鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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新年明けましておめでとうございます。
昨年も拙作「鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。」とスピンオフをお読みくださり、誠にありがとうございました。本年もどうかよろしくお願い申し上げます。

さて、新年一発目からかっ飛ばしますよ! かなりの大型企画です。


注:今回の新年企画は本編と世界線こそリンクしておりますが、本編への直接の影響は少ないです。たぶん、めいびー。




新年だヨ! 提督・指揮官・司令官全員集合! ……え、全員ってどちら様?

 西暦2022年12月31日 午後11時、ムー大陸西方沖 パガンダ島。

 え、中央暦じゃないのかって? 細けぇこたぁ良いんだよ!

 グラ・バルカス帝国の勢力を追放し、同国から解放されたこの小島は現在、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊の拠点の1つとして使われている。今は第13艦隊ムー派遣部隊の総旗艦「(なが)()」などが(いかり)を降ろしていた。

 その「長門」の長官私室に、第13艦隊の司令官たる(さかい) (しゅう)(いち)中将の姿があった。ちょうどこれから就寝するところである。

 

「天使の実、ねぇ……?」

 

 ベッドに座ってそう呟く堺の手には、木の実らしき小さな赤い粒が複数入った(びん)があった。

 

(イルネティア島のグラ・バルカス帝国軍基地を占領した際に入手したものだそうだが……一緒に見つかった説明書によれば、『就寝前に一粒食することで楽しい夢を見ることができ、翌朝の寝起きがすっきりする』とな? どんな夢を見られるっていうんだ……)

 

 この男、実はこの「天使の実」を試す気まんまんである。

 まあ、このところ戦闘続きで、しかもタウイタウイ泊地を遠く離れたムー大陸まではるばる来ているとなれば、多少の娯楽は恋しくなるものである。

 

(くし)()が分析した限りでも人体に有害な成分は含まれてないって話だし、取扱説明書(トリセツ)まであるんだ、毒ってことはないだろ」

 

 そう呟くや、堺は瓶の蓋を開け、赤い粒を1つ取り出した。ためらいなくそれを口に放り込み、コップの水で(えん)()する。

 

「さてさて、これで夢を見られるようだが……新年らしく、楽しめる夢だとありがたいな」

 

 そして堺はベッドに潜り込み、あっという間に眠りについた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……っと? どこだ、ここは?」

 

 ベッドで寝ていたはずなのに、堺はいつの間にか目を開けて立っていた。床の上に立っているのだろうとは察せられるが、床も壁も天井も一面真っ白であり、タイルなどの継ぎ目すら見られない。いったい、ここはどこだというのか。

 

「これが、夢? それにしてはえらくリアルな感覚だな……」

 

 と、堺の目がある一点で止まった。白い空間の中に1つだけ、高級感あふれる茶色のドアがある。

 

「あそこに入れ、ってことなのかな。現状そこしか行けそうなところはないしな……」

 

 迷うことなく、堺はそのドアに近付いていく。試しにドアノッカーを握ってノックしてみたが、中からは何も聞こえない。

 ドアノブを触ってみると、鍵がかかっておらずすっと開いた。その先にあったのは……

 

「こりゃあ、バーってところかな」

 

 全体に高級そうな調度品でまとめられ、ボックステーブル席とカウンター席が設置された部屋だった。カウンターの後ろの棚には、大量の酒瓶が並んでいる。隅のほうにはグラスやカップ等が入った食器棚もあった。

 だが、誰もいない。

 

「ではでは、失礼してお邪魔しますよっと」

 

 入室してみると、テーブルの上にはメニューらしい小冊子の他に白い紙が置かれている。そこにはこう書かれていた。

 

『料理・お酒は、注文があればすぐにお作りしお渡ししますので、お召し上がりになりたいメニューを想像しながら声に出して注文してください。また、使い終わった食器や食具は、テーブルやカウンターの上に放置していただいて結構です。

どなた様も心ゆくまでお楽しみください』

 

「何じゃこりゃ。これってつまり、この後何人か来るってことだよな? んで、俺が一番最初にこの部屋に来た人間ってことか」

 

 明らかに多人数の利用を想定した書き置き、注文は好きにできるらしい。

 

(注文したら勝手に作られる、ってことか? ちょっと試してみよう)

 

 試しにミルクティーを注文してみる。すると一瞬にしてカウンターの上に紅茶のカップが現れた。ほんのりと湯気が上がっている。

 

