鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今度は2人連れでお越しくださったようですよ。どなたがいらっしゃったのでしょうね。


(あらすじ)
「天使の実」を食することで、食した人やその人と共通点を持つ人が、夢の世界にあるバーに集まり、談笑や食事を楽しむことができる。
今宵、このバーには別々の世界から、堺、エレイン、『大和(やまと)』の3人が集まっていた。だが、これはまだ序の口。次の来訪者が姿を見せる……



新年、夢の世界より ……私には不釣り合いなほどすごい方々が来られた気がする……

(誰か助けてくれ……話についていけない……)

 

 そんな彼女(エレイン)の切なる願いが通じたのかは定かではないが。

 ともかくも、ノックの音がバーに響いたのであった。

 

「はい、どうぞ!」

 

 ちょうど堺も『大和』も、飲み物で喉を潤していたタイミングであるため、エレインが返事をした。もしかしたら、このノックの音を天の助けと感じたのかもしれない。

 扉が開かれ、入ってきたのは2人の男性だった。片方は、白シャツと黒の礼装、それに青いネクタイを着用した、茶髪の長身の男性(ちなみにエレインは知らなかったが、この衣装は地球でいうところのスーツである)。晴れた日の海を思わせる青い瞳が特徴的だ。そして微かにだが、堂々として落ち着いた雰囲気があった。どうも何かの指導者的立場にあると見られる。年齢は50代くらいか。

 もう片方は軍服らしい(こん)(いろ)のぱりっとした衣装に身を包んだ、40代後半くらいと思われる長身の男性。こちらの方がスーツの男性より少し背が高い。軍帽からはみ出た髪は金色だが、やや色が抜けかけており、年季を感じさせると共に相応の戦場を駆け抜けてきた様子である。グリーンの瞳を持った、年齢の割にどことなく愛嬌のある顔立ちだ。

 

「おや、先客がいらっしゃいましたか。お邪魔いたします」

 

 軍服の男性の方が頭を下げる。

 

「いえいえ、こちらこそ……あの、あなた方も『天使の実』を?」

 

 エレインが尋ねると、軍服の男性がこくりと頷いた。

 

「ええ、実は部下から勧められまして……私の艦隊の一部で流行っているそうです。まあ、軍隊は本質的に娯楽に乏しい組織ですから、部下の気持ちも分からないでもないのですが」

 

 軍服の男性が苦笑すると、スーツ姿の男性も口を開いた。

 

「私も友人から勧められたんですよ。それで寝る前に『天使の実』を食べて、気付いたらこちらのライムンド氏と一緒にいまして……」

「この部屋に来る前から一緒だった、ということですか」

 

 これは堺の質問である。

 

「ええ、そうです。

さて、自己紹介がまだでしたね、失礼しました。私は北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム)の方から参りました、ニコラス・アルフォードと申します。本日…というのも少し妙な表現ですが、よろしくお願いいたします」

 

 スーツ姿の男性…ニコラスに続いて、軍服の男性も自己紹介する。

 

「先ほど少しご紹介いただきましたが、私はライムンド・スプルアンスと言います。見ての通り軍人で、神聖レヴァーム皇国軍第7艦隊の司令官を務めております。皆様と共に過ごせることを光栄に思います」

 

 これを聞いて、エレインは少し考えた。

 

(この夢の世界に来る人は、「天使の実」を食べること以外に、ある程度の共通点を持っている人ばかり……今のところ、ニコラス殿以外は全員「軍人」であることがはっきりしている。ということは、このニコラス殿も何らかの形で軍に関わりがある……?)

 

 頭の片隅でそう考えながら、エレインは自己紹介する。

 

「お初にお目にかかります。私はエレイン・ペンウッド、神聖ミリシアル帝国海軍で巡洋艦戦隊の司令官を拝命しています。耳を見てお気付きかと思いますが、種族はエルフです。本日はよろしくお願いいたします」

「神聖ミリシアル帝国ですか。ちょうど先日、我が国から外交使節団を乗せた船団が貴国に向けて出港したところです。

我が国はまだ転移してきたばかりで、周辺国のことをあまりよく知らないのですが、貴国は高い魔導・魔法技術を持つと聞き及びます。友好関係を築いていけることを願っております」

