鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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さて……お待たせ致しました。旧日本海軍が望んで止まなかった場面の1つ、艦隊決戦の時間です!

それと、以前にも謝罪申し上げたのですが、もう一度。

全国の"名取"ファンの皆様、たいへん申し訳ございませんでしたぁっ!!(スライディング土下座)



179. 大東洋に覇者の立つ刻

 中央暦1643年6月10日 午後2時、ロデニウス大陸西方130浬沖。

 真っ昼間の波静かな大東洋を(ごう)(ごう)とどよもして、2つの艦隊が激突しようとしていた。片方はグラ・バルカス帝国海軍特務軍艦隊、もう片方はロデニウス連合王国海軍の連合艦隊。

ただし、ロデニウス艦隊は3手に分かれている。艦隊決戦の主役となる戦艦を唯一配備している第13艦隊を中心に据え、その両翼を第2・第4艦隊が固めているのだ。

 

「敵艦隊、我が艦隊正面、距離300(30,000メートル)! 敵戦艦の並びは…先頭から順にグレードアトラスター級1、偽(なが)()型2、偽(こん)(ごう)型2!」

 

 熟練見張員から報告を受け、ロデニウス艦隊の総指揮官たる“大和”は決断した。

 

「対水上戦闘、右舷砲戦用意! 砲戦距離フタゴーマル(25,000メートル)!

本艦目標、敵1番艦! 『イタリア』『ローマ』目標、敵2番艦! 『ウォースパイト』目標、敵3番艦! 『()()』目標、敵4番艦! 『日向(ひゅうが)』目標、敵5番艦!

巡洋艦と駆逐艦の皆さんは、第2・第4艦隊と連携して敵水雷戦隊を防いでください!」

 

 声に張りがあるのが、自分でもはっきりと分かる。

 史実における戦艦「大和」は、艦隊決戦の切り札として建造された。それも、如何なる敵戦艦をも圧倒する46㎝砲を装備する、世界最強の戦艦として生まれたのだ。つまり、“大和”の本懐は艦隊決戦にあると言える。

 その艦隊決戦の機会が、ついに訪れたのだ。それも、相手は自身と同格だ。

 しかも今回は防衛戦。提督と仲間たちの帰る場所を守るためにも、負けることは許されない、絶対に勝たねばならない。

 魂が震え、熱い()(しお)が全身を駆け巡るのが分かる。

 この一戦、絶対に勝つ…その気迫を込め、“大和”は号令した。

 

「Z旗(いち)(りゅう)!」

「了解、Z旗一旒」

「通信長、ロデニウス大陸に打電! 『天気(せい)(ろう)、艦隊決戦の刻近し』!」

「『天気晴朗、艦隊決戦の刻近し』了解。本土に打電します!」

 

 いよいよ開戦である。

 戦艦だけでいえば、ロデニウス連合艦隊は6隻を動員している。だが、その内訳はというと、「大和」の他は38㎝砲を持つ「イタリア」「ローマ」「ウォースパイト」、そして35.6㎝砲を持つ「伊勢」「日向」だ。敵艦隊に対して火力で劣っているのは否めない。

 しかし彼女には、この状況をひっくり返し得る「作戦」があった。

 

「さて……全部隊に命じます。『状況を開始せよ』!

戦艦部隊は私に続け、(とり)(かじ)90度! 主砲、右砲戦!」

 

 

 一方、グラ・バルカス帝国特務軍艦隊側も腹を括っていた。

 

「二線級の部隊しか残っていないと思っていたら、まさか本土にグレードアトラスター級のそっくりさんがいたとは……」

 

 艦隊司令アンネッタ・ミレケネス中将の言葉には、色々な感情が込められている。

 まずそもそも、ロデニウス連合王国にグレードアトラスター級戦艦があるとは彼女は思っていなかったのだ。自国の最新鋭戦艦にして超秘密兵器を、他国も実用化しているとは考えていなかったのである。

 次に、仮にロデニウスにグレードアトラスター級があったとして、それがまだ本土に残っているのは想定外だったのである。最新兵器は軒並みムー大陸に送られていると思っていたのだ。それが見事に外れた格好である。

 最後に、そうした想定ができなかった自身の甘さに対する後悔もあった。

 

「司令、この『グレードアトラスター』は最強の戦艦です。たとえ相手に我が艦のそっくりさんがいたとしても、負けはしません」

 

 艦長のマリノス・ラクスタル大佐が口を開いた。

 

「…ああ、そうだなラクスタル艦長。

帝王陛下の期待がかかったこの一戦、負ける訳にはいかない。勝つぞ」

「もちろんです。帝王陛下の(おん)(ため)に」

 

 戦艦「グレードアトラスター」を先頭に、特務軍艦隊は突き進む。戦艦の並びは、先頭から順に「グレードアトラスター」、ヘルクレス級戦艦「ヘルクレス」「コルネフォロス」、オリオン級戦艦「ワサト」「ベテルギウス」だ。

 

「もうすぐだな……艦長」

「はっ。(おも)(かじ)いっぱい。左並行戦に移行」

「戦艦部隊、『グレードアトラスター』に続け。面舵いっぱい!」

 

 ミレケネスが号令を出した直後、敵艦隊の動きが変わった。3つに分かれた敵部隊のうち、戦艦を有する中央の部隊が左に舵を切ったのだ。先頭の偽グレードアトラスター級から順に、艦首を左へ振る様子が見える。

 その時、

 

