鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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予告通り、ここからしばらくはムー大陸ではなく、第三文明圏周辺の描写になります!

経緯はどうあれ、原作同様に来航したグラ・バルカス帝国艦隊。これをロデニウス連合王国は、そして大東洋共栄圏は、どのようにして迎え撃つのか!?



176. 襲来! グラ・バルカス帝国特務軍艦隊!

 これまではムー大陸周辺での戦闘の様子をお伝えしてきたが、ここで時間軸を巻き戻した上、物語の舞台を全く別の方面に移す。

 中央暦1643年6月8日、第二次バルチスタ沖大海戦が終結し、パガンダ・イルネティア解放「ユーラヌス作戦」が始まった頃。処は中央世界列強 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。

 その日、皇帝の居城たるアルビオン城において、緊急の皇前会議が開催されていた。出席者は皇帝ミリシアル8世を筆頭に、

・軍務大臣 イスラ・シュミールパオ

・国防省長官 アグラ・ブリンストン

・対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部長 ヒルカネ・パルペ

・空中戦艦「パル・キマイラ」2号機艦長 メテオス・ローグライダー

・帝国情報局長 アルネウス・フリーマン

・外務大臣 ペクラス・ビルゼー

・外務省統括官 ヘルベルト・リアージュ

 

 などなど、帝国軍や情報関係、外務関係、そして普段は交わらない対魔帝対策省の上層部まで含めて、(そう)(そう)たるメンバーが参加していた。

 それはつまり、この会議の議題が神聖ミリシアル帝国にとって、外すことが出来ないほどの重要な案件であることを意味している。

 

「それでは会議を開催します」

 

 司会進行役となったアルネウスが開会を宣言する。

 軍、そして情報局が総力を挙げて掴んだグラ・バルカス帝国の動向について、報告が始まる。

 各人の持つ石版には魔法によって文字が浮かび上がった。

 

「昨日、文明圏外国家メーズに設置した魔導海上レーダーに、多数の人員が海上を進んでいる反応を感知しました。規模や魔力の無さ、速度から、グラ・バルカス帝国の軍艦に間違いありません。

そこで更なる情報収集を実施した結果、大艦隊が中央世界東側海域を東へ向かって進んでいることが判明致しました。敵の平均速度は13ノット、艦艇数は400隻以上と推定されます」

 

 場がざわつく。

 

「やはり世界連合艦隊と戦った時の数を上回るのか!!」

「いったいどうやってこれほどの大艦隊が中央世界南側海域を通過したのだ!!」

 

 アルネウスは説明を続ける。

 

「艦隊は中央世界を大きく迂回した模様です。

今回発見された艦隊は、情報局が想定した軍の規模を上回るものです」

 

 ここで、シュミールパオ軍務大臣が質問のため手を挙げた。

 

「敵艦隊は東へ向かったとのことだが、情報局ではどこを目指していると考えているのか?」

 

 この疑問に、アルネウスは落ち着いて答えた。

 

「推定ですが、情報局ではこの敵艦隊はロデニウス連合王国へ向かっていると見ています」

「では、仮にこの400を超える艦艇全てがロデニウス連合王国本土へ向かった場合、ロデニウスの被害はどれほどになるのか?」

「これらの艦艇が全てロデニウス連合王国への攻撃に当てられた場合、情報部の分析では、グラ・バルカス帝国にも相当数の被害が出ますが、おそらくロデニウスの首都や沿岸部の都市は空爆又は艦砲射撃で焼かれ、多くの軍艦を含む船舶が撃沈もしくは撃破されます。また、工業地帯も空爆及び艦砲射撃で再起不能に陥るでしょう。

状況が大きく変化することは確定的となったため、軍の運用に再度意思決定が必要になってくるかと考えます」

 

 今度は国防省長官アグラが質問した。

 

「やつらの補給はどうなっている?

