鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
少しだけ時計の針を巻き戻して、中央暦1643年12月3日、ロデニウス海軍第13艦隊の主力がグラ・バルカス海軍西部方面艦隊と戦っている頃。処は、ムー国西方250浬(約463㎞)の海域。
その海域を、多数の艦艇が白く太い航跡を引いて東進していた。航跡は長く引かれており、各艦艇がかなりの速度で航行していることを窺わせる。
艦艇の数は216隻。そのうち丈高い艦橋と見る者に威圧感を与える巨大な主砲を有する戦艦が8隻。平べったい船体を持つ艦隊の主役が一翼である航空母艦が16隻。戦艦よりは一回り以上小さい船体ではあるものの、全体にスマートな印象を与え、俊敏さが窺える巡洋艦が48隻。そして、巡洋艦よりも小さい船体ながら艦隊の数的主力を担う駆逐艦が100隻以上。その後方には、艦隊の補給を担う輸送船も多数見受けられる。いずれの艦も、白い十文字で区切られた赤い円を描いた旗…グラ・バルカス帝国の国旗を掲げていた。
グラ・バルカス帝国海軍の南部方面艦隊、北部方面艦隊をまとめた連合艦隊である。艦隊の目的はただ1つ、ムー大陸西部沿岸部の制空権・制海権を再奪取すること。
2月中頃、ロデニウス連合王国の有力な艦隊がムー大陸周辺に展開しているらしいことが明らかになり、東部方面艦隊がそれの撃滅に当たることとなった。「軍神」と呼ばれるカイザル・ローランド大将が指揮する、最強の東部方面艦隊ならば、楽にとは言わないまでも比較的余裕を持って対処できると考えられていた。
しかし6月初旬、そんなグラ・バルカス帝国軍上層部の楽観を完全に叩き壊す凶報が飛び込んだ。ロデニウス艦隊と戦った東部方面艦隊が戦力の7割を失って敗走し、カイザル以下の艦隊司令部の面々も全員が未帰還となったのだ。しかも、艦隊の主力を担う戦艦は大半が帰還せず、空母に至っては全艦が撃沈されたというのだ。
その衝撃から軍上層部が立ち直る前に、今度はロデニウス本土攻撃に向かった特務軍艦隊…カイザルと並ぶ「帝国の三将」の1人アンネッタ・ミレケネス中将が率いる精鋭艦隊が、完全に消息を絶った。そして、ムー大陸方面の戦況はみるみるうちに悪化し、ついにはムー大陸にいる陸軍将兵32万人と、ムー大陸に入植した一般人たちが敵の包囲下に取り残されてしまった。
この状況を打開すべく、グラ・バルカス帝国は大規模攻勢を決定。残っている主力艦隊の全てと、さらに中央艦隊まで突っ込んでの一大反撃作戦を決行したのである。
(カイザル閣下の率いた艦隊が敗れたほどの実力とは…ロデニウス艦隊の強さは、それだけでよく分かりますね)
南部方面艦隊の旗艦である、ヘルクレス級戦艦「バーダン」の昼戦艦橋に立ち、進行方向の海を見つめながら、「帝国の三将」の1人である南部方面艦隊司令長官ハイドム・オルアース中将は、ロデニウス艦隊の実力について考えていた。
もはや疑う余地のない、高い実力を有する敵・ロデニウス艦隊。しかし同時に、ハイドムは勝機をも見出だしていた。
「如何に精兵といえど、連戦すれば疲労は避けられません。また、艦艇の修理を行う暇も、そうそうなかったでしょう。我々に勝機があるとすれば、そこですねぇ」
ロデニウス艦隊が連戦で疲労・消耗しているところに、この連合艦隊をぶつけ、数で押し切る。それが最も堅実で、最も犠牲の少ない勝ち方だろう。
今のところ、ロデニウス艦隊の位置は分かっていないが、この連合艦隊の南方ではガルディオ・ガリデー中将率いる西部方面艦隊が攻撃を開始している。もしかすると、ロデニウス艦隊の主力はそちらに気を取られているかもしれない。
ひとまず、ムー国の港街を攻撃しようと考えて、ハイドムは指示を出した。
「無線封鎖解除。通信長、全空母に打電。『攻撃目標、ムー西部港街レーグ。第一次攻撃隊発進せよ』」
「はっ。『攻撃目標、ムー西部港街レーグ。第一次攻撃隊発進せよ』全空母宛て、打電します」
命令を受けた通信長は、直ちに命令を通信室に伝える。命令を受けた16隻の空母…ペガスス級航空母艦「プラスケット」「ロス」「ステファン」「メンカリナン」、アンドロメダ級航空母艦「アディル」「ネンブス」「ミネラウヴァ」「ヴィンデミアトリックス」「ザヴィヤヴァ」「ポリマ」「シュルマ」「カンバリア」、カシオペヤ級小型空母「ケフェウス」「アルデラミン」「アルフィルク」「エライ」は、第一次攻撃隊の発進準備にかかった。準備は迅速に進められ、10分ほどで各空母の攻撃隊が発進準備を整えた。
「第一次攻撃隊、発進せよ」
ハイドムの号令一下、次々と航空機が飛び立っていく。第一次攻撃隊の陣容は、「アンタレス改」160機、「シリウス」100機、「アルタイル」20機、「リゲル」40機、「デネブ」40機。雷撃機である「リゲル」や「デネブ」には魚雷ではなく800㎏爆弾を装備させ、対地攻撃に向かわせるようにしている。その代わり、第二次攻撃隊の雷撃機には魚雷を持たせていた。敵艦隊が出現した場合に備えてだ。
攻撃隊が発進してから30分は、何事もなかった。艦隊はムー大陸に向けて、穏やかな海を進んでいく。まさに平穏な航海と言えた。
その平穏が、突然破られた。
『な! なんだこれは! グギャッ!』
『ちくしょう、速すぎる! 何だこn(通信途絶)』
通信機から、次々と悲鳴が飛び出してきたのだ。第一次攻撃隊に何かがあったらしい。
「こちらバーダン! 第一次攻撃隊、応答せよ! 何があった!?」
通信長が慌てて呼びかける。返って来た答えは、要領を得ないものだった。
『こちら第一次攻撃隊隊長機! 本隊は現在、正体不明の攻撃を受けている! 何かが、何かが多数、高速で突っ込んでくる! 避けても追尾してきて、避けられない! 既に攻撃隊の半数が消滅した!』
「訳が分からん! 分かるように報告しろ!」
『何か…何か、砲弾のような尖った形状の細長いものが多数、こちらに向けてどこからか飛んできたんだ! 後ろから白煙を噴いている…もしや、ロケット弾の一種か!? それがこちらを正確に追尾してきて、避けられない! …ん!? あれは…!』
「おいどうした!? 何か見つけたのか!?」
『ああ、敵艦発見だ! 位置は、レーグ西方約250㎞! 艦隊から見て3時の方向、距離200㎞だ! 敵はグレードアトラスター級1隻のみ…あっ! 奴だ! さっきの謎の攻撃は、奴から発射されている!
このグレードアトラスター級は、我が国のそれとは違うらしい! …攻撃が、こ、こっちに向かってくる! …駄目だ、避けられん! グラ・バルカス帝国万歳!』
隊長の声が途切れた直後、何かがぶつかったような激しい音が響いた。その直後、通信機から流れてくるのは、ザザー…というテレビの砂嵐のような音になった。
「第一次攻撃隊応答せよ! 第一次攻撃隊応答せよ!」
通信長が叫ぶが、完全に通信が途切れたらしい。通信長は「くそっ!」と悪態を吐いて、通信機を拳骨で1発殴った。
(何ですか、今の報告は!?)
