鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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前回でグラ・バルカス帝国特務軍艦隊との戦闘は終了。ここからは、新たな局面に入っていきます。



182. ロデニウスの北の海から

 中央暦1643年6月11日 午後3時、ロデニウス大陸北方150(かいり)沖。

 ちょうど撤退中のグラ・バルカス帝国特務軍艦隊をロデニウス軍が追撃している頃であるが、実は同じ頃、この海域でも海戦が起こっていた。

 交戦勢力は、一方が(たか)()型重巡洋艦や5,500トン型軽巡洋艦、それに(ゆう)(ぐも)型駆逐艦などを使用している他、全体に平べったい艦が1隻、妙にのっぺりした印象を与える艦が1隻、水上機母艦らしい艦が1隻参加していた。いずれの艦も、ロデニウス連合王国の国旗が潮風に(ひるがえ)っている。

 交戦勢力のもう一方はというと、帆を張った戦列艦と竜母、それにビーチング式らしい木造輸送船である。それらの船のマストのてっぺんには、リーム王国の国旗が掲げられていた。

 交戦しているのはロデニウス連合王国海軍第3艦隊+αと、リーム王下直轄海軍第2艦隊である。そして、ロデニウス艦隊に参加している「全体に平べったい艦」はアマオウ型竜母の4番艦「アマオトメ」、「妙にのっぺりした印象の艦」は水上機母艦の「(みず)()」、そして「水上機母艦らしい艦」が「Commandant(コマンダン) Teste(テスト)」である。

 

 

《双方の戦力》

ロデニウス連合王国海軍第2連合艦隊

(第3艦隊より派遣)

アイカ型(高雄型)重巡洋艦「アズサ」

ニジッセイキ型((せん)(だい)型)軽巡洋艦「シュウギョク」「ズイチョウ」

カイジ型(夕雲型)駆逐艦「ゴルビー」「サニードルチェ」「セキレイ」「ベニバラード」

オウギョク型((あき)(づき)型)駆逐艦「カッタクルガン」「ハクホウ」

ウインク型砲艦「オーロラブラック」「オリエンタルスター」「キャンベル・アーリー」「キョホウ」

アマオウ型竜母「アマオトメ」

(第13艦隊より派遣)

水上機母艦 2人("瑞穂"、"Commandant Teste")

 

リーム王下直轄海軍第2艦隊

(主力艦隊)

80門級装甲戦列艦 14隻

80門級戦列艦 60隻

50門級戦列艦 36隻

竜母 4隻(装甲無し。ワイバーンロード計60騎搭載)

(輸送艦隊)

輸送船 60隻

50門級戦列艦 24隻

 

 

 海戦はセオリー通り、制空争いから始まった。まあ、航空戦力を持ちその有用性を理解している者同士としては、当然である。

 リーム海軍は、艦隊上空の(ちょく)(えん)にあたる12騎を除き、48騎のワイバーンロードを航空戦に投入。それに対するロデニウス海軍はというと、こちらもワイバーンロード40騎を発進させたものの、全て自艦隊上空で待機している。ではリーム海軍のワイバーンロード部隊に挑みかかったのは何だったかというと、「()()()き」……つまり水上機だった。

 

「全機突撃! 敵ワイバーンを艦隊に近付けさせるな!」

 

 隊長妖精の号令一下、零戦にフロートを付けたような白い機体と、フロートを付けた複葉機が一斉に機体を翻す。「瑞穂」から飛び立った「二式水戦改」12機と、「Commandant Teste」から発艦した「零式水上観測機」12機だ。

 え、観測機で空戦なんかできるのかって? 三菱が作った、「変態水上機」やら「飛ぶ不条理」やら言われる本機を侮らないでもらいたい。最高速度はワイバーンロードも上回る時速380㎞、それに加えて旋回性能は複葉機故に抜群、そして機首7.7㎜機銃2丁と後部7.7㎜旋回機銃1丁で武装しているのだ。史実の太平洋戦争では、アメリカ軍の戦闘機を撃墜した記録すらあるこの機体で、ワイバーンロードを相手取れない訳がない。

 

 羽ばたく翼を持つ者と、羽ばたかない翼を持つ者が、大東洋の海の上で激突する。その戦況はというと、

 

「ぐあっ!」

『な、何だこいつ! は、速すg(魔信途絶)』

『恐ろしく速い奴だ! 1機そっちに行ったぞ!』

 

 「二式水戦改」と当たった竜騎士たちは、不幸であった。何せこの機体は、低空での格闘性能に優れる零戦がベースになっているのだ。最高時速437㎞というワイバーンオーバーロードと同等の飛行速度、零戦譲りの高い格闘性能、そして7.7㎜機銃2丁+20㎜機銃2丁の火力の前に、ワイバーンロードは無力であった。

 「零式水上観測機」と当たった竜騎士たちも、同様である。というのも、この機体は「二式水戦改」より最高速度が遅いので与しやすい……かと思いきや、複葉故の高い運動性能が物を言った。それだけではなく、

 

「後ろを取った! 導力火炎d……」

「させるかよ」

タタタタタタッ!

「ぐふっ!」

 

 後部座席の7.7㎜旋回機銃の存在が大きかった。まさか後ろ向きに撃てる機銃があるとは思っておらず、()(かつ)に近付いた竜騎士がワイバーンロードごとハチの巣にされる光景が続出した。

 その結果、空戦が始まって30分も経つ頃には、リームの竜騎士団はその数を3分の1以下にまで討ち減らされてしまう。そして、

 

「今だ、竜騎士団は全騎突撃! リーム艦隊を攻撃せよ!」

「瑞穂、参ります。(ずい)(うん)隊、発艦始め!」

「私も行きます! 攻撃隊、出撃!」

 

 航空部隊に対し、一斉突撃の命令が下った。

 母艦上空で待機していたロデニウス軍のワイバーンロードが、一斉に翼を翻す。各小隊ごとに固まって、リーム艦隊に向けて突撃を開始した。「瑞穂」から発艦した万能水上爆撃機「瑞雲」12機が、それに続く。

 一方、低空からも下駄履きの機体が突撃する。「Commandant Teste」が持ってきた、12機の水上雷撃機「Late 298B」だ。重い航空魚雷を抱え、海面すれすれにリーム艦隊に向かっていく。

 そして、制空戦闘にあたっていた水上機隊も一部が分離し、リーム艦隊に向けて突撃していく。直掩のワイバーンロードを蹴散らし、攻撃隊の(みち)(ひら)くつもりだ。

 