「対空レーダーに感3。敵艦隊の後方です」

「何だと?」

 

 レーダー手から報告が上がった。どうやら敵は戦闘機を出してきたらしい。

 ミレケネスは自軍の不利を感じた。

 

「まずい……これでは観測機を出せないな」

 

 如何に優秀な射撃用レーダーを持つグラ・バルカス帝国といえども、レーダー照準射撃では近距離でもない限り命中精度を確保しきれない。主砲の命中率を上げる最も効果的な方法は、弾着観測機を飛ばすことなのだ。

 だが観測機は鈍足であり、強力な性能を持つ敵戦闘機が出てくれば、勝負にならないまま撃墜されてしまう。

 

「仕方ない……観測機抜きでやるしかないか。艦長、負担をかけるが頼む」

「何を仰いますか、司令。本艦の砲術員は皆優秀です。観測機無しでもやってみせますよ」

 

 ラクスタルの言葉が、いつになく頼もしく感じられる。

 

「敵との距離25,000!」

「艦長より砲術。砲戦よう……」

 

 砲戦用意、という号令をラクスタルが出そうとした、その時だった。

 

『こちら艦橋見張り! 左45度、敵雷撃機多数!』

「「何だと!?」」

 

 見張員の絶叫を受けて、ミレケネスとラクスタルは揃って叫んだ。

 窓から外を見ると、確かに海面すれすれの低空から複数の機影が向かってくる。双眼鏡を覗いてみると、それらの機体は明らかに下腹に魚雷を抱えていた。

 

「艦長より航海、取舵いっぱい! 急げ!」

「しかし、それでは砲戦が……!」

「やむを得ない、艦長の言う通りだ。回避を優先しろ! それと、対空戦闘だ!」

『敵機のさらに後方、ワイバーン多数! ロデニウス軍のワイバーンと思われます!』

「ワイバーンだと?」

 

 一旦敵機に対処することを決めたミレケネスの元に、さらに意味不明の報告が入る。

 鋼鉄艦が相手では、ワイバーンは何もできない。そのことはバルチスタ沖の戦いで自分たちが証明したし、ロデニウス軍だってパーパルディア皇国との戦闘で知っているはずだ。

 だというのに敵はそのワイバーンを繰り出してきた。何のために?

 

(何だ、この嫌な予感は……)

 

 「グレードアトラスター」が急速に回頭するのを感じながら、ミレケネスは不気味なものを感じていた。

 

 

「行くぞ! 2番、3番、俺に続け!

ターナケイン、戦果確認は頼むぞ!」

 

 多数のレシプロ機が敵戦艦に突進していくのを眺めつつ、竜母「アイベリー」から発進したロデニウス連合王国軍の竜騎士ムーラは、部下たちに魔信で指示を飛ばす。

 ロデニウス軍はこの日の朝早くから攻撃を続け、グラ・バルカス帝国艦隊を大幅に討ち減らしたものの、まだ相当数が残っている。しかも、戦艦の砲戦火力ではロデニウス艦隊が未だ劣勢である可能性が残っていたため、ロデニウス連合艦隊の指揮官である”大和”としては、少しでも敗北のリスクを減らしたかった。

 そこで“大和”が執った戦法が、「空襲しながら艦隊戦」というものである。軍艦と航空機という、全く性質の異なる2つの敵に同時に対処するのは難しいことだ。そう判断した“大和”は、後方に控えさせた“(ほう)(しょう)”“千歳(ちとせ)”“()()()”“Saratoga(サラトガ)”“(りゅう)(ほう)”から攻撃隊を出してもらったのである。ここまで出番がなく、出撃の機会を待ちわびていたせいもあり、攻撃隊は喜び勇んで敵艦隊へと向かっていった。

 また同時に、“大和”は竜母「アイベリー」からも竜騎士40騎を出してもらい、航空戦に役立てようとしている。普通に考えれば、ワイバーンの導力火炎弾は鋼鉄の軍艦には効かないのだが……実は竜騎士たちは皆、新兵器を用意していた。

 

「第1小隊俺に続け! 前方にいるあの小さい敵艦をやるぞ!

ウイング隊形を取れ! 導力火炎弾、及び『ブラストアロー』用意!」

 

 やや上方に占位するターナケインのワイバーンロードを残し、ムーラ直率のワイバーン小隊(ワイバーン1騎、ワイバーンロード2騎)はVの字形に並んで駆逐艦に向けて突進する。ワイバーンが大きく口を開いて導力火炎弾の発射態勢に入る(かたわ)ら、ムーラたち竜騎士は片手にボウガンを構えた。

 “大和”からの依頼は、「敵駆逐艦の数を減らしてほしい。導力火炎弾だけでは難しいが、新兵器を利用した新戦術なら戦える。少なくとも訓練においてはそれが証明されている。これまでの(たん)(れん)(きた)えた腕と仲間を信じて、どうか戦ってきてもらいたい」である。

 

(大和殿の言った通りだ…敵はこっちに向けて撃ってこない。船とワイバーンの両方に同時に対処するのは難しいんだ!)

 

 その確信を抱きつつ、ムーラは慎重に敵艦との距離を測る。

 

「ようーい……てぇっ!」

 

 号令と同時、

 

カシュンッ! カカシュンッ!!

 

 ボウガンのトリガーが引かれ、通常よりやや大きい矢が飛び出す。と思いきや、その矢は空中で後部から白煙を噴き出し、まるで無誘導ロケット弾のように敵駆逐艦へと向かっていく。それに並ぶ形で導力火炎弾も飛んでいく。

 

ドドンッ……グワァーン!!

