鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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四月ばか(エイプリルフール)特別編は、これで最後になります。


エイプリルフール特別編 結

 そしてついに、その日を迎えた。「軍観閲式」本番。

 開会式前の会場の最終確認(というのは名目で、実のところは天皇陛下の散策)のため、天皇陛下、神谷他の大日本皇国上層部メンバーと会場を巡回していた堺。出店の並ぶ一角で、天皇が「ほう、あれは面白そうな店だ」と反応した。その店の看板に書かれていたのは…

 

「『甘味くじ』ですか。って、これうちの子たちの店じゃないか……」

 

 タウイタウイ側の出店の1つ「甘味くじ」である。1回500円でガラガラくじを回し、出た玉の色に応じて、景品として艦娘手作りのスイーツが当たる、という代物だ。看板では「外れ無し」を謳っている。

 

「ええと、景品は…うわぁ、バニラアイスだけは当てたくないな」

 

 景品は以下の通りである。

 

・"Commandant(コマンダン) Teste(テスト)"お手製 マカロン12個セット

・"Warspite(ウォースパイト)"秘伝のレシピ アップルパイ1枚

・「不死鳥」のように昔からあるパンだよ バランカ(リングドーナツのような形のパン)5個セット

・"Italia(イタリア)"手作り マリトッツォ1個

・"Iowa(アイオワ)"のバニラアイス1個(バケツサイズ)

・"Graf(グラーフ) Zeppelin(ツェッペリン)"の熟練技が光る! バウムクーヘン1個

・艦娘たちにも大人気 "()(みや)"の(よう)(かん)1本

 

 どうやら羊羮が事実上の一等賞らしい。

 ちなみに堺は少食なので、もしバニラアイスが当たってしまうと大変なことになるのである。

 

「いらっしゃいませー…あっ、しれぇ!」

 

 店番をしていた"(ゆき)(かぜ)"が、堺に気付いて手を振る。

 

「おう雪風。もうやり始めてんのか?」

「はい! 1つ引いていきますか?」

 

 すると天皇が、「では私もやらせてもらおう」と言い出した。

 

「おい浩三、どうする? せっかくだしやってくか?」

「それじゃそうしようかな」

 

 ということで、同行していた神谷、川山、一色、それに神谷の秘書官たる向上(ちなみに彼の階級は大佐になっている)もくじを引くことになった。

 最初に引くのは天皇。回るくじマシンから吐き出された玉の色は……金。

 

カランカランカラーン!

「おめでとうございます! J賞、間宮の羊羮1本プレゼントです!」

 

 なんと、事実上の一等賞がいきなり当たった。

 間宮の羊羮といえば、一流の和菓子屋でもお目にかかれないような高級品である。

 

「陛下がいきなり当てた…?」

 

 目を丸くする一色。

 

「よし、そうとなれば俺も…!」

 

 意気込んでくじマシンに手をかけた神谷だが、出てきた玉の色は白だった。

 

「お待たせー。A賞の、アイオワさんのバニラアイスだよー」

 

 そう言って"(とき)()(かぜ)"が出してきたのは、

 

ドスン!

「……ゑ?」

 

 「修復」と書かれた緑色の円筒形の容器…どこからどう見ても、高速修復材のバケツだった。バケツいっぱいにアイスが入っている。

 

「ハハハ、おい浩三、何固まってんだよ」

「いや、これどうやって食べろと……?」

「そのまま食えばいいだろ」

 

 そう言いながら神谷を押しのけて、一色がマシンを回す。出てきたのは黒い玉。

 

「こちらD賞の賞品、グラーフさんのバウムクーヘンよ!」

 

 ケーキ屋でよく見かけるような白い箱が"(あま)()(かぜ)"から手渡された。一部がセロハンのような透明な素材でできており、そこから木の年輪に似た美しい丸い模様が見える。

 

「バウムクーヘンを自作か!? いい腕してるな」

「ん、何か知ってんのか慎太郎?」

「そりゃあ、こちとらヨーロッパにはよく行ってたんだからな。バウムクーヘンは、焼こうとすると特殊な構造の焼き窯が必要になるし、綺麗に焼き上げるには熟練の技が要るんだ。こんなに綺麗な焼き目となると、これはかなりの腕だぜ」

 

 さすが外交官、外国の文化にも詳しい。

 

「そんじゃ、次は俺か。どれどれ…」

 

 その外交官たる川山が引いた玉の色は、青。

 

「こちら、B賞の賞品。ウォースパイトさんのアップルパイよ」

「おっ、ありがとう」

 

 "(はつ)(かぜ)"が川山に平べったい箱を手渡す。

 

「こいつは当たりだな」

「おいおい慎太郎、そんなメニューで大丈夫か? イギリスのパイなんだろ?」

「何だ浩三、ス◯ーゲイジーパイでも連想してんのか? イギリスのパイでも、アップルパイは当たりだぞ、旨いんだ。何なら、アップルパイはアメリカのお菓子ってイメージが強いけど、元はイギリスのお菓子なんだからな」

 

 続いては向上。引いた玉の色は緑。

 

「I賞ですね……お待たせしました、イタリアさんお手製のマリトッツォです!」

「ほう、マリトッツォか。本場のイタリアじゃ、これの上に指輪を乗せてプロポーズしたりするらしいから、やってみたらどうだ? お前確か付き合ってる人いただろ?」

「え、本当ですか川山さん?」

「ああ、マジだ」

「それじゃ、ちょっと頑張ってみようかな…」

 

 プロポーズが成功して欲しいものだな、と思いながら、堺はついにくじマシンの前に立った。 

 

(それじゃ、頼みますぜ…!)

 

 そう念じてガラガラくじを回す堺。出てきた玉の色は……白。と、いうことは。

 

「しれぇ、頑張って食べてくださいね!」

 

 "雪風"が満面の笑みと共に差し出した高速修復材のバケツを前に、堺はしばし立ち尽くす羽目になった。そんな彼の肩に、神谷がポンと手を置いて、いい笑顔で一言。

 

「Welcome to this side.」

「Noooooooooooo!!!!」

 

 スターウォーズの一幕かよ、というツッコミは無しである。

 

 

「ひえっ……何じゃこの数は……」

 

 しばしの後。

 開会式で貴賓席に座らされた堺は、視界を埋め尽くす大群衆を前に思わず呟いた。その目尻には涙が浮かんでおり、傍らには空の修復バケツがある。泣きながらもどうにかアイスを食べきったのだ。少食な堺にしてはかなり頑張った方である。

 席数から考えても3〜4千人は余裕で収用できるはずだったが、立ち見を余儀なくされる人が溢れるほど、会場は大にぎわいとなっている。

 

(うちの子たちの集客効果もあるのかもしれんが……俺の知る日本で見られたオタク気質は、こっちでも健在だったということか…? というかむしろ、よりひどくなってねえか?)

 

 これが偽らざる堺の感想である。

 

 開会式が行われるステージは、なんと海上フロートの上に建設されている。開会式が終わると、すぐに前半プログラム…日本国・タウイタウイ艦隊の持ち時間となる。タウイタウイ側のプログラムは2つに分かれており、前半は開会式会場をそのまま使って艦娘有志によるコンサート、後半は海に出ている艦娘たちによる「艦隊行動演習」である。この「艦隊行動演習」とは何ぞや、という話であるが、これは現代日本でいう「集団行動」が最も近い。あの緻密な集団行動を海上でやりながら、陣形変更、さらには砲撃や雷撃、対潜戦闘演習まで入るのである。

 この「艦隊行動演習」の際にステージが邪魔になるため、ライブが終わると同時にフロートは曳航されて移動する予定である。

 

「それじゃあみんな、いっくよー☆ 『恋の2-4-11』!」

 

 開会式終了と同時に、式場はそのままライブステージと化す。トップバッターは「艦隊のアイドル」こと"()()"だ。姉2人をバックダンサーにして、十八番の「恋の2-4-11」を歌い始める。

 その歌声と観客の歓声をバックに、堺はそそくさとライブ会場を出た。彼は後半の「艦隊行動演習」の方で指揮を執らなければならず、準備が必要だからである。

 

(確かライブで歌われるのは、"()()"で「加賀岬」、"(あか)()"と"(しょう)(かく)"で「暁の水平線に」、"吹雪(ふぶき)"と"ヴェールヌイ"で「カチューシャ」、(こん)(ごう)型で「進め! 金剛型四姉妹」、それからえーと、二航戦で「⚫◼️の鳥」、トリが"赤城"、"加賀"、"(ずい)(かく)"、"金剛"、"(しま)(かぜ)"、"吹雪"で「Let's not say goodbye」か。ライブ時間はざっくり30分。

艦隊行動演習への参加メンバーは…)

 

 主催者側なだけあって、堺もやることが多いのである。

 ちなみに今回、堺は誰の艤装にも乗艦せず、陸上から指揮を執る。指揮官先頭で旗艦に乗り込み指揮を執る彼には珍しいことだが、もちろんこれにはちゃんと理由がある。その理由は後々出てくるだろう。

 ちなみにだが、このコンサート、リアルでも掲示板(ネット)でもかなりの盛り上がりぶりを見せていた。ただし、掲示板ではトリを飾った曲を聴いてトラウマを(えぐ)られた者もいたそうである。何のトラウマかって? そんなの語るまでもありません。

 