機械動力式の艦といってもあれほどの大艦隊、補給艦のみでも膨大な数に膨れ上がるだろう?」

 

 これにもアルネウスは静かに答えた。

 

「一次補給はレイフォルで行ったと仮定致します。

情報局と外務省による合同調査の結果、第三文明圏外のニューランド島にある国家チエイズ、同島のグルートが実質的にグラ・バルカス帝国に降っていることが判明しております。彼らはここに港を建設しており、補給基地も用意しているため、一度同島へ立ち寄ると推定されます」

「補給も可能なのか……」

 

 仮にこれから追撃しようとしても、敵の規模があまりにも大きすぎるため、相当の規模の艦隊を動員しなければならない。しかし、ミリシアル東方の守りの要である第1〜第3魔導艦隊は第一次バルチスタ沖大海戦で壊滅してしまっており、動員が難しい。地方隊まで動員する必要があるだろう。

 しかしそうなると、こちらが艦隊を集結させる頃には敵は補給を済ませ、ロデニウス大陸へ向けて出発してしまうであろう。

 

 どうしようもないように見える現状に、さらに場がざわついた。

 ここで皇帝ミリシアル8世が手を挙げ、場が静まる。

 

「このままでは、ロデニウス連合王国は再起不能になるというのか?」

 

 皇帝の質問には、流石に返答するアルネウスの声は僅かに震えていた。

 

「はい。今回のグラ・バルカス帝国の艦隊はそれほどの大艦隊です」

「では、仮にこの艦隊を撃滅した場合はどうなる?」

「はっ、さすがにこれほどの艦隊量、まだ本国艦隊が何隻あるのか詳細は判明しておりませんが……どのような国でもこれほどの艦隊が撃滅された場合、再建には相当の日数がかかるものと思われます!!」

「ふうむ……」

 

 ミリシアル8世は考え込んだ。ややあって口を開く。

 

「さすがに友好国を見捨てたと他国から言われる訳にもいかぬ。最低限のことはしておくべきか……。

ロデニウス連合王国には、最新のグラ・バルカス帝国艦隊の規模と進行方向を教えてやれ。

軍は……」

 

 皇帝は国防省長官アグラの顔を見た。

 

「もう間に合わぬな」

「はっ、残念ではありますが間に合いませぬ」

「では、軍部は敵帰投時の迎撃に備えよ。ロデニウス軍との交戦で消耗したところを叩き、止めを刺せ」

「ははっ!!」

 

 皇帝は次々と指示を出し始める。

 

「それとヒルカネよ」

「はっ!」

「空中戦艦パル・キマイラの出撃は間に合うか?」

「申し訳ございませぬ、パル・キマイラはまだ全機が整備中であります! 部品の取り替え、燃料補給、弾薬補給を終えた後に派遣したとしても、敵がロデニウス本土に着く頃に間に合うかどうか……といったところです。

仮に敵がロデニウス西部の港湾都市ピカイアに向かうとして、補給に想定以上に時間をかけるか、もしくはロデニウス大陸を南から大きく迂回でもしてくれれば、間に合うのですが」

「良い、1機で良いので派遣してやれ。そうだな、メテオス艦長の2号機が良かろう。ただし、メテオスよ」

「はっ!」

「今回はロデニウス連合王国と世界に、ミリシアルは助けに来るということを見せることが目的である。また、ロデニウス連合王国にミリシアルの力を見せつけるにも役立つだろう。

メテオスよ、1号機のように、むやみに近づいて落とされるようなことは許さぬ。決して無理な戦闘は行わず、時間をかけてでもじっくり攻撃せよ。燃料弾薬が少なくなってきた場合、無理せず確実に帰投せよ」

「ははっ!! 承知いたしました」

 

 皇帝は指示を続ける。

 

「リアージュよ」

「はっ!」

「第三文明圏外国家の各国に伝えよ。グラ・バルカス帝国の艦艇を1隻でも撃沈すれば、外交等級を5級対象国から3級対象国へ引き上げる、とな。

それと、特にニューランド島の各国には、チエイズとグルートに攻撃を仕掛けるならば、神聖ミリシアル帝国から後に支援があると伝えてやれ。()めた態度を取る国家は潰さんとな」

 

 神聖ミリシアル帝国の外交対象には等級が存在する。上から順に、列強国が認定される「特級国家」、中央世界(第一文明圏)所属国及び先進11ヶ国会議参加国が認定される「1級国家」、第二文明圏内国が認定される「2級国家」、第三文明圏内国が認定される「3級国家」、第一・第二文明圏外国家が認定される「4級国家」である。