 

 ニコラスが右手を差し出したため、エレインも右手を差し出し握手を交わす。

 

「我が神聖レヴァーム皇国は、同盟国である『帝政(あま)(かみ)』と共に、貴国と国交を開設しております。軍人の身の上ではありますが、今後ともよろしくお願い申し上げます」

「え?」

 

 しかし、ライムンドの言葉にエレインは首を傾げた。

 彼女の知る限り、「神聖レヴァーム皇国」も「帝政天ツ上」も聞いたことがない国名だ。これはいったい、どういうことだろうか。

 そこまで考えたところで、彼女は気付いた。おそらく、さっき堺が言っていたのと同じことが起きているのだ、と。つまり、「神聖レヴァーム皇国」もおそらく転移国家であり、その転移先は自身の知る世界とは似て非なる世界ではないか、と。

 

「あの、ライムンドさん」

「どうされました?」

「にわかには信じがたいかもしれませんが……おそらく同じ『神聖ミリシアル帝国』でも、私のいる世界のミリシアルと、ライムンドさんが知るミリシアルは別物ではないかと思われます。つまり、私とライムンドさんは、別世界の住人ではないか、ということです」

「なんと、やはりそうですか……」

 

 意外にも、ライムンドはどこか納得したような反応を見せた。

 

「やはり、とは?」

「いえ、ここに来る前からニコラスさんと話していたのですが、我々が知る世界とニコラスさんの知る世界は別物のようだったのです。私は北方連合国家という存在を初めて知りましたし、ニコラスさんもまた我が国と天ツ上のことを知りませんでした。そのことから、もしかすると世界線そのものが違うのではないか、と薄々思っていたのです。

エレインさん、貴女の説明で納得がいきました。すると、そちらのお二方も、私たち同様異なる世界の住人、ということでしょうか」

 

 ここでようやく、『大和』と堺にお鉢が回ってきた。

 

「はい、おそらくそうだと思います。自分は『大和』と申します。ロデニウス連邦共和国・トラック泊地に拠点を置く共和国艦隊の司令官を務めております。本日はよろしくお願い申し上げます」

「私は、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊司令官、堺 修一と申します。お初にお目にかかります」

「ヤマトさんに、サカイさんですね。よろしくお願いします」

 

 軽い握手会が終わったところで、ライムンドが口を開いた。

 

「さてさて、ここはどうやらバーであるようですね。実はここに来る前、ニコラスさんとコーヒー談義をしておりまして、ちょうどコーヒーが欲しくなっていたところなのです。皆さんと一緒に、ひとついただくことにしたいと思うのですが」

「おお、それは良いですね。私もコーヒーにしましょう」

 

 ニコラスが賛成したことで、ウェルカムドリンクが決まった。

 ライムンドはレヴァーム式のコーヒーを、アルフォードは「エメラルドマウンテン」コーヒーを、それぞれ注文する。他の3人はというと、エレインはローズヒップらしい紅茶、『大和』は「キリマンジャロ」コーヒー、堺はアールグレイにオレンジママレードを投下した。

 

「それでは、皆様との良き出会いに」

「新しい出会いに」

「「「「「乾杯」」」」」

 

 ニコラスの音頭で乾杯する。オレンジの酸味とママレードの甘味が染み込んだ紅茶は、堺にとっては格別に思えた。

 

「うむ、やはりコーヒーは『黒き人生の燃料』だ……旨い。そういえば、ニコラスさんの国にはコーヒーがあると伺いましたが、皆様のお国はどうでしょうか?」

 

 ライムンドのこの発言をきっかけに、話題はそれぞれの国の紹介へとシフトし始めた。最初に発言することになったのは『大和』である。

 

「自分の所属するロデニウス連邦共和国は、元々ロデニウス大陸にあった、クワ・トイネ公国、クイラ王国、ロウリア王国の3ヶ国と、自分たちが拠点を置くトラック諸島が1つにまとまった国家です。建国してからまだ1年も経っておらず、現在は旧ロウリア王国の人心安定と大陸全体の近代化を急いでおります。また、トラック諸島は純然たる軍事拠点として、連邦共和国海軍の中心を担っています。