(おわっ!? マジか、ここまで一瞬で作られるとは……料理人やマスターがいないのに瞬時に作られるなんて、間違いなく夢だな、これは)

 

 慌てて周囲を見回してみると、食器棚に入っていたカップとソーサーのセットが1つ、消えている。ということは、消えたセットが今自身の手元にある、ということか。妙なところでリアルである。

 しかも出された紅茶は、どうやって調べたのか、砂糖とミルクの配合が堺の好みにマッチしていた。

 

(どうなってんだこれ……確かに便利だけど、不思議な感じしかしないな……)

 

 紅茶を飲み干し、カップとソーサーをカウンターに置くと、一瞬後にはもう消えてしまっていた。食器棚には消えたセットが戻っている。

 

(あの一瞬で洗って乾かして戻した、ってことか。何とも便利で不思議な……)

 

 堺はこの時全く気付いていなかったが、実はバーのドアにはいつの間にか札がかけられ、そこにこの部屋に来る人間の名前が書き連ねられていた。つまり、堺の見立て通り複数人が利用しに来る、というわけである。

 そして今、さっそく利用者が到着したところだった。

 コンコン、と控えめなノックの音。

 

「はい、どうぞ!」

 

 堺が叫ぶと、「失礼します」という落ち着いた声と共にドアが開いた。そこにいたのは、

 

(うっ……や、ヤバい! "大和(やまと)"で大分慣れたはずなのに……何だこの美人は!?)

 

 堺(身長170㎝)とほぼ同じくらいの背丈の、30代前半くらいに見える金髪の女性だった。金色のラインが入った青い軍服らしい正装に身を包んでいるが、その肩の下10㎝ほどのところには、軍服の上からでもはっきり分かるレベルの双丘が揺れていた。また、下はというとタイトスカート側面のスリットから、健康的な太ももがちらちら見えている。顔のほうも整っており、青緑色の瞳が堺を見据えていた。そして、エルフであることを示す尖った耳が突き出ている。

 堺自身、"大和"のおかげで大抵の美女には動じないはずなのであるが……これは少しばかり(こた)えた。

 

(そ、それはそうと、あの軍服、どこかで見覚えがあるな。どこで見たっけ……)

 

 と堺が考えていると、

 

「あら、今回は貴方が『天使の実』を食したお仲間、ということですね」

 

 金髪エルフが口を開いた。音楽的な美しい声が耳に届き、堺は慌てて意識を引き戻す。

 

「ああ、はい、そうです……え? 『天使の実』をご存じなのですか?」

「はい、あの実は原産地こそ第二文明圏外ですが、他国に輸出・栽培されてもいるのです。実際に我が国の国際市場では、第三文明圏の方が買っていくこともありますよ。

実は私も何度も食しています」

「なんと、それはそれは……。私自身第三文明圏の、いや、正確には第三文明圏外の出なのですが、そんなところにまで出回っているとは…。寡聞にして存じませんでした」

「いえいえ、お気になさらずに。ところで第三文明圏外と伺いましたが、どちらの出身ですか?」

(しまった、自己紹介を忘れていた! 不覚…!)

 

 気合を入れ直し、堺は敬礼した。

 

「自己紹介が遅れて失礼しました。私はロデニウス連合王国海軍・第13艦隊司令官の堺 修一と申します。よろしくお願いいたします」

 

 すると、金髪エルフは僅かに目を見開いた。

 

「ロデニウス連合王国? ロデニウスといえば、第三文明圏外のあの大陸か……ああ、そういえば日本の勢力圏でしたね」

「え?」

 

 微妙に会話が噛み合っていない上に、何故か「日本」という国名が出てきている。これには堺も混乱した。

 

(どういうこった!? なんで日本を知ってるんだこの方は!?

俺が日本の出身だとは、大抵の人は知らないはずだが……いや、カナタ陛下をはじめ何人かには正直に打ち明けているからな。そっちから伝わったか?)

