鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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そしてUAが2万オーバーだと!?

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はい、迷ったのですが、間章を先に投稿することにしました。
今回は、ロデニウス沖海戦で捕虜となったロウリア王国軍の海将、シャークンのお話になります。
日記形式としたため、今回はこれまでとは作風が異なっております。



019.1. 間章その1 海将シャークンの手記

 以下の内容は、ロウリア王国海軍の海将・シャークンの手記の一部抜粋である。

 

 

 

 中央暦1639年 4月15日

 ついに、我が国が誇る4,400隻の大艦隊が、クワ・トイネ公国に向けて出港した。ものすごい数だ。海面が見えないほど多数の帆船が、白い帆を陽光に輝かせて出港していく。非常に美しい。

 艦隊の向かう先は、クワ・トイネ公国の経済都市、マイハーク。

 クワ・トイネの亜人どもを滅ぼすなど、この艦隊にかかれば容易いことだ。奴らも迎撃のための艦隊を出してくるだろうが、空前絶後の数を誇るこの大艦隊に、勝てるわけがない。

 私は今、総旗艦となった大型帆船の中でこの手記を書いている。

 クワ・トイネの降伏と亜人の殲滅、それにロデニウス大陸の統一など、容易なことだろう。ロウリア王国万歳。

 

 

 中央暦1639年4月21日

 ……なんということだろうか。

 4,400隻もの数を誇った我が艦隊は、クワ・トイネ公国のたった20隻ほどの艦隊に、()(すべ)もなく叩き潰された。

 敵の艦隊は、こちらの弓やバリスタの射程のはるか外側から、すさまじい威力を持つ爆裂魔法を何発も撃ち込んできた。それに、帆もないのに我が軍の帆船よりも圧倒的に早い脚を持ち、我が国の帆船では全力で走っても追い付くことすらできなかった。さらに、敵の飛竜も非常に強力だった。

 何より、敵は応援に駆けつけた我が軍のワイバーン隊350騎を、たった30騎ほどの飛竜と艦隊からの迎撃のみで蹴散らし、1騎残らず撃墜してのけた。我が軍の帆船全部がよってたかっても、そんなことはできない。私は、自軍の敗戦を痛感した。敵と我々との間には、歴然たる力の差があったのだ。

 

 私は、たった1,000隻ほどしか残っていなかった我が艦隊に対して撤退命令を出し、自分も撤退しようとしたその時、乗っていた船を撃沈された。その後、さっきまで戦っていた敵の船のうち、比較的小さな船の1隻から出てきた小型の手漕ぎ船に拾われ、救助された。手漕ぎ船の船員たちのやりとりを聞くに、私を拾った船の名は「ユキカゼ」というらしい。

 おそらく、将である私はこの後拷問を受け、情報を聞き出された後に、兵の士気を高めるために公開処刑にされるのだろう。少なくとも、我が国の常識ではそうだ。

 全くついていない。これなら、いっそ即座に撤退して本国で死刑になっているか、撃沈された時に船と一緒に海の底に沈んでしまったほうが、まだ楽だったかもしれない。

 だが、数で圧倒的に勝っていた我が軍をここまで追い詰めるとは、敵はいったいどんな技術を手に入れたのか、という関心もあった。聞けば、ロデニウス大陸のどこかにも古代文明の遺跡があるとか。クワ・トイネ公国軍は神聖ミリシアル帝国のように、古代の装備を復元し、それを手にしたのだろうか? もしかすると、その一端に触れられるかもしれない。

 

 一先ず、私も含めて救助された者たちはユキカゼの甲板に集められ、武器を没収された。

 目の前には、敵国のヒト族の兵士が立っていて、こちらを睨むように見つめていた。我々を監視しているのだろう。

 そういえば、救助された時に怪我をしていた者たちは、拾い上げられるや艦内のどこかに連れていかれるのが見えた。もしや、もう殺されたのだろうか?

 

 しばらくすると、艦内から白い服を着た多数の人間が出てきた。その手には何枚もの細長い布があり、我々1人1人に1枚ずつその布を渡していった。それで体を拭け、ということらしい。ついでになんと、替えの衣服まで持ってきてくれた。

 着替えを終えたところで、布を持ってきた敵の兵士の1人が、声を上げた。

 

「この中に、指導的立場の者はいるか?」

 

 その途端、拾われていたロウリア軍の兵士たちが一斉に私のほうを見た。

 こうまで見つめられては、隠すのは無理だ。私は正直に自分の名と階級、肩書きを告げた。すると、敵の兵士は目を見開き、ついてきてほしいという。

 船の中に案内された。船の中というのは、太陽の光がささないので暗いのが普通だ。しかし、このユキカゼの中は明るく、快適そのものである。ロウリアのそれとは別格の技術で作られたのであろうことは、容易に想像がついた。もしかすると、魔導船なのかもしれない。

