鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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総員起こし! 総員起こーし! 新年の食事会ですよ!


(あらすじ)
「天使の実」を食することで利用できる、夢の世界にあるバー。今宵の利用者全員が集合し、交流会を兼ねた食事会と相成った。



新年、夢の世界より ……交流会兼食事会、いやちょっと待って何だこれは……!

 食事会がスタートした……のであるが、開始早々堺は仰天する羽目になった。

 

(いやちょっと待って……何だよこれは……!)

 

 どうしたのかというと、彼の視線の先には、

 

「んー……とっても美味しい!」

 

 そう言って顔をほころばせる(くろ)()の姿がある。その食べ方は、貴族なんじゃないかと思えるほど上品だ。テーブルマナーも完璧である。

 が、問題はそこではない。問題なのは、テーブルの上に置かれた大量の料理である。漫画のようにこんもりと盛り上がった真っ赤なスパゲッティ。その横に置かれた、どう見ても400gは下らないトマホークステーキ、しかも5段重ね。これまた2つ並び立った、山盛りのフライドポテトとサーモンの寿()()。その間に横たわる、直径50㎝はあるだろうマルゲリータピザ。そして、今まさに彼女の胃の中へ()(れい)さっぱり消え去ろうとしている、超大盛りの生エビ。

 この上「デザートはやっぱりティラミスよね」なんて呟いているのだから、いったいどれだけ食べるのかと思えてしまう。

 堺のところにも、いわゆる「大食艦」はいる。大和(やまと)型姉妹を筆頭に、(なが)()型姉妹、(いっ)(こう)(せん)(たい)(ほう)、アイオワといった面々だ。しかし、その全員の食事量を足してやっと、今の黒烏の食事量に匹敵するのではないかと思えるほどの量である。

 

(うぐぅ……む、胸焼けが……)

 

 あまりに凄まじい量のため、それを見ただけで堺は胸焼けを起こしそうであった。

 ちなみに堺は少食である。少なくとも、"Saratoga(サラトガ)"の特製ターキーサラダサンド1個で(ごう)(ちん)するくらいには少食である。

 

「どうしました、堺さん? お食事が進まないようですが?」

 

 そんな堺の様子を見て、カグヤが声をかける。

 

「いやぁ……黒烏さんの様子を見てたら、む、胸焼けが……。私は少食なもので……」

「ああ……確かに黒烏さんは少し多いですわね」

 

 そう言うカグヤの食事はというと、大鍋に入ったボルシチである。しかも、20個はあるであろうピロシキまで添えてあるし、お酒はなんとスピリタスのストレートである。

 

(いや、黒烏さんばっかり注目されがちだけど、カグヤさんも大概だからな!? 食事量多い方だし、それにスピリタスって確かめっちゃ強い酒じゃなかったっけか!? それをストレートで飲めるって、どんな酒豪だよ!?)

 

 少なくともスピリタスのストレート飲みは、堺には絶対に真似できない所業である。

 

「堺殿、自分がこんなことを言うのも何ですが、堺殿は量が少々少なすぎます。もう少し食べるべきではないかと思います」

 

 刺身を(しょう)()(ひた)しながら『大和』が口を添えた。彼の食事メニューは京都のそれを思わせる懐石料理と日本酒であり、一皿あたりの量は多くないものの皿の数が多い。結果として堺より多い量を口にしようとしている。

 

「『大和』の言う通りだな。

堺よ、軍人ってのは基本的に体力勝負だ。お前さんはもう少し食べた方が良いと思うぞ。」

 

 そこに声をかけてきたフレッツァの食事メニューは、500gはありそうな巨大なサーロインステーキに、1Lはあると思われる容器に入ったコーラである。こちらも堺の基準に照らせばかなり多い。

 

「でなきゃ、仕事はもちろんだが、夜営も勤まらんぜ?」

 

 ニヤリと笑うフレッツァ。

 

「私もフレッツァさんに同意するわ」

 

 そこへ生エビとサーモン寿司を完食した黒烏が割り込んだ。優雅にスパークリングワインのグラスを傾けながら。

 「夜営」という言葉を聞いて、『大和』は白米を口に運ぼうとしたまま無言で苦笑いをしている。その一方、

 

「ヤエイ……? 野営…? キャンプですか?」

 

 カグヤは首を傾げていた。その頭上に巨大な「?」マークが浮かんでいるのを、堺は幻視した。

 

(ヤエイって何だよ、海兵隊ならともかく軍艦乗りが野営なんかするわけないだろ、って思ったら"そっち"かよ!)

