鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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そろそろムー大陸での戦闘も終盤です。今回はドンパチ無しですが、おそらく次回以降派手にやり始めますよ!



205. 作戦名は「解放者たち(リベレーターズ)

 中央暦1644年1月25日、ムー大陸西部 旧列強レイフォル領。

 グラ・バルカス帝国の侵攻によって一度戦場となったこの国は、今現在、また戦火に包まれていた。それも、比較にならない規模の戦火に。

 激突しているのは、2つの勢力。片方は、現在この地を支配しているグラ・バルカス帝国。もう1つは、国籍も人種も装備も何もかもごっちゃ混ぜである。きちんとした軍服を着て装備を整えている部隊もいれば、明らかに農民が農具を手にして武装蜂起したとしか思えない集団もいる。世界連合というべきである。

 グラ・バルカス帝国と戦っている勢力をざっと挙げてみると、これだけいるのである。

 

・神聖ミリシアル帝国軍

・ムー統括軍

・ロデニウス連合王国軍

・トーパ王国軍

・ニグラート連合軍

・マギカライヒ陸上隊

・自由ヒノマワリ王国軍

・ソナル王国軍

・レイフォル解放軍(反乱を起こしたレイフォル人たちの集団)

 

 どれだけのごちゃ混ぜぶりか、お分かりいただけるだろう。装備も何もかもごちゃ混ぜになる訳である。

 ただ、幾つかの軍隊は共通した装備を使っている。一例として、ロデニウス連合王国軍とムー統括軍は同じ装備を使用している(小銃から戦車砲から、だいたい規格が共通している)し、そのロデニウス連合王国が主宰する大東洋共栄圏に参加しているトーパ王国は、ロデニウスと同じ装備を使っている。また、マギカライヒ共同体はムーやロデニウスから一部の装備を購入して使用している。

 

 中央暦1643年8月31日から始まった、世界連合軍による対グラ・バルカス帝国反攻作戦「バグラチオ作戦」。当初はロデニウス連合王国軍とムー統括軍が中心になって動いていたのだが、この2つの軍隊は強大なグラ・バルカス帝国軍を相手に破竹の快進撃。その勢いに驚き、さらにそこに神聖ミリシアル帝国軍が加わったこともあって、第二文明圏を構成する各国はこぞって挙兵。グラ・バルカス帝国に対して攻撃を開始した。

 また、こうした世界連合軍の快進撃を見たレイフォル人たちは、それまでの強権的な支配と民族意識からくる差別によって、対グラ・バルカス帝国感情が最悪になっていたこともあり、一斉に反旗を翻した。その手法は多岐に渡り、軍需工場や農場でのサボタージュ、流言飛語、放火、しまいには武装蜂起したり、テロ行為に走る者まで出た。

 なお、ここでは詳細は語らないことにするが……帝国軍の力が及ぶ範囲も急速に狭くなっていき、その結果として逃げ遅れてレイフォル人たちに捕まるグラ・バルカス帝国の入植者たちも急激に増加した。彼らがどんな目に遭ったかは、容易に想像がつくだろう。

 

 その結果として、グラ・バルカス帝国の支配する地域は、急速に狭くなっている。今やレイフォリアとその郊外くらいしか実効支配できておらず、そのレイフォリアにしたってレイフォル人たちの武装反乱で内戦同然の状態である。

 しかも、グラ・バルカス帝国本土とムー大陸の植民地は、ほぼ完全に切り離されている。というのは、世界連合軍(具体的にはロデニウス海軍)がパガンダ島とイルネティア島を占領し、そこに飛行場を建設して制空権を奪ってしまったからだ。しかも、グラ・バルカス帝国海軍の主力艦隊を軒並み返り討ちにしたロデニウス艦隊が、そのまま居座って制海権も抑えている。ということで、もはやムー大陸の植民地は孤立も同然の状態なのだ。

 

 ともかくも、世界連合軍は「バグラチオ作戦」に基づき、レイフォリアを目指して進軍している。連合軍は3方向から進撃しており、ムー統括軍単独で成り立つ「北方軍集団」、ロデニウスとムーの連合部隊である「中央軍集団」、そしてロデニウス、ミリシアル、その他各国連合軍である「南方軍集団」となってレイフォリアへ向かっている。

 

 3つの軍集団のうち、最も早くレイフォリア付近に到達したのは、南方軍集団だった。ロデニウスの航空部隊やミリシアルの空中戦艦による充実した近接航空支援を受けられたことが、その理由である。