 そして、第三文明圏の外側にある国家は神聖ミリシアル帝国にとって最低ランクの「5級国家」となっていた。

 それを、グラ・バルカス帝国の艦艇を1隻でも撃沈したら3級対象国家……第三文明圏内国と同列に扱うという。魔法の技術解放レベルでもあるため、国力は大きく向上するだろう。

 文明圏外国家群からすると、周辺国家を出し抜けるという破格の待遇向上であった。

 

「よ……よろしいので?」

「良い、ロデニウスの台頭により、近い将来現在のパワーバランスは崩れる。文明圏外国家を使えるときに使わんとな。

ああ、あと東方国家群の冒険者ギルド協会に対し、敵艦隊に導力火炎弾を1発か、魔導砲を一撃でも叩き込めれば、ミリシアル皇帝が褒美を与えると通達を行え。それも、身分、門地は問わぬ、海賊でも良いと伝えよ。

特に、チエイズとグルートのギルドには、攻撃を命中させた場合、褒美の他に神聖ミリシアル帝国の第3級市民権を与えると伝えるのだ」

「ははっ!! 直ちに!!」

 

 会議結果は直ちに反映される。

 神聖ミリシアル帝国は謀略を巡らせていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ロデニウス大陸から南へ400㎞ほど行った位置に、文明圏外国家である小さな島国ナハナート王国がある。

 縦横70㎞程度しかない小さな島国で、世界地図では点のようにしか描かれないこと必定である。

 ナハナート王国は、昔から第三文明圏と南方世界をつなぐ中継地である。しかし国土の小ささに比例するかのように、国力もお世辞にも大きいとは言えない。そこで、正規の海軍の他になんと冒険者、海賊まで取り込んで海軍戦力に数えていた。そのため、中央暦1641年秋にロデニウス連合王国が実施した海賊掃討作戦の際に、ナハナート海軍の一部戦力がロデニウス軍の活動網に引っ掛かり、その縁でロデニウス連合王国と国交を開設し大東洋共栄圏にも参加することができた。

 現在のナハナート王国は、相変わらず貿易の中継点として利用されている上にロデニウス連合王国から物資や資金の援助を受けられるようになったため、これまで以上の繁栄ぶりを見せている。

 

 そんなナハナート王国の王都は、今日も活気に満ちている。その一角に、飯も酒も美味いと人気の酒場「鉄の爪」があった。今日も客は大入りである。

 

「おいおい!! 冒険者ギルドの話、聞いたか!?」

 

 革製の防具を着用し、腰に剣を佩いた冒険者風の男が大声で話しかける。その相手はというと、よく日焼けした肌にガタイの良い身体、(ひげ)もじゃの顔、頭にバンダナを巻き、衣服はシャツと半ズボンに左眼を覆うアイマスク、そして腰には曲刀と、典型的な海賊スタイルである。

 

「ああ、聞いた。今度この近くを通るかもしれんっちゅうグラなんとか帝国の艦艇に攻撃を加えただけで、ミリシアル皇帝から褒賞が出るらしいな。

しかも、門地は問わないらしいぜ? 俺のような海賊業でも良いってことだ。ミリシアル皇帝の褒賞があれば、一生遊んで暮らせるらしい」

「ああ、燃えるな……俺のワイバーンで1発当ててすぐに離脱、それでも良いってことだからな」

 

 酒に酔った者達は、夢を語る。しかしそこへ、別の声が割り込んだ。

 

「待て待て、そう簡単でもないぞ」

 

 その声の主は、銀光りする鎧に身を包んだ男性だった。そばのテーブルの上には兜も置いてある。そして立派な剣を腰に吊るしていた。右手に木製のコップを持っている。

 

「おお、騎士団の旦那かぁ。何でい、俺らを捕まえに来たのか?

