鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
中央暦1643年11月24日、グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ。
この国は世界征服を宣言し、その第一歩としてムー大陸の攻略に乗り出していたが、現在ムー大陸における戦況は全くの予想外かつ芳しくない状態になっている。突然現れたロデニウス連合王国の艦隊によって、ムー大陸西部の制海権を押さえていた東部方面艦隊が壊滅。さらに、属領となっていたパガンダ島とイルネティア島が陥落したことで、本土とムー大陸の勢力圏が切り離されてしまった。中央第2艦隊や潜水艦隊「リーテ」を送り込んで再奪取を図ったものの、どちらも撃破されてしまい、ムー大陸に展開する陸軍部隊は蛮族どもの一斉反攻によって窮地に立たされている。
この状況を打開すべく、帝国軍はついに残る主力艦隊の全てを動員して、作戦行動続きで消耗しているであろうロデニウス艦隊を確実に全滅させ、再びムー大陸西部の制海権を確保しようとしているのだ。
ラグナに隣接する広大な港には、海が見えなくなると錯覚するほど多数の艦艇が集まっている。それも、戦艦や航空母艦といった主力艦が多数集まっているのだ。
ラグナ軍港に集結しているのは、北部方面艦隊と南部方面艦隊である。戦艦8隻、空母16隻、巡洋艦は大小合わせて48隻、駆逐艦144隻、総数216隻。これだけでも、そこらの国をあっさり滅してしまえるほどの大兵力である。
それだけではなく、母艦航空隊の戦闘機には「アルコル」…あの「アンタレス改」が含まれており、爆撃機は信頼性の高い「シリウス」と最新鋭機「アルタイル」の併用、そして雷撃機には旧来の「リゲル」の他に新開発の「デネブ」が使われている。この「デネブ」は、搭載量こそ「リゲル」と同じ800㎏だが、最高速度が100㎞/h近くも向上し、強力な性能を有するとみられるロデニウス軍の雷撃機にも引けを取らないだろうと見積もられている。
ちなみに「デネブ」は性能でいえば旧日本海軍の艦上攻撃機「
集まった艦艇に搭乗する将兵、そして軍艦を一目見ようと港に集まった群衆に向けて、皇帝グラ・ルークスがラジオの放送回線を使い言葉を送っている。
『諸君は偉大なる帝国の名声と未来を担う軍人であり、誇り高き戦士たちである。我らの前に如何なる敵現るとも、我らはそれを撃破し、光輝ある我が帝国は覇道を突き進むのだ!
此度の大規模外洋合同演習にて、諸君にはそのことを今一度強く認識してもらいたい』
将兵たちは、皇帝の御言葉に一糸乱れぬ敬礼を以て応えた。そして群衆は歓喜の声を上げる。
歓呼の中、出港ラッパが鳴り響き、艦隊は静かに動き出した。警戒にあたる駆逐艦が先頭を務め、その後に戦艦や航空母艦といった主力艦が、巡洋艦や駆逐艦の護衛を従えて静かに港を出ていく。
ちなみにこの艦隊の出港は、国民に対しては"国威発揚と練度向上を兼ねた大規模合同演習"と発表されている。相変わらずムー大陸方面の戦況については箝口令が敷かれているのであった。
艦隊を見送る群衆の中には、壮年くらいの夫婦が1組混じっていた。その夫婦が心の内に秘めているものは、強く美しい艦隊を見ての感想ではなかった。もっと別のことである。
「大丈夫なのかしら、うちの子……」
不安そうな表情で呟くのは、茶髪をポニーテールに結った小柄な女性。彼女の名はキャサリン・デルフィーノ。
「あれだけの艦隊が出撃するんだ…大丈夫だろうと信じよう」
そう言ってキャサリンの肩を抱くのは、豊かな顎髭を蓄えた短髪の男性。マーク・デルフィーノである。
お察しの通り、この2人の子こそマキ・デルフィーノである。ムー大陸での戦況を予想し、娘の身を案じているのだ。