 ところが、この部隊はレイフォリアより50㎞も手前の地点で進撃を止められてしまった。何故なら……

 

「こりゃまた面倒でありますな……」

 

 軍集団の総指揮官を務めるロデニウス陸軍第13軍団指揮官の"あきつ丸"は、偵察隊の報告書を目にして眉をしかめた。

 

「この要塞は、そう容易には突破できそうにないでありますよ……」

 

 レイフォリアの南には、なんと山1つを丸ごとくり貫いて作られた巨大要塞があったのである。"あきつ丸"は知る由もなかったが、この要塞こそダイジェネラ山要塞であった。

 

「この山を占領して、れいふぉりあへの砲撃のための陣地を築こうと思っていたら、とんでもないものが眠っていたでありますな」

 

 さすがにこの要塞を攻略するのは、正直言って手に余る。

 南方軍集団はここまで快進撃を重ねているが、実はそろそろ攻勢限界点が見えつつある。何故かというと、補給線が厳しい軍隊が幾つかあるからだ。具体的には、ムー大陸南方諸国の軍と神聖ミリシアル帝国軍。

 ムー大陸南方諸国は、地球でいう産業革命を迎えていない国が多く、また数少ない産業革命済み国家であるマギカライヒ共同体にしたって、自動車がないので補給は動物(()(ひつ)や火喰い鳥)頼りである。このため、歩兵の補充はまだしも糧食や魔導砲などの重装備の消耗が激しく、攻勢をかけるのが難しくなりつつある。

 神聖ミリシアル帝国軍は、単純に本土までの距離が遠いことと、ムー大陸内に武器等の生産工場がないことから、重装備の補充に難渋していた。特に、ミリシアル陸軍の攻勢の主力を担う「メルベリウス2自走魔導砲」(以前に登場したアリ型多脚の自走砲)は、その薄い装甲と被弾に対する脚周りの脆弱さ、そして対戦車戦のノウハウの無さ故に大損害を出し、今や定数の半分を割り込んだ機甲部隊が大半を占めるという笑えない事態に突入している。

 これだけ進軍困難な部隊が出現していては、如何に電撃速攻を旨とするロデニウス軍機甲部隊といえどどうしようもない。

 

(中央軍集団も、明日にはれいふぉりあ郊外に到達するとのことですから、作戦会議でも開きたいですな。それに、提督殿も呼ばなければ。

焦ったら負けであります……消耗からの回復を兼ねて、少し進軍を停止しましょう)

 

 "あきつ丸"はそう考えていた。

 

 

 その3日後、中央暦1644年1月28日。

 世界連合軍の主力を成す各国軍の将星が集い、レイフォリア攻略に向けた作戦を出し合う会議を開いていた。参加メンバーは以下の通りである。

 

・神聖ミリシアル帝国陸軍第2師団長 アンドロール・バクスター中将

・同 第3師団長 ウィルキンソン・マレー中将

・同 第2機甲旅団長 オーメイ・ファイアブランド准将

・ムー統括陸軍第2軍司令官 ジェイク・アイゼンハウアー少将

・ロデニウス連合王国陸軍第1軍団指揮官 モッツァラ・ノウ中将

・同国海軍第13艦隊司令官 (さかい) (しゅう)(いち)中将

・同国第13艦隊情報局長 "(あお)()"

・マギカライヒ陸上隊 レイフォル遠征隊指揮将 ルイジル・ランヴァルド

・ニグラート連合飛龍騎士団 第3飛龍隊隊長 ダール・ニルバスター

・ソナル王国軍第2軍軍監長 ネィグダ・ラーンデ

・トーパ王国軍狙撃部隊「コラー中隊」隊長 アーノルド・ネイラン

 

 (そう)(そう)たる面々であるとしか言い様がない。

 ちなみに、本来ならばムー統括軍第1軍司令官アスティア・モンドルキリ中将も参加するはずなのだが、彼の率いる第1軍はまだレイフォリア北方でグラ・バルカス帝国と戦っており、この部隊の到着は間に合いそうにない。よって、現有戦力でレイフォリアを落とすこととなった。

 

「ではこれより、作戦会議を始めるであります」

 

 司会進行係を務める"あきつ丸"が、極めて事務的な口調で開会を宣言した。

 

