鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

19 / 230
お、お気に入りが229件に到達…!
皆様、本当にありがとうございます!

すみません、ここからタウイタウイ泊地のチートぶりが加速していくことになります。
また、今後の展開を考えて、タグを一部いじりました。具体的には、「万歳エディション」を「万歳突撃」に変更し、さらに新規タグ「魔改造」を入れています。



018. とんでもない掘り出し物

 中央暦1639年6月1日、タウイタウイ泊地。

 桑炉戦役(クワ・トイネ公国・クイラ王国とロウリア王国との戦争)の終結後、タウイタウイ泊地はいつも通りの平常運転に戻ってきていた。といっても、ロウリア王国が地球の歴史でいう中世程度のレベルでしかなかったので、名目としては戦時態勢にあったものの、実際にはちょっとした()()()みたいな雰囲気にしかなっていなかったが。

 今日も、多数の艦娘たちや妖精たちが演習を行っている。陸上では砲声が演習場に響き、海上では「鬼の二水戦」こと第二水雷戦隊が一糸乱れぬ艦隊運動を見せ、戦闘機隊が模擬空戦の複雑な機動を描いている。航空隊の連中はロデニウス人たちの新兵を鍛えるべく、自身をビシバシ鍛えているらしい。

 今頃は、ついに竣工なったウインク型砲艦の1番艦「ウインク」が、クイラ王国の水兵たちを乗せ、同国の沖合いで駆逐艦「()()(づき)」と演習しているはずだ。また、クワ・トイネ公国ダイタル基地では、懲罰として「新兵の訓練教官」を命じられた空の魔王(ルーデル)が、急降下爆撃の講義と実習指導をやっている頃だろう。

 そんなタウイタウイ泊地の一角で、堺は戦艦の艦娘"(なが)()"から、お小言を頂戴していた。

 

「提督よ、貴様はいつになったら整理整頓ができるのだ? 前から気になってはいたが……一向に整理整頓ができる気配がないではないか」

「いやー、すまない長門。どうにも整理整頓は苦手なんだ」

 

 堺は、作戦を立案し部隊を指揮する能力には長けているのだが、事務処理能力が致命的なレベルで壊滅している。「提督机の上の整理もできない」といえば、どれほど致命的かがご理解いただけるだろう。

 以前に"大和(やまと)"は、冗談で「提督は首から下は飾りなんですよ」と言ったことがあり、"()()"がそれに爆笑したことがあったが、しっかり的を射た表現になっている。全く“笑えない”冗談である。

 ちなみに"長門"が手伝うまで、堺の机は多数の書類で目も当てられない状態になっていた。具体的には、書類でピラミッドが築けそうなくらい。

 今は大量の書類が取り除かれ、ようやく机の天板が顔を覗かせはじめている、というところである。

 

「まあ、後はこっちでなんとかなりそうだ。すまない長門、装備の備蓄のほうも調べてきてくれないか? リストはここにある」

「全く、仕方のない奴だな」

 

 "長門"は半分呆れながら、装備品のリストを持って退室した。

 

 

 それから30分後、タウイタウイ泊地の装備品倉庫。

 

「えーと、これがリストのここだから……ああなるほど、これか」

 

 リストとにらめっこしながら、"長門"が装備品を確認していた。

 

「これは……クワ・トイネ公国とクイラ王国に売る航空機だな」

 

 "長門"の前にあったのは、多数の航空機だった。零式艦上戦闘機21型、九七式艦上攻撃機、九九式艦上爆撃機。一部に零式艦戦32型が混じっている。

 桑炉戦役終結後、ロウリア王国領内にてボーキサイトの大規模鉱山が発見されたのだ。これにより、ようやく堺の懸案事項であった「ボーキサイト調達先の確保」が叶ったのである。そしてそれに伴い、めでたく航空機の補充と量産が可能になったので、クワ・トイネ公国やクイラ王国へ旧式機の配備を開始したのである。

