鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
さていったい何をやらかしてくれたやら。やらかす前提なのか、とツッコミが入りそうですが、そこはまあ、ね?
中央暦1643年10月17日、第二文明圏列強ムー国 首都オタハイト。
白レンガを建材として作られた建物が整然と立ち並び、日本人の感覚でいうと大正時代頃の東京の街並みを思わせる街が、王城を中心として広がっている。そんな街の一角に、ムー統括軍総司令部はある。
ムー統括軍総司令部もまた、レンガ作りの建物になっており、日本人が見れば広島県呉市にある旧日本海軍呉鎮守府の建物に似ていると感じるだろう外観である。その建物の1階にある広めの一室が、ムー統括軍広報部に割り当てられた部屋だ。
広報部は文字通り、ムー国の一般国民、及び第二文明圏諸国に対するムー統括軍の顔となる部署である。その仕事は、「オタハイト・タイムズ」「チャーチワード・ポスト」「マイカーリア・ステーション」等のマスメディアからの取材への対応、記者会見の開催、新兵募集ポスターの企画考案など多岐に渡る。
その広報部ではこの日、新たな新兵募集のための宣伝の手段を模索すべく、会議が行われていた。そしてそこで、新たな画期的なアイデアが出た。
「今回の統括軍の新兵募集の手段についてですが……私から、新しいアイデアを提案させていただきたく思います。お手元に配布した資料をご覧ください」
広報部に配属されて間もない若き男性職員、マイク・ロムルスはそう言って、会議出席者たちを見渡した。さらさらと紙がめくられる音が連続した後、会議室がざわざわとざわつき始める。そのざわめきを全身で感じながら、マイクは説明を開始した。
「今回の新兵募集の手段は、例年通りのポスターの他に専用の宣伝映像を撮影・放送することにしたいと考えています。
グラ・バルカス帝国との戦争が始まって以来、我が軍には1人でも多くの軍人が……特に軍艦の乗組員と飛行機乗りが必要です。そのことは皆様重々ご承知のことと存じます。
また、このところの報道合戦の様子から、映像を用いた広報戦略は特に有用であると確信するに至りました。従いまして、従来から行われてきたコマーシャル放送だけではなく、広報専用の映像を撮影してそれを特別番組にて放送する、という手段を取りたいと思います」
研究熱心なムー国は、ロデニウス連合王国から伝わった兵器類の解析以外にも、同国のマスメディア「青葉メディアグループ」の広報戦略にも注目していた。これは、軍の情報士官マイラスの提言によるものである。
あのマスメディアは、やたらと質の高いアニメ作品や映画をこれでもかと放送してくる。その強烈な印象のせいで忘れがちだが、マイラスはちゃんと気付いていた。このメディア会社は、ロデニウス軍の広報の一環も担っており、相当に質の高い映像作品を作ることができるに違いない、と。
ということで、おそらく最先端を行っているだろうと思われるロデニウスのマスメディアを参考にすることで、新兵獲得の効率を上げようというのである。
「具体的にはどうするのだ?」
「それにつきまして、お願いがございます。ロデニウス連合王国の大手マスメディア『青葉メディアグループ』と連携し、新映像を撮影したいのです。
聞けば、ちょうどロデニウス側も新たな軍人の獲得のために宣伝映像を撮ろうとしているそうです。それに便乗する形です」
「なるほど…して、映像の内容はどうするのだ?」
「はい、今回は軍艦の乗組員及び航空機パイロットの生活の様子を追いかける形にしたいと思います。1日の生活の様子を映像にして見せることで、入隊後の生活を想像させやすくするのが狙いです」
「ふむ、よく分かった。
映像作成の方針については、それで良いと思う。ロデニウス連合王国のマスメディアとの連携も許可しよう」
「は、ありがとうございます!」
マイクはビシッと敬礼した。
「ああ、そうだ。重要なことを聞いておきたいのだが…映像作品のモデル、つまり出演する将兵を誰にするかは、もう決まっているのか?」
上司の質問に、マイクは1つ頷いて口を開く。
「はっ、今回の映像の出演者は……」
その翌日、オタハイト近郊 ムー統括空軍基地。
