鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
今回は以下の要素が含まれます。
・胸糞な展開
・グロ描写
覚悟のできた方のみ、先へとお進みください。
ったく、護衛のためとはいえ随分と待たされた。上の奴らは良いよなぁ…少しでも早く、安全地帯に逃げ込めるんだから。俺ももうちょっと上、目指さなきゃな…。
ん、俺か? 悪い、自己紹介を忘れてた。
グラ・バルカス帝国陸軍第23師団・第256連隊第1大隊所属、スタン・ピート軍曹だ。もともとは第3師団の所属だったんだが、その第3師団がバルクルス基地をめぐる戦いで全滅しちまって、配置換えになった。
あの戦はひどかった……ロデニウスとかムーとかいう野蛮人ども、どうやって戦車を実用化したんだ? それも、帝国が誇る無敵のハウンド中戦車を一撃で屠るような強力なヤツを。しかも、でかい榴弾砲だか何だか知らんがとんでもない爆発が連続するし、無敵の「アンタレス」が一瞬で全滅して制空権取られるし。あの戦だけは、今でも悪夢としか思えねぇ。
当時はまだ伍長だった俺は、大隊長も中隊長も片端から戦死して指揮系統が崩壊、敵が四方八方から襲ってくる中で、部下たちを率いて逃げ惑うだけで精一杯だった。どうにか全員無事に逃げおおせたが、小銃も何もかも捨てて、裸同然の有り様だった。あの屈辱は今でも忘れん。
第23師団に入ってからも、何度かロデニウス軍と戦ったが、その度に撤退戦を経験する羽目になった。ロデニウスの奴ら、なんであんなもん持ってんだ…? 特に、80㎜級の長砲身砲と厚さ90㎜以上の装甲を併せ持つという「
おかげで、かつて無敵を呼号した我が帝国軍は今やすっかり落ちぶれちまって……泣けてくる。
まあ今はそんなことはどうでも良い、
今回は護衛任務となる。護衛対象は、上の連中と我が帝国の一般市民。ダイジェネラ山の要塞まで送り届けねばならん。
現在、俺たちは基地を出発して行程の半分ほどを消化したところだ。ちょうど「帝国街」…帝国の一般市民たちの中でも、まだ豪邸を構えられるほど裕福じゃない人々が住まう区画を抜け、要塞に向かおうとしている。
昼間は、おそらく空母から出てきたと思われる敵機に何度も基地を空爆されて、本当に生きた心地がしなかった……こうなりゃ夜の間に、要塞に移動してしまいたいな。あすこの方が安全だろう。
今は夜なんで周りがよく見えない。だが、それは現地人どもも同じだ。
それに、俺たちには機関銃やボルトアクション式ライフルがある。奴らにはそれがない、せいぜいクロスボウ、よくてマスケットだ。
来るなら来い、返り討ちにしてやる。
そう思っていた時、突然どこからか、かなり大きな爆発音が響いてきた!
「な、何だ!?」
俺が叫ぶと同時に、乗っていた軍用トラックが急ブレーキをかけて停止する。俺たちは例外なく、荷台に転がされる羽目になった。
「いってぇ…何だよ?」
悪態を吐きながら身を起こした時、後方にちらりと味方のハウンドⅡ中戦車のシルエットが見えた。
次の瞬間、右手側から高速で飛来した赤い光の玉がハウンドⅡにぶち当たった。直後、ハウンドⅡは閃光と共に炎に包まれた。激しい爆発音が鼓膜を揺さぶる。
「!!?」
絶句している間に、ハウンドⅡは炎の塊と化して無残な姿になっている。どうやら弾薬庫を撃ち抜かれたらしく、跳ね飛ばされた砲塔が地面に落下してきた。まるで首切りにでもあったかのようだ。
「敵襲だ!
