鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
突如襲ってきたグラ・バルカス艦隊。それに対してムー統括軍が挑みます。
中央暦1643年12月4日 午前6時 、第二文明圏列強ムー国北端部 オリョール県スカパ・ブロー市。
港湾都市であるスカパ・ブロー市は、ムー大陸北部一帯の物流の要として、またムー統括海軍の北方守備の要港として発展してきた街である。都市や港の規模はマイカル、オタハイトに次いで大きく、そのため民間の商船から最新鋭の軍艦まで数多くの船がこの港を利用し、港の近くには工業メーカー各社が工場を建て、そこで働く人たちのために街には大規模な市場が開かれるなど、厳寒の北方ながらいつも活気に満ちている。
そんなスカパ・ブローをこの日の朝から満たしていたのは、活気ではない。ヒリつくほどの焦燥感と、幾重にも重なるレシプロエンジンの轟音。そして空襲警報のサイレンだった。
研究熱心なムー統括軍は、
そんなムー統括空軍の研究成果の1つとして、新型航空機の「ラ・シーカ」が挙げられる。これは、搭載量の多い「ラ・カオス」を元にして作られた索敵機だ。その最大の特徴は、機首にロデニウス製の「13号対空電探」を参考にした「シーキングホライズ」型機上電探を装備していることである。
ムーきっての技術士官マイラス・ルクレール中佐の強い進言により、ムー統括軍は電波兵装の充実に全力で取り組んだ。特に、師匠と仰ぐロデニウス連合王国軍が
ちなみに現在、ムー統括空軍は「アラル」や「バミウダ」に代わる新型戦闘機として「F6Fヘルキャット」を自力でこしらえようとしている。このヘルキャットにはレーダーを搭載した夜間戦闘機タイプの派生型が存在していたことから、ムー空軍ではロデニウス軍に先駆けて艦上戦闘機にレーダーを搭載しようという野望も頭をもたげている。尤もまだ試行錯誤どころか構想段階であり、何とか形にしようと技術者たちが頭を絞っているだけであるが。
閑話休題。
そんな「ラ・シーカ」のうち1機が、ムー大陸北方の沖合にてグラ・バルカス帝国の空母機動部隊を発見したのである。「レーダーに感、大規模艦隊を発見せり」と第一報を送ってきたこの機はその後、「我敵機の襲撃を受く。敵はグ帝の《アンタレス》」という電文を最後に、消息を絶ってしまった。
だが、この「ラ・シーカ」の犠牲と引き換えに、ムー統括軍はスカパ・ブローに重大な脅威が迫っていることに気付いた。そこで直ちに迎撃体制を取ったというわけである。
朝っぱらから冬の大気を騒がせて、多数のレシプロ機がスカパ・ブロー市の上空を舞う。その全てに、ムーの国籍章が描かれていた。
飛んでいるのは、ムー統括空軍が誇る戦闘機たち。しかも「マリン」の姿は既になく、全て金属製の機体に変わっている。…大半が固定脚の突き出た機体であるが。
固定脚を持っているのは、「マリン」と並んでムー空軍の数的主力を担う「アラル」艦上戦闘機。その他に、主翼端を四角に切り落としたような戦闘機「バミウダ」の姿も少数ながら見える。
ちなみに「アラル」は九六式艦上戦闘機、「バミウダ」はF4Fワイルドキャットのムー呼称だ。
「アラル」と「バミウダ」の数は、両機種合わせて30機程度。それが飛び去った後、これまでとは違う野太いエンジン音が響き、どこかがっしりとした機影が20機近く、スカパ・ブロー上空を飛んでいく。
緊急発進したムーの戦闘機部隊は、スカパ・ブロー市の北方100㎞の沖合で、敵戦闘機部隊とぶつかった。相手の数は60機前後。
数にそう差はない……はずだが、空戦が始まるやムーの戦闘機部隊が押され始めた。というのも……
「速すぎる! なんだあの機体は!?」
「『バミウダ』の500㎞の脚でも全く追い付けないなんて…!」
『後ろを取られた! ふ、振り切れない! がぁっ!(衝突音と共に通信途絶)』
「違う! こいつら『アンタレス』じゃないぞ!」
敵機の脚が速すぎたのだ。おそらく時速600㎞…いや、それ以上の速度で飛んでいる。
そう、グラ・バルカス帝国軍が投じてきたのは、新鋭戦闘機「アルコル」…通称「アンタレス改」だったのだ。最高時速660㎞という速さは、ムー統括空軍にとっては桁違いのものであった…一部のパイロットを除いて。