ちなみに自分を含むトラック諸島の戦力は、『KAN-SEN』と呼ばれる特殊な戦力で構成されていることが特徴です。『KAN-SEN』とは簡単に言えば、人間であり軍艦でもある存在…と言えるでしょう」

 

 この説明には、ライムンドとニコラスはひどく驚いた様子だった。まあそれはそうだろう、軍艦が人間に化けられるなんて、ノーヒントでは想像できるものではない。

 

「なんと……そんな方がいるとは。いや、これは驚きました。世の中どんなものが存在するか、分からないものですね」

 

 驚きながらも感嘆したように、ライムンドがコメントする。

 

「私の国家では、一部のSF小説でそのような存在が語られていますが…よもや実在するとは思いませんでした。貴方のようなお美しい方がそのような桁外れの力を持つとは、驚くばかりです」

 

 ニコラスはというと、ライムンドほどひどく驚いた訳ではなかったが、それでも僅かに目を見開く様子が見えた。

 

(何というか、表情のサインとかを隠すのが上手いな、ニコラスさんは。まるで政治家か何かみたいだ)

 

 堺はそんな感想を抱いた。

 続いてはエレインの番である。

 

「私の祖国である神聖ミリシアル帝国は、高度な魔法文明を築き上げており、自他共に認める世界最強の国家ですね。特に首都ルーンポリスは、多数の高層建築が建ち並び、その隙間を縫うようにして魔導車や人々が行き交い、夜も魔法街灯の明かりが道を照らし、『眠らない魔都』と呼ばれています。また、南端部にある港街カルトアルパスは、全世界から人々が集まる一大交易都市として栄えています。

他国に誇れる特産品としては、例えば紅茶が挙げられるでしょうか。我が国の紅茶は銘柄が多数存在しており、皇帝家御用達の高級品から一般市民も楽しめる安価なものまで色々あります。また、他国では高級贈答品の1つに数えられている場合もありますね」

 

 「紅茶」の単語が出た時、ライムンドの眉が僅かにしかめられた。堺はそれを見逃さなかった。

 

(あの動き……もしや、ライムンドさんは紅茶嫌いなのか?)

 

 実は堺のこの推測、当たりである。ライムンドはコーヒーを「黒き人生の燃料」と愛飲する一方で、紅茶を「前世紀の遺物」呼ばわりするほど大の紅茶嫌いなのである。

 

「するとエレインさん、私が以前飲んだ貴国の紅茶はどんなランクのものなのでしょうか。確か私が飲んだのは『バーリア』という銘柄でした」

 

 それはそれとして、以前(「137. 戦時下のムー大陸の日常」参照)に自身が飲んだミリシアルの紅茶が気になったため、堺はエレインに尋ねてみた。

 

「ああ、それは一般市民だとギリギリ手が届くかどうか、というクラスのものですね。格付けでいうと『中』くらいに位置するものです」

「なるほど、ではちょっとした高級品だった、ということですか」

「そうですね」

 

 もう少し上のランクの紅茶も試してみたいな、と思う堺であった。

 

「そういえば、堺殿の国には紅茶はないのですか?」

「いえ、ありますよ。あとコーヒーも。どちらも国内で消費されることが多いのですが、紅茶に関してはムー国にも広まっている、と聞いたことがあります。あとついでに申し上げると、ビールがかなり流行しているらしいです。私も詳しく聞いたわけではありませんが、ミリシアルにもムーにも流通しており、最近急激に愛飲家を増やしているとか。一度飲んでみることをお勧めします」

 

 ついでに自国の紹介もやってしまおう、と堺は考えた。

 

「私が所属するロデニウス連合王国は、成立の経緯は『大和』さんのロデニウス連邦共和国とほぼ同じです。相違点といえば、トラック諸島がない代わりに、私が指揮する艦隊の拠点であるタウイタウイ島が加わっていることくらいでしょう。

ちなみにですが、私が指揮している艦隊も、『大和』さんと同じような擬人化艦船…軍艦の魂を宿す人間の女性たちです。ただ、『KAN-SEN』ではなく『艦娘』と呼ばれ、明確に異なる存在であるようです」

「なんと、似たような存在が2つある、ということですか。SF小説のような…いや、我が国の小説家でもこんな発想はしないでしょう。世の中は本当に不思議なものです」

 