総員降車! 敵に備えろ!」
小隊長が叫び、俺たちは急いでトラックから降りようとする。だがその時、いきなり別の爆発音が響いた。
そして……俺は見てしまった。先にトラックの荷台から飛び降りていた数人が、同時に無数の肉片と化して飛び散るのを。
「は?」
目の前の光景に理解が追い付かない。
「何ぼさっとしてる! 早く降りろ!」
分隊長に怒鳴られた。俺と分隊長の他には、まだ5人以上も乗っている。どうやらさっきの仲間の無惨な最期に、怯んでしまったらしい。まあ気持ちは分かる。
慌てて降りようとしたその時、先に地面に一歩を記した仲間が不意に木偶の坊のように倒れた。地面に倒れた仲間は、右側頭部に風穴を開けられている。いや、風穴なんてものじゃない。左側頭部の一部を残して頭がほぼ原型を失い、首がちぎれかけるほどの一撃で殺られていた。
(対戦車ライフル……!)
戦友が死んだ原因に戦慄する。だが同時に希望が見えた。対戦車ライフルなら単発撃ちだ、次の弾が装填される前に飛び降りれば良い。
俺が急いで飛び降りるのとほぼ同時に、ヴオオオオオとでもいうべき、工作機械のような連続音が響いた。そして、光の玉が一列に並んで猛スピードでこっちに突進してくる。
反射的にトラックの陰に飛び込みながら、俺は愕然とした。
(嘘だろ!? 機関銃だと!?)
この連続音と、周囲に飛び交う曳光弾らしき無数の光……間違いない。機関銃だ。
だが、レイフォル軍の装備は確か先込め式のマスケットだったはずだ。そんな蛮族に、機関銃なぞ開発できるはずがない。
……では、今戦っている敵はいったい何者だ!?
バスバスと音を立て、さっきまで俺がいたトラックの荷台の幌に穴が開く。ちぎれた切れっぱしが宙を舞って、俺の前に落ちてきた。
あちこちから悲鳴らしき声、怒号、衛生兵を呼ぶ声が聞こえる。その全てが帝国語だ。
「撃て! 反撃しろ!」
どうにか降りてきた小隊長が叫ぶ。
今生き残っているのは、小隊では俺と小隊長を含めて4人だけ。後は全て殺られた。重傷で生きてる奴もいるかもしれんが、どっちみち戦えん。
(クソ! クソ! クソ!)
腹の底で毒吐きながら、相棒……帝国が誇る軽機関銃「AM39」に30発入り箱形弾倉を装填し準備する。俺が相棒を準備している間に、小隊長たちはSRC38小銃で応射し始めていた。だが…
「くそっ! 何だこれ、撃てねぇ!」
小隊長の罵声が聞こえる。
ちらっと振り返ったその時、戦っていた仲間の1人がいきなり後ろ向きにひっくり返った。後頭部から叩き付けられるように地面に倒れ、ぴくりとも動かない。
殺られたな、と直感した。おそらく額の真ん中にでも弾を喰らったんだろう。
「ピート軍曹! 機関銃まだか!」
「あと少し…できました!」
「よし、そこの箱に設置して撃ち」
言葉が止まると同時に、小隊長が急にのけ反った。同時に、奇妙な音が耳に届く。
スタタタッ!
銃声…なんだろうか? 俺の知ってるSRC38やAM39より軽い小さな音。
だが、血を撒き散らしながら地面にぶっ倒れた小隊長を見て、これは銃声だと分かった。それが聞こえたのは…よりによって後方!
「!!」
振り返る間にまたスタタタッと音が響く。俺の視界の端に銃を撃った時の閃光が瞬く。
(そこか!)
重い機関銃を振り回しながら振り返った先、そこにいたのは異様な人影だった。
(!?)
一言で言うなら「黒」……真っ黒。黒い鉄帽で頭どころか顔まですっぽり覆い、そのせいで顔も髪の毛も見えない。おかげでどんな人間かも分からない。奇怪なことこの上ない。
着ている衣服もほぼ黒ずくめ。このうち、胸の周囲は特に黒い板ののようなものを張り合わせているらしい。
そして、そいつが手にした銃は異様な形をしていた。あんな銃は、帝国軍には配備されていない。間違いなく敵だ。
「くそっ!」
俺は急いで機関銃をそいつに向け…ようとしたが、遅かった。
スタタタッ!
