鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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タイトルの一部は、あえてひらがなで書いております。何故ひらがな表記なのかは、本編をお読みいただければ自ずと分かるでしょう。
なお、今話タイトルを見ただけで、前話のレイフォリアの描写の際に何が起こったのか察した、という方はいらっしゃると思います。



174. きょううんなる静かの狩人(サイレントハンター)

 中央暦1643年7月14日 12時45分頃、グラ・バルカス帝国領レイフォル州 州都レイフォリア。

 本日も夏らしい青空が広がっているが、そんな爽やかな夏晴れとは対照的に暗く沈んだ雰囲気になっているのが、レイフォリア軍港司令部だった。

 

「なんて……ことだ……」

 

 軍港司令のイール・オラフソン大佐は、キリキリと痛む胃を押さえながら司令室で呟いた。

 帝国本土・軍本部から届いた命令は「パガンダかイルネティア、どちらかの島の制海権を奪還せよ」というもの。しかし、はっきり言って、今レイフォリアに残っている海軍戦力では不可能な任務だった。

 かつてレイフォリア軍港に停泊していた海軍戦力といえば、第一次バルチスタ沖大海戦の際に一時停泊した東部方面艦隊・特務軍艦隊を含めると、300隻以上もあったものだった。それが今や、その1割もあるかどうかという落ちぶれ具合である。

 一時停泊していた主力艦隊を除いても、レイフォリア軍港にはレイフォル防衛艦隊70隻、本国艦隊第41地方隊25隻などが常にいた。それがもはや、この2部隊を合わせても30隻前後しかいないのである。しかも健在なのは軽巡洋艦や駆逐艦といった小艦艇ばかり。戦艦、空母、重巡洋艦などの中〜大型艦は1隻もいない。以前の空襲の際に軒並みやられてしまったからだ。

 現在もまだその爪痕が残っており、軍港建物は崩れたままのものがある他、海に目を向ければ大破着底した艦艇が痛々しい姿を(さら)している。それらの軍艦を見ていると、イールは脳内に”ある音”が響いてくるのを覚えずにはいられなかった。敵航空機のエンジン音と、急降下してきた敵機から聞こえた、あのサイレンのような甲高い音である。

 

 実はイールのいう「以前の空襲」というのは、7月3日の朝っぱらから行われたロデニウス軍第13艦隊・第30任務部隊による空襲(「イルネティア解放戦(11)」冒頭参照)である。あの時軍港を襲った”()(りゅう)”の「(てん)(ざん)((とも)(なが)隊)」のエンジン音、そして「グラーフ・ツェッペリン」の「魔王」シュトゥーカ隊による「ジェリコのラッパ」の演奏が、イールに強く印象付けられていたのである。

 

 動かせる軍艦自体は、まだあるにはある。しかし、軽巡洋艦と駆逐艦からなる水雷戦隊では、何ができるかと問われると首を(ひね)らざるを得ない。水雷戦隊程度の戦力では、敵の重巡洋艦とぶち当たっただけでもかなり不味いことになる。まして戦艦や空母の航空部隊と激突してしまえば、壊滅は必至だ。

 それに加えて、どうもロデニウス軍の潜水艦がレイフォル州周辺の海域をうろついているらしい。味方の被害報告は全て読んでいるが、その中にいくつか、どう考えても潜水艦によってやられたとしか思えない報告があったのだ。

 正直に言って、レイフォリアに残る海軍戦力では何もできない。

 

(せめて、ラルス・フィルマイナ基地にいる航空部隊と連携しなければ……)

 

 そう考えるイールだが、実はこれも難しい。何せラルス・フィルマイナ基地は7月3日の空襲で滑走路や格納庫をやられてしまい、目下再建工事中であるからだ。

 それに再建成ったとしても、航空機はともかくパイロットの補充が効かない。今までは本土で錬成したパイロットを送ってもらっていたが、本土との連絡航路が断たれた以上それができない。このままでは、パイロットが枯渇してしまうだろう。

 

(全く、どうすれば良いんだ……)

 

 頭を悩ませるイール。その耳に、遠い喧騒が聴こえてくる。

 

