鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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イルネティア戦役の後日談、その最後の1ページです。
これ以降、しばらく物語の舞台がムー大陸から離れます。



175. 総反攻作戦、発動準備!

 中央暦1643年7月15日、第二文明圏列強ムー国 首都オタハイト。

 戦時非常事態宣言が出され、戦時下にあるこの街は、今日も多くの人々が行き交っている。その人通りが平時に比べて減っているのも事実なのだが。

 買い物などに出かける客が減少する一方、急増しているのが軍事関連の出歩きだ。ムー国は列強国と認められて以降初めての国家総力戦体制に突入しており、予備役になっていた軍人に召集令状が出されたり、手空きの女性でも軍需工場に勤労動員がかかったりと、全国一致で戦争体制を敷いている。

 

 そんなオタハイトの一角にある、ムー統括軍総司令部。その一部を間借りする形で、第二文明圏連合軍の総司令部が設置されている。この第二文明圏連合軍は、グラ・バルカス帝国に抵抗する各国の軍が連合することで編成された多国籍軍だ。第二文明圏の内外各国と、大東洋共栄圏の参加各国がその構成国となっている。

 実際にムー大陸に兵力を展開している国は、以下の通りである。

 

・ムー国

・ニグラート連合

・マギカライヒ共同体

・ソナル王国

・ロデニウス連合王国

・トーパ王国

 

 また、実働兵力こそないものの、イルネティア王国正統政府と自由ヒノマワリ王国政府もムー大陸にいた。イルネティア王国正統政府は、故イルティス13世の第一皇子エイテスとその側役ビーリー侯を中心とし、自由ヒノマワリ王国政府は国外に脱出した第二王子ハルノミヤを中心として成り立っていた。

 

 その第二文明圏連合軍総司令部、会議室には多数の人間が集まっている。いずれもこの連合軍に参加している各国陸軍の代表者ばかりであり、いわゆる指揮官クラスの人間ばかりだった。それらの人間は全員が男性だったが……1人だけ、女性が混じっていた。幽霊、もしくはアルビノかと錯覚するほどに白い肌を持ち、カーキ色の国防服に身を包んだ女性である。そして周囲にいる軍人たちの視線は先ほどから、彼女の肩の下10㎝ばかりのところに行きかけては引き戻されることを延々と繰り返していた。……全く自重せずに存在を主張しまくっている、彼女の2つの膨らみのせいで。

 

(び、微妙に居づらいであります……)

 

 その女性、ロデニウス連合王国陸軍第13軍団指揮官代理(なお肩書は「代理」だが、実質的に指揮官である)の“あきつ丸”もまた、周囲の視線によって居心地の悪さを感じていた。

 そんな中、会議開始の時間となり、ムー統括陸軍総司令官であるタクト・マッケンジー大将が前に立ち、マイクを通して声を上げる。

 

「各国軍の皆様、今日は朝早くからお集まりいただきまして、ありがとうございます。

今回皆様にお集まりいただいたのは、他でもありません、ムー大陸内に展開しているグラ・バルカス帝国勢力に対する総反攻作戦についてです」

 

 その一言だけで、会議室内の雰囲気がぴーんと張り詰めたように感じられた。

 ムー大陸に住まう者でグラ・バルカス帝国の名を知らぬ者は、今やいないに等しいといっても過言ではない。大人はもちろん、子供であっても何らかの形でその名を知っているのである。何故なら彼らこそ、グラ・バルカス帝国の侵略の矢面に立たされているからだ。

 突如として表舞台に姿を現したこの国は、アストラル王国をはじめ第二文明圏外西側の文明圏外国を次々と併呑した後、国交の開設を求めて第二文明圏に接触してきた。しかし、散々軽くあしらわれた上にパガンダ王国にて自国の皇族を公開処刑され、激昂して武力侵略に走った。その結果、当のパガンダ王国を7日間で完全に滅亡させ、さらには列強国の末席を占めていたレイフォル国をもわずか5日で降伏させたことから、この世界の諸国家を一気に軽視し始める。そして世界征服欲を出して、周囲の国家を片っ端から武力で制圧、あるいは威圧して降らせていた。その征服欲に際限はなく、しかも上位列強ムー国ですら対抗が難しいほどの軍事力があったため、ムー大陸の諸国家はグラ・バルカス帝国の脅威に怯えていたのである。

 その国に対する反攻作戦となれば、緊張するのも無理のない話であった。

 

「グラ・バルカス帝国が手強い国家であることは、今さら語るまでもありません。しかし、我々ムー統括軍を含む皆様方は、その帝国に対して幾度かの勝利を得ました。

今年2月の第一次バルチスタ沖大海戦の裏で、敵は我が国の都市オタハイトとマイカルを狙って艦隊を差し向けましたが、我が国はロデニウス連合王国と連携してこれを撃滅しました。また、5月には皆様方と連携して敵の前線基地を陥落させる快挙を成し遂げました。この時の成功は、皆様方にとっても自信に繋がったものと大いに確信しております」

 

 マッケンジーがそう言うと、参加者の間から同意の呟きが沸き起こった。

 

「そして先月、6月1日、堺殿率いるロデニウス連合王国海軍第13艦隊は、第二次バルチスタ沖大海戦と称する戦いに挑み、激戦の末にグラ・バルカス帝国の主力艦隊を打ち破った。第一次バルチスタ沖大海戦において世界連合艦隊がほとんど被害を与えることができず、神聖ミリシアル帝国の主力艦隊ですら痛み分けに終わった強力な敵艦隊を、撃滅することに成功したのだ。

そして彼の率いた艦隊は余勢を駆ってパガンダ島に攻撃をかけ、陸軍の揚陸によってこれを占領してしまった。同時期に我が国もイルネティア島に軍を送り、グラ・バルカス帝国軍と戦った末に同島の解放を成し遂げました」

 

 マッケンジーはここで一旦言葉を切った。参加者の間から、発言を求めて挙手があったからだ。

 その相手、イルネティア王家第一皇子エイテスは発言許可を受け、起立して口を開く。

 

