鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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思っていたよりも進みが早かった……第三次バルチスタ沖大海戦は今回で最後です!



198. ムー大陸西方大海戦 eins 第三次バルチスタ沖大海戦(参)

 中央暦1643年12月3日 午後6時30分、パガンダ島西方420浬沖。

 既に陽は落ち、夕焼けの残光が水平線付近の西の空を僅かに赤く染めるのみ。空の大半は黒か藍色に支配され、星が瞬き始めている。そして、4分の1ほど満ちた月が2つ、天頂付近に頼りなげに光っていた。

 海ももう真っ暗である。そんな海を、白波を蹴立てて何隻もの船が西へ進む。それらの船はだいたい18ノット前後の速力で航行しており、これはこの世界の各国が有する大概の船より速い脚だ。

 それらの船はいずれも煙突から黒煙を吐いており、無数の大砲や機銃を搭載したことによって刺々しいシルエットになっている。そして、暗くて見えづらいがマストにはグラ・バルカス帝国の国旗を掲げていた。

 グラ・バルカス帝国海軍の西部方面艦隊である。ムー大陸西方沖に展開する敵の海軍戦力…具体的にはロデニウス艦隊…を破るために派遣されたこの艦隊であったが、しかしロデニウス艦隊と航空戦を戦った結果、散々に打ち破られてしまっていた。グラ・バルカス側が放った攻撃隊は、ロデニウス艦隊の凄まじい迎撃に遭って空母に指一本触れられず、逆にロデニウス側の航空攻撃によって西部方面艦隊の全ての空母が撃沈破されてしまったのである。さらに、護衛艦にも被害が多数発生しており、航空戦では完敗であった。

 航空戦に敗れたという結果を受けて、西部方面艦隊司令官ガルディオ・ガリデー中将は、これ以上の戦闘継続は困難と判断し、撤退を決断した。そして今、二分していた艦隊の再編成をしているところなのである。

 

「随分やられてしまったな……」

 

 それが、近付いてくる第2分艦隊の姿を見たガリデーの感想だった。

 今や西部方面艦隊は、戦闘開始前からは全く想像できない姿になっている。8隻いた空母は5隻が撃沈され、残る3隻も甲板を破壊されるか魚雷で下腹に大穴を開けられるかして、艦載機の運用が不可能になっている。戦艦も3隻中1隻が撃沈されている。そして巡洋艦や駆逐艦は、鎮火に成功したらしく火災の黒煙こそ引きずっていないものの、少し傾斜して速度を落としている艦の姿も見える。そして何より、その数を大きく減らしていた。

 敵の航空部隊は、雷撃や急降下爆撃だけではなく、グラ・バルカス帝国軍では考えたことのない攻撃を行ってきた。水切りの石のように爆弾が海面を跳ね、艦艇の舷側を貫く攻撃や、主翼下に吊り下げたロケット弾をばらまき対空砲を破壊する攻撃、そしてなんとこちらの艦艇を追尾してくる爆弾による攻撃などである。それらの攻撃によって、特に防御力の低い駆逐艦や軽巡洋艦が大きな被害を受けていた。機関を破壊されて航行能力を大きく削がれた艦や、魚雷発射管に攻撃を受けて魚雷が誘爆し轟沈した艦も多い。

 そうやって戦力が大きく目減りしているのが、今の西部方面艦隊なのである。

 大きく傷付いた艦隊の姿を見て、ガリデー以下司令部幕僚の面々の心が痛まないはずがなかった。

 

(大勢死なせてしまった……)

 

 それが、司令部の面々の共通認識である。

 近来にない負け戦だったことの衝撃もあったが、それ以上に多数の友軍将兵を戦死させてしまったことが、彼らの心に鋭い(とげ)となって突き刺さっていた。

 

 それはそれとして、今成すべきことは味方の残存艦艇をまとめ、いち早く撤退することである。

 攻撃隊からの報告によれば、敵であるロデニウス艦隊は、空母にまともな損傷を負っていないのはもちろんだが、その護衛艦も損傷らしい損傷をほとんど負っていない。脚の速い艦艇を抽出し、こちらを追いかけてきて夜戦を挑んでくる可能性が捨てきれなかった。ただでさえこちらは損傷して行き脚の鈍った艦艇が多い。早く撤退しなければ、追い付かれてしまう。そうなれば味方の被害がさらに増大し、最悪の場合は西部方面艦隊そのものが壊滅してしまう。

 それだけは避けなければならなかった。グラ・バルカス帝国海軍は現在、積極的な外征が可能な5個主力艦隊のうち2個艦隊、それも東部方面艦隊と特務軍艦隊という最有力艦隊を失っている。これ以上主力艦隊が壊滅すれば、ミリシエント大陸方面の制圧どころかムー大陸の奪還すらほぼ不可能になってしまう。

 この悪夢を避けるべく、皇帝グラ・ルークスからのお叱りを覚悟でガリデーは撤退を決断したのである。

 

 

 少し時間が経って午後7時頃、グラ・バルカス海軍西部方面艦隊はどうにか再編成を完了した。

 残存艦艇は戦艦2隻、空母3隻、重巡洋艦5隻、軽巡洋艦14隻、駆逐艦60隻。このうち戦艦2隻、空母3隻、重巡洋艦1隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦6隻が損傷して行き脚が鈍っている。

 敵の航空攻撃だけで、戦艦1隻、空母5隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦16隻が撃沈された計算だった。特に空母の被害には目を覆いたくなるものがある。撃沈された空母の内訳は、千歳(ちとせ)型軽空母相当のカシオペヤ級が1隻、(そう)(りゅう)型正規空母相当のアンドロメダ級が2隻、(しょう)(かく)型正規空母相当のペガスス級が2隻なのだ。これだけでも、かなり恐ろしい被害である。

 

「再編成、終わりました!」

「よし、全艦に反転を発令せよ!

