鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
さあ、今回でグラ・バルカス特務軍艦隊との戦いを終わらせますよ!
中央暦1643年6月12日 午前10時、第三文明圏外ニューランド島。
ロデニウス連合王国軍の航空部隊に襲撃された、グラ・バルカス帝国特務軍艦隊の指揮官シュリーザ・アウロネス少将は、ニューランド島の帝国軍基地に対して上空援護機を要請した。だがこの時、ニューランド島のチエイズ王国、そしてグルート騎国に設置されたグラ・バルカス帝国軍補給基地には、この要請に応えている余裕などなかった。
アウロネスの艦隊が攻撃されたのと時を同じくして、両国の補給基地もまた、アルタラス島から発進したロデニウス陸軍第15戦略航空爆撃団の攻撃に
ロデニウス軍攻撃隊の先鋒部隊は、レーダーでは捕捉しづらい低空から、時速1,000㎞以上の高速で侵入してきた。そのため、両国のグラ・バルカス帝国軍基地はレーダーでは攻撃隊の存在を察知できず、基地の外側50㎞を哨戒飛行していたシリウス型爆撃機からの緊急通報によって、ようやく敵襲を知った。
けたたましいサイレン音が基地全体に鳴り響き、兵器員が大急ぎで対空機銃や高射砲陣地に向かう。搭乗員と整備員が血相を変えて駐機場を走り、駐機してあるアンタレス07式艦上戦闘機に取り付く。轟音を上げてエンジンが始動し、プロペラが回り始めるが、「アンタレス」はすぐには飛び立てない。暖機運転を行い、エンジン内全体に燃料をよく循環させておかなければ、空中でエンストが起きる危険があるのだ。
もう敵はすぐそこまで来ているんだぞ、まだか……誰もが焦っていた。そして、一秒でも早く暖機運転が終わることを願った。
しかし、ロデニウス軍がそんなことを許すはずもない。脚の速い「F-86D改 セイバードッグ」が先行し、時速1,138㎞の超高速で基地上空に侵入する。そして、上空で待機していた警戒隊の「アンタレス」8機を空対空ミサイルで瞬殺するや、基地に攻撃を開始した。
上空から撃ち下ろされた12.7㎜機銃の
制空隊の「セイバードッグ改」が上空で睨みを利かせている間に、24発のロケット弾入りポッドを抱えた「セイバードッグ改」が対地攻撃に入る。真っ白い煙の筋が高射砲陣地に噴き伸び、砲弾が誘爆を起こした高射砲陣地は兵員ごと
ロケット弾の直撃を受けたレーダーサイトが、轟音と共に倒壊する。格納庫に飛び込んだロケット弾が炸裂し、整備を受けていた「シリウス」が燃えながら擱挫する。続けて命中したロケット弾が、部品棚やスペアの部品を打ち砕き、役に立たない金属スクラップに変える。
航空機用の燃料タンクにも容赦なくロケット弾が撃ち込まれ、たちまちのうちに凄まじい炎が噴き上がる。そして滑走路にもロケット弾が降り注ぎ、滑走路はあちこちに穴を開けられ凸凹になってしまった。機械化の進んだグラ・バルカス帝国の工兵隊ならすぐ修理できる……かと思いきや、パワーショベルやブルドーザーにも手加減無しにロケット弾が浴びせられている。
そしてここで、遅れて来た爆撃機「B-29改 スーパーフォートレス」が到着した。高度6,000メートルで
「B-29改」は1機が被弾して火を噴いたものの、ほとんどの機体は腹に抱えたありったけの250㎏爆弾を投下した。笛の音のような甲高い音が多重奏になって迫ってきた、と思った時、地上に閃光が走り、大量の破片と炎、黒煙が噴き上がる。
爆撃を成功させた「B-29改」は、レシプロエンジン音の
嵐のような攻撃がようやく収まり、ジェットエンジンの
滑走路は荒れ地のような姿になり、無秩序に穿たれた大穴の周囲にはアスファルト片が撒き散らされている。駐機場には、「アンタレス」が炎と黒煙を上げて燃え盛る
「くそっ、いいようにやられるとは……!」
チエイズ基地司令のレオン・テイラー少将は血が
この時には、グルート騎国の帝国軍基地も同様の姿になっている。こちらへの攻撃には、「セイバードッグ改」の他に爆弾を装備した「F-104G スターファイター」が参加し、滑走路に250㎏爆弾を叩き付けていった。そしてこちらの基地も、対空砲陣地は根こそぎやられていた。
