鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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少しばかり難産でしたが、執筆完了。レイフォリア攻防はまだまだ始まったばかり!



207. 『解放者たち』第二幕 電光・烈火の猛攻

 中央暦1644年1月31日 午前4時30分、レイフォリア。

 朝陽も昇る前だというのに、この街は明るい光に照らされていた。ただし、この光はもちろん日光でもなければ、電気の光でもない。何故なら、光は建物の窓から見える炎から発せられているからだ。

 

 レイフォル人たちが武装蜂起を起こし、グラ・バルカス帝国はそれを鎮圧しようと陸軍部隊を投入していた。攻めるグラ・バルカス帝国陸軍と守るレイフォル反乱軍、両者は建物1つ1つを砦にした攻城戦を戦っていたのである。このため、燃えている建物が多いのだ。

 レイフォル人たちは決死の抵抗を見せたが、火力に勝るグラ・バルカス帝国陸軍によって次第に押されていた。このままでは全滅もあり得ると思われた。

 しかしこの朝、それをひっくり返す事態が起こり始めた。

 

 事の始まりは、西空から来る物たちであった。朝焼けに照らされるようにして、無数の航空機が飛んできたのである。

 一見するとグラ・バルカス帝国の航空機に似た形状をしたその航空機たちは、しかし全機が腹に爆弾や魚雷を抱え、翼にロケット弾を吊り下げてグラ・バルカス帝国軍の拠点に突進していく。機体がだいぶ接近してきた頃になってようやく、レイフォル人たちはエンジン音がグラ・バルカス帝国機のそれとは微妙に違うことや、主翼が上向きに大きく折れ曲がった機体…そんな機体はグラ・バルカス帝国にはない…がいることに気付いた。そして彼らがそれに気付いた時には、鏃を思わせる鋭角的な機影が一筋の炎を吐き出しながら、雷のような轟音と共に頭上を横切るところであった。

 

 朝焼けと共に現れたロデニウス軍の航空部隊、その先陣を切ったのが「(あか)()」から飛び立った「F-86D改 セイバードッグ」である。時速1,138㎞の全速力で突っ込んだ「セイバードッグ改」は、ラルス・フィルマイナ基地やその周辺に設けられた対空陣地に襲いかかった。

 対空陣地に張り付いているグラ・バルカス帝国軍の下士官が絶叫するように号令を出し、兵士たちは必死の形相で対空射撃の準備を進める。砲弾を装填し、予備の砲弾や弾倉等をすぐに装填できるよう準備し、大急ぎで砲身を回して敵機に照準を合わせる。だが、「セイバードッグ改」の速力は圧倒的に速く、準備が整いきらぬ先にロケット弾をぶっ放した。

 あと少しで砲身旋回が完了、というところで攻撃された対空陣地は、砲弾が一斉に誘爆して兵員はおろか、重い土嚢や対空砲そのものですら空中に吹っ飛ばされるような大爆発を起こす。対空砲に取り付いていた勇敢な兵員の姿が一瞬でかき消え、後には赤黒く染まった地面と吐き気を催すほど濃い有機的な鉄のニオイだけが残される。

 まさに疾風迅雷の勢いで、「セイバードッグ改」は次々と対空陣地を沈黙させていく。それはまさに、ワイルド・ウィーゼルの動きであった。

 

 先行した「セイバードッグ改」の拓いた道を突っ切り、後続するレシプロ機たちが現場に到着する。胴体や主翼に区切られていない赤い円を描いたそれらの機は、レイフォリア上空に到達するや一斉に機首を翻した。

 まず、脚の速い「()(でん)(かい)()」や「零戦62型」などが、地上に向けて突っ込んでいく。その周囲に爆発が起こり、黒煙の花が咲き始めた。ラルス・フィルマイナ基地の対空陣地の生き残りやレイフォリア軍港に停泊中の艦船が、対空射撃を始めたのだ。