そのうちの1人、ムー空軍のパイロットであるパーテリムは、愛機の特徴を活かして敵機の後ろを取ることに成功していた。
「ムー国は……儂が護る! この新しい力でな!」
照準器に写りかけている敵機に、パーテリムは怒りを込めて呟いた。
時を少し遡って、中央暦1643年4月初旬。
パーテリムは軍司令部の命令で、ムー南部の商業都市マイカルに向かうことになった。行く先は、マイカル郊外に拠点を構える航空機製造会社「エストリバー社」の工場である。
エストリバー社は、戦闘機「マリン」の合同設計に関わった他、「マリン」の1世代前の戦闘機「オクタール」の製造を行っていた。だが、最近は業績がやや低迷しているとパーテリムは聞いていた。
そのエストリバー社が乾坤一擲の賭けに出て、新しい戦闘機を作ったらしい。そして、そのテストパイロットにパーテリムが選ばれたのだ。
「やれやれ、今になって愛機を降りねばならんとはのぅ……」
エストリバー社の門を見上げ、パーテリムはため息を吐いたものである。
パーテリムは元々「マリン」に乗っており、祖国が開発したこの複葉戦闘機を素晴らしい機体だとして長らく愛用していた。そこに乗り換え命令がきたようなものであるため、パーテリムの落胆もひとしおであった。
だがテストパイロット就任は軍部の命令である。従う他なかった。
「パーテリムさんですね? よくお越しくださいました。
さっそくですが、機体をお見せします!」
到着早々、いきなりテンションの高い工場長に引っ張られて、パーテリムは格納庫に案内される。
エストリバー社工場のすぐ隣には、ムー統括空軍が飛行場を築いている。その一角を間借りする形で、エストリバー社の格納庫が置かれていた。扉が開かれると、その中には1機の航空機が収まっていた。
「なっ……何じゃこれは!?」
それを一目見たパーテリムは、強い衝撃を受けた。
その機体は、「マリン」とは明らかに違っていた。何せ主翼が1枚しかないし、主翼も機体の胴体も明らかに金属製である。そして、「マリン」ではプロペラの内側に
何よりパーテリムの注意を引いたのは、主翼から突き出た機銃の銃身である。「マリン」に乗り慣れていればこそ、パーテリムは一瞬でその機銃がどれほどの威力を持つか想像できてしまった。
(何じゃこの機銃……口径は20㎜クラスか!? それが4丁もある!? だとしたら、この機体はとてつもない攻撃力があるぞ!?)
「マリン」の武装は、機首のエンジン上部に設置された7.92㎜機銃2丁である。それと比較すれば、この新型機の火力は凄まじい。
「どうですかな? これが、わが社がロデニウス連合王国からの技術支援の下作り上げた…わが社の命運を賭けて開発された新型戦闘機。仮称『オーシア』戦闘機です。
この戦闘機の原型となった機体は、ロデニウス連合王国軍でも主力として使われており、かの国では『シデン・カイニ』なる名前で運用されているそうです。それを、我が統括軍の仕様に合わせて改修した機体、それがこの『オーシア』です。
計画上の機体性能をこちらにまとめておりますので、まずはこちらをご覧ください」
工場長から渡された書類に、パーテリムはさっと目を通す。次の瞬間、パーテリムの目が大きく見開かれた。
「なっ……何じゃこれは!? し、出力2,000馬力じゃと!?」
パーテリムが目を見張ったのは、「オーシア」こと「紫電改二」の機体性能だった。エンジンの離昇出力2,000馬力、これは「マリン」のエンジン出力の3倍以上にあたる(「マリン」のエンジンは600馬力)。
そのハイパワーエンジンによって叩き出されるのは、最高時速644㎞という凄まじい俊足。「マリン」の最大時速が380㎞だから、全く比較にならない。さらに、実用上昇限度も「マリン」では7,000メートルも上がれないのに対して、「オーシア」では11,000メートル以上もの高空にも上がれてしまう。加速性能も段違いだ。
火力に至っては、「マリン」と比べるともう笑うしかないほどの性能差があった。
「機首上部12.7㎜機銃2丁に、主翼20㎜機銃4丁……携行弾数は全部合わせて1,300発……は、ははは……」
「素晴らしいでしょう!? これほどの火力、『マリン』や『アラル』はおろか、『バミウダ』でも持ち得ませんぞ!