「第11倉庫と第12倉庫に、移動式の対空機銃が残っているはずだ。稼働状態を確認し、対空砲の代わりにしろ!」
「はっ!」
空襲が終わったグルート騎国の基地では、基地司令ニコラス・ムルーガル少将が被害を把握しながら指示を出している。まだ空襲があるかもしれない以上、備えておかなければならない。
「艦隊の方はどうか?」
「各艦とも被害無し。現在、出港を急がせています」
ムルーガルの疑問に幹部が答える。
先の空襲では、軍港に停泊している艦隊に向かう敵機はいなかった。だが、第二次以降の空襲があるならば、敵は艦隊を狙う可能性がある。
現在、グルート騎国の基地に併設された港には、軽巡洋艦24隻、駆逐艦95隻、輸送船70隻が停泊している。これらは、上陸部隊を乗せた輸送船団とその護衛、及び軍港の警備艦艇だ。他に、オリオン級戦艦「メブスタ」をはじめ複数の巡洋艦・駆逐艦が入港している。これらはロデニウス本土攻撃に参加したものの、損傷を受けて撤退してきたものだ。
(これ以上被害が出る前に、艦隊だけでも脱出させなければ……)
ムルーガルがそう考えていた時、不意に巨大な爆発音が聞こえてきた。しかし、その爆発音は不自然にくぐもっている。
「いったい何だ!?」
ムルーガルが叫んだ時、幹部の1人が焦った様子で司令部に飛び込んできた。
「報告します! 軍港を出ようとした駆逐艦が、水中爆発により被害を受けました! 被雷したと思われます!」
「何だと!?」
想定外の事態に、ムルーガルは青くなった。
被雷したということは、機雷が仕掛けられていたか、もしくは魚雷を喰らったかということになる。機雷を
(ま、まさか、敵の潜水艦か!?)
ムルーガルの混乱した頭で弾き出された可能性は、それだった。
「上手くいったね!」
水中に
そう、グラ・バルカス帝国・グルート騎国基地港の出入り口付近に機雷を仕掛けたのは、「伊26」と姉妹艦の「伊19」だった。
タウイタウイ泊地を出撃する際に、両名は
「でも、これだけで終わりじゃないよ!」
獲物を前にした狼のような
実は彼女たちは、機雷の他にある「特殊な機材」を持ってきている。その機材も既に仕込みが完了しており、もうそろそろ効果を発揮するはずだ。
「妖精さんたち、お願いするよ……!」
「くそっ! 1隻やられた!」
「おのれロデニウス軍め! 1隻やったからっていい気になるなよ!」
混乱が続くチエイズ王国のグラ・バルカス帝国軍基地では、未だ港内にいる艦の艦上で乗組員たちが叫んでいる。
ちょうど港の外に出ようとしたキャニス・ミナー級駆逐艦の1隻が、突然艦首付近に水柱を噴き上げたかと思うと、急にその速度を落としたのだ。明らかに水線下に被害を受けており、タイミングから見て機雷だと思われた。
「駆逐艦隊は直ちに
号令が飛ぶ。機雷を除去するついでに、これを敷設していった不届きなる敵も倒してやろうと、グラ・バルカス艦隊の駆逐艦乗りたちは息巻いていた。
だからこそ、彼らは気付かなかった。港内の複数箇所の海面から、細長い棒のようなものが突き出ていたことに。
低速で掃海器具を操作する複数の駆逐艦、そのうち1隻の右側面に、突然巨大な水柱が突き立った。直後、駆逐艦は大爆発を起こして真っ二つとなり、あっという間に海面に飲み込まれていく。
「なっ! 『バリスター』がやられた!」
「機雷か!? 魚雷か!?」
「くそっ、
僚艦の沈没を見てしまった兵士たちが、口々に叫ぶ。
が、その直後にまた1隻の駆逐艦が巨大な水柱を突き立てられ、1分と経たずして海面下に姿を消した。それと前後して、各駆逐艦のソナー室から次々に報告が上がる。
「魚雷航走音を探知した! 港内に潜水艦が侵入している!」
「なっ!? 港内に潜水艦だと!? 防潜網を張ってあったのにどうやって…!」
「くそっ、おのれロデニウス軍め!」
グラ・バルカス帝国の駆逐艦乗りたちは、軍港内に侵入したロデニウス軍の小型潜水艦に振り回される。
そう、「伊19」と「伊26」が持ってきた「特殊な機材」とは、「
名前を聞いただけではどんな兵器なのか想像できないであろうが、「甲標的」は言ってしまえば「小型潜水艇」のことである。何でこんなややこしい名前なのかというと、正体を秘匿するためだ。
