戦」とはこれだった。“加賀”の艦首軸線レールガンで敵要塞を攻撃した後、もし敵要塞を破壊できていなければ空挺の要領で“武蔵”を降下させ、ステリオ山の真上で実艦化し、その巨体そのものを武器として叩きつけるのである。ご丁寧にも、艦首部分の注排水区画に大量のコンクリートブロックやら()(のう)やらを詰めて確実に艦首が下を向くようにした上で、「武蔵」艦体にRV-2弾道ロケットのエンジンを外付けし、加速させてぶつけるようになっていた。

 さながら「地震爆弾(グランドスラム)」である。……「グランドスラム」と違って炸裂しない、という相違点が気休めにもならないくらい、その威力は遥かに凶悪だが。

 

 ではここで、この「8万トン質量爆弾」の威力がどれだけ凄まじいのか、少し計算してみよう。

 爆弾が投下された際、物体の破壊に使われるエネルギーは主に2種類ある。それが、「爆弾に内蔵された火薬の爆発によって解放されるエネルギー」と、「命中と同時に解放される、爆弾そのものが持つ運動エネルギー」だ。この2つのエネルギーが合わさった結果が、建物の破壊であったり深く抉られた地面であったりする訳だ。

 火薬の爆発によるエネルギーは、当然ながら火薬の爆発力に比例する。今回の「8万トン質量爆弾」の場合、炸裂用の火薬は搭載されていないから、「火薬の爆発によるエネルギー」はゼロである。

 問題はもう1つの「運動エネルギー」の方だ。

 動いている物体が持つ運動エネルギーは、物体の質量の半量に比例し、かつ物体の移動速度の2乗に比例する。そして、高い所で静止していた状態から自由落下する物体の場合、運動エネルギーは別の式で表すことができる。それが、物体の質量(キログラム)×重力加速度(メートル毎秒毎秒)×物体が静止していた位置までの高さ(メートル)だ。

 今回の場合、計算を簡略化するため“武蔵”はロケットエンジンの加速無しで高度3,000メートルから実艦化して落下したと見なすと、ステリオ山の標高は321メートルだから、“武蔵”はステリオ山の頂上からみて約2,600メートル上空から自由落下してきたことになる。“武蔵”の重量は8万トン=8,000万(キログラム)、重力加速度は地球とほぼ同じで9.8(メートル毎秒毎秒)だから、ステリオ山に突き刺さった「武蔵」が持っていた運動エネルギー(ジュール)は、

 

80,000,000×9.8×2,600=2,038,400,000,000

 

 となる。実に2兆384億ジュールだ。

 参考までに、重量1.5トンの自動車が時速60㎞で走行中に衝突事故を起こして止まった場合、自動車などの破壊に使われるエネルギー=自動車が持っていた運動エネルギーは、20万8千ジュールである。

 「8万トン質量爆弾」の威力がどれだけぶっ飛んでいるか、お分かりいただけるだろう。しかも、これは「武蔵」が自由落下した場合の数字である。実際にはロケットエンジンの力で「武蔵」は加速しているし、艦首区画に詰め込まれたコンクリートや土嚢のおかげで「武蔵」はもう少し重いし、“武蔵”が実艦化したのはダイジェネラ山の頂上から見て2,679メートル上空の地点だから、これよりさらにエネルギー量が大きくなるのだ。その2兆ジュールを優に超えるエネルギーが、ステリオ山要塞(と「武蔵」の艦体)の破壊に使われるのである。

 

 ステリオ山の要塞は、確かに非常に強固な防御力を持っていた。通常の空爆などものともしないほどに。

 だがいくら何でも、グレードアトラスター級戦艦以上の質量を持った物体が叩きつけられるなど、全く想定されていない。従って、それはもうひどいことになった。

 天空から落下してきた「武蔵」の艦体がステリオ山に突き刺さるや、山全体が大地震のように揺れる。2,600メートルの高みから8万トンの物体が落下してきたのだから当然だ。震度7はありそうな揺れが要塞全体を襲う。

 要塞内にいた兵士たちは、突然襲ってきた激震に足を取られ、踏ん張ることもできずに床に転倒した。それと同時に、大砲は砲座から外れて転落し、さらに積み上げられていた砲弾も床に崩れ落ち、その衝撃で砲弾(特に着発信管を付けている(りゅう)(だん))の信管が作動し、

 

ドガァーン!!!

 

 他の砲弾を巻き込んで大爆発を起こす。爆発によって生じた炎は瞬く間に地下陣地を席巻(せっけん)し、多くの将兵が逃げることもできずに上手に焼けていった。炎に呑まれなかった者も、破壊された天井や壁の土塊がぶつかる、火傷を負うなどして怪我をする者が続出した。

 被害はそれだけではない。特に要塞の上方かつ表層にある部屋は、「武蔵」衝突のエネルギーに耐えられず次々と天井が崩落した。ついでに迷路のように張り巡らされていた通路も、山の上方にあるものから順に天井が崩落していく。ひどいところでは天井が破れて外の光が見えるようになっていた。

 

「なっ……今度は何だ、いったい!!?」

 

 要塞の奥深くにある司令部では、床にへたりこんだままフィッケルが青くなって叫ぶ。あまりに想定外の事態が起きたため、彼を含む要塞の幹部たちは大混乱に陥っていた。

 

