鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
第三次バルチスタ沖大海戦、これより開戦です。
中央暦1643年12月3日 午前4時30分、パガンダ島西方150浬沖。
やっとこさ東の空に茜が差し始めようというこの時間帯に、航空機のレシプロエンジンの轟音が冷えきった大気を震わせる。それは、飛行甲板に整列した複数の航空機から発せられていた。まだ闇の底に沈んでいるような状態だが、甲板を照らす薄明かりに照らされ、どことなくほっそりした胴体が窺える。
海上を西へ突き進むロデニウス連合王国海軍第13艦隊、その空母機動部隊の一翼を担う航空母艦「
「そうね、大物を狙っていきましょう!
索敵機、頼んだわよ!」
艦橋に陣取る艦娘"蒼龍"のかけ声と共に、列の先頭にいる機体の
それは、今回初めて実戦投入された改良型の艦上偵察機…「
「蒼龍」から発進した「彩雲一二型」は全部で6機。これと同時に、空母「
その目的は、付近にいるだろうグラ・バルカス帝国の主力艦隊を見つけ出すこと。
グラ・バルカス帝国主力艦隊が出撃した、という通報を受けて、ロデニウス第13艦隊の司令部は色めきたった。艦隊司令官の堺 修一中将は、直ちに独立第1飛行隊に連絡を取り、グラ・バルカス艦隊の進路を見極めよと命じた。同時に艦娘たちに対して出撃準備を発令する。
必死の索敵の末に敵艦隊の進路を割り出した堺は、グラ・バルカス主力艦隊1個を第13艦隊の総力を以て打ち破るべく、出撃命令を出した。そして今に至るというわけである。
元々ムー大陸に派遣されたロデニウス艦隊は、第1艦隊と第13艦隊の連合部隊である。堺はこのうち第1艦隊と補給用の輸送船団を分離し、コードネーム「エメラルダス」を与えて後方警戒に当たらせた。そして第13艦隊主力を「アルカディア」と「デスシャドウ」の2個分艦隊に分け、敵艦隊を迎え撃とうとしている。
堺が直率しているのは「アルカディア」であり、これもまた3個の任務群に分けられている。
《「アルカディア」各任務群の編成》
第1任務群 コードネーム「デスティニー」
戦艦
航空母艦
重巡洋艦
航空巡洋艦
軽巡洋艦
駆逐艦
第2任務群 コードネーム「リバース」
戦艦
戦艦空母
航空母艦 加賀、蒼龍、飛龍、
重巡洋艦
航空巡洋艦
軽巡洋艦
駆逐艦
第3任務群 コードネーム「ファンタジア」
戦艦
航空戦艦
航空母艦
重巡洋艦
航空巡洋艦
軽巡洋艦
重雷装巡洋艦
駆逐艦
補助
なお毎度ながら、各コードネームには元ネタがある。当てられたら……貴方はきっと結構なオタクでしょう。
各任務群の陣形は、いずれも輪形陣である。第1任務群が先頭に立ち、その左右後方に第2・第3任務群が布陣して、逆V字の陣形を取っていた。
「これで索敵機の発進は完了か……」
少し時間が経った後、戦艦「長門」のCICで堺はそう呟いた。彼の前に置かれたアクリルボードには、発進した索敵隊の飛行ルートが描かれている。
第二次バルチスタ大海戦の折、第13艦隊の索敵機が雲の下に隠れていた敵艦隊を見逃してしまい、その結果先手を取られたことがある。その失敗を繰り返すまいと、堺は各任務群に対して二段索敵を命じていた。これで見落とすことはまずあるまい、と思わせるレベルである。
「後は、索敵機からの報告を待つだけだな。
無線封鎖を解除し、各艦に対空警戒を発令せよ。それと朝食もだ。腹が減っては戦はできん」
第13艦隊・第1分艦隊「アルカディア」は、臨戦態勢に入っていた。
ロデニウス海軍第13艦隊から発進した索敵機たちは、あらかじめ決められた索敵コースを進む。そのうちの1機、「蒼龍」から発進した索敵2番機の「彩雲一二型」のコクピットで、機長兼操縦士を務める妖精が後席の2人に尋ねた。
「どうだ? 何か見えるか?」
『何も見えません!』
『こちらも同じく。空、海共に異常無し!』
伝声管からは、きびきびした答えが返ってきた。
グラ・バルカス帝国軍がレーダーを使用していることは、ロデニウス側でも把握していた。このため、この「彩雲一二型」は機長妖精の判断で、30分ほど前から飛行高度をたった200メートルに落として飛行している。これで敵のレーダー探知をできる限り避けると共に、敵戦闘機による迎撃をも極力回避することを狙っていた。ただ、こんな低高度を飛行するとこちらも艦影を見つけにくくなるため、一種の賭けである。
ようやく朝日が昇り、空は少しずつ明るくなってきているが、日射しはやはり夏と比べると弱い。だが腐っても日射であり、眩しいものは眩しい。
こういう時、怖いのは太陽を背に敵機が襲ってきた場合だ。もし気付くのが遅れれば、いかに俊足の「彩雲一二型」といえども、最高速度を発揮する前に撃墜される可能性が高い。もともとこの機は最高速度と航続距離に性能を極振りしており、防御力なんて無いに等しいのだから。
しかも、敵戦闘機には「烈風一一型」すら苦戦するほどの速度を出せるものが現れている。そいつが相手なら、なおさら警戒しなければならない。
『左正横に艦影! 水平線付近です!』
唐突に、2番席に座る偵察員妖精が叫び声を上げた。
「確認する!」
機長妖精は操縦桿を左に傾けた。機体が緩い左旋回に入る。
「あいつか!」
機長妖精の口から、そんな言葉が漏れた。
大小幾つもの黒い影が見える。そのうち4つが、文鎮のような平べったい形をしていた。
「ビンゴだ!