そして恐ろしいことに、これほどの火力を持ちながら、なんと250㎏爆弾2発を抱えて軽爆撃機として運用することも可能なのです!」
熱の籠った口調で、工場長がまくし立てる。
「マリン」から比べると、赤ん坊と大人ほどの差がある……それが、パーテリムの感想だった。これほどの機体が開発されているなんて、祖国は何と恐ろしい戦闘機を生んでしまったのか。そして、これほどの機体を主力戦闘機として運用しているというロデニウス連合王国には、どれほどの技術力・軍事力があるのか。
「さあ、説明はここまでにしまして、さっそく乗っていただきたいのですが!」
工場長のハイテンションに押し切られ、パーテリムは飛行服に着替えて「オーシア」のコクピットに潜り込んだ。座り心地を確かめた後、マニュアルとにらめっこしながら計器類の名称と役割を確認する。
一通り確認し終え、フットバーと操縦桿でラダーやエレベーター、エルロンの動きを確認して……パーテリムは気付いた。
「おい、エンジンを回すのを手伝ってくれんのか?」
「マリン」では、エンジン始動の際に「イナーシャ・ハンドル」という工具を使って機体の外からエンジンを回す必要がある。
「いえ、こいつは機内からエンジンを始動できます! イナーシャ・ハンドルなんて要らないんですよ!」
「なんと!? そこまで進化したというのか…!」
ジェネレーションギャップを感じつつ、パーテリムはエンジンを始動させた。
ゴウンゴウン…と腹の底に響くような太い轟音がした後、プロペラが動き始めた。最初はゆっくりと、それからエンジンに火が回り、急速に回転を早めていく。
「ほ、本当にイナーシャ無しで起動しおったわい……」
エンジンの暖機運転が終わるのを待つ間に、パーテリムは急いで操縦マニュアルを読み進める。そして改めて、「オーシア」の性能に舌を巻いた。
(自動で動く空戦フラップじゃと!? そんな代物まであるというのか…! 「マリン」とは、何もかもが違うのう……)
やがて暖機運転が終わり、パーテリムはゆっくりと「オーシア」を走らせる。誘導に従って滑走路に出ると、マニュアルを思い出しながらスロットルを徐々に開いていった。
エンジンの轟音が急速に高まり、「オーシア」は勢いよく滑走路を走る。しばらく走った後に機体尾部が浮き上がり、離昇速度に達したのを確認して、パーテリムはゆっくりと操縦桿を引いた。
「オーシア」が機首をやや上向け、ふわりと空へ舞い上がる……
試験飛行の時を思い出しながら、パーテリムはスロットルを全開にした。さらに、前方に見える敵機に照準を合わせる。
ムー空軍の「オーシア」のうち1機を追い回していた「アルコル」のパイロットが、後方から迫る脅威に気付いた時には遅かった。
「墜ちろ!」
咆哮と共にパーテリムが放った20㎜弾が、照準過たず「アルコル」の左主翼に突き刺さった。その途端に「アルコル」の左主翼が中ほどから歪にねじ曲げられ、直後に折れて弾け飛ぶ。左の揚力を失った「アルコル」は、絶叫を上げるパイロットを道連れにして錐揉みに入り、やがて海面に叩き付けられた。
「うむ」
呟いた直後、パーテリムは急いで操縦桿を左に倒し、次いでフットバーを左に蹴りつけた。殺気を感じたのだ。
ねじを巻くように横転した「オーシア」を、太い火箭が掠めて飛び、それを追いかけるように敵機のほっそりした影が吹っ飛んでくる。ギリギリのところで、パーテリムは被撃墜を免れた。
「いかん!」
敵機の攻撃をかわしたついでに周囲を見渡し、パーテリムは戦況が危機的であることに気付いた。「オーシア」はどうやら敵機と互角に渡り合っているのだが、「バミウダ」や「アラル」が次々とやられている。敵の方が、数的優位を獲得しつつあった。
「うぬぅ…! だが儂らとて、簡単には負けぬぞ!」
新たに1機の敵機を攻撃し、その機が炎を黒煙を吐いて高度を下げていくのをちらっと見て、パーテリムは戦意を漲らせた。
実はこの時、グラ・バルカス帝国軍の戦闘機パイロットたちも、"ムー国の新鋭機"に驚いていた。
"ムーの新鋭機"こと「オーシア」は、最高速度では僅かに「アルコル」に劣るものの、たった20㎞/h程度の速度差は、彼我の高度差や風向きなどの条件次第で容易に覆し得る。それに加えて、「オーシア」が「アルコル」より高火力である(「アルコル」の武装は機首12.7㎜機銃2丁に主翼20㎜機銃2丁。「オーシア」の方が20㎜機銃が2丁多い)こと、そして「オーシア」には自動空戦フラップが備えられていることが大きく響いていた。「アルコル」にも自動空戦フラップはないのである。
しかし、数の差は如何ともしがたかった。
「アラル」も「バミウダ」も、圧倒的な性能差の前にあえなく全滅し、互角に渡り合っていた「オーシア」も数の暴力で1機また1機と撃墜されていく。その運命は、既にパーテリムの首筋にまで迫っていた。
2機の敵機に追われ、攻撃もままならず必死に逃げるパーテリム。しかしその周囲に、さらに3機ほどの敵機が迫ってきつつある。
「むぅ…! ここまでか…!」
その瞬間のことだった。
パーテリムを追ってきていた敵機が、不意に閃光を発して火球に包まれた。同時に、周囲にいた他の敵機も、ことごとくバラバラに砕け散った。
「何じゃと?」
パーテリムは一瞬、あっけにとられた。いや、パーテリムのみならずこの空域にいたパイロットたちは、敵味方を問わず一様にあっけにとられたことだろう。
その時、タカのように鋭いパーテリムの瞳が、南東の空にうごめく物を捉えた。最初は小さな黒点にしか見えなかったそれは、"あっという間"以外の表現が思い付かないほどの速度でパーテリム機に迫ってくる。
「!?」
パーテリムが目を見開いた瞬間。
急速に接近してきた黒点は、10機ほどの航空機の姿に変化してパーテリム機を追い越していった。だが、その機体はパーテリムの知る機体のどれとも似ておらず、まさに「異形」という以外の表現が見つからなかった。
大きさはかなり大きい。機首にはプロペラがなく、主翼も機体後方に向かって斜めに生えるという特異な形状。機体は晴れた夏の海を思わせる濃い青色に塗装されており、機体後部からは2本の青白い炎を噴き出している。
「オーシア」こと「紫電改二」は最高時速644㎞という俊足を誇っており、これはそれまでにムー統括空軍が採用したあらゆる戦闘機を圧倒する脚だ。だというのに、そいつらは最高速度で飛ぶ「オーシア」を赤子扱いするかのように、凄まじい速度で飛び去っていった。やや遅れて、雷鳴かと錯覚するほど強烈な轟音がパーテリムの鼓膜をひどく震わせた。
「何じゃあれは!?」
一生分といっても良いかもしれない驚愕を覚えるパーテリムの前で、突然現れた異形の航空機たちは敵機に次々と襲いかかった。
ある機は主翼下から鏃のようなものを放つ。すると、その鏃は白煙の尾を引きながら飛翔し、信じがたいことに敵機の動きにぴったりとついていく。そして、逃げ惑う敵機にあっさりと追い付き、炸裂して敵機の胴体を分断した。
またある機はその神速を以て敵機に追いすがり、死に物狂いの敵機の回避運動を物ともせず、主翼の付け根から太い火箭を吐き出す。その途端に敵機は機首から尾翼までを一薙ぎにされ、空中で爆発して木っ端微塵になる。
一方的……あまりにも一方的な虐殺の光景が、そこにあった。墜ちていくのは、グラ・バルカス帝国の航空機ばかり。たった10機ほどで、戦況が完全に覆されている。
これほどの存在を、パーテリムは知らなかった。
「何じゃああれは…グラ・バルカス帝国機が、まるで赤子ではないか!