 1機の「紫電改二」が至近距離で対空砲弾の炸裂を喰らった。機首から黒煙を吐き出し、コクピットの内側を真っ赤に染めた「紫電改二」は、搭載したロケット弾を発射することなく墜落する。しかし、高射砲は破壊されなかったが、その高射砲が守ろうとしていた倉庫に「紫電改二」が墜落して爆発炎上、収納されていた物資が灰にされるという皮肉な結果になった。

 別の「零戦62型」は、対空機銃弾の直撃を受けて左の主翼をへし折られ、死の舞を踊った後に海面へと叩き付けられる。だが、帝国軍が撃墜できたのはその2機だけだった。

 残りは戦友の戦死など露知らぬとばかりに猛速で突進し、次々にロケット弾を解き放った。真っ白い煙の筋を残して飛翔したロケット弾が、目標に殺到する。

 1基の高射砲陣地に、5発以上ものロケット弾がまとめてぶつけられる。次の瞬間、高射砲の近くに積まれていた砲弾がいっぺんに誘爆し、砲陣地は兵員ごと木っ端微塵に吹き飛んだ。

 別の場所では、ロケット弾の直撃を受けた対空機銃座が崩壊し、無惨な光景が展開している。バラバラにされた対空機銃や兵士の肉体が散乱し、それも新たなロケット弾の炸裂によって破壊を上書きされていく。

 ラルス・フィルマイナ基地が襲われるのと同時に、レイフォリア軍港にもロデニウス軍機が襲いかかった。

 500㎏爆弾を抱いた「(すい)(せい)一二型甲」が、まばらな対空砲火を抜けて軍港上空に達するや、くるりと機体を翻して急降下に入る。その真下には、停泊したまま対空砲を撃ち上げるグラ・バルカス海軍の駆逐艦の姿がある。

 向かってくる「彗星一二型甲」に気付いたのだろう、駆逐艦の対空機銃が砲身の向きを変えた。機銃手がオーガのような顔をして砲身を敵機に向け、「墜ちろ!」とかの呪詛と共に弾を撃ち出す。その後ろでは装填手が冬にも関わらず全身汗みずくになって、必死の形相で砲弾を装填する。

 高度800メートルにて「彗星一二型甲」の1機が対空機銃の迎撃を喰らった。ほっそりした機首が醜く変形した、と思った直後に黒煙が噴き出し、「彗星一二型甲」は力なく海面へと落下した。

 撃墜されたのはその1機だけで、残りの「彗星一二型甲」は、対空砲火を突っ切って急降下し、400メートルの上空で機体を引き起こす。

 投下された爆弾は、惜しくも外れて盛大に海水を噴き上げるだけに終わる物もあるが、何せ停泊している艦である、外せという方が難しい。次々と駆逐艦や軽巡洋艦に命中し、あっという間に港が黒煙に覆われていく。「彗星」の一部は対空陣地を狙って投弾し、爆発と共に対空砲が操作兵員もろとも吹き飛ぶ。

 「彗星」に続いて、800㎏爆弾を抱えた「(りゅう)(せい)改」が攻撃に移った。

 軍港に面するドックには、1隻の大型艦が入渠している。右側にぽつんと立つ小さな艦橋の他は、最上甲板はほぼ真っ平らに広がっている。近現代の軍艦に詳しい者ならば、一目で航空母艦だと分かる形状だ。旧日本海軍の軍艦オタクなら、この船が(しょう)(かく)型航空母艦に酷似していると指摘するだろう。

 それはグラ・バルカス帝国海軍のペガスス級航空母艦「ヘルベチオス」である。元は東部方面艦隊に所属していたのだが、第二次バルチスタ沖大海戦でロデニウス軍の航空攻撃により、飛行甲板に500㎏爆弾3発を受けて大破した。そのため、このレイフォリアで修理を受けていたのだ。

 第二次バルチスタ沖大海戦で受けた損傷はとっくに直っている。だというのに、「ヘルベチオス」の飛行甲板後部は抉られたように大きく欠損し、艦橋も上から叩き潰されたかのようにひしゃげている。これは、連日続くロデニウス軍の戦略爆撃が原因だった。高度5,000メートル以上の高みから降ってきた爆弾が直撃して、こうなってしまったのである。