味方艦隊に打電しろ! 『敵艦隊見ユ。位置、《パガンダ島》カラノ方位250度、420浬。敵ハ空母4隻ヲ伴フ。マルロクフタマル(6時20分発、の意味)』!」
「『敵艦隊見ユ。位置、《パガンダ島》カラノ方位250度、420浬。敵ハ空母4隻ヲ伴フ。マルロクフタマル』。友軍宛、打電します!」
3番席に座る電信員妖精が復唱する。それを聞きながら、機長妖精は左旋回をかけて機体の針路を反転させる。
その時、敵艦がチカチカッと何度も光った。
「っ、見つかったか!」
機長妖精が舌打ちした直後、「彩雲一二型」の周囲でドン、ドンと音が響き、黒煙が空に沸き出した。敵艦隊が小癪な偵察機の存在に気付き、対空砲を撃ってきたのだ。
「逃げるぞ!」
一声叫んで、機長妖精はスロットル・レバーを押し込んだ。
たちまち「誉」発動機がものすごい咆哮を上げ、尻を蹴飛ばされたように機体が加速する。
その時、急に機体がガクンと右へ傾いた。同時に右の主翼のすぐ近くで黒煙の花が咲き、破片が機体や主翼を叩く激しい金属音がする。対空砲の至近弾による爆圧で、機体が傾いたのだ。機長妖精はとっさにフットバーを左に蹴りつけ、機体のバランスを保つ。
「前上方から敵機! 数2!」
偵察員妖精が緊張の声を上げた。
ワシのように舞い降りてくる敵機の姿を目にするや、機長妖精は操縦桿を押し倒した。
会釈するように「彩雲一二型」が機首を下げ、海面に向かって降下していく。その尾翼を、敵機の機首から飛んできた火箭が掠めた。もう1機の敵機の機銃掃射も、寸でのところでかわす。
「敵機、反転! 追ってきます!」
「スロットル全開! 我々の機体について来れるか!?」
機長妖精は機首をやや上向きにし、全速力で機体をかっ飛ばした。速度計の針が勢いよく回転し、時速650㎞を超えてもまだ加速していく。
『敵機、追い付けません! 離されていきます!』
偵察員妖精の歓喜の声が飛び込んだ。
旧来の「彩雲一一型」だったら、追い付かれていたかもしれない。時速700㎞目前という俊足を叩き出す「彩雲一二型」だからこそ、敵機を振り切れたのだ。
敵機の姿が見えなくなってもフル・スロットルで飛び続ける中、電信員妖精が伝声管越しに叫んだ。
『打電完了!』
そして偵察員妖精が、もう見えなくなった敵機に向けてあっかんべーをしながら"お約束の一言"を放った。
「ざっとこんなもんよ! 我に追い付く敵機無し!」
「金剛から報告。『リバース』全空母から、攻撃隊発進完了。敵空母部隊に向けて進撃を開始しました!」
通信長妖精からの報告に、堺は黙って頷いた。
戦艦「長門」のCICは騒然とした雰囲気に包まれている。
今から25分ほど前、第2任務群「リバース」にいる「蒼龍」の索敵2番機が「敵艦隊見ユ」と無線を送ってきたことで、「長門」CICに詰めている第13艦隊司令部は色めきたった。さらにその10分後、今度は第1任務群「デスティニー」から、「敵艦隊見ユ。位置、《パガンダ島》カラノ方位270度、425浬。敵ハ空母4隻ヲ伴フ」と無線が送られてきた。
事前の偵察情報と、舞い込んだ2つの電文を組み合わせ、堺は敵主力艦隊1個を完全に捕捉したことを確信した。今回はどうやら先手を取れそうだ。
だが、少し前に「デスティニー」の前方に展開するピケット部隊から「我、敵機ノ触接ヲ受ク」と無電が入っている。見つかったのはあくまでピケット部隊だが、敵がこちらと同じくレーダーピケット艦戦術を取っているのなら、こちらの空母の大まかな位置を割り出し、航空機を送り込んでくるだろうと堺は睨んでいた。
既に「デスティニー」には「対空戦闘用意」が発令されており、着々と準備が整えられている様子である。序盤は襲来する敵航空部隊を迎撃し、敵が撤退した直後に攻撃隊を繰り出して反撃する手筈だ。
「こりゃあ、前と同じように激しい叩き合いを覚悟せにゃならんかもな」
堺は人知れず呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
この世界の各国にとっては恐怖の対象となるものたちが、編隊を組んで空を飛ぶ。金属製の胴体に羽ばたかぬ翼を持ち、その鼻先では何かが高速で回転していた。翼と胴体後部には、十文字に区切られた赤い円が描かれている。
それは、グラ・バルカス帝国の空母から発進した航空機たちだった。内訳は零戦そっくりの「アンタレス07式艦上戦闘機」48機、その改良型たる「アルコル戦闘機」24機、"彗星三三型"に似た形状の「シリウス型爆撃機」36機、500㎏爆弾を抱えた「アルタイル爆撃機」10機、"九七艦攻"の生き写しな「リゲル型雷撃機」30機、そして新鋭の「デネブ型雷撃機」15機。合計163機からなる攻撃隊である。進路は東を向いていた。
攻撃目標はただ1つ、ロデニウス連合王国の空母機動部隊。
