鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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まだまだ続きますよ、四月ばか(エイプリルフール)特別編。



エイプリルフール特別編 承

「それじゃ、行ってくる。留守を頼む」

「分かりました。提督、お気を付けて」

 

 大日本皇国とのファーストコンタクトから1ヶ月後、タウイタウイ泊地。

 火星二二型発動機の爆音が鳴り響く中、堺は"大和(やまと)"に一時の別れを告げた。既に大日本皇国とは国交が仮開設されているが、正式なな国交開設交渉のため大日本皇国の本土へ行くことになったのである。ちなみに随員として"(きり)(しま)"を連れていくことになっている。

 大日本皇国側ではすぐに検討結果が出たらしく、ファーストコンタクトの翌日には向こうから無線電信が来て、国交の仮開設を認めると共に「正式な国交開設手続きのため、皇国本土に来て欲しい」と連絡があった。その後何度かやり取りをして、今回の訪問が決まったのである。

 タウイタウイ島から大日本皇国本土までの距離は300浬(約555.6㎞)。航空機で移動する方が早い。

 それに、堺は実はメディア露出は苦手である。普通に大日本皇国の空港に降り立てば、水田の稲を狙うイナゴの集団のごとく、マスコミと野次馬が殺到してくるのは目に見えている。

 そのため、今回はせっかくの機会だからと「二式大艇」を使い、護衛として2機の「二式水戦改」を繰り出すことになった。メディアの目をなるべく掻い潜る作戦である。

 2人が乗り込んだ「二式大艇」は、やがて海面を滑り出し、護衛機と共に空へと舞い上がった。「二式水戦改」の巡航速度である時速400㎞で飛行する、1時間ちょっとの空の旅である。

 

 出発から1時間後、先導役を担う大日本皇国軍の飛行艇と合流した一行は、日本本土上空に進入した。ところが、着水地点である(かすみ)()(うら)へ向かうルートとして、先導役が「帝都・東京の上空を突っ切る」ルートを選択したから大変である。

 

「うわぁ……」

 

 東京の街並みを見下ろし、堺は驚嘆の声を禁じ得なかった。

 高層ビルがびっしりと地上を埋め尽くし、その隙間を縫うようにして大量の自動車が走る。さらに、リニア新幹線らしい高速鉄道が走る様子も垣間見えた。こうした光景は、堺にとっても懐かしい物だったのである。

 

「東京か……」

「何もかも皆懐かしい、ですか?」

 

 思わず呟いた堺に、"霧島"がツッコんだ。

 

「何でよりによってそれ持ってきたんだよ……」

「今の司令の心境に一番近いと思ったので」

「それは否定しないけどさ、もうちょっとこう、何かなかったのかよ」

 

 漫才をしていた堺は気付かなかったが、一方の地上でも大変な騒ぎになっていたそうである。何せ二式大艇に二式水上戦闘機と、非常に懐かしい機体が帝都の空を舞ったのだ。当然ながら空を見上げる歩行者が多発し、ネットの掲示板でも飛行する「二式大艇」の写真が貼り付けられて盛り上がっていたそうな。そしてネット掲示板の一部では嘆きの声も出ていた…らしい。

 

 出発から2時間もすると、「二式大艇」は護衛機と共に霞ヶ浦に着水した。大日本皇国に降り立った堺と"霧島"を待っていたのは、外交官の川山と、重装歩兵の槍のごとく向けられた多数のテレビカメラ、そして機関銃の一斉射撃のごとく瞬くフラッシュの嵐である。

 

(何じゃこりゃあぁぁぁぁ!? 何で俺らこんな有名人になってんの!?)

 

 ロデニウス連合王国ではメディア露出もそこそこあった堺だが、ここまで多数の報道陣に押し掛けられたことはない。そのため一瞬たじろいでしまった。"霧島"はというと平気そうな様子…に見えるが、よく見るとどこか落ち着きがない。彼女も緊張していると見える。

 

「堺さん、霧島さん、大日本皇国へようこそ。ご足労いただきありがとうございます。

本日は私、川山 慎太郎がご案内いたします」

「お久しぶりです川山さん。ロデニウス連合王国海軍・第13艦隊司令官、堺 修一と申します。こちらは私の部下の霧島です。今回はよろしくお願いいたします。

ところであの、この束になった報道陣はいったい……」

「ああ、実はタウイタウイ泊地との出会いや閣議決定が報道されてからというもの、我が国ではどこもかしこもこの話題ばかりで……しかも艦娘の方が実在するとまで発表があったので、余計に騒ぎになっているんです」

