鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
そして、いつの間にやら総合評価がこの「ハーメルン」中で7位まで浮上…! こうなったら、ちょっとトップ5入り目指してみようかな…!
皆様、ご愛読ありがとうございます!
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今話か、次話が今年最後の投稿となるでしょう。
それでは、ごゆっくりどうぞ!
中央暦1639年6月3日。
かねてから話が出ていた、クワ・トイネ公国の政治形態を公政から王政へ移行する案が、政治部会にて可決された。1週間後の6月10日を期して、いよいよ国民投票にかけられる。
大本営発表では連日このニュースが報道され、公国の国民たちも寄ると触るとその話ばかり。タウイタウイ泊地の「
それらによると、これまで公国の政治を取り仕切っていた貴族公爵家が隠居して、執政を放棄するつもりらしい。それに合わせて、今回の王政移行が提案されたのだそうだ。
「王政……っていっても、これどっちかというと民主主義の立憲君主制じゃないか?」
"大和"からこの話を聞いた堺は、そんな感想を口にした。
実際、草案を改めてよく見ると、「政治形態を王政に移行する」ことの他に、「君主は、民衆より信認された者がこれを務める」とか、「君主であっても、国の最高法規に従う」といった内容が書かれている。これでは、王政というより“立憲君主制”だ。しかも“民主主義”の。
実はこれ、タウイタウイ泊地が原因である。
堺の前の提督がどうやら本好きだったらしく、タウイタウイ泊地には多数の蔵書がある。しかもそのジャンルも雑多だ。泊地の艦娘や妖精からは、冗談混じりに「タウイ図書館」と呼ばれている。
少し前にそのタウイ図書館から、政府の高官の1人が政治形態に関する本を借りていったのだ。その後、草案が大きく書き換えられてこんな内容に変わっている。どうみてもその本が原因である。
そして、タウイ図書館の蔵書たるその本が原因だということは、突き詰めるとタウイタウイ泊地が原因ということになる。
「やれやれ。ま、俺は最悪の民主主義でも、最良の専制主義だの全体主義だのに勝ると思ってるから、この内容には賛成なんだがな」
堺はそのような意見を持っている。
そして、飛ぶように日が過ぎて、中央暦1639年6月10日。
その日は、朝から公国のあちこちが騒がしかった。公都クワ・トイネはもちろんのこと、経済都市マイハークでも、要塞都市エジェイでも、新興の重工業都市クワ・タウイでも、男女問わず20歳以上の公国民が投票所を訪れ、票を投じていく。もちろん堺も、激務の間を縫って賛成票を投じた。
あっという間に時間は経ち、エージェイ山の影がクワ・トイネの大地に投げかけられて……陽は落ちた。
そして、翌6月11日。前日夜の時点で明日午前7時のニュースは「重大発表」である、と予め公国政府が発表していたために、朝っぱらから多数の国民が、主婦の役割やら出勤の準備やら、各々のことをしながらも魔信ニュースに耳を傾けている。普段朝寝坊がちの堺も、今日ばかりは"
『公国政府より、重大な発表を申し上げます。昨日行われた、王政への移行に関する国民投票が開票された結果、賛成74%、反対16%、棄権10%のため、クワ・トイネ公国は王政への移行が決定しました』
ニュースは、開口一番にそう伝えた。
かくして、クワ・トイネ公国はその政治形態を変更し、国号もクワ・トイネ王国となることが決定したのである。
ところが、この「クワ・トイネ王国」という国号、ほとんど1週間程度しか使われなかった。
というのは…他の諸外国が原因である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
国号を変更し、クワ・トイネ公国の首相カナタが初代国王「カナタ1世」として即位してから、わずか4日目のこと。
ロウリア王国の混乱収集と復興に努めていたパタジンが、泣き言を申し入れてきたのである。