「ちょっ、皆さん!? こんな席でいったい何を言い出すのですか!?」

 

 堺がようやくヤエイという音を「夜営」に変換し、その意味を悟るのと同時に、顔を真っ赤にしながらエレインが叫ぶ。

 

「ナニって、夜遅くまでの追加の仕事も勤まらんぜ、って言っただけだが?」

「そうですよエレインさん。それに貴女もまだお若いようですから、そういうお仕事もあるものでは?」

「いや、だから……ああもう!」

 

 ニヤニヤ笑いを浮かべたフレッツァと、平然とした顔でカマをかける黒烏のやり返しを受けて、さらに顔を赤くするエレイン。…が、彼女の食事を見て堺は愕然とした。

 エレインの食事は、白い小さな丸パンに(めん)入りの薬草スープ、キノコと木の実の盛り合わせ、魚の頭が無数に突き出たパイ、魚の切り身を入れたらしいゼリー、フライドポテト、ハーブ酒という内容で、こちらも量が多い。しかも、一部の料理の見た目がとんでもないことになっている。具体的には、キノコは傘が一面紫色のものやどこかで見覚えのある白い大きな斑点の入った赤い傘のもの、黒いマッシュルームなどがある。木の実はというとこちらもこちらで、ラフレシアの(つぼみ)を思わせる人の頭ほどの真っ黒い球体や、稲妻のような白い不規則の(たて)(じま)が走った濃い紫色の実、バナナに似た形状のピンク色の実など、毒々しい代物が混じっている。スープはスープで、そこら辺に生えている雑草と木の根を混ぜて煮込んだだけにしか見えないし、その中になんと青い麺が浮いているという始末である。パンはパンで、だいぶパサパサした物であるらしいことが一瞬で見てとれる。

 それだけではなく、堺には見覚えのある物が混じっていた。

 

(あのパイとゼリーって、もしかしなくても……)

 

 どこからどう見ても、どこぞの島国のアレである。いわゆる「某国面」に該当する奴である。

 

(なんでそんなゲテモノ料理を平然と食えるんだよぉぉぉ!!)

 

 このエレインの食事メニューが、堺の胸に止めを刺した。胸焼けの発症である。

 ちなみに堺の隣では、カグヤが「ああ、確かに夜遅くまで続くお仕事は大変ですからね。残業しないようにしないと」と、ズレたことを言っていた。

 

「いやぁ……若いって良いものですなぁ」

 

 そんな年若い者たちのやり取りを生温かい目で眺めているのは、アメリカンサイズのハンバーガーとコーラを手にするケネディスである。ちなみに彼のハンバーガーとコーラは、無意識のうちに堺に対する追撃になっていた。

 

「全くです。というより、ケネディスさんもまだお若い方では?」

 

 そこに声をかけたのはライムンド。彼の食事はなんと、コーヒーにチーズケーキ1個というシンプルさであった。

 ただし、これは決してライムンドが少食であるという訳ではない。ライムンドの処世術である。というのも彼は人生経験から、他者と食事の席を共にする時は、食事に気を取られすぎないよう軽食にしているのである。

 

「いや、私ももう年ですよ。ああいうことは若い者に任せるものでしょう」

 

 そう言って、ケネディスはテーブルに置かれたフライドポテト(当然アメリカンサイズ)を1つつまみ上げた。

 

「そんなことより、ムーのためにやるべきことが多い。ひとまずは宇宙開発が必要でしょう。かのラヴァーナル帝国は、『僕の星』なる人工衛星を有していたと聞いておりますので、それに対抗できるようにせねばなりません」

「え? 人工衛星を運用していた国があったのですか?」

 

 300gのサーロインステーキ(焼き具合はウェルダン)を切り分けながら、ニコラスが尋ねた。傍らに赤ワインのグラスが置かれている。

 

「ええ、記録にはそう書かれています。

ラヴァーナル帝国というのは、大昔にこの世界に存在していたと言われる国家で、何でも誘導弾や超音速戦闘機、弾道ミサイル、果ては核兵器までを保有し、その圧倒的な力を以てこの世界全土に恐怖政治を敷いていたそうです。神々の怒りに触れて滅ぼされそうになったため、国家ごと別世界へ転移してしまったそうですが、その際に『また戻ってくる』と書いた石板を残していったそうです。

ということは、遠からずまた戻ってくるでしょう。そうなる前に、可能な限りの準備をしておかなければなりません」

 

 淡々と語るケネディスに、ニコラスが小さくため息を吐いた。

 

「そんな危険な国があったのですか……なるほど、これは大いに参考になりました。私どもも気を付けることにしましょう」

「ああ、それから1つ思い出しましたが、この世界のあちこちにラヴァーナル帝国の遺跡が残されていますよ。特に神聖ミリシアル帝国などは、遺跡やそこに遺された技術の解析によって成り上がった国です。機会があれば、ラヴァーナル帝国の遺跡を解析してみるとよろしいかと思いますよ」

