鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
そろそろムー大陸での戦闘も終わりかな。
中央暦1644年1月16日。
戦争遂行に関する重要な首脳会談が持たれていたその頃、ロデニウス連合王国本土クワ・トイネ州北東部 港街クワ・タウイ郊外。
「総員、整列!」
鉄条網付きのフェンスで囲まれた収容所のグラウンドに、号令が響く。統一されたオレンジ色の服装の囚人たちが、一斉に整列した。いつもの朝の点呼である。
整列した囚人たちを前にして、所長が口を開く。
「傾注! 諸君に、大事な話がある。
先日、我が国の外務省から通知があったところによると、近々我が国はグラ・バルカス帝国と外交会談の機会を持つつもりのようだ。そこで本官は、諸君に任務を1つ与える。といっても難しいことじゃない、家族や友人に宛てて手紙を書くように、というだけだ。
手紙の内容は何でも良い。自身の無事を伝える内容があれば良いと思う。その他家族等に贈り物をしたいのであれば、可能な限り前向きに検討しよう。食糧品や日用品などであれば、比較的容易に許可を出せるだろう。
宛先さえ書いてくれれば、後はこちらで処理する。期日は1月14日の午前9時だ、それまでに職員詰所に提出するように!
では解散!」
点呼が終わり朝の講義へと向かう道すがら、グラ・バルカス帝国特務軍艦隊司令官だったアンネッタ・ミレケネスは、同じく収用されている元戦艦「グレードアトラスター」艦長マリノス・ラクスタルに話しかけた。
「急に手紙とはな……祖国に届けられるんだろうか?」
中央暦1643年6月以来、生き残ったグラ・バルカス帝国海軍特務軍艦隊の将兵たちはロデニウス大陸に拘留されている。要するに捕虜である。
捕虜となって以降、乗艦だった「グレードアトラスター」を失ったせいもあって塞ぎこんでいたラクスタルだったが、収容所にて「宇宙戦艦ヤ◯ト」と称するアニメ作品を見せられ、さらに「ラヴァーナル帝国」とかいう国の脅威について教えられて以降、少しずつ覇気が戻ってきている。自身のなすべきことを見つけたようだ、とミレケネスも考えていた。
そのラクスタルは、ミレケネスの質問に首を傾げながら答える。
「おそらく、外交交渉の時に外交官に渡すつもりなんでしょうな。で、後は郵便配達員に届けてもらう、と」
「それが現実的だな。しかし……」
ミレケネスは言い淀んだ。
プライドの高い外交官がこれを見れば、今回の交渉をロデニウス側からの威嚇、もしくは謀略などと受け取るかもしれない。そうなれば、せっかく書いた手紙が台無しになるだけでなく、情報統制された自国の民によって戦禍が拡大する可能性すらある。
戦禍拡大? ……それは、ミレケネスたちの望むことではない。そんなことになれば、自国が消耗しつくしてしまうだろう、とミレケネスは踏んでいた。もちろん、特務軍艦隊時代からミレケネスと付き合いのあるラクスタルは、彼女が言い淀んだ先の内容をしっかり見抜いている。
「どうしようか……」
「とりあえず手紙だけは書いておきましょう」
ミレケネスとラクスタルは、揃って肩をすくめるしかなかった。
実はこれは、何もロデニウス国内に限った話ではない。元東部方面艦隊司令官カイザル・ローランドや、西部方面艦隊司令官ガルディオ・ガリデー、陸軍のパイロットをやっていたスペース・アステリアや戦車の乗員だったモント・セラト、ジブラ・ルタル等、ムー大陸各国の収容所にいるグラ・バルカス人たちにも、手紙を書けという要請が出されている。
この要請の真意に首を傾げながらも、彼らもまた、家族や友人などに宛てた手紙を書く羽目になるのだった。とはいっても、中には文章のタネに困って頭を捻る者もいる。
そんな彼らとは対照的に、かなり生き生きとした様子で文面をまとめていたのが、看護師のマキ・デルフィーノだった。
「何だ嬢ちゃん、まだ書いてんのか? よっぽど長い手紙だな」
「はい! 自分が今無事で、どこで何をしているか、どんな勉強をしてきたか、ロデニウスの人たちがどんな人なのか、書きたいことがいっぱいで!」
「大事な人に送る手紙らしいな。ご家族……いや、ひょっとして彼氏か?」
「も、もう! からかわないでください!」
マキは若冠23歳なので、彼氏がいてもおかしくない年齢である。ただ残念なことに、過酷すぎる職場のおかげで彼氏を作る暇がないのである。
軍医クロード・ヒューリックにからかわれ、真っ赤になって言い返した後で、マキは再び真剣な表情で手紙に取りかかる。
既に便箋は5枚めが文字で一面真っ黒になろうとしている。それなのに、書きたいことが次々と出てきてキリがない。
「うーん、お父さんもお母さんも忙しいと思うし……今回はこんな感じで良いかな。また手紙出そうっと」
しばし迷った末に、マキは新たな座右の銘となった言葉「命に色はない」を便箋の最後に書き添えて、筆を置いたのだった。
その一方、タウイタウイ泊地・工廠。
「まだもう少し実験がいるなぁ……」
「そうね。耐久試験もしないとだし」
話し込んでいるのは"
実は2人揃って2徹しており、かなりラリっている。