「我が祖国の解放のために戦って下さったばかりか、解放まで成し遂げるとは…感謝の申しようもありません。マッケンジー殿、我が国の民を代表して、お礼を言わせてください。本当に、ありがとうございます」

 

 頭を下げるエイテスに、マッケンジーは慌ててコメントする。

 

「いえいえエイテス殿下、お礼なら堺殿にお願いいたします。確かに我が軍はイルネティア島を解放しましたが、堺殿率いるロデニウス第13艦隊やロデニウス軍第3海兵師団の側面援護がなければ、解放は非常に困難どころか不可能ですらあったかもしれないのです。グラ・バルカス帝国の主力艦隊を撃破してくださったことといい、真にお礼を述べるべきは彼であると愚考いたします」

「それは確かにそうです。ですがマッケンジー殿、私としては貴方にもお礼を言いたかったのですよ。我が祖国の解放の先頭に立っているのは、貴方の軍なのですから」

「そういうことでしたら、ありがたくお受けいたします。もったいないお言葉、ありがとうございます」

 

 エイテスからのお礼を受けた後、マッケンジーは説明口調に変わって話を続ける。

 

「さて、ここからが本題です。グラ・バルカス帝国の主力艦隊を撃破し、パガンダ島・イルネティア島解放も完了した今、ムー大陸周辺の制海権は我々の手元に戻りつつあると言える、と統括軍総司令部では分析しております。換言すれば、今ムー大陸に展開しているグラ・バルカス帝国の勢力は、本国へ向かう海路・空路を断たれており、補給物資などを本国から運び込むのが難しくなっています。

そこでこれを好機として、第二文明圏の主要全国家並びに大東洋防衛軍は一致団結してグラ・バルカス帝国の勢力と戦い、ムー大陸からこれを追放する作戦を実施したいと考えております」

 

 この言葉に、参加者の席のどこからともなく拍手の音が沸き起こった。それは瞬く間に会議室内全域に(でん)()し、室内を包む拍手となる。今こそグラ・バルカス追放すべし、という考え方に誰もが賛同しているかのようだ。室内の雰囲気も加熱しつつある。

 

「これに際してですが、ロデニウス連合王国の方から非常に参考になる作戦案が提案されました。私はこの席上においてそれを披露し、皆様からの意見を求めたいと思うものであります。皆様には忌憚のない意見交換を望みます」

 

 マッケンジーはこう締めくくり、壇を降りた。その彼に代わって壇に上がったのは”あきつ丸”である。

 実は、このムー大陸解放作戦案は堺が考えたものである。だが、彼は「ユーラヌス作戦」の後片付けをしなければならず、会議に出ることができなかったため、代わりに彼女が発表することになったのである。

 

「それではこの私、ろでにうす連合王国陸軍第13軍団指揮官代理のアキから、むー大陸解放作戦案について発表するであります」

 

 大勢の人間の前であるにも関わらず、全く臆した様子も見せずに落ち着いた口調で説明に入る“あきつ丸”。

 なお、彼女は横文字(つまり外来語)が苦手であるので、ここから先の彼女の発言では、彼女の横文字発音のたどたどしさを「むー大陸」のようなひらがな使用で表現している。また、「アキ」という偽名を使用している。

 

「まず、この作戦案ですが、私ではなく提督殿…つまり、第13艦隊の堺提督が発案した作戦でありますことを、先に説明しておきたいと思います。

提督殿は以前からぐら・ばるかす帝国を危険視しており、かの国と戦争になった場合を想定して準備を進めておられました。例を挙げますと、我々の国からむー国へはいくつもの装備が供給されていますが、それらは全て補給を考えた態勢になっております。例えば我が軍のIV号戦車とIII号突撃砲、それにむー国のしゃーまん…失礼、ら・しまん戦車の主砲は全く同じ48口径75㎜砲であり、弾薬規格の共通化が図られております。小銃や機関銃についても同じようになっております。

このように、かの国との戦争を想定しておられた提督殿は、作戦計画もいくつか立てておいででした。そして、今回の状況に似た作戦案がたまたま1つございますので、それを紹介したいと愚考するであります」

 

 ここまで説明した“あきつ丸”は、「では失礼して、そちらの黒板をお借りするであります」と言って丸めた厚紙のようなものを取り出した。それを見た参加者たちは、てっきり作戦案が書かれた資料を貼るのだろう、と考えたものである。

 ところが、広げられた紙にはそのようなものは全く書かれておらず、代わりに画面のようなものが現れただけだった。

 

「アキ殿、それはいったい何でしょうか?」

「ああ、これですか? てれびであります」

 

 ムー統括陸軍第1軍司令官アスティア・モンドルキリ中将の質問に、さらりと答える“あきつ丸”。さも当然のように答えた彼女だが、それを聴いたムー国人たちは凄まじい衝撃を受けた。

 

(((これが、ロデニウスのテレビ!? そんな馬鹿な!!)))

 

 ムー国にもテレビはあるが、それは箱形の大きな図体に小さな画面が付いたものであり、部屋の一角を占領してしまうような大きさなのだ。間違っても、壁にかけるなんてことはできない。

 ところが、今目の前にある「テレビ」はどうだ? まず非常に小さい。ムーのテレビに比べたら、100分の1未満の大きさしかない。次に、非常に薄い。紙…とは言わないまでも、厚紙を数枚束ねた程度の薄さしかないのだ。テレビをここまで薄くできるとはとても思えないが…それは今、目の前に存在している。そして何より、軽い。壁にかけられるテレビなんて、ムーでも聴いたことがないのだ。だというのに、今目の前にあるテレビは黒板に貼り付けられており、その軽さを窺わせている。

 テレビ1つでも、ここまで差があるのか…そう思わずにはいられないムー人たちであった。

 

 なお、これは堺がタウイタウイ泊地から持ってきたものであり、西暦2190年型のテレビである。なので、タウイタウイ泊地が転移した当時の西暦2199年の地球ではほぼ10年前のモデルであり、型落ちのオンボロ品である。

 