 盛況のうちにコンサートが終わるや、フロート式のステージを移動させるべく大日本皇国のタグボートが動き出す。会場の方でも『続いてのプログラムのため、準備に入ります。このままお待ちください』とアナウンスが入る。

 10分ほど待たされた後、再びアナウンスが流れる。

 

《お待たせいたしました。ただいまよりプログラム2番、日本国海軍による『艦隊行動演習』を開始します》

 

 アナウンスを流しているのは堺である。

 アナウンスを流し終えるや、堺は素早くマイクのスイッチを切り、同時にオーディオを繋ぐ。そして、再生スイッチを押した。

 スピーカーから、トランペットなどの金管楽器をメインに使用したテンポの早い曲が流れ出す。「(いかり)を上げて」……アメリカ海軍で使われる海軍の軍歌だ。歌はなくBGMのみである。

 BGMが始まると同時に、フロート式ステージの陰で待機していた艦娘たちが飛び出してきた。観客の大歓声の中、機敏な動きで単縦陣を組み上げる。

 最初に現れたのは、第二水雷戦隊と第三水雷戦隊の面々だ。親玉たる"(じん)(つう)"と"(せん)(だい)"の統率の下、陣形の変更や駆逐隊ごとの散開など、複雑な艦隊運動をきれいにこなしていく。

 続いて第四戦隊と第六戦隊……(たか)()型重巡洋艦の4姉妹と、(ふる)(たか)型・(あお)()型の4人が連携し、輪形陣を組んで踊るような動きを見せる。これは対空戦闘における回避行動の実演だ。「盆踊り」などと揶揄されることもある回避機動だが、実際は盆踊りののんびりした動きとはかけ離れた、素早いターンと加減速を織り混ぜる運動なのである。

 その8人に、多数のレシプロ機が襲いかかる。おそらく空母の艦娘たちが飛ばしたものだろう。その数は100機はいそうである。

 これだけいれば、被弾する子が出そうなものである……が、ここにいる面々はいずれ劣らぬ精鋭ばかり。それに加えて、あの「対空番長」こと"()()"がいるのである。そう簡単にやられはしない。

 そしてなんと、8人はこの航空攻撃を上手く凌ぎきってみせた。かなり難易度の高い機動だっただろうそれをぴたりと決めてみせた8人に、大きな拍手が起こる。

 曲が終盤に差し掛かると、これまで登場した面々に第三戦隊…金剛型4姉妹が加わった。そして1個の巨大な水上砲戦部隊を作り上げ、いわゆる「集団行動」に似た斜め交差などの動きを見せ付ける。一糸乱れぬ動きには、観客たちから大歓声と拍手が送られた。

 曲が終わると同時に、他の艦娘たち…空母や戦艦の艦娘たちが登場してくる。

 

《それでは、ここからは各隊ごとの砲雷撃・対潜・対空戦闘の実演になります!》

 

 堺のアナウンスが終わった直後、強烈な砲声が大気を震わせた。戦艦娘の中でも一際巨大な艤装で存在感を放つ"()(さし)"が、51㎝砲を空に向けて空砲をぶっ放したのだ。それが号砲代わりとなった。

 先頭を切って動いたのは第三水雷戦隊。単横陣に並び、速力を8ノットにまで落とす。

 

《敵の潜水艦を発見! 対潜戦闘、攻撃始め!》

 

 "川内"の号令と共に、艦娘たちは一斉にドラム缶のような物体を海に投げ込み始めた。艦尾の爆雷投下軌条だけではなく、K砲などの爆雷投射器も駆使して派手に投げ込んでいる。

 神谷がよく見ると、ドラム缶だけではなく、ドイツの長柄付手榴弾のような物体も一緒に投下されている。

 

「爆雷だけじゃなくてヘッジホッグも入れてんな」

「どうしたんだ浩三?」

 

 神谷の呟きを聞き付けた一色が尋ねた。

 

「よく見たら、あの子たちが投下してるのは爆雷とヘッジホッグなんだ」

「なんだそれ」

「ヘッジホッグ、別名は対潜迫撃砲。手榴弾の中でも、長い持ち手が付いた奴は知ってるか?」

「ああ、ガ◯パンとかラ◯ュタとかで出てきたアレか?」

「そうそれ。それに似た物を海面に撃ち込むんだ。爆雷と違って前にも撃てるし、水圧じゃなくて直撃で起爆する代物だから、敵潜水艦にとっては怖いことこの上ない」

 

 神谷がそう言った時、海面がぐわっと白く盛り上がり、太い水柱が次々と噴き上がる。爆雷が炸裂したのだ。

 

「え、それじゃああの海域に大量の不発弾を投げ込んでいることにならないか?」

 

 ぎょっとした様子で一色が尋ねる。

 「直撃すると炸裂する」という性質を持つヘッジホッグは、逆に言えば潜水艦に命中しなければ炸裂しない。そのため不発となったヘッジホッグが大量に沈むのではないかと危惧したのだ。

 

「それは大丈夫だろう。堺司令のことだ、それくらいは考えているさ。

あれは多分演習用の模擬弾だ、爆薬入ってないからそもそも爆発しねーよ」

 

 そう言われて一色は安心したようだ。

 海上では重巡洋艦の艦娘たちが実弾による砲撃演習を行う一方、第三水雷戦隊が得意の「分散からの多方向同時急襲」を見せている。駆逐隊ごとに分かれ、夜の闇を利用して高速で近付き、4方向から一斉にターゲットに襲いかかる戦法だ。

 

(堺司令のことだ、もし敵対すればあの艦娘たちにもこっそり電子攻撃装置を搭載するか何かして、こちらのレーダー探知を妨害してくるだろうな。三水戦の親玉といえば、あの夜戦バカだ。夜にあいつらに襲われたら、おそらく()()(きょう)(かん)の地獄絵図になるだろうな。奇襲攻撃なんか喰らったら、我が皇軍の主力艦隊でも相当の被害が出るかもしれん)

 

 神谷がそう考えている間に、次の演目が始まっている。第三戦隊の金剛型4人を敵に見立て、第二水雷戦隊が突撃を開始したのだ。もちろんその先頭にいるのは、"神通"である。

 金剛型4人も、主砲はもちろん副砲まで総動員して演習用の模擬砲弾を撃ちまくる。しかし当たらない。二水戦の駆逐艦たちは、林立する水柱の隙間を上手くくぐり抜け、時には水柱に自ら突っ込んで、突撃を続けている。

 

『二水戦、統制雷撃戦、始め!』

 

 "神通"の号令一下、1本の棒のように統率の取れた動きで第二水雷戦隊の面々は模擬弾頭の魚雷を発射する。()()れするほどの華麗な動きに、観客席から再び大きな歓声が上がった。

 

「すげぇ、感動的だ…!」

「まさにアーケードゲームどおり、いや、それ以上に洗練されてる…!」

 

 一色も川山も大分興奮している。口にこそ出さなかったが、神谷も興奮していた。

 最後は、戦艦娘たちによる砲撃演習だ。

 

『この武蔵の主砲は、伊達ではない! 行くぞーっ!』

 

 その声が無線に繋がったスピーカーから聴こえるや、海上に巨大な砲声が轟く。51㎝砲6門の一斉射撃だ。

 

『全主砲、斉射! てーっ!!』

『選り取り見取りね……撃てー!』

『Burning love!』

『主砲、斉射、始め!』

『榛名、全力で参ります!』

『主砲、敵を追尾して、撃てぇっ!』

 

 戦艦娘たちが1人ずつ砲撃を放ち、その度に砲声と歓声が響く。そこにしれっと、とんでもない存在が混じる。

 

《続きまして、第一航空戦隊による砲撃展示です》

 

 堺のこのアナウンスに、会場からどよめきが起こる。

 第一航空戦隊といえば、所属する艦娘の代表は間違いなく"赤城"と"加賀"だ。そんな2人が戦艦レベルの大口径砲を持っているとは思えない。

 観客の中には、もしや20.3㎝砲の射撃をするのかと、ある意味期待する者もいたようだ。だが、それは完全に裏切られた。

 

《赤城が発射するのは、45口径35.6㎝三連装KSK砲。そして加賀が発射するのは、45口径41㎝単装レールガンとなっております》

 

 今度こそ会場から大きなざわめきが起こった。

 大日本皇国の戦艦や空母はだいたいぶっ飛んだ装備を有しているから、加賀のレールガンはまだ理解できるらしい。だが、さすがにKSK砲はないようだ。

 

《砲撃始め!》

『一航戦、赤城、参ります!』

 

 先に"赤城"が、その主砲を放つ。

 彼女の艤装は、ゲームで知られたそれとは全く異なる。和弓は矢筒ごと姿を消し、代わりになんと64式小銃に似た艦載機の打ち出し艤装を手にしている。そして艤装も、巨大な三連装砲を4つ装備しており、もはや戦艦という風情なのである。ただ、飛行甲板はしっかり残っている。

 この特異な見た目に観客が衝撃を受ける中、"赤城"の主砲から青白いビームが噴き伸びる。これがKSK砲の砲弾なのである。タングステンコイルに高圧電流を流して電気エネルギーを取り出し、それを砲身内に敷き並べた無数のコイルで可視化しながら増幅して発射するため、その威力は段違いに高い。理論上では、大日本皇国の「白鳳」のAPSバリアすら貫徹可能、とシミュレーションされているほどである。

 青白いビームが海面に弾着し、大きな水柱が噴き上がる。その水柱こそが、"加賀"の射撃目標だ。

 

『発射準備良し。艦首軸線砲、発射』

 

 興奮した様子の欠片も見せないほど落ち着いた、しかし内心高揚している"加賀"の命令。

 次の瞬間、"加賀"の艤装がピカッと青い閃光を放った。その一瞬後には、KSK砲弾の炸裂でできた水柱が跡形もなく吹っ飛び、…そして発射からたった1秒で水平線の彼方に水柱が噴き上がった。

 この凄まじいインパクトで観客が沸き立つ。

 

「ま、マジでレールガンかよ……!」

「波動砲みたいに派手だな…!」

 

 一色と川山が興奮する中、神谷は背筋が冷えるのを抑えきれなかった。

 

(マジかよオイ!? 艦首軸線砲だから使い勝手めちゃ悪いけど、俺らのレールガンより威力高くね!?