何事かと対応したクワ・トイネ王国の政治部会で、パタジンが取り出したのはとある1通の書状。その一番上には、「
「何ですか、これは?」
政治部会に顔を出していた堺は、そう言いながら書状をパタジンから受け取って読んで…目が点になった。
「パタジン殿……これはいったい……?」
「堺殿、そしてクワ・トイネ王国の皆様、どうかお助けいただきたい!」
その場で、見事なDOGEZAを決めるパタジン。
持ってきた督促状なるものの正体は、簡単に言えば「借金返せ」という内容の書類だ。しかし、そこに書かれた額が半端ではない。
その金額、日本円に換算してなんと驚きの10,000,000,000円。もう100倍すれば兆単位に届く金額である。
……いや、魔獣を使って遊び回り、一企業相手に117京441兆(単位が違うので日本円に直すとどうなるか分からないが)とかいう頭おかしい額の借金をした、どこかの大王よりははるかにマシだが。
「パタジン殿、取り敢えず頭を上げてください。そして、説明してください。こんなものだけ突き付けられても、何のことやら分かりかねます」
堺のド正論にパタジンは顔を上げ、少しずつ話し始めた。
現在、クワ・トイネ王国に囚われの身となっているハーク・ロウリア34世。彼は「ロデニウス大陸の統一」と「亜人の
しかしこれは、手続きなどのためにパーパルディア皇国に払ったお金(借金で払った、というか後払いにした)だけではなく、パーパルディア皇国から(後払いで)買ったワイバーンや軍船、数万人規模の兵士そのものの値段、及びそれらの準備費用も含まれる。その額を合計したものが、この督促状に書かれた額の大金で、これはロウリア王国の数十年分の国家予算に匹敵する額だという。しかも相手は「あの」列強パーパルディア皇国だ。
何がそんなに問題なのかというと、パーパルディア皇国の性格だ。
パタジンの話によれば、彼らは非常にプライドが高く、また武力も高い。さらに、なんだかんだと口実を付けて周辺国を問答無用で武力征服する、という拡大政策を取り続けているのだそうだ(これらのことは、政治部会の出席者は全員知っていた。堺には初耳となる部分もあったが)。
そんな国相手に、これだけの借金をしてしまい、返済など到底できそうにもない。つまり、征服の口実を作ってしまったのだ。このままではいずれ国は滅び、国民たちは全員処刑か
以前に続き、再びロウリア亡国の危機に陥ったパタジンは、恥もプライドも投げ捨てて、敵国であったクワ・トイネ王国に支援をお願いしてきたのである。
「度々お世話になってしまい、申し訳ありません。また、元敵国であった皆様にお願いをするというのも、厚かましい話ではありますが、どうか皆様、力をお貸しください……!」
再びDOGEZAを敢行するパタジン。
堺は彼のそばに跪き、声をかけた。
「まあ、まずは頭を上げてください。借金は残念ですが、払わないといけないものでしょう? ですが、ロウリア王国にはこの額の借金を全額返済するのは、難しいかと思います」
ここで、パタジンの表情が完全に沈んだ。
「が、しかし」
続く堺の言葉に、パタジンの眉が動く。
「払いきれないなら、選択肢は2つです。1つは、パーパルディアとやらの属国になること。しかし、貴方はそれを望んではいないのでしょう?」
「もちろんです」
速攻で頷くパタジン。
「ならば、もう1つの道です。踏み倒せばいいのです」
「……は?」
パタジンの目が点になった。
それを確認し、堺は外務卿リンスイを振り返る。
「リンスイ殿にお伺いしたく存じます。パーパルディア皇国軍はこのクワ・トイネ王国にも来るでしょうか? クイラ王国にも?」
「間違いなく来るだろう」
リンスイは即答した。
「私の見るところ、あの国は第三文明圏の武力統一でも狙っているようだ。各国に理不尽な要求を突き付け、断られると問答無用で強力な軍隊を送り込み、武力で征服する、ということを続けている。ほぼ確実に、このロデニウス大陸にも来るだろう」
それを聞くや、堺は提案を出した。
「でしたら、私から意見具申です。この際ですから、いっそロデニウス大陸にある6つの国全部を連合して、1つの国にしてしまえば如何でしょう?