「その作戦でありますが……」

 

 テレビを起動し、ムー大陸の地図が画面に映し出されたところで、“あきつ丸”が説明を再開する。(((か、カラーテレビ……しかも電源内蔵だと……)))とさらに衝撃を受けながらも、ムー人たちも含めて全ての参加者が、彼女の言葉の続きを聴いていた。

 

「まず作戦名は、『ばぐらちお作戦』であります」

 

 そう、以前にちらりとお見せした作戦計画書のネーミングを、皆様は覚えておいでだろうか? あの時は前2文字が見えなくなっており、「◯◯ラチオ作戦」としか読めない状態だった。そして今、◯◯のところに入る2文字が「バグ」であることが分かったのである。

 もちろん、このネーミングには元ネタがある。第二次世界大戦においてソ連が行った対ドイツ反攻作戦「バグラチオン作戦」だ。詳細は各自でググってほしい。堺は、ムー大陸における多方面総反攻がソ連の動きに似ていると感じ、この作戦名を頂いたのである。

 …フェ◯チオだと思った? 残念、バグラチオでした! フェラ◯オとか思っていた変態紳士諸君は、同志スターリンの命によりシベリア送りに処する!

 

「本作戦は、主に3方面からかの国の勢力圏に攻め込み、これを切り崩していく作戦であります。こちらの画面をご覧ください」

 

 若干慣れない手つきながら、“あきつ丸”が手元のリモコンを操作する。すると、ムー大陸西部にある旧レイフォル国に向かって、3本の赤い太い矢印が伸びた。ムー大陸の北回りで1本、ムー国からヒノマワリ王国を突っ切ってレイフォルへ向かう矢印が1本、そして南部のニグラート連合やマギカライヒ共同体、ソナル王国方面から伸びる矢印が1本である。

 

「ご覧の通り、むー大陸の北部・中部・南部の3方面から旧れいふぉる領を目指す、というものになります。最終目的地は旧れいふぉる国の首都にして、今やぐら・ばるかす帝国の窓口となっている都市れいふぉりあであります」

 

 地図上、矢印が進む先に赤い点が現れ、「レイフォリア」と地名が記される。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そして、むー統括軍の皆様との協議の結果、それぞれの方面を担当する軍の割り当ては以下のようにすると良いのではないか、という推論に至っております」

 

 3つの矢印に、上から順に1、2、3と数字が付いた。そしてテレビの隣の空いたスペースに、“あきつ丸”が資料を貼っていく。

 

1. 北方軍集団

ムー統括陸軍第1軍

同第1打撃機甲軍

ロデニウス連合王国陸軍第11戦略航空爆撃団

同海軍第11航空艦隊

 

2. 中央軍集団

ムー統括陸軍第2軍

ロデニウス連合王国陸軍第1軍団

同陸軍第12戦略航空爆撃団

同海軍第12航空艦隊

 

3. 南方軍集団

神聖ミリシアル帝国陸軍第2・第3師団及び第2機甲旅団

ニグラート連合陸軍・竜騎士団

マギカライヒ陸上隊

ソナル王国陸軍

トーパ王国陸軍狙撃部隊

ロデニウス連合王国陸軍第13軍団

同海軍第13・第14航空艦隊

同海軍飛行隊「ルーデル・グルッペ」

 

「担当は、以下のようにする予定であります」

 

 ざわめきの中、“あきつ丸”は続いて各軍集団の役割説明に入った。

 

「南方軍集団については、元々は敵の牽制がその役割でした。と言いますのも、敵の戦力は明らかに強大であり、各国の戦力・技術を考慮した結果、れいふぉりあへの進撃は困難と考えられたためであります。したがって、むー大陸解放の主たる役割は中央軍集団、及び北方軍集団が担うこととし、南方軍集団は敵に牽制をかけることで敵軍の兵力を引きつけることを目的としていました。

ですが、神聖みりしある帝国の陸軍が参加を要請してきたため、この南方軍集団に加わっていただくことで3方向からの進撃が可能となりました。

中央軍集団は、ええと…旧ひのまわり王国をまず解放し、それを橋頭堡としてれいふぉるへ攻め込む道を取ります。敵はひのまわり一帯を中心にしてむー侵攻の準備をしていたと見られており、そこに真正面から突っ込むことになるため、敵の抵抗が非常に激しいことが予想されます。従ってこの方面はむー統括陸軍第2軍の他に、我が国の陸軍第1軍団が主力を担い、機甲師団を活用して敵を一気に突破することを狙います。

北方軍集団は、いわば中央軍集団に対する別働隊であります。むー陸軍が新たに配備した装甲戦闘車輌を駆使し、中央軍集団に対応している敵の側面を破ってれいふぉるへ突進することが期待されております!」

 

 “あきつ丸”がそう言うと、参加者の間から手が挙がった。ムー陸軍第1打撃機甲軍の指揮官、ジョージア・パックス少将だ。

 

「我が第1打撃機甲軍は、貴国から情報や技術の提供を受けて作られた戦車や自走砲を主力とする部隊です。今回が初陣ですが、必ずや戦果を上げてみせましょう!」

「よろしくお願いするであります!」

 

 初陣とは思えないほど頼もしいパックスの言葉に、頭を下げる“あきつ丸”。

 ムー統括陸軍の第1打撃機甲軍は、その名前通り機甲師団の編成だ。主戦力は「ロ式42型30トン級戦車」…「ラ・シマン戦車」もとい「M4シャーマン中戦車」の他、「ロ式41型ガエタン75㎜自走砲」…「ラ・スタグ自走砲」こと「III号突撃砲F型」を使用している。数としては「ラ・シマン戦車」の方が多い。というのも、ムー人は高身長である場合が多く、車高の低い「ラ・スタグ自走砲」は窮屈に感じられて敬遠されたためだ。そして現在、ムー統括陸軍は新たな装甲戦闘車輌の開発を実施しようとしていた。

 ムー国内には現在、ロデニウス連合王国もムー政府から許可を得て工場を建設している。これは、グラ・バルカス帝国との戦争に向けて自国の軍の補給体制を整備するためだ。その一環として、IV号戦車H型やパンターG型改の製造ラインを設置していた。