「でもこれなら、魔導伝導効率の条件とかも満たしそう。採掘を許可してくれたエルフの皆様には、感謝しないとね」
呟くようにそう言う"明石"の前のデスクには、いくつかの書類が放り出されている。それらには、次のような表題が振られていた。
『リーン・ノウの森周辺地域で発見された未知の魔導金属に関する各種調査計画』
『神聖ミリシアル帝国製魔光呪発式空気圧縮放射エンジンを用いた魔導伝導回路の研究計画』
『艦娘の艤装を用いて現代戦に対応するための計画(暫定)』
『第13艦隊の現場指揮に特化した新型護衛艦の建造に関する諸計画(仮)』
そして最後の計画書には、艦首部分が天に向かって反り返った形状…いわゆる「スキージャンプ台」を持った航空母艦らしきシルエットや、アングルドデッキを備えた大型の航空母艦らしきシルエットが描かれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
中央暦1644年1月20日、神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。
「眠らない魔都」と称されるこの街の一角には、上から見ると六角形に作られた建物がある。その建物こそ、この国の国防省である。
あの首脳会談が終わった後、ミリシアル国防省長官アグラ、軍務大臣シュミールパオ、帝国情報局長アルネウスの3人の姿は、ミリシアル国防省の会議室にあった。忙しいことである。
アグラやシュミールパオはともかくとしてアルネウスが何故ここにいるのかというと、現在ミリシアル海軍が検討している新型軍艦の設計についてアドバイスするためである。
「全員揃ったな。では始めよう」
アグラが開会を宣言した。
「会議の議題は、新型の航空魔導母艦の設計についてだ。
率直に言うが、現在の我が海軍には大きな問題があることが、この頃の分析で判明してきた。その最たる物が航空魔導母艦である」
現在のミリシアル海軍の主力航空魔導母艦は、ロデオス級航空魔導母艦である。ちなみに航空魔導母艦というのは、航空母艦相当の船である。
ところが、ロデオス級は地球の航空母艦を知る者からすると「馬鹿野郎! なんであんな風に設計した! 言え! なんでだ!!」と言いたくなる形状をしている。具体的には「双胴航空戦艦」という形状なのである。
このためロデオス級は、「旋回性能が劣悪」「燃費が悪い」という問題があった。だが、これまでは神聖ミリシアル帝国に並ぶ軍事力を持つ相手がいなかったため、この問題はあまり注目されていなかった。それが、グラ・バルカス帝国との戦争の中で問題点が顕在化してきたのである。
「そこで陛下から、新世代の航空魔導母艦を至急設計するようにとの勅命が下された。今回の会議ではまず、新世代の航空魔導母艦について大まかなコンセプトを定めることとする。
就役した暁には、新型航空魔導母艦は第零式魔導艦隊の他、第1~第3魔導艦隊の再建に用いられることが決まっている。皆気を引き締めてかかれ」
そこまで言って、アグラは席上を見渡した。いずれも緊張した面持ちである。自分たちに課せられた使命が重大なものであることを自覚したのだ。
「まずはアルネウス局長、何か報告があるのだろう? 頼む」
「はい!」
アグラはまず、アルネウスに話を振った。
「それでは私、帝国情報局長アルネウス・フリーマンから、新型航空魔導母艦の設計の際に参考になりそうな情報についてお話します。
まずは前提となる情報からお伝えします。先ほどアグラ長官が、我が国の航空魔導母艦には問題点がある、と話しましたが、この問題が顕在化したのが中央暦1643年2月の『第一次バルチスタ沖大海戦』でした。あの海戦で我が方の航空魔導母艦は、グラ・バルカス帝国の機械式天の浮舟を相手に芳しい戦果を挙げることができず、逆にグラ・バルカス帝国機から投下された爆弾や魚雷によって大きな被害を受けました。本海戦が我が国に大きな衝撃を与えたことは、皆様ご存知の通りです。
そのグラ・バルカス帝国の航空母艦ですが、『第二次バルチスタ沖大海戦』においてロデニウス海軍の艦隊に敗れました。ロデニウス側の発表では、グラ・バルカス帝国の航空母艦は15隻が沈んだとされています。従いましてロデニウスの航空母艦は、今後の新型航空魔導母艦の設計に大いに参考になると思われます。ここまでが前提の話です」
一旦言葉を切り、アルネウスは深呼吸して口を開いた。
「そのロデニウス艦隊ですが、ムー方面へ遠征する際に、補給のため我が国の港街ゴースウィーヴスとルーンポリスに寄港しています。この時、我が情報局は魔写を用いてロデニウスの航空母艦を撮影することに成功しました。それも、ロデニウス側に艦隊周辺上空の哨戒飛行を願い出て許可をもらい、哨戒のついでに鳥瞰魔写を撮影することにも成功しています。それを皆様に公開し、設計に役立てていただきたいと存じます」
参加者たちがざわめく中で、アルネウスは持ってきた鞄から多数の魔写を取り出してテーブルにぶちまけた。
「ご覧ください。これが、ロデニウスの航空母艦です」
会議の出席者たちは思い思いに魔写を手に取り、観察し始めた。そして程なく議論が始まる。