私が以前いた世界には、『合衆国』なる種類の国家がありました。1つの巨大な国なのですが、その中は50個以上の『州』という区分に分かれていて、州の1つ1つに自治政府があり、州兵と言われる州独自の軍隊があります。もちろん、全体たる合衆国の政府や軍隊もあります。
料理で例えるなら、1枚の大皿に5つもの種類の料理が小分けにされて乗っているようなものです。料理の1つ1つが味も食材も調理法も異なる。しかし、その5つの小料理が集まって、1つの献立となる。そのような料理もいいでしょう? 国家も、似たようなものでいいと思いますよ?」
パタジンを含め、政治部会出席者の全員が絶句した。
「この場合、話は簡単です。パーパルディア皇国は『ロウリア王国と』契約したのであって、『ロウリア州と』契約したのではない。そういう形であっさりと踏み倒せるのではないですか?」
はい、堺のこの発言を聞いて、コイツとんでもないゲス野郎だなと思った人、うp主怒らないから素直に手を挙げなさい。
「し、しかし、プライドの高いパーパルディア皇国のことだから、そんな言い分は認めないでしょう! それどころか、これを口実にあの皇軍を送り込んできますよ!」
反論するパタジン、しかし。
「なあに、その時は我々が
堺は、あっさりと言い切った。
「は? 堺殿、貴殿は本気で言っているのか? 相手はあのパーパルディア軍ですぞ!?」
心底驚いた様子で叫ぶパタジン。
それを聞いた堺はパタジンの前に屈むと、パタジンの目をまっすぐ見据え、諭すようにゆっくり話しかけた。
「パタジン殿、貴方の恐れるパーパルディア軍は、我々からすれば
パタジン殿もご存じかもしれないが、パーパルディア軍の主力兵器は銃です。しかしパーパルディア軍の銃は、“マスケット銃”と言われるもので、我々『太陽の旗の軍』からしたら400年以上遅れた旧式兵器です。
彼らの銃は、1発撃ったら弾を込め直さないといけない。しかし我々の銃は、少なくとも5発撃つまで装填は不要ですし、ものによっては1人で30発を連続で撃てる。パーパルディアの銃に、そんな力はありません。さらにパーパルディア軍の銃の射程、つまり弾が届く距離は、だいたい150メートル。対して我々の銃は、その3倍以上離れた目標にも当てられる。どう見ても、我が軍の銃のほうが高性能です。
パタジン殿、こちらの銃の性能は貴方も見たでしょう? ジン・ハークで戦った時に」
パタジンは、やっとのことで、という様子で頷いた。
「加えて、海軍の軍艦や飛竜の性能もこちらの方が圧倒的に上です。負ける要素がありません。従って、もしパーパルディア軍と戦えば、我々はほぼ100%の確率で勝てます。ですからパタジン殿、恐れる必要はありませんよ。ロウリア王国がこの連合案に賛成するのであれば、の話ですが」
そして、堺は一言だけ、ポロリと呟いた。
「パタジン殿、もしロウリア王国が連合案に賛成するのであれば、我が軍の銃をロウリア州の兵士全員に供給し、それを扱えるようにする訓練を施す用意をしますぞ。一部は今すぐでも渡せます」
それだけ言うと堺は立ち上がり、声を張り上げて政治部会の面々に提案する。
「パーパルディア皇国の脅威がある今、もはや過去の確執で対立をしている場合ではありません。ロデニウス大陸の全国家が一丸となって、この脅威に立ち向かわねばなりません。でなければ滅びあるのみでしょう。
よって、私としては『ロデニウス大陸の全国を連合して1つの国家とする』という意見を具申します。もし連合するのであれば、ロデニウス大陸の全軍に対して銃を配布する用意をしておきます。また私の部隊はご命令あればすぐにも出撃し、パーパルディア皇国軍を返り討ちにしてやりましょう。
カナタ陛下、皆様。ご決断のほど、よろしくお願い申し上げます」
それだけ言って、堺は言葉を切った。