 

 放たれた導力火炎弾、そして「ブラストアロー」は、照準過たず駆逐艦に次々と命中。と次の瞬間、敵艦は艦体中央部から盛大な火柱を噴き上げて爆発した。だがムーラも部下たちもそれを省みることなく、一目散に離脱していく。

 ある程度高度を取ったところで、

 

『やりました隊長! 敵艦(ごう)(ちん)です!!』

 

 戦果を確認していたターナケインから、喜びの声が届いた。

 

「よし、次行くぞ! 少しでも敵にダメージを与えるんだ!」

 

 指示を飛ばしつつ、ムーラは胸の内で呟いた。

 

(最初に「ブラストアロー」を見せられた時は、あんな(しろ)(もの)で鋼鉄の軍艦を攻撃できるものかと思ったが……まさか轟沈まで持っていけるとはな。だがこれでワイバーンにも、新しい対艦攻撃の手段ができた……!)

 

 今回使われた「ブラストアロー」。これは、大東洋共栄圏に参加しているパンドーラ大魔法公国、アルタラス王国、ロデニウス連合王国の3国共同で新しく開発された、竜騎士携行用のボウガンの矢である。

 原型はパンドーラで作られたボウガンの矢「ルーンアロー」だ。元々これは、水上艦に乗る水兵が持つワイバーンロード迎撃用兵器として作られたものだが、これを見たロデニウスの技術者があることに気付いた。

 

『これ、ロケット弾に構造が似てないか?』

 

 そう、「ルーンアロー」の動作原理は、矢に仕込まれた魔石の力で後部から空気を噴射しつつ推進、着弾時は爆裂魔法が作動するというものである。これがロケット弾の機構に似ていると気付いたロデニウス側が、新たな兵器を思いついたのだった。

 

『そうだ、「ルーンアロー」の威力をもっと高くすることができれば、竜騎士の戦術の幅が広がるんじゃね?』

 

 ということで、「ルーンアロー」を叩き台にして作られたのが「ブラストアロー」である。「ルーンアロー」の構造はほぼそのままに、弾頭部などの魔石にはアルタラス産やロデニウス産の高純度魔石を使い、そこにパンドーラやロデニウスの魔導士が頑張って強力な爆裂魔法の回路を組み込んだ。さらに、弾頭付近にロデニウス製のプラスチック爆薬「HC-4」を組み込み、ついでに本体の空いた空間に揮発油を充填することで、軽量と高威力の両立を狙っている。また、ジュラルミン製の矢本体には4枚の小さな羽を取り付けることで弾道を安定させると共に、発射直後は空気の噴射による推進、途中から固体燃料の燃焼によるロケット推進に切り替えることで、射程距離の向上を狙っていた。

 完成した「ブラストアロー」は、重量そのものは100グラム程度ながら威力は30㎏爆弾のそれに匹敵し、射程距離も「ルーンアロー」の2㎞から延伸して2.7㎞になるなど、十分な性能を出せるようになった。ロデニウス連合王国を含め、大東洋共栄圏でワイバーンを運用する国では、これを竜騎士に持たせて戦術の幅を広げる研究が続いている。

 このうちロデニウス軍では、この「ブラストアロー」を超小型無誘導ロケット弾と捉えて、鋼鉄製の軍艦を攻撃する手段として運用しているのだ。ワイバーンの導力火炎弾では鋼鉄製の軍艦にダメージを与えるのは難しいが、爆発物ならやれる可能性があるからである。

 そして、この新たなロケット兵器の攻撃を受けた駆逐艦は、たまたま魚雷発射管に「ブラストアロー」が命中したことで魚雷が誘爆、一撃で轟沈してしまったというわけである。

 

 ムーラとターナケインの隊だけでなく、他のワイバーン隊も「ブラストアロー」と導力火炎弾による攻撃を行っている。竜騎士の中には、駆逐艦の上空を通り過ぎる瞬間に対戦車用の収束手榴弾の安全ピンを抜いて投げ込み、追撃を仕掛ける者もいた。

 そこへ、敵の駆逐艦や軽巡洋艦の周囲に次々と水柱が立ち始める。第2・第4艦隊が交戦を開始したのだ。第4艦隊は第13艦隊の駆逐隊と共に戦艦部隊の前に陣取り、敵駆逐艦を防ぐ役割を担っている。第2艦隊は敵に突撃しようとしていた。

 さらに、第13艦隊から1隻の軽巡洋艦が飛び出し、敵駆逐艦に向けて砲撃を開始する。と、ムーラが見ている間に一瞬で駆逐艦1隻が大火災を起こした。機関をやられたらしく、行き脚がみるみる衰えていく。

 

「何だありゃ……凄まじい練度だ…!」

 

 驚きながらも、ムーラは自身の為すべき仕事を思い出す。

 

「全騎、まだまだ行くぞ! 海軍の艦隊が少しでも戦いやすいように、1隻でも多くの敵艦にダメージを与えるんだ!」

 

 一方、ワイバーン隊の真下では、

 

「アハハハハハハハ!! 私に殺れぬ敵はいなーい!!」

 

 完全に狂戦士と化した“()(とり)”が、片っ端から14㎝砲弾を叩き込んで駆逐艦を次々と無力化していた。

 実際、タウイタウイの“名取”は地球にいた頃、単独で戦艦ル級flagshipを相手取り、主砲だけでこれを大破させたことがある。姫級などのぶっ飛んだ敵でもない限り、本当にこの“名取”に殺れない敵はいないのだ。