いや、この速度なら、この『オーシア』でも相手になるまい。…む? あのマークは…あれはロデニウスの!?」
パーテリムが注目したのは、その異形の戦闘機の主翼だった。控えめに描かれた赤い円、パーテリムはそれに見覚えがあった。
それは、ロデニウス海軍第13艦隊の証。
(バカな…もともと第三文明圏外国だったロデニウス連合王国が、どうやってこんな兵器を手にしたのだ!?
まさか、古の魔法帝国の遺産を解析したのか? いや、だがあの魔法帝国の遺産は、いずれも非常に高度な魔導科学によって作られていて、神聖ミリシアル帝国でも解析には難渋していると聞く。ミリシアルですら解析に苦労するものを、ロデニウスが解析できるとは思えんのだが……)
とパーテリムが考えているうちに、空戦は終わっていた。空にプロペラ機は飛んではいるが、その全てがムーの国章を描いている。グラ・バルカス帝国の国章を描かれた戦闘機は、1機たりとも見当たらない。
「なに!? まさか、もう全ての敵戦闘機を撃墜したというのか!?」
慌てて周囲を見回し、パーテリムは自身の推測に確信を持った。
パーテリムたちのいる空域から15㎞ほど離れた北の空で、
よく観察すると、青白い光の点が高速で飛び回っているのが見える。さっきの異形のロデニウス機だ、とパーテリムは直感した。雷撃機を伴ったグラ・バルカス帝国軍の第二次攻撃隊が、ロデニウスの高速機に襲われているのだ。あれではおそらく、助かる機体は1機もあるまい。
「仕事の早い奴らだのぅ…仕方ない。ここは奴らに任せ、儂らは基地の上空直掩にでも回ろうかね」
命を拾ったという安堵感を存分に含んだ声で、パーテリムはそう呟いた。
さっきから全速力で飛ばしたせいで、燃料計の針は満タンから大分減った目盛りを指している。この分では、この後出撃する攻撃隊の護衛につくことも覚束ないだろう。功に焦るパーテリムではなかった。
そしてこの時、軍港を守っていたムー海軍の第1機動艦隊も、驚愕に包まれていた。
敵の第一次攻撃隊が襲ってきた時、直掩戦闘機の発進が間に合わなかった第1機動艦隊は、必死で対空砲を撃ち上げて敵機の阻止を試みた。特に魔改造によって防空戦艦と化した「ラ・エルド改」、そして2隻のラ・トラン級防空巡洋艦の奮戦ぶりは凄まじく、3艦合わせて44門にも達する12.7㎝両用砲は活火山もかくやの勢いで弾幕を吐き出し、最低でも6機を撃墜している。その他、超弩級戦艦へとクラスチェンジした「ラ・カサミ改」や航空母艦「ラ・ラツカ」らも、1機以上を撃墜する戦果を挙げている。だが代償も大きく、「ラ・ラツカ」は無傷で済んだものの、脚の遅いラ・コスタ級航空母艦は全艦が敵の急降下爆撃を受けて炎上してしまった。さらに、防空戦艦の「ラ・エルド改」が爆弾2発を受け、主砲2基と多数の機銃を使用不能にされて対空火力を大きく減じている。
敵の第一次攻撃隊は急降下爆撃機ばかりだったが、次は確実に雷撃機がいるだろう。対空火力が減弱した状態でどこまで防げるかは不透明だが、やるだけやってみせる……レイダー・アクセル少将以下第1機動艦隊の面々は、悲壮な決意を固めていた。そこへ突然、とんでもない高速を誇る謎の機体が殴り込んできたのである。
「なあ……俺は、夢でも見ているのか? 我が艦隊の射程外で、敵機が片っ端から墜とされているように見えるのだが」
「奇遇ですね閣下。私にも全く同じ光景が見えます」
「なら、全員で白昼夢を見ているということか」
「そうなるでしょう」
「いや、そろそろ現実を理解してください」
第1機動艦隊は、司令部をラ・カサミ級戦艦「ラ・サヒア」に置いている。その艦橋で、レイダーと「ラ・サヒア」艦長オールト・バックマスター大佐が話していたが、参謀長シギント・サーマン准将がツッコミを入れた。
「シオボルド航空基地より入電。『現在、敵編隊を蹴散らしつつある謎の高速機は、ロデニウス連合王国の航空機と判明せり。露払いはロデニウス機が務める故、我これより攻撃隊を進発させ、敵空母部隊を撃滅せんとす。第1機動艦隊も是非協力されたし』…以上です」
「ロデニウスは、あんな高速機まで持っているのか……」
「もはや規格外というべき存在ですな彼らは……」
通信参謀からの報告にレイダーとシギントが呆れている間に、航空戦は終わっていた。
グラ・バルカス帝国の第二次攻撃隊は、何の戦果も得られずに全滅したのである。
「よし、これより反撃に出る。健在な全空母に、ありったけの対艦攻撃機を出させろ。敵空母部隊を撃滅する!」