 これはニコラスのコメントである。

 

「我が国は建国から約4年という、まだまだ歴史の浅い国です。しかしながら、運命の女神にそっぽを向かれでもしたのか、建国から1年と経たずに大きな戦乱に巻き込まれました。そして今は、また別の世界大戦に巻き込まれている状態です。運命の女神とやらがいるのなら、文句の1つも言ってやりたいと思う今日この頃です」

 

 苦笑しながら堺が語り終えると、ライムンドが手を挙げた。

 

「堺さん、建国から1年も経たないうちに大きな戦乱があった、とのことですが、その相手はもしやパーパルディア皇国ではありませんか?」

「え? ライムンドさん、何故それを? 確かに相手はパーパルディアでしたが…」

 

 堺がそう言った時、エレインが「ああ」とどこか納得した様子で頷いた。

 

「実は我々…『神聖レヴァーム皇国』と『帝政天ツ上』も、パーパルディア皇国と戦争になったのです。それで、もしかしたら、と思いまして……」

「パーパルディアなら、確かに納得できますね」

 

 エレインが会話に加わってくる。

 

「あの国は『パーパルディア主義』なる外交論を掲げ、第三文明圏内外全域を支配しようとしていました。ロデニウス大陸は確か第三文明圏外東側にあったはずですので、パーパルディアから狙われてもおかしくないでしょう。

実際、私のいる世界でもパーパルディア皇国は、『日本』という第三文明圏外国に対して殲滅戦を宣言する大戦争を仕掛けていました。しかし、日本軍は異常に強く、パーパルディアは日本軍の兵1人を殺すことさえもできぬまま、軍事力の90パーセル(パーセントに当たる単位)以上を失う大惨敗を喫し、亡国こそ免れたものの列強失格となるほど落ちぶれたそうです。もしかすると、神聖レヴァーム皇国やロデニウス連合王国と戦ったパーパルディアも、同じようになったのではないかと思いまして…」

 

 やはり鋭い、ミリシアルで巡洋艦戦隊司令を任されるだけのことはあるか……そう考えつつ、堺は説明を続けた。

 

「エレインさん、お察しの通りでございます。確かに我が国は、パーパルディア皇国と戦いました。その結果、パーパルディア皇国は最終的に我が軍の本土上陸を許し、エストシラントやデュロといった重要都市を次々と失陥、ついにパールネウスを占領されるに及んで無条件降伏するに至りました。現在は『新生パールネウス共和国』に変わり、国家体制の立て直しに注力しています。

そうだ、話すのを忘れるところでした……我が国は『大東洋共栄圏』という国際的な組織を立ち上げ、加盟各国で協力しあって相互の発展を目指し、同時に外的脅威に連携して対処する、という協力体制を作っています。世界平和の維持に少しでも貢献できれば、と考えております」

 

 堺が話を終えると、ニコラスが真っ先に発言した。

 

「いや、この世界の国際事情が少し分かりました。我が国はまだ転移してきたばかりであり、周辺国の情報が少ないもので……皆様の話は大変参考になりました。

パーパルディア皇国ですか…接触する時は十分な注意が必要ですね。最悪、砲艦外交も考慮すべきかもしれません」

「ニコラスさん、砲艦外交で思い出しましたが、実のところこの世界の外交は『弱肉強食』が基本です。砲艦外交ならまだマシなほうかもしれません。私の聞いたところでは、パーパルディアなんかは武力による威圧が外交の基本姿勢になっているそうです。さらに、プライドがとても高いと聞いています。

だからこそ日本やロデニウス連合王国のような、文明圏外にある国に弱小国家というレッテルを貼り付け、国力で圧倒的優位に立つ相手に誤って喧嘩を売り、大変なことになってしまったのでしょう。少々気を付けていただきたいのですが……」

「なるほど、ありがとうございます。神聖ミリシアル帝国の方がそう仰るのでしたら、間違いなく正しいことなのでしょう。注意することにします」

 

 ニコラスはまだこの世界の国際事情に疎いとあって、警戒しているようだ。まあ無理もないだろう。

 