艦隊針路270度! アストラル大陸を経由して本土へ帰還する!」

 

 斯くして、グラ・バルカス帝国海軍西部方面艦隊は目標達成を放棄して撤退し、第三次バルチスタ沖大海戦は終わった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか距離を稼げんものだな……」

「はっ。何分機関や喫水線下をやられて速力を出せない艦が多い故、致し方ありません」

 

 午後9時、艦隊旗艦であるヘルクレス級((なが)()型相当)戦艦「アルファ・ケンタウリ」の艦橋で、ガリデー司令はため息混じりに言った。参謀長のガルフ・レッドロック少将が応じる。

 西部方面艦隊は現在、15ノットの速度で退避に移っている。損傷して速力を発揮できない艦艇に艦隊速度を合わせたら、この速度になってしまったのだ。仕方ないとはいえ、もどかしさを感じる速度である。

 

「味方からの連絡はあるか?」

「は、現在味方から『敵艦発見』の報告は届いておりません」

 

 ガリデーの質問に、通信手が答えた。

 敵が追いかけてくる可能性があるため、ガリデーは味方艦隊に対して艦隊後方の索敵を強化するよう命じていた。このため各艦の見張員が総出で後方警戒にあたっている他、レーダーも向けられる限り後方に向けている。

 

「ふむ、今のところ敵の追跡は無し…か」

「敵側も我が方と同様、艦隊を分散させていますから、艦隊の再編成が必要でしょう。その再編成に手間取っている、ということではありませんか?」

「それはどうだかな」

 

 意見を述べたレッドロックに、ガリデーは首を横に振った。

 

「今回戦ったロデニウス艦隊は、まぎれもない精鋭だ。

軍神カイザル閣下が率いていた東部方面艦隊を破ったのは、あいつらで間違いないだろう。それだけを見ても、ロデニウス艦隊はこれまで俺たちが相手にしてきた連中とは全く違う、ということが分かる。

敵は必ず、高速艦隊を編成して俺たちを追ってくる。問題は、"敵がいつ俺たちに追いつくか"ということと、"追跡してくる敵艦隊の編成"だ。30ノットの脚を出せる艦が中心になるだろうから、敵の追跡部隊はもっぱら巡洋艦と駆逐艦だろうとは思うが…オリオン級相当の奴がいるかもしれん。そうなればちと厄介だぞ」

 

 オリオン級というのは、グラ・バルカス帝国では旧式戦艦に分類されている艦級だ。見た目と性能は旧日本海軍の(こん)(ごう)型戦艦(第二次改造後)に似ており、防御力は低いものの、36㎝砲8門の火力と30ノットの速力を両立した高速戦艦だ。

 この艦なら、自分たちに追い付いてくるだろう…ガリデーはそう睨んでいた。

 

「オリオン級なら、我がヘルクレス級には敵わないのではありませんか?」

「1対1ならな」

 

 レッドロックの意見を、ガリデーはあっさり跳ね返した。

 

「東部方面艦隊の交戦記録等を読む限り、敵には少なくとも4隻のオリオン級クラスがいる。その4隻が揃って追いかけてくれば、数に物を言わせて押し切られる可能性があるぞ。こちらの戦艦はヘルクレス級2隻しかいないんだからな」

「しかも、『ムリファイン』はともかく、本艦は損傷しておりますからな」

 

 「アルファ・ケンタウリ」艦長エドウィン・シグナレス大佐が口を挟んだ。

 戦艦「アルファ・ケンタウリ」は昼間の航空戦で敵急降下爆撃機の攻撃を受け、爆弾3発を被弾している。主砲には被害はなかったが、アンテナをやられてレーダーが使用不能になるなど、決して侮れない損害を受けている。

 

「航海参謀、敵が我が方に追いつくのは何時頃になるか?」

「はっ。

日没の時点で、我が方と敵艦隊の間にはおよそ400㎞の距離がありました。我が方の艦隊速力が15ノット、敵の艦隊速力が30ノットと仮定して計算しますと……敵艦隊が我が方に追いつくのは、今からおよそ12時間後。明日の午前9時頃になると推測されます」

 

 航海参謀アントニオ・ルーカス中佐が答えた。

 

「ふむ、ということは今夜中に会敵する可能性は低そうだな?」

「そうなります」

「分かった。…少し仮眠を取るとするかな。

副司令のジョニー・ハーパー少将に、しばらく艦隊の指揮を執れと伝えてくれ」

「はっ!」

 

 ガリデーが、通信参謀マーティ・ガルーダ中佐にそう命じた時だった。

 

「「「!?」」」

 