(今日もまたやってるのか……)

 

 イールの気を(さいな)んでいる物は、実はもう1つあった。デモである。

 先月初旬以来、どうもグラ・バルカス帝国軍が劣勢に陥っているらしいと勘付いたグラ・バルカス帝国の一般市民たちが、軍港や基地に集団で押しかけてくるようになったのだ。特に今日は、「イルネティア陥落、ムー大陸のグラ・バルカス帝国勢力圏が孤立した」という昨日のニュースの影響だろう、デモ隊の声がいつもより大きい。

 

「ああもう! いったいどうすりゃ良いんだよ!!」

 

 苛立ちを抑えきれず、執務室に誰もいないのを良いことに、イールは執務机の上をドンと叩きながら怒鳴った。その拍子に書類の山が崩れ、2、3枚の書類が床に落ちる。

 それに構わず、イールは席を立った。一度海でも眺めて、心を落ち着けようとしたのだ。着底した軍艦はなるべく見ないようにしよう、と現実逃避しながら。

 そして窓の方を振り返ったイールの目に入ったのは……

 

 

 白い煙の尾を引きながら海の方から飛んでくる、多数の黒い物体だった。

 

 

 

「!?」

 

 

 目を見開いた瞬間、視界が一面灼熱を伴う真っ赤な光に覆われ、雷鳴のような凄まじい轟音が耳をつんざいた。それが、イールの最後の記憶となった。

 

 

 ちょうどその頃、軍港敷地の周囲には多数のグラ・バルカス帝国の一般市民が集まり、軍に対して抗議の声をあげていた。

 グラ・バルカス帝国軍は最強無敵であり、ムー大陸という敵地であったとしても、少なくとも前線より遥か後方に位置するこのレイフォリアは安全だ……と、彼らは入植時に聞かされていた。そして彼ら自身も、それを鵜呑みにして入植してきたのだった。

 ところがどうだろう、10日ほど前とそのさらに1ヶ月ほど前に空襲を受けたと思ったら、イルネティア島もパガンダ島も失陥し、自分たちは敵中に孤立してしまったというではないか。しかもそれを、異世界側のメディアが嬉々として伝えているのだ。それを聞いてしまった彼らの胸中は、むろん穏やかならざるものであった。

 

「おい、いったいどうなっているんだ! アンタレスでもグレードアトラスターでも何でも良いから、敵を撃滅してくれ!」

「私たち、ここで死んでしまうの!? そんなの嫌よ!」

「実家に帰してぇぇぇ! 両親が心配しているのぉぉ!」

 

 というわけで絶賛デモの真っ最中である。

 

「ええい、お前たち落ち着け! 現在帝王陛下と軍部が作戦を練っておられる! お前たちは何も心配することはない!」

 

 衛兵が必死に怒鳴っているが、あまり効果がない。

 と、その時、

 

ドドドドドドォーン!!!

 

 連続した爆発音のような轟音が響いた。

 

「え!?」

「「「!!?」」」

「な、何だ!?」

 

 一般市民はもちろん、音のする方を振り返った衛兵たちも呆然としている。

 彼らの目に飛び込んできたのは、上層階から黒煙を噴き上げる軍港司令部の建物だった。

 

「何が……起きた……?」

 

 衛兵の1人がそう呟いた時、建物の向こう側から黒い物体が3つ現れた。白い煙を吐きながら建物を飛び越え、こちらに向かってくる。

 

ヒュウウウウ……

 

 不気味な音も響いてきた。

 それの正体が何であるか分かった者は、1人もいなかった。しかし皆、あることを察した。これはおそらく、着弾すると爆発する種類の物だろう、と。

 

「逃げろーっ!」

 

 誰かの叫びを合図に、クモの子を散らすように逃げ出そうとする一般市民たち。しかし、一足以上遅かった。

 

ドドドオォォォン!!