「ケネディスさん、貴重なアドバイスをありがとうございます。肝に銘じておくことにします」

 

 そこでライムンドが首を傾げた。

 

「ええと、すみませんケネディスさん。先ほどの自己紹介でも出てきておりましたが、ウチュウというのは何でしょうか?」

「簡単にご説明しますと、宇宙というのは空の遥か高み、言わば『星の外』です。空をどんどん高く昇っていくと、次第に空気が薄くなるのはご存知だと思いますが、宇宙では空気がなくなりますし、それにマイナス270℃という極寒の世界が広がっています。

古の魔法帝国…ラヴァーナル帝国は、そんなところに『僕の星』という観測用の機械を打ち上げ、運用していたのですよ」

 

 ケネディスの話のスケールが大きすぎて、ライムンドは目をパチクリさせている。

 

「ええと、私たちが普段飛んでいる空よりもさらに高く昇れば、最終的に宇宙に到達する、ということでしょうか?」

「その通りです」

「具体的にどのくらい昇れば…?」

「最低でも高度100,000メートルですね。ただ、古の魔法帝国の『僕の星』はもう少し高い位置に……だいたい高度120,000メートルくらいの位置に点在していることが分かっています」

「そ、そんな高度に……」

 

 現在の神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上の如何なる飛空戦闘艦や戦空機を以てしても、到達不可能な高度である。そんなところから覗きをされるのは、堪ったものではない。

 

「ちょうど我々も、転移によって人工衛星との通信が軒並み途切れてしまい、宇宙開発のやり直しを図っている最中なのです。この際ですから、宇宙船でも何でも使ってその『僕の星』とやらをキャプチャーし、地上に引きずり下ろして調べてみたいものですね」

 

 遠大な宇宙開発計画を思い浮かべているのだろう。ニコラスが遠い目をしながら言った。

 

「おお、それは良いですね。我々ムーも試みてみるとしましょう」

「では、我が国はひとまず高度10,000メートルで運用可能な飛空戦闘艦や戦空機の開発を……」

 

 年上3人が宇宙談義で盛り上がっている頃、年下組は新兵器の開発に関する議論に熱を上げている。ケネディスの方から漏れてきた「古の魔法帝国」という言葉にエレインが反応し、「どんな兵器を開発すれば良いか、皆さんの意見が欲しい」と言い出したことがきっかけだった。

 

「やはり核兵器……ミリシアル流の言い方をすれば『コア魔法』だったか? それの開発と配備だな。

配備に成功してしまえば、上手くすれば相互確証破壊が成立する。ラヴァーナル帝国相手に限らず、他国との外交面でも損をすることはないだろうな。」

 

 初っぱなにフレッツァが文字通りの「核爆弾」を投下し、エレインが真っ青になっている。その一方で堺、カグヤ、黒烏、『大和』は一様に頷いていた。

 核兵器の保有による相互確証破壊は、弱肉強食が基本のこの世界では非常に重要な外交ファクターとなるだろう。

 

「そ、そういうフレッツァ様の国…確かロデニウス連邦でしたか、そこにはコア魔法はあるのですか?」

「ある。俺たちは『トラペゾヘドロン』という呼び方をしているがな。」

「え……え…? コア魔法が、ある……?」

 

 文字通りに目を点にして、うわごとのようにエレインが呟く。ほぼ燃え尽きた彼女に代わって、堺が口を開いた。

 

「後はやはり、ミサイルそのものを迎撃できるシステムの構築ですかね。早期警戒用の陸上・艦載レーダー、大陸間弾道ミサイル及びその迎撃ミサイル、超音速戦闘機、個艦防空用の高性能バルカン砲、あとは魔力のない物体でも探知可能なレーダー……作るべき物が多い……!」

「お金がいくらあっても足りないでありますな。ですが、相手が相手ですからやはりそれくらいは要るでしょうな」

 

 『大和』がそれに同意する。

 

「『僕の星』でしたか、それを破壊する人工衛星も欲しいですね」

「どこの『スターウォーズ計画』ですかっ!」

 

 カグヤが言い出した案に、堺は思わずツッコミを入れた。

 ちなみにであるが、この時点で参加者の面々はおよそ半分ほど料理を食している。が、堺だけ胸焼けで喉を通らなくなってしまい、彼の前にせっかく用意されたローストビーフは一口も手をつけられずに放置されている状態であった。

 

「ミサイルにもいろいろな種類が欲しいわねぇ。大陸間弾道ミサイルは当然として、防空用、潜水艦発射型、巡航ミサイル、戦術核……」

 