 ちなみにこの時、「名取」の通信長妖精が誤って無線をオープンチャンネルにしたまま放置していたため、しばらくの間この狂声が無線でダダ漏れになっていた。そのため、うっかりこれを聞いてしまった者は敵味方問わず恐怖した。

 

「な、何アレ……。あんなの見せられた上に狂った声まで聞かされるなんて、今日は厄日だわ!」

 

 そして、戦場の後方で空母及び竜母の護衛にあたっていた練習巡洋艦の“鹿()(しま)”もこれを聞かされてしまい、真っ青な顔でそう呟いた。

 

 

「突撃よ! 敵の駆逐艦と巡洋艦を少しでも減らし、第13艦隊を援護するのです!」

 

 ロデニウス海軍第2艦隊に所属するニジッセイキ型軽巡洋艦「キクスイ」の艦橋で、白い制服に身を包んだ女性が指示を飛ばしている。身長は低めだが、それに見合わぬがっちりした体格をしており、ドワーフ族であることが窺える。

 彼女の名はナルミア・ボルキシアン・メツサル。階級は中佐。「キクスイ」の艦長である。

 そして、彼女のラストネームでお気付きになった方もいるかもしれないが、これまで何度か登場したロデニウスの外交官デルムス・フィーナ・メツサルは、彼女の兄である。え、彼女の年齢? まあ、年齢の割に少し若く見える、とだけ言っておこう。

 元々は旧クイラ王国海軍で軍船の船長をしていた彼女だが、ロデニウス大陸諸国の再編と、それに伴うロデニウス連合王国軍発足に伴い、新たにロデニウス海軍第2艦隊に編入された。最初は砲艦の艦長からキャリアを始め、1年ほど前にこの「キクスイ」艦長職に就任している。実は昇進スピードがかなり早く、それだけ彼女は優秀な軍人だということである。

 

「右魚雷戦用意、雷撃距離7,000! 調定深度3メートル、散布角3度、発射雷数8!

それと主砲、やられっぱなしでいることはありません! 撃て!」

 

 号令一下、「キクスイ」に据え付けられた「14㎝単装砲」のうち左舷前方に指向可能な2基が火を噴いた。

 軽巡洋艦「キクスイ」は現在、2個駆逐隊8隻を率い、敵戦艦部隊に対して突撃水雷戦を仕掛けているところである。水雷戦隊の親玉として先頭に立って切り込むのが、軽巡洋艦の役目なのだ。

 敵艦隊からは次々と砲弾が飛んでくる。「キクスイ」の周囲には何本もの水柱が突き立ち、海面が激しく湧き立っている。水柱の大きさから察するに、おそらく駆逐艦と軽巡洋艦の主砲だ。

 

「最大戦速! 私に続いて!」

 

 連続する弾着で海面が真っ白に染まり、瀑布を思わせる量の飛沫すら上がる。そんな海面を切り裂き、10隻以上の艦艇が突撃する。

 

「敵との距離は!?」

「10,000です!」

 

 そんなやり取りすら大声で行わなければならないほど、戦場の音響は凄まじい。砲声、自艦の機関音、落下した敵味方の砲弾の炸裂音……下手をしなくても聴覚がおかしくなりそうだ。

 敵艦隊との距離が9,000メートルまで詰まった時、「キクスイ」はついに命中弾を受けた。艦体前部に閃光が走り、揚錨機が吹き飛ばされる。

 かと思えばさらに1発が命中し、この直前まで応戦していた1番主砲が沈黙する。

 

「1番主砲、弾火薬庫注水。急げ!」

 

 メツサルの命令に、金属質の破壊音が重なる。今度は艦橋の後方から聞こえてきた。

 

(くっ……もう照準が合い始めたか。仕方ない!)

 

 後部にまで直撃を受けたのでは、状況はかなり危険だ。ぐずぐずしていると、機関に直撃を受けて航行が困難になるか、魚雷発射管を砲弾が直撃して魚雷が誘爆、轟沈しかねない。

 

「取舵いっぱい。全艦、針路180度!

回頭終わり次第、魚雷発射始め!」

 

 距離8,000メートルの地点で、メツサルは限界と判断して魚雷発射を命じた。

 1発また1発と敵弾を受けながら、「キクスイ」の排水量5,500トンの艦体が左へ旋回する。

 

「魚雷発射完了!」

「よし、取舵いっぱい! 一度離脱します!」

 

 報告を受けたメツサルは、決断を下した。

 後部の主砲で応戦しつつ、避退に移る「キクスイ」。指揮下の駆逐艦も順次魚雷を発射し、そのまま回れ右して撤退しようとする。

 何隻が生き残り、何発の魚雷が命中するかは、まだ誰にも分からない。

 

 

「まさか、こんなことになるとは……!」

 

 水柱が海面に突き立つ中、激しく揺れる「グレードアトラスター」艦橋で、ミレケネスはそれだけ言うのがやっとだった。

 ロデニウス軍のワイバーン隊は方向転換して駆逐隊に向かっていったものの、航空機はしつこくこちらを狙ってくる。そればかりではなく、敵戦艦の主砲弾までが飛んできているのだ。

 航空機が抱える魚雷に下腹を抉られたら最後だ。艦が傾斜してしまい、正確な砲撃ができなくなる。そうなれば、後は敵戦艦に一方的に叩かれておしまいだ。そのため特務軍艦隊の戦艦5隻は現在、必死の対空戦闘と回避運動を余儀なくされていた。当面は空襲を乗り切る、との決定である。