 そのIV号戦車の車体にパンター改の主砲を搭載した車輌を、ムー陸軍は計画していたのだ。既に1輌を試作中であり、採用される際には「ロ式43型自走砲 ラ・ラング」の名が冠せられることも決定している。なお、この車輌の元ネタはドイツの「IV号駆逐戦車 ラング」だ。

 

「進撃の際には、なるべく敵の前線基地、ことに飛行場を確保しながら進むことが必要となります。機甲師団は航空機に弱く、敵機から身を守るには自軍の戦闘機を前線に進出させ、制空権を確保する必要があるからであります」

 

 “あきつ丸”がそう説明した時、モンドルキリが挙手した。

 ちなみに余談だが、モンドルキリはバルクルス基地攻略作戦「剣閃作戦」で指揮を執っていた人である。このため以前に一度ならずこの作品に登場している。

 

「ちょっと待っていただきたい。戦闘機の必要性は理解できたが、グラ・バルカス帝国の戦闘機は強敵だ。我が国の『アラル』は無論、『バミウダ』でも勝てるか怪しい。これについては、どうすれば良いのだ?」

 

 「アラル」はムー国産の「九六式艦上戦闘機」、「バミウダ」はムー国産の「F4F ワイルドキャット」戦闘機のことだ。ちなみにグラ・バルカス帝国の主力戦闘機であるアンタレス07式艦上戦闘機は、最高時速が550㎞に達するなど零戦に似た性能を有するため、「バミウダ」でも勝てるかどうかは不透明だ。

 ムー国は必死で「バミウダ」を量産しようとしているが、製造ラインを整えるには今少しの時間が必要である。それを踏まえ、モンドルキリはどうすれば良いのか聞こうとしたのだ。

 

「それに関しては、我が国の海軍基地航空隊や陸軍戦闘機隊が何とかするであります。また、貴国に我が海軍の戦闘機1種を提供し、既に民間企業の方で解析中だと伺っております。この戦闘機を活用していただきたいと愚考するものであります」

 

 彼女の言う「海軍の戦闘機1種」とは、「()(でん)(かい)()」のことである。最高時速644㎞、「アンタレス」にも負けない運動性、比較的高い防弾能力の他に機首13㎜機銃2丁、主翼20㎜機銃4丁と高い火力を有し、これならば「アンタレス」にも負けないと目されている。しかも、この上250㎏爆弾2発を抱えられるため、戦闘爆撃機としても運用が可能であり、対地襲撃能力もそこそこある。そのため、ロデニウス軍では海軍基地航空隊に配備され、戦闘爆撃機として運用されていた。

 この他に展開している航空戦力は、陸軍の戦闘機「三式戦 ()(えん)」や「一式戦 (はやぶさ)」、「Me163B改」、「B-29改」と「F-86D改」、そして海軍の「一式陸上攻撃機」の各型と零戦21型や52型、「(らい)(でん)」などである。

 

「おお、そうか! 貴国の戦闘機の支援があるのならば、これは百人力というものです!」

 

 どうやらモンドルキリにも希望が戻ってきたらしい。

 そこへ今度は別の手が挙がった。マギカライヒ陸上隊…つまりマギカライヒ共同体陸軍の将軍ルイジルだ。古の魔法帝国の生物兵器「リョノス」と交戦した指揮官(「136. バルーン平野の戦い」参照)である。

 

「我が軍はムー国から、いくばくかの技術支援を受けております。それを考慮し、我が軍の戦力を少し上方修正していただきたいと思います」

「むーからの技術支援でありますか。どのような技術の支援を受けておいででありますか?」

 

 “あきつ丸”が尋ねると、ルイジルは懐から紙を1枚取り出した。

 

「ええと…歩兵用の小銃に26型ガエタン70㎜歩兵砲、18型6.5㎜機関銃、それから戦闘機の『オクタール』(『マリン』の前世代機)と爆撃機の『ソードフィッシュ』。そして、ロ式41型ガエタン75㎜自走砲の提供を受けております」

「自走砲…でありますか?」

 

 マギカライヒ共同体の技術レベルからするとやけに近代的な装備が出てきたため、聞き間違いかと“あきつ丸”が首を傾げた。

 

「はい。ムー国の方からは、貴国の支援を受けて作られたものだと伺っております」

 

 ロデニウスの装備ならば間違いないだろう、とばかりにルイジルが胸を張る。そこでようやく、“あきつ丸”は気付いた。

 ムー国の機甲師団には、自国から伝わったIII号突撃砲と、にっくき米帝のシャーマン戦車が配備されている。ムーの人間は身長が高いことが多いから、車高が低く窮屈なIII号突撃砲は嫌われたのだろう。そして、余剰となったIII号突撃砲の一部が、マギカライヒ共同体に流れ込んでいるに違いない。科学機械文明に重きを置いているマギカライヒ共同体のことだ、そのIII号突撃砲を嬉々として導入し、自国の軍に配備しているのだろう。

 それに以前、"あきつ丸"はマギカライヒ陸上隊と合同演習を行った戦車第11連隊からの報告として、「III号突撃砲の導入が確認された」と聞いている。これで点と点が繋がった形だ。

 

 彼女の推測は正鵠を射ていた。マギカライヒ共同体はムー国の影響を強く受け、科学機械文明と魔法文明が融合した独自の文明を築いているが、比重としては科学機械文明に重きが置かれている。具体的には、ムー国が大陸内に建設した大陸縦断鉄道を積極的に引き込み、建設に関して資金援助や土地の提供を行う代わりに機関車や列車の構造を教えてもらう、旧式化したムー統括軍の装備の払い下げを受ける等だ。

 そして今回の敵であるグラ・バルカス帝国との戦いに備え、ムー国はある程度まとまった外貨を獲得しようと目論み、マギカライヒ共同体に対して旧式装備や一部主力装備の大規模払い下げを実施した。その中に、「ラ・スタグ自走砲」こと「ロ式41型ガエタン75㎜自走砲」が含まれていたのである。