実を言うとこの2人、今回の艦隊の出撃目的が「外洋演習」にあるとは全く考えていない。この艦隊の出撃目的が「ムー大陸方面での敵艦隊の撃破」であること、そしてそれが、現在の戦局の苦しさの裏返しであることに、2人はなんとなく気付いていたのだ。
マークは、かつて海軍に所属していた時の経験と、現在勤務している造船会社の受注システムから、軍艦の新規建造の発注と損傷艦艇の修理依頼がやたら増加していることに気付いていた。また、彼の知り合いの船乗りからは、ムー大陸に入植者を送る移民船団の出港許可がいつまで経っても降りない、と愚痴を聞かされている。その2つの情報を比較して、マークはムー方面の戦況が思わしくないのだろう、と感じていた。
また、キャサリンは薬剤師として民間人向けの薬局をやっているのだが、最近病院からの受注が爆発的に増えている。しかも発注元を調べると、どうも軍から注文されているらしいのだ。また、看護婦として病院に務めている彼女の友人は、最近ひどい傷を負った軍人が入院してくることが増えた、と言っていた。こうしたことから、彼女もまた、今回の戦争が容易ならぬものであることを薄々感じ取っていた。
ちなみにこの負傷兵たちというのは、第二次バルチスタ沖大海戦で負傷した東部方面艦隊の将兵である。
「そうは言っても、あなた……」
そこまで言ったところで、キャサリンの表情が歪んだ。肩を震わせ、マークの胸に顔を埋める。微かな嗚咽が聞こえてきた。
(君の気持ちはよく分かる…私だって同じ思いだ。娘の身に何かあったら、と思うと、不安で仕方ないんだから)
2人にできることは、娘の無事を祈ることだけだった。
同じ頃、グラ・バルカス帝国本土の別の港からも大規模艦隊が出港していた。戦艦3隻、空母8隻、巡洋艦23隻、駆逐艦76隻、計108隻の艦隊である。こちらはグ帝海軍の西部方面艦隊である。
艦隊の旗艦は、ヘルクレス級戦艦「アルファ・ケンタウリ」。その艦橋で、西部方面艦隊司令官のガルディオ・ガリデー中将は水平線を睨み据える。
ガリデーは筋肉質ではあるのだが身長が低く、そのためその攻撃的で積極果敢な指揮と相まって「猪武者」と呼ばれている。
「ロデニウス艦隊が相手になるかもしれん、か…。手強い相手には違いないだろうが、バルチスタでの戦いから5ヶ月しかなく、しかもイルネティア沖でさんざん戦い続けてるんじゃ、修理は十分にはできていないだろう。一息に叩き潰してやる!」
ガリデーは瞳の奥に、闘志の炎を燃やす。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、グラ・バルカス帝国領レイフォル州 州都レイフォリア郊外 統合基地ラルス・フィルマイナ。
ムー大陸攻略・支配の最重要拠点となっているこの基地の一角には、帝国情報局レイフォル出張所が併設されている。その一室にて、青ざめている男が1人。
「まずいな、この『
情報技官のナグアノである。彼の手には、数枚の写真が握られていた。それには、巨大な大砲を搭載した戦車が写っている。
「ハウンドⅡの48口径47㎜砲を、ゼロ距離で弾き返すほどの重装甲…それに、1㎞先からあっさりハウンドⅡの前面装甲を撃ち抜く主砲……!」
以前、ムー国内にて放送されていたという新兵募集用の宣伝番組の写真である。何でこんなものがあるのかというと、外務省のレイフォル出張所がムー国のテレビ番組を盗み見ており、そこにこの戦車「ティゲル」が登場したらしいのだ。その放送画面を撮影した写真である。
「俺が分析したところによると、この『ティゲル』のおおよその性能は、車体前面装甲は最低でも厚さ90㎜…! そして、主砲は砲身長50口径以上、砲口径80㎜以上…!」
端的に言ってバケモノである。
こんな怪物が前線に出てきていたのか……と、ナグアノは戦慄を覚えざるを得なかった。
「道理で我が軍の戦車隊、それも無敵のハウンド中戦車を装備した部隊が負ける訳だ…!