元々アメリカ太平洋艦隊を仮想敵としていた日本海軍は、戦力的に勝る太平洋艦隊を撃破するべく「
実際に太平洋戦争が始まってみると、設計途上で想定された艦隊決戦は生起せず、「甲標的」は港湾攻撃をその主な任務とした。有名どころは「真珠湾攻撃」である。
その史実に因み、艦娘たちの装備の1つとして再現された「甲標的」が、グラ・バルカス帝国艦隊相手にその威力を発揮したのである。
ちなみに、チエイズ王国の軍港付近には潜水艦「伊8」と「伊58」が展開しており、同じように「甲標的」を発進させて攻撃を行なっている。
「くそっ! まさか、軍港内に敵潜水艦の侵入を許すとは……!」
再びグラ・バルカス帝国軍グルート騎国基地司令部にて。
幹部から報告を受けたムルーガル司令は、握り拳でデスクの上をドンと叩きながら怒鳴った。敵の潜水艦に侵入されるとは、思ってもみなかったのだ。
そこへ今度は、見張り塔から絶叫めいた声で報告が飛び込んでくる。
『こちら見張り塔! 基地上空に敵機多数接近! 既に目視圏内に突入しており、高度5,000メートル前後の高空から向かってきます! 機種は4発機、明らかに爆撃機です!』
「くそっ、第二次空襲か! 総員、防空壕に避難しろ! 急げ!」
司令は忙しく指示を飛ばした。
この時、ニューランド島のグラ・バルカス帝国軍基地に接近しつつあったのは、アルタラス島及びナハナート島から発進した、大東洋防衛軍の航空部隊だった。
アルタラス島からはロデニウス連合王国陸軍・第15戦略航空爆撃団の「B-29改 スーパーフォートレス」20機が飛び立ち、グルート騎国の基地へと向かっている。そしてナハナート島の基地からは、ロデニウス連合王国海軍・第17航空艦隊の「零戦52型」10機と、ムー統括空軍が派遣した「ラ・カオス」120機が発進し、チエイズ王国の基地へと向かったのだった。
「各隊、爆撃隊形を取れ! 俺に続け!」
ムー統括空軍の指揮官の1人グレイグ・キールホフナー中佐は、無線を通じて部下たちに指示を送った。120機もの「ラ・カオス」は、投弾に備えて各々5機のV字型編隊を組み、爆撃針路に入る。その一方、ロデニウス軍の護衛戦闘機は加速して、一足先にチエイズ王国の敵基地上空へ侵入しつつある。
4発のレシプロエンジンを持つ「ラ・カオス」。今でこそムー国では旅客機や空軍の輸送機として使われることが多いが、この機体はもともと「爆撃機」として開発されたものだ。巡航時速280㎞、最高時速370㎞、最大航続距離7,000㎞の性能を持ち、250㎏爆弾を最大8発搭載できる。
その爆撃機が今、異界より現れし暴虐なる帝国に、鉄槌を振り下ろそうとしていた。
「ロデニウス軍の戦闘機隊から入電、『上空に敵機無し』!」
「了解。どうやら先に攻撃したロデニウスの連中が、敵戦闘機を叩いてくれたらしいな……なら、俺たちも俺たちの仕事をしよう!」
気合を入れ直し、グレイグは目視で敵基地を確認する。
「あれか」
部隊の前方に島が見えてきており、その南岸部の一部から何条もの黒煙が空に向かって伸びている。北西部からも黒煙が上がっているが、そちらはグルート騎国なので目標が違う。
「こんなことは言いたくはないが……チエイズ王国はグラ・バルカス帝国の軍門に降った。つまり、我々の敵になった。
誤爆はなるべくしないように気を付けてもらいたいが……コラテラル・ダメージは気にするな! グラ・バルカス帝国の連中を叩き潰すことだけ考えろ!」
グレイグは無線で部下たちに指示を出した。
「ロデニウス軍航空隊から入電! 『我コレヨリ突入ス』!」
そこへ、通信手が新たな報告を上げる。
ロデニウス軍の戦闘機のうち4機が速度を上げている。先行突入して敵機の有無を確認するつもりだ。残り6機はムー爆撃隊の両脇に寄り添って、護衛に努めている。
敵の軍港のあちこちでフラッシュが光り、上空に黒煙が
戦闘機の迎撃がなく、対空砲火も弱いなど、爆撃機にしてみれば絶好のチャンスでしかない。
(ロデニウスの連中、しっかりお膳立てを整えてくれたんだな。なら、俺たちもできるってことを見せなきゃな!)