 どこかうっとりした顔で黒烏が言う。ちなみに彼女の前にあった(ばく)(だい)な量の食べ物は、既に約6割が消え去っていた。現在彼女は、イタリア人もびっくりの巧みなフォーク裁きでアラビアータを(すく)っているところである。

 

「戦術核で思い出しましたが、万が一上陸を許した場合に備えて陸上兵器も欲しいですね。戦車とか……」

 

 堺が切り出すと、フレッツァがそれに食い付いた。

 

「どのくらいの性能が要ると思う?」

「うーん、一例として主砲は最低でも口径115㎜、砲身長は40口径以上、車体の装甲は…最低でも鉄板換算で200㎜級、機動力は路上50㎞/hくらいは欲しいですかね……」

「俺のところはまだまだ頑張らねばな。何せM4シャーマン…75㎜砲搭載の戦車が主力だし。」

 

 「今度ピュリファイアーにでも、新しくアンロックされた技術で何か作れないか、聞いてみるか……」と考え込むフレッツァに代わり、『大和』が発言する。

 

「自分も戦車が重要だと思います。そして堺殿の出した数値と比較しますと、ちょうど敵いそうな戦車がありますな。

主砲は51口径105㎜砲、口径は少し小さいですが砲身長は十分でしょう。ただ、防御力が少し足りませんな。避弾経始は十分にありますから、これ以上に防御力を上げるとなると装甲板の厚みを増やすか、もしくは本格的に複合装甲を開発するくらいしかありませんな……」

 

 そこへ、黒烏がアラビアータを飲み込んで口を開いた。

 

「私のところは2足歩行兵器があるから、まだマシかしらね」

「え? 2足歩行兵器……!?」

「な、なんと!? 戦車ではなくそんなものが…!?」

 

 堺と『大和』が目を見開く横で、カグヤが笑みを浮かべた。

 

「私のところにもありますね、2足歩行兵器」

「マジか……うちでも作るべきかねぇ……」

 

 某機動戦士をイメージしながら、堺はテーブルに崩れ落ちた。頭痛を感じて動けなくなったのだ。

 これ以上何か作ろうとすると、技術者陣の負担が大変なことになってしまう。かといってこの意見は無視できるものではない。

 

「2足歩行兵器、想像するのは簡単ですが、いざ作るとなると難しそうですな。魔導ゴーレムの模倣から入るべきでしょうか……」

 

 『大和』もうんうん(うな)っている。

 カグヤと黒烏、フレッツァが2足歩行兵器談義を始め、それに『大和』が加わってからしばらくして、何とか頭痛を抑えた堺はようやく顔を上げた。だがその途端、エレインが食べようとしていた()(かい)な見た目の料理の数々を目撃してしまい、またしても胃と胸に甚大なダメージが入る。しかしそこで、堺はあることに気付いた。

 

(ふと思ったんだが、エレインさんが食べようとしているあの木の実は旨いんだろうか? とんでもない見た目してるけど、あんな平然と出てくるってことは、そうまずい訳じゃないと思うんだが……)

 

 今のところ、固い固形物は絶対に喉を通らない。だがブランデー入り紅茶は飲めているから、おそらく液体か柔らかい固形物なら摂取できるだろう。

 そのエレインは、再起動を果たして食事を再開したところである。ちょうど黒いマッシュルームをさも旨そうに口に放り込み、続いてあの白い縦縞が入った紫色の木の実を手に取ったところだった。

 

「あの、エレインさん」

「どうしました、堺殿?」

「その木の実なんですが……何だかこう、毒々しい色をしていますが、食べられるのですか?」

 

 この質問に、エレインは笑みを浮かべて答えた。

 

「よく外国の方に()かれるんですよ、それ。

これはミリシアルでは『ガーヤンの実』と呼ばれる果物で、表皮はこの通り毒がありそうな色をしていますが、果肉はオレンジ色で肉厚なんです。強い甘味があって美味しいんですよ。そのまま食べても良いですし、ケーキやタルトに加工されることもあります。

よかったら、おひとつどうですか?」

 

 そう言うと、エレインはその紫色の実にナイフを入れ、一切れ切って差し出した。

 確かに表皮は毒々しい色合いだが、果肉は(ゆう)(ばり)メロンを思わせる鮮やかなオレンジ色だ。外見とは裏腹になかなか旨そうに見える。

 

「皮ごと食べられるので、そのままどうぞ」

 

 エレインに言われて、堺はおっかなびっくり口に運んだ。するとどうだろう、一口噛んだ瞬間に大量の果汁が口内に溢れだす。味はメロンというよりはモモに近く、甘い。

 