 ドックに入ったまま動けない「ヘルベチオス」めがけて、猛禽のように「流星改」が突っ込んでいく。ドック周辺の対空砲は必死に弾幕を撃ち上げ、「ヘルベチオス」自身も動かせる対空機銃を総動員してこれを迎え撃った。

 高度700メートルにて、先頭を切っていた「流星改」がまず砲弾を浴びた。次の瞬間、空中に強烈な閃光が迸り、凄まじい轟音と共に巨大な火球が沸き出し、それに「流星改」が一瞬で飲み込まれる。搭載していた爆弾に機銃弾が命中し、爆弾が誘爆したのだ。

 壮烈に散華した1番機だが、その爆煙を突っ切って2番機以降が躍りかかる。そして、高度500メートル前後にて機体を引き起こしていった。

 笛のような音を残して、黒い塊が「ヘルベチオス」飛行甲板に落下する。衝撃と共に飛行甲板に穴が開いた、と思った直後、艦を奥底から揺るがす凄まじい衝撃が走り、飛行甲板がめくれ上がって炎と黒煙が噴き出す。さらに追加の爆弾が「ヘルベチオス」やドックに命中し、破壊が上書きされていく。工員たちは避難していて無事だったが、6発もの800㎏爆弾を浴びた「ヘルベチオス」は完全に大破状態であった。しかも、ドックはクレーンが爆撃で倒壊し、さらに水密性扉(ゲート)が破壊された。厄介なことに(そしてロデニウス軍にとっては幸いなことに)潮位の高い時間帯であったため、ドック内に海水が流れ込み、やがて「ヘルベチオス」はドック内を漂流することとなってしまった。

 50分ほどで空襲は終わり、ロデニウス軍の航空部隊は引き上げにかかった。その頃には、レイフォリアにはもう、満足に戦える戦闘艦艇は1隻も残っておらず、全ての艦艇が着底するか転覆するかして戦えなくなっていた。対空陣地の被害も大きい。

 もう統合基地ラルス・フィルマイナはボロボロであり、グラ・バルカス帝国の威光などどこにも感じられなかった。

 

 

 一方、レイフォリア郊外東方 グラ・バルカス帝国軍防衛陣地。

 凄まじい大音響と共に、壕全体が大地震でもあったかのように大揺れに揺れた。そして、空中に巻き上げられた石や砂がザーッと降ってくる。

 

「ゲホ、ゴホッ! くそっ、しつこい!」

 

 グラ・バルカス帝国陸軍第15師団・第311砲兵連隊に所属するジェームズ・リッパー曹長は、土埃に咳き込みながら罵った。

 地上には、ロデニウス軍を中心とする異世界連合軍による砲撃の嵐が吹き荒れている。うっかり頭を出そうものなら、砲弾の炸裂で弾き飛ばされた石や砲弾の破片で顔中切り刻まれるか、爆風で頭をヘルメットごと持っていかれるか、焼き払われるかのどれかである。まあ、塹壕に潜っていても運が悪ければ吹っ飛ばされるか、崩れた壕の中で生き埋めにされてしまう。

 

「もう1時間くらい撃ってきてますよね…っ!」

 

 怒鳴るような部下の叫びに、ジェームズも同じく怒鳴り返した。そうでもしなければ声なんて聞こえない。

 

「ああ! 全く、あいつらどれだけ砲弾持ってるんだよ!」

 

 グラ・バルカス帝国の基準でいうなら、155㎜重カノン砲級の砲弾が雨あられと降ってきているのである。もう少し小さいものも混じっているようだが、迂闊に顔を出せない以上何が何だか分からない。

 

(俺たちの持ち場だけじゃない、他の部隊の持ち場にもこのクソ砲撃が降り注いでいる。この砲撃が終わったら敵の陸上部隊が押し寄せてくるはずだが……俺たちの砲はどれだけ生き残っていることやら)

 

 ジェームズはそれを心配していた。

 

 九六式150㎜榴弾砲、そしてムーの22型105㎜イレール砲の砲声が大気を震わせる中、ムー統括陸軍第2軍司令官ジェイク・アイゼンハウアー中将は、ロデニウス連合王国陸軍第1軍団指揮官のモッツァラ・ノウ中将と共に作戦計画の最後の見直しをしていた。

