鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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ここまで15回の長きに渡ってお送りしてきた「ユーラヌス作戦」…イルネティア解放戦も、これでおしまいです。次回以降、少しだけ今作戦の影響をお伝えした後に新たなフェイズに入ります。



172. イルネティア解放戦(終話)

 少しだけ時を(さかのぼ)る。

 中央暦1643年7月10日、グラ・バルカス帝国本土 帝都ラグナ。

 今日も今日とて工場の煙突からもくもくと噴き出る(ばい)(えん)、そして自動車やトラック、機関車といった車輌から排出される煙により、ラグナの空はスモッグがかかって(かす)んでいる。そんなラグナの一角に設置された、帝国軍特殊殲滅作戦部の司令部にて。

 

「司令、帝王府及び軍本部から出撃命令であります」

「ほう、皇帝陛下のご命令とな? どこへの出撃だ?」

「攻撃目標はイルネティア島となっております」

「イルネティア…確か、ムー大陸への入植の際に中継点として使われる島か。なぜあんな小島に?」

 

 幹部職員から報告を受けて、特殊殲滅作戦部長アーリ・トリガー少将は首を傾げた。

 

「はっ、どうもイルネティア島方面の戦況が思わしくないそうです。既に同島周辺の制海権を奪われ、敵の上陸を許してしまったとか……」

「なるほど、それで我が部隊にお(はち)が回ってきたのだな」

「はっ、ご推察の通りと思われます。我が部隊であれば、制海権なき地であろうとも攻撃を成功させられるでしょう」

 

 グラ・バルカス帝国軍特殊殲滅作戦部は、航空機を用いた攻撃を行う部隊だが、空軍とは別の組織として扱われる。その理由は、彼らが運用する航空機にある。

 特殊殲滅作戦部が運用しているのは、帝国軍で通常使用されている「シリウス型爆撃機」や「ベガ型双発爆撃機」とは全く異なる機体だ。新型の重爆撃機「グティマウン」である。

 この新型機は、全長46メートル、全幅63メートルというとんでもない大型機だ。空気力学的に洗練された、全体にすらりとした機体形状と、主翼に装備された過給機付き6,000馬力レシプロエンジン6発が特徴である。

 エンジンに過給機を装備したことで、通常の戦闘機では上がれない…グラ・バルカス帝国の戦闘機ですら到達できない超高空を飛行することが可能となった。また、機体の最高速度も時速780㎞と速く、防弾装備が施された機体は非常に頑丈である。そして何より、多数の爆弾を搭載することができる。

 敵の迎撃が及ばない超高空から爆弾の雨を降らせ、敵の後方拠点などを攻撃する殲滅爆撃……それが、この機体を運用する特殊殲滅作戦部の基本戦術である。

 

 ちなみにこの「グティマウン型重爆撃機」だが、旧日本軍の兵器に詳しい方であれば「()(がく)」との酷似性を指摘するだろう。「富嶽」とは、第二次世界大戦中に旧日本軍が計画していた幻の超重爆撃機である。

 また、「グティマウン型重爆撃機」はその詳細性能が一般軍人に対しては伏せられていた。この特殊性ゆえに、同機は特殊殲滅作戦部でしか用いられておらず、したがって特殊殲滅作戦部は空軍とは別組織として扱われるのである。

 

「確か、この作戦の意義はイルネティア島にいる味方を救うことだったな?」

「はっ、その通りにございます」

「そして、その味方は現在地下要塞に集結中…で合っているか?」

「左様でございます」

「では、いつも通りの殲滅爆撃で問題ないというわけだ」

「はっ! 超重爆撃連隊は、ユグドにおいても無敵でした。今回も見事、イルネティア島の敵を撃滅してくれることでしょう」

 

 その後、イルネティア島の大きさなどを考慮し、特殊殲滅作戦部から50機の「グティマウン」を投入することが決まった。飛行ルートとしては、本土を飛び立った後で一度アストラル大陸で燃料を補給し、その後は一気にイルネティア島とアストラル大陸を往復する形が予定された。