 

「撃て! 撃ち落とせ!」

 

 ラクスタルも必死の形相で指示を飛ばす。

 高角砲や対空機銃が絶え間なく火を噴き、敵機は1機また1機と落ちていく。だが、怯む様子は全くない。投下した魚雷を全て回避されても、諦めないようだ。

 この時「グレードアトラスター」の艦尾でも、搭載された三連装の対空機銃が火を噴いていた。そこに「アンタレス」に似た形状の敵機が1機向かってくる。その主翼の下にはロケット弾があった。

 

「撃ち落とせ! 早く!」

 

 機銃手たちが叫びながら発射ボタンを押し続けるが、なかなか当たらない。

 向かってきた敵機がロケット弾を発射し、左右合わせて4条の白い煙の筋が噴き伸びる。それは「グレードアトラスター」の艦尾にある飛行甲板を襲い……左舷側のカタパルトを吹き飛ばした。

 

「1番カタパルト損傷!」

「くそっ、これでも喰らえ!」

 

 対空機銃が唸り、撃ち出された弾が敵機の機銃の曳光弾と交差する。次の瞬間、敵機は主翼から盛大に火を噴いた。「やった!」と機銃手たちが喜ぶ暇もなく、炎上した敵機はそのまま高速で突っ込んでくる。

 

「伏せろ!」

 

 誰かが叫び、機銃手たちが咄嗟に身を伏せた直後、激しい衝突音と爆発音が響いた。その狂騒が収まった後、顔を上げた機銃手たちは愕然とした。

 彼らの前にあったのは、飛行甲板にぶちまけられた炎と敵機の残骸らしき破片。そして、大きくひしゃげた2番カタパルトだった。

 どうやら墜落した敵機が激突したらしい。

 

「ああ! カタパルトが!」

「なんてこった、これじゃ観測機を出せない!」

 

 カタパルトが破壊されてしまっては、外洋で観測機を運用するのはたいへん困難だ。しかも今は戦闘中である。迂闊な真似はできない。

 「グレードアトラスター」は、観測機抜きでの砲戦を余儀なくされるのだった。そしてその時、「グレードアトラスター」以下の戦艦部隊を守るように展開していた駆逐艦や巡洋艦の舷側に、巨大な水柱が次々とそそり立った。

 

 「カタパルト損傷、観測機発進不能」の報告はラクスタルも受け取ったものの、それに対処するための指示を出すことはできなかった。何せあっちからもこっちからも、雷撃機が向かってくるのである。それだけではなく、上空からは尖った機首を持つ敵機が急降下爆撃を仕掛けてくるし、敵戦艦の主砲弾までが飛んでくる。それらを回避するのが最優先だった。

 そして艦隊司令ミレケネスも、味方に必死で指示を飛ばしているものの、味方は混乱状態である。戦艦群は敵雷撃機への対処で精一杯だし、巡洋艦や駆逐艦は敵ワイバーンが放つ小型ロケット弾で攻撃を受けている。さらに敵の水雷戦隊までが攻撃してきている状況だ。これを統制しきるのは困難であった。

 だが幸い、敵の航空機はそこまで数が多くないらしい。空襲が次第に下火になっている。

 それを見逃すラクスタルではなかった。

 

「見張り、こちらに向かってくる敵機はあるか!?」

『現時点で本艦に接近する新たな敵機無し!』

「よし、対水上戦闘、左砲戦用意! 目標、偽グレードアトラスター級!」

「了解、目標偽グレードアトラスター級! 測的始めます!」

 

 メイル砲術長が測的開始を命令した直後、大気を切り裂く甲高い音が急速に大きくなった。そして次の瞬間、「グレードアトラスター」艦橋を凄まじい激震が襲った。

 

 

「弾着、命中弾1!」

 

 戦艦「大和」艦橋に、歓喜の報告が上がる。

 

「諸元そのまま! 一斉撃ち方!」

「一斉撃ち方よーそろー!」

 

 “大和”の号令を砲術長妖精が復唱する。つい先ほど砲弾を撃ち出した各主砲の1番砲の砲身が上下し、砲弾の装填を待って照準を調整する。

 自軍の空襲によって敵艦隊が回避運動を行なっている間に、「大和」は合計6回の砲撃を行った。そして先ほど、7回目の砲撃でようやく命中弾を得たのである。ここからは斉射だ。

 

「1番、2番主砲用意よし! 主砲、射撃用意よし!」

「撃ち方用意! ……()―っ!」

 

 直後、これまでの砲撃のそれを遥かに凌駕する凄まじい砲声が轟き、“大和”と妖精たちの全身に痺れるような衝撃が走った。主砲たる「46㎝三連装砲」の斉射である。

 斉射の狂騒の中、双眼鏡を覗いていた砲術長妖精が叫ぶように報告する。

 

「敵グレードアトラスター級、発砲! 本艦を狙っています!」

 

 それと同時に、航空部隊から「攻撃終了」の報告電が届いた。これで敵戦艦はこちらに砲撃を見舞ってくるようになる。

 

「いいでしょう……受けて立ちます。この大和を沈められると思うなら、挑んできなさい」

 

 “大和”の瞳に、戦意の炎が宿る。

 弾着は「大和」主砲弾が先だった。砲術員妖精の「だんちゃーく、今っ!」の報告と同時に、敵艦の艦上に爆発光が走った。その直後には弾着観測用の塗料で赤く染まった水柱が林立し、敵戦艦の姿が見えなくなる。