「私に、広報活動に協力して欲しい、ということですか?」
朝っぱらから司令室に呼び出された空軍のパイロットの1人、ジャック・メルティマ中尉が意外そうな声を上げていた。
「ああ。君は、我が統括空軍の若手パイロットの中でも抜群の武功を立てている。その君なら、空軍の一般兵パイロット募集のための宣伝映像のモデルとして相応しい、と広報部から話があったんだ。それに、君は見た目も凛々しく、広告塔としては申し分ない、とも評価されている。そこで、今回の空軍一般兵募集映像は、君にモデルを頼みたい。
今我が統括空軍は、1人でも多くのパイロットを欲している。戦闘機、爆撃機、雷撃機、偵察機、どの飛行隊でもだ。ムー統括空軍の未来は君の働きにかかっている、と言っても過言ではない。心して任務に臨んでもらいたい」
基地司令の言葉に、メルティマはビシッと敬礼した。
「そういうことでしたら、承りました。小官に、務めさせてください!」
「うむ、頼む。それでは早速だが、今日の午前中の飛行訓練が済んだら、オタハイトの統括軍総司令部1階にある広報部の部屋を訪ねてくれたまえ。詳しい話はそこでするそうだ。機種転換訓練で多忙な君には、少々済まないとは思うが、よろしく頼みたい」
「承知しました!」
メルティマは元々、陸上基地航空隊に配属され、戦闘機「マリン」を駆って戦っていた。だが、2月の第一次バルチスタ沖大海戦における兄ジャン・メルティマ中佐(2階級特進済)の戦死を受けて、母艦塔乗員としてグラ・バルカス帝国と戦い、ムー国を守りたいという意志を固めた。そのため、彼は最新鋭戦闘機「ロ式43型艦上戦闘機 アラル」を与えられ、既に実戦を経験している。今は空母への配備に向けて、短距離発着訓練の最終課程を受けている。
新たな任務を受け、メルティマは退室していった。
同日午後、ムー国南部 商業都市マイカルにて。
「今年の広報モデルはまさかの俺かよ……」
ムー海軍最新鋭の戦艦「ラ・エイヒ」艦橋にて、ムー海軍の士官ラッサン・デヴリン大佐は、辞令を2回読み返してため息を吐いた。
「乗るべき艦をドック送りにされてる俺に、何をしろってんだ」
ラッサンは元々、ムー国産の
「なになに…?」
辞令と共に渡された企画書を開き、内容を確認するラッサン。と、次の瞬間、彼の顔から一気に血の気が引いた。一瞬にしてひどい重病人のように青白くなった顔のまま、ぎこちない視線の動きで企画書を三度見し、ラッサンは震える唇から声を絞り出す。
「嘘だろ……本気で言ってんのかこれは…!」
企画書にはこう書いてあったのだ。
『ラッサン殿はロデニウス連合王国で研修を受けておられたと聞き及びます。今回はそのロデニウス連合王国からの支援も得られることになりましたので、「ラ・エイヒ」の慣熟訓練を兼ねて、かつて師事したロデニウス軍の方と合同訓練をお願いします』
大変である。
(あ、あの血も凍る内容の訓練を、またやらされるのかよ…!)
ロデニウスに留学していた際、ラッサンは指導教官から筆舌に尽くしがたい超絶スパルタ研修を受けた。その時の内容と畏怖がフラッシュバックする。
「はぁ……生き残れるかな、俺…」
そう呟くや、ラッサンは両肩を落とした。
その一方、「青葉メディアグループ」の方でもプロパガンダ映像が撮影されようとしていた。
「えー、本日はムー大陸で戦っている第二文明圏連合軍の皆さんのうち、ムー大陸南部の戦線で戦う軍の皆さんを取材しに来ました!」
テレビカメラの前でマイクを持って喋っているのは、灰色が混じった桃色の髪をポニーテールにまとめ、セーラー服を着た女性……言うまでもなく"青葉"その人である。記者として取材にあたっていたと思ったら、今度はリポーターに抜擢されたのであった。彼女もなかなか忙しい身である。
ちなみにであるが、何気にメディア映像に艦娘が出演するのは今回が初めてである。
「今、第二文明圏連合軍の皆さんは、グラ・バルカス帝国を相手に必死の戦いを繰り広げております。その結果として、あの強大なグラ・バルカス帝国軍はなんとじりじりと後退しており、旧レイフォル領も少しずつ解放されつつあります」
特に緊張する様子もなく、"青葉"は平然とリポートを続ける。
「この快進撃の秘密はいったい何なのか、それを探りたいと思います!