 作戦行動を急ぐ必要があることから、作戦開始は2日後と決められ、この作戦「致命の一撃(フェータル・ストライク)」に参加する50機の「グティマウン」は指定された飛行場への集結を開始するのだった。

 

 

 だが、この巨人機の集結は独立第1飛行隊の有する特殊機材(ディグロッケ)の監視によって、直ちにロデニウス海軍第13艦隊司令部の知るところとなった。

 

「これは……!」

 

 第13艦隊・TF29旗艦「(なが)()」艦橋にて、第13艦隊司令官の堺 修一中将は、「グティマウン」が写った写真を前にして衝撃を受けた。

 

「6発レシプロエンジンでこれほどの巨体…重爆撃機か! まずい!」

 

 傍受した暗号通信の解析により、この爆撃機がイルネティア島を狙っていることは分かっている。

 堺が恐れているのは、爆撃される危険そのものもさることながら、爆撃において高威力の特殊爆弾…はっきり言えば「核兵器」が使われることである。

 

「機体形状とグラ・バルカス帝国製兵器の技術レベルから考えて、こいつは『富嶽』っぽいけれど、下手するとB-36クラスの可能性がある。B-36といえば立派な核爆弾搭載機だし、そうでないとしても『富嶽』と同期のB-29にだって核兵器が搭載されていたんだ、この機体が核を持っていないと言い切れるか? いや、言い切れない!」

 

 今核兵器なんぞ落とされれば、せっかく解放したイルネティア島が全滅してしまうことになる。自分たちを信じてイルネティア解放の夢を託してくれた旧イルティス政権のエイテス王子の信頼も、地に落ちてしまうだろう。

 

「こりゃまずい……1機たりとも、イルネティアの空に立ち入らせてはならん……! そしてこいつらが来る前に、何とかしてあの要塞を破壊しなければ……!」

 

 要塞と重爆撃機、種類の異なる2つの敵に同時に対処するのは困難だ。各個撃破するしかない。

 堺はこの脅威にどう対応すべきか、フルスロットルで頭を回転させ始めた。なお、この「敵の重爆撃機が来る前に要塞を始末しなければならない」という焦りが、あの「武蔵(むさし)」の空中投下という無茶苦茶な作戦に繋がっている。要塞攻略にかかる時間を短縮するため、あんな手を考えついたのだった。

 もちろんだが、この作戦を実行すれば“武蔵”本人と彼女の艤装に宿る妖精たちに大きな負担がかかることが容易に想像された。死者も普通に出るだろう。そのため、“(くし)()”に手伝ってもらって緩衝材を艦内の部屋という部屋に貼り付けて回るなどの緊急対策を取り、また艦橋要員や主砲の操作員などの必要最低人員を除く全員を退艦させておいた。しかし結果としては、“武蔵”本人を含めて乗艦していた全員が負傷したのである。

 

(“()()”たち空母勢に意見を聴くのは当然として、技術屋連中からも何か有効な作戦のヒントが得られないか聞いてみるか…! それと、B-36相当の機体を迎撃するにはレシプロ機では辛いところがあるだろうから、ジェット機持ちを集結させるか…五航戦はこのイルネティアの海にいるから良いとして、急ぎパガンダ島に「二式(だい)(てい)」を飛ばして“(あか)()”を連れてきてもらわなければ。アイツの持つ「セイバードッグ改」は、大いに助けになるし)

 

 そこまで考えたところで、堺は直ちに艦娘たちに指示や相談を始めた。まずは“(あき)()(しま)”に命令を出し、「二式大艇」をパガンダ島へ向かわせた。パガンダ島にも無線を飛ばし、“赤城”に「緊急防空任務のため直ちにイルネティア島に来航、TF29に合流せよ」と命じた。それらの命令を出してしまうと、続いて空母艦娘たちと“釧路”に相談し、迫りつつある敵の重爆撃機をどのように迎撃すべきか話し合った。