 そこへ、砲弾の落下音が急速に拡大した直後、「大和」の右舷側に3本の太い水柱がそそり立つ。そのうち1本は、かなり至近に上がっていた。

 

「初弾から至近弾とは、良い腕ですね」

「はい。だからこそ、ここで倒さなければなりません」

 

 砲術長妖精と“大和”が言葉を交わす。

 数十秒後、「大和」は第2斉射を放った。が、その砲声の残響が消える前に見張員妖精が驚愕の報告を上げる。

 

『敵戦艦、斉射!』

「賭けに出たようですね」

 

 “大和”は即断した。

 現在、こちらの主砲の照準が合ったことで敵戦艦は追い詰められている。その苦境を脱するため、先の至近弾で照準が合ったと判断し、見切り発車で主砲を斉射してきたのだろう。

 思い切りのいい決断力……やはり、敵は手強い。絶対に、ここで仕留める必要がある。

 

「皆さん、慌てないでください。状況はまだ、こちらが優勢です。冷静に対処しましょう」

 

 “大和”がそう言った時、

 

『予備射撃指揮所より艦橋。「イタリア」火災発生! なれど敵戦艦も炎上中! 「ローマ」以下後続の状況は不明!』

『見張より艦橋。第4艦隊に炎上艦多数、被害甚大の模様! しかし、敵水雷戦隊はこちらに接近できていません!』

 

 味方に関する報告が上がってきた。

 第4艦隊は第13艦隊の右側に展開しており、こちらに突撃してくる敵水雷戦隊への対処にあたっている。ついでに第2・第13艦隊の重巡洋艦を一時的に指揮下に入れ、敵の重巡洋艦と砲戦を繰り広げていた。

 

「味方も頑張ってくれています……彼らの努力に報いるためにも、敵戦艦には打ち勝たなければなりません。そのためには冷静な判断力が必要です。分かりますね?」

「「「はいっ!」」」

 

 艦橋に詰めている妖精たちが良い返事をした時、「だんちゃーく!」の報告が飛び込んだ。

 窓の外を見ると、敵戦艦が水柱に包まれている。それが崩れ去った時、敵戦艦から噴き上がる黒煙の量が明らかに増えていた。痛打を与えたか、と期待させる光景だが、まだ敵の脚は鈍っていない。

 

「この調子で攻撃を……!」

 

 “大和”の言葉をかき消すように、敵弾の飛翔音が急速に迫ってくる。まるで空そのものが落ちてくるかのようだ。

 不吉な物を“大和”が感じた瞬間、凄まじい衝撃が艦体を震わせ、金属的な大音響が響いた。続いて小さな爆発音が連続して聞こえてくる。

 

『艦体中央部に被弾! 高角砲2基消滅、砲弾が誘爆しています!』

「……!」

 

 悲鳴のような報告に、“大和”の口から声にならない声が一瞬だけ漏れた。

 まさかのことが起きてしまった。敵戦艦が賭けに勝ったのだ。ここからは、ほぼ同じ土俵での勝負になる。

 

「応急班、消火急げ!」

 

 とっさに副長妖精が指示を飛ばした。

 

「それほどの腕とは……ミリシアルの空中戦艦を撃墜した戦艦というのは、貴方のことでしょうね。だからこそ、この私が倒します!」

 

 先の被弾で受けた衝撃を、“絶対に勝つ”という衝動に変えて叫ぶ“大和”。

 

「全主砲、薙ぎ払え!!」

 

 号令と共に「46㎝三連装砲」が全力の咆哮を上げる。テニスのラリーのように、敵戦艦も撃ち返してくる。

 敵の第2斉射弾は、「大和」の前部と後部に1発ずつ命中した。水上機の飛行甲板に大穴が開いたものの、第1砲塔の正面防盾に当たった1発は金属音と共に弾き飛ばされる。

 続く第3斉射弾は後部に1発が命中し、予備射撃指揮所との通信が途絶してしまった。おそらく後部艦橋に被弾したのだろう。

 予備射撃指揮所をやられた今、艦橋トップの射撃指揮所をやられたらおしまいだ。正確な砲撃ができなくなり、敵戦艦に叩きのめされるだけになってしまう。

 

「負けない……!」

 

 自身の主砲弾が敵艦に大きなダメージを与えていることを信じ、“大和”は敵艦を見据えて指示を出し続ける。

 続く敵の第4斉射弾は「大和」艦体前部を捉え、兵員居住区に火災を起こさせた。第5斉射弾は艦体中央部に命中し、対空機銃に大きな被害を与えている。

 そして敵の第6斉射弾が飛来した瞬間、「大和」艦橋はマグニチュード7の大地震を思わせる、激烈な衝撃に震えた。震えが収まった時、“大和”は窓の外に見える光景に愕然とした。

 第1砲塔が、変わり果てた姿になっている。天蓋はあらかた引き剥がされ、正面防盾は大きく凹み、砲塔そのものが何かに押し潰されたような感じだ。3本の砲身は2本が行方不明、残る1本は力なく垂れ下がっている。

 敵の砲弾が再度、第1砲塔を直撃したのだ。一度は敵の砲撃に耐えてみせた防盾も、二度目の痛打には耐えられなかったようだ。

 

「第1砲塔、弾火薬庫注水。急いで!」

 