「「「「ぎゃあああーーー!!!!」」」」

 

 飛んできた黒い物体は、群衆のど真ん中に次々と着弾し、凄まじい規模の炎をぶちまけて爆発した。その爆音に呑まれ、何人もの人間の悲鳴が一瞬にしてかき消された。

 炎と黒煙が一通り収まった時には、現場は「凄惨」という表現がぴったりな状態になっていた。道路脇に止められていた自動車が1輌、エンジンルームから炎を噴き上げて激しく燃え盛っている。そしてその周囲の道路は3箇所にわたってアスファルトが抉られ、色々なものが散乱していた。ガラス片や金属片、砕かれたアスファルト、鉄の臭いがする赤い水たまり、……人体の一部。特に、ちぎれた腕や足が散らばっていた。

 その中に混じって、腹部から内臓をまろび出させたまま動かなくなった者、両目に金属片が直撃して絶叫しながら転げ回っている者、自らの身体からぶちまけられた血の泥濘の中で息絶えた者、頭部と胴体が泣き別れした者など……これ以上描写するのは止めておこう。でなければR-15タグがR-18を通り越してXタグになってしまう。

 

「おぇぇぇ……」

「きゃあああああ!」

「みんな逃げろ! 殺されるぞー!!」

 

 生き残った者たちも、グロテスクな現場を目撃して吐く者、卒倒する者、パニックに陥る者と様々である。

 おそらくこの光景は、相当なトラウマとなって人々の記憶に刻み込まれることであろう。

 

 

 軍港に停泊していた、レイフォル防衛艦隊所属のエクレウス級駆逐艦「キタルファ」の見張員は、その瞬間をはっきりと見た。

 このところ、ロデニウス軍による大規模な空襲が起きており、在泊の主力艦が軒並みやられてしまっている。そのため、停泊中の軽巡洋艦や駆逐艦は缶を温めたまま保持しており、空襲警報が鳴れば直ちに出港できるようスタンバイしていた。重油を無駄に消費してしまうが、この際仕方がない。

 対空警戒に重きを置くよう命令されていたため、見張員も空に視線を向けている者が多かった。この見張員も御多分に漏れなかったのだが、たまたま見張る方向を変えていた時、それは起こった。

 彼の視界に突然、白い煙の尾を引く黒い物体がいくつも飛び込んできたのだ。全体的な見た目は尖った形状をしている。

 

「!?」

 

 その黒い物体を見て、彼はまずその物体の正体を推測した。これに似た兵器を、軍の講義の中で写真で見たことがある。おそらくロケット弾だろう。

 では、そのロケット弾はどこから発射されたのか。それを確かめようとして、彼は驚愕した。

 発射された地点と思しき辺りには、青い海面が広がっているきりだ。怪しげな物は何も見えない。

 では、あのロケット弾はいったい何から発射されたのだろうか。

 

「か、海面に異常探知! 海中からロケット弾が多数出現! 軍港施設に向かっている!」

 

 考えるより先に、彼は伝声管を引っ掴んで叫ぶように報告していた。そして報告を終えてから、その可能性に気付く。

 

(ま、まさか、潜水艦!? 潜航したままの潜水艦から発射されたのか!?)

 

 だが疑問が残る。

 まずそもそも、ロケット弾を水中から発射するなんてことが可能なのか。

 次に、発射が可能だったとして、潜水艦はどうやってこのレイフォリア軍港内に侵入したというのか。軍港の入り口には防潜網という金網が張られており、外部からの侵入は困難なはずだ。

 

 そして何より……自国の他に潜水艦を運用可能な国なんて、あるのか。

 

 見張員が必死で考えているうちに、ロケット弾は次々と軍港施設に着弾し、強烈な爆発を以て建物を破壊していく。それを見て、見張員の顔が青ざめた。

 

(確か、今ロケット弾が着弾している辺りには司令室があったんじゃなかったか!?)

 

 もしかすると今この瞬間、軍港基地の司令官が執務室にいるかもしれないのだ。そこにロケット弾が命中して司令が戦死したなんてことになれば、指揮系統が失われ、混乱が発生する。

 

(くそっ、何が起きている! まさかロデニウスの潜水艦が侵入した訳じゃあるまいに!)