この世界の水平線はだいたい30㎞くらいだから、それをたった1秒くらいで飛んだってことは、あの砲弾…マッハ10くらいは余裕で出てるぞ!?)

 

 それに、あの原理不明のKSK砲もヤバすぎる。しかも"赤城"は、見た限りあの三連装砲と全通飛行甲板を両立している。(あつ)()型や()()(もと)型をもってしてもできなかったことを、あの"赤城"はやってのけているのだ。いったいどんな技術を使えばあんな構造が作れるのか、想像もつかない。

 そして最後に、全艦娘揃っての主砲の一斉射撃が行われた。

 

『てーっ!』

 

 大は51㎝砲から小は10㎝高角砲まで、100門台に達する数の砲が一斉に発射され、凄まじい砲声で何も聴こえなくなった。砲声の残響がやや収まってきた頃、今度は観客からの大歓声でまた何も聴こえなくなる。

 

《それではこれより、連合艦隊行動演習に入ります!》

 

 砲撃演習中はBGMを流していなかったが、ここからまたBGMが復活する。

 スピーカーから流れ出したのは、地球において世界三大行進曲に数えられた名曲、日本が誇る「軍艦行進曲」だ。艦娘たちにとっても馴染みの深い曲である。

 まずは第一警戒航行序列(対潜陣形)…の、アレンジバージョンだ。何せここにいる艦娘たちは明らかに50人を超える大所帯。それ相応の規模の連合艦隊を編成せねばならない。

 某体育大学の「集団行動」を思わせる機敏かつ華麗な動きで、艦娘たちが交差し、陣形を作り上げていく。一糸乱れぬその動きに、観客席からは大きな歓声が聴こえてきた。

 続いて第四警戒航行序列(戦闘隊形)だ。円を描くように外周に配置された駆逐艦の艦娘たちが、陣を解き、鋭い槍を思わせる単縦陣を組んでいく。その後ろに巡洋艦の艦娘たちが続き、さらにその後ろに水上砲戦の主役を担う戦艦娘たちが並ぶ。最後方を固めるのが空母艦娘たちだ。

 さらに、第二警戒航行序列(前方警戒)へと陣形が移行する。BGMに合わせての機敏な動きは、観客たちを完全に魅了していた。

 そしていよいよ、最後の運動となった。第二警戒航行序列を解き、駆逐艦や軽巡洋艦の子たちが主力艦を守るように動いて第三警戒航行序列(輪形陣)へと移行する。そして陣を解き、巨大な錨を形作る。

 錨の形が作られていく間に、堺は新たなBGMのスタンバイに入った。泊地から持ってきたCDをセットし、いつでも再生可能な状態にする。それと同時に"()(はぎ)"から通信を受け取った。

 

『こちら矢矧。アクティブソナーで合図、出したわよ』

「了解。10カウント!」

 

 いよいよ、最後にして最大のサプライズである。

 

(皆よく見とけよ! これが、うちの艦隊が出せる一番の戦力だ!)

《さて皆様、ここまでご覧いただきありがとうございました。最後に、とっておきをお見せします!》

 

 腕時計を睨みながら、堺はマイクに声を張り上げる。彼が言い終わると同時に、海上で錨が完成した。

 

《フライホイール、接続! 点火ぁ!》

 

 堺のその言葉で、海上に立つ艦娘たちが一斉に回れ右をする。そして堺は、音響機器の再生スイッチを入れながらマイクに叫んだ。

 

《ヤマト発進!》

 

 次の瞬間、海上を見ていた観客から大きな歓声が上がった。

 14万8千光年の宇宙を旅する某戦艦のアニメの主題歌が流れ始めると同時、海面を突き破って飛び出してくる物があったのだ。飛沫に包まれたそれが、次第にその姿をはっきりと見せる。

 そそり立つ高層ビルを思わせるスマートな艦橋。斜めに傾いた赤塗りの煙突。ジェット戦闘機のような鋭角的なマスト。艦体前部に3基、後部に2基配置された大小の三連装砲、しかもそのうち3基には砲身に3本の白線が描かれている。艦体中央下部に突き出た、潜水艦のセイル(艦橋)のような構造物。特徴的な球状艦首。そして、艦首に開いた巨大な穴。

 そう、「大和(やまと)改二一九九」こと「宇宙戦艦ヤマト」である。タウイタウイ泊地の工廠地下で密かに建造していた艤装を、ここで引っ張り出してきたのだ。

 まさかの「ヤマト」の登場に、観客の盛り上がりが最高潮に達する。その歓声の中、浮上してきた「ヤマト」は海面を蹴飛ばすようにして空へと艦首を向けた。三角形の主翼を広げ、飛沫を撒き散らして神々しいばかりの印象を抱かせながら、波動エンジンと補助エンジンをめいっぱい使って、今飛び立つ。

 

《ただいま海中から登場しましたのは、我がタウイタウイ艦隊の最後の切り札。"大和改二一九九"……そう、あの『宇宙戦艦ヤマト』です。アニメをTVや映画館で見た、という方も多いことでしょう。

我が泊地の優秀な技術者たちの手により、なんと『宇宙戦艦ヤマト』を艦娘"大和"の艤装で再現することに成功しました。もちろん、ワープ機能も波動砲も完備です! 我が泊地最強の守護神として、平和を守る要であり続けることでしょう。皆様、どうか『ヤマト』作中にのみ登場する『あの敬礼』を以て、この新鋭戦艦をお迎えください!》

 

 左手のマイクにそう解説しながら、堺は右手で作った握り拳を左胸に当てて"あの敬礼"をしている。艦娘たちも、同じ敬礼で"大和改二一九九"を見送っていた。

 堺が陸上から指揮を執っていたのは、このためである。このサプライズを演出するため、わざわざ陸上にいたのだ。

 空に飛び立った「ヤマト」は、相模(さがみ)湾上空を一周するように飛行し、最後に「日ノ本」の隣にそっと着水した。これで、タウイタウイ側の持ち時間は終了である。

 

《これをもちまして、我がタウイタウイ艦隊の『艦隊行動演習』を終了いたします。ご覧いただきまして、ありがとうございました! 一同、礼!》

「「「ありがとうございました!」」」

 

 堺の音頭に合わせ、一斉に廻れ右をして観客席を向き、頭を下げた艦娘たちに、大きな拍手が沸き起こった。

 

 なおこの時、"三英傑"は全員揃ってものすごく興奮していたとか何とか。そりゃあそうだろう、と言わざるを得ない。何せ艦これの"大和"の宇宙戦艦化である、喜ばないはずがないだろう。

 同時にネットの「ニ○ニ○動画」でも、凄まじいまでのコメント弾幕が発生し映像が見えない事態にまでなっていた。

 

・ファッ!?

・宇宙戦艦ヤマトだと!?

・きたああああああああああああ

・これはやべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ

・身体が震える…!

・艦これ×ヤマトとか胸熱すぎる!

・公式が病気だわコレ

・まさかヤマトが来るとはな!私の目を以てしても見抜けなかった!

 

 といった具合である。

 

 次は、大日本皇国軍の持ち時間だ。最初は移動式の観艦式である。

 観艦式には2つの手法がある。停泊している受閲艦艇の間を観閲艦艇が航行する「停泊式」と、受閲艦艇・観閲艦艇共に航行する「移動式」だ。当然ながら、移動式の方が難易度が高く、この方式を採用している国の海軍は少ない。

 大日本皇国海軍は、その困難な移動式の観艦式をやっているのだ。

 

「いつ見ても、やっぱこういうのは迫力あるよなー。特に今回はイージス艦や航空護衛艦を凌ぐ、マジモンの戦艦が航行してる訳だし」

 

 広い海の上をところ狭しと動き回る数々の艦艇、そして銀翼を広げ空を行く無数の航空機に、思わず感嘆の息を漏らす堺であった。

 何だかんだと1時間が経過し、観艦式もいよいよ終了が近付いてくる。

 

(確かこの後は、陸上での装備展示や展示訓練の公開、そして本格的に出店をやるんだったな。うちの子たちも3つ店を出すって言ってたし、終わったら"ヤマト"と一緒に上陸して様子を見に行くか…)

 

 と堺が考えていた、その時。

 

「『日ノ本』へ、こちらヤマト、どうされましたか? ……はい……えっ!? な、な…えぇ!?」

 

 突然、通信長妖精が慌てた声を上げ始めた。何事かと振り返る堺と"ヤマト"。

 

「……わ、分かりました! 提督と艦長に確認します、すみませんが、少しお待ちください! 一旦交信を終了します!」

 