「第1小隊俺に続け! 狙うは敵の戦列艦だ!」

 

 竜母「アマオトメ」のワイバーン隊長マールパティマは、35騎の竜騎士たちを率いて突撃していく。味方の水上艦隊が交戦を開始する前に、敵の主力艦隊に一撃を見舞うつもりだ。

 と、前方にワイバーンロードが1騎現れ、まっすぐ向かってくる。敵のワイバーンロードの生き残りだ。

 

「前方より敵騎1。俺がやる、各騎は対艦攻撃の準備を!」

 

 部下に指示を出し、マールパティマは敵ワイバーンに真正面から立ち向かう。ヘッドオンのコースだ。

 

「…………ここ!」

 

 敵のワイバーンロードが導力火炎弾を発射するタイミングを読んで、マールパティマは手綱(たづな)を右に引く。小さく右旋回したワイバーンロードのすぐ左を、炎の塊が掠めていった。すかさず左足に体重をかけると、ワイバーンロードが左に身体を傾ける。そこでなんと、マールパティマは両手を手綱から完全に離した。代わりに背中に手を回し、背負っていた黒い物体を両手で掴む。

 そして、敵の竜騎士とすれ違うその瞬間。

 

()らえ!」

 

 マールパティマは、両手で持った黒い物体……MP40の引き金を引いた。

 

ダダダダダダッ!!

 

 短機関銃の銃口から炎が(ほとばし)る。至近距離に迫っていた敵ワイバーンロードの図体に、9㎜パラベラム弾が次々と突き刺さった。

 空中に血が舞い散った。撃たれたワイバーンロードが(うな)()れるように首を下げ、竜騎士を乗せたまま海面に墜ちていく。悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが、それも一瞬だった。

 

「見たか!」

 

 飛沫(しぶき)と変わった敵ワイバーンに、マールパティマは罵声を浴びせた。そこへ、

 

『第1小隊、アタックポジション! 「ブラストアロー」用意!』

 

 指揮を代行している部下の声が、魔信に乗って響く。マールパティマが敵を撃墜している間に、対艦攻撃の用意が整ったらしい。

 

『よーい……てぇっ!』

 

 号令から一拍遅れて、リーム艦隊上空に達したワイバーンロードの背中から複数の白煙の筋が噴き伸びる。それと同時に、複数の導力火炎弾も降り注いだ。

 発射された「ブラストアロー」や導力火炎弾が次々と命中し、敵艦隊から黒煙が上がり始めた。(しゅ)(りゅう)(だん)を投下して敵艦を爆撃した騎もいるらしい。既に何隻かの戦列艦は盛大な火柱を噴き上げ、大爆発と共に真っ二つとなって海中に引き込まれつつある。

 マールパティマは敵艦には手を出さず、味方との合流を優先した。まだ敵艦は多数いる、焦ることはない。

 

 竜騎士団がリーム艦隊への攻撃を開始したのと時を同じくして、甲高い金属質の高音が響き始めた。急降下に入った「瑞雲」のダイブブレーキ音である。

 今回飛び立った「瑞雲」は、いずれも250㎏爆弾を1発抱えている。その攻撃目標は竜母だ。竜母1隻につき、1個小隊3機が急降下爆撃を仕掛ける。

 竜母は戦列艦と違って砲弾を搭載していないから、誘爆による撃沈は狙えない。そこで、250㎏爆弾で甲板をぶち抜いて艦内で炸裂させることで、(じん)(だい)なダメージを狙おうというわけである。

 リーム艦隊の兵士たちは、必死でバリスタを空に向けて矢を放ち、あるいは魔導士の火炎魔法「ファイアボール」や氷の矢を放つ「アイスアロー」などの魔法を空に向けて撃ってきたが、当たるどころか(かす)りもしない。それどころか、聞き慣れないダイブブレーキ音のせいで冷静さが失われ、呪文を唱え間違えて不発にしてしまう魔導士が続出した。

 一列に並んで突っ込んできた「瑞雲」が、順番に引き起こしをかける。機体を引き起こすと同時に、腹に抱えた爆弾を投下した。笛のような甲高い音を立てながら、爆弾が降ってくる。

 爆弾のうち何発かは目標を外れて海面に落下し、戦列艦の魔導砲による砲撃よりも太く高い水柱を噴き上げる。だが、爆弾の多くはちゃんと目標に命中し、最上甲板をぶち抜いて艦内で炸裂した。甲板に大穴が開き、人間だったものが辺り一面に吹っ飛び、マストがなぎ倒される。

 竜母という船はその構造上、飛行甲板が左舷に大きくせりだしているため、艦体の右舷側に艦橋やマストを設置してカウンターウェイトにすることで安定を保っている。そのマストが失われた竜母は、あっという間もなく左へと傾いていき、やがて海面に横倒しになるようにして転覆した。木造船であるため簡単には浮力を失わないが、沈没は時間の問題である。

 「瑞雲」による爆撃が終わった時には、4隻の竜母は全て転覆するか、洋上の巨大な(かがり)()と化して燃え盛っていた。これでリーム艦隊は、戦場の制空権を失ったのだ。

 そこへ、低空から横一線に並んで突っ込んできた「Late 298B」が魚雷を投下する。海面に十数本もの白い線が浮き上がり、リーム艦隊めがけて突進していった。

 リーム艦隊の方では、カンの良い艦長がとっさに回避を命じたことで、ギリギリで回避に成功する戦列艦もあった。だが、大半の艦長は海中から攻撃する兵器など想像しておらず、回避が遅れた。その代償は高くつくことになった。

 海中から襲いかかった魚雷は、その全てが戦列艦に命中。舷側に巨大な水柱が突き上がるや、それをさらに上回る爆発が発生し、戦列艦は一撃で真っ二つに折れて海中に没する。乗員たちの多くは退艦する暇も与えられず、艦もろとも海中に消えていった。

 

 航空攻撃だけで大きな被害を出したリーム艦隊。しかし、残念ながらこれはまだ序の口である。航空機と竜騎士団が攻撃している間に、ロデニウス海軍の第3艦隊は全速力でリーム艦隊との距離を詰め、距離10㎞で砲戦を開始したのだ。"瑞穂"と"Commandant Teste"は、「改良型艦本式タービン」+「新型高温高圧缶」の装備によって高速化した脚を利用し、第3艦隊主力とは反対側に展開することでリーム艦隊を挟み、搭載した高角砲をつるべ撃ちしている。

 

「瑞穂、参ります。攻撃開始……撃ち方、始めて!」

「Feu! 逃しはしません!」

 