およそ1時間前に、偵察のため飛び立った「リゲル」から「敵機動部隊のピケット役と思われる艦隊を発見した」との報告電が入った。巡洋艦を中心にして駆逐艦2~3隻を組み合わせた、小規模の戦隊だという。
偵察役の「リゲル」は途中で撃墜されたらしく、それ以上の電文は届かなかったが、敵機動部隊は近くにいると推測された。
グラ・バルカス帝国の空母機動部隊は、艦隊の前方に駆逐艦を出し、レーダーによって敵の航空部隊を早期に探知する「レーダーピケット戦術」を採用している。それと同じことを敵がやっているらしいと判断され、従って敵空母の位置をおおよそ推定できたのだ。
というわけで、グラ・バルカス海軍西部方面艦隊・第1分艦隊は、攻撃隊を発進させたのである。
ペガスス級航空母艦「ペガスス」に所属する戦闘機隊長ダン・クールビット中佐は、戦闘機「アルコル」のコクピットから周囲を見渡した。
自国の誇る航空機が編隊を組んで飛行する様子は、何度見ても美しいと感じられる。そして、これだけの布陣ならロデニウスの艦隊も打ち破れるだろうと思えてくる。
「見ていろ、ロデニウス軍め。今に思い知らせてやる!」
自分たちの勝利を、ダンは信じている。
『右前方、水平線上に敵艦隊!』
不意に、部下から報告が入った。ダンは右前方に視線をやる。
報告された通り、水平線付近に黒い艦影が見える。数は3隻前後、大きさからして一番大きい奴でも巡洋艦クラスだ。偵察機からの報告にあった、レーダーピケット役の艦隊だろう。
だがよく見ると、その敵艦隊の上でゴマ粒のような黒いものが幾つも旋回している。明らかに敵戦闘機だ。
「くそ! 敵の方が有利か!」
ダンは苦り切った表情で叫んだ。
自分たちの今の飛行高度は4,000メートル。対して、敵戦闘機隊は5,500メートル前後の空を飛んでいる。敵の方が高い空を飛んでいる以上、空戦では敵の方が有利だ。
高度を取っていれば、その分の位置エネルギーを運動エネルギーに変換して速く飛べるから、空戦では高度を取った方が優位に立つのである。
おまけに、敵機の数が多い。こちらは72機の戦闘機を擁しているが、敵の直掩機はどう少なく見ても100機を超えている。おそらく120機くらいいるかもしれない。
「ちっ…だが、やるしかない!」
一斉に向きを変え、こちらに突っ込んでくる敵戦闘機の姿を見て、ダンは覚悟を決める。
たちまち空中戦が始まった。「アンタレス」や「アルコル」は必死で、敵戦闘機を阻止しようとする。それに対し、敵戦闘機は「アンタレス」や「アルコル」の守りを突破して爆撃機や雷撃機を攻撃しようとする。どちらも一歩も譲らず、あちこちでドッグファイトや遭遇戦が勃発する。
ある「アンタレス」は真正面から敵機の機銃弾を浴びてコクピットに被弾し、風防ガラスの内側を真っ赤に染めて墜落する。ある「アルコル」は4対1という絶望的な戦いを強いられ、必死の逃走も虚しく敵の銃撃で左の主翼を叩き折られ、悲鳴じみた金属音を立てながら落ちていく。
「っち、敵機は全部『ウラノス』か! こりゃ手強いぞ!」
1機の敵機を追い回しながら、ダンは舌打ちする。
グラ・バルカス帝国軍が「ウラノス」と呼んでいるのは、ロデニウス軍の戦闘機「烈風一一型」のことだ。中ほどから上向きに折れ曲がった主翼が外見上の特徴で、最高速度が「アンタレス」より速く、時速630㎞前後と推定されている。「アルコル」の方がやや優速だが、これくらいの速度差なら高度差などの条件次第で容易に覆されるため、油断ならない相手だ。
「墜ちろ!」
罵声と共に、ダンはトリガーを引いた。
主翼から20㎜機銃の太い火箭が噴き伸びる。が、敵機がとっさに上昇したため、残念ながら空振りに終わる。
「ちぃ…だがこれで!」
すぐにダンも追随し、機首の13㎜機銃を発射する。それは見事に敵機の尾翼に命中し、有効弾を受けた「ウラノス」が宙をのたうつ。
「止めだ!」
ダンの放った20㎜機銃は、今度こそ「ウラノス」を捉えた。胴体からエンジンまで薙ぎ払われた「ウラノス」は、燃えながら力なく海面に落ちていく。
「ふう、やっと1機撃墜か。ロデニウス軍と戦うのは初めてだが、こりゃ思ったより厄介な相手だ」
ダンが呟いた時、
『制空隊、戻れ! 攻撃隊が攻撃されている!』
第一次攻撃隊の指揮官ナイトハルト・アッシュ中佐の声が無線に飛び込んだ。はっとしてダンは後方を振り返り、息を呑む。
接敵に備えて、攻撃隊は爆撃機・雷撃機同士で集まって編隊を組み、それを直掩隊が守るというフォーメーションを組んでいた。その直掩隊が苦戦しており、直掩隊を突破した「ウラノス」が爆撃機や雷撃機に攻撃を仕掛けている。
機首の12.7㎜機銃2丁を発射して迎撃する「シリウス」に、上方から突っ込んだ「ウラノス」が機銃掃射をかける。瞬く間に「シリウス」は右主翼から火を噴き、高度を落としながら編隊から落伍する。