 

 そう思った時、見張員の脳裏に稲光が走った。

 もしや、軍港に侵入してロケット弾を撃ったのは、ロデニウスの潜水艦ではないだろうか。そうだとすれば、ロデニウスの潜水艦乗りは非常に高い練度と大胆な発想力があることになる。警戒の厳しい敵の軍港に白昼堂々と侵入するなんて、実行者はアタマがイカれた奴かよほど熟練した大胆な潜水艦乗り(サブマリナー)かのどちらかに決まっている。

 

(なんて奴だ……!)

 

 見張員がそう考えた瞬間、

 

ズズウゥゥゥン!!!

 

 鈍いが激しい爆発音。水中爆発の音だとはっきり分かる音だった。

 そして、見張員が見ている前でキャニス・メジャー級軽巡洋艦「アクィラ」が、左舷中央に巨大な水柱を突き立てられ、激しい爆発を起こした。と見る間に、艦首が傾いて空中へと持ち上がり、「アクィラ」はそのまま沈没し始める。

 

「け、軽巡『アクィラ』被雷!」

 

 もはや絶叫じみた報告を上げたその時、彼の視界に妙な物が映った。それは、「キタルファ」の右舷至近の海面に一瞬だけ見えた、青白い影のような物だった。

 

(何だ、今のは?)

 

 そう思ったが、その疑問を解決する時間は彼には残されていなかった。

 凄まじい轟音と共に「キタルファ」は真下からの強烈な衝撃に揺さぶられ、その直後に魚雷発射管に装填されていた魚雷が誘爆。大爆発と共に艦上構造物はあらかた吹っ飛び(もちろん見張台も吹っ飛んだ)、艦体が真っ二つにへし折れ、乗員の大半を道連れにして沈没(軍港内であるため「大破着底」という表現が正しい)したのだった。

 

 

 鈍いが激しい爆発音は、鋼鉄の壁越しでもはっきりと感じ取れた。ハイドロフォンを使うまでもないくらいだった。

 

「Torpedo treffer*1!」

 

 それでもソナーマン妖精は、律儀に報告を挙げる。それは職務故の理由か、それとももっと根源的な、本人の性格的な部分に起因するものか。

 その報告を聞いた瞬間、室内にいた女性……いや、妖精の1人が叫んだ。

 

「Jawohl Junks, wir haben ihn! Wir haben ihn!」

 

 ドイツ語で「よし皆、奴を仕留めたぞ!」と叫んでいるのだが、その発音がどう聞いても日本語で「フタエノキワーミー! キワーミー!」と言っているようにしか聞こえない。

 

「「「Wir() haben(ワー) ihn(ミー)! Wir() haben(ワー) ihn(ミー)!」」」

「Sei ruhig!」

 

 そして釣られて唱和した他の妖精たちが「静かにせいっ!」と怒られてショボーンとするのも、いつも通りである。

 

「取舵いっぱい、針路255度、微速前進! とっととおさらばして逃げますって!」

 

 そんな中、部屋の中心に立つ小麦色の肌の女性…傍らに何故か浮き輪を置いている…が命令を下した。サツキツツジの髪飾りを刺した銀色の髪を持つその女性の名は、”()500”。そう、ろーちゃんである。

 

「Jawohl, Herr Kaleun*2

Ruder, Hart Backbord*3! Noeure Kurs, zwei fünf fünf*4! Ein tritten voraus*5!」

 

 先ほど「奴を仕留めたぞ」と煽っておきながらそのすぐ後に「静かにせいっ!」と怒鳴った副長妖精が、ドイツ語で命令を復唱する。

 ジリリン、ジリリンとエンジンテレグラフがベルを鳴らし、艦内に響く機関音が僅かに高まる。スクリューがゆっくりと回転を始め、潜水艦「呂500」は静かに動き出した。レイフォリア軍港の出入り口に向け、忍者のように静かに近付いていく。

 