おお? それは酒か。真っ昼間にこんなところで酒なんか飲んでて良いのか?」

 

 騎士の男のコップの中身に気付き、海賊の男が尋ねる。

 

「いや、今や海賊や冒険者も貴重な戦力だ。我が国では欠かせない、な。

……さっきのお前たちの話だが、神聖ミリシアル帝国は我が国にも、敵艦を1隻でも撃沈したら、5級国家から3級国家扱いをすると通達してきた……この通達後、王宮は大騒ぎだ。

3級になれば富が集まる。ロデニウスからの支援も合わせれば、今より遥かに贅沢な暮らしができるからな……他国にも大きな顔ができる」

「おお、良いことだらけじゃねぇか!!」

 

 冒険者と海賊は目を輝かせるが、騎士の男は首を横に振った。

 

「事はそんなに単純ではない。民間に魔信テレビやラジオが普及していないこの国では、情報が入るのが遅いため、お前らは知らないかもしれんが……グラ・バルカス帝国は列強レイフォルを滅ぼした。それくらいは知ってるな」

「お……おうよ」

「その後、今年の2月のことだ。中央世界と神聖ミリシアル帝国が主体となって、世界連合とも言える艦隊を組織し、グラ・バルカス帝国排除を行おうとした。

古代兵器まで投入したが失敗に終わったらしいぞ。グラ・バルカス帝国は、それほどの化け物のような相手だってことだよ」

 

 夢を語る者達は沈黙した。

 

「冒険者ギルドにも通達を出すとは、ミリシアル皇帝もやり手だな。

通常国家のみに通達した場合だと、グラ・バルカス帝国からの反撃を恐れて手を出さない国が多い。しかし、冒険者ギルド協会を巻き込んだことにより、必ずどの国からも、手柄を焦って竜で飛び立ち、攻撃する者達が現れるだろう。

となると、帝国軍の進路にある国家群は必ず反撃を覚悟しなければならない。

どうせ攻撃されるなら、国家の力すべてを使って攻撃しようとなる……しかし、相手は化け物級に強いと来たものだ」

 

 そこで、冒険者の男が質問を出した。

 

「騎士団の旦那、ナハナート王国はどう出るんだ?」

「フフ……実はな、数ヶ月前にロデニウス連合王国から打診があってな」

「あの国か、何て言ってきたんだ?」

「我が国の東の街にムー用の大規模港と、飛行機械用の空港があるだろう?」

「ああ、あそこか。それがどうしたんだい?」

「あれを使わせてくれと言ってきた。グラ・バルカス帝国の侵攻に備えて、拠点にしたいとな。

破格の額が提示されたし、強国の圧力ってやつだ。国王陛下は了承したよ。

すでに東の港にはロデニウスの鋼鉄艦が来ていて、何やら作業をしているらしい。俺もあまり詳しくは知らんのだがな。

もう一つ加えると、ムー国からも、他国の空港を経由して攻撃隊120機が来る予定となっているらしい。これらはロデニウス軍の攻撃の後、脱落艦を叩くためのものだそうだ」

「そ……そうか」

 

 ロデニウスにムーといえば、列強国である。そんな強国の軍が攻撃するのであれば、自分たちの出番はないかもしれない。つまり、金も夢のまた夢か……と、冒険者と海賊の表情が沈んだ。するとその背を騎士の男が叩く。

 

「おい、そんな暗い顔するな、これはチャンスだ!!」

「「??」」

「考えてもみろ、ロデニウス軍が攻撃すれば、必ず脱落する艦が出てくる。脱落艦に攻撃を加えても褒賞は出るだろう? 何でもいいから攻撃しろってことだしな。

我がナハナート海軍も、ロデニウスの攻撃の後に出撃する手筈になっているらしいぞ。脱落した敵艦に止めを刺しても撃沈は撃沈だからな!」

「おお! そうか!!!