「パーパルディアか……今のところ、自分のいるロデニウス連邦共和国とはまだ接触していませんね。ですが、拡大政策を取っているところから見て、衝突は現実的に十分あり得るでしょう。現に堺殿のロデニウス連合王国は戦争になった、とのことですし。

自分もより一層警戒することにしましょう」

 

 『大和』にとっても、これは他人事では済まない事案であった。

 

「そういえばライムンドさん、貴方は神聖レヴァーム皇国の出身だと仰っていましたが、実は私、その国名を初めて聞きました。そこから考えて、おそらく貴国も転移国家ではないかと思われるのですが、どちらに転移したのですか?」

 

 堺のこの質問を契機に、ライムンドの自国紹介が始まった。

 

「『神聖レヴァーム皇国』と『帝政天ツ上』は、ロデニウス大陸の東側約1,000㎞の位置に、2国そろって転移しました。そして、堺さんのロデニウス連合王国とは開戦経緯こそ異なりますが、パーパルディア皇国と戦争になり、それに勝ちました。現在は神聖ミリシアル帝国やムー国などの諸外国に外交的接触を図り、国際協調を目指しております。

我が国の歴史は700年に及び、首都は皇都エスメラルダ、政治体制は王政です。現在はファナ・レヴァーム執政長官を君主とし、かつては敵国であった『帝政天ツ上』との同盟関係の維持や、諸外国との国交の開設、国内の身分制度の改革などに力を注いでおります」

(王政……身分制度……もしや絶対王政か? こりゃまた年代物の政治体制が出てきたな……)

 

 歴史好きな堺は、ライムンドの紹介に出てきた複数の単語から即座にそれを連想した。

 

「最大の特徴としては、我が国の軍艦はその多くが『空を飛ぶ』のです」

「「え?」」

 

 堺と『大和』の台詞が重なった。ニコラスとエレインは何か知っているのか、特に何も反応していない。しかし、続くライムンドの発言、そしてライムンドが見せた写真を見て、エレインが仰天する羽目になった。

 

「この写真をご覧ください。これが、私の指揮している第7艦隊の所属艦艇の一部です。ここには飛空戦艦、飛空空母、駆逐艦、そして見切れていますが巡空艦が写っています」

 

 そこにはなんと、堺の感覚でいうと第二次世界大戦期レベルと見られる艦艇が空を飛んでいる様子が写っていた。それも駆逐艦のような小艦艇だけではなく、明らかに口径40㎝以上クラスの大口径三連想砲を搭載した戦艦、そして平べったい甲板を持つ空母までもがいた。見る限り、どの艦にも巨大なプロペラがついており、おそらくそれで飛行しているのであろう。

 

「何だこれは……! 自分たちKAN-SENと同等クラスの艦艇が、空を飛んでいる……!?」

「これはこれは…飛行船のようなものかと思っていたら、本当に軍艦だったのですか。これは驚きました」

「なっ、ミスリル級などと同等クラス、いや、下手をするとそれ以上か……!? どうやってこんな船が飛んでいるんだ!? どんな魔法を使ったのだ!?」

「レシプロエンジンで、これほど巨大な物体を……どうやって飛ばしているのですか? 排水量も相当なものと推察しますが」

 

 全員、びっくり仰天である。

 なおエレインは「空を飛ぶ軍艦」と聞いて、パンドーラ大魔法公国がよく使用する「飛空船」を……少量の魔導砲を装備した木造帆船を連想していた。ところがどっこい、自国のミスリル級魔導戦艦などにも比肩しうる巨艦が空を飛んでいるときたのである。

 写真に写っているのは、神聖レヴァーム皇国軍第7艦隊旗艦・飛空戦艦「エル・バステル」から撮影されたもので、艦隊行動演習中のエルクレス級戦艦「アドラーゼ」とスセソール級飛空母艦「ガナドール」、アギーレ級駆逐艦3隻が写っている。見切れているのはボル・デーモン級重巡空艦だ。

 

「実は、ここに写っている全ての船は魔法を使わず、科学技術だけで飛んでいるのです」

「な……!?」

 

 魔法至上主義国であるミリシアルの人間からすれば、この巨大な艦艇群が科学だけで飛行しているというのは、到底信じがたいことであった。そのためエレインは、口から心臓が飛び出そうなほど驚いている。

 

「使われている動力は、我が国では『揚力装置』と呼ばれる物です。水素電池を動力源とし……」

「なっ、水素電池!? 私が元いた世界でも最近になってやっと開発できた代物を、もうここまで実用化しているのか…!」

 

 堺にとっても、これは天地がひっくり返りそうなほどの大事件であった。まさか、水素電池で軍艦が空を飛ぶとは…!