「まあ、堺殿の軍の恐ろしさは嫌というほど知っているつもりだが、本当に勝てるのか? あのパーパルディア軍に?」
軍務卿ヤヴィンが、堺に質問する。
「少なくとも、食糧支援と資源の支援が十分にあれば、陸上では負けることはほとんどあり得ません」
堺は明快に言い切る。
「海軍には?」
「圧勝です。速度、防御力、攻撃力、命中率、どの要素においても我が部隊が圧倒的に上です。相手の攻撃を1発も食らうことなく、相手の攻撃範囲の外側から一方的に叩けます」
「空軍は?」
「よほどの魔改造でもしていない限り、空飛ぶトカゲなぞに負ける我が航空隊ではありません」
ヤヴィンからの全ての質問に、「勝利」の答えを返す堺。
「もし連合した我々とパーパルディア軍が戦えば、どうなる?」
「兵士の訓練度合いによりますが、戦う前から勝利がほぼ約束されている、と言えるでしょう。そして、兵士の訓練度合いは、どれだけ早く連合するかによって決まります。それは、武器の扱いに関して私の部隊から教官を派遣せねばならないからです。また、優れた兵士というのは一朝一夕に育つものではありません。兎にも角にも、訓練のための時間が必要です。
ですので、連合されるのであれば、お早めの決断をよろしくお願いいたします」
圧倒的自信である。
「あの堺殿がここまで言うのだ、おそらく本当のことでしょう。ロウリア軍も予言通りに叩き潰していましたし」
国王カナタ1世が口を開いた。
「分かりました。我が国としては、民を汚されたくありません。連合案に賛成しましょう」
「へ、陛下!?」
全員が一斉にカナタ1世を振り返る。カナタがあまりにもあっさりこの提案に賛成したので、堺とカナタとパタジンを除く一同は衝撃を受けたのだ。
「だ、そうですよ、パタジン殿」
堺はそう言うと、にっこりと笑った。
カナタ1世が各国に対して連合案を提案してみたところ、まずクイラ王国の国王が一も二もなく賛成した。
これまで、クイラ王国とクワ・トイネ公国もといクワ・トイネ王国は、助け合って生きてきた歴史があり、そのような条約も締結している以上、何を今さら、ということらしい。
それ以外に、従来通りの食料支援も欲しいのだろう。何せ、クイラ王国は国土の大半が砂漠で、植物がまともに育たない。タウイタウイからの技術提供のおかげで、少しずつ植物栽培を始めてはいるが、それでもまだまだ食料難なのである。
加えて、タウイタウイ泊地からの武器工場や造船所の進出に伴い、クイラ王国からの工業製品(主に軍事物資)や資源(石油メイン)の買い取りが進んだ。その結果、クイラ王国ではこれまでの3倍から4倍に迫る勢いで外貨の獲得が進み、クイラ王国の経済はかつてない好景気を迎えていた。それに伴って国民の生活水準が向上し、国民も多少は贅沢ができるようになったのだ。今さらこの生活を諦められない、というのもあるのだろう。
続いて、ロウリア王国のパタジンも賛成した。借金踏み倒しの策と武器の供与が効いたのだろう。聞けば、パーパルディア皇国はロデニウス大陸から見て、西北方にある国だとのことである。であれば、奴らが侵攻してくれば最初にやられるのは、ロデニウス大陸の北西部にあるロウリア王国となるだろう、ということは容易に予想が付く。そうした地理的条件も要因か。
最後まで渋ったのは、アルカノ王国、イザーク公国、エスメラ大公国の各代表だった。皇国の脅威を分かってはいるようだが、それでもプライドがあるのか、なかなか首を縦に振らない。
結局、カナタ1世直々の命令により、説得のため堺が派遣されることとなった。以前にこの3国とロウリア王国とのいざこざを調停した実績を踏まえて、任せられたのである。
「ったく、国王陛下からの命令とはいえ、なんでわざわざ一介の軍人でしかない俺が行かなきゃならんのだ。本来なら、リンスイ卿辺りの仕事だろうに……」