 

 続いてはエルフの自己紹介である。

 

「こちらこそ、自己紹介が遅れました。私はエレイン・ペンウッド、神聖ミリシアル帝国海軍・第零式魔導艦隊で巡洋艦戦隊を指揮しております」

「ミリシアルの…!」

(そうか、道理で見覚えがあると思った……カルトアルパスやゴースウィーヴスで見た、ミリシアル海軍軍人の衣装に似てたんだった! 忘れてたよ……)

 

 そりゃあ、人間の記憶力とは大概非力なものであるから、一度ちらっと見た程度のものでは覚えていないのも仕方ない。

 

「今回はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 握手を交わしたところで、真っ先に口を開いたのはエレインの方だった。

 

「堺殿、その軍服を見た限りですが、貴方はロデニウス大陸諸国の方ではなく、日本国の方とお見受けします。海軍の用兵論に関して、是非とも伺いたいことがあるのですが……」

「日本国? すみません、何故その国名を…?」

 

 そう、堺にとってはそこが最大の疑問である。

 

「あれ、おかしいですね。『その国名』という辺り、日本国のことを知ってはいるようですが……何故に『ロデニウス連合王国の出身である』と(おっしゃ)ったのでしょう? それに私の記憶では、ロデニウス大陸にそんな連合国家はできていなかったはずですが……」

 

 この時、堺は「もしや」と思った。

 神聖ミリシアル帝国という、堺でも知っている国名が出てきたので気付かなかったが……もしかすると、エレインのいる世界は自分がこれまで関わってきた世界とは別、パラレルワールドである可能性がある……?

 

「もしかすると……エレインさん、たいへん奇怪に聞こえるかもしれませんが……」

「奇怪? どういうことでしょう?」

「驚かずにお聞きいただきたいのですが、どうやら私が知る神聖ミリシアル帝国がある世界と、エレインさんの知る神聖ミリシアル帝国がある世界は、全くの別物……似ているようで異なる世界ではないかと思われます」

「え?」

 

 エレインは首を傾げている。それはそうだ、いきなりこんな話をして通じるとは思えない。

 

「実は、私は確かに日本国の出身なのですが、私の知る世界では日本国はなんと、小さな島1つしかこの世界に転移していません。それも、その島には行政機構がなく、軍事拠点しかないのです。

当然ながら政府機能があるはずもなく、転移してきたその島は生き残るために、ロデニウス大陸諸国と連合し、ロデニウス連合王国を名乗るようになったのです。そのため、私は最初に『ロデニウス連合王国の軍人である』と名乗ったのです」

 

 こんな説明で理解してくれただろうか…と堺が心配していると、

 

「な、なんと……!?」

 

 エレインは目を丸くして驚いた。それから一度深呼吸し、口を開く。

 

「なるほど、そういうことでしたら、話が微妙に噛み合わないのも納得です。貴方は、いわば別世界の人間、ということですね。

私の知る世界では、第三文明圏外に日本国という国が突如現れたそうです。私は実際に日本国に行ったことはないので、書物や商人の噂でしか存じませんが、何でも首都のトーキョーという街には天をも貫くような高い建造物が多数密集し、道路には数えきれないほどの自動車が走り、非常に速く飛ぶ飛行機械を有する、と聞いています。そして、日本国は4つの大きな島と、それに付随する無数の小島からなる、とも聞いています。

貴方は、その『無数の小島』の1つに拠点を置く軍人で、日本国とは完全に分かれた形で転移してしまった、ということでしょうか?」

「おおむね正解です……こんなぼんやりとした説明をご理解いただけるとは、ありがとうございます」

 

 まさかの理解されてしまった。堺としても驚くしかない。

 

「いえ、私も転移現象そのものは神話で読んで知っていましたが、おとぎ話だと思っていました。夢の中とはいえ、まさか本当に転移した方に会えるとは…。事実は小説よりも奇なり、とはこういうことを言うのですね。

それはそうとしまして、別世界とはいえ日本国の方であることには間違いないのですよね?」

「はい、そこは間違いありません」

 

 堺が頷くと、

 

「では、海軍の用兵論で少々伺いたいことがあるのですが、お茶でも飲みながら教えていただけませんか?」

 

 どうやら本題に戻ってきたらしい。

 

「私に答えられることなら、喜んで」

「ありがとうございます。そちらのカウンターでお話することにしましょう」

 

 そう言って、エレインは微笑んだ。

 カウンター席に座ると、エレインは手慣れた様子でささっと注文を済ませてしまう。レモンの香りが漂う紅茶のカップを手にする彼女を見て、堺も注文を取り直した。オーダーはダージリン、砂糖の代わりにアプリコットジャムを用意してもらう。飲み方は一瞬迷った末に、ロシアンティーに対する邪道であることは承知の上で、ジャムを紅茶に入れることにした。

 

「「良き出会いに、乾杯」」

 

 偶然にも掛け声がぴたりと一致し、2人揃って噴き出してしまう。おかげで雰囲気がだいぶ(なご)やかになった。

 

「さて、海軍の用兵論とのことですが、何をお教えすればよろしいでしょうか?」

 