 

「間もなく、我が方の第1軍団が敵陣に攻撃を開始いたします。我が軍は正面突撃を担当しますので、貴軍にはこれまでと同様に側面援護や迂回突破をお願いしたく存じます」

 

 ノウの発言を聞いて、ジェイクは頷いた。

 

「貴軍の突撃陣形…確か《パンツァーカイル》でしたか、その突破力には我々も一目置いています。此度もよろしくお願いしたい」

「承知しました。今回我が軍には、第13軍団から貸し与えられた最新鋭の戦車が、少数ながら存在しています。その新型戦車は全て、楔形陣形の矢面に立たせる予定です」

 

 その言葉を聞いて、ジェイクは心配になった。

 

「大丈夫なんですか? そんな新型を最前列に置くなんて…万一撃破されたらどうするんです!?」

「大丈夫ですよ」

 

 そのジェイクに、ノウは自信ありげな笑みを浮かべた。

 

「厚さ180㎜の正面装甲と、現時点では戦車砲としては最高クラスとも言える71口径88㎜砲の威力。我々はこの新型戦車に、キングラ・ティーグレという名を付けています」

 

 その言葉でジェイクの目が輝く。

 

「おおっ、最強無敵というに相応しいティーグレ重戦車、その王者ですか! そしてその名に恥じない、とんでもない性能ですね!」

「左様です。この虎の王の力がどんなものか、グ帝軍に見せ付けてやりますよ」

 

 

 体感時間でたっぷり1時間も続いただろうか、唐突に砲撃が止まった。鼓膜を突き破られそうなほど大量の砲弾の炸裂音で何も聞こえなかった世界が、それまでの猛砲撃が嘘だったかのようにしーんと静まりかえった。

 塹壕の中でかがんでいたジェームズは、身体中に雪のように降り積もった土埃を振り払うようにして跳ね起きた。彼の部下たちも次々と無事な姿を現す。

 

「人員掌握と、対戦車砲の偽装解除を急げ! ぐずぐずしてると敵が来る!」

 

 自らも砲にかけた偽装布を剥がしながら、ジェームズは部下に怒鳴った。

 ジェームズたちの部隊が装備しているのは、「DH31」という符号を付けられた榴弾砲である。砲口径105㎜、砲身長18口径の軽榴弾砲だ。榴弾砲という名称であるが、榴弾の他に徹甲弾も用意されている。

 装甲貫徹力は、ざっくり言うと距離700メートルで厚さ70㎜の鉄板を貫徹できる。このため、グラ・バルカス帝国陸軍は野戦高射砲と並んで本砲をロデニウスやムーの機甲部隊相手に使用し、それなりの戦果を挙げている。

 なお、グラ・バルカス帝国陸軍には「RV43」という専用の対戦車砲がある。が、砲口径が37㎜しかなく、特にロデニウス軍の戦車に対しては役立たず(ドアノッカー)でしかなかったため、最近の帝国陸軍では「対戦車砲」と言ったらこの砲か野戦高射砲、という有り様なのである。

 

 気付いた方も多いかもしれないが、この軽榴弾砲のスペックと見た目は旧日本陸軍の「九一式十糎榴弾砲」に似ている。

 グラ・バルカス帝国は島国であり、またこれまで帝国が相手にしてきた国の陸軍は、はっきり言って弱すぎるものばかりであった。そのせいで帝国陸軍は海軍や空軍に比べて、装備の更新が遅れがちであった。この榴弾砲にしたって、実は15年も前から使われっぱなしの砲なのである。

 ちなみに最近、帝国陸軍は機甲師団に随伴する砲兵連隊の装備として、この砲を馬匹牽引ではなく自動車牽引用にした「DH31-M」を開発している。この機動型砲は第4機甲師団に集中配備されていたのだが、これまでの戦いの中で全て失われてしまっている。

 閑話休題。

 

 異様な静けさの中、急いで擬装を解除するジェームズたち。彼らが準備を整えてから程なくして、地平線の向こう側に無数の土煙が上がり始めた。

 