「そ、そうでしたか……」

 

 ここまでひどくメディアに露出するとは、堺も全く予想していなかったのである。

 

「さ、こちらへどうぞ。まずはこのまま帝都・東京へ向かいます」

 

 自動車に乗せられ、霞ヶ浦を出発。「せっかく来られたので、まずはいろいろな角度から我が国のことを知ってもらいたい」ということで、途中でリニア新幹線に乗り換えて東京へ向かう。

 

「やはりリニアはすごい…速いし、それに静かですね」

「我が国の技術の結晶の1つですからね。開発には苦労することも多くありましたが、威信を賭けて開発したものですよ」

「技術者の皆様の苦労が偲ばれます…。ところで、私さっきからずっと、報道陣のヘリやら何やらに追い回されている気がするのですが……」

「気のせいですよ……と言いたいところですが、些か多いですね」

「あ、やっぱりですか……」

 

 そう、霞ヶ浦からずっと報道陣のヘリコプターや車が追いかけてきているのである。この様子では、おそらく東京駅では膨大な数のカメラとマイクが待ち構えているだろう。

 

(メディア露出ってあんま好きじゃないんだがな…気が重い……)

 

 と堺が考えていると、それを見透かしたのか川山がこんなことを言い出した。

 

「とりあえず、東京駅に着いたら撒きます」

「撒く? マスコミをですか?」

「はい」

 

 どうやら駅のバックヤードを利用して替え玉を作り上げ、そちらにメディアの注意を引き付けるということらしい。堺にとってはありがたい話であった。

 お忍びという形で臨んだ東京観光は、結構充実していた。浅草寺や日比谷公園は驚いたことに、西暦2199年の地球と大きくは変わらない姿だったし、新宿や秋葉原の繁栄ぶりも変わっていない。とうきょうスカイツリーは「東京インペリアルタワー」なる名称に変わり、さらに高さも最大750メートルとより大きくなっており、展望台から見る景色には圧倒された。

 そして最後に訪れたのが、国会議事堂。「臨時一般見学」名目で入らせてもらったのだが、ちょうど衆議院で法案か何かの審議中だった。そして、野党と思われる議員たちの質問やら雑言やらを的確に捌き、逆質問によって追い込んでいく首相の姿を見ることができた。

 

「相変わらずだな、健太郎の奴……」

「え、アレが日常茶飯事だというのですか?」

「日常…かどうかまでは分かりませんが、まあよくある光景ですよ」

「えぇ……」

 

 あんなところに放り込まれたら、メンタルの皮がどれだけ分厚くても足りないだろう…そう思う堺であった。

 

 議事堂見学後、案内役が川山から神谷にバトンタッチした。そして向かうのは「神室町」という場所である。

 

「東京にそんな地名があるなんて、前世界では聞いたことがないんですが……どのような場所なんですか?」

「まあ平たく言うと、ウチの会社と国が好き勝手やってる実験都市、ですかね」

(??)

 

 国が造った都市らしいが、それ自体はまだ分かる。だが「ウチの会社」とはどういうことか。

 

「どういうことですか? それに『ウチの会社』とは……?」

「それはですね……」

 

 神谷の説明によれば、この町の建設計画を主導したのは神谷の兄が経営する会社だとのことである。さらに、その会社の親会社が神谷の父の企業であり、そのため神室町の施設の大半が神谷一族の手になるものなのだとか。

 普通に考えれば独占禁止法辺りに引っかかりそうなものであるが、ここで都市開発などに関する様々な実験を行い、得られたデータを他の企業に共有する形を取って調整しているのだそうである。

 そんな話をしているうちに、リニア新幹線の窓から妙なものが海上に浮かんでいるのが見えてきた。蜂の巣を思わせる六角形のフレームが無数に入った、ガラス製と思しき巨大なドームである。

 

「あれですか?」

「そう、あれが神室町です」

「ひえぇ…想像以上にすごい規模だ…」

 

 ガラスに覆われて詳細は判然としないが、かなりの数の高層ビルが建ち並んでいる様子がはっきりと分かる。"霧島"も眼鏡の位置を調整しながら目を見張っていた。ちなみに堺は、"霧島"の行動が眼鏡に仕込んだビデオカメラを起動し録画するためのものだと見抜いている。

 

(どこぞのゲームでこんな都市見たことあるな……○ンガロアだったっけか?)