 

「ものすごい技術ですね。しかもハイパワー機関ではなく、バッテリーで動いているとは……素晴らしい技術です」

 

 ニコラスも感心しているらしい。

 

「水素電池と言いますと、まさか海水さえあれば充電できるのですか!?」

 

 これは堺の質問である。

 

「おお、ご存知でしたか堺さん。そうです、海水があれば充電が可能です」

「では、例えば水上機にこれを装備すれば、事実上無限大の航続距離を得られる、と!?」

「その通りです。実際我が軍や天ツ上軍では、戦空機や偵察機に水素電池エンジンを装備し、戦場で運用しています」

「す、すごい……! ここまで巨大な軍艦すら、水素電池で飛べるなんて…!

私の指揮する艦隊の子たちも、ちょうど貴国と同じくらいの技術レベルだと思われます。水素電池、可能なら導入してみたいですね」

「失礼ですが、堺さんの指揮している子たちというのは…? 確かカンムスと仰っていましたが」

「ええと…一例ですが、これが戦艦の艦娘ですね」

 

 堺が取り出した写真…艦娘形態で出港する"大和"の姿が写っている…を見て、ライムンドは目を見開いた。

 

「おお、これはかなりの美人でいらっしゃる…」

「私の妻カッコカリです」

「かっこかり?」

「軍艦であると同時に人でもありますので、結婚することができてしまうのです。ただ、厳密に人と言えるか怪しい部分もありますので、艦娘たちとの婚姻は一般に『ケッコンカッコカリ』と呼ばれるのですよ。そのため、妻カッコカリというわけです」

「なるほど、そういうことでしたか。

いやはやこれは……主砲は16インチ、いや18インチ砲でしょうか。我が軍でいうなら、主力の一角を担うエルクレス級飛空戦艦にも匹敵し得ると思います。できることなら、一度合同演習をしてみたいものですね」

「ははは…貴国には到底及びますまいて。1人くらい空を飛べたとしても、さすがに勝てないと思います」

 

 飛空艦などの話で盛り上がったところで、ふとライムンドの顔に影が差した。

 

「ただ、これだけの艦隊を以てしても、パーパルディア皇国との戦争は楽なものではありませんでした」

「え?」

 

 自身の経験に照らし合わせ、堺は首を傾げた。

 これほどの艦隊、おそらく自分が指揮する艦娘たちの艤装と同等以上レベルの技術で作られているはずだ。戦列艦を主力とするパーパルディア艦隊では、全く太刀打ちできなかっただろうことは容易に想像できる。

 にも関わらず、ライムンドは「対パーパルディア戦は楽なものではなかった」と言ったのだ。何かあったのだろうか。

 

「私は直接戦場で戦った訳ではなく、記録を読んだだけですが……戦争終盤に行われたエストシラント市街戦は、我が国と天ツ上の連合軍にとって強烈なインパクトを残すものでした。

空軍が市街地にも爆撃を行い、一般市民を虐殺したことも影響したのでしょうが、エストシラントに住む市民たちが便(べん)()(へい)と化し、軍と共に攻撃してきたのです。彼らには土地勘があり、下水道なども駆使してゲリラ戦を仕掛けてきたため、連合軍は苦戦を強いられました。最終的には、3日で終わると思われたエストシラント占領作戦に1ヶ月もの時間を費やし、連合軍の損害は死者こそ少なかったものの負傷者が続出し、精神に変調を来して後送された者もかなりの数に昇りました。あの戦いは、今も我々の戦闘ドクトリンに大きな影響を及ぼしています」

 