 

「成層圏まで上がれそうな機体は、私の『(しん)(でん)(かい)』と五航戦のジェット機くらいね。『(れっ)(ぷう)一一型』は少し不安があるわ」

 

 “加賀”が懸念を表明する。もともと日本軍機は高高度性能があまり高くないのだ。

 

「占領した飛行場に急いで『(らい)(でん)』を展開させれば?」

「うむ、それは俺も考えた。やってみよう」

 

 “(ずい)(かく)”の提案に、堺は即座に頷いた。すると今度は、

 

「零戦に三号爆弾取り付けて、敵が来る前に予め高高度を飛ばしておき、一当てして離脱させれば良いんじゃないのか」

 

 “(しょう)(かく)”にくっついていた妖精“(いわ)(もと)(てつ)(ぞう)”から提案があった。

 

「なるほど、対空クラスター弾の代わりか…だが零戦の高高度性能はかなり厳しいんじゃないのか?」

「それなんですが提督」

 

 どうやら“釧路”に秘策があるらしい。

 

「試作品レベルの代物ですが、『風神の涙』を応用した過給機を作ってみました。1日いただければ、これを零戦のエンジンに取り付けてみせます。推定性能は、実用上昇限度を13,500メートルに向上し、高度10,000メートルにおける最高速度を時速530㎞まで出せます」

「よし分かった、すぐ取りかかってくれ」

「はい。それと実は、イルネティア住民の皆さんと第3海兵師団附属の工兵隊に協力していただいて、ドイバ跡の道路を利用して野戦飛行場を築いておきました。その飛行場に展開可能な機体が……」

 

 そして耳打ちした“釧路”に、堺は思わず声を上げた。

 

「はあぁぁ!? お前、いつの間に滑走路にそんな加工を…」

「ちょうど良い暇つぶし(工兵隊の訓練)になりましたよ。それに、島上空の制空権を守ることは重要ですからね。機体も材料もあるのなら、作るしかありませんよね、最強の防空体制を!」

「はぁ……今度ばかりはお前さんの技術屋魂に感謝するよ」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 小さくため息を吐いた後で、堺は頭の中を切り替えた。

 

「ともかくこれで、イルネティア島の防空体制を大幅に強化できることが判明した。何とか航空機だけで守り切るしかないかな、艦隊の対空砲も容易には届かないだろうし」

「いや提督、何を言っているんですか」

 

 “釧路”がツッコミを入れた。

 

「あるじゃないですか……成層圏を射程に収めた大砲が」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、時は中央暦1643年7月13日へと戻る。

 

「釧路、ドックを空けろ! 武蔵の回収準備を急げ!」

『承知しました!』

 

 ステリオ山要塞の破壊を確認した直後、堺は即座に思考を切り替えた。まだ脅威は去っていない。敵の重爆撃機が多数、このイルネティアに迫っているのだ。

 

「こちら堺。長門、新しい敵情の報告は入っているか!?」

『こちら長門、3分前に独立第1飛行隊から報告があった。敵重爆撃機の大編隊、イルネティア島からの方位275度、距離300(かいり)に接近中。数は50前後と推定される、とのことだ』

「了解、TF28およびTF29各艦に命じて戦闘機隊の発進準備を急がせろ。敵が250浬まで接近したところで発進させる」

『了解した』

 

 ここまで指示を出したところで、堺は要塞攻略に参加した全ての人員に対し、要塞からの退避を命令した。

 

「この要塞の攻略は完了したと認定する。現時刻を以て『作戦名:十億屯槌(オペレーション・ギガトンハンマー)』は終了。まだキルクルス市内や市東部の港の方で戦闘が続いているようなので、そちらに合流、イルネティア独立を達成されたし。皆、お疲れ様でした。あと一踏ん張り、頑張ってください!」