 号令一下、12.7㎝や10㎝の高角砲弾がリーム艦隊に降り注ぐ。こんな豆鉄砲でも、リーム海軍の戦列艦にとってはお釣りがくるほどの高威力砲弾であった。命中したそばから戦列艦は弾火薬庫に引火し、凄まじい火柱とともに爆沈していく。第3艦隊の巡洋艦や駆逐艦も、次々と主砲弾をリーム艦隊に浴びせ、あるいは実戦訓練のちょうど良い的だとばかりに訓練を兼ねて雷撃を見舞っている。

 そして「瑞雲」も「Late 298B」もワイバーンも、まだ攻撃を続けていた。体力が続く限り導力火炎弾を撃てるワイバーンは当然として、2種の水上機も搭載した機銃で掃射をかけている。特に「瑞雲」は、破壊力抜群の20㎜機銃を持っているのだ。浴びせられる弾があるなら、1発でも多く撃ち込むつもりである。

 海上、海中、そして空からの攻撃で、リーム王下直轄海軍第2艦隊はその数を急激に減らしていく。

 

「そんな……あり得ない……。グラ・バルカス帝国の艦隊が来ているのは知ってる……ロデニウス軍はそっちに対応しなければならないから、我が艦隊は何の迎撃も受けずにロデニウス本土に到達できるはずだったのに……!」

 

 想定とは全く異なる戦況に、第2艦隊司令官は愕然とした様子で呟いた。

 次の瞬間、「瑞穂」が撃ち込んだ12.7㎝砲弾が対魔弾鉄鋼式装甲を貫通して弾火薬庫を誘爆させ、彼が乗っていた戦列艦「アルケティア」は全乗員を道連れにして()()()(じん)に消し飛んだ。

 

 海戦が始まってから1時間ほどで、リーム海軍第2艦隊の主力は戦力の8割以上を喪失して撤退を開始した。こうなると、輸送船団が無事に済むはずがない。

 輸送船団の護衛についていた戦列艦24隻はあっという間に()()らされ、ロデニウス艦隊と航空部隊は草食動物を襲うライオンのように輸送船団に襲いかかった。もちろん、脚の遅い輸送船が逃げ切れるはずもなく、輸送船は片っ端から撃沈され、ついには降伏する艦も出て全滅してしまった。

 

 こうして、リーム王国によるロデニウス本土攻撃は、参加戦力の大半を失い大失敗に終わった。

 生きて戦場を離脱することができたのは、わずか数隻の戦列艦のみである。他は全て撃沈されるか降伏した。また、母艦が全て沈んだことでワイバーンロードも全騎が未帰還となった。

 この海戦におけるロデニウス軍の損害は「無し」である。本当に、被害無しでリーム艦隊を全滅させたのだ。

 大戦果を上げたロデニウス海軍第2連合艦隊は、輸送船や戦列艦のうち航行能力が低下した艦から乗員を移乗させた上で撃沈処分し、航行能力を残している艦には武装解除を施すと、降伏したリーム海軍艦を(えい)(こう)して意気揚々とマイハークへ引き上げていった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌6月12日 午前8時、ロデニウス連合王国首都クワ・ロデニウス 連合王国軍総司令部。

 

「そうか。グラ・バルカス帝国艦隊の迎撃も、リーム王国艦隊の迎撃も、全て上手くいったか……」

 

 海軍大臣ゴーダ・ノウカ大将からの報告を聞いて、連合王国軍総司令官チェスター・ヤヴィン元帥は安心した様子で呟くように言った。

 

「ということは、我が国に対する当面の脅威は去った、と見て良いのか?」

「はっ、そのように考えられます。ただ、第13艦隊司令官代理の大和(やまと)殿からは、撤退したグラ・バルカス帝国艦隊を完全に破砕してほぼ恒久的に我が国の本土の安全を確保するため、第13艦隊主力は引き続き『エクリプスナイパー作戦』に従事する、と報告が届いています。また、彼女はニューランド島の敵拠点や撤退中の敵艦隊を攻撃するため、大東洋共栄圏参加各国に対して海軍や航空戦力の出撃を要請してほしい、と要望を出しています」

「うむ、委細承知した。ナハナート王国やアルタラス王国にいる我が軍の航空部隊に出撃を命じると共に、ムー国の航空部隊にも出撃を要請しよう。我が方で露払いをするから、ニューランド島の敵基地への空爆を頼むことにする。

それと、せっかくなのでシオス王国海軍をリーム艦隊に対処させることにしよう。対処といっても、飛び地にいる敵艦隊を撃滅した後、海上封鎖に参加してもらう形になるだろう」

 

 そこにノウカが更なる疑問を呈する。

 

「では、リーム本土方面はどうしますか? 第3艦隊は砲弾の射耗こそあるものの、損害は全く受けていないため、今一度の出撃は可能ですが」

「それについてだが、私に考えがある。この際だ、大東洋共栄圏としてリーム王国に宣戦を布告し、我が軍を中心とする大規模部隊でリーム王国を降伏させてしまってはどうか、と私は考えているのだ。

時にハンキ大臣、陸軍部隊の様子はどうか?」

 

 ヤヴィンに話を振られ、陸軍大臣コルビー・ハンキ大将が敬礼する。

 

「はっ、本土防衛配置に就いていた陸軍の各部隊ですが、第4軍団は念のためまだ防衛待機命令を出しています。それ以外の部隊については、順次撤収を開始しました。ただ、第3軍団につきましてはフィルアデス大陸方面への外征の可能性を考慮し、こちらも待機状態となっています」

「ということは、私が命令を出せば第3軍団はリーム王国本土への上陸作戦が可能なのか?」

「左様です。海兵隊の方にも話は通してあり、現在第1海兵師団が待機しています」

「分かった。リーム王国に出征するかどうかについては、国王陛下の御判断を仰ぐと共に外務省との調整なども必要になるから、少し判断を待ってもらいたい」

「承知しました」

 

 ハンキが敬礼して引き下がると、続いて空軍大臣ウルダ・アルデバラン大将が尋ねた。

 

「では、我が空軍の竜騎士団はどのように動けばよろしいでしょうか?」

「空軍は引き続き、本土周辺の哨戒にあたってもらいたい。もしかするとリーム方面への遠征の際に出撃命令を出すかもしれないが、まだ確たる話ではないので今は本土近海の哨戒に専念してもらいたい」

「承知しました、部下たちにはそのように伝えます」

 

 