というわけで、今回は第二文明圏連合軍に参加し最前線で戦っている、ロデニウス連合王国軍の部隊を取材します!」
もちろんだが、"青葉"の出演はサクラである。自国の軍の精強なることを前面に打ち出して国民の戦意を称揚することで、新兵獲得に繋げようという魂胆である。
適当な軍人を捕まえ(という体で事前に出演をお願いしている)、"青葉"はインタビューのマイクを向けていく。何人かに取材したところ、概ね次のような答えが返ってきた。
『我が軍の戦車が優秀、ということではないか』
実際に戦車に乗り込んでいるという兵は、グラ・バルカス軍が撃ってきた砲弾をあっさり弾き返した、と証言した。その証拠として、戦車の前面装甲に付けられた弾痕を拡大撮影した写真を見せてくる。
ちなみにこの写真と戦車乗りの証言は、全て本物である。本物の証言を織り混ぜることで信憑性を高めると共に、万が一グラ・バルカス帝国側が映像を盗み見ていた場合に備えて欺瞞情報をばらまこうという狙いがあった。
「優秀だという我が軍の戦車、気になりますねぇ! さっそく見に行ってみましょう!」
インタビューを終えた"青葉"は、すぐさま展開する戦車隊の方へと足を向ける。テレビカメラが1台の戦車を大映しにした。
その戦車は、幅広の履帯とそれを支える複列点輪の足回りを持ち、箱を数段積み重ねたような形状をしている。そして、どっしりとした佇まいの車体の上部には、長い砲身を持つ大砲を載せていた。ロデニウス軍最強の戦車、「Ⅵ号戦車E型 ティーガーⅠ」である。
「えー、これが我が軍の戦車です! 大きいですねぇ!」
"青葉"の言う通り、「ティーガーⅠ」は小屋ほどもあるのではないかという大きさに見える。
「これはとても強そうに見えますね。さっそく乗員の方にお話を聞きたいと思います!」
すぐさま“青葉”は、戦車の近くでスタンバイしていた軍人にマイクを向けた。
なお、この軍人というのはかの妖精”クルト・クニスペル”である。妖精化に伴ってTSしてしまっているが、男物の軍服を着込み、軍帽の下に無理やり髪を押し込んで隠しているため、パッと見は男性軍人に見える。
「我が軍のこの戦車には『ティーガー』という名が付けられている。グラ・バルカス帝国人がいうなら『ティゲル』というところだ。
戦車の役割は幾つも挙げられるが、この『ティーガー』の最大の役割は味方部隊の先頭に立ち、敵の守りを食い破って味方の進撃路を切り開くことだ。そのため『ティーガー』には、如何なる敵戦車の砲弾をも弾き返す重装甲と、如何なる敵戦車も一撃で破壊する強力な主砲が備えられている」
普段の素行不良ぶりからは想像もできないほど、落ち着いた様子で淡々と説明していく妖精クニスペル。なかなか斬新な絵面である。
ちなみに、「
「ほうほう、その性能を是非とも見てみたいですねぇ!」
「いいだろう、ちょうど今から演習を行うところだ。存分に見ていくと良い」
というわけでなんと実演である。
最初に行われたのはずばり、「耐久試験」。その内容とは…
「なんとこちら、グラ・バルカス帝国の戦車を戦場で鹵獲したものだそうです!」
“青葉”の声と共にカメラが大写しにしたのは、グラ・バルカス帝国軍の「2号中戦車 ハウンドII」である。これまでの戦闘で鹵獲されたものの中から、比較的良好な状態のものを持ってきたのだ。
ちなみに操縦については、「九七式中戦車チハ」と大して変わらない操縦方式であることが判明したため、捕虜にしたグラ・バルカス帝国人に話を聴く必要すらなかったそうである。
「これの主砲で『ティゲル』を撃って、その防御力を証明してみせるというのです!」
パッと聴いただけでは、なんとも凄まじい試験内容である。しかもなんと、ゼロ距離で砲弾を撃ち込むというのだ。
「大丈夫なんですか、こんなことして?」
「まあ、見てれば分かる」
自信満々の様子でそう言う妖精クニスペル。