 尤も、これらの機体は後に練習機となる予定であり、本命の「(てん)(ざん)」や「(すい)(せい)」、零戦52型に順次置き換えられていく予定である。

 ちなみに、ボーキサイトの採掘権についてだが……ロウリア王国とは、講話条件の話し合いが未だ続いている。しかし堺は「ボーキサイトの大規模鉱床を発見した」という()(こん)部隊の隊長からの報告を聞き、急遽外務卿リンスイに「お願い」して、採掘権を得るよう依頼したのだ。

 ロウリア王国側も、「なぜこんな“石ころ”を欲しがるのか?」と不思議がりながらも採掘権を認めてくれたので、堺は速攻で重機を持ち込み、採掘を開始したのである。

 

「さて、これでこの倉庫の中身は全部か……ん?」

 

 倉庫の中を一渉り見渡した時、"長門"はあるものに気付いた。

 倉庫の奥の方の壁に、扉がある。それも割と大きい。

 

「何だ? こんな扉、あったっけかな……?」

 

 呟きながら、"長門"は航空機の間をすり抜けて、扉へと近づいていく。

 

「随分大きいシャッター式扉だな。この先には何があるんだ……?」

 

 "長門"はシャッターに手をかけ、引き上げようとする。が、なかなかに重い。

 

「ん……ぐっ……!」

 

 "長門"の顔に、汗が一筋流れる。

 

「ふ、ふんぬうぅぅぅぅ!!」

 

 あらんかぎりの力を込めると、ガラガラと耳障りな音がして、ついにシャッターが引き上げられた。

 "長門"はさっそく中を覗き込む。しかし中は真っ暗。何も見えない。

 

「どこかに、電灯のスイッチはないか……?」

 

 壁を手で探った"長門"は、ものの10秒でスイッチらしいものを見つけ出した。レバースイッチのようだ。少しだけいじって、レバーがどっちに動くか確認した後、それを一気に押し下げる。

 その途端、明るい光が"長門"の視界を満たした。

 

「むっ……眩しい……」

 

 突然の明るさに、"長門"はいったん目を閉じる。

 そして、しばらくかけて瞳孔を狭めた後、目を開いた先には……!

 

「なっ、何だこれは!?」

 

 

「ふう……」

 

 提督室にて、堺は窓の外の景色を眺めながら、"大和"特製の紅茶を飲んでいた。ちなみに片付けはサボっている。

 タウイタウイから持ち出した茶の木の実と、クワ・トイネ公国の豊かな土壌により、茶葉の量産が可能となったのだ。その結果、緑茶も紅茶も再び楽しめるようになったのである。

 そこへ誰かが走る足音がして、ノックもそこそこに"長門"が駆け込んできた。

 

「提督、なんだかすごいものを見つけ……ん?」

 

 何かを言いかけた"長門"は、不意に口を閉ざす。その視線は、さっき長門が倉庫に出かけた時から()()片付いていない机の上に向けられていた。

 不意に、絶対零度にまで冷え込んだ"長門"の視線が、堺に向けられる。

 

「提督、これはどうい……」

「そんなことより長門、何かあったのか? お前にしては慌てているじゃないか」

 

 "長門"が言いかけた小言を無理やりねじ伏せて、堺は尋ねた。

 

「む、そうだった。聞いてくれ、装備品の確認のため倉庫を調べていたら、なんだかよく分からんが、すごいものを見つけたんだ。だが、私には分からん。提督、確認してはくれないか?」

 

 堺は"長門"の目を見た。"長門"はまっすぐこちらを見つめている。どうやら本当だ。

 

「分かった。長門がそこまで言うなら、見に行こう」

 

 そしてやってきた、件の倉庫。

 

「んー? 変だなあ、こんなところに扉なんてあったっけ?」

「それは私も疑問なんだ。まあとにかく、開けてみてくれ」

 