 紅茶で喉を潤したところで堺が切り出す。

 

「実はですね、私はこの頃感じるようになったのです。これからの時代、海戦の主役は戦艦ではなく、航空機になるのではないかと」

 

 エレインの話によると、彼女の所属する第零式魔導艦隊は、ある群島の基地航空隊と共同で訓練を行うことが多いのだが、その訓練の中で「軍艦は航空機の攻撃を回避するのは難しい」と言われるようになり始めていた。実際に訓練の様子を見ると、急降下爆撃に対する軍艦の回避成功率はかなり低い。また、軍艦に搭載された対空魔光砲の命中率は芳しくなかった。

 現場の間では、訓練を重ねれば対空砲の命中率は上がる、と言われている。だがエレインは、それに疑問を感じていた。本当に訓練だけで対空射撃の命中率は上がるのか、と。そして、巡洋艦という戦艦や空母の護衛を務める艦を指揮する身として、主力艦を守れるようになるのか、と。

 エレインの話が終わると、堺は「お話はよく分かりました」と頷いた上で、いくつか確認してみることにした。

 

「それではすみません、いくつか伺いたいことがあります。軍機に触れるようなことがありましたら、黙秘していただいても構いませんが……」

「分かりました、何でしょう?」

「まず、神聖ミリシアル帝国における対空砲にはどんな種類のものがあるか、教えていただけますか?」

「砲の種類でいうと、『高角砲』と『対空魔光砲』の2つに分類されます。

高角砲は小型船の主砲や、巡洋艦の副砲として搭載されており、砲口径は10.2㎝〜12㎝です。最近は連装砲が主力になってきましたが、近代化改修が間に合わず単装砲を装備する艦もいます。

対空魔光砲は、高角砲よりも小口径の…数字でいうと20〜25㎜程度の砲で、小口径化した代わりに連射が可能です。連装砲が一般化されており、多数の艦に装備されています」

 

 この説明を聞いて、堺は(対空魔光砲ってのは、うちでいう対空機銃のことだな)と納得した。

 

「その対空魔光砲ですが、照準方式はどうなっているのです?」

「砲手による目視照準ですね。そのため、命中率が砲手の技量(うで)に左右されてしまいます」

 

 この答えを聞いた瞬間、堺は1つの問題点に気付いた。しかし、それを一旦横に置き、さらに質問する。

 

「では、高角砲の照準方式はどうでしょうか? それと、高角砲の速射性能、及びその砲弾の信管は?」

「高角砲も対空魔光砲と同じ、砲手の目視照準です。速射性能は毎分15発とされています。信管……ですか? 我が軍では時限信管を使っていますが、他に信管があるのですか?」

 

 もう1つ問題点が出てきたな、と堺は感じた。

 

「なるほど…では次に、巡洋艦や戦艦1隻辺り、どれくらいの数の高角砲を装備していますか?」

「艦によりますが、私の乗る巡洋艦だと連装4基を装備しています。小型船は主砲と兼用ですから、連装3基とか単装4基といった、それなりの数を装備しています。戦艦には搭載されていません」

「搭載されていない?」

「はい。戦艦は敵主力艦との交戦に集中し、航空機やワイバーンから戦艦を守るのは巡洋艦や小型船の役目、と我が軍では決まっているのです」

 

 その答えを聞いて、堺は天を仰ぎたくなった。

 まさか、戦艦に高角砲がないとは思わなかった。対空能力の低い日本の戦艦でも、最低4基は高角砲を搭載しているというのに、この始末である。

 

「で、では最後に、対空魔光砲の搭載数は…?」

「戦艦ですと、連装で20〜26基くらいです。巡洋艦なら、艦体規模によりますが、連装・単装合わせてざっくり15、6基というところでしょうか。小型船では4〜8基というところで、しかも単装砲が多いです」

(ダメだこりゃ……)

 

 問題点が多すぎる。それが堺の感想だった。

 

「よく分かりました……では、私の知る限りのことを全て、順番にお話いたします。

まずエレインさんが感じていた、『海戦の主役が航空機になる』という部分ですが、これは正解です。海戦の主役は戦艦ではなく、航空機になります」

 

 堺がそう言うと、エレインはカウンターに置いた紅茶のカップを取り上げながら、少し下を向いてぽつりと言った。

 

「やはりそうでしたか……」

 

 紅茶の液面に写るエレインの表情が歪み、泣きそうな顔にも見えた。カップを持つ手が震えているだけだろう、と堺は感じた。実際にはエレインの横顔は、「来るべきものが来た」というように引き締まったものになっていたからだ。