さらに、下方向から突進した「ウラノス」が「アルタイル」に向けて機銃を放った。下から来る敵機に気付かなかったのか、「アルタイル」は回避運動も取らないままに敵の機銃弾を受けた。次の瞬間、空中に盛大な炎が湧き出す。「アルタイル」が抱えていた500㎏爆弾が敵の機銃で誘爆し、2人の搭乗員を機体ごと木っ端微塵に消し飛ばしたのだ。
それよりやや下方、高度2,500メートル前後の空域では、敵機の襲撃を受けた「リゲル」や「デネブ」が悪戦苦闘している。前から後ろへ、あるいは左から右へ敵機が通過する度に、「リゲル」や「デネブ」は火を噴いて墜落し、あるいは空中で爆散していく。雷撃隊は編隊を密にして、後部座席の機銃で必死に迎撃しているが、まるで効いていない。
(「ウラノス」じゃない!?)
雷撃隊を襲っている敵機をよく見て、ダンは目を見開いた。
敵機の主翼の形状が違う。折れ曲がった翼ではなく、真っ直ぐに伸びた主翼だ。
まあ何にせよ、攻撃隊を守らなければならない。
「くそ、これ以上やらせるかよ!」
ダンは急いで攻撃隊の元へ向かおうとする。しかし、そのケツに敵機が突っ込んできた。
「チッ! これじゃ攻撃隊を守れん…!」
機体を左右に振って敵機をいなしながら、ダンは苛立ちを何とか抑えようとする。
敵艦隊が見えるところまでたどり着いた時には、グラ・バルカス帝国の攻撃隊はその数を大きく減らしていた。それだけではなく、攻撃に備えて組まれていた編隊は大きく乱れている。
「まさか、これほど手強いとは…!」
攻撃隊の指揮官ナイトハルト・アッシュ中佐は、戦慄を禁じ得なかった。
ロデニウス軍と戦うのは初めてだが、ここまで手強い相手だとは思わなかった。ナイトハルトはかつて前世界(惑星ユグド)で、ケイン神王国の機動部隊と戦ったこともあるが、その時もこれほどの被害は見たことがない。
戦闘機だけでもこれほど厄介となると、敵艦隊の対空砲火はどれほど苛烈なものか。
水平線に微かに見え始めた敵艦隊の姿を認め、ナイトハルトは部下たちに指示を飛ばした。
「ロデニウス連合王国の艦隊は、『焼空弾』を撃ってくるぞ! なるべく小隊同士の間を広く取れ!」
『焼空弾』とは、東部方面艦隊との戦いとなった第二次バルチスタ海戦で、ロデニウス艦隊が投入してきた対空砲弾だ。戦艦や巡洋艦の主砲から発射され、炸裂すると直径数百メートルにも達するだろう青白い光の玉を生み出す。その光の玉の正体は凄まじい高温の炎の塊であり、その高熱と激烈な衝撃によって航空機をバラバラに破壊し焼き尽くしてしまう。
これは、従来のグラ・バルカス帝国軍の相手では全く想定もできなかった対空迎撃手段であり、東部方面艦隊の母艦航空隊はこいつのせいでおびただしい損害を出した、と報告書にはまとめられている。
だが逆に言えば、あの「焼空弾」はどうやら口径の大きい大砲からしか発射できないらしい。つまり、駆逐艦などの小型艦艇の主砲や、各艦の高角砲からは発射できないらしいのだ。
ならば、まだ対処のしようはあるというものである。
「焼空弾」の脅威に戦慄したグラ・バルカス帝国軍は、必死でこの炎の悪魔に対する策略を練った。その結果、できるだけ各小隊ごとの間隔を広く取って敵艦隊に向かう攻撃方法が考案され、各隊はその訓練を積んでいる。
「撃ってきたぞ! 回避運動急げ!」
敵艦隊の戦艦の艦上に巨大な発砲炎が煌めいたのを視認し、ナイトハルトは無線に怒鳴る。爆撃隊も雷撃隊も、各小隊ごとに散開し始めた。
しばらくして、空中に巨大な青白い光の玉が湧き出す。轟音と共に強烈な衝撃波が襲ってきて、ナイトハルトの乗る「デネブ」の機体が激しく揺れる。
「よ…よし、何とか凌げるか…?」
冷や汗を掻きながらも、敵艦隊への突撃はやめない。
敵戦艦が放った「焼空弾」を躱した時、敵の巡洋艦や駆逐艦の艦上にも発砲炎が瞬いた。
「高角砲が来たか」
ロデニウス軍の艦隊も我が軍と同様、近接信管を実用化しているという報告を聞いているナイトハルトは、油断はしていない。近接信管の威力を、よく知っているからだ。
「果たして何機が突破できるか……」
ナイトハルトがそう呟いた時、いきなり目の前で白い閃光が空中に走った。
「は?」
ナイトハルトは目を見開く。
この白い閃光は、まさか…「焼空弾」か!? いや、だが「焼空弾」は戦艦や重巡洋艦の主砲からしか撃てないはず…。
ナイトハルトのそんな考えは、目の前で弾けた青白い閃光によって打ち消された。その光の弾は直径100メートル前後と小さいが…明らかに「焼空弾」の炸裂光である。だが数が非常に多い。
ということは…まさか…。
敵の駆逐艦の主砲や戦艦の高角砲にも、「焼空弾」が実用化されている…!?