「単胴船だと!? こんなので搭載数を確保できるのか?」
「何だこれは? エレベーターはどこにあるんだ?」
「よく見ろ、飛行甲板に四角い板が埋まったような場所がある。おそらくこれがエレベーターだ」
「ってことは、我が国の航空魔導母艦と違ってエレベーターを飛行甲板に埋め込んでいるのか?」
「そうらしいな」
「おい何だこの貧相な艦橋は? しかも主砲が見当たらないじゃないか!」
「なんでわざわざ大型空母と小型空母で分けているんだ? 大は小を兼ねるんだからデカいのだけ作りゃ良いだろ?」
「何だこれ? 飛行甲板の先端に、溝のようなものがあるぞ?」
わいわいと言い合いながらも、皆真剣に話し合っている。タイミングを見計らってアルネウスは声を上げた。
「我が国の航空魔導母艦と、ロデニウスの航空母艦の相違点がお分かりになりましたでしょうか。軽く見ていただいただけでも、これほど違うのです。
帝国情報局では、ロデニウスの航空母艦の他にムーの新型航空母艦についても情報を得ました。それによると、ムーの新型航空母艦は明らかにロデニウスの航空母艦を意識した形状になっているとのことです。まるで設計図をそっくり公開され、その図の通りに作ったとしか思えないほど酷似していた、とムーにいる諜報員は報告しています。
以上から、情報局ではロデニウスの航空母艦こそ我々が参考にするべき艦であると結論し、各種の分析を行いました。その結果が、このようになります」
アルネウスは今度は鞄から書類を取り出し、参加者たちに配布した。
「資料の2〜3ページ目をご覧ください。ここに、ロデニウスの空母についての推定性能が書かれています」
資料に書かれたデータは、こんな感じだった。
《ロデニウスの空母の性能分析結果(予想値)》
大型航空母艦の場合
・全長 230〜250メートル
・艦幅 30〜35メートル
・速力 25〜30ノット
・武装 小型艦の両用砲程度の火砲4~6基、対空魔光砲相当の兵器40~60門
・搭載数 70〜90機。100機を超える可能性もある。
小型航空母艦の場合
・全長 200メートル前後
・艦幅 20メートル前後
・速力 25〜30ノット
・武装 小型艦の両用砲程度の火砲2~4基、対空魔光砲相当の兵装20門前後
・搭載数 30〜50機
あまりに驚異的な性能を前に、会議の参加者たちがどよめいた。
大型空母の全長自体は、自国のロデオス級航空魔導母艦と大差ないらしい。しかし、対艦兵装はともかく対空兵装に関してはロデオス級より数が多い(ロデオス級の対空兵装は40㎜対空魔光砲24門のみである)上に、搭載機数はロデニウス側の圧勝である。
小型空母にしたって、物によってはロデオス級の搭載数56機に迫るかもしれないのだ。
「これは……どういうことだ……?」
「ロデニウスの空母に、これほどの性能があるというのか……」
驚愕する参加者たち。そのうち1人が、恐る恐るといった様子で手を挙げた。
「もし……もし、我が方の航空魔導母艦部隊とロデニウスの空母部隊が戦った場合、どうなる?」
その質問に、アルネウスは静かに答えた。
「誤解を恐れず申し上げるならば、我が方の完敗になるでしょう」
ざわっと席上がざわついた。それに構わず、アルネウスは話を続ける。
「第一次バルチスタ沖大海戦の際、我が方が投入したロデオス級は6隻。艦上機の総数は336機でした。
もし仮に、第1から第7まで全ての主力魔導艦隊を結集したとしても、艦上機の総数は784機です。それに対してロデニウス軍の艦上機の総数を計算すると、今回確認された空母は大型が10隻、小型が5隻ですから、少なくとも850機になります。この時点で既にロデオス級1隻分以上の数の差があります。
加えて、我が方の『エルペシオ3』はグラ・バルカス帝国の戦闘機に歯が立ちませんでした。そのグラ・バルカス帝国の戦闘機に打ち勝ったのが、ロデニウス軍の戦闘機です。そんな相手に『エルペシオ3』で勝てる道理がありません。
また、ロデニウス軍もグラ・バルカス帝国軍と同様に、魚雷を実用化し配備しています。攻撃を受けた場合、敵機の機数にもよるとは思いますが、我が方の航空魔導母艦が攻撃を回避しきれるとは思えません。それに被弾してしまえば、艦底に大穴を開けられます。我が方の母艦は、喫水線下の防御力に難がありますから、4本以上の魚雷を受ければ沈没する可能性が高いです。
以上のことから、我が方の航空魔導母艦部隊が敗北するという結論しか出ません。おそらく、我が方の攻撃隊を護衛する『エルペシオ3』はロデニウス軍の戦闘機を阻止しきれず、『ジグラント』シリーズの爆撃機は片端からロデニウス軍の戦闘機に墜とされ、我が方の航空攻撃は失敗するでしょう。逆にロデニウス軍の攻撃隊は、我が方の上空直掩機と対空砲をいとも容易く突破し、魔導戦艦や航空魔導母艦などの主力艦は魚雷で次々と撃沈されるでしょう。何度シミュレートしてもそうなります」
静かに、だがきっぱりとアルネウスは言い切った。当然、席上は大荒れとなる。
「帝国情報局長ともあろう者が何を言うか!」
「我が方の航空魔導母艦が完敗だと!?