「目標、敵基地。爆撃手、コントロールを渡す!」
インカムに叫ぶように言い、爆撃手に機体の操縦を預ける。後は部下たちの仕事だ。
そして、ついにその時が来た。前方を飛ぶ嚮導機が、腹の下に抱えた4発の250㎏爆弾を投下したのだ。あと少しだ。
「用意……てっ!」
照準器を覗き込んでいた爆撃手が叫ぶ。機体の下から金属質の動作音が響き、機体がふわりと上昇するのが感じられる。重量物を投下したため、機体が軽くなったのだ。
対空砲火の中、敵基地上空を通過したグレイグ機。コントロールがグレイグの手に戻り、彼は操縦捍を引いて機体をゆっくり旋回させる。
機体の旋回に伴い、敵基地が目に入ってきた。基地は至るところから黒煙を噴き上げており、自分たちが投下した爆弾が相当な破壊を起こしただろうことを容易に窺わせる。おそらく、敵基地はその機能の大半を失っただろう。
「よし、攻撃は成功と見て良いだろう。引き上げるぞ!」
グレイグのこの命令により、ムー統括空軍の攻撃は終了した。
ムー航空隊の被害は、対空砲火により4機を喪失し、6機が損傷したのみ。それに対し、グラ・バルカス帝国軍基地はというと、多数の250㎏爆弾が命中し、対空砲はほぼ全滅、兵舎や燃料タンク、飛行場、格納庫などの設備に大きな打撃を受けている。また、港内に侵入した「甲標的」の雷撃により、艦艇5隻が被雷し、うち3隻が着底してしまった。着底した船とそこから流出した重油により、港湾設備にはかなりの被害が出ている。仕返しとばかりに、帝国の駆逐艦が2隻の敵潜水艦の撃沈を報じているが、完全に事後対応でしかない。
「くそっ! 防空態勢が無事ならば、あんな旧式機など……!」
チエイズ王国基地の司令部(爆弾の直撃により半壊)では、煤まみれの顔でテイラー司令が悪態を
基地に襲いかかったのは、見るからに旧式感溢れる形状の4発爆撃機。国籍マークはムー国のそれだった。おそらく、ナハナート王国から出撃してきたものだろう。
飛行場が十分に稼働し、対空砲や対空レーダーも生きており、「アンタレス」戦闘機が上空を守っている状態ならば、ムーの爆撃機など恐れるに足りない。しかし、ロデニウス軍の電撃的空襲を受け、レーダーも対空砲も破壊され、飛行場を穴だらけにされ、「アンタレス」を全滅させられた状態では、彼らに良いようにやられるしかなかった。あんな旧式機に良いようにやられたことは、屈辱でしかなかった。
「艦艇の被害はどうなっている!?」
「はっ。我が方の駆逐艦が2隻以上の敵潜水艦の撃沈を報告しています。それもあってか、敵潜水艦の襲撃は一旦落ち着いており、また敵の機雷を除去するための掃海作業が始まっています。しかし、敵襲を警戒しながらの作業であるため、掃海は
「ううむ……」
幹部の報告に、テイラーの顔が歪む。
「飛行場はどうだ?」
「は、それが……飛ばせる機体がいくつか見つかりました。現時点で飛行可能と目されるのは、『アンタレス』戦闘機9機、『シリウス』爆撃機4機です。ただし、重機をやられたせいで滑走路に開けられた爆弾孔の埋め戻しが遅々として進まず、現時点ではまだ飛ばせません」
「そうか……ひとまず、使える機体が見つかったのは良かった。引き続き滑走路の修理を急がせろ」
制空権を取られたままでは、どうしようもない。旧式の爆撃機ですら恐ろしい脅威となる。
あの超高速で飛ぶロデニウス軍のものらしき灰色の戦闘機に、「アンタレス」でどこまで対抗できるかは不透明だが……それでも戦闘機が「アンタレス」しかない以上「アンタレス」で戦うしかない。
「それと、生き残った高射砲や対空機銃の整備もしておくよう指示を出せ。レーダーの修理はできるか?」