ハイドムも、あまりの報告内容に困惑していた。
飛行中の航空機を正確に追尾する武器など、聞いたことがない。しかも、隊長は「ロケット弾の1種かもしれない」としていたが、ロケット弾の命中率は並の砲撃の比ではないくらい低く、航空機に当たるとはとても思えない。
だとしたら、第一次攻撃隊を襲ったものとは、いったい何だったのか?
そして、それを発射してきた敵のグレードアトラスター級とは?
…分からない。何もかもが分からない。
「閣下、放心している場合ではございませんぞ。
先の通信で、第一次攻撃隊の隊長は、敵戦艦の位置を通達してきています。敵戦艦の位置は分かっていますし、第二次攻撃隊の発進準備はほぼ完了しております。直ちに命令を」
参謀長のトーマス・ジーダマイア少将が話しかけてくる。
「っ…そうですね。まずは所在の分かっている敵戦艦を叩きましょう。
第二次攻撃隊、発進せよ!」
ハイドムは我に帰り、指示を出した。
程なく全空母が風上に向かって突進し、航空機が次々と空へ舞い上がった。
しかし…攻撃隊が発進し、空中集合の後に敵戦艦に向かって飛び去ってから30分後。
通信機からは、混乱した悲鳴が飛び込んできた。
『何だこれは!? て、敵弾が、敵弾がこちらを追尾してくる!』
『こちら雷撃隊! 敵戦艦の対空砲火極めて熾烈! 損耗率既に7割を突破!』
『何だあの敵機は!? 速すぎる! 時速1,000キロは余裕で出ているぞ!!!』
そして、あっという間に通信途絶してしまった。
(なぜ!? どうして、こんなことに…!?)
あまりにも不可解な事態の連続に、ハイドムの頭脳もパンク寸前の状態となっていた。
「全滅…か…?」
通信長も絶句している。
「制空権は確保できず…ですな。こうなった以上、敵戦艦だけでも叩く必要があります。幸いにして、我が艦隊にはまだ戦闘機が残っておりますから、敵艦への攻撃はともかく、弾着観測機の護衛はできます。敵はグレードアトラスター級とはいえ1隻のみ、対するこちらは戦艦だけでも8隻。数の差で押し切れるとは思いますが…油断することなく、艦隊決戦に臨みましょう」
トーマスが意見具申した。
「ゴホン。そうですね…」
気分を落ち着かせるため、ハイドムは1つ咳払いをして口を開いた。
「水上砲戦となれば、こちらが有利。これまでさんざん舐めくさった真似をしてくれたロデニウスの戦艦に、?我々の力を見せつけてやりましょう。
前進、第三戦速! 全艦合戦準備、昼戦に備え!」
こうして、グラ・バルカス帝国軍連合艦隊は、ロデニウス連合王国の戦艦との交戦を決意した。
数の差で押し切れると考え、彼らは自分たちが負ける可能性など全く考えてはいなかった…。
2時間後。
グラ・バルカス帝国軍連合艦隊は、ついにロデニウスの戦艦を目視圏内に捕捉した。報告された通り、グレードアトラスター級戦艦に似た艦影が、水平線付近に見える。
「射程内には入っていますが…まだ遠いですね。距離2万メートルまで詰めましょう」
「はっ。旗艦より全艦、砲戦距離2万メートル」
ハイドムは、砲戦開始にはまだ距離が遠いと判断した。
現在の敵艦との距離は、およそ3万2千メートル。ヘルクレス級戦艦は射程距離に敵艦を捉えているし、オリオン級戦艦もギリギリ射程距離に入っているが、この遠距離では撃ってもそうそう当たるものではなく、無駄弾をばらまくだけに終わる可能性が高い。
ならば、もっと近づいてから射撃を開始したほうが良い。数の差を生かすこともできる。
じりじりと近づいていく両者。距離はだんだんと縮まっていき、今や2万1千メートルにまで迫っていた。
「あと少しですね。全艦、面舵90度回頭用意! 回頭した後に縦陣を組み、敵戦艦を砲撃します。水雷戦隊は突撃用意。敵艦が変針し、我が戦艦隊と同航戦に入ったら、敵戦艦に魚雷をお見舞いしなさい!」
次々と指示を出すハイドム。
「全戦艦、左砲戦用意!」
そう号令した、その時だった。
ハイドムは気付いた。敵の戦艦の艦首部分が、明るい青い光を放っていることに。
(何でしょうか、あの光は?)
その瞬間だった。
全く唐突に、敵の戦艦がピカッ!と眩い閃光を発した。水平線上に太陽が出現したかと錯覚するほど、強烈な一閃である。
「っ!」
ハイドムやトーマスをはじめ、閃光を見てしまったグラ・バルカス帝国軍の将兵は、一斉に目を瞑った。失明しそうなほど明るい光だったのである。
その直後、ロデニウスの戦艦のほうから太く青白い一筋の光線が伸びて、グラ・バルカス帝国軍連合艦隊に迫ってきた。光線は青い稲光を伴っており、美しくも禍々しい雰囲気を湛えている。そして、ほんの一瞬の間に2万メートルを一飛びしてきた。
「全艦回避運動!」
ハイドムの悲鳴じみた号令は、ドオォォォォォン!!という光線が発する轟音にかき消された。
次の瞬間、太い光線が駆逐艦や巡洋艦を飲み込みながら「バーダン」の左舷至近を飛び過ぎていく。左舷に設置されていた対空機銃や三連装の高角砲が、次々と溶けるようにして光の中に消えていった。
目を焼き尽くさんばかりの光が収まり、瞼の裏でも眩しさを感じなくなってから、ハイドムは目を開けて……息を呑んだ。
「バーダン」左舷の対空火器が全損し、分厚い装甲板がまるで「溶けた」ように一部削り取られている。そして、光線の通過ルート上にいた艦艇は、そこに何も存在しなかったかのように消えていなくなっていた。それも、駆逐艦や輸送船のような小型艦艇ならまだしも、タウルス級重巡洋艦、そしてなんとヘルクレス級戦艦「メンケント」までもが、神隠しにでも遭ったように消え失せていたのだ。
ちなみに「メンケント」は北部方面艦隊の旗艦である。
「こちらバーダン! メンケント応答せよ! メンケント応答せよ!!」
通信長が狂ったように「メンケント」の艦橋を呼び出し続けている。しかし、北部方面艦隊司令官ディンゴ・ブライエン中将をはじめ、応える者はいない。
「いったい、何が…」
茫然自失したまま、ハイドムは力なく呟いた。
グラ・バルカス帝国軍連合艦隊との戦闘が始まる2時間ほど前。
ムー大陸西方180㎞の沖合に、1隻の戦艦が航行していた。進路は西に取られている。
「レーダーに感あり。敵機大編隊が接近中。数およそ320、速度は時速約300㎞。反応の速度と数から考えて、グラ・バルカス帝国の航空機と思われます。本艦よりの方位280度、距離ゴーゴーマル(55,000メートル。つまり55㎞)」
その戦艦の昼戦艦橋で、レーダー手を担当する女性…妖精が報告を上げる。
「了解。総員、対空戦闘配置に付け!」
報告を受けて、艦橋後部の一段高くなった席に座る女性が、凛とした声で号令を発した。
その女性は、かなりの長身であった。焦げ茶色の長髪を、桜の花を模った髪飾りでポニーテールにまとめているが、その長さがあまりにも長く、床に髪の先端がついてしまっている。
顔立ちと髪型はどう見ても艦娘の”
艦内に警報が鳴り渡り、妖精たちが一斉に持ち場に走る。
「総員、対空戦闘配置完了しました」
5分後、戦術長を務める妖精が報告を行った。
「いよいよ、この艤装での初実戦です。それと、ムー国の、そしてタウイタウイ泊地の興廃は、この一戦にかかっています。各員一層奮励努力してください!」
そう命令した後、”大和”らしきその女性は静かに前方の海を見据えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
また少し時を遡って、中央暦1643年12月1日、第三文明圏外東側 ロデニウス大陸北東34㎞沖 タウイタウイ島。