ここでも堺は「働きたくないでござる」性分を発揮した。3国の代表に対して、こう宣ったのである。
「それでは、我が軍から武器や食料の供与はいたしかねますな。食料はともかくとしても、我々は味方をしてくださらぬ国に銃を渡せるほどの余裕はございませんので。あと、もしかしたら鎧を着た怪物(戦車のこと)を、パーパルディアに占領された
クズである。いっそ清々しいレベルでクズである。
だが、堺がそう言ったとたん、三国いずれの代表も震え上がり、あわてて賛成を誓った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
かくして、中央暦1639年7月1日。
数々の調整の末に、クワ・トイネ王国、クイラ王国、ロウリア王国、イザーク公国、アルカノ王国、そしてエスメラ大公国の6ヵ国が連合し、「ロデニウス連合王国」という新たなる国家が誕生した。
元々在った各国は「州」という形での存続が決定し、国境はそのまま州境となった。初代国王には、クワ・トイネ王国の当代国王カナタ1世が即位。連合王国の首都はかつての公都クワ・トイネ…改め、クワ・ロデニウスとなった。
これに伴い、クワ・トイネ州の州知事には、これまで経済都市マイハークの市政のトップを務めていたハガマが就任することとなった。
各国の代表者たちはそのまま各州の州知事に就任し、ロウリア州の州知事はパタジンが担当することとなった。
また、これに合わせてクワ・トイネ王国とロウリア王国との間の講和条約(もちろん、クワ・トイネ州とロウリア州の間での条約だが)も締結され、ロウリア側からは一切の領土割譲はなし、ロウリア州は日本円にして賠償金100万円分を、5年かけてクワ・トイネ州に支払うこととし、また同州内におけるボーキサイト採掘に協力を惜しまないこととする、そして今後は両州は手を取り合い、ロデニウス大陸を脅かす者に対して協力して対抗する、ということで決定したのである。
そして、この連合王国の誕生こそ、第三文明圏、ひいては世界全土を揺るがす事態の始まりであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
世の中、光があるところには影がある。
光が当たる場所があるならば、必ず光の当たらぬ場所もあるのである。
そして……タウイタウイ泊地にも、そういう部分があった。
ロデニウス連合王国の成立からわずか1日後、クワ・トイネ州 タウイタウイ島。
タウイタウイ泊地の艦隊司令部では、堺がいつになく険しい表情を浮かべて、"
「申し訳ありません。試験運用中であった『アレ』が、テスト中にマシントラブルを起こし、クワ・トイネ州南東部の森林地帯に……」
「危険予測はしてたけど、やっぱりやらかしたか。回収部隊はもう送ったんだろうな?」
「はい。既に現場の封鎖に取りかかっている旨、現地の妖精陸戦隊と加賀より報告を受けています」
「見られたか? クワ・トイネ州の住民たちに」
「おそらくは。ですが、流言飛語の取り締まりは徹底します」
「頼んだぞ。アレ自体、存在を知られたくはないからな」
「承知しています。では、部隊の総指揮を取りますので、私はここで失礼します」
"赤城"はそう言うと、退室した。
ちなみに、なんで"赤城"がこんな話をしているかというと、幾つか理由がある。
まず、"赤城"の改裝。これのせいで、"赤城"は艤装が運用できなくなっており、暇を持て余していたのだ。そこで、以前発見した「アレ」の実験と性能把握のリーダーを務めることになったのである。
加えて、"赤城"は堺から一定以上の信頼を得ていた。やはり、こうした秘密にしたいものは、信頼できる者に任せるに限るのである。
なお、"赤城"と一緒に"
「やっぱりやらかしたか……予想はしていたがな。これ以上の事故がなければいいが……」