 そんな船の中を少し歩いた後、私はとある一室に案内された。そこには、この艦の指揮官らしい者がいたのだが…ヒト族の女性であったことにはいささか驚いた。このような軍隊の指揮は、男性がやるものだとばかり思っていたからだ。

 

 彼女の話によれば、我々はどうやら捕虜という扱いになるらしい。しかし、収容所に入ることにはなるだろうが、拷問を加えたりはしないし、命の保証もする、とのことだった。嘘かもしれなかったが……当面は命を奪われることはないと分かって、私は安心した。

 そして私は、気になっていたことを尋ねてみた。この船をどこから購入したのか、ということだ。

 これだけの船は、ロデニウス大陸では作れないだろうことは、私にも分かっていた。おそらくこれは、どこかの文明国……もしかすると列強から売られたものかもしれない、と思ったからだ。

 ところが、彼女は首を傾げてこう言った。

 

「この船? 雪風は、ここで建造されたものですよ?」

 

 そんな馬鹿な!? 文明圏外国が、こんな船を作れるはずがない!

 しかし、彼女は私の質問に対する答えを持ち合わせてはいないようだった。結局、私の気になっていたことに対する明確な答えは得られぬまま、質問は打ち切られ、私は甲板に戻された。

 

 その後しばらくすると、何やらいい匂いがして、クワ・トイネの兵士たちが何かを運んできた。「ニギリメシ」とかいう、奇妙な三角形の物体2つと茶色の物体1つ、それに横に薄切りにした黄色い野菜のような何かを付けたものだ。それが、竹の皮と思しき茶色い包みに入って出てきた(ロデニウス大陸にも竹はある)。それと、ギュウカンとかいうもの。これは、金属製らしい円筒形の小さな容器に入っていて、見た目は何かのソースを付けた肉のようだ。容器には「大和煮」という文字が書いてあった。何と読むのかよくわからない。

 一瞬、毒入りかとも思った。兵士たちの中には、そう考える者もいたようで、なかなか出されたものに手をつけようとしない。

 だが、先ほどの女性から説明を受けていた私は、これが食事だと理解した。意を決して、白いニギリメシを1つ口に運ぶ。旨い。塩で味付けされているらしく、表面は海水と似たような味がするが、それがこの白い物体の独特の甘味と混ざって、この旨さを出している。茶色のほうも思ったより大きく、そして美味だった。

 ニギリメシの隣にあった黄色い薄切りは、噛むとカリカリという音を立て、奇妙な食感を与えてきた。野菜の保存食らしいが、どんな野菜なのかさっぱりわからない。だが、微妙な酸味と甘味のバランスが取れた、旨いものだった。

 そして、ギュウカンとやらいうものは、肉だということははっきりわかったが、何の肉かはわからなかった。食感からすると牛肉らしいのだが、ソースが濃すぎて、肉そのものの味を消しているのだ。何か、複数種類の材料をまぜこぜにしたような、甘辛い妙なソースだった。

 

 私が物も言わずに食べているのを見て、兵士たちもようやくそれらを口に運びはじめた。最初は恐る恐る、一口食べてからはがっつくように。誰もが無言で食事をしていた。

 

 食事もあっという間に終わり、それからしばらく船に揺られて、もともとの攻略目標だった経済都市マイハークを通りすぎ、太陽がそろそろ傾きかけた頃、我々は船から下りるよう指示された。どうやら、クワ・トイネ公国の北東部まで連れてこられたらしい。ずいぶん遠くまで連れてこられたように思う。

 そこには、新たな街ができていた。船員たちの話では、この街の名は「クワ・タウイ」というらしい。我々はそこの強制収容所に、階級の区別なく収容された。

 

 この強制収容所は、ロウリア王国のそれとは全く異なっていた。

 ロウリア王国で強制収容所といったら、小屋があるかどうかすら怪しい。ひどい場合には、柵で囲っただけの野ざらしの空間、なんてこともあったほどだ。

 しかし、この強制収容所は違う。しっかりとした屋根のついた建物があり、船の中でよく見るような網のものとはいえ寝床が1人1人にあるし、布団もちゃんとついているし、食事もシンプルだがきちんと出てくる。今日はコメとかいう白い穀物に、ミソと称する奇妙な黄土色の物質を溶かした汁物、そして野菜と肉という付け合わせだ。しかし、このシンプルな組み合わせでも十分旨い。さすが農業立国クワ・トイネというべきか。