タウイタウイ泊地司令部にて"留守番組"の1人である軽巡洋艦の艦娘"
ロデニウス海軍の中核戦力である第13艦隊。「
その日も御多分に漏れず、大量に舞い込んでいる通信の文面を確認しながら、"大淀"はそれらをスピーディーに捌いていく。と、そんな彼女の手がある1枚の電文で止まった。
「これは…」
目を軽く見開きつつ、彼女はその電文を読み返す。
その電文の発進元は、第13艦隊・ムー派遣部隊司令部となっている。つまり、提督から送られてきたものだ。電文の文面はこうである。
『アマノイワトヒラケ』
一見すると何のことやら分かりかねる一文だが、これはもちろん暗号電文である。
"大淀"は急いで暗号のコードブックを引っ張り出した。いちいちコードブックなんぞ出さなくても全ての暗号の意味を頭に叩き込んでいる彼女であるが、まあ念のための確認という奴である。
コードブックに書かれた内容を確認した後、"大淀"は目をパチクリさせながら呟いた。
「あの敵艦隊本土襲来の時にも使わなかった"あれ"を、まさかこのタイミングで使うなんて……」
何やら想定外の事態だったらしい。
暗号を確認した"大淀"は、直ちに"大和"を提督執務室に呼び出し、この暗号電文を伝えた。その途端に"大和"の表情も、覚悟の決まったものになる。
「提督のご命令とあらば……やりましょう」
迷いのない声でそう言い切った後、"大和"は内線でタウイタウイ泊地工廠を呼び出す。
『こちらタウイタウイ工廠。大和さん、どうしたんですか?』
内線はすぐに繋がり、工廠のボスである"
「明石さん、お忙しいところすみません。9番格納庫の鍵、開けといてもらって良いですか」
9番格納庫。その言葉を聞いた瞬間、受話器の向こうで"明石"が小さく息を呑んだ。
『9番ってことは……あれが、発令されたのね? 「
「はい。提督からの命令です」
『……覚悟はできているのね? あれを使うとなると凄まじい大改装になるから、元には戻れないわよ』
「覚悟の上です」
一切躊躇うこともなく、即答だった。
『分かった、用意するからすぐ来て』
「承知しました。これより工廠に向かいます」
そう言って通話を終えると、"大和"は静かに提督執務室を出た。その瞳は強く輝き、凄まじい覚悟を決めた様相を浮かべていた。
5分後、タウイタウイ泊地工廠。
普段から厳重な警戒体制が敷かれているこの場所に、"大和"がその姿を見せた。筆頭秘書艦権限で比較的自由に入れるとはいえ、彼女がここに来ることは滅多にない。
そんな"大和"を、"明石"が待っていた。
「あ、来た来た! こっちこっち!」
"明石"が手招きし、工廠の地下へと"大和"を連れていく。
タウイタウイ工廠・地下室。はっきり申し上げると、この地下区画はセキュリティの厳しさが地上よりも数段上である。指紋認証は当然のこととして、虹彩認証やAIによる顔認証システムといった多段重ねのセキュリティシステムが待ち構えているのだ。その厳しさは、この地下区画で扱われている物の"ヤバさ"とイコールである。
連れていかれた先にあったのは、錨のマークが描かれた巨大な自動ドア。指紋認証やら虹彩認証やらで幾重にもロックされているこの扉を、"明石"は魔法でも使うかのようにあっさり解錠していく。そして扉を開き、"大和"を室内に招き入れた。
「さ、まずはこれを見てください」
そう言って電気のスイッチを入れる"明石"。
室内が一気に明るくなった。闇に慣れていた"大和"の目が、強烈な光に晒されたことで一瞬眩む。
光に慣れた"大和"が見たものは、部屋の中央に鎮座する巨大な金属の塊だった。一見すると金属の塊にしか見えないが、それの上部には戦艦クラスの大型三連装砲が2基付けられており、明らかに艤装の一種であると分かる。
「これが…?」
「そう。これが、あなたの新しい艤装よ」
"大和"の質問に端的に答え、"明石"は部屋の隅にあった衣装箪笥から着替えのようなものを取り出してきた。
「さ、まずはこれに着替えて」
しかし、"明石"が突き出してきた衣装を見て、"大和"は目が飛び出そうになるほど驚いた。
渡された衣装は、赤い錨マークが入った白地のシャツと長ズボンである。
「あれ? この衣装って……」
そしてその衣装を、"大和"は知っていた。というか、一度作ったことがあった。
「そう、パーパルディア皇国との戦争に勝った時の記念パーティで作られた、あのコスプレのお仲間よ。デザインは同じだけど、機能性は比べ物にならない逸品よ。
さあ、早く着替えて!」
手早く着替え始める"大和"。なお着替えシーンは全カットである。当たり前だ、これはR-18作品ではないのだから。
着替え終わるや、頭部に取り付ける電探型の艤装が渡される。新しく届いた艤装にも電探が付いていたのだが、形状が違う。金網を思わせる「21号対空電探」のアンテナではなく、波板を連想させる金属板が2枚、T字状に組み合わされたものだ。
「新しい艤装…の一種ですか? しかもこれは、もしかして電探?」
「そうよ、これも一級品。
着替えは終わったわね? それじゃ、艤装の装着に行くわよ!」
いよいよ改造された艤装の装着である。
だがここに、最大の問題があった。それは…
「これまで改二になった子たちは、みんな既存の艤装を改修していたし、
だから、艤装の同調チェックを他の子たちより念入りにやる必要があるの」
そう、艤装の改修方法がこれまでとは全く異なる点である。
従来の艤装を残したまま新造の艤装を改二艤装として装着させる、という方法は、これまで全く試したことがない。艤装を放棄した後に新規に建造した改二艤装を装着する、という実験は長門型姉妹で成功したため、理論上は行えるとされるものの、実際にやってみなければどうなるかは分からないものなのだ。
「ひとまず試してみましょう。この艤装、今までのと違ってスマートな感じに見えるだろうけど、装着方法は今までの艤装と全く同じよ。さ、試してみて」
"明石"に促され、"大和"は艤装の内部に入り込んだ。そして、腰に装着するためのアームの高さを軽く調整すると、まずは艤装に両手をかけて持ち上げようとする。
「んんっ…!」
いつもの艤装より重量が5割ほど増しているように、"大和"には感じられた。だが、持ち上げられないほどではない。
何とか持ち上げ、アームを腰に装着した、その直後。
「!?」
突然、見たことがないはずなのに何故か見覚えのある景色が"大和"の眼前に広がった。様々な場面が、まるで映画でも見ているかのように次々と流れていく。
最初に見えたのは、自身の中に入り込んで何かの作業をしている多数の人間。その人々は何故か放射線防護服を着ていた。そして自身の周囲に広がる、赤茶けてひび割れた大地も見えた。
宇宙から飛んできているらしい赤い隕石が次々と落下し、地上を爆風と炎が荒れ狂いキノコ雲が立ち上る中、作業は着々と進んでいく。すると、これまでの人々とは異なる新しい人々が、色こそ違えどお揃いの錨のマークが入った制服を着てやってきた。
その人々が自身の中に入り込んだ直後、上空に船のようなものが現れ、そこから航空機が飛来してミサイルを撃ってくる。そんな中、なんとボロボロになっているはずの自身の艤装が動き出した。赤茶けた鋼鉄が剥がれ落ちたその下からは、光沢を放つ銀色の真新しい装甲板が見える。と思いきや、なんと自身の艤装が浮き上がったかと思うと、その相手に主砲弾を叩き込んで撃沈した。
そして新たな人々…いや、「乗組員」と表する方が適切か…を乗せ、自身は空へ、いやそのはるか彼方の漆黒の世界へと飛び立つ。1年以内に地球へ戻らなければならない、という難易度ハードモードで。