何だこの怪物は!? こんなの…大口径榴弾砲か野戦高射砲の直射でもない限り、倒せないじゃないか!」
ナグアノの分析では、現在グラ・バルカス帝国軍が保有する如何なる装甲戦闘車輌を以てしても、「ティゲル」を倒すのは至難の業である。「ハウンドⅡ」ですらこの始末なのに、それより装甲貫徹力の低い主砲を持つ「ハウンドⅠ」や「シェイファー」シリーズでは到底敵わないだろう。
また、帝国本土では「2号重戦車ワイルダー」が走行試験をクリアしたところである。制式採用はまだだが……ナグアノには、この開発中の重戦車でも「ティゲル」を倒せないだろうとしか思えなかった。
(ワイルダーの主砲は18口径70㎜砲だと聴いている。だが、それでは厚さ90㎜の装甲なんて、とてもじゃないが貫徹できないぞ!
逆に、この「ティゲル」から撃たれた場合、ワイルダーの車体前面装甲は40㎜、砲塔正面の防盾でも50㎜だから、遠距離からでも一撃でやられる可能性が高い…!)
非常に厄介な敵が出てきたものである。
(問題はそれだけじゃない、ムーまでもが厄介なものを出してきやがった…!)
次にナグアノは、別の写真を手に取った。それは、撃破されて戦場に放棄されたムーやロデニウスの装甲戦闘車輌を調べている味方の写真である。
現在ムー大陸においてグラ・バルカス帝国軍は押されている状態だが、北部や中部では戦術的勝利を収めたこともあった。その際に擱挫して放棄された敵の戦車や自走砲を、グラ・バルカス帝国軍は滷獲して調べたのである。その結果、とんでもないことが判明したのだった。
(ロデニウス軍の主力戦車は、車体前面装甲80㎜、側面30㎜、後面20㎜程度…主砲は48口径75㎜砲…! そしてムーの戦車も似たようなもので、車体前面装甲50㎜前後、側面も似たようなもの、主砲は48口径75㎜砲…!)
これだけでも、ハウンド中戦車が苦戦する訳がよく分かった。
(しかも恐ろしいのは、これが数的主力を担う戦車だということだ…! 我が軍でも、数的主力はシェイファーⅡ軽戦車であり、ハウンドシリーズは前線突破用に精鋭部隊にしか配備されていないのに…!)
そしてナグアノは、1つの結論に達した。
「グレードアトラスター級戦艦は沈められ、アンタレス戦闘機は多数撃墜され、そしてハウンドシリーズの中戦車も敵わぬ相手、か……もう我が帝国軍の兵器は、無敵とは言えないんだな……」
敵の反撃の最前線たるレイフォル州にいる身としては、ナグアノは「ティゲル」を含む敵の戦車が最大の脅威だと感じていた。
グレードアトラスター級戦艦は、撃沈されこそしたものの敵戦艦に大破相当の被害を与えたと分析されている。「アンタレス」も、被撃墜数は多いが敵機の撃墜報告も挙がっており、ある程度抵抗できているのが分かる。だが「ティゲル」に対しては、互角以上に戦える戦車が存在していない。対抗手段を増やす必要がある。
(
ナグアノは頭を悩ませる。
なお、ナグアノは知る由もない。ロデニウス軍が「ティゲル」こと「ティーガーⅠ」すら性能不足と判定して、更なる性能強化型を……車体前面装甲を傾斜付180㎜複合装甲に大幅強化し、車体側面・後面も傾斜付80㎜複合装甲に強化、そして主砲として71口径88㎜砲又は68口径105㎜砲を搭載した「ティーガーⅡ改」を前線に出そうとしていることを…。
そしてナグアノの悩みの種は、これだけではない。
(南部管区の軍の被害が鰻登りになっていると思ったのは、こいつらが原因か…)
ナグアノは机に広げられた別の写真に目をやった。それには、巨大な金属のリングのような飛行物体と、奇怪な形状をした航空機が写っている。
(虫みたいな形状の自走砲や装甲ペラペラの魔法人形しか機甲戦力がないんで、何とかなると思っていたが、やはりパル・キマイラが手強すぎる…!)
写真に写る「パル・キマイラ」を、恨みがましい視線で睨み付けるナグアノ。
(装甲が厚すぎて陸軍の高射砲では撃墜不可能、とんでもない連射速度と正確な照準を両立した機関砲のせいで航空戦力は近寄れない、それでいて陸軍にとっては破滅的な威力を持つ重砲クラスの砲撃をバカスカ撃ってくるだと!? どうやって戦えば良いんだ!)