 軍に指示を出した後、ヤヴィンは急遽最高評議会の開催を申請すると共に、外務大臣ゴンゾーラ・リンスイ卿に根回しをして、リーム王国への宣戦布告を支持してくれるよう取り計らった。その後は第13艦隊情報局からの情報などを根拠に、対リーム戦争計画「オレンジ・プラン」を見直した。

 同日午後、王宮にて開催された最高評議会の席上で、ヤヴィンはリーム王国に対する武力攻撃を提案した。その目的は、大東洋共栄圏及び第三文明圏の平和と国際秩序の回復である。

 グラ・バルカス帝国艦隊の襲来で国際秩序がガタガタになっている所に、火事場泥棒のように襲ってきたリーム王国の艦隊。今回は『たまたま』本土に残っていた戦力で撃退できたが、放置しておけば本当に余裕がない時に再度侵攻を仕掛けられ、本土に上陸を許してしまうという最悪の事態を招きかねない。

 幸い今の自国軍は陸軍も海軍も空軍も海兵隊も動かせる。やるなら、リーム王国軍が戦力に大打撃を受け、上層部が衝撃を受けている今しかない……ヤヴィンはそう力説した。

 続けてリンスイが、中央暦1641年秋にあった海賊騒動のついでに発覚した私掠船事件を槍玉に挙げ、「リーム王国は潜在的に我が国にとって敵国であった。今回リーム王国の軍が大規模艦隊、しかも陸上戦力まで連れて我が本土に迫ってきた。これは我が国に対する武力侵略の意図があったとみて間違いない。よって、戦端を開く大義名分もある」と発言した。

 1時間にわたる評議の末、ロデニウス連合王国は国王カナタ1世の決断を受けて……

 

 

 

リーム王国への宣戦布告と、同国への派兵を決定した。

 

 

 そしてこうなると、忙しくなるのが外務省、そしてその傘下組織である大東洋共栄圏総合管理庁である。外務大臣リンスイ卿が最高評議会から戻り、リーム王国に対する宣戦布告が決定したと伝えた直後から、両組織は動き始めた。急いで周辺諸国の大使館にアポイントを取り、事の次第と今後の対応を伝えなければならないからである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 リーム艦隊とロデニウス艦隊の交戦から2日が経ち、中央暦1643年6月13日。処はフィルアデス大陸東部 第三文明圏リーム王国 王都ヒルキガ。

 ヒルキガの一角に立つ王城セルコ城、その大会議室に多数の人間が集まって着席していた。その上座には、現リーム国王バンクスが座っている。

 リーム王国の王前会議……リーム王国の国家としての意志を決定する重要な会議である。

 

「リバルよ、これはいったいどういうことか!?」

 

 しかし、その席の雰囲気は現在、かなり悪かった。というのも、王下直轄海軍から入った報告が、バンクスの機嫌を損ねたのだ。

 

『中央暦1643年6月11日、第2艦隊旗艦「アルケティア」との魔信途絶。その翌日、第2艦隊の戦列艦が僅か数隻のみ帰還し、他は全艦が行方不明となった。

帰還した艦の乗員の報告では、第2艦隊はロデニウス海軍の艦隊及び飛行機械と交戦し全滅した、とのことである』

 

 リバルにとってもバンクスにとっても、これは意外な凶報であった。

 グラ・バルカス帝国の大艦隊が来ており、ロデニウス軍はそちらに対応しなければならないから、本土の守りは手薄になるはずだ。そう確信していたリーム王国は、このタイミングで第2艦隊を出撃させ、戦力不在のロデニウス本土を叩こうとしたのだ。しかし、どうやら上手くいかなかったらしい。

 

「おいリバルっ! どういうことか答えよ!」

「は、そ、それが……私にも分かりかねます。グラ・バルカス帝国は非常に強大で、いずれは神聖ミリシアル帝国ですら征服し、こちらにも手を伸ばしてくることは確実でした。そしてロデニウス連合王国に、グラ・バルカス帝国に抵抗できる力などないはずなのです!

だからこそ、このタイミングでロデニウスを征服できる、と考えたのですが……私めにも、何がどうなっているのか……」

 

 困惑しているリバルだが、実は彼は致命的な誤認を犯している。

 そもそもロデニウス連合王国に、グラ・バルカス帝国に抵抗できる力がないと信じている時点で間違いなのだ。ロデニウス連合王国は、少なくともその軍の一部においてはグラ・バルカス帝国に拮抗できる、どころかむしろ圧倒し得る部分があるのである。このため、襲来したグラ・バルカス帝国艦隊は散々に叩きのめされ、今や指揮系統を失って退却に追い込まれているのである。

 それに、もし仮にリーム王国の陸軍がロデニウス大陸に上陸できていたとしても、すぐにロデニウス陸軍によって叩き出されていただろう。というのも、リーム王国陸軍歩兵の主武装は前装式マスケット銃である。ボルトアクション式ライフルやセミオートマチックライフルを持つロデニウス陸軍歩兵に対抗できる力はない。また、リーム王国陸軍は地竜リントヴルムや魔導砲も持ち込んでいたが、それとてロデニウス陸軍の戦車が出てくれば鎧袖一触で蹴散らされる。特にロデニウス本土には、「重すぎてムー大陸に持っていけないから」という理由で多数のティーガーⅠが残っているのだ。とても対抗できない。

 

「国王陛下! 一大事にございます!」

 

 会議が混乱している所に駆け込んできたのは、キルタナだった。王都ヒルキガに住まう諸侯の1人で、リーム王権政府の総務を任されている。

 

「おおキルタナか、どうしたのだ?」

 

 首を傾げるバンクスに、キルタナは早口で説明しながら1枚の紙を手渡した。

 

「つい30分ほど前、ロデニウス連合王国からこんな魔信が届きまして…! まずはご覧ください!」

 

 あまりに切迫した様子で訴えるキルタナに、バンクスもリバルもこれはただごとではないと判断した。

 ひとまず手渡された文書に視線を落とす。が、初っぱなに記された差出人の名に、2人揃って仰天した。

 

文書番号:ロ連外第45931号

     大東洋第10226号

発:ロデニウス連合王国王権政府

   大東洋共栄圏総合管理庁

宛:リーム王国政府

 

 差出人の名義がまさかの「王権政府」となっている。ということは、これはロデニウス国王の勅命によって書かれたものであり、いわばロデニウス連合王国の国家としての意志ということになる。

 で、その内容が以下の通りだった。

 

本文書において、ロデニウス連合王国は貴国リーム王国に対し、以下の内容を通達する。

 