 

 第3海兵師団の指揮権は本来の指揮官に返上され、イルネティアの住民たちも思い思いの場所に向かっていく。どうやらまだ暴れ足りないと見える。

 人員がすっかりいなくなった後、要塞に突き刺さったままになっていた「武蔵」の艦体が光に包まれ、小さくなっていく。しばらくして光が消えると、そこには大破した艤装を身にまとった“武蔵”がいた。負傷したようで、額に血が流れている。

 

「全く相棒よ、貴様もとんだ作戦を考えるものだな。まさか私が空を飛ぶとは思わなかったぞ」

「負担をかけて済まなかった、武蔵。だが味方の犠牲を最小限に減らして敵の要塞を叩くには、俺にはこれしか思い付かなかったんだ」

「分かっているとも。戦闘となれば、ある程度の犠牲は仕方ないさ。

さて、ある程度事情は分かっているつもりだが…敵の爆撃機が迫っているらしいな?」

「いつの間にそれを知ったんだよ」

「たった今、貴様と長門の無線を傍受した」

「抜け目のない…」

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

 そうこうするうちに迎えの「三式指揮連絡機」が到着した。これで「釧路」まで飛ぶつもりなのである。

 

「では行くか、相棒よ。最後の一仕事だ」

「ああ。イルネティア解放、成し遂げるぞ」

 

 

 この世界の人間が未だかつて誰も目にしたことのない巨大な航空機が、編隊を組んで東へと進む。6発のレシプロエンジンの轟音はまるで猛獣の唸り声のようであり、その巨体は空飛ぶクジラを思わせる。

 グラ・バルカス帝国が秘密裏に作り出した超重爆撃機「グティマウン」である。大量の無誘導250㎏爆弾を腹に抱えた50機のこの爆撃機は、イルネティア島に向かって飛んでいた。

 そのうち1機、隊長機(つまり1番機)の中で、この部隊の指揮官ハリー・テラー中佐は進路方向の空を見詰めていた。

 

「イルネティア島まであと350㎞」

 

 航法士が報告する。

 

「あと少しか……」

 

 彼らが今飛んでいるのは、高度10,000メートルの高空である。このままイルネティア島上空に達し、爆弾をばら()くだけの簡単なお仕事だ。

 攻撃目標は、旧イルネティア王国の王都キルクルスと定められている。味方は要塞内に避難しているはずであるから、要塞の周囲に群がっている敵陸上戦力を都市ごと焼き払うのである。

 

「こんな高度を飛行できる機体があるとはとても思えんが、念のため下方を警戒しておけ。敵が上がってこようとするかもしれん」

「了解しました」

 

 自分たちより高く飛べる機体などない……彼らはその固定観念に囚われていた。そのため、もう少し進んだところで下方から上がってこようとする敵機をいち早く見つけることができた。

 

「下方に敵機多数。上昇してきます」

 

 この報告を聞いても、ハリーは悠然としていた。

 

「ふん、無駄な足掻きを。こんな高空まで上がれる訳が……」

 

ズドオォォォン!!

 

 その瞬間、激しい轟音と共に機体が振動した。全くの油断を衝かれたハリーは大きく前にのめった。

 

「何事か!?」

「我が隊上空に敵機! 爆弾を投下してきました!」

「な、何だと!?」

 

 直後、ドオン、と鈍い爆発音が遠く響いた。

 

『23番機炎上! 墜落します!』

『何が起きたんだ!?』

『我操縦不能! 我操縦不能!』

 

 悲鳴と怒号が交錯し、無線は一気に大混乱に陥った。

 

 

「っしゃあ見たか! 寒くて息苦しい中で待った甲斐があったぜ!」

 