そんなら俺らも、魔導砲をよく磨いておくとしますかね!」

「よし、俺はちょっと相棒に餌をやってこよう! 少し奮発しよう、頑張ってもらわんといかんからな!」

 

 様々な思惑が交差するのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方その頃、当のロデニウス連合王国でも、迎撃の準備が進められていた。

 以前に堺から、グラ・バルカス帝国艦隊の技術力は自国の第13艦隊と同等であり、そして物量が圧倒的に多い以上、戦闘力は第13艦隊より上だと聞かされて以来、ロデニウス軍部はグラ・バルカス帝国の脅威を深刻に捉えていた。自国周辺でグラ・バルカス帝国のものと思しき潜水艦の活動が見られたことも、それを後押しした。

 その結果、ロデニウス連合王国軍総司令部は、縦割り組織となっている各軍同士の垣根を一時的に取っ払って、全軍一体となってロデニウス大陸を防衛するため本土防衛軍を新設した。これは、全ての軍組織を1つに集約したものである。

 さらに、外務省や情報庁(旧情報部)とも密に連携し、全ての情報を集約して軍の行動方針を素早く決断できるようにすべく、本土防衛軍司令部を軍総司令部内に設置していた。

 

「神聖ミリシアル帝国から、外務省に緊急文書が送られてきました」

 

 会議中だった幹部たちの元に、外務省のトップであるリンスイ外務大臣が魔信の書類を持って入ってきた。会議机に置かれたその文書に、20を超える視線が一斉に突き刺さる。

 そこには、艦艇数400を超える艦隊を感知したとあった。

 

「ミリシアルも捉えたか」

「マール王国が送ってきた緊急通信とも一致するな。第13艦隊からはどうだ?」

「直接確認してくるとのことだったが、まだ連絡が来ていない。そろそろ来る頃だと思うが」

 

 実は、第三文明圏でも西方に位置する半島国家マール王国の海軍艦艇が、偶然ながらグラ・バルカス帝国艦隊を発見していたのだ。その艦艇は島陰に隠れてどうにかグラ・バルカス帝国の軍艦と航空機の目を掻い潜り、命からがら港に戻って司令部に通報した。それが大東洋共栄圏の筋を通してロデニウスに伝えられていたのである。

 また、ニューランド島の方に敵の勢力圏ができていることはロデニウス側でも捕捉していた。そのため第13艦隊の潜水艦娘が強行偵察に向かっている。

 

「確か、愚帝に屈していたのはチエイズとグルートだったか……他にも補給先の国家を確保しているのかもしれないが、順に補給を行い、いずれかの場所で集結してから一気に侵攻してくる可能性が高いな」

「敵はおそらく南から我が国に接近してくるだろう。北はシオス島やらアルタラス島やらがあるから、迎撃に備え続けなければならず、嫌がるはずだ」

「基地建設に賛同した国は、事実上アルタラス王国とナハナート王国のみか。一時的な使用許可だけならば多数あるが……」

「今回は敵が多すぎる。気が抜けんぞ」

「空軍の竜騎士団も出さねばならんかもしれんな」

「迎撃の要となるのはやはり第13艦隊だ、彼女たちへの連絡は密にしないと」

「それと、特に海岸に近い地域かつロウリア州やイザーク州に住んでいる国民の緊急疎開を急がせよう。国内にはもう、通達を出しているんだろう? 確か、迎撃作戦計画は『黄金の月輪(ゴールドルナ)』だったか?」

「それは上陸されてからの話だ。今はまだ『白銀の日輪(シルバーソル)』の段階だぞ」

 

 実はロデニウス連合王国軍は、パーパルディア皇国との戦争の時に敵が本土上陸してきた場合を想定して迎撃計画を策定していた。そのうち、本土周辺の制海権・制空権が危ぶまれた状態を「ケース:白銀の日輪(シルバーソル)」、本土上陸されてしまった状態を「ケース:黄金の月輪(ゴールドルナ)」と呼んでいる。これらはさらに、敵がどの方面に接近(上陸)したかによって迎撃戦区が分けられ、「ソル1」「ルナ2」などと細かくケース分けされていた。

 

「ん?」

 

 議論が続く中、幹部の1人が魔信文書の最後の1行に目を留めた。そこにはこうあった。

 

『敵艦隊戦力の減殺のため、空中戦艦パル・キマイラ1機を派遣する。』

 

「おおっ! 神聖ミリシアル帝国の空中戦艦が来るのか!」

「何だと!? これは頼もしい!」

 

 第一次バルチスタ沖大海戦の顛末は、ロデニウス軍司令部でも把握している。ミリシアルの空中戦艦は、最終的に1機をグレードアトラスター級によって撃墜されたものの、たった2機でグラ・バルカス帝国艦隊と航空隊に甚大な被害を与えたという。