「お、美味しい……」

「そうでしょう? ちなみにケーキやタルトにする時は、皮ごと実をすりつぶして生地に練り込むので、出来上がったケーキは薄い紫色になるんです。

外国の方も最初はこの紫の皮にびっくりされるんですが、一口食べると止まらなくなるんですよ」

 

 確かにエレインの皿をよく見ると、ガーヤンの実だけ他の実に比べて数が多い。

 

「ミリシアルにこんな旨い果物があるとは、存じませんでした。ミリシアルに行く機会がありましたら、また食べてみたいです。この果物は、市場で普通に売られていますか?」

「はい、季節によって流通量は変わりますが、一般市民にも十分手が届く値段ですよ。大手の店はもちろん、個人経営の商店でも買えると思います。それくらいよく見られる物ですよ」

「なるほど、教えていただきありがとうございます。うちの艦娘たちは甘い物が好きですから、これをお土産に買って帰れば喜んでくれるでしょう。

そうだ、甘い物といえば……忘れていました。お返しに、これをどうぞ」

 

 堺は"()(みや)"の(よう)(かん)を注文した。

 蓋に「羊羮」と墨で書かれた木箱が、一瞬で登場する。それをエレインに差し出した。

 

「これは……? ヨウカン、と言っておりましたが……」

「我が国のお菓子の1つです。これは艦娘の1人"間宮"が腕によりをかけた一品ですよ。

かなり人気のあるお菓子の1つで、私の聞いたところでは遠くムーでも流行っているそうです」

 

 堺がそう言った途端、

 

「失礼ですが堺殿、自分にもお(すそ)()けいただけないでしょうか!?」

 

 かなりの勢いで『大和』が食い付いた。既に懐石料理をほぼ食べ終えている。

 

「間宮の羊羮、噂には聞いたことがあったのですが、口にする機会がなくて……」

「おお、そうでしたか。どうぞどうぞ」

「ありがとうございます!」

 

 そこへ、

 

「あっ、抜け駆けはずるいわよ!」

「私にも、1つもらえませんか」

「おいおい、俺を忘れてくれるなよ。羊羮か……久しく食ってないな。」

 

 他の面々も割り込んできた。

 

「では少々お待ちください、切り分けますね」

 

 堺はナイフを取り、注文した羊羮をテーブルに置いて切り分ける。そして(つま)(よう)()を刺した。

 

「さ、まずはお試しに一切れどうぞ」

 

 瞬間、5本の手が一斉に羊羮をさらっていった。小豆(あずき)色がそのまま各々の口へと運ばれる。

 

「如何ですか?」

 

 真っ先に感想を述べたのは、黒烏であった。

 

「こ、これ……すごく美味しい!! 何これ、こんな羊羮食べたことないわよ!」

 

 やはり"間宮"の羊羮は、強烈な威力を発揮していた。一瞬で黒烏の胃を(わし)(づか)みにしてしまったらしい。

 

「これは美味しいですね。うちのKAN-SENの子たちの自慢の品でも、これを前にしては(かす)んでしまうかもしれません」

 

 続いてカグヤが、目をキラキラさせながら感想を述べる。

 

「うむ、(まっ)(ちゃ)との相性が非常に良いですな。

噂に聞きし伝説の間宮の羊羮、こんなところで食せるとは、ありがたい限りであります」

 

 食後の緑茶と組み合わせて、『大和』も楽しんでいる。

 

「こりゃあ重桜のKAN-SEN、特に赤城辺りが泣くな。故郷を恋しがるような味だ。」

 

 フレッツァの受けも良い。そしてエレインはというと、

 

「こ、こんな甘味が存在していたなんて……知らなかった……」

 

 目を潤ませ、頬と声を震わせている。どうやら羊羮がいたく気に入ったらしい。さすが"間宮"の羊羮、凄まじい威力である。

 

「私は今、感動している!」

 

 そう叫ぶや、エレインの手がもう一切れ、羊羮を引ったくった。

 

「ははは、また注文すれば良いだけですから、そんなに焦らなくても……」

 

 堺が苦笑している間に、エレインはあっという間に2切れ目を食べ終えてしまった。そのまま箱の中に残っていた羊羮を全て、一瞬のうちに食べてしまう。

 

(こりゃ相当気に入られたな)

 

 堺はもう1本羊羮を注文すると、それを半分に切り分け、片方をそっくりエレインに渡してしまった。そして、残り半分を3等分して年上組3人に持っていく。

 

「お話し中に失礼します。我が国自慢の、羊羮という甘味の差し入れです。おひとつどうぞ」

「おお、これはありがとうございます」

 

 ちょうど宇宙開発議論が一区切りついたところだったらしく、ニコラスがお礼を言って最初に受け取った。ライムンドとケネディスもそれぞれ受け取る。

 