やがてテストが始まり、「ハウンドII」の主砲弾がゼロ距離で「ティーガーI」の前面装甲に撃ち込まれた。強烈な衝突音、そして爆発が起こる。「ティーガーI」は大丈夫か、貫徹されたのではないか、と思われたが…
「見ての通り、だ」
妖精クニスペルの言葉通り、「ティーガーI」の前面装甲には凹みと焼け焦げの跡こそあったものの、貫徹されてなどいなかった。
「ハウンドII」の主砲・48口径47㎜砲の装甲貫徹力は、距離500メートルで65mm程度である。射距離0メートルだと80mm程度の装甲を貫徹できる。貫徹力で言えばまあまあのものがある…のだが、残念ながら「ティーガーI」相手には性能不足である。
「ティーガーI」の車体前面装甲は、厚さ100mmもあるのだ。
「では、今度はこちらの番だな。少し距離を取る」
そう言うと、妖精クニスペルは「ティーガーI」を反転させた。カメラが急いでそれを追う。
「ハウンドII」からかなり離れたところで、妖精クニスペルは「ティーガーI」を停止させた。
「ここから狙う」
もはや「ハウンドII」は、肉眼では豆粒程度の大きさにしか見えない。
「距離はどれくらいあるんですか?」
“青葉”の質問に、妖精クニスペルは「砲手に訊いてみる、少し待ってくれ」と言って車内に姿を消した。ややあって戻ってくる。
「ざっと1㎞だそうだ」
「1㎞ですか!?」
結構な距離がある。
「ここから撃って、当たるんですか?」
「問題ないだろう」
妖精クニスペルがそう言った時、「ティーガーI」の主砲が動き始めた。長大な砲身が上下に動きながら旋回していき、やがてぴたりと止まる。
「それじゃ始めるぞ!」
砲塔から上半身を乗り出したまま、妖精クニスペルが叫んだ。
「
次の瞬間、「ティーガーI」の主砲が轟然と咆哮した。目を焼くような黄色い発射炎が広がる。
発砲から少しして、豆粒のように見えていた「ハウンドII」が黒煙に包まれた。その中から強烈な火柱が上がる。
「命中、撃破だ」
妖精クニスペルが、一瞥しただけであっさり答えた。
実際、「ハウンドII」の近くに設置していた別カメラでは、飛んできた砲弾が「ハウンドII」の前面装甲を一撃で貫徹し、搭載された弾薬に誘爆して大爆発を起こす様子がはっきりと映っていた。
やがて黒煙が収まってみると、「ハウンドII」は砲塔を吹き飛ばされて真っ黒焦げとなり、見るも無惨な姿になっていた。
「ざっとこんなもんだ。1㎞離れていても目標を一撃で仕留められる火力、そしてゼロ距離で撃たれても貫通を許さない重装甲。これが『ティゲル』の強さだ」
「なるほど、良いものを見せていただきました! ありがとうございました!」
“青葉”の挨拶と共に、撮影終了の合図が入った。
そして、ムー統括軍広報部は空軍パイロット募集のための新たな宣伝映像を作成し、番組として発表した。それはマイカーリア・ステーション等の放送局によって、ムー国内全域に放送された。
映像の内容は、統括空軍の若手士官パイロットであるジャック・メルティマ中尉に密着しての取材映像というものであった。1日の生活の様子を捉えた密着取材に始まり、飛行訓練の様子、訓練課程の概要説明や軍に志願した動機、これまで彼が参加した作戦と戦闘の経過など、様々な内容が盛り込まれている。このため、空軍に志願してくる新人にも仕事内容がイメージしやすいものになっていた。
また、海軍士官ラッサン・デヴリン大佐の生活を追った映像も公開された。若年ながらムー期待の新鋭戦艦を預かる優秀な艦長として、彼は映像の中で「ラ・エイヒ」の艦長代理を見事に務め上げている。
そして、1時間に及ぶその番組の締めを飾るのが、スタッフロールである。時間にして4分程度の映像だったのだが、その出来栄えも秀逸だった。
この広報映像とスタッフロールを作成するにあたり、ムー統括軍広報部はやたら気合を入れた。なんとロデニウス連合王国の「青葉メディアグループ」と連携した挙句、ロデニウス連合王国軍をも動かしたのである。ロデニウス側もちょうど陸軍や海軍の新人パイロットを募集するための映像を撮ろうとしており、それに便乗したのだった。