 ショックを受けている暇はない。対処命令を出し、“大和”は再び敵戦艦に意識を向ける。

 表面上は冷静そうに見えるが、彼女は心の底から湧き上がる黒いものを抑えきれずにいた。彼女が恐れているのは、自身の敗北である。ここで負けてしまえば、今ムー大陸に遠征している提督と仲間達の帰る場所がなくなってしまう。それだけは絶対に、避けねばならなかった。だが、敗北の恐怖は抑えきれるものではない。

 

(このままでは……)

 

 “大和”が考えている間にも、2基に減った主砲は砲声を響かせている。

 また、新たな敵弾の飛翔音が聞こえてくる。今度はいったいどこに命中するのか。

 身構えた“大和”だったが、弾着と同時にやってきた衝撃は、彼女の想像よりはるかに小さかった。直撃すらしておらず、至近弾止まりになっている。

 

「あれ?」

 

 てっきりどこかに直撃弾を喰らうものと思っていただけに、さすがの“大和”も一瞬ぽかんとしてしまった。そこへ、

 

「電測より艦橋。敵戦艦1番艦、速力低下! 現在の速力18ノット!」

「観測機より報告! 『敵戦艦は左舷に傾斜している』とのことです!」

 

 電測長妖精と通信長妖精が、同時に報告を上げた。

 その報告だけで、“大和”は何が起きたのかを悟った。

 

(そうか! 水中弾!!)

 

 旧日本海軍の戦艦に配備されている主砲用の徹甲弾には、特殊な機構が搭載されている。それが「水中弾」というものである。

 この機構のため、主砲弾は目標を外れて海面に落下した場合、弾頭の被帽が外れ、少しの間水中を直進する仕掛けになっている。言ってみれば、主砲弾が魚雷になるのだ。

 その水中弾がここで、その威力を発揮したのである。

 浸水によって艦が傾斜してしまえば、砲術科の面々の腕がどれだけ高かろうが射撃用レーダーが優れていようが関係無い。トリムが狂ってしまえば、たったそれだけで主砲は当たらなくなるのである。

 敵戦艦の正確な射撃で追い詰められていた“大和”だが、起死回生の一撃が突き刺さったのだ。

 あとは、逆転した形勢を確固たるものとするのみ。

 

「艦長より砲術。敵艦、速力が18ノットに低下。照準調整に留意されたし。一斉撃ち方!」

 

 “大和”はそう命令し、遠方に見える敵戦艦を見据えた。

 本来なら交互撃ち方に戻して照準を調整する局面だが、今は一斉撃ち方のままでも良いだろう。

 

「このまま押し切れ! 全砲門一斉射!」

 

 号令と共に、「46㎝三連装砲」がこれまでと変わることのない強烈な砲声を響かせる。敵戦艦も撃ってきた。

 さんざんこちらを痛めつけていた砲弾が唸りを上げて飛んでくるが、1発とて当たらない。全て「大和」の右舷海面に落下している。

 逆に「大和」の46㎝砲弾は、第8斉射こそ空振りだったものの、第9斉射からは再び命中し始めた。こうなると、あとは消化試合である。

 第13斉射弾が落下し、敵戦艦が水柱に包まれた直後、“大和”は「撃ち方やめ!」と命令した。その瞬間に主砲が火を噴き、第14斉射を撃ち出した。

 水柱が消え去った時、そこにグレードアトラスター級戦艦の()()しい姿はなかった。艦体全体が黒煙に覆われており、速度も10ノットを切ってしまっている。どう考えても致命傷だ。

 敵艦の姿を隠すようにして6本の水柱が噴き上がった。最後に「大和」が撃った、第14斉射弾である。

 

「ふぅ……何とか勝ちましたね、艦長」

 

 副長妖精が声をかける。緊張が解れたせいか、彼女の顔にも額にも玉の汗が流れている。

 

「はい、どうにか勝てましたが…海戦はまだ終わっていませんね。味方の様子を把握して、次の指示を出さなければ」

 

 早くも気持ちを切り替え、状況を確認すべく“大和”は双眼鏡を覗いた。

 敵の戦艦部隊が、視界に入ってきた。

 

 

 「大和」が「グレードアトラスター」との砲戦に打ち勝った頃、主力艦同士の対決にも大方決着が付いていた。

 「イタリア」は大破航行不能となってしまったものの、「イタリア」と戦っていた戦艦「ヘルクレス」は「ローマ」との交戦に忙殺されてしまい、「グレードアトラスター」を援護する余裕はない。「ウォースパイト」「伊勢」「日向」も、それぞれ相手となっていた敵戦艦を撃沈破していた。特に「ウォースパイト」は、装備の関係で弾着観測機を搭載できなかったにも関わらず、敵戦艦「コルネフォロス」に対して直撃弾を出しまくり、しかも自身は片手で数えられる程度しか被弾していないという幸運ぶりである。

 そして敵の巡洋艦部隊及び水雷戦隊はというと、こちらも大いに被害を受けたらしい。特に誤って「名取」に突っ込んだ連中が、悲惨な目に遭ったようだ。「名取」の周囲だけ、敵艦が全く浮いていないのである。で、当の“名取”はというと、

 

「来なさいグ帝艦! 砲なんか捨ててかかってこい! それとも怖いのかしら?

ならこっちから行く! 私はまだ、これっぽっちじゃ満足できない!