 マギカライヒ共同体側も、新たな装備の流入を喜んで受け入れたため、結構な数のムー製装備がマギカライヒ共同体に流れ込んだ。その中でも、特に気に入られたのが「ロ式41型ガエタン75㎜自走砲」…もとい「III号突撃砲」である。

 この自走砲が装備する48口径75㎜砲は、それまでマギカライヒ陸上隊が使用していた野戦砲とは桁違いの性能を持っていた。従来の科学融合型野戦用魔導砲にも劣らない威力を有し、ライフリングが刻まれているおかげで特に遠距離射撃の命中率が高いし、何より発射時初速が速いので、砲弾の形状も相俟って硬いものでも容易に撃ち抜ける。そして自走砲なので、馬などで牽引する必要がある科学融合型野戦用魔導砲よりも取り回しが良く、悪路でも走破できる。マギカライヒ共同体にとっては夢のような高性能砲であり、首都防衛部を中心に陸上隊は本装備を多数導入していた。…導入・維持コストの高さと、整備の複雑さが欠点だが。

 

(III号突撃砲のことを言っているのでありましょうな…。どのくらいの数を投入できるのやら)

 

 そう考えた“あきつ丸”は、将軍に質問する。

 

「その自走砲ですが、どのくらいの数を前線に投入できますか?」

「我が国の陸上隊総司令部では、既に合計して200輌近くを導入しております。このうち、前線に投入できるのはおよそ60輌というところです」

 

 答えを聴いた“あきつ丸”は、即座に計算した。

 

(自走砲とはいえ60輌……第13軍団機甲部隊とみりしある陸軍の動き次第では、逆進攻も可能でありますな)

 

 第13軍団の機甲部隊は、戦車第11連隊と第13装甲師団、及び第888重戦車小隊が中心となっている。

 戦車第11連隊はいわゆる「士魂部隊」であり、九七式中戦車チハの旧砲塔型19輌、同新砲塔型20輌、それに九五式軽戦車ハ号25輌を装備している。なお、この部隊は現在イルネティア島に展開しているが、残敵掃討が完了次第撤収し、こちらに合流する予定である。

 第13装甲師団は陸戦妖精“ハインツ・グデーリアン”指揮する部隊であり、IV号戦車H型とパンターG型改を3対1くらいの比で装備している。主力戦車の数はIV号・パンター合わせて約120輌と決して多くはないが、指揮官の能力もあって非常に攻撃力の高い部隊である。また、その他の戦闘車輌として「IV号突撃戦車 ブルムベア改」20輌と、新型の対空車輌「クーゲルブリッツ対空戦車」を配備し、防空態勢も十分かもしれない。

 そして第888重戦車小隊は、配備している車輌数はたった10輌しかないものの、その全てが「VI号戦車E型 ティーガーI」である。しかもこの部隊は“ミハエル・ヴィットマン”、“クルト・クニスペル”とエースを2人も抱えており、攻撃力は並の戦車部隊の比ではない。決戦の際には大いに暴れてくれるだろうことが想像できる部隊である。

 

「承知いたしました。60輌を投入できるなら、戦闘能力は十分と考えます。まぎからいひ陸上隊の戦力を上方修正させていただくであります」

「おお、左様でございますか! 恐縮であります。ですが、ロ式41型ガエタン75㎜自走砲は特にエンジンの機構が複雑であり、整備や修理に難がある状態です。できれば、手を差し伸べていただけるとありがたく存じます」

「承知しました。ではそこは持ちつ持たれつということで、よろしくお願いするであります」

「おお…感謝の言葉も見つかりません! 本当に、ありがとうございます!」

 

 実際、ムー国でも若干持て余していた節があるくらいなのだから、マギカライヒ共同体の技術レベルにしてみれば、III号突撃砲の運用はかなりのリスクを伴うだろう。連携しなければ、十全の運用は難しいはずだ。

 “あきつ丸”は、「以上で説明を終了するであります」と宣言した。彼女に代わって、再びマッケンジーが壇上に姿を見せる。

 

「えーアキ殿、ご説明ありがとうございました。皆様ご覧になっての通り、この作戦案は非常に大掛かりなものであり、各国同士の連携が重要となります。お互いの連絡を密にして、緊密な連携措置を取っていただきたいと思います。

他に何か、報告や質問などおありの方はいらっしゃいますか?」

 

 するとさっそく手が挙がった。自由ヒノマワリ王国の代表である、第二王子ハルノミヤだ。

 

「自由ヒノマワリ王国から報告です。我が国は兵力こそ無きに等しいですが、それでも皆様のお役に立ちたいと思いまして、グラ・バルカス帝国に降った祖国に対してスパイを送り込み、状況調査を行っております。

スパイからの報告によれば、グラ・バルカス帝国は祖国の民に対して衣食住の保証はしてくれてはいるものの、ほとんど最低限しか保証していないようなものであり、レイフォル国の属国だった頃と何ら変わらないような状態だ、とのことです。また、グラ・バルカス人の横暴は日常茶飯事であり、特に本国からの入植者らしき者たちの行為は目に余るものがあるそうです。もともと住んでいた民を追い出して土地を勝手に所有し、何やら農作物を栽培したり、工場らしきものを建てたりしてそこで祖国の民を奴隷同然に酷使している、とのことであり、スパイからの魔写もそれを裏付けています」

 

 報告を聴きながら、“あきつ丸”は考えていた。

 

(まさに植民地でありますな)

 

 地球においても、植民地支配は20世紀までは当然のように行われていた。地元民を追い出して巨大なプランテーション農園を作り、ゴムやパームヤシなどの単一栽培を行ったり、強制労働を課したりするのは当たり前だったものである。

 

「もちろん、こうした行動には民の反感が高まっておりますが…グラ・バルカス帝国は、それを力で押さえつけている状態です」

 

 ハルノミヤの報告の声で、彼女は現実に引き戻された。

 