「はっ、高射砲や機銃については承知しました。それと申し訳ございませんが、レーダーの修理は現時点では不可能です。電源装置は予備がありますからどうにかなりますが、アンテナをタワーごとやられてしまったもので……対空警戒はもちろん、対水上レーダーも使用不能です」
「やむを得んな、分かった。手空きの兵員に、目視で空と水平線を監視するよう命じろ」
「はっ!」
損害の把握、消火活動の命令、その他今後の敵襲に備えての対処命令。これらをやってしまえば、一通りのことはできたことになる。そうなると次に心配になるのは、相互連絡である。
「グルート騎国の基地と連絡が取れるか? 互いに連携して敵襲に対処できるようにしておきたい」
「通信用のアンテナは生きているのを確認しましたので、連絡は可能と思います。今から無線通信を繋ぎますので、少々お待ちください」
通信兵が無線機を操作し始める。
(よし、これで少しは安心できるな)
テイラーがそう考えていた時、通信兵が不意に血相を変えて叫んだ。
「し、司令!」
「どうした、何があった?」
「こ、これ! これを聞いてください!」
そう叫ぶや、通信兵は通信をスピーカーに繋いだ。少し雑音が入る…と思いきや。
『……り返す。グラ・バルカス帝国基地、及びチエイズ王国並びにグルート騎国に告げる』
何やらはっきりとした声が聞こえてきた。そして。
『私は神聖ミリシアル帝国対魔帝対策省、古代兵器分析戦術運用部、空中戦艦〈パル・キマイラ〉艦長のメテオスという。長話は好きではないので単刀直入に告げよう。
チエイズ王国、グルート騎国、そして2国内にいるグラ・バルカス帝国軍の全ての将兵は、直ちに我々に降伏したまえ。私は弱き者を一方的に虐殺するほど悪趣味ではない。それに神聖ミリシアル帝国皇帝ミリシアル8世陛下から、出来うる限り
我が国の力は、君たちでも理解しているだろう? それに、この〈パル・キマイラ〉はかの古の魔法帝国が作った船なのだよ。それを聞いただけでも、君たちの軍で対抗できるかどうか、判断できるだろうね』
とんでもない内容が飛び出してきたのである。
「なっ!? ぱ……パル・キマイラ!!? バルチスタ海戦の時に出現し、帝国連合艦隊に大打撃を与えた、あの化け物か!」
テイラーは、この基地に凄まじい脅威が迫りつつあることを悟った。
パル・キマイラの情報は、本国から伝えられている。全長250メートルほどの巨大な飛行物体…いや飛行戦艦で、軽巡洋艦クラスの口径の主砲を多数と、超高精度かつ高速連射が可能な機関砲多数、そして下方向に投下する超大型爆弾を少なくとも1発装備しているという。また、対空機関砲や近接信管付対空砲弾が通用しないほど硬い装甲を有するとされている。
端的に言って化け物だ。勝てるかどうか、非常に怪しい。
『ああそうそう、1つ言い忘れるところだった。今現在、ロデニウス海軍の艦隊もこちらに向かっているよ。どうやら戦艦……それも、グラ・バルカス帝国の諸君が言うところの「グレードアトラスター」に匹敵する戦艦を連れているようだねぇ。これではますます、君たちに勝ち目はないよ。
ロデニウス艦隊は、1時間以内にこの島に到達するだろう。それに、ロデニウス軍の航空部隊と思しき存在も捕捉している。この部隊も1時間ほどで到達するだろうから、それまでに降伏することを勧めるよ。ただ、諸君が戦うつもりであれば…私も遠慮はしない。この〈パル・キマイラ〉の力を存分に見せてあげるから、そのつもりでね。
最後にもう一度だけ言おう……1時間以内に降伏したまえ。降伏の合図は白旗の掲揚だ。諸君の賢明な判断に期待しているよ』
一方的に始まった通信は、一方的に切断された。