 堺は扉の前でしばし首を捻った後、"長門"に促されて扉に手をかけた。が、結局堺単独では開けられず、"長門"も手伝う羽目になった。

 

「暗いな、電灯は?」

「ちょっと待ってくれ……あった、これだ」

 

 そして倉庫内が明るくなってからしばらく経ち、明るさに目が慣れたところで、堺は倉庫の中を見て……思わず声をあげた。

 

「……は?」

 

 そこには、堺が予想もしていなかった物があったのだ。それも、大量に。

 

 

 具体的には、そこにあったのはキャタピラを履いた四角い車輌。車体上部には大砲が乗っている。見た限り、回転砲塔を持つようだ。戦車とみて間違いない。

 九七式中戦車チハより大きいようだ。全長はだいたい6メートルほどだろうか。幅もチハより大きいように見える。

 砲口径は、新砲塔型のチハと大して変わらない。だが、その新砲塔型チハよりも砲身が長い。その分発射された砲弾の貫徹力は高いと考えられる。恐らくだが、この戦車は新砲塔チハより強力らしい。

 その隣には、同じ車体の戦車がある。ただし、こちらは細長い砲身の砲ではなく、砲身は短いが太い砲を備えている。砲口径は75㎜くらいか。

 堺は、この短く太い砲身を持った戦車を指差して叫んだ。

 

 

 

 

 

「パンツェルカムプフワーゲンドライアウスフエヌ!?」

 

 

 

 

 

「ぱ、ぱんつ……?」

 

 外来語に弱い"長門"には、堺が何を言っているのかさっぱり分からなかった。

 

 

 堺が叫んだ名前は、ドイツ語である。綴りは、Panzer(パンツェル)kampf(カムプフ)wagen(ワーゲン)(ドライ) Ausf(アウスフ) N。ドライはドイツ語で数字の3だ。日本語に直すと、「Ⅲ号戦車N型」である。

 

 西暦1939年、ドイツ軍は戦場に新たな戦車を投入した。それがⅢ号戦車である。この戦車は、それまでのドイツ軍の戦車とは異なり、新たなドイツ軍機甲師団の中核を担うべく、様々な新技術を盛り込んで開発・生産された。

 まず、車体を大型のものとし、砲塔も当時としては類のない、3人乗りの大型砲塔とすることで車内容積を確保した。これにより、乗員の数を5人に倍増させ、それぞれを「車長」「砲手」「操縦手」「装填手」「通信手」の各担当に専念させることで、乗員の負担を減らして戦えるようにした。

 また、送受信が可能な無線機を標準装備としたことで、各車輌同士が即座に連携することが容易となった。これも、それまでのドイツ戦車や他国の戦車には見られなかった取り組みである。

 何より、車長が自身の職務に専念できるようになったのが大きかった。周囲を監視するためのコマンダーズ・キューポラによる視界の確保、タコホーンを用いての車内での命令伝達の明確化。こうした新たな要素がかき集められていたのだ。

 その結果、Ⅲ号戦車はその後の戦車のレイアウトを形作ったパイオニアとなったのである。

 

 ただ……Ⅲ号戦車がドイツ軍主力の座を占められた期間は短かった。Ⅲ号戦車は、将来的な発展の余地が残っていなかったのだ。具体的には、砲塔のターレットリングの半径が短かったので、75㎜砲を積んだ砲塔を載せられなかったり、車体の重量制限のために防御力の向上が見込めなかったり。だがそれでも、Ⅲ号戦車は前線で戦い続けた名機であった。

 

 

 今堺の前にあるのは、片方が短砲身75㎜砲を搭載したⅢ号戦車N型。そしてもう片方が、60口径と長砲身の50㎜砲を搭載し、同時に徒渉能力を高めたⅢ号戦車の最終タイプ、M型である。それが2種合わせて20輌以上、ずらっと並んでいるのだ。

 

「な、なんでこんなところにドイツ帝国(ナチス・ドイツ)の戦車があるんだ!?」

「これ戦車だったのか!? なんとなくチハに似てると思ったら……。ということは、あの奥の3つもか?」

 