「パル・キマイラ」が撃墜可能な存在であることは、既に証明されている。だが、そもそも陸軍は戦艦の主砲クラスの大口径砲なんて有していない。あったとしても、それをあの空飛ぶ戦艦に的確に命中させるなんて技量がないだろう。
結論から言えば、グラ・バルカス帝国陸軍単独で「パル・キマイラ」を相手取った場合、撃墜はおろか損傷させることすら困難だ。
(それに、何だこの航空機は!?)
ナグアノの目には、その機体は恐ろしく奇妙に見えた。何せまずプロペラがないのだ。エンジンらしきものはあるにはあったが、なんと機体の後部上面という異様な場所にある。2つに分かれた垂直尾翼は、ナグアノにはまだ理解できたが、この奇怪なエンジンの配置は全くもって意味不明だった。
(国籍章からするとロデニウス軍の機体らしいが、どうやって飛んでいるんだ!? こんなエンジン見たことがないぞ! それにどうやったら、こんなところに配置したエンジンで空を飛べるんだ!?)
それは、最近になって前線に出現した航空機で、グラ・バルカス帝国軍はこの機体を「空の魔王」と呼んで大変に恐れていた。対空機銃を浴びせてもどういうわけかなかなか撃墜できず、逆に敵機から発射される凄まじい機関銃の弾幕と、主翼の下にまでぶら下げた大量の爆弾によって、グラ・バルカス帝国軍の兵器が木っ端微塵に打ち砕かれてしまうのである。しかも、この爆弾にはまことに凶悪な代物が2種類もある。1つは炸裂するや大量の炎を波のように周囲一帯にぶちまけ、燃える物は物資だろうと人だろうと十把一絡げに飲み込んで焼き尽くしてしまう。もう1つは空中で数百個単位の小爆弾に分裂して着弾し、グラ・バルカス帝国軍の抵抗を文字通りに面単位で粉砕する。戦車だろうが対空陣地だろうが、この爆弾が落下した後には何も生き残れない。こんな爆弾を10発も抱えて飛んでくるというのだ。さらに、この航空機は機首に強力な機関銃を仕込んでおり、そこから発射される大量の弾幕は「ハウンド」中戦車だろうとハチの巣に変えてしまう。
そして止めに、なんとこの航空機はどうやら夜間戦闘能力を持っているらしく、「夜間に空襲を受けた際、この機が発する独特のエンジン音をはっきり聞いた。さらに、敵機があの”火炎爆弾”を投下してきたこと、凄まじい勢いで機関銃を撃ってきたことから、襲来したのは”空の魔王”で間違いないと結論する」という報告が複数上がっている。それだけではなく雨の中でも飛んできたという報告があるところから見て、時間・天気を問わず飛べるらしい。
グラ・バルカス帝国の前線部隊、特にロデニウス軍と対峙している部隊は、「ティゲル」と並んでこの航空機を「最大の脅威」と報告していた。
(こんな奇妙な配置のエンジンなのに、10発なんてバカみたいな量の爆弾を、「アンタレス」くらいの大きさしかない機体に搭載できるだと!?)
信じられない、という思いでナグアノはその機体…ロデニウス連合王国軍が投入した「A-10B改 サンダーボルトII」を見詰める。
グラ・バルカス帝国軍の機体だと、「リゲル」が800㎏爆弾1発を搭載できるが、「空の魔王」は搭載爆弾の重量が250㎏だとしても2,500㎏もの爆弾を抱えられるのだ。こんなとんでもない搭載量、どうやって実現するというのか。
(中型のベガ型双発爆撃機でも実現できない爆弾の搭載量……もしやこのエンジン、それほどハイパワーなのか?)