 ガリデーをはじめ西部方面艦隊司令部の要員たち、そしてシグナレスをはじめとする「アルファ・ケンタウリ」首脳部の面々は、目の前で起きた光景に全員がその目を疑った。

 突然、艦隊の前方の海面で複数の白い光が煌めいたのだ。それも10などという数ではない。おそらく50くらいはあっただろうか、それほどの数の白光が次々と瞬いたのだ。

 一瞬だけ、その光の中に人間のような形と大きさの影を、ガリデーは見たように思った。そして何故か、その人影は女性ではないかと思った。何故そう思ったかは分からなかったが。

 白い光はほんの一瞬煌めいただけで、あっという間に周囲は闇へと帰った。しかし次の瞬間、今度は白い光が瞬いた辺りの海面で別の閃光が次々と走った。閃光の大きさは大小様々で、中には海面に太陽が出現したかと錯覚するほどのものもあった。そして。

 

 閃光の中、特徴的な高い艦橋や、砲塔らしき四角い構造物がはっきりと見えた。

 

「「「!!!」」」

 

 閃光の正体が何であるかを、ガリデーたちは瞬時に悟ったが……同時に、この状況を頭ではすぐには理解できなかった。

 

「発砲炎、だと…?」

 

 レッドロック参謀長の呟きは、この場の全員の心情を代弁したものだった。その呟きに、巨弾の飛翔音が重なった。

 次の瞬間、「アルファ・ケンタウリ」のすぐ近くに、艦橋の高さすら超えるとてつもない大きさの水柱が噴き上がった。夜目にも鮮やかな白いその水柱は、明らかに戦艦の大口径砲の弾着によるものだった。

 

「砲撃だと!? しかも戦艦クラスの主砲弾だ!」

「なんでこんなところに敵艦隊が!?」

「敵襲! 敵襲ーっ!」

 

 大混乱に陥る艦橋で、ガリデーは目を大きく見開いていた。

 発砲炎に混じり、彼は見てしまったのだ。ひときわ強烈な発砲炎のたもとに、すらっとした艦橋と太い1本煙突のシルエットが浮かび上がったのを。そしてその艦影が、最強無敵と呼ばれたあの自国の戦艦にそっくりなのを。

 愕然としたまま、ガリデーはようやく言葉を紡ぎ出した。

 

「そんな、馬鹿な……。

有り得ん…有り得んぞ! なぜ、我が艦隊の()()()敵のグレードアトラスター級がいる!?」

 

 

「敵艦隊を捕捉しました。光学・レーダー共に照準良し。

敵艦隊、当艦隊から見て2時~5時の方向、距離ヒトサンマル(13,000メートル)!」

(きた)(かみ)から入電。味方艦隊、配置に着きました!」

 

 部下の妖精たちからの報告を受けて、ロデニウス海軍第13艦隊司令官の(さかい) (しゅう)(いち)中将は頷いた。

 

「了解、距離10,000を切ったら形態変化を実行。形態変化が完了すると同時に砲撃開始。水雷戦隊は突撃し、敵艦隊に対して距離5,000で雷撃を行え。駆逐艦が相手でも、少し遠目の射点でも構わん、とりあえず魚雷をばらまいてくれば良い」

「了解です!」

 

 直ちに命令が伝達される。

 今の堺には、肉眼で外の様子を確認する術はない。艦娘たちが上手く立ち回っていると信じるしかない。

 待ち焦がれるほど遅く感じる時間を待った末に、ようやく待望の報告が入った。

 

「敵距離ヒトマルマル!」

「今だ! 全員、形態変化を実行せよ!

変化完了と同時に砲撃開始! ()(さし)、アイオワ目標、敵戦艦1番艦! 第一戦隊目標、敵戦艦2番艦!

重巡洋艦諸君は、とりあえず目に付いた奴から撃て!

第九戦隊、及び第一・第二・第三水雷戦隊は、敵艦隊に向けて突撃せよ! あとアイオワは、準備出来次第ありったけのハープーンを撃ち込め、目標と突入箇所設定は任せる!」

『OK、任せておきなさい!』

 

 "Iowa"の頼もしい声が無線機から聞こえた。

 

「ビッグセブンの力、侮るなよ! 第一戦隊、この長門に続け!」

 

 勇ましい"長門"の号令の直後、警報ブザーが「長門」CICに鳴り響いた。それが途切れると同時に、強烈な衝撃と轟音が艦体を震わせる。敵艦隊に向けて主砲を発射したのだ。

 

()()、射撃開始! 続いて()(そう)(やま)(しろ)、射撃開始!」

「第四戦隊、及び混成第八戦隊、砲撃を開始しました!」

 

 次々と飛び込む報告を、堺は黙って聞いている。

 距離10,000メートルは、夜戦の交戦距離としてはともかく、戦艦の交戦距離としてはかなり短い。そのため30秒も待たないうちに、砲弾は敵戦艦へと到達してしまう。

 

「だんちゃーく、今っ!」

 

 砲術長妖精が声を上げ、続いて電測長妖精が報告する。

 

「ただいまの砲撃、全弾近! うち至近弾1と認む!」

 

 射撃用レーダーとして「SK+SGレーダー」を増設された「長門」の電探射撃能力は、これまでとは比べ物にならない精密さを誇っている。今回も初弾から至近弾を出すなど、目覚ましい活躍ぶりだ。