具体的には、ムー統括軍広報部は「青葉メディアグループ」から日本製の小型カメラを拝借し、それを戦闘機のコクピットに設置してパイロットの表情を撮影することで臨場感を大幅に引き上げた。また、当然のように映像内に登場する自国の戦闘機は、全て実機である。
こうなってくると「青葉メディアグループ」とロデニウス軍部も本気を出す。楽曲の提供はもちろん、自国の「零戦」や「彗星」がグラ・バルカス帝国軍機に似ているのをいいことに、塗装をグラ・バルカス帝国式に塗り直して敵機役として出演させる。しかもこの映像を撮るためだけに、空冷エンジンを製造して「彗星一二型甲」を無理矢理「彗星三三型」にし、敵の「シリウス型爆撃機」そっくりにしてしまうという気合いの入れようであった。さらに、各部隊の戦闘機が搭載するガンカメラの映像や軍艦上で撮影された記録映像も提供した他、実際に戦闘機も飛ばしたし、なんと海上での編隊飛行の様子を撮影するため
BGMとして使用されているのは、なんと日本で作曲された曲の1つ「◯□ノ鳥」である。この曲は日本でいうところの「ボカロ曲」の1つであり、当然歌っているのはボーカロイドなのだが……著作権が切れているのを良いことに「青葉メディアグループ」側が撮り直しを行い、歌を艦娘の”
スタッフロールに使われた映像は、ムー統括空軍のパイロットたちが「アラル」に乗り込み、地上整備員がイナーシャハンドルを回してエンジンを始動しようとしているところから始まる。このシーンだけで、歌詞の最初の2行(スローテンポで歌われる部分)が歌われる。
その後、曲のテンポが上がってロックっぽい曲調になると同時に、ロデニウス軍の戦闘機「
そして「水平線……」と1行目の歌詞が始まると同時に画面は切り替わり、まず翼を広げて青空を舞う海鳥が映され、その後カメラが下にパンされて海を進むロデニウス艦隊の航空母艦「蒼龍」が映し出される。飛行甲板に並ぶ航空機は、既に暖機運転を完了しており、甲板員が両手に持った紅白の旗を振り下ろして「発艦始め」の合図を送る。
歌詞は「その瞳に……」の行に移行し、それと同時に「
歌詞が「その羽で……」に入ったと同時に画面は切り替わり、発艦した直後の「
曲がサビの前半部分に突入した瞬間にまた場面が変わり、メルティマの乗る「アラル」を「アンタレス」が……正確には「アンタレス」そっくりに塗装された零戦が追い、機銃を発射する。20㎜機銃の射撃をギリギリで左旋回して
また、サビの後半部分から間奏の部分にかけては、「第二次バルチスタ沖大海戦の記録ーグラ・バルカス帝国艦隊を攻撃するロデニウス軍航空部隊ー」と称する映像が一部公開された。それは、グラ・バルカス帝国海軍の空母部隊に対して攻撃を敢行するロデニウス軍航空部隊の様子である。艦上戦闘機「烈風一一型」や「零戦53型」が蜂の群れのように飛び回り、敵戦闘機を迎え撃つ。その援護を受けながら、艦上爆撃機「
ちなみにこれは、コードネーム「ハイネセン」…"蒼龍"、"飛龍"、"
2番目の歌詞の出だし「地平線……」が始まると同時に、映像の舞台は地上へと戻り、飛行服に着替えて「アラル」に搭乗するメルティマの姿が映し出される。暖機運転を終えた「アラル」は、最初はゆっくりと、それからだんだん速く滑走路を走り、ふわりと浮き上がって飛び立っていく。
歌詞が「◯□ノ鳥は……」の部分に移行すると、ロデニウス軍の母艦航空隊が美しい密集隊形の編隊を組んで飛行する様子が映され、「更なる空……」の部分では陸上基地から発進する「F-104 スターファイター」の映像が流される。レシプロ機とは比べ物にならない速度で離陸し、飛び立つと同時に機首を大きく上向けて一気に空へと舞い上がる「F-104」の姿は、迫力満点だ。そして何気に、同機の初のメディア露出である。
歌詞がサビの部分に入ると、メルティマの空戦の様子がコクピット内の様子も交えて映される。敵機に後ろを取られ、必死の表情で操縦桿を引く彼の姿からは、かなりのリアルさが伝わってくる。といっても、あくまで模擬空戦なのだが。