「会議の議題は、れいふぉりあ攻略作戦の考案であります。

考案にあたり、最初に我々は戦略の基本に立ち返らねばなりません。すなわち『敵を知り己を知れば百戦危うからず』であります。

まずは各部隊の指揮官の皆様方に、率いている部隊の状況を教えていただきたいであります」

 

 すると真っ先にアーノルドが挙手した。

 

「我がトーパ王国軍狙撃部隊は、コラー中隊、サッキア中隊合わせて総員100名現在員100名、欠員無しであります。士気も旺盛、補給も万全の状態であり、今すぐにでも作戦行動が可能です」

 

 人数が最も少ないのがトーパ王国軍狙撃部隊であるため、人員状況の把握は容易だったのだ。

 ただしこの部隊、ムー大陸での反攻が始まってからというもの休む暇もなく任務をこなし続けている。しかもその任務というのが、南方軍集団の進撃路警戒や狙撃、敵部隊の指揮官の暗殺などという、一筋縄では行かないものばかりだった。そんな中で欠員がないというのはかなり優秀である。

 アーノルドの報告をきっかけに、指揮官たちは次々と報告を行った。それをまとめて"あきつ丸"が考えたことは、「事態は思った以上に逼迫しておりますな」である。

 というのも、損耗率の高い部隊が続出し、損耗率が低いのはトーパ王国軍狙撃部隊とロデニウス連合王国海軍第13艦隊だけだったのだ。ロデニウス陸軍第13軍団は損耗率10%程度だが、ここまでぶっ通しで戦い、それも味方の先頭に立ってグラ・バルカス帝国軍の必死の迎撃の矢面に立ち続けてきているため、砲弾や燃料の補給が必要な状態である。その他の軍は補給の必要性が高くかつ損耗率を軽視できない状態であり、特に神聖ミリシアル帝国陸軍は損耗率が約半分に達しようとしているという惨状である。パル・キマイラによる近接航空支援は確かに有効、どころか向かうところ敵無しと言っても良いほどだったのだが、如何せん近代戦争の経験が無さすぎた。軽装甲かつ無砲塔の自走砲で防御陣に突っ込むなど、ロデニウス軍の一部からすると「お前ら素人なのか?」と言いたくなる戦術を繰り返した末、ここまで消耗してしまったのである。

 

「各軍の状況は理解したであります。

では次に、敵側の防御陣の様子についての報告です。己を知った以上、次は敵を知る番という訳ですな」

 

 味方の偵察隊や航空隊からの報告のまとめを参照しながら、"あきつ丸"は報告した。

 ざっくりとまとめると、敵の拠点は大きく分けて3つ。1つめはレイフォリア西部にある、軍港を含む都市郊外の大規模基地(統合基地ラルス・フィルマイナのことを言っている)。2つめが、"あきつ丸"たちが発見した巨大要塞(ダイジェネラ山要塞のこと)。そして3つめが、レイフォリア東部に築かれた防衛陣地である。ロデニウス側の航空偵察の結果、この防衛陣地は小高い丘が多数ある地形を利用したもの……地球の概念でいうならパックフロントということになるだろうか……になっており、多数の野砲が装備されていることから防御力がかなり高いと見積もられている。

 

(ぐら・ばるかす帝国の人々も、我々の戦術をちゃんと分析し、対処方法を研究しているのでありますな)

 

 それが"あきつ丸"の偽らざる感想である。

 

「さて、これで敵を知り、己を知ることができました。これからどういう作戦でここを攻め落とすか、皆様のご意見を拝聴したいであります」

 

 すると、南方軍集団の一翼を担うミリシアル軍の指揮官、バクスターが挙手した。

 

「南方軍集団としては、あの山岳要塞を攻略しなければならんと思う。だが、あれを落とすなんてできるのか? 落とせるとしても、どれくらいの被害が出るだろうか?」

 

 この質問に答えたのは、堺だった。

 

「私の知っている歴史の中に、似たような事例が幾つかありますよ。一つの例として、防御側11,000に攻撃側47,000でかかって、防御側が全滅しましたが、2ヶ月半かかって戦死者2,300、戦傷8,400。別の戦いでは、防御側21,000に攻撃側25万で当たり、1ヶ月半の激戦の果てに勝った攻撃側の犠牲は、戦死6,800、戦傷20,000でした」

 

 全て地球の第二次大戦で実際に発生した物である。ちなみに、堺が発表したのは1つめの例が「ペリリュー島の戦い」、2つめが「硫黄島の戦い」である。

 その数字を聞いて、バクスターが声を震わせた。

 