 恐ろしく寒いコクピットの中、白い息を吐き出しながら妖精“岩本徹三”は勝ち誇った声を上げた。作戦通り部下たちを率い、敵編隊よりさらに高い高度11,500メートルまで上がって準備した後、緩降下しながら敵編隊に突入し、すれ違いざまに三号爆弾を投下したのだ。そのついでに、妖精岩本は1機の敵重爆撃機を狙ってありったけの13㎜・20㎜機銃弾を撃ち込み、右の主翼をへし折って見事に撃墜したのだ。

 振り返ってみると、いち早く気付いた敵の防御機銃の応戦によって一部の部下がやられてしまったらしく、2、3機の零戦が黒煙を吐いて墜落していくのが見える。だが、大半の部下妖精たちは健在で、見事に空対空爆撃を成功させたようだ。敵の爆撃機は複数が黒煙の尾を引きずって落伍しかけており、緊密だった編隊が大きく乱れている。

 

「さて、俺たちの仕事は一旦終わりだ。ここは任せたぜ! 俺たちは、被弾して動けなくなった敵に中高度でトドメを刺す!」

 

 その呟きと同時に、(にび)(いろ)に光る高速の(やじり)…「F-86D改 セイバードッグ」を先頭にして、多数の航空機が次々と敵機に襲いかかった。まるでクジラに向かうシャチのように。

 

 

 ハリー・テラー中佐以下「グティマウン」の搭乗員たちは大混乱に陥っていた。

 突然の上方からの奇襲で、何機かの「グティマウン」が被弾し、そのうち2機は撃墜されてしまった。その衝撃的な出来事に気を取られた彼らは、下方から迫るとんでもない脅威を忘れてしまっていた。

 

「下方より敵機! はっ、速い!」

 

 その報告が上がった時には、既に「セイバードッグ改」による(じゅう)(りん)が始まっていた。上がってきた20機の「セイバードッグ改」が一斉に「AIM-9M サイドワインダー」空対空ミサイルを撃ち込み、瞬く間に30機もの「グティマウン」を葬り去る。続いて「(ふん)(しき)(けい)(うん)(かい)」と「(きっ)()(かい)」、それに「震電改」が食らいつき、30㎜機関砲で掃討を図ってきた。

 自分たちと同じ高度を飛べる機体などない…そう信じていたグラ・バルカス帝国軍人たちは、常識とは全く異なる戦闘模様を前に恐怖していた。

 

『また1機やられた!』

「何だあれは!? ロケット弾が、33番機に向かって…明らかに追尾していました!」

「速すぎる! それになんて攻撃力だ!」

「あんなの捉えられません!」

 

 機銃手たちも弱音を吐いている。

 「グティマウン」は非常に強固な装甲を持っており、場所によっては20㎜機銃にも耐えうるほどの防御力がある。だが、その防御力を以てしても30㎜機関砲には無力であった。空対空ミサイルなどは言わずもがなである。

 

「そんな……あり得ない……。帝国の、最強最新鋭の爆撃機が、こんな……ばかな……!」

 

 ハリーはもはや放心状態だ。

 

「ロケット向かってきま…!」

 

 だが、死神(セイバードッグ改)はそんな彼をも見逃さなかった。

 機銃手の必死の応戦も虚しく、突っ込んできたミサイルが「グティマウン」に直撃。強烈な一撃には到底耐えられず、燃料タンクに引火した「グティマウン」は一瞬にしてバラバラに砕け散った。全身に熱風を感じ、バラバラになった機体が見えたような気がした、と思った時には、宙に放り出されたハリーの意識は暗転し、二度と目覚めることはなかった。

 

 グラ・バルカス帝国の重爆撃機「グティマウン」50機は、イルネティアの島影を見ることすらもなく、洋上でロデニウス軍の戦闘機隊に捕捉され、全滅した。

 

 

 当のイルネティア島、経済都市ドイバ跡に築かれた野戦飛行場では、

 

「何だ、全滅しちまったのか。残念だな、せっかくこいつの出番が来るかと思って、大急ぎで機体もヒドラジンも用意したのに……」

 