しつこいくらいに敵の攻撃を受けつつもそれを全て弾き返し、太陽系を抜け、大嵐の星団で3週間もさ迷ったり、ガスらしきものと恒星に挟まれたり、7つの色の星団で敵機動部隊と凄まじい激戦を繰り広げたりしながらも、ついに自身は目的地に到着する。だが目的地のすぐ隣が敵の本星であり、そっちに引きずり込まれて硫酸の海へと叩き込まれ、挙げ句にミサイルの雨でボロボロにされかけた。それすらも潜り抜け、目的の品を受け取り、最後に執念深い敵首班の追撃を跳ね返して、ようやく地球へと帰還した。1年の期限は結構ギリギリになっていたのを思い出した。
その後も何度も敵国と戦った。宇宙を駆ける白い彗星の国、巨大な核爆弾とその護衛部隊で攻めてきた挙げ句偽装作戦までやってきた国、銀河系に覇者たらんとしていた冷徹なる国。最後に見えた場面は、3つのリングを持つ青い星から何やら青い柱のようなものが地球に迫ってくる光景。いや、よく見るとそれは柱ではなく、大量の水だった……
「………と……大和!」
「はっ!?」
肩を強く叩かれると同時に名前を呼ばれ、その声で現実に引き戻される"大和"。その顔を"明石"が心配そうに覗き込む。
「大丈夫? 何か急にぼんやりしたような感じになって、呼びかけても全く反応しないから心配したわよ」
「すみません、何か……走馬灯じゃないんですけど、妙な光景を見ていました。明らかに地球じゃない場所で戦っていたような、そんな気がします」
"大和"のこの言葉に、"明石"の目が見開かれた。
「それ本当!?」
「え、は、はい」
食い気味の"明石"、対して僅かに引く"大和"。
「もしそうなら、同調が上手くいった可能性がある……とりあえず艤装を起動してみて」
起動しろと言われてもどうやってやれば良いんだ、と尋ねようとした時、"大和"は気付いた。いつの間にやら、この新たな艤装の使い方の知識が頭に入っていることに。
記憶の中のマニュアル通りに、"大和"は艤装の内側に設けられたいくつかのスイッチを操作する。するとややあって、艤装から静かな駆動音が聞こえ始めた。
「やった!」
「動いたわね!」
ひとまず起動は成功したらしい。
「よし、ここからはいつもと同じ、艤装の駆動テストをするわ。少しくらいは時間があるから、航行テストと主砲・副砲・対空兵器の射撃テスト、航空隊の発着艦テストや飛行テスト、その他諸々やれるだけやるわよ!」
「分かりました、やりましょう」
すぐに工廠前の海に出て、新型艤装の性能テストが始まる。前後進、加速、旋回といった航行については、前の艤装と同じようにこなすことができた。ただ、速力が大幅に上がっている。負荷航行テスト中にちらりと速度計を見たら、なんと80ノットもの速度が出ていた。
それ以外に、主砲や副砲の射撃テストも難なく行えた。発射したのは砲弾ではなく、青白いエネルギーレーザーである。威力が大幅に上がっていることが容易に察せられた。それ以外に……
「ええと、レーダーのこれは…もしかしてミサイルのロックオンかな?」
ビーッ! ビーッ! ビーッ!(警報音)
「ちょっと大和!? 私を
「あ、ごめんなさい!」
こんな一幕もあった。
ちなみに何故"明石"の艤装から
そして、
「これは……まさか……!」
「それはテストしてる暇がないから後でね!」
「これ実戦で撃っていいですか?」
「駄目とは言わないけど、撃った後で艤装の機能に影響出ても知らないよ?」
お察しの通り"アレ"もあったのである。
「ま、とりあえずはこんなものかな?」
「すみません明石さん、この艤装、確か名前付いてましたよね?」
「うん、仮称だけど設定されてるよ。ええっと……」
言いながら、"明石"はバインダーに挟まれた書類をペラペラとめくった。
「あった。仮称『大和改二一九九』。2,000回改造した訳じゃないけどね」
もうこの名前だけで、"大和"がどうなったのか、察しがついたであろう。
「これでひとまず、最低限やらないといけない艤装の動作テストは終わり。測定した限り、結果は上々ね。ムー大陸に出立するまで釧路ちゃんがずっと弄ってたし、釧路ちゃんがムーの方に行っちゃった後も私がいろいろと調整してたから、その甲斐があったみたい。
ただ……分かってると思うけど、その艤装の全ての兵装や装備をテストした訳じゃないから、そこのところ履き違えないようにね!」
「分かっています」
端的に返事をしながらも、"大和"は大丈夫だと感じていた。根拠はちゃんとある。
何せ、この艤装を装備してから頭の中に流れ込んできた記憶を辿ってみると、ぶっつけ本番はお家芸のようなものだったのだ。新装備やら何やらを、「テストは!?」「そんな暇あるか!」と言い合ったまま実戦に放り込み、何だかんだ良い結果を残すことはしばしばだったのである。
◆◇◆◇◆◇
意識を現実に引き戻し、"大和"は宣言するように言った。
「所属任務群コードネーム『デスシャドウ』。大和型戦艦、1番艦、大和。改め、
BBY-01、ヤマト型宇宙戦艦、1番艦、ヤマト。推して参ります!」
そう…そこにいた戦艦は、「大和」ではない。
「
艦娘とは、一般的に「在りし日の軍艦の魂を持つ少女たち」と言われる。つまり、改造された時の姿や参加した海戦の記憶などを保有し、艤装と呼ばれる武器を身に付けた少女たち、それが艦娘だと見なされるのである。ただし、当然ながら彼女たちは現代の知識も併せ持っている。
そうした存在だからなのか、彼女たちは時折、第二次世界大戦の技術レベルではあり得ないようなものの存在を口にすることがある。例えば"
そんな艦娘たちだからこそ、"大和"だけ事情が異なっていた。彼女にだけ、ある"特別な記憶"が備わっていたのだ。「沈没してから200年以上も経った後、新たな姿となって蘇り、再び戦った」という記憶が。そう、「宇宙戦艦ヤマト」としての記憶があったのである。
この記憶は、本来なら表面には浮かんでこない記憶である。言わばロックされた記憶なのだ。そのロックを解除するカギは、「大いなる愛」であった。
そして堺は、再三申し上げているように"大和"に一目惚れしており、ゲーム流に言うなら「レベルカンスト」している。"大和"自身もまた堺を愛しており、これによって「大いなる愛」の条件が満たされ、ロックが解除されていたのであった。
タウイタウイ泊地が地球から「この世界」に転移してくる直前の頃、「奇妙な夢を見るようになった」という"大和"の主張を聞いて、堺は全艦娘を対象に行う健康診断で脳検査を追加し、それにかこつけて彼女の記憶を調べた。そして見つけ出したのだ。彼女の脳裏に眠る、「宇宙戦艦ヤマト」としての記憶を。
そこで堺は、"明石"と"夕張"にこの件を密かに相談し、「よほどの緊急事態が発生した時」に備えて宇宙戦艦ヤマトの艤装を至急建造するよう命じた。それが、タウイタウイ泊地工廠の地下室に用意されていたのである。以前に"釧路"が弄っていた艤装らしきものは、この「ヤマト」の艤装だったのだ。
そして今、彼女はその艤装を引っ張り出してきたのである。盟邦を、提督と仲間たちを守るために。
これまでにない新鋭の艤装。その艤装が今、その力を発揮する時が来た。
「右舷対空戦闘、UM-2攻撃用意! 煙突内SAM、ガントリーオープン!」
“大和”、いや、”ヤマト”の号令に従って、「ヤマト」艦体中央に設置された煙突の8連装VLSの蓋が開く。
「右舷対空戦闘、近づく敵航空機、UM-2攻撃はじめ!」
“ヤマト”の命令が下った直後、
「発射用意…撃て! サルヴォー!」
砲雷長妖精が発射ボタンを押した。
シュボボボボボォォ!!!!