「健在な空母は『ラ・ラツカ』しかおりませんが…」
「ならば『ラ・ラツカ』の出せる機体を全て出させろ。雷撃隊もいるのだろう?」
「はっ。あの艦には、我が軍初となる雷撃隊が載せられております。短いながらロデニウス軍の猛訓練で鍛えられた彼らなら、きっと戦果を挙げてきてくれるでしょう」
「分かった。攻撃隊の発進後、艦隊は最大戦速で北へ向かえ! 攻撃隊の回収を急ぎつつ、敵艦隊に艦隊決戦を挑むぞ!」
ムー統括軍の反撃が始まる。
そして同時刻、ロデニウス軍の航空機……以前のロデニウス本土防衛作戦の際に登場した"特殊戦闘機"のコクピットで、とある妖精がぼそっと呟いた。
「こんなことを言うのは不謹慎だが……うちの供与機を除いてムーの機体が全滅してて良かったぜ。でなきゃ
ロデニウス海軍第13艦隊からムー国に供与された「紫電改二」には、実はある装置が搭載されたままになっていた。ムー側が「紫電改二」を解析した際に、この装置も発見されていたのだが、ムー側はこれを完全には理解しきれず、「用途不明の無線交信装置らしきもの」とだけ認識した上で「元から付いていたのなら飛行や戦闘に使う物だろう、わざわざ外す必要もない」と載せたままにしていたのだ。その判断が、結果として有効に働いた。
「紫電改二」に載せてあったその"用途不明の無線交信装置"というのは、IFF……敵味方識別装置だった。レーダーで捕捉した機体が友軍であるか敵であるかを識別するのに使う装置である。
ムー製の「アラル」や「マリン」には、IFFは装備されていない。ムーの機体でロデニウス製IFFを持っているのは「オーシア」こと「紫電改二」と「バミウダ」ことF4Fワイルドキャットだけである。
今回の戦闘では、ロデニウス軍の"特殊戦闘機"たちはミサイルを用いて攻撃を行った。その際に、発射されたミサイルはIFFに反応した「オーシア」を味方として正しく認識し、反応しなかった「アルコル」を正確に敵と判定して撃墜したのである。
結局のところ、空を飛んでいるムーの機体が「オーシア」しかいなかったのが幸いだったのである。もし「アラル」などが混じっていたら、誤射待った無しだっただろう。怪我の功名、とでもいうべきところである。
「よし、ムーの連中の露払いといこう。残ったミサイル全弾叩き込め!」
12機の"特殊戦闘機"は、一斉に北の方角へ機首を向けると、ロケットのような加速力で突進していった。
一方その頃、ムー大陸の北の海に展開したグラ・バルカス艦隊…グラ・バルカス帝国海軍本国艦隊・中央第1艦隊の司令部には、激震が走っていた。
もともと中央艦隊は、第1艦隊と第2艦隊が存在していたのだが、第2艦隊は5ヶ月前のイルネティア沖の海戦でロデニウス艦隊と戦って壊滅してしまった。これに伴い中央第2艦隊は解隊となり、第1艦隊はその一部を吸収して再編されたのである。
そして、再編された中央第1艦隊は、主力艦隊がムー大陸西沿岸部を狙う際に、別動隊としてムー北部の要港スカパ・ブローを攻撃していたのだ。
中央第1艦隊の陣容は、戦艦2隻、正規空母4隻、軽空母1隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦5隻、駆逐艦30隻、計46隻。少数だが、もともとは本土防衛の一翼を担う艦隊であるため精鋭ばかりが揃っている。もちろん、母艦航空隊のパイロットたちも腕利きばかりである。
そのはずであるが……腕利き揃いのはずの航空隊が、ことごとく全滅したのだ。パイロットたちから無線は飛んできていたが、全く要領の分からないことばかりを喚き、「敵機が速すぎる」だの「攻撃がついてくる」だのといった悲鳴のような言葉を残して、最終的にはどの機も無線での呼び掛けに応答しなくなってしまった。第二次攻撃隊に至っては、「攻撃開始」などの合図さえも一切送られてきていない。
そのことから察するに……攻撃隊は、第一次も第二次も全滅したと考えられたのだ。
「いったいどうなっている!? アルコル戦闘機を編成した第一次隊も第二次隊も、全て全滅だと!?」
「第三次攻撃隊を出すか?」
「バカ言うな! 何の対策もせずに出せるわけないだろ!」
オリオン級戦艦「ジスフイ」に乗っている司令部では、艦隊司令のウィリアム・マクベス少将をはじめ司令部の幕僚たちが喧々顎々の論争を繰り広げている。全く以て想定外の戦況になってしまったため、どうすれば良いのかすぐには思い付かないのだ。