 実は、さっき海中から飛び出したロケット弾を撃ったのは「呂500」である。潜航したまま白昼堂々とレイフォリア軍港に侵入し、独立第一飛行隊から提供された航空写真とソナーで拾った敵艦のスクリュー音だけを頼りに、航海長妖精のカンだけで港湾施設に接近した。そして、素早く潜望鏡を出して大雑把に建物の位置と距離を把握した後、カンだけで設定したデタラメな照準で「WG42」を水中からぶっ放したのである。

 この「WG42」は、水中発射が可能な対艦・対地ロケットランチャーだ。弾の推進装置にロケットモーターを使用しており、空気を必要としないため、潜航したままでの発射が可能なのである。ちなみに元々は陸軍が使用したロケット砲「30㎝ネーベルヴェルファー 42」を艦載化したものである。

 今回の作戦では、「呂500」はいつも装備している10.5㎝単装砲を外し、そこに「WG42」を搭載している。艦のバランスを保つため、前部甲板に三連装発射器4基、後部甲板に三連装発射器2基を設置し、右舷方向に18発のロケット弾をまとめてばら撒く計画であった。

 そのついでに、停泊していた軍艦に向けて「41式魔導酸素魚雷改二」…磁気信管持ちの魔導酸素魚雷を叩き込み、見事に2隻撃沈の大戦果を挙げていた。

 

 元々の作戦目標が「レイフォリア方面での敵艦隊残存戦力及び輸送船団の撃滅」であるとはいえ、何故敵の拠点に真っ昼間から侵入するなんて大胆な作戦にしたのかというと、ろーちゃん曰く、

 

「偉大なU bootの艦長さんの中には、単身スカパー・フローに潜入して戦艦を沈めた方や、白昼堂々ドーバー港を襲ったという方もいますって。なら、ろーちゃんにもできないことはないって!」

 

 だそうである。

 

 ちなみに、レイフォリア軍港は当然ながら警備が厳しく、港口には防潜網が仕掛けられ、潜水艦の侵入を阻んでいた。しかし、防潜毛カッター(防潜「網」ではなく「毛」。カ級やソ級といった(しん)(かい)(せい)(かん)の潜水艦は、その長い髪の毛を防潜網の代わりに使っているのだ)を装備する”呂500”にとっては、ちょちょいのちょいで対処できてしまったのである。

 

 ところで……かの「雪風」ほどではないにせよ、様々な作戦に参加しながらも大戦終了まで生き残ったことから、「呂500」は強運の艦だとされている。それがここでも発揮された。

 デタラメな照準で撃ったにも関わらず、彼女が発射したロケット弾はなんと司令室を直撃し、執務中だった基地司令ごと吹っ飛ばしてしまったのである。偶然とはいえこれはかなりの戦果であるが、”呂500”自身も妖精たちもそんなことはつゆ知らなかった。当然である、潜っていたのだから。

 だが、潜航していたために外の様子を確認できなかったのは、別の効果ももたらしていた。

 どうやら”呂500”の「きょううん」は、強運の他に「凶運」をも招いてしまったらしい。彼女が撃ったロケット弾のうち3発が狙いを外れて建物を飛び越し、軍港の周囲に集まっていたグラ・バルカス帝国の一般市民(当然民間人である)の群衆に直撃。結果として民間人に100人近い死傷者を出してしまったのだが、そのことも”呂500”と妖精たちは知らなかったのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方その頃、イルネティア島沖合にて。

 

「艦長、第3回新型艦上・陸上戦闘機開発検討会議の議事録の提出に上がりました」

「了解、ありがとね」

 

 副長妖精から議事録を受け取り、”(くし)()”はさっきまで読んでいた設計図を一旦置いて議事録を開く。

 そこには、要約するとこんな感じのことが書かれていた。

 

《最優先開発事項》

・新型艦上戦闘機として、「現用戦闘機の改修」と「新型機開発」の2手法を以て開発を行う。

・現用戦闘機である「(れっ)(ぷう)一一型」を、「二十試甲戦闘機」の計画を元に改修する。機体全体の形状はそのままにエンジンを交換するため、機体の仮名称を「烈風一二型」と設定する。最高時速は高度5,800メートルで657㎞となる予定である。半年以内の実用化を目指す。