 交信を終えてこちらを振り向いた通信長妖精は、何故か顔中汗にまみれている。

 

「提督、艦長! 一大事です!」

「どうした?」

「それが、たった今大日本皇国軍の戦艦『日ノ本』から通信が入りまして……!」

 

 そして告げられた通信内容に、堺と"ヤマト"は揃って目を剥いた。

 

「何だって!? そりゃ本当か!?」

「らしいです! これ、返信はどうするべきでしょうか…?」

 

 内容が内容だったが、堺には「断る」という選択肢は持ち得なかった。

 

「断る訳にいくかよこんなもの…! 通信長、先方に返信だ。『貴軍からの要請を受諾する』と! それと、いつ頃いらっしゃるか聞いておいてくれ!」

「了解!」

 

 そして、考えなければならないことが山ほどできたのである。

 

「くそー、考えることが多い…!」

「提督、ひとまず案内する箇所のルート設定を! 私は妖精たちを集めて、軽食と飲み物、それに歓迎の準備にかかります!」

「お、おう! そっちは任せた!」

 

 "ヤマト"の意見具申を容れ、堺は「ヤマト」の艦内地図を引っ張り出すと、バリバリと頭を掻きながら必死で頭脳を回し始めた。

 

 

 しばらくの後。

 何とか全ての準備を整えた堺は、"ヤマト"や妖精たちと共に昇降ラッタル口で人を待っていた。整列した妖精たちは全員、「レーザー自動追撃銃」を両手で身体の前に保持しており、銃口を上に向けている。それは明らかに、誰か高い身分の人を迎える態勢であった。

 そんな中、「日ノ本」から発進してきた小型艇がラッタルに横付けし、何人かの人間が降りてくる。

 

(ささ)げー(つつ)!」

 

 "ヤマト"の号令に、ザザッ! と軍靴の踵を揃える音が重なった。「捧げ銃」…最上位の人間を迎える時の敬礼である。

 自らも海軍式敬礼をしながら、堺は腹の内で呟いた。

 

(まさか、俺がやんごとなき御方のご案内とはな……! 一般ピーポーがやっていいことじゃねえだろこれ!)

 

 そこへ、小型艇から降りた人々がラッタルを昇ってきた。

 先頭にいるのは一色総理。そして川山を含めて3人ほど引き連れて、軍服を身にまとった優しそうな雰囲気の老人が1人、上がってきた。そう、天皇陛下である。

 

「堺司令、ヤマト艦長。こちらにおわしますのが、我が国・大日本皇国のリーダー、天皇陛下でございます」

 

 公式の式典だからということで、一色の口調は丁寧なものになっている。

 そう、先の「日ノ本」からの通信は、こういう内容だったのだ。

 

『天皇陛下が、そっちの船の中見たいって言ってんだけど、案内できる?(意訳)』

 

 断れない訳である。

 

「宇宙戦艦ヤマトにようこそ。陛下をお迎えできることは、光栄の極みであります。

日本国海軍の指揮官、堺 修一中将であります。こちらは、当艦の艦長ヤマトです」

「お初にお目にかかります。本艦の艦長を務める、ヤマトと申します。堺司令と共に、陛下のご案内を務めさせていただきます」

 

 かくして、本来の予定にはなかったプログラムが急遽始まった。もちろんだが、堺も"ヤマト"も上陸して様子を見に行く暇はない。

 一行がまず向かったのは、兵員居住区である。最初にここが選ばれた理由は、単純に昇降ラッタル口からの距離が最も近かったことと、食堂でウェルカムサービスを出す予定があったからだ。

 

「この辺りは、本艦の艤装を操る妖精たち…つまり乗組員の居住区です。展望室や医務室などが存在しています。そしてここが、本艦の食堂『大食堂ヤマト亭』です」

 

 食堂に入った天皇の前で、"ヤマト"がデモンストレーションを交えながら説明を行った。

 

「ここで、本艦の乗員たちの食事の全てが賄われています。調理は半分以上自動化されており、例えばこの『全自動オニギリ機』をご覧ください」

 

 2本のしゃもじが高速で回転し、釜の中の白米をかき混ぜている。それに向かって、砕いた梅干しが撃ち込まれていた。

 よくかき混ぜられた飯は、全自動で三角形に握られ、味付け海苔を巻かれて機械から出てくる。弁当箱への盛り付けも、ベルトコンベアで全自動だ。

 

「今はおにぎりを作っていますが、使い方を変えれば、例えばレーズンパンの生地の攪拌から整形、ロールキャベツの製造なども行えます。

そしてこちら、本艦のウェルカムサービスということで、今作ったばかりのおにぎりです。粗品ですみませんが、どうぞお召し上がりください」

 

 玉露と共に、目の前で作られたばかりのおにぎりが出された。

 

「うむ、これは旨い」

 

 さっそくおにぎりを口にした天皇が、1つ頷いた。一色も真似をして食べてみる。米の甘味と梅干しの酸味が程よく絡み合い、そこに味付け海苔のしょうゆが良いアクセントになっている。

 

「こうしたおにぎりは、どちらかと言いますと戦闘糧食…つまり、戦闘中の食事として提供されるものです」

 

 堺が説明を補足した。

 食堂を出ると、続いては側方展望室である。

 

「乗員たちの憩いの場の1つです」

 

 窓が広く取られているため、外がよく見える。今は、海面を埋め尽くさんばかりに展開した大日本皇国海軍の(もう)(どう)たちの姿が広がっていた。

 展望室を出た後は、そのまま艦首区画へと移動していく。移動式の廊下(空港や駅で見られるアレ)が突き当たった先は立入制限がかかっていた。その扉を開けると、何やら仰々しい巨大な機構が頭の上に展開している。だが、十字型のロックをかけられた巨大なボルト…言い方を変えれば拳銃の撃鉄のような形のその機構が何であるか、川山にはすぐ分かった。紛れもなく、これは…

 

「これが、本艦の最終兵器である次元波動爆縮放射機…通称"波動砲"の薬室です」

 

 そう、「ヤマト」の一撃必殺兵器。波動砲である。

 

「あそこに見えるコンデンサに、エンジンから送られた波動エネルギーを集め、タキオン粒子に変換して凝縮、そして発射します。タキオン粒子に包まれた物体は、三次元におけるその存在が非常に不安定になり、崩壊、消滅に至ります。これが、大まかな波動砲のメカニズムです。

その威力は折り紙付きであり、具体的には北アメリカ大陸ほどの大きさの物体でも瞬時に消し飛ばすことが可能です。また、もし星に向かって波動砲を撃ち込んだ場合、狙いさえ良ければ1発で星そのものを破壊することも可能です。

あまりに威力が高すぎますので、私どもとしても本砲の運用には細心の注意を払っております」

 

 説明が難解すぎて、一色も川山も目が回りそうな感覚を覚えた。もし神谷がここにいればいろいろと解説してくれるのだろうが、残念ながら彼は今頃陸上で「白亜衆」の訓練展示でもやっている。

 それに加えて、たった1発で北アメリカ大陸大の物体を瞬時に消滅させ、挙げ句に星そのものをも破壊できるとは、何と凄まじい威力なのか。「日ノ本」を初め大日本皇国の軍艦にも"波動砲"を名乗る砲が搭載されているが、「ヤマト」の波動砲の威力はそれらすら上回るのではないか。鳥肌が立つのを川山は感じた。

 だが同時に、波動砲を見た全員、特に一色と川山は、心踊る感覚を感じずにはいられなかった。何せ大日本皇国でもよく知られたSFアニメの宇宙戦艦の切り札、その実物が目の前にあるのだ。もし発射されればどんなことになるだろう、と思わずにはいられなかった。

 

「そしてこれが、波動砲の発射口です」

 

 さらに波動砲の発射口にまで入らせてもらい、何気にテンションの上がる一色であった。

 発射口から外の景色を見た後は、そのまま最上甲板へと移動する。ちょうど隣に「日ノ本」が止まっており、その甲板上に並ぶ海兵たちが歓声と共に敬礼を送ってくる。それに答礼しながら、堺、"ヤマト"、天皇、一色たちの一行は主砲の真下へとたどり着いた。

 

「こちらが本艦の主砲、45口径46㎝三連装ショックカノン砲です。波動エンジンから供給されたエネルギーを凝縮し、レーザーとして発射します。エネルギー砲弾の温度は3万℃にも達し、大抵の物体を一撃で微粒子レベルに融解することが可能です。

これ以外に『波動カートリッジ弾』と呼ばれる実体砲弾も発射可能で、本艦はこの主砲を艦体前方に2基、後方に1基搭載しています。

その上に見えます一回り小さい三連装砲は副砲であり、こちらも主砲と同様にエネルギー砲弾と実体砲弾を発射可能です」

 

 迫力満点の主砲を見て、一色は思わず涙がこぼれそうになっていた。

 

(これが、これがヤマトの主砲…! しかもこれ、よく見たら「Ⅲ」の塗装じゃないか!)