 

「それから、私自身の経験や知識から申し上げますと、軍艦の対空兵器の拡充を急いだ方が良いように感じます」

「どのようにすれば良いでしょうか?」

「まず、戦艦にも高角砲を搭載した方が良いです。それも、最低でも連装10基」

「戦艦に、連装10基も高角砲を?」

 

 エレインが首を傾げた。

 

「はい。戦艦も、それくらいの対空兵装を持つ必要があります。

一例として、私が乗っている戦艦は12.7㎝連装高角砲を12基、それに25㎜対空機じゅ…失礼、対空魔光砲を150丁以上搭載しています。それでも足りないくらいなのです」

「な……!」

 

 堺が挙げたデータは、1945年時点の戦艦「大和」の兵装である。

 それを聞いたエレインは愕然として叫んだ。

 

「何だと…それじゃ、我が軍の戦艦は全然足りないじゃないか!」

 

 実際、最新鋭のミスリル級魔導戦艦であっても、対空兵装は25㎜対空魔光砲26基52丁だけ、高角砲は持ってすらいないのだ。到底足りない。

 ちなみにエレインは、ミリシアル軍では丁寧な口調で話すことで知られているが、素は少々キツい口調である。冷静に振る舞う時は隠しているが、我を忘れるレベルで驚くと素の口調が出てしまう。

 

「それだけではありません。例えば、巡洋艦の主砲を全て高角砲に変更した『防空巡洋艦』という船も要るかもしれません。私の知っている範囲では、主砲として12.7㎝連装高角砲を8基搭載した巡洋艦がいます」

 

 アトランタ級のことである。

 

「巡洋艦に、そこまでの対空装備を!?」

「はい。そういう思いきった船もありますよ」

「そんな……」

 

 エレインは恐ろしいものを感じた。

 巡洋艦の主砲を全て高角砲にするとなると、よほど航空機を恐れていることに他ならない。それほど航空機は怖い存在なのか。

 

「何故そこまでしないといけないのか、と言いたそうですね?」

「分かりますか?」

「いや、そうなのではないかと思っただけですよ」

 

 もちろん嘘である。エレインの顔が青くなっていたことと、これまでの会話の内容から、堺がエレインの胸中を察したのである。

 

「実を言うと、航空機の進化スピードがものすごく早いのです。私の知る世界では、爆撃機も雷撃機も、1年どころか1日ごとに新型が開発されているのではないかというほど、早い進化を見せました」

「すみません、ライゲキとは何でしょうか?」

 

 エレインの質問に、堺は今度こそ仰天した。薄々察してはいたが、やはりミリシアル軍は雷撃をまともに知らなかったのである。

 

「簡単に申し上げますと、雷撃というのは『魚雷』と呼ばれる水中自走爆弾を使った攻撃です。軍艦の喫水線下に命中する攻撃なので、その威力は凄まじく、1発当たっただけでも致命傷になり得る危険な攻撃です。この魚雷を搭載する航空機、雷撃機と呼ばれますが、それを迎撃するために我が国の軍艦はありったけの対空兵装を詰め込んでいるのです。戦艦に150丁も対空魔光砲を搭載するのも、そのためです」

「そんな……! 水中自走爆弾だなんて、そんなものがあるとは……!

そんなもので攻撃されたら、我が戦艦でもひとたまりもないではないか!」

 

 エレインは絶句した。

 

「すみません、話が大分ずれそうなので、一度元に戻してもよろしいでしょうか。それと、一旦落ち着きましょう」

「え、は、はい」

 

 堺は率先して紅茶のカップに口をつけた。しゃべり通しで喉が乾いていたせいもある。

 エレインも紅茶を口にすると、多少は顔色がましになった。

 

「先ほどの話をまとめますと、まずは軍艦に搭載する高角砲と対空魔光砲の数をとにかく増やすこと。これが一番早い解決方法でしょう」

「そうですね、これは今すぐでも実践できそうです」

「次に、高射装置などの搭載です」

「高射装置…ああ、敵諸元計算装置ですか」

「そうですね。レーダーで捉えた敵機の速度……」

「ちょっと待て! ま、まさか、日本にはレーダーがあるのか!?」

 

 いきなりエレインが食い気味に尋ねたため、堺は驚いた。

 

「え、はい。ありますよ」

「ど、どのくらいの性能が…?」

「そうですね、だいたい300㎞先の航空機などを探知し、それらの種類も識別可能、そして航空機の進行方向、速度、高度などを割り出し、敵機の未来位置まで予想できます」

「な……何だと!? 何だその高性能レーダーは!?