「スパイからの報告では、彼らは『本国軍』とか『警備部隊』とか称する武装兵の集団を植民地に駐留させ、治安維持に当たらせている模様です。これらの兵の中には、虐殺や公開処刑を公然と行う輩もいるそうで…祖国の民は怯えながら従うか、死を覚悟して反抗するかの2択となっております」

(てんで駄目でありますな。植民地の支配体制がなっていないであります。提督殿の仰る通り、()()()()()()()()()()()()()()()()でありますな)

 

 “あきつ丸”の、そして堺の考えも無理のないことだろう。これでは、植民地経営の安定など到底図れない。1年や2年、あるいは5年程度の短期的な経営なら黒字になり得るかもしれないが、50年以上の中〜長期的なスパンで見れば、地球の事例から見る限り100%の確率で、経営が大赤字になる。

 果たしてグラ・バルカス帝国は、そのことに気付いているのだろうか…? いや、気付いている訳がない。

 

「現在、ヒノマワリ王国内での対グラ・バルカス反抗組織は、スパイが把握した限り3つはあります。これ以外にも水面下に潜んでいる組織が多くある模様です。おそらく他の植民地でも似たような状態でしょう。グラ・バルカス帝国との戦いの際には、これも生かすべきかもしれません」

(良い御判断であります、はるのみや殿下)

 

 “あきつ丸”がそう考えていると、これまで黙っていたムー統括陸軍第2軍司令官のジェイク・アイゼンハウアー中将が声を上げた。

 

「我がムーでも、旧レイフォル国に密偵を放って情報を集めておりますが、こちらではグラ・バルカス帝国の横暴がひどいらしく、各地で武装した一般人による反乱がぽつぽつと起きている、とのことです。グラ・バルカス帝国に対する反感は相当のものであると分析されます。それを上手く衝けば、グラ・バルカス帝国の支配を足元から崩すこともできるかもしれません」

 

 さらに、ソナル王国の代表からも手が挙がった。

 

「我が王国がレイフォル南部に向かわせたスパイからも、同種の報告が入っております。グラ・バルカス帝国に対するレイフォル人の感情は、非常に悪いと言って良いでしょう」

(こりゃ、「永遠の繁栄」どころか足元から空中分解するでありますな。大英帝国の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいであります)

 

 先進11ヶ国会議やフォーク海峡海戦の捕虜処刑放送におけるシエリアの宣言を引用し、“あきつ丸”は皮肉な笑いを浮かべた。そして質問を投げる。

 

「1つ気になりましたので伺いたいであります。それらの対愚帝組織とこちらとの間には、連絡網はあるのでありますか?」

「それでしたら、我々は十分に築き上げております。何しろつい先だってまで同じ国民だったのです。それくらいはお安い御用ですよ」

 

 さも当然とばかりにハルノミヤが答えると、今度はマッケンジーが頷いた。

 

「我が国とレイフォルは、かつては敵同士でしたが、今は怨讐を超えて対グラ・バルカス帝国で一致しております。中央暦1640年以来、我が国でもレイフォルの民と接触を図り、水面下に潜む反グ帝グループの幾つかと連絡網を建設しました。相互通信も可能です」

 

 それを聞いた“あきつ丸”は笑顔で答えた。

 

「承知致しました。それでは、我々の進撃に合わせて暗号化した情報を流し、決起を促したりするのもありですな。あるいは、てれびやらじおの放送を駆使して、暗号を一気に流してむー大陸全土での抵抗運動を惹起するなどもできそうであります」

「なるほど、こちらから手引きして奴らの足元を崩そうということですか」

「左様であります」

 

 “あきつ丸”が頷いたことで、マッケンジーも悪い笑いを浮かべる。そこへ、アイゼンハウアーが挙手した。

 

「ロデニウスの方にお伺いしたいことがございます。

先の敵前線基地攻撃において、貴国は『ロケット兵器』なる新兵器を使用なさったそうですね。この作戦では、それらの投入予定はありますか?」

 

 この質問に、“あきつ丸”は慎重に言葉を選びながら答えた。

 

「おそらく使用する局面はあると思われます。ただ、それを運用するには、大掛かりな設備の建設が必要になります故、簡単には運用できないであります。そのことはご理解いただきたいであります」

 

 この「ロケット兵器」とは、ロデニウス製の攻撃用弾道ロケット「RV-1ロケット(フィーゼラーFi103改)」と「RV-2ロケット(A4改)」のことだ。バルクルス基地攻撃の際に初めて実戦投入され、見事な戦果を上げたことは、まだ記憶に新しかった。

 なお、これらのロケットは“釧路"さえいればあっさり作ってしまえるし、発射台も彼女なら比較的短期間で建設できる。…“釧路”の忙しさが大変なことになるが。

 

「ふむ、承知しました。貴国には何度もお世話になっておりますが、今度もまた、よろしくお願い申し上げます」

「いえいえこちらこそ、この大陸で十全に戦うには、この大陸の地理や国家情勢などに詳しい皆様のご協力が必要です。こちらこそ、よろしくお願い申し上げたいであります」

 

 この会話を聞いていたマッケンジーが、場を締めくくるように宣言した。

 

「そう、彼らの言う通りです。我々はムー大陸の情勢や地理に明るく、大東洋防衛軍には素晴らしい装備がある。全員で一致団結し、最後まで戦い抜き、まずはグラ・バルカス帝国の勢力をムー大陸から追い出しましょう!

