鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
(あらすじ)
「天使の実」を食することで、食した人及びその人と共通点を持つ人が、夢の世界にあるバーに集まり、食事や談笑を楽しむことができる。既に大入りとなっている今宵の夢のバーであるが、そこに最後の来訪者がドアをノックする……
「ちなみに、何というお名前の方だったのですか?」
「ええと、確か……」
カグヤがそう言いかけたのと、ドアノッカーの音が鳴り響いたのは同時であった。まさに「噂をすれば影が差す」ということわざ通りである。
「どうぞ!」
ドアが開かれ、入ってきたのは身長180㎝ほどの、年齢にして50代くらいと思われるヒト種の男性。服装は和装を思わせるゆったりした白シャツに灰色のベスト、その上から真っ白のスーツと赤いネクタイを着用するという、なかなかにすごい格好をしている。
髪は灰色だったが、堺はこの色は元々は黒だったのではないかと考えた。そうだとすれば、
整った面長の顔立ちとややつり目のグリーンの瞳、そして右目のモノクルが何ともクールだ。
「先客の方々ですね、これは失礼しました」
非常に落ち着いた声音で話す男性。黒烏がそれに応じる。
「いえいえ。貴方も『天使の実』を食したのですか?」
「はい。友人から勧められまして…こんな夢を見られるとは思ってもみませんでした。どうやらあの木の実は、研究対象としてはかなり面白そうですね」
そう言うと、モノクルの男性は改めて室内を見渡した。そして質問する。
「失礼ですが、集まった方々の代表者の方に挨拶したいのですが……」
代表者と聞いて、堺、黒烏、カグヤは各々顔を見合わせる。というのも、明確な代表者など定めていなかったからだ。
その中で真っ先に動いたのは、堺である。
「このメンバーの中では、代表者は明確には決まっておりません。ただ、このバーに最初に到着した者が代表であるとするならば、私がそうです」
そう、最初にここに来たのは堺である。ならば
堺の言葉を聞いて、男性は姿勢を正した。
「
私はケネディス・ノヘルカと申します。第二文明圏の列強ムー国にて、『太陽会』という政治団体のリーダーを務めております。要は政治家ですね。
本日…というのも妙な表現ではありますが、よろしくお願いいたします」
そう言って右手を差し出す男性。その手を握りつつ、堺は自己紹介した。
「ケネディスさんですね。私は堺 修一と言います。見ての通り軍人で、ロデニウス連合王国海軍・第13艦隊の司令官を務めております。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
そして、場に居合わせた黒烏とカグヤも自己紹介する。
「私は
「カグヤ・エムブラと言います。ロデニウス大陸近海で、海上要塞ヴァルハラを拠点に艦隊の指揮官をしています。本日はよろしくお願いします」
自己紹介を終えたところで、早速ケネディスが切り出す。
「皆様の自己紹介を聞いていると、ずいぶん興味深いことが分かりますね。どうやら皆様ロデニウス大陸辺りで海軍の司令官を務めているようですが、国名がそれぞれ違っています。そして、私の知るロデニウス大陸の各国の名前のどれとも一致しない。
もしかして、皆様の知る世界は私の知るそれとは全く異なるのでしょうか。そうだとするなら、架空小説の設定が現実になったようなことになるでしょう」
かなり頭が良いようだ。まあ、そうでなければ政治家なんぞ務められないだろう。
「お気付きの通りですケネディスさん。どうも私たちは全員、全く異なる世界から来ているようなのです。これもおそらく、『天使の実』の影響でしょう」
「なるほど……あの木の実はますます興味深い。起きたら、研究対象に加えるよう仲間に言っておこうかと思います」
どうやらケネディスは、かなり知的好奇心が
「ところでケネディスさん、貴方はムーの政治家だと仰っていましたが、ケネディスさんの知るムーはどんな国なのですか?」
これはカグヤの質問である。
「その質問にお答えする前に、前提として話しておかねばならないことがありますね。こんなことを言うと、驚かれるかもしれませんが……」
そしてケネディスが打ち明けたのは、とんでもない情報だった。
「実は私、人生を過ごすのは2回目なのです」
「「「え?」」」
3人の声が重なった。
「厳密に申し上げるなら、前世の記憶を持ったままこの世を生きている、ということです」
「なんと、ではいわゆる『転生』というものですか」
堺は感心した。
小説ではしばしば出てくる「転生」という概念であるが、まさか実際に転生した人間に会えるとは思わなかったのである。