 

 そして到着した神室町は、何というか全体的にいろいろぶっ飛んでいた。中でも驚いたのは、町内で最も高いマンションだと思われた建物が神谷の家だということである。

 

「えーと神谷さん、私たちが5日間お世話になるのって、神谷さんのご自宅でしたよね?」

「はい」

「つまりあそこに泊まると?」

「そうですね」

「えぇ……」

 

 建物だけでこの始末である、おそらく内装はもっとすごいことになっているに違いない。それに神谷は「さすがに建物が大きいので、使用人を大量に雇っている」と言っていた。一庶民に過ぎない堺には全く想像もできない状態である。

 そして案の定、建物の中は大変なことになっていた。堺と"霧島"が泊まるVIP用ゲストルームだけでも、下手なホテルの一等客室より豪華と来たのである。

 

(す、住む世界が違う……!)

 

 それが、偽らざる堺の感想であった。

 

 

 以下は、堺の日記からの抜粋である。

 

《大日本皇国・訪問2日目》

 未だに夢を見ているような気がする。こんな豪華な内装の部屋に泊まれるなど、考えたことすらもなかったからだ。しかも食事も、下手な一流レストランすら足元にも及ばないという凄まじいものである。果たして自分のような一平民が、こんな代物を口にして良いものなのだろうか?

 今日は大日本皇国の実力の一端を知るべく『大日本皇国軍の装備・訓練等見学』である。正式に国交を開設するには、相手がどんな力を持っているか知る必要がある。古来より「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」というではないか。

 海軍の実力は先日のファーストコンタクトでその一端を知ったが、陸軍や空軍の実力は未知数だ。どのくらいの力があるのか、しっかりと確かめておく必要がある。

 

 結論から先に言わせてもらうならば、「もし敵対した場合、タウイタウイ泊地は1日と経たずに陥落する」である。大日本皇国軍の力は桁外れのものがある。

 大日本皇国軍は、陸海空軍の他に「海軍陸戦隊」という海兵隊に相当する組織と、「特殊戦術打撃隊」なる特殊部隊を有する。どの軍も兵士の練度は高いと見られ、また装備もロデニウス連合王国のそれと比べて遥かに優越しているのは間違いない。機関銃や戦車、戦闘機など、一瞥しただけではっきり分かるほどの技術力の差がある。これに対抗できる可能性があるのは、かつて地球にいた頃に運用されていた「89式7.7㎜自動小銃」と、極秘戦力として運用している「独立第一飛行隊」のUFOシリーズと「特殊戦闘機」くらいだろう。

 特筆すべきは、特殊戦術打撃隊の装備や練度と、彼らの中でも特に優れた技量を有すると思われる、神谷総司令直轄の部隊「白亜衆」である。軍艦にヘリボーンしてそのまま制圧してしまう部隊や、空中にあって100機以上の無人航空機を運用し、自身も強力なレーザー兵器と電磁バリアらしき防御機構を有する全翼型空中母艦、口径1,200㎜かつ砲身長80口径以上という、いったい何と戦うつもりなのかと思わされる超巨大砲、まさかの2足歩行型機甲兵器……どう計算しても、タウイタウイ泊地で有する部隊・装備では歯が立たない。正面から戦うのは手の込んだ自殺である。

 ただ幸いなことに、先方にこちらと敵対する意図は全くない。むしろ艦娘を従える身として、かなり注目され、好意的な視線を向けられている。そのことを踏まえれば、正式に国交を開設するか、もしくは大日本皇国領の一部に編入という策を取るべきであると考える。

 

 

 大日本皇国訪問3日目、大日本皇国 帝都東京 外務省。

 

「し、心臓が未だに興奮してる……」

 

 堺の呟きも無理はない。というのも、今日からいよいよ外交交渉(正式な国交開設手続き)に入るのだが、その前にやっておくべきことがあるということで、朝っぱらから天皇陛下に謁見したのだ。その名残が尾を引いているのである。

 

「まあ堺さん、霧島さん、お疲れ様でした。

こちらをどうぞ」

 

 そう言って緑茶を差し出すのは外交官の川山。タウイタウイ側とファーストコンタクトを取った彼が、そのまま外交を担当することになったのである。

 