 これを聞いて、堺は納得すると同時にピンとくる物があった。

 地球では、難しいと言われる戦闘形態がいくつかある。最も困難なのは撤退戦で、その次くらいに強襲上陸や攻城戦、市街戦が困難だとされているのだ。

 攻める側にとって市街戦が困難なものである理由は、いくつか挙げられる。第一に、永久構造物が多いことだ。永久構造物とは、石やコンクリートなど除去するのが難しい素材で作られた建物のことである。それが密集している市街地は、言ってみれば四方八方に要塞が建てられているようなものなのだ。なので、攻城戦が至るところで発生することになる。それに、守る側は建造物の上層階から物を投げ落としたりして攻撃できるのに対し、攻める側は相手を見上げて攻撃する形となり、進軍ルートを限定されることもあって不利を強いられる。

 第二に、攻める側にとって死角が多い…守る側にとっては隠れ場所が多いことだ。たとえナイフしか武器がなくても、隠れながら敵に接近すれば十分な攻撃ができる。下水道などを利用すれば、神出鬼没に戦うことも不可能ではないだろう。そのため、市街戦は技術力や軍事力による戦力差が発生しづらく、攻める側にとって戦いにくいのだ。

 第三に、心理的要因である。特に今回は、パーパルディア側が便衣兵を投入してきたとのことだから、おそらくエストシラントの一般市民が老若男女問わず武装して、レヴァーム・天ツ上連合軍に向かってきたと考えられる。自爆攻撃もあっただろう。

 自殺攻撃の心理的効果は想像を絶するものがある。また、武装した少年・少女兵を撃ってしまった場合には、戦場精神病(具体的にはPTSD)の危険がぐっと高くなる。これは地球の戦争でも実証されていることだ。

 これらの要因が積み重なり、レヴァームや天ツ上にとって一筋縄ではいかない戦闘になってしまったのだろう。というより、下手をすると堺たちロデニウス連合王国軍も、こんな地獄のような血みどろの市街戦に巻き込まれていた可能性があったのだ。そうならなかったのはおそらく、戦艦「大和」の艦砲射撃によって多数の市民を事前に消し飛ばしたことで、敵になり得る一般市民の数が物理的に減ったことと、生き残った市民に戦意を上回る恐怖を植え付けて動けなくしてしまったことが原因だろう。

 

(やっぱ市街戦や攻城戦はやりたくないモンだよなぁ。フィリピン、ペリリュー、()(おう)(とう)、沖縄……日本軍と戦った米軍の気持ちが分かる気がするぜ……)

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしているライムンドに、堺は深刻な口調で答えた。

 

「ライムンドさん、お話はよく分かりました。私が元いた世界も戦争が多く、市街戦が発生することもごまんとありましたので、仰りたいことはよく分かります。

市街戦は、(せん)()めれば『区画をしらみ潰しに確保する』ことに尽きます。建物の一部屋から始まって、建物1つ、ブロック1つ、通り1つ……と、小さな単位を1つずつ確保していくしかありません。しかも、通りや室内など狭い空間での乱戦はしょっちゅうですし、相手は地の利がありますから、思いもしないところから攻めてくることもしばしばです。貴国の将兵に大きな被害が出るのも、無理からぬことだと思います。

それを乗り越えるしか手段がない、というのも辛いところなのですが」

「やはり、1つずつ隠れ場所を焼き払い、しらみ(つぶ)しに区画を制圧するしかないのですね……」

「辛いことではありますが、それしかないのです。それと、『焼き払う』で思い出しましたが、火炎放射器はかなり有効な攻撃手段になりますよ。室内に炎をまき散らすので面単位で隠れ場所を潰せますし、突然の遭遇戦にも対応でき、さらに空気中の酸素を奪って熱を浴びせるので、閉じこもった敵をあぶり出すのに向いています。欠点は…飾らない言い方をすれば人間の丸焼きを量産することになるので、兵士の精神面に大きな悪影響が出ることと、敵に憎まれて最優先攻撃対象にされることでしょう…」

 

 言いながら、堺もかなり渋面になっている。

 ちなみにこの時、エレインが真っ青になって口元を押さえていた。神聖ミリシアル帝国はその圧倒的強さ故に非正規戦を挑まれるという場面がなく、そのためあまりに()(なまぐさ)い地球やレヴァームの戦闘を受け入れきれなかったのだ。

 