 

「その調子だ、あと2射くらいで照準合わせろ!」

 

 堺がそう言った時、第一戦隊の他の艦娘の砲弾が弾着した。

 

「陸奥の砲撃、全弾近。続いて扶桑の砲撃は、全弾遠! あっ、山城の砲撃が敵2番艦を(きょう)()しました!」

「ほう、山城がやったか!」

 

 相好を崩す堺。

 第一戦隊のメンバーの中では、"山城"が最古参である。それは同時に、彼女の練度の高さをも意味していた。「()()日向(ひゅうが)には負けたくないの…!」とは"山城"の姉"扶桑"のセリフだが、"山城"もまた負けず嫌いの傾向があり、練度では誰にも負けたくないとばかりに猛訓練に勤しむことが多かったのだ。その鍛練の成果がここで、遺憾なく発揮されたのである。

 

「長門、山城に負けるなよ!」

「当然だ!

主砲、次は当てろ! てーーっ!」

 

 各主砲塔の2番砲が、轟音と共に41㎝の巨弾を撃ち出す。これに第一戦隊の各艦娘が続き、"山城"は早くも斉射に踏み切ったとの報告が航海艦橋から寄せられた。

 

「ようーーい、だんちゃーく!

やりました、敵艦夾叉! さらに命中弾1!」

「次より斉射!」

 

 弾んだ声の砲術長妖精の報告に、"長門"が即座に命じた。

 距離が近いせいもあり、砲撃の命中精度はかなりのものがある。その優位を活かし、先手を取ることに成功したのだ。

 あとはこのまま押し込むのみ。

 

「全砲塔、徹甲装填良し! 照準良し! 射撃用意良し!」

「全主砲、斉射! てーッ!!」

 

 "長門"の号令に応えるかのように、10門の41㎝砲が凄まじい咆哮を放ち、戦艦の装甲をもぶち抜く徹甲弾を撃ち出した。

 

「第四戦隊、敵重巡洋艦を相手に交戦中! 既に1隻を撃破した模様!

混成第八戦隊は、敵水雷戦隊を目標に射撃中、ザラが敵駆逐艦1隻を轟沈させたとのことです!

第九戦隊及び3個水雷戦隊は、依然突撃を敢行中、射点まであとヨンマル(4,000メートル)とのことです!」

「了解した。作戦に変更はない、雷撃部隊はこのまま突っ込ませろ。戦艦、重巡洋艦の諸君は砲撃続行だ!」

「承知しました! あっ、アイオワがハープーンを8発発射しました、弾着まであと20秒!」

 

 戦艦「アイオワ」が発射した「Mk.98 Harpoon」は、命中精度の高さや飛翔速度の素晴らしさもさることながら、凄まじい誘導性能が最大の売りである。弾頭にカメラを、弾体内部にCPU(中央演算装置)を搭載しており、カメラから送られた画像データ(しかも光学映像、サーモ映像、レーダー映像の3種類を同時に撮影している)から敵艦の艦種を識別し、突入箇所と突入コースを素早く設定、しかもその際に敵の対空砲の迎撃精度と範囲まで判定して、極限まで被弾率(=敵の迎撃成功率)を下げつつ、最大効率で敵艦を破壊するのだ。まさに至れり尽くせりの誘導弾である。

 

「5、4、3、だんちゃーく、今!

……全弾命中(グランドスラム)! 敵駆逐艦8隻、轟沈!」

 

 この報告には、堺は「当然だ」と言わんばかりの無表情で頷いただけだった。

 グラ・バルカス帝国の軍艦は、どういうわけか大日本帝国の軍艦に酷似した外見・性能をしている。このため「Mk.98 Harpoon」のCPUでは即座に「大日本帝国海軍の駆逐艦」と判定され、むき出しになっている魚雷発射管をハープーンに直撃されたのである。その結果、魚雷が誘爆した駆逐艦たちは次々と轟沈したのである。

 

「第一戦隊の様子はどうか?」

「第一戦隊は、なおも敵戦艦1番艦を砲撃しています! 両艦とも、まだ命中弾を得られていないようです」

「分かった。俺たちだけでもさっさと敵戦艦を片付けないとな」

 

 そうは言ったが、堺にはしっかりと勝ち筋が見えていた。問題は、敵水雷戦隊の死に物狂いの突撃を味方が受け止められるかということと、どれだけ早く敵戦艦を倒せるか、ということである。

 

「扶桑より通信、ただいまより斉射に入るとのことです!

あっ、陸奥からも斉射に入ると報告がありました!」

「オーケー、さっさと決めちまおう!」

 

 これで第一戦隊は全ての戦艦の主砲の照準が合ったことになる。

 敵戦艦にとっては絶望だ。何せ1隻あたり10門、4隻合わせて40門もの41㎝砲から撃たれるのだから。

 

『見張よりCIC! 敵戦艦2番艦発砲、狙いは本艦の模様!』

 

 唐突に見張台から報告が飛び込んできた。この時になって、やっと敵戦艦も砲撃にかかったらしい。

 報告から少しして、甲高い飛翔音が微かに聞こえてきた。が、弾着時の炸裂音は小さく、爆圧の衝撃もあまり感じない。

 