 

 主砲の砲身には3本の白いラインが描かれていたのだ。これは、「宇宙戦艦ヤマトⅢ」で施された塗装パターンである。

 

「そしてこちらが、本艦の近接防空兵器であるパルスレーザー砲です。連装砲、四連装砲合わせて36基が左右両舷に搭載されており、これ以外に三連装のパルスレーザー砲も少数ながら装備しています。敵の航空・航宙機やミサイル類が飛来した際に、本砲はいわばCIWSやゴールキーパーにあたる砲としてその威力を発揮します。理論上は、固い弾頭を積んだ巡航ミサイルであっても数発当てれば破壊、撃墜することが可能です」

 

 これもまたとてつもない兵器である…と川山は感じた。

 おそらくこのパルスレーザー砲も、主砲と同様に波動エネルギーを用いた弾を撃ってくるはずだ。つまり、波動エンジンが生きている限り無限に射撃してくるということである。怖いことこの上ない。

 

「これ以外の兵装としては、艦首及び艦尾の魚雷・ミサイル兼用発射管6門、波動爆雷400発、『煙突ミサイル』と称する対艦対空VLS8基、艦底部18連装VLSが挙げられます。また、後でご案内しますが貴国の熱田型などと同様に艦載機も搭載しています」

 

 アニメで見ただけでも凄まじい重武装を施していたが、リアルで聴くと迫力はそれ以上だ。まさに地球を救うに相応しい、とてつもないスペックを持っていることがはっきりと分かる。

 

「それではここからは再び艦内に戻りまして、中央及び後方の区画をご案内いたします」

 

 最初に案内されたのは、床そのものがスクリーンになった大きな部屋だった。壁も天井も一面に、モニターやら計器類が張り付けられている。

 

「ここが中央大コンピュータルームです。本艦の情報処理の中枢を担う、極めて重要な部署です。航路計画の作成など、艦の運航の基本的な判断が、このコンピュータによって行われます。もちろんですが、本コンピュータが暴走した時のことも想定されております」

 

 続いて、その真下に位置する作戦指令室を案内される。ここにも床に大きなスクリーンがあった。

 

「この作戦指令室は、いわゆるFIC…艦隊指揮情報室として使われます。CICは別の部署が担っております」

 

 さらに艦の後部に向かって通路を移動していく。

 突き当たりの扉を開けたとたん、周囲の気温が僅かに高くなったのが感じられた。

 目の前には、見上げるほど巨大な円筒形の機構がデンと鎮座している。アニメで見覚えのある景色に、一色は思わず興奮して尋ねた。

 

「これが波動エンジンですか!?」

「左様です。本艦の心臓といっても過言ではない、艦橋と並ぶ最重要区画です」

 

 普通じゃ到底立ち入れない場所の筆頭である。天皇陛下がいるからこそのVIP待遇なのだろう。

 

「スーパーチャージャー搭載済みなので、連続ワープの他、短い時間での波動砲へのエネルギーチャージが可能です」

 

 "ヤマト"が横から説明を加えた。

 機関室を出た後は、さらに廊下を何度か曲がり、1つの扉へと至る。その扉を開けると、そこは多数の更衣用ロッカーが並んだ小部屋だった。

 

「ここから先は慣性制御が効いておらず、無重力空間となっております。なので、ここは説明だけにさせてください。

この先にありますのは艦載機格納庫。本艦には小規模ながら空母としての機能が備わっており、まさに航空戦艦というに相応しい位置付けとなっております。

ここに格納されておりますのは、本艦の搭載する主力艦上戦闘攻撃機たる『99式空間戦闘攻撃機《コスモファルコン》』36機、輸送機として用いられる『空間汎用輸送機《コスモシーガル》』4機、『100式空間偵察機』4機になります。それ以外にトップエースの乗る指揮戦闘機たる『零式52型空間艦上戦闘機《コスモゼロ》』数機と、『100式空間偵察機』より広い範囲を探査・偵察するための『3式大型多用途空間探索艇《コスモハウンド》』が、第3主砲脇のカタパルト格納庫に準備されています」

 

 "ヤマト"のこの説明を聴いて、一色はものすごい違和感を感じた。

 コスモファルコンやコスモシーガルが搭載されているということは、おそらくこの「ヤマト」はリメイク版…「宇宙戦艦ヤマト2199」バージョンの方であるらしい。だがそれにしては、コスモハウンドを搭載していたり、主砲の口径が46㎝だったりとおかしなことになっている。これでは、まるで…

 

(旧作バージョンとリメイクバージョンのハイブリッド性能か…?)

 

 その可能性を確かめるべく、一色は手を挙げた。

 

「すみません、質問よろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

 

 "ヤマト"は天皇と川山に各機体の性能を説明しているところであるため、堺が反応した。

 

「このヤマト、大きさはどれくらいになるのですか?」

「全長、ということでよろしいでしょうか?」

「はい」

「この艦の全長は265メートルです」

 

 この答えで一色は確信した。

 この「ヤマト」はおそらく、旧作バージョンをベースにしている。リメイク版の「ヤマト」なら、全長333メートルであるはずだ。それより小さいということは、旧作バージョンとみて間違いない。そこにリメイク版の要素をハイブリッドしているのだろう。

 

「なるほど…もともとの大和の艤装とそんなに変わらない大きさなのですね」

「はい、あまり大きくしすぎると慣熟訓練にやたら時間がかかりますからね。ただでさえ波動エンジンなんてけったいな代物を積んでいる訳ですし」

 

 きっと運用した時の感覚が大きく狂うんだろうな、と一色は思った。

 艦載機格納庫を出た一行は、針路反転して再び艦中央部に向かい、そこでエレベータに乗り込む。堺がボタンを操作する様子を見るに、どうやら下に降りるようだ。

 たどり着いたところは、異様な空間だった。窓は申し訳程度にしかなく、薄暗い部屋の一面に多数のメーターやらスクリーンやらが展開されてメカメカしい印象である。だがよく観察すると、決定的におかしな点があった。それらの機械はなんと、上下同じ配置になっており、たとえ天井と床がひっくり返っても同じ機械を操作できるようになっているのである。

 

「これはもしや、第三艦橋ですか!?」

「お見事です川山さん。ここが私の第三艦橋です」

「おおぉ…!」

 

 旧作ではドメル艦の自爆で大破したりガミラス星の濃硫酸の海に溶け落ちたりと無惨な目にばかり遭いながら、1週間後には何事もなくしれっと直っていることで有名な、あの場所である。ここへの配置命令は最大の死亡フラグだとか何とか言われる場所だ。

 

「ここの機械類が上下対照に設置されている理由は、本艦には潜水艦としての機能が備わっているからです。本艦が潜水艦行動を取る際には、本艦は上下逆さまになって運用されます。その際にこの第三艦橋が潜水艦のセイル代わりとなり、つまりここで艦の指揮を執ることになります。

また、この第三艦橋はもう1つ重要な役割を持っています。それが、波動エネルギーを用いたバリア…『波動防壁』の制御です。これを展開させることで、本艦はその防御力を一時的に飛躍的に高めることができます。

シミュレーションした限りでは、貴国の主力艦隊からの4桁単位のミサイル・砲弾による飽和攻撃にも耐え得る、という結果が弾き出されています」

 

 大日本皇国海軍の主力艦隊といえば、掛け値無しに世界最強の艦隊である。そんな艦隊の飽和攻撃に耐える辺り、さすがは地球最後の希望を担った戦艦というべきだろう。

 

(これ、敵対したらうちの熱田型や『日ノ本』でも危険な相手じゃないか? 無敗無敵の神話を誇るあの軍艦たちでも、下手すりゃ撃沈されてしまうかもしれんぞ…)

(やっぱり別格だよなぁヤマトは…)

 

 勘違いされかねないので一言申し上げておくが、熱田型自体が規格外の性能を持っているのである。そんな熱田型すら仕留めかねない「ヤマト」が、遥かにおかしいのである…。

 "トカゲの尻尾補正"がかかっている疑惑が出るほど復活力が高いことに定評のある第三艦橋を出た後は、工作室を軽く案内してもらい、その後再びエレベータに乗り上を目指す。たどり着いた先が、最後の案内場所だ。

 

「ここが、平時における本艦の指揮中枢となる場所。第一艦橋です」

「おおっ…! まさしくアニメで見た通りの…!」

 

 うっかり一色は本音を漏らしてしまった。国会での舌戦を戦ってきている総理大臣にあるまじき失態だが、いったい誰にそれを責めることができようか。

 一色の目の前に広がっていたのは、まさしく第一艦橋の光景だった。アニメで見た通りの座席配置、機械類、中央に設置された半球形の羅針盤、正面の天井付近にかかった巨大な斜めスクリーン……全てが実物として眼前にあるのである。オタクにとってはまさに垂涎ものの光景だ。

 

「第二艦橋は、貴国の軍艦でいうところのCICとなっておりますので、申し訳ありませんが公開は割愛させていただきます。それに…メタい話ですが、第二より第一の方がよっぽど有名ですし」

 

 堺の発言で一色は我に返った。まあ確かに、旧作でもリメイク版でも第二艦橋は第一艦橋に比べて影の薄さが否めない。

 ちなみにであるが、第二艦橋の後方にある全天球レーダー室の案内がしれっと飛ばされていることに、誰も気付いていない。

 

「各席を簡単にご説明します」

 

 そう言って、"ヤマト"が艦橋の最も左側にある2つの席を示した。

 

「この2つは、まず手前が通信席です。特に艦外との通信の一切を取り仕切る席である他、他国の言語や暗号の解析に一役買うこともあります。

その奥が砲術席で、戦術長の指揮の元で主砲やミサイル等の火器の運用を行います。

続いてこちらが…」

 

 今度は、羅針盤の左隣にある席が示された。

 

「機関席です。本艦の心臓といえる波動エンジンの制御の指揮を、この席で行っています」

 