そもそも中央艦隊は将兵の練度こそ高いものの、本土周辺でばかり活動していたため、実戦経験が少なすぎるのである。それでもこれまでは、自国よりレベルの低い相手しか敵にしてこなかったため、勝てていたのである。
……だが、今回ばかりは勝手が違った。
"攻撃隊が文字通りの全滅"というまさかの事態に、実戦慣れしていない中央第1艦隊の面々はパニック状態に陥っている。そのため今後の対応を考えようにも、なかなか意見がまとまらない。
しかし、そんな彼らの首筋にまで、死神の刃は迫っていた。それも、時速1,000㎞を超えるという超高速を以て。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「対空レーダーに感! 艦隊より11時の方向、飛行物体多数捕捉ッ! 速度…お、およそ時速1,100㎞! あと20秒で到達します!!」
突然の警報、続いてレーダーマンが挙げた凶報。
司令部の面々がハッとなった時には、もう遅かった。
海面スレスレを超高速で飛んできた円筒形の細長い物体は、その大半がジャンプするようにして飛び上がり、真上から中央第1艦隊に降り注ぐ。それと同時に、少数がそのまま低空を這うように突っ込んできた。
対空砲の照準も間に合わず、飛んできた物体は次々とグラ・バルカス帝国の艦に着弾した。
ドーン! ドガン! ドガァァァァンッ!!
海上に轟音がこだまし、青い海面に一瞬だけ鮮烈な赤が混じる。
駆逐艦や軽巡洋艦が、真上から突っ込んできた飛行物体の突入を受けて、巨大な火球に包まれる。重巡洋艦が、真横から飛行物体に突入されて爆発する。空母の飛行甲板に真上から飛行物体が突き刺さり、爆発と共に飛行甲板がもろくも崩れ落ちる。そして戦艦の艦橋のてっぺんに、飛行物体が直撃した。
爆発の狂奏がひととおり収まった時、グラ・バルカス帝国の艦に無事なものは1隻もなかった。空母は飛行甲板に大穴を開けられ、格納庫でも火災が発生して乗員が必死の消火作業に追われている。重巡洋艦は艦橋が巨大な松明に変わり、もうもうと黒煙を噴き上げながら漂流し始めている。軽巡洋艦や駆逐艦は…全艦が見当たらなくなっていた。いや、よく見ると周囲の海面に破片や焼け焦げた破損死体が大量に浮かんでいる。
さっき飛んできた謎の飛行物体は、実はとんでもないことをやってのけていた。空母に命中したものは、なんと航空燃料庫や爆弾格納庫付近を直撃したものが多く、そのため消火活動が難航している。重巡洋艦は、真横から突入した飛行物体によって魚雷発射管を直撃され、装填されていた魚雷が誘爆して修羅場になっていた。軽巡洋艦も駆逐艦も、剥き出しの魚雷発射管を真上から飛行物体に貫かれ、魚雷の誘爆によって全艦が轟沈。そして戦艦は、艦橋のトップを直撃されたことで射撃指揮所と主砲射撃方位盤が全損し、ついでとばかりに艦長をはじめとする首脳部の面々を大概吹き飛ばされていた。
見てお分かりかと思うが、どの艦も急所ばかりを攻撃されているのである。1隻や2隻がウィークポイントをやられたのならば"たまたま"かもしれないが、全艦が急所をやられたとなれば話は別だ。明らかに狙って攻撃されたのである。
この様子をまざまざと見せつけられた直掩戦闘機隊のパイロットたちは、想像を超える恐ろしい光景を目の当たりにして恐怖に震えた。次は自分たちがああなるのか、と思った者もいた。残念なことに、その直感は正しかった。
凄まじい高速で殴り込んできた青い航空機が、片端から直掩の「アルコル」を撃墜していったのである。どう見ても「アルコル」の倍以上の速度を出しているという、異次元すぎる異形の機体を前に、直掩隊は5分と持ち堪えられずに全滅した。
嵐のような空襲が終わった時、まだ戦える力を残していたグラ・バルカス艦は、オリオン級戦艦2隻にペガスス級空母1隻、アンドロメダ級空母3隻のみ。軽空母は消火活動も虚しく爆弾格納庫に火が回り、派手な火柱と共に艦体が真っ二つに折れて轟沈した。
空襲を凌ぎきり、何とか火災を消し止めたグラ・バルカス艦の乗員たちは、ため息を吐きながら空を見上げた。
もう自分たちを守ってくれる戦闘機も、護衛艦も存在しない。しかも飛行甲板に大穴を開けられた結果、艦載機を飛ばせなくなってしまった。自分の身を自力で守る以外にない。だが戦艦ならともかく、空母は基本的にもろい艦である。
ここまでの被害を受けてしまった以上、もう撤退するしかない。
「敵機だ!」