ひひゃひゃひゃー! 戦闘じゃー!! キリングターイム!!!」

 

 口調すらも変わった状態で、敵の駆逐艦を追いかけ回している。こんなのに追いかけられたら、一生もののトラウマになるだろう。

 第2艦隊と第4艦隊も、己の役割を果たして敵水雷戦隊を食い止めてくれていた。ただ、第4艦隊はロデニウス大陸を出発した時と比較するとめっきり数が減っている。相当数の艦がやられてしまったようだ。第2艦隊も、黒煙を噴き上げている艦が多い。

 だが何はともあれ、敵艦隊は順次こちらに背を向けて退却を開始している。行き脚の止まった艦は置き去りにしたままだ。

 連合艦隊はついに、本土を守り切ったのだ。

 

「まだ血気盛んな子は敵を追い回しているようですが……どうやら終わりましたね。

大和より全艦、状況終了、戦闘用具収め」

 

 “大和”からの指示が無線に乗って飛び、砲声が次第に収まっていく。

 

「健在な艦は、逐次本艦の周囲に集まってください。

さて……母艦航空隊、そしてワイバーン隊の皆さん、補給は終わっていますか?」

 

 続いて“大和”は、後方に控えている空母・竜母部隊に連絡を取る。

 

『こちら鳳翔、作戦可能な機数は全部で80機。いずれも暖機運転完了、いつでも出せます』

『こちら竜母「アイベリー」。出せるワイバーンは全部で22騎、いずれも準備完了です!』

「よろしい、全航空機・全ワイバーン発艦始め! 目標は敵艦隊残党、1隻も生かして帰さないつもりで攻撃してください!」

『鳳翔、了解しました』

『了解、全ワイバーン発艦急がせます!』

 

 もちろんだが、グラ・バルカス帝国艦隊を黙って帰すはずがない。徹底的に叩き沈めるつもりである。

 

「通信長、本土に暗号を送ってください。『トラ・トラ・トラ』です」

「『トラ・トラ・トラ』了解。本土に暗号送信します!」

 

 本土への第一報の報告を済ませ、“大和”は撤退していく敵艦隊に目をやって呟いた。

 

「さて、少しばかり同情はしますが……生きて帰れると思わないでくださいね、グラ・バルカス帝国の皆さん。何故ならあなた方は、ニューランド島に到着した時点で既に、我が国と大東洋共栄圏の参加国、それに神聖ミリシアル帝国が連携して築いた縦深防御陣に、はまり込んでしまったのですから……!」

 

 そこへ、敵艦隊が逃げ去っていった方角から1隻の小型艦……3本煙突の軽巡洋艦が戻ってくる。3本煙突の軽巡洋艦といえば、5,500トン型…それも()()型と(なが)()型の特徴だ。

 その艦が何であるかを一瞬で理解した“大和”は、その艦に連絡を取ってこう尋ねた。

 

「まだ艦は残っていますか?」

 

 そして返ってきた答えは、予想通りのものだった。

 

()()()だけです』




(ロデニウス連合王国海軍第13艦隊司令部より提出された暫定戦闘報告書の一部抜粋)
海戦名: ロデニウス西方沖大海戦(暫定名称)
作戦名: ペイルカイザー作戦

海戦結果: 我が方の勝利

(敵の推定被害)
喪失 戦艦2隻、空母24隻、巡洋艦約30隻、駆逐艦約50隻。なお、この数字には夜からの航空戦の戦果も含まれる。また、撃沈した敵戦艦にはグレードアトラスター型1隻が含まれる。
撃破 戦艦4隻、巡洋艦15隻前後、駆逐艦約40隻

(味方の被害)
喪失 戦艦1隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦10隻、駆逐艦25隻、砲艦10隻(なお、戦艦というのは「イタリア」のことなので、実際は艦娘の艤装放棄である)、艦載機約60機、ワイバーン13騎
損傷 戦艦4隻、重巡洋艦7隻、軽巡洋艦8隻、駆逐艦17隻、砲艦5隻


最後の”大和”の質問に対する答えが何になるか、よく訓練されている皆様であれば読む前に速攻で予想できていたと思います。
ちなみにこの”ジョン・名取クス”ですが、実はカレンちゃん成分が混じっています。
断じて「カレンチャン」ではありません。「カレンちゃん」です。葦毛のカワイイ娘とは別物です。
(メタい話をすると、ベネットとの掛け合いを除けば、メイトリックスは戦闘中に発言するシーンがあまりありませんでしたので、何とかして台詞を補完するしかなかったのです。なので、”名取”のキャラクターからかけ離れた性格の人で戦闘慣れした人…という篩にかけた結果、選ばれたのはカレンちゃんでした)

なお、「なかなか愉快だったぞ、ひっひゃー!」とは、戦闘後の”ジョン・名取クス”あるいは”ナトリちゃん”のコメントです。
そしてしれっと"鹿島"はシンディ枠。そのうちカタリナとか見て「こんなの飛行機じゃないわ! 羽根のついたカヌーよ!」って言い出すかもしれない……


UA107万突破、総合評価11,400ポイント突破……だと?
本当に、ご愛読ありがとうございます!!

評価10をくださいましたMGS様、Takeshi@なろ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

艦隊決戦に敗れ、ついに撤退に追い込まれたグラ・バルカス帝国特務軍艦隊。ミレケネス率いる艦隊司令部を旗艦「グレードアトラスター」ごと失い混乱する艦隊だが、その撤退行も楽なものではない。ロデニウス軍が仕組んだ罠が、その牙を剥く……!
次回「地獄の撤退戦! 大東洋は波高し」
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