煙突から、8発のミサイルが撃ち上げられる。発射されたミサイルは白い煙の尾を引きながら、敵編隊めがけて飛翔していった。
「次発装填!」
「UM-2 8発発射、いずれも正常飛行!」
砲雷長妖精と戦術長妖精が、同時に声を上げる。
「インターセプト10秒前」
少し後、レーダー手の妖精が報告した。
「5、4、3、2、1、マーク・インターセプト。敵8機撃墜!」
「爆破閃光、視認できず!」
「UM-2第二波、サルヴォー!」
敵機の撃墜が(レーダー上のみで)確認された直後、第二射のUM-2が発射された。
以降、ヤマトはUM-2の即応弾が尽きるまで延々と発射を繰り返し、敵機を次々と撃墜していったのである。
「UM-2の即応弾、使い切りました」
「了解。艦橋よりレーダーと右舷見張り、敵機はどうなりましたか?」
「現時点でコスモレーダーに感なし」
『こちら右舷見張り、上空に敵影なし』
「了解。艦橋より通信、敵機は報告電を打ちましたか?」
「こちら通信、敵機から電波の発信をキャッチしています。比較的強度の弱い暗号電と思われ……今解読できました。本艦のミサイル攻撃に泡を食って、本隊に必死で通報していますね。暗号電どころか平文です。相当に焦っています」
3つの報告を合わせ、”ヤマト”は敵機全滅と判断した。また、敵の第二次攻撃が自分に向かってくると確信する。
「了解。ここからは、
「航空隊、発進用意!」
お察しの通り、「ヤマト」には航空隊が搭載されている。そのため、「ヤマト」になった際に、「大和」は「超弩級戦艦」から「超弩級重雷装航空宇宙戦艦」へとクラスチェンジしていた。戦艦レ級もびっくりのリアルチート系オールラウンダー戦艦と化したのである。
ただし、「ヤマト」の艦載機発進口は艦底部にあるため、艦が着水したままでは発進はできない。航空隊を出すためには、どうしても離水する必要があった。
「フライホイール、始動!」
というわけで、空に飛び立つ準備である。
「波動エンジン点火、10秒前! ……5、4、3、2、1!」
「フライホイール接続、点火!」
機関長妖精と航海長妖精のやり取りの声が、第一艦橋に響く。
キュイイイイイ…ゴオオオオオオオッ!!!
波動エンジンが点火され、艦尾の超巨大ノズルから炎が噴き出す。それによって海水が勢い良く押しのけられ、艦首部分に巨大な引き波が発生するとともに、艦尾に魚雷命中時のような水柱が天高く屹立する。
「ヤマト、発進!」
「ヤマト、発進します!」
“ヤマト”が高らかに号令をかけ、航海長妖精が復唱して操縦レバーをぐいっと手前に引いた。
海面を割るように突っ走る「ヤマト」の巨体が持ち上がり、離陸しようとするジェット機のようにゆっくりと空へ飛び立っていく。赤く塗装されたバルバス・バウが浮き上がり、トカゲの尻尾のごとく何度でも蘇ることに定評のある第三艦橋が海中から現れた直後、海面を蹴るようにして「ヤマト」は空へと飛び立った。撒き散らされた大量の飛沫が陽光を反射して鋭く輝き、神々が撒いた祝福の粉のようにも見える。その中を、鋼色と赤色に塗装された全長263メートル、幅40メートルの巨大な艦体が空に駆け上がっていく様子は、昇り竜を彷彿とさせるものがあった。
海抜300メートルの高度に飛び上がったところで、”ヤマト”は号令をかける。
「艦首下げ! 水平飛行に移行。ハヤブサを降ろしてください」
いよいよ、航空隊の発進フェイズが始まったのだ。
艦尾艦底部に設けられた艦載機発進口が開き、カタパルトに乗せられたハヤブサこと「99式空間戦闘攻撃機 コスモファルコン」が、次々と飛び立っていく。
ちなみにこの「コスモファルコン」こそ、以前からちらちら登場している"特殊戦闘機"の正体である。
そして潜水艦娘の子たちがムー北部の海域に展開していたのも、"ヤマト"が原因である。ここに来るついでに連れてきたのだ。
閑話休題。
3分とかからずに28機の発艦を完了すると、「ヤマト」は再び降下して着水した。格納庫には12機残っているが、これは予備部隊である。
「コスモレーダー目標探知! 敵機大編隊、接近! 本艦よりの方位210度、距離フタゴーマル、数200!」
「第一、第二主砲、三式弾装填!」
「右舷対空戦闘用意!」
着水した「ヤマト」が体勢を立て直すのと同時に、レーダーが敵機の影を捉えた。直ちにアラームが鳴り響き、「ヤマト」は戦闘態勢に入る。
25分後、敵機が水平線付近の空に現れた。すごい数だ。黒い雲のようにも見える。
「味方戦闘機、敵機に向かう!」
見張員からの報告が入る。その直後、”ヤマト”が命令を下した。
「主砲三式弾、砲撃始め!」
「主砲三式弾、撃ちぃ方ぁ始め!」
砲術長妖精が”ヤマト”の命令を復唱し、トリガーを引く。
次の瞬間、
バシュルウゥゥゥゥゥン!!