「ええ、小説などによくある『転生』です。それを踏まえてお話します。
前世でも私はムーの政治家をしていたのですが、その時我が祖国たるムーは戦争で大きな被害を受けました」
この話を聞いて堺はすぐ、グラ・バルカス帝国辺りが相手だったのだろうと考えた。
地球の技術でいうとムー国は第一次世界大戦頃〜戦間期レベル、対するグラ・バルカス帝国は第二次世界大戦レベルだ。そこに国力の差などが重なり、ムー国はグラ・バルカス帝国相手に大きな被害を受けたのだろう。
「そこで私は、転生したと気付いた時すぐにこう考えました。私の他にも、転生した者がいるかもしれない、と。そして調べてみると、驚いたことに私と同世代の人間が転生していたのです。それも数千人という数で。
そして私は誓ったのです。今度は祖国ムーが大きな被害を受けるような事態は、何としてでも回避する、と。
私は数千人の転生者たちに接触し、彼らを誘って政治団体『太陽会』を結成しました。そして仲間である転生者たちは皆、それぞれの専門分野の知見を活かしてムーの技術や軍事力を飛躍的に高めました。その結果、グラ・バルカス帝国が現れた時には我がムーは非常に強大な国家へと成長していたのです」
話しているうちに、ケネディスの口調は熱を帯び、目はギラギラと強い輝きを放ち始めている。
「どのくらい強くなったのですか?」
そこへ黒烏が質問した。
「ふむ、どのくらい、ですか……」
少し考えた後、ケネディスは逆に質問してきた。
「失礼ですが、皆様が知っているムーの技術は、どれほどのものですか?」
まず言い出しっぺの黒烏が答える。
「私の知る世界では、実はまだムー国との国交が開設されていないので、詳しくは知りません。ただ、商人たちから聞いた話では、『マリン』という航空機を実用化し、軍艦にも回転砲塔の搭載が始まった、と聞いています」
続いてはカグヤ。
「私のところでは、ムー国と接触して国交を開設しましたよ。国交開設時点では、ムーは最新鋭戦闘機だという『マリン』が複葉機、最新鋭戦艦だという『ラ・カサミ』がポケット戦艦程度、といった具合でした」
戦闘機「マリン」のことを聞いた時、ケネディスが僅かに目を細めた。まるで懐かしい時代のことを思い出しているかのように。
最後は堺の番だ。
「私の知る世界では、我がロデニウス連合王国とムー国が国交を開設してから4年になろうとしています。私の知るムーは少しずつ進化してきましたが、陸軍歩兵の小銃はレバーアクション式からボルトアクション式に変わったばかり、戦闘機は固定脚の全金属製単葉機がようやく実用化され、戦艦はやっと35.6㎝砲の搭載艦が登場した、といったところです。ですが非常に研究熱心であり、魚雷や次世代の1,200~2,000馬力級レシプロ戦闘機も独力で何とかしようとしていますし、対潜戦闘などの技術も積極的に輸入しています。将来的な伸び代はかなり大きい、と個人的には思っております」
堺の説明に、ケネディスは時折頷きながら聞き入っている。全て聞き終えると、ケネディスはゆっくりと口を開いた。
「なるほど、よく分かりました。どうやら私の前世におけるムーと大差ないようです。
それを踏まえた上で、今の私の知るムーがどのくらい発展したか、実感していただきたい。まず戦闘機ですが、レシプロ機は姿を消し、現在は超音速ジェット機が主流となりました」
「「「おお!」」」
3人とも超音速ジェット機を知る世界から来ているため、どれほど進化したのかすぐ理解できた。凄まじいまでの劇的ビフォーアフターに、感嘆の声が上がる。
「軍艦にも誘導魚雷と誘導弾の搭載が完了し、潜水艦も一新しました。小銃も、プラスチックなどを積極的に使用した自動小銃になっています」
「潜水艦」と聞いて堺はすぐ、原子力潜水艦を思い浮かべた。
軍艦に誘導弾を搭載できるくらいなら、もし潜水艦を持っていれば原子力潜水艦である可能性は十分考えられる。その長大な行動可能期間と、恐ろしいまでの静音性から、戦略兵器扱いされるほどの大物なのだ。
「それと、我が国の首都オタハイトは、
「下手すると神聖ミリシアル帝国より発展してませんか、それは」
「個人的にはそう自負しています」
話を聞く限り、西暦1970〜80年代の東京くらいの街並みにはなったようだ。
それにしても、第一次世界大戦レベル程度からここまで進化させるのは並大抵のことではない。相当な熱意と信念を持ってムーの近代化に取り組んだのだろう、と堺には容易に想像できた。
「それと、私自身の物の考え方も少し変わりました。前世では根っからの社会主義者でして、今世でも社会主義者なのは変わっていませんが、こと経済に関しては資本主義を積極的に導入しています」