 計器類から何から、アニメでの描写と全く変わらない。もしここに神谷がいれば、きっと興奮しまくって各席を眺めまわしているだろうな、と思わずにはいられない一色だった。

 

「続いてこちら、窓の手前にある3つの席のうち、左側が探査席です。この席だけ椅子でない理由は、ここに陣取るのが人間ではなくロボットだからです」

(アナライザーって奴か)

 

 もう一色の頭には、あの赤いロボットが浮かんでいた。

 

「中央にあるのが戦闘指揮席。戦術長がここで、戦闘の指揮の一切を取り仕切ります。波動砲の発射も、この席で行います」

 

 よく観察すると、席のすぐ目の前に拳銃形の波動砲発射トリガーが微かに見えている。これがせりあがってきた上でターゲットスコープが飛び出し、そして波動砲が発射されるのかと思うと、一色は身体が熱くなるのを感じた。

 

「その右隣が操舵席です。この、クワガタムシの顎を思わせる形の機械が、本艦の操縦桿です。これを使って本艦を操縦する他、錨の射出なども行います」

「錨の射出…とは、どういうことでしょうか?」

 

 天皇が質問した。

 

「はい、本艦の錨はロケットアンカーと呼ばれ、停泊時に使用するだけではなく、いざという時には敵艦に向けて射出する武器にもなるのです」

「なるほど…」

 

 忘れがちだが、ヤマトの錨はただの錨ではないのである。

 

「そしてこちら、壁際に並んだ2つの席のうち手前が応急処置席です。艦のダメージコントロールの指揮を執る他、メインコンピュータの操作なども行えます。その奥は航法席となっており、天体の観測などによる操舵の補佐を行います。

羅針盤の隣で独立した席になっているのは索敵席で、本艦の索敵用コスモレーダーの管制を担います。そして、」

 

 艦橋の一番後ろにある、一段高くなった席が示された。

 

「あの一番奥が艦長席です。大抵は私が座っているのですが、提督が同乗している時は彼が座ることもあります。あの席だけで艦の全てを担うことができ、操舵はもちろん、波動砲の発射まで行えます」

 

 一色と川山は、「完結編」の最後のシーンを思い出していた。そういえばここの席で波動砲の発射トリガーを引いていた。

 

「申し訳ないのですが、この上の艦長室は私のプライベート空間ですので、紹介を割愛させていただきます。これで、本艦の案内は全て終了です」

 

 その五感で感じた本物の「ヤマト」に、一色と川山が感動しまくっていると、不意に通信席の機械が通信の受信を示すブザーを鳴らした。"ヤマト"が艦長席に上がり、機械を操作して通信を受け取る。

 

((マジで艦長席だけで何でもできてる…!))

 

 興奮する一色と川山の前で、通信を終えた"ヤマト"が堺に報告した。

 

「提督、ただいま神谷様が本艦に到着されました。ここ第一艦橋にご案内します」

「了解。

天皇陛下、そして皆様方、お手数おかけしますがもう少々ここでお待ちくださいませ。実は、私と神谷司令で密かに相談した、我が国と貴国の合同軍事パフォーマンスがありまして、それを特等席でご覧いただきたく存じます」

 

 

 ちなみに堺と"ヤマト"が必死で「ヤマト」艦内を案内している間、艦外ではお祭り騒ぎが続いている。

 海上では、式に参加していた各艦が入れ替わり立ち替わり「ヤマト」に接近し、手空きの乗員たちが甲板に並んで私物の一眼レフ(こっそり持ち込んだ)やタブレット端末(特別に許可された)などを「ヤマト」に向け、ひたすらシャッターを切りまくっている。特に波動砲の発射口や主砲、艦橋の人気が高い。

 全長1,000メートル超の巨艦が、その3分の1の大きさもない小さな艦1隻に群がる有様は、人気子役女優を取り囲むファンを思わせる。

 陸上に目を向けると、大日本皇国軍の装備や部隊訓練の展示に混じってタウイタウイ側の出し物も始まっていた。装備展示と出店3つである。

 タウイタウイ側から出した装備は、「ノスタルジーを感じさせる物」ということでレシプロ航空機と戦車がメインだ。航空機は零戦シリーズ、(すい)(せい)艦爆、(りゅう)(せい)艦攻、Ju87(機体モジュールはC型仕様とG型ルーデル機塗装仕様の2種)、(ずい)(うん)、二式大艇、ハウニブⅠと選り取り見取りである。ちなみに零戦シリーズは21型、32型、52型無印、52型丙、53型、62型とありったけ持ってきたため、ずらっと並んだ零戦シリーズを見た一般人とオタクの間で「全部同じじゃないですか!?」「ちがいますよーっ」「これだからしろうとはダメだ! もっとよく見ろ!」なんてやり取りがあったとかなかったとか。

 

「おい、アレどうやって飛ばしてんだ! 全翼機はともかく、円盤型航空機なんて初めて見たぞ! しかもエンジンノズルも見当たらないと来やがった!」

「時速4,800㎞ってマッハ4近いじゃねえか! こんな形状でどうやってそんな速度出すんだよ!」

「頼むから教えてくれ! それだけの速度を出し、かつこんな形状なのに衝撃波で機体がぶっ壊れない理由を!!」

「ええと、基礎的な話からになるのでものすごく長くなるんだけど…」

「「「時間は気にせん、飯も飲み物もアンタの分奢るから教えろください!」」」

「え、えぇー…こ、これの機関は『EMGエンジン』…『電磁重力系エンジン』って名前で……」

 

 そしてハウニブⅠの裏側では、多数の大日本皇国軍の航空技術者や造船技官、兵器設計士らを前にして、"釧路"が必死で「電磁重力系エンジン」の大まかなメカニズムを説明しようとしていた。

 

 戦車に至っては、オタクたちがずらっと群がっていた。というのも、出品された「九七式中戦車チハ」と「九五式軽戦車ハ号」は緑・黄・茶色の3色迷彩塗装な上に「知」と白文字で書かれた紋章が砲塔などにペイントされ、Ⅳ号戦車H型は全身小豆色に塗りたくられた挙句車体や砲塔の側面のシュルツェンに「洗」と書かれた妙な青と白の紋章とタラコ唇の桃色のチョウチンアンコウが描かれ、ティーガーⅠは鉄十字っぽい紋章に漢字3文字を書かれた挙句、車体ナンバーを「212」に描き直されていたのである。挙げ句に乗員妖精たちも各々コスプレさせられていたため、"推しキャラ"や"推し戦車"と記念写真を撮る人が後を絶たない。

 

 タウイタウイ側の出店はまず、1つめが「おみやげ」。何の捻りもない、ネーミング通りのお店である。販売されているのは"伊良湖"の最中や艦娘たちの歌を吹き込んだ円盤、"青葉"がすっぱ抜いた艦娘や提督の秘密のネタを書いた新聞など、艦娘絡みの品であり、飛ぶように売れている。

 2つめはあの「甘味くじ」。景品を全て当てようとする猛者がいたとか何とか…。

 そして3つめは「艦娘カフェ」である。コンセプトカフェの形を取り、調理を大日本皇国海軍の各艦が誇る烹炊員たちが、ウェイトレス役を艦娘たちが、それぞれ担うというものである。メニューも艦娘ゆかりのものになっており、安価なものでは"(はま)(かぜ)"のお茶漬けや"川内"のイワシの揚げ団子、「夜戦バカには負けない! 私たちの作った卵焼き、食べりゅ?」と称する"()()(くま)"のだし巻きと"(ずい)(ほう)"のニラ入り厚焼きのセットから、"大和"のオムライスやアイスクリーム、"(たつ)()"の竜田揚げ、"Bismarck(ビスマルク)"推薦のアイントプフ、"Saratoga(サラトガ)"のターキーサラダサンド、"間宮"の特盛りあんみつ、しれっと入り交じる揚げバターとうなぎのゼリー寄せ、海軍お約束のカツカレー、高価なものでは裏メニューとして"大和"のフルコースディナーや"赤城"の特大ステーキセットまで登場する始末である。

 

 

「大日本皇国の神谷 浩三様が到着されました」

 

 陸上では大日本皇国軍による「兵器改造コンテスト」などの催し物が一通り済んだ頃、「大和改二一九九」もとい「宇宙戦艦ヤマト」の第一艦橋に神谷が到着した。

 

「了解、お疲れ様」

 

 案内してきた"ヤマト"に堺がねぎらいの言葉を掛けるのと同時に、

 

「うわぁヤベぇぇぇぇ!! 本物の第一艦橋だぁぁぁぁ!!」

 

 キャラ崩壊するほどテンションの高ぶった神谷が、エレベータから降りてきた。そのまま艦橋をぐるりと見回し、天皇陛下の御前にも関わらずさらに興奮して叫ぶ。

 

「こ、これがマジの第一艦橋…! こっちは相原と南部の席、これは徳川機関長の席、向こうが雪のレーダー席、そっちは艦長席……! これ本物だよな!? 夢じゃねーよな!?」

「おーい浩三。陛下が目の前にいるんだが…」

「諦めろ慎太郎、聴こえてねーよ」

 

 川山と一色の会話すら耳に入らないらしい。苦笑しながら堺がそっと神谷の肩を叩いた。

 

「神谷長官、そろそろ現実にお戻りください」

「ああ堺司令…って、陛下!? 失礼しました!!」

 

 主君の存在に今更気付いたようだ。ここで、神谷は何かを思い出したらしい。

 