「やはり来たか…!」

 

 ジェームズの顔が、自然と緊張で引き締まっていく。部下たちも同じ顔をしていた。

 これからやってくる相手は、おそらくロデニウスやムーの機械化部隊だ。

 ムーの連中ならば、まだ希望は持てる。ムー陸軍の自走砲「ラ・スタグ」や戦車「ラ・シマン」は手強いが、それでも倒せない相手ではないからだ。

 しかし、相手がロデニウス軍だった場合は大変である。というのも、ロデニウス軍の先頭を固める「(ティゲル)」と呼ばれる戦車は、ハウンド中戦車を一撃で仕留められる高威力の主砲と、対戦車砲すら通用しない重装甲を持ち合わせているからだ。ロデニウス軍の「4式戦車(Ⅳ号戦車のこと)」や「(ハンテル)」なら、ジェームズたちも撃破した経験があるのだが、(ティゲル)の撃破記録は未だ存在していない。

 敵の機甲部隊は、どんどん近付いてくる。

 しばらくして、双眼鏡を覗いていた部下が叫び声を上げた。

 

「接近中の敵の識別完了! ロデニウス軍です! ハンテルを先頭に接近しつつあり!」

「ロデニウス軍か…って、何?」

 

 失望しかけて、ジェームズは報告に違和感を抱いた。

 

「敵の先頭はティゲルじゃないのか!?」

「ティゲルではありません! あの斜めになった装甲は、間違いなくハンテルのものです!」

「了解した!」

 

 ジェームズは、希望が戻ってきたと思った。

 帝国情報局の調べでは、ティゲルは確かに怪物じみた性能をしているが、どうやら数が少ないらしい。戦線全体でみればティゲルとの交戦報告は一見多いが、内容をよく調べてみると損傷箇所や車体番号の一致するティゲルが多いのだ。あちこちで使い回されているのは明白だった。

 

「どうやら奴ら、ティゲルを働かせすぎて消耗させちまったらしい!

これは好都合だ! お前たち、奴らをここで食い止めるぞ!」

「「「おおーっ!!!」」」

 

 ティゲルがいないとなった瞬間、部下たちも威勢の良い声を上げる。

 ジェームズたちの砲陣地は、レイフォリア周辺に広がる丘陵地帯を駆使した結果、基本的に上から下へ砲を撃ち下ろせるように作られている。これで、大概の戦車は止められるだろう。ティゲル相手には未知数だが。

 

「敵機甲師団、間もなくこちらの射程に入ります!」

 

 砲隊鏡を覗いていた観測手が叫んだ。

 

「焦るな、落ち着いて狙え!」

 

 ティゲルがいないのなら大丈夫だ…そう言い聞かせながら、ジェームズは部下たちに命令する。

 少しして、敵機甲部隊が砲の射程に入った。

 

「撃て!」

 

 ジェームズの号令一下、待ってましたとばかりにDH31が火を噴く。飛んでいった砲弾は、敵戦車の少し手前に落下して土埃を上げた。

 

「落ち着け! 仰角を少し上げろ!」

「照準調整良し!」

「装填良し」

「撃て!」

 

 再度、DH31が轟音と共に砲弾を撃ち出す。今度は見事に敵のハンテルに命中した。

 だが、ハンテルは火花を散らしただけで砲弾を弾き返し、遮二無二突き進んでくる。

 

「怯むな! 次で仕留めろ!」

「喰らえーっ!」

 

 もうハンテルは、目と鼻の先にまで迫ってきている。この距離ならば外しようがないし、当たれば撃破できる。

 そう思っていたジェームズの予想は、1秒後に裏切られた。金属的な響きを残して、必殺の徹甲弾の一撃はあっさりと弾かれてしまったのだ。

 

「なんで…!」

 

 装填手や砲手が悲鳴を上げる。

 

「ん!?」

 