テイラーの背筋に冷や汗が流れる。
ミリシアルの空中戦艦「パル・キマイラ」は、バルチスタ沖大海戦にて「グレードアトラスター」が1隻を撃墜しているが、それは同艦の砲術手たちの神がかった技量によるものだ。チエイズ王国やグルート騎国の基地、及びそこに停泊している艦艇のどれにも、そんな高い技量を持つ砲手はいないし、何より「パル・キマイラ」の装甲を絶対に貫けると断言できる大口径砲がない。となると、対処は大変に困難だろう。
しかも敵はこれだけではなく、ロデニウス軍の水上艦隊や航空部隊までいるのだ。おまけにロデニウス艦隊はグレードアトラスター級戦艦を連れているらしい。ロデニウス艦隊がどれだけの数であるかは不明だが、グレードアトラスター級戦艦はまずい。
今ニューランド島にいるグラ・バルカス帝国の戦艦の中でまともに戦えるのは、チエイズの港にいる「ベテルギウス」だけだ。しかも同艦は旧式のオリオン級(
それに加えて、ロデニウス軍の潜水艦にも警戒しなければならないのだ。今のところ、敵の潜水艦を全て撤退させたとは言い切れないからである。
総合的に、グラ・バルカス帝国軍の勝ち目はかなり薄い、と言える。
「くそ、仕方がない!
全員に戦闘配置を発令しろ! 入港中の艦隊も給油を中止して順次出港、港外にて対空・対水上戦闘にあたれ! 『メブスタ』のようにまともに航行できない艦は、港内にて浮き砲台となって戦え! それと滑走路の修理を急がせろ!」
一呼吸置いて、それから、と付け加える。
「チエイズとグルートの両国にも軍を出すよう命令しろ! 性能不足でも囮くらいには使える!」
ニューランド島のグラ・バルカス帝国軍は、急いで戦闘態勢を整える。一方で、チエイズ王国とグルート騎国も大慌てで戦力を動員した。だが、この2国の軍備はというと、歩兵の武装は鎧兜に剣・槍・弓、軍艦はバリスタ装備の木造帆船か、良くて射程1㎞の球形砲弾を放つ砲を搭載した戦列艦、航空戦力はロード種ですらないワイバーンと、高が知れている。「ないよりマシ」程度でしかない。
『見張台より司令部! 北西方向、水平線付近に大型の機影を発見! 識別……ミリシアル国の空中戦艦です!』
「来やがったか…!」
30分後、ついに絶望的な存在が現れた。グルート騎国基地の見張員が、北西から接近する「パル・キマイラ」を目視で捉えたのである。
「くそっ、早すぎる! こっちはまだ、滑走路の修理が終わっていないというのに……!」
テイラーもムルーガルも、つい歯軋りをした。
一方、ミューランド島に接近中の「パル・キマイラ」2号機の艦橋では、
「ふむ……君たちの航空部隊も到着したようだねぇ。予定通りだね」
仮面で顔を隠したまま、艦長のメテオス・ローグライダーは艦橋前方に設けられたスクリーンに向かって言った。そこには、膝まで届くほど長い焦茶色の髪を後方で1つにまとめた長身の女性が映っている。
『予定通り、これより私たちの母艦航空隊はチエイズ王国基地に停泊するグラ・バルカス艦隊に対して攻撃を開始します。メテオス艦長、申し訳ありませんがグルート騎国の敵基地への攻撃をお願いします』
その女性…ロデニウス海軍第13艦隊挺進部隊旗艦・
「ンッフッフ、お安い御用だよ。ところで、軍港にいる敵艦隊も
『できるのですか?』
「もちろんだとも。このパル・キマイラにかかれば簡単さ」
『では、
「分かった、それでいこうじゃないか。それでは、再会は勝利の後でね」
『ご武運を祈ります』
通信を終え、魔導スクリーンが暗くなったのを確認すると、メテオスはどこか感慨深そうに口を開いた。