「そ、そんなに被害が出たのか……?」

「嘘偽りはありませんよ。しかも、攻撃側はかなり戦意旺盛で、練度も非常に高かった。しかも、制空権は完全に攻撃側が握っていた。それにも関わらず、これほどの被害が出たのです」

 

 それを聞いて、ファイアブランドがぼそっと呟いた。

 

「今の我々と同じだ……」

 

 それを聞き付けたマレーと、ソナル王国軍のラーンデが青くなった。

 ソナル王国はムー国と国境を接していることもあり、今でこそ友好的関係を築いているが、昔はムー統括軍と戦ったこともあった。その際、戦争序盤はソナル王国や他国が優勢だったのだが、飛行機械が登場し制空権を奪い返されてからは戦況がひっくり返された。そのため、ソナル王国軍は制空権を重視しており、ワイバーンロード竜騎士団を結構な規模で保有している。

 制空権を重視するからこそ、制空権確保下で発生したこれほどの被害がどれだけ深刻なものか、ラーンデは分かったのだ。

 マレーの表情変化は、それ以上に深刻な理由によるものである。今のミリシアル軍は、どの部隊も結構な被害を受けており、特にファイアブランドの第2機甲旅団は戦力の55パーセルが戦闘不能に陥っている。これまでミリシアルは世界最強だったこともあり、兵士たちの士気も高かった。しかし、グラ・バルカス帝国との戦争では損害が続出している。朝まで肩を並べていた仲間が、夕方には動かなくなっているなんてことが目の前で発生する現状を目の当たりにして、ミリシアル軍にとっては衝撃は大きかった。

 実のところ、ミリシアル軍がここまで来られたのは、空中戦艦パル・キマイラの航空支援や頼りになる同盟軍(ロデニウス連合王国軍)の支援(航空支援、艦砲射撃を含む支援砲撃)に負うところが大きいのである。ミリシアル軍将兵の中にはそうした事情に薄々気付いている者もおり、それはミリシアル軍将兵のプライドを大きく揺るがすと同時に士気にも無視しえない影響を与えていた。

 そんな風に士気が落ちた状態、それも万全とは全く言い切れない状況で、あの山岳要塞を落とすなんて果たしてできるのか。勝てはしても、全滅寸前の凄まじい被害が出るのではないか……それが、マレーの危惧である。

 

「となりますと、何とかしてあの山岳要塞の注意を引かなければならないでしょうね」

 

 マギカライヒ陸上隊の指揮官ルイジルが言った。

 

「だが、あれだけの戦力を持つ要塞だぞ? おそらく防御力もかなりのもののはずだ。よほど強力な攻撃でない限り、注意を引くのは難しいのではないかと思うが」

 

 苦り切った顔でラーンデが発言し、ルイジルが質問する。

 

「例えばどんな攻撃なら、良さそうですか?」

「そうだな……ワイバーンを1,000騎単位でぶつける、とか?」

「しかしそれでは、敵の対空砲でかなりの犠牲が出るのでは……?」

「うむむ……それを承知しているから、私も悩んでいる」

「かといって、歩兵による浸透強襲も容易ではないでしょうしね」

 

 ルイジルとラーンデ、それにアーノルドが唸っていると、

 

「ならばここは、私にお任せを」

 

 堺が声を上げた。

 

「サカイ殿、何か秘策でもあるのか?」

「はい。あの要塞は、海岸線からの距離が僅か10㎞しか離れていません。我が艦隊の艦砲の射程圏内です。

故に、戦艦を中心とする火力支援艦隊を以て要塞を砲撃し、注意を引こうと思います。軍機につき詳細は申し上げられませんが、特注品の大砲もありますので、火力は十分でしょう」

 

 堺に続いて、ノウも挙手する。

 

「我がロデニウス陸軍では、堺殿と相談した上で、要塞に対して大型爆撃機による水平爆撃を行うことを検討しています。あの要塞とて、高度5,000メートル以上から500㎏爆弾を雨あられと浴びせられれば、嫌でも注意を地上から逸らさざるを得ないでしょう」

「おお……それは心強い限りですな」

「量産型ノスグーラの捕獲に貢献したロデニウス軍の艦隊戦力がいるとなれば、まさに百人力。よろしく頼みますぞ!」

 

 ラーンデもルイジルも、納得したようである。

 