『見張より艦橋。敵砲弾は本艦の右前方500メートル付近に弾着』

「了解。敵さん、さぞかし慌ててるなこりゃ……まあ、無理もないか。どこから現れたか分からない敵艦隊によって、撤退路を塞がれていたんだからな……」

 

 

 実は、ロデニウス第13艦隊が取った手段は非常にシンプルなもので、タネを明かせば何ということはない。

 読者の皆様は、以前にグラ・バルカス海軍中央第2艦隊と交戦した時や、ニューランド島でグラ・バルカス特務軍艦隊と交戦した時のことを覚えておいでだろうか? こうした海戦で第13艦隊がしばしば実施しているのが、"人形の軍艦というべき艦娘の特性"と"脚の長い航空機の速度"を活かし、艦娘を空挺降下させて敵を追撃する作戦である。

 今回堺たちが実施したのも、その作戦の応用であった。ただし今回は航空機ではなく、宇宙空間航行を可能とする"(くし)()"の艤装に艦娘たちを乗せ、敵艦隊の予想撤退路に大気圏外から先回りするという方法を取っている。しかも"釧路"を脚に使ったことで、それまでの艦隊空挺作戦とは比較にならないほどの大規模兵力を展開することに成功していた。

 結果として堺の作戦は図に当たり、グラ・バルカス艦隊はとんでもない規模の敵艦隊に真正面からぶち当たるという、絶望的な戦闘に巻き込まれる羽目に陥ったのである。

 

「作戦に変更はない、とりあえず敵の数を減らす!

水雷戦隊は全速で突撃! 敵の迎撃が本格化する前に内懐に飛び込んで魚雷を叩き込め!

戦艦、重巡の諸君はとにかく撃ちまくれ! 誤射さえしなきゃ何でも良い!」

 

 けしかけるように指示を飛ばす堺。その直後に「長門」が斉射を放つ。他の戦艦から聞こえる砲声も、これまでより遥かに大きい。

 いくら敵戦艦が頑丈でも、4隻の戦艦から集中砲火を喰らってはひとたまりもない。敵戦艦2番艦は必死に応戦したらしく、「長門」に対して2発の至近弾を出したが、それが限界だった。命中弾を出す前に、数えきれないほどの41㎝砲弾を浴びてしまい、敵戦艦2番艦は全体が松明のような姿になって、急速に速度を落としつつある。主砲も沈黙しており、撃ってくる様子がない。

 敵戦艦の前方には、いくつもの水柱が上がっている。速度が落ちたために照準を誤った41㎝砲弾が落下しているのだ。

 

「よし、第一戦隊各艦は砲撃目標を敵重巡洋艦並びに水雷戦隊に変更! 敵戦艦はアイオワと武蔵に任せて、水雷戦隊の援護に回る。戦艦の火力支援があれば、あいつらももう少し楽になるだろう」

「了解した。艦隊、この長門に続け!」

 

 

 一方その頃、包囲艦隊の左翼を担っていた第一水雷戦隊は、第九戦隊と共に敵艦隊への突撃を続けていた。

 

「どこかの夜戦バカには負けないから!」

 

 第一水雷戦隊旗艦「()()(くま)」の艦橋では、艦長の"阿武隈"が戦意を漲らせる。

 彼女のいう「夜戦バカ」とは言うまでもなく、第三水雷戦隊の旗艦に座乗する"(せん)(だい)"のことだ。その"川内"は今頃、第二水雷戦隊と共に包囲艦隊の右翼の一部として敵艦隊への攻撃を敢行しているはずである。

 同じ境遇にある者同士として、"阿武隈"が対抗心を燃やすのも無理はなかった。

 

「みんな、あたしについてきてる?」

『誰に言ってるのかしら? (あかつき)なら大丈夫よ!』

『こちらヴェールヌイ。依然続航中、だよ』

(いかずち)も異常なーし!』

(いなずま)だって、やるときはやるのです!』

(しら)(つゆ)は大丈夫! だって、いっちばーん、なんだから!』

時雨(しぐれ)、問題ないよ』

 

 頼もしい仲間ばかりが揃ったものだ、と"阿武隈"はつくづく思う。中学生くらいにしか見えない幼そうな子たちばかりだが、その小さな身体には信じがたいほどの勇気が宿っている。敵の砲撃に身を晒したまま突入するなんて、並大抵の度胸ではできるものではない。

 

『こちら第九戦隊、北上。多分そろそろ敵の中でも立ち直りの早いのが突撃してくるよー、気をつけて』

 

 唐突に、第一水雷戦隊と共に突撃している第九戦隊指揮官の"北上"から通信が来た。

 "阿武隈"にとって、"北上"は必ずしも好意的に接することができる存在ではない。むしろ苦手な方だ。

 だが、こと夜間の突撃水雷戦となれば、"北上"もまた頼もしい存在となる。何せ彼女は、その艤装に50本にも達する酸素魚雷を搭載しているからだ。姉妹の"(おお)()"、"()()"と合わせれば、総計130本という()(とう)の物量をばらまけるのだ。酸素魚雷の隠密性の高さを活かせば、多数の敵艦を撃沈破するばかりだけでなく、深刻な混乱を引き起こして敵艦の隊列を崩すことも可能だろう。

 

「了解。第九戦隊はどうしますか?」

『こちら北上。最悪、第九戦隊は遠距離阻止雷撃にするよ。まあ、アタシら防御力は低いからねー』

「オッケー、なら一水戦は予定通り突撃します!」

 

 30ノットを超える、出せる限りの最大速度で第一水雷戦隊は突撃を続ける。発射点まで、あと3,000メートル。

 

「ん?」

 

 ここで"阿武隈"は気付いた。おぼろげながら、敵艦隊から数隻の艦艇が離れて、こちらに向かってきているように見える。

 

「敵艦接近、駆逐艦ばっかり5隻くらい!