だが、どうやらその撤退も簡単ではないようだ。艦隊から見て南の空に、多数の黒点が見えている。それは次第に大きくなり、30機ほどのレシプロ機の姿に変わった。
「ムーの連中か? それともロデニウス軍か?」
「どっちでも良い! 対空戦闘だ!」
慌てて対空戦闘にかかるグラ・バルカス艦隊だが、いつもなら空の色が変わるほどに撃ち上げられる対空弾幕はまばらで、隙間だらけである。とても敵機を防ぎきれるものではない。
近接信管付対空砲弾により、敵機は1機が火を噴いて墜ちたものの、撃墜できたのはその1機だけ。残りは整然とした編隊を組んだまま、グラ・バルカス艦隊に殺到してきた。
上空に展開した爆撃機が、ダイブブレーキを展開してワシのように舞い降りてくる。その下腹には黒い爆弾が抱えられていた。
「急降下爆撃機…ロデニウスの機体じゃない!」
「ならムーの奴らか!」
今更敵の正体に気付いたところで、どうにもならない。
対空機銃のまばらな迎撃を掻い潜り、急降下してきた敵機…ムー初の急降下爆撃機「ピラーニ」こと「SBDドーントレス」が500㎏爆弾を投下する。それに対し、グラ・バルカス帝国の空母は急回頭で回避を試みる。
中央第2艦隊からの編入組であるアンドロメダ級空母「スピカ」は、6機の爆撃機に襲われた。爆弾は5発まで回避したものの、最後の1発が第1エレベータを直撃し、エレベータは真っ二つに折れて格納甲板に落下した。
ペガスス級空母「アウリガ」は、2発の爆弾の直撃を受けて再度火災が発生。さらに、アンドロメダ級空母「ヘーゼ」「ザニア」もそれぞれ爆弾を受けて炎上し、特に「ザニア」は艦橋を500㎏爆弾が直撃してしまい、艦長を含む艦橋クルーの大半が戦死した。
再び被害を受けてしまったグラ・バルカス艦隊、そこに低空から刺客が忍び寄る。それはムーの空母「ラ・ラツカ」から発進した「カルハリアス」…「TBDデヴァステーター」20機の編隊だった。彼らの狙いは空母…とは限らなかった。
「ロデニウスから言われていた"あの定説"…戦艦は航空機に敵わない、って奴を、今ここで試してやろうじゃないか!
第1中隊、一番デカい敵空母に向かえ! 第2中隊は俺に続け、敵戦艦を片方仕留めるぞ!」
「「「おおぅっ!」」」
ムー航空隊の中でも初めてといえる「敵戦艦の撃沈」という戦果を叩き出そうとしていたのである。
狙われたのは、オリオン級戦艦「カストル」だった。この艦も、中央第2艦隊からの編入組である。
「カストル」は必死で応戦した。健在な高角砲と対空機銃を総動員して、低空に向けて撃ちまくる。
しかし、最初のロデニウス軍の一撃で「カストル」は射撃指揮所を破壊されており、それが災いして射撃精度を確保できない。ロデニウス海軍第13艦隊から猛訓練を受けた「ラ・ラツカ」雷撃隊にとっては、「カストル」のまばらな対空砲火など恐れるに足りなかった。
度胸を見せて低空から突っ込んだ「カルハリアス」は、射点に達した機体から順に魚雷を投下。危険を承知で500メートルという超至近距離から発射された魚雷の群れを、「カストル」は回避しきれなかった。
雷撃隊は1機を撃墜されたが、それと引き換えに3本の魚雷を「カストル」に命中させた。そのうち、特に3本目の魚雷が「カストル」の艦尾に命中した。離脱にかかった「ラ・ラツカ」雷撃隊のパイロットたちが見たものは、ひたすら取り舵でグルグル回り続ける敵戦艦の姿だった。
「やった! 敵戦艦の舵を吹っ飛ばしたぞ!」
「ほぼ撃沈したようなもんじゃないか!」
「こちら第1中隊。うちの隊も2本命中だ!」
「ムー雷撃隊ばんざぁぁぁい!」
「浮かれるな! 母艦に脚降ろしてから喜べ!」
初実戦にして大戦果を挙げたムー雷撃隊の面々は、ホクホク顔で帰還していった。
グラ・バルカス艦隊には「ラ・ラツカ」航空隊だけでなく、シオボルド基地から発進した四発爆撃機「ラ・カオス」が水平爆撃をお見舞いし、基地に残っていた「ソードフィッシュ」爆撃機による緩降下爆撃も行われた。これらの攻撃についても、それなりの数の爆弾が命中している。
「とりあえず、全部終わったか…」
空襲が終わった後、空母「スピカ」のとある対空機銃手は、疲れきった顔でそう呟いた。そして舷側から周囲の海を見渡す。
辺りの海面には戦闘の名残で、様々な物が散乱していた。砕けた金属片、衣服らしきもの、遺体、棒のような金属片……
「ん?」
僅かな違和感を感じ、視線を巡らせる。さっき視界にちらっと見えた棒状の金属片を見直した時、彼は目玉が飛び出そうなほど驚いた。