「では、我々のような竜騎士団はどうしましょうか?」

 

 ダールの質問には、堺が答えた。

 

「竜騎士団の皆様は、ひとまず味方の陣地周辺を哨戒飛行しつつ交代で休憩を取っていただきたい。これまで竜騎士団は我々の進撃に先立って進路を偵察したり、敵の防衛陣地に対して攻撃を行ったりと、かなり動き回っています。ワイバーンも人も、疲労が溜まっているでしょう。一旦息抜きをしていただき、本格攻勢に備えていただいた方がよろしいかと存じます」

「確かにな。それに、先日マギカライヒ共同体や本国から竜騎士の補充を受けたばかりだから、合同訓練の時間も必要だろう。分かった、そうしよう」

 

 南方軍集団の行動方針は、概ね決まったようだ。

 

「南方軍集団の当面の目標としては、とりあえず要塞の攻略、ということでよろしいでしょう。

次に中央軍集団ですが、ノウ将軍、あの防衛陣地を突破できそうですか?」

 

 堺の質問に、ノウは難しい顔をして答えた。

 

「正直なところ、かなり苦戦しそうだというのが第1軍団司令部の見解だ。

堺殿の艦隊の偵察機が撮ってきてくれた写真を繋ぎ合わせたり、威力偵察に小規模の部隊を送って調べたが、あれの防御力はかなり高い。野砲、対戦車砲、対空砲、機関銃が各所に据え付けられ、その数はかなり多い。しかも、あれらは相互支援が可能なように配置されているようだ。下手に突っ込めば損害ばかり大きくなって、その後の市街地攻略に大きく響いてしまう」

「我がムー陸軍第2軍司令部も、同じ意見です。ロデニウス軍ですら大損害必至となると、それより戦力の劣る我々では屍の山を築くだけになりかねません」

 

 ムー指揮官のジェイクも応じた。

 

「私としては、できれば航空支援が欲しいところなのだが」

 

 ノウがそう言うと、堺は頷いた。

 

「ふむ、でしたら我が艦隊の母艦航空隊を出しましょう。敵の基地と軍港を叩いてしまえば、そちらに艦載機を送る余裕もできるはずです」

「そうか、それはありがたい!」

「それから、南方軍集団の進撃支援に当たっている第13航空艦隊から、一部の飛行隊を貸し出します。水平爆撃で広範囲を叩ける部隊と、精密攻撃が可能な近接航空支援隊を出しましょう。特に近接航空支援隊は、そちらの部隊の突撃に合わせて攻撃することもできますから、かなり有効な支援を行えると思います。

これに加えて、必要なら第13軍団から重戦車部隊を貸し出すことも検討しています」

「我が方の突撃に合わせてくれ、しかも防衛陣地突破に有効な重戦車まで貸してもらえるのならば、これほどありがたい支援もないな」

 

 ちなみに堺が派遣を検討しているのは、「一式陸攻」の装備部隊とルーデル隊である。ルーデル隊は従来のシュトゥーカではなく、「A-10B改 サンダーボルトⅡ」に乗り換えていた。30㎜機関砲と11発もの爆弾やロケット弾を抱えて飛び、これまでの戦いでグラ・バルカス帝国軍に手痛い損害を与え続けてきた、恐るべき「空の魔王」である。

 また、堺は第13軍団から第889重戦車小隊を貸し出すことも考えていた。この小隊の保有する戦車はたった8輌しかないが、その全てが「Ⅵ号戦車B型 ティーガーⅡ改」……複合装甲とディーゼルエンジンを装備したケーニヒスティーガーである。あの砲火力と重装甲は頼りになるはずだ。おまけに、この魔改造キングタイガーを操るのは"ヨハネス・ベルター"や"オットー・カリウス"といった生粋のティーガー乗りたちである。

 

「防衛陣地を突破したら、中央軍集団はそのままレイフォリア市街地へ突入。市街地に潜む敵残存兵力の掃討に移ってください」

 

 堺がそう言った時、ジェイクが手を挙げた。

 

「そのことについてですが、我が軍の情報通信部やヒノマワリ王国に協力を仰いだ結果、我々はレイフォル解放軍……グラ・バルカス帝国に対して反乱を起こしたレイフォル人組織と連絡を取ることに成功しました。市街戦の際には、彼らの支援を受けることが期待できます」