 戦艦「武蔵」の艦体が突き刺さっただけでも、既に要塞は(まん)(しん)(そう)()の死に(てい)だが……実はまだ"とっておきの一撃"がある。

 この作戦では、()(そう)の大破はほぼ確実と判断されたため、“武蔵”と全ての乗員妖精たち(艦体前部の主砲を操作する者は除く)がバイタルパートの内側で行動するよう命令されていた。昼戦艦橋にも出入りできない。そのため「武蔵」の指揮は第二艦橋の下、厚さ500㎜の装甲で鎧われた司令塔で執られている。

 司令塔は「操舵室」「防御指揮所」「主砲司令塔射撃所」の3区画に分かれている。このうち防御指揮所に、“武蔵”以下の艦首脳部要員の姿があった。

 

「てぇーっ!!」

 

 新たに壁が床となった防御指揮所、そこに響く“武蔵”の号令。次の瞬間、艦体前部の「試製51㎝連装砲」が全力咆哮を放った。

 そう、"とっておきの一撃"とは「試製51㎝連装砲」の絶命直射である。ゼロ距離で51㎝砲を撃ち込まれるなど、いったいどこの技術者が想定して要塞を建てられるというのか。当然ながら、ステリオ山要塞はこんな一撃を浴びせられることは想定していなかった。

 マッハ2以上の高速で地面に突き刺さった4発の51㎝砲弾は、着弾からやや遅れて信管が起動し、炸裂した。次の瞬間、要塞全体が震え、黒煙と土煙の混じったドス黒い火柱が、要塞そのものを吹き飛ばさんばかりに凄まじい勢いで立ち昇った。

 さっきの「武蔵」の落下により、要塞はほとんど崩れかけており、高射砲や野戦砲の弾薬などが剥き出しにされているところも少なくない。そこへ51㎝砲弾が炸裂したものだから、それに巻き込まれた砲弾や装薬が一斉に誘爆し、結果として要塞にあった大砲ほぼ全ての弾薬が一度に爆発したのである。

 この一撃は、ステリオ山要塞にとって完全に致命傷であった。こんな一撃を浴びせられてしまえば、弾薬の一斉誘爆によって武器そのものがほとんど無いに等しいし、備蓄されていた食料も誘爆に巻き込まれて大半が役立たずの燃えかすになっている。ついでに通路も井戸も崩落したため、地下水脈ももはや何の用も果たさなかった。

 当然だが、要塞側では人的被害も甚大なものとなっている。特に要塞の司令室が悲惨だった。天井をぶち抜いて突入した51㎝砲弾の1発がそこで炸裂したため、フィッケル以下の幹部たちは全員、無数の破片で身体を切り刻まれた直後に砲弾の炸裂によって吹っ飛んだ。本人たちも軍人なればこそ死ぬ覚悟はしていただろうが、まさか地下深くで遺体すらも残らない最期を迎えることになるとは思っていなかっただろう。

 なお、この爆発により「武蔵」も甚大な被害を受けたが、“武蔵”本人と妖精たちはバイタルパート内にこもっていたため、若干の死者と多数の負傷者が出ただけで済んだ。もちろん「武蔵」の艦体、もとい“武蔵”の艤装は大破してしまったが。

 

 爆発が収まり、火災も大半が鎮火した後、ロデニウス軍第3海兵師団の歩兵たちとイルネティアの民衆が、かつて要塞だった焼け(ただ)れた大穴に突入し、残敵掃討を実施した。これに対して、想定外にも程がある一撃を受けたグラ・バルカス帝国軍の残存兵力は非常に少なく、その僅かな生き残りもろくに武器がないのでまともに戦えず、さらに8万トン質量爆弾で要塞を完全に破壊されたことで士気も無いに等しかった。止めに、多数の火薬類の爆発とそれに伴う火災により、地下室の酸素が大量に消費されていたため、洞窟陣地の構造が裏目に出て酸欠が牙を剥いた。

 結局、彼らは非常に軽微な抵抗を受けただけで、あっさりと要塞の制圧に成功した。

 

 グラ・バルカス帝国が誇った難攻不落のステリオ山要塞は、ほとんど何の機能も果たすことがないまま全滅し、1年どころか1日経たずして陥落した。

 イルネティア島の再独立まであと一歩となったのである。

 

 

《ロデニウス連合王国海軍第13艦隊、及び第3海兵師団が提出した戦闘報告書より抜粋》

作戦名: 十億屯槌(ギガトンハンマー)

結果: 成功

損害: 第3海兵師団では歩兵1名戦死、6名戦傷。イルネティア現地民では4名戦死、5名負傷。戦艦「武蔵」大破、妖精5名戦死、436名負傷。




はい、堺の「正気でならずば狂気にて」とは、こういうことでした。未来の兵器を以てしても山1つを消し飛ばすのは容易ではなかったので、「神の杖」ならぬ「破城艦」を投下したという訳です。
まさか「親方! 空から大和型戦艦が!」をやって、どこぞのホワイトベースよろしくラムアタックを仕掛けるなんて、思いませんよね。
こんなやり方で処されてしまったフィッケル以下のグ帝軍将兵の皆様…南無。


総合評価が早くも11,200ポイントを超えてる…ありがとうございます! 励みになります。

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評価9をくださいましたニョッキ様、いつものところ様
評価10をくださいました川崎港様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

大掛かりな作戦となった「作戦名:十億屯槌」により、グラ・バルカス帝国陸軍の要塞は潰えた。しかし、実はその裏側で、グラ・バルカス帝国軍は思わぬ兵器を動かしていた。果たして、イルネティア島の運命や如何に!?
次回「イルネティア解放戦(終話)」
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