壱. 宣戦の布告

去る中央暦1643年6月11日、我が国本土に、陸上戦力の輸送船多数を含む貴国海軍の大規模兵力が通告無しに接近してきたため、我が国に対する武力侵略の意志ありと判断し、我が国は軍の総力を挙げてこれを撃退した。これに関して、ロデニウス連合王国は貴国リーム王国に、我が国の領土並びに主権に対する明確な侵略の意図があると判断する。

以上よりロデニウス連合王国は、貴国リーム王国を第三文明圏並びに大東洋共栄圏の平和と国際秩序に対する重大な脅威と見なし、かかる脅威を排除すべく、中央暦1643年6月14日午前0時を以て宣戦を布告する。

 

弍. 宣戦布告に係る大東洋共栄圏の対応

上記の宣戦布告において、貴国リーム王国は大東洋共栄圏の存続と平和に対する重大な脅威と認定される。このためロデニウス連合王国が主宰する大東洋共栄圏に参加する全ての国家は、貴国リーム王国と敵対状態にあるものと宣言し、貴国との国交の一切を停止するものとする。

 

参. 戦時協定の締結に係る外交会談に関して

上記の通り、中央暦1643年6月14日午前0時を以て我がロデニウス連合王国と貴国リーム王国は戦争状態に突入するものとする。それに関して戦時協定を締結するため、貴国リーム王国外務省との会談を提案、希望する。

よって、貴国の外交官の都合がつく日時を、魔信にて我が国外務省まで連絡されたし。連絡に使用する周波数は以下に記載する。

なお、会談はロデニウス連合王国の首都クワ・ロデニウスにある、ロデニウス外務省にて行うものとする。そのため、交渉期間におけるリーム王国大使の生命の安全、及び渡航の手段は、ロデニウス連合王国が全責任を持って確保する。

 

最後に、本文書の送信日時は貴国駐在の我が国大使館を通じて完全に記録されており、書面の複製も準備されている。さらに、魔信機のトラブル等がないことも確認済みである。したがって、貴国上層部が本文書を受け取っていないと主張したとしても、我が国は一切の責任を負いかねる。

 

以上

 

 いっそ(すが)(すが)しいまでの、ド直球の宣戦布告である。

 

「なっ! な……な……!?」

 

 一瞬、理解が追い付かなかったため、バンクスの口から変な言葉が飛び出した。リバルも目を見開いている。

 かつて第三文明圏内外に覇を唱え、圧倒的な軍事力を誇っていたパーパルディア皇国。それを亡き者にしたロデニウス連合王国は、間違いなく第三文明圏内外で随一の軍事力がある。その軍事強国から、宣戦を布告されたのだ。

 

「す、すぐに王都周辺の全諸侯に命令を出せ! 兵力を結集し守りを固めるのだ!

海軍も、予備艦まで全て動員しろ! 竜騎士団は哨戒の騎数を倍にし、もしロデニウス軍の侵攻があれば全兵力を以てこれを撃退せよ!」

 

 慌てた様子で指示を出した後、バンクスは震え声で呟いた。

 

「だ、大丈夫だ……奴らもグラ・バルカス帝国との戦闘で疲弊している。最低でも1年、長ければ数年は手を出せないはずだ!

仮に攻めてきたとしても、疲弊している現状なら防衛に徹して奴らの攻勢限界まで耐えれば……」

 

 当然のようにバンクスは、眠れぬ夜を過ごす羽目になった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方、当のロデニウス連合王国はというと、

 

「これより戦略説明会を開始します。会議の内容は『戦略名:審判(ストラテジー・ジャッジメント)』……リーム王国への軍事攻撃作戦です。

作戦の政治的目標は、リーム王国の無条件降伏。戦略的目標は、同国の沿岸部を含む本土東部の占領並びに同国軍の無力化。最終目標は、第三文明圏並びに大東洋共栄圏の平和の確保及び国際秩序の回復です」

 

 6月12日の最高評議会が終わり、軍司令部に出動待機命令が出された時点で、既にこうなっていた。つまり、宣戦布告文書を渡した時点で、ロデニウス連合王国はリーム王国を討伐することをとっくに決定しており、そのための兵力の集結が進んでいたのである。

 説明会の出席者は、以下の通りである。

 

・連合王国軍総司令官チェスター・ヤヴィン元帥

・陸軍大臣コルビー・ハンキ大将

・陸軍第3軍団指揮官カテージ・イフセン中将

・陸軍戦略航空軍司令官ショーム・アルバート中将

・海軍大臣ゴーダ・ノウカ大将

・海軍第3艦隊司令官コンテ・パンカーレ中将

・海軍第13艦隊代表 兼 第13艦隊情報局長"(あお)()"

・海軍第16航空艦隊司令官ジム・ロックフォール准将

・空軍大臣ウルダ・アルデバラン大将

・第1海兵師団長チャールズ・レヴォック准将

 

 司会の挨拶が終わると、続いてヤヴィンが口を開いた。

 

「まずは青葉殿、グラ・バルカス帝国艦隊を撃破していただき、本当に助かった。全国民を代表して、ありがとうと言わせていただきたい。

また、出撃と海戦で疲れきっているところを急遽この会議に出席していただき、本当に申し訳ない」

「総司令官閣下、お心遣いありがとうございます。ですが、私たちは本質的に戦うために生まれた身、戦闘には慣れております。それに、一海戦で疲労するほど(ヤワ)ではありませんよ」

 

 実際、大規模作戦(イベント)ともなれば連続出撃や遠征は当たり前な艦娘たちである。ちょっとやそっとのハードワークでは潰れない。

 それに、海戦ともなれば艦娘は多かれ少なかれ興奮するものである。そのせいで脳内麻薬(カテコールアミン)がドバッとバッファするのはしばしばなのである。……いや流石に、戦闘を「素敵なパーティー」呼ばわりするような子は少数派だが。

 

「いつも第13艦隊をあてにしてすまん、この戦争が終わった時に何かできないか検討させてもらう。

さて、これから作戦説明に入る。本作戦『審判』は、3段階の作戦で成り立っている。第一段階は、フィルアデス大陸方面の制海権を確保する『アークアンセム作戦』。第二段階は、セニアを中心とする飛び地を含め、リーム王国東部及び南部の制空権を奪取する『イクサプロド作戦』。そして第三段階として、陸軍兵力を上陸させ、電撃戦を以てリーム王国を占領・武装解除する『カーディアーカ作戦』を実施する。