「何てことだ!! 敵の対空砲弾は全部『焼空弾』だ!」
無線にそう叫んだ直後、ナイトハルトの眼前で青白い光が弾けた。その光に照らされ、恐怖の表情を顔面に貼り付けた直後、ナイトハルトは全身に鋭い針を突き刺したような激痛と、身体が軽くなるような感覚を感じた。そこで彼の意識は途切れた。
空一面を照らし出す青白い閃光…無数の「四三式弾」の炸裂光。人によっては、花火大会のようにすら感じられたかもしれない。
だが、重巡洋艦の艦娘"摩耶"の鋭い目付きは、「四三式弾」の光がぎりぎり及んでいない空に向けられている。もちろん意図があってのものだ。
やがて見込み通り、鷹のように鋭い彼女の目が、青白い火の玉の縁を回り込むようにして飛んでくる数機の航空機の姿を捉えた。いずれも低空を飛んでいる。
「敵艦攻少数、艦隊11時の低空から来る!
全艦、
"摩耶"が無線に怒鳴った直後、ボフォース40㎜機関砲の重々しい射撃音が響き始めた。それにやや遅れて、九六式25㎜対空機銃やエリコン20㎜機銃の連射音があちこちから響いてくる。
対空機銃の曳光弾が乱れ飛ぶ中を、敵機が突っ込んでくる。と、そのうち1機が唐突に左の主翼を吹き飛ばされた。どうやら40㎜機関砲の弾が直撃したらしい。敵機はガクンと機首を下げ、直後に海面に激突して
残り3機に減った敵機は、なおも低空から突っ込んでくる。進路からして「瑞鶴」を狙っているようだ。
「瑞鶴」の手前には第一七駆逐隊の陽炎型駆逐艦4隻が踏ん張っており、盛んに射弾を飛ばしているが、当たる様子がない。
その時、不意に駆逐艦「浜風」と「磯風」の艦上に白い煙が現れた。と思う間もなく、白い煙の筋を引く鏃のような物が飛び出し、一直線に敵機に突き刺さる。直撃を受けた2機の雷撃機は、爆発と共に空中でバラバラに砕け散った。この2機の「デネブ」は、ロデニウス艦隊が用意した防空システムの3段目に引っ掛かってしまい、敵空母への雷撃という任務を達成できなかったのだ。
「ようし、いいぜ! 上出来だ!」
先の2機に続いて、最後まで残っていた敵雷撃機が対空機銃の弾幕を浴びて炎に包まれるのを見ながら、"摩耶"は
今回の海戦にあたり、ロデニウス海軍第13艦隊は「三段防空システム」という新型の対空防御陣を用意している。それは迎撃の段階によって「
まず最初の防衛区域である「
この時、直掩の戦闘機隊には爆弾を持っていない「彗星一二型甲」を随伴させる。この「彗星」の役割は、空戦域を抜け出そうとする敵攻撃機を捕捉し、その方位や高度などを味方艦隊に通報し続けることである。
続いて、第二防衛区域である「
1つめは、敵の攻撃編隊を崩すこと。急降下爆撃にせよ雷撃にせよ、攻撃側が飛行隊ごとに編隊を組んで攻撃すると命中率が高くなる。逆に攻撃編隊を崩せば、それだけで命中率…攻撃される側からいえば被弾率を下げることができる。なので、空間ごと吹き飛ばして敵の攻撃編隊を崩すことにしたのだ。
2つめは、敵の戦術的ミスの誘発である。はっきりと目に見える青白い炎の玉、それが数百個単位で現れるとなると、どうやっても敵のパイロットはプレッシャーをかけられてしまう。それに加えて、パイロットはもちろん防寒機能のついた飛行服を着ているはずだが、それが仇となって「四三式弾」が放つ大量の熱でのぼせてしまうことが考えられる。そうなれば、敵パイロットの判断ミスを誘発できる。
それだけやった上で、なおも突っ込んでくる敵に対して、最終防衛区域「
なお、この防空システムにはさらに鬼畜の極みのような仕様があった。各任務群にいる軽空母の艦娘たちは、対潜哨戒用の「彗星」(この「彗星」の一部を直掩隊に随伴させている)の他は戦闘機しか搭載しておらず、艦隊直掩専門員となっている。それに加えて、各任務群の戦艦や重巡洋艦の艦娘たちには予備の航空機が矢やボウガンの弾、式神として備えられており、空母艦娘たちはそこから航空機を補充して戦える仕掛けになっているのである。もちろんローテーションで疲労を抜くことも可能なため、常に万全の直掩・攻撃体制を期せるという訳である。ついでに言えば、これだけの障壁を乗り越えてどうにか爆弾を命中させたとしても、「デスティニー」の空母に対する急降下爆撃は50%の確率で無効に終わるという、嫌がらせにも程がある仕様まである(装甲空母が配備されているためである)。
何という鬼畜仕様。こんなトンデモ仕様の防空網、ラヴァーナル帝国を除けばいったい誰に突破できるというのか。
「む、9時方向、高度ヨンマルより敵降爆! 数2!