「おや、これは…天ツ上にもちょうど、これと同じような甘味があったんですよ」

「え、そうなんですか?」

「はい。一度、合同演習の後のパーティーで出てきたのを覚えています。どれどれ……」

 

 昔を懐かしむような遠い目で、ライムンドがコメントを挟んだ。彼が羊羮を口に運んでいる間に、ニコラスとケネディスが感想を述べ始める。

 

「ヨウカン、ですか……こんな甘味があるとは。これはどうやって作っているのですか?」

 

 真っ先にケネディスが質問する。

 

「私も製法までは詳しくないのですが、これは小豆という豆をすりつぶし、砂糖と一緒に煮詰めて作られる『(あん)』を固めて作られます。ケネディスさんのいる世界には、確か日本国があるんでしたか?」

「はい、ありますよ」

「それでしたら、日本国の料理本などには作り方が載っていると思いますし、餡そのものも売られているでしょうから、貿易によって容易に入手できると思います」

「なるほど……ありがとうございます。これは固めに作られているから、簡単に携帯できるし、日持ちも良さそうだ。会議の小休憩なんかの時には、使い勝手が良いですね。あるいは軍艦に乗る海兵の糧食兼精神安定剤としても有効か……」

 

 早くも羊羮の実務上の利点に気付くケネディス。この辺の合理的思考はさすがというべきだろう。

 

「ジャパンの甘い物も悪くないですな。我が国の甘味は、砂糖をベースにチョコレートやピーナツバターなどを混ぜて暴力的な甘さになっていることが多いが、これは()(ぼく)ながら優しい甘さがある。キツい甘味に慣れていると、これは却って新鮮味を感じます」

 

 アメリカの味覚に慣れてしまったニコラスには、羊羮はなかなか斬新な食べ物だったようだ。

 そしてライムンドはというと、

 

「懐かしい味ですね……。

天ツ上のものより甘味が強く、それなのに優しい味わいです。天ツ上では『緑茶』という緑色の渋い茶と共に食べていましたが、コーヒーにも合うかもしれません」

 

 言いながら、さっそくコーヒーを注文し始めている。堺は思わず苦笑した。

 と、その時。

 

「ん?」

 

 堺は、視界が微かに白くなっているのに気付いた。

 

「おや、これは……? 視界が(かす)んで見える?」

 

 ニコラスもすぐに気付く。

 

「え、ニコラスさんもですか? 私もです」

 

 コーヒーカップを片手に、ライムンドが言った。

 

「私もそうなっていますね。それに、だんだん視野が狭くなっている……。

皆さん一斉に同じことが起きているということは、これはおそらく、目覚めの時だということでしょう」

 

 ケネディスは冷静に分析している。

 

「つまりタイムリミット、お別れの時だということですね」

 

 白い光で視野が埋め尽くされていくのを感じながら堺がそう言った時、彼の背後で叫び声が上がった。

 

「ちょ、待って待って! まだティラミス食べ終わってないのにぃ!」

 

 黒烏の悲鳴だ。慌ててスプーンを振り回しているが、彼女の前に置かれた重量1㎏ものティラミスは、まだ半分以上も残っている。

 

「あ、それじゃあ一口いただきまーす♪」

 

 横からカグヤがスプーンを伸ばし、ティラミスを(ひと)(すく)いかっさらった。

 

「では自分も」

「それでは私も!」

「ついでに俺も。」

 

 そこにしれっと、『大和』、エレイン、フレッツァが加勢する。ちなみにエレインは食後の紅茶を飲んでいたらしく、彼女の席に新しいティーカップが置いてあった。フレッツァはというと、片方の手でスプーンを伸ばしながらもう片方の手でコーヒーカップを握っている。

 ちなみにであるが……堺が放置していたローストビーフセットは、いつの間にやら消え去っていた。実を言うと、視界が霞み始めたのに気付いてすぐ、「まるごと残されるのはもったいない」と、カグヤとフレッツァが取り合うようにして肉とパンを食べてしまったのである。サラダは根こそぎエレインの胃袋に収められた。

 視界を埋める白い光がだんだん強くなり、相手の顔すら見えなくなる中で堺は叫んだ。

 

「それでは今宵はここでお開きということで。

皆様にお会いできて良かったです。ご縁がありましたら、またお会いしましょう!」

 

 視界が完全に白一色になり、何も見えなくなった。

 

「はい! 堺殿、そして皆様方、また海軍の戦術理論を教えてくださーい…!」

 

 エレインの声が。

 

「艦娘という存在に、世界線ごとのKAN-SENや指揮官同士の違い、とても興味深かったです。いつかまた、お会いできれば……」

 

 『大和』の声が。

 