独特の発射音を立てて、艦体前部に設置された2基の46㎝三連装ショックカノン砲が三式弾を発射した。コスモファルコンの編隊を追い抜くように、6発の三式弾がマッハ3以上の高速で敵編隊に迫る。
「用意…だんちゃーく!」
砲術長が叫んだ直後、敵編隊のど真ん中で爆発が発生する。その直後、大量の敵機が一瞬にして吹き飛ぶか、あるいは黒煙を引きずって墜落し始める。
「命中! ただいまの戦果、撃墜破40機以上!」
砲術長妖精が叫ぶや、第一艦橋内に歓声が上がった。
撃墜破40機以上というのは、過大な数字かもしれない。だが、目視による確認の結果からみても、多数の敵機を撃墜破したのは確かだし、40機くらい倒していてもおかしくない。イメージしやすい戦果を報告して艦内の士気を鼓舞することも、時には必要なのだ。
「次弾装填急げ!」
「敵機、散開します!」
しかし、敵は先の射撃で撃たれたのが散弾の怪物だと考えたらしく、早くも対処行動を取ってきた。散開されては、三式弾はほとんど意味がない。
敵機は散開しつつ、三手に分かれ始めた。一隊は左低空から、一隊は右低空から、そして残る一隊は針路と高度を保ったまま「ヤマト」に向かってくる。左右から雷撃しつつ急降下爆撃を行い、同時攻撃するつもりだ。
「今装填中の三式弾は、手近の敵機に叩き込んで下さい。その後、主砲は対空速射モードに移行!」
「了解。主砲三式、低空の敵機を狙え! 発射後に対空速射モードに移行せよ!」
「味方戦闘機隊、
役に立たなくなった三式弾に代わって、「コスモファルコン」28機がミサイルを放ちながら敵機の大編隊に切り込む。空中に複雑な軌道が描かれ、次々とレシプロ機が火を噴いて落ちていった。
その間に、低空に向けて主砲三式弾が発射される。空中で炸裂した三式弾により、海面が大きく叩かれ、細かい飛沫が舞った。それと一緒に十数機の敵機が空中分解するか、海面に叩き付けられる。
「右舷低空より、敵機接近! 数3!」
しかし、数の差がありすぎて、コスモファルコン隊も全機は阻止できない。ファルコン隊の守りを突破した敵機が、低空から「ヤマト」に迫る。雷撃を狙うつもりだろう。
だが、既に「ヤマト」は迎撃用意を整えていた。
「右対空戦闘、近付く目標、トラックナンバー3638から3640まで、攻撃用意!」
「第2主砲、右対空戦闘用意よし!」
「主砲、対空速射、トラックナンバー3638、撃ち方始め!」
「撃ちぃー方ー始め!」
砲術長妖精が、奇妙な節を付けて"ヤマト"の指示を復唱した後、トリガーを引いた。
直後、
バシュン! バシュン! バシュン!
右に向けられていた第2主砲が、1門あたり1発ずつのエネルギー弾を発射する。実はこの主砲、口径46㎝の大口径三連装砲のくせに、イージス艦の127㎜速射砲ばりの旋回速度があるのだ。
右舷から接近しつつあった3機の「デネブ」はたちまち光弾に貫かれ、一瞬でジュラルミンの
「トラックナンバー3638から3640、撃墜! 左舷低空より、新たな敵雷撃機! 数4!」
「新たな目標、トラックナンバー3641から3644。第1主砲発射始め!」
続いて、「ヤマト」左方から接近した「リゲル」も、瞬く間に全機撃墜された。
「な…なっ…?」
その様子を上空から見ていたのは、空母「プラスケット」の艦爆隊隊長機の機銃手デヴィーである。
「たっ、隊長! 雷撃隊がぁー!!」
「なっ…!?」
デヴィーの悲鳴じみた報告に、艦爆隊を束ねる隊長ハドソンは下を見下ろして、唖然とした。
雷撃機がいない。全ての機体が撃墜され、全滅に追い込まれていた。しかも、敵艦との距離を考えると、魚雷を発射する前に撃墜されたようだ。
精強なるグラ・バルカス帝国航空隊の雷撃機が、一撃も放てぬまま、まさかの全滅。ただごとではない。
その時、ハドソンとデヴィーの乗る「シリウス」の前を、別の「シリウス」1機が横切って急降下を開始した。「プラスケット」艦爆隊でも1、2を争う名爆撃手、ジョージの機体である。
「ジョージ! まっ、待て!」
ハドソンが叫んだが、ジョージは頭に血が昇っているらしい。針路を変えることなく、一直線に敵艦に突っ込んでいく。
一方、「ヤマト」でもこの動きは察知されていた。
「トラックナンバー3653、本艦直上より急速接近!」
レーダー手妖精の報告に、"ヤマト"が指示を出す。
「煙突VLS、
シュボボボボオォォ!!
「ヤマト」煙突から2発のDUSMが飛び出した。白い煙の尾を引いて敵機に向かっていく。
「くっ…! おのれ…!」
雷撃隊を全滅させられ、頭に血が昇っていたジョージだったが、ここでようやく自身に迫る脅威に気付いた。鋭く尖った鏃のような何かが、白い煙を引いてこちらに向かってくる。
「あっ…!」
気付いた時には遅く、高速で飛来したDUSMがジョージ機を直撃した。空中に大きな爆発が起き、黒煙の花が咲く。
「ジョージ!」
ジョージ機の後ろから急降下で続いていたハドソンが叫んだ。
直後、ハドソン機は黒煙のただ中に突っ込む。爆風に機体が揺さぶられ、ガタガタと振動する。
「うわあぁぁっ!」
「ジョージ! なっ…何が起こっている!?」
デヴィーが悲鳴を上げ、ハドソンは歯を食いしばって操縦桿を引き続ける。
黒煙の中を抜けたところで、ハドソンはデヴィーに尋ねた。
「デヴィー! 怪我はないか?」
「ありません隊長! 銃座も身体も、ぴんぴんしてます!」
元気の良い返事を返すデヴィー。
「よし! …ぬぉっ!?」
だが、デヴィーの返事に安心した直後、ハドソンは驚いた。
彼の機体の周囲を、何発もの敵弾が飛翔していく。それらは、ハドソンの部下たちの機体に迫っていた。
「ぬぅ…!」
ハドソンが見ていると、敵弾は高速で飛翔しながら向きを変え、部下の「シリウス」に高速で接近した。部下の1機が爆撃進路を外れて逃げようとするが、敵弾はまるで意志を持っているかのように味方機にぴったりついていく。
「ふ、振り切れーっ!」
ハドソンは叫んだがそれも虚しく、敵弾は一瞬で距離を詰め、味方の「シリウス」に命中して爆発した。
1機、2機、3機…次々と「シリウス」がやられていく。中には海面すれすれまで降下して敵弾を振り切ろうとする部下もいたが、敵弾は猛速でそれを追い、あっという間に命中してしまう。
ほんの一瞬で、ハドソン隊は隊長機を除く全機が撃墜された。
「くっ…!」
ハドソンはキャノピー越しに敵艦を睨みつける。
「何だこいつは…! このバケモノめ…!