「我が帝国の軍にも女性の軍人は何人もいるが……ロデニウスにも艦隊司令や戦艦の艦長を務められる女性がいるとはね。しかも、かなりの
技術部長コルメドが、仮面の下から応じる。
「確かに美人でしたね。ただ、『人は見かけによらない』とも言いますよ」
「どういうことだね?」
「情報局が掴んだ情報によれば、ロデニウス連合王国には何やら不思議な力を持った女性が複数いるとか。力の内容についてはまだ不明ですが、ムーがその力に注目しているようです。あのヤマトと名乗った方も、その女性に該当する可能性があります」
「なんとまあ……ただのヒト種の女性にしか見えず、魔力もなさそうな彼女がかね? これは少し気をつけた方が良いかもねぇ」
そんなことを話している間に、「パル・キマイラ」のレーダーはニューランド島から現れた複数の存在を捉えている。対空レーダーに反応しているから、移動速度からみておそらくワイバーンだろう。
「さて、どうやらお出迎えのようだ。アトラタテス砲起動準備、装甲強化は要らないよ。まずは
「はっ。アトラタテス砲、射撃準備。魔導回路接続、魔力充填開始。属性比率、光20雷40炎10風30!」
グルート騎国の軍及び冒険者のものと思しきワイバーンが向かってくる。その数なんと120騎、さすが「騎国」と名乗るだけのことはあるだろう。
だが、彼らが近付いてくるよりも「パル・キマイラ」の迎撃準備が整う方が早い。
「では、古の魔法帝国の力を見せてやろうじゃないか」
「敵ワイバーン多数、本艦の上方と下方に分かれて接近中」
「アトラタテス砲、発射」
「了解、アトラタテス砲、射撃開始」
メテオスは興味なさそうに呟く。
「グルートのワイバーン騎士、あるいは冒険者か……諸君の勇気だけは賞賛するよ。だけどねぇ、それは『蛮勇』というものだよ」
誘導魔光弾を迎撃するために作られたアトラタテス砲。射撃管制魔導演算装置により高い命中率を保証された毎分3,000発のエネルギー弾の嵐は、一瞬にしてワイバーン120騎を殲滅した。
その直後、「パル・キマイラ」の周囲で爆発光が閃き、薄い膜のように張られた魔導防壁に波紋が広がる。グラ・バルカス帝国軍の対空射撃だ。生き残っていた防空陣地、そして軍港にいる艦艇の対空砲火らしい。
「素直に降伏していれば命は助かっただろうに、面倒だねぇ……殲滅したまえ」
「はっ。目標、敵対空陣地並びに敵艦艇。主砲、射撃開始します」
「航海長、レーダー手と連携して、敵戦艦の主砲にだけは気をつけてくれたまえ」
「了解!」
「パル・キマイラ」下部に設置された、合計6基の15㎝三連装魔導砲が火を噴き、青い尾を引く砲弾を撃ち出す。死を招く青い流星雨が、島と海に降り注ぎ始めた。
同時刻、ニューランド島の南西部には多数の航空機が乱舞していた。ロデニウス海軍第13艦隊・挺進部隊から発進した、空母「
チエイズ王国軍はワイバーン70騎を出撃させて迎撃にあたったものの、攻撃隊の護衛についていた「零戦52型」と「
敵味方を問わず機銃の
もちろんこれだけで済むはずはない。”
「やらせはせん! やらせはせんぞ!」
それに対し、ここまで生き延びていたオリオン級戦艦「ベテルギウス」が、エルンスト・バーダン艦長の指揮下で迎撃を図る。軽巡洋艦や駆逐艦も突撃水雷戦の構えを見せた。が、しかし。
「敵艦捕捉! 全主砲、
「ぐあぁ…っ! 死して帝王陛下にお詫びを……!」
金剛型程度で大和型に勝てるはずもなく、マグドラ群島でミリシアルの第零式魔導艦隊とも戦った歴戦の戦艦「ベテルギウス」は、46㎝砲のたった一斉射で轟沈。
「敵は
「全砲門、開いてください!」
「第一戦速! 砲雷撃、よーい! てぇー!」
「第九駆逐隊を舐めないでよ!」