続いて各作戦の説明だ。まず『アークアンセム作戦』では、フィルアデス大陸周辺にいるリーム王国の海上戦力を撃破し、大東洋における制海権を確保し維持することが求められる。そのため、強力な航空戦力を有する第13艦隊にご協力を願いたいのだが、青葉殿、如何だろうか?」

 

 ヤヴィンに話を振られ、"青葉"は即答した。

 

「司令官代理の"大和"の意見としては、第13艦隊は『エクリプスナイパー作戦』のこともありますので、タウイタウイに残る戦力の中でも限られたメンバーしか本作戦に投入できません。また、第13航空艦隊についても、現時点ではフィルアデス大陸方面には投入できない、と言われています。

しかし、フィルアデス大陸方面に出せる水上戦力として、第13艦隊では航空戦艦2人、正規空母1人、軽空母2人、重巡洋艦4人、軽巡洋艦5人、駆逐艦8人、水上機母艦2人を確保しています。

そして申し訳ないのですが、こちらの司令部にもフィルアデス大陸方面の作戦まで管理する能力が残っていませんので、もしこれらの戦力を運用する場合は、一時的に第3艦隊司令部の指揮下に入って行動することになる、とのことです。第13艦隊司令部からは以上です」

「そうか、了解した。先日の海戦では、貴艦隊の水上機母艦に搭載された航空機が非常に大きな役割を果たしたと聞いている。その水上機母艦に加えて、航空戦艦と空母まで送ってくださるのであれば、心強い限りだ。感謝する。

パンカーレ司令、第3艦隊の整備状況はどうか?」

「はっ、我が第3艦隊につきましては、砲艦1隻が海戦後にエンジンの不調を訴え、調査の結果規模の大きな工事が必要と判明したため、この艦は作戦行動が取れなくなりました。しかし、それ以外の艦は引き続き作戦行動が可能です。そのため重巡洋艦1隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦6隻、砲艦3隻、竜母1隻が投入できます」

「うむ、了解した。続いて、輸送船の確保状況はどうだ?」

「はっ、民間から徴発した船を含めて、輸送船の数は何とか充足しました。後は陸軍と海兵隊の戦力が揃うのを待つのみ、という状態です」

「ではイフセン中将にレヴォック准将、陸軍と海兵隊の戦力集結はどうなっている?」

「はっ、陸軍につきましては陣地撤収に時間がかかっており、全てが完了するには最大で2日程度を見込む必要があります。第二段階が始まるまでに、兵力の集結と乗船を終えるつもりで作業を急がせます」

「第1海兵師団は、全ての戦力がマイハークへの集結を完了しました。あとは乗船するだけです」

「了解した。陸軍には戦力集結を急いでもらいたい。

『アークアンセム作戦』の作戦内容の説明に戻る。まずはフィルアデス大陸南部にある、セニアを中心とするリーム王国の飛び地の制海権を奪取する。この飛び地とリーム本土の海上交通路を切断することで、飛び地からの奇襲を防止するのが大きな目的だ。当然、リーム王国の海軍及び竜騎士団による迎撃が予想されるため、第13艦隊の航空戦力の一部をこちらに回す予定だ。

続いて第二段階、『イクサプロド作戦』。この作戦では、リーム王国の飛び地の制空権を確保し、戦略爆撃を行うことになる。このため、アルタラス王国にいる陸軍第15戦略航空爆撃団やシオス王国にいる海軍第15航空艦隊、フェン王国に臨時展開する海軍第16.1航空戦隊が主力となる。

また、フェン王国の空軍が本作戦への協力を申し出ている。彼らの装備は、タウイタウイから供与された『一式戦闘機 (はやぶさ)』だ。爆装はできるが、もっぱら制空隊として参加することになるだろう。

最後に、第三段階『カーディアーカ作戦』だ。飛び地にいるリーム王国海軍の戦力を撃滅し、『アークアンセム作戦』の前半戦が終了したと判断された時点で、陸軍第3軍団及び第1海兵師団はマイハークを出撃、リーム王国本土へ向かう。道中の護衛と上陸地点への事前攻撃、及び敵海軍戦力の撃破は、海軍第3艦隊及び第13艦隊が担当してくれる。また、アワン王国が野戦飛行場を提供してくれたため、ここに海軍第16.2航空戦隊を展開させ、リーム本土沿岸部を含むフィルアデス大陸東部の制空権確保を図る。

上陸地点は、リーム王国の王都ヒルキガだ。いきなり敵の首都へ殴り込むことになる。敵の抵抗の苛烈なることが予想されるが、全軍で協力して占領してもらいたい。ヒルキガ占領にかかる期間は2週間と見込んでいる。

もしリーム国王が脱出していれば、リーム王国内に限り地の果てまでも追跡してほしい。その場合は、占領したヒルキガの近郊にあるリーム竜騎士団の飛行場を接収し、海軍第16.2航空戦隊を展開させることでエアカバーに当たらせる。また、本土からも陸軍第14戦略航空爆撃団による支援を行う。陸軍第3軍団は彼らの航空支援の下、リーム西部の都市アリーナまで進攻してでもリーム国王の身柄を確保せよ。もし不可能となった場合は、別の策を用意するが……外務省が大東洋共栄圏に手を回して、各国が国境封鎖に協力してくれたため、何とかできると信ずる。作戦遂行期間は、当面3ヶ月と見込む。

以上が、『ストラテジー・ジャッジメント』の(こっ)()だ」

 

 絶対にリーム王国を許さない、という姿勢が垣間見える。それも仕方ないだろう。

 リーム王国とロデニウス連合王国の仲は、一言で言えば「悪い」である。中央暦1641年の秋にリーム王国がフィルアデス大陸の武力統一を目論み、それをロデニウス連合王国が阻止した。それ以来、両国の仲は険悪なものとなり、表面的には国交を有してはいるものの、水面下では双方が互いの弱点を探り合う状態だったのである。また、この事件の際にリーム王国の海軍が()(りゃく)活動をしていたことが発覚し、大東洋共栄圏参加国の船がその犠牲となっていたこともあった。

 こうした材料が揃ったことで、ロデニウス連合王国はリーム王国を「潜在的敵国」と認識していたのである。そしていつになるかは不明だが、必ずこの国とは戦わねばなるまいと覚悟を決めていた。その機会が今訪れただけの話である。

 最後に各作戦の詳細内容と参加兵力が確認され、質疑応答でいくつかの質問が飛び、そして説明会は終わった。

 