「ああそうだ堺司令。1つ、話というかお願いがあるのですが……」

「奇遇ですね、私からも神谷長官に1つ申し上げたき儀がございます」

 

 そして2人は、同時に話の内容を口に出した。

 

「この後の波動砲発射パフォーマンス、ヤマトにも参加していただきたい!」

「この後の波動砲発射パフォーマンス、本艦も参加させたいのですが!」

 

 堺と神谷はお互いに目を丸くした。

 その直後、第一艦橋内に笑い声が満ちた。堺と神谷は同時に噴き出し、川山は肩を震わせながら必死で口を押さえ、一色は腹を抱えて笑い転げている。"ヤマト"と天皇、それに他の随員までもが揃って苦笑していた。

 

「ハハッ…お見通しでしたか堺司令」

「ククク、そりゃあ分かりますって。神谷長官のオタクぶりを見たら、それくらいは想像できますよ」

 

 ひとしきり笑った後、堺と神谷は意識を切り替えて打ち合わせを始めた。

 

「大日本皇国の軍艦に関しては、当初の予定通りに並んでいただきたい。本艦は空中に位置取りますので」

「了解。では発射命令は我が軍のやり方で良いですか?」

「そうしましょう、そっちの方が混乱が少ないです。

それから神谷長官に1つお願いがあります」

「何でしょう?」

「合図は私がやりますので……神谷長官には、そこの戦闘指揮席に座って波動砲のトリガーを引いていただきたいのです」

「え……? え!?

つまり私に、ヤマトの波動砲を撃ってほしいと!?」

「そうです。よろしいでs」

「よっしゃやらせろくださいお願いします!!!」

「決断早いですねぇ、了解です」

 

 目をキラキラさせながら食い気味に叫ぶ神谷と、苦笑する堺。ともかくこれで話は決まった。

 

「それじゃ、そろそろ準備にかかりましょうか。ヤマトは飛ぶ必要がありますし、今から準備すれば良い時間になるでしょう」

「承知しました。こちらは貴国の軍に合わせますので、全体的な指示をお願いします」

 

 観艦式の最後を締めくくるイベント、それが大日本皇国海軍の主力艦による"波動砲"の一斉発射パフォーマンスである。元々は堺が「せっかくなので1つ派手なものを見てみたいです。国威発揚にもなるでしょうし」と注文したのを受けて、神谷が企画したものだった。

 これに急遽、宇宙戦艦ヤマトを加えようというのである。神谷としては、この機会を逃すなど絶対にあり得なかった。せっかく"波動砲"を名乗る砲が一堂に会するのだ、本家本元が参加しないなんてあり得ない、というわけである。

 

《それではこれより、本日の『軍観閲式』最後のイベント、波動砲一斉発射パフォーマンスの準備を行います。参加する軍艦は、我が皇国海軍が誇る艦隊旗艦級の戦艦クラスと空母クラス、それに我が皇国最強の戦艦たる『日ノ本』。そして、日本国のゲストから特別参加いただく『大和改二一九九』こと『宇宙戦艦ヤマト』です。我が海軍が誇る主力艦たちと、波動砲の本家本元たるヤマト、そのド迫力のコラボレーションをお楽しみください!》

 

 神谷が会場にアナウンスを入れる傍ら、第一艦橋では号令が飛び交う。

 

「波動エンジン、エネルギー注入準備! 微速前進0.5!」

「微速前進0.5、ようそろ!」

 

 熱田型戦艦や赤城型空母が集まってくる中、「ヤマト」が静かに海面を滑り始めた。

 

(うぉわぁぁぁぁ! 「新たなる旅立ち」で見た台詞回しそのまんまだぁぁ!!)

(やべぇぇぇ興奮が止まらんんん!! 俺たちのロマンが今、飛び立とうとしてる! 俺たちを乗せて!)

(か、身体が震えてる…! 俺たち、本当にあの「ヤマト」に乗ってんだな…!)

 

 3人とも必死に隠しているつもりだろうが、残念ながら表情に出まくっている。そんな彼らに苦笑する堺の隣で、操舵席(つまり島の席)に座った"ヤマト"が号令を飛ばした。

 

「補助エンジン、第二戦速から第三戦速へ!

波動エンジン、シリンダーへの閉鎖弁オープン!」

 

 「新たなる旅立ち」なら、ここで新米の機関班員がミスって非常ブレーキをかけてしまい、艦が緊急停止している。だが、今回はそんなミスは起きなかった。というか他国の要人どころか国家元首が乗ってる中でそんなミスをやらかしたら、赤恥どころの話ではない。

 集まってくる艨艟たちの間をすり抜け、「ヤマト」が次第に速度を上げていく。

 

「波動エンジン点火10秒前!」

 

 既に天皇は艦長席に案内されており、川山は索敵席(つまり森雪の席)、一色は航法席(太田の席)に座っていた。随員たちはそれぞれ砲術席(南部の席)と応急処置席(真田の席)に案内されている。

 ちなみに機関席には最初から機関長妖精が張り付いている。そりゃあそうだろう、この席ばかりは専門家が必要だ。

 

「神谷長官、そちらにどうぞ!」

「感謝します堺司令!」

 

 神谷が案内されたのは、よりにもよって戦闘指揮席(古代の席)だった。堺? "ヤマト"の隣にしがみついていますが、何か?

 

「5、4、3、2、1、0! フライホイール接続、点火!」

 

 "ヤマト"の号令の直後、艦後方からジェットエンジンの咆哮を数十倍に大きくしたような轟音が聴こえてきた。そして、待望の瞬間が来る。

 

「ヤマト発進!」

「ヤマト、発進します!」

 

 堺の号令を"ヤマト"が復唱し、操縦捍をぐいっと引いた。

 離陸するジェット機の中にいるような感覚が、全員を襲う。一気に加速した「ヤマト」は、やがてふわりと宙に浮き上がった。水平線が視界の下方へと吹っ飛び、夕焼け色の空が正面に来る。

 

(((うおぉぉぉぉ生の「ヤマト発進!」きたぁぁぁぁぁ!!!)))

 

 そして言うまでもなく、三英傑は全員テンションマックス状態である。

 

「右15度転換!」

「右、15度転換」

 

 空に飛び上がった「ヤマト」は、少し面舵を切って右へと回頭していく。

 この時神谷は、この台詞をどこで聴いたか思い出した。聞き覚えのある台詞だったのである。

 

(やってくれるじゃねえか堺司令! 旧作1作目とその劇場版から持ってきやがったな!)

 

 神谷のようにノーヒントで元ネタに気付いた読者の方には、こう申し上げたい。貴方は相当にコアな「ヤマト」ファンですね、と。

 

「マルチ隊形を取れ!」

「了解!」

 

 ゆっくりと針路を変更し、「ヤマト」は横一列に並んだ大日本皇国の主力艦たちの真上に陣取る。

 

(マルチ隊形って懐かしすぎんだろ! 「さらば」まで織り混ぜてきたのかよ、俺の涙腺が壊れるじゃねーか!)

 

 神谷、さっきから興奮しっぱなしである。その神谷に、通信席からヘッドホン型通信機を持ってきた堺が声をかけた。

 

「神谷長官、こちらは配置に着きました。既に艦隊との無線は繋いでありますので、指示をお願いします」

「…っ! ああ、分かった!」

 

 やっと我に返ったらしい神谷は、1つ息を吐くと命令を下した。

 

「ただいまより、波動砲の一斉発射パフォーマンスを行う! 全艦、波動砲発射用意!」

 

 この号令が出た時には、既に会場の方の準備は粗方済んでいる。このパフォーマンスを見ようとしている観客たちに、特製の黒いゴーグルが配布されていたのだ。

 波動砲発射時の閃光は、普通に失明しかねないほど強烈なものである。それを軽減するため、ゴーグルの配布が行われたのだ。

 

「神谷長官、すみませんが一度席をお立ちください。波動砲の照準を定めますので」

「ん、分かった」

 

 堺に言われて、神谷は素直に席を譲った。そういえば波動砲発射時は発射トリガーを操縦捍にしていたな、と思い出す。

 

「再起動時に備えて、艦内電源を非常用に切り替え!」

 

 「ヤマト」の艦橋が暗くなった。

 

「ヤマト、操艦をこっちに回してくれ(リクエスト・コントロール)

「了解。操艦を回します(ユーハヴコントロール)!」

受け取った(アイハヴコントロール)。照準を合わせる」

 

 堺、かなりバタバタである。せり上がってきた拳銃形の波動砲発射トリガーを握りながら、さらに命令を出している。

 

「波動砲への回路開け!」

「回路開きます。非常弁全閉鎖、強制注入機作動!」

「強制注入機、作動を確認。

安全装置解除。圧力、発射点へ上昇中、あとゼロ、2……最終セーフティ解除! 圧力、限界へ!」

 

 発射フェイズが進行するに従って、艦橋には独特の音が響き始める。そう、波動砲にエネルギーが充填されていく時の、階段を上がるようにだんだん高くなっていくあの音である。

 

「エネルギー充填80%!」

「ターゲットスコープ、オープン! 電影クロスゲージ、明度20!」

 

 戦闘指揮席に、戦闘機の照準器を思わせるヘッドアップディスプレイが飛び出してくる。

 

「軸線に乗った! 照準固定!」

 

 撃鉄を起こすと、堺は席を立った。

 