全艦、左砲戦よーい!」

 

 ここまで1発も主砲を撃たずに突撃してきたが、ここはどうやら一戦交える必要がありそうだ。

 

「主砲、射撃用意良し!」

「よーし、てーっ!」

 

 左舷前方に指向可能な3基の「14㎝単装砲」が、一斉に火を噴いた。後方からも、太鼓を連打するような音が聞こえてくる。駆逐艦たちが砲撃を開始したのだ。

 

『ギッタギッタにしてあげましょうかね!』

 

 第九戦隊も砲撃を開始したらしい。

 続いて、敵艦隊が撃ってきた。シューッという音が"阿武隈"の頭上を飛び越え、水中爆発の衝撃が僅かに「阿武隈」を震わせる。

 砲撃の狂奏の中、"阿武隈"は新たな命令を出した。

 

「全艦、左舷魚雷戦用意! 雷撃距離ゴーマル、調定深度2メートル、散布角2度、発射雷数8、ありったけ全部撃って!」

「敵駆逐艦、1隻炎上!」

 

 雷撃の準備を整えつつ、第一水雷戦隊は機関を全開にして突っ込んでいく。

 

『こちら北上。敵が1個駆逐隊出して、こっちを防ぎに来たわー。被弾が怖いから、ちょっと遠いけど距離ナナマルで魚雷撃つね』

「了解しました!」

 

 敵艦隊までの距離、7,300メートル。第一水雷戦隊の魚雷発射点までは、あと2,300メートルだ。

 

『雷、被弾!』

 

 ついに味方に被弾する子が出てしまった。敵も死に物狂いで、こちらを食い止めようとしているのだ。

 

「こちら阿武隈、雷ちゃん大丈夫!?」

『このくらい、雷はぜーんぜん平気なんだから!』

 

 続いて"暁"と"白露"が被弾した。だがそれと引き換えに、こちらも敵駆逐艦2隻を炎上させている。状況としてはイーブンくらいだろう。

 

「敵との距離ロクマル!」

『こちら北上。第九戦隊、右舷魚雷戦。魚雷発射始めー!』

 

 第九戦隊……重雷装巡洋艦の面々が、魚雷の発射を開始したようだ。おそらく、右舷側の魚雷発射管から魚雷を撃った後、反転して左舷の魚雷発射管を空にするつもりだろう。

 総計130本もの魚雷が発射されるのだ。しかも、その全てが「40式魔導酸素魚雷改」…レモン型の弾頭を使用したことで誤爆率を減らし、51ノットもの最大速度と比類無き威力を両立した、酸素魚雷の極致というべき存在である。たった1本の命中でも、巡洋艦クラスに致命傷を与え得るほどの大威力の魚雷を、130本もばらまこうというのだ。

 

「夜戦バカにも北上さんにも負けないから! まだまだいくよ!」

 

 敵の砲弾が飛来する中を、第一水雷戦隊は全速力で突っ込んでいく。

 甲高い飛翔音が近付いてきたと思う間もなく、"阿武隈"の艤装が激しく揺れた。砲撃の反動などではない。明らかに被弾の衝撃だった。

 

「艦中央部に被弾!」

「ダメコン急いで!」

 

 これまで敵弾を避け続けていた「阿武隈」だが、ついに被弾してしまったのだ。

 もし魚雷発射管に被弾すれば、装填済みの魚雷がいっぺんに誘爆し、"阿武隈"は一瞬で轟沈してしまうだろう。怖いが、それでもやるしかない。

 その時、突然明るい光が闇を切り裂いた。"阿武隈"の前方に強烈な光が煌めき、次いで巨大な火球が膨れ上がった。敵艦の艦列の真ん中で、大きな爆発が起きたのだ。

 

「敵駆逐艦1隻、轟沈!」

 

 見張員妖精が歓喜の声を上げた。

 

「1番、2番連管、魚雷発射準備良し!」

 

 そして突撃している間に、魚雷の発射準備が整った。

 

「敵距離ロクマル!」

「1番砲塔被弾!」

 

 これまでに3発の敵弾を被弾していた"阿武隈"だが、今回は主砲塔1基がやられてしまった。主砲はまだ2基残っているが、いつまた被弾するか分からない。

 

「第1砲塔、弾火薬庫注水急いで!」

 

 躊躇なく"阿武隈"は命じた。

 主砲の弾火薬庫に誘爆すれば、"阿武隈"は最悪轟沈してしまう。それだけは避けねばならない。

 

「被害は出てるけど、思ったより少ない…それだけ敵が混乱してるってこと?」

 

 ひとりごちる"阿武隈"。

 実際、今のところ被害は確かに出ているが、少ない。敵戦力の大きさから考えて、艤装放棄に至る艦娘が1人くらいは出ているところである。それが1人も艤装放棄がいないとなると、敵側が混乱して有効な迎撃ができていないのだろう。