我が国は世界最強なのだぞ! 敗れるなど、ある訳がない!」
「現に第一次バルチスタ沖大海戦で敗れたでしょう。少なくとも我が国の航空魔導母艦、そして天の浮舟は、現時点では世界最強とは言えなくなりました」
「そのような世迷言を…!」
「では逆にお尋ねしますが、今の戦力で古の魔法帝国の天の浮舟に……音速を超えると言われるあの空飛ぶ悪夢に、勝てるとお思いか?」
「それは……」
「「「………」」」
アルネウスの一言で、参加者たちは一気に押し黙った。
「現実を認めましょう。今勝てなくても、技術を発展させて逆転すれば良い。そうではありませんか、アグラ長官、シュミールパオ大臣?」
「ああ、そうだな」
「アルネウス局長の言う通りだ。逆転されたのなら、また抜き返すまで。違うか?」
帝国軍の2大巨頭の前には、如何なる参加者も押し黙るしかなかった。
そしてアルネウスが話を続ける。
「航空母艦の性能が分かったところで、資料の4ページをご覧ください。ロデニウス海軍空母部隊の戦術思想を分析してみました」
そこには、ざっとこんな内容が書かれていた。
・小型空母では、重い対艦爆弾を抱える爆撃機の運用は難しいと思われる。しかし、軽量な戦闘機や、爆撃機でも潜水艦を攻撃する程度の小型爆弾を搭載するものなら、運用可能と考えられる。従って、ロデニウス海軍では艦隊直掩専門の空母として小型空母を用意し、大型空母に搭載した機体だけで敵艦隊への航空攻撃を狙っていると考えられる。
・単胴船は当然ながら、双胴船より運動性能が高い。ロデニウス海軍の空母は、空襲に遭った際に敵の攻撃を回避しやすいよう、単胴船を採用していると考えられる。
・ロデニウス海軍の空母には、巡洋艦クラスの主砲が存在しない。艦の容積に限界があることを考えると、おそらく航空機から身を守るための装備として両用砲クラスの砲と対空魔光砲のみを装備していると考えられる。敵艦に対しては護衛艦に任せるか、もしくは空母自身の高速を以て振り切るものと考えられる。
・上記推察から、ロデニウス軍では空母部隊そのものの戦術運用にも確固たる方策を持っていると考えられる。例えば戦艦や巡洋艦にも両用砲クラスの砲が副砲として搭載されており、小型の巡洋艦の中には両用砲クラスの砲ばかりを主砲として搭載した艦が見られた。このことから、ロデニウス軍は対空火力を重視していると思われる。
「以上が、我が情報局によるロデニウス軍の航空母艦の分析結果です。是非ともこれらの情報を役立てていただきたく存じます」
話を締めくくったアルネウスに代わり、アグラが口を開いた。
「アルネウス局長、情報に感謝する。新型航空魔導母艦の設計において、大いに参考になるだろう。
では諸君、新型航空魔導母艦の設計について議論に入ろう」
参加者たちは次々と意見を出し始めた。
「やはり、今度の空母は単胴船だな」
「間違いない。艦体形状は、ロデオス級の胴体部分を参考にすればどうにかなりそうか?」
「計算してみないと詳しくは分からないが、どうにかなるだろうと思う」
「どうせなら新しい帯魔性装甲材を使いたいな」
「武装はどうする? 巡洋艦の主砲は要らないか?」
「要らんだろあんなもん。それより搭載数だ。主砲という重量物取っ払うんだから、その分多くの天の浮舟を積みたい」
「主砲が要らないってことは、艦橋も魔導巡洋艦くらいの規模で良いかな?」
「そういえばそうだな、あの艦橋も元々は主砲で敵を撃つこと前提の設計だし。となると、より多くの天の浮舟を搭載できそうだ。最低でも70機は欲しい」
「ロデニウスの空母は、対空魔光砲を舷側の各部に散らして配置しているな。こちらの新型航空魔導母艦も、それに倣おう」
議論はまだ長くかかりそうだった。
確かにミリシアル情報局の考察は、間違っていない。実際にロデニウス海軍第13艦隊では、軽空母はもっぱら艦隊直掩と対潜警戒が主任務だし、各空母艦娘の搭載数も分析と大して違わない。そして「三段防空システム」や「レーダーピケット戦術」など、空母機動部隊の運用思想も確立されている。
しかし、ミリシアル側が気付いていないこともあるのである。例えばロデニウス側にはジェット機(何なら誘導魔光弾こと空対空ミサイルも)があるし、ロデニウスの空母の中には「装甲空母」と呼ばれる重防御空母がいる。さらに、ミリシアル側はロデニウス軍の航空機の具体的性能を把握しきってはいないし、魔写に写った「飛行甲板先端の溝」の正体…重武装機やジェット機を打ち出すための油圧式カタパルトを見抜いていない。
それらよりも何よりも、ロデニウスの空母は「軍艦」ではない。あの大きな空母の艦体は"艦娘の艤装"であり、空母が沈没したように見えても、コアとなる艦娘が健在であれば瞬く間に前線に復帰してくるのである。
つまり…今ミリシアルとロデニウスの空母機動部隊が戦った場合、よほどのことがない限りは消耗戦に引きずりこまれてミリシアルの負けになるのである…。
◆◇◆◇◆◇◆◇
新兵器を検討・用意しているのは、何もミリシアルだけではない。
中央暦1644年1月21日、第二文明圏列強ムー国首都オタハイト ムー統括軍総司令部。
「無茶すぎんだろ……」
総司令部の一隅を占める情報室。ここは現在、情報通信部・情報分析課が占有するところとなっている。特に外国の軍隊が配備している兵器について分析するのが、この部署の仕事である。最近は暗号解読なんかもこの部署の担当になりつつあるため、かなり忙しい。