「本日はありがとうございました。皆様に栄光が訪れんことを……」

 

 ニコラスの声が。

 

「またコーヒー談義といきましょう。今宵は楽しい時間を過ごせましたよ……」

 

 ライムンドの声が。

 

「やれやれ、騒がしい別れも嫌いじゃないな。まあ、(たっ)(しゃ)でな……」

 

 フレッツァの声が。

 

「今日は本当に楽しかったですわ。ああ堺さん、もう少し食事を()ってくださいましね……」

 

 カグヤの声が。

 

「ああもう、ティラミスは仕方ないか……! 皆さんありがとうございました……!」

 

 黒烏の声が。

 

「いつの日か、また会いましょう。さあ、宇宙への挑戦だ……!」

 

 ケネディスの声が。

 どんどん遠ざかっていく…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ……?」

 

 堺が目を覚ますと、そこは戦艦「(なが)()」の長官私室だった。

 

「何か、長い夢を見ていた気がする……。何の夢だったんだ? 全然思い出せんが……」

 

 堺はふと気付いた。朝っぱらから胸焼けしているではないか。

 

「うげっ……こりゃ朝飯は喉を通るかねぇ……。大食いをやらされる夢でも見たか……?」

 

 首を傾げながらも、堺はベッドから起き上がり、身支度にかかった。

 

 

 ちなみにこの後、堺はいつにも増して朝食の量が減少し、"長門"から「大丈夫か提督よ?」と本気で心配される羽目になったのだった。




はい、という訳で交流会兼食事会でした。新年特別編の「大型企画」はこれにて終了です。
ちなみですが、この食事会にも当然ネタが隠れていました。具体的には、エレイン氏の食事メニューに。
使ったネタは以下の通りです。
『白い小さな丸パン』
スターウォーズのエピソード7冒頭、レイが食べていたパン。特殊なポーションを水に溶かして、瞬時にパンにしていたアレ。
『青い麺入りの薬草スープ』
スターウォーズの「ルートリーフシチュー」と「グロウブルーヌードル」の合体。「ルートリーフシチュー」は別名「ヨーダ・シチュー」、エピソード5にて登場している。ヨーダの元を訪ねたルークが、一口食べて何とも言えない妙な表情を浮かべていたアレである。「グロウブルーヌードル」はドラマ「キャシアン・アンドー」にて保安監査チームの1人が食べていた青いヌードルのこと。
『キノコと木の実の盛り合わせ』
「傘が一面紫色のキノコ」…モンハンの「ドキドキノコ」。
「白い大きな斑点が入った赤い傘のキノコ」…マリオの「スーパーキノコ」。
「黒いマッシュルーム」…元ネタ無し。強いて挙げるなら「黒い恋人や白いブラックサンダーがあるんだから、マッシュルームが黒くたって良いよな?」という妄想の産物。
「人の頭ほどの大きさの黒い球体の木の実」…スターウォーズの「ブラックメロン」。
「稲妻状の白い縦縞が入った濃紫色の木の実(ガーヤンの実)」…スターウォーズの「ジョーガン・フルーツ」。余談だが、「メイルーラン・フルーツ」も出そうか迷ったが、見た目から美味しそうだったので除外した。
「バナナ状のピンクの木の実」…ポケモンの「ナナのみ」。
『魚の頭が無数に突き出たパイ』
実在するイギリス料理「スターゲイジーパイ」。説明不要の「食の英国面」の代表。
『魚の切り身を入れたらしいゼリー』
実在するイギリス料理「うなぎのゼリー寄せ」。言うまでもなく「食の英国面」筆頭。
『フライドポテト』
まともそうに見えるが、実はイギリスのファーストフード「フィッシュ&チップス&ビネガー」から魚と酢を取っ払っただけ。

神聖ミリシアル帝国の方は皇帝も含めて大抵紅茶を飲んでいますし、エルペシオやジグラント、ロデオス級といったチグハグな兵器を見ると、紅茶に犯された英国面的発想で設計したとしか思えなかったのです。なので、エレイン氏の食事は「見た目がとんでもない食事」を追求した結果、イギリス料理を軸に、見た目の微妙さに定評のあるスターウォーズメシを組み込みました。
あと、地味にエレインの発言にヤマト2199のネタが隠れています。

実はこの食事会、食事量が最も少なかったのは堺です。だって、まともに食べたものといえば、ブランデーの紅茶割と果物1切れだけですからね。処世術で軽食に制限していたライムンド氏すら下回る、ぶっちぎりの少食です。(一応)ホストなのにまともに食えてないとは、気の毒に。
それにしても、以前のクリスマスパーティで"Saratoga"のターキーサラダサンドで轟沈したり、対パ皇戦勝記念パーティでは巻き込まれてコスプレさせられた挙句「ヤマト」を歌わされたり、堺司令には若干不幸属性が付いているような気がする…。