「がっ…!」
立て続けに3度、胸に強烈な痛みが走った。気付いた時には俺は銃を落とし、崩れ落ちるようにして地面に倒れていた。
もう指1本動かねえ……手足が、どんどん冷たくなっていくのを感じる……思考が、掠れてくる…。
(嫌だ……死にたく、な……)
眠りに落ちるように、俺の視界は黒くなっていった…。
そこにいたのは、異様な格好の人間だった。
全身に黒っぽい服を着て、特に胸の辺りには無数の黒い板のようなものを張り付け、フルフェイスの黒い面を付けているせいで素顔は全く窺えない。そして、その人々が手にしている銃器は、この世界では見かけない代物だった。
「クリア」
「行け」
単語のみでの僅かなやり取り。しかし、この人々にとってはそれで十分だ。九九式軽機関銃に似た機関銃を持っていた敵兵…こいつが最後の生き残りだった…を射殺し、闇が人の形に固まったような風貌の人々が闇の中から姿を現す。
この人々の所属は、「第13艦隊情報局 情報収集部隊」。そう、「青葉情報局」の情報収集担当、という名目の特殊部隊である。
この部隊の武器は、基本的に23世紀突入目前の地球で使われている物ばかりである。全員に「89式7.7㎜自動小銃」とフルプレートのボディアーマーが支給され、しかも今回の作戦では銃身下部のピカティニー・レールに40㎜擲弾銃を装備している。そればかりではなく、同じ銃弾を用いる「91式7.7㎜軽機関銃
それだけではなく、この人々は爆発物の扱いにも慣れており、周囲の家から拝借したネジや釘と手持ちの爆薬を使って即席のクレイモアを作る、手持ちの爆薬をレンガの形に整形し遠隔発火装置を仕込んで地雷にする、といったことまでやっている。
何がどうなってこんなことになったかというと、ざっと説明すれば以下のような経緯からである。
数刻前、統合基地ラルス・フィルマイナは空襲を受け、施設や軍港に甚大な被害を出した。しかも、今回襲ってきたのはいつもの双発以上の爆撃機ではなく単発機であり、そのうえ陸の少ない西から飛んできたことから、敵の空母機動部隊による攻撃と判断された。
この空襲によって、ラルス・フィルマイナの対空陣地は6割が機能不全状態となり、また軍港にいたレイフォル防衛艦隊(本当はレイフォル防衛艦隊に本国艦隊第41地方隊の残存戦力を統合したもの)の残存艦艇は、ほぼ全滅状態となってしまった。
しかも、敵の空母部隊はラルス・フィルマイナや軍港の建物を全てぶっ壊してやると言わんばかりに何度も攻撃隊を繰り出し、そのため基地も軍港も甚大な被害を被っている。
これに止まらず、レイフォリア東方の防衛線には敵の陸上部隊が上空援護機を伴って襲いかかっている。
レイフォリア東方には標高に低い丘が連なる丘陵地帯が広がっており、グラ・バルカス帝国陸軍はこれに目を着けて地形を利用した防御陣地を築いていた。具体的には、丘のふもとに近い部分には対戦車戦闘用の榴弾砲を偽装を施して配置し、丘の中腹には対歩兵用を兼ねて対空機銃を配置、そして丘の頂上付近には砲撃支援用の重カノン砲と高射砲を配置するという形の陣地を作り、しかもできる限り相互支援が可能なように砲を配置したのである。さらに、こうした防衛線を三重に構築し、備えは万全と思われた。
ところが、敵は1時間にわたる猛烈な砲撃と水平爆撃による空襲を行い、これに対して重カノン砲が多少の反撃をしたものの、敵の砲撃の勢いを殺すことはできなかった。そして襲来した敵戦車部隊は、どうやら新型戦車を含んでいるらしい。この新型について、前線から届けられた混乱した通信の中では「ハンテルのオバケ」という表現もあれば、「ティゲルの新型」という表現もあった。
実際には、この新型戦車というのはロデニウス陸軍の「Ⅵ号戦車B型改 ティーガーⅡ」のことなので、「ティゲルの新型(改良型)」というのが正解である。ただ、ティーガーⅡは傾斜装甲の多用によって「ハンテル」ことパンター戦車に似た形状になったため、「ハンテルのオバケ」という表現が出てくるのも仕方ないことであった。