 これほど頼もしい存在もまたとないだろう。

 

「だが、空中戦艦はありがたいが、第三文明圏外各国と冒険者ギルドへの通達が気になるな……」

「ああ、神聖ミリシアル帝国の通達によって、各国のワイバーンがスコールのように攻撃を行う可能性が高い。下手に我が艦隊や基地周辺で敵の迎撃に割り込まれると誤射しかねんな。

何とか外務省を通じてエリアを指定、この範囲には入らぬよう申し入れを行う必用があるのではないか?」

「分かった、まずは何とか範囲を設定しよう」

 

 ヤヴィン元帥をはじめロデニウス軍上層部の面々は、必死に迎撃の準備を進めていた。そんな中、

 

「外務省から緊急魔信入電! リーム王国が我が国との国交を断絶、グラ・バルカス帝国側に立って参戦する模様!」

 

 面倒な事態が起きた。

 

「くそっ、やっぱりか! 『草』や『そよ風』の報告で、あの国はきな臭いと思っていたが、やりやがった!」

「マイハークの第3艦隊に警戒体制を命令しろ! 第13艦隊情報局からの報告では、幸い奴らの艦隊はすぐには出港できる状態にないらしい。準備に2日、出港してこっちに着くまでに1〜2日ってところだ。何とか第3艦隊と本土航空隊で抑えて、その間にグ帝艦隊を撃破する!」

 

 どうやら事は簡単には済まないらしい。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その翌日、中央暦1643年6月9日、第三文明圏外国家 ニューランド島内 チエイズ王国。

 冒険者アルホーはチエイズ王国の空を竜に乗り、飛行していた。

 

『そこの竜!! 直ちに引き返せ!!』

 

 先ほどから聞こえる魔信を全て無視する。

 竜を操る腕は誰にも負けない自信がある。王国竜騎士団の直轄隊長にだって、決して負けないだろう。

 冒険家業について18年になるが、大物をつかんだことは1回しかない。邪竜侵攻である。この時は自分がワイバーンの導力火炎弾を当てたことがきっかけで、仲間達が作戦を実行し、邪竜の侵攻から王国を救った。この時、王国から多大な褒賞を与えられ、前途有望な冒険者とされ、嫁も娶った。

 しかし、その後の冒険では全く上手くいかず、嫁や子供にも貧乏な思いをさせてきた。

 

 そんな中で降って沸いたのが、神聖ミリシアル帝国皇帝の褒賞の話。しかも、グラ・バルカス帝国艦隊はチエイズの港で停泊しているという話だ。

 列強だろうが何だろうが、止まってる目標など自分にとっては的だ。

 鉄竜が強かろうが、自分の竜を操る腕に勝てるわけがない。

 上から導力火炎弾を撃って離脱する。自分なら必ず当てることが出来る。

 

 上までたどり着けば自分の勝ち、嫁や子供と神聖ミリシアル帝国の市民権を得た上で一生遊んで暮らせる。

 夢のような話である。

 

 アルホーは、風を切り、竜を操っていた。

 

「ん?」

 

 前方に黒い点が見える。

 

「噂の鉄竜か!!」

 

 念のため、すぐに急降下し、地を這うように進んだ。しかし、みるみる大きくなった鉄竜は、こちらを見つけて急降下してくる。

 脳裏に浮かぶ嫌な予感、アルホーは右に急旋回を行った。

 

「なっ!!」

 

 先ほどまで自分が進んでいた進路の先に光弾が降り注ぎ、地面に当たった光は大きく爆発して土煙を上げる。

 鉄竜は急降下してきた後、神速とも言える速さで機首を上げて上昇する。

 

「は……速い!!」

 

 アルホーはすぐに敵に頭を向け、導力火炎弾を発射した。

 しかし……

 

「ば……バカな!! あれをあっさり避けやがった!!!