「なるほど、それならば困難と言われる市街戦も何とかなるかもしれませんね」

「戦闘において勝利を左右するのは、天の(とき)、地の利、人の和だ。天の刻はともかくとして、残り2つは我々の方にある訳か……これは助かるな」

 

 名言を引用してノウがコメントした。

 

「ついでに申し上げますが、レイフォリアの西部には軍港を兼ねた敵の大規模基地……グラ・バルカス帝国呼称ラルス・フィルマイナ基地があります。これは我が艦隊を以て壊滅させます」

 

 そしてしれっと大仕事を引き受ける堺であった。

 

「そういえば、作戦名はどうするのです?」

 

 ダールが質問すると、"あきつ丸"が間髪入れずに答えた。

 

「それでしたら、既に候補を1つ考えております。《りべれーたーず》であります」

「リベレーターズ?」

 

 堺が補足説明した。

 

「リベレーターは『解放者』という意味の言葉です。しかし、この会議に参加している我々も解放者ですし、レイフォリアで武装蜂起している市民たちも解放者となるでしょう。なので『解放者たち』と複数形にした結果、《リベレーターズ》という表現になりました」

「なるほど…私はこれに賛成です。これほど相応しい作戦名もないでしょう」

 

 他の将軍たちも異論を挟まなかったため、作戦名は「解放者たち(リベレーターズ)」に決まったのだった。

 

◆◇◆◇

 

(要塞攻略、か……我が部隊の狙撃能力を、また発揮できるかな?)

 

 作戦会議が終わった後、トーパ王国から派遣された狙撃部隊「コラー中隊」の指揮官アーノルド・ネイランは、自軍の野営場所へ向かいながらそう考えた。

 トーパ王国は、第三文明圏外北側というかなりの僻地に存在するばかりでなく、すぐ隣が魔物の闊歩するグラメウス大陸である。魔物の襲来や集団暴走(スタンピード)に対抗すべく、トーパ王国は「第三文明圏の第一の守護者」という誇りを持って軍を拡張していた。その最たる例が、狙撃部隊である。

 トーパ王国軍狙撃部隊は、元々猟師をやっていた者たちが多く所属している。彼らの装備はクロスボウだったが、その練度は随一であり、第三文明圏外諸国からは一目置かれていたものだ。それがロデニウス連合王国と国交を開設して以来、クロスボウではなくボルトアクション式ライフル銃を扱うようになったのである。銃の導入は、それまでと比べて飛躍的な強化をもたらした。

 そもそも猟師は森に潜んだり、気配を消して獲物に接近したり、その場の有り合わせの物を使って罠をこしらえたりサバイバルしたり、遠距離から獲物の急所を撃ち抜く能力が高い。それを存分に活かした結果、トーパ王国軍狙撃部隊はとんでもない戦闘力を持つに至った。これに目を付けたロデニウス側が、落下傘降下やら爆発物の取扱いやらを指導した結果、彼らは「狙撃部隊」という名の特殊部隊へと変貌しつつあった。

 

 その狙撃部隊を、トーパ王国は2部隊派遣している。「コラー中隊」と「サッキア中隊」だ。どちらも装備は九九式小銃と九九式軽機関銃を基幹に、M24長柄付手榴弾やワルサーP38、あるいはMP40、HC-4爆薬といったロデニウス式の武器を有している。

 この両部隊は、南方軍集団の偵察部隊として、また特殊作戦を行う隠密浸透部隊として、偵察に狙撃に破壊工作にと活躍していた。ロデニウスはもちろんムー大陸南方諸国の軍も、この部隊の実力には一目置いている。

 アーノルドが「コラー中隊」の陣地に近付くと、何人かの話し声が聞こえてきた。

 

「これは流石にまずくないか…?」

「これはヤバいな」

「ああ、早く食っちまわないと」

 

 3人ほど歩兵が集まって、何やら話し込んでいる。

 アーノルドが「どうした?」と声をかけると、3人は一斉に敬礼した。そのうちの1人、ハモシ・ユパ兵長が答える。

 

「はい、この缶詰の消費期限が近いのではないかと…」

「…あー、なるほどな」

 

 アーノルドは即座に事情を理解した。

 トーパ王国軍は、ムー大陸諸国から供給される食糧を利用する他に、非常時の保存食としてトーパ王国本土から缶詰を持ち込んでいた。ただし、缶切りがないのでナイフや銃を使って無理やり開けて食べる物である。