「あとは事前空爆と艦砲射撃を徹底することくらいでしょうか…」

「なるほど…我が軍の市街戦ドクトリンは間違っていなかったようですね。

堺さん、ありがとうございました。非常に参考になるお話でした」

「いえいえ。不愉快な体験についてお話を聞くことになり、こちらこそ失礼しました」

 

 その時、かなり沈痛なものになった場の雰囲気を(ふっ)(しょく)するように、ニコラスが声を上げた。

 

「さて、最後は私ですね。私の所属する北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム)は、結成から5年になる統一政体の連合国家です。参加国そのものは、5年どころかもっと昔から存在しています。中には建国から2,700年を超えるなんていう長寿国家もあるのですよ。多数の国家が参加しているだけあって総人口は26億人、世界を二分する超大国の片割れです。

連合体の礎になったのは、アメリカ合衆国という国でした」

「え!!?」

 

 その瞬間、堺が叫び声を上げた。

 

「あ、アメリカ!? ということはまさか、ノーザン・コンドミニアムは地球の国家だというのですか!?」

「堺さん、何故アメリカをご存知で?」

「何故も何も、私も地球から転移した存在だから、ですよ!」

 

 もはや周囲を置き去りにする勢いで、堺とニコラスの会話が展開する。

 

「何と、それはそれは…。どちらのご出身ですか?」

「日本です」

「ジャパンですか。なるほど、では同じ連合国家に所属する訳ですな」

「まさか、同郷の方がいらっしゃったとは…。しかし奇妙ですね、ノーザン・コンドミニアムという国家連合は初めて聞きました。すみませんが、地球の国家ということは、暦はグレゴリオ暦ですよね? いつ結成されたのです?」

「西暦2034年です」

 

 ニコラスは「しかし妙ですな、超大国といっても過言ではない我が連合をご存じないとは…」と続けたが、堺には違和感の原因が分かった。

 つまり……ニコラスから見れば、自分はなんと未来の地球人に当たるらしいのだ。しかも、世界線まで異なる可能性すらある。

 

「ニコラスさん、私と貴方の話が噛み合わない原因がどうやら分かりました。どうも、私とニコラスさんでは、年代が大きく違うようです」

「何ですと? 堺さんは、いつ頃こちらの世界に?」

「転移したのは、忘れもしない西暦2199年の4月1日でした。その時点で私は26歳でしたから、だいぶ年代が離れているようです」

「何とまあ……未来の地球のお方だったのですね」

 

 ニコラスは今度こそ驚いたようだ。さすがにこんな情報が出てきたのでは、驚くのも無理はないだろう。

 

「ただ、それでも少し妙なのです。私は歴史が好きで、よく歴史書を読むのですが、西暦2035年周辺の記述には『ノーザン・コンドミニアム』なんて名前はどこにも出てきませんでした。もしかすると、私とニコラスさんは、年代も世界線もバラバラな地球から転移したのかもしれません」

「SF小説にいうところの『パラレル・ワールド』という訳ですか。まさかSFの理論がこんなところで実証されるとは……世の中何があるか分からないものですね。

地球出身者同士がこんなところで会えるとは、不思議な運命だったとしか考えられません。堺さん、改めてよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 握手を交わす堺とニコラスであった。その握手が解かれたタイミングで、ライムンドが声をかける。

 

「どうやらここにいる全員、同じ星の出身であっても微妙に異なるようですね。これは興味深いことです……皆さんのことをますます知りたくなりました」

「自分も同じです」

「私もですね。井戸の中のカエルとはまさに私のことだったのではないか、と痛感しています」

 

 かくしてこのまま交流会となったのだが、堺はちょうど紅茶を切らしてしまい、注文しようとしたところだった。しかも、さっきまで話していたニコラスは今度はエレインと会話しているため、現状話し相手がいない。

 

(タイミングが悪かったかねぇ…)

 

 そう思ったその時、ノックの音が響き渡った。

 

(ちょうど良いタイミングで…! それにしても、えらく大入りじゃないかな?)




さすがにここまで来ると、「大型企画」の正体が分かった方が多いと思います。
さて、次は3時ジャストに結構な有名人の方が来られますよ。年始で浮かれ気味とはいえ、この時間まで起きているのは辛いでしょうか…?
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