 

「距離ゴーマル!」

「第一水雷戦隊、面舵90度! 回頭終わり次第魚雷発射始め!」

 

 敵の砲弾の落下による水柱が海面を騒がせる中、"阿武隈"の艤装が大きく右に旋回した。そして敵艦隊に左舷側の艦腹を向けるや、魚雷発射管から8本の魚雷を発射する。

 駆逐艦の子たちから「魚雷発射完了」の報告が入る中、"阿武隈"は全速退避を図りながら、暗い海中を突き進む魚雷の姿を想像した。

 

 

「まあ、こんなもんかな」

 

 味方から報告をまとめながら、堺はそう言った。

 第九戦隊が魚雷を発射したのを皮切りに、突撃していった各水雷戦隊は被害を受けながらも、次々と魚雷の発射に成功した。その結果、敵艦隊は魚雷を喰らって大混乱に陥っており、特に駆逐艦や軽巡洋艦クラスの艦艇はほぼ一撃で轟沈しているという始末である。

 戦艦も1隻が沈められ、もう1隻も大きく炎上している。重巡洋艦にも被害が続出しているようだ。

 

「提督よ、そろそろではないか?」

 

 "長門"の質問に、堺は大きく頷いた。

 

「うん……ここまでだ」

 

 

 一方、グラ・バルカス帝国の戦艦「アルファ・ケンタウリ」は、断末魔を迎えかけていた。

 敵戦艦の砲撃によって、「アルファ・ケンタウリ」は甚大なダメージを受けていた。被弾した砲弾の数は10発だが、その10発によって「アルファ・ケンタウリ」は主砲2基が使用不能となり、左舷側の副砲や高角砲はほぼ全滅、さらには機関も一部を破壊されてしまい、出せる速力はたった8ノットにまで落ち込んでいる。艦の傾斜は10度近くになっており、沈没の危険はかなり高い。

 

「くそ……これが、これがロデニウス艦隊の実力だというのか…。全く勝負にならんとは……」

 

 悔しげにぼやくガリデー。破片か何かで切ったのか、その額には血が流れている。

 

「む?」

 

 とここで、ガリデーは気付いた。

 敵戦艦からの砲撃がない。また、突撃してきていた敵の水雷戦隊も、反転して退避に移っている。

 

「敵が、攻撃を止めた…?」

 

 ガリデーがそう呟いた時、「アルファ・ケンタウリ」の通信長が叫んだ。

 

「し、司令! 艦長!

敵艦隊から入電です!」

「何だと?」

 

 ガルーダ通信参謀が目を見開く。

 レッドロック参謀長が、黙って目線を動かした。「電文を読め」というサインだ。それをしっかりと確認した通信長が、電文を読み上げ始める。

 

「『発、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊。宛、グラ・バルカス帝国艦隊。

我、貴艦隊に降伏を勧告す。貴艦隊奮戦すれど、既に戦力の過半を喪失せるものと拝察せり。我、貴軍将兵の奮戦に心から敬服すると共に、貴軍将兵の生命の放蕩されたるに哀悼の念を抱くものなり。我、無益なる殺生を望まず、最大限の慈愛を以て貴艦隊を我が軍門に招かんとす。願わくは我が軍門に降られたし。

ロデニウス連合王国海軍第13艦隊司令官 サカイ・シュウイチ』…以上です」

「降伏勧告、か…」

 

 ガリデーは天を仰ぎ、瞑目した。その傍らで幕僚たちが議論を始める。

 

「降伏しろだと!? 栄光ある我がグラ・バルカス艦隊にか!?

降伏など有り得ん! 徹底抗戦だ!」

「馬鹿、現実が見えてないのか! 今の我が艦隊に、奴らに勝てる力があると思うのか!? 水上艦隊だけでも我が方より強力な戦力なのに、制空権も向こうが持っているんだぞ! どうやって勝てるってんだ!」

「左様、これ以上の交戦は無駄に兵士たちを死なせるだけだろう。私としては降伏しかないと思うが」

 

 聞いていると、だいたい降伏派が多いようだ。ただ、抗戦派も存在している。

 

「意見は出尽くしたか?」

 

 しばらく経って議論が途切れたタイミングで、これまで黙っていたガリデーが口を挟んだ。

 

「司令、如何いたしますか?」

「如何いたしますかだと? 決まっている」

 

 すがるようなレッドロック参謀長の質問に、ガリデーはきっぱりと答えた。

 

「通信長、ご苦労だが残存する味方全艦に打電してくれ。今すぐに戦闘行動を中止せよ、と。

それと、敵艦隊に返信だ…『貴軍の降伏勧告を受諾する。我軍将兵の身の安全を保証されたし』とな」

「「「!!?」」」

 

 その瞬間、雷に打たれたような顔をして幕僚たちは一斉に己が上司の顔を見た。

 ガリデーの顔にはどこか悔しそうな様子が滲んでいたが、それでも晴れ晴れとした顔であった。

 

「し、司令。て、敵艦隊に、こ、降伏するというのですか?」

「そうだが?」

「抗戦は…」

「できるわけねーだろ」

 

 抗戦派筆頭の航空参謀キース・トライバル大佐の意見を、ガリデーはあっさりと切り捨てた。

 

「空母は無し、戦艦も巡洋艦も傷物ばっかり、無敵神話が破れたんで兵士たちの動揺は少なからず。その状況で、目の前にいるこの敵艦隊だ。

グレードアトラスター級2隻に、ヘルクレス級クラスが最低でも4隻だと? どうやって勝てと言うんだ? しかも、重巡洋艦の数でもこちらが負けているというのに?