こいつは通常の攻撃では沈められん…」
当たり前だが、「シリウス」が抱いている250㎏爆弾では、駆逐艦は1発で狩れても戦艦や巡洋艦は狩れない。それに…
「デヴィー。ユグドじゃあお前に随分助けられたな」
「はっ…はぁ…」
隊長は急に何を言い出したのかと、デヴィーは首を傾げた。
「脱出しろ!」
「えっ!? どうしたのです?」
「見ろ」
ハドソンはエンジンを示した。デヴィーが見ると、エンジンから黒い液体が漏れだし、キャノピーのフロントガラスを黒く染めている。
「オイル漏れだ!」
そう、ハドソン機はエンジンを損傷していたのだ。さっきジョージ機の爆発の中を突っ切った時に、破片か何かがエンジンを傷つけたらしい。
「この様子じゃ、プラスケットまで戻れん。お前だけでも脱出しろ」
「え…それじゃ、隊長はどうするんです?」
「俺はまだやらねばならん。あいつに1発食らわせてやらねばな。
なーに大丈夫だ、死にやせん! 先に脱出してろ!」
「はっ…はい!」
返事をすると、デヴィーはパラシュートの用意を始めた。ガサゴソという音を聞き、ハドソンは安心する。
(とりあえずは命令を聞いてくれたか…。さて…)
彼はどうやってあの艦を攻撃するか、既に考えていた。
(普通の攻撃じゃ、奴を仕留められん。となれば、「普通じゃない攻撃」をすれば良いだけの話だ)
少し後、デヴィーがキャノピーを開ける音がした。風が吹き込んでくる。
「隊長、お気をつけて!」
「おう!」
短いやり取りの後、デヴィーの声は聞こえなくなった。
後ろで落下傘が白く開くのを目撃し、ハドソンは意識を切り替える。
「さて…奴に1発くれてやらねば! そして、かみさんの元にも戻らねばな!」
ハドソンは既婚者である。そして彼は、奥さんの写真をコクピットの計器盤の横に貼り付けていた。
その写真に誓って、彼は何とか無事に帰ろうとしていた。
「降下角度85度…この未曾有の角度の中でも、俺は正気を保っている。
そして奴は撃ってきていない…つまり弾切れか! なら、チャンスはある!」
そしてついに、彼はアタックポジションにつくことに成功した。
「250㎏の火の玉を…」
だが、喰らえ、とまで続けようとして、ハドソンは続きを言えなかった。彼の機体は、アタックポジションにつくと同時に…「ヤマト」の最終防空圏内に踏み込んでいたのだ。
「右舷パルスレーザー砲、掃射始め!」
その号令と共に、「ヤマト」を守る最後の盾、CIWSばりの追尾&速射性能を持つ、40㎜パルスレーザー砲36門の弾幕が放たれたのだ。その結果、ハドソンは機体と共にあっさり蒸発してしまったのである。無論、250㎏爆弾を投下する暇もなかった。
「たいちょおぉぉぉーっ!!!」
「シリウス」が消えた空に、デヴィーの慟哭が響いたのは言うまでもない。
その後も、五月雨式にシリウス型やアルタイル型などの急降下爆撃機が「ヤマト」に襲いかかった。
だがそこは「ヤマト」。近接防空火器として、片舷連装6基、四連装4基を装備する40㎜パルスレーザー砲がある。そのパルスレーザー砲が青白い弾幕の嵐を放ち、敵機を近づけさせまいと試みる。
40㎜の大口径機関砲の弾幕射撃を前に、爆撃機は次々と火を噴き、主翼を叩き折られて海面に叩きつけられる。そしてあっという間に全滅した。
結局、30分と経たないうちに攻撃隊は「ヤマト」の対空射撃とコスモファルコン隊の総攻撃の前に全滅。「ヤマト」には1発の爆弾も魚雷も投下されなかった。
「よし。さて、敵空母の数と予想される搭載数から考えて、これで敵機はほとんどが枯れたはずです。コスモファルコン隊は上空に退避し、直掩に努めてください。ここからは、このヤマトの力のみで敵を撃滅します!」
“ヤマト”の命令を受けて、コスモファルコン隊が上空に退避していく。
「レーダーは敵艦隊の捕捉に努めてください!
初手から全力全開でいきます。波動砲、発射用意!」
いきなり最終兵器投入である。
「本気ですか、艦長! アレの威力は未知数です。迂闊に発射して艦の機能に損害が出れば、艦隊決戦で不利になります!」
技術班の班長を務める妖精が、血相を変えた。が、
「いえ、懸念は分かります。ですが、釧路さんや明石さんがちゃんと整備してくれていますし、提督に託された装備でもあります。今撃たなくて、いつ試すのでしょう?」
“ヤマト”の一言で、何も言い返せなくなった。
「やってみようじゃないか。ここでダメだったら、他のところでもダメだ」
機関長妖精も”ヤマト”の肩を持つ。
「そこまで仰るのなら、承知しました。何も言うことはありません」
技術長妖精も、どうやら納得したようだ。
「波動砲発射シークエンスに移行!」
「非常時に備えて、艦内電源を非常用に切り替え!」
“ヤマト”の号令に続いて、技術長妖精が電源の切り替えを命じる。
「ヤマト」全体の照明が暗くなった直後、艦首に開けられた巨大な穴の中で動きがあった。閉じられていた安全シャッターが開かれたのだ。
それと同時に、戦闘指揮席には拳銃に似た形状のトリガーがせり上がってくる。
「航海長、操艦を戦術長に回してください」
「は、戦術長に回します!」
航海長妖精が操艦レバーから手を離す。続いて戦術長妖精が拳銃型トリガーを握り、「戦術長、頂きました!」と報告した。
「レーダー長、敵艦隊の位置知らせ」
「敵艦隊、本艦よりの方位0度、距離フタフタマル(22,000メートル)!」
「了解。戦術長にデータを送ってください」
「了解、戦術長にデータ送ります」
「データ、頂きました! 艦首を敵艦隊中心に向けます」
戦術長妖精がトリガーを右にやや傾けた。それに合わせて「ヤマト」の巨体が右に少し回頭する。ちょうど水平線の向こうから敵艦隊が姿を現しつつあった。その姿が「ヤマト」艦橋から見える。
「波動砲への回路開け!」
「回路、開きます。非常弁全閉鎖。強制注入機作動!」
“ヤマト”の命を受けて、機関長妖精が波動砲へのエネルギー注入回路を開いた。
「セーフティロック解除、圧力、発射点へ上昇。あとゼロ、2…最終セーフティ解除! 圧力限界へ!」
発射フェイズが進行するに従って、艦内にはあの独特の甲高い音が満ちてくる。そう、波動砲にエネルギーの充填が行われている時に響く、階段を上がるように高くなっていくあの音である。
「ターゲットスコープオープン。電影クロスゲージ、明度20!」
戦闘指揮席に、戦闘機の照準器を思わせるヘッドアップディスプレイが飛び出してくる。
「エネルギー充填120%! 波動砲発射準備よし!」
「敵艦隊、距離フタヒトマル、相対速度26ノットでこちらに接近中!」
「敵艦隊、軸線に乗りました!」
戦術長妖精が発射トリガーの撃鉄を起こしたのを見て、”ヤマト”は最後の号令を出した。
「波動砲発射10秒前! 総員対ショック、対閃光防御!」
響いていた甲高い音が一層甲高くなり、同時に小刻みに響くようになった。第一艦橋にいる全員がゴーグルをかけ、座席に深く座って対ショック体勢をとる。
「5、4、3、2、1、ゼロ! 波動砲、発射!」
“ヤマト”の号令。続いて引き金が引かれるカチッという音がする。甲高いエネルギー充填音だけが響いていた艦橋には、そのカチッが妙に大きく響いた。
次の瞬間、ピカッ!と激しい光が煌めく。超新星爆発が目の前で起きたらさもありなん、と思わされるほどの光量だ。そして、
ドオオオオオオォォォォォン!!!!