敵戦闘機(役として出演しているロデニウス軍の零戦)の追撃を何とかかわし、メルティマはグラ・バルカス帝国軍の爆撃機「シリウス」(に扮したロデニウス軍の「彗星三三型」)に機銃を浴びせる。黒煙を吐き、爆弾を捨てて離脱する「シリウス」役の「彗星三三型」。それを確認したメルティマは、向かってくる新手の敵戦闘機の姿を見て緊張の色を顔に浮かべた。
曲が間奏に入ると、再び第二次バルチスタ沖大海戦の映像が公開された。今度のタイトルは「第二次バルチスタ沖大海戦の記録ーグラ・バルカス帝国航空部隊を迎え撃つロデニウス軍艦隊ー」となっている。
軍艦の艦橋と見られる場所で、機械を操作していた女性が口パクで何かを叫ぶ。その下には「敵機大編隊、接近!」という字幕が表示される。
直後にカメラが切り替わり、艦橋中央に座する艦長職と見られる女性が、右腕をうち振りながら何かを叫んだ。字幕は「対空戦闘用意!」となっている。
またカメラが切り替わり、艦内通路を忙しく走るクルーたちの姿が映し出される。が、奇妙なことに、その全てが女性クルーである。男性が見当たらない。甲板に走り出て対空機銃に取り付くクルーも、全員女性である。
実はこれ、第二次バルチスタ沖大海戦時に重巡洋艦「
三度カメラが切り替わり、海上を高速で走るロデニウス軍の艦隊が映し出された。そこに映る巨大な戦艦…「
映像が切り替わると、今度は空いっぱいに広がる対空弾幕が映し出された。その中で、流れ星のように尾を引いて流れる黒煙がいくつか見える。被弾した敵機が燃えながら墜落しているのだ。(なお技術秘匿のため「四三式弾」による対空射撃はカットされた)
急降下から墜落に転じ、燃えながら空母「
ややスローなテンポで「響け彼の命の…」と歌われ始めた時、映像もスロー再生に切り替えられた。その中で駆逐艦「
テンポと曲調が変わって「◯□ノ鳥は…」とサビが歌われ始めると、再び空戦の様子が映される。敵戦闘機を相手に必死で逃げるメルティマは、一瞬の隙を衝いて操縦桿を思い切り引き、機体を垂直に立てた。次の瞬間、メルティマの乗る「アラル」は一気に失速し……追尾してきた敵戦闘機「アンタレス」(に扮したロデニウス軍の零戦)の真上を飛び越え、背後を取った。
何かを…おそらく「落ちろ!」とかの内容を叫びながら、メルティマは発射把柄を握る。発射された機銃弾は見事に敵機(役)に突き刺さった。黒煙を吐き出す敵機(役)からパイロットが脱出するのを確認し、メルティマは額の汗を拭う仕草を見せる。
最後に、空戦を終えたメルティマの「アラル」が着陸してくる様子を映しながら、『製作:ムー統括軍広報部』『協力:ロデニウス連合王国軍、青葉メディアグループ』という字幕が表示され、映像は「終」という文字と共に終わる。
結論から先に言えば、今回のこの広報企画は大成功に終わった。
番組が初放送された次の日から、ムー統括軍の徴兵センターには問い合わせや入隊申し込みが増加。中には「エンドロールのあの曲に引かれた」といった話も聞かれたそうな。
さらに「青葉メディアグループ」がこの話に便乗し、「◯□ノ鳥」をレコードに焼き付けて、他の日本製楽曲と共に販売を開始。これまたヒットを叩き出している。
また、放送された番組は、当然ながらロデニウス海軍第13艦隊でも視聴されていた。
「……ほほー、随分と良い出来映えじゃねえか」
第13艦隊ムー派遣部隊・旗艦「
堺は、同席している2人の空母艦娘に笑いかける。
「飛龍、蒼龍、お前ら良い仕事したな」
「でしょー。これで、今年の航空隊の新人はたくさん入ってくれるよ!」
如何にも一仕事した、という満足そうな笑みを浮かべて胸を張るのは、「二代目人殺し多聞丸」こと”飛龍”である。彼女と”蒼龍”は、今後の作戦計画の話し合いに参加したついでに、「夕食にご招待」という名目で堺に引き止められ、そのまま番組を視聴していたのだ。そして、なかなか本格的なローストビーフをご馳走になっていたのである。