止めに、この辺の制空権は敵が握っているんだ。交戦で損傷して速度が落ちた艦艇が、イナゴの群れのように襲ってくる敵機から逃げられると思うのか? 到底無理だろう。

つまり、敵は幾重もの包囲陣を用意して、俺たちをハメた訳さ。そして俺たちに、敵の重囲を突破するだけの戦力はない。

残念だが、完全に俺たちの負けだ。ならば、これ以上味方の犠牲を増やすのは、愚の骨頂というものだろう」

 

 ぐうの音も出ない正論である。

 

「司令は…司令は、悔しくないのですか?」

「悔しくない訳がないだろう。今朝までは俺だって、負けるとは思ってなかったんだからな。

だが、これで納得がいった。これほどの強敵なら、カイザル閣下と東部方面艦隊が敗れたのも道理というもの。まして東部方面艦隊より強いとは言えない俺たちでは、打ち勝てる訳がない」

 

 キースの質問に答えた後、ガリデーは周囲を見渡した。

 

「さて、こうなった以上もう沈没しかけている船に残る理由はない。

艦長、総員退艦を命じたまえ。本艦はもう救えない。ならば乗員の命を最優先にするべきだ」

「承知しました。全員に総員退艦を命じます」

「通信長、敵味方に通信送ったか?」

「たった今送信完了しました」

「良し。お前も退艦しろ。敵の捕虜になってでも生き残れ。それが、西部方面艦隊司令としての俺からの最後の命令だ」

「はっ!」

 

 

 こうして、第三次バルチスタ沖大海戦は終わった。

 ロデニウス海軍第13艦隊は、最終的に軽巡洋艦娘1人と駆逐艦娘4人が艤装放棄を余儀なくされ、中破の被害を受けた子もいたものの、戦闘中に艤装放棄に至った艦娘はいなかった。それに対してグラ・バルカス帝国海軍西部方面艦隊は、残存艦艇が降伏したことで全艦艇が未帰還となってしまった。

 東部方面艦隊、特務軍艦隊に続き、グラ・バルカス帝国はまたしても海軍の主力艦隊を失ったのである。

 

 

「とりあえず、何とか上手くいったな」

「全くだ」

 

 グラ・バルカス艦隊の降伏を受け入れた後、その事後処理のためバタバタになっている第13艦隊司令部にて、"長門"と堺はそう話し合った。もうすっかり陽が昇っており、日付は12月4日に進んでいる。

 味方の負担は大きかったが、ひとまず作戦目標は達成できた。グラ・バルカス帝国は主力艦隊1個を喪失したし、こちらの最新戦術についてもその有効性を確認できた。これだけやれれば十分だ。

 

「後は、もう1個の敵艦隊がどうなったか、だな」

「それなんだが提督…」

 

 "長門"がそう言いかけた瞬間、通信長妖精が切迫した声で叫んだ。

 

「ムー国のスカパ・ブロー基地より緊急入電!

『《スカパ・ブロー》北方300㎞地点にて、グラ・バルカス帝国の艦隊を発見。戦艦2、空母4を基幹戦力とする、総勢40隻前後の艦隊。航空機発艦中と認む、これより迎撃する』とのことです!」

「「!!」」

 

 堺も、"長門"も、思わずはっとした様子を見せた。

 

「ちっ、別動隊がいたか!」

「なぜ別動隊と分かるんだ?」

「数が少なすぎる。敵の主力艦隊から分派されたか、あるいは別の艦隊か…いずれにしろちと厄介なことになった」

「提督よ、どうするんだ? 我が艦隊が今からスカパ・ブローに向かうのは無理だぞ」

「分かっている…《デスシャドウ》に任せるしかない」

「《デスシャドウ》にだと!?」

 

 "長門"が目を見開いた。

 

「提督よ、確かあの部隊に所属する艦娘の数は…!」

「そうだ、たった1人しかいない」

 

 堺はあっさりと首肯した。

 

「それで十分なんだ、あの部隊は……いや、あの娘なら。報告さえ送っとけば、後は何とかしてくれる」




第三次バルチスタ沖大海戦もついに決着。軍配が上がったのは、ロデニウス艦隊でした。
しかし、勝利に沸き立つ暇もなく、第13艦隊司令部には新たに「敵艦隊見ユ」の報告が…! そんな中で堺が妙に落ち着いている理由とはいったい…?


次回予告。

無事、グラ・バルカス帝国の主力艦隊1個を撃破したロデニウス海軍第13艦隊。バルチスタの海はまたもや大量の鉄と血を飲み込むことになってしまった。
その一方、ムー大陸北方沖に突然グラ・バルカス艦隊が出現。ムー統括空軍は総出でこれを迎え撃つ……
次回「ムー大陸西方大海戦 zwei スカパ・ブロー沖空海戦」
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