その金属棒は海面から"垂直に"突き出ており、そしてガラスのようなものが埋め込まれていたのだ。それに攻撃を受けて飛び散った破片にしては、妙に整った形状をしていた。
その正体に気付いた瞬間、彼は海面を指差しながら大声で叫んでいた。
「ひ、左舷に、潜望鏡ッ!! 我が軍の潜水艦の潜望鏡とは形が違いますっ!」
その一言で「スピカ」艦上は一気に騒がしくなった。
「敵の潜水艦を発見!」
「「「駄目だ!!」」」
「駆逐艦もいないのにどうやって戦うんだ! この艦には爆雷の投射器もソナーもないんだぞ!」
「艦載機用の対潜爆弾を無理やり投下しろ!」
「んな無茶苦茶な…!」
「取り舵いっぱーい! 機関全速! 何としてでも魚雷を回避しろおぉ!!」
最後の最後に、とんだ洗礼が待ち受けていたものである。
「敵艦、離脱していきます…!」
ソナー員妖精からの報告を聴いて、潜水艦娘"伊19"は満足そうに頷いた。
「1隻逃げちゃったけど、他のは脚を奪ったし、これでオッケーなの!」
彼女が覗いている潜望鏡の視界には、炎上しながら大きく傾いている数隻の艦艇が映っている。
実はスカパ・ブロー沖には、ロデニウス海軍第13艦隊の潜水艦の艦娘たちが潜んでいたのである。本来タウイタウイ島やロデニウス大陸の防衛に展開していた彼女たちが何故こんなところにいるのか、という話は後にしよう。
彼女たちは、ムー海軍潜水艦隊の教導役としてムー国に派遣されていた。それが今回、敵艦隊襲来の報告を受けたため、彼女たちはムー国防の一翼としてスカパ・ブロー沖に展開し、敵艦隊の接近に備えていたのである。それが見事に図に当たった形だった。
しかも相手は、戦艦2隻に正規空母4隻。おまけに、潜水艦の天敵となる駆逐艦も航空機も存在しない。格好のかき入れ時だということで、潜水艦娘たちは
攻撃に参加したのは"伊19"の他に、"伊8"、"伊26"、"呂500"、"伊401"である。攻撃直前に敵空母のうち1隻が「呂500」の潜望鏡を発見したらしく、その敵空母は急加速と急旋回によって"呂500"の雷撃をかわした。その後、その敵空母は爆雷の代わりなのか、艦尾から爆弾をばらまきながら逃げていった。
逃走した敵空母は見逃したものの、潜水艦娘たちは他の艦艇にはきっちりと魚雷を叩き込んだ。しかも、艦底起爆が可能なように磁気信管を搭載した「41式魔導酸素魚雷改」を撃ち込んだのである。その効果はてきめんだった。
舵が故障していなかった戦艦1隻は、艦首を魚雷で吹っ飛ばされ、前進ができなくなっている。残る敵空母3隻のうち、蒼龍型に似た1隻は艦底起爆によって竜骨をへし折られ、あっという間に沈没。他の空母についても1本以上の魚雷を命中させ、行き脚を完全に鈍らせることに成功した。
「後はムーの人たちに任せるの! 全員撤収なの~♪」
潜水艦娘恐るべし、であった。
なおこの後、ろくな身動きの取れなくなったグラ・バルカス艦隊は、補給を終えて再度出撃してきたムーの航空隊と、戦艦「ラ・カサミ改」を中心としたムー艦隊に捕捉され、ろくな抵抗もできずに全艦が叩き沈められた。
ムー側呼称「スカパ・ブロー沖空海戦」は、こうして終結したのだった。
《スカパ・ブロー沖空海戦の結果》
ロデニウス・ムー連合の完全勝利
ロデニウス第13艦隊…損害無し。
ムー第1機動艦隊…駆逐艦1隻喪失。艦巡洋艦1隻、駆逐艦2隻大破。航空機75機喪失。
グラ・バルカス中央第1艦隊…アンドロメダ級空母「スピカ」を除く全艦が撃沈。「スピカ」は中破で戦場離脱に成功。航空機300機以上喪失(厳密には、作戦に参加した全航空機が海没)。
というわけで、戦闘はムー側の勝利で終結。グラ・バルカス帝国艦隊は、またしても全滅。そして外征が可能な艦隊を、また1つ失いました。
そして、何故かタウイタウイ島に展開していたはずの潜水艦娘たちと"特殊戦闘機"がこんな所に…。本来いないはずのものが、何故こんな所にあるのか。そして、関係があると思われる任務群「デスシャドウ」とは、いったいどのような戦力を含んでいるのか。
その答えは、次回明かします。
いつもお読みいただきましてありがとうございます!
次回予告。
グラ・バルカス帝国の西部方面艦隊を撃破したロデニウス海軍第13艦隊だったが、まだ北部方面艦隊と南部方面艦隊の連合部隊が残っている。それを撃破すべく割り当てられていたのは、第13艦隊から派遣されたもう一群の任務群「デスシャドウ」だった…
次回「ムー大陸西方大海戦 drei ムー大陸西方沖大海戦」