「ありがとうございます……正直な話、非常に緊張しました。こんなことを言うのも何ですが、私からすれば雲上人に会うようなものでしたので」

「私もですね。正直なところ、司令より高い身分の方にお会いする機会なんてそうそうありませんので…」

「はは、まあ無理からぬことです。あの方に謁見するとなると私も緊張しますし。

さて、2日間我が国を見てきていただいた訳ですが、感想はどうでしょうか?」

「では、私から。泊地を預かる者として、また1国の代表として言わせていただくならば、貴国とは是非とも仲良くしたい、というのが正直な感想です。仮に敵対したとしまして、何もできずに1日で占領される未来が目に見えました。ですので、このまま国交を開設できるならそれに越したことはない、というのが私の意見ですね。霧島も同じ結論に達しています」

 

 まあ実際、レシプロ機で超音速戦闘機を相手取ったり、第二次世界大戦レベルの軍艦で大日本皇国海軍の艦隊を相手取るなんて、どだい無理な話である。

 

「ですが、ファーストコンタクトの時にお話した通り、周辺国にあえて旧式の技術を供与したり訓練を行ったりする、ということであれば我々の方が向いております。私としては、各々の長所を生かして交流していくのが最善ではないかと思っております」

 

 堺が話を終えると、川山は1つ頷いて口を開いた。

 

「私としても堺さんには同意します。さすがに今からレシプロ機や火縄銃の作り方を復習するなんて、金銭的にも技術的にも難しい部分がありますからね。

また、貴国…というのも少し妙な表現ですが、貴国には我が国にない技術もある。特に丸められるスマホには衝撃を受けました。

そういった点を総合して考えた結果、貴国とは国交を正式に開設して互いに協力し合いながら、双方揃っての発展を目指すのが良い、との結論が我が国上層部では出ております。一色総理や陛下のご聖断も仰ぐことができました」

 

 どうやら意見は一致したらしい。

 

「なるほど、そうでしたか…意見が一致したようで何よりです。

あとすみません、これはタウイタウイ泊地の一部で出た意見なのですが……」

「どんなご意見でしょうか?」

「簡単にいえば、同じ日本をルーツに持つ者同士ということで、泊地を住人ごと貴国に編入し、ロデニウス連合王国ではなく大日本皇国の領土の一部になる、という意見なんです」

「ほう、編入ですか…これはまたスケールの大きい話ですね」

 

 堺が出したこの意見を聞いて、川山は軽く考える素振りを見せた。

 

「我が国への編入となりますと、私の一存で決めることはできませんね。健太郎…一色総理の判断や、天皇陛下のご聖断が必要になることは確実です。

検討のため、そのご意見は一旦持ち帰りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「構いませんよ。ただまあ、私としては編入という方法には1つ、明確なデメリットがあると考えております」

「どんなことでしょうか?」

「簡単に言えば、軍の運用に関わる物ですね。ご存知の通りタウイタウイ泊地は、艦娘を主戦力としており、また技術レベルは貴国に大きく劣ります。そんな部隊は、貴国からすると扱いづらいでしょう。何せ性質が全く違うのですから」

「ふむ、私は基本的に軍事は専門外ですが、仰りたいことの意味は分かりました。それも含めて浩三…神谷総司令官なども交え、一度相談してみようと思います」

「分かりました、よろしくお願いいたします」

 

 これで外交会談は一旦終了である。

 ちなみに堺と"霧島"は、外務省を出てすぐに一度神室町に戻り、軽く旅仕度を整えるとリニア新幹線に乗り込んだ。目指すは神奈川県横須賀市。その目的は、横須賀鎮守府と大日本皇国海軍第1主力艦隊の見学である。

 

《同日付の堺の日記より抜粋》

 予想していたことではあるが、大日本皇国海軍の実力もまた桁外れであった。かのラヴァーナル帝国を以てしても、この国には全く歯が立たないだろうと断言する。

 特に、超大型戦艦『日ノ本』の性能は瞠目するしかない。戦艦でありながら正規空母としての能力を持ち、さらに強襲揚陸艦、そして潜水艦にまでなれるとは、いったいどれだけ多機能化しているのかと言わざるを得ない。……少々欲張りすぎている感は否めないが。

 我がタウイタウイ泊地の戦力では、到底勝てるものではない。総合すると、もしタウイタウイ泊地と大日本皇国が敵対した場合、1万分の9999まで負けるだろう。全く勝てないとは言わないが、その勝ち筋は奇跡にも等しいものである。