純粋な社会主義というのは結構
「なるほど……お話いただきありがとうございます。素晴らしいですね、ここまで急速な進化を遂げるとは……」
黒烏のコメントに、堺は心中でツッコんだ。
(いやマジでそれな。というか、日本にも転生者が政治家や軍人となって歴史を改変していくSF小説があったけど、ここまで進化してたっけか? ケネディスさんと転生者の方々スゲーな……)
これほど長足の進化は、本当にただ事ではないのである。
ケネディスは話を続ける。
「ちなみにですが、私は宇宙は空にあると思っておりますし、また脳に瞳を得ることを夢としています」
「「「???」」」
想像の
「失礼しました……熱くなりすぎました。宇宙開発やサイボーグといった技術に強い関心を持っているのです」
宇宙開発は、堺にとっても関心の高いテーマである。
「宇宙開発は特に重要だと私も認識しておりまして、我が国は弾道ミサイルの研究のついでに衛星を軌道に乗せられるロケットの研究もしています。文献によれば、古の魔法帝国ことラヴァーナル帝国は、『僕の星』なる人工衛星を宇宙に浮かべ、地上を観測していたとか。我々もそこに追いつくと共に、可能なら『僕の星』を
実際、手の届かないところから覗きをされては堪ったものではない。
「ああ、あの国ですか。実は我がムーの技術発展を急いだ理由の1つは、その国に対抗できるようにするためです。このままでは滅ぼされてしまうことは明白ですからね。
既に大陸間弾道ミサイル、及びその迎撃ミサイルも開発を完了し、部隊に配備して錬成中です」
ここまで進化しているのは驚きでしかない。
「『僕の星』の滷獲解析ですか…言われてみれば確かに、相手を知るのに最も良い方法の1つですね。
使えそうな機材を調べ直さないと」
ここまで一息に喋ったところで、ケネディスは口調を変えた。
「おっと…失礼しました。すみません、好きなことになるとかなり熱を上げてしまうもので……」
「そんなケネディスさんの知的好奇心に叶いそうなものを、私は1つ知っていますよ」
「ほう、どんなものでしょうか?」
「実は、私や黒烏さん、カグヤさんは、擬人化艦船…つまり、軍艦の魂を宿す女性たちを部下として従えているのです。海軍とはいっても、率いている戦力が普通とは少し違うのですよ」
堺がそう言ったとたん、ケネディスの目がギラリ! と強く輝いた。知的好奇心のお眼鏡にかなったらしい。
「それは興味深い、軍艦に変身できる人間ということですかな!?」
「そうですね。少なくとも私の率いる女性たち『艦娘』は、皆そうですよ」
「なんと、それはそれは。いったいどうすれば人間が軍艦に変身できるのか、たいへん興味深い!
ふむ、詳しく聞きたいものだ……」
とその瞬間。
くぅー……
小さな、しかし何とも気の抜けるような音がした。
「「「??」」」
堺、黒烏、カグヤの3人は一瞬、周囲を見回した。今の音がどこから聞こえたのか、分からなかったのだ。
「……失礼。どうやら思考のためにエネルギーを補給しなければならないようです」
眉をややハの字形に寄せ、若干困ったような様子のケネディス。どうやら音の発生源は彼だったらしい。
「それでは、ちょうど全員揃いましたから、今から食事会と参りましょうか。私としても少し喉が乾いてきていましたし」
これを契機として、堺は食事会への移行を決めた。全員に声をかけて回り、テーブルの配置を若干変更して全員で1つのテーブルを囲めるように設定する。
「では、まだ挨拶回りがお済みになっていない方もいらっしゃると思いますので、食事の席を共にする前に改めて自己紹介をお願いします。まずは私からですね。
堺 修一と申します。見ての通り軍人で、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊の司令官を務めております。国名でお察しのこととは存じますが、我が国は『第三文明圏外』に国土を持つ国家になります。
この部屋に最初に到着したのは私ですので、今回は私が代表を務めさせていただきます。よろしくお願い申し上げます」
全員が着席した後、堺の挨拶からスタートして各々自己紹介をしていく。ところが、堺に続いて起立したエレインが、さらっと凄まじい情報を
「私はエレイン・ペンウッドと申します。神聖ミリシアル帝国の貴族・ペンウッド伯爵家当主の娘にして、神聖ミリシアル帝国海軍第零式魔導艦隊の巡洋艦戦隊司令を務めております。ちなみに、私は神聖ミリシアル帝国の現皇帝ルキウス・エルダート・ホロウレイン・ド・ミリシアル、つまりミリシアル8世の親戚です」
(ええええぇぇぇ!!? ちょっと待って待ってぇぇ!!)