そんな部屋で、情報分析課の課長を務めるマイラス・ルクレール中佐が、ため息を吐きながら天井を見上げた。そして呟く。
「近接支援火力が欲しいから、とりあえず歩兵に随伴して火力支援が可能な高い機動力を持つ大砲を今すぐ配備しろ、なんて……んな急に言われたって用意できるか! 兵器の開発がどれくらい難しいか知らんのかよ!」
うがー、と頭を抱えて嘆くマイラスの目の前のデスクには、最前線でグラ・バルカス帝国と戦うムー統括陸軍の将兵からの報告書と要望書が、ごっちゃになってぶちまけられている。その内容をざっとまとめると、こんな感じであった。
報告書ではまず、新たに配備された「ロ式42型30トン級戦車 ラ・シマン」の実用性について、これを褒めちぎる内容が書かれている。敵の砲弾を容易に通さず、搭載した主砲で敵戦車や砲陣地を返り討ちにしたり、歩兵の盾として進撃の支えになったりと、大いに活躍しているとのことである。
ちなみにこのラ・シマン戦車というのは、M4シャーマン中戦車のことである。シャーマン無印の車体に48口径75㎜砲を搭載し、対歩兵・対陣地・対戦車いずれにもある程度の活躍を見込める、オールラウンダー型戦車である。
前線からの要望を受けて、マイラスはこのラ・シマン戦車のバージョンアップ版を幾つか開発している。例えば、車体をM1A1相当の防御力にアップデートし、弾薬庫の配置を改めて生残性を向上させた。その他に、22型105㎜イレール砲を車載用に改造して榴弾の威力を向上させた主砲を持ったタイプや、新開発のガエタン57口径75㎜砲を搭載して火力を増強したタイプを、前線に送っている。これでも飽き足らない前線のため、現在彼は「ラ・シマン・ジャンボ」……思い切って装甲を分厚くした重防御型ラ・シマン戦車を研究しているところである。
余談だが、マイラスの上官にあたるアルバス・フィッシャー准将がラ・シマン戦車の改造案を持ち込んだ時、マイラスはこれを却下している。どうしたのかというと、その案というのがとんでもない代物だったからだ。なんと「ラ・シマン・ジャンパー」と称して、ラ・シマン戦車の車体側面にロケットブースターを取り付け、敵戦車の上を飛び越える等の三次元的運動を可能にすることによって高い機動力を持たせる、というものだったのである。
聞いた瞬間にご飯3杯くらいイケる人が出てきそうな、
閑話休題。
それで、報告書に続いて現場から上がってきた要望書には、以下のように書かれていた。
『今我が軍で使用している歩兵の近接支援火力について、22型105㎜イレール砲は陣地転換に時間がかかり、即応性に乏しい。26型ガエタン70㎜歩兵砲では、敵に対する打撃力が不足していると感じる場面が多い。ラ・シマン戦車は装甲化されていて期待できるが、75㎜の榴弾だけでは面制圧力に不安がある。105㎜砲搭載のラ・シマンが欲しいが、生産が始まったばかりで前線への配備に時間がかかる。
以上から、歩兵と共に移動し効果的な面制圧を行える近接火力支援兵器を、できる限り早期に要望する』
マイラスが頭を抱えるのも当然である。
「ロケット砲とやらじゃ駄目なんですか?」
部屋に居合わせた新人カーナ・ツーベルク特務准尉が発言した。
「ロケット砲か…確かに、前線が要望しているのは大砲だから、広い意味でならロケット砲も入ってくる。ただ、ロデニウス軍が運用してるロケットって、我が軍のに比べて結構大きいんだよな…」
そこまで呟いた時、マイラスはふと思い付いた。
「カーナ准尉、我が軍のロケット弾の口径と総延長ってどれくらいだっけ」
「少々お待ちください」
書類棚をガサゴソと探し、少ししてカーナはお目当ての資料を引っ張り出した。
「初期型として60口径60㎜、その改良型として60口径100㎜のロケット弾がありますね。60㎜弾はあくまで試作品という側面が強く、100㎜弾を地上や空中で使うことが計画されています」
「口径100㎜か。ロデニウスのは確か300㎜で装甲車に6発外付けしてたな……」
ハノマーク装甲車の側面に外付けされたロケット砲「WG42」を思い出しながら、マイラスは考える。
「カーナ准尉、君ならどう考える?」
「そうですね……」
少し考えて、カーナは口を開いた。
「歩兵にとって馴染みのある兵器に搭載するのが良いでしょうから、ハノマーク装甲車のライセンス品もしくはラ・シマン戦車に搭載するのが良いかと存じます。あ、ハノマークは車体側面に外付けするしかないですから即応性が少し低くなるかと。ラ・シマンなら、どうにかして回転砲塔の機構を活かせば、車体前面の機銃で敵歩兵に対処しながら別方向へ火力を投射でき、汎用性が高くなると思います」
「ふむふむ」
メモを取りながら、マイラスはかなり真剣な表情で聞いている。
「他には?」
「他ですか…ええと、口径100㎜と砲弾としては小さいですから、多連装にするしかないでしょう。小さくても数を撃ち込めば、面制圧になると思います。今思い付くのはこのくらいですね」
「よーし、分かった。ありがとうカーナ准尉、これで方向性が定まった」
今度はマイラスの番である。ラ・シマン戦車の設計図をコピーすると、デスクに向かってさらさらとペンを入れ始めた。