このローストビーフ、なんと作ったのは堺である。実は彼、元々料理は苦手だったのだが、嫁カッコカリに教わったことである程度のものは作ることができるようになったのである。料理の素人にローストビーフを仕込んでしまうとは、さすが”
ちなみにであるが……”飛龍”は相方の”蒼龍”や一航戦の2人には負けるものの、それでもかなりボリューミーなものをお持ちである。そのため、彼女が胸を張った拍子に、ナニがとは言わないがたゆんと揺れた。ただ、この程度は堺には何ともない。何せ彼の嫁カッコカリはアレなのだし。
「そうだ、どうせならあの曲、お前らの十八番にしちまってステージで歌ってみるか? 南雲機動部隊の中で専用曲持ってないのお前らだけだろ。加賀は言わずもがな、瑞鶴や翔鶴も1曲は歌ってるんだし」
「おっ、いいね提督! これで私たちも、那珂ちゃんみたいにアイドルデビューかな?」
「ちょっ、飛龍に提督、それはちょっと恥ずかしいよ……」
ノリの良い”飛龍”とは対照的に、”蒼龍”にはオンステージは少々ハードルが高いようだ。
なお”蒼龍”は、ナニがとは言わないが非常に大きい。それこそ正規空母艦娘勢の中では”
ちなみに結果から言うと、今回の広報番組は見事に成功に終わった。
映像が放送された翌日から、ムー国でもロデニウス連合王国でも徴兵センターには長蛇の列ができる羽目となり、徴兵検査に合格できた者たちは栄誉の座を夢見て訓練に励むこととなる。
また、ロデニウス側では艦娘の魅力を活かした宣伝が図に当たり、結構な数の新兵が海軍に殺到したことで、新たな軍艦を動かす目処が立った。特に第4艦隊(ロデニウス大陸西方沖でグラ・バルカス特務軍艦隊と戦い、再建途上にある艦隊)に配備された者たちは、第13艦隊の艦娘たちに指導を受けながら練度向上に励むこととなる。
ムー大陸での一斉反攻作戦「バグラチオ作戦」が発動して約2ヶ月、第二文明圏連合軍は着実にレイフォリアへと近付いていた。
北部戦線では、グラ・バルカス帝国の激しい抵抗によってムー統括陸軍第一軍の動きがやや鈍っており、当初の予定より進軍が遅れているものの、それでもレイフォリアまであと1,800㎞の位置まで迫っている(2ヶ月程度で1,200㎞の進軍である)。
中部戦線では、旧ヒノマワリ王国領を横断した中央軍集団がついに旧レイフォル領へと迫り、国境を死守するグラ・バルカス帝国軍との間で激しい攻防戦を繰り広げている。グラ・バルカス帝国側も奮戦していたが、制空権を第二文明圏連合軍に握られたことが祟り、タマネギの皮が剥けるように少しずつ抵抗力を失いつつある。
そして南方戦線では、レイフォリアから国境までの距離が約3,000㎞あるにも関わらず、その約7割を踏破した南方軍集団が快進撃を続けている。グラ・バルカス帝国軍は必死に抵抗していたが、戦車などの機甲戦力の多くを北部や中部に持っていかれている上に、そのなけなしの機甲戦力も野戦砲も
ムー大陸におけるグラ・バルカス帝国の勢力圏は、少しずつ縮小しつつある。
またお前かアオバワレェ!
このところ彼女の活躍多いですね…自分でいうのも何ですが。
でもまさかボカロ曲を持ってくるなんて、誰に想像できたでしょうか?
そして実は、「ティーガーI」の宣伝には史実ネタが入っています。「ティーガーI」は、1㎞離れたところから41㎝×46㎝の大きさの標的を狙って射撃し、5回連続で命中させた記録があるのです。そんなことができるのなら、メートル単位の大きさがある「ハウンドII」を一発でスナイプするくらい、訳無いですよね。
新たにお気に入り登録してくださった皆様、そしてお読みくださる皆様、ありがとうございます!
おかげさまをもちまして、UA120万超えを達成できました!
次回予告。
鳴り物入りと言わんばかりに派手に宣伝された、ロデニウス軍の戦車「ティーガーI」。大げさな宣伝かと思いきや、実は全て本物の実力である。そしてまた、その実力が遺憾無く発揮される…
次回「急襲する虎、迎え撃つ闘犬」