 で、ユパのいう問題の缶詰とは、トーパ王国ではごくありふれた、魚の切り身の塩漬けの缶詰である。ただし、トーパ王国は日射に乏しい国柄故に塩は貴重品であり(ロデニウスとの交易で少しマシにはなったが根本が変わっていない)、切り身を浸ける食塩水は薄く、腐敗は防げたが発酵は止められなかった。そのためこの食品、漬物と同じく発酵食品なので滅菌されておらず、従って缶の中で切り身はどんどん発酵していく(早い話が腐っていく)のである。そして、発酵の際に発生したガスはかなりの悪臭を放つことで知られている。

 アーノルドたちの目の前にある缶詰は、発酵の際に発生したガスによって既に缶そのものが丸く膨らんでいた。暑い南の国を経由してここまで運ばれたことで発酵が通常より早く進んだらしく、破裂一歩手前に見えるかなりヤバそうな状態である。そして、悪臭の強さも相当なものだろうと容易に想像できるヤバさであった。

 しかも、なんとその缶詰は木箱にして3箱分くらいはあるという。

 

「こりゃ確かに早めに開けて食べなきゃな」

「はい。とはいえ、ここまで缶が膨らんでるとなると、切り身残ってますかね」

「最悪、全部溶けてなくなってるかもしれんな」

「うげ……悪臭ばかりの具なし塩味スープなんて洒落になりませんよ」

「それは勘弁したいですな」

「だよなぁ……ん?」

 

 兵士たちと話していたその時、アーノルドはふと思い付いた。

 

「なぁ、この缶詰を消費する方法を1つ思い付いたんだが……」

 

 そしてアーノルドの思い付きを聞いたユパたちは、揃ってドン引きする羽目になった。

 

「いや、確かにこの缶詰はちゃんと"消費"できるでしょうが、それは……」

「受け取りに関して拒否権ないですから、渡された方は堪ったものじゃないっすね」

「可哀想かもしれんが仕方ない。消費されずに破裂してしまう缶詰の方が、よっぽど気の毒だ。この方法なら、少なくとも我々は喜べる」

「いやまあ、それはそうですけどね…隊長、人の心って知ってます?」

 

 内容の倫理性はともかく、このアイデア自体は本格交戦前の牽制のジャブとしては悪くないだろう、というのがユパたちの意見だった。それを敏感に感じ取ったアーノルドは、迷うことなくこのアイデアを作戦案という形にして将軍たちに提案した。

 そして最終的に、アーノルドのこの思い付きはなんと正式な作戦行動として採用されてしまった。が、作戦案を聞かされた者は例外なくドン引きしたとか何とか。

 

 

 同時刻、世界連合軍の本陣からはかなり離れたポイントにて。

 

「諸君、仕事だ」

 

 全身を黒いボディーアーマーで固め、顔にもフルフェイスのガスマスク兼ヘルメットを被った者が、くぐもった声を上げた。その周囲にいる人々も、同じ格好をしている。

 

「作戦を説明する。我々の行動目標は……」

 

 そして告げられた内容に、人々のうち何人かが静かに声を上げた。

 

「敵に塩を送る、って奴ですかい。いろいろ混ざってるみたいですけど」

「まあそういうことだな。まともな換気装置も持ってないあの連中には、少々気の毒だが」

「アレを投下されるって、私なら受け取りは断固拒否したいですな」

「暗視装置ありとはいえ、うちの小隊は夜中に土方仕事ですか。墓泥棒みたいでぞっとしませんな」

「死体なんざ埋まってやしないから気にすんな。むしろ我々は埋め込みに行くんだからな。

他にはあるか?」

 

 異議も意見も出なかったので、この集団の行動方針は決したのだった。




というわけで、「解放者たち」作戦の発動前夜でした。
ダイジェネラ山要塞やレイフォリアを攻め落とすために、みんな色々考えておりますが……アーノルドはいったい何を考え付いたのやら。そして、最後に出てきた黒ずくめの集団は何者なのか?


評価10をくださいました弥生味噌様、時雨提督・改様、ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

ついに発動が決定された「作戦名:解放者たち(オペレーション・リベレーターズ)」。まず最初に動いたのは、南方軍集団だった。そして、要塞攻略の初動として着手されたのは、なんとアーノルドの考えた作戦案だった。アーノルドの思い付きとは? そして要塞攻略作戦は上手く行くのか?
次回「『解放者たち』第一幕 牽制のジャブ」
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