「多連装で、かつ回転砲塔か……照準装置は既存の主砲のものを転用するのが早いかな。どーせ75㎜榴弾じゃ信用できんって言われたんなら、いっそターレットリングに砲身を通して主砲を切り捨てて……」
「マイラス中佐、ざっと計算してみましたが、一列に並べるなら24連装が限界です」
「なら多段式にするか? 下手な鉄砲も数撃てば当たるっていうし」
「多段式ですか、少し計算してみます」
そのまま2人してあーだこーだ言いながら、計算したり設計図を描くこと2時間。
「どうやら形になりましたか…?」
「なったな。これで一旦提出してみるか」
昼食時間を返上しそうな勢いで仕事をやり遂げた2人の前には、奇怪な設計図が描かれていた。
車体そのものはラ・シマン戦車そのままである。しかし、砲塔の上には2本の支柱と架台に支えられて、横倒しになった何本もの筒がパイプオルガンさながらに並ぶ、という異様な機構が設置されていた。ざっくり4段に分けられており、1段目から順に24本、24本、14本、14本の筒が並んでいる。
これが、マイラスとカーナがやっつけで作った「歩兵に随伴可能かつ面制圧が可能な大砲」……「44型76連装自走ロケット砲 ラ・カリー」である。75㎜砲は撃てないが、76門ものロケット砲を一斉にぶっ放した時の面制圧力はかなり高いだろう。しかも、ロケット砲の照準装置は「ラ・シマン」のものを流用しているため、生産も訓練も比較的容易に行える。ただ、特に上部2段の24連装ロケット砲はその場での再装填が難しく、補給所に戻るまでは実質撃ちきりである。
ちなみにマイラスとカーナはノーヒントでこのロケット砲を設計してしまったが、兵器に詳しい者ならば、アメリカ軍のロケット砲「T34 カリオペ」を連想するだろう。
「これなら早々文句は言われんだろうな」
「そうですね。ところで中佐、今の時刻が…」
「うわ、食堂のラストオーダー近いじゃん! 急ぐぞ准尉!」
「はい」
いい仕事した、と言わんばかりの雰囲気は一瞬で霧散したのだった。
マイラスとカーナが食堂へ急いでいた頃、ムー大陸の反対側に位置するパガンダ島。
ロデニウス軍がグラ・バルカス帝国軍を排除して以来、この島はロデニウス軍の拠点となっている。元々グラ・バルカス帝国が建設していた飛行場は、今やエプロンにロデニウス軍の機体がずらっと並んでおり、中には「Me263」……「Me163B コメート改」を車輪で着陸させるようにした改良型ロケット機の姿も見える。
海に目を向けると、そこには複数の艦艇が錨を下ろしている。艦隊の旗艦を務める戦艦「
その「釧路」の艦長室にて。
「なるほど…できましたか。早速見に行きましょう」
妖精から呼び出しを受けて、"釧路"は即決した。
工廠に置かれていたのは、単発機と双発機が1機ずつ。単発機はどこかずんぐりした形状だが、明らかにエンジンが大きく、かなりの馬力があるだろうことが想像された。
双発機の方は、単発機と違ってすらりとしており、見る人が見れば爆撃機ではなく戦闘機だろうと想像できるだろう。この機は機首から機銃とレーダー用の八木・宇田アンテナを突き出しており、さらにコクピット後部には斜め上方を向いた機銃を装備していた。
「XAD-1 スカイレイダー」と、「夜間戦闘機 仮称星光二一型」。それが、単発機と双発機の名前である。
第13艦隊の新たな艦上攻撃機となるだろう試験機と、陸上基地に配備する予定の夜間戦闘機が、機首を並べていた。
「うん、良い感じね。早速明日飛ばしましょう。
基地航空隊といえば、単発戦闘機の方はどう?」
「はい、単発戦闘機『X-Ta152B』の方も、かなり順調に進んでおります。おそらく明後日には、試作機の姿をお見せできるでしょう」
妖精の説明に、"釧路"は満足そうに頷いた。
視察を終えた彼女は、そのまま艦長室へと戻ってくる。
「艦上攻撃機と基地航空隊の戦闘機は、いい感じに進んでいるわね。ならばこっちも、頑張って進めないと」
現在彼女が取り組んでいるプロジェクトはプロジェクトは複数あるのだが、その中で彼女が最も重きを置いているのがこれである。
『RIM-2 テリアに倣った、個艦防空誘導弾の開発・配備計画』
『SMシリーズのような艦隊防空誘導弾の開発・配備計画』
そう、ラヴァーナル帝国との戦争を見据えた、対空ミサイルの開発計画である。
(最低でも、あと2年くらいでスタンダードミサイルシステムをモノにしておきたいですね。ラヴァーナル帝国との戦争はもちろん、事と次第ではそれより前に使う機会がくるかもしれませんし)
ムー大陸方面での作戦行動のため、出撃準備をしている他の艦艇群を眺めながら、"釧路"はそう考えていた。
同じ頃、パガンダ島の陸上では1個小隊8輌の戦車が動いていた。全て同じ大きさ・形状をしている。
その特徴は、傾斜装甲を多用した車体である。「パンターG型改」と同じような形状であるが、妙な違和感があった。車体の大きさに比べて、砲塔の大きさがやや小さいのである。ついでにいえば砲身の長さも、結構長くはあるのだが車体の大きさに比較すると短いような気がする。
かつて第二次世界大戦時の地球において、世界最強とも謳われたドイツの機甲師団。その進軍の先頭を担うものとして開発されたのが、Ⅵ号戦車「ティーガーⅠ」である。
今ここにいる傾斜装甲の戦車は、その「ティーガーⅠ」の進化形にして、WW2当時の地球で「世界最強の戦車」とまで評された個体。