 "長門"は、Ⅲ号戦車の車列の奥を指差した。見ると、そちらにはⅢ号よりも大きな影が3つある。

 

「ちょっと見てみるか」

 

 堺はそう言うと、その3つの影に近付いていった。慌てて"長門"も後を追う。

 

 近付いてみると、その3つはやはり戦車だった。だが、さっきのⅢ号戦車よりも大きい。特に一番右の戦車は、物置小屋かと錯覚するほどの大きさと、他とは一線を画する凄みを備えていた。堺はその戦車を見上げる。

 

「こ……これは……!」

 

 "長門"は堺の顔をちらりと見て、ぎょっとした。堺は、何やら恍惚とした表情を浮かべていたのだ。"長門"は、堺のこんな顔は見たことがない。

 その表情のまま、堺は呟くように言った。

 

 

 

 

 

「チーゲル戦車……!」

 

 

 

 

 

 堺の前にあった戦車は、Ⅲ号戦車よりも更に大きかった。そして、Ⅲ号戦車と同じく垂直装甲で構成された、ドイツ戦車特有のゴツく武骨なフォルムをしている。しかし、足回りはⅢ号とは異なり、縦2列に並んだ大きな転輪が、幅の広い履帯を支えていた。

 そして目を引くのは、その巨大な車体の上に乗っかった、これまた巨大な主砲。砲身は長く太く、見るからに強力な威力を持つことを窺わせる。Ⅲ号戦車の砲身なぞ比較にならない太さだ。砲身の先端には、円筒の左右にスリットを設けた部品……砲口制退器(マズルブレーキ)がついていた。

 

 Panzerkampfwagen(パンツェルカムプフワーゲン) (ゼクス) Ausf(アウスフ) E(エー)……Ⅵ号戦車E型。

 通称、「ティーガーⅠ」。

 

 ドイツ軍が開発し生産した、登場当時としては間違いなく世界一レベルのスペックを誇った、鋼鉄の虎である。搭載された56口径88㎜砲の破壊力は「凶悪」の一言で、T-34だろうとM4シャーマンだろうと、1㎞先から余裕で正面装甲を貫通する威力を持つ。また、車体前面100㎜、側面・後面80㎜の重装甲を持ち、空からの攻撃以外では相手からの攻撃に容易に屈しない。

 「(ティーガー)」の名にふさわしい強さを持った重戦車であり、戦場では連合軍を相手に無双することもあった。特にアメリカ軍の兵士たちはこのティーガーを極端に恐れ、ついには「ティーガー恐怖症」なる精神疾患まで患うほどであったと言う。

 

 現在のタウイタウイ泊地に配備されている戦車の中では、ダントツ1位のスペックである。

 

 ティーガーⅠに全部持っていかれた感があるが、残りの2輌もなかなかのもの。2輌ともⅣ号戦車G型である。

 独ソ戦を戦っていて、既存の戦車がT-34やKVシリーズに歯がたたないことを知ったドイツ軍が、それらに対抗できるようにするべく、Ⅳ号戦車の75㎜砲を長砲身にし、さらに装甲を厚くした改良型、それがこのⅣ号G型だった。それまでの24口径という短砲身で、貫徹力に期待の持てなかった貧相な砲から一転、43口径75㎜砲を持ったことで、T-34とも渡り合えるようになったものである。

 

「こいつらも、ドイツの戦車か?」

「ああ、間違いない。でも、なんでこんなのがあるんだろう……?」

 

 堺の疑問も尤もである。

 と、その時、

 

「ということはだぞ、提督。これらもドイツの装備なのか?」

 

 "長門"が指した先には、銃やら大砲やらが多数置かれていた。

 

「多分そうだろうけど、俺は銃なんかはあまり詳しくないんだ……。ちょっとビスマルク呼んでくるわ」

 