「て、敵艦見ゆ! って、本当に実戦!?」
「Fire! Fire!! Fire!!!」
水雷戦隊も、
そして輸送船団にも容赦無く砲撃が降り注いだ。空から落下する大小の砲弾が輸送船を打ち砕き、乗っていた兵員が上陸作戦のスキルを発揮する暇もなく吹き飛ばされ、本国からここまで運ばれてきた戦車などの重装備が役に立たないスクラップと化して沈む。中には15インチ砲弾や46㎝砲弾というオーバーキル火力を叩き込まれ、一瞬で文字通りに消し飛ぶ船もあった。
さらに、「パル・キマイラ」が降伏勧告の時点でレーダーに捉えていた航空部隊…シオス王国から発進した多数の「一式陸上攻撃機」までが攻撃に加わる。空と海からの攻撃で、グラ・バルカス艦隊は容赦無く叩き潰されていった。
「パル・キマイラ」が飛来してからたった2時間。その2時間で、グラ・バルカス帝国海軍特務軍艦隊は、残存戦力のほとんどを失って全滅した。わずかな生き残りも降伏を余儀なくされたのである。
ちなみに降伏したのはチエイズの軍港にいた艦艇ばかりである。グルート騎国にいた艦はどうなったかって? 全て「パル・キマイラ」に撃沈されたのである。戦艦「メブスタ」も必死に戦ったものの、超大型魔導爆弾「ジビル」で無力化された。そのついでとばかりに、「パル・キマイラ」は軍港施設の他にグルート騎国の代名詞的存在である集会所にも「ジビル」を投下、グルートの中心街は炎に包まれた。
グルート騎国のグラ・バルカス帝国基地は「パル・キマイラ」の砲撃と「ジビル」投下で全滅し、ムルーガル少将以下ほぼ全員が戦死した。チエイズ王国の基地も「大和」以下のメンバーの艦砲射撃で全滅し、テイラー司令以下大半が吹き飛ばされている。
そして自国の軍隊はもちろんのこと、頼みの綱のグラ・バルカス帝国軍ですら手も足も出ずに叩き潰される様をまざまざと見せつけられたチエイズ王国・グルート騎国は、大東洋共栄圏と神聖ミリシアル帝国が連名で出した降伏勧告を慌てて受諾。大東洋西部における戦闘はひとまず終結し、「エクリプスナイパー作戦」はその目標を達成した。
ニューランド島のグラ・バルカス帝国軍の壊滅を確認した「パル・キマイラ」は、皇帝の命令に従い撤収した。後はロデニウスだけでどうにかできるだろう、と看做されたのである。
そしてロデニウス連合王国にとって、大東洋における戦闘はまだ終わっていなかった。最低でもあと1つ、やらなければならないことがある。
というわけで、これでグラ・バルカス帝国特務軍艦隊との戦闘は終了。艦隊は例外なく、沈没か降伏かの運命をたどることとなりました。
まあ、仮にニューランド島を脱出できていたとしても、帝国本土まで帰れたか非常に怪しいんですけどね。何せニューランド島からグ帝本土まで距離がめちゃくちゃ遠いですし、その途上には神聖ミリシアル帝国とムー大陸(正確にはムー大陸周辺に展開しているロデニウス海軍第13艦隊)が待ち構えていますし……
さあ、当面の最大の危険を退けたロデニウス連合王国。大東洋の平和を取り戻すには、少なくともあと1つ、仕事を片付ける必要があります。それは次回以降に触れることとしましょう。
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次回予告。
グラ・バルカス帝国特務軍艦隊への対処に全ての軍事リソースを割いていた……かに見えたロデニウス連合王国。しかし実はこの国は、グラ・バルカス帝国軍だけではなく、もう1つ別の敵とも戦っていた。その敵とは……
次回「ロデニウスの北の海から」
P.S. いつ投稿になるかは分かりませんが、ただいま準備中です。ナニをとは言いませんが。