「神谷長官、どうぞ」

「ああ……感謝する!」

 

 堺に代わって神谷が席についた。そのタイミングで"ヤマト"が号令を下す。

 

「波動砲発射用意! 総員、対ショック、対閃光防御!」

 

 一瞬にして艦橋の窓に遮光フィルターが貼られた。同時に、艦橋内にいた面々は専用の黒いゴーグルを着用し始める。

 

「陛下、こちらを装着なさってください。これ以降、私が良いと言うまで外さないよう、くれぐれもお願いいたします」

「分かりました」

 

 第一艦橋の後方では、堺が天皇と一色、川山にゴーグルを配布している。

 

「長官、失礼します」

「ありがとう」

 

 戦闘指揮席に座り、発射トリガーに手をかけている神谷には、"ヤマト"が手ずからゴーグルを嵌めていた。

 

「エネルギー充填120%!」

 

 その報告を受け、さらに艦橋内の全員がゴーグルを装着したことを確認した"ヤマト"は、堺を振り返って報告した。

 

「波動砲、発射準備完了!」

「了解」

 

 いつの間にやら通信席にスタンバイしていた堺が、無線機のスイッチを入れる。

 

「大日本皇国軍・戦艦『日ノ本』へ、こちらヤマト、そちらの準備はどうですか?」

『こちら宗谷です。大日本皇国軍代表全艦、波動砲発射準備完了しました。いつでもどうぞ』

「了解! こちらも神谷長官がトリガーを握りました。これよりカウントダウンに入ります!」

 

 ついにこの刻が来た。高鳴る胸を抑えながら、堺は通信機に声を張り上げる。

 

「最終カウントダウン! 全艦、波動砲発射10秒前!」

 

 合図は大日本皇国軍式に行うことになっている。これは混乱を避け、一斉発射を確実に決めるためだ。

 

「9! 8! 7! 6! 5!」

 

 物音1つ立てるのも憚られるような重圧、一際甲高くなった波動エネルギーの充填音。

 

「4! 3! 2! 1!」

 

 そして。

 

「「「『発射!』」」」

 

 無線機の向こうからその号令が届くと同時に、堺、"ヤマト"、神谷の号令が重なった。そしてカチッと音を立て、神谷がトリガーを引く。

 次の瞬間、ピカッ! と青白い閃光が激しく光った。超新星爆発が目の前で起きたかと錯覚するほどの光量だ。そして、

 

ズドオォォォォォォン!!!!

 

 10条以上もの青い光のビームが、水平線めがけて飛んでいった。夕陽の赤に波動砲の青が非常に映える。

 素晴らしい見映えに、観客席からはこれまでで一番の歓声が上がる。そして盛況のうちに、軍観閲式は終幕を迎えた。

 

「あ、そうだ、せっかくの機会ですから記念撮影でもやりませんか? もちろん、堺司令とヤマトさんも交えて」

「私たちは構いませんが…彼女が艤装から離れられないので、撮影するとしたらとりあえずこの艦の上ですね」

「なら、前部甲板にしましょうか。主砲と艦橋をバックにする形で」

 

 ということで、軍観閲式が終わった直後、「ヤマト」に乗り込んでいた面々は写真撮影することになった。

 ここで神谷が取り出したのが……

 

「おまっ!? いつの間にそれを…!」

「へへーん、ゲットしたぜ。……向上をちょっとパシらせちまったけど」

「何やってんだよ浩三……」

 

 あの"丸められるスマホ"である。軍観閲式の準備の時に、"釧路"にねだってゲットしたのだ。川山や一色ですら手に入れていないというのに、ある意味ズルである。しかも、ちゃんと基本的なアプリ類も入っているため、皇国内で普通に使える代物になっている。

 

「まま、固いことは言わずに……」

「よし、後でコイツ締めよう」

「名案だな、乗った。陛下にすら献上してない物を勝手に持つとかねーしな」

「ちょ、待てお前ら!?」

 

 さすがの神谷も、天皇陛下の名を出されては慌てるしかない。

 その時突然、神谷、いや、その場にいた全員の背筋に凄まじいプレッシャーが走った。

 

「その辺にした方がよろしいのではないでしょうか? 陛下の御前ですよ?」

 

 そのプレッシャーを発しているのは、他ならぬ"ヤマト"である。何度も絶体絶命の危機を乗り越え、地球を救い続けてきただけあって、彼女のプレッシャーは半端ではなかった。

 

「「「アッハイ」」」

 

 一瞬で大人しくなる三英傑。

 

「分かればよろしいです。さあ、記念撮影といきましょうか」

 

 ということで予定通り、「ヤマト」の第一主砲の前で撮影となった。カメラは天皇の随員が持っていた一眼レフと、神谷のスマホである。随員の方に撮影してもらう形となった。

 

「それではいきますよ…はい!」

 

 何度か同じ動作を繰り返し、2台合わせて10枚近い写真が撮られた。それが終わると、天皇は随員と共に退艦し、川山と一色もそれについていった。"ヤマト"も艦内の報告を聴きに行ったため、残ったのは神谷と堺である。「ヤマト」の艦橋を見上げながら、先に神谷が口を開いた。

 

「堺司令、改めてご参加いただきありがとうございました。艦娘たちと交流できただけではなく、まさかヤマトに乗艦して波動砲の発射までできるとは、思ってもみませんでした。本当に、感謝の言葉が見つからないくらい深く感謝しております」

「それはこちらの台詞ですよ神谷長官。これほどのビッグイベント、それも貴国の君主たる天皇陛下の御即位20年という節目を祝えるイベントに参加できたこと、光栄の至りです。こちらこそ、ありがとうございました」

「いえいえ。堺司令のところの艦娘たちが参加してくださったおかげで、今回の式典は開催前からものすごい反響でしたよ。それこそ、歴代のどの天皇陛下の統治の節目を祝う軍観閲式よりも、大いに盛り上がりました」

「そんなに盛り上がったのですか?」

「ええ。具体的に言うと、軍の公式チャンネルにおける広報動画の再生回数はなんと全バージョンが1億回を突破し、コマーシャルも再放送に次ぐ再放送。しかもあちこちの放送局からオファーがありましたので、軍広報部には結構な額が入っています。その上、コマーシャルや広報動画の新バージョンが出る度にネットの掲示板やらTwitterやらではこの話題がほぼ毎回トレンド入り、それも上位のトレンドばかりでした。

極めつけには、広報のために張り出したポスターは軒並み盗難の被害に遭ってしまいました」

「えぇ……」

 

 オタクの熱意は凄まじい…と、改めて感じる堺であった。

 

「そう言われてみれば、広報用の動画やら写真やらの撮影が始まるのとほぼ同時に、うちに来る観光客が一気に増えてました。しかもバカンスに来たのかと思いきや、揃いも揃ってうちの艦娘たちが目当ての方ばかりでしたから、規則や指示の厳守を必死に呼び掛ける羽目になりましたよ。貴国の方々が礼儀正しい方ばかりだったのが幸いでした」

「オタクたちも分かってますからね。自分1人の勝手な行動で他の大勢に迷惑をかけるようなことがあってはならない、と。もしそんなことをすれば、未来永劫出入り禁止なんてことにもなりかねないのですから。

貴国が我が国で何と呼ばれているか、ご存知ですか? 『聖地中の聖地』ですよ。そんな重要な聖地を汚すなど、あってはならない、というわけです」

「……何と言うか、妙なところで筋を通しますね、貴国のオタクたちは……」

 

 会場からの喧騒が海風に乗って聴こえてくる。イベント自体は全て終わったのだが、軍艦の見学やら艦娘たちとの交流やらで帰ろうとしない人が多いらしい。

 現に、既に陽が落ちて暗くなっているにも関わらず、ライトアップされた軍艦に向けられるビデオカメラやフラッシュが途絶えない。また、よく目を凝らすと来客が艦娘たちに話しかけ、軽い握手会やサイン会、撮影会になっているものまで散見される。

 

「これだけ盛り上げることができたのも、堺司令と艦娘たちが参加してくださったおかげです。重ね重ね、本当にありがとうございました」

「とんでもない、お礼を言うのは私の方ですよ。こんなめでたきイベントの末席に連ねてくださり、ありがとうございました」

 

 固い握手を交わす神谷と堺であった。

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 次の瞬間、景色は一変していた。さっきまでの華やかなイベントは消え去り、代わりに堺の目の前には茶色い板のようなものがある。その上に多数の紙、いや書類が折り重なっていた。

 

「何だ…!? 夢か…?」

 

 堺が顔を上げると、そこはいつもの見慣れた提督室だった。背後の窓から太陽が差している辺り、どうやら執務中に居眠りしてしまったらしい。

 

(何だったんだ今の夢……えらく長くてリアルだったな……)

 

 頭を横に振って意識を切り替え、仕事に戻る堺であった。




というわけで私の特別編にありがちな、夢オチで終わる話でした。
数えてみると、今回のコラボだけでざっと10万文字は書いてる……いつも以上に文字数がえらいことになりました。

最初にぶっちゃけてしまいましたが、今回は、いや今回も、コラボ企画です。といっても正月の時ほどではなく、1作品としかコラボしていませんが。
今回コラボさせていただいたお相手は、鬼武者様の「最強国家 大日本皇国召喚」です。召喚二次の1つですね。潔いまでの「俺TUEEEEE」ぶりが特徴です。

鬼武者様、コラボさせていただきありがとうございました。
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