 そう言うと、堺は倉庫を出て、駆け出していった。

 

 ところが、"Bismarck"は演習中で捕まらず、堺は結局彼女の代わりに、重巡洋艦の艦娘"Prinz(プリンツ) Eugen(オイゲン)"を連れて戻ってきた。

 

「あれ? ビスマルクではなかったのか?」

「ああ。演習中で手が離せないらしい。今度こそ大和との因縁の勝負に決着をつけるんだとさ。まあ多分、勝てないだろうけど」

 

 "長門"と堺が会話する間に、"Prinz Eugen"は倉庫の中のものを調べていく。

 

「うわー……! 提督、これ全部ドイツの武器だよ。これはMG34機関銃、そっちはパンツァーファウストで、こっちはハノマーク装甲車と、キューベルワーゲン。で……」

「この拳銃、やたらカッコいいな」

「あ、それはワルサーP38だね」

 

 堺は、すぐ近くにあったピストルを手に取って眺めていた。

 

「M24型手榴弾、それにMP40……ああっ、アハトアハトまである!」

 

 完全に興奮気味の"Prinz Eugen"。どうやらこれら全て、ドイツ軍の兵器らしい。

 

「んで多分、あの壁際の大きい機械はこれらの製造マシンだよ」

 

 壁際に、巨大な機械が幾つも並んでいる。

 

「なるほどな……。しかし、なんでこんなものが……? 転移した時に何かおかしくなったかな?」

 

 堺が首を捻った、その時だった。

 

「ねえ提督……。あれ……何……?」

 

 "Prinz Eugen"の声が止まった。

 

「?」

 

 堺も"長門"もそちらを見て……息を飲んだ。

 

「なっ、何だこれは!?」

「こ……これは……!」

 

 疑問符を頭に浮かべる"長門"。その横で、何かを知っている様子で堺が呟く。

 

「伝説の中のみの存在だと思ってたが…まさか、本当にあったのか……!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「手筈通り、やれたかの?」

「はい、抜かりなく」

 

 ここは、どこまでも白い空間が続く、神様たちの住まう場所。神域とでも表現すべきか?

 この名前で、とある火山地帯とそこに住まう龍を想像した方は、モン◯ンのやりすぎではないでしょうか?

 

 そんな神域にある神殿状の建物の1室で、白い髭を蓄えた70代くらいの白髪の男性(もちろん見た目だけ。中身は神である)が、麦の穂を抱えた豊穣の女神に問いかけた。それにはっきりした返事を返す豊穣の女神。

 

「これで彼らも、アレらを繋ぎとして利用することで、頑張れるでしょう」

「元々、かつての日本軍は、Ⅲ号戦車についてはライセンス生産権を得ておったし、Ⅳ号にしてもⅥ号にしても1輌は購入しておったからの。それに、同盟国の誼でいろいろ()()()を付けてやっただけじゃ。何も問題はないでの。しかし、今になって愚問じゃが、アレは付ける必要があったのじゃろうか?」

「アレ、と申しますと?」

「伝説で語られていた、あの特別なシロモノじゃよ。名は何といったかの、で……ディグ……?」

「そんなことは、今さらお気になさっても仕方ないでしょう。やってしまったことですから。後はただ、彼らの健闘を祈るのみです」

「うむ。まあ、後は彼らの様子を見るとしようかの」

 

 そう言うと、老神は目の前の映像に映るタウイタウイ泊地を見た。そこには、この老神がチート特典として送ってやった、多数の装備が眠っている。手榴弾に短機関銃、強力な野戦高射砲、それを主砲に転用した戦車。そして、伝説のアレ。

 それらを見つけ、運用できるかは…彼ら次第。

 

「よろしく頼むぞい、お若いの」

 

 老神は、誰に言うともなしに呟いた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 後に堺は、この先の兵器開発と各国軍への供出に関して、以下のような方針を定めた。

 