「では、特に第13艦隊の皆様はグラ・バルカス帝国艦隊との戦いで疲れているところ大変申し訳ないが、どうかもうひと頑張りしてもらいたい。我が国の、そして大東洋共栄圏や第三文明圏内外の平和と(あん)(ねい)のため、各員は奮励努力せよ。

以上、解散!」

 

 かくて、ロデニウス連合王国はリーム王国に対する武力攻撃を決定した。「作戦遂行期間は3ヶ月」の言葉通り、早ければ今年の夏の間に決めてしまうつもりである。

 それは、リーム王国側の予想よりも遥かに早い行動だった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、中央世界列強 神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリス 帝国情報局。

 

「失礼します。第6課課長ライドルカ・オリフェントです。ロデニウス連合王国とグラ・バルカス帝国との戦いに関する新たな情報の経過報告のため、参りました」

「来たか、入りたまえ」

 

 ノックの音と共に告げられた声に、情報局長アルネウス・フリーマンは即座に応じた。静かにドアを開け、ライドルカが書類の束を持って入ってくる。

 

「先日、我が帝国の南の海をグラ・バルカス帝国の400隻規模の大艦隊が通過しましたが、その件についての追加報告です」

「6月8日の"あれ"だな。やはり奴らの攻撃目標はロデニウス本土だったか?」

「はい、我々の分析は間違っていませんでした。あの後グラ・バルカス艦隊はニューランド島へ寄港し、そこで補給を行った後にロデニウス本土へ向かいました。その際、輸送船や補給艦を護衛と共にニューランド島に残したそうです。

6月10日、グラ・バルカス艦隊はロデニウス艦隊と交戦。分析の結果から、場所はロデニウス大陸西方沖と確定しました」

「ふむ、ロデニウス本土に近いようだな」

「はい。ですがこれは、実はロデニウス軍の策略だったようです。ロデニウス軍は航空機…天の浮舟の大規模投入によってグラ・バルカス艦隊を攻撃し、弱ったところで艦隊戦に持ち込んだのです」

「航空機か。航空機だけで軍艦を沈められるものか…と思うところだが、マグドラ群島やフォーク海峡、バルチスタ沖の例がある以上できるか。

それで、交戦の結果はどうなったのだ? 分析では、グラ・バルカス艦隊によってロデニウス本土は大打撃を受ける可能性が高いとなっていたが」

「いえ、結論から申し上げますと、ロデニウス本土に被害は出ませんでした。ロデニウス軍は航空機と艦隊戦力だけで、大きな被害を受けながらもグラ・バルカス艦隊を退けたのです」

「何だと?」

 

 アルネウスの眉間がピクリと動いた。

 

「ロデニウス本土にいる諜報員が送ってきた、各種の情報媒体のデータです。ご覧ください」

 

 そう言いながら、ライドルカはアルネウスのデスクに書類の束をドサリと置いた。その分厚い束のてっぺんにある「青葉新報」という新聞に、アルネウスの手が伸びる。

 

「これは……! なんと、グレードアトラスター級じゃないか!」

「はい、またしてもロデニウス軍は、グレードアトラスター級戦艦を沈めたそうです。しかも今回沈んだのは、『グレードアトラスター』そのものであるとの情報があります。ロデニウス側が救助したグラ・バルカス帝国の軍人を尋問した結果、得た情報だとか」

「なにっ!? あの『グレードアトラスター』が…!」

 

 新聞の一面にはでかでかと、黒煙を上げながら横転沈没する戦艦「グレードアトラスター」の姿がカラーで印刷されていた。キャプションにも『戦艦「グレードアトラスター」沈没の瞬間』とはっきり書かれている。

 

「グラ・バルカス帝国が撤退した後も、ロデニウス軍は大東洋共栄圏に参加している第三文明圏内外各国と連携しながらグラ・バルカス帝国艦隊を追撃し、最終的にニューランド島に追い込みました。そこに我が国の『パル・キマイラ』とロデニウス艦隊及び航空部隊が合同で攻撃を行い、最終的にグラ・バルカス艦隊は全滅、ニューランド島にある国のうちグラ・バルカス帝国に降っていたチエイズ王国とグルート騎国は、我が国とロデニウス連合王国に降伏しました」

「そうか、戦闘の流れは分かった。…それにしても、どういうことだ? ロデニウスが防ぎきるなんて、想定と違うじゃないか」

「はい。それについてですが、どうやらロデニウス軍の航空機の性能が非常に高い可能性が大です。現地諜報員はたまたまロデニウス軍の戦闘機を目撃しており、その光景を魔写に収めてきました」

 

 ライドルカが差し出した魔写には、青空をバックに灰色の影が映っている。かなりの高速を出しているらしく、全体にかなりブレているが、鉛筆のような細長い鋭角的なシルエットが窺えた。機体後部から1本の炎を噴き出している。

 

「これは…プロペラという機構がない!? それに、我が国の『エルペシオ3』と形状が似ている…!?」

「はい。その速力ですが……不確定ながら、音速を超える可能性があると……」

「なっ……!? ち、超音速だというのか!? 古の魔法帝国しか実用化していないという、あの超音速機か!?」

「諜報員は、戦闘機の通過から遅れて轟音が聞こえた、と報告しています。超音速の可能性は否定できません」

「なんとまあ……」

 

 ギュルギュル、ゴロゴロとアルネウスの胃が悲鳴を上げる。

 もし本当にロデニウスに超音速機があるのなら……グラ・バルカス帝国のプロペラ機は最高時速550〜600㎞と分析されているから、全く太刀打ちできないということになる。ミリシアルの最新鋭戦闘機「エルペシオ3」でも対抗は不可能だろう。

 それに、超音速機があるということは……

 

「そ、それならば、まさか誘導魔光弾を配備している可能性は……」

「遺憾ながら、ないとは言い切れません。現在第6課は全力をあげて、情報収集と分析にあたっています」

「分かった……この報告書は確かに受け取った。皇前会議にかけてくる。引き続き職務に(まい)(しん)してくれ」

「はい。では、失礼します」

 

 退室するライドルカを見送った後、アルネウスは天井を見上げて呟く。

 

「なんてことだ……まさか、ロデニウス軍に超音速戦闘機がある可能性があるとはな…。

ロデニウス連合王国……あの国はいったい何なんだ……?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、中央暦1643年6月18日。