 その時、ジェームズはあることに気付いた。

 陣地正面に迫りつつある「ハンテル」には、微妙な違和感がある。相手が距離200メートルほどまで接近してきた時、ジェームズはようやく違和感の正体に気付いた。

 こちらに砲を向けようとしている「ハンテル」、その砲塔正面防盾の形が違う。ハンテルなら砲塔正面防盾はつるりとした丸みを帯びているが、こいつの砲塔正面防盾は直線的な形状だ。

 加えて、こいつは全体的な形状こそハンテルにそっくりだが、その大きさはハンテルより一回り大きく、どっしりとして重厚感がある。この存在感はハンテルというより、むしろ……

 

「まずい! ハンテルじゃないぞ!!」

「え!?」

「こいつは…ティゲルの新型だ!!」

「何ですってぇぇ!?」

 

 それが、ジェームズと部下の最期のやり取りとなった。

 敵戦車の砲口から炎が吐き出され、一直線に飛来した砲弾が榴弾砲の防盾をぶち抜いて、砲の後ろに山積みにされていた砲弾を直撃。瞬時に誘爆した大量の砲弾が、ジェームズたちを砲ごと木っ端微塵に吹き飛ばしたのだった。

 

 

「敵砲陣地、沈黙しました」

 

 砲手から報告を受け、妖精"オットー・カリウス"は1つ頷いて静かに命令を下した。

 

「各機、速度を落とさずに進め。このまま突入し、敵陣を突破する。後方にはまだ、少なくとも2つの陣地帯がある。それらを抜くまでは止まるな」

 

 その時、ガツンという鋭い金属音と共に、車体が大きく揺れた。敵の砲弾が直撃したのだ。

 が、それだけだった。

 

「さすがに正面180㎜の傾斜複合装甲となると、安心感が違いますね」

 

 操縦手がヒュウッと軽く口笛を吹いた。

 

「うむ、だが慢心だけはするな。何発も撃たれれば、このケーニッヒス・ティーガー改とて無事では済むまい」

 

 妖精カリウスは決して慢心してはいなかった。

 妖精カリウスたちが乗っているのは、「ケーニッヒス・ティーガー改」…Ⅵ号戦車B型改 ティーガーⅡである。見た目は第二次世界大戦の地球で使われたティーガーⅡとあまり変わらないが、中身はほぼ別物になっていた。

 主砲は、71口径88㎜ライフル砲とオリジナルから据え置き。ただ、将来的に68口径105㎜砲を搭載する計画があり、それに合わせて車体を大きめに作った結果、車体の先端がマズルブレーキと平行に並ぶくらいまで伸びており、横からの見た目がややアンバランスになっている。

 装甲厚は、砲塔・車体前面180㎜、車体側面・後面80㎜で、こちらも厚さだけみればオリジナルから据え置き。ただし、このティーガーⅡ改は複合装甲を採用しており、そのためオリジナルと同じ装甲厚なのに車体重量は50トンで済んでしまった。

 エンジンはマイバッハ式ガソリンエンジンではなく、T-34に倣って新開発のディーゼルエンジンを採用。このため火災に強くなると同時に、生産性が少し向上した。それだけではなく、この新しい心臓と装甲の軽量化によって機動力が大きく向上しており、路上最高時速50㎞、悪路上最高時速27㎞、後退時最高時速25㎞となっている。

 攻・防・速いずれも高水準にまとまった、まさに第一世代MBT(主力戦車)に相応しい偉容である。しかも、グラ・バルカス帝国軍の装備の基準では、こいつを撃破するのは至難の業だ。口径20㎝級の重砲を絶命直射すれば正面からでも撃破できるかもしれないが、少なくとも並の対戦車砲ではこいつは倒せない。

 

 敵の砲弾を弾き飛ばし、同軸機銃の7.92㎜弾をばらまきながら、高速でグラ・バルカス帝国軍の防衛線に突進していく8輌の「ティーガーⅡ改」。その後方ではパンツァー・カイルが組み直され、これまで前面を固めていた「パンターG型改」に代わって「ティーガーⅠ」が前に出てくる。「ティーガーⅠ」は消耗したのでも何でもなく、ただ単に後方に控えていただけである。

 

『はっはー! これは素晴らしい、文句なしの相棒ですな!』

 