・ワイバーンの脅威から機甲師団を守るため、喫緊の課題として、機甲師団の空を守ることのできる防空戦闘車輌を開発し、量産配備する。具体的には、泊地の備品として眠っている「2㎝四連装Flak38」と、新たに見つかったⅣ号戦車G型の車体を合わせ、「Ⅳ号対空戦車 ヴィルベルヴィント」の開発を行う。

・Ⅲ号戦車の車体とⅣ号戦車の主砲とを合わせ、「Ⅲ号突撃砲」を開発する。ゆくゆくは、Ⅳ号戦車の車体とティーガーの主砲を合わせる等して、「Ⅳ号駆逐戦車ラング」やそれに相当する車輌を開発することを考えている。

・今回見つかったドイツ軍装備は、基本的にロデニウス連合王国軍でも運用するほか、各国軍にも提供するものとする。供与するのはパンツァーファウストとⅢ号戦車、Ⅳ号戦車、ハノマーク、キューベルワーゲン、MG34機関銃、M24型手榴弾、MP40、ワルサーP38、8.8㎝ Flak36(アハトアハト)高射砲。現時点ではティーガーⅠと「アレ」は供与しない。

・短機関銃については、ロデニウス連合王国軍、および各国軍に供給する短機関銃は、MP40で統一する。百式機関短銃の開発は中止。またそれに合わせて、各国軍への十四年式拳銃の供与予定を中止し、供与する拳銃をワルサーP38に変更する。

・将来的には、MG34とMP40は、それぞれMG42とStG44への装備更新を目指す。

・「アレ」について、性能の把握を急ぎ、早期の運用開始を目指す。ただし、同系統の装備が全くないことから、性能把握の難航が予想される。

 

 また、今回の発見によって、以前に挙げられた課題のうち、

 

・「短機関銃もしくはアサルトライフルの開発と配備」

・「対戦車戦闘能力を持つ新型戦車の開発と配備」

・「新型の野戦速射砲の開発と配備」

・「新型の野戦高射砲の開発と配備」

・「強力な歩兵携行型対戦車火器の開発と配備」

・「手榴弾の形状改善」

 

 といった課題が、一挙に解決されてしまった。特に「野戦高射砲」と「野戦速射砲」の2つの要素を兼ね備えた8.8㎝ Flak36の発見は大きい。

 

 ただし、同時に新たな課題も発生した。

 

・"明石"と"夕張"による計算の結果、ラ・フランス型輸送艦にはティーガーⅠの搭載能力がないことが判明。というのは、ティーガーⅠは重量57トンとデタラメに重く、ラ・フランス型の艦首の渡し板がその重量に耐えられない、ということが発覚したからである。また、ティーガーⅠの幅3.7メートルの巨体は、ラ・フランス型の艦首搬入口に収まらなかったのだ。重量25トン程度、かつ幅3メートル以内に収まるⅢ号戦車やⅣ号戦車は、なんとか搬入して搭載できるのだが。したがって、ティーガーⅠを輸送できる新たな輸送揚陸艦の設計と建造が急務となった。

・StG44という、アサルトライフル開発の目処が立ったことで、主力小銃の更新を考える。史実におけるStG44の開発時期を考えると、時代的にはそろそろ自動小銃の開発・配備が行われているからである。

 

 

 なお、この一騒動が落ち着いた直後、堺は提督机の片付けをサボったのがバレて、"長門"から両のこめかみを握りこぶしでグリグリされる羽目になったが、別にどうということはないので割愛する。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その翌日。

 未だ両こめかみの痛みを引きずったまま、堺はある2名の艦娘を提督室に呼び出していた。

 

「提督、わざわざ呼び出しとは……いったいどんな内容なのですか?」

「そうね。新型機でも配備していただけるのかしら?」

 

 2人のうち片方は、赤い袴を着用して黒い胸当てを着け、右肩に長大な飛行甲板の艤装を装着している。腰に着けた防具には、「ア」の文字があった。

 もう片方も、長大な飛行甲板の艤装を装着している。ただし、こちらは左肩にそれがついていた。そして、青い袴に身を包み、腰の防具には「カ」の文字がある。

 