 「エクリプスナイパー作戦」がその作戦目標を達成し、大東洋からグラ・バルカス帝国の勢力が一掃されたことが確認された後のことである。ロデニウス連合王国北西の港街マイハークから多数の艦艇が出港した。多数の輸送船を中心に置き、その周囲を無数の戦闘艦が取り囲んで典型的な輪形陣を構築している。巡洋艦や駆逐艦ばかりではなく、丈高い艦橋を持ち大口径の主砲を振りかざした戦艦もいる。

 陸軍第3軍団と第1海兵師団を乗せた輸送船団、そしてそれを護衛する第3艦隊と第13艦隊の連合艦隊である。「カーディアーカ作戦」の発動により、マイハークを出撃したのだった。目指すはリーム王国の王都ヒルキガ。初っぱなから堂々と首都へ突っ込む気満々である。

 そして……「カーディアーカ作戦」参加部隊が動いたということは、「アークアンセム作戦」も「イクサプロド作戦」も既に始まっているのである……。

 

 

 

 同日、中央世界列強 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。

 帝都の一角にそびえ立つ皇城アルビオン城にて、皇前会議が開かれていた。皇帝ミリシアル8世をはじめ、情報局長アルネウス、外務大臣アルノー・ペクラス、外務省統括官ヘルベルト・リアージュ、軍務大臣シュミールパオ・ラック、国防省長官アグラ・ブリンストン、対魔帝対策省局長フィリップ・ビルクバーン、同古代兵器分析戦術運用部長ヒルカネ・パルぺといった面々が勢揃いしている。

 そして今、会議の主役となっていたのは、仮面を装着した男性…空中戦艦「パル・キマイラ」2号機艦長メテオス・ローグライダーである。彼は現在、石板を操作しているところだった。

 彼の前にある会議室のテーブルの上には、まるでホログラムのように浮き上がった映像が流れている。それは「パル・キマイラ」2号機から撮影された、ニューランド島での戦いの記録映像だった。といっても映されているのは「パル・キマイラ」自体の戦闘模様ではない。ロデニウス軍の戦闘模様である。

 あの戦いの最中、「パル・キマイラ」の演算処理能力の高さに物を言わせて、メテオスはロデニウス軍の戦いぶりを(つぶさ)に撮影していたのだ。それを披露しているのである。

 単発、あるいは双発の飛行機械が空を乱舞し、チエイズ王国のワイバーンがまるで相手にならずに撃墜される。尖った機首を持つ機体が急降下して爆弾を投下し、地上の施設や軍艦が炎に包まれる。対空砲火を掻い潜って低空から侵入したロデニウス軍の機体が、海に何かを投下する。すると、それは白い線を海面に描き始め、やがて軍艦にぶつかって盛大な爆発を起こす。激しい航空攻撃の様子が捉えられていた。

 それが終わると、今度は軍艦による攻撃である。映像に映った「グレードアトラスター」そっくりのロデニウスの戦艦には、出席者たちからどよめきの声が漏れた。ロデニウスの戦艦はたった一撃でグラ・バルカス帝国の戦艦を轟沈させるや、輸送船や小型艦に砲火を集中する。瞬く間にグラ・バルカス帝国の船は全てが撃沈され、燃え盛る艦体を着底させて動かなくなった。

 グラ・バルカス帝国船が全滅すると、ロデニウス艦隊は地上施設に向けて艦砲射撃を行い、その片手間に向かってきたチエイズ王国の帆船を沈めていく。地上施設を焼かれ、艦隊も全滅したチエイズ王国は、やがて王城のてっぺんに白旗を掲げた。

 

 ロデニウス連合王国の強さは、資料などで読んで分かっているつもりだった。

 しかし百聞は一見にしかず、改めて映像で見せられると、強い衝撃を受けずにはいられない。

 映像が終わった後、最初に口を開いたのはミリシアル8世だった。

 

「ふむ、これがロデニウス連合王国の戦い方か……見習うべきところが多い。

航空機から投下され、海面に白い線を引いて進む兵器、あれが噂に聞く魚雷なのだろう。一般的に我が国の軍艦は喫水線下の防御が高くない、あんな攻撃を受ければ何もできずに沈むであろうな。

シュミールパオよ、今後設計する軍艦にあっては喫水線下の防御に注意を払うよう留意せよ」

「はっ!」

 

 シュミールパオが敬礼したところで、アルネウスが挙手し、発言権を得た。

 

「ロデニウス軍の航空機についてですが、現地諜報員より気になる報告が上がりました。

どうやらロデニウス軍の戦闘機が、かなりの進化を遂げているようです。諜報員はたまたまロデニウス軍の『灰色の戦闘機』を目撃する機会に恵まれました。それがこちらです」

 

 アルネウスが出した写真が拡大され、ホログラムの中に灰色の鋭角的な姿が浮かび上がる。

 

「この戦闘機ですが、音速を超える可能性があります」

 

 会議室に激震が走った。

 

「諜報員は、ロデニウスの戦闘機の通過から遅れて、エンジン音らしき轟音が聞こえた、と報告しています。その報告と、ロデニウスの戦闘機が後退翼を持っていること、我が軍の『エルぺシオ3』の元になっている古の魔法帝国の戦闘機とロデニウスの戦闘機のスタイルが酷似しているところから、ロデニウスの戦闘機が音速を超えられる可能性が浮上しました」

 

 衝撃からいち早く立ち直ったのは、ミリシアル8世である。

 

「アルネウス、報告ご苦労。話を聞く限り、この戦闘機はおそらく音速を超えられるだろう。余はそう考える。

こうなった以上、些細なプライドにこだわっている場合ではない」

 

 そしてミリシアル8世は、はっきりと命令した。

 

「ペクラス、そしてリアージュよ。外交官を通じてロデニウス連合王国に接触、大東洋共栄圏への参加予備交渉に入れ。今は名を捨ててでも実を取るべきである」

「「は……ははぁっ!」」

 

 一瞬驚いたものの、両名は揃って敬礼した。

 低下しつつある求心力を取り戻すため、神聖ミリシアル帝国は水面下で静かに動く。




というわけで、リーム王国海軍との戦い+ミリシアルの様子でした。
リーム王国による、どさくさに紛れたロデニウス侵攻は失敗。そしてここからは、ロデニウスが全力でカウンターパンチを打ち込む番です。リーム王国がどうなっていくか、ご覧くださいませ。

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次回予告。

リーム王国との間に戦端を開いたロデニウス連合王国。最終的にはリーム王国本土へ上陸進攻することになるが、そのためには前段階を踏むことが必要である。フィルアデス大陸と周辺の制海権・制空権を掌握すべく、ロデニウス軍が動き出す。
次回「総反撃! 激戦区フィルアデス大陸!」
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