しかも、敵は地上部隊の進撃に合わせて航空部隊を投入しており、敵戦車に阻止砲火を放った砲が、逆に自身の位置を暴露してしまって敵機の攻撃を受ける、という状況に陥っていた。おまけに敵機には、凄まじい連射速度を持つ大口径機銃と10発以上の爆弾を抱えて突っ込んでくる「空の魔王」までいる。
こうした事態に陥ったことで、ラルス・フィルマイナ基地司令部の面々とムー大陸侵攻軍司令部の面々は、これ以上基地に拠って交戦するのは危険だと判断した。そこで、移動中の敵の襲撃リスクを敢えて受ける形ながら、ダイジェネラ山要塞にムー大陸侵攻軍司令部と、戦闘に耐えない一般市民を移動させることに決めた。その際、基地の人員は最低限の防戦に必要な人数だけを残して、他は基地を脱出、司令部や民間人を護衛して要塞に向かうこととなった。
なお、当のダイジェネラ山要塞も要塞で、必死の換気や後片付けも虚しく、未だにかなりの悪臭が立ち込めており、「居住性は劣悪の一言に尽きる」と報告が入っている。しかし、建物よりは地下要塞の方が安全性が高いと判断されたのだった。
こうして、グラ・バルカス帝国軍は残り少ないトラックを動員して民間人及びムー大陸侵攻軍司令部を移送しようとした。当然、レジスタンスが潜む市街地を抜けていかねばならないため、戦車や装甲車まで護衛につけた……のだが、その途半ばで襲撃を受けたという訳である。
グラ・バルカス帝国の車列を襲ったのが、もし現地レイフォル人であったなら、撃退できた可能性はあっただろう。だが、襲ってきたのは「情報収集部隊」……高品質の装備に身を包み、十分な練度を持った現代風の特殊部隊だった。
「情報収集部隊」は現地レイフォル人のレジスタンス組織に対して、敵情の提供や戦術指導、火炎瓶等の武器の製造方法の伝授等で協力する代わりに、市街地の区画1個をまるごと借りたり、グラ・バルカス帝国人の居住地の一部を占領(したついでに残留していたグラ・バルカス帝国の一般市民を鏖殺)したりして罠を仕掛けた。また、物干し竿に擬態した無線アンテナを立ててグラ・バルカス帝国軍の無線通信を傍受・解析し、敵の動きを掴んでいた。
グラ・バルカス帝国軍の移動を察知した「情報収集部隊」は、車列先頭の装甲車を地雷爆薬で吹っ飛ばすと同時に最後尾にいた戦車に対戦車誘導弾を撃ち込んで撃破。車列の動きが止まり、車輌に乗っていた兵士が降車し始めた瞬間を狙って、道路脇に仕掛けておいた即席クレイモアを起爆し切り刻んだ。そして、それを合図に襲撃を開始したのだった。
建物の2階の窓に設置されたミーダーが、電動ノコギリと間違えそうな機械音の咆哮を上げて死を振り撒く。ミーダーは西暦2191年に採用された、7.7×60㎜ ホローポイント弾を発射する汎用機関銃である。ベルト給弾時に毎分1,000発、マガジン装填時は毎分1,200発というとんでもない連射速度と、7.7×60㎜弾による高い殺傷力をウリとした銃だ。MIRDERの語源は、「
そのミーダーの咆哮と曳光弾に混じり、どこか軽快な射撃音と共に太い光弾が流星雨となって飛び交う。「レーザー自動追撃銃」の射撃だ。これは本来、"大和改二一九九"の艤装に据え付けられた白兵戦用の兵器であるが、この特殊部隊は本銃の威力に目を付け、
本当なら「レーザー自動追撃銃」は対歩兵装備なのだが、情報収集部隊はあろうことか、本銃を装甲目標に向けて撃っている。レーザー対抗処理されていない目標なら装甲車レベルまでは落とせる、と言い張ったのである。そして妖精たちの主張通り、さすがにハウンド中戦車は落ちないものの、シェイファー軽戦車や装甲車は蜂の巣にされて撃破されていた。
これだけではなく、屋根の上に潜んだ
そして、家の庭先に設置された81㎜迫撃砲が、砲身に高い仰角をかけて砲弾を撃ち上げた。
それらを支援しているのは、闇に紛れるように空を飛ぶ小型観測ドローンと、妖精たちが装着したナイトビジョンゴーグル。そして、妖精たち各自が持つ無線機とタブレット端末、それらに素早く情報を反映するデータリンクシステムである。