 

 ちなみに、怪我を負っていた者たちも、怪我をした部分に奇妙な白い布を巻かれたり、腕を白い布で吊ったりした状態で収容されていた。彼らに話を聞くと、あの時艦内へ連れて行かれて治療してもらった、とのことだった。どうやら、怪我人であっても助けようと努力したようだ。なんと人道的なのだろうか。

 

 

 中央暦1639年4月22日

 昨日は、日が沈みかけた頃の到着だった上に、到着してすぐ部屋割りだの何だのがあったため、外の様子を眺める暇がなかった。だが、今日はまだゆっくり、外を眺める暇があった。私は、部屋の窓から外を見て、唖然とした。

 奇妙な銀色の線を杭の間に張って、柵としている収容所の外には、継ぎ目の見当たらない道が敷かれ、多数の機械らしきものが走っていたのだ。それを引く馬も見当たらないのに、馬より圧倒的に速い速度で道を走っていく。

 建物も、レンガ作りのものではなく、白い見たことのない材質で作られた建物ばかりだ。レンガ作りの建物もあるにはあるが、ロウリア王国のそれより洗練されたデザインになっている。

 ロウリア王国が技術的に劣っているのは、火を見るより明らかだった。

 

 

 中央暦1639年4月25日

 この日、捕虜となった我々は、1人ずつ初めての尋問を受けた。中には、殺されるのかとビクビクしている兵士もいたが、私は命は取られることはない、安心しろと言ってやった。本当は私も怯えていたのだが。

 私の順番は最後のほうになったようだ。名前を呼ばれ、とある一室に案内される。するとそこには、まだ若いヒト族の男性が1人と、ヒト族の女性……かなり長身の美人だったと記憶している……がいた。その女性が、何やら湯気の立つ赤色の飲み物をカップに注いでいるところだった。

 案内されるがままテーブルに腰掛け、コウチャとかいうその赤色の飲み物を勧められる。飲んでみると、いい香りとともに経験したことのない不思議な味が口内に満ちる。心が休まる感じがする。

 ふと前を見ると、その若い男性も美味しそうに同じ飲み物を飲んでいる。コウチャで心を休めたところで、話が始まった。彼は、自分はサカイシュウイチという者だと名乗り、クワ・トイネ公国海軍の「タウイタウイ部隊」と呼ばれる軍を指揮していると話した。また、亡くなられた私の部下たちに対し、哀悼の意を捧げますとまで話した。真心がこもっているのがありありと分かる話し方だったのを、今でも覚えている。

 その後は、ロウリア王国のことに関していくつか簡単な質問をされた。ロウリア王国の歴史を、知っている限りでいいから教えてほしい、と言われた時には驚いたものだ。どうやら、このサカイという男は歴史が好きらしい。結局、第1回目の尋問はほぼ歴史談義で終わった。

 

 この収容所は監視は厳しいが、捕虜である我々に対する扱いは極めて人道的だ。サカイ殿の話によれば、文明開化を目指すとなると捕虜の扱い1つとっても紳士的であるべきだ、ということらしい。クワ・トイネの亜人どもは、決して国王陛下の言うような蛮族というわけではないのだ、ということがよく分かった。

 

 

 中央暦1639年5月2日

 今日も、いつもと変わらず尋問と作業が続いている。今日は、収容所内の畑の草むしりだ。

 この収容所では、一部の食料を自分で育てており、その世話も収容された者の作業の1つなのだそうだ。ついでにいうと、この作業は4月27日からだいたい毎日、内容を変えて続いている。これまでには、収容所内の掃除とか皿洗いといった作業を経験している。

 

 

 中央暦1639年5月4日

 捕虜となった我々に、シンブンとかいうものが渡された。どうやら、外の情報について教えてくれるらしい。丁寧なことに、大陸共通語で書いてあったので、読むのは容易だった。

 なので読んでみて、目を疑った。クワ・トイネ公国軍はすでに国境を突破してロウリア王国内に侵入し、ロウリア陸軍を破りつつ奥深くまで侵攻中。さらに、別動隊がロウリア西部の港湾都市ピカイアに上陸作戦を決行し、みごと成功させたという内容の記事が載っていた。

 あちこちで集団になってシンブンを読む兵士たち、みなその肩が震えている。私もそうだった。ロウリア王国は、ひょっとしてとんでもない相手にケンカを売ったのではないか? そんな考えが、日に日に高まっていった。

 また、今日も尋問があり、そこでこの世界の周辺国について聞かれた。私は、この近辺にある列強国、パーパルディア皇国の話をしてやった。すると、尋問にあたった職員は興味を持ったらしく、いろいろなことを聞かれたので、私は海軍のことについて、知っている限り話した。

 パーパルディア皇国の「砲艦」という、船そのものを破壊できる船、それに積まれた大砲「魔導砲」。また、竜母という海の上でワイバーンを飛ばすための船。そして、そのワイバーンですら改良されていること。

 職員はそれらを、メモを取りながら熱心に聞いていた。なぜそんな情報を欲しがったのだろう?