誰もいなくなった提督室に、堺の呟きだけが静かに消えた。
このしばらく後、「クワ・トイネ州南東部の森に、燃え盛る奇妙なオレンジ色のドングリが空から落ちてきた」という噂が、クワ・トイネ州の一部の住民たちの間で話題をさらった。
しかし、「人の噂も75日」の諺通り、しばらくすると自然と消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
同じ頃、タウイタウイ泊地の陸軍兵器設計局。
「まったく、バケモノだなあれは……」
一式中戦車チヘの設計にあたっていた設計技師の妖精が、資料を眺めながら呟いた。
彼が見ていた資料は、先日泊地の倉庫から発見された「Ⅵ号戦車E型 ティーガーⅠ」のスペックデータのリストである。
「何だこれは……我が軍のチハどころか、チヘであっても到底相手にならぬではないか……」
そこには凄まじいスペックが数字となって表されていた。
「砲塔前面装甲120㎜、車体前面装甲100㎜、車体側面・後面装甲80㎜……おまけに主砲である88㎜砲の貫徹力は、射程2,000メートルで84㎜、だと……? 我が軍のチヘなど、ゼロ距離で側面を撃ったとしても倒せるか怪しい上に、2㎞先からでも余裕で正面を撃ち抜かれるではないか……」
妖精は、あまりの性能差に愕然とする。
「これほどの戦車があったドイツでさえ負けたのだから、我が日本軍の戦車がどれほど弱かったのか、よく分かるな……。これを元にして、新たな戦車を開発せねば……」
設計技師は、信念に燃える。
同時刻、兵器設計局の銃開発部門でも。
「むー……新しい主力小銃か……」
別の設計技師妖精が、白紙の設計用紙を前に頭を抱えていた。
彼は、新しい主力小銃の開発を命じられたものの、どうすれば良いかわからず、困っていたのである。
「ボルトアクション式だと芸がないしなぁ……」
今のタウイタウイ部隊、及びクワ・トイネ軍の主力小銃は、三八式歩兵銃。ボルトアクション式の小銃だ。
現在タウイタウイ部隊では、「三八式は口径が6.5㎜しかないので、殺傷能力が低い」として、九九式小銃への装備換装が進んでいる。だがこちらも、大口径になっただけのボルトアクション式小銃である。
「うーん、別の銃か……そういえば、この当時の他国の装備は……」
妖精は気晴らしに、「タウイ図書館」から拝借した当時の各国の銃を記した本を手に取って眺める。すると、ある銃が目に飛び込んできた。
(口径7.62㎜……! しかも、弾の各スペックも九九式小銃の使用弾である九九式普通実包と似通ってる……! しかもコイツだけ、ボルトアクション式じゃない……!)
「こ、これだぁぁぁ!」
妖精は思わず叫び声を上げた。
他の妖精たちがぎょっとしてその妖精のほうを見るが、彼は全く気にも留めていない。
「そうだ、コイツがあった。これをもとにして、新しい主力小銃を開発するぞ!」
そして彼は真っ白だった用紙に、ものすごい勢いで設計図面を書き込み始めた。
というわけで、クワ・トイネもクイラもロウリアも、独立国ではなく「ロデニウス連合王国」の一州としての扱いとなりました。これにより、ロウリア州は全力でパーパルディアからの借金を踏み倒そうとしています。
皆様がお気になさっていた「アレ」に関して、事故が発生しました。まあ…仕方ないといえば仕方ないです。いつの時代も、新兵器の運用には事故がつきものですし。
これで「アレ」の正体って割れるのだろうか。
次回予告。
新たに成立した「ロデニウス連合王国」。新設に伴って多数の課題が発生する中、新生ロデニウス連合王国軍にもテコ入れが入る。そしてタウイタウイ泊地艦隊にも、新たな名称が付けられた…
次回「結成!第13艦隊」
また、ここに間章を入れていきたいと思います。次回は間章になるかもしれません。
それでは、今後とも拙作をよろしくお願いいたします!