全員、対処せよ!」
見張員妖精の報告より先に、自身の直感が敵機の存在を告げ、"摩耶"は号令を飛ばした。それより早く、輪形陣後部にいる「秋月」が4基8門の高角砲をバカスカと撃ち上げ、輪形陣左側に布陣する「アイオワ」の両用砲や駆逐艦群の高角砲がこれに続く。輪形陣の左側から突入しようとしていた敵機のうち1機が、あっという間に「四三式弾」の直撃を受けて文字通り蒸発した。
もう1機は上手くこれをかわし、輪形陣内部へと突入してくる。それに向かって、空母艦娘たちが高角砲を撃ち放つ他、「アイオワ」他の艦艇がありったけの対空機銃で迎撃する。弾幕射撃を受けてなお、遮二無二「翔鶴」に向けて突撃していた敵の急降下爆撃機だったが、「翔鶴」まであと500メートルに迫ったところで左主翼から火を噴き、次の瞬間に空中で爆発して果てた。
その後も、時折敵機が輪形陣内部へ突入してくる。だが、「デスティニー」の三段防空システムは凄まじい威力を発揮し、敵機を空母に全く近寄らせない。縦横無尽に飛び交う対空機銃の弾幕に、敵機は右往左往する他なく、そこを「FIM-92A Stinger」対空ミサイルに絡め取られていった。
結局、敵の攻撃隊は護衛艦艇への攻撃すらもまともに果たせず、全滅に近い被害を受けて撤退していった。被害らしい被害といえば、「アイオワ」が爆弾1発を受けて両用砲1基と数丁の対空機銃を損傷したばかりである。
「新たな敵機無し、対空戦闘終了だ!」
敵機の姿が見えなくなった後も、しばらくレーダーで捜索を続けていた"摩耶"は、敵攻撃隊を撃破したと判断した。
「さて…これで当面アタシの役目は終わったぜ。瑞鶴サンよ、こっからは頼んだぜ!」
『上等よ! これより「デスティニー」は敵空母部隊に対し、反撃を開始するわ!』
敵の攻撃を食い止めていた艦娘たちに、反撃のターンが回ってきた。
『全空母へ、艦首風上! 攻撃隊、発艦、始め!』
気合の入った”瑞鶴”の号令の下、「祥鳳」と「瑞鳳」を除く4隻の空母が一斉に転舵し、風上に向かって突進する。
航空母艦「グラーフ・ツェッペリン」艦上でも、液冷のJumo211エンジンが爆音を響かせていた。久しぶりに「シュトゥーカ大佐」を乗せ、下腹に必殺の1トン爆弾を抱えて、「Ju87C改」が飛び立とうとしている。
「攻撃隊、出撃! Vorwärts!」
"Graf Zeppelin"の号令が下るや、
「シュトゥーカ隊、出るぞ!」
かけ声と共に、妖精ルーデルの乗る1番機が飛行甲板を滑り始めた。それと同時に、発進を見送る妖精たちが一斉に声をあげる。
「「「Die Stukas! Die Stukas! Die Stukas!!」」」
そして、いつの間にやら用意されていたアンプから、大音量で軍歌「Stuka Lied」が流れ始める。甲板要員の妖精たち、その他手空きの妖精たち、そして”Graf Zeppelin”本人までもが歌う中、シュトゥーカ隊が空へと舞い上がった。
「「我ら、空から突進し打破する!」」
「「地獄など恐れぬ、休憩など要らぬ!」」
「「敵を大地に屠るまで、バルカスに打ち勝つまでは!」」
「「「Die Stukas! Die Stukas! Die Stukas!!」」」
妖精たちは大声で「Stuka Lied」を歌いながら、西の空へ消えていく攻撃隊を見送った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「デスティニー」が空襲を受けていたのと時を同じくして、堺が直率する「ファンタジア」もまた、敵の空襲を受けていた。
「鳥海から入電! 『敵攻撃機複数、ピケットラインを突破。爆雷連合、数40機、貴隊に向かう』!」
緊張感を隠していない通信長妖精の報告の声に、堺は頷いて命令を出した。
「全艦、主砲四三式、対空戦闘用意!」
堺が座乗している”長門”は、フォーク海峡海戦で艤装を失った後、再建するついでに第二次改造を受けて”長門改二”になっている。ついでに第二次バルチスタ沖大海戦で艤装を失った”陸奥”も、改二になっていた。このため両艦とも、主砲が「41㎝連装砲」と「試製41㎝三連装砲」の混載になっている。
それだけではなく、「ファンタジア」に所属する4隻の戦艦はいずれも、舷側の副砲を一切廃した代わりに、副砲のあった箇所に「12.7㎝単装高角砲」を搭載しており、防空能力を大幅に向上させている。