速いのに何て旋回性能だ!!!」

 

 導力火炎弾を回避した敵は、すぐに反転してこちらに向かってくる。

 鉄竜のうなり声がさらなる恐怖をかき立てた。

 地面は砂で覆われ、隠れるところはどこにもない。

 

「く……くそっ!!」

 

 背中を走る、強い死の予感……。アルホーが振り返った先、敵から放たれる光弾は至極ゆっくりに見えた。

 今までの人生が脳裏に浮かぶ。

 最後に嫁と子供の泣き顔が見えたような気がした。

 

「す……すまん」

 

 身体に走る熱い感覚。

 薄れ行く意識の中、アルホーが最後に感じたのは家族の生活への心配だった。

 

 

 同時刻、グラ・バルカス帝国海軍特務軍艦隊 第1分艦隊(チエイズ王国に停泊中)。

 グラ・バルカス帝国側でも、ムー大陸にロデニウス連合王国の大艦隊が来航しているという情報はしっかり掴んでいた。そしてその中に、グレードアトラスター級戦艦が含まれていることも。

 この情報が正しいならば、ロデニウス連合王国は自国と同程度に強いことになる。前世界も含めて、これまで同格以上の相手を敵にしたことのないグラ・バルカス帝国にとって、これは衝撃的なことであった。

 しかし、ロデニウス大陸に潜入している諜報員からの報告から判断すると、どうもロデニウス連合王国に自国のような物量があるとは考えにくい。となると、ロデニウス連合王国がムー大陸へ派遣した艦隊は主力部隊であり、本土は手薄になっていると考えられた。

 そこでグラ・バルカス帝国帝王府は、特務軍艦隊に対してロデニウス連合王国本土を攻撃することを命じたのだった。主力部隊がおらず、二線級の部隊のみで本土を守っているのであれば、東部方面艦隊と並ぶ精鋭たる特務軍艦隊なら、十分に勝つことができる。そして本土がやられてしまえば、ムー大陸にいるロデニウス艦隊は帰るべき地を失って立ち枯れとなるだろう。労せずして敵を撃破できる、というわけである。

 

 特務軍艦隊の編成は、戦艦6隻、空母24隻、重巡洋艦15隻、軽巡洋艦50隻、駆逐艦195隻、輸送艦150隻で計440隻。輸送艦を除くと駆逐艦が妙に多いが、これには理由がある。

 昨年4月の神聖ミリシアル帝国での世界会議の際、全世界に宣戦布告をした後、グラ・バルカス帝国は駆逐艦に力を入れて量産していた。これは、世界文明のレベルが低いために駆逐艦を撃沈できる文明が限られていると判断されたことが原因だった。

 また、一部に予備艦となっていたスコルピウス級駆逐艦(()(つき)型相当の姿形と性能を持つ)も引っ張り出して来たため、これも駆逐艦の増加に拍車をかけている。

 

 帝国三将のうちの唯一の女将、アンネッタ・ミレケネス少将は、特務軍艦隊司令官兼第1分艦隊司令官としてこの作戦に臨んでいた。彼女の乗艦は、あの戦艦「グレードアトラスター」である。

 

「補給はあとどのくらいで終わる?」

「はっ、あと1時間ほどで終了いたします!」

 

 補給時に狙われると非常に弱いため、艦隊は港で補給中であっても上空にはアンタレス型艦上戦闘機が編隊を組んで飛んでいた。

 その時、海上に砲撃音が鳴り響いた。そして、艦隊に向かってきていた帆船が撃沈される。

 

「またか……バカな奴らね」

 

 先ほどから、飛行禁止区域に時間差を置いて次々と侵入するワイバーンを撃墜し続けている。既に13騎を撃墜した。

 また帆船についても、事前連絡の無い12隻が向かってきたため、ことごとく撃沈している。

 

「早く済ませてさっさと出ましょう。弾を無駄にしたくない。

どうやら本当の敵に当たるまで、この(うっ)(とう)しい攻撃は続くようね」

 