今まで自分は、そうとは知らずにやんごとなき高貴な身分の方と話していたのか。堺は恐ろしい気持ちになった。
その後は『大和』からKAN-SENの説明を受けてケネディスが目を細めたり、ライムンドが語る「飛空艦隊」に一同が興味津々で聞き入ったりしていたが、真ん中所に差し掛かった時、ニコラスがとんでもないことをカミングアウトした。
「私はニコラス・C・アルフォードと言います。職業は、
その瞬間、堺はひっくり返りそうになった。
(だだだ、大統領!? おいマジか!? 国家元首、最高権力者じゃん! 核ミサイルの発射ボタン押せる人じゃん!!
ヤバいよヤバいよ……とんでもない大物じゃねーか!)
職業は今初めて聞いたが、ニコラスの雰囲気からして、ただ者ではないだろうことは堺も薄々感じていた。だが、まさか大統領だとは思わなかった。堺からしてみれば、雲上人が現れたようなものである。
「え、ええとニコラスさん…いやニコラス閣下?」
「そんな堅苦しくしなくて良いですよ、堺さん。これまで通り、ニコラスさん、で良いのです」
「ではニコラスさん、ノーザン・コンドミニアムという国について、軽くで良いので教えていただけますか。私は一度聞かせていただきましたが、初めて来られた方もおりますので」
「分かりました。私が大統領をしているノーザン・コンドミニアムは、前世界では世界を二分する大国、いえ超大国でした。複数の大陸や島にまたがる領土を持ち、もう一つの超大国『三大陸合衆国(ユナイテッド・ステーツ・オブ・ユーラブリカ)』と陰に
総支配面積はざっと3億7千万平方キロメートル、人口は約26億人、魔法はなく科学技術のみで成り立っております。転移直前ではユーラブリカと対立する傍ら、『宇宙』と呼ばれる、いわば星の外の暗黒の世界を開拓する技術の開発に力を入れ、天高くまで昇るエレベーターなどを建設したりしていました」
ニコラスの話のスケールがあまりに大きすぎて、全員が言葉を失っている。……と思いきや。
「ほう、軌道エレベーターですか! これは素晴らしい、ロケットなんてものではなくエレベーターで地上から直接宇宙へ繰り出せるとは!」
興奮した様子のケネディスが叫んだ。その目は新しい玩具を買ってもらった子供のようにキラキラ光っている。
まあ、あれだけ宇宙開発やらに興味を持っているのであれば、この反応は当然であろう。
「貴方は……?」
「失礼しました。私はケネディス・ノヘルカという者で、第二文明圏の列強ムー国で『太陽会』という政治団体のトップをやっております。貴方と同じく政治家ですよ。また、私は兵器の開発に一家言ありまして、軍事産業に高い関心を持っております。好きなことは宇宙へ思いを
いやはや、まさかエレベーターで宇宙へ繰り出すとは……是非ともその技術についてお教え願いたいところです!」
「おお、宇宙に非常に高い関心がおありとは、同志ができたようで……私としても嬉しい限りです。ケネディスさん、そして皆様も、今宵はよろしくお願いいたします」
どうやら完全に意気投合したようであった。
その後は
(さて……今回はちょっとエネルギー消費が多くなりそうだし、ちゃんと食べときますか)
普段少食の堺にしては珍しく、彼はガッツリめのメニューを選択した。注文したのはローストビーフセット(ローストビーフ、パン、サラダ)である。ドリンクは当然のようにブランデー入り紅茶、ただし比率が紅茶1にブランデー3なので、事実上ブランデーの紅茶割である。
「皆様注文が終わったようですので、乾杯といきましょうか。皆様、ドリンクをお持ちください。……それでは、今宵の素晴らしい出会いを祝して、乾杯!」
「「「「かんぱーい!」」」」
堺の音頭でグラスやカップが打ち鳴らされ、食事会がスタートした。
次回、6時から食事会です。そして次回が新年の「大型企画」の最後になります。
これほどの豪華メンバーが勢揃いするとは、うp主自身も想像しておりませんでした……協力してくださった方々には、本当に頭が上がりません。
実はこれ、端的に言えば「コラボ企画」だったのです。いったいどの作品とコラボしたのか、もうピンと来ておられる方もいるでしょう。
作品等の紹介は、次回後書きにて。