その威力が試される時が、来た。
「直掩隊の『彗星』から報告来ました! 主砲に射撃諸元を伝達します!」
「主砲、四三式弾、装填良し!」
CICに詰めている堺には見えないが、大蛇が鎌首をもたげるように41㎝砲が砲身を持ち上げ、敵攻撃隊が来る空を睨む。
「第二戦隊全艦、対空戦闘用意良し!」
「第九戦隊全艦、対空戦闘用意良し!」
「各駆逐隊、対空戦闘準備完了しました!」
対空戦闘の準備が整った。
「敵攻撃機約40機、
レーダー手妖精からの報告を受け、堺は凛とした声で命じた。
「主砲四三式弾、砲撃始め!」
瞬間、耳が潰れそうになるほどの轟音と共に、激しい衝撃が”長門”の艤装を揺らした。主砲を一斉射撃したのである。
続けて、外からも巨大な砲声が聞こえてきた。戦艦の「陸奥」と航空戦艦の「扶桑」「山城」、それに重巡洋艦の「ザラ」と「ポーラ」に航空巡洋艦の「鈴谷」と「熊野」が、主砲を撃ったのだ。
「これで勝ったとは思うな、敵機は必ず散開して向かってくる。その時こそ、『三段防空システム』の真価を見せつける時だ」
冷静に指示を飛ばす堺。
しばらくして、航海艦橋から報告が入った。
『航海艦橋からCIC。敵編隊は散開、小隊ごとにこちらへ向かってきます! 距離フタマルマル!』
「了解。焦るな、まだ駆逐艦の主砲や高角砲を撃つ時じゃない」
敵機がもっと接近してこなければ、まだ小口径の高角砲は届かない。
「ただで接近されることはない。通行料金を取れるだけむしり取れ!」
堺のその命令と共に、装填を完了した41㎝主砲が咆哮を放つ。
「これでどれだけの通行料金をふんだくれたかねぇ…」
堺の呟きも無理からぬことである。
やがて、待望の報告が入った。
『航海艦橋からCIC。撃墜破せる敵機は、目視でおよそ15機と推定。敵機はなおも小隊ごとに分離して接近中、残存数20から30程度!』
「了解。レーダー、敵編隊との距離は!?」
「いま距離ヒトマルマルを切りました!」
「全艦、高角砲、射撃始め!」
瞬間、主砲の発射にも負けない音量の砲声が響いた。
今の”長門”の艤装に搭載されている高角砲は、九八式65口径10㎝連装高角砲が4基に、八九式40口径12.7㎝単装高角砲が20基である。このうち、今接近中の敵機に向けられるのは、10㎝連装高角砲2基に12.7㎝単装高角砲10基となる。結構な対空弾幕である。
「主砲にも負けん砲声とはな。豆鉄砲なんて、口が裂けても言えんな」
軽口を叩いた堺が”長門”に睨まれて肩をすくめる間に、他の艦艇も砲撃を開始している。
「総員へ達する。敵がどの艦を狙ってくるか分からん。空母かもしれないし、『釧路』が狙われる可能性だって大いにある。全員、気を引き締めてかかれよ!」
堺は無線で指示を送った。
「ファンタジア」に配属されている空母は、いずれも大きさが似通っており(強いて言えば、「アクィラ」が他の空母よりわずかに大きい程度の違いしかない)、上空からでは正規空母か客船改造空母か見分けるのは困難だ。故に、空母が狙われるならどの空母が狙われてもおかしくない。
さらに言えば、「ファンタジア」には「釧路」という、どの艦よりもでかくて目立つ存在がいる。空母たちの7倍近い全長に空母たちの20倍近い艦幅といえば、どれだけでかいか想像がつくだろう。当然、上空からではよく目立つ的である。彼女が狙われる可能性は高いと言わざるを得ない。
「残弾は気にするな、迷ったら撃て! とにかく1機でも多く落とせ!」
堺の命令一下、駆逐艦の子たちも巡洋艦の子たちも、必死に対空砲を撃ちまくる。もちろん「長門」以下の戦艦たちも、空母自身も高角砲を撃ち上げ、「四三式弾」で空間を焼き払う炎の塊を作り上げる。それを指揮しているのが、防空駆逐艦娘の”照月”だ。実は堺ですら、対空戦闘の指揮は彼女に一任している。
「吹雪より報告、敵艦攻2機撃墜! 続いて照月より報告、敵降爆3機撃墜!」
撃墜報告が次々と「長門」のCICに舞い込む。
景気が良い報告ばかりであり、これだけで敵機を全て撃墜破できると思えるほどだが、堺は知っている。どれだけの対空砲火を浴びせようと必ず突破する敵機はいる、ということを。そして敵機が肉薄してきた時こそ、防空システムの3段目の真価が発揮される時だということを。