観測ドローンで上からリアルタイムに戦況を把握し、それを元に部隊を割り当てて電撃速攻をかけているのだ。また、機関銃や狙撃手も頻繁に場所を移動しており、なかなか位置を悟らせていない。
グラ・バルカス帝国軍も、標準装備されたSRC38(Kar98kに似たボルトアクション式ライフル銃)で必死に迎撃する。だが、単発撃ちのボルトアクション式ライフルと自動小銃では、単位時間辺りの投射弾量が桁違いだ。それに加えて、グラ・バルカス帝国の「AM39」軽機関銃(九九式軽機関銃に似た形状をしている)ですら、レーザー自動追撃銃やミーダーに圧倒されているのである。
凄まじいまでの制圧射撃の前に、グラ・バルカス帝国の兵士たちは反撃どころか、相手の位置を探ることも覚束ない。迂闊に遮蔽物の後ろから顔を出せば、その瞬間に頭を撃ち抜かれるからである。そしてまごまごしているところに、上空から81㎜軽迫撃砲の弾が降ってきて、物陰に隠れた兵士たちの集団を一撃で吹き飛ばす。耐えかねて移動しようとすれば蜂の巣にされる。どうにか弾幕を掻い潜って移動し、少し気を抜いた次の瞬間には、対物ライフルで首と胴体が泣き別れする。
それまで彼らが相手にしてきたのとは全く異なる敵の攻撃によって、グラ・バルカス帝国の兵士たちは次々と斃れていった。
「きゃあああああああ!!」
「おい、早く行ってくれ! このままじゃ俺たちは皆死んでしまう!」
グラ・バルカス帝国の入植者たち……つまり民間人たちは大パニックである。幌をかけたトラックの荷台から声を上げ、何とかして生き残ろうともがいていた。もちろん運転手も必死で、アクセルを全開にして逃げるトラックもあれば、ハンドルを切って蛇行運転を試みるトラックもある。
しかし、幌をかけられているせいで、荷台に誰が乗っているかなど「情報収集部隊」には分からない。それだけ必死に逃げようとしているならば、さぞや要塞への補給物資、もしくは高級将校のような高価値目標がいるのだろうと睨まれるのも無理はない。
蛇行運転していたトラックに、7.7㎜弾が毎分1,000発の流星雨となって降り注ぐ。真っ先に運転手が射殺され、その直後に荷台は流血の巷と化した。薄い幌を難なくぶち抜いて飛び込んだホローポイント弾が肉を裂き骨を砕き、頭蓋骨に風穴を開けて血液と脳漿を撒き散らし、心臓を突き破って真っ赤な噴水を作り上げる。荷台から一切の生命の息吹が消えるのと同時に、運転手を失ったトラックは石積の塀に正面衝突し、エンジンルームから出火して燃え始めた。
最高速度で逃げようとしたトラックを待っていたのは、7.7㎜弾とレーザー自動追撃銃が織り成す死の弾幕だった。荷台の幌に7.7㎜弾が吸い込まれ、鉄の臭いが混じる赤い塗料が重ね塗りされていく。一方でレーザーは次々と車体を射抜き、瞬く間に片側のタイヤを3つともパンクさせた。トラックは急激に速度を落とし、よたよたと道端に逸れていく。
それを身代わりにして別のトラックが速度を上げた…が、直線的に走ったのが不味かった。このトラックを待ち受けていた運命は残酷なものだった。門柱の陰から飛び出したロケット弾にガソリンタンクを貫かれ、乗っていた人々を全員巻き添えにして爆発四散してしまったのである。もちろんだが、荷台に乗っていたグラ・バルカス帝国の入植者たちは全員が死亡した。
ムー大陸侵攻軍司令部を乗せた装甲車は、そんな民間人の犠牲など露知らぬとばかりに速度を上げ、市街地からの脱出を図っている。もうすぐで市街地を抜け、あとはダイジェネラ山要塞に向けて一直線、というところだった。
だがその時、グラ・バルカス人たちには聞こえなかったが、無線にこんな声が飛んだ。
『エコーワン、ツー、やれ!』
瞬間、地上にぱっと明るい白い閃光が2つ瞬いた。直後にそれらは大音響を響かせて紅蓮の火柱と化し、装甲車や軍用トラック、戦車までもを巻き込んで粉砕しながら空中高くはね飛ばした。さらに、周囲にいた歩兵は小隊単位で薙ぎ倒され、近くにあったあばら家の中には崩れ落ちる物まで現れる始末であった。