 「敵爆撃機全滅」の報を受けて、何人かの妖精たちが肩を落としている。その視線の先には、水平尾翼もレシプロエンジンもない異形の機体…「Me163B改 コメート」の姿があった。もし母艦航空隊の守りが突破されるようなことがあれば、この「恐怖の彗星」が「雷電」などと連携してイルネティアを守る最後の盾となるはずであった。

 また、イルネティア島の沿岸部には「武蔵」をドック内に収めた「釧路」がスタンバイしている。いざとなれば、艦体を斜めに傾けて無理やり「武蔵」の主砲の仰角を稼いだ上で、51㎝砲に装填した「四三式弾」の一斉射を見舞うつもりであった。しかも、主砲発射の反動はスラスターを駆使してでも相殺するという、無理やりにも程がある運用である。

 あらゆる手を尽くして急ピッチで進められていた対空戦闘の準備だが、蓋を開けてみればその3割程度の実力しか出さぬうちに終わってしまったのだった。

 ちなみに、“釧路”が「暇つぶし」と称して滑走路に施したのは、「コメート改」を運用するための特殊加工である。

 

 

 その後、独立第1飛行隊も駆使して半日かけてイルネティア周辺の敵情を調べたロデニウス軍第13艦隊司令部は、有力な敵部隊の存在無しと判断した。そこにムー統括軍が敵軍港を落としたと報告が入ったため、7月13日17時41分を以て「ユーラヌス作戦」の完遂とイルネティア島の再独立を認定し、ロデニウス連合王国軍総司令部と第二文明圏連合軍総司令部に報告した。

 ここに第二文明圏連合軍はムー大陸西岸の制海権を確保し、ムー大陸にあるグラ・バルカス帝国勢力圏と帝国本土との補給線を断ち切った。

 

 ムー大陸における、第二文明圏連合軍の総反撃の刻は近い。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 なお後日、戦艦「長門」の長官公室で、書類を前にしてうんうん唸る堺の姿があった。その書類には桁の多い数字がいくつも書かれている。いずれもその先頭に¥マークがあることから、金額を示しているのは間違いない。

 

「金が…」

 

 悲愴な様子で呟く堺。

 そう、先の「十億屯槌」作戦は見事に成功したのだが、その皺寄せが堺に襲いかかったのだ。大破した「武蔵」の修理代その他もろもろの出費により、彼の財布が見事に大破…とまでは言わないが中破してしまったのである。これだけなら良かったが、そこに最悪のタイミングで“釧路”が「新型艦上戦闘機・陸上戦闘機の研究・開発予算」と題した予算案を突きつけ、ついでに「イルネティア島・ドイバ飛行場の整備にかかる費用」と称して多額の金を(ぶん)()っていったため、トドメを刺されてしまったのだった。

 

((つま)(よう)()はあったかな……)

 

 どうやら「武士は食わねど(たか)(よう)()」を言葉通りに実践しなければならなくなったかもしれない。中間管理職の悲しみである。




というわけで、グ帝が投入した「思わぬ兵器」とは、「実現できるか怪しい」と議論渦巻く「グティマウン」でした。しかし、せっかく登場しておきながらあっという間に全滅……まあ、ジェット機と「震電改」が相手ではどうにもなりませんね。

そして金欠に悩まされる堺司令。下からの突き上げと上の無茶振りに悩まされるのは中間管理職の宿命である……


次回予告。

ロデニウス連合王国軍とムー統括軍の尽力の結果、パガンダ・イルネティア両島はグラ・バルカス帝国の支配圏から脱し、逆にムー大陸のグラ・バルカス帝国勢力圏が本土から切り離され孤立してしまった。ロデニウス・ムー両国が発表したニュースは、果たして世界にどんな影響を与えるのか…
次回「悪事でなくとも、衝撃のニュースは一瞬で千里を走る」
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