「艦隊2時方向、低空から敵艦攻! 数4!」
「3時方向、敵降爆3! 高度ヨンマル!」
「撃ちまくれ! 近づけさせるな!」
どうやら敵機の大半は阻止できているようだが、やはり少数の敵が接近してきている。何としても通すまいと、各艦は全力で対空砲を撃ち上げる。
『敵機はポーラさんの上空を抜ける気です! 弾幕を集中してください!』
無線で”照月”が警告を発した。
“Pola”が属するザラ級重巡洋艦は、比較的遠距離にいる敵機を狙うための対空兵器として「1927年47口径10㎝連装高角砲」6基12門を装備しているが、この砲は砲身の俯仰操作が重いため目標追随能力が不十分なのだ。加えて発射速度も毎分8〜10発と遅い。そのためザラ級が張る対空弾幕がやや薄く、敵機がそこへ突っ込んでくるのが”照月”には見えたのだ。
だがこんなこともあろうかと、「ザラ」の周囲には練度の高い吹雪型駆逐艦4隻が「10㎝連装高角砲」を振りかざして待ち構え、「ポーラ」の近くには”Z1””Z3”と共に”照月”自らが張り付いている。さらに、戦艦から高角砲の援護射撃が飛んでくるのだ。守りは固めるだけ固めてあった。
4基8門の高角砲による「照月」の対空射撃は凄まじく、あっという間に「ポーラ」上空を抜けようとした急降下爆撃機が直撃弾を受けて爆散した。さらに「長門」からの援護射撃で1機が主翼を吹き飛ばされ、くるくると死の舞を踊りながら墜落する。残り1機は輪形陣内部に突入して「釧路」へと向かったが、
『工作艦だからって舐めるな! 右砲戦、撃ちーかた始め!』
「釧路」自身が放った12.7㎝単装速射砲がエンジンに命中し、黒煙の尾を引く流星となって落下、海面に到達する前に爆発した。
低空から迫ってきた雷撃機4機は、「ポーラ」の前方にいる「レーベレヒト・マース」と「マックス・シュルツ」の上を抜けようとしたのだが、それは悪手だった。この両艦は思い切って魚雷発射管を外し、そこに「FIM-92A Stinger」の専属発射班をスタンバイさせていたのだ。勢いよく飛び出したミサイルによって瞬く間に3機が叩き落とされる。
残り1機となった雷撃機は、どうやら死に物狂いだったらしい。何せ「雲龍」にあと1,000メートルというところまで迫り、魚雷の発射には成功したのだから。だが、「雲龍」艦上から放たれたスティンガー防空ミサイルによってこの雷撃機も落とされ、投下された魚雷は”雲龍”が命じた回避行動によって躱されてしまった。決死の雷撃も虚しく、空振りに終わったのだ。
敵機はまだ少数残っていたが、激しい対空弾幕と凄まじいまでの犠牲の前に勝ち目なしと見たのか反転して退避していった。
『新たに接近する敵機はありません! 総員、対空戦闘用具収め!』
防空指揮担当の”照月”の宣言により、対空戦闘は終わった。
「よし、反撃に出るぞ! 各空母へ、攻撃隊発艦せよ! 目標は敵『ブラヴォー』群だ!
『ブラヴォー』に対しては、『デスティニー』が既に第一次攻撃隊を送り出しているはずだ。この『ファンタジア』の攻撃隊で止めを刺すくらいのつもりで行け!」
堺の号令一下、「ファンタジア」の反撃が始まる。
先制攻撃を図ったグラ・バルカス艦隊に対し、第13艦隊は新戦術の三段防空システムで対応。結果は見事防空に成功し、敵攻撃隊の壊滅・撃退に成功しました。
返す刀とばかりに攻撃隊を放つ第13艦隊。航空攻撃は果たして上手く行くのか!?
そしていつかどこかで使いたかった、「Stuka Lied」。そろそろシュトゥーカも陳腐化していますから、ここくらいしか使い所がないと判断し、思い切って突っ込みました。
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評価10をくださいました笠三和大様、屯田兵様、ドーラドルヒ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
グラ・バルカス帝国軍の航空攻撃を退け、攻撃隊を放ったロデニウス海軍第13艦隊。だが実は、このロデニウス軍航空部隊もまた新戦術を導入していた。グラ・バルカス帝国西部方面艦隊に、その新戦術が牙を剥く!
次回「ムー大陸西方大海戦 eins 第三次バルチスタ沖大海戦(弍)」