 

 

 中央暦1639年5月8日

 最新のシンブンが渡され、ついにロウリア王国が敗戦したということが我々にも知れ渡った。兵士たちの中には衝撃を受けている者もいたが、私は「ああ、やはりそうなったか」という感情を抱いた。

 シンブンを読む限り、クワ・トイネ公国軍は兵士の数は少ないながらも圧倒的に強力な武装と全身を鎧で覆った怪物(収容所の職員がいうには、これは戦車という機械であって生物ではないそうだ)を使い、強烈な爆裂魔法を何発も撃ち込んで、ロウリア陸軍を悉く打ち破っていったそうだ。

 さらに、空から飛竜(本当はコウクウキという飛行機械らしい)による攻撃をかけたそうだ。飛行機械といえば、第二文明圏の列強ムーがそんなものを持っている、と聞いたことがある。ということは、少なくともクワ・トイネ公国にはムーの息がかかっているということになる。それなら、ロウリア王国の大敗も頷ける。

 ところが、ここで働く職員の1人に「この飛行機械はどこから買ったのか?」と聞いたら、「信じないかもしれないが、あれは自国で作ったものです。どこかから買ったのではありません」と言われてしまった。ということは、クワ・トイネ公国にはムーに匹敵しうる技術があったということになる。これでは、ロウリア王国に勝ち目はないわけだ。

 その日我々は、祖国であるロウリア王国に帰る手続きを行う予定である、と告げられた。国へ帰れるのだ。多くの者が純粋に喜んでいた。

 

 

 中央暦1639年5月9日

 収容所に新たな囚人たちが連れられてきた。大抵は怪我人だったが……その中に国王陛下が混じっていた。国王陛下がここに来たことで、いよいよロウリア王国は負けたのだ、ということが我々にもよく分かった。

 また、明日から元々収容されていた者たちの帰国が開始される、と告げられ、帰国第一陣のメンバーが発表された。そして、他の者もいずれ帰国することになること、全員今晩のうちに荷物をまとめておくこと、という指示を伝えられた。尤も、荷物なんて衣服の他はほとんどないのだが。

 

 

 中央暦1639年5月15日

 ついに、私も祖国へ帰ることになった。

 私は今、クワ・トイネの首都へ向かうキシャという乗り物の中でこの手記を書いている。ロウリア王国には、こんな乗り物はない。そして、このキシャはロウリア王国のどんな乗り物よりも、速く走ることができるようだ。つくづく技術の差を痛感させられる。

 キシャは、かなりの高速で走れる代わりにセンロという特別な道路の上でしか走れないそうだ。そして、そのセンロがまだクワ・トイネまでしか引かれていないため、クワ・トイネからはクルマという乗り物に乗り換えて移動すると知らされた。そういえばムーにもそんなものがあったような気がする。コウクウキの話と照らし合わせると、信じ難いがクワ・トイネ公国はムーと同レベルの技術があるようだ。

 

 

 中央暦1639年5月20日

 懐かしいジン・ハークへ、私はついに帰ってきた。周囲は荒れていて、戦いの跡がまだはっきりと残っていた。

 王都北側の城門が3つとも破壊されているのには心底驚いた。どうやらクワ・トイネ公国軍の攻撃による被害らしい。どこまでも驚かされるばかりである。

 ジン・ハークでは、王国軍の総司令官パタジン将軍が、必死に事後処理にあたっていた。彼は、帰ってきた私を見て、とても驚くと同時に喜んでくれた。どうやら、私はあのロデニウス沖海戦で死んだものと思われていたらしい。だが、私の後輩だったホエイルは、ピカイアで戦死したそうだ。悲しいが、これが戦争である。

 だいたいロウリア王国軍の武装解除は進んだようだが、かつてのロウリア王国の3つの属領が不穏な動きを見せているらしい。また、国内も混乱しており、彼はそれの回復に全力を注いでいた。それに加えて、パーパルディア皇国からの借金のことも考えなければいけないので、彼はすっかり(しょう)(すい)しきっているのが見てとれた。私も何かしら手伝いたいと思う。