今回は「新年だヨ! 提督・指揮官・司令官全員集合!」と題して、日本国召喚の二次創作に登場する軍の指揮官クラスの方々にお集まりいただく、大規模コラボ企画でした。
本企画を考え付いた当初は、私自身「3人くらい参加してくだされば御の字かな」程度に考えておりました。それがまさか、これほど多数の方にご参加いただけるとは……まとめるのは大変でした(本文の文量でお察しください…)が、初のコラボ企画とあって非常に楽しいものでした。
そして、召喚二次界隈でこんなコラボ企画を見た記憶がない……こういうコラボ企画は召喚二次界隈では初の試みじゃなかろうか…?

参考までに、参加してくださった司令官クラスの方々と登場作品を、軽くご紹介させていただきます。

エレイン・ペンウッド氏:凡人作者様の作品「神聖ミリシアル帝国海軍物語」の登場人物。第零式魔導艦隊で巡洋艦戦隊を率いている。見た目はFGOのアルトリア・ペンドラゴンが近いとのこと。冷徹な印象があるが、実はポンコツだそうな。緻密なミリシアル兵器の考察と戦闘描写には、お世話になっております。更新お待ちしてます。

『大和』氏:日本武尊様の作品「異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊」の主人公。トラック泊地の指揮官にして、男性型KAN-SEN。冷静な指揮ぶりは、堺にも見習わせたいところ。現在パーパルディアと戦争中であり、グ帝への対応まで描いてもらいたいと個人的に応援しています。

ライムンド・スプルアンス氏:ZERO零様の作品「とある飛空士への召喚録」の登場人物。神聖レヴァーム皇国の飛空艦隊司令。キャラモデルはレイモンド・スプルーアンス(実在したアメリカ軍の軍人)と「銀河英雄伝説」のヤン・ウェンリーなのだとか。コーヒー好きはスプルーアンスのキャラです。
「とある飛空士への召喚録」の再編のため、実はこの方はまだ「新世界大戦録」本編には登場しておりません。ミリシアル・ムー・天ツ上との合同演習は印象に残っていますので、進行ゆっくりで良いからリメイク版での再登場を期待したい。

ニコラス・C・アルフォード氏:空社長様の作品「13日戦争で滅びるはずだった両雄(新)」の登場人物。北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム)の第3代大統領。現在は神聖ミリシアル帝国を含めた世界各国との国交開設に邁進中。今回のコラボに参加された方の中ではたった1人の最高権力者です。余談ながらこの方の参加の打診があった時、うp主は衝撃を受けました。まさかの最高権力者じゃないか…と。

クリストファー・フレッツァ氏:サモアオランウータン様の作品「異世界の航路に祝福を」の主人公。召喚世界のアズールレーン総指揮官にしてサモア基地の司令官。うp主個人としては、この方と堺は一度会わせてみたかった。そして「リア充爆発しろ」と言ってやりたい(だいたいアレな航路のせい)。

カグヤ・エムブラ氏:有澤派遣社員様の作品「異世界にレッドアクシズの名を刻む!」の主人公。海上要塞ヴァルハラを拠点に、KAN-SENたちと独自戦力を率いている。現在パーパルディアとの戦争に突入しており、個人的にはさらにその先、グ帝への対応を描いてもらいたいと陰ながら応援しております。

白銀 黒烏氏:夜叉烏様の作品「白銀の烏と異世界母港」の主人公。硫黄島基地の司令官にして「指揮官」の1人。とんでもない美人で戦闘力も高いという、堺からすると羨ましいどころではないスペックの持ち主。戦闘描写を参考にさせていただいておりますので、リメイク版の本編更新お待ちしております。

ケネディス・ノヘルカ氏:starship様の作品「ムーの栄光よ再び」の主人公。ムーで社会主義系政治家をやっている。実は「紺碧の艦隊」の主人公高野五十六と同じく、転生者であり、前世の記憶と反省を活かしながらムーを動かしている。また、転生者故なのか個性的な性格をしている。うp主としては、彼のキャラを描き出すのが一番骨が折れました…。
余談ながら、まさかうちの堺があちらに出張することになるとは思わなかったです。


改めまして、本コラボにあたって快くキャラを貸し出してくださった、凡人作者様、日本武尊様、ZERO零様、空社長様、サモアオランウータン様、有澤派遣社員様、夜叉烏様、starship様に、深く深く御礼申し上げます。本当に、ありがとうございました。



さすがに大量に書いたんで疲れました……ちょっとくらい、本編更新お休みしても良いよね……?
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