それは、地中に埋設されていた即席地雷によるものであった。ただし、下手な地雷より遥かに怖い代物である。
このとき最初に起爆したのは、それなりの量のHC-4爆薬。それが、すぐ近くに埋められていたある物体の誘爆を招いた。それは、以前(「206. 『解放者たち』第一幕 牽制のジャブ」参照)に妖精たちが埋設した"円柱の片端に半球を繋いだような黒い物体"……「酸素魚雷」こと九三式魚雷の弾頭である。戦艦を沈めるために使う代物を、地雷に転用したというヤバい奴だった。
タウイタウイ泊地では、半紡錘形の弾頭の魚雷やトーペックス爆薬(「KJ-1改」地上空中警戒管制機の研究開発に予算を取られていたため、中央暦1643年12月にやっと実用化した)を使った魚雷弾頭の配備が始まってからというもの、九三式魚雷に搭載されていた半球形の弾頭は余剰在庫となっている。それを有効活用しようと、こんな使い方を思い付いたのだ。
地雷の爆薬量は、多くても10㎏程度。それに対して、九三式魚雷弾頭の弾頭重量(≒詰め込まれた火薬の量)はなんと780㎏である。下手な航空爆弾より炸薬が多く(現代の航空爆弾は500lb…250㎏爆弾が多い)、地雷としては文字通り桁違いの威力である。そりゃあ戦車が空中高く吹っ飛ばされたり、衝撃波で家が倒壊したりするだろう。
もちろんだが、これだけ重い物は人力で運べる物ではない。妖精たちも、ロボットスーツの力を借りて運び埋設している。
魚雷の弾頭の爆発によって、その真上と周囲にあった物は軒並み破壊しつくされた。人も車も何もかもが木っ端微塵にされ、存在した痕跡さえ残さなかったのである。
また、弾頭が埋めてあった場所は直径10メートル前後にわたって深さ2メートルを超えるクレーターができてしまった。これでは車輌の通行など、とてもできない。
そして、2つの火柱の間を走行していた車輌は全て、巨人の張り手を喰らったようにひしゃげるか横倒しとなり、燃えているものもあった。前線指揮車や装甲車も、その中に含まれていた。これは、800㎏近い量の火薬が一度に爆発したことにより、強烈な衝撃波が発生したためである。
そんな車輌に向けて、装備を構えた妖精たちが黒い影のように走り寄ってくる。自動小銃を持ったままの者もいるが、多くは取り回しの良い自動拳銃(ものによってはサプレッサー付き)に持ち替えていた。
「うぅ……あ……」
地上に投げ出され呻いている人影を見付けるや、2人が駆け寄る。
「軍服じゃないな、一般人か?」
「この出血量じゃ長くない、楽にしてやれ」
「了解」
ザシュッ!
拳銃ではなくコンバットナイフ一閃。黒く塗装された刀身が稲妻のように頸動脈を横切り、呻き声が消えた。
「悪いが一応持ち物検査させてもらう。軍人が民間人に偽装してないとも限らんでな」
死人に文句を言う口無しとばかり、遠慮なく懐もどこかしこもまさぐっていく。なお、この持ち物検査をやってるのは女性(少なくとも見た目は女性)である。
「上は特に無しか…む?」
ズボンのポケットから僅かに紙らしきものがはみ出ているのに気付き、引っ張り出す。
「こいつは植民者向けに発行されてる書類だな。顔はどうやら一致するみてぇだが…」
書類に貼り付けられた顔写真と見比べた後、これ以上悩んでも仕方ないと判断し、とりあえず書類を信用することにする。
「よし、次だ。急げ」
「了解」
2人が駆け出そうとしたその時、複数の銃声が響いた。明らかに味方のものではなかった。
2人がとっさに身を伏せるのと、撃ち返す89式小銃や自動拳銃の音が連鎖するのが同時だった。伏せたまま得物を構える2人の鼓膜を、7.7㎜口径の小銃らしからぬスタタタという小さな銃声、そして自動拳銃の軽快な射撃音が震わせる。そこに、近くの家屋の窓からミーダーが咆哮を上げ、レーザー自動追撃銃の弾幕すらも加わる。完全にオーバーキルだ。