 そう言いながら、ミレケネスの頭にはこの先特務軍艦隊が取るべき進路が2つ、思い浮かんでいた。

 特務軍艦隊は現在二手に分かれ、ミレケネス直率の第1分艦隊230隻の他に、シュリーザ・アウロネス准将率いる第2分艦隊210隻がグルート騎国で補給を受けている。

 この2つの艦隊を、集合させて1つの大艦隊にしてからロデニウス本土へ向かうか。それとも2つに分けたまま、各個にロデニウス本土へ向かうか。それが問題である。

 集合すれば、艦隊も航空部隊も戦力を集中させて大規模なものを運用できる。その反面、一度見つかってしまえば敵の集中攻撃を受けることになるし、敵艦隊も1つにまとまってこちらに挑んでくるだろう。当然、こちらが迎撃しなければならない敵戦力はかなりの数に昇ることになる。

 一方、分散したまま敵本土に向かえば、敵は限られた艦隊戦力を分散せざるを得なくなる。そうすれば、こちらの2つの艦隊のうち少なくとも片方は、比較的少ない損害でロデニウス本土に到達できる可能性が高い。しかしこの作戦は、こちらが各個撃破されるリスクを孕んでいる。

 

 集合か、それとも分散か、どちらを選ぶべきか。ミレケネスの取った選択は……

 

 

 その頃、グラ・バルカス帝国艦隊を静かに観察している者がいた。当然だが、グラ・バルカス帝国軍にバレないよう、細心の注意を払って偵察していたのである。

 その者の名は“()58”。ロデニウス連合王国海軍第13艦隊に所属する潜水艦娘である。

 そして潜水艦ということでお察しの通り、彼女たちは潜望鏡を通して偵察していたのである。

 

「うわぁー、怖いのいっぱいいるよぉ。戦艦が2隻、大和(やまと)型と(なが)()型が各1隻だね。後は空母が……はっきりとは分からないけど、大小合わせたら10隻はいる気がするよぉ。巡洋艦と駆逐艦は、いっぱいいすぎて数えるの不可能でち」

「艦長、これはすぐ本土に打電しなければ……」

「それはそうだけど、ここじゃ発信できないよぉ。

潜望鏡降ろして。航海、取舵反転180度、針路80度。微速前進、一旦この海を離れるよ。安全を確認したら、潜望鏡深度でアンテナだけ出して本土に打電するから、通信長は今のうちに暗号文組み立てておいて」

「承知しました」

 

 敵情を知った“伊58”は、どうにかしてロデニウス大陸とタウイタウイ島にこのことを知らせようとしていた。




という訳で、第二次バルチスタ沖大海戦が終わった直後辺りから1ヶ月程度の間、ロデニウス大陸の方で何が起きていたか、という話でした。グラ・バルカス帝国の特務軍艦隊が襲来していたんですね。
そして、グ帝艦隊の接近を契機として、第三文明圏統一の野望を果たすべく蜂起したリーム王国。これらを迎え撃つロデニウス連合王国と大東洋共栄圏の運命や如何に。


もうUAが104万超えてる…拙作を閲覧していただき、本当にありがとうございます!

評価9をくださいました森田雅也様
評価10をくださいましたかいざーおー様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

本土付近にまでグラ・バルカス帝国艦隊が接近してきていることを知ったロデニウス連合王国。この重大なる脅威を迎え撃つべく、ロデニウス大陸に残る艦隊のうち第1・第2・第4艦隊と第13艦隊を統合し、連合艦隊を組織することとなった。その第13艦隊のメンバーの中にいたのは……
次回「連合艦隊の出撃」


P.S. 以前から皆様にお伝えしていた通り、ここで1つアンケートを取ります。お題は、「貴方がミレケネスの立場なら、集合と分散、どちらの策を取るか?」です。私自身、どちらの作戦案もミレケネスさんなら取り得ると考えた結果、自分1人で考え切るには少々無理があると判断したため、皆様のご意見をお聞きしたいと存じます。

!注意!
今回のアンケートの結果により、この後の展開が大きく変わってきます。そのため、実は次回分はまだ書いていません。いえ、「どちらの結果になっても変わらない部分」だけは既に手を付け始めていますが、展開が変わる部分は全くの白紙です。
今回のアンケートの結果次第で、今後描かれる場面に影響が出てくることを頭に置いた上で、投票していただきたいと存じます。

貴方がミレケネスなら、どちらの作戦案を選びますか?

  • 全艦艇を集合させてロデニウスに向かう
  • このまま分散してロデニウスに向かう
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