Ⅵ号戦車B型「ティーガーⅡ改」。
その主砲は、貫徹力・破壊力共に最高クラスを誇る71口径88㎜砲。遠距離での命中精度もしっかり確保されており、3㎞以内なら当時の地球のあらゆる戦車を正面から撃破できると評されたほど。
ちなみに砲身と車体長のバランスが悪い理由は、将来的に主砲を68口径105㎜砲に交換する計画があるからである。そちらの方が砲身が長いため、それに合わせた結果今の見た目がバランス悪く見えるのだ。
また、防御力については、実は単純な装甲厚だけなら「ティーガーⅡ改」は元の「ティーガーⅡ」より薄くなっている。しかし、「ティーガーⅡ改」はパンターG型改と同じく複合装甲を採用したことで、装甲の厚さを薄くしながら「ティーガーⅡ」と同等以上の防御力を確保していた。むしろ複合装甲を採用した分、成形炸薬弾に対する防御力は「ティーガーⅡ」より高くなっている。
エンジンは、アンダーパワー気味だった「ティーガーⅠ」のエンジンを廃止し、代わってT-34中戦車に倣って新開発のディーゼルエンジンを搭載した。これにより、エンジン部の防御力を高めたついでに稼働率を上げている。その上装甲厚を減らしたことで重量が軽くなり、脚周りの故障を減らすことにも成功した。
第二次大戦頃の戦車としてはぶっちぎりに高い完成度を持つ戦車である。
これまでロデニウス陸軍は、グラ・バルカス帝国陸軍との戦闘を優位に進めてきた。その主な要因はやはり、攻勢の際に主力となる戦車の性能である。殊に、攻撃部隊の先頭に立って敵陣に突っ込むことを期待された「ティーガーⅠ」は、九七式中戦車程度の戦車しか知らないグラ・バルカス帝国陸軍にとってまさに無敵の怪物だった。捕虜にしたグラ・バルカス兵が持っていた兵器の識別リストを見て、「最も危険な兵器」の1つにティーガーの名前が上がっているのを見たロデニウス軍側は、思わずニヤリとしたものである。
だが「ティーガーⅠ」とて、いつまでも無敵ではいられない。そろそろ戦車の更新が必要だと判断されたのである。
部隊連携行動訓練、続いて戦闘訓練を終えた「ティーガーⅡ改」は、順次格納庫まで戻ってきてエンジンを停止した。そのうち1輌の砲塔上ハッチが開き、1人の妖精がひょいと顔を出す。
仲間内で"ヨハネス・ベルター大尉"と呼ばれるその妖精は、手早く「ティーガーⅡ改」のエンジンの排熱機構をチェックすると、1つ頷いた。
そこへ別の「ティーガーⅡ改」から飛び降りた妖精がやってきて、声をかける。
「どんな感じですか?」
「ティーガーⅠも悪くないですが、乗り回した感じはこっちの方が良いですね。思っていたより機敏に動くし、装甲も頼りになります」
階級自体は相手より上なのだが、妖精ベルターは相手を尊重していた。そのため敬語の話し方になっている。
「うん、確かにこれは良いですね。機動も重くないし、車体が軽くなったから脚周りやエンジンの負担も少ないし。その上ディーゼルに変わったから、火炎瓶で燃える心配も少ない。
回転砲塔がある分使い勝手も良いし、前に押し付けられたヤークトティーガーとは比べ物になりませんな」
そう返事したこの妖精は、仲間内では"オットー・カリウス中尉"と呼ばれている。
お察しの通り、2人とも"転生組"である。恐ろしい練度と数々の戦果で有名な「ティーガー・エース」の残りの面々が、ついに揃ったのであった。
「もうじき実戦ですね。確か、初陣はレイフォリアでしたっけ」
「そう命じられていますね。チハ程度しか知らない連中がこいつを見たらどう思うか、想像もできませんな」
2人の妖精は、もうすぐ始まるだろうレイフォリアの戦い…自分たちに用意された戦場に思いを馳せる。
その一方、これから戦場となるだろうことが確定しているグラ・バルカス帝国軍統合基地ラルス・フィルマイナ。
地上には、元が何だったのかも分からないほど破壊され焼き付くされた黒焦げの残骸が大量に散乱し、人や物が焦げた臭いが鼻につく。
消火活動は一通り終わっているのだが、消し炭となった戦闘機や人だったものから、人間が拒否反応を示すほどの刺激臭が漂う。
連日続く敵の空襲によって、もはや基地の機能はズタズタだった。併設された工場も爆撃に遭っており、稼働率はもはやゼロに等しいレベルまで落ち込んでいる。
敵は大抵ロデニウス軍の四発爆撃機なのだが、この頃ムーの旧式機(グラ・バルカス側から見ると旧式なだけで、ムー側は大真面目に主力爆撃機の「ラ・カオス」を送り込んでいる)までもが爆撃に混じるようになっている。その旧式機を叩き落とせるほどの数の対空砲すら、もうまともに残っていない。
生き残った者たちはだいたいが地下壕に籠り、戦況や今後の行動指針について激論を交わしていた。
自分自身や部下、そして入植した帝国臣民達の命のかかった作戦案。
かつてない敗北と戦力喪失に焦りが加速していた。
だんだん明らかになってきた敵の戦力評価と、残存兵力から導き出される結論。基地司令ドルバス・ファンターレ中将、ナルガ戦線最高司令官アルダ・グランギル大将以下一同は、どうしようもない現状に胃がキリキリと痛む。
昨年6月の第二次バルチスタ沖大海戦以来、戦況は完全に敵に取られてしまった。パガンダ島もイルネティア島も陥落し、ムー大陸周辺の制海権は押さえられ、おまけに外征が可能な主力方面艦隊は全て敵に返り討ちにされてしまった。本土からの救援も、海路や空路での脱出も期待できない。