ナグアノは必死に頭を悩ませる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
中央暦1643年11月25日、パガンダ島 旧王都パガンディール跡。
グラ・バルカス帝国海軍の攻撃により、7日7晩に及ぶ苛烈な空襲と艦砲射撃に晒されたパガンディールは、最終的にグラ・バルカス帝国陸軍の攻撃によって占領された。町はほとんど焦土と化し、住民は老若男女・貴賤の別を問わず殺された。西方の文明圏外諸国との中継ぎ交易で栄えていたこの町は、王国の終焉と共に灰塵に帰したのである。
動くもののない焼け野原となったこの地は、その後グラ・バルカス帝国海軍の拠点の1つとして用いられ、「ダイモス軍港」の名前を与えられていた。そのグラ・バルカス帝国軍も、今はもうこの地どころかパガンダ島のどこにもいない。ロデニウス軍の攻撃によって島が陥落し、その際に玉砕を遂げたからだ。
そんな元ダイモス軍港には、多数の鋼鉄艦の姿があった。
丈高い艦橋を以て周囲を睥睨し、大口径の主砲を振りかざす海の王者、戦艦が12隻。
平べったい甲板が特徴の、新時代の海軍の主力たる航空母艦が、大小合わせて17隻。
空母機動部隊の護衛を担う、俊敏そうな巡洋艦が大小合わせて27隻。
巡洋艦よりもさらに小さい船体ながら、縦横無尽に海を駆ける駆逐艦が70隻。
これらの船全てのマストに翻るのは、赤い太陽を描いた白地の旗……旭日旗と、ロデニウス連合王国の国旗。
そして、それらの艦艇群の中心に君臨するのは、戦艦ですら駆逐艦にしか見えなくなるほどの圧倒的スケールを誇る1隻の巨艦。武装はあまり見られないが、主砲の代わりに突き出た4つものクレーンのおかげでどことなく無骨な感じがする。この船こそ、改舞鶴型移動工廠艦の「
ロデニウス連合王国海軍第13艦隊・ムー派遣部隊。水上戦闘艦、潜水艦、補助艦艇全てを合わせると総数132隻に及ぶ大規模艦隊である。
世界各国からしてみると、この艦隊こそ最も期待が高い海上戦力だった。何せ、第一次バルチスタ沖大海戦で世界連合艦隊を破ったグラ・バルカス帝国の主力艦隊を完全に叩きのめして、ムー大陸周辺の制海権を奪還したのが、この艦隊なのだ。その後もこの艦隊はイルネティア・パガンダ攻略、「バグラチオ作戦」の側面援護など獅子奮迅の活躍を見せており、特に第二文明圏内外の諸国はこの艦隊を「無敵艦隊」と見なして最大の期待をかけている。……当の第13艦隊側はそんなことを知る由もないが。
その第13艦隊の旗艦である戦艦「
「マイクチェック、ワン、ツー。総員に告ぐ、提督の堺だ。
いよいよ、グラ・バルカス帝国の主力艦隊が迫ってきた。軽く見ても300隻に達するだろう大兵力だ。その内訳はざっと、戦艦10、空母25、巡洋艦60、駆逐艦多数と見積もられている。この規模と編成だけ見ても、彼らが並々ならぬ決意で挑んできているのが窺える。
だが我々は、侵略の矢面に立たされている第二文明圏諸国を救うため、ひいてはこの世界の平和を獲得するために、全力を投入して勝利を収めなければならない。
こちらも新兵器を準備し、それを使いこなすためにありったけの訓練を重ねた。また、新たな防空システムも完成を見た。これまでの練磨と経験を活かして皆と共に戦う限り、負けることはないと信じるものである。諸君の奮戦に期待する! 以上だ」
スピーチ嫌いの堺にしては、今回は頑張った方だろう。
無線通信を切ると、堺は
(これで全ての準備はできた…。
いくら独立第1飛行隊の諜報能力が高いとはいっても、グラ・バルカス帝国軍の全てを把握しきるのは困難だ。もしかすると、この前の"新型アンタレス"のように、敵さんが新型機を投入してくる可能性がある、というか高い。
だが、それとて計算済みだ。第二次大戦末期のアメリカ機動部隊の防空網をたたき台にして、考えられる限りのアレンジと火のような練磨を経て築き上げられた「三段防空システム」……何度シミュレートしても、たとえ相手が「AD-1 スカイレイダー」のような末期レシプロ機であろうと、あるいは"アレ"であろうとも、この防空システムを突破する可能性は最大3パーセントだ。
突破できると思うなら、やってみるがいい。この辺一帯の海底を、鉄とジュラルミンのスクラップで埋め尽くしてやる!)
堺と艦娘たちは、迫り来るグラ・バルカス帝国艦隊に対して闘志を燃やす。
そして実は、ムー派遣部隊の艦娘たちには黙っていたが、堺はあと1人、タウイタウイ泊地から艦娘を呼び寄せていた。その子こそ、今回の海戦で堺が繰り出す「切り札」である。
(将来的にはいつか装備換装が必要だと思っていたからな。
お前さんが色々と弄ってアップデートを繰り返していたらしいが、その成果を見せてもらうぜ、"釧路"!)