 無線機から、妖精カリウスの同僚たる"ヨハネス・ベルター"の声が飛び出してきた。

 

「うむ、だがあまり調子に乗りすぎないように。陣形はみだりに乱すな、パンツァー・カイルの突破力は緻密な陣形あってこそだ」

『はっ!』

 

 妖精カリウスは静かに釘を差す。

 

「主力部隊、敵第1防衛線に突入を開始! 一部は航空支援を受けて、既に防衛線を突破した模様!」

 

 やはりというか何というか、重装甲かつ高火力の戦車で固めたパンツァー・カイルの突破力には、凄まじいものがあった。攻撃直前の空襲と支援砲撃で大ダメージを与えていたことも影響したのだろうが、あの固い防衛線があっさり破られたというのは敵にとって大きな衝撃であるはずだ。

 

「よろしい。

各隊、陣形の再編を急げ。脚を止めずに、このまま一息に敵の心臓を突き刺す。レイフォリア外縁に達するまで、絶対に脚を止めるな」

 

 グデーリアンの名言「厚い皮膚より速い脚」を妖精カリウスは忠実に実践していたのであった。

 え? 分厚すぎる皮膚も持ち合わせてるだろ、って? そこ突っ込んではいけない。

 

 

 ちなみにであるが、キングタイガー改の数が到底足りないため、ロデニウス軍は手を打った。従来通りのパンツァー・カイルによる突破だけでなく、敵がこちらの戦車部隊に対して阻止砲火を放ち始めたところに航空部隊を突入させ、暴露した火点を片っ端から叩く、という戦法を取ったのである。この場合はやはり、ルーデル閣下の乗る「A-10B改 サンダーボルトⅡ」が猛威を振るっていた。

 

「敵火砲は破壊だぁぁぁぁぁ!!」

 

 奇声と共に投下されたクラスター弾が、塹壕にこもる帝国兵をバラバラに引きちぎる。

 

「いくら隠そうと、無駄無駄無駄無駄ァ!!」

 

 続いて、隠匿配置されていた砲の陣地を、ナパーム弾の赤い炎が瞬時に焼き尽くす。

 

「これも持ってけぇぇぇぇ!!」

 

 そして、必死の迎撃を行っていた対空砲に、流星雨のごとき勢いで30㎜弾が降り注ぐ。一瞬のうちに対空砲はズタズタに引き裂かれ、赤黒く染まった地面に力なく崩れ落ちた。

 

「ひぃぃぃやっはぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そして妖精ルーデルの大暴れは留まるところを知らないかのように、さらにヒートアップしていく。

 

(やれやれ、完全にフィーバータイム入ったな…)

 

 コ・パイロットを務める妖精"エルンスト・ガーデルマン"の呟きは、口に出されることはなかった。




というわけで、いよいよロデニウス・ムー連合軍がグ帝の防衛線に突入を開始したようです。史実で例えるなら、グラ・バルカス帝国軍のレイフォリア東方防衛線は差し詰めゼーロウ高地、というところでしょう。
しかし、チハ程度を無敵の戦車と思ってるグ帝陸軍に対して、相手はパンターにティーガー、そしてここにきて「ケーニッヒス・ティーガー(しかも複合装甲持ち)」まで現れるという始末。これは絶望でしかありません。

これだけならまだしも、ロデニウス軍には制空権を握った上で強力な航空支援まであると来ています。戦略爆撃機である「B-29改」に始まり、戦術的爆撃に当たる「一式陸攻」や母艦航空隊のレシプロ機、トドメに「A-10B改 サンダーボルトII」(しかもパイロットはかの"空の魔王")までいます。これでどうやって戦えば良いんだ、って話ですね。


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次回予告。

損害が累積し、もはや工場地帯も機能不全になってしまった統合基地ラルス・フィルマイナ。相次ぐ空襲に、基地司令のドルバス・ファンターレは基地にいる兵士たち、ムー大陸侵攻軍司令部、及び基地に避難している一般人をダイジェネラ山要塞に移動させることを決断する。その判断は果たして吉と出るか凶と出るか…?
次回「『解放者たち』第三幕 市街地に戦塵舞う」
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