 従って、大日本皇国とは絶対に敵対してはならない。たとえ編入ということになってでも、生き残る途を取るべきであると強く確信する。

 

 

 大日本皇国訪問4日目、大日本皇国帝都 東京 外務省。

 

「朝早くからお呼び立てしてすみません」

「いえいえこちらこそ。川山さんから呼び出しがあったということは、結論が出たということでしょう。難しい案件にも関わらず早期に対応していただき、ありがとうございます」

 

 朝っぱらから第2回会談が持たれることとなった。

 

「さて、本題に入りましょう。まずは、昨日堺さんが提案してきた『タウイタウイ島の大日本皇国領への編入案』についての、我が国での検討結果からお伝えします」

 

 川山が切り出す。堺と"霧島"は身を乗り出すようにして聴く。

 

「結論から申し上げますと、我々大日本皇国としては、タウイタウイ島の自国領への編入を受け入れることはできないと判断しました。理由はいくつか挙げられます。

第一に、昨日堺さんが言及していましたが、軍の指揮系統に関する話ですね。我が軍と堺さんのところの部隊では、技術レベルに明らかな差があります。それを自国領に編入するとなれば、艦娘たちや妖精たちは必然的に我が軍の指揮下に置かれることになる訳ですが、戦力の性質上動かしにくい部分があるんです。部隊の行軍速度に差が出たりする訳ですからね」

 

 これについては、堺が昨日指摘した通りである。

 

「第二に、行政上の処理が面倒だという点です。一色総理とも相談したのですが、自国領に編入するとなると新たに住所を割り振ったり、戸籍調査を行う必要が出てくるなど、事務的な処理が面倒なんですよ、率直に申し上げまして。そういったこまごました手続きや調査にかかる人的・時間的・金銭的コストを計算した結果、割に合わないと判断されました。これが2点目の理由です」

 

 この話を聴いて、堺は考えた。

 

(言われてみればその通りだ。タウイタウイ島ってどこの県に編入されるんだ? 小笠原よろしく東京都か? それとも神奈川、あるいは静岡辺りか? まずその辺の検討が大変なんだろうな。

で、編入先の県が決まったとして今度は「何市に編入するのか」という問題がありそうだな。その辺決めるのも、調整とかで苦労するんだろうな)

 

 堺には行政のことはあまり分からないが、これくらいは想像できた。

 まとめてしまえば、タウイタウイ島は大日本皇国にとって、扱いに困る存在なのだろう。ならばいっそ独立国として認める方が、ある意味楽なのだろう。

 

「そして第三に、世論です」

「世論、ですか?」

 

 川山が挙げた3つめの理由に、堺は首を傾げた。

 帝政を名乗ってこそいるが、国会が運営されている辺り、大日本皇国は民主主義の考え方がある程度根付いていることは間違いない。おそらく民意を政治に反映させるシステムが整っているのだろう。

 そこまでは察せられるが、さて世論とはいったいどうしたことか。外交を左右し得るほど民間の声が強いのだろうか?

 

「それはどういうことでしょう?」

 

 堺が尋ねると、川山は眉をハの字にした。何やら反応に困る物だったらしい。

 頭をバリバリと掻き、川山が口を開く。

 

「実はですね、あなた方の存在が国内で報じられて以降、ネットや有識者たちの間では、国家としてのあなた方の所属をどうするべきか、という議論が行われてきました。そんな中で、一般市民の中でも特定の分野に通暁した者たち……はっきり言えばオタクたちが声を上げたのです。『無理に自国領に編入して艦娘たちの信頼を損ねるくらいなら、一線引いた位置から見守るくらいの関係の方がまだマシだ』と。

その意見が一度出回るや、他の一般市民や有識者も多数この意見に賛同するようになりました。このたった数日間の間に延べ数十万人もの署名が集められ、外務大臣の頭に叩きつけられたほどなのです。あ、ちなみに本当に外務大臣が秘書官に署名書類で頭を叩かれたんですよ。比喩ではなく実話です。外務省にもオタクは少なからずおりますもので……」

「ええ……」

 

 現実的に考えてとんでもない光景である、これにはさすがに堺も引いた。それと同時に、オタクたちの熱意に改めて畏敬の念を抱く。

 まさか民意がこんな重要な案件の方向性を決めてしまうとは思わなかった。

 