 正規空母の艦娘、"(あか)()"と"()()"。ともに、栄光の第一航空戦隊を務める空母にして、堺率いるタウイタウイ泊地における古参レベルの空母艦娘である。特に"赤城"は、泊地に着任した()()()()()()として、長いキャリアを誇っていた。

(とはいえ、このキャリアは"(ふぶ)()"や"摩耶"には劣る上に、"赤城"は()()()の空母、というわけではない。というのは、堺は“敵空母に対抗するにはこちらも空母を持つしかない”と考え、なけなしのボーキサイトを突っ込んで軽空母"(ずい)(ほう)"を建造していたからである。このため、泊地の()()()()()の座は"瑞鳳"に持っていかれた)

 ちなみに、2人とも弓を持ち、矢筒を背中に背負っている。演習中だったところを堺に呼び出されたのだ。

 

「演習中のところ、急に呼び出してすまないな。大事な話があったんで、呼ばせてもらったんだ。

赤城、加賀。提督たる堺 修一の名において、両名に対し“第二次大規模改裝”を命ずる」

「!?」

 

 まさかの命令に"赤城"の目が見開かれた。

 

「改二、ですね。さすがに気分が高揚します」

 

 "加賀"の表情は、無表情のままだ。しかし彼女は実は感情豊かであり、それが顔に出てこないだけなのだ。実際、"加賀"の声はいつになく弾んでいる。

 

「提督、2人揃って改二となると、改裝工事には相当の資源と時間が必要だと思うのですが?」

 

 "赤城"は冷静に意見具申している。

 

「もちろんだ。だが、資源ならすぐ供給できるし、それに2人とも改裝がかなり大規模なんだ、特に赤城。時間がある時にやっておきたい。

まあ、赤城の懸念も尤もだが……うちだって、正規空母2隻が戦線離脱したくらいでやられるほど、ヤワじゃないさ」

 

 堺はゆっくり、諭すように話した。

 

「そこまで仰るなら、分かりました。それで、どんな改裝を行うのですか?」

「そうだな、まず加賀から説明しよう。史実の加賀は、艦首にカタパルトを設置しようとしてたろ? アレを再現しようってだけさ。あと、それに伴って甲板の装甲化と着艦制動装置の交換、それに機関の交換を行う。これは新型機の運用を見据えてだ」

「カタパルト、ですか。気分が高揚します」

 

 そう、堺は「加賀」にカタパルトを付けようとしたのだ。

 本来であれば"加賀"の改二改装など、行うことはできない。しかし、転移した後で堺が艦娘図鑑や改裝リストを調べてみると、どういうわけか"加賀"を含めた全艦娘の改装がアンロックされていたのだ。おそらく、転移と同時に連合艦隊司令部の所管を離れてしまったので、それが影響したのだろう。

 

「ただな、その交換する新型機関がかなり重いんだ。出力はバッチリなんだけどな。あと…飛行甲板の装甲化も艦首部分のみに留まるから、今のところ加賀はジェット機は運用できないぞ」

「プロペラ機で十分です」

「そう言って貰えると助かる。あと、艦首と艦尾のバランス調整のため、その艦尾の20.3㎝砲は全部外す予定だ」

 

 堺がそう言ったとたん、"加賀"の声が冷え込んだ。

 

「では提督、外す前に記念として撃っていいですか?」

「ああ、構わんよ……ん? 何に撃つ気だ?」

 

 堺がOKし、しかし"加賀"の声の冷え込みと砲撃の対象物に不審を抱いたその瞬間。

 

シュッ! と。

 

 堺からしたら残像すら霞んで見えるほどの速度で、"加賀"が飛行甲板の艤装を水平に構えた。そして、

 

「撃ち方はじめ」

 