ち、ちなみに飛行機械は…魔力を発しない飛行物体も捕捉できるのか!?」

「十分に捕捉可能ですね」

「なんて……ことだ……!」

 

 ひとしきり驚いた後、エレインがぼそりと呟く。

 

「わ、我が軍の魔力探知レーダーなんて、足元にも及んでないではないか……!」

 

 こればかりは仕方ないだろう。

 

「レーダーがあるだけましだと思いますよ……それはともかく、レーダーで捉えた敵機について、少なくとも速度と進行方向、それに高度を計算するのが高射装置です。我が軍では、大抵の船に高射装置が搭載されています。

計算された数字は直ちに高角砲や対空魔光砲に送られ、その数字を元に兵員は狙いを定めて対空砲を発射するのです。そうすると、もう少し命中精度が上がりますよ」

「な、なるほど……!

高角砲には敵諸元計算装置があるのですが、対空魔光砲にもあった方が良いですか?」

「そうですね、対空魔光砲の統制射撃もできるようにするのが良いと思います」

 

 対空砲の統制射撃術の導入。これを堺は勧めたのだ。

 

「それから、高角砲弾は近接信管があった方が良いですね」

「近接信管?」

「はい。簡単にいうと、砲弾の先端にレーダーがついており、そのレーダーで航空機を捉えると信管が作動し、炸裂するというものです。航空機から見ると、砲弾が近くを通っただけで炸裂するという、とても危険な砲弾です」

「そ、そんなものが……」

 

 ただでさえレーダーというのは、機構が複雑である故に大きな装置になりがちである。それなのに、砲弾に仕込めるほど小さなレーダーを作れるというのは、エレインにとっては目から(うろこ)であった。

 

「それと最後に、対空魔光砲の高威力化ですね。はっきりいえば、口径40㎜とか50㎜の大口径対空魔光砲の搭載が必要と考えます。実際に私の知る戦艦にも、65口径40㎜対空機関砲を連装とか四連装で装備した艦がいますよ」

 

 これはサウスダコタ級やアイオワ級といったアメリカの戦艦のことである。

 

「大口径の対空魔光砲……なるほど、ありがとうございます。参考になります。

我が軍にも口径40㎜の対空魔光砲があるので、それへの装備換装を具申するのが良さそうですね」

「それから、これは軍艦に直接関係するものではありませんが、敵機に対抗するのに最も有効な手段は航空機、特に制空戦闘機です。できるだけ高性能な…それも最高速度、加速度、運動性能、火力、防御力いずれもバランス良く高次元の性能を持つ機体が、多数必要になります。なので、航空母艦の搭載数も間接的ながら重要ですね。

私の話をまとめますと、第一に軍艦の対空兵装の拡充。第二に、必要に応じて対空戦闘専門の艦の建造。第三に、高射装置などの計算機の導入による対空魔光砲の統制射撃。第四に、高角砲弾への近接信管の導入。第五に、大口径対空魔光砲の装備。そして第六に、新型戦闘機の開発と航空母艦の搭載数の向上。これが、艦隊の対空防御能力を上げる手段だと思います。あとは訓練あるのみですね」

 

 堺の話を聞き終えたエレインは、目をキラキラさせて勢いよく頭を下げた。

 

「素晴らしいお話でした。非常に参考になるものが多く、一部の案は今すぐにでも実現できそうです!」

 

 そこまで言ったところで、いきなりエレインの眉がハの字の形になり、困ったような顔になる。

 

「ただ残念なことに、今私たちは夢の中にいる訳ですから、起きると同時にほぼ忘れてしまうのです……」

「何ですと!?」

 

 堺にとっては、非常に残念なお知らせだった。

 

「何ということでしょう……せめて書くものがあれば、メモするなどして覚えておく手段を増やせるはずですが……」

 

 慌てて堺が周囲を見回すが、ここはバーである。都合良く筆記用具なんてものがあるはずがない。

 その時、コンコンとノックの音が鳴った。




今の時点で、私のいう「大型企画」の正体が何なのか、当事者の方以外で察することができた方がいるならば……素晴らしい、と申し上げておきます。きっと召喚二次に通暁していらっしゃることでしょう。
ただ、現時点ではまだネタバレ(予想含む)はお控え下さいますよう、お願いいたします。

この企画、まだまだ続きますよ!
次回は60分後、1時00分に公開します。
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