(こういう姿勢は、地球の日本国にも見習って欲しいものだな)

 

 そう考えつつ、堺は説明の続きを聴く。

 

「それに加えて、艦娘たちが暮らしに困る事態は見過ごせないと、クラウドファンディングや街頭募金によってタウイタウイ泊地の存続を支援する活動まで始まっているのです。私が把握しているクラウドファンディングだけでも、この会談の直前の時点で200万円くらい集まっていましたよ。これに街頭募金が加わりますから、おそらく相当な額に昇るでしょう」

「ええぇ……」

「わ、私たちの生活を支援してくださるのは、素直にありがたいのですが…行動力がすごいですね」

「ははは……まあ、良くも悪くも行動的なんですよ、我が国の民は」

 

 こうなってくると、大日本皇国へのタウイタウイ島の編入は(かえ)ってまずいだろう。それこそ大日本皇国の人々の好意を無下にすることになってしまう。

 

「以上3点から、我々としてはタウイタウイ島の編入案は辞退させていただきたく思います」

「分かりました。そんな話を聴かされては、泊地の代表者である私としても、編入案は取り下げます。仮交渉の時のように、タウイタウイ島と大日本皇国は互いに独立国として国交を開くことにしましょう」

「そうですね。そうなると、そちらの国号はどうされますか?」

 

 この川山の質問には、堺は既に答えを決めていた。

 

「日本国に戻すことにしますよ。そもそもロデニウス大陸からだいぶ離れてしまったようですし、仮に近くにあったとしても政体や国家体系がまるで違うようですから、今さらロデニウス連合王国を名乗る訳にもいきませんので」

「分かりました。ではこちらも、あなた方のことは『日本国の国民』として接することにいたします」

「ありがとうございます」

 

 その後、午前中いっぱい使って様々なことが話し合われ、最終的に以下のような内容が決まった。

 

・タウイタウイ島は「日本国」と国号を改める。領土はタウイタウイ島のみ、国家主席を堺とし、人口200人プラスアルファ程度の規模の小国家という扱いとなる。

・大日本皇国と日本国は、互いを独立国と認め、国交を正式に開設する。

・日本国の海軍・陸軍は、指揮系統の独立性が保証される。ただし、大日本皇国からの要請に応じて、一時的に指揮権を大日本皇国軍総司令部に委譲し、総司令官神谷浩三大将直属の遊撃部隊として行動することは起こり得るものとする。

・大日本皇国は日本国に対して、食糧、資源、資金等の提供による支援を行う。日本国はその見返りとして、大日本皇国における一部の技術開発や、諸外国に対する大日本皇国からの技術供与・指導を支援する。

・大日本皇国から日本国への観光・交流目的での渡航は、これを許可する。ただし、大日本皇国から見て日本国は外国扱いとなること、日本国は島そのものが軍事拠点となっていることから、大日本皇国人の入国の際は、日本国からの指示を厳守した上で観光・交流を楽しんでもらうこととする。

 

 

 午前中の交渉が終わった後、午後になっても堺と"霧島"は忙しくしていた。その理由はというと、

 

「第二、第四、第六一駆逐隊からのリクエスト、全て買い込みました!」

「OKだ、こっちは工廠組からの注文の交渉にまだ少しかかる! 三戦隊、四戦隊、それに(いっ)(こう)(せん)の分を頼む!」

「了解しました!」

 

 艦娘たちから要求された「大日本皇国訪問のお土産」である。1人1人の注文量はそんなに多いわけではないのだが、"ちりも積もれば山となる"とはまさにこのこと。加えて、"明石(あかし)"や"(くし)()"といった「工廠組」や一部のオタク艦娘からはゲーム機のような電化製品を要求されたため、これの輸出交渉やら何やらでドタバタ状態であった。

 2人は膨大な数の注文を前に、あちこちの店をハシゴして走り回る羽目になった。堺曰く、「なんで天皇陛下への謁見やら外交交渉やらよりこっちのほうが疲れるんだ……」とのことである。

 ありったけの資金を総動員して莫大な数の買い物やら輸出手続きやらを済ませた2人は、夜が明けて5日目の朝にヘロヘロになった状態で「二式大艇」に乗り込み、タウイタウイ島への帰還の途につくのだった。




ここでやっと半分くらいでしょうか。
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