最後に、この場をもちましてグラ・バルカス帝国相手に最後まで戦う、という誓いを立てたいと思います。アキ殿、確かロデニウスにはいい方法があるんでしたよね。ええと、イッポン…ナントカ?という方法で…」

「一本締め、のことでありますか?」

「そう、それです。それをやりたいと思いますので、アキ殿、申し訳ありませんがお手本をお見せいただきたい」

「承知しました。それではこちらをご覧ください」

 

 マッケンジーに話を振られ、“あきつ丸”は参加者全員の注意を集めると、説明を開始した。

 

「一本締めの方法は、至って簡単です。かけ声の後に、三・三・四の拍子で手を叩くだけであります。手本をお見せしますので、よくご覧いただきたいであります。

では行きますよ……よーぉっ!」

 

 そしてある一定のリズムで手を叩いてみせた“あきつ丸”に、参加者から拍手が起こった。

 

「アキ殿、ありがとうございました。

それでは皆様、お手を拝借!」

 

 マッケンジーが音頭を取り、全員が手を構える。そしてマッケンジーは、厳かに告げた。

 

「我々、第二文明圏連合軍は、まずムー大陸からグラ・バルカス帝国の勢力を排除し、そして彼らを降伏させこの戦争を終結させるその時まで、一致団結し、最後まで戦い抜くことを、ここに誓います!

せーの!」

 

 そして全員がぴたりと一致したリズムで手を叩き、見事に一本締めを成功させた。

 

「では皆々様、今後ともよろしくお願い申し上げます! 以上をもちまして、本会議を解散させていただきます。

最後に、現在作戦行動中の我が海軍の諸将には、私から反攻作戦のことを伝えておきます。また、アキ殿、この場にいない堺殿にも、よろしくお伝えいただきたいです」

「承知しました、しかとお伝えするであります!」

 

 こうして、第二文明圏の各国と大東洋共栄圏の各国は連携し、「バグラチオ作戦」を採用、グラ・バルカス帝国と戦い抜くことをここに決断したのであった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、ムー国南部に設置された強制収容所。

 本来この施設は刑務所であったが、戦争勃発に伴って強制収容所にされていた。そこに、第二次バルチスタ沖大海戦で乗艦や乗機を撃沈・撃墜され、捕虜となったグラ・バルカス帝国海軍の将兵や、ドーソン基地やバルクルス基地を巡る戦いで捕虜となったグラ・バルカス帝国陸軍の将兵が収容されている。

 その強制収容所の一室で、元東部方面艦隊司令長官カイザル・ローランドは深刻な考えに囚われ、寝床となっているハンモックに腰を降ろして悩んでいた。

 

(まずい…まずすぎる…!)

 

 何を考えていたのかというと、

 

(我が友…ミレケネスやラクスタルの命が、危ない…!)

 

 戦友の心配であった。

 何故彼がこんなことを気にしていたのかというと、その訳は1ヶ月以上前に(さかのぼ)る。

 

 

 それは、6月4日のことだった。

 いよいよ身柄をニグラート連合に引き渡される直前、堺がカイザルの元を訪ねてきたのである。まだ傷が完全に()えたとは言えず、包帯を全身に巻いてベッドに横たわったままのカイザルに、彼はこう話したのだ。

 

「ニグラート連合、そして第二文明圏の方にはお話を通しておきました。閣下ご自身と閣下の部下の皆様は命と安全を保障され、拷問なども一切行わない、尋問でも自白を強要されることはないとのことです」

「そうか…。サカイ殿、済まない。手を(わずら)わせてしまった」

「いえいえ、閣下がお気になさることはございませぬ」

 

 敵だったことや仲間を処刑したことなど関係無しに、この若者は自分と部下たちのために行動してくれたのだ。そのことに感銘を受けたカイザルは、彼にあることを教えることにした。

 

「サカイ殿、礼と言っては何だが、1つお教えしたいことがあるのだが」

「はい、何でしょうか?」

「我が国の国民性のことについてだ」

 

 堺の目が微かに見開かれたように、カイザルは感じた。

 実際この時、堺はグラ・バルカス帝国の知られざる一面を知ることができるかもしれないと感じ、意識を切り替えていたのだ。

 

「我が国の国民は、基本的に皆愛国心が強い。

貴殿にも理解してもらえると思うが、国民というのは多かれ少なかれ自分の生まれ育った国に対して特別な思いを持っているものだ。我が国の場合、人によっては帝王陛下やその一族の方を神聖視……いや、神と同じようなレベルで信じている者もいる。それほど愛国心が強いのだ」

 

 カイザルの話を聞きながら、堺は素早く思考を巡らせた。そういえば、ムー大陸で捕虜となったグラ・バルカス帝国兵が皆愛国心が強いようだ、という報告を“あきつ丸”から聞いている。

 第二次世界大戦の後、日本人は愛国心が薄くなってしまったと言われることがあるが、堺としては是非グラ・バルカス帝国人の愛国心を見習ってもらいたい、と思うことがある。……いや、流石に天皇を神格化しろとか、自国以外は全て間違っているとか、そんな極端なことを言うつもりはないが。

 

「愛国心が強いというのは、素晴らしいことです。貴国の軍人が皆精強であるのも頷ける……愛する祖国を守りたい、という思いが根底にあるのでしょう」

 

 堺がそうコメントすると、カイザルは「うむ」と頷いた。

 

「そしてこれは、裏返しに読めばどういう意味になると思うかね? サカイ殿」

「どういう意味、ですか……申し訳ありません、私には少々閃きかねます」

「何、そんなに難しい話ではない。裏返しというのはつまり、『神にも等しい帝王陛下が推し進めておられる世界制覇、それを邪魔する者は何としてでも排除する』ということだ」

 

 そう言われて堺は納得すると同時に、ピンと来た。

 今のカイザルの話から考えると、グラ・バルカス帝国は邪魔者を排除するためには手段を選ばないらしい。そして、グラ・バルカス帝国軍の物量には凄まじいものがあることを、堺は知っている。ということは……

 

「つまりカイザル殿、貴方はもしや、我が国に貴国の艦隊が別働隊として襲来している…と、そう仰りたいのでしょうか?」

 

 堺のこの問いに、カイザルは頷いたものである。

 

「察しが良いな、サカイ殿。そうだ、今頃我が国の艦隊がそちらの本土へ向かっているだろう」

 

 カイザルはそう言って、堺の顔を見た。彼がどんな反応をするか観察することで、ロデニウス連合王国の力の一端を知ろうとしたのだ。

 が、しかし。

 

「ふむ、まあ、多分問題無いでしょう」

 

 平然とした様子で、堺はばっさりと言い切った。

 

「ほう、それは何故だ? 我が国の軍が侮れないことくらい、貴殿も知っているだろう?」

「はい、よく存じております。その上で、問題無いだろう、と申し上げているのです」

 

 根拠のない楽観か……と思いきや、どうやら堺には確信があるらしい。その根拠はいったい何だろうか。

 カイザルのそんな思いを見透かし、堺はこう切り出した。

 

「それでは、簡単にご説明しましょう。

まず1つ質問をさせていただきたい。カイザル殿、バルチスタ沖での貴国と我が国の戦いの時に閣下が乗艦なさっていた戦艦ですが、あれはグレードアトラスター級で間違いないでしょうか?」

「ああ、そうだ」

「では、その閣下の艦を撃沈した我が国の戦艦は、いわば『スーパー・グレードアトラスター級』ということになります」

 

(まさか…!)