◆◇◆◇◆◇◆◇
同じ頃、ムー国北部オリョール県 港街スカパ・ブロー。
パテルと並んでムー海軍の一大根拠地となっているこの街の海軍基地にも、ここに停泊する艦隊の司令部にも、緊張が走っていた。
「『グラ・バルカス帝国の大規模艦隊が接近中、我迎撃に当たらんとす。貴軍は自国防衛に全力を注がれたし』……署名はあの堺司令か」
ラ・カサミ級戦艦「ラ・サヒア」の艦橋にて、ムー統括海軍第1機動艦隊司令レイダー・アクセル少将は呟いた。その手には、さっき通信士から渡された無線通信が文章化されて書かれた紙がある。
ついにグラ・バルカス帝国が動いたらしい。レイダーが恐れていた敵が、迫ってくるというのだ。
堺からの連絡と時を同じくして、首都オタハイトのムー統括軍本部からも命令書が届いている。そこには、第1機動艦隊は全艦を動員して、打って出るのではなく防戦に務めよ、と書かれていた。
「万が一敵の別動隊が襲来した場合とか、あるいはロデニウス艦隊が敗れた場合に備えておけ、ってことか」
口ではそう言ったが、レイダーにはあのロデニウス艦隊が負けるとはとても思えなかった。
忘れもしない第一次バルチスタ沖大海戦の折、レイダーが率いていた機動部隊はグラ・バルカス艦隊にこっぴどく叩かれ、世界連合艦隊も多数の艦艇を失って大敗した。あの時の屈辱は、今もはっきり覚えている。
そのグラ・バルカス帝国艦隊を叩きのめし、パガンダやイルネティアの奪還作戦で名を馳せたのが、堺率いるロデニウス艦隊なのだ。
イルネティア奪還を目的とした「ユーラヌス作戦」では、レイダーの艦隊はロデニウス艦隊と共同し、敵艦隊を撃滅、イルネティア島への上陸作戦を戦っている。その際に目にしたロデニウス軍の力の一端は、戦慄と共にレイダーの脳裏に刻み込まれていた。アイオワとかいう戦艦から発射された「誘導弾」によって無慈悲に叩き潰されていったグラ・バルカス帝国軍の姿は、衝撃そのものだった。
そんなロデニウス艦隊が負けるとは、とても思えない。だが、万が一の備えはしておかねばならないだろう。
「ロデニウス艦隊ならばそうそう負けることはないと思いますが…戦に絶対はありませんからな。我が艦隊も備えておかなければいけないでしょう」
参謀長シギント・サーマン准将が静かな口調で言った。レイダーはそれに頷いてみせる。
「そうだな。まずは『ラ・マギア』に航行訓練を兼ねて退避を命じよう。護衛駆逐艦4隻を付けて、オタハイトに向かわせる」
「今回の相手は、ヒヨッコには荷が重すぎますからな」
当たり前だが、訓練未了の艦なんて到底戦えるものではないから、戦場ではお荷物にしかならない。さっさと退避してもらうに限るのである。
「それが済み次第、宴の準備か」
「はい。今度は我々も頑張らねばなりません」
レイダー率いるムー機動部隊は、戦闘準備に入る。
今回は戦闘準備回でした。次回より本格交戦です。
ちなみに堺の演説は、ちゃんと元ネタがあります。「宇宙戦艦ヤマト」ファンの方なら、お気付きいただけると思います。
UA122万突破、お気に入り登録3,000件以上達成、そして総合評価が12,000ポイント目前…! 本当にありがとうございます! 感謝です!
評価10をくださいました弥生味噌様、阿拉斯加様、もなもろ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
多数の艦艇を派遣し、ムー大陸西部の制海権を再奪取せんとするグラ・バルカス帝国。そのうち1個艦隊、西部方面艦隊は、ムー大陸の南部を目指す。それを待ち受けるロデニウス海軍第13艦隊主力。ニグラート連合・バルチスタ岬沖海域に、再び戦火が燃え上がる…!
次回「ムー大陸西方大海戦 eins 第三次バルチスタ沖大海戦」