 また、王都周辺にはクワ・トイネ公国軍の一部が残っていた。治安維持のためだそうだが、彼らは皆、見たことのない武器を持っていた。パタジンによれば、パーパルディアの銃のような武器で、少なくとも300メートル先から我が軍の歩兵を撃ち倒せるものらしい。恐ろしいものである。

 

 

 中央暦1639年6月12日

 パーパルディア皇国からの借金返済の督促状に、パタジン将軍が頭を抱え込んだ。だが、それは私も同じだ。敗戦による混乱があり、経済の立て直しを図らなければならない。その中で借金を返すなど無理だ。しかも我がロウリア王国の国家予算数十年分に匹敵する巨額の借金である。

 これでどうやって戦えばいいんだ!? と言いたい。

 パタジン将軍は、ついに恥もプライドも投げ捨てて、敵だったクワ・トイネ公国……いや、今はクワ・トイネ王国か……に支援を得に行った。どうなることやら……。

 さて、日記はこのくらいにして仕事にかからねば。全く、食事の暇も日記を書く暇も惜しいくらいに大量の仕事だ。

 

 

 中央暦1639年6月18日

 パタジン将軍が帰ってきたが……何やらやたらとニコニコしている。以前の沈んだ顔はどこへ行ったのかと思うほどの表情の変化ぶりだ。

 何があったのか聞いてみると、堺殿から借金踏み倒しの策を授かったのだそうだ。それによると、ロデニウス大陸にある国を全部連合して、1つの国家に纏めてしまう、ということらしい。そうした上で、今までの各国を「シュウ」という区分にすればいいらしい。そうすれば、パーパルディアは「ロウリア王国と」借金契約をしたのであって「ロウリアシュウと」契約したのではない、という形で踏み倒せるそうだ。

 それを聞いて私は、なんと計算高い策略だろうかと思った。堺殿はまだ若いが、かなり頭が回るようだ。

 さらにパタジン将軍は、クワ・トイネ軍にはあのパーパルディア軍を倒す力があり、もし連合するのであればその武器を我が国に渡した上で、それを扱えるように兵士を訓練してくれる、とも話した。これはおそらくホラではないだろう。何せクワ・トイネ王国は、コウクウキだの車だの、ムーと似たようなものを持っていた国なのだ。

 私は、一も二もなくこの連合案に賛成すると意見を述べておいた。あとは、パタジン将軍がどんな決断をするかだ。

 

 

 中央暦1639年6月22日

 パタジン将軍は、連合案に賛成する意向をクワ・トイネに伝えた。私もこれには大いに賛成だ。

 また、私は関与できないがロウリア王国とクワ・トイネ王国の講和条約についても話が進んでいるようだ。

 ま、そのあたりは外交屋に任せて私は海軍の立て直しに力を注ぐとしよう。

 

 

 中央暦1639年7月1日

 最終的に、ロウリア王国どころかロデニウス大陸の全ての国家が連合して、「ロデニウス連合王国」という新国家になった。

 ロウリア王国は「ロウリア州」という扱いになり、もともとのロウリア王国軍は、新たにロデニウス連合王国軍となるそうだ。そして、それについてだが……新生ロデニウス連合王国海軍第4艦隊の総指揮官になって欲しい、とパタジン将軍から頼まれた。

 どうやら彼は、ロウリア州の「知事」として政治に関わる他に、ロデニウス連合王国陸軍第4軍団の指揮官となるらしい。尤も、それだと忙しすぎることになるし、彼は政治は畑違いなので、一通りの後片付けが済んだら知事の座はヤミレイにでも譲って、彼は陸軍指揮官一筋にするつもりのようだ。

 私としても、特にまずいことはないので、私は喜んでこの職を拝命することにした。

 敗戦によって、私は、ロウリア王国海軍は、全てを失った。残ったのは、多額の借金ばかり。

 だが、全てが無駄だったという訳ではないだろう。

 

 これからも、我々が立ち止まらない限り、道は続くはずだ。だから、ここで止まるわけにはいかない……

 

 

 

 この後、シャークンはタウイタウイからの艦艇供与を得たり、戦術の変更に力を注いだりして、パタジンとともにロウリア州を代表する軍人となる。




はい、今回が今年最後の投稿ですね。
来年も、拙作をどうかよろしくお願い申し上げます。

今回もちょっとネタを挟みました。最後のオルガネタとか…

ちなみに、以前に登場させた「伝説のアレ」について、皆様色々と予想していただいて、ありがとうございます。
今のところ、正解といえる予想をしてくださった方はお一人だけですね。どなたとは言いませんが…
ここからさらに情報を少しずつ開示していくので、さらに正解者の方は増えていくかと思います。

それでは、皆様よいお年を!

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