 

 ある嫌な予感が、カイザルの脳裏を走った。そして堺が口にした言葉は、それを裏付けるものだった。

 

「そして我が国は、万が一の事態に備えて本土に戦艦を残しています。その戦艦は、スーパー・グレードアトラスター級すら()()()上回る性能を持つ『ハイパー・グレードアトラスター級』……いや、『マスター・グレードアトラスター級』です。

我が国の試算ではマスター・グレードアトラスター級は、貴国のグレードアトラスター級1,000隻と航空母艦1,000隻が束になってかかってきたとしても、それを圧倒できる力を有します。そして、グレードアトラスター級は建造にも維持にも高いコストがかかりますし、それを動かすには大勢の乗組員を必要としますから、貴国であってもグレードアトラスター級を1,000隻も用意するのは不可能でしょう。そう考えて、問題無いと申し上げたのです」

 

 表情筋1つ動かすこともなく、淡々と語る堺。その表情や目を見る限り、嘘っぽいところは全くない。

 

(これは…ロデニウス連合王国には、本当に存在しているのだ…! グレードアトラスター級など歯牙にもかけない怪物が…!)

 

 そのことに気付いてしまったカイザルは、堺に返すべき言葉を失ったものである。

 

 

 そして今に至る、ということであった。

 

(今頃特務軍艦隊が、ロデニウス本土に接近しているはずだ……。あの怪物、マスター・グレードアトラスター級とやらの存在を知ることもなく……! ミレケネスやラクスタルは、無事に帰って来られるだろうか……!?)

 

 カイザルはただ、それだけを考えていたのであった。

 そこへ、

 

「カイザル長官……何かお悩みですか?」

 

 部屋のドアを開けて、男が1人入ってきた。頭部を外科手術で縫ったらしく、患部だけ髪が抜けたようになっているが、至って元気そうだ。

 その男の名はスペース・アステリア。階級は少尉。元々は空軍のパイロットだったが、ムー統括軍のドーソン基地を巡る航空戦で乗機を撃墜され、捕虜になった。

 実はあの航空戦の後、ドーソン基地防衛隊に「基地付近に敵の戦闘機が1機不時着した模様、可能な限り機体と搭乗員を回収せよ」という命令が出され、出動した部隊は気絶していたスペースをコクピットから引っ張り出して救急搬送した。そしてスペースは、ドーソン基地にいた“(くし)()”の医務室を借りて緊急手術を受け、どうにか一命を取り留めてここに収容されていたのである。

 なお、スペースが乗っていた「アンタレス」は当然ながらムー統括軍に鹵獲され、色々と調べられている。

 

「む? ああ、スペース君か。いや、この戦争の行く末について考えていてな」

 

 カイザルのこの発言は嘘であるが、年の功とはこういうことを言うのだろうか、隠し方が上手かったためスペースはあっさり騙された。

 

「ああ……確かに、この戦争は今までとは違いますね。正直に申し上げますと、私自身、『アンタレス』があんなにあっさり負けるとは思っていませんでしたし」

「うむ、それは(わし)とて同じだ。精強なる東部方面艦隊が敗ける日が来るなど、開戦前では到底予想できなかった。そして、昨日渡された新聞では、パガンダ島・イルネティア島の双方が失陥してしまったらしい。

今のところ、我が帝国は負け続けだ。今後どうなっていくことやら……」

「カイザル長官のお考えには、私も同意です。この戦争、果たして勝てるのでしょうか?」

「今の時点では何とも言えないな……」

 

 カイザルとスペースは、2人揃って心を痛めていた。




というわけで、ムー大陸での総反攻作戦の会議+αでした。大東洋共栄圏参加国、そして第二文明圏所属国同士で連携を確認し合えたようですね。それに加えて神聖ミリシアル帝国まで参加する予定ということで、以前(中央暦1643年1〜2月)の世界連合艦隊編成以来、実に2度目となる世界連合の反撃ですので、士気も高まっているようですよ。

そしてとんでもない秘密を知ってしまったカイザル氏……彼の懸念や如何に。


UA103万突破…! 本当に、ご愛読ありがとうございます!

評価5をくださいました白玲様
評価9をくださいました暴風雨様
評価10をくださいました重巡洋艦愛宕様
ありがとうございます!!
また、お気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

第二文明圏周辺で第二次バルチスタ沖大海戦、パガンダ島攻防戦そしてイルネティア解放戦と戦火が荒れ狂っている頃、実は第三文明圏周辺も激動状態となっていた。その原因は、襲来してきたグラ・バルカス帝国海軍の大艦隊にあった。これを察知した神聖ミリシアル帝国、そしてロデニウス連合王国の対応は……
次回「襲来! グラ・バルカス帝国特務軍艦隊!」

次回予告でお察しの通り、次回から物語の舞台は第三文明圏方面…つまりロデニウス大陸とタウイタウイ泊地方面へ移ります。
そして以前、「イルネティア解放戦(12 前編)」の後書きにて、「新たな局面に入ってすぐ、皆様に1つアンケートを取ります。そのアンケートですが、皆様の選択次第で拙作の進行に影響が出てきます」とお伝えしておりましたが、次回、そのアンケートを早速取ります。内容は次回後書きにてお知らせします。
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