 艤装の艦尾部分に据えられた20.3㎝単装砲5基が火を噴く。その先にいたのは……他ならぬ堺だった。

 (でん)(こう)(せっ)()(はや)(わざ)に、堺はただ、こう叫ぶことしかできなかった。

 

「フタエノキワミアッー!!」

 

 

「あいててて……全く、なんで俺が撃たれるんだよ……?」

「ちょうどいい的が他にありませんでしたので」

「あぁんまりだぁァァァ」

 

 そう、せっかくの20.3㎝砲を外すと聞いて、"加賀"は少しキレてそれを堺にぶちこんだのだ。

 幸い、見た目通りのサイズの豆鉄砲(ただし爆発はする)なので、堺には言うほど被害は出ていない。

 

「ゴホン……さて、次は赤城だが……」

「提督」

 

 一連のやり取りを見て何かを考えていた"赤城"が、堺を遮るように口を開いた。

 

「三段式甲板は……要りませんよね? あと、私にも20.3㎝砲外せって言いませんよね?」

 

 すると堺は、"赤城"から目を逸らして。

 

「……君のような勘のいい艦娘は苦手だよ」

 

 その瞬間、"赤城"は目にも止まらぬ早業で飛行甲板を構えた。

 

「提督。加賀さんだけ撃っておいて、私はお預け、なんてことにはさせませんよ?」

(「コマンドー」ネタのボイスで脳内再生して下さい) 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 かくして、この日1日だけで16発におよぶ203㎜砲弾(ただし爆発する豆鉄砲)を喰らった堺であった。




ドイツ軍の兵器をちょろっと解説。

MG34重機関銃
ドイツ軍の機関銃。銃架により様々な用途に使える、初の本格的な汎用機関銃だった。これの改良型が、「ヒトラーの電動ノコギリ」もといMG42。

パンツァーファウスト
ドイツ軍の対戦車兵器。成形炸薬の弾頭を発射する。ちなみに使い捨て。強力なので、ドイツ軍はやたらとこれを量産し、末期には銃も足りていない国民突撃隊に配りまくった。

ハノマーク装甲車
ドイツ軍の装甲車両。兵員輸送用のハーフトラックみたいなもん。MG34で武装していたり、火炎放射器を搭載したものもある。

キューベルワーゲン
ドイツ軍の軍用自動車。くろがね四起より優秀だが、アメリカ軍のジープには性能が及んでいない。ハノマーク共々、ドイツ軍の足を支えた。

ワルサーP38
ドイツ軍の拳銃。例の歌のリズムが脳内再生された人は挙手。ちなみにあの大泥棒が使っているので、日本でもなかなか有名な拳銃。カッコいい。

M24型手榴弾
ドイツ軍の手榴弾。ル◯ン三世やらラ□ュタやらガル◯ンやらで、底についた紐を引っ張ってから投げる、細長い持ち手のついた手榴弾が出てくるよね。アレこそこの手榴弾。

MP40
ドイツ軍の短機関銃。これを元にして、世界初のアサルトライフルであるStG44が開発される。ちなみに「ヒトラー最期の12日間」でフェーゲラインの処刑に使われたのはこのMP40。よって、閣下これくしょん系の動画で「フェーゲラインのデイリー処刑」があるたびにこれが登場する。
「はい死んだー!」ズダダダダダダダダ!→バタッ、ンデロリーン♪

アハトアハト
アハトはドイツ語で「8」。ドイツ軍の88㎜野戦高射砲。高射砲だが対戦車砲としても使われた。連合軍が恐れたドイツ兵器の1つ。ティーガーの主砲もこれが元になっている。

さて、伝説のアレって何なんでしょうねー(棒読み)

そして、今回はだいぶネタに走りました。ニコニコ動画のネタばっかりですね。


次回予告。

ついに、王政への移行が政治部会で可決された。そして、いよいよ国民投票にかけられる。ところが、その他の国家が…?
次回「誕生!!ロデニウス連合王国!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。