周囲の全ての音を圧する轟音が轟き、蒼い稲妻を伴った青白い極太レーザーが「ヤマト」艦首から発射された。太いレーザーが波を叩き消し、海面すれすれに敵艦隊に迫っていく。
宇宙を揺るがす最強の兵器である「ヤマト」の艦首軸線砲、次元波動爆縮放射器…通称「波動砲」が発射された瞬間だった。
光が消え、「ヤマト」第一艦橋の面々がゴーグルを外した時には、直撃を受けた艦艇は全て跡形もなく消え失せ、敵艦隊の中央部が剣でも振るったかのように2つに分断されていた。
「波動砲、発射完了。電源切り替え、対水上戦闘用意急げ!」
「主砲発射用意! 目標、グラ・バルカス帝国艦隊!」
矢継ぎ早に号令が飛ぶ。
「全速前進! 正面、砲雷撃戦用意!」
「主砲発射準備よし!」
凛とした声で“ヤマト”が命令を出す。
「撃ちぃ方始め!」
ムー大陸西方沖大海戦…とは名ばかりの、一が多を蹂躙する大逆転劇。その幕が上がった瞬間だった。
「これは…何なんですかぁっ……!」
ハイドムは、完全に絶望していた。
敵のグレードアトラスター級は、強烈な太い閃光を放ち、艦隊の1割を一瞬で消滅させた。その直後、速力80ノットというグレードアトラスター級どころか駆逐艦も真っ青になるほどの速度で一気に距離を詰め、主砲を連続発射してきたのである。
蒼い光の尾を引いて飛翔する敵砲弾は、命中するや戦艦の厚い装甲を難なく貫通し、戦艦だろうと駆逐艦だろうと区別なしに次々と破壊していく。駆逐艦や巡洋艦は一撃で轟沈させられ、「バーダン」自慢の防御装甲も、ただの一撃で貫通されてしまった。どう考えても、グレードアトラスター級でも勝てるとは思えない超性能。
逆に味方は必死に砲撃を繰り返しているものの、敵戦艦の速度がでたらめすぎて、1発も当たらない。こちらの砲撃は速度によって幻惑され、敵戦艦の後方に派手な水柱を立てるだけだ。駆逐隊も何とか魚雷を放とうとしているが、敵戦艦の非常識的な速度のおかげで針路が読めず、魚雷を撃てない。そしてぐずぐずしている間に敵戦艦の砲撃や誘導弾による攻撃を受け、一撃で海底送りにされる。しかも、なんと敵戦艦は舷側に魚雷発射管を装備しているらしく、8本もの魚雷を同時に海面に投下していた。その魚雷も、明らかに目標となる艦艇がいない方向に射出されていても百発百中、威力も抜群の上に航跡が見えないという、でたらめにも程がある性能を持っている。
結論。戦力差が違いすぎて勝負にならない。
「敵戦艦、なんと強力な…!」
トーマスも悲鳴を上げている。この参謀長は冷静沈着がウリであるが、その彼が狼狽えているのだ。
あまりのことに全員が呆然としている間に、敵戦艦は水上砲戦部隊を食い破って後方へと突進していた。それを見て、ハイドムが真っ青になる。
「いけない! あの方角には味方の機動部隊と輸送隊が…!」
しかし、気付いた時には遅すぎた。
ハイドムが機動部隊に無線通信を繋いだ時には、すでに「ヤマト」の全火力が機動部隊と輸送艦隊に向けられていた。戦艦のような重装甲を持つでもなく(装甲があったところでショックカノンの前には無意味だが)、爆弾、航空燃料、航空魚雷といった爆発物を満載している空母が「ヤマト」のフル火力による猛攻に耐えられるはずもなく、機動部隊は一瞬で艦艇の6割を喪失。しかも、逃げ出そうにも相手のほうが圧倒的に脚が早く、どう足掻いたって逃げられない。結論としては「詰み」である。
ほんの5分程で空母機動部隊と輸送艦隊を全滅させ、再び水上砲戦部隊の前に姿を現した敵のグレードアトラスター級は、信じがたい行動に出た。なんとハイドムやトーマスらが見ている前で、海面下に潜ったのである。
「バカな! 戦艦が、自発的に潜行するだと!?」
目を真円まで見開いたトーマスが叫ぶ。ハイドムはもはや、口から魂が出かかっていた。
潜行した「ヤマト」は、艦首と艦尾の6連装魚雷発射管と、舷側の8連装魚雷発射管から次々と誘導魚雷を放ち、片っ端から艦艇を葬っていく。グラ・バルカス帝国の駆逐艦は必死に爆雷を投下しているが、潜水艦などと違って凄まじい重装甲を艦底部にも施している「ヤマト」には、爆雷の直撃も蚊に刺された程度のダメージすらない。逆に駆逐艦が「ヤマト」の魚雷で返り討ちにされていった。
戦闘開始からわずか25分後、海面上に浮いているグラ・バルカス帝国の艦艇は「バーダン」だけにされていた。そこに浮上してきた「ヤマト」が主砲の砲口を突きつけ、警告する。
『グラ・バルカス帝国艦に告げます。直ちに降伏しなさい。降伏の意志表示は、武装を全て艦の軸線上に揃え、機関を停止して停船するとともに、メインマストの軍艦旗を全て下ろして大きな白旗を掲げること。それ以外の合図は降伏の意志表示と認めません。
繰り返します。武装を全て艦の軸線上に揃え、機関を停止して停船するとともに、メインマストの軍艦旗を全て下ろして大きな白旗を掲げ、降伏しなさい。
意志決定の猶予は1時間とします。1時間を過ぎても降伏の合図がなかった場合、もしくは機銃1発でも発砲した場合は、降伏の意志無しと判断し、全火力をもって貴方方を葬ります。貴方方の賢明な判断を期待します』
降伏勧告であった。といっても、もはや命令であるが。
これに対し、グラ・バルカス帝国側の決断は早かった。
「降伏、だな…」
「降伏、ですね…」
ハイドムとトーマスは、揃って結論を出した。
はっきり言って、敵との戦力差が大きすぎる。何せ相手は216対1の状況を完全に覆した怪物だ。見た目はグレードアトラスター級戦艦に似るが、こちらを追尾する魚雷に装甲を一撃で撃ち抜く主砲、80ノット以上という馬鹿げた高速、挙げ句の果てには自発的に潜水する機能、そして戦艦すらも消し去るあの兵器。もしかすると、まだ隠し機能があるかもしれない。
どれだけの知略を絞り、そして超絶的な幸運に恵まれたとしても、絶対に勝てない。歴戦の軍人であるラクスタルが一瞬でそう確信するほど、敵との力の差がありすぎた。
「全ての主砲を艦の軸線上に揃えろ! メインマストの軍艦旗も全て下ろせ! そして機関停止し、大きな白旗をメインマストに掲げるんだ! 旗がないなら、食堂のテーブルクロスでも持ってこい!
急ぐんだ!」
ハイドムの命令に反対する者は、誰もいなかった。
時に、中央暦1643年12月3日 午後4時46分。
ロデニウス側呼称「ムー大陸西方沖大海戦」は終結した。ロデニウス側の大勝利を以て。
なおこの後、別動隊の存在を知った"ヤマト"は、予備機として置いていた「コスモファルコン」12機を繰り出し、ムー艦隊の救援に向かわせることとなる。
というわけで、海戦回はこれで全て終了。大トリを飾ったのは、よりにもよってあの戦艦でした。
まさかの"大和"が魔改造を受け、"大和改二一九九"として出撃してくるという展開です。とはいえ、これまで色々と匂わせてきていましたから、この展開を察していた方もいるのではないでしょうか。
匂わせがあったのは、以下の場面ですね。
・"釧路"が着任した際の、堺の考え
・リーム王国との武力衝突が回避された直後、タウイタウイ泊地工廠地下室に置いてあった「艤装らしきもの」
・あっちこっちで登場していた「ヤマト」ネタ
・グ帝特務軍艦隊との戦いで初登場し、前回でも活躍した「特殊戦闘機」
・R-18スピンオフ1話での"大和"の発言
改めて数えると、結構あるな…。
そして偶然ながら、「ジパング」の期間限定公開と連動する形で「ジパング」ネタの採用です。
評価10をくださいましたアガトレア先生様、ありがとうございます!!
次回予告。
海上における脅威が消滅し、勢いに乗る第二文明圏連合軍。そんな中、ロデニウス陸軍第1軍団を基幹戦力とする中央軍集団は、ヒノマワリ王国領を横断して旧レイフォル領へと攻め込んだものの、グラ・バルカス帝国軍が築いた要塞線と対峙することとなる……
次回「要塞ラテ・アルマイの戦い」