そして、敵はついにムー大陸において総反撃を決行してきた。勇敢な帝国兵たちは必死に戦ったものの、本国からの兵員や兵器の補充ができず、物量や強力な兵器で攻め立てる敵に消耗して、後退に次ぐ後退を重ねた。そこに現地人の武装反乱が勃発し、その結果として、今やムー大陸におけるグラ・バルカス帝国の勢力圏はレイフォリアを中心とするごくわずかの領域にまで押し込められている。
「では、まとめるが……」
最終的に、ムー大陸進攻軍司令部が出した結論は、以下のようになった。
・陸軍総司令部は統合基地ラルス・フィルマイナに置き、各地に展開する陸軍駐屯地の指揮をとる。
・レイフォリア防衛戦力の主力として、レイフォリア南部にある要塞化したダイジェネラ山(海抜429メートル)に兵器をかき集めて籠城作戦を取る。これで、敵が仮にレイフォリアを制圧しても、後方から襲撃を受け続けるため、ダイジェネラ山を攻略せざるを得なくなる。
・補給の絶たれる可能性が高い各駐屯地の兵力は後退しつつ、敵が侵攻してきた場合はその戦力を削ぎ、レイフォリア東側まで後退し、東側森林地帯に潜伏して絶対防衛ラインを構築する。後退時は、少数のゲリラ部隊、狙撃部隊等を必ず残して敵の足止めを行うこととする。
重火器と補給、それに航空戦力が絶たれた軍に残された選択肢は少なく、せめて食料の補給が可能なレイフォリアを守り抜くことを目標とした。
グラ・バルカス帝国にとっては消極的で屈辱的な作戦だが、もうそれくらいしか手がないのである。
そして、レイフォリアの近くの山を改造して作られた要塞ダイジェネラ山。
要塞の奥深くには、グラ・バルカス帝国陸海軍の司令本部が設置されていた。
え、なんで海軍なのに陸にいるのか、って? もはや軍港基地も、司令部を載せるべき艦艇も存在しないからである。正確にいえば軍艦はまだ残っているが、駆逐艦や軽巡洋艦のような小型艦ばかりであり、司令部を載せるのに適していない。
制海権を握られ、本土からの救援を絶たれ、そこに多数の敵戦闘機がぶつけられる。敵戦闘機はあろうことか、無敵とされた「アンタレス」よりも性能が高く、消耗戦となり、やがて制空権を奪われる。そこに、多数の陸軍部隊が攻め込んできた。北からはムー軍、大陸中央部からはムーとロデニウスの連合軍、そして南からはロデニウスやミリシアルなども含む連合軍。
異世界軍が相手なら、あっさり蹴散らせると思われたが、なんとムーやロデニウスの軍は戦車を投入してきた。それも、無敵の戦車と謳われた帝国の「ハウンド中戦車」より強力なものだった。制空権を確保した状態でこんな強力な戦車が襲ってくるとは想定されておらず、その上敵の航空戦力も強力だった。「アンタレス」が十分な性能を発揮できない高空から爆弾を落としてくる、ロデニウス軍の四発爆撃機。奇怪な甲高い音と共に飛来し、たった1機で10発以上の爆弾と凄まじい威力の機関砲を放つロデニウス軍の「空の魔王」。さらにミリシアルの空中戦艦。それらの猛攻に、友軍は後退に次ぐ後退。ひどい時には、補給の物資が尽きた状態で敵軍に包囲網され、旅団や師団といった大部隊がまるごと降伏した、という事例まであった。
そうやって追い詰められた結果として、帝国軍は今、レイフォリアまで追い込まれている。
だが、これほど追い詰められた状態であるにも関わらず、帝国軍の幹部たちの中には楽観的な者もいた。
「来るなら来い、目に物を見せてやる!」
「敵が10万の陸軍部隊を出してこようが、我が山岳要塞は落ちない。
仮にレイフォリアが落とされたとしても、この要塞から敵を砲撃してくれるわ!!」
「この山岳要塞をなんとかしない限り、レイフォリアは落とされないだろう。ならば、レイフォリアは落とされないということだ」
ダイジェネラ山要塞は、以前登場したステリオ山要塞(イルネティアにあったもの)等とは異なり、その規模は非常に大きい。また、内部には大量の食糧が備蓄されており、地下水脈もあることから長期の籠城戦が可能となっていた。それらの要素が重なり、楽観的になる幹部がいたのだ。
ただもちろん、中には不安を覚える幹部もいたが。
それぞれに準備を進める、世界連合軍とグラ・バルカス帝国軍。
ムー大陸の命運を握る、両者の最終決戦の刻は近い。
捕虜となったグラ・バルカス人たちに急に手紙を書かせたのには、いったいどんな意図が…?
一方で、ミリシアルはあのロデオス級とかいうゲテモノの後継となる新型航空魔導母艦の設計を開始。どうやら単胴船にするつもりらしいですが、上手く作れるかな?
そしてしれっととんでもない強化が施されたロデニウス軍戦車部隊。第二次大戦時の地球において「世界最強の戦車」とまで呼称されたキングタイガーが登場、しかも搭乗員がバケモノ揃いというね…。
さらにはラヴァーナル帝国をはじめ新たな敵に対抗すべく、艦娘の艤装を駆使した新戦力の調達計画が…どうなることやら。
次回予告。
バグラチオ作戦もいよいよ最終段階。ムー大陸への入植の拠点であるレイフォリアを必死に守ろうとするグラ・バルカス帝国。それに対し、グラ・バルカス支配からの脱却を願うレイフォル人たち、そしてムー大陸からのグラ・バルカス勢力の追放を狙う世界連合軍。レイフォリアを巡る攻防戦が、ついにその火蓋を切って落とされる!
次回「作戦名は『解放者たち』」