『チャーリー6より報告、敵兵オールクリア。脅威は排除された。送れ』
『チャーリー1より総員、警戒しながら前進せよ、送れ』
無線と同時に、妖精たちがアシダカグモを思わせる機敏な動作でターゲットに接近する。あっという間に取り付くや否や、横転した装甲車や燃え盛る戦車の残骸を調べ始める。
「ん?」
エコー5のコードネームを持つ妖精は、調べていた装甲車の内部に横たわる死体に目を付けた。やや年のいった男性軍人の死体が、やけに勲章の多い軍服を纏っている。
素早くその死体に近寄り、89式自動小銃に着けた銃剣で何度かつついてから、銃身先端に装着したタクティカルライトを点灯し死体を調べにかかる。と、妖精の手が遺体の首元に伸び、紐で結ばれた小さな板のようなものを取り外した。
「あった。こいつだ」
妖精が入手したのは、いわゆる認識票である。刻まれているのはグラ・バルカス帝国語だが、キリル文字の発音とロシア語の文法で読めばおよそ解読できるため、「情報収集部隊」の妖精たちは皆、ある程度のロシア語の勉強を済ませてある。
「……ふむ、どうやら敵侵攻部隊の司令官で間違いないな。とりあえず一番のターゲットは始末した訳だ」
妖精たちは、レイフォリア攻防戦が始まる前から統合基地ラルス・フィルマイナに出入りしており、顔の調査などもとっくに終えている。そのためデータベースにはしっかり敵司令官の顔なんかも載っており、妖精たちはちゃんとそれを覚えていた。
タブレット端末から人物リストを呼び出し、一番上に表示されている敵侵攻軍の司令官「アルダ・グランギル」の名前の横にチェックマークを付ける。その間にも、他の将校の名前に次々とリアルタイムでチェックが付けられていた。
「あとは…」
自動小銃を構えつつ、妖精は他の死体についても首実検をやり始めた。
車列を護衛するグラ・バルカス帝国軍は、必死に戦ったが、相手が悪すぎた。ドローンで戦場を上空から俯瞰して戦況を掴み、ナイトビジョンで闇を無いも同然とし、圧倒的な火力で殴りかかる特殊部隊が相手では、如何ともし難かったのである。
将兵が次々と殺害される一方、グラ・バルカス帝国の一般人はパニックに陥っていた。何せ目の前で自分たちを守ってくれるはずの兵士がバタバタと死んでいき、その代わりに真っ黒の装備に身を固め、顔さえもすっかり隠した没個性な連中が近付いてくるのだから。
一般人たちはてんでんばらばらに逃げるしかなかった。だが、ここはレイフォリア市街地。レイフォル人たちにとっては庭も同然である。「情報収集部隊」の後詰めとして待機していたレイフォル人たちによって、一般人は次々と捕らえられていった。捕まった人々の運命は……まあ、何となく察しは付くだろう。
こうして、レイフォリア市街地の戦いは大勢が決まり、少しずつ下火になりつつあった。だがグラ・バルカス帝国軍には、統合基地ラルス・フィルマイナと、ダイジェネラ山要塞という、2つの拠点が残っている。
そのうち片方の寿命が今、尽きようとしていた。
「さて、これだけ派手に暴れたら、良い目印になるだろう? …こうなりゃ後はお願いしますぜ、提督さん」
部下たちからの報告を受理した後、「情報収集部隊」の"アルファ1"……襲撃部隊の総指揮官を務める妖精はそう呟いた。その瞬間、遠雷にしては派手すぎる爆発音が轟いた。
というわけで、胸糞展開の正体は「一般人が特殊部隊に狙われて射殺される」でした。
まさかこんなことになるなんて、誰に想像できるでしょうか。
評価10をくださいましたDaudai様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
空襲を受け続けるグラ・バルカス帝国軍の拠点・統合基地ラルス・フィルマイナ。ロデニウス海軍第13艦隊は複数回に渡って攻撃を繰り返し、基地も軍港も抵抗力や部隊運用能力を失っていく。その仕上げに待っていたものとは…
次回「『解放者たち』第四幕 夜闇に咲かせ、業火の花」