・新型艦上戦闘機として、仮称「(じん)(ぷう)」の製造を検討する。こちらの機体は一から新規に作ることになるため、試作機の完成までに1年、実用化にさらに半年〜1年の時間を見込む。

 

・新型陸上戦闘機のうち、「一式戦闘機 (はやぶさ)」「三式戦闘機 ()(えん)」を代替する機体として「タンクTa152」を設定する。敵に超重爆撃機が存在することが判明したため、高高度迎撃機型を最優先で開発し、その後制空戦闘型を開発する。試作機完成を1年以内に行うこととする。

・戦闘爆撃機として使える「()(でん)(かい)()」を、「F4U-1D コルセア」の設計を元に近代化改修する。その際、ロケット弾の運用を可能にすることは必須である。9ヶ月での改修機の試作を目指す。

 

《余裕を見て順次進める事項》

・高高度迎撃用ロケット戦闘機「Me163B改 コメート」を改良型に更新する。改良型である仮称「Me263」は、機体に引き込み式着陸脚を採用することで、飛行場滑走路の特別工事の必要性を削除し工兵隊の負担を軽減することとする。

・新世代の艦上攻撃機として、「A-1 スカイレイダー」の実用化を目指す。こちらは完成に2年を見込む。

・ステルス技術の基礎的研究を行う。

・新型ジェット戦闘機として、「F-4 ファントム」の実用化を目指す。

・上記のジェット機実装に対応して、空母艦娘の艤装を改修する。必須事項はカタパルト(磁気式又は蒸気式)の実装、アングルドデッキの設置、機関のガスタービン等への交換とする。

 

「やれやれ、仕事が終わらないわねぇ……。ま、お金については後でまとめて提督にツケるとしましょう」

 

 呆れたように呟く”釧路”。

 ちなみに彼女が直前まで見ていた設計図には、履帯を持つ装甲戦闘車輌が描かれており、そのタイトルにはこうあった。

 

「次世代用新型装甲車の開発案: BMP-1」

*1
魚雷命中

*2
了解、大尉殿

*3
舵、取舵いっぱい

*4
新針路255度

*5
微速前進




というわけで、ダラスが見たレイフォリア軍港での爆発の正体は、潜水艦「呂500」によるロケット攻撃でした。久しぶりの「WG42」の活躍です。
そしてタイトルの「きょううん」が何を意味するか、もうお分かりでしょう。そう、「強運」と「凶運」です。
任務上仕方のない部分はあるでしょうし、今回は間が悪すぎたとはいえ、以前の客船「ツ・マージ」への雷撃といい今回といい、どうもろーちゃんは意図しないところで民間人を攻撃に巻き込みがちな気がする……

あと、ろーちゃんの言う「偉大なU bootの艦長さん」とは、次のお二方です。

「単身スカパー・フローに潜入して戦艦を沈めた方」→ギュンター・プリーン氏。U-47の艦長で、実在した人物。たった1隻でイギリス海軍の根拠地スカパー・フローに潜入し、戦艦「ロイヤル・オーク」を雷撃で撃沈した。

「白昼堂々ドーバー港を襲ったという方」→如月千早氏。U-765の艦長。ラジオ放送で英軍将校の1人に侮辱されたことを理由として、真っ昼間にドーバー港を襲撃し、商船4隻と軍艦1隻を撃沈した挙句港湾機能を麻痺させた。ちなみにお察しの通り実在した人物ではなく、「サイレントハンター」シリーズの実況動画に登場する方である。なんでろーちゃんがそんな人を知ってるんだ、というツッコミは無しで。


そして戦車のついでに装甲車の近代化もスタートしました。これ、そのうちガンタンクとかも採用されそうですね…


評価10をくださいましたイーグル様、ありがとうございます!!


次回予告。

ついにムー大陸西部沿岸部の制海権が取り返され、旧レイフォル領を中心とするグラ・バルカス帝国の勢力圏は孤立した。この機を逃さず、ムー国を中心とする第二文明圏連合軍は、ムー大陸陸上における総反攻作戦の発動を計画する……!
次回「総反攻作戦、発動準備!」

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